説明

低濃度の酸化成分の存在下での不活性ガス中における焼成

本発明はエチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な銀触媒を調製する改良プロセスに関する。不活性担体は触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物で含浸される。この含浸された担体を約200℃〜約600℃の温度で加熱することによって焼成して、銀含有化合物中の銀を金属銀に変換すると共に、実質的に全ての有機材料を分解して除去する。加熱は不活性ガスと、容量で約10ppm〜約5%の酸素含有酸化成分のガスとの組合せを含む雰囲気下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレン酸化物の生成に有用な改良された銀触媒類、これらの調製、及びアルキレン酸化物製法におけるこれらの使用に関する。特に、本発明は、気相中で酸素含有ガスを用いてアルケン、好ましくはエチレンを酸化して、高い効率及び選択性でアルキレン酸化物、好ましくはエチレンオキシドを生成することが可能な、金属で促進された担持銀触媒の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン及び酸素をエチレンオキシドに変換するための担持銀触媒を生成することは、当該技術分野で知られている。これらの触媒類の活性及び選択性を改善するために、これまで多くの改良例が提案されてきた。これらの改良例は、用いられる担体、生成方法、担体上の銀の物理的形態、及び触媒組成に対する添加物の含有についての各改良を包含するものである。各方法はエチレンをエチレンオキシドに気相酸化するのに有用な担持銀触媒の調製について既知であり、アルミナ等の担体に銀塩/アミン溶液を含浸することを包含している。特許文献1は、こういった手順を例示している。
【0003】
特許文献2は、種々の銀エチレンオキシド触媒用の添加物としてのナトリウムまたはカリウム及びそれらの塩の双方を含めて、アルカリ金属の使用を開示している。特許文献3は、多数の有用なプロモーターを引用している。特許文献4は、多段階の銀被着プロセスを開示している。特許文献5は、約0.15m2/gm及び約0.30m2/gmの間の細孔容積、及び10m2/gm未満の表面積を有するアルミニウム酸化物担体の使用を開示している。特許文献6及び特許文献7には、少量のアルカリ金属、即ち、K、Rb及びCsの使用が担持銀触媒における有用なプロモーターとして言及されている。特許文献8は、酸化反応に有用な銀/遷移金属触媒の調製を教示している。特許文献9では、例えばAg及びRe等の触媒活性金属が同時スパッタリングされた担持金属と一緒に特定の担体上に同時スパッタリングされている。類似の手順によってアルカリ金属プロモーターを含んだ銀触媒の調製が、例えば、前記特許文献6に示されている。また、イオウ、モリブデン、タングステン、クロム及び混合物から選択したコプローモーター(co-promoter)を用いると共に、アルカリ金属及びレニウムによって促進される銀触媒の調製に対する同様の手順が特許文献10に示されている。これらの従来技術の手順による触媒調製は、種々のプロモーターを含み得る銀/アミン溶液に担体を含浸すること、銀を金属銀に還元すると共に、触媒から揮発物を分離するために、含浸された担体を熱風乾燥器中で約275℃の温度まで加熱すること、を包含している。
【0004】
特許文献11は、銀/アミン及び乳酸銀溶液に不活性の担体を含浸することによって調製されるエチレンオキシドへのエチレン酸化用の銀触媒を示している。含浸したキャリアは、直接加熱よりむしろ、5.1cm×5.1cm (2インチ×2インチ) 正方形の加熱帯を移送されるスチールのベルト上で2.5分間処理された。この際、加熱帯はベルトを通して上方に熱い空気を送ることによって500℃、または400℃に4分間維持された。
【0005】
特許文献12は、有機酸の銀塩の炭化水素溶液に担体を含浸すると共に、窒素等の不活性ガス中で500℃の温度までの各段階で活性化されてなる銀触媒調製に関する。
【0006】
エチレンオキシド生成の各プロセスに関する他の説明では、酸素を含むガスを供給物に添加すると効率が上昇した。例えば、特許文献13では、5ppmの酸化窒素が、8容量百分率の酸素、30容量百分率のエチレン、約5ppmwの塩化エチル及び残部窒素の組成を有するガス供給に添加された。
【0007】
効率、特に選択性を高める他のプロセスでは、触媒が或る温度及び或るガス混合物で処理された。例えば、特許文献14及び特許文献15では、一般に触媒の通常初期動作温度を上回る温度で酸素の存在下で触媒を加熱処理することによって、高選択的エポキシ化触媒の選択性を改善することができる。
【0008】
特許文献16及び特許文献17は、種々のプロモーターを用いると共に銀/アミン溶液に不活性担体を含浸し、触媒を不活性雰囲気下に保ちながら含浸した担体を300℃〜500℃で焼成することによって調製される、エチレン酸化用の銀触媒を示している。このように、従来技術は、空気、即ち、大量の酸素中、或いは窒素等の不活性雰囲気下で含浸した担体を焼成することによる触媒の調製を教示している。驚くべきことに、不活性雰囲気中に酸素分子等の酸化ガスを少量だけ添加して窒素等の不活性雰囲気中で、含浸した担体を焼成することにより、エチレンオキシド触媒の有効寿命、活性度及び選択性が改善されることが見出されている。
【特許文献1】米国特許第3,702,359号
【特許文献2】米国特許第2,125,333号
【特許文献3】米国特許第2,615,900号
【特許文献4】米国特許第2,773,844号
【特許文献5】米国特許第3,575,888号
【特許文献6】米国特許第3,962,136号
【特許文献7】米国特許第4,010,115号
【特許文献8】米国特許第4,005,049号
【特許文献9】米国特許第4,536,482号
【特許文献10】米国特許第4,766,105号
【特許文献11】米国特許第4,916,243号
【特許文献12】米国特許第5,444,034号
【特許文献13】米国特許第5,112,795号
【特許文献14】米国特許明細書第2004/0049061号
【特許文献15】米国特許明細書第2004/002954号
【特許文献16】米国特許第5,504,052号
【特許文献17】米国特許第5,646,087号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物を含んだ溶液を不活性担体に含浸すること、
前記銀含有化合物中の銀を金属銀に変換し実質的に全ての有機材料を分解して除去するのに十分な時間、前記含浸した担体を約200℃〜約600℃の温度で加熱することによって前記含浸した担体を焼成することを含み、
前記加熱は、不活性ガスと、酸素含有酸化成分から成り体積で約10ppm〜約5%のガスとの組合せを含む雰囲気下で行なわれる、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な触媒を調製するためのプロセスを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物を含んだ溶液を不活性担体に含浸すること、
前記銀含有化合物中の銀を金属銀に変換し実質的に全ての有機材料を分解して除去するのに十分な時間、約200℃〜約600℃の温度で前記含浸した担体を加熱することによって前記含浸した担体を焼成することを含み、
前記加熱は、不活性ガスと、酸素含有酸化成分から成り体積で約10ppm〜約1%のガスとの組合せを含む雰囲気下で行なわれる、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な触媒を調製するためのプロセスを提供するものである。
【0011】
更に、本発明は、触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物を含んだ溶液を不活性担体に含浸すること、
前記銀含有化合物中の銀を金属銀に変換し実質的に全ての有機材料を分解して除去するのに十分な時間、約200℃〜約600℃の温度で前記含浸した担体を加熱することによって前記含浸した担体を焼成することを含み、
前記加熱は、不活性ガスと、酸素含有酸化成分から成り体積で約10ppm〜約500ppmのガスとの組合せを含む雰囲気下で行なわれる、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な触媒を調製するためのプロセスを提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、固定床管状反応装置において、上記触媒の存在下、酸素分子を用いてエチレンを気相酸化することを含む、エチレンをエチレンオキシドに酸化するプロセスを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の触媒は、担体上に銀前駆化合物を被着させるのに十分で適切な溶媒中に溶解した銀イオン、化合物、錯体及び/又は塩を、多孔質で耐熱性の各担体に含浸することによって調製される。次いで、含浸した担体(キャリア)は溶液から除去され、被着した銀化合物は高温焼成によって金属銀に還元される。また、銀の被着前か、これと同時か又はこれに引き続いて、適切な溶媒に溶解したアルカリ金属の適切なイオン、化合物及び/又は塩が、担体上に被着される。また、銀及び/又はアルカリ金属の被着前か、これと同時か又はこれに引き続いて、適切な溶媒に溶解した適切な遷移金属イオン、化合物、錯体及び/又は塩がキャリア上に被着される。
【0014】
これらの触媒に効果的に使用される担体またはキャリアは、エチレン酸化の供給材料、生成物及び反応条件の存在下で比較的不活性である多孔質で耐熱性の触媒キャリアまたは担体材料であり得る。従来のかかる材料は当業者にとって既知であり、天然または合成由来のものであり得、好ましくは、マクロ多孔性構造、即ち、約10m2/g以下及び好ましくは約3m2/g以下の表面積を有する構造のものである。本発明のエチレンオキシド触媒用の各担体として有用である担体の具体例は、アルミニウム酸化物、特にα-アルミナ、木炭、軽石、マグネシア、ジルコニア、珪藻土、フラー土、シリコン・カーバイド、シリカ及び/又はシリコン・カーバイドを含む多孔質凝集体、シリカ、マグネシア、選択された粘土、人工及び天然のゼオライト及びセラミックスである。好ましい触媒は、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナまたはそれらの組合せを含む担体から成り得る。最も好ましい担体は、主としてα-アルミナを含有するものであり、特に約15重量百分率までのシリカを含有するものである。α-アルミナ含有担体の場合、ビー・イー・ティー(B.E.T)法で測定した表面積が約0.03m2/g〜約10m2/g、好ましくは約0.05m2/g〜約5m2/g、より好ましくは約0.1m2/g〜約3m2/gにあると共に、従来の吸水技術で測定した水孔容積が体積で約0.1cc/g〜約0.75cc/g、好ましくは約0.25cc/g〜約0.55cc/gを有するものが好ましい。特定の表面積を決定するB.E.T法は、ブルナウア・エス(Brunauer, S)、エメット・ピー・エッチ(Emmett, P.H.)及びテーラー・イー(Teller, E)の米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society), 60, 309-16(1938)に詳細に述べられている。細孔容積及び細孔寸法分布は従来の水銀ポロシメーター法によって測定される。この水銀ポロシメーター法については、ドレーク(Drake)及びリッター(Ritter)による工業技術化学分析版(Industrial and Engineering, Analytical Edition), 17, 787(1945)を参照されたい。このようなキャリアはノートン社(Norton Company)から市販されている。
【0015】
商用のエチレンオキシド生成アプリケーションに用いるために、各担体を固定床型反応装置に用いるのに適切な寸法の、一様に加工したペレット、球状体、リング、粒子、塊状体、小片、ペレット、及び車輪状体等に形成されるのが望ましい。望ましくは、担体粒子は、触媒が載置される管型反応装置の内径と常に適合する、約3mm〜約10mmの範囲、好ましくは約4mm〜約8mmの範囲にある「相当径(equivalent diameters)」を有することができる。「相当径」は、用いられている担体粒子と同一の外表面(即ち、粒子の細孔内の表面を無視した外表面)対体積比を有する球体の直径である。
【0016】
前述したような従来の多孔質で耐熱性の担体は、銀含浸溶液、好ましくは、銀水溶液で含浸される。担体はまた、同時に或いは別の工程で種々の触媒プロモーターによって含浸される。本発明に従って調製される好ましい触媒は、多孔質で耐熱性の担体の表面上及び細孔全体に亘って被着される約45重量百分率までの(金属として表される)銀を含んでいる。全触媒の重量基準で約1〜40%の(金属として表される)銀含有量が好ましいが、8〜35%の銀含有量が更に好ましい。担体上に被着するか又は担体上に存在する銀の量は、触媒的に有効な量の銀である量、言い換えると、エチレン及び酸素の反応を経済的に触媒してエチレンオキシドを生成する量である。本明細書で使用される「触媒的に有効な量の銀」という用語は、エチレン及び酸素からエチレンオキシドへの測定可能な変換をもたらすと共に、触媒寿命における選択性及び活性の安定性をもたらす銀の量に言及する。有用な銀含有化合物は、銀シュウ酸塩、銀硝酸塩、銀酸化物、銀炭酸塩、銀カルボン酸塩、銀クエン酸塩、銀フタル酸塩、銀乳酸塩、銀プロピオン酸塩、銀酪酸塩、及び高級脂肪酸塩並びにこれらの組合せを非排他的に含む。
【0017】
この触媒は、触媒的に有効な量の銀、促進量のアルカリ金属、多孔質で耐熱性の担体上に支持された促進量の遷移金属を含む。本明細書で使用される、或る触媒の或る成分の「促進量」という用語は、前記成分を含まない触媒と比較したときに、効果的に働いてその触媒の1以上の触媒特性の改善をもたらすその成分の量に言及する。用いられる実際の濃度は、勿論、他の要因の中でもとりわけ、所望の銀内容物、担体の性質、液体の粘度、及び銀化合物の溶解度に依存するであろう。
【0018】
銀の他に、上記触媒は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはこれらの組合せから選択したアルカリ金属プロモーターをも含むが、セシウムが好ましい。担体または触媒上に被着するか、或いは担体または触媒上に存在するアルカリ金属の量は、促進量であるべきである。好ましくは、この量は、(金属として測定される)全触媒の重量で約10ppm〜約3000ppmの範囲にあり、更に好ましくは約15ppm〜約2000ppmの範囲にあり、また更に好ましくは約20ppm〜約1500ppmの範囲にあり、またより好ましくは約50ppm〜約1000ppmの範囲にある。
【0019】
また、上記触媒は、元素周期表の5b、6b、7b及び8族から選択される元素、及びこれらの組合せを含む遷移金属プロモーターを含んでいる。好ましくは、遷移金属は、元素周期表の7b族から選択される元素を含んでいる。より好ましい遷移金属は、レニウム、モリブデン及びタングステンであり、モリブデン及びタングステンが最も好ましい。担体若しくは触媒上に被着するか、又は担体若しくは触媒上に存在する遷移金属プロモーターの量は、促進量であるべきである。遷移金属プロモーターは、(金属として測定される)全触媒の、1グラム当たり約0.1ミクロモル〜1グラム当たり約10ミリモルの量で、好ましくは1グラム当たり約0.2ミクロモル〜1グラム当たり約5ミリモルの量で、より好ましくは1グラム当たり約0.5ミクロモル〜1グラム当たり約4ミリモルの量で存在し得る。
【0020】
また、担体を含浸させるのに使用する銀溶液は、技術上既知の任意の溶媒または錯化/可溶化剤を備えても良い。様々な溶媒または錯化/可溶化剤は、所望の濃度に含浸媒質に可溶化させるのに用いることができる。有用な錯化/可溶化剤は、アミン類、アンモニア、乳酸及びこれらの組合せを含んでいる。アミン類は1個〜5個の炭素原子を有するアルキレン・ジアミンを含んでいる。好ましい一実施例では、上記溶液は、銀シュウ酸塩とエチレン・ジアミンの水溶液を含んでいる。錯化/可溶化剤は、銀の1モル当たりエチレン・ジアミンを約0.1〜約5.0モルの量、好ましくは約0.2〜約4.0モルの量、更に好ましくは銀の各モル当たりエチレン・ジアミンを約0.3〜約3.0モルの量を含む含浸水溶液中に存在することができる。
【0021】
溶媒を使用する場合、この溶媒は水性或いは有機性であって良く、またイオン化しているか、または実質的に或いは全体として非イオン化のものであって良い。一般に、溶媒は各溶液成分を可溶化するに十分な溶媒和力を有するべきである。同時に、溶媒和プロモーターに過度の影響を及ぼしたり、又は相互作用を有することを回避するように溶媒を選ぶことが好ましい。有機性溶媒の諸例は、これだけに限定されるものではないが、アルコール類、特にアルカノール類、グリコール類、特にアルキル・グリコール類、ケトン類、アルデヒド類、アミン類、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、グリム類、特にグリム、ジグリム及びテトラグリム等を含んでいる。1分子当たり1個〜約8個の炭素原子を有する有機性溶媒が好ましい。こういった混合溶媒が本明細書に所望されるように機能するという条件で、有機溶媒、または水性及び1つ以上の有機溶媒の混合物を使用して良い。
【0022】
溶液中の銀塩の濃度は、重量で約0.1%〜使用される特定の塩/可溶化剤組合せの溶解度によって許容される最大値、の範囲にある。銀を重量で0.5%〜約45%を含む銀塩溶液を用いることが一般に極めて適切であり、重量で5%〜30%の銀濃度が好ましい。
【0023】
選択された担体の含浸は、過剰量の溶液での含浸、初期の湿潤等によって従来の方法で実行される。一般に、担体材料は、十分な量の溶液が担体によって吸収されるまでは、銀溶液中に入れておく。好ましくは、多孔質担体を含浸するのに使用される銀塩溶液の量は、せいぜい多孔質担体の細孔容積を満たすのに必要な程度に過ぎない。銀含有液は、吸収、毛管現象及び/又は真空によって担体の細孔中に浸透する。中間の乾燥を有するか又は有さない、単一の含浸または連続する含浸は、溶液中の銀の濃度に部分的に依存して使用できる。含浸手法は、本明細書において参照され導入される米国特許第4,761,394号、第4,766,105号、第4,908,343号、第5,057,481号、第5,187,140号、第5,102,848号、第5,011,807号、第5,099,041号及び第5,407,888号に記載されている。種々のプロモーターの事前の被着、同時被着及び事後の被着に関する既知の従来の手法を用いることができる。
【0024】
触媒特性例は、とりわけ、操作性(耐暴走性)、選択性、活性、変換、安定性及び歩留まりを含む。他の触媒特性は高めても高めなくとも良く、又は弱めてさえも良いが、個々の触媒特性のうちの1以上は「促進量」によって高めることができることが当業者に理解される。異なる触媒特性は異なる操作条件で高めることができることが更に理解される。例えば、1組の操作条件で強化した選択性を有する触媒は異なる組の条件で操作することができ、この際、改良は選択性よりもむしろ活性に現れ、原料コスト、エネルギーコスト、副生成物除去コスト等を配慮することによって条件及び結果を最適化するために他の触媒特性を使ってまでも或る触媒特性を生かすべく、エチレンオキシドプラントのオペレータが意図的に操作条件を変換することとなる。本発明の銀、担体、アルカリ金属プロモーター、及び遷移金属プロモーターの特定の組合せは、銀及び担体、それにあったとしても1つのプロモーターの同一の組合せを凌いで1つ以上の触媒特性に改良をもたらすこととなる。
【0025】
含浸後、銀前駆化合物及びプロモーターを含浸した担体は、銀化合物を金属銀に還元すると共に、銀含有担体から揮発性分解生成物を除去するのに十分な時間をかけて焼成または活性化される。好ましくは段階的速度で、約200℃〜約600℃、好ましくは約250℃〜約500℃、更に好ましくは約300℃〜約450℃の範囲の温度、0.5〜35barの範囲の反応圧力で、含有している銀を金属銀に変換すると共に、全てまたは実質的に全ての本有機材料を分解して揮発物と同一物として除去するのに十分な時間をかけて、含浸した担体を加熱することによって焼成が行われる。有用な加熱時間は、約1分〜約12時間、好ましくは約2分〜約6時間、また更に約2分〜約1時間に亘る。一般に、温度が高ければ高い程、所要の還元期間は短縮される。含浸された担体を熱的に処理するのに広範囲の加熱期間が示唆されてきたが(例えば、米国特許第3,563,915号は300秒以下の加熱を示唆し、米国特許第3,702,259号は触媒中の銀塩を還元するのに100℃〜375℃の温度で2時間〜8時間加熱することを開示しており、また米国特許第3,962,136号は同じ温度範囲で30分〜8時間を示唆している)、銀塩を触媒的に活性な金属に実質的に完全に還元することを達成するようにして、還元時間を温度と関係するようにすることが単に重要なだけである。連続的または段階的加熱プログラムをこの目的のために使用して良い。
【0026】
本発明によれば、加熱の際、含浸した担体は、不活性ガスと、体積で約10ppmから約5%の酸素を含んだ酸化成分のガスとの組合せを含む雰囲気下で保持される。本発明の目的のために、不活性ガスは選択した触媒調製条件下で触媒生成成分と実質的には反応しないものとして定義される。これらの不活性ガスは窒素、アルゴン、クリプトン、ヘリウム、及びこれらの組合せを含んでおり、好ましい不活性ガスは窒素である。酸素含有酸化成分のガスは、酸素分子、CO2、NO、NO2、N2O3、N2O4若しくはN2O5、又はNO、NO2、N2O3、N2O4若しくはN2O5を焼成条件下で形成することが可能な物質、又はこれらの組合せを含むことができ、かつ、任意にSO3、SO2、P2O5、P2O3又はこれらの組合せを含んでいる。これらのうち、酸素分子が好ましく、より好ましいのはO2とNO又はNO2との組合せである。有用な実施例では、雰囲気は、体積で約10ppm〜約1%の酸素含有酸化成分のガスを含んでいる。別の有用な実施例では、雰囲気は、約50ppm〜約500ppmの酸素含有酸化成分のガスを含んでいる。
【0027】
エチレンオキシドの生成
一般に、商業的に実施されているエチレンオキシド生成プロセスは、約180℃〜約330℃、及び好ましくは約200℃〜約325℃、更に好ましくは約225℃〜約270℃の範囲の温度、所要の質量速度及び生産性に応じて約大気圧〜約30気圧に変化し得る圧力、本触媒の存在下で、酸素含有ガスをエチレンと連続的に接触させることによって実行される。約大気圧〜約500psiの範囲にある圧力が一般に用いられる。しかしながら、より高い圧力を本発明の範囲内で用いても良い。大規模の反応装置内での滞留時間は一般に約0.1秒〜5秒のオーダーである。酸素は、例えばタンク等の市販されている供給源からの空気又は酸素等の酸素含有気流として当該反応に供給することができる。得られたエチレンオキシドは、従来の方法を使用して反応生成物から分離され再生される。しかしながら、本発明では、このエチレンオキシドプロセスは、通常の濃度、例えば、約0.5〜約6体積百分率での二酸化炭素リサイクルを包含する通常のガス・リサイクルを想定している。エチレンをエチレンオキシドに酸化する通常のプロセスは、固定床管状反応装置中で触媒の存在下にて、分子酸素を用いてエチレンを気相酸化することを含む。従来の市販の固定床式エチレンオキシド反応装置は、一般に、外径が略1.8〜6.9cm(=0.7〜2.7インチ)、内径が略1.3〜6.4cm(=0.5〜2.5インチ)で、長さが略4.6〜14m(=14〜45フィート)の、触媒が充填された(適切なシェル中の)複数の細長い管状体として作られている。
【0028】
発明性を有する各触媒が、分子酸素を用いてエチレンをエチレンオキシドに酸化する際の特に選択的な各触媒であり得ることをこれまで示してきた。本発明の触媒の存在下でこのような酸化反応を実行する条件は従来技術で説明したものを広く含んでいる。このことは、例えば、適切な温度、圧力、滞留時間、窒素、二酸化炭素、蒸気、メタンまたは他の飽和炭化水素等の希釈剤と、例えば1,2ジクロロエタン、塩化ビニルまたは塩素化ポリフェニル化合物といった触媒作用を制御する緩和剤の有無と、エチレンオキシドの歩留まりを向上すべく循環操作を用いたりまたは異なる反応装置内での連続した変換を応用したりする望ましさと、エチレンオキシドを調製するプロセスで選択し得る任意の他の特定の条件とに当てはまる。反応剤として用いられる分子酸素は従来の供給源から得ても良い。適切な酸素チャージは、比較的純粋な酸素、窒素、アルゴン等の一種以上の希釈剤を少量有し、酸素を多量含む高濃度の酸素気流、または空気等の別の酸素含有気流であって良い。エチレン酸化反応における本触媒の使用は、有効であると知られているものの中で特定の条件の使用に決して限定されるものではない。
【0029】
得られたエチレンオキシドは技術上知られ使用されている従来の方法によって反応生成物から分離され、再生される。エチレンオキシド生成プロセスに本発明の銀触媒を使用することによって、一定のエチレン変換でエチレンオキシドに対して従来の触媒で可能であったよりも高い総合エチレン酸化選択性が与えられる。
【0030】
エチレンオキシドの生成において、反応物質供給混合物は、0.5〜45%のエチレンと、3〜15%の酸素と、窒素、二酸化炭素、メタン、エタン及びアルゴン等の物質を含む比較的不活性な材料を含む残部とを含むことができる。本発明の銀触媒の好ましい応用において、酸素含有ガスが約95%以上の酸素を含む場合にエチレンオキシドが生成される。触媒を除外する毎にエチレンの一部分のみが常に反応し、また不活性物質及び/又は副生成物が無制御に増加するのを防止すべく所望のエチレンオキシド生成物を分離すると共に、適切なパージ気流及び二酸化炭素を除去した後に、未反応材料が酸化反応装置に戻される。例示のみの目的で、以下の事項は現在の市販のエチレンオキシド反応装置によく使用される条件である。
GHSV 1,500 〜 10,000
入口圧力 150 〜 400psig
入口供給:
エチレン 1 〜 40%
O2 3 〜 12%
CO2 2 〜 40%
エタン 0 〜 3%
アルゴン及び/又はメタン及び/又は窒素:
0.3〜20ppmの全希釈塩化炭化水素減速材
冷却水温度 180 〜 315℃
触媒温度 180℃
O2変換レベル 10 〜 60%
EO生成(仕事率(Work Rate))2〜16 l.b.s. EO/cu.ft. 触媒/時間
【0031】
以下の非限定的な具体例は本発明を例示するものである。
【0032】
具体例
キャリア調製
触媒キャリアは、キャリア製造業者によって供給されるような1000gのアルミニウム・キャリアを取ると共に、先ず、これを水中に1300g、1.2モルNaOHを含んだ循環水溶液で処理することによって得られた。NaOH水溶液をキャリアに接触させると直ちに、温度は30分で室温から80℃に上昇し、次いでこの温度に1時間保持された。処理を行った後、水溶液を排出して、室温の1300gの循環脱イオン化水を使用してキャリアを1時間洗浄し、しかる後にこれを排出した。この洗浄手順は4回以上繰り返した。処理したキャリアを一晩150℃で乾燥した。
【0033】
触媒A
キャリアに銀アミン溶液を真空含浸することによって、最終の生成物中に目標とする11.4%の銀に対して触媒Aを調製した。CsOHからのセシウム・プロモーターをも含んだ銀アミン溶液は、410ppm〜650ppmの間で変動する最終的触媒の目標とする濃度に応用された。この溶液はまた、過レニウム酸アンモニウムから最終の触媒中の目標とする280ppmレニウムに対してのレニウムを含んだ。含浸されたキャリアは最大温度400℃の純粋な窒素雰囲気中で加熱炉を通して移動するベルト上で焼成された。
【0034】
触媒B
含浸したキャリアを窒素及び100ppm酸素の雰囲気下で加熱炉を通して移動するベルト上で焼成すること以外は、触媒Aの調製を再現することによって触媒Bを調製した。
【0035】
触媒C
含浸したキャリアを空気の雰囲気下で加熱炉を通して移動するベルト上で焼成すること以外は、触媒Aの調製を再現することによって触媒Cを調製した。
【0036】
試験
各触媒を、737の重量仕事率(weight Work Rate)での試験において比較した。これらのキャリア上で調製した各触媒の選択性性能を図1に表す。図1は、(A)純粋な窒素中、(B)少量の酸素を添加した窒素中、及び(C)空気中で焼成した触媒の経過時間に対する選択性を示している。このデータは少量の酸素を添加した窒素中で焼成することにより触媒の性能が改善されることを明瞭に示している。
【0037】
本発明を特に好ましい実施例を参照して示すと共に説明してきたが、種々の変更及び修正を本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行い得ることは当業者に認められよう。請求の範囲は開示した実施例、以上において考察したそれらの代替例、及び全ての等価物に及ぶように解釈すべきことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】具体例の各触媒に対して、(A)純粋な窒素中、(B)少量の酸素を添加した窒素中、及び(C)空気中で焼成した触媒の時間経過に伴う選択性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物を含んだ溶液を不活性担体に含浸すること、
前記銀含有化合物中の銀を金属銀に変換し実質的に全ての有機材料を分解して除去するのに十分な時間、前記含浸した担体を約200℃〜約600℃の温度で加熱することによって前記含浸した担体を焼成することを含み、
前記加熱は、不活性ガスと、酸素含有酸化成分から成り体積で約10ppm〜約5%のガスとの組合せを含む雰囲気下で行なわれる、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な触媒を調製するためのプロセス。
【請求項2】
前記不活性担体は、α-アルミナを含む、請求項1のプロセス。
【請求項3】
前記溶液は、水溶液を含む、請求項1のプロセス。
【請求項4】
前記銀含有化合物は、銀シュウ酸塩、銀硝酸塩、銀酸化物、銀炭酸塩、銀カルボン酸塩、銀クエン酸塩、銀フタル酸塩、銀乳酸塩、銀プロピオン酸塩、銀酪酸塩、銀脂肪酸塩及びこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項5】
前記溶液は、更に、アミン、アルコール、アンモニア、乳酸及びこれらの組合せから成る群から選択される成分を含む、請求項1のプロセス。
【請求項6】
前記溶液は、更にアミンを含む、請求項1のプロセス。
【請求項7】
前記溶液は、更に1〜5個の炭素原子を有するアルキレン・ジアミンを含む、請求項1のプロセス。
【請求項8】
前記溶液は、銀シュウ酸塩及びエチレン・ジアミンを含む、請求項1のプロセス。
【請求項9】
前記酸素含有酸化成分から成る前記ガスは、CO、NO、NO、N、N若しくはN、又はNO、NO、N、N若しくはNを焼成条件下で形成することが可能な物質、又はこれらの組合せを含み、及び選択的にSO、SO、P、P又はこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項10】
前記酸素含有酸化成分から成る前記ガスは、Oを含む、請求項1のプロセス。
【請求項11】
前記酸素含有酸化成分から成る前記ガスは、NO又はNOとの組合せでOを含む、請求項1のプロセス。
【請求項12】
前記アルカリ金属含有化合物は、ルチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項13】
前記アルカリ金属含有化合物は、セシウムを含む、請求項1のプロセス。
【請求項14】
前記遷移金属は、元素周期表の5b、6b、7b及び8族から選択される少なくとも1の元素、及びこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項15】
前記遷移金属は、元素周期表の7b族から選択される少なくとも1の元素、及びこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項16】
前記遷移金属は、レニウム、モリブデン、タングステン又はこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項17】
前記遷移金属は、モリブデンを含む、請求項1のプロセス。
【請求項18】
前記遷移金属は、レニウムを含む、請求項1のプロセス。
【請求項19】
前記不活性ガスは、窒素、アルゴン、クリプトン、ヘリウム又はこれらの組合せを含む、請求項1のプロセス。
【請求項20】
前記不活性ガスは、窒素を含む、請求項1のプロセス。
【請求項21】
前記雰囲気は、酸素含有酸化成分から成り、体積で約10ppm〜約1%のガスを含む、請求項1のプロセス。
【請求項22】
前記雰囲気は、酸素含有酸化成分から成り、体積で約50ppm〜約500ppmのガスを含む、請求項1のプロセス。
【請求項23】
前記加熱は、約1分〜約1時間行われる、請求項1のプロセス。
【請求項24】
前記不活性担体は、α-アルミナを含み、
前記銀含有化合物は、銀シュウ酸塩、銀酸化物、銀炭酸塩、銀乳酸塩及びこれらの組合せを含み、
前記アルカリ金属含有化合物は、ルチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はこれらの組合せを含み、
前記遷移金属は、レニウムを含み、
前記不活性ガスは、窒素、アルゴン、クリプトン、ヘリウム、二酸化炭素又はこれらの組合せを含み、
前記雰囲気は、前記酸素含有酸化物成分から成り、体積で約10ppm〜約1%のガスを含む、請求項1のプロセス。
【請求項25】
前記不活性担体は、α-アルミナを含み、
前記銀含有化合物は、銀シュウ酸塩、銀酸化物、銀炭酸塩、銀乳酸塩及びこれらの組合せを含み、
前記アルカリ金属含有化合物は、セシウムを含み、
前記遷移金属は、レニウムを含み、
前記不活性ガスは、窒素を含み、
前記雰囲気は、酸素含有酸化物成分から成り、約10ppm〜約500ppmの前記ガスを含む、請求項1のプロセス。
【請求項26】
請求項1のプロセスに従って調製される前記触媒。
【請求項27】
固定床管状反応装置において、或る触媒の存在下、酸素分子を用いてエチレンを気相酸化することを含み、
前記触媒は請求項1のプロセスに従って調製される、
エチレンをエチレンオキシドに酸化するプロセス。
【請求項28】
触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物を含んだ溶液を不活性担体に含浸すること、
前記銀含有化合物中の銀を金属銀に変換し実質的に全ての有機材料を分解して除去するのに十分な時間、約200℃〜約600℃の温度で前記含浸した担体を加熱することによって前記含浸した担体を焼成することを含み、
前記加熱は、不活性ガスと、酸素含有酸化成分から成り体積で約10ppm〜約1%のガスとの組合せを含む雰囲気下で行なわれる、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な触媒を調製するためのプロセス。
【請求項29】
触媒的に有効な量の銀含有化合物、促進量のアルカリ金属含有化合物、及び促進量の遷移金属含有化合物を含んだ溶液を不活性担体に含浸すること、
前記銀含有化合物中の銀を金属銀に変換し実質的に全ての有機材料を分解して除去するのに十分な時間、約200℃〜約600℃の温度で前記含浸した担体を加熱することによって前記含浸した担体を焼成することを含み、
前記加熱は、不活性ガスと、酸素含有酸化成分から成り体積で約10ppm〜約500ppmのガスとの組合せを含む雰囲気下で行なわれる、エチレン及び酸素からエチレンオキシドを気相中で生成するのに有用な触媒を調製するためのプロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2008−540098(P2008−540098A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510672(P2008−510672)
【出願日】平成18年5月5日(2006.5.5)
【国際出願番号】PCT/IB2006/002030
【国際公開番号】WO2007/000664
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(507273035)エスデー リ−ツェンスフェルヴェールトゥングスゲゼルシャフト エムベーハー ウント コー. カーゲー (13)
【氏名又は名称原語表記】SD LIZENZVERWERTUNGSGESELLSCHAFT MBH & CO.KG
【Fターム(参考)】