説明

低流量麻酔時にO2消費量および麻酔剤吸収量を正確に計算する簡易方法

【構成】ガス(x)の濃度を測定する方法である。ガス(x)としてa)限定するものではないが、
i)NO;
ii)セボフルラン;
iii)イソフルラン;
iv)ハロタン;
v)デスフルランなどの麻酔剤;および
b)酸素(O
から選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低流量麻酔時にO消費量(VO)および(特にVNOなどの)麻酔剤吸収量を術中に求めて、患者の状態および患者が吸収している麻酔ガスおよび麻酔蒸気の量に関する情報を得る方法に関する。この情報は、モニター機能をもつだけでなく、コストおよび空気汚染を最大限に削減、抑制するために回路を閉じることができるように、新たに送るガス流量および麻酔剤気化濃度を設定できる機能をもつ。

【0002】
本発明方法は、麻酔医にとって既に利用可能な情報を使用して、患者におけるガス量を低コストかつ簡単に計算する方法である。VOは、組織潅流の重要な生理学的標識であり、VOの増加は、悪性の高体温症の早期兆候として利用することができる。また、他のガス吸収量の計算結果とともにVOを使用すると、閉回路麻酔(CCA)に切り替えることができ、コストの削減、環境汚染の抑制を達成できる。
【背景技術】
【0003】
酸素流量などの各測定値を求めるためには数多くの手法を利用することができる。ガス流量を呼吸ごとに測定する現状の測定方法は、十分な精度がないため、別に試行錯誤によって流量を調節しない限り、回路を閉じることができない。これら従来の手法については、以下に説明する。過去、麻酔時にVOを測定するために多くの試みがあった。大別すると、次の通りである。
【0004】
1)体重を基礎とする経験式
例えば、Brodyの式がある。
a)Brodyの式(1)VO=10BW3/4は、代謝状態変化を考慮していない“静的な”式である。
2)閉システムにおける酸素減量(または酸素置換量)の測定
Severinghaus(2)の場合、麻酔時にNO吸収量およびO吸収量を測定している。患者は、閉呼吸回路(ガスは回路に流入するが、流出するものはなにもない)を利用する自発呼吸患者である。回路へのNO流量およびO流量については、OおよびNOの全回路容量および濃度が経時的に変化しないように、連続的に手動調節を行っている。うまくいけば、NO流量およびO流量は、NO吸収量およびO吸収量に一致するはずである。
【0005】
制約:臨床上の望ましくない点
1.臨床上まれにしか使用されない閉回路でのみ有効である。
2.流量について常にモニター、調節する必要がある。これは、手術時に、患者の他の状態をみる場合になじまない。
3.一般的には手術室では利用できない装置、即ち肺活量計を備えている。
4.肺活量計の場合、患者を機械的に換気できないため、対象は自発呼吸患者のみである。
5.少量吸収される麻酔蒸気などの他のガス流量を評価するためには複雑すぎ、また精度も低い。
【0006】
3)ガス回収およびO濃度の測定
a)口腔でのO濃度および呼気流量の呼吸ごとの測定
この方法の場合、市販されている代謝カートを患者の気道に装着できる。呼吸ごとに流量およびガス濃度を測定する。この装置の場合、吸気ガス容量および呼気ガス容量を連続的に記録する。
【0007】
制約:
1.代謝カートは費用が高く、USドルで30,000〜50,000ドルである。
2.流量(VO)を測定するために使用する方法は、潜在的にエラーが多い。流量信号およびガス濃度信号の両者に同期させる必要がある。従って、ガス濃度曲線に関して時間的遅れを正確に定量化する必要があり、またサンプルラインのガス混合の作用およびガスセンサの時定数について補正する必要がある。ガス濃度に大きくかつ急激な変動がある場合には、吸気時にエラーが最大になる。半閉回路での麻酔時にVOを測定するために使用する代謝カートについて報告はない。
3.代謝カートの場合、NOおよび麻酔蒸気における流量を測定できない。
【0008】
本発明方法は、利用できる臨床施設の要部であるガス分析器を使用した半閉回路で、O(VO)、NO(VNO)および麻酔蒸気(VAA)の流量を測定できる。
b)気道圧力逃がし(APL)弁からガスを回収し、容量およびガス濃度について分析する。これによって、回路から出たガスの容量が知ることができる。この容量を回路に流入したガスの容量から差し引く。この場合、容器にガスを定期的に回収し、容量および濃度について分析する必要がある。
【0009】
制約:
i)手術室では、通常、ガス容器、容量測定装置およびガス分析器は利用できない。
ii)測定は手間がかかり、麻酔医が患者から注意をそらす場合がある。
【0010】
4)トレーサガス
Henegahan(3)は、アルゴン(患者による吸収率および排出率は無視できる)を麻酔回路の吸気ガスに一定の率で加える方法を示している。麻酔時に換気装置から排出されたガスを回収し、混合室に送る。この混合室には、Nが一定の流量で流入する。混合室からのガス濃度を口腔部でサンプリングし、質量分析計で分析する。不活性ガスの流量を正確に知ることができるため、混合室からの不活性ガスの濃度を口腔部で測定でき、測定値を使用して、全ガス流量を計算できる。これをOおよびNO濃度とともに使用すると、これらガスの流量を計算できる。
【0011】
この方法は、インジケータ希釈方法(indicator dilution method)の原理を使用するものであり、手術室では普通使われないガス、流量計およびセンサが必要である。例えば、アルゴンやNのガス、精密流量計、質量分析計およびガス混合室である。
【0012】
5)Foldes(1952)の方法の応用によるVO
Foldesの式:FIO=Oflow−VO/FGflow−VO
なお、FIOはOの吸気分数、Oflowは設定流量ml/min(本質的にVOと等価)、VOは体重に基づき計算したO吸収量ml/min(本質的にVOと等価)、およびFGflowは新鮮なガスの設定流量ml/minである。
a)Biro(4)によれば、現在のセンサは少量の気道濃度を測定できるため、Foldesの式を使用して、VOを求めることができるとしている。即ち、次式が成立する。
VO=Oflow−(FIOFGflow)/1−FIO
なお、FGflowおよびOflowは、流量計の設定から得られる。
【0013】
この方法の欠点:
1.この方法の場合、FIOを知る必要がある。FIOは、呼吸全体を通じて変動するため、流量平均値で表す必要がある。このためには、口腔部に流量センサおよび高速Oセンサが必要である。従って、代謝カート式測定の場合と同じ問題がある。
2.FIOを測定でき、Oの容量を定期的に計算できたとしても、上記文献の式に適用することは、VOを計算するためには正確ではない。Biroは、Foldesの式を応用して、中耳の待機手術時に21人の患者についてVOを計算しているが、計算結果は、体重から計算したVOの予想範囲内にあったが、VOの計算値を確立されている方法で得た計算値と比較していない。最近、Leonardなど(5)は、心臓手術を受けた29人の患者について、Biroの方法で測定したVO値と標準的なFick方法で得たVO値を比較して、Biroの方法は、麻酔下では“全身酸素吸収量の信頼性にかける測定方法”であると結論している。本発明者も、Biroの式によって計算したVOと、VOを独立して測定した患者からのデータとを比較し、相関関係がそれほどないことを確認した。
【0014】
b)Vialeなど(6)は、次式からVOを計算している。
VO=VE(FIOFEN/FIN−FEO
なお、FIOおよびFEOは、それぞれ、吸気O濃度および呼気O濃度であり、FINおよびFENは、それぞれ、吸気N濃度および呼気N濃度である。
【0015】
この方法の場合、一般的には手術室では利用されない装置、即ちVEを計算するための口腔部における流量センサおよびFENおよびFINを測定するための質量分析計が必要である。さらに、流量およびガス濃度を積分し、流量で重みをつけたOおよびNの吸気濃度を計算するための手段を設ける必要がある点で呼吸ごとの分析器に似ている。
【0016】
C)Bengstonの方法(7)の場合、30%のO、残りがNOからなる一定の固定の新鮮なガス流量を使用する半閉式のサークル回路を使用する。VOは、次式により求める。
VO=VfgO−0.45(VfgNO)−(kg:70.1000.t−0.5))
なお、VfgOは、新鮮な酸素ガス流量、VfgNOは新鮮なNOガス流量、kgは、患者の体重である。この方法を有効に行うためには、回路を出るガスを回収し、成分ガスの容量および濃度を測定する。
【0017】
上記方法の制約:
i)NO吸収については、測定せず、患者の体重および麻酔時間から計算する。
ii)上記の式は、30%のO、残りがNからなる一定のガス濃度の場合にのみ有効である。
iii)この方法を有効に行うには、ガスの回収、およびガス容量およびガス組成を測定する必要がある。
【0018】
6)麻酔剤の吸収/取り込みについては、薬物動態学的原理および麻酔剤の特徴から予測できる。
a)Lowe HJの式。麻酔の定量的方法。
Williams and Wilkins.Blatimore(1981)、第16頁
VAA=fMACλB/G1/2

なお、VAAは麻酔剤の取り込み量、fMACは切開時の動きを抑制するために必要な最小の肺胞濃度の分数濃度、λB/Gは血液-ガス分離係数、Qは心拍出量、そしてtは時間である。
【0019】
制約:
i)通常の麻酔の場合、心拍出量(Q)は未知である。
ii)上記の式は、経験値平均値であり、特定の患者の状態を必ずしも反映していない。例えば、VAAに影響する要因である組織の飽和を考慮していない。
【0020】
b)LinCY(8)は、麻酔剤の取り込み量(VAA)について以下の式を提案している。
VAA=VAFI(1−FA/FI)
なお、VAAは麻酔剤の取り込み量、VAは肺胞換気量、FAは麻酔剤の肺胞濃度、そしてFIは麻酔剤の吸気濃度である。
【0021】
制約:
i)低流量麻酔の場合VAが未知なので、この式は使用できない。
ii)FIは複雑であり、呼吸全体を通じて変動する恐れがあるため、容量平均値が必要である。
iii)標準的な手術室分析では、FIは利用できない。
【0022】
7)侵襲的な測定による測定値からの直接計算:
a.Pestana(9)およびWalsh(10)は、末梢動脈および肺動脈にカテーテルを挿入し、これらカテーテルから採取された血液の酸素含量を使用し、かつ肺動脈から熱希釈(thermodilution)によって測定した心拍出量を使用して、VOを計算し、また得られた結果を間接熱量測定によって得られた結果と比較している。
【0023】
制約:
i)この方法の場合、手術室では普通利用できないモニターを使用する。
ii)血管にカテーテルを挿入することは、死亡事故を伴うこともあり、コストも高い。
【0024】
表形式の要約

【0025】
非特許文献リスト


【非特許文献1】Brody S.Bioenergistics and Growth.NewYork:Reinhold,21945
【非特許文献2】Severinghaus JW.The rate of uptake ofnitrous oxide in man.J Clin.Invest 1954;33:1183−1189
【非特許文献3】Heneghan CP、Gillbe CE,BranthwaiteMA.Measurement of metabolic Gas exchange during anaesthesia.A method using mass spectrometry.Br J Anaesth 1981;53(1):73−76
【非特許文献4】Biro P.A formula to calculate oxygen uptake during low flow anesthesia based on FiO2 measurements. JClin Monit Comput1998;14(2):141−144
【非特許文献5】Leonard IE,Weitkamp B,Jones K,Aittomai J, Myles PS.Measurement ofsystemic oxygen uptake during low−flow anaesthesia with a standardtechnique vs.a novel method.Anaesthesia 2002;57‘7):654−658
【非特許文献6】Viale JP,Annat GJ,Tissot SM,Hoen JP,Butin EM,Bertrand OJ et al.Mass spectrometric measurements of oxygen uptake during epidural analgesia combined with general anesthesia.Anesth Analg 1990;70(6):589−593
【非特許文献7】Bengtson JP,Bengtsson A,StenqvistO.Predictable nitrous oxide uptake enables simple oxygen uptabke monitoring during low flow anaesthesia.Anaesthesia 1994;49(1):29−31
【非特許文献8】Lin CY.[Simple,practical closed−circuit anesthesia]Masui 1997;46(4):498−505
【非特許文献9】Pestana D,Garcia−de−Lorenzo A.Calculated versus measured oxygen consumption during aortic surgery:reliability of the Fick method.Anesth Analg 1994;78(2):253−256
【非特許文献10】Walsh TS,Hopton P,Lee A.A comparisonbetween the Fick method and indirect calorimetry for determining oxygten consumption in patients with fulminant hepatic failure.Crit Care Med 1998;26(7):1200−1207
【非特許文献11】Baum JA and Aitkenhead RA.Low−flow anaesthesia.Anaesthesia 50(supplement):37−44,1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
即ち、本発明の主な目的は、低流量麻酔時にO消費量(VO)および(特にVNOなどの)麻酔剤吸収量を術中に求めて、患者の状態および患者が吸収している麻酔ガスおよび麻酔蒸気の量に関する情報を得る方法を提供することである。
【0027】
本発明の別な目的は、求めたO消費量(VO)おおび(特にVNOなどの)麻酔剤吸収量に基づいて、コストおよび空気汚染を最大限まで抑制するために回路を実質的に閉回路できるように、新鮮なガスの流量および麻酔剤気化器濃度を設定できるようにすることである。
【0028】
本発明のさらに別な目的は、当業者ならば、以下の発明の要旨および好適な実施態様のより詳細な説明から理解できるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第1の態様は、サークル麻酔回路などの半閉回路または閉回路を用いて、定常状態低流量麻酔時に、O(VO)およびNO(VNO)などの麻酔ガスの流量を正確に計算する方法である。本発明の計算方法では、流量設定および換気ガス分析器の出力のみが必要である。NOを含む場合もある、Oおよび/または空気からなり、微小換気量(VE)より実質的に小さい量で回路に流入する新鮮なガスを使用するサークル回路で呼吸を行っている患者について考える。ここで、新鮮なガス全流量(FGF)を“ソースガス流量(SGF)”とする。また、回路は患者の延長であり、定常状態下では、回路に対するガス流量の質量バランスは、患者内のガス流量と同じとする。
【0030】
本発明方法は、例えばCCAなどの低流量麻酔時に、ガス流量計算の精度を高め、ガス薬物動態を決定する方法である。本発明の一つの態様は、ガス(x)の消費量を求める方法であって、上記ガス(x)として、
a)限定するものではないが、
i)NO;
ii)セボフルラン;
iii)イソフルラン;
iv)ハロタン;
v)デスフルランなど;および
b)酸素(O
から選択したものを使用し、以下のモデルをカバーする群から選択する半閉回路または閉回路を使用して行う方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
モデル1
第1の近似仮定として、CO吸収器が回路になく、呼吸商(RQ)が1とする。
モデル1について説明する。
1)回路に流入するガス流量がSGFで、回路を出るガス流量はSGFに等しい。
2)回路を出るガスは主に肺胞ガスである。実質的な理由は、解剖学的なデッドスペースを含む吐き出されたガスの第1部分は、圧力逃がし弁をバイパスし、リザーババッグに入る傾向があるためである。リザーババッグが一杯になると、回路内の圧力が高くなり、圧力逃がし弁が開き、肺胞から後で吐き出されたガスが回路を出る。
3)回路に流入する任意のガス“x”の容量は、SGFにおけるガスx(FSx)の分数濃度をSGF倍することによって計算できる。回路を出るガスの容量は、呼吸終了期ガスにおけるx(FETx)の分数濃度のSGF倍である。患者によって吸収され、あるいは排出されたガスxの真の容量は、SGF(FSx−FETx)である。例えば、VO=SGF(FSO−FETO)ならば、SGFおよびFSOを流量計から読み取ることができ、FETOをガスモニターから読み取ることができる。同様な計算を使用して、VCOおよび吸入された麻酔剤の流量を計算できる。
【0032】
モデル2
次に、CO吸収器を備えたサークル回路について考える。第1の近似仮定として、吐き出されたガスのすべてがCO吸収器を通り、かつ呼吸商RQが1であると仮定する(図1bを参照)。
このモデルの場合、患者が発生したCOはすべて吸収されるため、回路からのガスの全流量(TFout;吐き出されたガス流量、VE、と等価である)は既にSGFに等しくなく、SGF-VOに等しい。
TFout=SGF−VO (1)
VOは、回路に流れ込むOの流量(Oin;通常の用語法ではVOin)−回路から流出するO流量(Oout;通常の用語法ではVOout)として計算する。
即ち、
VO=Oin−Oout) (2)
また、
out=TFoutFETO (3)
であるため、単に式(2)のOoutに式(3)を代入するだけで、ガス設定値およびOガスモニター値からVOを計算できる。即ち、
VO=SGF(FSO−FETO)/(1−FETO) (4)
【0033】
モデル3
回路内にCO吸収器を備えたサークル回路により麻酔剤を与える場合について再度考える。このモデルの場合、吐き出されたガスの一部が圧力逃がし弁(図2)から逃げ、一部がCO吸収器を通過することを考慮している。RQは同様に1と仮定している。また、このモデルでは、さしあたり解剖学的デッドスペースについてはこれを無視し、患者に送られるガスすべてがガス交換に寄与すると仮定する。また、吸い込み時、患者はSGFをすべて受け取り、肺胞内に吸い込まれたガスの残りの部分については、CO吸収器を介して導かれた後、吐き出されたガスのリザーバからくるものとする。
さらに、近似的な仮定として、CO吸収器を通過するガスの容量は、VEとSGFとの差とする。即ち、VE−SGFであるが、実際は、VE−SGF+VCOabsである。ただし、さしあたり、この値と本発明での仮定と間に差については、非常に小さく、無視するものとする。ここで肺胞内に分配された、CO吸収器を通過する、前に吐き出されたガスの割合を1−SGF/VEとするが、これが厳密は正しくない理由については、モデル4に関して説明する。COが吸収されると、他のガスの濃度が高くなる。この後者の割合を“a”とする。即ち、
a=1−SGF/VE (5)
【0034】
前と同様に、回路に流れ込むガスの流量および濃度は既知である。回路を出る個々のガスの流量を計算するためには、回路を出るガスの全量を知る必要がある。このモデルの場合、CO吸収器に吸収されたCOの容量を考慮する。同様に、RQ=1と仮定する。回路から出る流量は、SGF−VO+VCO−CO吸収器を介して導かれるガス内のCO容量(VCOabs)に等しい。即ち、
Tfout=SGF−VO+VCO−VCOabs (6)
VCOabs=aVCO
TFout=SGF−VO+VCO−aVCO
VO=Oin−Ooutであるため、
VO=Oin−(SGF−VO+VCO−aVCO)FETO
が成立する。RQを1と仮定しているため、VCOにVOを代入し、VIにVEを代入すると、VOについて解くことができる。即ち、

【0035】
さらに、実際のRQが既知の場合を考慮して、上記式を補正する。RQ=1ならば、単にVCOにVOを代入すればよい。1以外のRQについて補正すためには、VCO=RQVOを使用するため、VCOabsはaRQVOに等しくなる。従って、
TFout=SGF−VO+VCO−VCOabs (6)
は、式(8)になる。
TFout=SGF−VO+RQVO−a*RQ*VO (8)
Oや麻酔蒸気などの第2のガスが吸収される場合、全流出量(TFout)がNO(VNO)および/または麻酔剤(VAA)の流量について補正する補正項を含むように同様な式を導入できる。
従って、モデル3では、RQ=1でのNO吸収量(VNO)を計算できる。
【0036】
モデル3の場合、さらに、RQ=1と仮定して、式(6)にVNOの計算する計算項を追加する。
TFout=SGF−VO−VNO+VCO−VCOabs
(AA1)
【0037】
VNOを求めるためには、NOに対して、回路に関して第2の質量バランス式が必要である。VCOabs=aVCOおよびa=1−SGF/VEのためには、
VNO=NOin−(SGF−VO−VNO+VCO−aVCOFETN
(AA2)
同様に、RQ=1と仮定しているため、VO=VCOであり、従って
VNO=NOin−(SGF−VO−VNO+VCO−aVCOFETN
(AA3)
=NOin−(SGF−aVO−VNO)FETN
【0038】
従って、VNOを考慮した場合、VOは次式で計算できる。
VO=Oin−(SGF−VO−VNO+VCO−aVCOFETO
(AA4)
=Oin−(SGF−VO−VNO+VO−aVOFETO
=Oin−(SGF−aVO−VNO)FETO
【0039】
本発明では、基本的に、2つの式(AA3)および(AA4)を使用し、未知数はVOおよびVNOの二つである。
式(AA3)をVNOについて解くと、

【0040】
式(AA4)に式(AA5)を代入し、VOについて解くと、

【0041】
VO、CO吸収量およびRQ=1を考慮し、VNOを計算すると、

【0042】
VNO、麻酔剤吸収量VAAおよびRQ=1としたモデル3


ただし、a=1−SGF/VEである。
【0043】
O、RQをもつモデル3
VNOを計算するさい、実際のRQを考慮すると、式9は、
TFout=SGF−VO−VNO+RQVO−aRQVO (AA11)
にある。従って、式(AA2)は、
VNO=NOin−(SGF−VO−VNO+RQVO−aRQVOFETNO (AA12)
になる。そして、式(AA4)は、
VO=Oin−(SGF−VO−VNO+RQVO−aRQVOFETOO (AA13)
になる。
【0044】
ここで、2つの式(AA12)および(AA13)は、未知数VOおよびVNOが二つである。
式(AA12)および(AA13)をVOおよびVNOについて解くと、



なお、bはCO吸収器を通過するCO産生量(VCO)の分数である。“b”は“a”と同様なもので、実際のRQを考慮したものである。即ち、


【0045】
O、麻酔剤およびRQに関するモデル3
同様に、実際のRQを考慮して、ガス流量を計算できる。


【0046】
モデル4
残っている一つの近似的な仮定は、解剖学的なデッドスペースを無視したことである。
CO吸収器を通る、吸い込まれたガスの部分は、VE−SGFである。ただし、CO吸収器によって吸収されたCOの真の量は、前の呼吸時に肺胞から発生したVE−SGFの部分に含まれる量に等しい。肺胞からのFCOはFETCOに等しい。従って、前に“a”と表記したCO吸収器を介して導かれた、吸い込まれたガスの部分は、実際には、1−SGF/VAに等しい。以下の式において混乱を避けるために、1−SGF/VAを“a´”とする。
【0047】
ここで式(7)を補正する。即ち、RQに関する近似仮定を使用せず、CO吸収器を通過するガスの割合としてa´を使用する。
ここで、
VOabs=a´VO=(1−SGF/VA)VO (9)
式(8)から、
TFout=SGF−VO+VCO−VCOabs
=SGF−VO+(1−a´)VCO
=SGF−VO+(1−(1−SGF/VA)VCO
=SGF−VO+(SGF/VA)VCO
=SGF−VO+SGF(VCO/VA) (10)
【0048】
標準的なFETCOの定義はVCO/VAであるため、式(10)のVCO/VAにFETCOに代入する。即ち、
TFout=SGF−VO+SGFFETCO
VO=Oin−TFoutFETO
=Oin−(SGF−VO+SGFFETCOFETO
【0049】
VOの分離後は、

【0050】
VNOに関して補正したモデル4
VNOに関して式(11)を補正すると、
TFout=SGF−VO−VNO+VCOabs
VNOを求めるためには、NOについて第2質量バランスが必要である。ただし、VCOabs=a´VCO、そしてa´=1−SGF/VAである。
VNO=NOin−(SGF−VO−VNO+VCO−a´VCOFETN
=NOin−(SGF−VO−VNO+(1−a´)VCOFETN
=NOin−(SGF−VO−VNO+(1−(1−SGF/VA)VCOFETN
=NOin−(SGF−VO−VNO+SGF/VAVCOFETN
=NOin−(SGF−VO−VNO+SGFPETCOFETNO (28)
【0051】
同様にして、
VO=Oin−(SGF−VO−VNO+VCO−a´VCOFETO
=Oin−(SGF−VO−VNO+SGFFETCOFETO
(29)
【0052】
ここで式(28)および(29)は、2つの未知数VOおよびVNOをもつ。
VOおよびVNOについて、式(28)および(29)と解くと、

【0053】
なお、流量を計算するためには、RQおよびVAは計算の必要ない。さらに、ここで、VNOを考慮して、式11をさらに補正した式を示す。

【0054】
Oおよび麻酔剤を使用するモデル4
同様に、追加供給する麻酔剤の流量については、下記の式により計算できる。

【0055】
[従来技術と比較した本発明の作用効果]
本発明の、Severinghause(#2)と比較した作用効果:
iv)麻酔剤を送る最も普通の方法である半閉回路で、新鮮なガスの低流量を患者に維持できる。麻酔医は何もする必要はない。
v)手術室通常利用できる情報を使用し、なんらかの装置やモニター類を追加使用する必要はない。
vi)Oおよび/またはNOの流量に関して計算できる。
vii)換気装置を装着した患者、自発呼吸患者に適用できる。
viii)麻酔蒸気などの取り込み/吸収量を計算するために使用できる。
また、代謝カートと比較した場合、患者に麻酔処置を行うために必要な装置以外は必要なく、また吐き出されたガスまたは回路を出るガスを回収する必要もない。
【0056】
本発明方法では、外部から供給されるトレーサガスを呼吸させる必要はない。O流量計やNO流量計の設定値、および標準的な手術室のガスモニターによって測定する吐き出されたガスの濃度などの普通利用できる情報をモニターするだけでよい。
【0057】
Biroと比較した場合、本発明では、
VO=Oin−Oout
である。なお、OinおよびOoutは、
out=TFoutFETOTFoud=TFin−VO
VO=Oin−(TFin−VOFETOである。
VOについて解くと、
VO=(Oin−TFinFETO)/1−FETOである。
なお、
VOは酸素消費量、
TFinは回路に流れ込むガス全流量(吸入流量VIと等価)、
TFoutは回路を出るガスの全流量(吐き出し流量VEと等価)、
outは回路を出るOの全量(VOoutと等価)、
inは回路に流入するOの全量(VOinと等価)、および
FETOは吐き出された(呼吸終期の)ガスのOの分数濃度である。
【0058】
本発明の式は、Biroの式の右側の項の分子および分母の同様な場所にFETOの代わりにFIOをもつ点を除けば、Biro式と同じ形をもつものである。この結果、本発明の方法と比較して、VOの値が違ってくる。さらに、FETOは、肺胞の吐き出し相時の定常数であるため測定でき、その値は肺胞ガスを表すが、FIOは定常数ではない。即ち、FIOは、吸気時に変動し、吸気時の特定時間における値は、吸い込まれたガスを表すものではない。
また、Vialeの方法と比較した場合、本発明方法では、FIO、FEN、FINや患者のガス流量は必要ない。
また、Bengstonの方法と比較した場合、本発明方法では、患者の体重や麻酔時間を知る必要はない。本発明方法は、どのようなO/NO流量比で回路に流入する場合でも実施できる。また、吐き出されたガスを回収する必要もなく、ガス容量も測定する必要もない。
また、Lowe、Lin又はPestanaの方法と比較した場合、本発明方法では、流量計設定や呼吸終期のO濃度などの通常利用できる情報のみを使用し、どのような侵襲的な処置も必要ない。
【0059】
上記の式を用いる場合、ガス流量の正確な計算に対する制限的なファクターは、麻酔装置と併用する流量計やモニターの精度である。さらに、回路からの漏れがある場合にはこの漏れについて、そしてガスモニターのサンプリング速度については知っておく必要があり、計算のさいに考慮する必要がある。市販の麻酔装置はこのような仕様に従って構成されていないため、本発明では、精密な流量計および回路にそれぞれ流入・流出するOおよびCOの流量が精密にわかっている肺/回路モデルを設計し、次にこの既知のOおよびCO流量と、SGF、微小換気およびガスモニターによって分析したガス濃度と比較した。図1に、結果のBland−Altman分析を示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】Bland−Altmanプロットであり、“仮想VO”として示す、モデルでの実際の“酸素消費量”シミュレーションと比較した場合の計算された酸素消費量の精度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
例えばCCA(閉回路麻酔)などの低流量麻酔時に、ガス流量計算の精度を高め、ガス薬物動態を決定する方法であって、ガス(x)の消費量を求める精密な方法において、上記ガス(x)として、
a)限定するものではないが、
i)NO;
ii)セボフルラン;
iii)イソフルラン;
iv)ハロタン;
v)デスフルランなどの麻酔剤;および
b)酸素(O
から選択したものを使用し、本明細書に開示したモデルI〜IVおよびこれらの応用モデルにおいて説明した関係を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
部分再呼吸回路に流入するガスのガス流量およびガス組成、および呼吸モニターガス濃度測定値から誘導した情報を使用することによって、部分再呼吸回路呼吸患者における酸素消費量および/またはCO産生量を求めることを特徴とする方法。
【請求項3】
部分再呼吸回路に流入するガスのガス流量およびガス組成、および呼吸モニターガス濃度測定値から誘導した情報を使用することによって、部分再呼吸回路呼吸患者における酸素消費量、麻酔ガス吸収量およびCO産生量を求めることを特徴とする方法。
【請求項4】
上記回路が、サークル式麻酔回路か、あるいは回路中にCO吸収器を備えた任意の麻酔回路である請求項2記載の方法。
【請求項5】
上記回路が、サークル式麻酔回路か、あるいは回路中にCO吸収器を備えた任意の麻酔回路である請求項3記載の方法。
【請求項6】
モデル1−4に関して説明した、中間式を含む任意の式を使用する請求項1記載の方法。
【請求項7】
以下の任意の式またはその中間式を使用してVOを決定することを特徴とする方法。

【請求項8】
以下の任意の式またはその中間式を使用してVNOを決定することを特徴とする方法。

【請求項9】
以下の任意の式またはその中間式を使用してVAAを決定することを特徴とする方法。




【図1】
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【公表番号】特表2006−517812(P2006−517812A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501420(P2006−501420)
【出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000219
【国際公開番号】WO2004/073481
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(504359330)
【氏名又は名称原語表記】FISHER,JOSEPH
【住所又は居所原語表記】THE TORONTO GENERAL HOSPITAL,DEPARTMENT OF ANESTHESIA,200 ELIZABETH STREET,TORONTO,ONTARIO M5G 2C4 CANADA
【Fターム(参考)】