説明

低透湿性ポリオルガノシロキサン組成物

【課題】 無機質充填剤を含まない系においても、硬化して透湿性の低いシリコーンゴムを与えるポリオルガノシロキサン組成物を提供することである。
【解決手段】 (A)平均単位式(I)で示され、1分子当たり、2個以上のRを有するポリオルガノシロキサン 100重量部;(B)平均単位式(II)で示され、1分子当たり、2個超の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.5〜5.0個になる量;並びに(C)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)の量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量を含み、R及びRのうち、C−Cアルキル基が、ケイ素原子当たり1.6個未満である、ポリオルガノシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応によって硬化するポリオルガノシロキサン組成物に関し、特に低い透湿性を示すポリオルガノシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
未硬化状態で流動性を示し、硬化によってゴム状弾性体を形成する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物としては、硬化機構により、縮合反応型と、付加反応型とがある。前者は室温で硬化し、良好な接着性を示すが、硬化に長時間を要するうえ、空気中の水分の供給が十分でない部位における硬化性が悪いこと、及び硬化の際に副生物を発生させるので収縮を生じ、寸法安定性に欠けるばかりでなく、副生物によって処理対象や周辺の部品を汚染させるなどの問題がある。それに対して後者は、加熱により短時間に硬化することが可能で、空気中の水分の供給が十分でない部位においても硬化性が優れ、副生物の発生がないので、収縮や汚染を生じないなどの特徴を有する。
【0003】
このような流動性の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、電子部品のシーリング材、封止剤、保護材、絶縁材料などの用途に広く用いられている。しかしながら、ポリオルガノシロキサンは、分子鎖の間隙が大きいために透湿性が大きく、ポリオルガノシロキサン層だけでは、湿気の透過による影響を防ぐことができないので、必要に応じて他の材料による防湿層を設けるなどの対策を要し、その改良が求められていた。
【0004】
特に、ハードディスク装置は、円盤に磁性体層を設けたハードディスクを密閉容器に収容し、磁気ヘッドにより情報を読み出す装置であり、塵埃及び湿気の侵入を防止する必要から、容器と蓋の間に、透湿性の低いガスケットを備える必要がある。
【0005】
これに対し、縮合反応型ポリオルガノシロキサン組成物においては、マイカによる透湿性の抑制が提案されているが(特許文献1及び2)、この手法を、付加反応型ポリオルガノシロキサン組成物に適用する試みは、付加反応硬化型の場合にはベースポリマーのマイカへの親和性が乏しいために、均質で機械的性質の優れた硬化物を形成させることができず、成功していなかった。
【0006】
なお、ハードディスク装置用ガスケットに関しては、未硬化の状態では流動性の付加反応型シリコーンゴムを、パッキンとして用いることが開示されているが(特許文献3)、水蒸気に対するシール性が悪い。
【0007】
付加反応型ポリオルガノシロキサン組成物においては、シリコーンゴムの分子鎖を形成するケイ素原子の間に、エーテル酸素原子を含むフルオロカーボン鎖を導入したケイ素ポリマーをベースポリマーとして用いることにより、水蒸気に対するシール性を向上させることが開示されているが(特許文献4)、このような分子鎖の形成には、高価なフッ素資源と、煩雑な合成法を用いる必要があり、その実用性は乏しい。
【0008】
【特許文献1】特開昭53−73251号公報
【特許文献2】特開昭53−74560号公報
【特許文献3】特開昭62−98098号公報
【特許文献4】特開平05−144246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、付加反応型ポリオルガノシロキサンの特徴を生かしながら、無機質充填剤を含まない系においても、硬化して透湿性の低い硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物を提供することである。本発明のさらなる課題は、このような低い透湿性を示す保護層を有するハードディスク及び表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、付加反応型ポリオルガノシロキサン組成物において、ケイ素原子に結合する有機基のうち、C−Cアルキル基、特にメチルの数を、ケイ素原子1個当たり1.6個未満にすることによって、その課題を解決しうることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)平均単位式:RSiO(4−a−b)/2 (I)
(式中、
は、アルケニル基であり;
は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基であり;
aは、0.0001〜0.5であり、
bは、0.1〜2.0であり、
a+bは、0.1001〜2.2である)で示され、1分子当たり、2個以上のRを有するポリオルガノシロキサン 100重量部;
(B)平均単位式:RSiO(4−c−d)/2 (II)
(式中、
は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基を表し;
cは、0.1〜2.0であり、
dは、0.01〜1.0であり、
c+dは、0.11〜2.6である)で示され、1分子当たり、2個超の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.5〜5.0個になる量;並びに
(C)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)の量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量
を含み、R及びRのうち、C−Cアルキル基が、ケイ素原子当たり1.6個未満である、ポリオルガノシロキサン組成物
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、短時間の加熱で硬化し、収縮や、副生物による部品への汚染がないという付加反応型ポリオルガノシロキサンの特徴を生かしながら、無機質充填剤を用いなくても透湿性の低い硬化物を与えるポリオルガノシロキサン組成物を提供することができる。本発明の組成物は、より透湿性の低い硬化物を与え、湿気に鋭敏な各種機器や部品に、優れた保護層を形成することができる。したがって、本発明の組成物を用いて、従来品より低い透湿性を示す層を表面に有するハードディスク及び表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で用いられる(A)平均単位式:
SiO(4−a−b)/2 (I)
(式中、
は、アルケニル基であり;
は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基であり;
aは、0.0001〜0.5、好ましくは 0.001〜0.4であり、
bは、0.1〜2.0、好ましくは1.0〜2.0であり、
a+bは、0.1001〜2.2、好ましくは1.001〜2.2である)で示され、1分子当たり、2個以上のRを有するポリオルガノシロキサンは、本発明の組成物において、ベースポリマーとなる成分である。この(A)成分は、Rとしてケイ素原子に結合したアルケニル基を、1分子中に2個以上有し、(B)成分のヒドロシリル基との付加反応により、網状構造を形成して硬化物を得ることができる。(A)成分は、23℃における粘度が0.1〜1000Pa・sであるものが好ましく、より好ましくは0.2〜500Pa・sである。
【0014】
1は、アルケニル基、例えばC−Cアルケニル基であり、ビニル、アリル、3−ブテニル、5−ヘキセニルなどが例示され、中でもビニルが好ましい。
【0015】
は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基であり、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルのようなアルキル基;シクロヘキシルのようなシクロアルキル基;クロロメチル、3,3,3−トリフルオロプロピルのようなハロゲンで置換されたアルキル基;3−メタクリロキシプロピルのような(メタ)アクリロイル基で置換されたアルキル基;フェニル、トリル、ナフチルのようなアリール基;クロロフェニルのようなハロゲンで置換されたアリール基;2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルのようなアラルキル基が挙げられる。Rとしては、合成の点からC−Cアルキル基、特にメチルが好ましく、これとより嵩高いフェニル、トリル、ナフチルのようなアリール基、2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルのようなアラルキル基、シクロヘキシルのようなシクロアルキル基(例えば、C−Cシクロアルキル基)を併用することが透湿度を下げるため点から好ましい。アラルキル基は、アリール基で置換されたアルキル基であり、この場合のアリール基の好ましい例は、フェニル、トリル、ナフチル、特にフェニルであり、アルキル基の好ましい例は、C−Cアルキル基、特にエチル基、プロピル基である。
【0016】
なお、(A)成分は、上記の反応により硬化してゴム状弾性体を与えるために、(1)直鎖状のポリオルガノシロキサン、及び必要に応じて(2)分岐状ポリオルガノシロキサンからなることができる。
【0017】
本発明で用いられる(B)成分は、平均単位式:
SiO(4−c−d)/2 (II)
(式中、
は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基を表し;
cは、0.1〜2.0、好ましくは1.0〜2.0であり、
dは、0.01〜1.0、好ましくは0.1〜0.8であり、
c+dは、0.11〜2.6、好ましくは1.1〜2.2である)で示され、1分子当たり、2個超の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンである。(B)成分は、分子中に含まれるヒドロシリル基が、(A)成分中のR1との間で付加反応することにより、(A)成分の架橋剤として機能するものである。そのうち、架橋剤として機能するものは、硬化物を網状化するために、該付加反応に関与するケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に2個を越える数、好ましくは3個以上有している。
【0018】
は、前述の(A)成分におけるR2と同様のものが例示され、Rとしては、合成の点からC−Cアルキル基、特にメチルが好ましく、これとより嵩高いフェニル、トリル、ナフチルのようなアリール基、2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルのようなアラルキル基、シクロヘキシルのようなシクロアルキル基(例えば、C−Cシクロアルキル基)を併用することが透湿度を下げるために好ましい。(B)成分におけるシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよい。また、これらの混合物を用いてもよい。
【0019】
(B)成分の重合度は特に限定されないが、同一のケイ素原子に2個以上の水素原子が結合したポリオルガノハイドロジェンシロキサンは合成が困難なので、3個以上のシロキサン単位からなることが好ましく、硬化温度に加熱しても発揮せず、かつ流動性に優れて(A)成分と混合しやすいことから、シロキサン単位の数は、6〜200個がさらに好ましく、10〜150個が特に好ましい。
【0020】
(B)成分の配合量は、十分な接着力が得られ、また硬化して得られるシリコーンゴムが優れた機械的性質を有することから、(A)成分中のR1基に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の比(H/Vi)が、0.5〜5.0、好ましくは1.0〜3.0となるような量である。H/Viが0.5未満では、優れた機械的強度を有するゴム状弾性体が得られず、5.0を越えると、硬化の際に発泡する傾向がある。
【0021】
本発明は、透湿性を下げるために、R及びRのうち、C−Cアルキル基(好ましくはメチル基)が、(A)と(B)に含まれるケイ素原子当たり1.6個未満であることを特徴とする。硬化物の柔軟性の点からは、0.1〜1.5個であることが好ましい。好ましくは、R及びRが、それぞれ独立して、C−Cアルキル基、アリール基、アラルキル基及びシクロアルキル基からなる群から選択され、そのうち、C−Cアルキル基(好ましくはメチル)がケイ素原子当たり1.6個未満(好ましくは0.1〜1.5個)であり、さらに好ましくは、R及びRが、それぞれ独立して、メチル、フェニル及びフェニルで置換されたC−Cアルキル基からなる群より選択され、そのうち、メチルが、ケイ素原子当たり1.6個未満(好ましくは0.1〜1.5個)であり、特に好ましくは、R及びRが、それぞれ独立して、メチル又はフェニルであり、メチルがケイ素原子当たり1.6個未満(好ましくは0.1〜1.5個)である。組成物として、一般に(B)成分の含有量が低く、また(B)成分に多量のアリール等の嵩高い基を導入することは困難なので、このC−Cアルキル基の抑制は、主として(A)成分の分子設計によってなされる。具体的には、フェニルを2個有する二官能性シロキサン単位((CSiO)を導入したり、あるいは(2)分岐状ポリオルガノシロキサンによって環状構造を導入することにより、(A)成分に含まれるR2自体の数を減少させることを介して、C−Cアルキル基を減少させることができる。
【0022】
本発明で用いられる(C)成分の白金族金属化合物は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のヒドロシリル基との間の付加反応を促進させるための触媒である。
【0023】
白金族金属化合物としては、白金、ロジウム、パラジウムのような白金族金属原子の化合物が用いられ、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコールの反応で得られる錯体、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ケトン錯体、白金−ホスフィン錯体のような白金化合物;ロジウム−ホスフィン錯体、ロジウム−スルフィド錯体のようなロジウム化合物;パラジウム−ホスフィン錯体のようなパラジウム化合物などが例示される。これらのうち、触媒活性が良好な点から、塩化白金酸とアルコールの反応生成物及び白金−ビニルシロキサン錯体が好ましく、短時間に硬化して接着性を発現する必要がある場合には、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体及び白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが特に好ましい。しかし、必要な硬化速度は、低透湿性シリコーンゴムを設ける部位の形状や、それに伴って必要な作業時間によっても異なるので、(C)成分と硬化遅延剤との組合せで、任意に選択することができる。
【0024】
(C)成分の配合量は、優れた硬化速度が得られることから、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、白金族金属原子換算で通常0.1〜1,000重量ppmであり、好ましくは0.5〜200重量ppmである。0.1重量ppm未満では硬化速度が遅く、1,000重量ppmを超えても、それに見合う硬化速度が得られない。
【0025】
本発明の組成物は、使用目的や使用形態に応じて、硬化の際に基材への接着性を示さないタイプでも、接着性を発現するタイプでもよい。処理によって処理対象に優れた防透湿性を与えるためには、処理対象に対して接着性を発現するタイプであることが好ましい。接着性タイプでは、防湿の目的や基材の種類に応じ、(C)成分の触媒能を阻害しない範囲で、接着性付与剤を配合することができる。接着性付与剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような3−グリシドキシプロピル基含有アルコキシシラン類;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランのような2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基含有アルコキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、メチルアリルジメトキシシランのようなアルケニルアルコキシシラン類;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル(メチル)ジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシプロピルアルコキシシラン類;ケイ素原子に結合した水素原子と、ケイ素原子に結合した下記一般式(III):
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、Q1は、ケイ素原子とエステル結合の間に2個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Q2は、酸素原子と側鎖のケイ素原子の間に3個以上の炭素原子を有する炭素鎖を形成する、直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し;Rは、炭素数1〜6の非置換又は置換アルキル基を表す)で示される側鎖とを有する有機ケイ素化合物;アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムトリブトキシドのようなアルミニウムアルコキシド;チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトライソプロペニルオキシドのようなチタンアルコキシド;ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドのようなジルコニウムアルコキシド;マレイン酸ジアリル、トリアリルイソシアナートのような極性基含有有機化合物などが例示される。
【0028】
上記一般式(III)で示される側鎖において、て、Q1としては、エチレン、トリメチレン、2−メチルエチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が例示され、合成及び取扱いが容易なことから、エチレン及び2−メチルエチレンが好ましい。Q2としては、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、テトラメチレンなどのアルキレン基が例示され、合成及び取扱いが容易なことから、トリメチレンが好ましい。Rとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルなどのアルキル基;及び2−メトキシエチル等のアルコキシで置換されたアルキル基が例示され、良好な接着性を与え、かつ加水分解によって生じるアルコールが揮発しやすいことから、メチル及びエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。このような化合物として、式(IV):
【0029】
【化2】

【0030】
で示される環状シロキサン化合物が例示される。接着性付与剤の配合量は、接着性付与剤の種類及び基材によっても異なるが、(A)成分100重量部に対して通常0.5〜20重量部の範囲であり、特に基材への接着性が必要な場合は2〜20重量部が好ましく、3〜15重量部がさらに好ましい。
【0031】
本発明の組成物に、硬化反応を抑制して、未硬化の組成物の保存性や作業性を改善するために、硬化抑制剤を配合することができる。上記マレイン酸ジアリルは、接着性付与剤としてでなく、硬化抑制剤としても有効である。そのほか、硬化抑制剤としては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサン−1−オールのようなアセチレンアルコール類が例示される。
【0032】
本発明の組成物は、硬化して、ポリマー系のみで、低い透湿性と有する保護層を形成するが、硬化前の段階で適度の流動性を与え、硬化して得られるゴム状弾性体に、その用途に応じて要求される高い機械的強度を付与するために、無機質充填剤を添加することができる。無機質充填剤としては、平均粒径0.1μm未満、比表面積30mm2/g以上の補強性充填剤;及び平均粒径0.1〜50μmの非補強性充填剤が挙げられる。補強性充填剤としては、煙霧質シリカ、アークシリカのような乾式法シリカ;及び沈殿シリカのような湿式法シリカなどが例示され、これらはそのまま用いてもよく、ヘキサメチルジシラザンのような疎水化剤で表面処理を行って用いてもよい。非補強性充填剤としては、けいそう土、粉砕石英、溶融石英、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、アルミノケイ酸、炭酸カルシウム、有機酸表面処理炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ケイ酸カルシウム、タルク、酸化第二鉄、マイカ粉などが例示され、押出し作業性と、硬化して得られるゴム状弾性体に必要な物性に応じて選択される。また、目的に応じてカーボンブラックのような導電性充填剤を配合してもよい。
【0033】
さらに、本発明の組成物に、目的に応じて、顔料、チクソトロピー性付与剤、押出し作業性を改良するための粘度調整剤、紫外線防止剤、防かび剤、耐熱性向上剤、難燃化剤、鎖長延長剤など、各種の添加剤を加えてもよい。鎖長延長剤としては、各末端にケイ素原子に結合した水素原子を1個ずつ有する直鎖状のハイドロジェンポリオルガノシロキサン(例えば、両末端がM単位:(CH32HSiO1/2−で封鎖され、中間単位がD 単位:−(CH32SiO−で構成される直鎖状ポリメチルシロキサン)が挙げられる。また、用途によっては、本発明の組成物を、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させて用いてもよい。
【0034】
本発明の組成物は、(A)〜(C)成分、及びさらに必要に応じて配合される他の成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して調製することができる。また、安定に長期間貯蔵するために、(B)成分と(C)成分が別個の予備配合物に含まれるように、適宜、2個の予備配合物を調製して保存しておき、使用直前に定量混合器のミキシングヘッドのような混合手段によって均一に混合して組成物を調製し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。
【0035】
本発明の組成物を、湿気を遮断すべき部位、たとえばその目的でガスケットを形成すべき部位に注入、滴下、流延、注型、押出し成形などの方法により、又はトランスファー成形や射出成形による一体成形によって、処理対象物に付着させ、加熱して硬化させることにより、シリコーンゴムを得ることができる。硬化条件は、(C)成分と反応抑制剤の種類及び添加量によって、室温から250℃の間の温度で任意に設定できるが、通常130〜170℃で5〜30分であり、前述のように、組成を選択することにより、硬化の際に、基材に対する接着性を発現させることができる。また、圧縮永久ひずみを小さくするために、硬化後、さらに150〜200℃で2〜4時間加熱することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例において、部は重量部、組成の%は重量%を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
実施例及び比較例に、(A)及び(B)成分として、下記のポリシロキサンを用いた。以下、シロキサン単位を、次のような記号で示す。単位式において、中間シロキサン単位は単に単位数を示すものであり、複数の種類の中間シロキサン単位を含む場合、中間シロキサン単位はランダムに配列されている。
単位: (CH3)3SiO1/2
単位: (CH3)2HSiO1/2
単位: (CH3)2(CH2=CH)SiO1/2
単位: −(CH3)2SiO−
単位: −(CH3)(CH2=CH)SiO−
ff単位: −(CSiO−
T単位: (CH3)SiO3/2(3官能性)
単位: (CH2=CH)SiO3/2(3官能性)
単位: (C)SiO3/2(3官能性)
Q単位: SiO4/2(4官能性)
A−1:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位からなり、23℃における粘度が10Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
A−2:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位86モル%とD単位14モル%からなり、粘度が0.2Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
A−3:モル単位比がM5で示される分岐状ポリメチルビニルシロキサン;
A−4:両末端がM単位で封鎖され、中間単位がD単位70モル%とDff単位30モル%からなり、粘度が3Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルフェニルシロキサン;
A−5:モル単位比がD1.50.5で示される分岐状ポリメチルビニルフェニルシロキサン;
A−6:モル単位比がDD12ff5433で示される分岐状ポリメチルビニルフェニルシロキサン;
B−1:単位式Mで示される分岐状ポリメチルハイドロジェンシロキサン;
【0038】
実施例及び比較例に、(C)成分として、下記の白金錯体を用いた。
C−1:白金−1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン錯体(白金原子換算2重量%)。
【0039】
実施例1
(予備配合物Iの調製)
撹拌装置、加熱装置及び減圧脱要装置を付した容器に、表1に示す量のA−3の60%トルエン溶液を仕込み、表1に示す量のA−2を添加して、減圧下に撹拌しながら100℃に加熱してトルエンを留去し、ポリメチルビニルシロキサン混合物を得た。常温に冷却して、表1に示す量のC−1を添加し、均一に混合して、予備配合物Iを調製した。
【0040】
(予備配合物IIの調製)
同様の装置に、表1に示す量のA−3の60%トルエン溶液を仕込み、表1に示す量のA−2、A−3、B−1及び1−エチニルシクロヘキサン−1−オールを添加して、減圧下に撹拌しながら100℃に加熱してトルエンを留去して、予備配合物IIを調製した。
【0041】
(組成物の調製及びシリコーンゴムシートの作製)
定量混合機の2個の容器に、予備配合物I及び予備配合物IIをそれぞれ仕込み、ミキシングへッドに等量の両予備配合物を供給(ただし、実施例3では、IおよびIIを1:10の割合で供給)して、均質に混合し、減圧下で脱泡してポリオルガノシロキサン組成物を調製した。ついで組成物を、表面にポリテトラフルオロエチレン処理を施したステンレス鋼製金型に注型し、150℃で1時間加熱して硬化させることにより、厚さ1.0mmのシリコーンゴムシートを作製した。
【0042】
実施例2、3、比較例1
実施例1と同様な方法により、表1に示す配合によって予備配合物I,IIをそれぞれ調製し、ついで実施例1と同様な方法によりポリオルガノシロキサン組成物を調製した。これをただちに実施例1と同様に注型し、硬化させてシリコーンゴムシートを作製した。
【0043】
比較例2
表1に示す量のA−3の60%トルエン溶液を仕込み、表1に示す量のA−1を添加して、減圧下に撹拌しながら100℃に加熱してトルエンを留去し、ポリメチルビニルシロキサン混合物を得た。常温に冷却して、表1に示す量の1−エチニル−1−シクロヘキサン−1−オール、C−1及びB−1を逐次添加し、均質に混合して、ポリオルガノシロキサン組成物を調製した。これを減圧下で脱泡して容器に密閉し、冷所に保存した。これを実施例1と同様に注型し、硬化させてシリコーンゴムシートを作製した。
【0044】
【表1】

【0045】
以上のようにして実施例1〜3及び比較例1,2のポリオルガノシロキサン組成物より得られたシリコーンゴムシートより、JIS Z0208に準拠して、温度40℃、湿度90%RHで24時間の透湿性を評価した。その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より明らかなように、ケイ素原子に対するC−Cアルキル基の比が小さいほど透湿度の低いシリコーンゴムが得られ、上記の比が1.6個未満で、満足すべき低い透湿度を示すシリコーンゴムが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリオルガノシロキサン組成物は、湿気の影響を受けやすい材料、特に電子部品、ハードディスク、表示装置などの保護層、シール、ガスケットなどに有用である。本発明のハードディスク及び表示装置は、特に湿気に対して高い安定性が求められる用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均単位式:RSiO(4−a−b)/2 (I)
(式中、
は、アルケニル基であり;
は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基であり;
aは、0.0001〜0.5であり、
bは、0.1〜2.0であり、
a+bは、0.1001〜2.2である)で示され、1分子当たり、2個以上のRを有するポリオルガノシロキサン 100重量部;
(B)平均単位式:RSiO(4−c−d)/2 (II)
(式中、
は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基を表し;
cは、0.1〜2.0であり、
dは、0.01〜1.0であり、
c+dは、0.11〜2.6である)で示され、1分子当たり、2個超の水素原子を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)に存在するR1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数が、0.5〜5.0個になる量;並びに
(C)白金族金属化合物 白金族金属原子を、(A)の量に対して0.1〜1,000重量ppm含有する量
を含み、R及びRのうち、C−Cアルキル基が、ケイ素原子当たり1.6個未満である、ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
及びRのうち、メチル基が、ケイ素原子当たり1.6個未満である、請求項1記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
及びRが、それぞれ独立して、C−Cアルキル基、アリール基、アラルキル基及びシクロアルキル基からなる群より選択され、そのうち、C−Cアルキル基が、ケイ素原子当たり1.6個未満である、請求項1又は2記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
及びRが、それぞれ独立して、メチル、フェニル及びフェニルで置換されたC−Cアルキル基からなる群より選択され、そのうち、メチルが、ケイ素原子当たり1.6個未満である、請求項3記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
及びRが、それぞれ独立して、メチル又はフェニルであり、そのうち、メチルが、ケイ素原子当たり1.6個未満である、請求項4記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
1が、ビニルである、請求項1〜5のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物を硬化させて得られる保護層を有するハードディスク。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載のポリオルガノシロキサン組成物を硬化させて得られる保護層を有する表示装置。

【公開番号】特開2008−280367(P2008−280367A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123261(P2007−123261)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】