説明

低温使用用の改良された炭化水素吸着スラリー極薄塗料

本発明は、自動車からの揮発性炭化水素の排出のコントロールに使用可能な、改良された炭化水素吸着スラリー極薄塗料に関する。より具体的には、本発明は、一種以上の炭化水素吸着剤材料と、アニオン性分散剤を含み及び/又はpHを安定化させる有機高分子バインダーとを含む本発明の改良されたスラリー組成物に関する。このバインダーは、炭化水素吸着剤の燃料貯蔵部品、燃料供給部品、または吸気システム部品の表面への接着を強化するのに使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温使用用の改良された炭化水素吸着剤極薄塗料の利用に関する。特に、本発明は、自動車からの揮発性炭化水素の排出を抑制する目的の改良された炭化水素吸着剤極薄塗料の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の揮発性排ガスの規制では、非使用状態の車両からの汚染物質(主に炭化水素)のコントロールが求められている。これらの排ガスは、車両のいろいろな所から、例えば吸気システムから漏れ出す。過去においては、燃料タンクからの排ガスのみが炭素の入った吸収缶で捕らえられていたが、現在では、規制は、他の車両部品、例えば吸気システムにも延長されている。動力駆動系が再び使用されるまで、これらの有害物質を吸気システム内に閉じ込めておく必要がある。そのような時に、排ガス保持システムが、通常の排ガス排出制御システムで有害物質が消費されコントロールされるように、そのシステムに送り出す。
【0003】
汚染物質の自動車の吸気システムから外側への流れをコントロールする方法がいくつかある。このような方法の一つは、ダクトとフィルターボックスを注意深く設計することである。しかし、この方法では、規制上の要件を十分に満たせないことが多い。したがって、例えばサイクル休止時に吸気システム中に汚染物質を吸収するある種の炭素等の材料を使用するシステムを導入なと、他の方法を用いる必要がある。車両が次に始動するとき、流入する空気が、吸着剤から汚染物質を吸い出し、その汚染物質を通常の排ガス汚染コントロールシステムに導く。この内側への空気流入でこの吸着システムが再生され、再利用が可能となる。残念ながら、この吸着システムを追加すると、車両のコストや重量、複雑性が増加し、ガスの流動が制限されることとなる。
【0004】
内燃機関からの排ガスを削減する方向の圧力は、依然として存在している。内燃機関からガスが排出される一場面は、エンジンの停止時である。燃料噴射器から放出されて、エンジンの停止前までに使用されない燃料は、吸気マニホルドや吸気空気ダクト、エアフィルタを通して外部に蒸散して大気中に逃げ、大気汚染につながる可能性がある。
【0005】
また、このような意図せざる揮発性物質の排出を抑えるため、いろいろな種類のフィルターが開発された。車両の吸気システムで使用するフィルターの例が、ロバブスキーらの米国特許6,432,179や榊原らの米国特許出願2002/0029693に開示されている。なお、これらの文献を、参照として本願明細書に組み込むこととする。榊原らの文献は、内側のシリンダー部を取り囲む容器をもつ炭化水素吸収装置の実施様態をいくつか開示している。この容器と内側のシリンダー部で区切られた室内に、炭化水素吸着剤材料が入れられる。内側のシリンダー部は、長さ方向に伸びる誘導空気の通過用の中心内孔と、誘導システム内のすべての炭化水素を、内側のシリンダー部を取り囲むフィルターを通過して吸着室内にある炭化水素吸着剤材料にまで運ぶ窓とを有している。
【0006】
上述のように、自動車の燃料タンクから出る揮発性炭化水素燃料の蒸気を捕集する吸着システムや吸着方法はよく知られている。このようなシステムは、通常、揮発性ガス削減制御システムと呼ばれ、活性化された活性炭などの再生可能な吸着剤を含む容器を用いて作動する。この吸着剤は揮発性炭化水素を吸収し、エンジンの運転条件が捕集した炭化水素の燃焼に適しているときは、空気流が吸着剤を通過して吸着剤を脱着させ、炭化水素を含む空気流がエンジンに入り、そこで吸着炭化水素は燃焼される。揮発性ガス削減制御システムを開示する米国特許の例としては、米国特許4,877,001、4,750,465、及び4,308,841があげられる。
【0007】
自動車の排出ガス流中の非燃焼炭化水素を吸収するシステムや方法もまた、公知である。これらのシステムや方法は、自動車エンジンの再始動のときに排出される非燃焼炭化水素の吸収に特に役立つ。
【0008】
例えば、米国特許4,985,210は、三元触媒の上流にある炭化水素トラップ内においてY型ゼオライトまたはモルデナイト製の三元触媒を使用する自動車用排出ガス浄化装置に関する。米国特許4,985,210の図2の実施様態においては、活性炭床が吸着剤ゾーンの上流に設置されている。ソレノイド作動弁メカニズムが、排出ガス流の温度に応じて、排出ガス流に活性炭床内を通過又はその外を通過させ、次いで吸着剤ゾーンと三元触媒を通過させる。
【0009】
米国特許5,051,244は、エンジンの運転が再始動の場合に、吸着剤ゾーン中にある分子篩中をガス流を通過させるようにする、エンジン排出ガス流の処理方法に関する。炭化水素が脱着しはじめると、吸着剤ゾーンをバイパスして触媒が動作温度になるのを待ち、昇温後にガス流を再度吸着剤ゾーンに通して炭化水素を脱着させ、それを触媒ゾーンに運ぶ。M.ハイムリッヒ、L.スミスとJ.コトウスキーの論文、「排ガス排出コントロールの改善のための再始動時の炭化水素捕集」SAE920847は、米国特許5,051,244に記載の装置と同様に作用する装置を開示している。
【0010】
米国特許5,125,231は、炭化水素排出抑制用のエンジン排ガスシステムで、βゼオライトを炭化水素吸着剤に用いたものを開示している。シリカ/アルミナ比が70/1〜200/1の範囲のゼオライトが吸着剤として好ましい。この装置は、バイパスラインと弁を有しており、これらを用いて、再起動運転のときに排出ガスを第一のコンバーターから直接第二のコンバーターに送り、第一のコンバーターが消光温度に達したときに、第二のコンバーターをバイパスさせるか、そこより第一のコンバーターに排ガスを再送している。
【0011】
米国特許5,158,753は、内燃機関の排出ガス経路に設置されたエンジン排出ガスの処理用の触媒装置と、触媒装置と内燃機関の間の排出ガス経路に設置された吸収装置とを有する排出ガス浄化装置を、排出ガス処理用に開示している。ある実施様態は、内燃機関から吸収装置に流れる排出ガスと吸収装置から触媒装置に流れる排出ガスとの間で熱伝達を行う熱交換器を有している。あるいは、この触媒装置は、熱交換器の低温側ガス流路に触媒を有しており、内燃機関から吸収装置に流れる排出ガスは、熱交換器の高温側ガス流路に流される。
【0012】
米国特許6,171,556は、炭化水素と他の汚染物質を含む排出ガス流を処理する方法と装置を開示している。この方法は、排出ガス流を、第一触媒ゾーンと第二触媒ゾーンとを有するモノリス胴体部からなる触媒的部に流して第一触媒ゾーンの触媒に接触させ、排出ガス流中の少なくとも汚染物質のいくらかを無害な生成物に変換する工程を有している。排出ガス流は次いで触媒部から排出され、吸着剤ゾーンを通り、少なくとも炭化水素汚染物質の一部が吸着剤組成物で吸収される。排出ガス流は吸着剤ゾーンから排出され、第二の触媒ゾーンを通り、少なくとも汚染物質の一部が無害な生成物に変換される。このように処理された排出ガス流は、その後適当な排出手段で大気中に放出される。好ましい吸着剤は、比較的に高いシリカ/アルミナ比を持ち、比較的にブレンステッド酸性度が低いゼオライトである。好ましい吸着剤組成物はβゼオライトを含む。
【0013】
上述のように、いろいろな高温吸着用途や触媒用途では、ゼオライトは、モノリス基板上の塗膜として、よく使用される。このような場合、高温(例えば、>500℃)への暴露でも耐えうる無機のバインダーシステムが使用され、良好な接着を与える。しかしながら低温(例えば、<500℃)用途では、無機のバインダーは、その接着力が大きく減少するため、適していない。このような低温用途では、有機高分子バインダーが、構造的に安定であり優れた塗膜接着性を与えるため理想的である。これは、スラリー製剤に適当な安定化剤を添加することで得られる。
【0014】
例えば、米国特許公報2004/0226440がある炭化水素吸着ユニットを開示している。なお、これらの文献を、参照として本願明細書に組み込むこととする。このユニットは、自動車エンジンの吸気システムに組み込まれ、空気吸入口と空気排出口とを持っている。この出願によれば、吸着材は、シリカゲル、分子篩及び/又は活性炭であり、有機高分子バインダーや、アニオン性、ノニオン性またはカチオン性の分散剤を含んでいてよく、この吸着材は、その材料、好ましくは水性スラリーを、基板表面に接着しやすくする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、これらの安定化剤をうまく選択しないと、ゼオライト粒子間の凝集またはゼオライトとバインダー粒子間の凝集が起こり、塗膜用途にはスラリーが不安定となる。
【0016】
したがって、低温で接着性(特に金属基板に対して)に優れ、吸着性能に優れ、また保存安定性にも優れるゼオライト系塗料の開発が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、自動車からの揮発性炭化水素の排出のコントロールに使用可能な改良された炭化水素吸着剤スラリー極薄塗料に関する。より詳細には、本発明の改良されたスラリー組成物は、一種以上の分子篩などの炭化水素吸着剤材料と、有機ポリマー系バインダーとを含んでいる。このバインダーは、炭化水素吸着剤の、燃料貯蔵部品、燃料供給部品、または吸気システム部品の表面への接着を向上するのに用いられる。このスラリー製剤は、適当なアニオン性の分散剤を添加すること及び/又はスラリーのpHを上げることで安定化されている。
【0018】
本発明のもう一つの実施様態においては、上記の改良された炭化水素吸着剤スラリー極薄塗膜は、ゼオライト系のスラリー極薄塗料である。
【0019】
本発明のもう一つの実施様態においては、ゼオライトスラリー極薄塗膜の基板表面への接着を向上するのに、下塗層を用いてもよい。特に、炭化水素吸着剤の燃料貯蔵部品、燃料供給部品、または吸気システム部品の表面への接着をさらに向上させるのに、耐火性の酸化物担体を用いてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、自動車からの揮発性炭化水素の排出を抑制するための炭化水素吸着材に関する。一般に、揮発性炭化水素と接触する可能性のある公知の何れの基板の表面にも、本発明の炭化水素吸着剤及びバインダーを塗布することが可能である。例えば、この炭化水素吸着剤を、燃料貯蔵部品、燃料供給部品、または吸気システム部品の一つ以上の表面に、好ましくはこれらの部品の内表面に、バインダーを用いて付着させることができる。基板の表面は、ポリマー、あるいはアルミニウム、チタン、ステンレス鋼、Fe−Cr合金またはCr−Al−Fe合金などの金属からなるシート、メッシュ、箔等の形状をしていることが好ましい。吸着剤の表面積を増加させるため、この金属基板は波板状であることが好ましい。通常、この炭化水素吸着剤の基板への付着量は、約0.2〜約3g/in3、例えば1.25g/in3である。
【0021】
この吸着剤材料は公知の何れの炭化水素吸着剤であってもよく、例えば、活性アルミナ、多孔性のガラス、シリカゲル、分子篩、活性炭や、これらの組み合わせがあげられる。天然及び合成の分子篩が特に効果的である。分子篩は、好ましくは天然または合成のゼオライトであり、例えばファージャサイト、チャバザイト、クリノプチロライト、モルデナイト、シリカライト、ゼオライトX、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、ZSMゼオライト、オフレタイト、またはβゼオライトである。好ましいゼオライトは、ZSMゼオライトやYゼオライト、βゼオライトである。特に好ましい吸着剤は、米国特許6,171,556に開示されている種類のβゼオライトである。なお、この文献のすべを引用により本出願に組み込む。
【0022】
好ましいゼオライト系吸着剤材料は、シリカ/アルミナ比の高いゼオライトである。一般的には、いわゆる三次元空孔配置を持つ篩材料が、一次元または二次元空孔配置をもつ篩材料より好ましい。ただし、後者のいくつかは機能的に満足できる。好ましい材料は、通常約3〜8オングストロームの細孔径を有している。これらのゼオライト、好ましくはβゼオライトのシリカ/アルミナモル比は、少なくとも約25/1、好ましくは少なくとも約50/1であり、有効な範囲としては約25/1〜1000/1、50/1〜500/1、また約25/1〜300/1、約100/1〜250/1、または約35/1〜180/1があげられる。好ましいβゼオライトは、イオン交換βゼオライトであり、例えばH/βゼオライトやFe/βゼオライトがあげられる。
【0023】
好ましいゼオライトとしては、ZSMゼオライト、Yゼオライトやβゼオライトがあげられ、βゼオライトが特に好ましい。好ましいゼオライトは、処理を行って酸性部位の数を減少させてもよい。これは、ゼオライトを有機酸または無機酸で溶出して行う。好ましい酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の強無機酸、リフルオロ酢酸などのカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸、フタル酸などのジカルボン酸等があげられる。有用な酸は、好ましくは多塩基酸を、好ましくは二塩基酸を、より好ましくはジカルボン酸を含み、中でもシュウ酸が最も好ましい。使用する酸の濃度は、0.02〜12N、好ましくは0.1〜10Nであり、固体状ゼオライトの濃度は0.01〜1.0g/ml、好ましくは0.05〜0.5g/mlである。溶出は、適当な温度範囲、通常10〜100℃で実施され、例えば、硫酸を使用する場合は好ましくは70〜100℃、シュウ酸を使用する場合は10〜50℃で実施される。その溶出条件と濃度で目的のシリカ/アルミナ比が達成できるように、十分な時間、溶出が実施される。通常、その時間は約0.5〜5時間で、好ましくは0.5〜3時間である。
【0024】
ゼオライトを、350〜900℃の水蒸気で水蒸気処理をしてもよい。好ましくは、この水蒸気処理は、400〜800℃で、より好ましくは500〜750℃で行われ、最も好ましい温度範囲は550〜750℃である。水蒸気の温度を適当な速度で、例えば100〜600℃/時間の速度で上昇させてもよい。有効な水蒸気濃度は10〜100%であり、好ましくは30〜100%であり、より好ましくは約50〜100%であり、残りは空気である。水蒸気処理は、好ましくは大気圧で実施される。水蒸気処理の時間は、ゼオライトの処理が十分となる量であり、通常0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは0.5〜8時間、最も好ましくは0.5〜5時間である。この水蒸気処理は、ゼオライト骨格のアルミニウムの一部を除去してゼオライトの酸性度を低下させると考えられている。水蒸気処理が、ゼオライトがガス流中の炭化水素の吸収に用いられた場合に、その耐久性を増加させ、またコークス成形を抑制することがわかっている。ゼオライトを溶出と水蒸気処理の両方で処理することが好ましい。特に好ましいプロセスでは、ゼオライトをまず酸で溶出し、ついで水蒸気処理にかける。必要なら、溶出と水蒸気処理の工程を好きなだけ繰り返してもよい。例えば、溶出と水蒸気処理後のゼオライトを、さらに溶出、次いで水蒸気処理してもよい。ある実施様態においては、ゼオライトを溶出・水蒸気処理後に、さらに溶出してもよい。
【0025】
有用なβゼオライトの処理方法が、例えばCN1059701A、1992年3月25日公開に開示されている。なお、この文献を参照として本願明細書に組み込むこととする。この文献は、オルガノアミン鋳型法により製造したβゼオライト中の窒素化合物をさらに焼成により除去して得られた高Siのβゼオライトを開示している。βゼオライトの溶出は、濃度が0.02〜12N、好ましくは0.1〜10Nの有機のまたは無機酸溶液を用いて、固体状ゼオライトの濃度が0.01〜1.0g/ml、好ましくは0.05〜0.5g/mlで、10〜100℃で0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間実施される。溶出後のゼオライトの水蒸気処理は、400〜900℃の水蒸気温度から、100〜600℃/時間で温度を上げながら行う。系の圧力が50〜500KPaの時には、水蒸気濃度は100%であることが好ましい。水蒸気処理の時間は0.5〜5時間である。
【0026】
本発明で特に興味があるのは、ゼオライト骨格中のアルミナによりもたらされている酸性度である。溶出により得られる高いシリカ/アルミナ比率は、ゼオライトの酸性度に関係する。ゼオライトの酸性度は、通常300〜800℃の温度範囲、特に350〜600℃の温度範囲で、自動車などの排ガス流や工業用排スチーム中の炭化水素の吸収に使用される場合のゼオライトの耐久性に影響を与えると考えられている。このような環境で使用されると、主として空孔の目詰まり及び/又はゼオライト骨格の崩壊のため、ゼオライトはその吸着能力を失うこととなる。ゼオライト処理の条件をコントロールすることで、ゼオライト骨格を安定に保つことができる。このような条件としては、酸濃度や水蒸気温度などが挙げられる。温和な条件では、ゼオライト骨格の劣化が防止され、アルミナが除かれた場所での骨格が安定に保たれる。
【0027】
また、水蒸気処理によりゼオライト骨格からアルミニウムが失われると考えられている。影響を受けるアルミニウムは、依然としてゼオライト中に、たぶん空孔中に存在する。アルミニウムがなくてもこのゼオライト骨格は安定となるようで、空孔中のアルミニウムイオンはアルミナに変わる。空孔に残留するアルミナは、低下したゼオライトの酸性度には寄与しないようである。空孔中のアルミナはそのまま存在させてもよいし、続く溶出工程で洗浄又は溶出させてもよい。
【0028】
上記処理の有無に関わらず、ゼオライトはコークス形成抵抗が改善した。即ち、エンジン試験中に発生したコークスの量が大幅に減少した。酸溶出法は、ゼオライトのシリカ/アルミナ比を増加させるとともに、酸性度を低下させるが、このような方法では、ゼオライト粒子から無差別にアルミニウム原子が除かれているようである。水蒸気処理などの方法は、ゼオライト骨格から、ブレンステッド酸の位置で優先的にアルミニウムを除く。コークス形成に対する抵抗性と骨格の劣化を最小限に抑えてゼオライトにこのような性能を与える方法について考えると、この重要性がよく認識される。つまり、完全にゼオライトを溶出するとブレンステッド酸性度の減少が起こるが、水蒸気処理のような方法のみを使用すると、またはより好ましくは溶出とうまく組合わせると、本発明の炭化水素吸収剤に使用可能な、より耐久性の高いゼオライトが得られることとなる。
【0029】
ある実施様態においては、基板の表面を、まず高い表面積を持つ耐火性金属酸化物のスラリーで被覆し、約0.5時間〜約2時間、約90〜約120℃で乾燥し、その後、約450〜約650℃で0.5〜約2時間焼成できる。この高表面積の耐火性金属酸化物は公知である。通常、このような耐火性金属酸化物の比表面積は約60〜約300m2/gであろう。有用な耐火性金属酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及びチタニアやジルコニア、セリ0ア、バリア、シリケートの一種以上とアルミナとの混合物があげられる。好ましくは、この耐火性の金属酸化物はγ−アルミナを含んでいる。
【0030】
その後、耐火性金属酸化物で被覆した基板表面は、目的の吸着剤のスラリーで被覆され、乾燥される(例えば、約105℃で)。あるいは、耐火性金属酸化物被覆の基板に、シリカゲル、分子篩及び/又は活性炭などの炭化水素吸着剤を含む別のスラリーを塗布して層を形成し、上述の各層との間で乾燥してもよい。
【0031】
必要なら、高表面積の耐火性金属酸化物のトップコート層をさらに吸着剤の上に塗布して、各層の塗布後に上述のように乾燥してもよい。
【0032】
この炭化水素吸着剤材料は、この材料を基板表面に接着させるために、バインダーを含んでいてもよい。このようなバインダーは、極薄塗膜バインダーとも呼ばれる。スラリー状態で使用する極薄塗膜バインダーの典型例としては、次のものを含むが、これらに限定されるわけではない。有機のポリマー類;アルミナ、シリカまたはジルコニアのゾル;アルミニウム、シリカまたはジルコニウムの無機塩、有機塩及び/又は加水分解物;アルミニウム、シリカまたはジルコニウムの水酸化物;シリカに加水分解可能な有機シリケート類;およびこれらの混合物。
【0033】
好ましいバインダーは、有機ポリマーであり、材料の重量あたり0.5〜20重量%、好ましくは2〜10重量%の量で使用される。この有機ポリマーは、熱硬化性ポリマーでも熱可塑性ポリマーでもよく、可塑的であってもゴム弾性的であってもよい。この高分子バインダーは、高分子分野で公知の適当な安定化剤や老化防止剤を含んでいてもよい。最も好ましいのは、ラテックスとして、好ましくは水性のスラリーとして、吸着剤組成物に導入される熱硬化性エラストマーポリマーである。組成物の塗布と乾燥の後、このバインダー材料は、炭化水素吸着剤粒子を相互にまた基板表面に固定させ、場合によっては、それ自体が架橋して接着を強化する。この結果、塗膜が強くなり、基板との接着が強まり、自動車で遭遇する振動下での構造安定性をもたらす。バインダーを使用することで、下塗層の必要なしに、基板と材料の接着を強化できる。このバインダーは、さらに耐水性を向上させ、接着を向上させる添加物を含んでいてもよい。
【0034】
有用な有機高分子バインダー組成物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィンコポリマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリブタジエンコポリマー、塩化ゴム、ニトリルゴム、ポリクロロプレン、エチレン−プロピレン−ジエンエラストマー、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(ビニルエステル類)、ポリ(ビニルハロゲン化物)、ポリアミド類、セルロース系ポリマー類、ポリイミド、アクリル系、ビニルアクリル系及びスチレンアクリル系、ポリビニルアルコール、熱可塑性ポリエステル、熱硬化性ポリエステル、ポリ(フェニレン酸化物)、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリ(テトラフルオロエチレン)ポリフッ化ビニリデンやポリ(ビニルフルオライド)などのフッ素系ポリマー、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマーなどのクロロ/フルオロコポリマー、ポリアミド、フェノール樹脂やエポキシ樹脂類、ポリウレタン、アクリル系の/スチレンアクリル系のコポリマーラテックス、及びシリコーンポリマーがあげられる。特に好ましい高分子バインダーは、アクリル系/スチレンアクリル系のコポリマーラテックスである。
【0035】
吸着剤材料と高分子バインダーとを含むスラリー、例えばラテックスエマルジョンの成分間の適性が、スラリーの安定性と均一性の維持に重要であることがわかった。本発明の目的において、適性があるとは、バインダーと吸着剤材料とが、スラリー中で別々の粒子の混合物として存在することを意味する。高分子バインダーがラテックスエマルジョンであり、エマルジョンと炭化水素吸着剤材料とが、エマルジョンと炭化水素吸着剤材料とが相互に反発するような電荷を有している場合は、そのエマルジョンと炭化水素吸着剤材料とは適性であり、そのスラリーは安定で、炭化水素吸着剤材料とポリマーラテックスは、液体中で、例えば水等の水性流体中で均一に分布していると考えられる。吸着剤材料とラテックスエマルジョン粒子とが相互に反発しない場合、吸着剤材料上で不可逆なラテックスの凝集が起こる。したがって、これらの材料は不適正であり、ラテックスがエマルジョンから分離する。
【0036】
水中に分散した時に低pHの混合物を与えるゼオライトは、pHを上げることで、更に安定化させることができる。このことは、従来より使用されている有機ラテックスバインダーエマルジョンは、アニオンに帯電されているため、通常pHが7より大きいことから、重要である。高pHのバインダーエマルジョンと低pHのゼオライトスラリーとを組み合わせると不安定化につながり、結果としてスラリーの凝集が起こる。スラリーのpHは、吸着剤材料の酸性度に応じてコントロールされ、そのpHのレベルは、約4〜約10である。好ましい範囲は、約5〜約8であり、より好ましくは約6〜約7.5である。
【0037】
もう一つの実施様態においては、バインダーとともに分散剤を使用することが好ましい。この分散剤は、アニオン性、非イオン性またはカチオン性のいずれでもよく、通常、材料の重量に対して約0.1〜約10重量パーセントの量で使用される。当然ではあるが、分散剤の具体的な選択が重要となる。適当な分散剤としては、ポリアクリレート類、アルコキシレート類、カルボキシレート類、ホスフェートエステル類、スルホネート類、taurates、スルホサクシネート類、ステアレート類、ラウレート類、アミン類、アミド類、イミダゾリン類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムおよびこれらの混合物があげられる。ある実施様態においては、好ましい分散剤は、低分子量ポリアクリル酸で、その酸のプロトンの多くがナトリウムで置き換わったものである。特に好ましい実施様態においては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどの低分子量のアニオン性分散剤の使用により、ゼオライトの分散性やゼオライト−バインダー安定性が改善することがわかった。例えば、高Si/Al比のSAL−βゼオライト(即ち、硫酸溶出βゼオライト)とスチレン−アクリル系のラテックスバインダーエマルジョンとからなるスラリーの場合、低分子量のアニオン性分散剤が、優れたゼオライトの分散とゼオライト−バインダー安定性をもたらすことがわかった。約90重量パーセントのβゼオライトを含む好ましい複合物は、約9重量パーセントのアクリル系ポリマーラテックスと約1重量パーセントのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムまたはジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを含んでいる。
【0038】
スラリーのpHの増加またはアニオン性分散剤の追加のみでも、スラリー混合物を十分安定化できるが、pHの増加とアニオン性分散剤の両方を使用したときに最良の結果が得られるであろう。例えば水及び/又は分散剤に分散したとき低いpHを与えるゼオライト系スラリーには、上述のようにpHを上げることでさらなる安定化をもたらすことができる。
【0039】
本発明の炭化水素吸着剤スラリー、特にポリマーラテックスを含むスラリーは、従来からある添加物、例えば増粘剤、殺菌剤、抗酸化剤などを含むことができる。ある実施様態においては、ザンタンガム増粘剤やカルボキシメチルセルロース増粘剤などの増粘剤が使用できる。この増粘剤を使用すると、比較的に表面積の小さな基板に十分な量(したがって十分な炭化水素吸着能力)の塗膜を形成することが可能となる。この増粘剤は、分散粒子の立体障害のためスラリーの安定性を増加させるという第二の役割をも果たす。また、これは塗膜表面の結合も助ける。
【0040】
本発明の改良されたゼオライト結合性スラリーは、既知の方法により、例えば自動車の燃料貯蔵部品、燃料供給部品、または吸気システム部品に塗布される。例えば、この製剤は、スプレー塗装、粉末塗膜、またはブラシ塗装またはゼオライトスラリー中へのディップ塗装により塗布される。
【実施例1】
【0041】
2000gのSAL−βゼオライトと161.8gの脱イオン水と混合し、高せん断下で10分間攪拌した。得られた混合物を、連続型粉砕機を用いて粉砕して、粒度90%を<25μmとした。150gの粉砕後のゼオライトスラリーを別の容器に移し、脱イオン水中の10%水酸化カリウム溶液を添加して、pHを6にまで上げた。このスラリーを2時間ロールミル上で回転させて、必要ならpHを6に再調整した。次いで、3.19gの市販ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加し、得られたスラリーをロールミル上で5分間混合した。同様に、13.99gの市販スチレン−アクリル系のラテックスバインダーと7.98gの市販増粘剤を添加し、それぞれ添加後に攪拌した。得られたスラリーを、塗布量が1.45g/in3 (乾重量ベース)で25cpsiの金属性基板に塗布し、100℃で乾燥した。塗膜の接着性とブタンの吸着能を評価したところ、いずれも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)揮発性炭化水素吸着用の一種以上の分子篩と;
b)該炭化水素吸着剤の表面への接着を改良する有機高分子バインダー;及び
c)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとジオクチルスルホコハク酸ナトリウムとからなる群から選ばれる該スラリー製剤を安定化するためのアニオン性の分散剤と
を含むことを特徴とする改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項2】
前記有機高分子バインダーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィンコポリマー類、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリブタジエンコポリマー、塩化ゴム、ニトリルゴム、ポリクロロプレン、エチレンプロピレンジエンエラストマー、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート.ポリアクリロニトリル、ポリ(ビニルエステル類)、ポリ(ビニルハライド類)、ポリアミド類、セルロース系ポリマー類、ポリイミド類、アクリル樹脂、ビニルアクリル−スチレンアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、熱可塑性ポリエステル類、熱硬化性ポリエステル類、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(フェニレンスルフィド)、フッ素系高分子、ポリ(テトラフルオロエチレン)ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニル)、クロロ/フルオロコポリマー類、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリアミド、フェノール樹脂類、エポキシ樹脂類、ポリウレタン、シリコーンポリマー類からなる群から選ばれる請求項1に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー。
【請求項3】
a)一種以上の揮発性炭化水素吸着用の分子篩と;
b)該炭化水素吸着剤の表面への接着を改良する有機高分子バインダーと;を含む改良された炭化水素吸着剤極薄塗膜スラリー製剤で、
c)該スラリー製剤の安定化のため該スラリーのpHが約4〜約10である
ことを特徴とする炭化水素吸着剤極薄塗膜スラリー製剤。
【請求項4】
前記製剤がさらに該スラリー製剤のさらなる安定化のためのアニオン性分散剤を含む
請求項3に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項5】
前記アニオン性分散剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとジオクチルスルホコハク酸ナトリウムとからなる群から選ばれる請求項1又は4に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項6】
前記スラリー製剤が、さらにザンタンガムとカルボキシメチルセルロースとからなる群から選ばれる増粘剤を含む請求項5に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項7】
前記分子篩が、ファージャサイト、チャバザイト、クリノプチロライト、モルデナイト、シリカライト、ゼオライトX、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、ZSMゼオライト、オフレタイト、又はβゼオライトからなる群から選ばれる請求項1または5に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項8】
前記有機高分子バインダーがラテックスである請求項2または3に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項9】
前記ラテックスが、アクリル/スチレンアクリル系のコポリマーである請求項8に記載の改良された炭化水素吸着剤薄膜スラリー製剤。
【請求項10】
請求項1または3に記載の炭化水素吸着剤薄膜スラリーが塗布された自動車の燃料貯蔵部品、燃料供給部品、または吸気システム部品
の表面からなる群から選ばれる基体。

【公表番号】特表2009−516056(P2009−516056A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541247(P2008−541247)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/043976
【国際公開番号】WO2007/061662
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507276151)ビーエーエスエフ、カタリスツ、エルエルシー (47)
【Fターム(参考)】