説明

低温殺菌装置の生産時間を長くする方法

本発明は、低温殺菌装置内のバイオフィルムの形成を防止することにより低温殺菌装置(1)を洗浄のために停止するまでの生産時間を長くする方法に関する。上記低温殺菌装置(1)は、幾つかの区間を有するプレート式熱交換器を含むタイプであり、そのうち少なくとも1つの区間は再生区間である。該方法は、所定の期間中に一定間隔で、再生区間(5)の下流部分の温度を50℃より高い温度に上昇させるステップを含む。通常生産中に、再生区間(5)の下流を通過する生成物の部分が、再生区間(5)を通過後に分流される。上記間隔中に、全生成物が再生区間(5)の下流部分を通過する一方、再生区間(5)の上流を通過する生成物の部分は、再生区間(5)を通過後に分流される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温殺菌装置の生産時間を長くする方法に関し、低温殺菌装置は幾つかの区間を有するプレート式熱交換器を備えるタイプであり、そのうち少なくとも1つの区間が再生区間で構成され、該方法は、所与の所定期間中に一定間隔で、再生区間の下流部分の温度を50℃超の温度まで上昇させるステップを含む。
【背景技術】
【0002】
消費用のミルク、又はチーズ生産の原料用のミルクの低温殺菌は、ミルク産業で周知のプロセスである。冷たいミルクを63〜75℃の温度に加熱し、所与の所定期間、この温度に保持する。最も一般的な温度範囲は、特にチーズ生産用ミルクに関して、72〜75℃であり、15〜20秒の持続時間である。
【0003】
通常、低温殺菌はプレート式熱交換器で行われ、可能な限り効率的な加熱を実現するために、プレート式熱交換器の1つの区間は再生式である。これは、入ってくる冷たいミルクが、既に加熱されているミルクによって加熱され、その結果として加熱されているミルクが冷たいミルクによって冷却されることを意味する。
【0004】
低温殺菌プロセスにもかかわらず、高温性連鎖球菌のようにミルク中で通常発生する細菌が幾らか生き残る。これらの細菌は35〜50℃の温度で増殖する。ミルクは、下流で熱交換器の再生区間の部分ではこの温度であり、その再生区間にいる細菌がいわゆる増殖していわゆるバイオフィルムになることがある。約10時間生産した後、バイオフィルムは通常、プレート式熱交換器から離れて低温殺菌したミルクに随伴するほど多く増殖している。消費者用ミルク中にバイオフィルムを有することが望ましくないことに加えて、バイオフィルムを含むミルクはチーズ生産用の原料として使用するにはまったく適していない。その結果、10時間毎に生産を停止して機器を洗浄することが最も一般的な方法である。
【0005】
生産をさらに効率的にするために、20時間以上の生産時間を達成することが今日の意図するところであるので、再生区間の下流部分からバイオフィルムを除去するための解決方法が求められている。1つの解決方法は、プレート式熱交換器内に二つの再生区間を設け、再生区間の一方を洗浄しているときに、二つの再生区間どうしを切り換え可能にすることである。これは、莫大な資本投資費用を必要とする高価な解決方法である。
【0006】
G.C. Knight、R.S. Nicol、T.A. Meekin、「Temperature step changes: a novel approach to control biofilms of Streptococcus thermophilus in a pilot plant−scale cheese−milk pasteurisation plant」;(International Journal of Food Microbiology;93(2004);305−318ページには、再生区間の下流部分で温度が繰り返し上昇する状態で、バイオフィルムがプレート式熱交換器から離れるほど増殖するのを防止することを可能にする方法に関する記載がある。温度上昇は、再生区間の上流部分に入るミルクの温度を第1の加熱区間内で上げることによって実現される。記載されている方法は、余分な加熱区間と、一時的な温度上昇を達成するためにさらに多くのエネルギー供給とを必要とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G.C. Knight、R.S. Nicol、T.A. Meekin、「Temperature step changes: a novel approach to control biofilms of Streptococcus thermophilus in a pilot plant-scale cheese-milk pasteurisation plant」;(International Journal of Food Microbiology;93(2004);305-318ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、エネルギー消費量の増大を最小限にした状態で、低温殺菌装置の生産時間を長くする方法を実現することである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、費用のかかる投資をせずに低温殺菌装置の生産時間を長くする方法を実現することである。
【0010】
本発明のさらにもう1つの目的は、上記方法が既存の低温殺菌装置に簡単に適用できることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記及びその他の目的は、本明細書の冒頭部に記載したタイプの方法において、通常生産中に、再生区間の下流を通過する生成物の一部の量が再生区間を通過後に分流されることと、この均一な間隔で所定の期間中に、再生区間の上流を通過する生成物の一部の量が再生区間を通過後に分流されることと、下流の全生成物が所定の期間中に再生区間を通過することとを特徴とする機能を備えている本発明により達成される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態は、添付の従属請求項に記載の機能をさらに特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
次に、本発明の1つの好ましい実施形態を、添付図面を参照しながら以下でさらに詳細に説明する。
【0014】
【図1】本発明の方法を実行する流れ図である。
【図2】本発明の方法による低温殺菌装置の通常生産中の温度曲線を示す図である。
【図3】本発明の方法による低温殺菌装置の再生区間の下流部分で温度上昇中の温度曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の方法を実行するための低温殺菌装置1の流れ図を示す。低温殺菌装置1は、複数の区間を有するプレート式熱交換器で構成される。
【0016】
ミルクから構成された生成物は、バランスタンク2及び循環ポンプ3を介して、導管4を通って低温殺菌装置1に入る。導管4は、再生区間5である低温殺菌装置1の第2の区間に通じている。また、導管4は弁6にも通じている。弁6は従来の調整弁で構成される。導管7は、低温殺菌装置1の再生区間5から、加熱区間8である低温殺菌装置の第3の部分に通じている。また、導管9は、弁6から加熱区間8に接続している。
【0017】
また、加熱区間8は、加熱区間8に温水を提供する装置10に接続されている。生成物は、加熱区間8から導管11を介して保持セル12へと導かれる。保持セル12は、管ループ、又は代替的に特定の所定の長さの導管で構成される。
【0018】
導管13は、保持セル12から出て、一方では再生区間5に、他方では弁14に通じている。弁14は従来の調整弁で構成される。
【0019】
導管15は、再生区間5の下流部分から、冷却区間16で構成される低温殺菌装置1の第1の区間に通じている。また、弁14からの導管17も冷却区間16に通じている。また、冷却区間16は、該冷却区間16に冷水を提供する装置18にも接続されている。生成物は、冷却区間16から出て、そして、導管19を介して低温殺菌装置1から出る。
【0020】
低温殺菌装置1の通常生産で、冷たい生成物は導管4を通って低温殺菌装置1の再生区間5内に導かれる。弁6は、通常生産中は閉じ、したがって全生成物が再生区間5の上流部分を通過する。再生区間5に入る生成物は約4℃の温度であり、再生区間内で、既に加熱されて再生区間5の下流部分を通過する生成物によって約40℃に加熱される。
【0021】
加熱区間8内で、生成物は温水によってさらに72〜75℃の温度に加熱される。加熱された生成物は保持セル12へ導かれ、該保持セル12に15秒の期間留まる。
【0022】
通常生産中、全生成物量の約45%が再生区間5を通過しないように、弁14は開いて流れを調整する。生成物の流れのほぼ55%が再生区間5の下流部分を通過する。導管15と17が収束するポイント20にて、2つの流れが再び混合する。導管17内の生成物は約75℃の温度であり、導管15内の生成物は、再生区間5を通過し、入ってくる低温の生成物によって約4℃の温度に冷却されている。収束した生成物は約35℃の温度を有する。
【0023】
低温殺菌の所望の温度、及び低温殺菌装置1から出る生成物の所望の温度に基づいて、生成物の流れが分割される。比較的高い低温殺菌温度が望ましい場合は、再生区間5の下流部分を通過後に分流される生成物の流れの割合を下げる。低温殺菌装置1から出る生成物の温度が比較的高いことが望ましい場合は、再生区間5の下流部分を通過後に分流される生成物の流れの割合を上げる。
【0024】
生成物、すなわちミルクが即座にチーズ生産に使用される場合、ミルクは冷却されずに低温殺菌装置1の冷却区間16を通過する。生成物が保存されるか、又は消費者用のミルクに使用される場合、ミルクは冷却区間16内で冷水によって約4℃の温度に冷却される。その後、生成物は導管19を介して低温殺菌装置1から出る。
【0025】
図2は、本発明の通常生産中に低温殺菌装置1を通る生成物の温度曲線を示す。再生区間5の上流部分が区間Aに示されている。加熱区間8が区間Bに示され、再生区間5の下流部分が区間Cに示されている。
【0026】
図2の線図の区間Dは、再生区間5の下流部分のうち35〜50℃の温度を維持する部分を構成する。この温度においては、高温性連鎖球菌のような特定の細菌が増殖して低温殺菌装置1内にバイオフィルムを形成することができるので、低温殺菌装置1の生産時間を制限する。
【0027】
本発明の方法によれば、再生区間5の下流部分のうちバイオフィルムの影響を受ける上記の部分の温度を上昇させる。温度上昇は一定間隔で、所与の期間中に行われる。期間は、所望の目標温度によって決定される。実験で、10分間で50℃超まで温度を上昇させ、60分毎に定期的に繰り返せば、細菌の増殖及びバイオフィルムの形成を防止するのに十分であることが実証された。温度をさらに上昇させることにより、時間間隔を短縮する、例えば1〜2分間で温度を70〜75℃に上昇させることが可能である。
【0028】
再生区間5の下流部分の温度上昇は、生成物の流れの約45%が再生区間5の上流部分を通過しないように弁6を開くことで実現される。生成物の流れのこの45%の温度は、約4℃である。再生区間5の上流部分を通過する生成物の流れの約55%は、約72℃に加熱される。
【0029】
低温殺菌の所望の温度、及び低温殺菌装置1から出る生成物の所望の温度に基づいて、生成物の流れが分配される。比較的高い低温殺菌温度が望ましい場合は、再生区間5の上流部分を通過後に分流される生成物の流れの割合を下げる。低温殺菌装置1から出る生成物の温度が比較的高いことが望ましい場合は、再生区間5の上流部分を通過後に分流される生成物の流れの割合を上げる。
【0030】
導管7と9が収束するポイント21にて2つの流れが再び混合される。混合した生成物は約41℃の温度である。生成物は、加熱区間8内で温水によってさらに72〜75℃に加熱される。加熱された生成物は保持セル12へと導かれて、保持セル内に15秒の期間留まることができる。
【0031】
再生区間5の下流部分内の温度が上昇する期間、弁14は閉じたままである。次に、約72℃の温度の全生成物の流れが、再生区間5の下流部分を通過し、上流部分の流れが45%に低減するので、生成物の冷却が異なり、望ましい約35℃になる。
【0032】
生成物、すなわちミルクが即座にチーズ生産に使用される場合、ミルクは冷却されずに低温殺菌装置1の冷却区間16を通過する。生成物が保存されるか、又は消費者用のミルクに使用される場合、生成物は冷却区間16内で冷水によって約4℃の温度に冷却される。その後、生成物は低温殺菌装置1から出て導管19を通る。
【0033】
図3は、一定間隔で所与の期間中に行われる本発明による温度上昇時に低温殺菌装置1を通る生成物の温度曲線を示す。再生区間5の上流部分が区間Aに示されている。加熱区間8が区間Bに示され、再生区間5の下流部分が区間Cに示されている。一時的に温度が上昇すると、再生区間5の下流部分の別の部分で35〜50℃の温度範囲になるので、再生区間5の下流部分のいずれの部分でも、バイオフィルムの蓄積が防止される。
【0034】
上記方法は、既存の低温殺菌装置1に簡単且つ経済的に適用可能である。必要とされる唯一の構成は、追加の弁、すなわち再生区間5の上流部分のところに弁6を設けることである。本発明の方法を実行するために必要な他の構成は通常、低温殺菌装置1に含まれている。また、低温殺菌装置1の制御プログラムに対する特定の再プログラミングも必要である。
【0035】
上記説明から明らかになるように、本発明は低温殺菌装置の生産時間を長くする方法を実現する。上記方法は、エネルギー消費量の増大を最小限にして、費用のかかる資本投資をせずに生産時間を少なくとも20時間へと長くすることが可能であることを意味する。上記方法は、簡単且つ経済的な方法で既存の低温殺菌装置に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温殺菌装置(1)の生産時間を長くする方法であって、前記低温殺菌装置(1)が幾つかの区間を有するプレート式熱交換器を含むタイプであり、そのうち少なくとも1つの区間が再生区間(5)で構成され、特定の所定の期間中に一定間隔で、前記再生区間(5)の下流部分の温度が50℃より高い温度まで上昇するステップを含む方法であって、通常生産中に、前記再生区間(5)の下流を通過する前記生成物の一部の量が前記再生区間(5)を通過後に分流されることと、前記一定間隔で前記所定の期間中に、前記再生区間(5)の上流を通過する前記生成物の一部の量が前記再生区間(5)を通過後に分流されることと、前記所定の期間中に下流の全生成物が前記再生区間(5)を通過することとを特徴とする方法。
【請求項2】
通過後に分流される前記一部の量が、72℃の低温殺菌温度及び35℃の最終生成物温度で全生成物の流れの約45%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
通過後に分流される前記生成物の流れの前記一部の量が、72℃より高い低温殺菌温度で45%未満であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
通過後に分流される前記生成物の流れの前記一部の量が、35℃より高い最終生成物温度で45%より大きいことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
約50〜55℃の温度上昇で、持続時間が10分であり、前記温度上昇が60分の間隔で繰り返されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
約70〜75℃の温度上昇で、持続時間が1〜2分であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−504338(P2013−504338A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529711(P2012−529711)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/SE2010/000223
【国際公開番号】WO2011/034481
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(591007424)テトラ ラバル ホールデイングス エ フイナンス ソシエテ アノニム (190)
【Fターム(参考)】