説明

低加速電子線用橙黄色発光蛍光体及びこれを用いた蛍光表示装置

【課題】構成要素としてカドミウムなどの有害物質を使用せず、数100V以下の低加速電圧電子線励起によって橙黄色発光を示す硫化亜鉛蛍光体及び発光組成物を提供する事を目的とする。
【解決手段】一般式が(Zn1−x)S:Mn,Ga(MはCa、Sr、Ba、Mgであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.15、0.001≦y≦0.1、0<z≦0.04である。)で表される橙黄色発光蛍光体、この蛍光体と導電性物質との混合物からなる発光組成物、又はこの発光組成物を発光部に具備する蛍光表示管又は蛍光表示パネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に1KV以下の低加速電圧の電子線を照射して、橙黄色発光を示すCd等の有害元素を含まない新規な橙黄色発光蛍光体及び発光組成物及びこの蛍光体及び発光組成物を使用した蛍光表示管またはパネル(VFD)、更には電界発光ディスプレイ(FED)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に1KV以下の低加速電圧の電子線を照射して高輝度の橙黄色発光する実用的な蛍光体は、その蛍光体母体構成元素が有害なカドミウム(Cd)を主成分としており、例えば黄色〜赤色発光としては(Zn,Cd)S:Ag蛍光体又は該蛍光体にIn、ZnO、SnO等の導電性物質を混合もしくは付着させた発光組成物が知られ実用に供している。しかし、近年、環境問題からカドミウムの様な有害物質を蛍光体の構成元素として使用することは困難な状況となっている。それ故、カドミウム等の有害物質を含まない低加速電子線励起用で黄色から橙色にかけて発光を示す蛍光体の開発が強く望まれている。
【0003】
この様な要望に対し、従来紫外線励起で橙黄色発光するZnS:Mn蛍光体が検討対象として考えられるが、低加速電子線励起用としては発光輝度がかなり低いため実用には程遠い。またこのZnS:Mn蛍光体をベースとする過去の改善検討に目を向けた場合、薄膜ELの分野で橙黄色発光材料として検討されたZnS:Mnにガリウム(Ga)を固溶させた蛍光体が特公昭47−38746で紹介されている。それにはZnS:Mnにおいてガリウム(Ga)を固溶させ、Zn/Ga構成比を1/1〜20/1の範囲に調製する事により発光強度を増加せしめる効果があることが記載されている。しかしながら、この蛍光体も低加速電子線励起用として用いた場合、全く効果を見る事は出来ず、ZnS:Mn蛍光体の低加速電子線励起用蛍光体への活用は不可能な状況にある。
【0004】
【特許文献1】特公昭47−38746
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特に1KV以下の低加速電圧の電子線を照射により、発光輝度が高い橙黄色発光を示すZnS:Mnを基本組成とする蛍光体、発光組成物及びこの蛍光体及び発光組成物を使用した蛍光表示管またはパネル(VFD)、更には電界発光ディスプレイ(FED)を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的達成のため、ZnS:Mnを基本組成とする蛍光体について種々の改善検討を行なったところ、従来では実用の可能性がないとされていたZnS:Mn蛍光体において、MnとGaを付活剤とする構成で、Gaの濃度を特定濃度範囲に設定し、かつ新たに輝度向上への増感効果を示す他の金属を所定量添加することにより、以前の技術知見では予想できない大幅な輝度改善を見出すことができ、本発明を完成させるに至った。
本発明の構成を記載すると以下の通りである。
(1)一般式が(Zn1−x)S:Mn,Gaで表されることを特徴とする低加速電子線用橙黄色発光蛍光体(但しMはCa、Sr、Ba、Mgであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.15、0.001≦y≦0.1、0<z≦0.04なる条件を満たす数を表す)。
(2)前記蛍光体に導電性物質を0〜30重量%混合したことを特徴とする発光組成物。
(3)前記導電性物質がIn、ZnO、SnO、WO、TiOの中の少なくとも1種であることを特徴とする前記(2)に記載の発光組成物。
(4)前記(1)〜(3)に記載の蛍光体又は発光組成物を発光部に具備した蛍光表示管又は蛍光表示パネル。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蛍光体及び発光組成物は、上述のような構成にすることにより、構成要素としてカドミウムなどの有害物質を使用せず、特に1KV以下の低加速電圧の電子線を照射により、発光輝度が高い橙黄色発光を示す。従ってこの蛍光体及び発光組成物を使用することにより、明るくて有用な蛍光表示管、パネル(VFD)、電界発光ディスプレイ(FED)を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のMn付活硫化亜鉛蛍光体ZnS:Mnは、次のようにして合成される。蛍光体原料としては、▲1▼母体の構成主要成分である、Znの硫化物、▲2▼母体の構成の一成分である、Ca、Sr、Ba、Mgの硫化物、もしくはこれらの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物等の化合物、▲3▼発光センターとなる付活剤成分であるMnおよび共付活剤成分であるGaの硫化物、硫酸塩、硝酸塩、金属もしくはハロゲン化合物等の3種類の成分からなる蛍光体原料を、化学量論的に(Zn1−x)S:Mn,Ga(但しMはCa、Sr、Ba、Mgであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.15、0.001≦y≦0.1、0<z≦0.04なる条件を満たす数を表す)となる割合で秤量し、これに必要に応じて更に結晶成長促進剤として、アルカリ金属やアンモニウムのハロゲン化物等を配合し、湿式又は乾式で充分に混合して、本発明の調製された蛍光体の原料混合物を得る。
【0009】
ついで上記原料を所定量秤取し、この原料混合物をルツボ等の耐熱容器に充填し、中性雰囲気中もしくは硫化水素や二硫化炭素雰囲気中で700〜1000℃、1〜12時間の条件にて1回以上焼成する。焼成を終えた焼成物は粉砕し、薄い濃度の鉱酸水溶液で洗浄したのち水洗を行い、更にボールミル等による分散処理を施した後、水篩等の湿式分級法で不要な大粒子を除き、脱水処理をし、乾燥、篩いを行うことにより本発明の共付活剤Gaを所定量含有し蛍光体母体ZnSの一部をCa、Sr、Ba、Mg等で所定量置換されたMn付活硫化亜鉛蛍光体(Zn1−x)S:Mn,Ga(但しMはCa、Sr、Ba、Mgであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.15、0.001≦y≦0.1、0<z≦0.04なる条件を満たす数を表す)が得られる。
【0010】
図1は上記の手順にて得られたMn濃度が0.05モルでGa濃度を、0〜10モル%の範囲で変化させた(Zn0.95Sr0.05)S:Mn0.05,Ga蛍光体のGa濃度と輝度の関係を示したグラフである。
また図1の中の曲線aは低加速電圧30Vの蛍光表示管でのGa濃度と輝度の依存性を示したグラフで、曲線bは参考までに、従来よく検討される高加速電圧12kVでのGa濃度と輝度の依存性を示したグラフである。
図1から分るように0.005〜0.5モル%の領域で輝度の向上が見られ、特に0.03モル%近傍で最も高い輝度を示している。したがい本発明蛍光体においては、輝度への好ましいGa濃度は0.005〜0.5モル%であり、より好ましくは0.01〜0.05モル%と言える。この様な現象は従来技術である特公昭47−38746の第3図に示されている関係とは、明確な相違を示している。つまり特公昭47−38746で示された蛍光体ZnS:Mn,Gaでは、Zn/Ga2=20/1以上つまり先の表記のGa量では4モル%以下では効果が減少して行くことを示している。一方本発明での蛍光体は4モル%より遥かに少ない領域、つまり0.005〜0.5モル%の範囲で輝度向上への顕著な効果を示している。これは蛍光体を光らせる刺激源の違いはさる事ながら、特公昭47−38746ではGa濃度が高く、Gaが母体結晶中でZnを一部置換し、ZnS:Mnとは全く異なった結晶形態を示すがゆえに、輝度向上効果がある旨が記されている。しかし本発明蛍光体ではGaは低濃度で効果があり、所謂増感剤的役割を演じていると推定される。また結晶形態も、X線回折調査を行なったところ、特公昭47−38746で述べられている様な異なったものではなく、ZnSの結晶形態を維持しており、本質的に異なったものと推定される。
【0011】
本発明蛍光体の母体構成において、Znを置換し輝度向上の効果が有る金属としてCa、Sr、Ba、Mgがあるが、なかでも特にSrが効果的であり、具体的なSr置換量(SrS量として表示)と輝度の関係は図3の様になっている。SrS置換量については、0.05モル近傍をピークとし0<x≦0.1の範囲で効果が見られ、0.1以上では、寧ろ輝度の低下が現れる。また他の金属Ca、Ba、MgについてもSrの場合と同様な置換量と輝度の関係が見られるが、明るさの比較では効果の値はピーク点で10%以下とSrには及ばないが置換量と輝度の関係は同様な動きをしている。したがい置換金属Mの好ましい量は、0<x≦0.15の範囲にあり、またより好ましい範囲は0.01≦x≦0.1である。
【0012】
図2は、本発明の橙黄色発光蛍光体の代表的な組成の一つである(Zn0.95Sr0.05)S:Mn0.05,Ga0.0003で表される蛍光体の低加速電子線励起下で発光させた時の発光スペクトルを示したものである。595nmに発光スペクトルのピーク波長を有し、発光色度点(x/y)が0.525/0.469である高輝度で好ましい橙黄色発光を呈している。この橙黄色発光の発光色は、従来使用されているカドミウム等の有害物質を含む低速電子線励起用赤色発光蛍光体(Zn,Cd)S:Ag蛍光体の発光色(発光スペクトルの波長ピークが595nm、発光色の色度座標x/yが0.535/0.457)と比較しほぼ同色を示し、発光色の点では実用上問題はないことが確認された。
【0013】
一方本発明の発光組成物は、上述のようにして製造された蛍光体と、一定割合の導電性物質とを添加、混合することによって得ることが出来る。本発明の蛍光体に添加、混合される導電性物質としては、比抵抗が小さく固体導電性の良好な物質であれば特に制限はないが、In、Zn、Sn、W及びTiの各酸化物が好ましく、これらの内少なくとも1種を本発明蛍光体に添加し、ボールミル等の混合手段により乾式混合するか又は水、有機溶媒中で攪拌、混合した後、乾燥することでも目的の発光組成物を得られる。また別な方法として、本発明の蛍光体を分散させた蛍光体スラリー中に導電性物質を結合剤と共に投入し、攪拌した後固液分離して乾燥させることによって、本発明の蛍光体表面に導電性物質を付着させてもよい。上述の本発明の蛍光体は、低速電子線による励起下で橙黄色の発光を呈するが、特に100V以下の低速電子線で励起した場合では、導電性物質を添加した発光組成物の方が、蛍光体単独の場合よりもその発光輝度が更に改善される。
【0014】
本発明の発光組成物において、蛍光体と混合する導電性物質の量は、得られる発光組成物の発光輝度の点では、蛍光体に対して0〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%とするのがよい。このようにして得られた本発明の橙黄色発光蛍光体、並びにこの蛍光体を構成成分として含む本発明の発光組成物は、主としてVFD、FED等の、低速電子線で蛍光膜を発光させて画像、文字などを表示する表示装置の高輝度で輝度劣化の少ない橙黄色発光蛍光膜として使用することができる。
次に実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に例示した実施の態様に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
ZnS 300.0g
SrS 19.3g
MnCO 3.45g
Ga 0.017g
上記の蛍光体原料を充分に混合し、石英ルツボに詰めて硫化雰囲気中において970℃で2時間焼成した。得られた焼成物を粉砕処理、水洗処理を施し、乾燥し本発明蛍光体を製造した。このようにして製造された蛍光体の組成は(Zn0.95Sr0.05)S:Mn0.05,Ga0.0003である橙黄色発光硫化亜鉛蛍光体であった。
【0016】
この蛍光体に酸化インジウムを蛍光体に対し10wt%の割合で添加し、次に前記の乾式混合法にて充分混合し、実施例1の蛍光体を用いた発光組成物を得た。この発光組成物を用いてガラス板上に蛍光膜を作り、低加速電圧デマンタブル電子線刺激装置を用いて加速電圧12Vで照射したところ、図2に示す様な595nmにピーク波長を有する発光スペクトルを示し、発光色度点(x/y)は0.525/0.469で好ましい橙黄色発光を呈した。一方明るさについては、後記の比較例1で示されるSr,Gaを含有しない組成で、同様条件の合成にて得られた橙黄色発光蛍光体ZnS:MnにIn15%を混合した発光組成物に比べ3倍の輝度を示し、カドミウム等の有害物質を含まない蛍光体としては、有用なレベルのものを得ることが出来た。
また従来より用いられているカドミウム等の有害物質を含む(Zn,Cd)S:Ag低速電子線励起用橙黄色発光蛍光体(発光スペクトルの波長ピークが595nm、発光色の色度座標x/yが0.535/0.457)との比較については、ほぼ同色で発光色の点では問題はない。明るさについては、70%の明るさで同レベルの輝度までは至らないが、ノンカドミウム低速電子線励起用橙黄色発光蛍光体としては、魅力ある特性であった。
【実施例2】
【0017】
ZnS 300.0g
MnSO・4HO 3.0g
Ga(NO・8HO 0.6g
硫黄(S) 4.5g
上記の蛍光体原料を充分に混合し、石英ルツボに詰めて中性ガス雰囲気中において900℃で2時間焼成した。得られた焼成物を粉砕処理、水洗処理を施し、乾燥後本蛍光体を得た。このようにして製造された蛍光体は、その組成がZnS:Mn0.01、Ga0.0005である橙色発光硫化亜鉛蛍光体であった。
【0018】
この本発明蛍光体にIn15%混合し、其の後前記と同様の手順にて試料を作製し、低加速電圧デマンタブル電子線刺激装置において加速電圧12Vで測定した所、図2に示す発光スペクトルと同様の橙黄色発光色特性を示し、発光色についてはx/yは0.529/0.466で問題はなかった。一方輝度に付いては、後記の比較例1で示されるSr,Gaを含有しない組成で、同様条件の合成にて得られた橙黄色発光蛍光体ZnS:MnにIn15%を混合した発光組成物に比べ2倍の輝度を示し、カドミウム等の有害物質を含まない蛍光体としては、有用なレベルのものを得ることが出来た。
【実施例3】
【0019】
ZnS 300.0g
BaS 27.4g
MnCO 3.45g
Ga 0.017g
上記の蛍光体原料を充分に混合し、石英ルツボに詰めて硫化雰囲気中において970℃で2時間焼成した。得られた焼成物を粉砕処理、水洗処理を施し、乾燥し本発明蛍光体を製造した。このようにして製造された蛍光体の組成は(Zn0.95Ba0.05)S:Mn0.05、Ga0.0003である橙黄色発光硫化亜鉛蛍光体であった。この本発明蛍光体にIn15%混合し、低加速電圧デマンタブル電子線刺激装置において加速電圧12Vで測定した所、図2に示す発光スペクトルと同様の橙黄色発光色特性を示し、発光色についてはx/yは0.526/0.470で問題はなかった。一方輝度に付いては、後記の比較例1で示されるSr,Gaを含有しない組成で、同様条件の合成にて得られた橙黄色発光蛍光体ZnS:MnにIn15%を混合した発光組成物に比べ1.5倍の輝度を示し、カドミウム等の有害物質を含まない蛍光体としては、有用なレベルのものを得ることが出来た。
【比較例1】
【0020】
ZnS 300.0g
MnCO 3.45g
上記の蛍光体原料を充分に混合し、石英ルツボに詰めて硫化雰囲気中において970℃で2時間焼成した。得られた焼成物を粉砕処理、水洗処理を施し、乾燥し比較例1の蛍光体を製造した。このようにして製造された蛍光体の組成はZnS:Mn0.05である橙黄色発光硫化亜鉛蛍光体であった。この蛍光体にInを15%混合し、低加速電圧デマンタブル電子線刺激装置において加速電圧12Vで測定した結果、発光色はx/yが0.530/0.466で標準的な橙黄色発光であった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の橙黄色発光硫化亜鉛蛍光体(Zn0.95Sr0.05)S:Mn0.05、GaのGa濃度yと低加速電圧の電子線励起下での発光輝度の関係を示すグラフである
【図2】本発明の橙黄色発光硫化亜鉛蛍光体(Zn0.95Sr0.05)S:Mn0.05、Ga0.0003の低加速電圧の電子線励起下での発光スペクトルを示すグラフである。
【図3】本発明の橙黄色発光硫化亜鉛蛍光体(Zn1−xSr)S:Mn0.05、Ga0.0003における低加速電圧の電子線励起下でのSrS置換量と発光輝度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式が(Zn1−x)S:Mn,Gaで表されることを特徴とする低加速電子線用橙黄色発光蛍光体(但しMはCa、Sr、Ba、Mgであり、x、y及びzはそれぞれ0≦x≦0.15、0.001≦y≦0.1、0<z≦0.04なる条件を満たす数を表す)。
【請求項2】
請求項1の蛍光体に導電性物質を0〜30重量%混合したことを特徴とする発光組成物。
【請求項3】
請求項2の導電性物質がIn、ZnO、SnO、WO、TiOの中の少なくとも1種であることを特徴とする請求項2の発光組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の蛍光体又は発光組成物を発光部に具備した蛍光表示管又は蛍光表示パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−45481(P2006−45481A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256291(P2004−256291)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(390019976)化成オプトニクス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】