説明

低水分含量非水溶媒及びその小分け装置

【課題】 容器に収納された状態でも、水分含量が15ppm以下という極めて低値の非水溶媒(以下、低水分含量非水溶媒と略記する。)、及びその小分け装置を提供すること。
【解決手段】予め精製操作によって得た低水分含量非水溶媒を小分け用容器に収納して得られる、容器に収納された、水分含量15ppm以下の、酢酸エチル,酢酸メチル,酢酸ブチルから選ばれるエステル類、ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,テトラヒドロフラン,1,4-ジオキサンから選ばれるエーテル類、クロロホルム,ジクロロメタンから選ばれるハロゲン化炭化水素類、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトンから選ばれるケトン類、ジエチルアミン,トリエチルアミン,ジブチルアミン,プロピルアミン,ピリジンから選ばれるアミン類、N,N-ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドンから選ばれるアミド類、アセトニトリル,プロピオニトリル,ブチロニトリルから選ばれるニトリル類、ジメチルスルホキシド、メタノール,エタノール,n-プロパノール,iso-プロパノール,n-ブタノール,tert-ブタノール,ペンタノール,オクタノールから選ばれるアルコール類、ペンタン,n-ヘキサン,シクロヘキサン,ヘプタン,石油エーテルから選ばれる脂肪族炭化水素及びベンゼン,トルエン,キシレンから選ばれる芳香族炭化水素、から選択される非水溶媒及びその小分け装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に収納された水分含量が極めて低値の非水溶媒(以下、低水分含量非水溶媒と略記する。)及びその小分け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低水分含量非水溶媒は、例えば水分の存在が反応の進行を妨害したり、反応収率を低下させるような様々な有機合成反応(例えばシリル化反応、グリニャール反応、ペプチド合成反応など)を行う際の反応溶媒として、或は水分の存在を嫌う化学反応が関与する分析化学の分析用試薬として非常に重要なものである。
【0003】
非水溶媒を低水分含量のものとする方法としては、目的とする非水溶媒の種類に応じて種々の方法(例えば精密蒸留法、吸着剤を使用する方法、化学的脱水処理後に蒸留操作を行う方法等)が知られており、非水溶媒の種類に応じた最適な製造方法を採用することによって、水分含量が15ppm(mg/Kg。以下同じ。)以下の低水分含量非水溶媒を得ることが可能である。
【0004】
しかし、何れの方法で製造を行ったものであっても、製造後、保存時又は、小分け・保管時に徐々に水分を再吸収してしまい、一般に市販される状態で(容器に収納された状態で)水分含量を15ppm以下に保つことは極めて困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した如き状況に鑑みなされたもので、その課題は、容器に収納された状態で、水分含量が15ppm以下に保たれた低水分含量非水溶媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、「予め精製操作によって得た低水分含量非水溶媒を小分け用容器に収納して得られる、容器に収納された、水分含量15ppm以下の、酢酸エチル,酢酸メチル,酢酸ブチルから選ばれるエステル類、ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,テトラヒドロフラン,1,4-ジオキサンから選ばれるエーテル類、クロロホルム,ジクロロメタンから選ばれるハロゲン化炭化水素類、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトンから選ばれるケトン類、ジエチルアミン,トリエチルアミン,ジブチルアミン,プロピルアミン,ピリジンから選ばれるアミン類、N,N-ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドンから選ばれるアミド類、アセトニトリル,プロピオニトリル,ブチロニトリルから選ばれるニトリル類、ジメチルスルホキシド、メタノール,エタノール,n-プロパノール,iso-プロパノール,n-ブタノール,tert-ブタノール,ペンタノール,オクタノールから選ばれるアルコール類、ペンタン,n-ヘキサン,シクロヘキサン,ヘプタン,石油エーテルから選ばれる脂肪族炭化水素及びベンゼン,トルエン,キシレンから選ばれる芳香族炭化水素、から選択される非水溶媒。」の発明である。
【0007】
また、本発明は「下記の機構を具備することを特徴とする、水分含量15ppm以下の低水分含量非水溶媒小分け装置;
(1)精製操作によって得られた低水分含量非水溶媒の容器、
(2)小分け用容器、
(3)乾燥気体導入ノズル、
(4)低水分含量非水溶媒導入ノズル、
[但し、上記乾燥気体導入ノズル(3)は小分け用容器(2)の底部まで挿入されるように制御されており、低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)が小分け用容器(2)に挿入された場合の低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)の先端部の位置は、低水分含量非水溶媒を小分け用容器(2)に小分け量流し入れた際に、その液面に接触しない位置となるように制御されている。]。」の発明である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、従来にはない、容器に収納された極めて低水分含量(水分含量15ppm以下)の非水溶媒及びその小分け装置を提供するものである。
本発明の低水分含量非水溶媒は、例えば水分の存在が反応の進行を妨害したり、反応収率を低下させるような様々な有機合成反応(例えばシリル化反応、グリニャール反応、ペプチド合成反応など)を行う際の反応溶媒として、或は水分の存在を嫌う化学反応が関与する分析化学の分析用試薬として有用である。
また、本発明の小分け装置を利用することにより、小分け工程においても、操作中に水分の再吸収を起こすことなく、小分けを実施することが可能となり、優れた小分け製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
即ち、本発明者らは、従来から市販されているものよりも水分含量の低い低水分含量非水溶媒を市場に提供し得る方法について鋭意研究を重ねた結果、従来の方法で非水溶媒中の水分含量を15ppm以下に保つことができない原因が、以下の現象にあることを解明した。
【0010】
非水溶媒は、水を加えた場合に、水と混和する性質を有するものであっても、水と容易には混和せず二液層に分離する性質を有するものであっても、ある程度の水を溶解する性質を有しているため、精製(脱水)処理によって低水分化された非水溶媒が容器(受容器)に蓄積されていく間に、或はこれを更に容量の小さい容器に小分けする間に、空気中の水分(湿度)を再吸収してしまうのである。
【0011】
本発明者等は、この知見に基づき更に研究を行った結果、精製(脱水)された非水溶媒を容器に収納して保存する場合、及びこれを小分けする場合に、使用する各容器内部の気体の水分含量を予め低下させた容器とすることにより、簡便に且つ効率よく水分含量が極めて低い状態で非水溶媒を保存、小分けし得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明の、予め精製操作によって得た低水分含量非水溶媒を小分け用容器に収納して得られる、容器に収納された、水分含量15ppm以下の非水溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒等の極性溶媒、又は非極性溶媒が挙げられ、非プロトン性極性溶媒としては、例えば酢酸エチル,酢酸メチル,酢酸ブチル等のエステル類、例えばジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,テトラヒドロフラン,1,4-ジオキサン等のエーテル類、例えばクロロホルム,ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、例えばアセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルアミン,トリエチルアミン,ジブチルアミン,プロピルアミン,ピリジン等のアミン類、例えばN,N-ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドン等のアミド類、例えばアセトニトリル,プロピオニトリル,ブチロニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、プロトン性極性溶媒としては、例えばメタノール,エタノール,n-プロパノール,iso-プロパノール,n-ブタノール,tert-ブタノール,ペンタノール,オクタノール等のアルコール類が挙げられる。非極性溶媒としては、例えばペンタン,n-ヘキサン,シクロヘキサン,ヘプタン,石油エーテル等の脂肪族炭化水素、例えばベンゼン,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0013】
本発明の低水分含量非水溶媒を容器に収納する方法としては、精製(脱水)された非水溶媒を収納し保存する容器を、内部の気体の水分含量を予め低下させた容器とすることにより容易に実施できる。
【0014】
この際の非水溶媒の精製方法としては、従来から行われている公知の精製方法であれば良く何等限定されるものではないが、目的とする非水溶媒の種類に応じて種々の方法、例えば精密蒸留法、吸着剤を使用する方法、化学的脱水処理後に蒸留操作を行う方法等の公知の方法の中から適宜選択すれば良く、特に制限されない。
【0015】
また、精製操作によって得た低水分含量溶媒を少量づつ保存するために、或は使用勝手を良くするために使用される小分け方法は、小分け容器内部の気体の水分含量を予め低下させた後に、公知の小分け装置によって該小分け容器に小分け操作を行うことにより実施できる。
【0016】
容器内部の気体の水分含量を予め低下させる方法としては、容器中の気体を乾燥気体で置換する方法が非常に有効である。具体的には、例えば(1)精製により得られた低水分含量非水溶媒を受ける容器(受容器)や小分け用容器又は受容器を含む精製装置全体を、空調機又は除湿器などによって低湿度環境にした作業室に設置して、これら容器や精製装置内の空気又は気体を、環境の空気又は気体と同程度の絶対湿度にまで低下させる方法、(2)精製により得られた低水分含量非水溶媒を受ける容器や小分け用容器に乾燥気体を一定量以上流し入れる方法、等である。
【0017】
(1)の方法により、容器内部の気体を低水分含量のものとする場合、作業室を絶対湿度が12g/m3以下、好ましくは1.0g/m3以下、より好ましくは0.5g/m3以下の低湿度環境とするのが好ましい。
【0018】
(2)の方法により精製溶媒を受ける容器等の内部の気体の水分含量を予め低下させるには、例えば下記のような方法に従って、精製溶媒の受容器、要すれば精製装置全体を処理すればよい。
【0019】
精製方法が蒸留操作による場合であっても、吸着剤処理による場合であっても、先ず受容器中の非水溶媒に対する外気の影響を完全に遮断するため、精製(脱水)された非水溶媒の受容器と精製装置とを、接続部分から外気が侵入しないように確実に接続する。また排気管として使用する受容器と外界との通気管には乾燥剤を充填した筒を接続しておき、外界からの水分の侵入を阻止する。次いで受容器、要すれば精製装置中の空気を乾燥気体で置換する。
【0020】
尚、受容器の乾燥気体置換は、受容器の底部に、乾燥気体を流し入れる通気孔を設けることにより、より容易に行うことが可能となる。また、受容器が耐圧容器である場合には、受容器中を一旦真空(1mmHg以下)又は減圧(1〜380mmHg、好ましくは1〜20mmHg程度)にした後に乾燥気体を吹き込むことにより、内部の気体を乾燥気体に置換してもよい。
【0021】
受容器や小分け容器中の気体を乾燥気体に置換する際には、乾燥気体を吹き込む操作と同時に内部の気体を吸引する操作を行って、内部気体の置換を行ってもよい。
【0022】
受容器又は小分け容器内の気体の乾燥ガス置換を乾燥気体の流し入れ(吹き込み)で行なう場合に用いる乾燥気体としては、水分含量が通常12g/m3以下、好ましくは1.0g/m3以下、より好ましくは0.5g/m3以下の気体であれば良く、特に限定されないが、具体的には、市販の気体ボンベに入った例えば空気、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム等が好ましく挙げられる。
【0023】
また気体の種類については、上述したもの以外の気体でも、基本的に容器に収納される非水溶媒と反応せず、非水溶媒を使用する反応へ影響を及ぼさないものであれば問題はない。しかし、安全面、衛生面、および容器内の気体置換の効率などの面から、好ましいものとしては空気、窒素、アルゴンなどの気体が挙げられる。
【0024】
乾燥気体としては、コンプレッサーと水分除去装置を組み合わせた装置等の自体公知の装置を使用して、環境の空気や他の種類の気体から調製された低水分含量空気又は各種低水分含量気体等も挙げられる。これら各種水分除去装置を用いて得られる空気、又はその他の気体の水分含量としては、装置の性能によって異なるが、本発明の目的に使用可能なものとしては、水分含量が通常12g/m3以下、好ましくは1.0g/m3以下、より好ましくは0.5g/m3以下のものが挙げられる。
【0025】
乾燥気体置換を行う際に導入する乾燥気体の量は、目的の容器中或は精製装置中(受容器を含む。)の気体が完全に乾燥気体に置換されるような量を導入すれば良く、特に限定されないが、通常、容器中或は精製装置中(受容器を含む。)の気体容量の2倍量以上、好ましくは3倍量以上、より好ましくは5倍量以上の乾燥気体で置換を行えばよい。尚、経済的な面を考慮すると、通常3〜5倍量の範囲から適宜選択される。
【0026】
尚、容器内部の気体を乾燥気体で置換しておけば、保存時や小分け作業時の環境中の水分の影響を受けることは僅かであるが、好ましくは、容器内の気体を乾燥気体で置換を行う際の作業室(現場)の空気の絶対湿度を18g/m3以下とした方が、容器中の非水溶媒の水分含量をより低値のままとすることができるので望ましい。
【0027】
従来の方法では、作業を行う季節や天気を選んで、即ち条件の良い時期に湿度に注意しながら、要すれば空調器を作動しながら作業を行っても、非水溶媒の水分含量は25ppm程度までしか下げることが出来なかった。しかし、上記の方法によって精製処理後の低水分含量非水溶媒を保存すれば、季節や天気に影響されることが殆ど無く、また精製操作中の環境中の湿度に起因する水分含量の増加を防ぐことが可能になり、精製処理操作の効果を最大限発揮した、非常に水分含量の低い低水分溶媒を得ることが可能となった。また、本発明の小分け方法を利用することにより、小分け工程に於ても、操作中に水分含量の増加を起こさせることなく小分けを実施することが可能となった。
【0028】
このように、精製・保存及び小分けの両工程に於て環境に起因する水分含量の増加を防止することが可能となった結果、水分含量が15ppm以下という極めて水分含量の少ない非水溶媒を得ることが可能となった。即ち、容器に収納された状態で、例えば水分含量10ppm以下の酢酸エチル、水分含量10ppm以下のジエチルエーテル、水分含量10pppm以下のジイソプロピルエーテル、水分含量5ppm以下のテトラヒドロフラン、水分含量10ppm以下の1,4-ジオキサン、水分含量10ppm以下のアセトン、水分含量5ppm以下のメチルエチルケトン、水分含量10ppm以下のピリジン、水分含量10ppm以下のN,N-ジメチルホルムアミド、水分含量15ppm以下のジメチルアセトアミド、水分含量10ppm以下のN-メチルピロリドン、水分含量5ppm以下のアセトニトリル、水分含量10ppm以下のジメチルスルホキシド、水分含量15ppm以下のメタノール、水分含量10ppm以下のn-プロパノール、水分含量10ppm以下のiso-プロパノール、水分含量10ppm以下のn-ブタノール、水分含量10ppm以下のtert-ブタノール、水分含量10ppm以下のオクタノール、水分含量10ppm以下のペンタン、水分含量10ppm以下のシクロヘキサン、水分含量10ppm以下のヘプタン、水分含量5ppm以下のベンゼン、水分含量10ppm以下のキシレン等が、本発明に係る低水分含量非水溶媒の保存方法及び小分け方法を利用することによって得られる。
【0029】
特に、極性溶媒の中には水分を吸収し易いものがあり、これらについては従来の方法では低水分含量のものを市場に提供することは極めて困難であったが、上記した如き保存方法及び小分け方法により、このような極性溶媒についても小分け操作後の容器に収納された状態で、水分含量が15ppm以下のものを得ることができるようになった。
【0030】
また、上記した如き低水分非水溶媒の保存方法又は/及び小分け方法を利用することにより、低水分含量非水溶媒を容器に入れた状態で保存しても、非水溶媒中の水分含量を増大させることなく、保存することが可能となった。
【0031】
本発明の低水分含量非水溶媒小分け装置としては、「下記の機構を具備することを特徴とする、水分含量15ppm以下の低水分含量非水溶媒小分け装置;
(1)精製操作によって得られた低水分含量非水溶媒の容器、
(2)小分け用容器、
(3)乾燥気体導入ノズル、
(4)低水分含量非水溶媒導入ノズル、
[但し、上記乾燥気体導入ノズル(3)は小分け用容器(2)の底部まで挿入されるように制御されており、低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)が小分け用容器(2)に挿入された場合の低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)の先端部の位置は、低水分含量非水溶媒を小分け用容器(2)に小分け量流し入れた際に、その液面に接触しない位置となるように制御されている。]。」が挙げられる。
【0032】
本発明の非水溶媒を小分けする小分け装置に於ける、液体の小分け容器内部の気体の水分含量を低下させ得る手段は、具体的には小分け用容器中の気体を乾燥気体で置換し得る手段(例えば、作業室を空調機又は除湿器などによって低湿度環境とし得る手段、精製により得られた低水分含量非水溶媒を受ける容器や小分け用容器に乾燥気体を一定量以上流し入れる手段等)である。液体、即ち低水分含量非水溶媒を小分けする手段としては自体公知の液体小分け手段が全て挙げられ、特に限定されない。更に、本発明の非水溶媒を小分けする小分け装置は、通常この分野の装置に設置される、例えば制御用コンピューター、小分け容器等を移動させるためのベルトコンベアー、自動締栓機能等を有していてもよいことは言うまでもない。
【0033】
以下に本発明に係る実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何等の制約を受けるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例に於て、非水溶媒中の水分含量測定は、Model CA-06型電量滴定式水分測定装置(三菱化学(株)製)を用いた電量滴定法によるカールフィッシャー滴定法により行った。尚、測定は、絶対湿度:5〜7g/m3の条件のもとで行った。また、絶対湿度は、マルチ湿度計SM-370型(芝浦電子製作所(株)製)を用いて測定した。
【0035】
実施例1
工業用アセトンの水分の除去操作を、公知の水分除去方法の一つである合成ゼオライトを水分除去吸着剤として使用したカラム処理法により行った。
以下に実際の精製方法を記す。
精製装置としては、図1に示す装置を用いた。
図中、1は、原料である工業用アセトンの入った容器を示す。2は、内径10cmのガラス製カラムであり、このカラムに合成ゼオライト(孔径3オングストローム、東ソー(株)製)2.3Kgを充填した(吸着剤層高さ:38cm)。3は、カプセル型メンブランフィルター(孔径:0.45μm)である。4は、精製溶媒の受容器である、容量50リットルのキャニスター缶である。この受容器は、予め乾燥窒素(ボンベ入り,露点:-65℃,水分:0.006g/m3,空気に対する比重:0.97)を受容器の底部から250リットル流し、内部の空気の置換を行った。原料の入った容器、及び受容器には常法に従って外気中の水分の侵入を防ぐため、合成ゼオライト(孔径3オングストローム、東ソー(株)製)と乾燥用シリカゲルの2種類の吸着剤を充填した管5を接続し、夫々エア抜き口及び排気口とした。
一方、対照として、内部の空気を置換する操作を行わなかった受容器を用い、上記と同様の装置を用いて精製操作を行った。
精製処理は、原料アセトンをカラムに流速15リットル/時で通液して行った。
尚、この精製操作を行った作業室の気温と湿度は、次の通りである。
気温:27℃、相対湿度:71%、絶対湿度:18.5g/m3
これらの処理で得られた精製溶媒の水分含量(ppm)を、原料のそれと共に表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果から、受容器中の空気を乾燥窒素で置換する方法により、受容器中の空気を置換しない場合と比較して、著しく水分含量の低いアセトンが得られることがわかる。
【0038】
実施例2
実施例1と同様な装置を用い、同様な方法により操作を行って、表2に示す合計28種類の非水溶媒について精製操作を実施した。
精製の結果得られた低水分含量非水溶媒中の水分含量(ppm)を、容器内部の空気の乾燥窒素気体置換を行なわずに同様の精製操作を行って得られた精製非水溶媒中の水分含量測定結果と合わせて表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から明らかな如く、受容器中の空気を乾燥窒素で置換することにより、アセトン以外の非水溶媒についても、受容器中の空気を置換しない場合と比較して、著しく水分含量の低い非水溶媒が得られることがわかる。
【0041】
実施例3
本発明の小分け装置を図2に示す。
図中、6は精製された低水分含量非水溶媒の入った容量50リットルのキャニスター缶である。7は乾燥窒素気体ボンベ、17は乾燥窒素導入ノズル、18は低水分含量非水溶媒導入ノズルである。
小分けに於ては、先ず乾燥窒素気体ボンベ7のバルブを開けて、ベルトコンベア19に乗って左から流れてきた小分け容器(8,乾燥瓶)に、乾燥窒素導入ノズル17から、乾燥窒素気体を瓶の底部から流し入れる。次いで、低水分含量非水溶媒を低水分溶媒導入ノズル18から流し入れる。
17及び18は、夫々気体ノズルリフト装置9、溶媒ノズルリフト装置10に接続している。9及び10は、制御用コンピューター16によって制御されて上下し、はじめに乾燥窒素導入ノズル17が8の底部まで挿入され、乾燥窒素を8に送り込む。その後17は上昇し、次いで低水分溶媒ノズル18が8に挿入され、低水分溶媒を流し入れる。その後18は上昇する。更に気体ノズルリフト装置9は制御用コンピューター16に接続したマスフロー制御器13に接続し、乾燥窒素気体ボンベ7から小分け容器8に送り込まれる乾燥窒素気体の量を制御している。
また、小分け容器8に流し込まれる低水分含量非水溶媒量は、制御用コンピューター16に接続した液面センサー11による液面感知と、それに連動して、同じく制御用コンピューター16に接続した電磁弁12が開閉することによって制御される。
小分け容器8の口部分には局所排気装置フード15が配置されており、環境へ非水溶媒のガスが流出するのを防止している。低水分含量非水溶媒を規定量流し入れた小分け容器8は、ベルトコンベアー19に乗って右に移動し、自動締栓機14によって締栓される。
尚、乾燥窒素気体導入ノズル17としてはテフロン(米国デュポン社登録商標)製又はステンレス製が好ましく、低水分含量非水溶媒導入ノズル18としては、ステンレス製が好ましい。
実施例1の方法で得た、低水分含量アセトンの入った容器から図2に示す装置で容量500mlのガラス瓶に小分けを実施した。尚、乾燥窒素気体の導入量は、小分け用のガラス瓶当り約2リットルとし、小分けに要した時間は、12秒であった。
【0042】
この小分け操作を行った作業室の気温と湿度は、次の値であった。
気温:27℃、相対湿度70%,絶対湿度18.3g/m3
尚、対照として、小分け用のガラス瓶中の空気を乾燥窒素気体で置換せずに小分け操作を行った。
これらの処理で得られた小分け後の低水分含量アセトンの水分値を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3の結果から、容器の気体置換を行わないで小分け作業を行なうと、その間に非水溶媒が水分を吸収してしまうこと、言い換えれば容器中の空気を乾燥した気体で置換した後にアセトンの小分け操作を行うことにより、水分の再吸収を防止し、水分含量の低い小分け製品を得ることができることがわかる。
【0045】
実施例4
実施例2で得られた各種低水分含量非水溶媒を、実施例3の小分け装置を用いて各々容量500mlのガラス瓶に小分けを実施した。
小分け後の各低水分含量非水溶媒中の水分含量を、小分け容器の乾燥気体置換を行わずに小分けを行った場合の水分含量測定結果と合わせて表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表4から明らかな如く、アセトン以外の非水溶媒の場合も、小分け容器中の空気を乾燥気体に置換せずに小分け作業を行なうと、その間に非水溶媒が水分を再吸収してしまうが、小分け容器中の空気を乾燥気体で置換した後に非水溶媒の小分け操作を行うと、水分の再吸収を防止し、水分含量の低い小分け製品を得ることができることがわかる。
【0048】
実施例5
表5に示した2種類の低水分含量非水溶媒について、図2の装置を用いて各々容量500ml、1リットル又は3リットルのガラス瓶に小分けを実施した。この小分け操作を行った作業室の気温と湿度は次の通りである。
気温:27℃、相対湿度:71%,絶対湿度:18.5g/m3
2ヶ月間保存後、小分け瓶中の水分値(ppm)を測定した結果を表5に示す。また、市販(A社、B社)の同じく2種類の低水分含量非水溶媒製品の水分値(ppm)を測定した結果も表5に併せて示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表5から明らかな如く、小分け用容器中の空気を乾燥窒素で置換する方法によって小分けを行った製品は、従来品に比較して、全て水分含量が著しく低いことがわかる。以上のことから、本発明の方法を用いることにより、水分含量が低く、保存中の水分の再吸収が殆どない優れた低水分含量非水溶媒の小分け製品を製造することができることがわかる。
【0051】
実施例6
表6に示した4種類の低水分含量非水溶媒について、図2の装置を用いて各々容量500mlのガラス瓶に小分けを実施した。この小分け操作を行った作業室の気温と湿度は次の通りである。
気温:27℃、相対湿度:71%,絶対湿度:18.5g/m3
小分け瓶中の水分値(ppm)を測定した結果を表6に示す。また、市販(A社又はB社品)の同じく4種類の低水分含量非水溶媒製品の水分値(ppm)を測定した結果も表6に併せて示す。
【0052】
【表6】

【0053】
表6から明らかな如く、小分け容器中の空気を乾燥窒素で置換する方法によって小分けを行った製品は、従来品に比較して、全て水分含量が著しく低いことがわかる。以上のことから、本発明の方法を用いることにより、水分含量が低く、保存中の水分の再吸収が殆どない優れた低水分含量非水溶媒の小分け製品を製造することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、従来にはない、容器に収納された極めて低水分含量(水分含量15ppm以下)の非水溶媒を提供するものである。
本発明の低水分含量非水溶媒を用いれば、例えば水分の存在が反応の進行を妨害したり、反応収率を低下させるような様々な有機合成反応(例えばシリル化反応、グリニャール反応、ペプチド合成反応など)を行う際の反応溶媒として、或は水分の存在を嫌う化学反応が関与する分析化学の分析用試薬として有用である。
また、本発明の小分け装置を利用することにより、小分け工程においても、操作中に水分の再吸収を起こすことなく小分けを実施することが可能となり、優れた小分け製品を提供できるようになった。
以上の点に於いて、本発明は斯業に貢献するところ極めて大なる発明である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1における工業用アセトンの精製装置の略図である。
【図2】実施例3〜6で用いた低水分非水溶媒の小分け装置の略図である。
【符号の説明】
【0056】
1 原料の溶媒の入った容器
2 ガラス製カラム
3 カプセル型メンブランフィルター
4 精製溶媒の受容器
5 吸着剤を充填した管
6 低水分含量非水溶媒の容器
7 乾燥窒素ボンベ
8 小分け容器
9 気体ノズルリフト装置
10 溶媒ノズルリフト装置
11 液面センサー
12 電磁弁
13 マスフロー制御器
14 自動締栓機
15 局所排気装置フード
16 制御用コンピューター
17 乾燥窒素導入ノズル
18 低水分含量非水溶媒導入ノズル
19 ベルトコンベアー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め精製操作によって得た低水分含量非水溶媒を小分け用容器に収納して得られる、容器に収納された、水分含量15ppm以下の、酢酸エチル,酢酸メチル,酢酸ブチルから選ばれるエステル類、ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,テトラヒドロフラン,1,4-ジオキサンから選ばれるエーテル類、クロロホルム,ジクロロメタンから選ばれるハロゲン化炭化水素類、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトンから選ばれるケトン類、ジエチルアミン,トリエチルアミン,ジブチルアミン,プロピルアミン,ピリジンから選ばれるアミン類、N,N-ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドンから選ばれるアミド類、アセトニトリル,プロピオニトリル,ブチロニトリルから選ばれるニトリル類、ジメチルスルホキシド、メタノール,エタノール,n-プロパノール,iso-プロパノール,n-ブタノール,tert-ブタノール,ペンタノール,オクタノールから選ばれるアルコール類、ペンタン,n-ヘキサン,シクロヘキサン,ヘプタン,石油エーテルから選ばれる脂肪族炭化水素及びベンゼン,トルエン,キシレンから選ばれる芳香族炭化水素、から選択される非水溶媒。
【請求項2】
容器内部の気体の水分含量を予め12g/m3以下に低下させ、次いで該容器中に低水分含量非水溶媒を小分けすることにより得られたものである、請求項1に記載の非水溶媒。
【請求項3】
容器内部の気体の水分含量を予め1.0g/m3以下に低下させ、次いで該容器中に低水分含量非水溶媒を小分けすることにより得られたものである、請求項1に記載の非水溶媒。
【請求項4】
容器内部の気体の水分含量を予め0.5g/m3以下に低下させ、次いで該容器中に低水分含量非水溶媒を小分けすることにより得られたものである、請求項1に記載の非水溶媒。
【請求項5】
有機合成反応用の反応溶媒又は分析用試薬として用いられる、請求項1に記載の非水溶媒。
【請求項6】
非水溶媒が、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル及びジメチルスルホキシドから選ばれる非プロトン性極性溶媒である、請求項1〜5のいずれかに記載の非水溶媒。
【請求項7】
非水溶媒が、メタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール及びオクタノールから選ばれるプロトン性極性溶媒である、請求項1〜5のいずれかに記載の非水溶媒。
【請求項8】
非水溶媒が、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン及びキシレンから選ばれる非極性溶媒である、請求項1〜5のいずれかに記載の非水溶媒。
【請求項9】
非水溶媒が、水分含量10ppm以下の酢酸エチル、水分含量10ppm以下のジエチルエーテル、水分含量10pppm以下のジイソプロピルエーテル、水分含量5ppm以下のテトラヒドロフラン、水分含量10ppm以下の1,4-ジオキサン、水分含量10ppm以下のアセトン、水分含量5ppm以下のメチルエチルケトン、水分含量10ppm以下のピリジン、水分含量10ppm以下のN,N-ジメチルホルムアミド、水分含量15ppm以下のジメチルアセトアミド、水分含量10ppm以下のN-メチルピロリドン、水分含量5ppm以下のアセトニトリル、水分含量10ppm以下のジメチルスルホキシド、水分含量15ppm以下のメタノール、水分含量10ppm以下のn-プロパノール、水分含量10ppm以下のiso-プロパノール、水分含量10ppm以下のn-ブタノール、水分含量10ppm以下のtert-ブタノール、水分含量10ppm以下のオクタノール、水分含量10ppm以下のペンタン、水分含量10ppm以下のシクロヘキサン、水分含量10ppm以下のヘプタン、水分含量5ppm以下のベンゼン又は水分含量10ppm以下のキシレンである、請求項1〜5のいずれかに記載の非水溶媒。
【請求項10】
下記の機構を具備することを特徴とする、水分含量15ppm以下の低水分含量非水溶媒小分け装置;
(1)精製操作によって得られた低水分含量非水溶媒の容器、
(2)小分け用容器、
(3)乾燥気体導入ノズル、
(4)低水分含量非水溶媒導入ノズル、
[但し、上記乾燥気体導入ノズル(3)は小分け用容器(2)の底部まで挿入されるように制御されており、低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)が小分け用容器(2)に挿入された場合の低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)の先端部の位置は、低水分含量非水溶媒を小分け用容器(2)に小分け量流し入れた際に、その液面に接触しない位置となるように制御されている。]。
【請求項11】
更に液面センサーを具備し、低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)が小分け容器(2)に挿入された場合の低水分含量非水溶媒導入ノズル(4)の先端部の位置は、該液面センサーの感知範囲を遮らない位置になるように制御されている、請求項10に記載の小分け装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−120801(P2008−120801A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280248(P2007−280248)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【分割の表示】特願2004−213428(P2004−213428)の分割
【原出願日】平成8年11月12日(1996.11.12)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】