説明

低温性にすぐれる成型用樹脂組成物

【課題】ポリオレフィン、金属およびPVCへの粘着性を保持しつつ、低粘度で成型性に優れながらも柔軟性に優れ、しかも、低温下での伸びに優れ、ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、極性基を有するポリオレフィン(d)と、ポリエステル系可塑剤(e)と、所望によりポリテトラメチレンエーテルグリコール(f)と、を含有し、該ポリオレフィン(d)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して5〜40質量部であり、該ポリエステル系可塑剤(e)の含有量が該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜50質量部であり、かつ、該ポリテトラメチレンエーテルグリコール(f)が含有される場合にはその含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜20質量部である成型用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリエステル系樹脂組成物に関する。詳細には、芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなる成型用樹脂組成物もしくは封止用樹脂組成物、または芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなるホットメルト材もしくはポッティング材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用されている電線、例えばハーネス等は、アース部分等から水分が浸入してくる。通常、その水分を自動車内に入れないために、図6に示すハーネス60のように、かしめ部61を介して接合部62と接合されている導線63の途中を切断し、大気開放部64等を設ける必要があった。そのため、配線回し等でデザイン等が規制されてしまい、コスト的にも不利となるといった問題がある。
【0003】
また、コネクタについては、一液型のシリコーン樹脂組成物等を注入硬化させ防水、止水する等の方法、具体的には、図7に示すコネクタ70のように、成型部71をエチレン・プロピレン共重合体(EPDM)等のゴム部材を使用し、接合部72と導線73を接合する部分に一液型のシリコーン樹脂組成物等を注入する場合が知られているが、一液型のシリコーン樹脂組成物等の硬化時間が長いため、工場内で1〜2時間程放置しておく必要があるといった問題がある。
【0004】
また、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性、延伸性および成型性等の特徴を有した各種ポリエステル樹脂が知られている。しかしながら、従来より知られている上記いくつかの特徴を兼ね備えたポリエステル樹脂では、成型性と柔軟性のバランスが悪く成型用ホットメルト材として用いることができない問題があった。例えば、低粘度で成型し易い樹脂であると成型後の柔軟性が非常に低く、逆に柔軟性を有する樹脂では成型が困難であった。
また、その他の例として、ウレタン系ホットメルト、ポリアミド系ホットメルト、EVA系ホットメルト、シリコーン系充填剤が挙げられるが、成型用ホットメルト材として用いることができていない。
【0005】
上記の問題に対して、本発明者らは、芳香族ポリエステルを含有し成型用ホットメルト樹脂組成物として用いることができる成型用樹脂組成物を提案した(特許文献1、2)。
【0006】
ところで、従来よりハーネスやコネクタの電線の被覆材料には軟質ポリ塩化ビニル(PVC)が用いられてきたが、脱ハロゲンのためポリオレフィン系材料への転換が進められている。
【0007】
しかし、上記特許文献1および2に記載の成形用樹脂組成物は、柔軟性、耐熱性および延伸性に優れ、更に低粘度で成型性に優れているが、ポリオレフィンへの接着性が十分ではなかった。
【0008】
一方、ポリオレフィンを主成分としたホットメルトは、ポリオレフィンへの接着性は改善できるが金属やPVCへの接着性を確保することができなかった。通常、ハーネスのかしめ部等には金属が用いられているため、ポリオレフィン系ホットメルトはこれらのシール材として使用できなかった。
【0009】
上記の問題に対して、本発明者らは、芳香族ポリエステルと、タッキファイヤーと、ポリオール化合物と、ポリオレフィンとを含有し、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性に優れる、成型用ホットメルト樹脂組成物として用いることができる成型用樹脂組成物を提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−213099号公報
【特許文献2】特開2004−210893号公報
【特許文献3】特開2007−70444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献3に記載の成型用樹脂組成物は、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性ならびに耐ガソリン性に優れ、特に、極性基を有するポリオレフィンを用いた場合には、長時間溶融した後でも芳香族ポリエステルとポリオレフィンとが分離せず、接着性を維持できるが、四方が線膨脹係数の小さいガラス繊維補強樹脂または金属であるケースに充填して使用しようとすると、線膨脹係数の違いから、低温から高温といったヒートショック下において、接着界面が成型用樹脂組成物の膨張収縮に耐えられず、はく離やひび割れが生じ、防水性能および防湿性能を低下させる場合があった。特に、成型用樹脂組成物の低温時の伸びが十分でないため、はく離やひび割れが発生しやすかった。
【0012】
そこで、本発明は、ポリオレフィン、金属およびPVCへの粘着性を保持しつつ、低粘度で成型性に優れながらも柔軟性に優れ、しかも、低温下での伸びに優れ、ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、芳香族ポリエステルと、タッキファイヤーと、ポリオール化合物と、ポリオレフィンと、ポリエステル系可塑剤とを含有し、該ポリエステル系可塑剤の含有量が特定の範囲であると、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性ならびに低温性に優れることを見出し、さらにポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下「PTMG」という。)を含有し、該PTMGの含有量が特定の範囲であると、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性ならびに低温性により優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下のものである。
[01] 芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、極性基を有するポリオレフィン(d)と、ポリエステル系可塑剤(e)とを含有し、該ポリオレフィン(d)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して5〜40質量部であり、かつ、該ポリエステル系可塑剤(e)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜50質量部である成型用樹脂組成物。
[02] ポリテトラメチレンエーテルグリコール(f)をさらに含有し、該PTMG(f)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜20質量部である、上記[01]に記載の成型用樹脂組成物。
[03] 前記ポリエステル系可塑剤(e)が、液状ポリエーテルエステルであり、該液状ポリエーテルエステルの数平均分子量が300〜1000である、上記[01]または[02]に記載の成型用樹脂組成物。
[04] 前記ポリエステル系可塑剤(e)が、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルである、上記[01]〜[03]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
[05] 前記極性基が、エポキシ基、カルボキシ基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種である上記[01]〜[04]のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
[06] 前記ポリオレフィン(d)が、エポキシ基と、カルボキシ基および/または酸無水物基とを有する上記[01]〜[04]に記載の成形用樹脂組成物。
[07] 前記カルボキシ基がマレイン酸に由来するカルボキシ基であり、前記酸無水物基が無水マレイン酸基である上記[05]または[06]に記載の成形用樹脂組成物。
[08] 前記タッキファイヤー(b)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜50質量部である上記[01]〜[07]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
[09] 前記ポリオール化合物(c)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して0.5〜50質量部である上記[01]〜[08]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
[10] 190℃における粘度が10〜500Pa・sである上記[01]〜[09]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【0015】
[11] 前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、およびポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルである上記[01]〜[10]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
[12] 前記芳香族ポリエステル(a)が、
テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールエを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルAと、
テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルDと、
を含有する上記[01]〜[10]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
[13] 前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよび1,4−ブタンジオールを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルBをさらに含有する、上記[12]に記載の成型用樹脂組成物。
[14] 前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよび1,4−ブタンジオールを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルCをさらに含有する上記[12]または[13]に記載の成型用樹脂組成物。
[15] 前記タッキファイヤー(b)がロジン系タッキファイヤーである、上記[01]〜[14]のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
[16] 前記ロジン系タッキファイヤーがロジンジオールである、上記[15]に記載の成型用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成形用樹脂組成物は、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性ならびに低温性に優れる。特に、極性基を有するポリオレフィンを用いた場合は、本発明の成形用樹脂組成物を長時間溶融した後でも芳香族ポリエステルとポリオレフィンとが分離せず、接着性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1の(A)は、成型前の導線を示す図であり、(B)は、モールドの形状(モールド片面)を示す図であり、(C)は、成型時のモールドの形状を示す図であり、(D)は、成型品の形状を示す図である。
【図2】図2は、本発明の成型用樹脂組成物で封止したハーネスを示す図である。
【図3】図3の(A)および(B)は、それぞれ、ポリ塩化ビニル(PVC)との接着性試験サンプルを示す斜視図および断面図である。
【図4】図4の(A)および(B)は、それぞれ、金属(スズメッキ銅板)との接着性試験サンプルを示す斜視図および断面図である。
【図5】図5の(A)および(B)は、それぞれ、ポリプロピレン(PP)との接着性試験サンプルを示す斜視図および断面図である。
【図6】図6は、現行品のハーネスを示す図である。
【図7】図7は、現行品のコネクタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の成形用樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、ポリオレフィン(d)と、PTMG(f)とを含有し、該ポリオレフィン(d)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して5〜40質量部であり、かつ、該PTMG(f)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜20質量部である成型用樹脂組成物である。
【0019】
<芳香族ポリエステル(a)>
上記芳香族ポリエステル(a)は、特に限定されず公知の芳香族ポリエステルを特に制限なく用いることができるが、脂肪酸とグリコールとの縮合反応から得られる芳香族ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
上記芳香族ポリエステル(a)としては、具体的には、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸およびε−カプロラクトンからなる群から選ばれる1種以上を含有する酸成分と、エチレングリコール(以下「EG」と記載する場合がある。)、ネオペンチルグリコール(以下「NPG」と記載する場合がある。)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下「PTMG」と記載する場合がある。)および1,4−ブタンジオール(以下「1,4−BD」と記載する場合がある。)からなる群から選択される1種以上を含むヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルを含有する芳香族ポリエステルが挙げられる。
【0021】
好ましくは、以下に記載するポリエステルA、B、CおよびDからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のポリエステルを含有する芳香族ポリエステルを例示することができる。
より好ましくは、ポリエステルA、B、CおよびDからなる群から選ばれる2種以上のポリエステルを含有(併用)する芳香族ポリエステルを例示することができる。
【0022】
《ポリエステルA》
ポリエステルAは、テレフタル酸とイソフタル酸との混合物からなる酸成分と、1,4−BDとPTMGとの混合物からなるヒドロキシ基成分との縮合反応により得られるポリエステルである。
【0023】
このポリエステルAの溶融状態における流動性を示す尺度である溶融指数(メルトインデックス)(以下「MI」と略す。)は、200℃において10以上であることが好ましく、13〜50であることがより好ましい。
ポリエステルAのMIがこの範囲であると、成型時の粘度を低く保ち、成型後の耐熱性が優れる。
【0024】
ポリエステルAのヒドロキシ基成分としてのPTMGは、テトラヒドロフランを開環重合して得られる重合体またはその重合体と同一構造である重合体であれば特に限定されず使用することができる。
上記PTMGの数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、約2000以上が好ましい。PTMGの市販品としては、例えば、H−283(三菱化学社製、Mn=2000)を用いることができる。
ポリエステルAとしては、具体的には、例えば、ハイトレル 4057(東レ・デュポン社製)を使用することができる。
【0025】
《ポリエステルB》
ポリエステルBは、テレフタル酸とイソフタル酸とε−カプロラクトンとの混合物からなる酸成分と、1,4−BDとPTMGとの混合物からなるヒドロキシ基成分との縮合反応により得られるポリエステルである。
ポリエステルBの190℃での粘度は100〜300Pa・sであることが好ましく、150〜200Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルBとしては、具体的には、例えば、エリーテル UE3800(ユニチカ社製)を使用することができる。
【0026】
《ポリエステルC》
ポリエステルCは、テレフタル酸とイソフタル酸との混合物からなる酸成分と、EGとNPGと1,4−BDとの混合物からなるヒドロキシ基成分との縮合反応により得られるポリエステルである。
ポリエステルCの190℃での粘度は、0.5〜2Pa・sであることが好ましく、0.7〜1.5Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルCとしては、具体的には、例えば、エリーテル UE3510(ユニチカ社製)を使用することができる。
【0027】
《ポリエステルD》
ポリエステルDは、テレフタル酸とイソフタル酸との混合物からなる酸成分と、EGとNPGとの混合物からなるヒドロキシ基成分との縮合反応により得られるポリエステルである。
ポリエステルDの190℃での粘度は、0.5〜2Pa・sであることが好ましく、0.7〜1.5Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルDとしては、具体的には、例えば、エリーテル UE3320(ユニチカ社製)を使用することができる。
【0028】
本発明においては、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルA、B、CおよびDからなる群より選択される少なくとも2種を併用していることが好ましく、上記ポリエステルAと上記ポリエステルDとを併用していることがより好ましい。これは、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性および延伸性に優れたポリエステルAと、低粘度で成型性に優れているポリエステルDとを併用することにより、得られる本発明の成型用樹脂組成物の成型時における粘度を低く保ち、さらに成型後の固化物により高い柔軟性を与えるという理由からである。また、同様の理由から、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルAおよびポリエステルDと、ポリエステルCおよび/またはポリエステルBと、を併用していることが好ましい。
【0029】
また、本発明においては、上記芳香族ポリエステル(a)における上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合は特に限定されないが、芳香族ポリエステル(a)の総質量に対して、上記ポリエステルAを10〜50質量%、上記ポリエステルBを0〜30質量%、上記ポリエステルCを0〜30質量%、上記ポリエステルDを10〜50質量%含有していることが好ましく、上記ポリエステルAを20〜40質量%、上記ポリエステルBを0〜25質量%、上記ポリエステルCを0〜20質量%、上記ポリエステルDを25〜45質量%含有していることがより好ましく、上記ポリエステルAを25〜35質量%、上記ポリエステルBを0〜20質量%、上記ポリエステルCを0〜15質量%、上記ポリエステルDを30〜40質量%含有していることがさらに好ましい。
【0030】
上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合がこの範囲であると、得られる成型用樹脂組成物の成型時の粘度を低く保ちながら成型後の固化物に柔軟性を与えることが可能であり、成型後の固化物が耐油性、耐ガソリン性に優れるため好ましい。更に、成型後の硬化時間が短く、養生の必要性がないことからも好ましい。
【0031】
また、このような性質を有する本発明の組成物は、耐ヒートショック性に優れ、ヒートサイクル時の被着体の膨張収縮に追従することが可能であるため成型用ホットメルト材として用いることが好ましい。
【0032】
<タッキファイヤー(b)>
上記タッキファイヤー(b)は、従来公知のタッキファイヤー(粘着付与剤)を用いることができ、具体的には、ロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、石油樹脂系タッキファイヤーが例示される。
【0033】
上記ロジン系タッキファイヤーとしては、松ヤニや松根油中のアビエチン酸を主成分とするロジン酸とグリセリンやペンタエリスリトールとのエステル、および、それらの水添物、不均化物が挙げられ、具体的には、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ロジンエステル(ロジンジオール)等が好適に例示される。
【0034】
テルペン系タッキファイヤーとしては、松に含まれるテルペン油やオレンジの皮等に含まれる天然のテルペンを重合したものが挙げられ、具体的には、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂等が好適に例示される。
【0035】
石油樹脂系タッキファイヤーとしては、石油を原料とした脂肪族、脂環族、芳香族系の樹脂が挙げられ、具体的には、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン系石油樹脂等が好適に例示される。
【0036】
これらのうち、タッキファイヤー(b)としては、得られる組成物が低粘度になり成形しやすくなる点から上記ロジン系タッキファイヤーを用いることが好ましく、具体的には、ロジンエステルであるロジンジオールを用いることが得られる成型性樹脂組成物の延伸性、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性が向上し、更に耐熱性と柔軟性のバランス、耐ガソリン性が良好となる理由からより好ましい。ロジンジオールとしては、具体的には、例えば、パインクリスタルD−6011、KE−615−3、D−6240(いずれも荒川化学工業社製)等が挙げられる。
【0037】
また、上記タッキファイヤー(b)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(d)の合計100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましい。この範囲であると、得られる成型性樹脂組成物の延伸性、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性が向上し、更に耐熱性と柔軟性のバランス、耐ガソリン性が良好となる。
【0038】
<ポリオール化合物(c)>
上記ポリオール化合物(c)は、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物であって、上記芳香族ポリエステル(a)と上記タッキファイヤー(b)とを相溶させる相溶化剤として働くものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトン、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、更に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシプチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタンジエンポリオール、ポリイソプレングリコール等のポリオレフィン系ポリオール;アジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ひまし油等のポリエステル系ポリオール等の多価アルコール類;レゾルシン、ピスフェノール等の多価フェノール類が使用可能である。これらの各ポリオールは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
これらのうち、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンを用いることが、少量で相溶化剤としての効果が得られるため好ましく、更に、ポリカーボネートジオールを用いることが、耐高温高湿性に優れるためより好ましい。
【0040】
また、各ポリオールの平均分子量は、500〜10000が好ましく、1000〜10000がより好ましく、2000〜10000が更に好ましい。
【0041】
上記ポリオール化合物(c)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(d)の合計100質量部に対して、0.5〜50質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、2〜10質量部が更に好ましい。この範囲であると、上記芳香族ポリエステル(a)と上記タッキファイヤー(b)とを十分に相溶させ、ポリエステルの物性(耐熱性、柔軟性、耐ガソリン性)を低下させない。
【0042】
本発明の組成物は、上記タッキファイヤー(b)とポリオール化合物(c)とを含有するため、上述したように、延伸性ならびにポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性が向上し、耐熱性と柔軟性のバランス、更に、溶融時に起こる芳香族ポリエステル(a)とタッキファイヤー(b)との分離が防止され、タッキファイヤー(b)を単独で添加する場合では低下する耐油性、特に耐ガソリン性が良好となる。これは、ポリオール化合物(c)を添加することで、タッキファイヤー(b)が芳香族ポリエステル(a)の非結晶部分に優先的にとり込まれるためであると考えられる。
【0043】
<ポリオレフィン(d)>
上記ポリオレフィン(d)は、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体、これらのα−オレフィンの2種以上からなる共重合体、またはこれらのα−オレフィンと他の共重合性単量体との共重合体からなるポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのポリオレフィンの中でも、ポリエチレンが耐ガソリン性により優れる点から好ましい。
【0044】
また、上記ポリオレフィン(d)は、極性基を有することが好ましい。
一般的にポリオレフィンは低極性であるのに対し、上記芳香族ポリエステル(a)は極性が高いため、本発明の組成物の製造時または製造後において本発明の組成物を長時間溶融させた状態にすると、芳香族ポリエステル(a)とポリオレフィン(d)とが分離し、再度撹拌しても十分に混合できず、接着性が低下する場合がある。一方、上記ポリオレフィン(d)が極性基を有している場合は、長時間溶融後にも分離せず、接着性を維持できる。
上記極性基は、特に限定されず、具体的には、例えば、エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、ニトロ基、スルフォン基等が挙げられる。上記ポリオレフィン(d)は、これらの官能基の1種のみを有していてもよく、複数種類の官能基を有していてもよい。
上記極性基としては、極性物との接着性に優れる点から、エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、エポキシ基がより好ましい。
また、上記ポリオレフィン(d)は、エポキシ基と、カルボキシ基および/または酸無水物基とを有するのが好ましい。
また、上記カルボキシ基がマレイン酸に由来するカルボキシ基であり、上記酸無水物基が無水マレイン酸基であるのが好ましい。
【0045】
上記極性基を有するポリオレフィンは、例えば、オレフィンと極性基を有する重合性単量体(例えば、グリシジルメタクリレート)とを共重合する方法等により得ることができる。また、市販品を用いてもよい。
【0046】
上記ポリオレフィン(d)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(d)の合計100質量部に対して5〜40質量部である。本発明の組成物は、ポリオレフィン(d)をこの範囲で含有するので、ポリオレフィンに対する接着性と、金属およびPVCに対する接着性とのバランスに優れ、耐ガソリン性にも優れる。これらの特性により優れる点から、上記ポリオレフィン(d)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(d)の合計100質量部に対して10〜40質量部がより好ましく、20〜40質量部が更に好ましい。
【0047】
本発明の組成物は、上記ポリオレフィン(d)を特定の割合で含有するので、金属やPVCに対する接着性や耐ガソリン性等の優れた特性を維持しつつ、ポリオレフィンに対する接着性を向上することができる。特に、上記極性基を有するポリオレフィンを用いた場合は、長時間溶融後にも分離せず、接着性を維持できる。
【0048】
<ポリエステル系可塑剤(e)>
上記ポリエステル系可塑剤(e)は、主鎖にエーテル結合(ポリエーテル骨格)を有し、末端の少なくとも一部がエステル化された液状のポリマーであれば特に限定されない。
このようなポリエステル系可塑剤(e)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレングリコールやこれらの共重合物で例示されるグリコール類またはエチレンオキサイド類の重合物と、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリト酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類等と、を反応させて得られるエステル化物等が挙げられ、1種単独であってもよく、2種以上を併用するものであってもよい。
【0049】
これらのエステル化物のうち、ポリエチレングリコール等と脂肪酸ジカルボン酸等との反応により得られるポリオキシアルキレン脂肪酸エステルであるのが上記芳香族ポリエステル(a)、上記タッキファイヤー(b)および上記ポリオール化合物(c)との混練の際の相溶性の観点から好ましく、アジピン酸ジ(ポリエーテル)ジエステルであるのがより好ましい。
【0050】
本発明においては、ポリエステル系可塑剤(e)は、常温で液状であり、使用時の耐熱性や粘度の観点から、その数平均分子量は300〜1000であるのが好ましく、400〜900であるのがより好ましい。
【0051】
本発明においてはこのようなポリエステル系可塑剤(e)を特定量含有することにより、得られる本発明の樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性を保持しつつ、柔軟性が向上し、振動を吸収する必要のある圧力センサー、コネクタ等の端子とコードとの接着、封止に好適に使用することができる。
【0052】
ポリエステル系可塑剤(d)としては、具体的には、例えば、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル(商品名:RS−735、Mn=約850、ADEKA社製)、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル(商品名:RS−700、Mn=約550、ADEKA社製)、アジピン酸ジ(ポリエーテル)ジエステル(商品名:RS−107、Mn=約400、ADEKA社製)、アジピン酸ジ(ポリエーテル)ジエステル(商品名:RS−1000、Mn=550、ADEKA社製)等を用いることができる。
【0053】
<PTMG(f)>
上記PTMG(f)は、テトラヒドロキシフランを酸触媒下で開環重合して得られる重合体またはこの重合体と同一構造である化合物(ポリテトラメチレングリコールエーテル)であれば特に限定されず使用することができ、芳香族ポリエステル(a)にモノマー成分として含有されるPTMGとは、同一の化合物であってもよいし、互いに異なる化合物であってもよい。
【0054】
本発明の組成物に含有するPTMGの数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、約500〜3000が好ましく、約500〜2500がより好ましく、約1000〜2500がさらに好ましく、約1000〜2000がいっそう好ましい。好ましいPTMGの構造は下記化学式(1)で表される。
【0055】
【化1】

【0056】
また、本発明の組成物に含有するPTMGの配合量は、芳香族ポリエステル(a)とポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内であれば特に限定されないが、1〜15質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましく、2〜8質量部がさらに好ましく、3〜7質量部がいっそう好ましい。この範囲であると、本発明の組成物の柔軟性と低温時の伸びが改善される。
【0057】
PTMGの市販品としては、例えば、PTMG650、PTMG1000、PTMG2000、PTMG3000(以上、三菱化学社製、Mn=650,1000,2000,3000)、PolyTHF(BASF社、Mn=650、1000、2000)、TERATHANE(INVISTA社、Mn=250、650、1000、1400、1800、2000、2900)等を用いることができる。
【0058】
本発明の組成物は、本発明の目的を損わない範囲で、必要に応じて補強剤、老化防止剤、酸化防止剤、充填剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等の他滑剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、補強繊維等の各種添加剤を配合してもよい。
【0059】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されず、上記芳香族ポリエステル(a)、上記タッキファイヤー(b)、上記ポリオール化合物(c)、上記ポリオレフィン(d)および上記PTMG(f)ならびに必要に応じて各種添加剤を、例えばロール、ニーダ、押出し機、万能攪拌機等により混合し製造することができる。
【0060】
上述した本発明の組成物は、成形性に優れる点から、190℃における粘度が10〜500Pa・sであるのが好ましく、10〜100Pa・sであるのがより好ましい。
また、圧力が5MPa未満、好ましくは0.2〜1.0MPa、より好ましくは0.3〜0.5MPaである条件で、吐出成型が可能な成型用樹脂組成物であることが好ましい。
ここで、上記吐出成型は、120〜230℃の範囲で行われることが好ましく、180〜210℃の範囲で行われることがより好ましい。この温度範囲であれば、上記吐出成型に用いる成型用樹脂組成物の安定性が向上し、更に溶融時の粘度が上述した範囲内となる理由から好ましい。
また、圧力とは、上記吐出成型時において、吐出口から上記成型用樹脂組成物を吐出させる際の圧力のことである。
【0061】
上述した本発明の組成物は、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性、耐ガソリン性、延伸性ならびに柔軟性等に優れる。また、低粘度で成型性にも優れている。特に、極性基を有するポリオレフィンを用いた場合は、本発明の成形用樹脂組成物を長時間溶融した後でも芳香族ポリエステルとポリオレフィンとが分離せず、接着性を維持できる。
【0062】
本発明の組成物は、上述したような優れた特性を有していることから、コネクタ・ハーネス等の端部の封止剤・防水保護剤として有用であり、また、ポッティング材(電気回路を衝撃、振動もしくは湿気等から守るために、電気回路全体に埋め込まれる充填材)としても有用である。
【0063】
本発明の組成物を用いた防水保護被覆の製造方法は、上述した本発明の成型用樹脂組成物を用いて電子機器端部に防水保護被覆を形成する防水保護被覆の製造方法であって、上記本発明の成型用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、上記溶融工程後の溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備することを特徴とする防水保護被覆の製造方法である。ここで、上記吐出成型時または塗布時の圧力は、0.2〜1.0MPaであることが好ましく、0.3〜0.5MPaであることがより好ましい。
【0064】
上記溶融工程は、本発明の組成物を溶融する工程であり、具体的には、上記成型性樹脂組成物を160〜230℃、好ましくは180〜210℃に加熱して溶融させる工程である。
【0065】
上記吐出成型・塗布工程は、上記溶融工程により溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する工程である。具体的には、上記吐出成型は、溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部を入れたモールド内に、5MPa未満、好ましくは1〜4MPaの圧力で、ホットメルトガン、ホットメルトアプリケータ等を用いて吐出し、上記モールド内で成型する工程である。またはホットメルトガン、ホットメルトアプリケータで吐出し、ポッティングする工程である。
また、上記塗布は溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部に、5MPa未満、好ましくは1〜4MPaの圧力で、ホットメルトガンスプレー等を用いて塗布する工程である。一般的な射出成型では、圧力が40〜120MPa、溶融温度が250〜300℃と高いのに対し、本発明の組成物を用いた防水保護被覆の製造方法を用いれば、圧力が0.3〜0.5MPa、溶融温度が180〜230℃で使用できるため非常に優れている。
【0066】
したがって、上述した製造方法を用いれば、このような低温・低圧力での成型が可能であるため、図1の(A)〜(D)に示すように、はく離部1を有するポリオレフィン被覆導線2の封止は、アルミ製のモールド3およびゴムパッキン4を用いた製造装置の使用が可能となり、成型上のコストダウンも図られるため好ましい。
具体的には、(C)で示すモールドの形状(アルミ製のモールド3とゴムパッキン4で密閉された状態)で、注入部5(矢印方向)からホットメルト(HM)材料を注入し、上記HM材料を注入経路6に通し、HM成型用鋳型7に移行させる。その後、上記HM材料をHM成型用鋳型7にて成型させ、脱型させることで(D)で示す成型部8を有する成型品の形状となる。
また、低温・低圧での成型が可能であるため、基板上の電子部品等を傷つけることなく成型できるため、基板全体を防水することができ、かつ、一液型のシリコーン樹脂組成物等のように基板および電子部品をケースで覆う必要がないため、製品のコストダウンも図られるため好ましい。
【0067】
また、2液型のウレタンやエポキシの成型は加熱等を要し、さらに硬化には15〜120分程かかるのに対し、本発明の組成物を用いれば、成型後の硬化時間が自然冷却で数秒〜数十秒で終了し、数分以内にモールドより脱型することが可能であるため好ましい。
具体的には、本発明の組成物を用いれば、成型するためのHM材料の注入時間が10秒で終了し、自然冷却で1分以内にモールドより脱型することが可能であるため好ましい。
さらに、脱型後の変形がなく、養生の必要がないことから生産性にも優れている。
【0068】
上記電子機器端部としては、具体的には、例えば、コネクタ・ハーネス等の端部、コードとコードの接続部、電子機器の基板等が挙げられ、その材料は金属、PVC、ポリオレフィン等を使用している物が多い。
したがって、上記電子機器端部に形成される防水保護被覆は、金属、PVCおよびポリオレフィンとの密着性に優れていることが、上記したコネクタ・ハーネス等の端部、コードとコードの接続部、電子機器の基板等に用いることが可能となる理由から好ましい。
特に、アース部分等から水分が浸入してくるような自動車に用いられているハーネスにおいては、図2のハーネス20に示すように、上述した方法により製造される防水保護被覆を成型部21に用いれば、上記成型部21を介して接合部22と接合されている導線23を途中で切断したり大気開放部等を設ける作業の必要性がないため、デザイン等の規制も受けず、低コストで量産性に優れているため好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(ポリエステルA、C、D)
ポリエステルは、目的の酸成分およびグリコール成分が含まれていればよく、ポリエステルAとして東レ・デュポン社製のハイトレル 4057、ポリエステルCとしてユニチカ社製のエリーテル UE3510、ポリエステルDとしてユニチカ社製のエリーテル UE3320を使用した。ポリエステルA、CおよびDの酸成分およびヒドロキシ基成分のモル比を下記表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(実施例1〜14および比較例1〜5)
下記第2表の各成分を、第2表に示す組成(質量部)で、ニーダを用いて混合し、第2表に示される各成形用樹脂組成物を得た。
得られた各成形用樹脂組成物において、以下に示す各測定行った。
【0072】
<粘度>
粘度は、JIS K 7117−1:1999に準じて測定を行った。
B型粘度計(東京計器社製)を用い、得られた成型用樹脂組成物を190℃にて30分間溶融した後、3号ローターを用いて回転させ、10rpmにおいて粘度測定を行った。粘度が1〜50万mPa・sの範囲内にあるものを「○」、この範囲内にないものを「×」と評価し、評価結果を第2表に示した。
【0073】
<分離>
製造した成形用樹脂組成物を、200℃で24時間または72時間放置することで老化させた成形用樹脂組成物をそれぞれ冷却固化させたものについて、各組成成分の混合状態を目視により確認した。相溶している状態であるものを「○」、分離している状態であるものを「×」、ゲル化したものを「#」と評価し、評価結果を第2表に示した。
なお、比較例4では、ゲル化したため、低温性、接着性および成型性についての試験を行っていない(第2表において「NA」で表した。)。
【0074】
<ブリード性>
得られた成型用樹脂組成物を20℃恒温室中に30日間静置し、組成物表面へのブリードアウトを目視により確認した。ブリードが発生しなかったものを「○」、ブリードが発生したものを「×」と評価し、評価結果を第2表に示した。
【0075】
<柔軟性>
得られた成形用樹脂組成物を冷却固化して、140℃のプレスにて1mmの厚さにプレスし、25mm×100mm×1mmのシート状に切り出し、試験片とした。
この試験片を二つ折りにして、試験片が折れなかったものを「○」、折れたものを「×」と評価し、評価結果を第2表に示した。
【0076】
<接着性>
(1)PVCに対する接着性
PVCに対する接着性の測定は、JIS K 6256:1999に準じて行った。3mmの厚さのPVC(商品名:タフニール、タカフジ社製)を25mm×150mmに切り出しPVC試験片30とした。PVC試験片30に、得られた成型用樹脂組成物31を、モールドを用いて図3(A)に示すように成型してPVC接着性試験サンプルを作成し、図3(B)に示すように、PVC試験片30と成型用樹脂組成物31とをはく離するように、それぞれに対して2つの矢印方向に引張り応力を加える180度はく離試験を行い、上記PVC試験片30と成型用樹脂組成物31とがはく離し始めたときの引張応力(最大引張応力)を測定した。引張り速度は、50mm/minとした。
各実施例および比較例の成型用樹脂組成物のPVC接着性は、最大引張応力が、150N/25mm以上のものを、PPC接着性が特に優れるとして「◎」と評価し、50N/25mm以上150N/25mm未満のものを、PPC接着性が優れるとして「○」と評価し、50N/25mm未満のものを、PPC接着性が劣るとして「×」と評価した。最大引張応力の測定値および評価結果を第2表に示した。
【0077】
(2)金属に対する接着性
金属接着性は、図4(A)に示すように、幅25mm、長さ100mm、厚さ0.8mmの2枚のスズメッキ銅板40を成型用樹脂組成物41で接着し、ラップしろ10mmの金属接着性試験サンプルを作成し、図4(B)に示すように、スズメッキ銅板40を両方向から引張り速度50mm/minで引っ張り、せん断強度を測定した。
成型用樹脂組成物の金属接着性は、せん断強度が、2.0N/mm以上のものを、金属接着性に優れるとして「○」と評価し、2.0N/mm未満のものを金属接着性に劣るとして「×」と評価した。測定値および評価結果を第2表に示した。
【0078】
(3)ポリプロピレン(PP)に対する接着性
コロナ表面処理をしたポリプロピレン(新神戸電機社製:PP−N−BN)を用いた以外は、上記PVC試験片と同様にしてPP試験片50を作成した。PP試験片50に、成型用樹脂組成物51を、モールドを用いて図5(A)のように成型してPP接着性試験サンプルを作成し、これを用いてPP接着性試験サンプルとした。この試験サンプルを、図5(B)に示すように、JIS K 6256:1999に準じて90°はく離試験を行い、引張り速度50mm/minで、PP試験片50と成型用樹脂組成物51とが、はく離し始めたときの引張応力(最大引張応力)を測定し、これを測定値とした。
各実施例および比較例の成型用樹脂組成物について、PP接着性の測定値を、第2表のPP接着性の欄に示した。測定値が「ND」となっているものは、試験片を試験機に取り付ける際にPP試験片50と成型用樹脂組成物51とがはく離し、最大引張応力の測定ができなかったものである。PP接着性の評価は、最大引張応力が、50N/25mm以上であるものを「○」、50N/25mm未満であるものを「×」と評価した。また、試験片を試験機に取り付ける際にPP試験片50と成型用樹脂組成物51とがはく離し、測定値が「ND」となったものについても、「×」と評価した。
【0079】
<成型性>
PVC被覆コードを図1に示すアルミ製のモールドおよびゴムパッキンでの製造装置を用いて成型を行った。
(1)モールド注入性
ホットメルトアプリケーターを用い、エアー圧0.4MPaで、得られた成型用樹脂組成物を注入し、規定の形に成型されるまでの注入時間を測定した。注入時間が10秒以内であるものを「○」とした。
(2)脱型性
上記モールドを用い、得られた成型用樹脂組成物を注入後、形が変形しないようにモールドから脱型できるまでの時間を測定した。注入後、1分以内にモールドから脱型できるものを「○」とした。
【0080】
<低温性>
低温性は、引張り試験(JIS K 7113:1995)に準拠した方法で行った。樹脂組成物を−40℃に冷却して破断試験を行い、破断点までの試験品の伸びを測定し、引張破断伸び率(%)を算出した。引張破断伸び率が150%以上を「○」、150%未満を「×」と評価した。
【0081】
【表2】

【0082】
第2表に示す各成分は以下のとおりである。
(a成分)
・ポリエステルA:ハイトレル 4057(東レ・デュポン社製)
・ポリエステルC:エリーテル UE3510(ユニチカ社製)
・ポリエステルD:エリーテル UE3320(ユニチカ社製)
(b成分)
・ロジン系タッキファイヤー:パインクリスタルKE−6011(荒川化学工業社製)
(c成分)
・ポリカーボネートジオール:プラクセルCD220(ダイセル化学工業社製)
(d成分)
・PE+GMA:ボンドファースト7L(住友化学社製、エポキシ基を有するポリエチレン)
・PE+GMA+MA:アドマーSF−715(三井化学社製、エポキシ基とマレイン酸基とを有するポリエチレン)
(e成分)
・ポリエステル系可塑剤:RS−735(ADEKA社製、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、Mn-=約850)
(f成分)
・PTMG1000:PTMG1000(三菱化学社製、Mn=1000)
・PTMG2000:PTMG2000(三菱化学社製、Mn=2000)
・PTMG3000:PTMG3000(三菱化学社製、Mn=3000)
【0083】
(その他の成分)
・可塑剤1:ポリイソブチレン(テトラックス 4T、新日本石油社製、)
・可塑剤2:液状ポリイソプレンゴム(LIR−30、クラレ社製)
・可塑剤3:フタル酸ジオクチル(DOP、三協化学社製)
・老化防止剤:イルガノックス1010(チバスペシャルティケミカルズ社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
なお、上記において、「Mn」は「数平均分子量」を意味する。
【0084】
第2表に示す結果から明らかなように、比較例1の組成物は柔軟性および低温性が悪く、比較例2、3の組成物は老化後の分離、ブリード性、柔軟性、低温性および接着性が悪く、比較例4の組成物はPVC接着性が良好だったが、老化後の分離、ブリード性、柔軟性および低温性が悪く、比較例5の組成物は72時間老化後にゲル化してしまうほか、ブリード性および接着性が悪かった。
【0085】
一方、本発明の成形用樹脂組成物(実施例1〜12、特に実施例6〜12)は、比較的低粘度で、柔軟性が高く、PVC接着性、金属接着性、PP接着性、成形性および低温性に優れていた。
【符号の説明】
【0086】
1 はく離部
2 ポリオレフィン被覆導線
3 アルミ製のモールド
4 ゴムパッキン
5 注入部
6 注入経路
7 HM成型用鋳型
8 成型部
20 ハーネス
21 成型部
22 接合部
23 導線
30 PVC試験片
31 成型用樹脂組成物
40 スズメッキ銅板
41 成型用樹脂組成物
50 PP試験片
51 成型用樹脂組成物
60 ハーネス
61 かしめ部
62 接合部
63 導線
64 大気開放部
70 コネクタ
71 成型部
72 接合部
73 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、極性基を有するポリオレフィン(d)と、ポリエステル系可塑剤(e)とを含有し、該ポリオレフィン(d)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して5〜40質量部であり、かつ、該ポリエステル系可塑剤(e)の含有量が、該芳香族ポリエステル(a)と該ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜50質量部である成型用樹脂組成物。
【請求項2】
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(f)をさらに含有し、該ポリテトラメチレンエーテルグリコール(f)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜20質量部である、請求項1に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル系可塑剤(e)が、液状ポリエーテルエステルであり、該液状ポリエーテルエステルの数平均分子量が300〜1000である、請求項1または2に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル系可塑剤(e)が、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルである、請求項1〜3のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項5】
前記極性基が、エポキシ基、カルボキシ基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか記載の成形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン(d)が、エポキシ基と、カルボキシ基および/または酸無水物基とを有する請求項1〜4のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
【請求項7】
前記カルボキシ基がマレイン酸に由来するカルボキシ基であり、前記酸無水物基が無水マレイン酸基である請求項5または6に記載の成形用樹脂組成物。
【請求項8】
前記タッキファイヤー(b)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して1〜50質量部である請求項1〜7のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリオール化合物(c)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して0.5〜50質量部である請求項1〜8のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項10】
190℃における粘度が10〜500Pa・sである請求項1〜9のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項11】
前記芳香族ポリエステル(a)が、 テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、およびポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルである請求項1〜10のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項12】
前記芳香族ポリエステル(a)が、
テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールエを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルAと、
テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルDと、
を含有する請求項1〜10のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項13】
前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよび1,4−ブタンジオールを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルBをさらに含有する、請求項12に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項14】
前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよび1,4−ブタンジオールを含有するヒドロキシ基成分と、を反応させて得られるポリエステルCをさらに含有する、請求項12または13に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項15】
前記タッキファイヤー(b)が、ロジン系タッキファイヤーである請求項1〜14のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項16】
前記ロジン系タッキファイヤーが、ロジンジオールである請求項15に記載の成型用樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32395(P2011−32395A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180996(P2009−180996)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】