説明

低固着性加硫用ゴム組成物及び低固着性加硫ゴム部材

【課題】金属、あるいは表面処理された金属との固着性が低減された加硫用ゴム組成物、及び該加硫用ゴム組成物を加硫成型してなる、低固着性加硫ゴム部材を提供することにある。
【解決手段】エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して、
a)加硫剤 0.1〜10重量部
b)エポキシ系化合物 0.01〜10.0重量部
含む加硫用ゴム組成物、該組成物を加硫成型してなる低固着性加硫ゴム部材、および内面および/または外面が該ゴム部材で形成されたゴムホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属面や、表面処理された金属面との固着性が改良された加硫用ゴム組成物、該組成物を加硫成型してなる低固着性加硫ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハロゲン系ゴムは耐油、耐熱性が特徴であり、主として自動車用燃料ホース、パッキン、Oリング等に使用されている。しかしながら長期間金属と接触しているゴム部材では時としてその金属を腐食させたり、金属によりゴム自体が劣化することがしばしば見受けられる。
【0003】
そこでそのようなゴムと接触する機会のある金属ではよく表面処理、例えばいわゆるダクロ処理、ジオメット処理、亜鉛-クロメートメッキ、塗料による塗装等の処理がなされており、金属の腐食防止がなされている。
【0004】
しかしながら、上記のような表面処理を施された金属に対しても、ハロゲン系ゴム部材が長期間高温下や加圧下で接触すると金属と固着を起こし、それを無理に引き剥がそうとすると外観を損ねたり、ゴム部材の破壊に至るケースが種々みられている。そしてそれらはメンテナンス時における作業性の悪化、交換部品数の増大をひきおこし、その改良が切に望まれている。
【特許文献1】特開H06−109180号公報
【特許文献2】特開H06−146005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような要求に鑑みてなされたもので、本発明の目的は長期間、高温あるいは加圧下に使用されるハロゲン系ゴム部材の、金属、あるいは表面処理された金属との固着性が低減された加硫用ゴム組成物、及び該加硫用ゴム組成物を加硫成型してなる、低固着性加硫ゴム部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねたところ、ハロゲン含有ゴム、特にエピクロルヒドリン系ゴムの加硫用ゴム組成物にエポキシ系化合物を加えることにより固着性が低減することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
1)
ハロゲン含有ゴム 100重量部に対して、
a)加硫剤 0.1〜10重量部
b)エポキシ系化合物 0.01〜10.0重量部
含む加硫用ゴム組成物。
2)
エピクロルヒドリン系ゴム 100重量部に対して、
a)加硫剤 0.1〜10重量部
b)エポキシ系化合物 0.01〜10.0重量部
含む加硫用ゴム組成物。
3)
1項または2項に記載の加硫用ゴム組成物を加硫成型してなる、低固着性加硫ゴム部材。
4)
b)エポキシ系化合物がビスフェノール型エポキシ樹脂、またはエポキシ化大豆油である3項に記載の低固着性加硫ゴム部材。
5)
a)加硫剤がキノキサリン系加硫剤である3項または4項のいずれかに記載の低固着性加硫ゴム部材。
6)
内面および/または外面が、3項〜5項のいずれかに記載の低固着性加硫ゴム部材からなる層で形成されたゴムホース。
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ハロゲン含有ゴムと、金属あるいは表面処理された金属との固着性を改善(低減)することができる。これらの加硫ゴム部材は特に、金属、表面処理された金属、例えばダクロ処理、ジオメット処理、亜鉛-クロメートメッキ等を施された金属との固着性が低減されるので、長期間高温下あるいは加圧下で金属部材と接触する環境での使用に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明組成物において、ハロゲン含有ゴムとは、例えば可塑化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルとアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムのブレンド物、塩化天然ゴム、クロロプレンゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリン系ゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、フロロシリコーンゴムなどを挙げることができる。本発明において、エピクロルヒドリン系ゴムは耐熱性、耐油性が良く、例えば燃料用ホースとして使用する場合に好ましいゴムである。エピクロルヒドリン系ゴムとしては、エピクロルヒドリン重合体ゴム、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体ゴム、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体ゴム等を挙げることができる。
【0010】
本発明で用いられる、a)加硫剤としては、ハロゲン含有ゴムを加硫できるものであれば特に限定されないが、塩素原子の反応性を利用する公知の加硫剤、即ちポリアミン類、チオウレア類、チアジアゾール類、メルカプトトリアジン類、キノキサリン類、ポリオール類、が適宜使用される。二重結合を有するハロゲン含有ゴムの場合には有機過酸化物を加硫剤として使用することもできる。
【0011】
加硫剤を例示すれば、ポリアミン類としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、p-フェニレンジアミン、クメンジアミン、N,N'−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、エチレンジアミンカーバメート、ヘキサメチレンジアミンカーバメート等が挙げられ、チオウレア類としては、2−メルカプトイミダゾリン、1,3−ジエチルチオウレア、1,3−ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられ、チアジアゾール類としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエート等が挙げられ、メルカプトトリアジン類としては、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン等が挙げられ、キノキサリン類としては、2,3−ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチカーボネート等が挙げられ、ポリオール類としてはビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF等が挙げられ、有機過酸化物としては、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。エピクロルヒドリン系ゴムにキノキサリン系加硫剤を使用すると圧縮永久歪み性が良好で、燃料ホース等の用途に好ましい。
【0012】
加硫剤の配合量は、ハロゲン含有ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。この範囲未満の配合量では加硫が不十分となり、一方この範囲を超えると加硫物が剛直になりすぎてハロゲン含有ゴム加硫物として通常期待される物性が得られなくなる。加硫剤は一種を単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0013】
また、通常これらの加硫剤と共に用いられる公知の促進剤(即ち、加硫促進剤)、遅延剤等を本発明の加硫用ゴム組成物にもそのまま用いることができる。これらの加硫促進剤の例としては、チウラムスフィド類、モルホリンスルフィド類、アミン類、アミンの弱酸塩類、塩基性シリカ、四級アンモニウム塩類、四級ホスホニウム塩類、多官能ビニル化合物、メルカプトベンゾチアゾール類、スルフェンアミド類、ジメチオカーバメート類等を挙げることができる。遅延剤としてはN−シクロヘキサンチオフタルイミド、有機金属化合物、酸性シリカ等を挙げることができる。促進剤または遅延剤の配合量は、ハロゲン含有ゴム100重量部に対して0〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0014】
本発明で使用するエポキシ系化合物(b)は、分子内にエポキシ基をもつ化合物であり、例えばグリシジルエーテル類、エポキシ樹脂類、グリシジルエステル類、グリシジルエステル類、エポキシ化油類などである。これらは特に限定されるものではないが、通常の当該分野での加工温度、使用環境で揮発したり、分解したりするものは除かれる。
【0015】
上記エポキシ系化合物を具体例を挙げると、例えば、グリシジルエーテル類として、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、カテコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、エポキシ樹脂類として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル類として、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、多価アルコール類のグリシジルエーテル、多価カルボン酸類のグリシジルエステル、エポキシ化油類として、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油、エポキシ化あまに油等が挙げることができる。ビスフェノール型エポキシ樹脂、またはエポキシ化大豆油を使用するとブリードが少なく外観の優れた製品が得られるので好ましい。特に好ましくはエポキシ化大豆油である。
【0016】
エポキシ系化合物の使用量はハロゲン含有ゴム100重量部に対して、0.01〜10.0重量部、好ましくは0.1〜5.0重量部であり、さらに好ましくは1.0〜3.0重量部でる。0.01重量部未満ではその効果を充分に発揮できず、10.0重量部を超えるとゴムが軟化したり、ブリードによる外観不良を引き起こす懸念がある。
【0017】
本発明の加硫用ゴム組成物には、本発明の効果を損なわない限り、上記以外の配合剤、例えば、老化防止剤、滑剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、難燃剤、発泡助剤、導電剤、帯電防止剤等を任意に配合できる。さらに本発明の特性が失われない範囲で、当該技術分野で通常行われている、ゴム、樹脂等のブレンドを行うことも可能である。
【0018】
本発明による加硫用ゴム組成物を製造するには、従来ゴム加工の分野において用いられている任意の混合手段、例えばミキシングロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類等を用いることができる。本発明の加硫ゴム部材は、従来ゴム加工の分野において用いられている任意の成型手段、例えば押し出し機、カレンダーロール、金型による圧縮成型、射出成型等を用いることができる。本発明の加硫用ゴム部材は通常100〜200℃で加熱加硫することで得られる。加硫時間は温度により異なるが、通常0.5〜300分の間である。加硫の方法としては、金型、スチーム缶、エアーバス、赤外線或いはマイクロウェーブによる加熱等任意の方法を用いることができる。
【0019】
本発明の加硫物は、通常ハロゲン含有ゴムが使用される分野に広く応用することができる。例えば、自動車用途などの各種燃料系積層ホース、エアー系積層ホース、チューブ、ベルト、ダイヤフラム、シール材等のゴム材料や、一般産業用機器・装置等のゴム材料として有用である。特にホース類、例えば積層ホース、単層ホースは好ましい用途である。このようなホースとしては、単層ホースでも、複層ホースでも良いが、少なくとも内面および/または外面が、本発明の低固着性加硫ゴム部材からなる層で形成されたゴムホースである。具体的には本発明の加硫ゴム部材からなる単層ホース、本発明の加硫ゴム部材からなる層を含む複層ホースで、金属面、またはダクロ処理もしくはジオメット処理された金属面と接触する面に本発明の低固着性加硫ゴム部材を使用するホースが挙げられる。これらのホースは本発明の低固着性加硫ゴム部材がクリップ止めや金属ノズル等の金属面、またはこれらにダクロ処理もしくはジオメット処理された金属面と接触して使用される構成にすることにより、高温あるいは加圧下で長時間使用しても固着することなく使用できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
下記表1に示す配合で各材料をニーダーおよびオープンロールで混練し、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを170℃で15分プレス加硫し、2mm厚の加硫物を得た。得られた加硫物を30mm四方の正方形に切断しこれを固着性試験の試験片とした。表1中で配合1、2、3はエポキシ化合物が配合されており、配合4はエポキシ化合物が配合されていないものである。
【0022】
(実施例、比較例で使用する配合剤の説明)
*1 ダイソー社製 エピクロマーCG-105
*2 ダイソー社製 エピクロマーCG-104
*3 理研ビタミン社製 エマスター510P
*4 協和化学社製 DHT-4A
*5 ダイソー社製 DA-500
*6 ジャパンエポキシレジン社製 エピコート828
*7 大日本インキ化学工業社製 W-100EL
【0023】
(実施例1〜6、比較例1〜2)
試験片と被着体2枚で挟み込み、しっかりと密着させボルトできつく締め込み、所定の温度・時間により加熱老化促進試験を行った。表中ジオメット処理とはJIS G 3141に示される冷間圧延鋼板にジオメット処理(株式会社日本ダクロシャムロック)を行った被着体である。また、ダクロ処理は同鋼板にダクロダイズド処理(株式会社日本ダクロシャムロック)を行った被着体である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
本発明において、「固着性が良好」とは無理な力を加えることなく手で剥ぐことができることを意味する。
表中の評価を下記に示す
○:力を加えずに剥がれた。
△:剥がれるが力が必要。
×:固着してしまい無理にはがそうとするとゴムが破壊された。
【0028】
上記評価基準により固着性を判断すると、本発明であるエポキシ化合物を添加した配合1、2、3では添加していない配合4と比較して種々の被着体との固着性が改善されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して、
a)加硫剤 0.1〜10重量部
b)エポキシ系化合物 0.01〜10.0重量部
含む加硫用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の加硫用ゴム組成物を加硫成型してなる、低固着性加硫ゴム部材。
【請求項3】
b)エポキシ系化合物がビスフェノール型エポキシ樹脂、またはエポキシ化大豆油である請求項2に記載の低固着性加硫ゴム部材。
【請求項4】
a)加硫剤がキノキサリン系加硫剤である請求項2または3のいずれかに記載の低固着性加硫ゴム部材。
【請求項5】
内面および/または外面が、請求項2〜4のいずれかに記載の低固着性加硫ゴム部材からなる層で形成されたゴムホース。

【公開番号】特開2006−232912(P2006−232912A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46962(P2005−46962)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】