説明

低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体

【課題】軟質ポリウレタン発泡体の物性を良好に維持することができると共に、難燃剤を用いることなく低燃焼性を発現することができる低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなるものであり、ポリオール類又はポリイソシアネート類は植物由来の原料を用いて形成され、その植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%に設定されるものである。ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオール、及びポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーの少なくとも一方を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品、自動車部品などの製品に低燃焼性(難燃性)を付与するための低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品や自動車部品などの材料であるポリウレタン発泡体に低燃焼性を付与する場合、ハロゲンや金属酸化物などが添加されている。特に、ハロゲンを使用すれば、ポリウレタン発泡体に低燃焼性を容易に付与することができる。ハロゲンを使用しないで低燃焼性を付与するためには、金属酸化物や燐酸系の難燃剤を使用することにより低燃焼性を付与することができる。一方、近年炭酸ガス排出規制が制定され、原料も化石燃料からバイオマス原料へと移行する環境下にあり、特に植物由来原料を使用した製品開発が急速に進められている。
【0003】
例えば、本願出願人はハロゲンを使用しないノンハロゲンタイプの低燃焼性ポリウレタン発泡体を提案した(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、低燃焼性ポリウレタン発泡体は、ポリオールとポリイソシアネートを難燃剤、触媒及び発泡剤の存在下に反応させて得られるもので、ポリオールにはフタル酸エステルポリオールを含み、難燃剤には平均粒径0.5μm以下のメラミンパウダーを含むものである。
【0004】
また、石油から誘導したポリオールの少なくとも一部をアルコキシル化植物油ヒドロキシレートで置き換えたポリウレタン発泡体が知られている(例えば、特許文献2を参照)。すなわち、該ポリウレタン発泡体は、ポリイソシアネート及びアルコキシル化植物油ヒドロキシレートに基づいて15〜90質量%のアルコキシレートを含む少なくとも1種のアルコキシル化植物油ヒドロキシレートを反応させた反応生成物を含むものである。具体的には、ポリオールとして大豆油ポリオールを使用したポリウレタン発泡体が開示されている。
【特許文献1】特開2007−2036号公報(第2頁及び第4頁)
【特許文献2】特開2006−291205号公報(第2頁、第18頁及び第19頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の低燃焼性ポリウレタン発泡体では、低燃焼性を高めるためにメラミンパウダーの配合量を増大させなければならず、その場合には過剰のメラミンパウダーによってポリウレタン発泡体の物性への影響が大きく、低燃焼性とのバランスに欠けるという問題があった。一方、特許文献2に記載されたポリウレタン発泡体では、環境に優しい再生可能な成分で製造されたポリウレタン発泡体を得ることを目的としていることから、環境に優しく、比較的物性の良好なポリウレタン発泡体が得られる。しかしながら、物性を良好に維持するために発泡体原料中における植物由来成分の占める割合が少ないことから、低燃焼性が不足するという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、軟質ポリウレタン発泡体の物性を良好に維持することができると共に、優れた低燃焼性を発現することができる低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなるものである。そして、ポリオール類又はポリイソシアネート類は植物由来の原料を用いて形成され、その植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%であることを特徴とする。
【0008】
請求項2の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、請求項1に係る発明において、前記ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオール、及びポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと前記植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーの少なくとも一方を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項3の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、請求項2に係る発明において、前記植物由来の高級脂肪酸は、炭素数12〜18の化合物であることを特徴とする。
請求項4の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、請求項2又は請求項3に係る発明において、前記ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオールを用い、かつポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと前記植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類又はポリイソシアネート類は植物由来の原料を用いて形成され、その植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%である。ポリオール類又はポリイソシアネート類を形成する植物由来の原料は、酸素原子を有しない炭化水素鎖の占める割合が大きいことから、軟質ポリウレタン発泡体に低燃焼性を付与することができる。このため、難燃剤を配合しなくとも低燃焼性を発現することができ、難燃剤の過剰配合による軟質ポリウレタン発泡体の物性低下を回避することができる。さらに、ポリオール類又はポリイソシアネート類として植物由来の原料を発泡体原料に対して15〜75質量%用いることにより、低燃焼性と物性とのバランスを図ることができる。従って、軟質ポリウレタン発泡体の物性を良好に維持することができると共に、優れた低燃焼性を発現することができる。
【0011】
請求項2の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオール、及びポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと前記植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーの少なくとも一方を用いるものである。このため、ポリオール類及びポリイソシアネート類の少なくとも一方の植物由来の原料により、請求項1に係る発明の効果を奏することができる。
【0012】
請求項3の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、植物由来の高級脂肪酸は、炭素数12〜18の化合物である。このため、請求項2に係る発明の効果に加え、ウレタン化反応に支障を来たすことなく、軟質ポリウレタン発泡体の低燃焼性を有効に発揮することができる。
【0013】
請求項4の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオールを用い、かつポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと前記植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを用いるものである。このため、請求項2又は請求項3に係る発明の効果に加えて、軟質ポリウレタン発泡体の低燃焼性を最も効果的に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体(以下、単に軟質ポリウレタン発泡体、ポリウレタン発泡体又は発泡体ともいう)は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなるものである。そして、ポリオール類又はポリイソシアネート類は植物由来の原料を用いて形成され、その植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%、好ましくは25〜75質量%に設定される。植物由来の原料の割合をこの範囲に設定することにより、軟質ポリウレタン発泡体の低燃焼性と良好な物性とをバランス良く発揮することができる。
【0015】
植物由来の原料の割合が15質量%より少ない場合には、軟質ポリウレタン発泡体に所望とする低燃焼性を付与することができなくなる。その一方、75質量%より多い場合には、ウレタン化反応や泡化反応に支障を来たしたり、得られる軟質ポリウレタン発泡体の物性が悪化する。係る低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体は、環境性能及び低燃焼性が要求されるプリンターの緩衝材等の電子部品、パッド類等の自動車内装部品などの分野において好適に使用される。
【0016】
前記軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させることにより形成されるものである。ここで、軟質ポリウレタン発泡体は軽量で、一般にセルが連通する連続気泡構造を有し、柔軟性があり、かつ復元性を有するものをいう。以下に、発泡体原料について順に説明する。
【0017】
まず、ポリオール類としては、植物由来ポリオールが用いられる。係る植物由来ポリオールは、酸素原子を含まない炭化水素鎖の占める割合が大きいポリオールであることから、低燃焼性を発現することができる。この植物由来ポリオール類は、複数の水酸基を有するポリオール〔化石燃料(非植物油)由来のポリオール〕と植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる化合物である。複数の水酸基を有するポリオールとしては、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等のポリオールや、該ポリオールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加させたポリオール等が用いられる。植物由来の高級脂肪酸としては、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、カプリン酸(炭素数10)、カプリル酸(炭素数8)等が用いられる。なお、上記の炭素数は、植物由来の高級脂肪酸が炭素数の異なるものの混合物であるため、その中心成分となる脂肪酸の炭素数を示す。
【0018】
前記植物由来の高級脂肪酸は、炭素数12〜18の化合物であることが好ましい。炭素数がこの範囲であることにより、酸素原子を含まない炭化水素鎖が十分に含有され、発泡体は良好な低燃焼性を発揮することができる。この炭素数が12未満の場合には、発泡体が十分な低燃焼性を発現することができず、加水分解性にも劣る。その一方、炭素数が18を超える場合には、ウレタン化反応の反応性が低下し、発泡体原料として好ましくない。
【0019】
植物由来ポリオールとして具体的には、ひまし油ポリオール、大豆油ポリオール、パーム油ポリオール、パーム核油ポリオール、ヤシ油ポリオール、オリーブ油ポリオール、綿実油ポリオール、サフラワー油ポリオール、ごま油ポリオール、ひまわり油ポリオール、アマニ油ポリオール等が挙げられる。この植物由来のポリオール類は、1分子中の水酸基の官能基数が通常2〜3である。
【0020】
ポリオール類としては、植物由来ポリオールのほか、発泡体原料として一般的に用いられるポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリエステルポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のポリオールにプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した化合物が挙げられる。
【0021】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
【0022】
ポリエーテルポリエステルポリオールとしては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のポリオールに、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した化合物に、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を反応させたものが用いられる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の数や水酸基価を変えることができる。
【0023】
また、ポリオール類の一部として架橋剤を配合することができる。この架橋剤としては、例えばポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等のポリオール(多官能アルコール)又は該ポリオールにアルキレンオキサイド等で鎖延長をした化合物等が挙げられる。架橋剤を含有することにより、軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を高め、発泡体の機械的物性を向上させることができる。
【0024】
次に、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、ポリイソシアネート(化石燃料由来)と前記植物由来ポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(植物由来ポリイソシアネートプレポリマー)が用いられる。ポリイソシアネートは発泡体原料として一般的に用いられるものが使用され、植物由来ポリオールは前述した植物由来ポリオールが使用される。この場合、ポリイソシアネートを植物由来ポリオールより過剰に使用し、末端にイソシアネート基が残るように反応が行われる。例えば、ひまし油ポリオールとトリレンジイソシアネートとを、トリレンジイソシアネートがひまし油ポリオールより過剰になるようにして所定時間加熱し、反応させることにより、末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを調製することができる。
【0025】
ポリイソシアネート類としては、上記の末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーのほかに発泡体原料として一般的に用いられるポリイソシアネート(化石燃料由来のポリイソシアネート)が使用される。係るポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。中でも、トリレンジイソシアネートは低密度(軽比重)のポリウレタン発泡体を製造するのに好ましい。
【0026】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は、適宜設定されるが、好ましくは70〜130、より好ましくは100〜120に設定される。イソシアネート指数を100〜120に設定することにより、発泡体の架橋密度を高めて発泡体の機械的物性などの物性を高めることができ、良好な発泡体を得ることができる。
【0027】
ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基、架橋剤であるポリオールの水酸基及び発泡剤(水)等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。イソシアネート指数が100を超えるということは、イソシアネート基が活性水素基より過剰であることを意味する。イソシアネート指数が70未満の場合には、ポリオール類などに対するポリイソシアネート類の反応が不足し、発泡体の破裂、崩壊が起きやすくなると共に、得られる発泡体の架橋密度が低下し、発泡体が軟らかくなって機械的物性が低下する。その一方、イソシアネート指数が130を超える場合には、発泡体の架橋密度が高くなってセルの連通性が悪くなると共に、ひずみ(歪)特性も低下する傾向を示す。
【0028】
低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体は、前述した植物由来ポリオールと植物由来ポリイソシアネートプレポリマーとの少なくとも一方を用いることにより得られる。発泡体の低燃焼性を最も有効に発揮させるためには、植物由来ポリオールと植物由来ポリイソシアネートプレポリマーとを併用することが望ましい。一般には、植物由来ポリオールは入手が容易であるため、利用しやすいが、植物由来ポリイソシアネートプレポリマーも植物由来ポリオールをポリイソシアネートと混合して加熱することにより速やかに反応が進行するため、容易に利用することができる。
【0029】
続いて、触媒はポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化反応(ウレタン化反応)を促進すると共に、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応などを促進するためのものである。樹脂化反応を選択的に促進する触媒としては特に金属触媒が用いられ、泡化反応を促進するための触媒としては特にアミン触媒が用いられる。金属触媒として具体的には、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルジ酢酸スズ、ジ(2−エチルヘキシル)ジラウリン酸スズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ、ジオクチルスズジラウレート等のスズ化合物やジ(2−エチルヘキサン酸)鉛等が挙げられる。アミン触媒として具体的には、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミンが挙げられる。
【0030】
この金属触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.05〜2.5質量部であることが好ましい。金属触媒の含有量が0.05質量部より少ない場合には、樹脂化反応の進行が不足し、発泡体が破裂、崩壊しやすく、得られる発泡体の架橋密度が低下して機械的物性が損なわれる。その一方、2.5質量部より多い場合には、樹脂化反応が過度に進行して発泡体の架橋密度が高く、セル膜が多くなり、セルの連通性が阻害されて通気性が悪化する。また、アミン触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜7.0質量部であることが好ましい。アミン触媒の含有量が0.1質量部より少ない場合には、泡化反応の進行が十分ではなく、得られる発泡体のセルの連通性が低下し、通気性が損なわれる傾向となる。その一方、7.0質量部より多い場合には、泡化反応の進行が過剰となり、反応調整が困難となることから、生産性を確保し難くなる。また、泡化と樹脂化とのバランスもとれず、良好な発泡体を得ることが困難となる。なお、触媒はアミン触媒と金属触媒との併用、アミン触媒の単独での使用のほか、適宜調整して使用される。
【0031】
次いで、発泡剤は、ポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体とするためのものである。この発泡剤としては、軟質ポリウレタン発泡体の製造で一般的に使用される水(ポリイソシアネート類と反応して炭酸ガスを発生する)、水と補助発泡剤としてのハロゲン化脂肪族炭化水素、例えばメチレンクロライド、トリクロロエタン、炭酸ガス等との併用、酸アミドとの併用が好適である。これらの発泡剤のうち、泡化反応の反応性に優れ、取扱性の良好な水が好ましいが、軽量な発泡体を求める場合には水のみではなく、補助発泡剤であるハロゲン化炭化水素、炭酸ガス等との併用が好ましい。
【0032】
発泡剤の含有量は、水の場合にはポリオール類100質量部当たり1.5〜5.0質量部であることが好ましい。この発泡剤の含有量が1.5質量部より少ない場合には泡化反応が不十分となり、発泡体を安定した状態で得ることができなくなる。その一方、発泡剤の含有量が5.0質量部より多い場合には、水とポリイソシアネート類との反応による発熱の問題が生じたり、発泡体の連続気泡構造が十分に形成されず好ましくない。補助発泡剤の含有量は、発泡体の見掛け密度を調整するために適宜決定されるが、ポリオール類100質量部当たり1.0〜10質量部であることが好ましい。補助発泡剤の含有量が1.0質量部より少ない場合には、補助発泡剤の気化量が少なく、補助発泡剤としての効果が低下する傾向を示す。一方、10質量部より多い場合には、発熱による十分な気化がなされず、補助発泡剤として満足できる効果が得られなくなる。
【0033】
続いて、整泡剤は、発泡剤によって行われる発泡を円滑に進行させるために必要に応じて用いられる。そのような整泡剤としては、軟質ポリウレタン発泡体を製造する際に通常使用されるものを用いることができる。整泡剤として具体的には、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。この整泡剤の含有量は常法に従って設定される。発泡体原料には、前記各原料のほか、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、破泡剤(充填剤)等を常法に従って配合することができる。
【0034】
前述したポリオール類とポリイソシアネート類との反応は常法に従って行われるが、ワンショット法又はプレポリマー法が採用される。ワンショット法は、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させる方法である。プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート類との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類又はポリイソシアネート類を反応させる方法である。また、軟質ポリウレタン発泡体としては、スラブ発泡法により得られる軟質スラブポリウレタン発泡体が好ましい。スラブ発泡法は、上記ワンショット法により混合攪拌された反応原料(反応混合液)をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に反応原料が常温、大気圧下で反応し、自然発泡することで得られる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)し、所定形状に裁断される。その他、モールド成形法、現場施工スプレー成形法等によって軟質ポリウレタン発泡体を得ることもできる。
【0035】
このようにして得られる軟質ポリウレタン発泡体は、例えば見掛け密度が15〜150kg/m、好ましくは20〜80kg/mのものである。ここで、見掛け密度はJIS K 7222:1999に準拠して測定される値である。この見掛け密度が15kg/mより低い場合、発泡体中のセルの割合が増え樹脂骨格が少なくなって発泡体が脆くなる傾向を示し、軟質ポリウレタン発泡体として好ましくない。その一方、見掛け密度が150kg/mより高い場合、物性的なデメリットは少ないが、軽量に設計できるという大きなメリットが得られ難くなる。
【0036】
軟質ポリウレタン発泡体は植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%に設定され、良好な低燃焼性が発現されることから、低燃焼性に関して少なくとも米国安全規格UL94−HF2を満たすことができる。さらに、植物由来の原料の割合を発泡体原料に対して25〜75質量%に設定することによって低燃焼性が一層向上し、低燃焼性に関して米国安全規格UL94−HF1を満たすことができる。
【0037】
さらに、発泡体の物性に関し、引張強さは好ましくは50〜230kPaであり、伸びは好ましくは100〜180%であり、かつ硬さは好ましくは2〜10kPaであって、軟質ポリウレタン発泡体として良好な物性を発揮することができる。
【0038】
以上の実施形態により発揮される作用、効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の軟質ポリウレタン発泡体では、ポリオール類又はポリイソシアネート類は植物由来の原料を用いて形成され、その植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%に設定される。ポリオール類又はポリイソシアネート類を形成する植物由来の原料は、酸素原子を有しない炭化水素鎖により構成されていることから、酸素の供給が抑えられ、発泡体の燃焼性を抑制することができる。
【0039】
このため、難燃剤を配合しなくとも発泡体は低燃焼性を発現することができ、難燃剤の過剰配合による発泡体の物性低下を回避することができる。さらに、ポリオール類又はポリイソシアネート類として植物由来の原料を発泡体原料に対して15〜75質量%用いることにより良好な発泡体が得られ、該発泡体の低燃焼性と機械的物性とのバランスを図ることができる。従って、環境に配慮した発泡体を得ることができると共に、発泡体の物性を良好に維持することができ、難燃剤を用いることなく優れた低燃焼性を発揮することができる。
【0040】
・ ポリオール類として前述の植物由来ポリオール及び末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーの少なくとも一方を用いることにより、ポリオール類及びポリイソシアネート類の少なくとも一方の植物由来原料によって、上記の効果を奏することができる。
【0041】
・ 植物由来の高級脂肪酸は、炭素数12〜18の化合物であることにより、ウレタン化反応に支障を来たすことなく、発泡体の低燃焼性を有効に発揮することができる。
・ ポリオール類として植物由来ポリオールを用い、かつポリイソシアネート類として植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを用いることにより、発泡体の低燃焼性を最も効果的に発揮することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。
(実施例1〜12及び比較例1〜3)
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、整泡剤及び触媒を含有する軟質ポリウレタン発泡体の発泡体原料を、表1に示す組成にて調製した。表1における発泡体原料の数値は質量部を表す。そして、発泡体原料を常温で混合し、常法に従って反応及び発泡(スラブ発泡)させることにより、縦400mm、横400mm及び厚さ300mm程度の軟質ポリウレタン発泡体(ブロック体)を製造し、各物性の測定は前記ブロック体を裁断加工することで評価を行った。
【0043】
表1に示す発泡体原料について以下に説明する。
ひまし油ポリオール:水酸基価160mgKOH/g、1分子中の水酸基の官能基数2.7、伊藤製油(株)製、URIC H−30
大豆油ポリオール1:水酸基価52mgKOH/g、1分子中の水酸基の官能基数2.0、USSC社製、Soyol R2−052 G
大豆油ポリオール2:水酸基価170mgKOH/g、1分子中の水酸基の官能基数3.0、USSC社製、Soyol R3−170 G
パーム油ポリオール:水酸基価154mgKOH/g、三洋化成工業(株)製、Imex-Polygreen61
化石燃料ポリオール1:水酸基価35mgKOH/g、1分子中の水酸基の官能基数3.0、三洋化成工業(株)製、FA703
化石燃料ポリオール2:水酸基価56mgKOH/g、三洋化成工業(株)製、#3000(A−12)
化石燃料ポリオール3:水酸基価60.5mgKOH/g、1分子中の水酸基の官能基数2.7、トリメチロールプロパン及びジエチレングリコールにアジピン酸(炭素数6)を付加させたポリオール、日本ポリウレタン工業(株)製、N−2200
ポリイソシアネートプレポリマー1:ひまし油ポリオール〔伊藤製油(株)製、URIC H−30〕53質量%とトリレンジイソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートT−65〕47質量%との反応生成物で末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートプレポリマー、イソシアネート基含有量16質量%
ポリイソシアネートプレポリマー2:ひまし油ポリオール〔伊藤製油(株)製、URIC H−30〕63質量%とトリレンジイソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートT−65〕37質量%との反応生成物で末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートプレポリマー、イソシアネート基含有量10質量%
なお、ポリイソシアネートプレポリマー1及び2は、所定量のひまし油ポリオールとトリレンジイソシアネートとを反応容器に投入し、撹拌しながら70〜80℃に加熱し、その温度で3時間30分保持して反応させた後、室温まで冷却して調製したものである。
【0044】
ポリイソシアネートプレポリマー3:ひまし油ポリオールと4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)との反応生成物で末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートプレポリマー、イソシアネート基含有量16質量%、1分子中のイソシアネート基の官能基数2.0、伊藤製油(株)製、URIC N−2023
ポリイソシアネートT−65:2,4−トリレンジイソシアネート65質量%と2,6−トリレンジイソシアネート35質量%との混合物、イソシアネート基含有量48質量%、1分子中のイソシアネート基の官能基数2.0、日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートT−65
ポリイソシアネートT−80:2,4−トリレンジイソシアネート80質量%と2,6−トリレンジイソシアネート20質量%との混合物、イソシアネート基含有量48質量%、1分子中のイソシアネート基の官能基数2.0、日本ポリウレタン工業(株)製、コロネートT−80
アミン触媒1:トリエチレンジアミン:ジプロピレングリコール=33:67(質量比)の触媒
アミン触媒2:花王(株)製、カオライザーNo.3
アミン触媒3:花王(株)製、カオライザーNo.8
金属触媒1:オクチル酸スズ、城北化学工業(株)製、MRH−110
金属触媒2:ジブチルスズジラウレート、共同薬品(株)製、KS−1260
整泡剤1:シリコーン整泡剤、東レ・ダウシリコーン(株)製、PRX607
整泡剤2:シリコーン整泡剤、東レ・ダウシリコーン(株)製、SZ−1336
整泡剤3:シリコーン整泡剤、東レ・ダウシリコーン(株)製、SZ−1720
整泡剤4:シリコーン整泡剤、東レ・ダウシリコーン(株)製、SH−192
難燃剤:リン酸エステル系、大八化学(株)製、SH−880
植物由来の原料の割合を示す植物比率(%):
(植物由来の原料の質量/発泡体原料の質量)×100
そして、得られた軟質ポリウレタン発泡体について、見掛け密度、引張強さ、伸び及び硬さを以下に示す方法により測定すると共に、燃焼性試験を下記の方法に従って行った。それらの結果を表1に示した。
【0045】
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222(1999)に準拠して測定した。
引張強さ(kPa):JIS K 6400−5(2004)に準拠して測定した。
伸び(%):JIS K 6400−5(2004)に準拠して測定した。
【0046】
硬さ(25%圧縮、kPa):JIS K 6400−2(2004)に準拠して測定した。
燃焼性試験:米国安全規格UL94−HF1及びUL94−HF2に準拠し、厚さ3mmの発泡体サンプルについて測定を行った。
【0047】
ここで、比較例1〜3では植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15質量%に満たない場合の例を示す。
【0048】
【表1】

表1に示した結果より、実施例1〜12では植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15.3〜72.1質量%に設定されていることから、発泡体の引張強さ、伸び、硬さなどの物性を良好に発揮することができると共に、燃焼性試験において少なくとも米国安全規格UL94−HF2に合格する性能を発揮することができた。特に、ポリオール類とポリイソシアネート類の双方に植物由来の原料を用い、植物比率の高い実施例4〜7及び実施例9、10の場合には、燃焼距離が短く、米国安全規格UL94−HF1に合格する結果が得られた。
【0049】
一方、比較例1では植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15質量%未満に設定されていることから、発泡体について燃焼性試験で米国安全規格UL94−HF2に不合格であった。さらに、比較例2及び3では、植物由来の原料の割合が比較例1よりもさらに少なく、イソシアネート指数も高いことから、発泡体原料のバランスを欠き、発泡を行うことができない結果となった。
(実施例13〜23及び比較例4)
発泡体原料の組成を表2に示すように設定し、実施例1と同様に操作して軟質ポリウレタン発泡体を調製した。得られた軟質ポリウレタン発泡体について、見掛け密度、引張強さ、伸び及び硬さを測定すると共に、燃焼性試験を測定した。それらの結果を表2に示した。
【0050】
【表2】

表2に示した結果より、実施例13〜23では植物由来の原料の割合を発泡体原料に対して20.9〜48.7質量%に設定したことから、発泡体の引張強さ、伸び、硬さなどの物性を良好に発揮することができると共に、燃焼試験において少なくとも米国安全規格UL94−HF2に合格する性能を発揮することができた。特に、ポリオール類とポリイソシアネート類の双方に植物由来の原料を用い、植物比率の高い実施例13〜15及び実施例18〜23の場合には、燃焼距離が短く、米国安全規格UL94−HF1に合格する結果が得られた。また、実施例18〜22ではイソシアネート指数を70〜130まで変化させたが、優れた低燃焼性と良好な機械的物性を発揮することができた。なお、実施例18には難燃剤が含まれていることから、低燃焼性が非常に優れていた。
【0051】
一方、比較例4では植物由来の原料が発泡体原料に含まれていないことから、発泡体について燃焼性試験で米国安全規格UL94−HF2に不合格となる結果であった。
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0052】
・ 植物油ポリオールとして、コーン油ポリオール、こめ油ポリオール、オリーブ油ポリオール、桐油ポリオール等を使用することができる。
・ 植物油ポリオールに動物油ポリオールとして、牛脂ポリオール、豚脂ポリオール、いわし油ポリオール、さば油ポリオール等を組合せて使用することも可能である。
【0053】
・ ポリイソシアネート類として、植物由来の原料を用いたイソシアネート基の含有量などが異なる複数の植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを使用することもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0054】
・ 前記植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して25〜75質量%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果を一層向上させることができる。
【0055】
・ 前記末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを形成するポリイソシアネートはトリレンジイソシアネートであることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項2から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、軟質ポリウレタン発泡体を容易に低密度にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有する発泡体原料を反応及び発泡させてなる軟質ポリウレタン発泡体であって、
前記ポリオール類又はポリイソシアネート類は植物由来の原料を用いて形成され、その植物由来の原料の割合が発泡体原料に対して15〜75質量%であることを特徴とする低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオール、及びポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと前記植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーの少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1に記載の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記植物由来の高級脂肪酸は、炭素数12〜18の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記ポリオール類として複数の水酸基を有するポリオールと植物由来の高級脂肪酸とを縮合反応させてなる植物由来ポリオールを用い、かつポリイソシアネート類としてポリイソシアネートと前記植物由来ポリオールとを反応させて末端にイソシアネート基を有する植物由来ポリイソシアネートプレポリマーを用いることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の低燃焼性軟質ポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2009−167255(P2009−167255A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4737(P2008−4737)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】