説明

低温NOx吸着材、その製造方法、及びそれを用いた排ガス浄化方法

【課題】150℃以下の低温条件下においてもNOxを十分に高度な水準で吸着除去することが可能な優れた低温NOx吸着性能を有する低温NOx吸着材を提供すること。
【解決手段】金属酸化物からなる低温NOx吸着材であって、前記金属酸化物が、該金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aと、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得る金属元素Mとを含有し、単相の結晶構造を有し、平均細孔直径0.3〜0.6nmの細孔を有し、前記金属元素Aの1価又は2価の陽イオンが前記細孔内に存在し、前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)が、前記金属酸化物中において前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.11<(A/M)<0.19の範囲内となり、他方、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.055<(A/M)<0.95の範囲内となり、且つ、前記細孔の平均長さが100nm以下となる金属酸化物であることを特徴とする低温NOx吸着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温NOx吸着材、その製造方法、並びにそれを用いた排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジン、燃料消費率の低い希薄燃焼式(リーンバーン)エンジン等の内燃機関から排出されるガス中に含まれる有害な窒素酸化物(NOx)を浄化するために、様々な種類のNOx吸着材が研究されてきた。そして、このようなNOx吸着材の一つとしてホランダイト型の結晶構造を有する金属酸化物等を利用することが検討されてきた。
【0003】
例えば、特開平09−075715号公報(特許文献1)においては、少なくともZn及びSnを主金属元素として含むホランダイト型構造の金属酸化物からなるNOx吸着材が開示されている。また、特開平09−075718号公報(特許文献2)においては、少なくともAl及びSnを主金属元素として含むホランダイト型構造の金属酸化物からなるNOx吸着材が開示されている。また、上記特許文献1及び2においては、上述のような金属酸化物の製造方法として、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素、主金属元素のアルコキシド等の有機金属化合物及び/又は主金属元素の硝酸塩等の無機金属化合物を溶媒に溶解し、加水分解した後に蒸発乾固して得られた残渣を600℃以上で熱処理する方法が開示されている。更に、特開2002−085968号公報(特許文献3)においては、ホランダイト型の結晶構造を有し、化学式がA8−y16(ここで、Aはアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のK、Na、Rb、またはCaであり、Mは2価または3価の金属元素のFe、Ga、Zn、In、Cr、Co、Mg、AlまたはNiであり、Nは4価の金属元素のSn又はTiであり、0<x≦2、0<y≦2である。)で表されるホランダイト型の金属酸化物からなるNOx吸着材が開示されており、このようなホランダイト型金属酸化物を製造する方法として、酸化物や炭酸塩(例えばKCO、Ga、SnO)を原料として、これらの原料を混合した後、1375℃以上で24時間熱処理する方法が開示されている。更に、特開2002−301364号公報(特許文献4)においては、構造が孔路形態のミクロポアを生じるように繋がる八面体MOを含むホランダイト(OMS2×2型)型の金属酸化物からなるNOx吸着材が開示されており、このような金属酸化物の製造方法としては、蒸留水600ml中に溶解された酢酸マンガン165gと、酢酸75mlとを含む溶液を、蒸留水2.250リットル中に過マンガン酸カリウム100gを含む溶液に添加し、得られた混合物を還流で24時間加熱し、得られた沈殿物を濾過し、洗浄した後に乾燥炉で100℃で乾燥させ、空気存在下において600℃で焼成する方法等が開示されている。しかしながら、上記特許文献1〜4に記載のような従来のNOx吸着材においては、150℃以下の低温条件下におけるNOxの吸着性能が必ずしも十分なものではなく、NOxの中でも特にNOを吸着させることが困難であった。また、上記特許文献1〜4に記載のような従来のNOx吸着材は、CO、CO、未燃HC等のガスが共存する場合に、低温条件下においてNOxの中でも特にNOを吸着させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−075715号公報
【特許文献2】特開平09−075718号公報
【特許文献3】特開2002−085968号公報
【特許文献4】特開2002−301364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、150℃以下の低温条件下においてもNOxを十分に高度な水準で吸着除去することが可能な優れた低温NOx吸着性能を有する低温NOx吸着材、その低温NOx吸着材の製造方法、並びに、その低温NOx吸着材を用いた排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物からなる低温NOx吸着材において、前記金属酸化物を、該金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aと、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得る金属元素Mとを含有し、単相の結晶構造を有し、平均細孔直径0.3〜0.6nmの細孔を有し、前記金属元素Aの1価又は2価の陽イオンが前記細孔内に存在し、前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)が、前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.11<(A/M)<0.19の範囲内となり、他方、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.055<(A/M)<0.95の範囲内となり、且つ、前記細孔の平均長さが100nm以下となる金属酸化物とすることにより、150℃以下の低温条件下においてもNOxを十分に高度な水準で吸着除去することが可能な優れた低温NOx吸着性能を有する低温NOx吸着材を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の低温NOx吸着材は、金属酸化物からなる低温NOx吸着材であって、
前記金属酸化物が、該金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aと、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得る金属元素Mとを含有し、
単相の結晶構造を有し、
平均細孔直径0.3〜0.6nmの細孔を有し、
前記金属元素Aの1価又は2価の陽イオンが前記細孔内に存在し、
前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)が、前記金属酸化物中において、前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.11<(A/M)<0.19の範囲内となり、他方、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.055<(A/M)<0.95の範囲内となり、且つ、
前記細孔の平均長さが100nm以下となる金属酸化物であること、
を特徴とするものである。
【0008】
また、上記本発明の低温NOx吸着材においては、前記金属酸化物が、下記一般式(1):
16 (1)
[式(1)中、Aは酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素を示し、
Mは、該Mのイオン半径Rと前記Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たす金属元素を示し、且つ
xは、酸化物中において前記Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.9<x<1.5の範囲内の数値を示し、他方、前記Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.45<x<0.75の範囲内の数値を示す。]
で表される一次元細孔構造を有するホランダイト型金属酸化物であり、
前記金属酸化物の一次粒子の結晶構造のc軸方向における平均長さが10〜100nmであり、且つ
前記金属酸化物の一次粒子のうち、結晶構造のc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある一次粒子の割合が粒子数を基準として60〜100%であること、
が好ましい。
【0009】
上記本発明の低温NOx吸着材においては、前記金属元素Aが、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の低温NOx吸着材においては、前記金属元素Mが、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ga、Al、Ge、In、La、Ce及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明の低温NOx吸着材においては、前記金属元素AがKであり且つ前記金属元素MがMnであることが好ましい。
【0012】
本発明の第一の低温NOx吸着材の製造方法は、化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とを乾式で物理混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を60〜140℃の温度で1〜8時間加熱した後、200〜550℃で焼成して上記本発明の低温NOx吸着材を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0013】
本発明の第二の低温NOx吸着材の製造方法は、化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とをボールミルして粉砕混合物を得る工程と、
前記粉砕混合物を200〜550℃で焼成して上記本発明の低温NOx吸着材を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
このような本発明の第一及び第二の低温NOx吸着材の製造方法においては、前記金属元素Aが、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることが好ましい。
【0015】
また、上記本発明の第一及び第二の低温NOx吸着材の製造方法においては、前記金属元素Mが、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ga、Al、Ge、In、La、Ce及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることが好ましい。
【0016】
さらに、上記本発明の第一及び第二の低温NOx吸着材の製造方法においては、前記第一化合物が過マンガン酸カリウムであり且つ前記第二化合物がマンガン酢酸塩化合物(マンガンの酢酸塩(例えばMn(CHCOO))やその水和物(例えば、Mn(CHCOO)・4HO)等)であることが好ましい。
【0017】
また、上記本発明の第二の低温NOx吸着材の製造方法においては、前記ボールミルに、ジルコニア、アルミナ、メノウ及び窒化ケイ素のうちのいずれか一種の材料からなるボールを用いることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の排ガス浄化方法は、上記本発明の低温NOx吸着材に窒素酸化物を含む排ガスを接触せしめて、前記窒素酸化物を浄化することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、150℃以下の低温条件下においてNOxを十分に高度な水準で吸着除去することが可能な優れた低温NOx吸着性能を有する低温NOx吸着材、その低温NOx吸着材の製造方法、並びに、その低温NOx吸着材を用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例3で得られた金属酸化物(低温NOx吸着材)の粒子の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例3で得られた金属酸化物(低温NOx吸着材)の粒子の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例3で得られた金属酸化物(低温NOx吸着材)の粒子の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】比較例1で得られた金属酸化物(低温NOx吸着材)の粒子の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】比較例1で得られた金属酸化物(低温NOx吸着材)の粒子の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】比較例1で得られた金属酸化物(低温NOx吸着材)の粒子の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図7】実施例1〜3及び比較例4〜6で得られた金属酸化物のX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】低温NOx吸着材の種類とNOxの吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の低温NOx吸着材について説明する。すなわち、本発明の低温NOx吸着材は、金属酸化物からなる低温NOx吸着材であって、
前記金属酸化物が、該金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aと、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得る金属元素Mとを含有し、
単相の結晶構造を有し、
平均細孔直径0.3〜0.6nmの細孔を有し、
前記金属元素Aの1価又は2価の陽イオンが前記細孔内に存在し、
前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)が、前記金属酸化物中において、前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.11<(A/M)<0.19の範囲内となり、他方、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.055<(A/M)<0.95の範囲内となり、且つ、
前記細孔の平均長さが100nm以下となる金属酸化物であること、
を特徴とするものである。
【0023】
このような金属元素Aとしては、金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素であればよく、特に制限されないが、より高度な低温NOx吸着性能を発揮できるという観点から、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Agが好ましく、Li、Na、K、Ca、Baがより好ましく、Kが特に好ましい。なお、このような金属元素Aとしては1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、このような金属元素Mとしては、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得るものであればよく、特に制限されないが、資源流通量や安全性の観点、並びに、後述の一般式(1)で表されるホランダイト型金属酸化物を形成させた際に、金属元素Mのイオン半径Rと金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)を1.7以上とすることを効率よく達成可能であるという観点から、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ga、Al、Ge、In、La、Ce、Snが好ましく、Ti、Zr、V、Nb、Cr、W、Mn、Fe、Ga、Al、Inがより好ましく、Mnが特に好ましい。なお、このような金属元素Mとしては1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
さらに、このような金属酸化物は、単相の結晶構造を有するものである。ここで、「単相の結晶構造を有する」とは、X線回折(XRD)測定において特定の1種の結晶相以外の他の結晶相が確認されないことを意味し、例えば、前記金属酸化物が、本発明において好適に用いられる後述のホランダイト型金属酸化物である場合には、X線回折(XRD)測定において、ホランダイト型の結晶相以外の他の結晶相が確認されないことを意味する。
【0026】
また、このような金属酸化物は、平均細孔直径0.3〜0.6nmの細孔を有するものである。このような平均細孔直径が前記下限未満では孔径がNOよりも小さくなり、NOを吸着させることが困難となり、他方、前記上限を超えると他の共存ガスの吸着量が多くなってしまい、十分にNOxを吸着できなくなる。このような細孔の平均細孔直径としては、同様の観点から、NOxをより効率よく吸着させることが可能となることから、0.35nm〜0.55nmであることがより好ましい。なお、このような平均細孔直径の値は、結晶構造から求められる値(理論値)である。このような平均細孔直径の理論値は、基本的に実測される値と一致するものである。なお、このような平均細孔径を実際に測定する方法としては、例えば窒素吸着法が挙げられる。
【0027】
また、前記金属酸化物においては、その細孔内に前記金属元素Aが存在する。このように細孔内に金属元素Aが存在する金属酸化物の構造は、金属酸化物の結晶構造を、例えば、ホランダイト(Hollandite)型やゲルマニウム酸(Germanate)型とすることにより容易に達成できる。なお、このような細孔内に金属元素Aが存在することは、XRD測定により結晶構造を測定することにより確認できる。
【0028】
さらに、前記金属酸化物中の前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合、前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)は、不等式:0.11<(A/M)<0.19の範囲内である。このような含有比(A/M)が前記下限以下では前記金属元素Aの含有量が少なくなり、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなり、他方、前記上限以上では、細孔全体が金属元素Aの陽イオンで充填された構造となり、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなる。また、このような金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合における含有比(A/M)は、同様の観点から、0.12≦(A/M)≦0.18の範囲内であることが好ましい。
【0029】
さらに、前記金属酸化物中の前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合、前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)は、不等式:0.055<(A/M)<0.95の範囲内である。このような含有比(A/M)が前記下限以下では前記金属元素Aの含有量が少なくなり、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなり、他方、前記上限以上では、細孔全体が金属元素Aの陽イオンで充填された構造となり、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなる。また、このような前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合における含有比(A/M)は、同様の観点から、0.056≦(A/M)≦0.094の範囲内であることがより好ましい。
【0030】
また、前記金属酸化物は、前記細孔の平均長さが100nm以下である。このような細孔の平均長さが前記上限を超えると、ガスの拡散距離が長くなって十分なNOx吸着性能が得られなくなる。また、このような細孔の平均長さとしては10〜100nmであることが好ましく、10〜90nmであることがより好ましく、10〜80nmであることが更に好ましい。このような細孔の長さの測定方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)により観測する方法を採用できる。なお、このような細孔の平均長さは、任意の100個以上の金属酸化物の粒子の細孔の長さを測定し、これらの平均値を計算することにより求めることができる。また、本発明においては、前記金属酸化物が、後述のホランダイト型の金属酸化物である場合には、金属酸化物の細孔がトンネル状の細孔になってc軸と平行な細孔となることから、後述する「一次粒子の結晶構造のc軸方向の長さの平均値」を前記細孔の平均長さと擬制することができるため、後述の「一次粒子の結晶構造のc軸方向の長さの平均値」の測定方法により求められた「c軸方向の長さの平均値」を前記細孔の平均長さとする。
【0031】
また、本発明にかかる金属酸化物としては、低温条件下において、より高度なNOx吸着性能を発揮させることが可能となることから、ホランダイト型の金属酸化物であることが好ましい。すなわち、本発明にかかる金属酸化物としては、下記一般式(1):
16 (1)
[式(1)中、Aは酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素を示し、
Mは、該Mのイオン半径Rと前記Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たす金属元素を示し、且つ
xは、酸化物中において前記Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.9<x<1.5の範囲内の数値を示し、他方、前記Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.45<x<0.75の範囲内の数値を示す。]
で表される一次元細孔構造を有するホランダイト型金属酸化物であることが好ましい。
【0032】
このような一般式(1)中のAは、前記金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aとして説明したものと同様のものである。また、上記一般式(1)中のMは、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得る金属元素Mとして説明したものと同様のものである。
【0033】
また、このような一般式(1)中の金属元素Aと金属元素Mは、それぞれ下記に示す特定の関係を満たすものである。すなわち、前記一般式(1)中の金属元素Mは、前記金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たす金属元素である。このようなイオン半径の比(R/R)が1.7未満では、得られる金属酸化物が熱的安定性の低いものとなってしまうとともに、ホランダイト型の結晶構造を有する金属酸化物を合成すること自体が困難となる。なお、ここにいうイオン半径は、金属酸化物中での価数における金属元素A及びMのイオンの半径をいう。また、金属元素A及び/又はMを複数種類含む場合(例えばMに2種以上の金属種を用いた場合)や、イオン種が複数ある場合(例えばMが3価と4価のイオンを含む場合)には、各金属元素及び各イオンが上記イオン半径の比(R/R)の条件を満たす必要がある。
【0034】
また、このような金属元素Mとしては、前記イオン半径の比(R/R)が1.8〜3.5の範囲となるものがより好ましく、2.0〜3.0の範囲となるものが特に好ましい。このようなイオン半径の比(R/R)が前記下限未満ではホランダイト型の結晶構造の金属酸化物を合成することが困難となるばかりか、ホランダイト型金属酸化物を合成できたとしても合成されたものが熱的に不安定となる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとホランダイト型結晶構造を有する金属酸化物を合成することが困難となる傾向にある。
【0035】
また、一般式(1)中のxは、金属酸化物中の金属元素Aの存在比(濃度)を示す値である。このようなxの値は、前記金属元素Aの陽イオンの価数に応じて異なるものであり、前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には、不等式:0.9<x<1.5の範囲内の数値であり、他方、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.45<x<0.75の範囲内の数値である。このようなxの値が前記下限以下では金属元素Aの含有比が少なくなり、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなる。他方、このようなxの値が前記上限以上となった場合においても、ホランダイト型構造の細孔全体が金属元素Aの陽イオンで充填された構造となるため、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなる。また、このようなxの値としては、より高度なNOx吸着性能が得られることから、前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には、不等式:0.91≦x≦1.45(更に好ましくは0.92≦x≦1.42)の範囲内の数値であることがより好ましい。また、同様の観点から、xの値は、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には、不等式:0.46≦x≦0.73(更に好ましくは0.46≦x≦0.71)の範囲内の数値であることがより好ましい。なお、このような一般式(1)中におけるxの値等の数値は誘導結合プラズマ(ICP)分析により測定される濃度に基づいて求められる値を採用する。
【0036】
さらに、一般式(1)で表される金属酸化物中の前記金属元素Aと前記金属元素Mとしては、より高度なNOx吸着性能を発揮させることが可能であるという観点から、前記金属元素AがK(カリウム)であり且つ前記金属元素MがMn(マンガン)であることが好ましい。
【0037】
また、このような一般式(1)で表される金属酸化物は、ホランダイト型金属酸化物である。ここにいう「ホランダイト型」の結晶相とは、式:MO(式中、Mは前記金属元素Mを示す。)で表される八面体を基本単位とし、かかる基本単位が縦に2単位及び横に2単位配列して中央に一次元細孔(トンネル状の細孔であってc軸と平行な細孔)が形成されている相である。このようなホランダイト型の結晶相は、空間群がI4/m、I2/mに属する相であり、X線回折パターンからその存在を確認することができる。なお、前記一般式(1)で表されるホランダイト型金属酸化物においては、前記一次元細孔内に金属元素Aの陽イオンが配置された構造となる。また、「ホランダイト型」の金属酸化物は、トンネル状の細孔であってc軸と平行な一次元細孔が形成された構造を有するため、結晶構造のc軸方向における長さの平均値を求めることにより、細孔の平均長さを求めることができる。また、上記一般式(1)で表されるホランダイト型金属酸化物においては、前記ホランダイト型の結晶構造の一次元細孔の平均細孔径は、前述の金属酸化物の有する「細孔の平均細孔直径」となる。従って、このようなホランダイト型金属酸化物の一次元細孔としては、平均細孔直径が0.3〜0.6nm(より好ましくは0.35〜0.55nm)であることが好ましい。
【0038】
また、このような金属酸化物は、粒子状のものであることが好ましい。このような金属酸化物の一次粒子においては、結晶構造のc軸方向における長さの平均値が10〜100nmであることが好ましい。このような一次粒子のc軸方向における長さの平均値が10nm未満では、シンタリング(粒成長)し易くなってしまう傾向にあり、他方、100nmを超えると、細孔が長くなるため、ガスの拡散距離が長くなってしまい、十分なNOx吸着性能が得られなくなる傾向にある。また、同様の観点で、より高度なNOx吸着性能が得られることから、このような金属酸化物の一次粒子のc軸方向における長さの平均値としては10〜90nmであることがより好ましく、10〜80nmであることが更に好ましい。なお、このような「一次粒子の結晶構造のc軸方向における長さの平均値」は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、任意の100個以上の一次粒子のc軸方向((110)面と垂直方向)の長さを測定し、これらの平均値を計算することにより求めることができる。なお、本発明にかかる金属酸化物として好適に用いられるホランダイト型の金属酸化物においては、その細孔がc軸と平行であるため、金属酸化物の一次粒子の結晶構造のc軸方向における長さの平均値を10〜100nmとすることにより、吸着させるガスの拡散速度が短くなり、全体として吸着サイトを増大することから、非常に高度なNOx吸着性能が得られるものと推察される。
【0039】
また、このような金属酸化物の一次粒子としては、その一次粒子のうちの結晶構造のc軸方向における長さが20〜80nm(より好ましくは20〜60nm)の範囲にある粒子の割合が、粒子数基準で60〜100%であることが好ましい。このような一次粒子の割合が前記下限未満では十分なNOx吸着性能が得られなくなる傾向にある。また、同様の観点から、一次粒子のうちの結晶構造のc軸方向における長さが20〜80nmの範囲にある粒子の割合は、粒子数を基準として70〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがより好ましい。なお、このような「一次粒子の割合」は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、任意の100個以上の一次粒子のc軸方向における長さを測定し、これにより測定された数値に基いて、測定した全一次粒子の個数に対する、結晶構造のc軸方向における長さが20〜80nm(より好ましくは20〜60nm)の範囲にある一次粒子の個数を計算することにより求めることができる。
【0040】
なお、上記特許文献1〜4に記載のような従来の金属酸化物の製造方法(水溶液中でホランダイト型の化合物を製造する方法(特許文献1〜2及び4に記載のような方法)及び原料の混合物を高温で長時間加熱(例えば特許文献3では1375℃以上で24時間加熱)してホランダイト型の化合物を製造する方法)では、製造時に粒子のc軸方向への成長が促進されることから、一次粒子のc軸方向における長さの平均値を100nm以下とすること並びに一次粒子のうちの結晶構造のc軸方向における長さが20〜80nmの範囲にある粒子の割合を60%以上とすることを同時に達成することはできない。
【0041】
さらに、このような金属酸化物の一次粒子としては、その粒子のc軸と垂直な面における最大の外接円の平均直径が1〜100nmであることが好ましく、3〜50nmであることがより好ましい。このような外接円の平均直径が前記下限未満ではシンタリングし易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると比表面積が小さくなり、十分にNOxを吸着できなくなる傾向にある。なお、このような平均直径は透過型電子顕微鏡(TEM)により100個以上の一次粒子のc軸と垂直な面における大きさを測定することにより求めることができる。
【0042】
また、本発明の低温NOx吸着材は、上述のようなホランダイト型金属酸化物の一次粒子を備えていればよく、排ガスの浄化に利用可能な公知の他の金属酸化物や金属等を適宜組み合わせて用いてもよい。また、本発明の低温NOx吸着材の形態は特に制限されず、例えば、ペレット状に成型する等して用いてもよく、あるいは、NOx吸蔵触媒等に利用可能な公知の基材(例えばセラミック製のハニカム基材等)や担体に担持して用いてもよい。
【0043】
以上、本発明の低温NOx吸着材について説明したが、以下、本発明の低温NOx吸着材を製造するための方法として好適な、本発明の第一の低温NOx吸着材の製造方法について説明する。
【0044】
本発明の第一の低温NOx吸着材の製造方法は、化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とを乾式で物理混合して混合物を得る工程(i)と、
前記混合物を60〜140℃の温度で1〜8時間加熱した後、200〜550℃で焼成して上記本発明の低温NOx吸着材を得る工程(ii)と、
を含むことを特徴とする方法である。このような本発明の第一の低温NOx吸着材の製造方法によれば、特に、上記本発明の低温NOx吸着材として好適な、前記金属酸化物が上記一般式(1)で表される一次元細孔構造を有するホランダイト型金属酸化物であり、前記金属酸化物の一次粒子の結晶構造のc軸方向における平均長さが10〜100nmであり、且つ、前記金属酸化物の一次粒子のうち、結晶構造のc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある一次粒子の割合が粒子数を基準として60〜100%である低温NOx吸着材を効率よく製造することが可能となる。以下、工程(i)〜(ii)を分けて説明する。
【0045】
先ず、工程(i)について説明する。工程(i)においては、化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とを乾式で物理混合して混合物を得る。
【0046】
このような金属元素A及び金属元素M並びにイオン半径の比(R/R)は、上述の本発明の低温NOx吸着材において説明したものと同様のものである。
【0047】
また、このような金属元素Aを含む第一化合物としては、金属元素Aを含有していればよく特に制限されず、例えば、金属元素Aとともに金属元素Mを併せて含有するものを用いてもよい。このような第一化合物としては、例えば、金属元素Aの過マンガン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩(例えば酢酸塩)等が挙げられる。このような金属元素Aを含む第一化合物としては、入手の容易性や反応性の高さの観点から、KMnO、Ca(MnO、LiMnO、NaMnO、Ba(MnOが好ましく、KMnO(過マンガン酸カリウム)が特に好ましい。なお、このような第一化合物は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、市販の第一化合物を適宜用いてもよい。また、このような第一化合物の形態は特に制限されず、水和物であってもよい。
【0048】
また、このような第一化合物は粉末状のものであることが好ましい。このような第一化合物の粒子としては特に制限されないが、平均粒子径が0.01〜2000μmであることが好ましく、0.1〜1000μmであることがより好ましい。このような第一化合物の粒子の平均粒子径が前記下限未満では粉末の取り扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると十分に混合することが困難となる傾向にある。
【0049】
前記金属元素Mを含む第二化合物としては、例えば、金属元素Mの硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩(例えば酢酸塩)等が挙げられる。このような金属元素Mを含む第二化合物としては、入手の容易性や反応性の高さの観点から、Mn(CHCOO)、(NH[Ti(C)]、Al(CHCOO)、Fe(CHCOO)が好ましく、Mn(CHCOO)が特に好ましい。なお、このような第二化合物は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、このような第二化合物の形態は特に制限されず、水和物(例えばMn(CHCOO)・4HO)であってもよい。このように、前記金属元素Mを含む第二化合物としては、マンガン酢酸塩化合物(マンガンの酢酸塩(例えばMn(CHCOO)等)やその水和物(例えばMn(CHCOO)・4HO等))が特に好ましい。
【0050】
また、このような第二化合物は粉末状のものであることが好ましい。このような第二化合物の粒子としては特に制限されないが、平均粒子径が0.01〜2000μmであることが好ましく、0.1〜1000μmであることがより好ましい。このような第二化合物の粒子の平均粒子径が前記下限未満では粉末の取り扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると十分に混合することが困難となる傾向にある。
【0051】
また、工程(i)においては、前記第一化合物と前記第二化合物とを乾式で物理混合する。ここにいう「乾式で物理混合する」とは、前記第一化合物と前記第二化合物とを乾式(乾燥状態)で物理的に混合することをいい、例えば、乾式で乳鉢を用いて混合する方法等で混合することが挙げられる。なお、本発明においては、このように乾式で前記第一化合物と前記第二化合物とを混合する方法を採用し、湿式(溶媒の存在下)で前記第一化合物と前記第二化合物とを混合する場合を含まない。これは、混合物が前記第一化合物と前記第二化合物との水溶液等である場合には、その後の加熱工程でc軸方向の成長が促進されてc軸の長さの長い金属酸化物が形成され、本発明にかかる金属酸化物(特に細孔の平均長さが100nm以下の金属酸化物)を製造することができないためである。
【0052】
また、このように乾式で物理混合して得られる混合物中における前記第一化合物と前記第二化合物との含有比率は、前記混合物中の金属元素Aの全モル数と前記混合物中の金属元素Mの全モル数との比([Aの全モル数]:[Mの全モル数])が7:20〜9:20(より好ましくは15:40〜17:40)となるように調整することが好ましい。このような金属元素Aの含有比率が前記下限未満では金属元素Aの濃度が低くなりすぎて、十分なNOx吸着性能を発揮できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると金属元素Aの濃度が高くなりすぎて、細孔全体が金属元素Aの陽イオンで充填された構造となるため、十分に高度なNOx吸着性能が得られなくなる傾向にある。
【0053】
また、前記混合物の粉末の平均粒子径は特に制限されないが、5〜1000nm(より好ましくは10〜500nm)であることが好ましい。このような粉末の大きさが前記下限未満では混合するためのコストが高騰し、経済性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、十分に混合されず、未反応成分が残る傾向にある。
【0054】
次に、工程(ii)について説明する。工程(ii)においては、前記混合物を60〜140℃の温度で1〜8時間加熱した後、200〜550℃で焼成して上記本発明の低温NOx吸着材を得る。
【0055】
このような工程(ii)において、前記混合物を加熱する温度は60〜140℃である。このような加熱温度が前記下限未満では、本発明にかかる上記金属酸化物(特に「ホランダイト型金属酸化物」)が得られなくなる。他方、前記加熱温度が前記上限を超えた場合においても同様に、本発明にかかる上記金属酸化物(特に本発明に好適な「ホランダイト型金属酸化物」)が得られなくなる。このような混合物の加熱温度としては、より効率よく本発明にかかる金属酸化物(特に本発明に好適な「ホランダイト型金属酸化物」)を製造することが可能となるという観点から、70〜130℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。
【0056】
また、前記混合物の前記加熱温度での加熱時間は1〜8時間である。このような加熱時間が前記下限未満では、反応が十分に進行せず、本発明にかかる金属酸化物(特に本発明に好適な「ホランダイト型金属酸化物」)の収率が低下し、効率よく金属酸化物を得ることができなくなり、他方、前記上限を超えると、製造コストが高くなり経済性が低下する傾向にある。また、同様の観点から、このような加熱時間は2〜7時間とすることが好ましく、3〜6時間とすることがより好ましい。
【0057】
なお、このような加熱処理後においては、余分な金属元素Aを取り除くという観点から、得られた混合物を水により洗浄し、乾燥させてもよい。
【0058】
また、このような混合物に対する加熱処理は、酸素を1容量%以上含むガス雰囲気下で施すことが好ましく、工程の簡便さの観点から、空気中で施すことがより好ましい。
【0059】
本発明においては、上述のような加熱温度及び加熱時間の条件で前記混合物を加熱して熟成させることで、c軸方向を結晶成長させることなくホランダイト型金属酸化物を合成できることから、後述の焼成時に金属酸化物の結晶構造のc軸方向の長さが適切なものとなり、これにより金属酸化物のc軸方向の長さの平均値を10〜100nmの範囲内とすることが可能となり、更には、得られる金属酸化物の粒子のうちの結晶構造のc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある一次粒子の割合を粒子数基準で60〜100%とすることが可能となる。
【0060】
また、工程(ii)において、前記加熱処理後の混合物を焼成する温度は200〜550℃である。このような焼成温度が前記下限未満では十分な結晶性を有する金属酸化物を得ることができなくなり、他方、前記上限を超えると、複数の結晶相を有する金属酸化物が形成されてしまい、単相の金属酸化物が得られなくなる。また、同様の観点から、上記焼成温度としては300〜550℃であることが好ましく、350〜500℃であることがより好ましい。
【0061】
また、このような焼成の時間としては、1〜8時間であることが好ましく、2〜6時間であることがより好ましい。このような焼成時間が前記下限未満では十分な結晶性を有する金属酸化物が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、結晶構造のc軸方向の成長が促進されて、c軸の長さの平均値が100nmを超える金属酸化物が形成されてしまい、得られる金属酸化物の細孔の平均長さが100nmを超えてしまう傾向にある。
【0062】
以上、本発明の第一の低温NOx吸着材の製造方法について説明したが、次に、本発明の低温NOx吸着材を製造するための方法として好適な、本発明の第二の低温NOx吸着材の製造方法について説明する。
【0063】
本発明の第二の低温NOx吸着材の製造方法は、化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とをボールミルして粉砕混合物を得る工程(I)と、
前記粉砕混合物を200〜550℃で焼成して上記本発明の低温NOx吸着材を得る工程(II)と、
を含むことを特徴とする方法である。このような本発明の第二の低温NOx吸着材の製造方法によれば、特に、上記本発明の低温NOx吸着材として好適な、前記金属酸化物が上記一般式(1)で表される一次元細孔構造を有するホランダイト型金属酸化物であり、前記金属酸化物の一次粒子の結晶構造のc軸方向における平均長さが10〜100nmであり、且つ、前記金属酸化物の一次粒子のうち、結晶構造のc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある一次粒子の割合が粒子数を基準として60〜100%である低温NOx吸着材を効率よく製造することが可能となる。以下、工程(I)と工程(II)を分けて説明する。
【0064】
先ず、工程(I)について説明する。工程(I)においては、前記第一化合物と前記第二化合物とをボールミルして粉砕混合物を得る。このような金属元素A、金属元素M、イオン半径の比(R/R)、第一化合物及び第二化合物については、上述の本発明の第一の低温NOx吸着材の製造方法において説明したものと同様のものである。
【0065】
また、工程(I)において採用するボールミルの方法としては、特に制限されず、回転ボールミル法、振動ボールミル法、遊星ボールミル法及び攪拌ボールミル法(アトライターとも呼ばれる。)等の公知のボールミルの方法を適宜採用することができる。このようなボールミルの方法の中でも、十分な運動エネルギーを与えることができるという観点から、回転ボールミル法、遊星ボールミル法を用いることが特に好ましい。
【0066】
このようなボールミルにおいては、前記第一化合物と前記第二化合物とを混合粉砕用のボールとともに容器(ポット)の中に入れて、その容器を回転運動等させることにより、前記第一化合物と前記第二化合物とを乾式で混合し粉砕して、粉砕混合物を得る。このようボールミルに際しては、粉砕混合物の粉末の平均粒子径が5〜1000nm(より好ましくは10〜500nm)となるようにしてボールミリングを施すことが好ましい。このような粉末の大きさが前記下限未満では混合するためのコストや時間が増大する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記第一化合物と前記第二化合物とが十分に混合されず、これを反応させた後に未反応成分が残る傾向にある。
【0067】
このようなボールミルに用いるボールとしては、原料との反応性に乏しいという観点から、ジルコニア、アルミナ、メノウ及び窒化ケイ素のうちのいずれか一種の材料からなるボールを用いることが好ましい。また、このようなボールの大きさとしては、使用する容器の容量等によっても好適なものが異なるため、一概には言えないが、粉砕混合物の粉末の大きさを上記範囲とするという観点からは、直径が1〜50mm程度のものを使用することが好ましい。
【0068】
また、このようなボールミルに用いる容器(ポット)は特に制限されず、公知の容器を適宜用いることができ、そのサイズや材質、形状等も製造する金属酸化物の量等に応じて適宜変更すればよい(例えば50〜10000mlの容量のステンレス製の容器やPP製の容器等を用いてもよい)。更に、このようなボールミルに際しては、市販のボールミル装置を適宜用いてもよい。
【0069】
また、容器の回転数やミリング時間は、用いるボールの種類や目的とする粉砕混合物の粉末の平均粒子径の大きさ等によっても異なるものであることから、一概には言えず、用いる第一化合物等の種類等に応じて適宜決定すればよい。粉砕混合物の粉末の平均粒子径の大きさが前記範囲となるようにしてボールミルするという観点からは、例えば、容器の回転数を100〜1000rpmとして1〜10時間ボールミルする方法を採用してもよい。
【0070】
なお、このようなボールミル後においては、余分な金属元素Aを取り除くという観点から、得られた粉砕混合物を水により洗浄し、乾燥させた後に、後述の焼成処理(工程(II))に用いてもよい。
【0071】
また、本発明においては、前述のようなボールミルを施すことで、c軸方向を結晶成長させることなくホランダイト型構造の金属酸化物を合成できることから、後述の焼成時に金属酸化物の結晶構造のc軸方向の長さが適切なものとなり、これにより金属酸化物のc軸方向の長さの平均値を10〜100nmの範囲内とすることが可能となり、更には、得られる金属酸化物の粒子のうちの結晶構造のc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある一次粒子の割合を粒子数基準で60〜100%とすることが可能となる。
【0072】
次に、工程(II)について説明する。工程(II)においては、前記粉砕混合物を200〜550℃で焼成して、上記本発明の低温NOx吸着材を得る。
【0073】
このような焼成温度は200〜550℃である。このような焼成温度が前記下限未満では十分な結晶性を有する金属酸化物が得られなくなり、他方、前記上限を超えると、複数の結晶相を有する金属酸化物が形成されてしまい、単相の金属酸化物が得られなくなる。また、同様の観点から、上記焼成温度としては300〜550℃であることが好ましく、350〜500℃であることがより好ましい。
【0074】
また、このような焼成の時間としては、1〜8時間であることが好ましく、2〜6時間であることがより好ましい。このような焼成時間が前記下限未満では、十分な結晶性を有する金属酸化物が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、結晶構造のc軸方向の成長が促進されてc軸の長さの平均値が100nmを超える金属酸化物が形成されてしまい、得られる金属酸化物の細孔の平均長さが100nmを超えてしまう傾向にある。
【0075】
以上、本発明の第二の低温NOx吸着材の製造方法について説明したが、次に、上記本発明の低温NOx吸着材を用いた本発明の排ガスの浄化方法について説明する。
【0076】
本発明の排ガスの浄化方法は、上記本発明の低温NOx吸着材に窒素酸化物を含む排ガスを接触せしめて、前記窒素酸化物を浄化することを特徴とする方法である。
【0077】
このように、排ガスを接触せしめる方法としては特に制限されず、例えば、排ガス管中に上記本発明の低温NOx吸着材を配置し、ガソリン車のエンジン、ディーゼルエンジン、燃料消費率の低い希薄燃焼式(リーンバーン)エンジン等の内燃機関から排出される排ガスを、排ガス管中において上記本発明の低温NOx吸着材に接触させる方法等を採用してもよい。
【0078】
また、上記本発明の低温NOx吸着材が酸素過剰雰囲気下においても高度なNOx吸着性能を有するものであることから、本発明の排ガスの浄化方法は、酸素過剰雰囲気下において、上記本発明の低温NOx吸着材に窒素酸化物を含む排ガスを接触せしめて、前記窒素酸化物を浄化する方法に、特に好適に利用できる。ここにいう「酸素過剰雰囲気」とは酸素の還元ガス成分に対する化学当量比が1以上である雰囲気をいう。このように本発明によれば、ディーゼルエンジン、燃料消費率の低い希薄燃焼式(リーンバーン)エンジンから排出される酸素過剰雰囲気の排ガスであっても、効率よく浄化することができる。
【0079】
また、このようにして排ガスを浄化させる際に、本発明の低温NOx吸着材は単独であるいは他の材料とともに、基材や担体等に担持せしめて利用してもよい。また、このような本発明の低温NOx吸着材は、より効率よくNOxを浄化するという観点から、他の触媒と組み合わせて用いてもよい。このような他の触媒としては、特に制限されず、NOx還元性能を有する公知のNOx還元触媒、NOx吸蔵還元型(NSR触媒)、NOx選択還元触媒(SCR触媒)、酸化触媒等を適宜用いることができる。また、このように、他の触媒と組み合わせて用いる場合には、本発明の低温NOx吸着材を前段に配置し、他の触媒を後段に配置することが好ましい。なお、本発明の低温NOx吸着材を担持するために用いる基材や担体としては特に制限されず、NOx吸蔵触媒に用いることが可能な公知の基材や担体を適宜利用することができる。また、前記他の触媒の構成材料等も特に制限されず、公知の材料からなる触媒を適宜用いることができ、例えば、公知の担体に貴金属(例えばPt、Pd,rh、Ir及びRuのうちの少なくとも1種の金属等)を担持した触媒等を適宜用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
先ず、KMnO(和光純薬工業社製の商品名「過マンガン酸カリウム」)4.74gと、Mn(AC)・4HO(和光純薬工業社製の商品名「酢酸マンガン(II)四水和物」)11.01gとを乳鉢にて十分に混合して混合物を得た。次に、前記混合物を空気中、80℃で4時間加熱して熟成させて試料を得た。その後、前記試料を500mLの蒸留水で4回洗い、12時間乾燥させた。次いで、乾燥後の試料を500℃にて4時間焼成し、金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(A)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.14である。
【0082】
(実施例2)
前記混合物を80℃で4時間加熱する代わりに、前記混合物を120℃で4時間加熱した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(B)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.18である。
【0083】
(実施例3)
先ず、ボールミル用の装置として日陶科学株式会社製の商品名「ANZ−605」を用い、KMnO(和光純薬工業社製の商品名「過マンガン酸カリウム」)4.74gと、Mn(AC)・4HO(和光純薬工業社製の商品名「酢酸マンガン(II)四水和物」)11.01gとを、直径10mmのアルミナ製のボール(130個使用)とともに、容量1Lのポリプロピレン(PP)製の容器に入れ、室温で前記容器を120rpmで6時間回転させてボールミルし、粉砕混合物の粉末を得た。次に、前記粉砕混合物を500mLの蒸留水で4回洗い、12時間乾燥させた。次いで、前記粉砕混合物を500℃にて4時間焼成し、金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(C)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.12である。
【0084】
(比較例1)
先ず、Mn(NOを27.5g溶解した蒸留水50mlに、酢酸を12.5ml加えた後、更にKMnOを16.6g溶解した蒸留水375mlを添加し、混合して、混合液を得た。次に、得られた混合液を還流で24時間加熱した。これにより前記混合液中に沈殿物が形成された。次いで、前記混合液から前記沈殿物をろ過により取り出し、500mLの蒸留水で4回洗い、12時間乾燥させて試料を得た。次に、乾燥後の試料を500℃にて4時間焼成し、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(D)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.14である。
【0085】
(比較例2)
先ず、CHCOOKを1.42g溶解した蒸留水100mlにMnOを10g添加して、混合液を得た後、前記混合液を蒸発乾固せしめて固形分を得た。次に、前記固形分を500℃にて4時間焼成し、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(E)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.16である。
【0086】
(比較例3)
実施例1で得られた金属酸化物を10質量%の硝酸水溶液200ml中に添加し、80℃で5時間処理し、前記金属酸化物からK(カリウム)を一部溶解除去し、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(F)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.11である。
【0087】
(比較例4)
前記混合物を80℃で4時間加熱する代わりに、前記混合物を40℃で4時間加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(G)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.13である。
【0088】
(比較例5)
前記混合物を80℃で4時間加熱する代わりに、前記混合物を160℃で4時間加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(H)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.24である。
【0089】
(比較例6)
先ず、クエン酸0.9molをイオン交換水165mlに溶解させた溶液に、28質量%のNH水溶液170mlを加えて、クエン酸アンモニウム水溶液を調製した。次に、得られたクエン酸アンモニウム水溶液に酢酸セリウム0.3molを加えて撹拌し、セリウムクエン酸アンモニウム水溶液(0.67mol/L)を調製した。
【0090】
また、上述のクエン酸アンモニウム水溶液の調製方法と同様の方法を採用して、クエン酸アンモニウム水溶液を別途調整した。次に、このクエン酸アンモニウム水溶液に酢酸ランタン0.3molを加えて撹拌し、ランタンクエン酸アンモニウム水溶液(0.67mol/L)調製した。
【0091】
次いで、前記ランタンクエン酸アンモニウム水溶液26.8mlと前記セリウムクエン酸アンモニウム水溶液92.5mlを混合液を得た後、前記混合液に酢酸カリウムを0.01mol加え、蒸発乾固させて固形分を得た。次に、前記固形分を空気中にて400℃で5時間仮焼成した後、更に、空気中にで800℃で5時間焼成し、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(I)を得た。
【0092】
(比較例7)
KMnOの使用量を5.92gに変更し、Mn(AC)・4HOの使用量を9.19gに変更し、更に、混合物を80℃で4時間加熱する代わりに、160℃で4時間加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較のための金属酸化物の粒子からなる低温NOx吸着材(J)を得た。なお、このような金属酸化物中のカリウム(K)とマンガン(Mn)の含有比(K/Mn)は0.21である。
【0093】
[実施例1〜3及び比較例1〜7で得られた低温NOx吸着材の特性の評価]
<透過型電子顕微鏡(TEM)による測定>
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた金属酸化物を、それぞれ透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。このような測定の結果として、実施例3で得られた低温NOx吸着材の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1〜3に示し、比較例1で得られた低温NOx吸着材の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図4〜6に示す。
【0094】
また、このような透過型電子顕微鏡(TEM)測定により、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた金属酸化物の一次粒子の結晶構造のc軸方向の平均長さをそれぞれ求めた。なお、このような一次粒子の結晶構造のc軸方向の平均長さは、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた金属酸化物について、それぞれ100個の一次粒子のc軸方向の長さを測定し、その平均値を計算することにより求めた。結果を表1に示す。
【0095】
さらに、このような透過型電子顕微鏡(TEM)測定により、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた金属酸化物の一次粒子のうち、c軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある粒子の割合を求めた。なお、測定した全金属酸化物の一次粒子の数は100個であった。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示す結果からも明らかなように、実施例1〜3で得られた金属酸化物においては、金属酸化物の一次粒子のc軸方向の長さの平均がいずれも100nm以下であり且つc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある粒子の割合も60〜100%の範囲内となっていた。従って、実施例1〜3で得られた金属酸化物においては、細孔の平均長さは、いずれも100nm以下であることが分かった。これに対して、製造時に原料化合物を溶媒の存在下で混合する工程(湿式で混合する工程)を採用している比較例1〜2で得られた金属酸化物においては、一次粒子のc軸方向の長さの平均値がいずれも100nmを超える値となっていた。そのため、比較例1〜2で得られた金属酸化物は細孔の平均長さが100nmを超えていることが分かった。なお、実施例1〜3及び比較例1〜2において最終的な焼成の条件が同じであることを考慮すれば、焼成前の工程に、比較例1〜2で採用しているような湿式で混合する工程を採用した場合には、熟成過程においてc軸方向の成長速度が速くなってしまうことが分かった。
【0098】
<誘導結合プラズマ(ICP)分析>
実施例1〜3、比較例3及び比較例7で得られた金属酸化物に対して、それぞれ誘導結合プラズマ(ICP)分析を行った。このような測定の結果、実施例1〜3、比較例3及び比較例7で得られた金属酸化物は、一般式:KMn16で表される金属酸化物であることが確認された。なお、かかる一般式中のxの値を表2に示す。
【0099】
【表2】

【0100】
このような表2に示す結果からも明らかなように、実施例1〜3で得られた金属酸化物においては、Kの存在比を示すxの値が0.9〜1.5の範囲内の数値であることが確認された。一方、比較例3で得られた金属酸化物においては、Kの存在比を示すxの値が0.9未満の値となっていた。また、比較例7で得られた金属酸化物においては、Kの存在比を示すxの値が1.5を超える値となっていた。
【0101】
<金属酸化物中に含有されている金属元素のイオン半径とその比>
実施例1及び比較例6で得られた金属酸化物に関して、金属酸化物中の金属元素のイオン半径等を表3に示す。なお、このような金属酸化物を上記一般式(1)で表した場合、実施例1で得られた金属酸化物においては、カリウム(K)が金属元素Aに相当し且つマンガン(Mn)が金属元素Mに相当する。一方、比較例6で得られた金属酸化物においてはカリウム(K)が金属元素Aに相当し且つセリウム(Ce)及びランタン(La)が金属元素Mに相当する。なお、表3中、イオン種が2種以上ある金属元素Mについては、イオンの種類に応じて各イオンのイオン半径をM(1)及びM(2)と分けて示す。
【0102】
【表3】

【0103】
表3に示す結果からも明らかなように、本発明の低温吸着材(実施例1)は金属元素Aの陽イオンと金属元素Mの各イオンとのイオン半径の比(R/RM(1)及びR/RM(2))は、全て1.7以上となっていることが確認された。これに対して、比較例6で得られた金属酸化物(比較例6)においては、金属元素Aの陽イオンと金属元素Mの各イオンとのイオン半径の比(R/RM(1)及びR/RM(2))はいずれも1.7未満の値であった。
【0104】
<X線回折(XRD)による測定>
実施例1〜3及び比較例4〜6で得られた金属酸化物に対して、X線回折(XRD)分析を行った。実施例1〜3及び比較例4〜6で得られた金属酸化物のX線回折パターンを図7に示す。
【0105】
このような測定により得られたX線回折パターンから、実施例1〜3で得られた金属酸化物においては、ホランダイト型の結晶相が確認され、他の結晶相の存在は確認されなかった。このような結果から、実施例1〜3で得られた金属酸化物は、単相の金属酸化物であって、ホランダイト型の結晶構造を有する金属酸化物であることが確認された。また、これにより、実施例1〜3で得られた金属酸化物においては、細孔内にカリウムのイオンが存在することが分かった。他方、比較例4〜5で得られた金属酸化物は、図7からも明らかなように、ホランダイト型の結晶相とともに他の結晶相の存在が確認され、単相の金属酸化物ではないことが分かった。また、比較例6で得られた金属酸化物は、細孔の存在が確認されなかった。このような結果から、比較例4〜6で得られた金属酸化物は、本発明にかかる金属酸化物(本発明にかかる金属酸化物として特に好適なホランダイト型金属酸化物)とは異なる金属酸化物であることが分かった。
【0106】
<金属酸化物の平均細孔径>
実施例1〜3で得られた金属酸化物の平均細孔径を求めた。なお、各実施例で得られた金属酸化物の平均細孔径はX線回折による格子定数測定値から計算することにより求めた。このような結果、各実施例で得られた金属酸化物の平均細孔径は、それぞれ0.46nm(実施例1)、0.46nm(実施例2)、0.46nm(実施例3)であった。
【0107】
<NO吸着性能の試験>
実施例1〜3並びに比較例1〜7で得られた低温NOx吸着材(A)〜(J)をそれぞれ1.0g用い、各低温NOx吸着材を直径15mm、長さ50mmの排ガス管内の中心部付近にそれぞれ配置し、各排ガス管に50℃の温度条件下において流量が5L/分となるようにして表4に示す組成のモデルガスをそれぞれ流通させて、各低温NOx吸着材の定常状態におけるNOの吸着量をそれぞれ測定した。なお、NOの吸着量は、低温NOx吸着材に接触する前後のガス中にそれぞれ含有されているNOの濃度を測定し、そのNOの濃度の値に基づいて求めた。得られた結果を図8に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
図8に示す結果からも明らかなように、本発明の低温NOx吸着材(実施例1〜3)においては、50℃という低温の条件下においても、NOx吸着量がいずれも150mg/L以上を超える量となっており、非常に高度なNOx吸着除去性能を有することが確認された。これに対して、比較のための低温NOx吸着材(比較例1〜7)においては、NOx吸着量が十分なものとはならないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上説明したように、本発明によれば、150℃以下の低温条件下においてもNOxを十分に高度な水準で吸着除去することが可能な優れた低温NOx吸着性能を有する低温NOx吸着材、その低温NOx吸着材の製造方法、並びに、その低温NOx吸着材を用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の低温NOx吸着材は、例えば、環境汚染物質であるNOを除去するための各種触媒やNO除去システムに用いる素材等として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる低温NOx吸着材であって、
前記金属酸化物が、該金属酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aと、150℃以下の温度条件下でNOxが共存する場合に価数変化を起こし得る金属元素Mとを含有し、
単相の結晶構造を有し、
平均細孔直径0.3〜0.6nmの細孔を有し、
前記金属元素Aの1価又は2価の陽イオンが前記細孔内に存在し、
前記金属元素Aの前記金属元素Mに対するモル基準の含有比(A/M)が、前記金属酸化物中において、前記金属元素Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.11<(A/M)<0.19の範囲内となり、他方、前記金属元素Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.055<(A/M)<0.95の範囲内となり、且つ、
前記細孔の平均長さが100nm以下となる金属酸化物であること、
を特徴とする低温NOx吸着材。
【請求項2】
前記金属酸化物が、下記一般式(1):
16 (1)
[式(1)中、Aは酸化物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素を示し、
Mは、該Mのイオン半径Rと前記Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たす金属元素を示し、且つ
xは、酸化物中において前記Aが1価の陽イオンとなる場合には不等式:0.9<x<1.5の範囲内の数値を示し、他方、前記Aが2価の陽イオンとなる場合には不等式:0.45<x<0.75の範囲内の数値を示す。]
で表される一次元細孔構造を有するホランダイト型金属酸化物であり、
前記金属酸化物の一次粒子の結晶構造のc軸方向における平均長さが10〜100nmであり、且つ
前記金属酸化物の一次粒子のうち、結晶構造のc軸方向の長さが20〜80nmの範囲にある一次粒子の割合が粒子数を基準として60〜100%であること、
を特徴とする請求項1に記載の低温NOx吸着材。
【請求項3】
前記金属元素Aが、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低温NOx吸着材。
【請求項4】
前記金属元素Mが、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ga、Al、Ge、In、La、Ce及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材。
【請求項5】
前記金属元素AがKであり且つ前記金属元素MがMnであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材。
【請求項6】
化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とを乾式で物理混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を60〜140℃の温度で1〜8時間加熱した後、200〜550℃で焼成して請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材を得る工程と、
を含むことを特徴とする低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記金属元素Aが、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項6に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記金属元素Mが、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ga、Al、Ge、In、La、Ce及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項6又は7に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項9】
前記第一化合物が過マンガン酸カリウムであり且つ前記第二化合物がマンガン酢酸塩化合物であることを特徴とする請求項6〜8のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項10】
化合物中において1価又は2価の陽イオンとなる金属元素Aを含む第一化合物と、金属元素Mを含み且つ前記金属元素Mが該金属元素Mのイオン半径Rと前記金属元素Aのイオン半径Rとの比(R/R)が1.7以上となるという条件を満たすものである第二化合物とをボールミルして粉砕混合物を得る工程と、
前記粉砕混合物を200〜550℃で焼成して請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材を得る工程と、
を含むことを特徴とする低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項11】
前記金属元素Aが、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びAgからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項10に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項12】
前記金属元素Mが、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ga、Al、Ge、In、La、Ce及びSnからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項10又は11に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項13】
前記第一化合物が過マンガン酸カリウムであり且つ前記第二化合物がマンガン酢酸塩化合物であることを特徴とする請求項10〜12のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項14】
前記ボールミルに、ジルコニア、アルミナ、メノウ及び窒化ケイ素のうちのいずれか一種の材料からなるボールを用いることを特徴とする請求項10〜13のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の低温NOx吸着材に窒素酸化物を含む排ガスを接触せしめて、前記窒素酸化物を浄化することを特徴とする排ガス浄化方法。

【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−115782(P2011−115782A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240013(P2010−240013)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】