低DMSレベルの大麦由来飲料およびモルト由来飲料
本発明により、硫化ジメチル(DMS)および/もしくはその前駆体であるS−メチル−L−メチオニン(SMM)の両方のレベルが顕著に低いこと、または前記化合物を欠くことを特徴とするオオムギ由来の飲料が提供される。加えて、本発明は、上述の飲料を生産する方法に関し、また、このような飲料を調製するのに有用なオオムギ植物体の他、前記植物体から調製される他の植物生成物にも関する。本発明を用いることにより、風味プロファイルが改善された飲料の生産手順を改善する方法が明確に示され、また、ビールを生産するための熱エネルギー投入量の顕著な削減も約束される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願において引用されるすべての特許および非特許参考文献は、参照により、それらの全体において、本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、硫化ジメチル(DMS)および/もしくはその前駆体であるS−メチル−L−メチオニン(SMM)の両方のレベルが顕著に低いこと、または前記化合物のうちの一方、もしくは好ましくは両方を欠くことを特徴とするオオムギ由来の飲料に関する。加えて、本発明は、上述の飲料を生産する方法に関し、また、このような飲料を調製するのに有用なオオムギ植物体の他、前記植物体から調製される他の植物生成物にも関する。本発明は、風味プロファイルの改善を特徴とする飲料の生産を可能とする一方で、また、熱エネルギー投入量(特に、ウォートの煮沸に関する)を顕著に削減する生産法のための新規の枠組みも支援する。
【背景技術】
【0003】
飲料、とりわけ、ビールは、世界の多くの地域で栽培されている単子葉植物であるオオムギ(Hordeum vulgare, L.)に基づいて生産することができる。オオムギは、ビールを含めた産業製品の原料として、また、動物試料の供給源としての両面で、経済的に重要である。
【0004】
茶、ココア、ミルク、ワイン、蒸留酒(ラム酒など)、スイートコーン、および多数の調理野菜を含めた、多くの野菜および食物において、加えて、ビールにおいても、DMSは、生成物に顕著な、一般には有益なにおいと風味の調子を付加する。しかし、高レベルのDMSは、通常、「煮たトウモロコシ」、または場合によって「クロスグリ様」と描写される、望ましくない風味を与える。
【0005】
ビールの種類によって、DMSレベルは、典型的には最大で144μg/Lとなる可能性があり、場合によっては、最大で150ppb(150μg/L)に達する可能性もあり、前記化合物は、「煮た野菜」または「キャベツ様」の望ましくない風味に寄与することが多い。しかし、低レベルの該化合物は、濃厚な風味および全体的なビールの香ばしさに寄与し得るため、ラガービールでは、場合によって望ましいこともある:感覚閾値は約25〜50ppb、例えば、30〜45μg/Lである(Meilgaard、1982年)。そのレベルが<10ppbであるとき、DMSの風味は、一般に感知されない。
【0006】
本明細書ではまたDMS前駆体(DMSP)としても称するSMMは、SMMサイクルの機能的成分の作用により、発芽しつつあるオオムギ穀粒内において合成される(図1A)。ここで、メチオニン(Met)−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)酵素は、S−アデノシル−メチオニン(AdoMet)からMetへのメチル基の移動を触媒して、SMMを形成させる。後者の化合物は、酵素であるホモシステイン(Hcy)−S−メチルトランスフェラーゼ(HMT)により触媒される反応である、HcyからのMetの合成のためのメチルドナーとして用いられ得る。MMTの決定的な役割については論じられているが、当初それは、AdoMet合成が超過することによりタンパク質合成のためのMetプールが枯渇することを防止することであると仮定された(MuddおよびDatko、1990年)。SMMサイクルはまた、葉中におけるMetからSMMへの主要なフラックス、SMMの師部輸送、ならびに穀粒または他のシンク組織の発生におけるSMMからMetへの再転換を伴う、植物内における長距離の硫黄輸送において機能することも示唆されている(Bourgisら、1999年)。しかし、その後の放射性トレーサーによる実験では、前記サイクルが、Metの枯渇を防止するのではなく、AdoMetレベルの制御を管理していることが明らかになった(Ranochaら、2001年)。植物におけるSMMの生理学的役割についての代替的な説明は、エチレン合成の制御(Koら、2004年)に関し、これは、主に、Pichia属の酵母に由来する、組換え1−アミノシクロプロパン−1−カルボキシレートシンターゼに関する研究を介して示される考えによる。
【0007】
McElroyおよびJacobsen(1995年)は、例えば、アンチセンス法を用いることにより、SMMの合成を制御することが可能であり得ると推測している。しかし、アンチセンスの対象となる標的遺伝子についての指針は示されず、SMMレベルが大幅に低下すれば、オオムギの成長および発育にとって有害であり得るため、結果が肯定的となる可能性は疑問視されると予測された。McElroyおよびJacobsen(前出)は、SMMレベルを低下させるための代替的な解決策については論じなかった。加えて、下記で詳細に論じる通り、オオムギにおいてアンチセンス法を適用して、遺伝子発現を完全に消失させるのに成功したことはない。
【0008】
残念ながら、所与のタンパク質の発現を完全に欠くトランスジェニックのオオムギ植物体を調製する方法は与えられていない。オオムギの場合一般に、アンチセンス法を適用しても、問題となるタンパク質の一部をやはり発現するトランスジェニック植物がもたらされる(例えば、Robbinsら、1998年; Stahlら、2004年; Hansenら、2007年を参照されたい)。また、キメラRNA/DNAまたは部位指向変異誘発を用いて特異的な変異を調製するのに有効な、オオムギ植物体で用いられる方法も開発されていない。本公開の発明者らが努力を結集したにもかかわらず、オオムギにおいて、オリゴヌクレオチド指向の遺伝子標的化の成功について公表例が知られないことも、このことと符合する。オオムギにおいては追及されていないが、IidaおよびTerada(2005年)は、トウモロコシ、タバコ、およびコメにおいて、オリゴヌクレオチド指向の遺伝子標的化が試みられている(しかし、すべての場合において、除草剤耐性遺伝子であるアセト乳酸シンターゼ(ALS)が標的とされている)ことに言及している。IidaおよびTerada(前出)が下す結論によれば、上述の戦略に適切な改変を加えて、これが、ALS遺伝子など、直接的に選択可能な遺伝子以外の遺伝子に適用可能であるかどうかは、いまだに確立されていない。ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いる標的化変異誘発は、将来の基礎的な植物生物学における研究または作物植物における改変を潜在的には可能とし得る別のツールを表す(Duraiら、2005年; TzfiraおよびWhite、2005年; Kumarら、2006年)。この場合もまた、オオムギでは、変異誘発が追及されていないか、または有効に適用されていない。
【0009】
にもかかわらず、照射、またはアジドナトリウム(NaN3)で処理することによるなど、化学的処理を用いる無作為的な変異誘発により、オオムギの変異体を調製することができる。例は、低フィチン酸の変異体を求めたスクリーニングの試みにおいて、NaN3を用いることによりオオムギ穀粒を変異誘発させた後における、高レベルの遊離リン酸を有するものを求めたそれらのスクリーニングに関する(RasmussenおよびHatzack、1998年;スクリーニングされた2,000個の穀粒から、計10個の変異体が同定された)。常に可能であることからは遠いが、NaN3処理後において特定の変異体を見出すことは、持続的で有効なスクリーニング法に依存し、したがって、常に成功することからは遠い。
【0010】
従来の植物育種における有望な分子標的の同定に関する困難な部分は、所与の生化学系の出力を所望の形で変化させるには、該経路のうちのどの構成要素(複数可)を撹乱させるべきかを確証することの困難に関し、したがって、有用なスクリーニング法を確立する能力に関する。
【0011】
ビール生産に関する高温でのインキュベーション(モルトのキルン乾燥、またはウォートの加熱および煮沸)は、SMMからDMSへの化学的転換を誘導し得る。DMSの固有の特性、特に、その沸点がわずかに37℃〜38℃であるという特性により、キルニング時およびウォート煮沸時において形成されるDMSの主要部分は、大気中へと失われ得る。約70℃を超える温度では、DMSの揮発性が極めて低レベルへと低下する(ScheurenおよびSommer、2008年)一方で、ジメチルスルホキシド(DMSO)へのさらなる酸化のための条件が顕在化する。ウォート煮沸の維持時間または強度が、残留SNMを転換するのに不十分である場合、DMSは、ウォートが冷却される際に形成され続ける可能性がある(その後、ビール中へと移送される)。
【0012】
ビール中におけるDMSレベルを低下させる技法が開発されている。したがって、AU38578/93では、モルト中におけるDMSレベルを低下させる方法であって、前記モルトの蒸気による処理を含む方法が説明されている。Bisgaard−Frantzen, H.らによるUS2006/0057684では、70℃以上の温度におけるマッシュの加熱処理を含む醸造法が説明されていた。そして、Reuther, H.による米国特許第5,242,694号では、低炭水化物のビールを調製する方法であって、長時間にわたりウォートを煮沸する工程の後で、前記ウォートを二酸化炭素で洗浄する工程を含む方法が説明されていた。しかし、前述の処理はすべて、高レベルのエネルギーを消費し、さらに、モルトまたはウォートの特徴を変化させる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、オオムギまたはその一部から調製される飲料、特に、風味の改善されたビールを開示する。本明細書で開示される飲料は、DMSレベルが極めて低いか、さらにまたはDMSを全く示さない(特に、DMSレベルが風味閾値未満であり、したがって、DMS風味の不在を特徴とする飲料である)。
【0014】
さらに、本発明の飲料は、優れた風味特性を有する。したがって、本発明の飲料は、特にバランスが良くて飲みやすく、高度の新鮮さ、香ばしい風味、および花の風味を有する飲料として特徴付けられる。
【0015】
したがって、本発明は、DMSの不在または低DMSレベルに基づく、注目すべき風味特性を有する飲料を提供する。ここで、DMSが、ビール中におけるエステル化合物に対する人間の知覚に顕著な影響を及ぼすことが見出される(図1Bを参照されたい)が、これは、本発明により提供される、DMSが前記化合物の風味を遮蔽するというモデルと符合する。
【0016】
本発明が、DMS前駆体の形成を特異的に遮断する欠損を有するオオムギまたはモルト穀粒を提供することは、極めて重要であると考えられる。この方法により、上記で説明した、DMSによるエステル風味の遮蔽を回避することができ、これにより、オオムギおよびモルトの産業的利用の新たな機会が可能となる。加えて、DMS前駆体の形成を特異的に遮断する欠損を有するオオムギまたはモルト穀粒はまた、DMS自体の不在により引き起こされる風味特性も示す。とりわけ、前記のオオムギまたはモルトの種類は、現行の能力をはるかに超えて調整された生産環境の確立を支援する、有効な産業適用における原材料として利用し得るであろう。特に、改善は、ビールの品質、ならびにビール生産における環境持続性の問題に関し、とりわけ、
(i)DMS特異的な風味が低レベルであるビールと;
(ii)エステル風味のプロファイルが改善されたビールと;
(iii)ビール生産に投入されるエネルギーの削減と;
(iv)ウォート生成におけるエネルギー消費の削減と
の問題に関する。
【0017】
本発明は、前記改善を達成するオオムギ植物体および穀粒を提供する。
【0018】
こうして、SMMの代謝が、他の生物学的過程といかにして絡み合い得るかについての理論的な考察に拘束されずに述べると、本出願は、SMM合成が欠損するオオムギ植物体の育種およびその産業的使用を利用および探索するための、いまだもたらされていない機会を提供する。
【0019】
本発明は、MMTをコードする遺伝子における変異を保有する、MMT活性の完全な喪失を引き起こす、オオムギ植物体またはその一部から、DMS特異的な風味が低レベルであり、エステル風味のプロファイルが改善されていることを特徴とする飲料、および/または特にバランスが良く飲みやすい飲料(すなわち、高度の新鮮さ、香ばしい風味、および花の風味を有する)を調製し得ることを開示する。本明細書では、このような植物体を、「MMTヌルの」オオムギと称する。
【0020】
したがって、一態様では、本発明が、オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料であって、前記飲料が30ppbを下回るDMS(30ppb未満のDMSなど)を含有し、前記オオムギ植物体が、MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有する飲料に関する。
【0021】
別の態様では、本発明が、前記飲料を調製するのに有用なオオムギ植物体を提供する。したがって、MMTをコードする遺伝子における、機能的MMT酵素の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体またはその一部を提供することもまた、本発明の目的である。
【0022】
加えて、本発明は、例えば、モルト組成物およびウォート組成物、またはオオムギベースのシロップもしくは抽出物、またはモルトベースのシロップもしくは抽出物、あるいは添加物を含めた、前記MMTヌルのオオムギ植物体から生成された植物生成物に関する。この文脈における添加物は、モルト化させていないオオムギの場合があり、これは、単独で用いることもでき、ウォートを調製するためのモルト化させたオオムギと組み合わせて用いることもできる。本発明はまた、前記オオムギ植物体を調製する方法の他、飲料および他の植物生成物を調製する方法も提供する。
【0023】
さらに、異常気象が国際問題となっている世界にあって、社会および産業は、温室効果ガス排出の削減、および環境利益に寄与すべきである。したがって、本発明の目的は、エネルギー消費の低い方法を用いるビール生産に有用なオオムギ植物体を提供することである。したがって、本発明のオオムギ植物体は、標準的な醸造法と比較して、加熱する工程の時間経過が短いか、または加熱する工程における温度が低い方法を用いるビールの生産に有用である。根本的に重要なのは、キルンを乾燥させる工程およびウォートを煮沸させる手順における利益であり、これらは、標準的な醸造レジメおよびビール生産レジメと比べて顕著に短縮することもでき、より低温で実施することもでき、これによりエネルギー消費が削減され、ビールを生産するのにより持続可能な方法がもたらされる。
【0024】
配列表
本発明は、以下の詳細な説明と、本出願の一部をなす添付の配列表(表10にまとめられる)から、より完全に理解することができる。前記表は、本明細書で説明される核酸およびポリペプチド、オリゴヌクレオチドプライマーの他、これらのポリペプチドの全部または実質的部分を表すポリペプチドをコードする核酸断片を含むcDNAクローンおよびgDNAクローンの呼称、ならびに対応する識別子(配列番号)を列挙する。配列の説明と、本明細書に添付される配列表とは、特許出願におけるヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の開示を律する規則に準拠している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】図1は、SMMサイクルの選択された構成成分および平均風味スコアを示す図である。(A)酵素Met−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)によって触媒される、S−アデノシルメチオニン(SAM)からメチオニン(Met)へのメチル基転移によってSMMが合成されるSMMサイクルの選択された構成成分である。SMMは、今度は、酵素Hcy−S−メチルトランスフェラーゼ(HMT)によって触媒される反応において、ホモシステイン(Hcy)からのMet合成のためのメチル基供与体として機能することができる。図は、基本的に不可逆的な反応がどのようにつながっているかを示している。サイクルの各回転は、ATPがアデノシン、PPiおよびPiに転換する間に2つのMetを消費し、その後再生するので(示していない)、無益である。(B)ビール試料の列挙した性質−ボディ感、エステル風およびDMSについて専門家のビールの試飲パネル(specialist beer taste panel)によってもたらされた平均風味スコア±標準偏差を例示している。対照試料である標準のビールに、ビールのみ(「0」のしるしの棒)をスパイクした、またはビール中の濃度が以下になるエステルの混合物:酢酸エチル5ppm、酢酸イソアミル1.5ppm、ヘキサン酸エチル0.05ppm、オクタン酸エチル0.13ppm(「1」のしるしの棒)、およびDMS100ppbを含めた上述のエステル混合物(「2」のしるしの棒)をスパイクした。
【図1B】図1は、SMMサイクルの選択された構成成分および平均風味スコアを示す図である。(A)酵素Met−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)によって触媒される、S−アデノシルメチオニン(SAM)からメチオニン(Met)へのメチル基転移によってSMMが合成されるSMMサイクルの選択された構成成分である。SMMは、今度は、酵素Hcy−S−メチルトランスフェラーゼ(HMT)によって触媒される反応において、ホモシステイン(Hcy)からのMet合成のためのメチル基供与体として機能することができる。図は、基本的に不可逆的な反応がどのようにつながっているかを示している。サイクルの各回転は、ATPがアデノシン、PPiおよびPiに転換する間に2つのMetを消費し、その後再生するので(示していない)、無益である。(B)ビール試料の列挙した性質−ボディ感、エステル風およびDMSについて専門家のビールの試飲パネル(specialist beer taste panel)によってもたらされた平均風味スコア±標準偏差を例示している。対照試料である標準のビールに、ビールのみ(「0」のしるしの棒)をスパイクした、またはビール中の濃度が以下になるエステルの混合物:酢酸エチル5ppm、酢酸イソアミル1.5ppm、ヘキサン酸エチル0.05ppm、オクタン酸エチル0.13ppm(「1」のしるしの棒)、およびDMS100ppbを含めた上述のエステル混合物(「2」のしるしの棒)をスパイクした。
【図2】図2は、蛍光化合物SMM−OPAのアルカリ形成に関与する分子を示す図である。
【図3A】図3は、変異体8063および変異体14018のヌルMMT表現型を立証するためのHPLC実験およびウェスタンブロット実験の結果を示す図である。(A)栽培品種Prestigeの苗条からの抽出物のHPLCに基づく分離の例であり、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出を示している。オオムギ苗条のOPA誘導体抽出物の蛍光については、340nmで励起し450nmで放射が測定された。(B)示した変異体および野生型の、栽培品種Sebastianからの抽出物のHPLCに基づく分離である。変異体の抽出物中の構成成分の分離では、SMM特異的なピークがないクロマトグラムがもたらされた。(C)野生型Prestige(レーン2)、変異体8063(レーン3)、野生型Sebastian(レーン5)、および変異体14018(レーン6)の苗条抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1、4および7で分離すると同時に、E.coli細胞からの組換えMMTを対照として用い、レーン8で分離した。実施例12において説明している通り、120kDaの染色されたタンパク質バンドがMMTを表し、一方E.coli抽出物における80kDaのバンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので(図14B、C参照)、MMT由来ではない。
【図3B】図3は、変異体8063および変異体14018のヌルMMT表現型を立証するためのHPLC実験およびウェスタンブロット実験の結果を示す図である。(A)栽培品種Prestigeの苗条からの抽出物のHPLCに基づく分離の例であり、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出を示している。オオムギ苗条のOPA誘導体抽出物の蛍光については、340nmで励起し450nmで放射が測定された。(B)示した変異体および野生型の、栽培品種Sebastianからの抽出物のHPLCに基づく分離である。変異体の抽出物中の構成成分の分離では、SMM特異的なピークがないクロマトグラムがもたらされた。(C)野生型Prestige(レーン2)、変異体8063(レーン3)、野生型Sebastian(レーン5)、および変異体14018(レーン6)の苗条抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1、4および7で分離すると同時に、E.coli細胞からの組換えMMTを対照として用い、レーン8で分離した。実施例12において説明している通り、120kDaの染色されたタンパク質バンドがMMTを表し、一方E.coli抽出物における80kDaのバンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので(図14B、C参照)、MMT由来ではない。
【図3C】図3は、変異体8063および変異体14018のヌルMMT表現型を立証するためのHPLC実験およびウェスタンブロット実験の結果を示す図である。(A)栽培品種Prestigeの苗条からの抽出物のHPLCに基づく分離の例であり、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出を示している。オオムギ苗条のOPA誘導体抽出物の蛍光については、340nmで励起し450nmで放射が測定された。(B)示した変異体および野生型の、栽培品種Sebastianからの抽出物のHPLCに基づく分離である。変異体の抽出物中の構成成分の分離では、SMM特異的なピークがないクロマトグラムがもたらされた。(C)野生型Prestige(レーン2)、変異体8063(レーン3)、野生型Sebastian(レーン5)、および変異体14018(レーン6)の苗条抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1、4および7で分離すると同時に、E.coli細胞からの組換えMMTを対照として用い、レーン8で分離した。実施例12において説明している通り、120kDaの染色されたタンパク質バンドがMMTを表し、一方E.coli抽出物における80kDaのバンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので(図14B、C参照)、MMT由来ではない。
【図4】図4は、変異体8063の4日齢の苗条においてはMMT活性が存在しないが、発芽の長さが同様の野生型苗条においては活性が明白であることを示す図である。MMT活性を、[3H]SAMを基質として使用して決定した。MMTに触媒される、SMMを形成する[3H]SAMからMetへのメチル基の移動を、活性炭によって残りの[3H]SAMを除去した後、シンチレーション計数することによってモニターした。活性炭は基質に結合するが、新たに合成された、標識されたSMM生成物には結合しない。この図は、SMMが、変異体の苗条に存在しなかったが、野生型の苗条に存在したことも示している。変異体および野生型の植物体それぞれから15、計30の変異体および野生型の植物体両方の苗条を分析した。
【図5A】図5は、野生型およびヌルMMTのモルト、ウォート、およびビールにおける遊離のDMSPと遊離のDMSの含有量の比較を示す図である。(A)変異体8063のグリーンモルトおよびキルン乾燥モルトのどちらも、DMSPおよび遊離のDMSのレベルが著しく低下した。(B)変異体8063のスイートウォートおよび煮沸ウォートでは、DMSPおよび遊離のDMSがほとんど喪失し、変異体8063のモルトを使用して作製したビールでも、遊離のDMSが極度に少なかった。
【図5B】図5は、野生型およびヌルMMTのモルト、ウォート、およびビールにおける遊離のDMSPと遊離のDMSの含有量の比較を示す図である。(A)変異体8063のグリーンモルトおよびキルン乾燥モルトのどちらも、DMSPおよび遊離のDMSのレベルが著しく低下した。(B)変異体8063のスイートウォートおよび煮沸ウォートでは、DMSPおよび遊離のDMSがほとんど喪失し、変異体8063のモルトを使用して作製したビールでも、遊離のDMSが極度に少なかった。
【図6A】図6は、10名の規模のビール試飲パネルによって確立された風味プロファイルの比較を示す図である。検査は、野生型の、栽培品種Powerおよび変異体8063(ヌルMMT)のモルトを用いて醸造したビールで構成された。この種の分析では、グラフに示しているように、0〜5の尺度に定量化できるいくつもの所定の風味特質を利用する。風味は、分析されているビールの種類に対してその性質が最大であるとみなされるときにのみ、スコア5に対応する「極度」と判定される。(A)エステルおよびアルコールをスパイクしたビールのビールの試飲パネルの評価の要約が表1に列挙されている。(B)スパイクしていないビールの試飲パネルの評価を列挙する要約。
【図6B】図6は、10名の規模のビール試飲パネルによって確立された風味プロファイルの比較を示す図である。検査は、野生型の、栽培品種Powerおよび変異体8063(ヌルMMT)のモルトを用いて醸造したビールで構成された。この種の分析では、グラフに示しているように、0〜5の尺度に定量化できるいくつもの所定の風味特質を利用する。風味は、分析されているビールの種類に対してその性質が最大であるとみなされるときにのみ、スコア5に対応する「極度」と判定される。(A)エステルおよびアルコールをスパイクしたビールのビールの試飲パネルの評価の要約が表1に列挙されている。(B)スパイクしていないビールの試飲パネルの評価を列挙する要約。
【図7】図7は、NaN3変異誘発されたオオムギ穀粒を繁殖させる様式の図を示す図である。M0世代の穀粒は、M1世代の穀粒を実らせる植物体に発達する。これらの種子をまき、M2世代の新しい穀粒を生成するM1植物体に発達させることができる。次に、M2植物体が成長し、M3世代の穀粒を実らせる。M3世代の穀粒を発芽させることができ、その試料、例えば、子葉鞘を分析に使用することができる。M3の種子も、種子まきし、対応する植物体の花を交配に用いてM4世代の植物体を得ることができる。
【図8】図8は、好ましいビール生成プロセスの簡略化した図による概説を示す図である。生成プロセスは、オオムギ子実をスティーピングする工程(1)と、発芽させる工程(2)と、キルン乾燥する工程(3)と、乾燥モルトを粉砕する工程(4)と、マッシングする工程(5)と、濾過する工程(6)と、添加されたホップの存在下でウォートを煮沸する工程(7)と、酵母の存在下で発酵させる工程(8)と、ビールを成熟させる工程(9)と、ビールを濾過する工程(10)と、例えば、瓶、缶などに詰める工程(11)と、ラベルを貼る工程(12)とを含む。個々のプロセスは、モルト生成(1−3)と、ウォート生成(4−7)と、発酵(8−9)と、完成したビールの調製(10−12)とで構成されるセクションに分類することができる。好ましい方法を例示したが、示した工程の一部を省略する(例えば、濾過を省略してよく、またはホップを添加しなくてよい)代替的な様式を想定することができ、あるいは、付加的な工程を加えることができる(例えば、補助剤または炭酸の添加)。ビールは、モルト製造したオオムギとモルト製造していないオオムギの混合物、またはモルト製造していないオオムギのみを使用して生成することもでき、その場合は、マッシングプロセスの間に外部の酵素を頻繁に加える。
【図9】図9は、オオムギのMMTをコードする遺伝子の構成を概略の形式で示す図である。翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたる6368bp長のゲノム配列(配列番号3)を例示している。エクソンおよびイントロンを、それぞれ、番号をつけた枠および番号をつけていない線として示している。エクソン12は、転写および翻訳の全体的な方向を示すために矢じりとして図示している。ヌクレオチドの番号は、翻訳開始コドンの一番目の塩基を基準として、示したエクソンの5’末端および3’末端を指す。表2に列挙されているプライマーセットを使用した増幅に対応するPCRによるひと続きの配列のおよその位置も図示している。
【図10】図10は、栽培品種PrestigeのオオムギのMMTの、翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたるcDNA配列、すなわちコード領域(配列番号4)を、アミノ酸の一文字コードを使用した、翻訳された配列(配列番号6)と整列させて示す図である。
【図11−1】図11は、ほとんど同一であるオオムギの栽培品種Haruna Nijo(配列番号2)と栽培品種Prestige(配列番号6)のMMT酵素の配列のアラインメントを示す図である。2つの別々のアミノ酸残基の相違を黒枠に白文字で強調している。
【図11−2】図11は、ほとんど同一であるオオムギの栽培品種Haruna Nijo(配列番号2)と栽培品種Prestige(配列番号6)のMMT酵素の配列のアラインメントを示す図である。2つの別々のアミノ酸残基の相違を黒枠に白文字で強調している。
【図12−1】図12は、オオムギの変異体8063がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット15(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型の、栽培品種Prestigeまたは変異体8063のいずれかからのRNA鋳型を使用した生成物の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析のアガロースゲル電気泳動後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物4のエクソン5は、野生型のエクソン5と比較して短い。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1および2を含まない。しかし、mRNAはエクソン1および2も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン5の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン5の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。3および4と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物3および生成物4のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。2*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物1)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物2(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン5の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、1992年)を変異体8063のMMT遺伝子におけるイントロン5の配列と比較した概要である。
【図12−2】図12は、オオムギの変異体8063がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット15(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型の、栽培品種Prestigeまたは変異体8063のいずれかからのRNA鋳型を使用した生成物の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析のアガロースゲル電気泳動後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物4のエクソン5は、野生型のエクソン5と比較して短い。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1および2を含まない。しかし、mRNAはエクソン1および2も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン5の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン5の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。3および4と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物3および生成物4のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。2*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物1)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物2(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン5の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、1992年)を変異体8063のMMT遺伝子におけるイントロン5の配列と比較した概要である。
【図13−1】図13は、変異体8063の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号6、11、13、15)のアラインメントである。アスタリスクでしるしをつけたひと続きの配列に対応する合成ペプチドは、オオムギのMMTに対するポリクローナル抗体を生成するために使用した。野生型酵素(配列番号6)の残基番号333から1084にわたる配列は示していない。
【図13−2】図13は、変異体8063の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号6、11、13、15)のアラインメントである。アスタリスクでしるしをつけたひと続きの配列に対応する合成ペプチドは、オオムギのMMTに対するポリクローナル抗体を生成するために使用した。野生型酵素(配列番号6)の残基番号333から1084にわたる配列は示していない。
【図14−1】図14は、実験の詳細を実施例12に記載している、それぞれ、栽培品種Prestigeおよび変異体8063からの、野生型MTTおよび変異体型MTTをE.coliにおいて異種発現させた結果を示す図である。ベクターpET19bで形質転換したE.coli細胞の抽出物ならびに純粋なSMMの一定分量が実験の対照試料として機能した。ブロットがどちらも当該適用に関連性がないデータを含むレーン4と5の間のゲル領域は、スキャンした後に電子的に消去した。(A)純粋なSMMならびに示したプラスミドで形質転換したE.coliからの抽出物のHPLCプロファイルである。比較のために、このプロファイルも図18の不可欠な部分である。(B)プラスミドpET−MMT(レーン2)、pET19b−Line8063−Prod3(レーン3)、pET19b−Line8063−Prod4(レーン4)、およびpET19b(レーン5)で形質転換したE.coli細胞の可溶性の細胞抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1で分離した。(C)上記の図B部分の説明において示したプラスミドで形質転換したE.coli細胞の封入体の抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。主要な、ウェスタン分析に使用したポリクローナル抗体は、図13においてアスタリスクでしるしをつけたひと続きのアミノ酸に対応する、オオムギのMMTの15残基長の合成ペプチドに対して生じた。
【図14−2】図14は、実験の詳細を実施例12に記載している、それぞれ、栽培品種Prestigeおよび変異体8063からの、野生型MTTおよび変異体型MTTをE.coliにおいて異種発現させた結果を示す図である。ベクターpET19bで形質転換したE.coli細胞の抽出物ならびに純粋なSMMの一定分量が実験の対照試料として機能した。ブロットがどちらも当該適用に関連性がないデータを含むレーン4と5の間のゲル領域は、スキャンした後に電子的に消去した。(A)純粋なSMMならびに示したプラスミドで形質転換したE.coliからの抽出物のHPLCプロファイルである。比較のために、このプロファイルも図18の不可欠な部分である。(B)プラスミドpET−MMT(レーン2)、pET19b−Line8063−Prod3(レーン3)、pET19b−Line8063−Prod4(レーン4)、およびpET19b(レーン5)で形質転換したE.coli細胞の可溶性の細胞抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1で分離した。(C)上記の図B部分の説明において示したプラスミドで形質転換したE.coli細胞の封入体の抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。主要な、ウェスタン分析に使用したポリクローナル抗体は、図13においてアスタリスクでしるしをつけたひと続きのアミノ酸に対応する、オオムギのMMTの15残基長の合成ペプチドに対して生じた。
【図15−1】図15は、変異体8063のMMT遺伝子におけるG3076→A変異を特徴とする子実を同定するための手法についての図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット20(表7参照)により、仮定的な反応1では271−bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Prestigeの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体8063のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【図15−2】図15は、変異体8063のMMT遺伝子におけるG3076→A変異を特徴とする子実を同定するための手法についての図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット20(表7参照)により、仮定的な反応1では271−bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Prestigeの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体8063のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【図16−1】図16は、オオムギの変異体14018がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット16(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型(栽培品種Sebastian)または変異体14018のいずれかからのRNA鋳型を使用したRT−PCR分析の生成物をアガロースゲル電気泳動した後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物8のエクソン2は、野生型のエクソン2と比較して切断されている。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1を含まない。しかし、mRNAはエクソン1も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン2の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン2の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。7および8と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物7および生成物8のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。6*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物5)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物6(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン2の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、上記)を変異体14018のMMT遺伝子におけるイントロン2の配列と比較した概要である。
【図16−2】図16は、オオムギの変異体14018がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット16(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型(栽培品種Sebastian)または変異体14018のいずれかからのRNA鋳型を使用したRT−PCR分析の生成物をアガロースゲル電気泳動した後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物8のエクソン2は、野生型のエクソン2と比較して切断されている。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1を含まない。しかし、mRNAはエクソン1も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン2の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン2の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。7および8と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物7および生成物8のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。6*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物5)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物6(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン2の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、上記)を変異体14018のMMT遺伝子におけるイントロン2の配列と比較した概要である。
【図17−1】図17は、変異体14018の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号18、22、24、26)のアラインメントである。野生型酵素(配列番号18)の残基番号213から1084にわたる配列は示していない。
【図17−2】図17は、変異体14018の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号18、22、24、26)のアラインメントである。野生型酵素(配列番号18)の残基番号213から1084にわたる配列は示していない。
【図18】図18は、実験の詳細を実施例15に記載している、それぞれ、栽培品種Prestigeおよび変異体14018からの野生型MMTおよび変異体型MMTをE.coliにおいて異種発現させた、HPLCに基づく実験結果を示す図である。純粋なSMMおよびベクターpET19bで形質転換したE.coli細胞が、実験の対照試料として機能した。比較のために、アスタリスクでしるしをつけたクロマトグラムも図14Aの不可欠な部分である。
【図19−1】図19は、変異体14018のMMT遺伝子におけるG1462→A変異を特徴とする子実を同定するための遺伝学的手法に対する図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット29(表9参照)により、仮定的な反応1では121bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する(123bp)。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Sebastianの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体14018のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【図19−2】図19は、変異体14018のMMT遺伝子におけるG1462→A変異を特徴とする子実を同定するための遺伝学的手法に対する図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット29(表9参照)により、仮定的な反応1では121bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する(123bp)。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Sebastianの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体14018のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
以下の説明、図、および表では、多くの用語が用いられる。このような用語に所与の範囲を含め、本明細書および特許請求の範囲を記載する目的で、以下の定義を与える。
【0027】
本明細書で用いられる「ある」とは、それが用いられる文脈に応じて、1または複数を意味し得る。
【0028】
「農業形質」という用語は、その効力または経済的価値に寄与する、植物体の表現型形質または遺伝形質について説明する。このような形質には、病害耐性、虫害耐性、ウイルス耐性、線虫耐性、干ばつ忍容性、高塩分忍容性、収量、草高、成熟日数、穀粒の粒ぞろい(すなわち、穀粒サイズの画分)、穀粒の窒素含量などが含まれる。
【0029】
特に、ビール製造工程に関して、特に、モルト化工程を説明するのに用いる場合の「オオムギ」という用語は、オオムギの穀粒を意味する。別段に指定しない限り、他のすべての場合、「オオムギ」が任意の品種を含めたオオムギ植物体(Hordeum vulgare, L.)を意味するのに対し、オオムギ植物体の一部とは、オオムギ植物体の任意の部分、例えば、任意の組織または細胞であり得る。
【0030】
本明細書で定義される「穀類」植物とは、主にそれらのデンプン含有種子のために栽培される、Gramineae(Graminae)科植物のメンバーである。穀類植物には、オオムギ(Hordeum属)、コムギ(Triticum属)、コメ(Oryza属)、トウモロコシ(Zea属)、ライムギ(Secale属)、オートムギ(Avena属)、ソルガム(Sorghum属)、ならびにライムギとコムギとの交配種であるライコムギが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で用いられる「DMSP」とは、DMS前駆体またはDMS潜在体、すなわち、飲料の作製時においてDMSへと転換され得る分子の略号である。SMMが、DMSPの全部ではないにせよ、その主要部分を占める。本明細書では、特定の植物物質またはその生成物中において、アルカリ性の条件で1時間にわたり煮沸することによりDMSPから生成され得るDMSの量として、DMSPレベルを定義する。本明細書で定義される1ppbのDMSPは、1ppbのDMSに転換され得る。
【0032】
特定の核酸との関連における「コードする」または「コードされる」とは、特定のタンパク質へと翻訳される情報を含むことを意味する。タンパク質をコードする核酸は、その翻訳領域内において非翻訳配列(例えば、イントロン)を含む場合もあり、このように介在する非翻訳配列を欠く(例えば、cDNAにおいて)場合もある。タンパク質をコードする情報は、コドンを用いることにより指定される。
【0033】
核酸と関連して本明細書で用いられる「発現」とは、核酸断片に由来するセンスmRNAまたはアンチセンスRNAの転写および蓄積として理解されるものとする。タンパク質との関連で用いられる「発現」とは、mRNAがポリペプチドへと翻訳されることを指す。
【0034】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNA断片を意味し、該コード領域に先行および後続する領域(プロモーター領域およびターミネーター領域)を包含する。さらに、植物の遺伝子は、それらがコードするタンパク質について不連続であり、イントロンを介在させるエクソンからなる。RNAへと転写されると、スプライシングによりイントロンが除去されて、成熟メッセンジャーRNA(mRNA)が生成される。エクソン間の「スプライス部位」は、一次RNA転写物からのイントロンの欠失と、切除されたイントロンの両側において残存するRNA端の接合または融合とからなる、スプライシング過程のスプライスシグナルとして作用するコンセンサス配列により決定されることが典型的である。
【0035】
本明細書で用いられる「発芽」という用語は、天然で見出される通常の土壌など、各種の組成物中において、オオムギ穀粒の成長が開始または再開されることを意味する。発芽はまた、成長チャンバーなどの中に置いたポットの土壌中で生じる場合もあり、例えば、標準的な実験室用ペトリディッシュ内に置いて湿らせた濾紙上で生じる場合もあり、モルト化時において(例えば、モルト化工場のスティープタンクまたは発芽箱内において)生じる場合もある。発芽は一般に、穀粒の水和、穀粒の膨潤、および胚芽の成長の誘導を包含すると理解される。発芽に影響する環境因子には、水分、温度、および酸素レベルが含まれる。根および芽の発育が観察される。
【0036】
本明細書で用いられる「単離」という用語は、物質を、その元の環境から取り出すことを意味する。例えば、生体内に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、天然系において共存する物質の一部または全部から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されている。このようなポリヌクレオチドはベクターの一部の場合もあろうし、かつ/またはこのようなポリヌクレオチドもしくはポリペプチドは組成物の一部の場合もあろうが、このようなベクターまたは組成物はその天然環境の一部ではないので、これらはやはり単離されている。
【0037】
「穀粒」という用語は、また、内種子とも称する穀類の頴果、外頴、および内頴を含むものと定義される。大半のオオムギ品種では、外頴および内頴が頴果に付着し、脱穀後における穀粒の一部をなす。しかし、裸性のオオムギ品種もまた生じる。これらにおいては、頴果が、外頴および内頴から遊離しており、コムギの場合と同様に、脱穀により完全に遊離する。本明細書では、「穀粒(kernel)」および「穀粒(grain)」という用語を互換的に用いる。
【0038】
「穀粒の発生」とは、受精と共に始まり、代謝による貯蔵物質、例えば、糖、オリゴ糖、デンプン、フェノール性物質、アミノ酸、およびタンパク質が、液胞の標的化を伴い、また、これを伴わずに、穀粒内の各種の組織、例えば、内胚乳、種皮、糊粉、および胚盤へと蓄積され、これにより穀粒の拡大、穀粒の充実がもたらされ、穀粒の成熟および乾燥により終わる、オオムギの生活環を指す。
【0039】
「機能的MMTの完全な喪失」および「MMT活性の完全な喪失」という用語は、MMT酵素活性の欠如、すなわち、本明細書下記の実施例2で説明されるアッセイを用いるとき、検出可能なMMT活性を伴わないオオムギ植物体を指す。代替的に、オオムギ植物体のMMT活性は、前記オオムギのMMT cDNAを単離し、前記cDNAによりコードされるタンパク質が、SAMからMetへのメチル基の移動を触媒し、これにより、SMMを形成することが可能であるかどうかを判定することにより決定される。
【0040】
「モルト飲料」という用語は、モルト化させたオオムギとモルト化させていないオオムギとの混合物など、場合によって、他の成分と混合したモルトを用いて調製される飲料、好ましくは、モルトを熱湯と共にインキュベートする工程を包含する方法により調製される飲料を指す。モルト飲料は、例えば、ビールまたはモルティナであり得る。
【0041】
「発酵モルト飲料」という用語は、例えば、酵母と共にインキュベートして発酵させたモルト飲料を指す。
【0042】
「MMT活性」という用語は、オオムギのメチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を指す。本発明の文脈における「MMT活性」とは、SMMをもたらす、Metの硫黄原子におけるMMT触媒のメチル化である。MMT酵素は、他の反応も触媒することが可能であり得るが、本発明によるMMT活性を決定する目的では、SMM形成活性だけを考慮すべきである。図1Bは、メチル化により、MetがSMMへと転換される生化学反応を概観する。
【0043】
「モルト化」とは、モルト化工場のスティープタンクおよび発芽箱内であるが、これらに限定されない、制御された環境条件下で生じる、オオムギ穀粒発芽の特殊な形態である。本発明の工程によれば、モルト化は、オオムギ穀粒がスティーピングされる間および/またはスティーピングされた後で生じ始める。モルト化工程は、例えば、キルン乾燥工程においてオオムギ穀粒を乾燥させることにより、停止させることができる。モルトがキルン乾燥されていない場合は、「グリーンモルト」と称する。MMTヌルのオオムギから調製されたモルト組成物は、純粋のMMTヌルのモルト、またはMMTヌルのモルトを含む任意のモルトブレンドなど、MMTヌルのモルトを含むものと理解される。モルトは、例えば、破砕することにより加工することができ、この場合、モルトはまた、「粉砕モルト」または「粉末モルト」とも称し得る。
【0044】
「マッシング」とは、水中における粉砕モルトのインキュベーションである。マッシングは、所望の形で基質を酵素的に脱重合化することを可能とする特定の温度および特定の水量で実施することが好ましい。温度および水量は、モルトに由来する酵素活性の低下率に影響を及ぼし、このため、とりわけ、生じ得るデンプンの加水分解量に影響を及ぼすので重要である。プロテアーゼ作用もまた重要であり得る。マッシングは、全穀粒として、またはすべてが主に抽出物のさらなる供給源として用いられる粗引き穀物もしくはデンプンなどの加工生成物(ウォート煮沸時にはシロップを投与することが典型的である)としてのオオムギ(MMTヌルのオオムギを含めた)、またはトウモロコシ、またはコメなどであるがこれらに限定されない、モルト以外の任意の炭水化物供給源を含むものと理解される添加物の存在下で行い得る。醸造における添加物を加工するための要件は、用いられる添加物の状態および種類、ならびに、特に、デンプンのゼラチン化温度または液化温度に依存する。該ゼラチン化温度が通常のモルトの糖化温度のためのゼラチン化温度より高温である場合は、マッシュに添加する前に、該デンプンをゼラチン化および液化させる。
【0045】
所与の変異が、例えば、≧M3の世代において、ホモ接合型の遺伝子特徴として固定される場合、本明細書では、対応するオオムギ植物体を、「変異体」または「変異系統」または「系統」と互換的に称する。
【0046】
「変異」には、遺伝子のコード領域および非コード領域内における欠失、挿入、置換、トランスバージョン、および点変異が含まれ、この場合、該非コード領域は、プロモーター領域またはイントロンであることが好ましい。欠失は、全遺伝子の欠失の場合もあり、該遺伝子の一部だけの欠失の場合もある。点変異は、1塩基または1塩基対の変化に関し、その結果として、終止コドン、フレームシフト変異、またはアミノ酸置換をもたらし得る。体細胞変異は、植物体の特定の細胞または組織内だけにおいて生じ、次世代には遺伝しない変異である。生殖細胞系列変異は、植物体の任意の細胞内において見出すことができ、遺伝する。本明細書の図7(この図は、変異したオオムギの穀粒が、育種プログラムにおいて、どのようにして繁殖し得るかについての概要を提示する)を参照すると、M3世代の穀粒、ならびにこれらから直接的に繁殖した穀粒、またはそれらの植物体を含めた、任意の後続世代の穀粒を、「生の変異体」と称することができる。さらに、なおも本明細書の図7を参照すると、「育種系統」という用語は、栽培品種の植物体との異種交配の結果の場合もあり、別個の特異的な形質を有する別の育種系統との異種交配の結果の場合もある、M4世代の穀粒、ならびにこれらの植物体を含めた任意の後続世代を指す。
【0047】
本明細書で用いられる「MMTヌル」という用語は、機能的なメチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ酵素の完全な喪失を指す。したがって、「MMTヌルのオオムギ植物体」とは、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を含むオオムギ植物である。同様に、「MMTヌルの穀粒」とは、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を含む穀粒である、などという。
【0048】
例えば、「オオムギ植物体またはその一部」という語句の意味の範囲内に含まれる、「オオムギ植物体の一部」という用語は、オオムギ植物体の細胞、オオムギ植物体のプロトプラスト、そこからオオムギ植物体が再生され得る植物細胞組織の培養物、オオムギ植物体のカルス、ならびに、胚芽、花粉、胚珠、花、穀粒、葉、根、根端、葯、または植物体の任意の部分など、植物体またはオオムギ植物体の大部分において完全なオオムギ植物体の細胞を包含する。
【0049】
「PCR」または「ポリメラーゼ連鎖反応」は、特定のDNA断片を増幅するのに用いられる技法として、当業者により周知である(Mullis, K.B.らによる米国特許第4,683,195号および同第4,800,159号)。また、逆転写(RT−)PCRも、当業者により周知である。生物学的試料に対するRT−PCRの実施は、特定の遺伝子について、発現したmRNAを検出することを目的とする。MMTとの関連において、RT−PCRは一般に、MMTについてのmRNAを含有することが疑われる試料を得る工程と、逆転写酵素、ポリメラーゼ、および特定のプライマー対により、該試料に対してRT−PCRを実施して、それが存在する場合の該RNAを増幅する工程と、該試料中における、MMTをコードするRNAが存在することの指標としての増幅産物を検出する工程とを包含する。プライマーは、対になって作用する(「フォワードプライマー」(または「アッパーストランドプライマー」もしくは「順方向プライマー」)と、「リバースプライマー」(または「ローワーストランドプライマー」)との対)。本明細書では、プライマー配列を、5’から3’への方向で示す。
【0050】
「植物生成物」という用語は、植物体または植物体の一部を加工する結果として得られる生成物を意味する。例えば、前記植物生成物は、モルト、ウォート、発酵飲料もしくは非発酵飲料、食物生成物、または飼料生成物であり得る。
【0051】
本出願の意味の範囲内における「専門家によるビール試飲パネル」とは、エステル、高度数アルコール、脂肪酸、硫黄成分、およびこくに特別の焦点を当てて、ビールの風味を味わい、説明することにおいて高度に熟練した専門家によるパネルである。風味成分を評価するための分析ツールは多数存在するが、風味活性成分の相対的重要性を分析的に評価することは難しい。しかし、風味の専門家によれば、このような複雑な特性を評価することができる。彼らの持続的な訓練には、特定濃度のビール成分(例えば、酢酸イソアミル、酢酸エチル、ヘキサン酸エチル(ethyl hexanote)、およびイソアミルアルコール)をスパイクした標準的なビール試料の試飲および評価が含まれる。
【0052】
「スプライス部位」という用語は、遺伝子のエクソンとイントロンとの間の境界部位を意味する。したがって、スプライス部位は、エクソンからイントロンへと移行する境界部位(また、「ドナー部位」とも呼ばれる)の場合もあり、イントロンをエクソンから隔てる境界部位(また、「アクセプター部位」とも呼ばれる)の場合もある。植物体におけるスプライス部位は、コンセンサス配列を含むことが典型的である。イントロンの5’端は、一般に、保存的なGTジヌクレオチド(mRNAではGU)からなり、イントロンの3’端は、通常、保存的なAGジヌクレオチドからなる。したがって、イントロンの5’側スプライス部位は、イントロンの5’端を含み、該3’側スプライス部位は、イントロンの3’端を含む。本発明の文脈の範囲内では、イントロンのスプライス部位は、
(i)一般にGTである、該イントロンの大半の5’側ジヌクレオチドからなる、5’側スプライス部位;または
(ii)一般にAGである、該イントロンの大半の3’側ジヌクレオチドからなる、3’側スプライス部位
であることが好ましい。
【0053】
「クリプトスプライス部位」は、通常の条件下では認識されず、したがって、通常はスプライシングを引き起こさない。しかし、天然のエレメント内に点変異を保有する転写物内では、このような部位が活性化されて、スプライシングイベントを引き起こし得る。
【0054】
「組織培養物」とは、種類が同じであるかもしくは異なる単離細胞、または植物体の一部、例えば、プロトプラスト、カルス、胚芽、花粉、葯などへと組織化されたこのような細胞の集合を含む組成物を指す。
【0055】
「野生オオムギ」(Hordeum vulgare ssp. spontaneum)は、今日におけるオオムギの栽培形態の前駆体であると考えられる。野生状態から栽培状態へのオオムギの移行は、「オオムギ在来種」への該植物体の栽培化と符合したと考えられている。これらは、野生オオムギより、新型栽培品種との遺伝子的類縁性がより密接である。
【0056】
「野生型」オオムギという用語は、従来の方法で生成されたオオムギ植物体を指し、該用語は、本発明のオオムギ植物体が由来するオオムギ植物体、すなわち、親植物体を指すことが好ましい。野生型オオムギ穀粒は、一般に、例えば、種子メーカーから、「栽培品種」(「cvs.」と略記することが多い)、すなわち、米国国立の植物育種機関により列挙される遺伝子的に類似の穀粒として市販されている。本明細書では、「栽培品種」および「品種」という用語は、互換的に用いられる。
【0057】
「ウォート」という用語は、モルト、例えば、粉砕モルトもしくはグリーンモルト、または破砕グリーンモルトの液体抽出物を意味する。前記モルトに加えて、該液体抽出物は、モルトと、発酵性の糖へと部分的に転換されるさらなるデンプン含有物質など、さらなる成分とから調製することができる。ウォートは、一般に、マッシングにより得られるが、場合によって、「スパージング」、すなわち、マッシング後において、ビール粕から、残存する糖および他の化合物を熱湯により抽出する工程をその後で実施する。スパージングは、ロイタータン、マッシュフィルター、またはビール粕から抽出される液体の分離を可能とする別の装置内で実施することが典型的である。マッシング後において得られるウォートを、一般に、「一番ウォート」と称するのに対し、スパージング後において得られるウォートを、一般に、「二番ウォート」と称する。指定しない限り、ウォートという用語は、一番ウォートの場合もあり、二番ウォートの場合もあり、両者の組合せの場合もある。ビール生産時には、一般に、ウォートをホップと共に煮沸する。ホップを伴うが煮沸せずに調製したウォートをまた、「スイートウォート」とも称し得るのに対し、ホップを伴うかまたは伴わずに煮沸したウォートは、「煮沸ウォート」と称し得る。
【0058】
オオムギ植物体
オオムギとは、植物の科である。野生オオムギ(Hordeum vulgare ssp. spontaneum)は、今日におけるオオムギの栽培形態の前駆体であると考えられる。野生状態から栽培状態へのオオムギの移行は、多数の遺伝子座における対立遺伝子の根本的な変化の頻度と符合したと考えられている。希少な対立遺伝子、および新規の変異イベントは、「オオムギ在来種」と称する栽培化された植物体集団内において新規の形質を迅速に確立した農耕民により、肯定的に選択された。これらは、野生オオムギより、新型栽培品種との遺伝子的類縁性がより密接である。19世紀後半まで、オオムギ在来種は、早期世代における無作為的な異種交配に由来する少数の植物体を含めた、近交系と交配分離種との高度にヘテロ接合型の混合体として存在した。該在来種の大半は、先進農業において、純粋系統の栽培品種により置き換えられている。中等レベルまたは高レベルの遺伝子的多様性が、残りの在来種を特徴付けている。当初、「新型オオムギ」栽培品種は、在来種からの選択を表していた。これらは後に、地理的起源が多様な純粋系統など、確立された純粋系統間における異種交配の継起的サイクルに由来した。最終的な結果は、多くの、おそらくはすべての先進農業における遺伝的基盤の顕著な狭小化であった。在来種と比較して、新型オオムギ栽培品種は、例えば、
(i)穀粒が皮裸性であること;
(ii)種子の休眠;
(iii)病害耐性;
(iv)環境忍容性(例えば、干ばつまたは土壌pHに対する耐性);
(v)リシンおよび他のアミノ酸の比率;
(vi)タンパク質含量;
(vii)窒素含量;
(viii)炭水化物組成;
(ix)ホルデイン組成
などであるがこれらに限定されない多くの特性が改善されている(Nevo、1992年; von Bothmer、1992年)。
【0059】
本発明の範囲内において、「オオムギ」という用語は、任意のオオムギ植物体を含む。したがって、本発明は、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を保有する、任意のオオムギ植物体に関する。
【0060】
しかし、本発明により用いるのに好ましいオオムギ植物体は、新型オオムギ栽培品種または純粋系統である。本発明により用いられるオオムギ栽培品種は、例えば、Sebastian、Celeste、Tangent、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Harrington、Klages、Manley、Schooner、Stirling、Clipper、Franklin、Alexis、Blenheim、Ariel、Lenka、Maresi、Steffi、Gimpel、Cheri、Krona、Camargue、Chariot、Derkado、Prisma、Union、Beka、Kym、アサヒ5号、KOU A、Swan Hals、カントウナカテゴールド、ハカタ2号、キリン直1号、関東後期品種ゴールド、フジニジョウ、ニューゴールデン、サツキオニジョウ、セイジョウ17号、アカギニジョウ、アズマゴールデン、アマギニジョウ(Amagi Nijpo)、ニシノゴールド、ミサトゴールデン、ハルナニジョウ、Scarlett、Quench、NFC Tipple、およびJerseyからなる群から、好ましくは、ハルナニジョウ、Sebastian、Tangent、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Power、Quench、およびNFC Tippleからなる群から選択することができる。
【0061】
したがって、本発明の一実施形態では、前記植物体が、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を保有し新型オオムギ栽培品種であり、本明細書の前記で説明したオオムギ栽培品種の群から選択される栽培品種のうちの1つであることが好ましい。したがって、この実施形態では、オオムギ植物体が、オオムギ在来種ではないことが好ましい。
【0062】
オオムギ植物体は、任意の適切な形態であり得る。例えば、本発明によるオオムギ植物体は、生存オオムギ植物体、乾燥植物体、ホモジナイズされた植物体、または破砕オオムギ穀粒であり得る。植物体は、成熟植物体、胚芽、発芽穀粒、モルト化穀粒、粉砕モルト化穀粒などであり得る。
【0063】
オオムギ植物体の一部は、穀粒、胚芽、葉、茎、根、花、またはこれらの断片など、該植物体の任意の適切な部分であり得る。断片は、例えば、穀粒、胚芽、葉、茎、根、または花の切片であり得る。オオムギ植物体の一部はまた、ホモジネートの断片、抽出物の断片、または破砕オオムギ植物体もしくは破砕穀粒の断片でもあり得る。
【0064】
本発明の一実施形態では、オオムギ植物体の一部が、前記オオムギ植物体の細胞、好ましくは、in vitroで、例えば、細胞培養物または組織培養物中で増殖させ得る生細胞であり得る。特に、一実施形態では、前記細胞が、全オオムギ植物体へと成熟することが不可能な細胞、すなわち、生殖材料ではない細胞であり得る。
【0065】
機能的MMT酵素の喪失
本発明は、オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料などの植物生成物であって、前記オオムギ植物体が、MMT遺伝子における、その結果として機能的MMT酵素の喪失、例えば、野生型オオムギにおける対応するレベルと比較して、好ましくは、本明細書の上記で説明した野生型オオムギ栽培品種のうちのいずれかと比較して、より好ましくは、野生型オオムギ栽培品種であるPrestigeと比較して、MMT活性の少なくとも90%の喪失、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%、さらにより好ましくは少なくとも99.5%の喪失をもたらす変異を保有する植物生成物に関する。前記オオムギ植物体は、MMTをコードする遺伝子における、その結果としてMMT機能の完全な喪失をもたらす変異を有する最も好ましい。
【0066】
機能的MMT酵素の完全な喪失は、異なる機構に基づき得る。例えば、機能的MMT酵素の完全な喪失は、前記植物体内において機能不全のタンパク質、すなわち、検出可能な活性を伴わない変異体のMMTタンパク質など、機能不全のMMT酵素から結果としてもたらされ得る。例えば、該変異体のMMTタンパク質は、切断型タンパク質であり得る。MMT活性の喪失は、異なる機構、例えば、機能不全のMMTタンパク質にも同様に基づき得る。
【0067】
変異したMMTタンパク質の活性は、それが、SAMからMetへのメチル基の移動を触媒し、これにより、SMMを形成する能力により決定される。これは、例えば、本明細書下記の実施例4で説明する通りに試みることができる。好ましくは、変異したMMTのアミノ酸配列は、対応する、単離オオムギcDNAの翻訳配列を決定することにより得られる。これは、本質的に、本明細書下記の実施例8で説明する通りに行うことができる。代替的に、本発明のオオムギ植物体の変異したMMTは、本明細書下記の実施例11および実施例12で説明する通り、細菌細胞培養物中における異種発現の後、該組換えタンパク質が、MMT酵素として不活性であることを検証することにより得られる。
【0068】
機能的MMTの完全な喪失は、MMTタンパク質の欠如により実現することができる。MMTタンパク質の欠如は、MMT機能の喪失をもたらす。したがって、オオムギ植物体は、MMTタンパク質を含まない場合もあり、ごくわずかだけ含む場合もあるが、検出可能なMMTタンパク質を含まない場合が好ましい。MMTタンパク質の存在または不在は、当業者に公知の任意の適切な手段により検出することができる。しかし、該タンパク質(複数可)は、MMTタンパク質が、MMTを認識する特異的抗体により検出される技法により解析されることが好ましい。前記技法は、例えば、ウェスタンブロットアッセイの場合もあり、ELISA(酵素結合免疫測定)アッセイの場合もあり、前記特異的抗体は、モノクローナル抗体の場合もあり、ポリクローナル抗体の場合もあり得る。しかし、前記抗体は、MMTタンパク質内における複数の異なるエピトープを認識するポリクローナル抗体であることが好ましい。これはまた、例えば、MMT活性を決定する方法によって間接的に検出することもできる。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、オオムギ植物体内においてMMTタンパク質が検出可能でない場合、前記植物体が、MMTをコードする遺伝子における変異を保有し、このため、MMT活性の完全な喪失を引き起こすという。特に、これは、質量が約120kD(±10%)であるMMTが、前記オオムギ植物体内において検出されない場合(好ましくは、ウェスタンブロット法による解析で、前記オオムギ植物体の穀粒内において検出されない場合)である。
【0069】
機能的MMTの完全な喪失はまた、MMT mRNAの転写が見られない結果の場合もあり、これがごくわずかしか見られない結果の場合もあるが、MMT mRNAの転写が見られない結果であることが好ましい。当業者は、MMT転写物の不在もまた、その結果としてMMTタンパク質の不在をもたらすことを認めるであろう。
【0070】
しかし、機能的MMTの完全な喪失は、異常なMMT転写物が発現する結果であることが好ましい。前記転写物は、例えば、スプライス部位における変異に起因する、好ましくは、一次転写物のスプライスイベントの異常により引き起こされ得る。MMTをコードする転写物の発現は、例えば、ノーザンブロット法により検出することもでき、RT−PCR法により検出することもできる。
【0071】
本発明のオオムギ植物体における機能的MMTの完全な喪失は、1または複数の変異により引き起こされる。したがって、本発明のオオムギ植物体は、一般に、MMT遺伝子における少なくとも1つの変異を保有する。前記変異(複数可)は、制御領域内、例えば、プロモーター内またはイントロン内の場合もあり、タンパク質コード領域内の場合もある。したがって、機能的MMTの喪失はまた、MMTをコードする遺伝子内の変異について解析することによっても検出することができる。MMTをコードする遺伝子内の変異は、例えば、前記遺伝子を配列決定した後で、それを野生型配列、好ましくは、本明細書で配列番号3として与えられる栽培品種Prestigeの野生型配列、または栽培品種Sebastian(配列番号16)の野生型配列と比較することにより検出することができる。変異を同定した後で、例えば、実施例2または実施例4で説明する通り、MMT活性について調べることにより、機能の喪失を確認することが好ましい。
【0072】
MMTタンパク質という用語は、配列番号6で示されるオオムギの全長MMTタンパク質またはその機能的相同体を対象とすることを意図する。この文脈で、機能的相同体とは、配列番号6で示されるオオムギのMMTタンパク質のMMT活性と同じレベルのMMT活性(±25%)を有するMMTタンパク質であり、該MMT活性は、本明細書下記の実施例2または実施例4で説明する通りに決定される。
【0073】
95%など、少なくとも90%、99.5%など、例えば、99%のMMT活性を喪失したか、またはMMT活性を完全に喪失したオオムギ植物体は、N末端切断形態またはC末端切断形態など、部分的に機能的であるか、または好ましくは非機能的なMMTの切断形態を含み得る。オオムギ植物体は、異常な形でスプライスされた転写物から結果として得られる、MMTの2つの、または例えば3つの、または3つを超える異なる切断形態など、MMTの複数の切断形態を含み得る。前記切断形態は、MMTのN末端断片だけを含む。野生型MMTのN末端断片に加えて、前記MMTの切断形態は、野生型MMTには見出されない、さらなるC末端配列も含み得る。前記さらなるC末端配列は、例えば、スプライシングの異常に起因する、変異体のmRNA内に含まれるイントロン配列などの翻訳されたイントロン配列であり得る。前記切断MMT形態は、配列番号6の最大で500、より好ましくは最大で450、なおより好ましくは最大で400、さらにより好ましくは最大で350、なおより好ましくは最大で320、さらにより好ましくは最大で311、または最大で288のN末端アミノ酸残基を含むことが好ましい。これは、特に、前記オオムギ植物体が、MMT活性を完全に喪失している場合である。しかし、MMTはまた、配列番号6の300以下、例えば、250以下など、200以下、例えば、最大で150、例えば、147以下、または133以下など、より少ないN末端アミノ酸も含み得る。
【0074】
極めて好ましい一実施形態では、切断MMT形態が、配列番号6のアミノ酸1〜311、またはアミノ酸1〜288と、場合によって、野生型MMTには存在しないさらなるC末端配列とからなる場合がある。前記さらなるC末端配列は、最大で50アミノ酸からなることが好ましく、より好ましくは最大で30アミノ酸、なおより好ましくは最大で10アミノ酸、さらにより好ましくは最大で4アミノ酸、または最大で1アミノ酸からなる。極めて好ましい実施形態では、MMTの切断形態が、配列番号11によるタンパク質の場合もあり、配列番号13によるタンパク質の場合もあり、配列番号15によるタンパク質の場合もある。配列番号11、または配列番号13、または配列番号15のタンパク質のうちのいずれもが、機能的なMMT酵素ではない。
【0075】
極めて好ましい別の実施形態では、切断MMT形態が、配列番号18のアミノ酸1〜147、またはアミノ酸1〜133と、場合によって、野生型MMTには存在しないさらなるC末端配列とからなる場合がある。前記さらなるC末端配列は、最大で50アミノ酸からなることが好ましく、より好ましくは最大で40アミノ酸、なおより好ましくは最大で39アミノ酸、または最大で33アミノ酸、または最大で30アミノ酸からなる。極めて好ましい実施形態では、MMTの切断形態が、配列番号22によるタンパク質の場合もあり、配列番号24によるタンパク質の場合もあり、配列番号26によるタンパク質の場合もある。配列番号22、または配列番号24、または配列番号26のタンパク質のうちのいずれもが、機能的なMMT酵素ではない。
【0076】
上述のMMTの切断形態は、例えば、MMTをコードする遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体内に存在し、前記変異により未熟終止コドンが導入され、その結果、上述のMMTの切断形態をコードする遺伝子がもたらされ得る。
【0077】
本発明の好ましい実施形態では、オオムギ植物体が、介在配列なしに併せてスプライスされる野生型MMT遺伝子(オオムギの野生型MMTのイントロン−エクソン構造を図9に示す)のうちの全部ではないが一部を含むmRNAへと転写される遺伝子を含む。したがって、一実施形態では、本発明によるオオムギ植物体のMMT mRNAが、介在配列なしに併せてスプライスされるエクソン1、2、3、4、および5を最大で含むか、または例えば、介在配列なしで併せてスプライスされるエクソン1および2を最大で含む。前記併せてスプライスされるエクソンに加え、本発明によるオオムギ植物体のMMT mRNAは、野生型のイントロンおよび/またはエクソンに由来する、さらなる3’末端配列を含む場合があり、ここで、エクソン配列はイントロンにより隔てられている。本発明によるオオムギ植物体の異常なMMT mRNAの好ましい例(RT−PCRにより決定され、したがって、bp単位の断片長を有する)を、図12および図16に示す。本発明によるオオムギ植物体の異常な mRNAは、5’端においてエクソン1および2をさらに含む、図12で示されるmRNA、または5’端においてエクソン1をさらに含む、図16で示されるmRNAであることがより好ましい。
【0078】
本発明の極めて好ましい実施形態では、MMT遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体が、MMT遺伝子内のスプライス部位において変異を含み、その結果異常な形でスプライスされるmRNAをもたらす。前記変異は、MMT遺伝子のイントロン内に位置することがより好ましく、イントロン1(該イントロンは、エクソン1および2を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン2(該イントロンは、エクソン2および3を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン3(該イントロンは、エクソン3および4を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン4(該イントロンは、エクソン4および5を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン5(該イントロンは、エクソン5および6を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン6(該イントロンは、エクソン6および7を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロンの5’側のスプライス部位内に位置することがなおより好ましく、イントロン2またはイントロン5の5’側のスプライス部位内に位置することが最も好ましい。
【0079】
前記変異は、前述のイントロンの5’末端塩基のG→A変異であることが好ましい。したがって、極めて好ましい変異は、イントロン2の5’末端塩基のG→A変異、またはイントロン5の最も5’側の塩基のG→A変異である。
【0080】
本発明によるオオムギ植物体は、当業者に公知の任意の適切な方法により、好ましくは、本明細書下記の節「機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体の調製」で概観される方法により調製することができる。
【0081】
本発明の一実施形態では、本発明による、MMT活性を完全に喪失させたオオムギ植物体が、野生型オオムギと同等の、生理学的および発生学的な穀粒特徴および植物体特徴を有することが好ましい。よって、本明細書では、MMTヌルのオオムギ植物体が、草高、植物体1体当たりのひこばえ数、開花の開始、および/または1穂当たりの穀粒数など、農業的に重要な特徴に関して、野生型オオムギと同様であることが好ましい。
【0082】
極めて好ましい実施形態では、本発明によるオオムギ植物体のMMTをコードする遺伝子が、配列番号8に示される配列を有する。したがって、本発明によるオオムギ植物体は、配列番号3(ここで、配列番号3とは、栽培品種PrestigeであるオオムギのMMTの野生型ゲノム配列である)の塩基番号3076のG→A変異を保有することが好ましい。
【0083】
MMT活性を完全に喪失させたオオムギ植物体の好ましい一例は、2008年10月13日にAmerican Type Culture Collection (ATCC), Patent Depository, 10801 University Blvd., Manassas, VA 20110, United Statesに寄託され、「オオムギ(Hordeum vulgare):8063系統」と称するオオムギ植物体である。したがって、本発明のオオムギ植物体は、2008年10月13日にATCCに寄託されたオオムギ8063系統(ATCC特許受託番号:PTA−9543)、またはその任意の前駆体であるオオムギ植物体であり、本発明によるオオムギ植物体のMMTをコードする遺伝子は、配列番号8に示される配列を有する。
【0084】
極めて好ましい実施形態では、本発明によるオオムギ植物体のMMTをコードする遺伝子が、配列番号19に示される配列を有する。したがって、本発明によるオオムギ植物体は、配列番号16(ここで、配列番号16とは、栽培品種SebastianであるオオムギのMMTの野生型ゲノム配列である)の塩基番号1462のG→A変異を保有することが好ましい。
【0085】
機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体の調製
本発明による機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体は、当業者に公知の任意の適切な方法により調製することができる。本発明のオオムギ植物体は、オオムギ植物体(またはその一部、例えば、オオムギ穀粒)を変異させる工程の後で、オオムギ植物体を、MMT活性を完全に喪失させた個体についてスクリーニングおよび選択する工程を含む方法により調製する。興味深いことに、一態様では、本発明が、前記オオムギ植物体の同定を可能とする、新規で極めて有効なスクリーニング法に関する。
【0086】
したがって、MMT遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を調製する方法を提供することが本発明の目的である。前記方法は、
(i)オオムギ植物体、および/またはオオムギ細胞、および/またはオオムギ組織、および/またはオオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得る工程と;
(ii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり繁殖させ、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得る工程と;
(iii)前記Mx世代のオオムギ植物体から試料を得る工程と;
(iv)前記試料中におけるSMMレベルを決定する工程と;
(v)試料が10ppb未満のSMM、好ましくは5ppb未満のSMMを含み、より好ましくは検出可能なSMMを含まない植物体を選択する工程と;
(vi)MMT遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程と;
(vii)MMT遺伝子における変異を保有する植物体を選択する工程と
を含み、これらにより、MMT遺伝子における、機能的MMTの完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を得る。
【0087】
上記列挙における工程(i)は、オオムギ植物体、オオムギ細胞、オオムギ組織、オオムギ穀粒、およびオオムギ胚芽からなる群から選択され、好ましくは、オオムギ植物体、オオムギ穀粒、およびオオムギ胚芽からなる群から選択される生存オオムギ物質、より好ましくは、オオムギ穀粒を変異誘発する工程を伴い得る。変異誘発は、任意の適切な方法により実施することができる。一実施形態では、オオムギ植物体またはその一部(例えば、オオムギ穀粒またはオオムギに由来する個々の細胞)を、変異誘発剤と共にインキュベートすることにより、変異誘発を実施する。このような薬剤は当業者に公知であり、例えば、アジドナトリウム(NaN3)、メタンスルホン酸エチル(EMS)、アジドグリセロール(AG)、メチルニトロソウレア(MNU)、およびマレインヒドラジド(MH)からなる群から選択することができる。
【0088】
別の実施形態では、例えば、オオムギ植物体または穀粒などその一部を紫外線で照射することにより、変異誘発を実施する。本発明の好ましい実施形態では、本明細書下記の節「化学的変異誘発」において概観される方法のうちのいずれかにより、変異誘発を実施する。適切な変異誘発プロトコールの非限定的な例は、Breddam, K.らによる米国特許第7,420,105号の他、本明細書下記の実施例2においても与えられている。
【0089】
変異誘発は、M3世代のオオムギをスクリーニングするとき、所望の変異体の予測頻度が、穀粒10,000個当たり0.5〜5個の範囲内など、少なくとも0.5個、例えば、0.9〜2.3個の範囲内であるように実施することが好ましい。
【0090】
好ましい実施形態では、オオムギ穀粒を変異誘発する。これらを、M0世代と称する(また、図7も参照されたい)。
【0091】
変異誘発の後、検出可能なMMT活性を示さないオオムギ植物体またはその一部を選択する。選択は、試料をオオムギ植物体から、好ましくは、発芽しつつあるオオムギ植物体から、なおより好ましくは、発芽以来4日間が経過したオオムギ植物体から得る工程を含む。試料は、子葉鞘および/または初生葉に由来することが好ましく、好ましくは葉に由来する。したがって、試料は、例えば、葉組織の1cm〜3cmの範囲内であり得る。
【0092】
試料は、異なる溶媒および結合物質の継起的な使用を伴う、本明細書で説明される、新規に開発されたマルチ工程のプロトコールに従い、抽出および解析することができる。一般に、試料は、例えば、溶媒または溶媒の混合物、好ましくは、水および/または有機溶媒により抽出することができる。有機溶媒は、例えば、アルコール、好ましくはメタノールであり得る(または、有機溶媒は、例えば、ハロゲン化アルキル、好ましくはクロロホルムであり得る)。好ましい一実施形態では、溶媒が、水、メタノール、およびクロロホルムの混合物である。前記抽出は、例えば、シェーカーまたはミキサーを用いて混合しながら実施すると有利であり得る。該溶媒/試料混合物には、固体支持体(例えば、ガラスビーズなどのビーズ)を添加することができる。
【0093】
好ましい実施形態では、前述の葉試料を、Mx(ここで、xは、≧2の整数、好ましくは、2〜10の範囲内の整数、より好ましくは、3〜8の範囲内の整数である)世代の穀粒から採取する。極めて好ましい実施形態では、M3世代の発芽植物体またはその試料(葉など)中において、SMMレベルを決定する。前記実施形態では、変異誘発したM0世代のオオムギ穀粒を成長させてオオムギ植物体を得、その後、これを異種交配させてM1世代の穀粒を得ることが好ましい。M3世代の穀粒が得られるまで、この手順を反復する(図7を参照されたい)。
【0094】
SMMレベルの決定は、下記で説明される新規の手順に基づくことが好ましい。興味深いことに、この方法は、ハイスループットのスクリーニングを可能とし、これにより、機能的MMTの完全な喪失を特徴とするオオムギ植物体の同定が実行可能となる。
【0095】
一般的に述べると、該方法は、試料、または好ましくは、上記で説明された通りに調製された前記試料の抽出物を、SMMに結合することが可能な化合物と反応させる工程を伴う。本明細書の下記ではOPAとだけ称するOPA試薬(Sigma社製、型番P7914;図2を参照されたい)が、SMMレベルを決定するのに特に有用であることが判明した。OPAは、とりわけ、SMMと反応して、SMM−OPAと称する分子を形成する(図2を参照されたい)。反応は、OPAを、上記で説明した通りに調製された試料の抽出物と共にインキュベートする工程を伴うことが好ましい。加えて、該反応混合物に、3−メルカプト−プロピオン酸を添加することが好ましい。混合物は、アルカリ性のpH、好ましくはpH8〜pH11の範囲内、より好ましくはpH9〜pH11の範囲内、なおより好ましくは、pH10など、pH9.5〜pH10.5の範囲内に保つことが好ましい。インキュベーションは、0℃〜10℃の範囲内、好ましくは1℃〜8℃の範囲内、なおより好ましくは2℃〜6℃の範囲内、さらにより好ましくは、4℃など、3℃〜5℃の範囲内にある温度で実施することが好ましい。インキュベーション時間は、≧10分間であることが好ましい。
【0096】
SMM−OPAが、それぞれ、340nmおよび450nmの光を吸光および発光するという観察に基づき、蛍光分光分析を用いることにより、その検出が可能となった。検出の初期過程は、カラムにより、好ましくは、30×2mmのGemini 3μ C18カラム(Phenomenex社製、型番00A−4439−80; Phenomenex社、2006年)上において抽出物を分離した後で、ハイスループットの液体クロマトグラフィーシステム、好ましくは、340nmの励起波長および450nmの発光波長を有する分子の蛍光レベルを同定および測定するようにデザインされた、Ultra Performance液体クロマトグラフィー(Waters社製、UPLCシステム)を用いる蛍光の検出を伴うことが好ましい。この方法を用いる場合、「検出可能なSMMは見られない」とは、SMMと共に共溶出する検出可能な化合物が不在であることを意味する。この文脈において、クロマトグラムピークにおける小さな「肩」は、アーチファクトのピークであること考えられる。したがって、Asn/Serピークの右側における小さな肩(図3を参照されたい)は、SMMピークを表すとは考えられない。したがって、例を目的として述べると、図3Bに示される上方の2つのクロマトグラムが、「検出可能なSMMは見られない」を示すと考えられるのに対し、前記図中下方のクロマトグラムは、SMMを含む試料の分離を表す。
【0097】
SMMの検出は、実施例2で説明する通りに行うことが好ましい。本発明によるオオムギ植物体、発芽しつつあるオオムギ植物体、なおより好ましくは、発芽以来4日間が経過したオオムギ植物体を選択するのに好ましい方法は、本明細書下記の実施例2で説明する。上述のスクリーニング法が特に有用であることは、注目に値する。何よりもまず、該解析法は新規である。さらに、それが、発芽しつつあるオオムギ植物体の葉など、発芽しつつあるオオムギ植物体内におけるSMMレベルを決定するために確立されていることは、上記の方法の顕著な利点である。発芽しつつあるオオムギから試料採取するタイミングにより、UPLCベースでSMMを検出するための、予測外に清明な調製物が作製される。他の試料、例えば、上記で説明した同様の穀粒によるウォート試料は、組成が複雑に過ぎ、一般に、SMMレベルを決定するための、言及されたクロマトグラフィー法で用いることはできない。
【0098】
SMMが10ppb未満であり、好ましくは、検出可能なSMMを有さないオオムギ植物体を同定した後で、対応するMMT遺伝子またはその一部を配列決定して、問題のオオムギ植物体が、該MMT遺伝子における変異を有するものとして分類され得るかどうかを決定することが典型的である。次いで、検出可能なSMMを有さないことを特徴とし、MMTをコードする遺伝子のうちの1または複数の塩基が野生型配列と比較して異なるオオムギ植物体を選択する。この文脈で、野生型配列とは、対応する野生型オオムギ栽培種内で見出される配列であることが好ましく、本明細書で配列番号3として示される配列であることが好ましい。好ましい変異は、本明細書の上記で説明されている。
【0099】
選択されたオオムギの変異体をさらに繁殖させ、後続世代の植物体を、SMM含量について再スクリーニングすることができる。有用なオオムギ植物体を選択した後で、これらを、本明細書下記の節「植物体の育種」で説明される従来の方法を用いる育種プログラムに組み入れることができる。
【0100】
植物生成物
一態様では本発明が、オオムギ植物体またはその一部から調製される、DMSレベルの低い飲料または他の植物生成物であって、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有する飲料または他の植物生成物に関する。興味深いことに、このような植物生成物は、一般に、含むDMSレベルが極めて低い。さらに、このような植物生成物はまた、一般に、含むSMMレベルも極めて低く、また、好ましくは、DMSOレベルも極めて低い。理論に拘束されることなく述べると、本出願者らは、オオムギおよびモルトに由来するSMMが不在である結果として、飲料中おいて、また、機能的MMT酵素の喪失を特徴とする前記オオムギから調製された他の植物生成物中においても、DMSレベルが極めて低くなることを認識する。MMT活性を完全に喪失させたオオムギ植物体から調製した飲料など、有用な植物生成物の例については、本明細書の下記で説明する。
【0101】
前記飲料、または前記植物生成物は、それぞれ野生型オオムギ植物体から調製された同様の飲料または植物生成物のDMS含量およびSMM含量の
(i)30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、なおより好ましくは10%未満のDMS;および/または
(ii)30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、なおより好ましくは、5%未満、例えば、2%未満など、10%未満のSMM
を含有することが好ましい。
【0102】
前記飲料、または前記植物生成物は、
(i)30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、さらにより好ましくは、検出可能なDMSを含有せず;かつ/または
(ii)50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含有し、さらにより好ましくは検出可能なSMMを含有しない
ことが好ましい。
【0103】
加えて、植物生成物は、野生型オオムギ植物体から調製された同様の飲料または植物生成物のDMSO含量の30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、なおより好ましくは10%未満のDMSO含量を含むことが好ましい。
【0104】
一態様では、本発明による植物生成物が、機能的MMTの完全な喪失を結果としてもたらす変異を保有するオオムギ穀粒であり得る。植物生成物はまた、前記穀粒を含む組成物、ならびに前記穀粒から調製される組成物の他、前記穀粒から調製される他の植物生成物でもあり得る。
【0105】
一態様では、本発明による植物生成物は、MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体の穀粒をモルト化することにより調製されるモルト組成物である。「モルト化」という用語により、制御された環境条件下で生じる、スティーピングされたオオムギ穀粒の発芽(例えば、図8に示す)が理解されるものとする。
【0106】
モルト化とは、オオムギ穀粒を制御された形でスティーピングし、発芽させた後で、これを乾燥させる(好ましくは、キルン乾燥させる)工程である。乾燥させる前の、スティーピングされて発芽したオオムギ穀粒を「グリーンモルト」と称するが、これもまた、本発明による植物生成物であり得る。このイベントの連鎖は、主に、死滅した内胚乳細胞壁を脱重合化させ、穀粒の栄養物質を移動させるのに用いられる過程において、穀粒の改変を引き起こす多数の酵素を合成するのに重要である。乾燥させる工程では、化学反応の結果として、風味および色(例えば、褐色)が生成される。モルトは主に、飲料を生産するのに用いられるが、それはまた、例えば、製パン業における酵素供給源として、またはモルトもしくは粉末モルトなど、食物産業における芳香剤および着色剤として、あるいは間接的に、モルトシロップなどとして、他の産業工程でも用いることができる。
【0107】
一態様では、本発明が、前記モルト組成物を生成させる方法に関する。該方法は、
(i)MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体に由来するオオムギ穀粒を供給する工程と;
(ii)前記穀粒をスティーピングする工程と;
(iii)該スティーピングされた穀粒を、所定の条件下で発芽させる工程と;
(iv)前記発芽した穀粒を乾燥させる工程と
を含み、これらにより、SMMおよび/またはDMSレベルの低いモルト組成物を生成させる。例えば、モルトは、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)により説明される方法のうちのいずれかにより生成させることができる。
【0108】
しかし、モルトを焙煎する方法などが含まれるがこれらに限定されない、特殊モルトを生成させるための方法など、モルトを生成させるのに適する他の任意の方法もまた用いることができる。
【0109】
興味深いことに、DMSは、沸点が37℃〜38℃のかなり揮発性の化合物であり(Imashuku、前出)、モルト生成時、例えば、キルン乾燥時において、該組成物は、一般に、実質量のDMSが蒸発してしまうような熱にかけられる。しかし、通常のモルト組成物の冷却時には、DMS前駆体(DMSP)からより多くのDMSが生成される可能性がある。本発明の主要な1つの利点は、モルト組成物中において、DMSが生成されないか、または生成されるDMSが極めてわずかであるに過ぎないことである(実施例6;図5Aを参照されたい)。
【0110】
モルト中におけるDMS濃度を低下させる方法が説明されている。これらの方法の多くは、モルトの熱処理に依拠する。前記熱処理は、単に、例えば、キルン乾燥時においてモルトを加熱して、蒸気を適用することにより遊離DMSを蒸発させることであり得る。こうして、モルトの蒸気処理は、モルト中における遊離DMSレベルを低下させ得る。しかし、これらの方法は、主に、モルト中における遊離DMSレベルは低下させるが、SMMレベルに及ぼす影響は、より低い程度であるに過ぎない。上記で言及した通り、モルト組成物など、本発明の植物生成物は、それが含むDMSおよびSMMがいずれも低レベルであることが好ましい。本発明の一実施形態では、本発明のモルト組成物を、蒸気により遊離DMSを蒸発させて除去することを伴う処理にかける程度が限定的であるに過ぎないか、または代替的に、キルン乾燥時において蒸気を用いて遊離DMSを蒸発させて除去することを伴う処理にかけることがない。
【0111】
本発明の一実施形態では、本発明によるモルトが、臭素酸カリウムまたは臭素酸カルシウムなどの臭素酸塩により処理されていないことが好ましい。
【0112】
モルトは、例えば、破砕し、これにより粉砕モルトを得ることにより、さらに加工することができる。したがって、本発明による植物生成物は、未加工モルト、または粉砕モルト、もしくはその粉末など、任意の種類のモルトであり得る。粉砕モルトおよびその粉末は、再発芽する能力を欠く死滅細胞を含めた、モルトの化学成分を含む。
【0113】
本発明のモルト組成物は、最大で3μg/g、好ましくは最大で2μg/g、より好ましくは最大で1μg/g、なおより好ましくは、最大で0.2μg/gなど、最大で0.5μg/gの遊離DMSを含むことが好ましい。加えて、本発明のモルト組成物は、最大で2μg/g、好ましくは最大で1μg/g、より好ましくは最大で0.5μg/gのSMMを含むことが好ましい。
【0114】
好ましい態様では、本発明は、最大で200ppb、好ましくは最大で150ppb、より好ましくは最大で100ppb、なおより好ましくは、最大で25ppbなど、最大で50ppbの遊離DMSを含むモルト組成物を提供する。加えて、好ましくは、本発明のモルト組成物は、最大で1000ppb、好ましくは最大で500ppb、より好ましくは最大で250ppb、なおより好ましくは最大で100ppb、さらにより好ましくは最大で50ppbのSMMを含むことが好ましい。また、本発明のモルト組成物は、最大で1000ppb、好ましくは最大で500ppb、より好ましくは最大で100ppb、さらにより好ましくは最大で50ppbのDMSPを含むことも好ましい。
【0115】
別の態様では、本発明は、最大で5000ppb、より好ましくは最大で2500ppb、さらにより好ましくは最大で1000ppb、なおより好ましくは最大で500ppb、さらにより好ましくは最大で250ppb、例えば、最大で150ppbのDMSPを含むグリーンモルト組成物に関する。また、前記グリーンモルト組成物は、最大で200ppb、好ましくは最大で150ppb、より好ましくは最大で100ppb、なおより好ましくは、最大で25ppbなど、最大で50ppbの遊離DMSを含むことも好ましい。
【0116】
別の態様では、本発明による植物生成物が、オオムギシロップまたはオオムギモルトシロップなどのシロップである。植物生成物はまた、オオオムギまたはモルトの抽出物でもあり得る。
【0117】
別の態様では、本発明による植物生成物が、MMT遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ穀粒に由来するモルト組成物から調製されるウォート組成物である(実施例6;図5Bを参照されたい)。前記ウォートは、MMTヌルの穀粒だけから調製することもでき、他の穀粒も含む混合物から調製することもできる。本発明はまた、単独で、または他の成分と混合されたMMTヌルのオオムギまたはその一部を用いて調製されるウォート組成物にも関する。前記ウォート組成物は、一番ウォート、および/または二番ウォート、および/またはさらなるウォートであり得る。ウォート組成物は、スイートウォートの場合もあり、煮沸ウォートの場合もあり、これらの混合物の場合もある。一般に、ウォート組成物は、高レベルのアミノ窒素と、発酵性炭水化物とを含有し、後者は主にマルトースである。図8に、モルトからウォートを調製する一般的な方法を示す。一般に、ウォートは、マッシング工程において、モルトを水と共にインキュベートすることにより調製する。マッシング時において、モルト/水組成物には、炭水化物に富むさらなる組成物、例えば、オオムギ添加物、トウモロコシ添加物、またはコメ添加物を補充することができる。モルト化していない穀類添加物は一般に、含有する酵素レベルが極めて低いことが公知であり、このため、糖転換および/または遊離アミノ窒素の生成を含めた抽出物の生成には、モルトまたは外因性酵素の補充が必要となる。
【0118】
本発明の一実施形態では、植物生成物が、モルト化させていないオオムギであり、これは、例えば、マッシング時における添加物として有用であり得る。
【0119】
一般に、ウォート生成工程における最初の工程は、水が、マッシング相にある穀粒粒子に到達し得るように、モルトを破砕する工程である(これは、酵素により基質を脱重合化するモルト化工程の拡張であると考えることができる)。マッシング時には、粉砕モルトを、水などの液体と共にインキュベートする。インキュベーション温度は、一定に保つ(等温マッシング)か、または段階的に上昇させる。好ましい実施形態では、初期のマッシング温度が70℃を超えず、好ましくは69℃を超えず、したがって、例えば、初期のマッシング温度が、55℃〜69℃の範囲内、例えば、55℃〜65℃の範囲内など、50℃〜69℃の範囲内であり得る。初期のマッシング温度が高すぎると、マッシュ中における酵素活性に影響が及び、所望の酵素活性を低下させるか、さらにまたは無化する可能性があり、この結果、ウォートの品質が変化する。いずれの場合も、モルト化およびマッシングにおいて生成される可溶性物質は、前記液体画分中に放出される。その後の濾過により、ウォートの液体と、残留する固体粒子との分離がなされ、後者を、ビール粕と称する。前記ウォートはまた、「一番ウォート」とも称する。濾過後、熱湯でスパージングすることにより、「二番ウォート」を得ることができる。ウォートを調製するのに適する手順の非限定的な例は、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)により説明されている。
【0120】
一番ウォート、二番ウォート、およびさらなるウォートを混合し、その後、煮沸にかけることができる。純粋の一番ウォートであれ、混合ウォートであれ、煮沸されていないウォートをまた「スイートウォート」とも称するのに対し、煮沸後のウォートは、「煮沸ウォート」と称する。ウォートをビールの生産に用いる場合、煮沸前にホップを添加することが多い。
【0121】
ウォート組成物はまた、モルト化させていないMMTヌルの植物体またはその一部など、MMTヌルのオオムギ植物体またはその一部を、酵素組成物または酵素混合物による組成物、例えば、UltrafloまたはCereflo(Novozymes社製)など、1または複数の適切な酵素と共にインキュベートすることによっても調製することができる。ウォート組成物はまた、モルトと、モルト化させていないオオムギ植物体またはその一部との混合物、またはモルト化させていないオオムギだけを用いて調製することもでき、場合によって、前記調製時において、1または複数の適切な酵素、特に、アミラーゼ、グルカナーゼ(好ましくは、(1−4)−グルカナーゼおよび/または(1−3,1−4)−β−グルカナーゼ)、および/もしくはキシラナーゼ(アラビノキシラナーゼなど)、および/もしくはプロテアーゼ、または前述の酵素のうちの1または複数を含む酵素混合物を添加して、例えば、酵素混合物であるOndea Pro(Novozymes社製)を添加して調製することもできる。
【0122】
本発明のオオムギは、モルトマッシュに添加して、添加物として用いることができる。より具体的に述べると、本発明のオオムギは、オオムギ:モルト=100:0、または75:25、または50:50、または25:75などであるがこれらに限定されない、外部の醸造用酵素を伴うかまたは伴わずに、モルトと併せた任意の組合せでマッシングに用いることができる。
【0123】
従来の醸造法では、ウォートを長時間にわたり、一般には、60分間〜120分間の範囲で煮沸するが、その1つの理由は、長時間の煮沸により、揮発性であるDMSの量が低減されることである。しかし、長時間の煮沸は、他の多くの理由のため、例えば、それが顕著なエネルギー供給を必要とするために望ましくない。加えて、前記煮沸は、ストレッカーアルデヒドの望ましくない異臭を生成させ得る。本発明により、長時間の煮沸を行わなくても、MMTヌルのオオムギから、DMSレベルの低いウォートを生成させることができる。したがって、本発明の好ましい実施形態によるウォートの煮沸時間は、最長で45分間、なおより好ましくは最長で30分間、例えば、最長で15分間である。ウォートを長時間にわたり煮沸しても、時間が経過すると、DMSがDMSPからやはり生成され得ることは注目に値する。興味深いことに、本発明によるウォートは、通常のウォートを煮沸させた後で得られるDMSレベルより実質的に低い、低DMSレベルを維持する。
【0124】
本発明のさらなる実施形態では、ウォートの煮沸後で、かつ発酵前において、ウォートを二酸化炭素による洗浄にかけないことが好ましい。
【0125】
本発明のウォート組成物は、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは、15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含み、さらにより好ましくは検出可能なDMSを含まない、かつ/または50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満の、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含み、なおより好ましくは検出可能なSMMを含まないことが好ましい。
【0126】
本発明の植物生成物またはその一部はまた、MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を含む、食物組成物、飼料組成物、および香料の原料組成物でもあり得る。食物組成物は、例えば、モルト化させたオオムギ穀粒およびモルト化させていないオオムギ穀粒、オオムギ粉末、パン、ポリッジ、オオムギを含む穀類混合物、オオムギを含む飲料などの健康製品、オオムギシロップ、およびフレーク状オオムギ組成物、破砕オオムギ組成物、または押出し成形したオオムギ組成物であり得るがこれらに限定されない。飼料組成物には、例えば、オオムギ穀粒および/またはオオムギ粉末を含む組成物が含まれる。香料の原料組成物については、本明細書の下記で説明する。
【0127】
本発明はまた、本明細書で説明される植物生成物の混合物にも関する。例えば、一態様では本発明が、
(i)MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体またはその一部を含む組成物と;
(ii)MMTヌルの穀粒から調製されるモルト組成物と
の混合物により調製される組成物に関する。
【0128】
好ましい態様では、本発明が、飲料、より好ましくはモルト由来の飲料、なおより好ましくは、含有するDMSレベルが低いビールなどのアルコール飲料に関し、前記飲料は、MMTヌルのオオムギまたはその一部を用いて調製される。
【0129】
したがって、好ましい態様では、本発明は、飲料、より好ましくはモルト由来の飲料、なおより好ましくは、ビールなどのアルコール飲料に関し、前記飲料またはビールは、
(i)30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDSMを含有し、さらにより好ましくは、検出可能なDSMを含有せず;かつ/または
(ii)50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含有し、さらにより好ましくは検出可能なSMMを含有しない。
【0130】
飲料は、MMTヌルのオオムギ(またはその一部、またはその抽出物)を発酵させることにより、例えば、MMTヌルのオオムギから生成させたモルトを、単独で、または他の成分と組み合わせて用いて生成させたウォートを発酵させることにより調製することが好ましい。
【0131】
しかし、本発明の他の実施形態では、飲料が、非発酵飲料、例えば、ウォート、好ましくは、MMTヌルのモルトから調製したウォートである。前記飲料を、モルト化させていないオオムギ植物体またはその一部から、好ましくは、モルト化させていないMMTヌルのオオムギ植物体またはその一部から調製し得ることもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0132】
飲料は、非アルコール性ビール、またはモルティナなどの非アルコール性モルト飲料など、他の種類の非アルコール性飲料などの非アルコール性飲料であり得る。
【0133】
しかし、前記飲料は、MMTヌルのオオムギ穀粒を含むモルト組成物から調製することが好ましい。前記飲料は、ビールであることがより好ましい。これは、当業者に公知の任意の種類のビールであり得る。一実施形態では、ビールが、例えば、ラガービールである。ビールは、発芽したMMTヌルのオオムギを含むモルト組成物を用いて醸造することが好ましい。しかし、モルト組成物はまた、例えば、野生型オオムギ、コムギ、および/もしくはライムギ、または、シロップ組成物を含め、モルト化させた原料もしくはモルト化させていない原料に由来する糖もしくは組成物を含む、発芽させていない原料も含み得る。
【0134】
時間が経過すると、SMMを含めたDMSPから、DMSが発生し得ると一般に考えられる。したがって、飲料中に当初DMSが存在しないか、または存在するDMSが極めて少量であっても、時間が経過するにつれてDMSは蓄積し得る。しかし、(保存後であっても)含有するDMSが少量であるか、またはDMSを含有しない飲料を提供することが、本発明の目的である。
【0135】
したがって、本発明の目的は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3週間、なおより好ましくは、1カ月〜3カ月の範囲内、例えば、6カ月〜12カ月の範囲内など、3カ月〜6カ月の範囲内など、少なくとも4週間にわたる保存の後に、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは、15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDSMを含有し、さらにより好ましくは検出可能なDSMを含有しないビールなど、オオムギ植物体に由来する飲料を提供することである。保存は、15℃〜40℃の範囲内など、5℃〜40℃の範囲内にある温度で実施する。
【0136】
さらに、本発明による飲料は、優れた風味特性を特徴とすることが好ましい。特に、本発明による飲料は、対応する「通常の」ビールより香ばしい(aromaticおよびfragrant)ものとして特徴付けられる(実施例7;図6を参照されたい)。理論により拘束されずに述べると、本発明は、DMSおよびSMMのレベルが低いか、さらにまたはこれらが不在であることにより、香ばしい(aromaticおよびfragrant)風味の知覚が増強されるという理論を提示する。
【0137】
香ばしい(aromaticおよびfragrant)風味は、専門家による試飲パネルが判定する。飲料がビールである実施形態では、試飲パネルが、ビール試飲の専門家からなることが好ましい。本明細書では、「専門家によるビール試飲パネル(professional beer taste panel)」を、「熟練試飲パネル」または「専門家によるビール試飲パネル(specialist beer taste panel)」とも称する。DMS自体が、ビールの風味特性に対して重大な影響を及ぼすことは公知であるが、試飲パネルによっては、多面的な硫黄様の風味に対して不正確な評価をもたらす傾向を示し得る。その理由は単純に、パネリストが、依然として、彼らの風味知覚が異なることの結果として、不正確に「較正」された状態にとどまるということである。この複雑な障害は、本明細書で説明する通り、ビールのエステルの風味特性、高度数アルコールの風味特性、硫黄成分の風味特性、およびこくの風味特性を批判的に評価するスキルを身に付けた、少なくとも9名のビール試飲家による、高度に熟練した専門家によるパネルを確立することにより解決された。
【0138】
したがって、試飲パネルは、少なくとも9名、好ましくは、9〜12名、例えば、10名など、9〜20名の範囲内からなるべきである。試飲パネルの各メンバーは、高度に熟練していることが好ましいものとし、特に、ビールのエステルの風味特性、高度数アルコールの風味特性、硫黄成分の風味特性、およびこくの風味特性を評価するスキルを身に付けているべきである。次いで、試飲パネルの各メンバーは、0〜5段階で、異なる風味の調子を評価する。風味の属性は、苦味の強さ、苦味の質、こく、バランスの良さ、新鮮さ、飲みやすさ、香ばしい風味、エステル風味、アルコール/溶媒の風味、花の風味、ホップ風味、樹脂の風味、モルト風味、穀粒の風味、キャラメル風味、焦げた風味、フェノール風味、硫黄の風味、酸性、および甘味からなる群から選択されることが好ましい。
【0139】
上述の手法を用いると、本発明の飲料は、いずれの飲料のエステル/アルコールプロファイルも同様となるように調整し、いずれの飲料も同じ方法で調製する場合、同様のエタノール含量を有し、野生型オオムギ、好ましくは栽培品種Powerから調製した飲料と比較して、香ばしさの特性、エステルの特性、アルコール/溶媒の特性、花の特性、ホップの特性からなる群から選択される香ばしさの(aromatic/fragrant)特性のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、なおより好ましくは少なくとも3つ、さらにより好ましくは少なくとも4つ、なおより好ましくはすべてについて、より高いスコアを示すことが好ましい。
【0140】
さらに、上述の手法を用いると、本発明の飲料は、いずれの飲料のエステル/アルコールプロファイルも同様となるように調整する場合、同様のエタノール含量を有し、野生型オオムギ、好ましくは栽培品種Powerから調製した飲料と比較して、バランスの良さ、新鮮さ、飲みやすさからなる群から選択される3つの一般的特性のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、なおより好ましくはすべてについて、より高いスコアを示すことが好ましい。
【0141】
上述の手法を用いると、本発明の飲料は、いずれの飲料のエステルプロファイルも同様となるように調整する場合、同様のエタノール含量を有し、野生型オオムギ、好ましくは栽培品種Powerから調製した飲料と比較して、新鮮さおよび/またはエステルの特性について、少なくとも0.1、より好ましくは少なくとも0.2高いスコアを示すことが好ましい。
【0142】
本出願の文脈において、表1で言及される12の化合物を同様のレベルに調整する(また、実施例7も参照されたい)場合、すなわち、飲料が、表1で言及される12の化合物を同量(±20%)含有する場合、エステル/アルコールプロファイルは、同様であると考えられる。エタノール含量は、同量(±20%)、好ましくは同量(±10%)である場合、同様であると考えられる。
【0143】
したがって、本発明の飲料は、12の化合物の含量(表1および実施例7における一覧を参照されたい)を以下:
(i)アセトアルデヒド 1.20ppm±20%;
(ii)ギ酸エチル(Ethylformiate) 0.24ppm±20%;
(iii)酢酸エチル 23.40ppm±20%;
(iv)酢酸イソブチル 0.05ppm±20%;
(v)1−プロパノール 13.80ppm±20%;
(vi)イソブタノール 9.60ppm±20%;
(vii)酢酸イソアミル 3.43ppm±20%;
(viii)1−ブタノール 0.23ppm±20%;
(ix)イソアミルアルコール 52.00ppm±20%;
(x)ヘキサン酸エチル 0.13ppm±20%;
(xi)n−酢酸ヘキシル 0.01ppm±20%;
(xii)オクタン酸エチル 0.33 ppm±20%
に調整した場合、以下の特性(実施例7で説明する通りに判定される):
(i)「バランスの良さ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7のスコア);
(ii)「新鮮さ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.1のスコア);
(iii)「飲みやすさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア);
(iv)「香ばしさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9のスコア);
(v)「エステル」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア);
(vi)「アルコール/溶媒」の特性(少なくとも1.5のスコア);
(vii)「花」の特性(少なくとも1.7,好ましくは少なくとも1.9のスコア);
(viii)「ホップ」の特性(少なくとも1.8のスコア);
より好ましくは、以下の特性(実施例7で説明する通りに判定される):
(i)「新鮮さ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.1のスコア);
(ii)「飲みやすさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア);
(iii)「香ばしさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9のスコア);
(iv)「エステル」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア)
のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、なおより好ましくは少なくとも4つ、さらにより好ましくは少なくとも5つ、なおより好ましくはすべてのスコア値を示すことを特徴とすることが好ましい。
【0144】
したがって、そのエステル/アルコールプロファイルが、実施例7、表1の「MMTヌル」欄で示される通り(これに混合物1および混合物2を添加する)であると仮定すれば、本発明による飲料は、
(i)専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「新鮮さ」のスコア;および/または
(ii)専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「飲みやすさ」のスコア;および/または
(iii) 専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「香ばしい風味」のスコア;および/または
(iv)専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「エステル風味」のスコア
を示すことが好ましい。
【0145】
特に、本発明は、飲料中におけるDMSの存在が、エステル風味を遮蔽し得ることを開示する。したがって、同じ方法で調製されるが、含むDMSが100〜200ppbの範囲にあるなど、含むDMSが少なくとも100ppbである飲料と比較して、または同じ方法で調製されるが、含むDMSが50〜100ppbの範囲内にあるなど、少なくとも50ppbである飲料と比較して、熟練試飲パネル(好ましくは、少なくとも9名のメンバーによる熟練試飲パネル)が評価するエステル風味についてより高いスコアを示す飲料を提供することが、本発明の目的である。上記で説明した通り、エステル風味を0〜5段階で判定する場合、前記エステル風味についてのより高いスコアは、少なくとも0.5ポイント、好ましくは少なくとも0.7ポイント、例えば、少なくとも0.9ポイント高い。
【0146】
本発明はまた、上述の飲料を作製する方法であって、好ましくは、
(i)発芽したMMTヌルの穀粒を含むモルト組成物を供給する工程と;
(ii)前記モルト組成物を飲料へと加工する工程と
を含み、これらにより、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、さらにより好ましくは、検出可能なDMSを含有しない飲料を得る方法にも関する。
【0147】
好ましい一実施形態では、飲料はビールである。この場合は、加工する工程が、例えば、本明細書の上記で説明した方法のうちのいずれかにより、前記モルト組成物からウォートを調製する工程と、前記ウォートを発酵させる工程とを含むことが好ましい。
【0148】
一般的に述べると、アルコール飲料(ビールなど)は、モルト化させたオオムギ穀粒および/またはモルト化させていないオオムギ穀粒から製造することができる。ホップおよび酵母に加えて、モルトが、ビールの風味および色に寄与する。さらに、モルトは、発酵性糖の供給源として機能し、また、酵素の供給源としても機能する。ビール生産の一般的な工程についての図式的表示を図8に示すが、モルト化および醸造の方法についての詳細な説明は、例えば、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)による刊行物中において見出すことができる。オオムギ生成物、モルト生成物、ビール製品の解析については、定期的に更新される多数の方法を用いることができる。これらには、例えば、American Association of Cereal Chemists(1995年)、American Society of Brewing Chemists(1992年)、European Brewery Convention(1998年)、およびInstitute of Brewing(1997年)が含まれるが、これらに限定されない。所与のビール醸造業者毎に、多くの特殊な手順が用いられており、その最も顕著な多様性は、各地の消費者選好に関するものであると理解される。本発明と共に、ビールを生産する任意のこのような方法を用いることができる。
【0149】
前述した飲料(例えば、ビール、モルト飲料、または非発酵ウォートを含めた)のモルト組成物は、例えば、本明細書の上記で説明した方法のうちのいずれかにより得ることができる。ウォートは、前記モルト組成物から調製することができる。
【0150】
ウォートからビールを生産する最初の工程は、前記ウォートを煮沸する工程を伴うことが好ましい。煮沸時には、穀類シロップまたはホップなど他の成分を添加することができ、後者の成分により、ビールに典型的な苦味および香ばしさの特徴がもたらされ得る。ウォートの煮沸はまた、ポリフェノールと変性したタンパク質との凝集物ももたらし、これは、ビール生産の後続の段階において沈殿し得る。ウォートの煮沸はまた、DMSを含めた揮発性化合物の蒸発も引き起こし得る。しかし、上記で言及した通り、MMTヌルのオオムギから調製したウォートは、含有するDMSが少量であるか、またはDMSを含有せず、したがって、このようなウォートを煮沸する時間を実質的に短縮することが可能となる。冷却後、ウォートを、酵母、好ましくは、Saccharomyces carlsbergensis種であるビール酵母を含有する発酵タンクへと移送する。ウォートは、任意の適切な時間、一般には1〜100日間の範囲内で発酵させる。数日間にわたる発酵工程において、糖はアルコールおよびCO2へと転換され、これと同時に一部の風味物質が生成される。
【0151】
その後、ビールはさらに加工され、例えば、冷却される。それはまた、濾過および/またはラガーリング(快い芳香を生成させ、酵母風味を軽減する工程)を経る場合もある。また、添加物を添加することもできる。さらに、CO2を添加することもできる。最後に、ビールを殺菌および濾過して、ボトルまたは缶に封入する。
【0152】
オオムギ植物体または植物生成物が、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体から調製されるかどうかを判定するには、各種の方法を用いることができる。植物生成物は、一般に、その生成に用いられる植物体に由来する少なくとも一部のゲノムDNAを含む。したがって、モルトは、大量のゲノムDNAを含有するが、ウォートなど、オオムギまたはモルトの抽出物であっても、前記オオムギまたはモルトに由来するゲノムDNAを含み得る。ビールなど、オオムギベースの飲料もまた、前記植物体に由来するゲノムDNAを含み得る。植物生成物中のDNAを解析することにより、そこから植物生成物が調製される植物体が、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するかどうかを確立することができる。前記変異は、例えば、本明細書上記の節「機能的MMT酵素の喪失」で説明した、MMT遺伝子内の変異のうちのいずれかであり得るであろう。ゲノムDNAは、配列決定などの任意の有用な方法により、またはPCRベースの方法を含めた増幅ベースの方法により解析することができる。MMT遺伝子における特定の変異が推定される場合は、例えば、SNP解析などの多型解析を用いることができる。このような解析は、本明細書下記の実施例13および17で説明する通りに実施することができる。当業者は、これらの実施例で説明される特定のSNP解析を、他の変異または他の出発物質と共に用いるのに適合させることができるであろう。
【0153】
上述の植物生成物が、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体だけから調製される場合は、オオムギのMMT mRNAおよび/またはMMTタンパク質の存在対不在もまた、前記植物生成物が、MMTヌルのオオムギから調製されているかどうかを示し得る。したがって、ウェスタンブロット解析または他のタンパク質解析により植物生成物を検討することもでき、RT−PCRにより、またはノーザンブロット解析により、または他のmRNA解析により植物生成物を検討することもできる。このような解析は、植物生成物がモルトである場合、特に有用である。
【0154】
SMMおよびDMS
植物生成物中におけるSMMおよびDMSの量は、任意の適切な方法により決定することができる。SMMは、本質的に、本明細書上記の節「機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体の調製」(この節では、オオムギ試料中におけるSMMレベルの決定について説明される)において説明した通りに決定することができる。したがって、SMMは、それをOPAなどの化合物へと連結し、例えば、UPLCシステムを用いることを介して、蛍光発光を決定することにより決定することができる。定量的な測定を行う場合は、SMMピークに対応するクロマトグラムの面積を決定することができる。
【0155】
より正確な測定を行う場合は、DMSおよびDMSP(SMMなど)(活性化後、後者の化合物は、DMSとして測定される)のいずれの量も、高解像度キャピラリーガスクロマトグラフィーを用いて決定することが好ましい。本明細書では、ウォート試料中またはビール試料中における全DMSを、遊離DMSと、DMSPと称するその前駆形態との定量的な和として定義する。この定義を用いると、ウォート試料中またはビール試料中におけるDMSPの量を、全DMS(煮沸試料中、好ましくは、アルカリ性条件下で1時間にわたり煮沸した試料中において測定された)と、遊離DMS(煮沸していない試料中で測定された)との差として決定することができる。実施例6では、全DMSレベルおよび遊離DMSレベルを測定するのに好ましい方法について詳述する。
【0156】
化学的変異誘発
本発明によるMMTをコードする遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を作製するには、任意の適切な変異誘発法により、例えば、オオムギ穀粒の化学的変異誘発(無作為的に変異を誘導することが公知である方法)を用いることにより、極めて多数のオオムギ変異体を調製することができる。オオムギの変異誘発は、任意の変異誘発化学物質を用いて実施することができる。しかし、オオムギの変異誘発は、穀粒をNaN3で処理し(図7を参照されたい)、生存する穀粒を発芽させた後、子孫植物体を解析することにより実施することが好ましい。M0世代と称する、変異誘発させた穀粒から成長する植物体世代は、任意の所与の変異について、ヘテロ接合体のキメラを含有する。自己授粉後に回収された子孫植物体を、M1世代と称するが、ここでは、所与の変異が、対応するヘテロ接合体およびホモ接合体へと分離する。
【0157】
処理後における穀粒は、一部の非変異体細胞と、DNAの変異を有する各種の細胞とを含有するので、オオムギ穀粒をNaN3で処理することは、単一のオオムギ細胞を処理することと等価ではない。生殖細胞系列をもたらさない細胞系統では変異が失われるが、これは、生殖組織へと生育し、M1世代の発生に寄与する少数の細胞を、変異誘発物質の標的とすることが目的であることを意味する。
【0158】
全体的な変異効率を評価するため、M0世代およびM1世代のそれぞれにおいて、アルビノキメラおよびアルビノ植物体をカウントすることができる。変異体の数を生存植物体数の関数として評価することにより、変異の効率についての推定値が得られる一方、変異体数を、処理した種子数の関数として評価することにより、変異の効率と、穀粒死滅との両方についての組合せ測定値が得られる。
【0159】
細胞が、遺伝子発現のほとんどどの段階でも、変異の損傷的効果をおそらく緩和する、品質保証機構を有することは注目に値する。真核生物において十分に研究されている一例は、NMDと称し、潜在的に有害な、未熟の切断型タンパク質の合成を防止する、ナンセンス変異依存mRNA分解機構(MaquatおよびCarmichael、2001年; Wu ら、2007年)である。NMDでは、終止コドンが、下流の不安定化エレメントに対するその位置により未熟であると同定される。PTCと称する、未熟終止(ナンセンス変異)コドンを発生させる変異は、場合によって、原因変異をスキップし、これにより、タンパク質機能を潜在的に保全する、代替的なスプライス転写物のレベルを上昇させることがある(MendellおよびDietz、2001年)。
【0160】
植物体の育種
作物の育成は、新規の形質の導入と共に始まる、長期間にわたる過程として見ることができる。植物育種家の視点からすると、この工程は、農業形質の全体的プロファイルの所望の程度が、市販される現行の品種より劣る植物体を結果としてもたらす場合が多い。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、MMT遺伝子における、機能的MMTの完全な喪失を引き起こす変異を保有する、農業的に有用なオオムギ植物体を提供することが目的である。
【0161】
MMTヌルの形質に加えて、穀粒の収量、穀粒のサイズ、ならびにモルト化の効力または醸造の効力に関するパラメータが含まれるがこれらに限定されない、市販のモルト化オオムギ品種を生成させる技術分野でもまた考慮し得る他の因子も存在する。このような形質の多く(すべてではないにせよ)は、遺伝子の制御下にあるため、本発明はまた、MMTヌルのオオムギ植物体との異種交配から調製され得る、最新で、ホモ接合型の、高収量をもたらすオオムギ栽培品種も提供する。このようなオオムギ植物体の穀粒は、機能的なMMT酵素を有さない新規の原料を提供する。オオムギ育種の当業者は、本発明によるMMTヌルのオオムギ植物体を、他のオオムギ植物体と異種交配させ、その後、優れた栽培品種を結果としてもたらす形質を有する子孫植物体を選択および育成することができるであろう。このような子孫植物体もまた、本発明の一部と考えられる。代替的に、オオムギの育種家は、本発明の植物体を用いて、さらなる変異誘発をもたらし、MMTヌルのオオムギに由来する新規の栽培品種を生成させることができる。
【0162】
本発明によるオオムギ植物体は、任意の適切なスキームによる育種の試みにおいて用いることができる。
【0163】
本発明の別の目的は、MMTヌルの形質を含む、農業的に優良のオオムギ植物体を提供することである。したがって、本発明はまた、第1の親オオムギ植物体を、第2の親オオムギ植物体と異種交配させることにより、新規のMMTヌルのオオムギ植物体を作製する方法であって、該第1および第2の植物体が、MMTヌルのオオムギである方法も対象とする。加えて、第1および第2の親オオムギ植物体はいずれも、MMTヌルのオオムギ品種を表す。したがって、MMTヌルのオオムギ品種を用いる以下:自家受粉、戻し交配、品種集団との異種交配などのうちのいずれかのこのような方法は、本発明の一部である。MMTヌルのオオムギ品種に由来する品種から発生した植物体を含め、MMTヌルのオオムギ品種を親世代として用いて作製されるすべての植物体は、本発明の範囲内にある。MMTヌルのオオムギはまた、MMTヌルの植物体または植物体組織に外因性のDNAを導入し、これを発現させる場合における遺伝子形質転換にも用いることができる。
【0164】
本発明と共に戻し交配法を用いて、変異したオオムギ植物体のMMTヌル形質を、別の品種、例えば、栽培品種Scarlettまたは栽培品種Jersey(これらのいずれもが、高収量をもたらす新型のモルト化オオムギ栽培品種である)など、別の栽培品種へと導入することができる。標準的な戻し交配のプロトコールでは、対象の元の品種、すなわち、対象の反復親植物体を、形質導入される対象の単一遺伝子を保有する第2の品種(すなわち、一回親植物体)と異種交配させる。この異種交配から結果として得られるMMTヌルの子孫植物体を、その後、該反復親へと異種交配させ、該一回親植物体の該MMTヌルの形質を遺伝子配置に形質導入することに加えて、該反復親植物体により指定される本質的にすべての特徴が、生成される植物体内で復帰するオオムギ植物体が得られるまで、該過程を反復する。最終的に、該戻し交配により最後に生成された植物体を自家受粉させて、純粋な、MMTヌルの育種用子孫植物体を得る。
【0165】
その目的に、MMTヌルの形質を元の品種へと導入することを包含する戻し交配手順を成功させるには、適切な反復親を有することが好ましい。これを達成するには、元の品種に由来する本質的にすべての遺伝子特性を保持させながら、一回親植物体に由来するMMTヌル形質の遺伝子配置により、該反復親品種の遺伝子配置を改変する。形質導入される遺伝子特性が、優性の対立遺伝子により指定される場合は、戻し交配法が単純化されるが、劣性のMMTヌル形質の遺伝子特性を戻し交配することも可能である。
【0166】
植物体の育種過程を加速化させる方法は、組織培養物法および組織再生法を適用することにより、生成された変異体を初期繁殖させることを含む。したがって、本発明の別の態様は、(増殖および分化すると)MMTヌルの形質を有するオオムギ植物体を生成させる細胞を提供することである。例えば、育種は、従来の異種交配、葯に由来する造精植物体の調製、または小胞子培養法の使用を伴い得る。
【0167】
MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するだけでなく、1または複数のさらなる有用な変異も保有するオオムギ植物体を提供することもまた、本発明の実施形態である。このようなさらなる変異には、例えば、リポキシゲナーゼ1(LOX−1)の活性レベルを低下させる変異(例えば、Douma, A.C.らによる米国特許第6,660,915号において説明される変異体)、またはBreddam, K.らによる米国特許第7,420,105号またはPCT特許出願第WO2005/087934号において開示される変異体のうちのいずれか、特に、Breddam, K.らによる米国特許第7,420,105号の配列番号2または配列番号6による、LOX−1をコードする遺伝子のゲノム配列を含む変異体など、LOX−1機能の完全な喪失を引き起こす変異など、LOX−1をコードするオオムギ遺伝子内の変異が含まれ得る。
【0168】
上述の特許および特許出願において説明されるLOX−1ヌルのモルトであれば、それ自体、オオムギのモルト化工程における低温キルン乾燥の原料をもたらし得るであろう。しかし、LOX−1活性およびMMT活性のいずれもが不活化されるので、LOX−1ヌルとMMTヌルとを組み合わせた二重変異体であれば、醸造業において優れた、高度に有用な植物体となるであろう。このようなオオムギ植物体は、本発明によるオオムギ植物体を、Breddam, K.らによる米国特許第7,420,105号またはPCT特許出願第WO2005/087934号で説明される植物体と異種交配することにより得ることができる。
【実施例】
【0169】
本明細書の実施例は、本発明の好ましい実施形態を例示しており、本発明を限定するものとみなされるべきではない。
【0170】
他に指定がない限り、核酸、タンパク質および細菌を取り扱うために、SambrookおよびRussel(2001年)に記載の基本的な分子生物学的技法を行った。
【0171】
(実施例1)
DMSはビールのエステル風味を隠す
硫黄に似た風味の調子を特徴付けることは、一般のビールのパネル試飲家の中でさえも、一般に難しいと考えられている。多くの場合、ビールの試飲パネリストは、硫黄の調子を特徴付けるために、専門的な硫黄の調子、例えば「メルカプタン」、「硫化水素」および「DMS」よりも、「硫黄の」という一般用語を使用する。
【0172】
9名の試飲家規模のパネルを設けた後、硫黄含有成分の香ばしさを追跡することに関してメンバーを広範囲にわたって訓練し、驚いたことに、硫黄成分を添加することが、他の香ばしさ構成成分の知覚に強く影響を及ぼすこと、例えばビールのエステル風味およびボディ感についての低スコアにつながる性質が明らかになった。
【0173】
別の一連の実験では、パネルを訓練するためにDMSを選択した。高濃度の前記硫黄含有構成成分をスパイクしたビール試料をパネルに提示し、パネルは試飲し、「ボディ感」、「エステル風」および「DMS」という特性を、0(なし)から5(極度)までの尺度で順位付けするように要求された。検査の各シリーズは、標準の、市販のビールおよび2種の、パネリストに対して未知の試料を含んだ。
【0174】
図1Bにおいて、それぞれ、エステルおよびエステル/DMSをスパイクしたビール試料を含む検査シリーズからの平均スコアの結果を例示している。DMSを添加することが、エステルと組み合わせた場合、エステルのみをスパイクすることによって得られたそのスコアと比較して、知覚されるエステル風のスコアに負の影響を及ぼしたことは予想外の結果であった。同様に、ビールのボディ感の調子が減少した。驚くことではないが、DMSをスパイクすると、その性質に対するスコアが増大した。
【0175】
上記の結果は、専門化した試飲パネルの、単一の風味構成成分の風味を感じる能力は、他の香ばしさ構成成分によって決定された「風味バックグラウンド」に大いに左右されると思われることを実証している。
【0176】
図1Bに要約されている、風味の検査からの驚くべき知見により、対応する原料を飲料生成において利用することにより、DMSが少ないまたはDMSを含まない製品を生成することが可能になり得るだけでなく、エステル調子についての改良も約束されるような、DMSレベルが低い飲料、およびそのような飲料を調製するために有用なオオムギの変異体、すなわちSMMを合成する能力を喪失したオオムギの変異体を提供することによって本発明の基礎ももたらされた。
【0177】
(実施例2)
スクリーニングの準備、手法1
栽培品種Prestigeおよび栽培品種Sebastianのオオムギ植物体から採取した穀粒を、別々に、Kleinhofsら(1978年)によって提供された実験の詳細に従って、変異原NaN3と一緒にインキュベートした。この手順を選択したのは、オオムギのゲノムDNAにおいて点変異を誘発する可能性が公知であるからである。
【0178】
本実験では、M1世代の変異した子実を、畑の小区画において次の2世代を通して繁殖させ、最終的に、スクリーニングするために、高比率のホモ接合性のM3世代の植物体を得た。M3世代の変異した子実は、子実10,000個当たり0.9〜2.3の頻度で遺伝子変異を含有することが予想された(Kleinhofsら、上記)。M2子実がスクリーニングされなかったことは注目に値する。
【0179】
興味深いことに、本発明は、モルト製造の間の検出可能なSMM合成の喪失をもたらす、MMT活性を喪失したM3変異オオムギ子実を検出するための高速ハイスループットスクリーニング手順を記載している。したがって、出願人らは、SMMが、発芽しているオオムギの子葉鞘および初生葉に主に蓄積したこと、および4日齢の発芽した子実の破砕した葉組織からアミノ酸を抽出し、続いて抽出したアミノ酸をOPAと反応させて高度に蛍光性の生成物を形成することによって、SMMの検出を行うことができることを見出した(図2参照)。
【0180】
実際的に述べると、各アッセイは、閉じたプラスチックの箱の中で、Whatman#1濾紙(296×20.9mm)1枚を用いて94種の可能性のある変異体のそれぞれからの2つの子実および2つの野生型植物体を発芽させることによって行った。多数の、可能性のある変異子実に対してアッセイを繰り返した(下記を参照されたい)。発芽の開始時に水道水25mL、続いて発芽の2日目に付加的な水道水15mLを前記プラスチックの箱に加えた。発芽の4日後に、1〜3cmの葉組織を、1.2mLの96ウェルのそれぞれが直径5mmのガラスビーズおよび水:メタノール:クロロホルムの12:5:6(v/v/v)混合物500μLを含む、貯蔵プレート(ABgene)に移した。次いで、プレートを、MM300ラボ用粉砕器(Retsch)内で30Hzの頻度で45秒間振とうした。その後、プレートを遠心分離機(Rotanta460R、Hettich)に移し、4,000rpmで15分、室温で、不溶性物質が沈殿するまで回転させた。上清10μLを96ウェル貯蔵プレート(Waters、カタログ番号186002481)に移し、200μLのH2OおよびOPA試薬(Sigma、カタログ番号P7914):3−メルカプトプロピオン酸(Aldrich、カタログ番号M5801)の15,000:45(v/v)混合物を含有する反応溶液60μLと混合した。混合物を4℃で少なくとも10分間インキュベートしてOPAによる試料アミノ酸の定量的誘導体化を得る。蛍光検出器を備えたWatersに基づくUPLCシステムを使用して、誘導体化された混合物2μLを2.1×30mmの、3μmの粒子のC18 Geminiカラム(Phenomenex、カタログ番号00A−4439−80)において、移動相A(40mMのNaH2PO4緩衝液、pH7.8に調整)と移動相B[記載されている通り(Phenomenex、2006年)、アセトニトリル:メタノール:水の45:45:10(v:v:v)溶液]を混合することによる勾配溶出を使用して分離した。溶出されたOPA誘導体の励起は340nmであったと同時に、光の放射は450nmにおいて測定された。クロマトグラムの例を図3Aに示して、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出プロファイルを例示している。SMMは、全体的なプロジェクトの目的が、SMMを合成する能力を喪失したオオムギ植物体、すなわち、対応するクロマトグラムのピークが非常に小さいまたは好ましくはピークが存在しない植物体を同定することであったので、それを含めた。
【0181】
スクリーニングの準備、手法2
当該実施例では、上記の実験と平行して、活性なMMT酵素を喪失したオオムギの実生を同定するための非常に高速のスクリーニング方法を確立するために試みを行った。植物体が、亜セレン酸Naを転換するための活性なMMTを含有すれば、前記実生が250μMの亜セレン酸Naの存在下で成長することができるという事実に基づいて、スクリーニングを設計して、前記濃度の亜セレン酸Naの存在下で成長が減少した実生を視覚的にスコア化した。実際的に述べると、NaN3変異誘発されたオオムギの栽培品種PrestigeのM3世代の、それぞれが20〜30の穀粒からなる22,704の穂を、250μMの亜セレン酸Naを補充し標準のVermeculite成長培地で満たしたプラスチックトレイ内においた。穂の穀粒を発芽させ、長さ約15cmの実生にまで発達させた。成長が減少したことを特徴とする、すなわち、実生の長さが<15cmである計812の植物体を、新しい土に移し、さらに発達させた。しかし、野生型レベルのSMMと比較することによって決定すると、MMT活性が低下したことが分かった前記植物体はなかった。したがって、上記のスクリーニング手法では変異体が得られず、したがって終了させた。
【0182】
(実施例3)
可能性のある変異体
それぞれ、計10,248および計3,858の、オオムギの栽培品種Prestigeおよび栽培品種SebastianのNaN3変異した穀粒を、野生型子実と比較するとSMM含有量が大いに減少したものを同定するために、SMM含有量についてスクリーニングした(実施例2の手法1を参照されたい)。M3世代の、可能性のある変異体が2つのみ同定された、すなわち、試料番号8,063の子実(栽培品種Prestigeに由来し、以下変異体8063と表示され、呼称は次の世代の子実に対しても使用される;図3B)、および試料番号14,018の子実(栽培品種Sebastianに由来し、以下変異体14018と表示され、呼称は、次の世代の子実に対しても使用される;図3Bに例示している)。各変異体の子実をM4世代まで繁殖させ、次いで収穫し、最終的に再分析した。その結果、変異体8063および変異体14018の子実が、極度に低いSMM含有量を有し、SMMを完全に喪失している可能性もあることが立証された。
【0183】
別々の実験において、ウェスタンブロット分析を用いて変異体8063および変異体14018がMMT酵素を喪失していることを立証した。変異体および対応する野生型植物体の子実を、暗闇の中で4日間、水に浸した濾紙上で発芽させた。各試料の子実を1つずつ250μLのH2Oを含有するエッペンドルフチューブに移し、雌ずいを使用することによってホモジナイズした。10分間の長さ、13,000rpmで遠心分離した後、液体抽出物15μLを標準の4倍濃縮したSDS試料緩衝液5μLと混合した。実施例12に記載されているものと同じ免疫学的な方法体系および前記実施例において説明しているものと同じ抗MMT抗体の一定分量を使用することによって、上述の、発芽した穀粒の試料抽出物のタンパク質をサイズによって電気泳動的に分離し、ウェスタンブロット分析に適用した。サイズによって分離した変異体8063および変異体14018の抽出物について、MMTに対応する、染色された120kDaのタンパク質バンドが存在しないことが示された。しかし、発芽した野生型穀粒の抽出物において、120kDaのタンパク質バンドが明瞭に目に見えた(図3C)。ウェスタン分析の結果と、変異体8063および変異体14018の抽出物にSMMが存在しないが野生型穀粒の抽出物にSMMが存在すること(図3B参照)を併せて、変異体8063および変異体14018が、MMT形質に関してヌル変異体を表していることが実証されている。
【0184】
(実施例4)
変異体8063のMMT活性の測定
MMT酵素は、メチル基がSAMからMetへ移動し、SMMが形成されることを触媒する(図1B参照)。メチル基をトリチウムで標識した[3H]SAMを基質として使用して、活性炭によって残りの[3H]SAMを除去した後にシンチレーション計数することによって、前記メチル基の移動をモニターすることができる。活性炭は基質に結合するが、新たに合成された、標識されたSMM生成物には結合しない(Pimentaら、1995年)。これによって、変異体8063および栽培品種Prestigeそれぞれの苗条15ずつの抽出物における、MMTの活性、および実施例2に記載の通り決定したSMM含有量を検出することが可能になった。(図4)。データを検討することにより、野生型の穀粒において、変異体8063の子実にはない性質、MMTがSMMの形成を触媒したことが立証された。
【0185】
(実施例5)
変異体8063のヌルMMT穀粒のパイロット規模でのモルト製造および醸造
変異体8063のモルトおよび栽培品種Powerの参照モルトを用いたモルト製造および醸造分析は、
(i)スティーピングすること、グリーンモルトを生成すること、時には続いて
キルン乾燥してキルン乾燥モルトを得ることを含めた発芽させる工程と;
(ii)ウォートを調製する工程と;
(iii)ウォートを分離する工程と;
(iv)ウォートを煮沸する工程と;
(v)酵母Saccharomyces carlsbergensisを用いてウォートを発酵させる工程と;
(vi)ビールをラガーリングする工程と;
(vii)澄んだビールを濾過する工程と;
(viii)ビールを瓶詰めする工程
とを伴う。
【0186】
変異体8063および栽培品種Power(参照試料)のどちらについても、醸造するためにモルト30kgを使用した。モルト試料を粉砕し、次いで各試料について、150Lまで水道水を加えた。マッシングインを60℃で20分間行い、続いて5分間で65℃まで徐々に上げ、その温度で55分インキュベートを続けた。次いで、マッシュを15分間、78℃までの勾配にかけ、5分間インキュベートした後にマッシングを終わらせた。
【0187】
その後の醸造作業は、ウォートの濾過、1時間の長さの煮沸工程、およびワールプールにおける分離を含んだ。7日間の長さの発酵、ラガーリング、および完成したビールの緑色のガラス瓶への充填は、例えば、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)によって記載されている標準の醸造の実施の規格に従った。野生型のモルトおよび変異体のモルト由来のビールで、全部で100本の33cL瓶を作製した。
【0188】
(実施例6)
ヌルMMTモルトで作られたビールのDMSおよびDMSPのレベル
ヌルMMTおよび栽培品種Powerのモルトから、実施例5に記載の通りビールを醸造した。モルト製造および醸造のプロセスの間、遊離のDMSおよびDMSPのレベルを、グリーンモルトおよびキルン乾燥モルトにおいて(図5A)、ならびに対応するスイートウォートおよび煮沸ウォート、さらには完成したビールにおいて決定した(図5B)。
【0189】
DMSおよびDMSPのレベルを、基本的にHysertら(1980年)によって記載されている通り、350B Sulfur Chemiluminescence Detector(Sievers)で静的ヘッドスペースガスクロマトグラフィーを使用した硫黄特異的な検出を用いて決定した。自動装置(HS−40 Automated Headspace Sampler、Perkin Elmer)を使用してサンプリングを行った。DMSの総レベル、すなわち、ウォートならびにグリーンモルトおよびキルン乾燥モルトの抽出物中の遊離のDMSおよびDMSPの合計を、それぞれの試料をアルカリ性条件下で1時間煮沸することによって得た。次いで、試料を、DMSレベルを検出するためにヘッドスペース分析に供した。以前に記載の通り、煮沸した試料中の総DMSレベルと、対応する煮沸していない試料中の遊離のDMSの間の差異は、試料DMSPの量と等しいと定義された。ビール中の遊離のDMSの量は、基本的にウォート中のDMSの量と同様に決定した(Hysertら、上記)。
【0190】
(実施例7)
ヌルMMTモルトを用いて醸造したビールの試飲
パイロット規模で生成した、ヌルMMTモルトを用いて醸造したビールを、プロのビールの試飲パネルがどのように評価するかを確立するために、DMSを4ppb含有することが測定されたビールについて、プロファイル試飲を行った。参照として、栽培品種Powerのモルトを使用して生成した、DMSが76ppbの通常のビールを使用した。
【0191】
風味の分析に先だって、ビールのエステルおよび高級アルコールのプロファイルをガスクロマトグラフィー分析によって得た。ヌルMMTモルトのビールは、分析された化合物12種の内3種に関してレベルが低かった(表1)。第1の風味の検査では、酢酸エチル、酢酸イソアミルおよびオクタン酸エチルからなる混合物1を、ヌルMMTモルトを用いて醸造したビールにスパイクして、2種のラガービールが、標準のエステルプロファイルに寄与するこれらの風味が活性な化合物を同様のレベルで有することを確実にした。(表1参照)。第2の検査の目的は、風味の調子が増大した高エステルビールを作製することであった。したがって、酢酸イソアミル、ヘキサン酸エチル(ethylhexanote)およびオクタン酸エチルからなる混合物2を、栽培品種Powerのモルトのビールにスパイクし(表1)、一方、ヌルMMTモルトのビールには、混合物1および混合物2の両方をスパイクした。
【0192】
次いで、上記のビールを10名の規模の訓練されたビールの試飲パネルが検査し、20種の特異的な風味特質を、それぞれ0〜5の尺度またはスコアで評価した(図6)。
【0193】
図6Aにおいて高エステルビールについて説明している通り、同じレベルにスパイクした標準のビールと比較して、ヌルMMTモルトで醸造した「非常に低DMSのビール」における、香ばしい(aromatic−fragrant)風味の知覚に対する注目すべき影響があった。評価されたすべての香ばしい風味について高いスコアが示された。通常のエステルプロファイルをスパイクしたヌルMMTモルトのビールにおいてさえ(図6B)、香ばしい風味の知覚が増大したことが示され、これはDMSのレベルが低いことが、香ばしいビール化合物の知覚に関して正の影響を与えることを重ねて示している。この現象に対する解釈は、単純に、ビール中のDMSが、飲料の鮮度を評価する際に重要な因子を表す、心地よい香ばしい風味の風味を隠すということである。
【0194】
【表1】
*酢酸2−メチルブチル濃度と酢酸イソアミル濃度の和
**2−メチル−1−ブタノール濃度とイソアミルアルコール濃度の和
(実施例8)
オオムギの栽培品種PrestigeにおいてMMTをコードする遺伝子の配列決定
野生型のオオムギ植物体と変異したオオムギ植物体の間のMMT活性の差異の根底にあるゲノム多様性を確立することを目的として、主な試みは、対応するオオムギ遺伝子の開始コドンから終止コドンにわたるDNA配列を決定することであった。オオムギのMMT遺伝子の、以前に知られていないゲノム配列を確立するために、最初の工程は、6日齢の、栽培品種Prestigeのオオムギの実生の葉からのゲノムDNA(gDNA)を、Plant DNA Isolation Kit(Roche、カタログ番号1667319)の供給業者によって提供された説明書に従って精製することであった。
【0195】
次に、MMTをコードするcDNA配列(GenBank受託番号AB028870;配列番号1)に結合させるためにオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。オオムギのgDNAを鋳型として使用して、そのDNA配列が表2に列挙されている6つの異なるプライマーセットを用いて標準のPCR増幅を行った。対で、プライマーは、エクソン1(翻訳開始コドンを含み、かつその下流)および2、エクソン2および4、エクソン4および5、エクソン5および9、エクソン9および11、ならびにエクソン11および12(翻訳終止コドンを含み、かつその上流)にアニーリングすることが見出された。上述の6つの反応の内5つで、エクソン2〜4にわたるDNA断片、エクソン4〜5にわたるDNA断片、エクソン5〜9にわたるDNA断片、エクソン9〜11にわたるDNA断片、およびエクソン11〜12にわたるDNA断片が生成した(図9参照)。1つの反応も、翻訳開始コドンからエクソン2にわたるDNA断片を生成すると仮定されたが(すなわち、表2および図9に列挙されているプライマーセット番号1を用いた反応)、反応の人為結果のみが観察された。この難しさの理由は分かりにくいままであるが、対象の遺伝子セグメントにおけるG塩基およびC塩基の含有量が著しく高いことが、正しい配列の増幅ができない原因である可能性がある。したがって、G−Cが豊富な遺伝子領域の増幅を容易にすることが主張されている多数の市販のPCR反応補充剤を、MMTをコードするオオムギ遺伝子の開始コドンの下流であるが、なおそれを含有するDNA断片を増幅するために試みに使用した。多数試みたにもかかわらず、表2に列挙されている反応1におけるプライマーによって指定される断片を増幅することに関しては、gDNA鋳型を利用したすべての取組みが失敗した。
【0196】
gDNAの増幅を用いた実験と並んで、オオムギ実生の葉のRNA由来のcDNAが、MMTに対する遺伝子の厄介なエクソン1配列を増幅するための機能的な鋳型を構成し得るかどうかも試験した。したがって、4日齢の栽培品種Prestigeのオオムギ実生の小葉から、FastRNA ProGreen Kit (Q−BIOgene、カタログ番号6045−050)の構成成分および説明書を使用して全RNAを抽出し、精製した。これの一定分量を、OneStep RT−PCRキット(Qiagen、カタログ番号210212)の説明書において説明されている通り、8×2の標準のRT−PCR反応[すなわち、それぞれ2つの反応緩衝液を用いたプライマー対8つの組合せ(表3)]において使用した。断片を1%アガロースゲルで分離し、その後の分析によって、前記キットの緩衝液1を使用することによってのみ反応生成物が得られ得ることが明らかになった。次いで対象のDNAバンドを、QiaexIIゲル抽出キット(Qiagen、カタログ番号20051)を使用して精製した。上述のRT−PCRキットのQ溶液の存在下で、プライマーセット番号7、10、および11(表3参照)を用いてRT−PCR増幅物を分離する。この場合、対象のDNA断片も精製した。個々のDNA断片をベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カタログ番号K4500−01)に挿入し、E.coli細胞をこの構築物でトランスフェクションした後、プラスミド挿入物の、対応するDNA配列を決定した。
【0197】
総合すると、組み合わせた、上記の取組みは、栽培品種PrestigeのオオムギのMMT遺伝子の翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたるゲノム配列(配列番号3)の組み立てに結晶化された。cDNAおよびゲノム配列のアラインメント、すなわち配列番号3と配列番号1のアラインメントによって、図9に例示しているオオムギのMMT遺伝子が、11のイントロン(全部で3192bp)によって分離された12のエクソン(全部で3267bp)を含むことが決定された。栽培品種PrestigeのMMTに対して導かれたアミノ酸配列を図10に示し、配列番号6として列挙されている。上述の栽培品種PrestigeのMMTに対して導かれたアミノ酸配列において、Pro157→AlaおよびMet985→Tyrを除けば、栽培品種Haruna Nijo(GenBank受託番号AB028870;配列番号2)との比較により、完全に同一であることが明らかになった(図11)。
【0198】
【表2】
*)MMTのゲノム配列(配列番号3;図9も参照されたい)についてと同様の塩基対の番号付け
**)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙されている断片の5’末端の配列
***)「PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列
【0199】
【表3】
*)MMTのゲノム配列(配列番号3)についてと同様の塩基対の番号付け
**)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙されている断片の5’末端の配列
***)「RT−PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列
(実施例9)
オオムギの変異体8063のMMTをコードする遺伝子は、イントロン5
の5’スプライス部位において変異している
変異体8063のオオムギの実生では、MMT活性が存在しないこと(実施例4)と一致して、SMMの含有量が極度に少ない、またはSMMが含有されない(実施例3)。この知見に基づいて、MMTをコードする遺伝子における塩基置換が、オオムギ穀粒の最初のNaN3変異原処理によって引き起こされたかどうかを調査した。したがって、変異体8063のヌルMMT表現型についての分子基礎を確立するために、変異体8063の前記遺伝子を増幅し、クローニングし、配列決定するための試みを行った。
【0200】
6つのプライマーセットを用いて栽培品種PrestigeのMMT野生型遺伝子のヌクレオチド配列を増幅し(表2;実施例8において説明している)、オオムギの変異体8063に対して同様の手法に従った。手短に、ゲノムDNAを変異体から抽出し、MMT遺伝子特異的な、それらの増幅断片をベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カタログ番号K4500−01)に挿入し、クローニングし、配列決定し、つなぎ合わせ(配列番号8)、そして最後に野生型オオムギの配列と比較した。MMT遺伝子のタンパク質をコードする部分に変異は同定されなかった。しかし、変異体の遺伝子と野生型遺伝子のイントロン配列を比較することにより、イントロン5の一番目の塩基(配列番号8のヌクレオチド番号3076)におけるG→A塩基転移が明らかになった。前記塩基は、イントロン5の5’スプライス部位の一部分であり、遺伝子の主要なRNAプロセシング、すなわちRNAスプライシングに影響を及ぼす(SinibaldiおよびMettler、1992年;図12も参照されたい)。
【0201】
変異体8063のMMTをコードする遺伝子における正常な遺伝子スプライシングの摂動に関して塩基変異が果たし得る役割を評価するために、スプライシング中間体を検出するために変異体由来のRNAの詳細な分析を行った。イントロンの5’GTジヌクレオチドの変化が、スプライシング中間体の蓄積につながる可能性があるので、この手法を選択した(Lalら、1999年)。
【0202】
対象の断片を増幅するために、分析はRT−PCRキット(QiagenのOneStep RT−PCR、カタログ番号210212)を使用するために提供された推奨に従った。鋳型として、栽培品種Prestigeおよび変異体8063の4日齢の実生の小葉から、実施例8に記載の通り精製した全RNAを1μg使用した。プライマーセット15(表4)を使用してRT−PCR反応を設計して、野生型Prestigeおよび変異体8063のMMTの転写物のエクソン3からエクソン7にわたる遺伝子領域を増幅した(図12A)。増幅した後、反応生成物を1%アガロースゲルで電気泳動によって分離した(図12B)。
【0203】
増幅生成物を検討することにより、野生型RNAを用いた反応からの単一のバンドのみが明らかになった(図12B)。これをゲルから切り出し、QiaexIIキット(Qiagen、カタログ番号20051)の構成成分を使用して精製し、ベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カタログ番号K4500−01)に挿入し、クローニングし、配列決定した。分析により、野生型オオムギのMMTの全長cDNA(配列番号4)の442〜1323にわたる塩基と同一の配列を特徴とする882bpの断片(図12B、Cの生成物1;配列番号9)が存在することが実証された。この知見に基づいて、選択的スプライシングは野生型遺伝子発現に無関係であると考えられる。
【0204】
変異体8063から精製した鋳型RNAを適用することを除いて、以前の段落で記載したものと同様のRT−PCR反応により、それぞれ、野生型RNAを使用して増幅した生成物1(図12B)と長さが異なる3つの特異的なDNA断片−図12Bの生成物2、生成物3、生成物4を指す−が生成した。したがって、mRNA前駆体のプロセシングは、変異体8063のMMT遺伝子のイントロン5の5’スプライス部位における単一の塩基変異によって妨害される。この筋書では、前記5’スプライス部位の使用が完全に無効になるが、潜在的な、付加的なスプライス部位の使用が活性化される。
【0205】
変異体8063において、上述の3つのPCR断片が得られたことの根底にある分子的原因に取り組む試みにおいて、それぞれを、DNA配列を決定するために、実施例8において栽培品種PrestigeのPCR由来のDNAバンドについて上記した手順を使用して調製した。最大の断片は1089bp長であり(図12Cの生成物2;配列番号10)、イントロン5の全体を含むことが見出され、一方、生成物3(図12C;配列番号12)および生成物4(図12C;配列番号14)は、それぞれ、955bp長および810bp長であり、したがって野生型RNAからの882bpの断片よりも短かった(上記の説明を参照されたい)。生成物3のDNA配列を分析することにより、イントロン5の中央の潜在的なスプライス部位が明らかになり、一方生成物4の潜在的なスプライス部位はエクソン5にあった(図12D)。
【0206】
それぞれ315アミノ酸長、315アミノ酸長、および289アミノ酸長の翻訳されたタンパク質をもたらす中途翻訳終止コドンを、生成物2[オオムギの栽培品種PrestigeからのゲノムDNA(配列番号3)の塩基番号付けによる3088〜3090位におけるTGA]、生成物3[オオムギの栽培品種PrestigeからのゲノムDNA(配列番号3)の塩基番号付けによる3088〜3090位におけるTGA]、および生成物4[オオムギの栽培品種PrestigeからのゲノムDNA(配列番号3)の塩基番号付けによる3289〜3291位におけるTGA]において発見したことも、DNA配列の分析の重要な発見であった。図12Cは生成物1、生成物2、生成物3、および生成物4の配列決定の結果の、図による比較および要約を提供し、一方、図12Dおよび図12Eにおける図は、選択的スプライシング事象に関与する特異的な塩基に対する特異的なデータを提供している。
【0207】
【表4】
†)変異体8063のRNA鋳型を使用するRT−PCR用
‡)変異体14018のRNA鋳型を使用するRT−PCR用
*)MMTのcDNA(配列番号4)についてと同様の塩基対の番号付け
**)「PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の5’末端の配列
***)「PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列
(実施例10)
野生型MMTをコードする発現プラスミド
以下の2つの所見
(i)E.coli細胞はMMTおよびSMMを合成する能力を喪失している(Thanbicherら、1998年):
(ii)植物のMMTをE.coliにおいて合成することができる(Tagamountら、2002年)
により、
上述の細菌において変異したオオムギのMMTまたは切断型のオオムギのMMTを異種発現させることにより、それらのMMTが酵素活性を喪失していることを模擬実験または確認する新しい様式が可能になる。組換えと同様に、E.coliからの野生型オオムギのMMTは、そのような実験において陽性対照として機能すると思われ、課題は、オオムギのMMTを異種発現させるためのE.coli発現プラスミドを設計し、構築することであった。
【0208】
関連性のある配列を増幅するために、まず全RNAを栽培品種Prestigeの4日齢の実生の小葉から抽出し(実施例9において説明している通り)、その1μgを、プライマーセット17を反応混合物に加えた(表5)ことを除いて標準のRT−PCR反応において、鋳型として使用した。増幅生成物を、ベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen)に挿入し、プラスミドpCR2.1−TOPO−MMTを得た。プラスミドをクローニングした後、全挿入物を配列決定し(配列番号5)、栽培品種Prestigeの配列(配列番号4)と比較した。クローニングされた生成物において、MMTのアミノ酸置換、Leu437→His、Tyr985→Met、およびGly1011→Serをもたらす(配列番号6および配列番号7を比較することによって決定された通り)、PCRに誘導されたヌクレオチドの相違が3つ同定された(T1310→A、T2954→C、およびG3031→A)。当該適用に関連性があり得るという意味で、組換えMMTの作用を損なうと予想されたアミノ酸の変化はなかった。この結論は、発現されたタンパク質は活性であり、抗MMT抗体によって認識され得るという知見に基づいた(実施例12参照)。
【0209】
次に、pCR2.1−TOPO−MMTをNdeI−EcoRIを用いて切断し、569bpのNdeI−EcoRI 5’断片および2699bpの3’EcoRI断片を得た。5’断片をNdeI−EcoRIで直線化された発現ベクターpET19b(Novagen、カタログ番号69677−3)に挿入し、生じたプラスミドのEcoRI部位に上記の2699bpの3’断片を挿入し、このようにして発現プラスミドpET19b−MMT(図13A)を生成させた。このMMTをコードする発現プラスミドを、N末端Hisタグ(MGHHHHHHHHHH;配列番号69)およびエンテロキナーゼ部位(SSGHIDDDDKH;配列番号70)に連結させた。
【0210】
【表5】
*)MMTのcDNA(配列番号5)についてと同様の塩基対の番号付け、すなわち、開始コドンの上流のCATおよび終止コドン下流のAATTCの配列の伸長を除外している。
**)プライマーセットによって定義されたように「RT−PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の5’末端の配列。NdeI部位に下線を付した;翻訳開始コドンに二重下線を付した。
***)「RT−PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列。EcoRI部位に下線を付した。EcoRI部位を含む翻訳終止コドンをイタリック体で示している。
【0211】
(実施例11)
変異体8063の切断型MMTをコードする発現プラスミド
変異体8063のMMTをコードする遺伝子は、実施例9において、イントロン5の5’スプライス部位にG→A塩基転移を含有し、それによって2つの潜在的なスプライス部位が活性化され、その結果、それぞれが中途終止コドンを含有する3つの異常な転写物が発現する(図12B、C参照)ことが示された。
【0212】
変異体の転写物が非機能的MMTをコードすることを確認するために、下記の通りそれぞれの対応するオープンリーディングフレームを増幅し、E.coli発現ベクターに挿入した。選択的にスプライシングされた転写物のうち2つ、詳細には生成物2および生成物3をもたらす転写物(図12B)が、同一のタンパク質をコードすることは注目に値する。したがって、オオムギの変異体8063の異常にスプライシングされた遺伝子が機能的MMT酵素をコードするかどうかを決定するためには、2つの発現プラスミドのみで十分であった。
【0213】
変異体8063における潜在的なスプライシング生成物の配列が分かったことにより(図12D参照)、その構築について実施例10において説明している発現プラスミドpET19b−MMTからの関連性のある遺伝子部分を増幅することが可能になった。表6に列挙されているプライマーセット18を使用して、生成物2(配列番号27)および生成物3(配列番号28)のSacII−BamHI断片として遺伝子の3’部分を増幅した。その後、これらをpET19b−MMTの対応する断片と交換し(図13A参照)、発現プラスミドpET19b−Line8063−Prod2(図13B)およびpET19b−Line8063−Prod3(図13C)を生じさせた。平行して実行する反応では、生成物4(図12B参照)に関連するMMTに対応する切断型MMTを合成するために設計した発現プラスミドpET19b−Line8063−Prod4(図13D;クローニングするための生成物4の配列を示す配列番号29)を生成するために、プライマーセット19(表6)を利用した。
【0214】
図13Eは、野生型MMTと変異体8063によってコードされる切断型生成物の詳細なアミノ酸配列の比較を提供する。
【0215】
【表6】
*)数字は、隣の列に列挙されている対応する配列番号のヌクレオチド番号を指す。
**)一本の下線は、それぞれ、順方向プライマーのSacII部位および逆方向プライマーのBamHI部位にしるしをつけるために使用した。二重下線は終止コドンを示す。
【0216】
(実施例12)
変異体8063の組換えMMT型は不活性である
MMT欠失型の変異体8063が酵素的に不活性であることを立証するために、BL21株のE.coli細胞を、プラスミドpET19b、pET19b−MMT、pET19b−Line8063−Prod3、およびpET19b−Line8063−Prod4で別々に形質転換し(図13参照)、その後、アンピシリンを含有する標準のLuria Broth(LB)培地5mL中で一晩繁殖させた。各培養物の1.25mLの一定分量を、新鮮なLB100mLに加え、細胞密度がOD600=0.6に達するまで37℃でインキュベートした。この時点で、異種タンパク質の発現を誘導するために、1MのIPTGを40μL加えた。20℃で一晩インキュベートした後、個々の培養物の細胞を、4℃、4,000rpmで20分間遠心分離することによって沈殿させた。細胞ペレットのそれぞれを、5mLのH2Oに再懸濁させ、次いで何回かの凍結と融解のサイクルにかけ、最終的に、約750ユニット/Lのヌクレアーゼ(Sigma、カタログ番号E8263−25KU)の存在下、37℃で30分間インキュベートして試料の粘度を低下させた。4℃、4,000rpm、30分間の長さで遠心分離した後、細胞溶解性タンパク質(液相中のタンパク質と定義される)を不溶性タンパク質(ペレット中のタンパク質と定義される)から分離するために、ペレットを、リゾチーム1mgを含有する2mLのH2Oに再懸濁させることによってさらに洗浄した。外界温度で5分間インキュベートした後、15mLのH2Oを添加することによって試料を希釈した。同様の洗浄−沈殿のサイクルを3回行った後、7Mの尿素、2mMのβ−メルカプトエタノールを含有する50mMのTris−Cl緩衝液、pH8.0を1mL用いてペレット中の封入体タンパク質を抽出した。
【0217】
MMT活性についてアッセイするために、細胞溶解性タンパク質(上述のように定義される)を含有する試料50μLを、0.4mMのAdoMet、10mMのMet、1mMのDTT、0.1mg/mLのBSAを含有する25mMのリン酸K緩衝液、pH6.0、250μLに移した。50℃で1時間インキュベートした後、試料を濾過し、10μLの一定分量を、実施例2において説明している通りOPAと反応させた。次いで、SMMレベルについて前記実施例に記載の通りの分析が続き、結果は図14Aに要約されている。pET19b−MMTで形質転換した細胞からの抽出物のみが、SMM標準物質と同じ保持時間でクロマトグラムのピークを生じた。したがって、pET19b−Line8063−Prod3およびpET19b−Line8063−Prod4で形質転換した細胞からのクロマトグラムに同様のピークが存在しないことは、変異体8063が活性なMMTを生成する能力を喪失していることを示している。
【0218】
変異体8063が全長の活性なMMTを生成する能力を喪失していることを立証するために、別々の実験が計画された。上記のE.coli抽出物の、細胞溶解性のタンパク質試料5μLおよびペレット由来のタンパク質試料10μLを、標準の電気泳動によって分離し、オオムギのMMTの15残基長のペプチド抗原を標的とするウサギポリクローナル抗MMT抗体を用いて探索した[図13E(アスタリスクでしるしをつけたひと続きの配列)参照;ポリクローナル抗MMT抗体の、親和性精製した12mLスケールの調製物はInvitrogenから購入し(プロジェクト番号L0402801K;動物番号C7511)、標準のウェスタンブロット分析において1:1000希釈して使用した(図14B、C)]。
【0219】
詳細には、上述のタンパク質を10%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングし、150Vで75分間、電気泳動することによって分離し、その後タンパク質を、電気ブロッティング装置(Trans−Blot SD Semi−Dry Transfer Cell、BioRad)を1cm2当たり2.5mAmp(最大25V)で実行することによってフッ化ポリビニリデン膜(Immobilon−P、Millipore)に移した。トランスブロットを、25℃で1時間、ブロッキング緩衝液[1×リン酸緩衝食塩水(PBS)、1%BSA]中に置いた。ブロッキング溶液を除去し、膜を抗MMT抗体の溶液中に1時間置いた。その後、膜を1×PBSですすぎ、ヤギ抗ウサギIgGアルカリホスファターゼ溶液(Sigma)中で1時間インキュベートした。上述のインキュベートの後、膜を1×TBS中ですすぎ、続いて、ニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドールリン酸(Sigma)を使用してインキュベートした後、タンパク質バンドを視覚化した。ゲルを、最後に水中ですすいでホスファターゼ反応を停止させた。
【0220】
上記の抗MMT抗体の調製物を使用して、pET19b−MMT(図14B、C;「2」としるしが付いたレーン)、pET19b−Line8063−Prod3(図14B、C;「3」としるしが付いたレーン)、pET19b−Line8063−Prod4(図14B、C;「4」としるしが付いたレーン)およびpET19b(図14B、C;「5」としるしが付いたレーン)で形質転換したE.coli細胞の細胞溶解性のタンパク質およびペレット由来のタンパク質のブロットを探索した。細胞溶解性のタンパク質およびペレット由来のタンパク質の全体的なバンドのパターンが異なるにもかかわらず(ペレット由来のタンパク質のバンドは、一般に、ゲルの上端で開始し、ゲルの下端まで下に広がるタンパク質バンドのスメアとして現れる)、pET19b−MMTで形質転換した細胞の抽出物において、全長のMMTが、120kDaのマーカータンパク質(「1」としるしが付いたレーン)と共に移動するタンパク質バンドとして認識された。pET19b−Line8063−Prod3およびpET19b−Line8063−Prod4で形質転換した細胞の不活性型MMTタンパク質は、30kDaから40kDaの間のブロット領域において強く染色されたバンドに対応すると予想された。染色された80kDaのタンパク質バンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので、MMT由来ではないことは注目に値する。
【0221】
上記の、野生型オオムギおよび変異体8063の組換えMMT型を生成するために設計した、MMT型の異種発現の実験結果に基づいて、前記変異体におけるMMT型ではなく野生型MMTのみが活性であると結論付けられる。したがって、MetをDMS前駆物質のSMMに転換することを触媒する能力は、変異体8063とは対照的に、野生型オオムギに限定される。
【0222】
(実施例13)
オオムギの変異体8063についてのモニタリングシステム
変異体8063のオオムギ穀粒を検出するための生化学的アッセイ(実施例2参照)に加えて、本実施例は、変異体の穀粒またはその生成物を同定するために設計した遺伝学的方法を記載する。当業者に公知の適切な改変と共に、この方法は、所与の植物生成物がオオムギの変異体8063を使用して調製されるかどうかを検出するためにも適用することができる。アッセイは、図15に例示した通りの、表7に列挙されているオリゴヌクレオチドプライマーセットの特性を持つ、変異体8063のMTT遺伝子の一塩基多型(SNP)、詳細には3076位におけるG→A変異を検出するための分析に基づいている。
【0223】
オオムギの栽培品種PrestigeのゲノムDNAを用いた反応において、プライマーセット番号20を鋳型として適用した場合、271bpの、配列番号33で示される配列のPCR生成物が生成し、一方、鋳型として変異体8063のゲノムDNAが機能した場合、生成物は増幅されなかった。後者の場合は、単純に、逆方向プライマーの3’末端と鋳型の間に塩基対合がなかったことによる(図19A)。しかし、変異体8063のゲノムDNA(配列番号34;図19A)を用いたPCR増幅において、プライマーセット番号21を用いると、逆方向プライマーが鋳型と完全な配列一致を有するので、271bpのPCR生成物が得られる。変異体8063のMMT遺伝子におけるG3076→A変異を含有する断片を増幅するための2つ、および変異体14018のMMT遺伝子(配列番号36、実施例17参照)におけるG1462→A変異のための2つであるプライマーセット番号20および21として列挙された4つの上述のプライマーからなるプライマーセット番号22を設計して、上述のヌクレオチド変異をどちらも含有するMMTの変異遺伝子が存在することをモニターする。
【0224】
上記のPCR増幅それぞれを、ゲノムDNA200ngおよび特異的なプライマーセット(表7)の各プライマー50〜100pmolからなるRedTaqポリメラーゼ反応物50μL(Sigma、カタログ番号D6063)として、実験的に行う。標準のPCRサイクラーにおいて増幅した後(95℃で1分;次いで94℃、60秒−64℃、30秒−72℃、30秒を30サイクル;終わりに72℃で10分)、試料の一定分量25μLを2%アガロースゲルで標準の電気泳動にかける。図15Cに例示している通り、栽培品種PrestigeのゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号20の存在下では、271bpのDNA断片が得られ、プライマーセット番号21の存在下では断片が得られなかった。そして、変異体8063のゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号20の存在下では断片が得られず、プライマーセット番号21の存在下では271bpのDNA断片が得られた。後者の結果が、アイデンティティが未知のオオムギ子実のゲノムDNAを用いたPCRのアウトカムである場合、鋳型DNAが、変異体8063のDNAと同一である可能性が高い。この結論を支持するためのさらなる取組みは、SMMのレベルについて(実施例2参照)およびMMT活性について(実施例4参照)試験するための分析を含む。
【0225】
変異体8063がMMTを喪失していることを立証するための別の方法は、実施例3において説明している通り、技術的な手順および抗MMT抗体を使用するウェスタンブロット分析を伴う。実際的に述べると、栽培品種Prestigeの穀粒および変異体8063の穀粒を、20℃で4日間、発芽させ、続いて野生型の穀粒1つおよび変異体の穀粒1つを、それぞれ250μLのH2O中で別々にホモジナイズした。13,000rpmで10分間遠心分離した後、それぞれの上清15μLをSDSローディング緩衝液5μLと混合し、5分間煮沸し、12%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングし、電気泳動によって分離し、電気ブロッティングし、そして最終的にポリクローナル抗MMT抗体を用いて探索した(図15D)。120kDaの明瞭なMMTタンパク質バンドが、栽培品種Prestigeの抽出物において容易に認識でき、一方、120kDaのマーカータンパク質と共に移動した変異体8063の免疫反応性タンパク質はなかった。したがって、上述のウェスタンブロット分析法は、発芽しているオオムギ穀粒がMMTを生成するか、またはその能力を喪失しているかを調査するために有用である。所与の子実が変異体8063由来であるかどうかを確認するために別の分子的検査および生化学検査を使用することができる。
【0226】
【表7】
*)MMTゲノム野生型配列(配列番号3)についてと同様の塩基対の番号付け
**)変異体8063のMMTゲノム配列(配列番号8)についてと同様の塩基対の番号付け
***)変異体14018のMMTゲノム配列(配列番号19)についてと同様の塩基対の番号付け
****)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙された断片の5’末端の配列
*****)「PCR生成物の末端」と表示された列に示された断片の3’末端の相補配列
(実施例14)
オオムギの変異体14018のMMTをコードする遺伝子はイントロン2の5’スプライス部位において変異している
オオムギの変異体14018の発芽した穀粒の抽出物において極度に少ないレベルのSMMが発見された、またはSMMが全く発見されなかったことに従って、その植物体を、上記の実施例9において変異体8063について説明したのと同じ実験条件下で分析した。しかし、この場合は、野生型植物材料は、変異体14018を含む穀粒のバッチにおいてNaN3を用いて変異誘発するために栽培品種Sebastianが利用されたので、栽培品種Sebastianからのものであった。ヌルMMT表現型を引き起こす変異を同定するための実験を設計し、下記のように実施した。
【0227】
第1に、栽培品種Sebastian(ゲノムDNA配列に対して配列番号16;cDNA配列に対して配列番号17;翻訳されたcDNA配列に対して配列番号18;すべての場合において、本明細書の実施例8記載の栽培品種Prestigeと同一の配列を伴う)と、変異体14018(ゲノム配列に対して配列番号19、およびcDNA配列に対して配列番号20、21、23、25)のMMTをコードする遺伝子の別個のゲノムDNA配列の比較を、翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたる領域に焦点を合わせて行った。変異体14018の配列決定された遺伝子部分、詳細にはエクソン2のすぐ下流のイントロン2の一番目の塩基における供与体スプライシング供与部位、より詳細にはヌクレオチド番号1462においてG→A塩基転移が同定され、したがって、遺伝子転写物の主要なRNAプロセシングに影響を及ぼすことが予測される(図16)。
【0228】
第2に、プライマーセット16(表4)を使用してRT−PCR反応を設計し、栽培品種Sebastianおよび変異体14018のMMTをコードする遺伝子のエクソン2からエクソン5にわたる遺伝子領域を増幅するために調整した(図16A)。DNAを増幅した後、反応生成物をアガロースゲル電気泳動にかけ、図16Bに示した結果が伴った。実施例9において変異体8063について説明したのと同様に、栽培品種Sebastianからの野生型RNAにより、1つのPCR断片、図16Bの生成物5がもたらされ、その長さおよびDNA配列は(配列番号20参照)、野生型オオムギのMMTの全長cDNA(配列番号17)の246〜933にわたる塩基と同一であった。この結果は、選択的スプライシングが野生型遺伝子発現の特徴ではないことを重ねて強調している。
【0229】
第3に、変異体14018から精製された鋳型RNAをPCR反応に利用し、野生型鋳型の増幅生成物と長さおよび配列が異なる3つの特異的な断片−図16B、Cにおける生成物6(配列番号21)、生成物7(配列番号23)および生成物8(配列番号25)を指す−が生成した。この所見は、変異体14018のMMT遺伝子のイントロン2の5’スプライス部位における単一の変異により、通常のスプライス部位が削除され、その代わりに潜在的な、付加的なスプライス部位の使用が活性化されることによって、mRNA前駆体のプロセシングが妨害されることを示唆している。この点において、生成物6および生成物7の両方に対して、イントロン2において潜在的なスプライス部位が同定され、一方、生成物8の潜在的なスプライス部位はエクソン2にあった。上述の配列決定結果の図による比較を図16Cに提供している。
【0230】
さらに、DNA配列の分析により、それぞれ、配列番号22、配列番号24、および配列番号26として列挙されており、186アミノ酸長、180アミノ酸長および163アミノ酸長の翻訳されたタンパク質をもたらす、生成物6における中途翻訳終止コドン[オオムギの栽培品種SebastianからのゲノムDNA(配列番号16)の塩基番号付けによる、塩基1579〜1581におけるTAG]、生成物7における中途翻訳終止コドン[オオムギの栽培品種SebastianからのゲノムDNA(配列番号16)の塩基番号付けによる、塩基1840〜1842におけるTAA]、および生成物8における中途翻訳終止コドン[オオムギの栽培品種SebastianからのゲノムDNA(配列番号16)の塩基番号付けによる、塩基1916〜1918におけるTGA]が明らかになった。変異体8063について上記した結果(図12D、E)と平行して、図16D、Eにおける図は、選択的スプライシング事象に関与する特異的な塩基の性質による特異的なデータを提供している。
【0231】
(実施例15)
変異体14018の切断型MMTを合成するためのプラスミドの発現
変異体14018由来の、3つの、切断型の組換えバージョンのMMTの合成を導く発現プラスミドを構築するための原理および戦略は、実施例11において変異体8063について説明したものと同様であった。簡潔に述べると、実験目的は、変異体14086の異常性のスプライシング事象により、不活性なMMTをコードする転写物が生成することを立証することであった。したがって、組換え型のひと続きの遺伝子は、生成物6、生成物7および生成物8(図16B、C参照)につながる異常性のスプライシング事象を反映している配列のタンパク質をコードするはずであり、その配列は、配列番号22、配列番号24および配列番号26に列挙されている。
【0232】
プライマーセット番号23、24および25(表8)を用いた3回の標準の連続PCRにおける鋳型としてプラスミドpET19b−MMT(実施例10参照)を使用し、394bpの増幅断片(配列番号30)が生じた。この増幅断片をSacII−BamHIを用いて消化し、pET19b−MMTの大きなSacII−BamHI断片とライゲーションし(図17A)、図16Bに示した生成物6に対応する切断型MMTを合成するために設計した発現プラスミドpET19b−Line14086−Prod6を生じさせた(図17B)。
【0233】
394bpの断片について上記したものと同じ手順を利用して、しかし今度は3回の連続PCR増幅(表8)においてプライマーセット番号23、24および26を用いて、376bpの断片を生成し(配列番号31)、それをSacII−BamHIを用いて消化したら、pET19b−MMT(図17A)の大きなSacII−BamHI断片とライゲーションし、発現プラスミドpET19b−Line14086−Prod7(図17C)を生じさせた。この発現プラスミドは、図16Bに示した生成物7を示しているものに対応する切断型MMTを合成するために設計した。
【0234】
pET19b−MMTについて記載したのと同様の方法だが、プライマーセット番号27および28(表8)を用いて行った平行して実行する実験では、325bpの断片(配列番号32)を増幅し、それをSacII−BamHIを用いて消化したら、pET19b−MMT(図17A)の大きなSacII−BamHI断片とライゲーションし、生成物8(図16B参照)に対応する切断型MMTを合成するための発現プラスミドpET19b−Line14086−Prod8(図17D)を生じさせた。
【0235】
【表8】
*)下線を付したSacII部位を持つ同じ順方向プライマーをすべての反応に利用したことに留意されたい。逆方向プライマーについて、鋳型DNAにアニーリングしない5’伸長を波形の下線で示している;BamHI部位をイタリックで示し、相補翻訳終止コドンを太字文字で示している。
**)数字は、隣の列に列挙されている対応する配列番号のヌクレオチド番号を指す。
【0236】
(実施例16)
変異体14018の組換えMMT型は不活性である
実施例12の手順に従い、変異体8063由来の構築物を変異体14018由来の構築物と置き換えた。E.coli細菌を、pET19b−Line14018−Prod6、pET19b−Line14018−Prod7およびpET19b−Line14018−Prod8(図17A〜D、図17Eに示している対応するアミノ酸のアラインメントを持つ)で形質転換したが、実施例12に記載の抗MMT抗体はMMTの変異体14018特異的な部分にはないひと続きの配列に対して生じたので、この実験では、ウェスタンブロット分析を除いた。
【0237】
形質転換した細菌の抽出物でSMMを生成できることが明らかになったものはなかったので(図18)、上記の実施例12でもたらされたのと同じ論証により、オオムギの変異体14018が、DMS前駆物質であるSMMの形成を触媒する能力を喪失している、非機能的MMT酵素を生成するという結論のための基礎がもたらされる。
【0238】
(実施例17)
オオムギの変異体14018についてのモニタリングシステム
変異体14018のオオムギ穀粒を検出するための生化学的アッセイ(実施例2参照)に加えて、本実施例は、オオムギ変異体14018から調製された変異穀粒または植物生成物を同定するために設計した遺伝学的方法を記載する。この方法は、図19に例示した通りの、表9に列挙されているオリゴヌクレオチドプライマーセットの特性を持つ、変異体14018のMTT遺伝子の一塩基多型(SNP)、詳細には、1462位におけるG→A変異を検出するための分析に基づいている。
【0239】
オオムギの栽培品種SebastianのゲノムDNAを用いた反応において、プライマーセット番号29を鋳型として適用した場合、121bpの、配列番号35で示される配列のPCR生成物が生成し、一方、変異体14018のゲノムDNAが鋳型として機能した場合、生成物は増幅されなかった。後者の場合は、単純に、逆方向プライマーの3’末端と鋳型の間に塩基対合がなかったことによる(図19B)。しかし、変異体14018のゲノムDNA(配列番号36)を用いたPCR増幅において、プライマーセット番号30を用いると、逆方向プライマーが鋳型と完全な配列一致を有するので(図19B)、121bpのPCR生成物が得られる。変異体14018のMMT遺伝子(すなわち、配列番号36)におけるG1462→A変異を含有する断片を増幅するための2つ、および変異体8063のMMT遺伝子(配列番号34、実施例9参照)におけるG3076→A変異のための2つであるプライマーセット番号29および30として列挙された4つの上述のプライマーからなるプライマーセット番号31を設計して、上述のヌクレオチド変異をどちらも含有するMMTの変異遺伝子が存在することをモニターする。
【0240】
上記のPCR増幅それぞれを、ゲノムDNA200ngおよび特異的なプライマーセット(表7)の各プライマー50〜100pmolからなるRedTaqポリメラーゼ反応物50μl(Sigma、カタログ番号D6063)として、実験的に行う。標準のPCRサイクラーにおいて増幅した後(95℃で1分;次いで94℃、60秒−64℃、30秒−72℃、30秒を30サイクル;終わりに72℃で10分)、試料の一定分量25μlを2%アガロースゲルで標準の電気泳動にかける。図19Cに例示している通り、栽培品種SebastianのゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号29の存在下では、121bpのDNA断片が得られ、プライマーセット番号30の存在下では断片が得られなかった。そして、変異体14018のゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号29の存在下では断片が得られず、プライマーセット番号30の存在下では123bpのDNA断片が得られた。後者の結果が、アイデンティティが未知のオオムギ子実のゲノムDNAを用いたPCRのアウトカムである場合、鋳型DNAが、変異体14018のDNAと同一である可能性が高い。この結論を支持するためのさらなる取組みは、SMMのレベルについて(実施例2参照)およびMMT活性について(実施例4参照)試験するための分析を含む。
【0241】
変異体14018がMMTを喪失していることを立証するための別の方法は、実施例3において説明している通り、技術的な手順および抗MMT抗体を使用するウェスタンブロット分析を伴う。実際的に述べると、栽培品種Sebastianの穀粒および変異体14018の穀粒を、20℃で4日間、発芽させ、続いて野生型の穀粒1つおよび変異体の穀粒1つを、それぞれ100μLのH2O中で別々にホモジナイズした。13,000rpmで10分間遠心分離した後、それぞれの上清15μLをSDSローディング緩衝液5μLと混合し、5分間煮沸し、12%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングし、電気泳動によって分離し、電気ブロッティングし、そして最終的にポリクローナル抗MMT抗体を用いて探索した(図15D)。120kDaの明瞭なMMTタンパク質バンドが、栽培品種Sebastianの抽出物において容易に認識でき、一方、120kDaのマーカータンパク質と共に移動した変異体14018の免疫反応性タンパク質はなかった。したがって、上述のウェスタンブロット分析法は、発芽しているオオムギ穀粒がMMTを生成するか、またはその能力を喪失しているかを調査するために有用である。所与の子実が変異体14018由来であるかどうかを確認するために別の分子的検査および生化学検査を使用することができる。
【0242】
【表9】
*)MMTゲノム野生型配列(配列番号16)についてと同様の塩基対の番号付け
**)変異体14018のMMTゲノム配列(配列番号19)についてと同様の塩基対の番号付け
***)変異体8063のMMTゲノム配列(配列番号8)についてと同様の塩基対の番号付け
****)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙された断片の5’末端の配列
*****)「PCR生成物の末端」と表示された列に示された断片の3’末端の相補配列
【0243】
【数1】
【0244】
【数2】
【0245】
【数3】
【0246】
【数4】
【0247】
【数5】
【0248】
【表10−1】
【0249】
【表10−2】
【0250】
【表10−3】
【0251】
【表10−4】
【0252】
【表10−5】
【0253】
【表10−6】
【0254】
【表10−7】
【技術分野】
【0001】
本出願において引用されるすべての特許および非特許参考文献は、参照により、それらの全体において、本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、硫化ジメチル(DMS)および/もしくはその前駆体であるS−メチル−L−メチオニン(SMM)の両方のレベルが顕著に低いこと、または前記化合物のうちの一方、もしくは好ましくは両方を欠くことを特徴とするオオムギ由来の飲料に関する。加えて、本発明は、上述の飲料を生産する方法に関し、また、このような飲料を調製するのに有用なオオムギ植物体の他、前記植物体から調製される他の植物生成物にも関する。本発明は、風味プロファイルの改善を特徴とする飲料の生産を可能とする一方で、また、熱エネルギー投入量(特に、ウォートの煮沸に関する)を顕著に削減する生産法のための新規の枠組みも支援する。
【背景技術】
【0003】
飲料、とりわけ、ビールは、世界の多くの地域で栽培されている単子葉植物であるオオムギ(Hordeum vulgare, L.)に基づいて生産することができる。オオムギは、ビールを含めた産業製品の原料として、また、動物試料の供給源としての両面で、経済的に重要である。
【0004】
茶、ココア、ミルク、ワイン、蒸留酒(ラム酒など)、スイートコーン、および多数の調理野菜を含めた、多くの野菜および食物において、加えて、ビールにおいても、DMSは、生成物に顕著な、一般には有益なにおいと風味の調子を付加する。しかし、高レベルのDMSは、通常、「煮たトウモロコシ」、または場合によって「クロスグリ様」と描写される、望ましくない風味を与える。
【0005】
ビールの種類によって、DMSレベルは、典型的には最大で144μg/Lとなる可能性があり、場合によっては、最大で150ppb(150μg/L)に達する可能性もあり、前記化合物は、「煮た野菜」または「キャベツ様」の望ましくない風味に寄与することが多い。しかし、低レベルの該化合物は、濃厚な風味および全体的なビールの香ばしさに寄与し得るため、ラガービールでは、場合によって望ましいこともある:感覚閾値は約25〜50ppb、例えば、30〜45μg/Lである(Meilgaard、1982年)。そのレベルが<10ppbであるとき、DMSの風味は、一般に感知されない。
【0006】
本明細書ではまたDMS前駆体(DMSP)としても称するSMMは、SMMサイクルの機能的成分の作用により、発芽しつつあるオオムギ穀粒内において合成される(図1A)。ここで、メチオニン(Met)−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)酵素は、S−アデノシル−メチオニン(AdoMet)からMetへのメチル基の移動を触媒して、SMMを形成させる。後者の化合物は、酵素であるホモシステイン(Hcy)−S−メチルトランスフェラーゼ(HMT)により触媒される反応である、HcyからのMetの合成のためのメチルドナーとして用いられ得る。MMTの決定的な役割については論じられているが、当初それは、AdoMet合成が超過することによりタンパク質合成のためのMetプールが枯渇することを防止することであると仮定された(MuddおよびDatko、1990年)。SMMサイクルはまた、葉中におけるMetからSMMへの主要なフラックス、SMMの師部輸送、ならびに穀粒または他のシンク組織の発生におけるSMMからMetへの再転換を伴う、植物内における長距離の硫黄輸送において機能することも示唆されている(Bourgisら、1999年)。しかし、その後の放射性トレーサーによる実験では、前記サイクルが、Metの枯渇を防止するのではなく、AdoMetレベルの制御を管理していることが明らかになった(Ranochaら、2001年)。植物におけるSMMの生理学的役割についての代替的な説明は、エチレン合成の制御(Koら、2004年)に関し、これは、主に、Pichia属の酵母に由来する、組換え1−アミノシクロプロパン−1−カルボキシレートシンターゼに関する研究を介して示される考えによる。
【0007】
McElroyおよびJacobsen(1995年)は、例えば、アンチセンス法を用いることにより、SMMの合成を制御することが可能であり得ると推測している。しかし、アンチセンスの対象となる標的遺伝子についての指針は示されず、SMMレベルが大幅に低下すれば、オオムギの成長および発育にとって有害であり得るため、結果が肯定的となる可能性は疑問視されると予測された。McElroyおよびJacobsen(前出)は、SMMレベルを低下させるための代替的な解決策については論じなかった。加えて、下記で詳細に論じる通り、オオムギにおいてアンチセンス法を適用して、遺伝子発現を完全に消失させるのに成功したことはない。
【0008】
残念ながら、所与のタンパク質の発現を完全に欠くトランスジェニックのオオムギ植物体を調製する方法は与えられていない。オオムギの場合一般に、アンチセンス法を適用しても、問題となるタンパク質の一部をやはり発現するトランスジェニック植物がもたらされる(例えば、Robbinsら、1998年; Stahlら、2004年; Hansenら、2007年を参照されたい)。また、キメラRNA/DNAまたは部位指向変異誘発を用いて特異的な変異を調製するのに有効な、オオムギ植物体で用いられる方法も開発されていない。本公開の発明者らが努力を結集したにもかかわらず、オオムギにおいて、オリゴヌクレオチド指向の遺伝子標的化の成功について公表例が知られないことも、このことと符合する。オオムギにおいては追及されていないが、IidaおよびTerada(2005年)は、トウモロコシ、タバコ、およびコメにおいて、オリゴヌクレオチド指向の遺伝子標的化が試みられている(しかし、すべての場合において、除草剤耐性遺伝子であるアセト乳酸シンターゼ(ALS)が標的とされている)ことに言及している。IidaおよびTerada(前出)が下す結論によれば、上述の戦略に適切な改変を加えて、これが、ALS遺伝子など、直接的に選択可能な遺伝子以外の遺伝子に適用可能であるかどうかは、いまだに確立されていない。ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いる標的化変異誘発は、将来の基礎的な植物生物学における研究または作物植物における改変を潜在的には可能とし得る別のツールを表す(Duraiら、2005年; TzfiraおよびWhite、2005年; Kumarら、2006年)。この場合もまた、オオムギでは、変異誘発が追及されていないか、または有効に適用されていない。
【0009】
にもかかわらず、照射、またはアジドナトリウム(NaN3)で処理することによるなど、化学的処理を用いる無作為的な変異誘発により、オオムギの変異体を調製することができる。例は、低フィチン酸の変異体を求めたスクリーニングの試みにおいて、NaN3を用いることによりオオムギ穀粒を変異誘発させた後における、高レベルの遊離リン酸を有するものを求めたそれらのスクリーニングに関する(RasmussenおよびHatzack、1998年;スクリーニングされた2,000個の穀粒から、計10個の変異体が同定された)。常に可能であることからは遠いが、NaN3処理後において特定の変異体を見出すことは、持続的で有効なスクリーニング法に依存し、したがって、常に成功することからは遠い。
【0010】
従来の植物育種における有望な分子標的の同定に関する困難な部分は、所与の生化学系の出力を所望の形で変化させるには、該経路のうちのどの構成要素(複数可)を撹乱させるべきかを確証することの困難に関し、したがって、有用なスクリーニング法を確立する能力に関する。
【0011】
ビール生産に関する高温でのインキュベーション(モルトのキルン乾燥、またはウォートの加熱および煮沸)は、SMMからDMSへの化学的転換を誘導し得る。DMSの固有の特性、特に、その沸点がわずかに37℃〜38℃であるという特性により、キルニング時およびウォート煮沸時において形成されるDMSの主要部分は、大気中へと失われ得る。約70℃を超える温度では、DMSの揮発性が極めて低レベルへと低下する(ScheurenおよびSommer、2008年)一方で、ジメチルスルホキシド(DMSO)へのさらなる酸化のための条件が顕在化する。ウォート煮沸の維持時間または強度が、残留SNMを転換するのに不十分である場合、DMSは、ウォートが冷却される際に形成され続ける可能性がある(その後、ビール中へと移送される)。
【0012】
ビール中におけるDMSレベルを低下させる技法が開発されている。したがって、AU38578/93では、モルト中におけるDMSレベルを低下させる方法であって、前記モルトの蒸気による処理を含む方法が説明されている。Bisgaard−Frantzen, H.らによるUS2006/0057684では、70℃以上の温度におけるマッシュの加熱処理を含む醸造法が説明されていた。そして、Reuther, H.による米国特許第5,242,694号では、低炭水化物のビールを調製する方法であって、長時間にわたりウォートを煮沸する工程の後で、前記ウォートを二酸化炭素で洗浄する工程を含む方法が説明されていた。しかし、前述の処理はすべて、高レベルのエネルギーを消費し、さらに、モルトまたはウォートの特徴を変化させる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、オオムギまたはその一部から調製される飲料、特に、風味の改善されたビールを開示する。本明細書で開示される飲料は、DMSレベルが極めて低いか、さらにまたはDMSを全く示さない(特に、DMSレベルが風味閾値未満であり、したがって、DMS風味の不在を特徴とする飲料である)。
【0014】
さらに、本発明の飲料は、優れた風味特性を有する。したがって、本発明の飲料は、特にバランスが良くて飲みやすく、高度の新鮮さ、香ばしい風味、および花の風味を有する飲料として特徴付けられる。
【0015】
したがって、本発明は、DMSの不在または低DMSレベルに基づく、注目すべき風味特性を有する飲料を提供する。ここで、DMSが、ビール中におけるエステル化合物に対する人間の知覚に顕著な影響を及ぼすことが見出される(図1Bを参照されたい)が、これは、本発明により提供される、DMSが前記化合物の風味を遮蔽するというモデルと符合する。
【0016】
本発明が、DMS前駆体の形成を特異的に遮断する欠損を有するオオムギまたはモルト穀粒を提供することは、極めて重要であると考えられる。この方法により、上記で説明した、DMSによるエステル風味の遮蔽を回避することができ、これにより、オオムギおよびモルトの産業的利用の新たな機会が可能となる。加えて、DMS前駆体の形成を特異的に遮断する欠損を有するオオムギまたはモルト穀粒はまた、DMS自体の不在により引き起こされる風味特性も示す。とりわけ、前記のオオムギまたはモルトの種類は、現行の能力をはるかに超えて調整された生産環境の確立を支援する、有効な産業適用における原材料として利用し得るであろう。特に、改善は、ビールの品質、ならびにビール生産における環境持続性の問題に関し、とりわけ、
(i)DMS特異的な風味が低レベルであるビールと;
(ii)エステル風味のプロファイルが改善されたビールと;
(iii)ビール生産に投入されるエネルギーの削減と;
(iv)ウォート生成におけるエネルギー消費の削減と
の問題に関する。
【0017】
本発明は、前記改善を達成するオオムギ植物体および穀粒を提供する。
【0018】
こうして、SMMの代謝が、他の生物学的過程といかにして絡み合い得るかについての理論的な考察に拘束されずに述べると、本出願は、SMM合成が欠損するオオムギ植物体の育種およびその産業的使用を利用および探索するための、いまだもたらされていない機会を提供する。
【0019】
本発明は、MMTをコードする遺伝子における変異を保有する、MMT活性の完全な喪失を引き起こす、オオムギ植物体またはその一部から、DMS特異的な風味が低レベルであり、エステル風味のプロファイルが改善されていることを特徴とする飲料、および/または特にバランスが良く飲みやすい飲料(すなわち、高度の新鮮さ、香ばしい風味、および花の風味を有する)を調製し得ることを開示する。本明細書では、このような植物体を、「MMTヌルの」オオムギと称する。
【0020】
したがって、一態様では、本発明が、オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料であって、前記飲料が30ppbを下回るDMS(30ppb未満のDMSなど)を含有し、前記オオムギ植物体が、MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有する飲料に関する。
【0021】
別の態様では、本発明が、前記飲料を調製するのに有用なオオムギ植物体を提供する。したがって、MMTをコードする遺伝子における、機能的MMT酵素の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体またはその一部を提供することもまた、本発明の目的である。
【0022】
加えて、本発明は、例えば、モルト組成物およびウォート組成物、またはオオムギベースのシロップもしくは抽出物、またはモルトベースのシロップもしくは抽出物、あるいは添加物を含めた、前記MMTヌルのオオムギ植物体から生成された植物生成物に関する。この文脈における添加物は、モルト化させていないオオムギの場合があり、これは、単独で用いることもでき、ウォートを調製するためのモルト化させたオオムギと組み合わせて用いることもできる。本発明はまた、前記オオムギ植物体を調製する方法の他、飲料および他の植物生成物を調製する方法も提供する。
【0023】
さらに、異常気象が国際問題となっている世界にあって、社会および産業は、温室効果ガス排出の削減、および環境利益に寄与すべきである。したがって、本発明の目的は、エネルギー消費の低い方法を用いるビール生産に有用なオオムギ植物体を提供することである。したがって、本発明のオオムギ植物体は、標準的な醸造法と比較して、加熱する工程の時間経過が短いか、または加熱する工程における温度が低い方法を用いるビールの生産に有用である。根本的に重要なのは、キルンを乾燥させる工程およびウォートを煮沸させる手順における利益であり、これらは、標準的な醸造レジメおよびビール生産レジメと比べて顕著に短縮することもでき、より低温で実施することもでき、これによりエネルギー消費が削減され、ビールを生産するのにより持続可能な方法がもたらされる。
【0024】
配列表
本発明は、以下の詳細な説明と、本出願の一部をなす添付の配列表(表10にまとめられる)から、より完全に理解することができる。前記表は、本明細書で説明される核酸およびポリペプチド、オリゴヌクレオチドプライマーの他、これらのポリペプチドの全部または実質的部分を表すポリペプチドをコードする核酸断片を含むcDNAクローンおよびgDNAクローンの呼称、ならびに対応する識別子(配列番号)を列挙する。配列の説明と、本明細書に添付される配列表とは、特許出願におけるヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の開示を律する規則に準拠している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】図1は、SMMサイクルの選択された構成成分および平均風味スコアを示す図である。(A)酵素Met−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)によって触媒される、S−アデノシルメチオニン(SAM)からメチオニン(Met)へのメチル基転移によってSMMが合成されるSMMサイクルの選択された構成成分である。SMMは、今度は、酵素Hcy−S−メチルトランスフェラーゼ(HMT)によって触媒される反応において、ホモシステイン(Hcy)からのMet合成のためのメチル基供与体として機能することができる。図は、基本的に不可逆的な反応がどのようにつながっているかを示している。サイクルの各回転は、ATPがアデノシン、PPiおよびPiに転換する間に2つのMetを消費し、その後再生するので(示していない)、無益である。(B)ビール試料の列挙した性質−ボディ感、エステル風およびDMSについて専門家のビールの試飲パネル(specialist beer taste panel)によってもたらされた平均風味スコア±標準偏差を例示している。対照試料である標準のビールに、ビールのみ(「0」のしるしの棒)をスパイクした、またはビール中の濃度が以下になるエステルの混合物:酢酸エチル5ppm、酢酸イソアミル1.5ppm、ヘキサン酸エチル0.05ppm、オクタン酸エチル0.13ppm(「1」のしるしの棒)、およびDMS100ppbを含めた上述のエステル混合物(「2」のしるしの棒)をスパイクした。
【図1B】図1は、SMMサイクルの選択された構成成分および平均風味スコアを示す図である。(A)酵素Met−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)によって触媒される、S−アデノシルメチオニン(SAM)からメチオニン(Met)へのメチル基転移によってSMMが合成されるSMMサイクルの選択された構成成分である。SMMは、今度は、酵素Hcy−S−メチルトランスフェラーゼ(HMT)によって触媒される反応において、ホモシステイン(Hcy)からのMet合成のためのメチル基供与体として機能することができる。図は、基本的に不可逆的な反応がどのようにつながっているかを示している。サイクルの各回転は、ATPがアデノシン、PPiおよびPiに転換する間に2つのMetを消費し、その後再生するので(示していない)、無益である。(B)ビール試料の列挙した性質−ボディ感、エステル風およびDMSについて専門家のビールの試飲パネル(specialist beer taste panel)によってもたらされた平均風味スコア±標準偏差を例示している。対照試料である標準のビールに、ビールのみ(「0」のしるしの棒)をスパイクした、またはビール中の濃度が以下になるエステルの混合物:酢酸エチル5ppm、酢酸イソアミル1.5ppm、ヘキサン酸エチル0.05ppm、オクタン酸エチル0.13ppm(「1」のしるしの棒)、およびDMS100ppbを含めた上述のエステル混合物(「2」のしるしの棒)をスパイクした。
【図2】図2は、蛍光化合物SMM−OPAのアルカリ形成に関与する分子を示す図である。
【図3A】図3は、変異体8063および変異体14018のヌルMMT表現型を立証するためのHPLC実験およびウェスタンブロット実験の結果を示す図である。(A)栽培品種Prestigeの苗条からの抽出物のHPLCに基づく分離の例であり、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出を示している。オオムギ苗条のOPA誘導体抽出物の蛍光については、340nmで励起し450nmで放射が測定された。(B)示した変異体および野生型の、栽培品種Sebastianからの抽出物のHPLCに基づく分離である。変異体の抽出物中の構成成分の分離では、SMM特異的なピークがないクロマトグラムがもたらされた。(C)野生型Prestige(レーン2)、変異体8063(レーン3)、野生型Sebastian(レーン5)、および変異体14018(レーン6)の苗条抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1、4および7で分離すると同時に、E.coli細胞からの組換えMMTを対照として用い、レーン8で分離した。実施例12において説明している通り、120kDaの染色されたタンパク質バンドがMMTを表し、一方E.coli抽出物における80kDaのバンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので(図14B、C参照)、MMT由来ではない。
【図3B】図3は、変異体8063および変異体14018のヌルMMT表現型を立証するためのHPLC実験およびウェスタンブロット実験の結果を示す図である。(A)栽培品種Prestigeの苗条からの抽出物のHPLCに基づく分離の例であり、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出を示している。オオムギ苗条のOPA誘導体抽出物の蛍光については、340nmで励起し450nmで放射が測定された。(B)示した変異体および野生型の、栽培品種Sebastianからの抽出物のHPLCに基づく分離である。変異体の抽出物中の構成成分の分離では、SMM特異的なピークがないクロマトグラムがもたらされた。(C)野生型Prestige(レーン2)、変異体8063(レーン3)、野生型Sebastian(レーン5)、および変異体14018(レーン6)の苗条抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1、4および7で分離すると同時に、E.coli細胞からの組換えMMTを対照として用い、レーン8で分離した。実施例12において説明している通り、120kDaの染色されたタンパク質バンドがMMTを表し、一方E.coli抽出物における80kDaのバンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので(図14B、C参照)、MMT由来ではない。
【図3C】図3は、変異体8063および変異体14018のヌルMMT表現型を立証するためのHPLC実験およびウェスタンブロット実験の結果を示す図である。(A)栽培品種Prestigeの苗条からの抽出物のHPLCに基づく分離の例であり、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出を示している。オオムギ苗条のOPA誘導体抽出物の蛍光については、340nmで励起し450nmで放射が測定された。(B)示した変異体および野生型の、栽培品種Sebastianからの抽出物のHPLCに基づく分離である。変異体の抽出物中の構成成分の分離では、SMM特異的なピークがないクロマトグラムがもたらされた。(C)野生型Prestige(レーン2)、変異体8063(レーン3)、野生型Sebastian(レーン5)、および変異体14018(レーン6)の苗条抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1、4および7で分離すると同時に、E.coli細胞からの組換えMMTを対照として用い、レーン8で分離した。実施例12において説明している通り、120kDaの染色されたタンパク質バンドがMMTを表し、一方E.coli抽出物における80kDaのバンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので(図14B、C参照)、MMT由来ではない。
【図4】図4は、変異体8063の4日齢の苗条においてはMMT活性が存在しないが、発芽の長さが同様の野生型苗条においては活性が明白であることを示す図である。MMT活性を、[3H]SAMを基質として使用して決定した。MMTに触媒される、SMMを形成する[3H]SAMからMetへのメチル基の移動を、活性炭によって残りの[3H]SAMを除去した後、シンチレーション計数することによってモニターした。活性炭は基質に結合するが、新たに合成された、標識されたSMM生成物には結合しない。この図は、SMMが、変異体の苗条に存在しなかったが、野生型の苗条に存在したことも示している。変異体および野生型の植物体それぞれから15、計30の変異体および野生型の植物体両方の苗条を分析した。
【図5A】図5は、野生型およびヌルMMTのモルト、ウォート、およびビールにおける遊離のDMSPと遊離のDMSの含有量の比較を示す図である。(A)変異体8063のグリーンモルトおよびキルン乾燥モルトのどちらも、DMSPおよび遊離のDMSのレベルが著しく低下した。(B)変異体8063のスイートウォートおよび煮沸ウォートでは、DMSPおよび遊離のDMSがほとんど喪失し、変異体8063のモルトを使用して作製したビールでも、遊離のDMSが極度に少なかった。
【図5B】図5は、野生型およびヌルMMTのモルト、ウォート、およびビールにおける遊離のDMSPと遊離のDMSの含有量の比較を示す図である。(A)変異体8063のグリーンモルトおよびキルン乾燥モルトのどちらも、DMSPおよび遊離のDMSのレベルが著しく低下した。(B)変異体8063のスイートウォートおよび煮沸ウォートでは、DMSPおよび遊離のDMSがほとんど喪失し、変異体8063のモルトを使用して作製したビールでも、遊離のDMSが極度に少なかった。
【図6A】図6は、10名の規模のビール試飲パネルによって確立された風味プロファイルの比較を示す図である。検査は、野生型の、栽培品種Powerおよび変異体8063(ヌルMMT)のモルトを用いて醸造したビールで構成された。この種の分析では、グラフに示しているように、0〜5の尺度に定量化できるいくつもの所定の風味特質を利用する。風味は、分析されているビールの種類に対してその性質が最大であるとみなされるときにのみ、スコア5に対応する「極度」と判定される。(A)エステルおよびアルコールをスパイクしたビールのビールの試飲パネルの評価の要約が表1に列挙されている。(B)スパイクしていないビールの試飲パネルの評価を列挙する要約。
【図6B】図6は、10名の規模のビール試飲パネルによって確立された風味プロファイルの比較を示す図である。検査は、野生型の、栽培品種Powerおよび変異体8063(ヌルMMT)のモルトを用いて醸造したビールで構成された。この種の分析では、グラフに示しているように、0〜5の尺度に定量化できるいくつもの所定の風味特質を利用する。風味は、分析されているビールの種類に対してその性質が最大であるとみなされるときにのみ、スコア5に対応する「極度」と判定される。(A)エステルおよびアルコールをスパイクしたビールのビールの試飲パネルの評価の要約が表1に列挙されている。(B)スパイクしていないビールの試飲パネルの評価を列挙する要約。
【図7】図7は、NaN3変異誘発されたオオムギ穀粒を繁殖させる様式の図を示す図である。M0世代の穀粒は、M1世代の穀粒を実らせる植物体に発達する。これらの種子をまき、M2世代の新しい穀粒を生成するM1植物体に発達させることができる。次に、M2植物体が成長し、M3世代の穀粒を実らせる。M3世代の穀粒を発芽させることができ、その試料、例えば、子葉鞘を分析に使用することができる。M3の種子も、種子まきし、対応する植物体の花を交配に用いてM4世代の植物体を得ることができる。
【図8】図8は、好ましいビール生成プロセスの簡略化した図による概説を示す図である。生成プロセスは、オオムギ子実をスティーピングする工程(1)と、発芽させる工程(2)と、キルン乾燥する工程(3)と、乾燥モルトを粉砕する工程(4)と、マッシングする工程(5)と、濾過する工程(6)と、添加されたホップの存在下でウォートを煮沸する工程(7)と、酵母の存在下で発酵させる工程(8)と、ビールを成熟させる工程(9)と、ビールを濾過する工程(10)と、例えば、瓶、缶などに詰める工程(11)と、ラベルを貼る工程(12)とを含む。個々のプロセスは、モルト生成(1−3)と、ウォート生成(4−7)と、発酵(8−9)と、完成したビールの調製(10−12)とで構成されるセクションに分類することができる。好ましい方法を例示したが、示した工程の一部を省略する(例えば、濾過を省略してよく、またはホップを添加しなくてよい)代替的な様式を想定することができ、あるいは、付加的な工程を加えることができる(例えば、補助剤または炭酸の添加)。ビールは、モルト製造したオオムギとモルト製造していないオオムギの混合物、またはモルト製造していないオオムギのみを使用して生成することもでき、その場合は、マッシングプロセスの間に外部の酵素を頻繁に加える。
【図9】図9は、オオムギのMMTをコードする遺伝子の構成を概略の形式で示す図である。翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたる6368bp長のゲノム配列(配列番号3)を例示している。エクソンおよびイントロンを、それぞれ、番号をつけた枠および番号をつけていない線として示している。エクソン12は、転写および翻訳の全体的な方向を示すために矢じりとして図示している。ヌクレオチドの番号は、翻訳開始コドンの一番目の塩基を基準として、示したエクソンの5’末端および3’末端を指す。表2に列挙されているプライマーセットを使用した増幅に対応するPCRによるひと続きの配列のおよその位置も図示している。
【図10】図10は、栽培品種PrestigeのオオムギのMMTの、翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたるcDNA配列、すなわちコード領域(配列番号4)を、アミノ酸の一文字コードを使用した、翻訳された配列(配列番号6)と整列させて示す図である。
【図11−1】図11は、ほとんど同一であるオオムギの栽培品種Haruna Nijo(配列番号2)と栽培品種Prestige(配列番号6)のMMT酵素の配列のアラインメントを示す図である。2つの別々のアミノ酸残基の相違を黒枠に白文字で強調している。
【図11−2】図11は、ほとんど同一であるオオムギの栽培品種Haruna Nijo(配列番号2)と栽培品種Prestige(配列番号6)のMMT酵素の配列のアラインメントを示す図である。2つの別々のアミノ酸残基の相違を黒枠に白文字で強調している。
【図12−1】図12は、オオムギの変異体8063がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット15(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型の、栽培品種Prestigeまたは変異体8063のいずれかからのRNA鋳型を使用した生成物の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析のアガロースゲル電気泳動後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物4のエクソン5は、野生型のエクソン5と比較して短い。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1および2を含まない。しかし、mRNAはエクソン1および2も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン5の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン5の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。3および4と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物3および生成物4のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。2*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物1)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物2(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン5の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、1992年)を変異体8063のMMT遺伝子におけるイントロン5の配列と比較した概要である。
【図12−2】図12は、オオムギの変異体8063がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット15(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型の、栽培品種Prestigeまたは変異体8063のいずれかからのRNA鋳型を使用した生成物の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析のアガロースゲル電気泳動後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物4のエクソン5は、野生型のエクソン5と比較して短い。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1および2を含まない。しかし、mRNAはエクソン1および2も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン5の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン5の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。3および4と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物3および生成物4のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。2*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物1)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物2(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン5の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、1992年)を変異体8063のMMT遺伝子におけるイントロン5の配列と比較した概要である。
【図13−1】図13は、変異体8063の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号6、11、13、15)のアラインメントである。アスタリスクでしるしをつけたひと続きの配列に対応する合成ペプチドは、オオムギのMMTに対するポリクローナル抗体を生成するために使用した。野生型酵素(配列番号6)の残基番号333から1084にわたる配列は示していない。
【図13−2】図13は、変異体8063の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号6、11、13、15)のアラインメントである。アスタリスクでしるしをつけたひと続きの配列に対応する合成ペプチドは、オオムギのMMTに対するポリクローナル抗体を生成するために使用した。野生型酵素(配列番号6)の残基番号333から1084にわたる配列は示していない。
【図14−1】図14は、実験の詳細を実施例12に記載している、それぞれ、栽培品種Prestigeおよび変異体8063からの、野生型MTTおよび変異体型MTTをE.coliにおいて異種発現させた結果を示す図である。ベクターpET19bで形質転換したE.coli細胞の抽出物ならびに純粋なSMMの一定分量が実験の対照試料として機能した。ブロットがどちらも当該適用に関連性がないデータを含むレーン4と5の間のゲル領域は、スキャンした後に電子的に消去した。(A)純粋なSMMならびに示したプラスミドで形質転換したE.coliからの抽出物のHPLCプロファイルである。比較のために、このプロファイルも図18の不可欠な部分である。(B)プラスミドpET−MMT(レーン2)、pET19b−Line8063−Prod3(レーン3)、pET19b−Line8063−Prod4(レーン4)、およびpET19b(レーン5)で形質転換したE.coli細胞の可溶性の細胞抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1で分離した。(C)上記の図B部分の説明において示したプラスミドで形質転換したE.coli細胞の封入体の抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。主要な、ウェスタン分析に使用したポリクローナル抗体は、図13においてアスタリスクでしるしをつけたひと続きのアミノ酸に対応する、オオムギのMMTの15残基長の合成ペプチドに対して生じた。
【図14−2】図14は、実験の詳細を実施例12に記載している、それぞれ、栽培品種Prestigeおよび変異体8063からの、野生型MTTおよび変異体型MTTをE.coliにおいて異種発現させた結果を示す図である。ベクターpET19bで形質転換したE.coli細胞の抽出物ならびに純粋なSMMの一定分量が実験の対照試料として機能した。ブロットがどちらも当該適用に関連性がないデータを含むレーン4と5の間のゲル領域は、スキャンした後に電子的に消去した。(A)純粋なSMMならびに示したプラスミドで形質転換したE.coliからの抽出物のHPLCプロファイルである。比較のために、このプロファイルも図18の不可欠な部分である。(B)プラスミドpET−MMT(レーン2)、pET19b−Line8063−Prod3(レーン3)、pET19b−Line8063−Prod4(レーン4)、およびpET19b(レーン5)で形質転換したE.coli細胞の可溶性の細胞抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。kDaで示した質量の参照タンパク質を、レーン1で分離した。(C)上記の図B部分の説明において示したプラスミドで形質転換したE.coli細胞の封入体の抽出物からサイズによって分離したタンパク質のウェスタンブロットの結果である。主要な、ウェスタン分析に使用したポリクローナル抗体は、図13においてアスタリスクでしるしをつけたひと続きのアミノ酸に対応する、オオムギのMMTの15残基長の合成ペプチドに対して生じた。
【図15−1】図15は、変異体8063のMMT遺伝子におけるG3076→A変異を特徴とする子実を同定するための手法についての図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット20(表7参照)により、仮定的な反応1では271−bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Prestigeの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体8063のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【図15−2】図15は、変異体8063のMMT遺伝子におけるG3076→A変異を特徴とする子実を同定するための手法についての図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット20(表7参照)により、仮定的な反応1では271−bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Prestigeの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体8063のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【図16−1】図16は、オオムギの変異体14018がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット16(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型(栽培品種Sebastian)または変異体14018のいずれかからのRNA鋳型を使用したRT−PCR分析の生成物をアガロースゲル電気泳動した後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物8のエクソン2は、野生型のエクソン2と比較して切断されている。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1を含まない。しかし、mRNAはエクソン1も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン2の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン2の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。7および8と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物7および生成物8のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。6*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物5)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物6(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン2の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、上記)を変異体14018のMMT遺伝子におけるイントロン2の配列と比較した概要である。
【図16−2】図16は、オオムギの変異体14018がどのようにMMT遺伝子の潜在的なスプライス部位を活性化するかを示す図である。(A)MMT遺伝子のゲノム構造図の下の水平方向の小さな矢印は、プライマーセット16(表4参照)のおよそのアニーリング位置を示している。(B)野生型(栽培品種Sebastian)または変異体14018のいずれかからのRNA鋳型を使用したRT−PCR分析の生成物をアガロースゲル電気泳動した後のDNAバンドを視覚化した図である。(C)Aと同じグラフ要素を用いてパネルBのPCR生成物のイントロン−エクソン構造を示している図である。生成物8のエクソン2は、野生型のエクソン2と比較して切断されている。垂直方向の矢じりは中途翻訳終止コドンのおよその位置を指している。プライマーの選択に起因して、生成物はエクソン1を含まない。しかし、mRNAはエクソン1も含むことが予想される。(D)変異した(Mut.)イントロン2の5’スプライス部位および野生型(WT)のイントロン2の5’スプライス部位から生じた転写物を、下線を付した塩基によって変異部位を示して詳細に図示している。7および8と標識された実線でつながった矢印は、それぞれ、生成物7および生成物8のスプライシングの間に利用される供与部位および受容部位を示している(パネルC参照)。6*としるしが付いた破線は、野生型の転写物(パネルCにおける生成物5)のスプライシングおよびスプライシングされていない生成物6(パネルC参照)を指している。エクソンおよびイントロン2の塩基は、それぞれ、小文字および大文字にしてある。ntはヌクレオチドである。(E)単子葉植物における5’スプライス部位および3’スプライス部位の組成(SinibaldiおよびMettler、上記)を変異体14018のMMT遺伝子におけるイントロン2の配列と比較した概要である。
【図17−1】図17は、変異体14018の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号18、22、24、26)のアラインメントである。野生型酵素(配列番号18)の残基番号213から1084にわたる配列は示していない。
【図17−2】図17は、変異体14018の異常性のMMTを異種発現させるための発現プラスミド、およびコードされているタンパク質のアラインメントを示す図である。(A)エンテロキナーゼ部位(**;配列SSGHIDDDDKH;配列番号70)を伴うHisタグ(*;配列MGHHHHHHHHHH;配列番号69)を特定している配列にインフレームで融合した野生型MMTをコードするpET19b−MMTの、選択された制限部位を含むNcoI−BamHI断片の図である。(B)、(C)および(D)に、欠失構築物を例示している。(E)コードされているMMT配列(A、B、CおよびDに示している構築物に対して、それぞれ、配列番号18、22、24、26)のアラインメントである。野生型酵素(配列番号18)の残基番号213から1084にわたる配列は示していない。
【図18】図18は、実験の詳細を実施例15に記載している、それぞれ、栽培品種Prestigeおよび変異体14018からの野生型MMTおよび変異体型MMTをE.coliにおいて異種発現させた、HPLCに基づく実験結果を示す図である。純粋なSMMおよびベクターpET19bで形質転換したE.coli細胞が、実験の対照試料として機能した。比較のために、アスタリスクでしるしをつけたクロマトグラムも図14Aの不可欠な部分である。
【図19−1】図19は、変異体14018のMMT遺伝子におけるG1462→A変異を特徴とする子実を同定するための遺伝学的手法に対する図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット29(表9参照)により、仮定的な反応1では121bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する(123bp)。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Sebastianの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体14018のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【図19−2】図19は、変異体14018のMMT遺伝子におけるG1462→A変異を特徴とする子実を同定するための遺伝学的手法に対する図を示す図である。(A)対応する反応のアガロースゲル電気泳動後のエチジウムブロマイド染色されたバンドによって模式図的に示されるように(C)、プライマーセット29(表9参照)により、仮定的な反応1では121bpのPCR断片がもたらされ、仮定的な反応2では断片がもたらされない。仮定的な反応3および4では(B)、反応4のみでPCR断片が生成する(123bp)。水平方向の矢印は鋳型DNAに対して完全に配列が適合することを示し、鋭く曲がった矢印はミスマッチを示す。(D)栽培品種Sebastianの野生型穀粒(レーン2)の120kDaのMMT酵素を認識するが、変異体14018のMMT酵素は認識しない抗MMT抗体を用いたウェスタンブロット分析である。標準のタンパク質をレーン1で分離し、対応する質量をkDaで示した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
以下の説明、図、および表では、多くの用語が用いられる。このような用語に所与の範囲を含め、本明細書および特許請求の範囲を記載する目的で、以下の定義を与える。
【0027】
本明細書で用いられる「ある」とは、それが用いられる文脈に応じて、1または複数を意味し得る。
【0028】
「農業形質」という用語は、その効力または経済的価値に寄与する、植物体の表現型形質または遺伝形質について説明する。このような形質には、病害耐性、虫害耐性、ウイルス耐性、線虫耐性、干ばつ忍容性、高塩分忍容性、収量、草高、成熟日数、穀粒の粒ぞろい(すなわち、穀粒サイズの画分)、穀粒の窒素含量などが含まれる。
【0029】
特に、ビール製造工程に関して、特に、モルト化工程を説明するのに用いる場合の「オオムギ」という用語は、オオムギの穀粒を意味する。別段に指定しない限り、他のすべての場合、「オオムギ」が任意の品種を含めたオオムギ植物体(Hordeum vulgare, L.)を意味するのに対し、オオムギ植物体の一部とは、オオムギ植物体の任意の部分、例えば、任意の組織または細胞であり得る。
【0030】
本明細書で定義される「穀類」植物とは、主にそれらのデンプン含有種子のために栽培される、Gramineae(Graminae)科植物のメンバーである。穀類植物には、オオムギ(Hordeum属)、コムギ(Triticum属)、コメ(Oryza属)、トウモロコシ(Zea属)、ライムギ(Secale属)、オートムギ(Avena属)、ソルガム(Sorghum属)、ならびにライムギとコムギとの交配種であるライコムギが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で用いられる「DMSP」とは、DMS前駆体またはDMS潜在体、すなわち、飲料の作製時においてDMSへと転換され得る分子の略号である。SMMが、DMSPの全部ではないにせよ、その主要部分を占める。本明細書では、特定の植物物質またはその生成物中において、アルカリ性の条件で1時間にわたり煮沸することによりDMSPから生成され得るDMSの量として、DMSPレベルを定義する。本明細書で定義される1ppbのDMSPは、1ppbのDMSに転換され得る。
【0032】
特定の核酸との関連における「コードする」または「コードされる」とは、特定のタンパク質へと翻訳される情報を含むことを意味する。タンパク質をコードする核酸は、その翻訳領域内において非翻訳配列(例えば、イントロン)を含む場合もあり、このように介在する非翻訳配列を欠く(例えば、cDNAにおいて)場合もある。タンパク質をコードする情報は、コドンを用いることにより指定される。
【0033】
核酸と関連して本明細書で用いられる「発現」とは、核酸断片に由来するセンスmRNAまたはアンチセンスRNAの転写および蓄積として理解されるものとする。タンパク質との関連で用いられる「発現」とは、mRNAがポリペプチドへと翻訳されることを指す。
【0034】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNA断片を意味し、該コード領域に先行および後続する領域(プロモーター領域およびターミネーター領域)を包含する。さらに、植物の遺伝子は、それらがコードするタンパク質について不連続であり、イントロンを介在させるエクソンからなる。RNAへと転写されると、スプライシングによりイントロンが除去されて、成熟メッセンジャーRNA(mRNA)が生成される。エクソン間の「スプライス部位」は、一次RNA転写物からのイントロンの欠失と、切除されたイントロンの両側において残存するRNA端の接合または融合とからなる、スプライシング過程のスプライスシグナルとして作用するコンセンサス配列により決定されることが典型的である。
【0035】
本明細書で用いられる「発芽」という用語は、天然で見出される通常の土壌など、各種の組成物中において、オオムギ穀粒の成長が開始または再開されることを意味する。発芽はまた、成長チャンバーなどの中に置いたポットの土壌中で生じる場合もあり、例えば、標準的な実験室用ペトリディッシュ内に置いて湿らせた濾紙上で生じる場合もあり、モルト化時において(例えば、モルト化工場のスティープタンクまたは発芽箱内において)生じる場合もある。発芽は一般に、穀粒の水和、穀粒の膨潤、および胚芽の成長の誘導を包含すると理解される。発芽に影響する環境因子には、水分、温度、および酸素レベルが含まれる。根および芽の発育が観察される。
【0036】
本明細書で用いられる「単離」という用語は、物質を、その元の環境から取り出すことを意味する。例えば、生体内に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、天然系において共存する物質の一部または全部から分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されている。このようなポリヌクレオチドはベクターの一部の場合もあろうし、かつ/またはこのようなポリヌクレオチドもしくはポリペプチドは組成物の一部の場合もあろうが、このようなベクターまたは組成物はその天然環境の一部ではないので、これらはやはり単離されている。
【0037】
「穀粒」という用語は、また、内種子とも称する穀類の頴果、外頴、および内頴を含むものと定義される。大半のオオムギ品種では、外頴および内頴が頴果に付着し、脱穀後における穀粒の一部をなす。しかし、裸性のオオムギ品種もまた生じる。これらにおいては、頴果が、外頴および内頴から遊離しており、コムギの場合と同様に、脱穀により完全に遊離する。本明細書では、「穀粒(kernel)」および「穀粒(grain)」という用語を互換的に用いる。
【0038】
「穀粒の発生」とは、受精と共に始まり、代謝による貯蔵物質、例えば、糖、オリゴ糖、デンプン、フェノール性物質、アミノ酸、およびタンパク質が、液胞の標的化を伴い、また、これを伴わずに、穀粒内の各種の組織、例えば、内胚乳、種皮、糊粉、および胚盤へと蓄積され、これにより穀粒の拡大、穀粒の充実がもたらされ、穀粒の成熟および乾燥により終わる、オオムギの生活環を指す。
【0039】
「機能的MMTの完全な喪失」および「MMT活性の完全な喪失」という用語は、MMT酵素活性の欠如、すなわち、本明細書下記の実施例2で説明されるアッセイを用いるとき、検出可能なMMT活性を伴わないオオムギ植物体を指す。代替的に、オオムギ植物体のMMT活性は、前記オオムギのMMT cDNAを単離し、前記cDNAによりコードされるタンパク質が、SAMからMetへのメチル基の移動を触媒し、これにより、SMMを形成することが可能であるかどうかを判定することにより決定される。
【0040】
「モルト飲料」という用語は、モルト化させたオオムギとモルト化させていないオオムギとの混合物など、場合によって、他の成分と混合したモルトを用いて調製される飲料、好ましくは、モルトを熱湯と共にインキュベートする工程を包含する方法により調製される飲料を指す。モルト飲料は、例えば、ビールまたはモルティナであり得る。
【0041】
「発酵モルト飲料」という用語は、例えば、酵母と共にインキュベートして発酵させたモルト飲料を指す。
【0042】
「MMT活性」という用語は、オオムギのメチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ酵素の酵素活性を指す。本発明の文脈における「MMT活性」とは、SMMをもたらす、Metの硫黄原子におけるMMT触媒のメチル化である。MMT酵素は、他の反応も触媒することが可能であり得るが、本発明によるMMT活性を決定する目的では、SMM形成活性だけを考慮すべきである。図1Bは、メチル化により、MetがSMMへと転換される生化学反応を概観する。
【0043】
「モルト化」とは、モルト化工場のスティープタンクおよび発芽箱内であるが、これらに限定されない、制御された環境条件下で生じる、オオムギ穀粒発芽の特殊な形態である。本発明の工程によれば、モルト化は、オオムギ穀粒がスティーピングされる間および/またはスティーピングされた後で生じ始める。モルト化工程は、例えば、キルン乾燥工程においてオオムギ穀粒を乾燥させることにより、停止させることができる。モルトがキルン乾燥されていない場合は、「グリーンモルト」と称する。MMTヌルのオオムギから調製されたモルト組成物は、純粋のMMTヌルのモルト、またはMMTヌルのモルトを含む任意のモルトブレンドなど、MMTヌルのモルトを含むものと理解される。モルトは、例えば、破砕することにより加工することができ、この場合、モルトはまた、「粉砕モルト」または「粉末モルト」とも称し得る。
【0044】
「マッシング」とは、水中における粉砕モルトのインキュベーションである。マッシングは、所望の形で基質を酵素的に脱重合化することを可能とする特定の温度および特定の水量で実施することが好ましい。温度および水量は、モルトに由来する酵素活性の低下率に影響を及ぼし、このため、とりわけ、生じ得るデンプンの加水分解量に影響を及ぼすので重要である。プロテアーゼ作用もまた重要であり得る。マッシングは、全穀粒として、またはすべてが主に抽出物のさらなる供給源として用いられる粗引き穀物もしくはデンプンなどの加工生成物(ウォート煮沸時にはシロップを投与することが典型的である)としてのオオムギ(MMTヌルのオオムギを含めた)、またはトウモロコシ、またはコメなどであるがこれらに限定されない、モルト以外の任意の炭水化物供給源を含むものと理解される添加物の存在下で行い得る。醸造における添加物を加工するための要件は、用いられる添加物の状態および種類、ならびに、特に、デンプンのゼラチン化温度または液化温度に依存する。該ゼラチン化温度が通常のモルトの糖化温度のためのゼラチン化温度より高温である場合は、マッシュに添加する前に、該デンプンをゼラチン化および液化させる。
【0045】
所与の変異が、例えば、≧M3の世代において、ホモ接合型の遺伝子特徴として固定される場合、本明細書では、対応するオオムギ植物体を、「変異体」または「変異系統」または「系統」と互換的に称する。
【0046】
「変異」には、遺伝子のコード領域および非コード領域内における欠失、挿入、置換、トランスバージョン、および点変異が含まれ、この場合、該非コード領域は、プロモーター領域またはイントロンであることが好ましい。欠失は、全遺伝子の欠失の場合もあり、該遺伝子の一部だけの欠失の場合もある。点変異は、1塩基または1塩基対の変化に関し、その結果として、終止コドン、フレームシフト変異、またはアミノ酸置換をもたらし得る。体細胞変異は、植物体の特定の細胞または組織内だけにおいて生じ、次世代には遺伝しない変異である。生殖細胞系列変異は、植物体の任意の細胞内において見出すことができ、遺伝する。本明細書の図7(この図は、変異したオオムギの穀粒が、育種プログラムにおいて、どのようにして繁殖し得るかについての概要を提示する)を参照すると、M3世代の穀粒、ならびにこれらから直接的に繁殖した穀粒、またはそれらの植物体を含めた、任意の後続世代の穀粒を、「生の変異体」と称することができる。さらに、なおも本明細書の図7を参照すると、「育種系統」という用語は、栽培品種の植物体との異種交配の結果の場合もあり、別個の特異的な形質を有する別の育種系統との異種交配の結果の場合もある、M4世代の穀粒、ならびにこれらの植物体を含めた任意の後続世代を指す。
【0047】
本明細書で用いられる「MMTヌル」という用語は、機能的なメチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ酵素の完全な喪失を指す。したがって、「MMTヌルのオオムギ植物体」とは、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を含むオオムギ植物である。同様に、「MMTヌルの穀粒」とは、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を含む穀粒である、などという。
【0048】
例えば、「オオムギ植物体またはその一部」という語句の意味の範囲内に含まれる、「オオムギ植物体の一部」という用語は、オオムギ植物体の細胞、オオムギ植物体のプロトプラスト、そこからオオムギ植物体が再生され得る植物細胞組織の培養物、オオムギ植物体のカルス、ならびに、胚芽、花粉、胚珠、花、穀粒、葉、根、根端、葯、または植物体の任意の部分など、植物体またはオオムギ植物体の大部分において完全なオオムギ植物体の細胞を包含する。
【0049】
「PCR」または「ポリメラーゼ連鎖反応」は、特定のDNA断片を増幅するのに用いられる技法として、当業者により周知である(Mullis, K.B.らによる米国特許第4,683,195号および同第4,800,159号)。また、逆転写(RT−)PCRも、当業者により周知である。生物学的試料に対するRT−PCRの実施は、特定の遺伝子について、発現したmRNAを検出することを目的とする。MMTとの関連において、RT−PCRは一般に、MMTについてのmRNAを含有することが疑われる試料を得る工程と、逆転写酵素、ポリメラーゼ、および特定のプライマー対により、該試料に対してRT−PCRを実施して、それが存在する場合の該RNAを増幅する工程と、該試料中における、MMTをコードするRNAが存在することの指標としての増幅産物を検出する工程とを包含する。プライマーは、対になって作用する(「フォワードプライマー」(または「アッパーストランドプライマー」もしくは「順方向プライマー」)と、「リバースプライマー」(または「ローワーストランドプライマー」)との対)。本明細書では、プライマー配列を、5’から3’への方向で示す。
【0050】
「植物生成物」という用語は、植物体または植物体の一部を加工する結果として得られる生成物を意味する。例えば、前記植物生成物は、モルト、ウォート、発酵飲料もしくは非発酵飲料、食物生成物、または飼料生成物であり得る。
【0051】
本出願の意味の範囲内における「専門家によるビール試飲パネル」とは、エステル、高度数アルコール、脂肪酸、硫黄成分、およびこくに特別の焦点を当てて、ビールの風味を味わい、説明することにおいて高度に熟練した専門家によるパネルである。風味成分を評価するための分析ツールは多数存在するが、風味活性成分の相対的重要性を分析的に評価することは難しい。しかし、風味の専門家によれば、このような複雑な特性を評価することができる。彼らの持続的な訓練には、特定濃度のビール成分(例えば、酢酸イソアミル、酢酸エチル、ヘキサン酸エチル(ethyl hexanote)、およびイソアミルアルコール)をスパイクした標準的なビール試料の試飲および評価が含まれる。
【0052】
「スプライス部位」という用語は、遺伝子のエクソンとイントロンとの間の境界部位を意味する。したがって、スプライス部位は、エクソンからイントロンへと移行する境界部位(また、「ドナー部位」とも呼ばれる)の場合もあり、イントロンをエクソンから隔てる境界部位(また、「アクセプター部位」とも呼ばれる)の場合もある。植物体におけるスプライス部位は、コンセンサス配列を含むことが典型的である。イントロンの5’端は、一般に、保存的なGTジヌクレオチド(mRNAではGU)からなり、イントロンの3’端は、通常、保存的なAGジヌクレオチドからなる。したがって、イントロンの5’側スプライス部位は、イントロンの5’端を含み、該3’側スプライス部位は、イントロンの3’端を含む。本発明の文脈の範囲内では、イントロンのスプライス部位は、
(i)一般にGTである、該イントロンの大半の5’側ジヌクレオチドからなる、5’側スプライス部位;または
(ii)一般にAGである、該イントロンの大半の3’側ジヌクレオチドからなる、3’側スプライス部位
であることが好ましい。
【0053】
「クリプトスプライス部位」は、通常の条件下では認識されず、したがって、通常はスプライシングを引き起こさない。しかし、天然のエレメント内に点変異を保有する転写物内では、このような部位が活性化されて、スプライシングイベントを引き起こし得る。
【0054】
「組織培養物」とは、種類が同じであるかもしくは異なる単離細胞、または植物体の一部、例えば、プロトプラスト、カルス、胚芽、花粉、葯などへと組織化されたこのような細胞の集合を含む組成物を指す。
【0055】
「野生オオムギ」(Hordeum vulgare ssp. spontaneum)は、今日におけるオオムギの栽培形態の前駆体であると考えられる。野生状態から栽培状態へのオオムギの移行は、「オオムギ在来種」への該植物体の栽培化と符合したと考えられている。これらは、野生オオムギより、新型栽培品種との遺伝子的類縁性がより密接である。
【0056】
「野生型」オオムギという用語は、従来の方法で生成されたオオムギ植物体を指し、該用語は、本発明のオオムギ植物体が由来するオオムギ植物体、すなわち、親植物体を指すことが好ましい。野生型オオムギ穀粒は、一般に、例えば、種子メーカーから、「栽培品種」(「cvs.」と略記することが多い)、すなわち、米国国立の植物育種機関により列挙される遺伝子的に類似の穀粒として市販されている。本明細書では、「栽培品種」および「品種」という用語は、互換的に用いられる。
【0057】
「ウォート」という用語は、モルト、例えば、粉砕モルトもしくはグリーンモルト、または破砕グリーンモルトの液体抽出物を意味する。前記モルトに加えて、該液体抽出物は、モルトと、発酵性の糖へと部分的に転換されるさらなるデンプン含有物質など、さらなる成分とから調製することができる。ウォートは、一般に、マッシングにより得られるが、場合によって、「スパージング」、すなわち、マッシング後において、ビール粕から、残存する糖および他の化合物を熱湯により抽出する工程をその後で実施する。スパージングは、ロイタータン、マッシュフィルター、またはビール粕から抽出される液体の分離を可能とする別の装置内で実施することが典型的である。マッシング後において得られるウォートを、一般に、「一番ウォート」と称するのに対し、スパージング後において得られるウォートを、一般に、「二番ウォート」と称する。指定しない限り、ウォートという用語は、一番ウォートの場合もあり、二番ウォートの場合もあり、両者の組合せの場合もある。ビール生産時には、一般に、ウォートをホップと共に煮沸する。ホップを伴うが煮沸せずに調製したウォートをまた、「スイートウォート」とも称し得るのに対し、ホップを伴うかまたは伴わずに煮沸したウォートは、「煮沸ウォート」と称し得る。
【0058】
オオムギ植物体
オオムギとは、植物の科である。野生オオムギ(Hordeum vulgare ssp. spontaneum)は、今日におけるオオムギの栽培形態の前駆体であると考えられる。野生状態から栽培状態へのオオムギの移行は、多数の遺伝子座における対立遺伝子の根本的な変化の頻度と符合したと考えられている。希少な対立遺伝子、および新規の変異イベントは、「オオムギ在来種」と称する栽培化された植物体集団内において新規の形質を迅速に確立した農耕民により、肯定的に選択された。これらは、野生オオムギより、新型栽培品種との遺伝子的類縁性がより密接である。19世紀後半まで、オオムギ在来種は、早期世代における無作為的な異種交配に由来する少数の植物体を含めた、近交系と交配分離種との高度にヘテロ接合型の混合体として存在した。該在来種の大半は、先進農業において、純粋系統の栽培品種により置き換えられている。中等レベルまたは高レベルの遺伝子的多様性が、残りの在来種を特徴付けている。当初、「新型オオムギ」栽培品種は、在来種からの選択を表していた。これらは後に、地理的起源が多様な純粋系統など、確立された純粋系統間における異種交配の継起的サイクルに由来した。最終的な結果は、多くの、おそらくはすべての先進農業における遺伝的基盤の顕著な狭小化であった。在来種と比較して、新型オオムギ栽培品種は、例えば、
(i)穀粒が皮裸性であること;
(ii)種子の休眠;
(iii)病害耐性;
(iv)環境忍容性(例えば、干ばつまたは土壌pHに対する耐性);
(v)リシンおよび他のアミノ酸の比率;
(vi)タンパク質含量;
(vii)窒素含量;
(viii)炭水化物組成;
(ix)ホルデイン組成
などであるがこれらに限定されない多くの特性が改善されている(Nevo、1992年; von Bothmer、1992年)。
【0059】
本発明の範囲内において、「オオムギ」という用語は、任意のオオムギ植物体を含む。したがって、本発明は、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を保有する、任意のオオムギ植物体に関する。
【0060】
しかし、本発明により用いるのに好ましいオオムギ植物体は、新型オオムギ栽培品種または純粋系統である。本発明により用いられるオオムギ栽培品種は、例えば、Sebastian、Celeste、Tangent、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Harrington、Klages、Manley、Schooner、Stirling、Clipper、Franklin、Alexis、Blenheim、Ariel、Lenka、Maresi、Steffi、Gimpel、Cheri、Krona、Camargue、Chariot、Derkado、Prisma、Union、Beka、Kym、アサヒ5号、KOU A、Swan Hals、カントウナカテゴールド、ハカタ2号、キリン直1号、関東後期品種ゴールド、フジニジョウ、ニューゴールデン、サツキオニジョウ、セイジョウ17号、アカギニジョウ、アズマゴールデン、アマギニジョウ(Amagi Nijpo)、ニシノゴールド、ミサトゴールデン、ハルナニジョウ、Scarlett、Quench、NFC Tipple、およびJerseyからなる群から、好ましくは、ハルナニジョウ、Sebastian、Tangent、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Power、Quench、およびNFC Tippleからなる群から選択することができる。
【0061】
したがって、本発明の一実施形態では、前記植物体が、MMTをコードする遺伝子における、その結果として機能的MMTの完全な喪失をもたらす変異を保有し新型オオムギ栽培品種であり、本明細書の前記で説明したオオムギ栽培品種の群から選択される栽培品種のうちの1つであることが好ましい。したがって、この実施形態では、オオムギ植物体が、オオムギ在来種ではないことが好ましい。
【0062】
オオムギ植物体は、任意の適切な形態であり得る。例えば、本発明によるオオムギ植物体は、生存オオムギ植物体、乾燥植物体、ホモジナイズされた植物体、または破砕オオムギ穀粒であり得る。植物体は、成熟植物体、胚芽、発芽穀粒、モルト化穀粒、粉砕モルト化穀粒などであり得る。
【0063】
オオムギ植物体の一部は、穀粒、胚芽、葉、茎、根、花、またはこれらの断片など、該植物体の任意の適切な部分であり得る。断片は、例えば、穀粒、胚芽、葉、茎、根、または花の切片であり得る。オオムギ植物体の一部はまた、ホモジネートの断片、抽出物の断片、または破砕オオムギ植物体もしくは破砕穀粒の断片でもあり得る。
【0064】
本発明の一実施形態では、オオムギ植物体の一部が、前記オオムギ植物体の細胞、好ましくは、in vitroで、例えば、細胞培養物または組織培養物中で増殖させ得る生細胞であり得る。特に、一実施形態では、前記細胞が、全オオムギ植物体へと成熟することが不可能な細胞、すなわち、生殖材料ではない細胞であり得る。
【0065】
機能的MMT酵素の喪失
本発明は、オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料などの植物生成物であって、前記オオムギ植物体が、MMT遺伝子における、その結果として機能的MMT酵素の喪失、例えば、野生型オオムギにおける対応するレベルと比較して、好ましくは、本明細書の上記で説明した野生型オオムギ栽培品種のうちのいずれかと比較して、より好ましくは、野生型オオムギ栽培品種であるPrestigeと比較して、MMT活性の少なくとも90%の喪失、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%、さらにより好ましくは少なくとも99.5%の喪失をもたらす変異を保有する植物生成物に関する。前記オオムギ植物体は、MMTをコードする遺伝子における、その結果としてMMT機能の完全な喪失をもたらす変異を有する最も好ましい。
【0066】
機能的MMT酵素の完全な喪失は、異なる機構に基づき得る。例えば、機能的MMT酵素の完全な喪失は、前記植物体内において機能不全のタンパク質、すなわち、検出可能な活性を伴わない変異体のMMTタンパク質など、機能不全のMMT酵素から結果としてもたらされ得る。例えば、該変異体のMMTタンパク質は、切断型タンパク質であり得る。MMT活性の喪失は、異なる機構、例えば、機能不全のMMTタンパク質にも同様に基づき得る。
【0067】
変異したMMTタンパク質の活性は、それが、SAMからMetへのメチル基の移動を触媒し、これにより、SMMを形成する能力により決定される。これは、例えば、本明細書下記の実施例4で説明する通りに試みることができる。好ましくは、変異したMMTのアミノ酸配列は、対応する、単離オオムギcDNAの翻訳配列を決定することにより得られる。これは、本質的に、本明細書下記の実施例8で説明する通りに行うことができる。代替的に、本発明のオオムギ植物体の変異したMMTは、本明細書下記の実施例11および実施例12で説明する通り、細菌細胞培養物中における異種発現の後、該組換えタンパク質が、MMT酵素として不活性であることを検証することにより得られる。
【0068】
機能的MMTの完全な喪失は、MMTタンパク質の欠如により実現することができる。MMTタンパク質の欠如は、MMT機能の喪失をもたらす。したがって、オオムギ植物体は、MMTタンパク質を含まない場合もあり、ごくわずかだけ含む場合もあるが、検出可能なMMTタンパク質を含まない場合が好ましい。MMTタンパク質の存在または不在は、当業者に公知の任意の適切な手段により検出することができる。しかし、該タンパク質(複数可)は、MMTタンパク質が、MMTを認識する特異的抗体により検出される技法により解析されることが好ましい。前記技法は、例えば、ウェスタンブロットアッセイの場合もあり、ELISA(酵素結合免疫測定)アッセイの場合もあり、前記特異的抗体は、モノクローナル抗体の場合もあり、ポリクローナル抗体の場合もあり得る。しかし、前記抗体は、MMTタンパク質内における複数の異なるエピトープを認識するポリクローナル抗体であることが好ましい。これはまた、例えば、MMT活性を決定する方法によって間接的に検出することもできる。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、オオムギ植物体内においてMMTタンパク質が検出可能でない場合、前記植物体が、MMTをコードする遺伝子における変異を保有し、このため、MMT活性の完全な喪失を引き起こすという。特に、これは、質量が約120kD(±10%)であるMMTが、前記オオムギ植物体内において検出されない場合(好ましくは、ウェスタンブロット法による解析で、前記オオムギ植物体の穀粒内において検出されない場合)である。
【0069】
機能的MMTの完全な喪失はまた、MMT mRNAの転写が見られない結果の場合もあり、これがごくわずかしか見られない結果の場合もあるが、MMT mRNAの転写が見られない結果であることが好ましい。当業者は、MMT転写物の不在もまた、その結果としてMMTタンパク質の不在をもたらすことを認めるであろう。
【0070】
しかし、機能的MMTの完全な喪失は、異常なMMT転写物が発現する結果であることが好ましい。前記転写物は、例えば、スプライス部位における変異に起因する、好ましくは、一次転写物のスプライスイベントの異常により引き起こされ得る。MMTをコードする転写物の発現は、例えば、ノーザンブロット法により検出することもでき、RT−PCR法により検出することもできる。
【0071】
本発明のオオムギ植物体における機能的MMTの完全な喪失は、1または複数の変異により引き起こされる。したがって、本発明のオオムギ植物体は、一般に、MMT遺伝子における少なくとも1つの変異を保有する。前記変異(複数可)は、制御領域内、例えば、プロモーター内またはイントロン内の場合もあり、タンパク質コード領域内の場合もある。したがって、機能的MMTの喪失はまた、MMTをコードする遺伝子内の変異について解析することによっても検出することができる。MMTをコードする遺伝子内の変異は、例えば、前記遺伝子を配列決定した後で、それを野生型配列、好ましくは、本明細書で配列番号3として与えられる栽培品種Prestigeの野生型配列、または栽培品種Sebastian(配列番号16)の野生型配列と比較することにより検出することができる。変異を同定した後で、例えば、実施例2または実施例4で説明する通り、MMT活性について調べることにより、機能の喪失を確認することが好ましい。
【0072】
MMTタンパク質という用語は、配列番号6で示されるオオムギの全長MMTタンパク質またはその機能的相同体を対象とすることを意図する。この文脈で、機能的相同体とは、配列番号6で示されるオオムギのMMTタンパク質のMMT活性と同じレベルのMMT活性(±25%)を有するMMTタンパク質であり、該MMT活性は、本明細書下記の実施例2または実施例4で説明する通りに決定される。
【0073】
95%など、少なくとも90%、99.5%など、例えば、99%のMMT活性を喪失したか、またはMMT活性を完全に喪失したオオムギ植物体は、N末端切断形態またはC末端切断形態など、部分的に機能的であるか、または好ましくは非機能的なMMTの切断形態を含み得る。オオムギ植物体は、異常な形でスプライスされた転写物から結果として得られる、MMTの2つの、または例えば3つの、または3つを超える異なる切断形態など、MMTの複数の切断形態を含み得る。前記切断形態は、MMTのN末端断片だけを含む。野生型MMTのN末端断片に加えて、前記MMTの切断形態は、野生型MMTには見出されない、さらなるC末端配列も含み得る。前記さらなるC末端配列は、例えば、スプライシングの異常に起因する、変異体のmRNA内に含まれるイントロン配列などの翻訳されたイントロン配列であり得る。前記切断MMT形態は、配列番号6の最大で500、より好ましくは最大で450、なおより好ましくは最大で400、さらにより好ましくは最大で350、なおより好ましくは最大で320、さらにより好ましくは最大で311、または最大で288のN末端アミノ酸残基を含むことが好ましい。これは、特に、前記オオムギ植物体が、MMT活性を完全に喪失している場合である。しかし、MMTはまた、配列番号6の300以下、例えば、250以下など、200以下、例えば、最大で150、例えば、147以下、または133以下など、より少ないN末端アミノ酸も含み得る。
【0074】
極めて好ましい一実施形態では、切断MMT形態が、配列番号6のアミノ酸1〜311、またはアミノ酸1〜288と、場合によって、野生型MMTには存在しないさらなるC末端配列とからなる場合がある。前記さらなるC末端配列は、最大で50アミノ酸からなることが好ましく、より好ましくは最大で30アミノ酸、なおより好ましくは最大で10アミノ酸、さらにより好ましくは最大で4アミノ酸、または最大で1アミノ酸からなる。極めて好ましい実施形態では、MMTの切断形態が、配列番号11によるタンパク質の場合もあり、配列番号13によるタンパク質の場合もあり、配列番号15によるタンパク質の場合もある。配列番号11、または配列番号13、または配列番号15のタンパク質のうちのいずれもが、機能的なMMT酵素ではない。
【0075】
極めて好ましい別の実施形態では、切断MMT形態が、配列番号18のアミノ酸1〜147、またはアミノ酸1〜133と、場合によって、野生型MMTには存在しないさらなるC末端配列とからなる場合がある。前記さらなるC末端配列は、最大で50アミノ酸からなることが好ましく、より好ましくは最大で40アミノ酸、なおより好ましくは最大で39アミノ酸、または最大で33アミノ酸、または最大で30アミノ酸からなる。極めて好ましい実施形態では、MMTの切断形態が、配列番号22によるタンパク質の場合もあり、配列番号24によるタンパク質の場合もあり、配列番号26によるタンパク質の場合もある。配列番号22、または配列番号24、または配列番号26のタンパク質のうちのいずれもが、機能的なMMT酵素ではない。
【0076】
上述のMMTの切断形態は、例えば、MMTをコードする遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体内に存在し、前記変異により未熟終止コドンが導入され、その結果、上述のMMTの切断形態をコードする遺伝子がもたらされ得る。
【0077】
本発明の好ましい実施形態では、オオムギ植物体が、介在配列なしに併せてスプライスされる野生型MMT遺伝子(オオムギの野生型MMTのイントロン−エクソン構造を図9に示す)のうちの全部ではないが一部を含むmRNAへと転写される遺伝子を含む。したがって、一実施形態では、本発明によるオオムギ植物体のMMT mRNAが、介在配列なしに併せてスプライスされるエクソン1、2、3、4、および5を最大で含むか、または例えば、介在配列なしで併せてスプライスされるエクソン1および2を最大で含む。前記併せてスプライスされるエクソンに加え、本発明によるオオムギ植物体のMMT mRNAは、野生型のイントロンおよび/またはエクソンに由来する、さらなる3’末端配列を含む場合があり、ここで、エクソン配列はイントロンにより隔てられている。本発明によるオオムギ植物体の異常なMMT mRNAの好ましい例(RT−PCRにより決定され、したがって、bp単位の断片長を有する)を、図12および図16に示す。本発明によるオオムギ植物体の異常な mRNAは、5’端においてエクソン1および2をさらに含む、図12で示されるmRNA、または5’端においてエクソン1をさらに含む、図16で示されるmRNAであることがより好ましい。
【0078】
本発明の極めて好ましい実施形態では、MMT遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体が、MMT遺伝子内のスプライス部位において変異を含み、その結果異常な形でスプライスされるmRNAをもたらす。前記変異は、MMT遺伝子のイントロン内に位置することがより好ましく、イントロン1(該イントロンは、エクソン1および2を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン2(該イントロンは、エクソン2および3を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン3(該イントロンは、エクソン3および4を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン4(該イントロンは、エクソン4および5を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン5(該イントロンは、エクソン5および6を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロン6(該イントロンは、エクソン6および7を隔てる)上における5’側のスプライス部位など、イントロンの5’側のスプライス部位内に位置することがなおより好ましく、イントロン2またはイントロン5の5’側のスプライス部位内に位置することが最も好ましい。
【0079】
前記変異は、前述のイントロンの5’末端塩基のG→A変異であることが好ましい。したがって、極めて好ましい変異は、イントロン2の5’末端塩基のG→A変異、またはイントロン5の最も5’側の塩基のG→A変異である。
【0080】
本発明によるオオムギ植物体は、当業者に公知の任意の適切な方法により、好ましくは、本明細書下記の節「機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体の調製」で概観される方法により調製することができる。
【0081】
本発明の一実施形態では、本発明による、MMT活性を完全に喪失させたオオムギ植物体が、野生型オオムギと同等の、生理学的および発生学的な穀粒特徴および植物体特徴を有することが好ましい。よって、本明細書では、MMTヌルのオオムギ植物体が、草高、植物体1体当たりのひこばえ数、開花の開始、および/または1穂当たりの穀粒数など、農業的に重要な特徴に関して、野生型オオムギと同様であることが好ましい。
【0082】
極めて好ましい実施形態では、本発明によるオオムギ植物体のMMTをコードする遺伝子が、配列番号8に示される配列を有する。したがって、本発明によるオオムギ植物体は、配列番号3(ここで、配列番号3とは、栽培品種PrestigeであるオオムギのMMTの野生型ゲノム配列である)の塩基番号3076のG→A変異を保有することが好ましい。
【0083】
MMT活性を完全に喪失させたオオムギ植物体の好ましい一例は、2008年10月13日にAmerican Type Culture Collection (ATCC), Patent Depository, 10801 University Blvd., Manassas, VA 20110, United Statesに寄託され、「オオムギ(Hordeum vulgare):8063系統」と称するオオムギ植物体である。したがって、本発明のオオムギ植物体は、2008年10月13日にATCCに寄託されたオオムギ8063系統(ATCC特許受託番号:PTA−9543)、またはその任意の前駆体であるオオムギ植物体であり、本発明によるオオムギ植物体のMMTをコードする遺伝子は、配列番号8に示される配列を有する。
【0084】
極めて好ましい実施形態では、本発明によるオオムギ植物体のMMTをコードする遺伝子が、配列番号19に示される配列を有する。したがって、本発明によるオオムギ植物体は、配列番号16(ここで、配列番号16とは、栽培品種SebastianであるオオムギのMMTの野生型ゲノム配列である)の塩基番号1462のG→A変異を保有することが好ましい。
【0085】
機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体の調製
本発明による機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体は、当業者に公知の任意の適切な方法により調製することができる。本発明のオオムギ植物体は、オオムギ植物体(またはその一部、例えば、オオムギ穀粒)を変異させる工程の後で、オオムギ植物体を、MMT活性を完全に喪失させた個体についてスクリーニングおよび選択する工程を含む方法により調製する。興味深いことに、一態様では、本発明が、前記オオムギ植物体の同定を可能とする、新規で極めて有効なスクリーニング法に関する。
【0086】
したがって、MMT遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を調製する方法を提供することが本発明の目的である。前記方法は、
(i)オオムギ植物体、および/またはオオムギ細胞、および/またはオオムギ組織、および/またはオオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得る工程と;
(ii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり繁殖させ、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得る工程と;
(iii)前記Mx世代のオオムギ植物体から試料を得る工程と;
(iv)前記試料中におけるSMMレベルを決定する工程と;
(v)試料が10ppb未満のSMM、好ましくは5ppb未満のSMMを含み、より好ましくは検出可能なSMMを含まない植物体を選択する工程と;
(vi)MMT遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程と;
(vii)MMT遺伝子における変異を保有する植物体を選択する工程と
を含み、これらにより、MMT遺伝子における、機能的MMTの完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を得る。
【0087】
上記列挙における工程(i)は、オオムギ植物体、オオムギ細胞、オオムギ組織、オオムギ穀粒、およびオオムギ胚芽からなる群から選択され、好ましくは、オオムギ植物体、オオムギ穀粒、およびオオムギ胚芽からなる群から選択される生存オオムギ物質、より好ましくは、オオムギ穀粒を変異誘発する工程を伴い得る。変異誘発は、任意の適切な方法により実施することができる。一実施形態では、オオムギ植物体またはその一部(例えば、オオムギ穀粒またはオオムギに由来する個々の細胞)を、変異誘発剤と共にインキュベートすることにより、変異誘発を実施する。このような薬剤は当業者に公知であり、例えば、アジドナトリウム(NaN3)、メタンスルホン酸エチル(EMS)、アジドグリセロール(AG)、メチルニトロソウレア(MNU)、およびマレインヒドラジド(MH)からなる群から選択することができる。
【0088】
別の実施形態では、例えば、オオムギ植物体または穀粒などその一部を紫外線で照射することにより、変異誘発を実施する。本発明の好ましい実施形態では、本明細書下記の節「化学的変異誘発」において概観される方法のうちのいずれかにより、変異誘発を実施する。適切な変異誘発プロトコールの非限定的な例は、Breddam, K.らによる米国特許第7,420,105号の他、本明細書下記の実施例2においても与えられている。
【0089】
変異誘発は、M3世代のオオムギをスクリーニングするとき、所望の変異体の予測頻度が、穀粒10,000個当たり0.5〜5個の範囲内など、少なくとも0.5個、例えば、0.9〜2.3個の範囲内であるように実施することが好ましい。
【0090】
好ましい実施形態では、オオムギ穀粒を変異誘発する。これらを、M0世代と称する(また、図7も参照されたい)。
【0091】
変異誘発の後、検出可能なMMT活性を示さないオオムギ植物体またはその一部を選択する。選択は、試料をオオムギ植物体から、好ましくは、発芽しつつあるオオムギ植物体から、なおより好ましくは、発芽以来4日間が経過したオオムギ植物体から得る工程を含む。試料は、子葉鞘および/または初生葉に由来することが好ましく、好ましくは葉に由来する。したがって、試料は、例えば、葉組織の1cm〜3cmの範囲内であり得る。
【0092】
試料は、異なる溶媒および結合物質の継起的な使用を伴う、本明細書で説明される、新規に開発されたマルチ工程のプロトコールに従い、抽出および解析することができる。一般に、試料は、例えば、溶媒または溶媒の混合物、好ましくは、水および/または有機溶媒により抽出することができる。有機溶媒は、例えば、アルコール、好ましくはメタノールであり得る(または、有機溶媒は、例えば、ハロゲン化アルキル、好ましくはクロロホルムであり得る)。好ましい一実施形態では、溶媒が、水、メタノール、およびクロロホルムの混合物である。前記抽出は、例えば、シェーカーまたはミキサーを用いて混合しながら実施すると有利であり得る。該溶媒/試料混合物には、固体支持体(例えば、ガラスビーズなどのビーズ)を添加することができる。
【0093】
好ましい実施形態では、前述の葉試料を、Mx(ここで、xは、≧2の整数、好ましくは、2〜10の範囲内の整数、より好ましくは、3〜8の範囲内の整数である)世代の穀粒から採取する。極めて好ましい実施形態では、M3世代の発芽植物体またはその試料(葉など)中において、SMMレベルを決定する。前記実施形態では、変異誘発したM0世代のオオムギ穀粒を成長させてオオムギ植物体を得、その後、これを異種交配させてM1世代の穀粒を得ることが好ましい。M3世代の穀粒が得られるまで、この手順を反復する(図7を参照されたい)。
【0094】
SMMレベルの決定は、下記で説明される新規の手順に基づくことが好ましい。興味深いことに、この方法は、ハイスループットのスクリーニングを可能とし、これにより、機能的MMTの完全な喪失を特徴とするオオムギ植物体の同定が実行可能となる。
【0095】
一般的に述べると、該方法は、試料、または好ましくは、上記で説明された通りに調製された前記試料の抽出物を、SMMに結合することが可能な化合物と反応させる工程を伴う。本明細書の下記ではOPAとだけ称するOPA試薬(Sigma社製、型番P7914;図2を参照されたい)が、SMMレベルを決定するのに特に有用であることが判明した。OPAは、とりわけ、SMMと反応して、SMM−OPAと称する分子を形成する(図2を参照されたい)。反応は、OPAを、上記で説明した通りに調製された試料の抽出物と共にインキュベートする工程を伴うことが好ましい。加えて、該反応混合物に、3−メルカプト−プロピオン酸を添加することが好ましい。混合物は、アルカリ性のpH、好ましくはpH8〜pH11の範囲内、より好ましくはpH9〜pH11の範囲内、なおより好ましくは、pH10など、pH9.5〜pH10.5の範囲内に保つことが好ましい。インキュベーションは、0℃〜10℃の範囲内、好ましくは1℃〜8℃の範囲内、なおより好ましくは2℃〜6℃の範囲内、さらにより好ましくは、4℃など、3℃〜5℃の範囲内にある温度で実施することが好ましい。インキュベーション時間は、≧10分間であることが好ましい。
【0096】
SMM−OPAが、それぞれ、340nmおよび450nmの光を吸光および発光するという観察に基づき、蛍光分光分析を用いることにより、その検出が可能となった。検出の初期過程は、カラムにより、好ましくは、30×2mmのGemini 3μ C18カラム(Phenomenex社製、型番00A−4439−80; Phenomenex社、2006年)上において抽出物を分離した後で、ハイスループットの液体クロマトグラフィーシステム、好ましくは、340nmの励起波長および450nmの発光波長を有する分子の蛍光レベルを同定および測定するようにデザインされた、Ultra Performance液体クロマトグラフィー(Waters社製、UPLCシステム)を用いる蛍光の検出を伴うことが好ましい。この方法を用いる場合、「検出可能なSMMは見られない」とは、SMMと共に共溶出する検出可能な化合物が不在であることを意味する。この文脈において、クロマトグラムピークにおける小さな「肩」は、アーチファクトのピークであること考えられる。したがって、Asn/Serピークの右側における小さな肩(図3を参照されたい)は、SMMピークを表すとは考えられない。したがって、例を目的として述べると、図3Bに示される上方の2つのクロマトグラムが、「検出可能なSMMは見られない」を示すと考えられるのに対し、前記図中下方のクロマトグラムは、SMMを含む試料の分離を表す。
【0097】
SMMの検出は、実施例2で説明する通りに行うことが好ましい。本発明によるオオムギ植物体、発芽しつつあるオオムギ植物体、なおより好ましくは、発芽以来4日間が経過したオオムギ植物体を選択するのに好ましい方法は、本明細書下記の実施例2で説明する。上述のスクリーニング法が特に有用であることは、注目に値する。何よりもまず、該解析法は新規である。さらに、それが、発芽しつつあるオオムギ植物体の葉など、発芽しつつあるオオムギ植物体内におけるSMMレベルを決定するために確立されていることは、上記の方法の顕著な利点である。発芽しつつあるオオムギから試料採取するタイミングにより、UPLCベースでSMMを検出するための、予測外に清明な調製物が作製される。他の試料、例えば、上記で説明した同様の穀粒によるウォート試料は、組成が複雑に過ぎ、一般に、SMMレベルを決定するための、言及されたクロマトグラフィー法で用いることはできない。
【0098】
SMMが10ppb未満であり、好ましくは、検出可能なSMMを有さないオオムギ植物体を同定した後で、対応するMMT遺伝子またはその一部を配列決定して、問題のオオムギ植物体が、該MMT遺伝子における変異を有するものとして分類され得るかどうかを決定することが典型的である。次いで、検出可能なSMMを有さないことを特徴とし、MMTをコードする遺伝子のうちの1または複数の塩基が野生型配列と比較して異なるオオムギ植物体を選択する。この文脈で、野生型配列とは、対応する野生型オオムギ栽培種内で見出される配列であることが好ましく、本明細書で配列番号3として示される配列であることが好ましい。好ましい変異は、本明細書の上記で説明されている。
【0099】
選択されたオオムギの変異体をさらに繁殖させ、後続世代の植物体を、SMM含量について再スクリーニングすることができる。有用なオオムギ植物体を選択した後で、これらを、本明細書下記の節「植物体の育種」で説明される従来の方法を用いる育種プログラムに組み入れることができる。
【0100】
植物生成物
一態様では本発明が、オオムギ植物体またはその一部から調製される、DMSレベルの低い飲料または他の植物生成物であって、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有する飲料または他の植物生成物に関する。興味深いことに、このような植物生成物は、一般に、含むDMSレベルが極めて低い。さらに、このような植物生成物はまた、一般に、含むSMMレベルも極めて低く、また、好ましくは、DMSOレベルも極めて低い。理論に拘束されることなく述べると、本出願者らは、オオムギおよびモルトに由来するSMMが不在である結果として、飲料中おいて、また、機能的MMT酵素の喪失を特徴とする前記オオムギから調製された他の植物生成物中においても、DMSレベルが極めて低くなることを認識する。MMT活性を完全に喪失させたオオムギ植物体から調製した飲料など、有用な植物生成物の例については、本明細書の下記で説明する。
【0101】
前記飲料、または前記植物生成物は、それぞれ野生型オオムギ植物体から調製された同様の飲料または植物生成物のDMS含量およびSMM含量の
(i)30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、なおより好ましくは10%未満のDMS;および/または
(ii)30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、なおより好ましくは、5%未満、例えば、2%未満など、10%未満のSMM
を含有することが好ましい。
【0102】
前記飲料、または前記植物生成物は、
(i)30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、さらにより好ましくは、検出可能なDMSを含有せず;かつ/または
(ii)50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含有し、さらにより好ましくは検出可能なSMMを含有しない
ことが好ましい。
【0103】
加えて、植物生成物は、野生型オオムギ植物体から調製された同様の飲料または植物生成物のDMSO含量の30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、なおより好ましくは10%未満のDMSO含量を含むことが好ましい。
【0104】
一態様では、本発明による植物生成物が、機能的MMTの完全な喪失を結果としてもたらす変異を保有するオオムギ穀粒であり得る。植物生成物はまた、前記穀粒を含む組成物、ならびに前記穀粒から調製される組成物の他、前記穀粒から調製される他の植物生成物でもあり得る。
【0105】
一態様では、本発明による植物生成物は、MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体の穀粒をモルト化することにより調製されるモルト組成物である。「モルト化」という用語により、制御された環境条件下で生じる、スティーピングされたオオムギ穀粒の発芽(例えば、図8に示す)が理解されるものとする。
【0106】
モルト化とは、オオムギ穀粒を制御された形でスティーピングし、発芽させた後で、これを乾燥させる(好ましくは、キルン乾燥させる)工程である。乾燥させる前の、スティーピングされて発芽したオオムギ穀粒を「グリーンモルト」と称するが、これもまた、本発明による植物生成物であり得る。このイベントの連鎖は、主に、死滅した内胚乳細胞壁を脱重合化させ、穀粒の栄養物質を移動させるのに用いられる過程において、穀粒の改変を引き起こす多数の酵素を合成するのに重要である。乾燥させる工程では、化学反応の結果として、風味および色(例えば、褐色)が生成される。モルトは主に、飲料を生産するのに用いられるが、それはまた、例えば、製パン業における酵素供給源として、またはモルトもしくは粉末モルトなど、食物産業における芳香剤および着色剤として、あるいは間接的に、モルトシロップなどとして、他の産業工程でも用いることができる。
【0107】
一態様では、本発明が、前記モルト組成物を生成させる方法に関する。該方法は、
(i)MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体に由来するオオムギ穀粒を供給する工程と;
(ii)前記穀粒をスティーピングする工程と;
(iii)該スティーピングされた穀粒を、所定の条件下で発芽させる工程と;
(iv)前記発芽した穀粒を乾燥させる工程と
を含み、これらにより、SMMおよび/またはDMSレベルの低いモルト組成物を生成させる。例えば、モルトは、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)により説明される方法のうちのいずれかにより生成させることができる。
【0108】
しかし、モルトを焙煎する方法などが含まれるがこれらに限定されない、特殊モルトを生成させるための方法など、モルトを生成させるのに適する他の任意の方法もまた用いることができる。
【0109】
興味深いことに、DMSは、沸点が37℃〜38℃のかなり揮発性の化合物であり(Imashuku、前出)、モルト生成時、例えば、キルン乾燥時において、該組成物は、一般に、実質量のDMSが蒸発してしまうような熱にかけられる。しかし、通常のモルト組成物の冷却時には、DMS前駆体(DMSP)からより多くのDMSが生成される可能性がある。本発明の主要な1つの利点は、モルト組成物中において、DMSが生成されないか、または生成されるDMSが極めてわずかであるに過ぎないことである(実施例6;図5Aを参照されたい)。
【0110】
モルト中におけるDMS濃度を低下させる方法が説明されている。これらの方法の多くは、モルトの熱処理に依拠する。前記熱処理は、単に、例えば、キルン乾燥時においてモルトを加熱して、蒸気を適用することにより遊離DMSを蒸発させることであり得る。こうして、モルトの蒸気処理は、モルト中における遊離DMSレベルを低下させ得る。しかし、これらの方法は、主に、モルト中における遊離DMSレベルは低下させるが、SMMレベルに及ぼす影響は、より低い程度であるに過ぎない。上記で言及した通り、モルト組成物など、本発明の植物生成物は、それが含むDMSおよびSMMがいずれも低レベルであることが好ましい。本発明の一実施形態では、本発明のモルト組成物を、蒸気により遊離DMSを蒸発させて除去することを伴う処理にかける程度が限定的であるに過ぎないか、または代替的に、キルン乾燥時において蒸気を用いて遊離DMSを蒸発させて除去することを伴う処理にかけることがない。
【0111】
本発明の一実施形態では、本発明によるモルトが、臭素酸カリウムまたは臭素酸カルシウムなどの臭素酸塩により処理されていないことが好ましい。
【0112】
モルトは、例えば、破砕し、これにより粉砕モルトを得ることにより、さらに加工することができる。したがって、本発明による植物生成物は、未加工モルト、または粉砕モルト、もしくはその粉末など、任意の種類のモルトであり得る。粉砕モルトおよびその粉末は、再発芽する能力を欠く死滅細胞を含めた、モルトの化学成分を含む。
【0113】
本発明のモルト組成物は、最大で3μg/g、好ましくは最大で2μg/g、より好ましくは最大で1μg/g、なおより好ましくは、最大で0.2μg/gなど、最大で0.5μg/gの遊離DMSを含むことが好ましい。加えて、本発明のモルト組成物は、最大で2μg/g、好ましくは最大で1μg/g、より好ましくは最大で0.5μg/gのSMMを含むことが好ましい。
【0114】
好ましい態様では、本発明は、最大で200ppb、好ましくは最大で150ppb、より好ましくは最大で100ppb、なおより好ましくは、最大で25ppbなど、最大で50ppbの遊離DMSを含むモルト組成物を提供する。加えて、好ましくは、本発明のモルト組成物は、最大で1000ppb、好ましくは最大で500ppb、より好ましくは最大で250ppb、なおより好ましくは最大で100ppb、さらにより好ましくは最大で50ppbのSMMを含むことが好ましい。また、本発明のモルト組成物は、最大で1000ppb、好ましくは最大で500ppb、より好ましくは最大で100ppb、さらにより好ましくは最大で50ppbのDMSPを含むことも好ましい。
【0115】
別の態様では、本発明は、最大で5000ppb、より好ましくは最大で2500ppb、さらにより好ましくは最大で1000ppb、なおより好ましくは最大で500ppb、さらにより好ましくは最大で250ppb、例えば、最大で150ppbのDMSPを含むグリーンモルト組成物に関する。また、前記グリーンモルト組成物は、最大で200ppb、好ましくは最大で150ppb、より好ましくは最大で100ppb、なおより好ましくは、最大で25ppbなど、最大で50ppbの遊離DMSを含むことも好ましい。
【0116】
別の態様では、本発明による植物生成物が、オオムギシロップまたはオオムギモルトシロップなどのシロップである。植物生成物はまた、オオオムギまたはモルトの抽出物でもあり得る。
【0117】
別の態様では、本発明による植物生成物が、MMT遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ穀粒に由来するモルト組成物から調製されるウォート組成物である(実施例6;図5Bを参照されたい)。前記ウォートは、MMTヌルの穀粒だけから調製することもでき、他の穀粒も含む混合物から調製することもできる。本発明はまた、単独で、または他の成分と混合されたMMTヌルのオオムギまたはその一部を用いて調製されるウォート組成物にも関する。前記ウォート組成物は、一番ウォート、および/または二番ウォート、および/またはさらなるウォートであり得る。ウォート組成物は、スイートウォートの場合もあり、煮沸ウォートの場合もあり、これらの混合物の場合もある。一般に、ウォート組成物は、高レベルのアミノ窒素と、発酵性炭水化物とを含有し、後者は主にマルトースである。図8に、モルトからウォートを調製する一般的な方法を示す。一般に、ウォートは、マッシング工程において、モルトを水と共にインキュベートすることにより調製する。マッシング時において、モルト/水組成物には、炭水化物に富むさらなる組成物、例えば、オオムギ添加物、トウモロコシ添加物、またはコメ添加物を補充することができる。モルト化していない穀類添加物は一般に、含有する酵素レベルが極めて低いことが公知であり、このため、糖転換および/または遊離アミノ窒素の生成を含めた抽出物の生成には、モルトまたは外因性酵素の補充が必要となる。
【0118】
本発明の一実施形態では、植物生成物が、モルト化させていないオオムギであり、これは、例えば、マッシング時における添加物として有用であり得る。
【0119】
一般に、ウォート生成工程における最初の工程は、水が、マッシング相にある穀粒粒子に到達し得るように、モルトを破砕する工程である(これは、酵素により基質を脱重合化するモルト化工程の拡張であると考えることができる)。マッシング時には、粉砕モルトを、水などの液体と共にインキュベートする。インキュベーション温度は、一定に保つ(等温マッシング)か、または段階的に上昇させる。好ましい実施形態では、初期のマッシング温度が70℃を超えず、好ましくは69℃を超えず、したがって、例えば、初期のマッシング温度が、55℃〜69℃の範囲内、例えば、55℃〜65℃の範囲内など、50℃〜69℃の範囲内であり得る。初期のマッシング温度が高すぎると、マッシュ中における酵素活性に影響が及び、所望の酵素活性を低下させるか、さらにまたは無化する可能性があり、この結果、ウォートの品質が変化する。いずれの場合も、モルト化およびマッシングにおいて生成される可溶性物質は、前記液体画分中に放出される。その後の濾過により、ウォートの液体と、残留する固体粒子との分離がなされ、後者を、ビール粕と称する。前記ウォートはまた、「一番ウォート」とも称する。濾過後、熱湯でスパージングすることにより、「二番ウォート」を得ることができる。ウォートを調製するのに適する手順の非限定的な例は、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)により説明されている。
【0120】
一番ウォート、二番ウォート、およびさらなるウォートを混合し、その後、煮沸にかけることができる。純粋の一番ウォートであれ、混合ウォートであれ、煮沸されていないウォートをまた「スイートウォート」とも称するのに対し、煮沸後のウォートは、「煮沸ウォート」と称する。ウォートをビールの生産に用いる場合、煮沸前にホップを添加することが多い。
【0121】
ウォート組成物はまた、モルト化させていないMMTヌルの植物体またはその一部など、MMTヌルのオオムギ植物体またはその一部を、酵素組成物または酵素混合物による組成物、例えば、UltrafloまたはCereflo(Novozymes社製)など、1または複数の適切な酵素と共にインキュベートすることによっても調製することができる。ウォート組成物はまた、モルトと、モルト化させていないオオムギ植物体またはその一部との混合物、またはモルト化させていないオオムギだけを用いて調製することもでき、場合によって、前記調製時において、1または複数の適切な酵素、特に、アミラーゼ、グルカナーゼ(好ましくは、(1−4)−グルカナーゼおよび/または(1−3,1−4)−β−グルカナーゼ)、および/もしくはキシラナーゼ(アラビノキシラナーゼなど)、および/もしくはプロテアーゼ、または前述の酵素のうちの1または複数を含む酵素混合物を添加して、例えば、酵素混合物であるOndea Pro(Novozymes社製)を添加して調製することもできる。
【0122】
本発明のオオムギは、モルトマッシュに添加して、添加物として用いることができる。より具体的に述べると、本発明のオオムギは、オオムギ:モルト=100:0、または75:25、または50:50、または25:75などであるがこれらに限定されない、外部の醸造用酵素を伴うかまたは伴わずに、モルトと併せた任意の組合せでマッシングに用いることができる。
【0123】
従来の醸造法では、ウォートを長時間にわたり、一般には、60分間〜120分間の範囲で煮沸するが、その1つの理由は、長時間の煮沸により、揮発性であるDMSの量が低減されることである。しかし、長時間の煮沸は、他の多くの理由のため、例えば、それが顕著なエネルギー供給を必要とするために望ましくない。加えて、前記煮沸は、ストレッカーアルデヒドの望ましくない異臭を生成させ得る。本発明により、長時間の煮沸を行わなくても、MMTヌルのオオムギから、DMSレベルの低いウォートを生成させることができる。したがって、本発明の好ましい実施形態によるウォートの煮沸時間は、最長で45分間、なおより好ましくは最長で30分間、例えば、最長で15分間である。ウォートを長時間にわたり煮沸しても、時間が経過すると、DMSがDMSPからやはり生成され得ることは注目に値する。興味深いことに、本発明によるウォートは、通常のウォートを煮沸させた後で得られるDMSレベルより実質的に低い、低DMSレベルを維持する。
【0124】
本発明のさらなる実施形態では、ウォートの煮沸後で、かつ発酵前において、ウォートを二酸化炭素による洗浄にかけないことが好ましい。
【0125】
本発明のウォート組成物は、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは、15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含み、さらにより好ましくは検出可能なDMSを含まない、かつ/または50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満の、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含み、なおより好ましくは検出可能なSMMを含まないことが好ましい。
【0126】
本発明の植物生成物またはその一部はまた、MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を含む、食物組成物、飼料組成物、および香料の原料組成物でもあり得る。食物組成物は、例えば、モルト化させたオオムギ穀粒およびモルト化させていないオオムギ穀粒、オオムギ粉末、パン、ポリッジ、オオムギを含む穀類混合物、オオムギを含む飲料などの健康製品、オオムギシロップ、およびフレーク状オオムギ組成物、破砕オオムギ組成物、または押出し成形したオオムギ組成物であり得るがこれらに限定されない。飼料組成物には、例えば、オオムギ穀粒および/またはオオムギ粉末を含む組成物が含まれる。香料の原料組成物については、本明細書の下記で説明する。
【0127】
本発明はまた、本明細書で説明される植物生成物の混合物にも関する。例えば、一態様では本発明が、
(i)MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体またはその一部を含む組成物と;
(ii)MMTヌルの穀粒から調製されるモルト組成物と
の混合物により調製される組成物に関する。
【0128】
好ましい態様では、本発明が、飲料、より好ましくはモルト由来の飲料、なおより好ましくは、含有するDMSレベルが低いビールなどのアルコール飲料に関し、前記飲料は、MMTヌルのオオムギまたはその一部を用いて調製される。
【0129】
したがって、好ましい態様では、本発明は、飲料、より好ましくはモルト由来の飲料、なおより好ましくは、ビールなどのアルコール飲料に関し、前記飲料またはビールは、
(i)30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDSMを含有し、さらにより好ましくは、検出可能なDSMを含有せず;かつ/または
(ii)50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含有し、さらにより好ましくは検出可能なSMMを含有しない。
【0130】
飲料は、MMTヌルのオオムギ(またはその一部、またはその抽出物)を発酵させることにより、例えば、MMTヌルのオオムギから生成させたモルトを、単独で、または他の成分と組み合わせて用いて生成させたウォートを発酵させることにより調製することが好ましい。
【0131】
しかし、本発明の他の実施形態では、飲料が、非発酵飲料、例えば、ウォート、好ましくは、MMTヌルのモルトから調製したウォートである。前記飲料を、モルト化させていないオオムギ植物体またはその一部から、好ましくは、モルト化させていないMMTヌルのオオムギ植物体またはその一部から調製し得ることもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0132】
飲料は、非アルコール性ビール、またはモルティナなどの非アルコール性モルト飲料など、他の種類の非アルコール性飲料などの非アルコール性飲料であり得る。
【0133】
しかし、前記飲料は、MMTヌルのオオムギ穀粒を含むモルト組成物から調製することが好ましい。前記飲料は、ビールであることがより好ましい。これは、当業者に公知の任意の種類のビールであり得る。一実施形態では、ビールが、例えば、ラガービールである。ビールは、発芽したMMTヌルのオオムギを含むモルト組成物を用いて醸造することが好ましい。しかし、モルト組成物はまた、例えば、野生型オオムギ、コムギ、および/もしくはライムギ、または、シロップ組成物を含め、モルト化させた原料もしくはモルト化させていない原料に由来する糖もしくは組成物を含む、発芽させていない原料も含み得る。
【0134】
時間が経過すると、SMMを含めたDMSPから、DMSが発生し得ると一般に考えられる。したがって、飲料中に当初DMSが存在しないか、または存在するDMSが極めて少量であっても、時間が経過するにつれてDMSは蓄積し得る。しかし、(保存後であっても)含有するDMSが少量であるか、またはDMSを含有しない飲料を提供することが、本発明の目的である。
【0135】
したがって、本発明の目的は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、より好ましくは少なくとも3週間、なおより好ましくは、1カ月〜3カ月の範囲内、例えば、6カ月〜12カ月の範囲内など、3カ月〜6カ月の範囲内など、少なくとも4週間にわたる保存の後に、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは、15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDSMを含有し、さらにより好ましくは検出可能なDSMを含有しないビールなど、オオムギ植物体に由来する飲料を提供することである。保存は、15℃〜40℃の範囲内など、5℃〜40℃の範囲内にある温度で実施する。
【0136】
さらに、本発明による飲料は、優れた風味特性を特徴とすることが好ましい。特に、本発明による飲料は、対応する「通常の」ビールより香ばしい(aromaticおよびfragrant)ものとして特徴付けられる(実施例7;図6を参照されたい)。理論により拘束されずに述べると、本発明は、DMSおよびSMMのレベルが低いか、さらにまたはこれらが不在であることにより、香ばしい(aromaticおよびfragrant)風味の知覚が増強されるという理論を提示する。
【0137】
香ばしい(aromaticおよびfragrant)風味は、専門家による試飲パネルが判定する。飲料がビールである実施形態では、試飲パネルが、ビール試飲の専門家からなることが好ましい。本明細書では、「専門家によるビール試飲パネル(professional beer taste panel)」を、「熟練試飲パネル」または「専門家によるビール試飲パネル(specialist beer taste panel)」とも称する。DMS自体が、ビールの風味特性に対して重大な影響を及ぼすことは公知であるが、試飲パネルによっては、多面的な硫黄様の風味に対して不正確な評価をもたらす傾向を示し得る。その理由は単純に、パネリストが、依然として、彼らの風味知覚が異なることの結果として、不正確に「較正」された状態にとどまるということである。この複雑な障害は、本明細書で説明する通り、ビールのエステルの風味特性、高度数アルコールの風味特性、硫黄成分の風味特性、およびこくの風味特性を批判的に評価するスキルを身に付けた、少なくとも9名のビール試飲家による、高度に熟練した専門家によるパネルを確立することにより解決された。
【0138】
したがって、試飲パネルは、少なくとも9名、好ましくは、9〜12名、例えば、10名など、9〜20名の範囲内からなるべきである。試飲パネルの各メンバーは、高度に熟練していることが好ましいものとし、特に、ビールのエステルの風味特性、高度数アルコールの風味特性、硫黄成分の風味特性、およびこくの風味特性を評価するスキルを身に付けているべきである。次いで、試飲パネルの各メンバーは、0〜5段階で、異なる風味の調子を評価する。風味の属性は、苦味の強さ、苦味の質、こく、バランスの良さ、新鮮さ、飲みやすさ、香ばしい風味、エステル風味、アルコール/溶媒の風味、花の風味、ホップ風味、樹脂の風味、モルト風味、穀粒の風味、キャラメル風味、焦げた風味、フェノール風味、硫黄の風味、酸性、および甘味からなる群から選択されることが好ましい。
【0139】
上述の手法を用いると、本発明の飲料は、いずれの飲料のエステル/アルコールプロファイルも同様となるように調整し、いずれの飲料も同じ方法で調製する場合、同様のエタノール含量を有し、野生型オオムギ、好ましくは栽培品種Powerから調製した飲料と比較して、香ばしさの特性、エステルの特性、アルコール/溶媒の特性、花の特性、ホップの特性からなる群から選択される香ばしさの(aromatic/fragrant)特性のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、なおより好ましくは少なくとも3つ、さらにより好ましくは少なくとも4つ、なおより好ましくはすべてについて、より高いスコアを示すことが好ましい。
【0140】
さらに、上述の手法を用いると、本発明の飲料は、いずれの飲料のエステル/アルコールプロファイルも同様となるように調整する場合、同様のエタノール含量を有し、野生型オオムギ、好ましくは栽培品種Powerから調製した飲料と比較して、バランスの良さ、新鮮さ、飲みやすさからなる群から選択される3つの一般的特性のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、なおより好ましくはすべてについて、より高いスコアを示すことが好ましい。
【0141】
上述の手法を用いると、本発明の飲料は、いずれの飲料のエステルプロファイルも同様となるように調整する場合、同様のエタノール含量を有し、野生型オオムギ、好ましくは栽培品種Powerから調製した飲料と比較して、新鮮さおよび/またはエステルの特性について、少なくとも0.1、より好ましくは少なくとも0.2高いスコアを示すことが好ましい。
【0142】
本出願の文脈において、表1で言及される12の化合物を同様のレベルに調整する(また、実施例7も参照されたい)場合、すなわち、飲料が、表1で言及される12の化合物を同量(±20%)含有する場合、エステル/アルコールプロファイルは、同様であると考えられる。エタノール含量は、同量(±20%)、好ましくは同量(±10%)である場合、同様であると考えられる。
【0143】
したがって、本発明の飲料は、12の化合物の含量(表1および実施例7における一覧を参照されたい)を以下:
(i)アセトアルデヒド 1.20ppm±20%;
(ii)ギ酸エチル(Ethylformiate) 0.24ppm±20%;
(iii)酢酸エチル 23.40ppm±20%;
(iv)酢酸イソブチル 0.05ppm±20%;
(v)1−プロパノール 13.80ppm±20%;
(vi)イソブタノール 9.60ppm±20%;
(vii)酢酸イソアミル 3.43ppm±20%;
(viii)1−ブタノール 0.23ppm±20%;
(ix)イソアミルアルコール 52.00ppm±20%;
(x)ヘキサン酸エチル 0.13ppm±20%;
(xi)n−酢酸ヘキシル 0.01ppm±20%;
(xii)オクタン酸エチル 0.33 ppm±20%
に調整した場合、以下の特性(実施例7で説明する通りに判定される):
(i)「バランスの良さ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7のスコア);
(ii)「新鮮さ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.1のスコア);
(iii)「飲みやすさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア);
(iv)「香ばしさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9のスコア);
(v)「エステル」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア);
(vi)「アルコール/溶媒」の特性(少なくとも1.5のスコア);
(vii)「花」の特性(少なくとも1.7,好ましくは少なくとも1.9のスコア);
(viii)「ホップ」の特性(少なくとも1.8のスコア);
より好ましくは、以下の特性(実施例7で説明する通りに判定される):
(i)「新鮮さ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.1のスコア);
(ii)「飲みやすさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア);
(iii)「香ばしさ」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9のスコア);
(iv)「エステル」の特性(少なくとも2.5、好ましくは少なくとも2.7、より好ましくは少なくとも2.9、さらにより好ましくは少なくとも3.0のスコア)
のうち、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、なおより好ましくは少なくとも4つ、さらにより好ましくは少なくとも5つ、なおより好ましくはすべてのスコア値を示すことを特徴とすることが好ましい。
【0144】
したがって、そのエステル/アルコールプロファイルが、実施例7、表1の「MMTヌル」欄で示される通り(これに混合物1および混合物2を添加する)であると仮定すれば、本発明による飲料は、
(i)専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「新鮮さ」のスコア;および/または
(ii)専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「飲みやすさ」のスコア;および/または
(iii) 専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「香ばしい風味」のスコア;および/または
(iv)専門家による試飲パネルが評価する場合、0〜5段階で少なくとも2.5の「エステル風味」のスコア
を示すことが好ましい。
【0145】
特に、本発明は、飲料中におけるDMSの存在が、エステル風味を遮蔽し得ることを開示する。したがって、同じ方法で調製されるが、含むDMSが100〜200ppbの範囲にあるなど、含むDMSが少なくとも100ppbである飲料と比較して、または同じ方法で調製されるが、含むDMSが50〜100ppbの範囲内にあるなど、少なくとも50ppbである飲料と比較して、熟練試飲パネル(好ましくは、少なくとも9名のメンバーによる熟練試飲パネル)が評価するエステル風味についてより高いスコアを示す飲料を提供することが、本発明の目的である。上記で説明した通り、エステル風味を0〜5段階で判定する場合、前記エステル風味についてのより高いスコアは、少なくとも0.5ポイント、好ましくは少なくとも0.7ポイント、例えば、少なくとも0.9ポイント高い。
【0146】
本発明はまた、上述の飲料を作製する方法であって、好ましくは、
(i)発芽したMMTヌルの穀粒を含むモルト組成物を供給する工程と;
(ii)前記モルト組成物を飲料へと加工する工程と
を含み、これらにより、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、さらにより好ましくは、検出可能なDMSを含有しない飲料を得る方法にも関する。
【0147】
好ましい一実施形態では、飲料はビールである。この場合は、加工する工程が、例えば、本明細書の上記で説明した方法のうちのいずれかにより、前記モルト組成物からウォートを調製する工程と、前記ウォートを発酵させる工程とを含むことが好ましい。
【0148】
一般的に述べると、アルコール飲料(ビールなど)は、モルト化させたオオムギ穀粒および/またはモルト化させていないオオムギ穀粒から製造することができる。ホップおよび酵母に加えて、モルトが、ビールの風味および色に寄与する。さらに、モルトは、発酵性糖の供給源として機能し、また、酵素の供給源としても機能する。ビール生産の一般的な工程についての図式的表示を図8に示すが、モルト化および醸造の方法についての詳細な説明は、例えば、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)による刊行物中において見出すことができる。オオムギ生成物、モルト生成物、ビール製品の解析については、定期的に更新される多数の方法を用いることができる。これらには、例えば、American Association of Cereal Chemists(1995年)、American Society of Brewing Chemists(1992年)、European Brewery Convention(1998年)、およびInstitute of Brewing(1997年)が含まれるが、これらに限定されない。所与のビール醸造業者毎に、多くの特殊な手順が用いられており、その最も顕著な多様性は、各地の消費者選好に関するものであると理解される。本発明と共に、ビールを生産する任意のこのような方法を用いることができる。
【0149】
前述した飲料(例えば、ビール、モルト飲料、または非発酵ウォートを含めた)のモルト組成物は、例えば、本明細書の上記で説明した方法のうちのいずれかにより得ることができる。ウォートは、前記モルト組成物から調製することができる。
【0150】
ウォートからビールを生産する最初の工程は、前記ウォートを煮沸する工程を伴うことが好ましい。煮沸時には、穀類シロップまたはホップなど他の成分を添加することができ、後者の成分により、ビールに典型的な苦味および香ばしさの特徴がもたらされ得る。ウォートの煮沸はまた、ポリフェノールと変性したタンパク質との凝集物ももたらし、これは、ビール生産の後続の段階において沈殿し得る。ウォートの煮沸はまた、DMSを含めた揮発性化合物の蒸発も引き起こし得る。しかし、上記で言及した通り、MMTヌルのオオムギから調製したウォートは、含有するDMSが少量であるか、またはDMSを含有せず、したがって、このようなウォートを煮沸する時間を実質的に短縮することが可能となる。冷却後、ウォートを、酵母、好ましくは、Saccharomyces carlsbergensis種であるビール酵母を含有する発酵タンクへと移送する。ウォートは、任意の適切な時間、一般には1〜100日間の範囲内で発酵させる。数日間にわたる発酵工程において、糖はアルコールおよびCO2へと転換され、これと同時に一部の風味物質が生成される。
【0151】
その後、ビールはさらに加工され、例えば、冷却される。それはまた、濾過および/またはラガーリング(快い芳香を生成させ、酵母風味を軽減する工程)を経る場合もある。また、添加物を添加することもできる。さらに、CO2を添加することもできる。最後に、ビールを殺菌および濾過して、ボトルまたは缶に封入する。
【0152】
オオムギ植物体または植物生成物が、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体から調製されるかどうかを判定するには、各種の方法を用いることができる。植物生成物は、一般に、その生成に用いられる植物体に由来する少なくとも一部のゲノムDNAを含む。したがって、モルトは、大量のゲノムDNAを含有するが、ウォートなど、オオムギまたはモルトの抽出物であっても、前記オオムギまたはモルトに由来するゲノムDNAを含み得る。ビールなど、オオムギベースの飲料もまた、前記植物体に由来するゲノムDNAを含み得る。植物生成物中のDNAを解析することにより、そこから植物生成物が調製される植物体が、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するかどうかを確立することができる。前記変異は、例えば、本明細書上記の節「機能的MMT酵素の喪失」で説明した、MMT遺伝子内の変異のうちのいずれかであり得るであろう。ゲノムDNAは、配列決定などの任意の有用な方法により、またはPCRベースの方法を含めた増幅ベースの方法により解析することができる。MMT遺伝子における特定の変異が推定される場合は、例えば、SNP解析などの多型解析を用いることができる。このような解析は、本明細書下記の実施例13および17で説明する通りに実施することができる。当業者は、これらの実施例で説明される特定のSNP解析を、他の変異または他の出発物質と共に用いるのに適合させることができるであろう。
【0153】
上述の植物生成物が、MMT遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体だけから調製される場合は、オオムギのMMT mRNAおよび/またはMMTタンパク質の存在対不在もまた、前記植物生成物が、MMTヌルのオオムギから調製されているかどうかを示し得る。したがって、ウェスタンブロット解析または他のタンパク質解析により植物生成物を検討することもでき、RT−PCRにより、またはノーザンブロット解析により、または他のmRNA解析により植物生成物を検討することもできる。このような解析は、植物生成物がモルトである場合、特に有用である。
【0154】
SMMおよびDMS
植物生成物中におけるSMMおよびDMSの量は、任意の適切な方法により決定することができる。SMMは、本質的に、本明細書上記の節「機能的MMTを完全に喪失させたオオムギ植物体の調製」(この節では、オオムギ試料中におけるSMMレベルの決定について説明される)において説明した通りに決定することができる。したがって、SMMは、それをOPAなどの化合物へと連結し、例えば、UPLCシステムを用いることを介して、蛍光発光を決定することにより決定することができる。定量的な測定を行う場合は、SMMピークに対応するクロマトグラムの面積を決定することができる。
【0155】
より正確な測定を行う場合は、DMSおよびDMSP(SMMなど)(活性化後、後者の化合物は、DMSとして測定される)のいずれの量も、高解像度キャピラリーガスクロマトグラフィーを用いて決定することが好ましい。本明細書では、ウォート試料中またはビール試料中における全DMSを、遊離DMSと、DMSPと称するその前駆形態との定量的な和として定義する。この定義を用いると、ウォート試料中またはビール試料中におけるDMSPの量を、全DMS(煮沸試料中、好ましくは、アルカリ性条件下で1時間にわたり煮沸した試料中において測定された)と、遊離DMS(煮沸していない試料中で測定された)との差として決定することができる。実施例6では、全DMSレベルおよび遊離DMSレベルを測定するのに好ましい方法について詳述する。
【0156】
化学的変異誘発
本発明によるMMTをコードする遺伝子における、MMT機能の完全な喪失を引き起こす変異を保有するオオムギ植物体を作製するには、任意の適切な変異誘発法により、例えば、オオムギ穀粒の化学的変異誘発(無作為的に変異を誘導することが公知である方法)を用いることにより、極めて多数のオオムギ変異体を調製することができる。オオムギの変異誘発は、任意の変異誘発化学物質を用いて実施することができる。しかし、オオムギの変異誘発は、穀粒をNaN3で処理し(図7を参照されたい)、生存する穀粒を発芽させた後、子孫植物体を解析することにより実施することが好ましい。M0世代と称する、変異誘発させた穀粒から成長する植物体世代は、任意の所与の変異について、ヘテロ接合体のキメラを含有する。自己授粉後に回収された子孫植物体を、M1世代と称するが、ここでは、所与の変異が、対応するヘテロ接合体およびホモ接合体へと分離する。
【0157】
処理後における穀粒は、一部の非変異体細胞と、DNAの変異を有する各種の細胞とを含有するので、オオムギ穀粒をNaN3で処理することは、単一のオオムギ細胞を処理することと等価ではない。生殖細胞系列をもたらさない細胞系統では変異が失われるが、これは、生殖組織へと生育し、M1世代の発生に寄与する少数の細胞を、変異誘発物質の標的とすることが目的であることを意味する。
【0158】
全体的な変異効率を評価するため、M0世代およびM1世代のそれぞれにおいて、アルビノキメラおよびアルビノ植物体をカウントすることができる。変異体の数を生存植物体数の関数として評価することにより、変異の効率についての推定値が得られる一方、変異体数を、処理した種子数の関数として評価することにより、変異の効率と、穀粒死滅との両方についての組合せ測定値が得られる。
【0159】
細胞が、遺伝子発現のほとんどどの段階でも、変異の損傷的効果をおそらく緩和する、品質保証機構を有することは注目に値する。真核生物において十分に研究されている一例は、NMDと称し、潜在的に有害な、未熟の切断型タンパク質の合成を防止する、ナンセンス変異依存mRNA分解機構(MaquatおよびCarmichael、2001年; Wu ら、2007年)である。NMDでは、終止コドンが、下流の不安定化エレメントに対するその位置により未熟であると同定される。PTCと称する、未熟終止(ナンセンス変異)コドンを発生させる変異は、場合によって、原因変異をスキップし、これにより、タンパク質機能を潜在的に保全する、代替的なスプライス転写物のレベルを上昇させることがある(MendellおよびDietz、2001年)。
【0160】
植物体の育種
作物の育成は、新規の形質の導入と共に始まる、長期間にわたる過程として見ることができる。植物育種家の視点からすると、この工程は、農業形質の全体的プロファイルの所望の程度が、市販される現行の品種より劣る植物体を結果としてもたらす場合が多い。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、MMT遺伝子における、機能的MMTの完全な喪失を引き起こす変異を保有する、農業的に有用なオオムギ植物体を提供することが目的である。
【0161】
MMTヌルの形質に加えて、穀粒の収量、穀粒のサイズ、ならびにモルト化の効力または醸造の効力に関するパラメータが含まれるがこれらに限定されない、市販のモルト化オオムギ品種を生成させる技術分野でもまた考慮し得る他の因子も存在する。このような形質の多く(すべてではないにせよ)は、遺伝子の制御下にあるため、本発明はまた、MMTヌルのオオムギ植物体との異種交配から調製され得る、最新で、ホモ接合型の、高収量をもたらすオオムギ栽培品種も提供する。このようなオオムギ植物体の穀粒は、機能的なMMT酵素を有さない新規の原料を提供する。オオムギ育種の当業者は、本発明によるMMTヌルのオオムギ植物体を、他のオオムギ植物体と異種交配させ、その後、優れた栽培品種を結果としてもたらす形質を有する子孫植物体を選択および育成することができるであろう。このような子孫植物体もまた、本発明の一部と考えられる。代替的に、オオムギの育種家は、本発明の植物体を用いて、さらなる変異誘発をもたらし、MMTヌルのオオムギに由来する新規の栽培品種を生成させることができる。
【0162】
本発明によるオオムギ植物体は、任意の適切なスキームによる育種の試みにおいて用いることができる。
【0163】
本発明の別の目的は、MMTヌルの形質を含む、農業的に優良のオオムギ植物体を提供することである。したがって、本発明はまた、第1の親オオムギ植物体を、第2の親オオムギ植物体と異種交配させることにより、新規のMMTヌルのオオムギ植物体を作製する方法であって、該第1および第2の植物体が、MMTヌルのオオムギである方法も対象とする。加えて、第1および第2の親オオムギ植物体はいずれも、MMTヌルのオオムギ品種を表す。したがって、MMTヌルのオオムギ品種を用いる以下:自家受粉、戻し交配、品種集団との異種交配などのうちのいずれかのこのような方法は、本発明の一部である。MMTヌルのオオムギ品種に由来する品種から発生した植物体を含め、MMTヌルのオオムギ品種を親世代として用いて作製されるすべての植物体は、本発明の範囲内にある。MMTヌルのオオムギはまた、MMTヌルの植物体または植物体組織に外因性のDNAを導入し、これを発現させる場合における遺伝子形質転換にも用いることができる。
【0164】
本発明と共に戻し交配法を用いて、変異したオオムギ植物体のMMTヌル形質を、別の品種、例えば、栽培品種Scarlettまたは栽培品種Jersey(これらのいずれもが、高収量をもたらす新型のモルト化オオムギ栽培品種である)など、別の栽培品種へと導入することができる。標準的な戻し交配のプロトコールでは、対象の元の品種、すなわち、対象の反復親植物体を、形質導入される対象の単一遺伝子を保有する第2の品種(すなわち、一回親植物体)と異種交配させる。この異種交配から結果として得られるMMTヌルの子孫植物体を、その後、該反復親へと異種交配させ、該一回親植物体の該MMTヌルの形質を遺伝子配置に形質導入することに加えて、該反復親植物体により指定される本質的にすべての特徴が、生成される植物体内で復帰するオオムギ植物体が得られるまで、該過程を反復する。最終的に、該戻し交配により最後に生成された植物体を自家受粉させて、純粋な、MMTヌルの育種用子孫植物体を得る。
【0165】
その目的に、MMTヌルの形質を元の品種へと導入することを包含する戻し交配手順を成功させるには、適切な反復親を有することが好ましい。これを達成するには、元の品種に由来する本質的にすべての遺伝子特性を保持させながら、一回親植物体に由来するMMTヌル形質の遺伝子配置により、該反復親品種の遺伝子配置を改変する。形質導入される遺伝子特性が、優性の対立遺伝子により指定される場合は、戻し交配法が単純化されるが、劣性のMMTヌル形質の遺伝子特性を戻し交配することも可能である。
【0166】
植物体の育種過程を加速化させる方法は、組織培養物法および組織再生法を適用することにより、生成された変異体を初期繁殖させることを含む。したがって、本発明の別の態様は、(増殖および分化すると)MMTヌルの形質を有するオオムギ植物体を生成させる細胞を提供することである。例えば、育種は、従来の異種交配、葯に由来する造精植物体の調製、または小胞子培養法の使用を伴い得る。
【0167】
MMTをコードする遺伝子における、MMT活性の完全な喪失を引き起こす変異を保有するだけでなく、1または複数のさらなる有用な変異も保有するオオムギ植物体を提供することもまた、本発明の実施形態である。このようなさらなる変異には、例えば、リポキシゲナーゼ1(LOX−1)の活性レベルを低下させる変異(例えば、Douma, A.C.らによる米国特許第6,660,915号において説明される変異体)、またはBreddam, K.らによる米国特許第7,420,105号またはPCT特許出願第WO2005/087934号において開示される変異体のうちのいずれか、特に、Breddam, K.らによる米国特許第7,420,105号の配列番号2または配列番号6による、LOX−1をコードする遺伝子のゲノム配列を含む変異体など、LOX−1機能の完全な喪失を引き起こす変異など、LOX−1をコードするオオムギ遺伝子内の変異が含まれ得る。
【0168】
上述の特許および特許出願において説明されるLOX−1ヌルのモルトであれば、それ自体、オオムギのモルト化工程における低温キルン乾燥の原料をもたらし得るであろう。しかし、LOX−1活性およびMMT活性のいずれもが不活化されるので、LOX−1ヌルとMMTヌルとを組み合わせた二重変異体であれば、醸造業において優れた、高度に有用な植物体となるであろう。このようなオオムギ植物体は、本発明によるオオムギ植物体を、Breddam, K.らによる米国特許第7,420,105号またはPCT特許出願第WO2005/087934号で説明される植物体と異種交配することにより得ることができる。
【実施例】
【0169】
本明細書の実施例は、本発明の好ましい実施形態を例示しており、本発明を限定するものとみなされるべきではない。
【0170】
他に指定がない限り、核酸、タンパク質および細菌を取り扱うために、SambrookおよびRussel(2001年)に記載の基本的な分子生物学的技法を行った。
【0171】
(実施例1)
DMSはビールのエステル風味を隠す
硫黄に似た風味の調子を特徴付けることは、一般のビールのパネル試飲家の中でさえも、一般に難しいと考えられている。多くの場合、ビールの試飲パネリストは、硫黄の調子を特徴付けるために、専門的な硫黄の調子、例えば「メルカプタン」、「硫化水素」および「DMS」よりも、「硫黄の」という一般用語を使用する。
【0172】
9名の試飲家規模のパネルを設けた後、硫黄含有成分の香ばしさを追跡することに関してメンバーを広範囲にわたって訓練し、驚いたことに、硫黄成分を添加することが、他の香ばしさ構成成分の知覚に強く影響を及ぼすこと、例えばビールのエステル風味およびボディ感についての低スコアにつながる性質が明らかになった。
【0173】
別の一連の実験では、パネルを訓練するためにDMSを選択した。高濃度の前記硫黄含有構成成分をスパイクしたビール試料をパネルに提示し、パネルは試飲し、「ボディ感」、「エステル風」および「DMS」という特性を、0(なし)から5(極度)までの尺度で順位付けするように要求された。検査の各シリーズは、標準の、市販のビールおよび2種の、パネリストに対して未知の試料を含んだ。
【0174】
図1Bにおいて、それぞれ、エステルおよびエステル/DMSをスパイクしたビール試料を含む検査シリーズからの平均スコアの結果を例示している。DMSを添加することが、エステルと組み合わせた場合、エステルのみをスパイクすることによって得られたそのスコアと比較して、知覚されるエステル風のスコアに負の影響を及ぼしたことは予想外の結果であった。同様に、ビールのボディ感の調子が減少した。驚くことではないが、DMSをスパイクすると、その性質に対するスコアが増大した。
【0175】
上記の結果は、専門化した試飲パネルの、単一の風味構成成分の風味を感じる能力は、他の香ばしさ構成成分によって決定された「風味バックグラウンド」に大いに左右されると思われることを実証している。
【0176】
図1Bに要約されている、風味の検査からの驚くべき知見により、対応する原料を飲料生成において利用することにより、DMSが少ないまたはDMSを含まない製品を生成することが可能になり得るだけでなく、エステル調子についての改良も約束されるような、DMSレベルが低い飲料、およびそのような飲料を調製するために有用なオオムギの変異体、すなわちSMMを合成する能力を喪失したオオムギの変異体を提供することによって本発明の基礎ももたらされた。
【0177】
(実施例2)
スクリーニングの準備、手法1
栽培品種Prestigeおよび栽培品種Sebastianのオオムギ植物体から採取した穀粒を、別々に、Kleinhofsら(1978年)によって提供された実験の詳細に従って、変異原NaN3と一緒にインキュベートした。この手順を選択したのは、オオムギのゲノムDNAにおいて点変異を誘発する可能性が公知であるからである。
【0178】
本実験では、M1世代の変異した子実を、畑の小区画において次の2世代を通して繁殖させ、最終的に、スクリーニングするために、高比率のホモ接合性のM3世代の植物体を得た。M3世代の変異した子実は、子実10,000個当たり0.9〜2.3の頻度で遺伝子変異を含有することが予想された(Kleinhofsら、上記)。M2子実がスクリーニングされなかったことは注目に値する。
【0179】
興味深いことに、本発明は、モルト製造の間の検出可能なSMM合成の喪失をもたらす、MMT活性を喪失したM3変異オオムギ子実を検出するための高速ハイスループットスクリーニング手順を記載している。したがって、出願人らは、SMMが、発芽しているオオムギの子葉鞘および初生葉に主に蓄積したこと、および4日齢の発芽した子実の破砕した葉組織からアミノ酸を抽出し、続いて抽出したアミノ酸をOPAと反応させて高度に蛍光性の生成物を形成することによって、SMMの検出を行うことができることを見出した(図2参照)。
【0180】
実際的に述べると、各アッセイは、閉じたプラスチックの箱の中で、Whatman#1濾紙(296×20.9mm)1枚を用いて94種の可能性のある変異体のそれぞれからの2つの子実および2つの野生型植物体を発芽させることによって行った。多数の、可能性のある変異子実に対してアッセイを繰り返した(下記を参照されたい)。発芽の開始時に水道水25mL、続いて発芽の2日目に付加的な水道水15mLを前記プラスチックの箱に加えた。発芽の4日後に、1〜3cmの葉組織を、1.2mLの96ウェルのそれぞれが直径5mmのガラスビーズおよび水:メタノール:クロロホルムの12:5:6(v/v/v)混合物500μLを含む、貯蔵プレート(ABgene)に移した。次いで、プレートを、MM300ラボ用粉砕器(Retsch)内で30Hzの頻度で45秒間振とうした。その後、プレートを遠心分離機(Rotanta460R、Hettich)に移し、4,000rpmで15分、室温で、不溶性物質が沈殿するまで回転させた。上清10μLを96ウェル貯蔵プレート(Waters、カタログ番号186002481)に移し、200μLのH2OおよびOPA試薬(Sigma、カタログ番号P7914):3−メルカプトプロピオン酸(Aldrich、カタログ番号M5801)の15,000:45(v/v)混合物を含有する反応溶液60μLと混合した。混合物を4℃で少なくとも10分間インキュベートしてOPAによる試料アミノ酸の定量的誘導体化を得る。蛍光検出器を備えたWatersに基づくUPLCシステムを使用して、誘導体化された混合物2μLを2.1×30mmの、3μmの粒子のC18 Geminiカラム(Phenomenex、カタログ番号00A−4439−80)において、移動相A(40mMのNaH2PO4緩衝液、pH7.8に調整)と移動相B[記載されている通り(Phenomenex、2006年)、アセトニトリル:メタノール:水の45:45:10(v:v:v)溶液]を混合することによる勾配溶出を使用して分離した。溶出されたOPA誘導体の励起は340nmであったと同時に、光の放射は450nmにおいて測定された。クロマトグラムの例を図3Aに示して、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)およびSMMの溶出プロファイルを例示している。SMMは、全体的なプロジェクトの目的が、SMMを合成する能力を喪失したオオムギ植物体、すなわち、対応するクロマトグラムのピークが非常に小さいまたは好ましくはピークが存在しない植物体を同定することであったので、それを含めた。
【0181】
スクリーニングの準備、手法2
当該実施例では、上記の実験と平行して、活性なMMT酵素を喪失したオオムギの実生を同定するための非常に高速のスクリーニング方法を確立するために試みを行った。植物体が、亜セレン酸Naを転換するための活性なMMTを含有すれば、前記実生が250μMの亜セレン酸Naの存在下で成長することができるという事実に基づいて、スクリーニングを設計して、前記濃度の亜セレン酸Naの存在下で成長が減少した実生を視覚的にスコア化した。実際的に述べると、NaN3変異誘発されたオオムギの栽培品種PrestigeのM3世代の、それぞれが20〜30の穀粒からなる22,704の穂を、250μMの亜セレン酸Naを補充し標準のVermeculite成長培地で満たしたプラスチックトレイ内においた。穂の穀粒を発芽させ、長さ約15cmの実生にまで発達させた。成長が減少したことを特徴とする、すなわち、実生の長さが<15cmである計812の植物体を、新しい土に移し、さらに発達させた。しかし、野生型レベルのSMMと比較することによって決定すると、MMT活性が低下したことが分かった前記植物体はなかった。したがって、上記のスクリーニング手法では変異体が得られず、したがって終了させた。
【0182】
(実施例3)
可能性のある変異体
それぞれ、計10,248および計3,858の、オオムギの栽培品種Prestigeおよび栽培品種SebastianのNaN3変異した穀粒を、野生型子実と比較するとSMM含有量が大いに減少したものを同定するために、SMM含有量についてスクリーニングした(実施例2の手法1を参照されたい)。M3世代の、可能性のある変異体が2つのみ同定された、すなわち、試料番号8,063の子実(栽培品種Prestigeに由来し、以下変異体8063と表示され、呼称は次の世代の子実に対しても使用される;図3B)、および試料番号14,018の子実(栽培品種Sebastianに由来し、以下変異体14018と表示され、呼称は、次の世代の子実に対しても使用される;図3Bに例示している)。各変異体の子実をM4世代まで繁殖させ、次いで収穫し、最終的に再分析した。その結果、変異体8063および変異体14018の子実が、極度に低いSMM含有量を有し、SMMを完全に喪失している可能性もあることが立証された。
【0183】
別々の実験において、ウェスタンブロット分析を用いて変異体8063および変異体14018がMMT酵素を喪失していることを立証した。変異体および対応する野生型植物体の子実を、暗闇の中で4日間、水に浸した濾紙上で発芽させた。各試料の子実を1つずつ250μLのH2Oを含有するエッペンドルフチューブに移し、雌ずいを使用することによってホモジナイズした。10分間の長さ、13,000rpmで遠心分離した後、液体抽出物15μLを標準の4倍濃縮したSDS試料緩衝液5μLと混合した。実施例12に記載されているものと同じ免疫学的な方法体系および前記実施例において説明しているものと同じ抗MMT抗体の一定分量を使用することによって、上述の、発芽した穀粒の試料抽出物のタンパク質をサイズによって電気泳動的に分離し、ウェスタンブロット分析に適用した。サイズによって分離した変異体8063および変異体14018の抽出物について、MMTに対応する、染色された120kDaのタンパク質バンドが存在しないことが示された。しかし、発芽した野生型穀粒の抽出物において、120kDaのタンパク質バンドが明瞭に目に見えた(図3C)。ウェスタン分析の結果と、変異体8063および変異体14018の抽出物にSMMが存在しないが野生型穀粒の抽出物にSMMが存在すること(図3B参照)を併せて、変異体8063および変異体14018が、MMT形質に関してヌル変異体を表していることが実証されている。
【0184】
(実施例4)
変異体8063のMMT活性の測定
MMT酵素は、メチル基がSAMからMetへ移動し、SMMが形成されることを触媒する(図1B参照)。メチル基をトリチウムで標識した[3H]SAMを基質として使用して、活性炭によって残りの[3H]SAMを除去した後にシンチレーション計数することによって、前記メチル基の移動をモニターすることができる。活性炭は基質に結合するが、新たに合成された、標識されたSMM生成物には結合しない(Pimentaら、1995年)。これによって、変異体8063および栽培品種Prestigeそれぞれの苗条15ずつの抽出物における、MMTの活性、および実施例2に記載の通り決定したSMM含有量を検出することが可能になった。(図4)。データを検討することにより、野生型の穀粒において、変異体8063の子実にはない性質、MMTがSMMの形成を触媒したことが立証された。
【0185】
(実施例5)
変異体8063のヌルMMT穀粒のパイロット規模でのモルト製造および醸造
変異体8063のモルトおよび栽培品種Powerの参照モルトを用いたモルト製造および醸造分析は、
(i)スティーピングすること、グリーンモルトを生成すること、時には続いて
キルン乾燥してキルン乾燥モルトを得ることを含めた発芽させる工程と;
(ii)ウォートを調製する工程と;
(iii)ウォートを分離する工程と;
(iv)ウォートを煮沸する工程と;
(v)酵母Saccharomyces carlsbergensisを用いてウォートを発酵させる工程と;
(vi)ビールをラガーリングする工程と;
(vii)澄んだビールを濾過する工程と;
(viii)ビールを瓶詰めする工程
とを伴う。
【0186】
変異体8063および栽培品種Power(参照試料)のどちらについても、醸造するためにモルト30kgを使用した。モルト試料を粉砕し、次いで各試料について、150Lまで水道水を加えた。マッシングインを60℃で20分間行い、続いて5分間で65℃まで徐々に上げ、その温度で55分インキュベートを続けた。次いで、マッシュを15分間、78℃までの勾配にかけ、5分間インキュベートした後にマッシングを終わらせた。
【0187】
その後の醸造作業は、ウォートの濾過、1時間の長さの煮沸工程、およびワールプールにおける分離を含んだ。7日間の長さの発酵、ラガーリング、および完成したビールの緑色のガラス瓶への充填は、例えば、Briggsら(1981年)およびHoughら(1982年)によって記載されている標準の醸造の実施の規格に従った。野生型のモルトおよび変異体のモルト由来のビールで、全部で100本の33cL瓶を作製した。
【0188】
(実施例6)
ヌルMMTモルトで作られたビールのDMSおよびDMSPのレベル
ヌルMMTおよび栽培品種Powerのモルトから、実施例5に記載の通りビールを醸造した。モルト製造および醸造のプロセスの間、遊離のDMSおよびDMSPのレベルを、グリーンモルトおよびキルン乾燥モルトにおいて(図5A)、ならびに対応するスイートウォートおよび煮沸ウォート、さらには完成したビールにおいて決定した(図5B)。
【0189】
DMSおよびDMSPのレベルを、基本的にHysertら(1980年)によって記載されている通り、350B Sulfur Chemiluminescence Detector(Sievers)で静的ヘッドスペースガスクロマトグラフィーを使用した硫黄特異的な検出を用いて決定した。自動装置(HS−40 Automated Headspace Sampler、Perkin Elmer)を使用してサンプリングを行った。DMSの総レベル、すなわち、ウォートならびにグリーンモルトおよびキルン乾燥モルトの抽出物中の遊離のDMSおよびDMSPの合計を、それぞれの試料をアルカリ性条件下で1時間煮沸することによって得た。次いで、試料を、DMSレベルを検出するためにヘッドスペース分析に供した。以前に記載の通り、煮沸した試料中の総DMSレベルと、対応する煮沸していない試料中の遊離のDMSの間の差異は、試料DMSPの量と等しいと定義された。ビール中の遊離のDMSの量は、基本的にウォート中のDMSの量と同様に決定した(Hysertら、上記)。
【0190】
(実施例7)
ヌルMMTモルトを用いて醸造したビールの試飲
パイロット規模で生成した、ヌルMMTモルトを用いて醸造したビールを、プロのビールの試飲パネルがどのように評価するかを確立するために、DMSを4ppb含有することが測定されたビールについて、プロファイル試飲を行った。参照として、栽培品種Powerのモルトを使用して生成した、DMSが76ppbの通常のビールを使用した。
【0191】
風味の分析に先だって、ビールのエステルおよび高級アルコールのプロファイルをガスクロマトグラフィー分析によって得た。ヌルMMTモルトのビールは、分析された化合物12種の内3種に関してレベルが低かった(表1)。第1の風味の検査では、酢酸エチル、酢酸イソアミルおよびオクタン酸エチルからなる混合物1を、ヌルMMTモルトを用いて醸造したビールにスパイクして、2種のラガービールが、標準のエステルプロファイルに寄与するこれらの風味が活性な化合物を同様のレベルで有することを確実にした。(表1参照)。第2の検査の目的は、風味の調子が増大した高エステルビールを作製することであった。したがって、酢酸イソアミル、ヘキサン酸エチル(ethylhexanote)およびオクタン酸エチルからなる混合物2を、栽培品種Powerのモルトのビールにスパイクし(表1)、一方、ヌルMMTモルトのビールには、混合物1および混合物2の両方をスパイクした。
【0192】
次いで、上記のビールを10名の規模の訓練されたビールの試飲パネルが検査し、20種の特異的な風味特質を、それぞれ0〜5の尺度またはスコアで評価した(図6)。
【0193】
図6Aにおいて高エステルビールについて説明している通り、同じレベルにスパイクした標準のビールと比較して、ヌルMMTモルトで醸造した「非常に低DMSのビール」における、香ばしい(aromatic−fragrant)風味の知覚に対する注目すべき影響があった。評価されたすべての香ばしい風味について高いスコアが示された。通常のエステルプロファイルをスパイクしたヌルMMTモルトのビールにおいてさえ(図6B)、香ばしい風味の知覚が増大したことが示され、これはDMSのレベルが低いことが、香ばしいビール化合物の知覚に関して正の影響を与えることを重ねて示している。この現象に対する解釈は、単純に、ビール中のDMSが、飲料の鮮度を評価する際に重要な因子を表す、心地よい香ばしい風味の風味を隠すということである。
【0194】
【表1】
*酢酸2−メチルブチル濃度と酢酸イソアミル濃度の和
**2−メチル−1−ブタノール濃度とイソアミルアルコール濃度の和
(実施例8)
オオムギの栽培品種PrestigeにおいてMMTをコードする遺伝子の配列決定
野生型のオオムギ植物体と変異したオオムギ植物体の間のMMT活性の差異の根底にあるゲノム多様性を確立することを目的として、主な試みは、対応するオオムギ遺伝子の開始コドンから終止コドンにわたるDNA配列を決定することであった。オオムギのMMT遺伝子の、以前に知られていないゲノム配列を確立するために、最初の工程は、6日齢の、栽培品種Prestigeのオオムギの実生の葉からのゲノムDNA(gDNA)を、Plant DNA Isolation Kit(Roche、カタログ番号1667319)の供給業者によって提供された説明書に従って精製することであった。
【0195】
次に、MMTをコードするcDNA配列(GenBank受託番号AB028870;配列番号1)に結合させるためにオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。オオムギのgDNAを鋳型として使用して、そのDNA配列が表2に列挙されている6つの異なるプライマーセットを用いて標準のPCR増幅を行った。対で、プライマーは、エクソン1(翻訳開始コドンを含み、かつその下流)および2、エクソン2および4、エクソン4および5、エクソン5および9、エクソン9および11、ならびにエクソン11および12(翻訳終止コドンを含み、かつその上流)にアニーリングすることが見出された。上述の6つの反応の内5つで、エクソン2〜4にわたるDNA断片、エクソン4〜5にわたるDNA断片、エクソン5〜9にわたるDNA断片、エクソン9〜11にわたるDNA断片、およびエクソン11〜12にわたるDNA断片が生成した(図9参照)。1つの反応も、翻訳開始コドンからエクソン2にわたるDNA断片を生成すると仮定されたが(すなわち、表2および図9に列挙されているプライマーセット番号1を用いた反応)、反応の人為結果のみが観察された。この難しさの理由は分かりにくいままであるが、対象の遺伝子セグメントにおけるG塩基およびC塩基の含有量が著しく高いことが、正しい配列の増幅ができない原因である可能性がある。したがって、G−Cが豊富な遺伝子領域の増幅を容易にすることが主張されている多数の市販のPCR反応補充剤を、MMTをコードするオオムギ遺伝子の開始コドンの下流であるが、なおそれを含有するDNA断片を増幅するために試みに使用した。多数試みたにもかかわらず、表2に列挙されている反応1におけるプライマーによって指定される断片を増幅することに関しては、gDNA鋳型を利用したすべての取組みが失敗した。
【0196】
gDNAの増幅を用いた実験と並んで、オオムギ実生の葉のRNA由来のcDNAが、MMTに対する遺伝子の厄介なエクソン1配列を増幅するための機能的な鋳型を構成し得るかどうかも試験した。したがって、4日齢の栽培品種Prestigeのオオムギ実生の小葉から、FastRNA ProGreen Kit (Q−BIOgene、カタログ番号6045−050)の構成成分および説明書を使用して全RNAを抽出し、精製した。これの一定分量を、OneStep RT−PCRキット(Qiagen、カタログ番号210212)の説明書において説明されている通り、8×2の標準のRT−PCR反応[すなわち、それぞれ2つの反応緩衝液を用いたプライマー対8つの組合せ(表3)]において使用した。断片を1%アガロースゲルで分離し、その後の分析によって、前記キットの緩衝液1を使用することによってのみ反応生成物が得られ得ることが明らかになった。次いで対象のDNAバンドを、QiaexIIゲル抽出キット(Qiagen、カタログ番号20051)を使用して精製した。上述のRT−PCRキットのQ溶液の存在下で、プライマーセット番号7、10、および11(表3参照)を用いてRT−PCR増幅物を分離する。この場合、対象のDNA断片も精製した。個々のDNA断片をベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カタログ番号K4500−01)に挿入し、E.coli細胞をこの構築物でトランスフェクションした後、プラスミド挿入物の、対応するDNA配列を決定した。
【0197】
総合すると、組み合わせた、上記の取組みは、栽培品種PrestigeのオオムギのMMT遺伝子の翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたるゲノム配列(配列番号3)の組み立てに結晶化された。cDNAおよびゲノム配列のアラインメント、すなわち配列番号3と配列番号1のアラインメントによって、図9に例示しているオオムギのMMT遺伝子が、11のイントロン(全部で3192bp)によって分離された12のエクソン(全部で3267bp)を含むことが決定された。栽培品種PrestigeのMMTに対して導かれたアミノ酸配列を図10に示し、配列番号6として列挙されている。上述の栽培品種PrestigeのMMTに対して導かれたアミノ酸配列において、Pro157→AlaおよびMet985→Tyrを除けば、栽培品種Haruna Nijo(GenBank受託番号AB028870;配列番号2)との比較により、完全に同一であることが明らかになった(図11)。
【0198】
【表2】
*)MMTのゲノム配列(配列番号3;図9も参照されたい)についてと同様の塩基対の番号付け
**)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙されている断片の5’末端の配列
***)「PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列
【0199】
【表3】
*)MMTのゲノム配列(配列番号3)についてと同様の塩基対の番号付け
**)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙されている断片の5’末端の配列
***)「RT−PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列
(実施例9)
オオムギの変異体8063のMMTをコードする遺伝子は、イントロン5
の5’スプライス部位において変異している
変異体8063のオオムギの実生では、MMT活性が存在しないこと(実施例4)と一致して、SMMの含有量が極度に少ない、またはSMMが含有されない(実施例3)。この知見に基づいて、MMTをコードする遺伝子における塩基置換が、オオムギ穀粒の最初のNaN3変異原処理によって引き起こされたかどうかを調査した。したがって、変異体8063のヌルMMT表現型についての分子基礎を確立するために、変異体8063の前記遺伝子を増幅し、クローニングし、配列決定するための試みを行った。
【0200】
6つのプライマーセットを用いて栽培品種PrestigeのMMT野生型遺伝子のヌクレオチド配列を増幅し(表2;実施例8において説明している)、オオムギの変異体8063に対して同様の手法に従った。手短に、ゲノムDNAを変異体から抽出し、MMT遺伝子特異的な、それらの増幅断片をベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カタログ番号K4500−01)に挿入し、クローニングし、配列決定し、つなぎ合わせ(配列番号8)、そして最後に野生型オオムギの配列と比較した。MMT遺伝子のタンパク質をコードする部分に変異は同定されなかった。しかし、変異体の遺伝子と野生型遺伝子のイントロン配列を比較することにより、イントロン5の一番目の塩基(配列番号8のヌクレオチド番号3076)におけるG→A塩基転移が明らかになった。前記塩基は、イントロン5の5’スプライス部位の一部分であり、遺伝子の主要なRNAプロセシング、すなわちRNAスプライシングに影響を及ぼす(SinibaldiおよびMettler、1992年;図12も参照されたい)。
【0201】
変異体8063のMMTをコードする遺伝子における正常な遺伝子スプライシングの摂動に関して塩基変異が果たし得る役割を評価するために、スプライシング中間体を検出するために変異体由来のRNAの詳細な分析を行った。イントロンの5’GTジヌクレオチドの変化が、スプライシング中間体の蓄積につながる可能性があるので、この手法を選択した(Lalら、1999年)。
【0202】
対象の断片を増幅するために、分析はRT−PCRキット(QiagenのOneStep RT−PCR、カタログ番号210212)を使用するために提供された推奨に従った。鋳型として、栽培品種Prestigeおよび変異体8063の4日齢の実生の小葉から、実施例8に記載の通り精製した全RNAを1μg使用した。プライマーセット15(表4)を使用してRT−PCR反応を設計して、野生型Prestigeおよび変異体8063のMMTの転写物のエクソン3からエクソン7にわたる遺伝子領域を増幅した(図12A)。増幅した後、反応生成物を1%アガロースゲルで電気泳動によって分離した(図12B)。
【0203】
増幅生成物を検討することにより、野生型RNAを用いた反応からの単一のバンドのみが明らかになった(図12B)。これをゲルから切り出し、QiaexIIキット(Qiagen、カタログ番号20051)の構成成分を使用して精製し、ベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カタログ番号K4500−01)に挿入し、クローニングし、配列決定した。分析により、野生型オオムギのMMTの全長cDNA(配列番号4)の442〜1323にわたる塩基と同一の配列を特徴とする882bpの断片(図12B、Cの生成物1;配列番号9)が存在することが実証された。この知見に基づいて、選択的スプライシングは野生型遺伝子発現に無関係であると考えられる。
【0204】
変異体8063から精製した鋳型RNAを適用することを除いて、以前の段落で記載したものと同様のRT−PCR反応により、それぞれ、野生型RNAを使用して増幅した生成物1(図12B)と長さが異なる3つの特異的なDNA断片−図12Bの生成物2、生成物3、生成物4を指す−が生成した。したがって、mRNA前駆体のプロセシングは、変異体8063のMMT遺伝子のイントロン5の5’スプライス部位における単一の塩基変異によって妨害される。この筋書では、前記5’スプライス部位の使用が完全に無効になるが、潜在的な、付加的なスプライス部位の使用が活性化される。
【0205】
変異体8063において、上述の3つのPCR断片が得られたことの根底にある分子的原因に取り組む試みにおいて、それぞれを、DNA配列を決定するために、実施例8において栽培品種PrestigeのPCR由来のDNAバンドについて上記した手順を使用して調製した。最大の断片は1089bp長であり(図12Cの生成物2;配列番号10)、イントロン5の全体を含むことが見出され、一方、生成物3(図12C;配列番号12)および生成物4(図12C;配列番号14)は、それぞれ、955bp長および810bp長であり、したがって野生型RNAからの882bpの断片よりも短かった(上記の説明を参照されたい)。生成物3のDNA配列を分析することにより、イントロン5の中央の潜在的なスプライス部位が明らかになり、一方生成物4の潜在的なスプライス部位はエクソン5にあった(図12D)。
【0206】
それぞれ315アミノ酸長、315アミノ酸長、および289アミノ酸長の翻訳されたタンパク質をもたらす中途翻訳終止コドンを、生成物2[オオムギの栽培品種PrestigeからのゲノムDNA(配列番号3)の塩基番号付けによる3088〜3090位におけるTGA]、生成物3[オオムギの栽培品種PrestigeからのゲノムDNA(配列番号3)の塩基番号付けによる3088〜3090位におけるTGA]、および生成物4[オオムギの栽培品種PrestigeからのゲノムDNA(配列番号3)の塩基番号付けによる3289〜3291位におけるTGA]において発見したことも、DNA配列の分析の重要な発見であった。図12Cは生成物1、生成物2、生成物3、および生成物4の配列決定の結果の、図による比較および要約を提供し、一方、図12Dおよび図12Eにおける図は、選択的スプライシング事象に関与する特異的な塩基に対する特異的なデータを提供している。
【0207】
【表4】
†)変異体8063のRNA鋳型を使用するRT−PCR用
‡)変異体14018のRNA鋳型を使用するRT−PCR用
*)MMTのcDNA(配列番号4)についてと同様の塩基対の番号付け
**)「PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の5’末端の配列
***)「PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列
(実施例10)
野生型MMTをコードする発現プラスミド
以下の2つの所見
(i)E.coli細胞はMMTおよびSMMを合成する能力を喪失している(Thanbicherら、1998年):
(ii)植物のMMTをE.coliにおいて合成することができる(Tagamountら、2002年)
により、
上述の細菌において変異したオオムギのMMTまたは切断型のオオムギのMMTを異種発現させることにより、それらのMMTが酵素活性を喪失していることを模擬実験または確認する新しい様式が可能になる。組換えと同様に、E.coliからの野生型オオムギのMMTは、そのような実験において陽性対照として機能すると思われ、課題は、オオムギのMMTを異種発現させるためのE.coli発現プラスミドを設計し、構築することであった。
【0208】
関連性のある配列を増幅するために、まず全RNAを栽培品種Prestigeの4日齢の実生の小葉から抽出し(実施例9において説明している通り)、その1μgを、プライマーセット17を反応混合物に加えた(表5)ことを除いて標準のRT−PCR反応において、鋳型として使用した。増幅生成物を、ベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen)に挿入し、プラスミドpCR2.1−TOPO−MMTを得た。プラスミドをクローニングした後、全挿入物を配列決定し(配列番号5)、栽培品種Prestigeの配列(配列番号4)と比較した。クローニングされた生成物において、MMTのアミノ酸置換、Leu437→His、Tyr985→Met、およびGly1011→Serをもたらす(配列番号6および配列番号7を比較することによって決定された通り)、PCRに誘導されたヌクレオチドの相違が3つ同定された(T1310→A、T2954→C、およびG3031→A)。当該適用に関連性があり得るという意味で、組換えMMTの作用を損なうと予想されたアミノ酸の変化はなかった。この結論は、発現されたタンパク質は活性であり、抗MMT抗体によって認識され得るという知見に基づいた(実施例12参照)。
【0209】
次に、pCR2.1−TOPO−MMTをNdeI−EcoRIを用いて切断し、569bpのNdeI−EcoRI 5’断片および2699bpの3’EcoRI断片を得た。5’断片をNdeI−EcoRIで直線化された発現ベクターpET19b(Novagen、カタログ番号69677−3)に挿入し、生じたプラスミドのEcoRI部位に上記の2699bpの3’断片を挿入し、このようにして発現プラスミドpET19b−MMT(図13A)を生成させた。このMMTをコードする発現プラスミドを、N末端Hisタグ(MGHHHHHHHHHH;配列番号69)およびエンテロキナーゼ部位(SSGHIDDDDKH;配列番号70)に連結させた。
【0210】
【表5】
*)MMTのcDNA(配列番号5)についてと同様の塩基対の番号付け、すなわち、開始コドンの上流のCATおよび終止コドン下流のAATTCの配列の伸長を除外している。
**)プライマーセットによって定義されたように「RT−PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の5’末端の配列。NdeI部位に下線を付した;翻訳開始コドンに二重下線を付した。
***)「RT−PCR生成物の末端」と表示された列に示されている断片の3’末端の相補配列。EcoRI部位に下線を付した。EcoRI部位を含む翻訳終止コドンをイタリック体で示している。
【0211】
(実施例11)
変異体8063の切断型MMTをコードする発現プラスミド
変異体8063のMMTをコードする遺伝子は、実施例9において、イントロン5の5’スプライス部位にG→A塩基転移を含有し、それによって2つの潜在的なスプライス部位が活性化され、その結果、それぞれが中途終止コドンを含有する3つの異常な転写物が発現する(図12B、C参照)ことが示された。
【0212】
変異体の転写物が非機能的MMTをコードすることを確認するために、下記の通りそれぞれの対応するオープンリーディングフレームを増幅し、E.coli発現ベクターに挿入した。選択的にスプライシングされた転写物のうち2つ、詳細には生成物2および生成物3をもたらす転写物(図12B)が、同一のタンパク質をコードすることは注目に値する。したがって、オオムギの変異体8063の異常にスプライシングされた遺伝子が機能的MMT酵素をコードするかどうかを決定するためには、2つの発現プラスミドのみで十分であった。
【0213】
変異体8063における潜在的なスプライシング生成物の配列が分かったことにより(図12D参照)、その構築について実施例10において説明している発現プラスミドpET19b−MMTからの関連性のある遺伝子部分を増幅することが可能になった。表6に列挙されているプライマーセット18を使用して、生成物2(配列番号27)および生成物3(配列番号28)のSacII−BamHI断片として遺伝子の3’部分を増幅した。その後、これらをpET19b−MMTの対応する断片と交換し(図13A参照)、発現プラスミドpET19b−Line8063−Prod2(図13B)およびpET19b−Line8063−Prod3(図13C)を生じさせた。平行して実行する反応では、生成物4(図12B参照)に関連するMMTに対応する切断型MMTを合成するために設計した発現プラスミドpET19b−Line8063−Prod4(図13D;クローニングするための生成物4の配列を示す配列番号29)を生成するために、プライマーセット19(表6)を利用した。
【0214】
図13Eは、野生型MMTと変異体8063によってコードされる切断型生成物の詳細なアミノ酸配列の比較を提供する。
【0215】
【表6】
*)数字は、隣の列に列挙されている対応する配列番号のヌクレオチド番号を指す。
**)一本の下線は、それぞれ、順方向プライマーのSacII部位および逆方向プライマーのBamHI部位にしるしをつけるために使用した。二重下線は終止コドンを示す。
【0216】
(実施例12)
変異体8063の組換えMMT型は不活性である
MMT欠失型の変異体8063が酵素的に不活性であることを立証するために、BL21株のE.coli細胞を、プラスミドpET19b、pET19b−MMT、pET19b−Line8063−Prod3、およびpET19b−Line8063−Prod4で別々に形質転換し(図13参照)、その後、アンピシリンを含有する標準のLuria Broth(LB)培地5mL中で一晩繁殖させた。各培養物の1.25mLの一定分量を、新鮮なLB100mLに加え、細胞密度がOD600=0.6に達するまで37℃でインキュベートした。この時点で、異種タンパク質の発現を誘導するために、1MのIPTGを40μL加えた。20℃で一晩インキュベートした後、個々の培養物の細胞を、4℃、4,000rpmで20分間遠心分離することによって沈殿させた。細胞ペレットのそれぞれを、5mLのH2Oに再懸濁させ、次いで何回かの凍結と融解のサイクルにかけ、最終的に、約750ユニット/Lのヌクレアーゼ(Sigma、カタログ番号E8263−25KU)の存在下、37℃で30分間インキュベートして試料の粘度を低下させた。4℃、4,000rpm、30分間の長さで遠心分離した後、細胞溶解性タンパク質(液相中のタンパク質と定義される)を不溶性タンパク質(ペレット中のタンパク質と定義される)から分離するために、ペレットを、リゾチーム1mgを含有する2mLのH2Oに再懸濁させることによってさらに洗浄した。外界温度で5分間インキュベートした後、15mLのH2Oを添加することによって試料を希釈した。同様の洗浄−沈殿のサイクルを3回行った後、7Mの尿素、2mMのβ−メルカプトエタノールを含有する50mMのTris−Cl緩衝液、pH8.0を1mL用いてペレット中の封入体タンパク質を抽出した。
【0217】
MMT活性についてアッセイするために、細胞溶解性タンパク質(上述のように定義される)を含有する試料50μLを、0.4mMのAdoMet、10mMのMet、1mMのDTT、0.1mg/mLのBSAを含有する25mMのリン酸K緩衝液、pH6.0、250μLに移した。50℃で1時間インキュベートした後、試料を濾過し、10μLの一定分量を、実施例2において説明している通りOPAと反応させた。次いで、SMMレベルについて前記実施例に記載の通りの分析が続き、結果は図14Aに要約されている。pET19b−MMTで形質転換した細胞からの抽出物のみが、SMM標準物質と同じ保持時間でクロマトグラムのピークを生じた。したがって、pET19b−Line8063−Prod3およびpET19b−Line8063−Prod4で形質転換した細胞からのクロマトグラムに同様のピークが存在しないことは、変異体8063が活性なMMTを生成する能力を喪失していることを示している。
【0218】
変異体8063が全長の活性なMMTを生成する能力を喪失していることを立証するために、別々の実験が計画された。上記のE.coli抽出物の、細胞溶解性のタンパク質試料5μLおよびペレット由来のタンパク質試料10μLを、標準の電気泳動によって分離し、オオムギのMMTの15残基長のペプチド抗原を標的とするウサギポリクローナル抗MMT抗体を用いて探索した[図13E(アスタリスクでしるしをつけたひと続きの配列)参照;ポリクローナル抗MMT抗体の、親和性精製した12mLスケールの調製物はInvitrogenから購入し(プロジェクト番号L0402801K;動物番号C7511)、標準のウェスタンブロット分析において1:1000希釈して使用した(図14B、C)]。
【0219】
詳細には、上述のタンパク質を10%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングし、150Vで75分間、電気泳動することによって分離し、その後タンパク質を、電気ブロッティング装置(Trans−Blot SD Semi−Dry Transfer Cell、BioRad)を1cm2当たり2.5mAmp(最大25V)で実行することによってフッ化ポリビニリデン膜(Immobilon−P、Millipore)に移した。トランスブロットを、25℃で1時間、ブロッキング緩衝液[1×リン酸緩衝食塩水(PBS)、1%BSA]中に置いた。ブロッキング溶液を除去し、膜を抗MMT抗体の溶液中に1時間置いた。その後、膜を1×PBSですすぎ、ヤギ抗ウサギIgGアルカリホスファターゼ溶液(Sigma)中で1時間インキュベートした。上述のインキュベートの後、膜を1×TBS中ですすぎ、続いて、ニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドールリン酸(Sigma)を使用してインキュベートした後、タンパク質バンドを視覚化した。ゲルを、最後に水中ですすいでホスファターゼ反応を停止させた。
【0220】
上記の抗MMT抗体の調製物を使用して、pET19b−MMT(図14B、C;「2」としるしが付いたレーン)、pET19b−Line8063−Prod3(図14B、C;「3」としるしが付いたレーン)、pET19b−Line8063−Prod4(図14B、C;「4」としるしが付いたレーン)およびpET19b(図14B、C;「5」としるしが付いたレーン)で形質転換したE.coli細胞の細胞溶解性のタンパク質およびペレット由来のタンパク質のブロットを探索した。細胞溶解性のタンパク質およびペレット由来のタンパク質の全体的なバンドのパターンが異なるにもかかわらず(ペレット由来のタンパク質のバンドは、一般に、ゲルの上端で開始し、ゲルの下端まで下に広がるタンパク質バンドのスメアとして現れる)、pET19b−MMTで形質転換した細胞の抽出物において、全長のMMTが、120kDaのマーカータンパク質(「1」としるしが付いたレーン)と共に移動するタンパク質バンドとして認識された。pET19b−Line8063−Prod3およびpET19b−Line8063−Prod4で形質転換した細胞の不活性型MMTタンパク質は、30kDaから40kDaの間のブロット領域において強く染色されたバンドに対応すると予想された。染色された80kDaのタンパク質バンドは、ベクターpET19bで形質転換した陰性対照の細胞の抽出物においても現れたので、MMT由来ではないことは注目に値する。
【0221】
上記の、野生型オオムギおよび変異体8063の組換えMMT型を生成するために設計した、MMT型の異種発現の実験結果に基づいて、前記変異体におけるMMT型ではなく野生型MMTのみが活性であると結論付けられる。したがって、MetをDMS前駆物質のSMMに転換することを触媒する能力は、変異体8063とは対照的に、野生型オオムギに限定される。
【0222】
(実施例13)
オオムギの変異体8063についてのモニタリングシステム
変異体8063のオオムギ穀粒を検出するための生化学的アッセイ(実施例2参照)に加えて、本実施例は、変異体の穀粒またはその生成物を同定するために設計した遺伝学的方法を記載する。当業者に公知の適切な改変と共に、この方法は、所与の植物生成物がオオムギの変異体8063を使用して調製されるかどうかを検出するためにも適用することができる。アッセイは、図15に例示した通りの、表7に列挙されているオリゴヌクレオチドプライマーセットの特性を持つ、変異体8063のMTT遺伝子の一塩基多型(SNP)、詳細には3076位におけるG→A変異を検出するための分析に基づいている。
【0223】
オオムギの栽培品種PrestigeのゲノムDNAを用いた反応において、プライマーセット番号20を鋳型として適用した場合、271bpの、配列番号33で示される配列のPCR生成物が生成し、一方、鋳型として変異体8063のゲノムDNAが機能した場合、生成物は増幅されなかった。後者の場合は、単純に、逆方向プライマーの3’末端と鋳型の間に塩基対合がなかったことによる(図19A)。しかし、変異体8063のゲノムDNA(配列番号34;図19A)を用いたPCR増幅において、プライマーセット番号21を用いると、逆方向プライマーが鋳型と完全な配列一致を有するので、271bpのPCR生成物が得られる。変異体8063のMMT遺伝子におけるG3076→A変異を含有する断片を増幅するための2つ、および変異体14018のMMT遺伝子(配列番号36、実施例17参照)におけるG1462→A変異のための2つであるプライマーセット番号20および21として列挙された4つの上述のプライマーからなるプライマーセット番号22を設計して、上述のヌクレオチド変異をどちらも含有するMMTの変異遺伝子が存在することをモニターする。
【0224】
上記のPCR増幅それぞれを、ゲノムDNA200ngおよび特異的なプライマーセット(表7)の各プライマー50〜100pmolからなるRedTaqポリメラーゼ反応物50μL(Sigma、カタログ番号D6063)として、実験的に行う。標準のPCRサイクラーにおいて増幅した後(95℃で1分;次いで94℃、60秒−64℃、30秒−72℃、30秒を30サイクル;終わりに72℃で10分)、試料の一定分量25μLを2%アガロースゲルで標準の電気泳動にかける。図15Cに例示している通り、栽培品種PrestigeのゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号20の存在下では、271bpのDNA断片が得られ、プライマーセット番号21の存在下では断片が得られなかった。そして、変異体8063のゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号20の存在下では断片が得られず、プライマーセット番号21の存在下では271bpのDNA断片が得られた。後者の結果が、アイデンティティが未知のオオムギ子実のゲノムDNAを用いたPCRのアウトカムである場合、鋳型DNAが、変異体8063のDNAと同一である可能性が高い。この結論を支持するためのさらなる取組みは、SMMのレベルについて(実施例2参照)およびMMT活性について(実施例4参照)試験するための分析を含む。
【0225】
変異体8063がMMTを喪失していることを立証するための別の方法は、実施例3において説明している通り、技術的な手順および抗MMT抗体を使用するウェスタンブロット分析を伴う。実際的に述べると、栽培品種Prestigeの穀粒および変異体8063の穀粒を、20℃で4日間、発芽させ、続いて野生型の穀粒1つおよび変異体の穀粒1つを、それぞれ250μLのH2O中で別々にホモジナイズした。13,000rpmで10分間遠心分離した後、それぞれの上清15μLをSDSローディング緩衝液5μLと混合し、5分間煮沸し、12%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングし、電気泳動によって分離し、電気ブロッティングし、そして最終的にポリクローナル抗MMT抗体を用いて探索した(図15D)。120kDaの明瞭なMMTタンパク質バンドが、栽培品種Prestigeの抽出物において容易に認識でき、一方、120kDaのマーカータンパク質と共に移動した変異体8063の免疫反応性タンパク質はなかった。したがって、上述のウェスタンブロット分析法は、発芽しているオオムギ穀粒がMMTを生成するか、またはその能力を喪失しているかを調査するために有用である。所与の子実が変異体8063由来であるかどうかを確認するために別の分子的検査および生化学検査を使用することができる。
【0226】
【表7】
*)MMTゲノム野生型配列(配列番号3)についてと同様の塩基対の番号付け
**)変異体8063のMMTゲノム配列(配列番号8)についてと同様の塩基対の番号付け
***)変異体14018のMMTゲノム配列(配列番号19)についてと同様の塩基対の番号付け
****)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙された断片の5’末端の配列
*****)「PCR生成物の末端」と表示された列に示された断片の3’末端の相補配列
(実施例14)
オオムギの変異体14018のMMTをコードする遺伝子はイントロン2の5’スプライス部位において変異している
オオムギの変異体14018の発芽した穀粒の抽出物において極度に少ないレベルのSMMが発見された、またはSMMが全く発見されなかったことに従って、その植物体を、上記の実施例9において変異体8063について説明したのと同じ実験条件下で分析した。しかし、この場合は、野生型植物材料は、変異体14018を含む穀粒のバッチにおいてNaN3を用いて変異誘発するために栽培品種Sebastianが利用されたので、栽培品種Sebastianからのものであった。ヌルMMT表現型を引き起こす変異を同定するための実験を設計し、下記のように実施した。
【0227】
第1に、栽培品種Sebastian(ゲノムDNA配列に対して配列番号16;cDNA配列に対して配列番号17;翻訳されたcDNA配列に対して配列番号18;すべての場合において、本明細書の実施例8記載の栽培品種Prestigeと同一の配列を伴う)と、変異体14018(ゲノム配列に対して配列番号19、およびcDNA配列に対して配列番号20、21、23、25)のMMTをコードする遺伝子の別個のゲノムDNA配列の比較を、翻訳開始コドンから翻訳終止コドンにわたる領域に焦点を合わせて行った。変異体14018の配列決定された遺伝子部分、詳細にはエクソン2のすぐ下流のイントロン2の一番目の塩基における供与体スプライシング供与部位、より詳細にはヌクレオチド番号1462においてG→A塩基転移が同定され、したがって、遺伝子転写物の主要なRNAプロセシングに影響を及ぼすことが予測される(図16)。
【0228】
第2に、プライマーセット16(表4)を使用してRT−PCR反応を設計し、栽培品種Sebastianおよび変異体14018のMMTをコードする遺伝子のエクソン2からエクソン5にわたる遺伝子領域を増幅するために調整した(図16A)。DNAを増幅した後、反応生成物をアガロースゲル電気泳動にかけ、図16Bに示した結果が伴った。実施例9において変異体8063について説明したのと同様に、栽培品種Sebastianからの野生型RNAにより、1つのPCR断片、図16Bの生成物5がもたらされ、その長さおよびDNA配列は(配列番号20参照)、野生型オオムギのMMTの全長cDNA(配列番号17)の246〜933にわたる塩基と同一であった。この結果は、選択的スプライシングが野生型遺伝子発現の特徴ではないことを重ねて強調している。
【0229】
第3に、変異体14018から精製された鋳型RNAをPCR反応に利用し、野生型鋳型の増幅生成物と長さおよび配列が異なる3つの特異的な断片−図16B、Cにおける生成物6(配列番号21)、生成物7(配列番号23)および生成物8(配列番号25)を指す−が生成した。この所見は、変異体14018のMMT遺伝子のイントロン2の5’スプライス部位における単一の変異により、通常のスプライス部位が削除され、その代わりに潜在的な、付加的なスプライス部位の使用が活性化されることによって、mRNA前駆体のプロセシングが妨害されることを示唆している。この点において、生成物6および生成物7の両方に対して、イントロン2において潜在的なスプライス部位が同定され、一方、生成物8の潜在的なスプライス部位はエクソン2にあった。上述の配列決定結果の図による比較を図16Cに提供している。
【0230】
さらに、DNA配列の分析により、それぞれ、配列番号22、配列番号24、および配列番号26として列挙されており、186アミノ酸長、180アミノ酸長および163アミノ酸長の翻訳されたタンパク質をもたらす、生成物6における中途翻訳終止コドン[オオムギの栽培品種SebastianからのゲノムDNA(配列番号16)の塩基番号付けによる、塩基1579〜1581におけるTAG]、生成物7における中途翻訳終止コドン[オオムギの栽培品種SebastianからのゲノムDNA(配列番号16)の塩基番号付けによる、塩基1840〜1842におけるTAA]、および生成物8における中途翻訳終止コドン[オオムギの栽培品種SebastianからのゲノムDNA(配列番号16)の塩基番号付けによる、塩基1916〜1918におけるTGA]が明らかになった。変異体8063について上記した結果(図12D、E)と平行して、図16D、Eにおける図は、選択的スプライシング事象に関与する特異的な塩基の性質による特異的なデータを提供している。
【0231】
(実施例15)
変異体14018の切断型MMTを合成するためのプラスミドの発現
変異体14018由来の、3つの、切断型の組換えバージョンのMMTの合成を導く発現プラスミドを構築するための原理および戦略は、実施例11において変異体8063について説明したものと同様であった。簡潔に述べると、実験目的は、変異体14086の異常性のスプライシング事象により、不活性なMMTをコードする転写物が生成することを立証することであった。したがって、組換え型のひと続きの遺伝子は、生成物6、生成物7および生成物8(図16B、C参照)につながる異常性のスプライシング事象を反映している配列のタンパク質をコードするはずであり、その配列は、配列番号22、配列番号24および配列番号26に列挙されている。
【0232】
プライマーセット番号23、24および25(表8)を用いた3回の標準の連続PCRにおける鋳型としてプラスミドpET19b−MMT(実施例10参照)を使用し、394bpの増幅断片(配列番号30)が生じた。この増幅断片をSacII−BamHIを用いて消化し、pET19b−MMTの大きなSacII−BamHI断片とライゲーションし(図17A)、図16Bに示した生成物6に対応する切断型MMTを合成するために設計した発現プラスミドpET19b−Line14086−Prod6を生じさせた(図17B)。
【0233】
394bpの断片について上記したものと同じ手順を利用して、しかし今度は3回の連続PCR増幅(表8)においてプライマーセット番号23、24および26を用いて、376bpの断片を生成し(配列番号31)、それをSacII−BamHIを用いて消化したら、pET19b−MMT(図17A)の大きなSacII−BamHI断片とライゲーションし、発現プラスミドpET19b−Line14086−Prod7(図17C)を生じさせた。この発現プラスミドは、図16Bに示した生成物7を示しているものに対応する切断型MMTを合成するために設計した。
【0234】
pET19b−MMTについて記載したのと同様の方法だが、プライマーセット番号27および28(表8)を用いて行った平行して実行する実験では、325bpの断片(配列番号32)を増幅し、それをSacII−BamHIを用いて消化したら、pET19b−MMT(図17A)の大きなSacII−BamHI断片とライゲーションし、生成物8(図16B参照)に対応する切断型MMTを合成するための発現プラスミドpET19b−Line14086−Prod8(図17D)を生じさせた。
【0235】
【表8】
*)下線を付したSacII部位を持つ同じ順方向プライマーをすべての反応に利用したことに留意されたい。逆方向プライマーについて、鋳型DNAにアニーリングしない5’伸長を波形の下線で示している;BamHI部位をイタリックで示し、相補翻訳終止コドンを太字文字で示している。
**)数字は、隣の列に列挙されている対応する配列番号のヌクレオチド番号を指す。
【0236】
(実施例16)
変異体14018の組換えMMT型は不活性である
実施例12の手順に従い、変異体8063由来の構築物を変異体14018由来の構築物と置き換えた。E.coli細菌を、pET19b−Line14018−Prod6、pET19b−Line14018−Prod7およびpET19b−Line14018−Prod8(図17A〜D、図17Eに示している対応するアミノ酸のアラインメントを持つ)で形質転換したが、実施例12に記載の抗MMT抗体はMMTの変異体14018特異的な部分にはないひと続きの配列に対して生じたので、この実験では、ウェスタンブロット分析を除いた。
【0237】
形質転換した細菌の抽出物でSMMを生成できることが明らかになったものはなかったので(図18)、上記の実施例12でもたらされたのと同じ論証により、オオムギの変異体14018が、DMS前駆物質であるSMMの形成を触媒する能力を喪失している、非機能的MMT酵素を生成するという結論のための基礎がもたらされる。
【0238】
(実施例17)
オオムギの変異体14018についてのモニタリングシステム
変異体14018のオオムギ穀粒を検出するための生化学的アッセイ(実施例2参照)に加えて、本実施例は、オオムギ変異体14018から調製された変異穀粒または植物生成物を同定するために設計した遺伝学的方法を記載する。この方法は、図19に例示した通りの、表9に列挙されているオリゴヌクレオチドプライマーセットの特性を持つ、変異体14018のMTT遺伝子の一塩基多型(SNP)、詳細には、1462位におけるG→A変異を検出するための分析に基づいている。
【0239】
オオムギの栽培品種SebastianのゲノムDNAを用いた反応において、プライマーセット番号29を鋳型として適用した場合、121bpの、配列番号35で示される配列のPCR生成物が生成し、一方、変異体14018のゲノムDNAが鋳型として機能した場合、生成物は増幅されなかった。後者の場合は、単純に、逆方向プライマーの3’末端と鋳型の間に塩基対合がなかったことによる(図19B)。しかし、変異体14018のゲノムDNA(配列番号36)を用いたPCR増幅において、プライマーセット番号30を用いると、逆方向プライマーが鋳型と完全な配列一致を有するので(図19B)、121bpのPCR生成物が得られる。変異体14018のMMT遺伝子(すなわち、配列番号36)におけるG1462→A変異を含有する断片を増幅するための2つ、および変異体8063のMMT遺伝子(配列番号34、実施例9参照)におけるG3076→A変異のための2つであるプライマーセット番号29および30として列挙された4つの上述のプライマーからなるプライマーセット番号31を設計して、上述のヌクレオチド変異をどちらも含有するMMTの変異遺伝子が存在することをモニターする。
【0240】
上記のPCR増幅それぞれを、ゲノムDNA200ngおよび特異的なプライマーセット(表7)の各プライマー50〜100pmolからなるRedTaqポリメラーゼ反応物50μl(Sigma、カタログ番号D6063)として、実験的に行う。標準のPCRサイクラーにおいて増幅した後(95℃で1分;次いで94℃、60秒−64℃、30秒−72℃、30秒を30サイクル;終わりに72℃で10分)、試料の一定分量25μlを2%アガロースゲルで標準の電気泳動にかける。図19Cに例示している通り、栽培品種SebastianのゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号29の存在下では、121bpのDNA断片が得られ、プライマーセット番号30の存在下では断片が得られなかった。そして、変異体14018のゲノムDNAを用いたPCRにより、プライマーセット番号29の存在下では断片が得られず、プライマーセット番号30の存在下では123bpのDNA断片が得られた。後者の結果が、アイデンティティが未知のオオムギ子実のゲノムDNAを用いたPCRのアウトカムである場合、鋳型DNAが、変異体14018のDNAと同一である可能性が高い。この結論を支持するためのさらなる取組みは、SMMのレベルについて(実施例2参照)およびMMT活性について(実施例4参照)試験するための分析を含む。
【0241】
変異体14018がMMTを喪失していることを立証するための別の方法は、実施例3において説明している通り、技術的な手順および抗MMT抗体を使用するウェスタンブロット分析を伴う。実際的に述べると、栽培品種Sebastianの穀粒および変異体14018の穀粒を、20℃で4日間、発芽させ、続いて野生型の穀粒1つおよび変異体の穀粒1つを、それぞれ100μLのH2O中で別々にホモジナイズした。13,000rpmで10分間遠心分離した後、それぞれの上清15μLをSDSローディング緩衝液5μLと混合し、5分間煮沸し、12%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングし、電気泳動によって分離し、電気ブロッティングし、そして最終的にポリクローナル抗MMT抗体を用いて探索した(図15D)。120kDaの明瞭なMMTタンパク質バンドが、栽培品種Sebastianの抽出物において容易に認識でき、一方、120kDaのマーカータンパク質と共に移動した変異体14018の免疫反応性タンパク質はなかった。したがって、上述のウェスタンブロット分析法は、発芽しているオオムギ穀粒がMMTを生成するか、またはその能力を喪失しているかを調査するために有用である。所与の子実が変異体14018由来であるかどうかを確認するために別の分子的検査および生化学検査を使用することができる。
【0242】
【表9】
*)MMTゲノム野生型配列(配列番号16)についてと同様の塩基対の番号付け
**)変異体14018のMMTゲノム配列(配列番号19)についてと同様の塩基対の番号付け
***)変異体8063のMMTゲノム配列(配列番号8)についてと同様の塩基対の番号付け
****)「PCR生成物の末端」と表示された列に列挙された断片の5’末端の配列
*****)「PCR生成物の末端」と表示された列に示された断片の3’末端の相補配列
【0243】
【数1】
【0244】
【数2】
【0245】
【数3】
【0246】
【数4】
【0247】
【数5】
【0248】
【表10−1】
【0249】
【表10−2】
【0250】
【表10−3】
【0251】
【表10−4】
【0252】
【表10−5】
【0253】
【表10−6】
【0254】
【表10−7】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料であって、前記飲料が30ppb未満のレベルの硫化ジメチル(DMS)を含有し、前記オオムギ植物体またはその一部が、メチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)をコードする遺伝子において、機能的MMTの完全な喪失を引き起こす変異を保有する、飲料。
【請求項2】
モルト飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
発酵モルト飲料である、請求項1および2のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項4】
ビールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
前記飲料が、25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、例えば、検出可能なDMSを含有しない、請求項1から4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
前記飲料が、20ppb未満のDMSを含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
前記飲料が、50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のS−メチル−l−メチオニン(SMM)を含有し、なおより好ましくは検出可能なSMMを含有しない、請求項1から6のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項8】
前記飲料が、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、なおより好ましくは検出可能なDMSを含有せず、および、50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含有し、なおより好ましくは検出可能なSMMを含有しない、請求項1から7のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
前記飲料が、20ppb未満のDMSおよび20ppb未満のSMMを含有し、好ましくは、5ppb未満のDMSおよび5ppb未満のSMMを含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項10】
野生型のオオムギから、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料との比較において、いずれの飲料のエステルプロファイルも同様となるように調整した場合、熟練の試飲パネルが評価する新鮮さおよび/またはエステル風味についてより高いスコアを示す、請求項1から9のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項11】
野生型のオオムギから、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料との比較において、熟練の試飲パネルが評価するエステル風味についてより高いスコアを示す、請求項1から10のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項12】
メチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)機能の完全な喪失を引き起こす、MMTをコードする遺伝子における変異を保有する、オオムギ植物体またはその一部。
【請求項13】
前記変異が、前記MMTをコードする遺伝子のスプライス部位内にある、請求項12に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項14】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、イントロンのスプライス部位内にある、請求項12から13のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項15】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、イントロンの5’末端塩基のG→A変異など、イントロンの5’側スプライス部位における変異である、請求項12から14のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項16】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、イントロン2および5からなる群から選択されるイントロンの5’側スプライス部位における変異である、請求項12から15のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項17】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、配列番号3の塩基番号3076のG→A変異である、請求項12から16のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項18】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、配列番号16の塩基番号1462のG→A変異である、請求項12から16のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項19】
前記変異の結果として、野生型MMTのN末端断片と、場合によって、野生型MMTには見出されないさらなるC末端配列とを含むMMTの切断形態をコードする遺伝子をもたらし、前記N末端断片が、配列番号6の最大で500、より好ましくは最大で450、なおより好ましくは最大で400、さらにより好ましくは最大で350、なおより好ましくは最大で320、さらにより好ましくは最大で311、または最大で288のN末端アミノ酸残基を含む、請求項12から18のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項20】
前記変異が、前記MMTをコードする遺伝子内に未熟終止コドン、好ましくは、請求項19に記載のMMTの切断形態のうちのいずれかをコードする遺伝子を結果としてもたらす終止コドンを導入する、請求項12から19のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項21】
「オオムギ(Hordeum vulgare):8063系統」と称し、PTA−9543の表記で2008年10月13日にATCCへと寄託された植物体と、それらの子孫植物体とからなる群から選択される、請求項12から17のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項22】
前記オオムギ植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項12から21のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項23】
(i)オオムギ植物体、および/またはオオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽、および/またはオオムギ細胞、および/またはオオムギ組織を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得る工程と;
(ii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、オオムギ細胞、オオムギ組織、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり繁殖させ、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得る工程と;
(iii)前記Mx世代のオオムギ穀粒から葉組織を得る工程と;
(iv)前記穀粒またはそれらの一部におけるSMMレベルを決定する工程と;
(v)検出可能なSMMを欠く植物体を選択する工程と;
(vi)前記MMT遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程と;
(vii)前記MMTをコードする遺伝子における変異を保有する植物体を選択する工程と
を含む方法により作製されるか、またはこれらの工程を含む方法により作製される植物体の子孫である、請求項12から22のうちのいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項24】
請求項12から23のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部から調製される、請求項1から11のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項25】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物。
【請求項26】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体である加工オオムギ植物体またはその一部を含む植物生成物。
【請求項27】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体である加工オオムギ植物体またはその一部を含むモルト組成物である、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項28】
前記オオムギ植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項27に記載のモルト組成物。
【請求項29】
グリーンモルトおよびキルン乾燥モルトからなる群から選択される、請求項27から28のいずれか一項に記載のモルト組成物。
【請求項30】
粉砕モルトである、請求項27から28のいずれか一項に記載のモルト組成物。
【請求項31】
最大で200ppb、好ましくは最大で150ppb、より好ましくは最大で100ppb、なおより好ましくは最大で50ppb、例えば最大で25ppbの遊離DMSを含む、請求項27から30のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項32】
最大で1000ppb、好ましくは最大で500ppb、より好ましくは最大で150ppbのSMMを含む、請求項27から31のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項33】
最大で200ppbの遊離DMSおよび最大で1000ppbのSMMを含む、例えば最大で25ppbの遊離DMSおよび最大で150ppbのSMMを含む、請求項27から32のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項34】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を用いるか、前記オオムギ植物体もしくはその一部、またはこれらの混合物から調製されたモルト組成物を用いて調製されたウォート組成物である、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項35】
70℃を超えない温度、好ましくは69℃を超えない温度におけるマッシングを用いて生成させる、請求項34に記載のウォート組成物。
【請求項36】
最長で45分間、なおより好ましくは最長で30分間煮沸される、請求項34から35のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項37】
前記植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項34から36のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項38】
前記モルト組成物が、請求項27から33のいずれかに記載のモルト組成物である、請求項34から37のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項39】
請求項34から38のいずれか一項に記載のウォート組成物であるか、または前記組成物から調製した飲料である、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項40】
(i)請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物と;
(ii)請求項27から33のいずれかに記載のモルト組成物と
の混合物から調製される組成物。
【請求項41】
請求項27から33のいずれか一項に記載のモルト組成物、または請求項34から38のいずれか一項に記載のウォート組成物から調製される、請求項1から11のいずれかに記載の飲料。
【請求項42】
オオムギシロップ、モルトシロップ、オオムギ抽出物、およびモルト抽出物からなる群から選択される、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項43】
30ppb未満のDMSを含有する飲料を作製する方法であって、
(i)請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物を調製する工程と;
(ii)(i)の組成物を飲料へと加工する工程と
を含み、これらにより、30ppb未満のDMSを含有する飲料を得る方法。
【請求項44】
20ppb未満のDMS、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有する飲料を作製する方法である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
工程(i)が、前記オオムギ植物体の穀粒またはその一部からモルト組成物を調製する工程を含む、請求項43から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、マッシング工程を含み、これによりウォート組成物を生成させる、請求項43から45のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記マッシング工程が、70℃を超えない温度、好ましくは69℃を超えない温度におけるマッシングを用いて実施される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、マッシング工程、ウォート濾過工程、およびスパージング工程を含み、これらによりウォート組成物を生成させる、請求項43から47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、前記ウォートを煮沸する工程を含み、前記ウォートが最長で45分間、なおより好ましくは最長で30分間煮沸される、請求項46から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、前記ウォートの発酵を含む、請求項46から49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
最大で200ppbの遊離DMSを含むモルト組成物を生成させる方法であって、
(i)請求項22に記載の穀粒を供給する工程と;
(ii)前記穀粒をスティーピングする工程と;
(iii)前記スティーピングされた穀粒を、所定の条件下で発芽させる工程と;
(iv)発芽した穀粒を加熱処理する工程と
を含み、これらにより、最大で200ppbの遊離DMSを含むモルト組成物を生成させる方法。
【請求項52】
MMT活性の完全な喪失を引き起こす、MMTをコードする遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体を調製する方法であって、
(i)オオムギ植物体、および/またはオオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽、および/またはオオムギ細胞、および/またはオオムギ組織を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得る工程と;
(ii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、オオムギ細胞、オオムギ組織、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり繁殖させ、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得る工程と;
(iii)前記Mx世代のオオムギ植物体から試料を得る工程と;
(iv)前記試料中におけるSMMレベルを決定する工程と;
(v)検出可能なSMM活性を欠く植物体を選択する工程と;
(vi)前記MMT遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程と;
(vii)前記MMT遺伝子における変異を保有する植物体を選択する工程と
を含み、これらにより、MMT活性の完全な喪失を引き起こす、前記MMTをコードする遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体を得る方法。
【請求項53】
(i)MMT活性の完全な喪失を引き起こす、MMTをコードする遺伝子における変異;および
(ii)リポキシゲナーゼ1活性の完全な喪失を引き起こす、リポキシゲナーゼ1をコードする遺伝子における変異
を保有するオオムギ植物体またはその一部。
【請求項54】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、請求項13から20のいずれか一項に記載の変異である、請求項53に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項55】
請求項53から54のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部から調製される植物生成物。
【請求項56】
飲料、好ましくはビールである、請求項55に記載の植物生成物。
【請求項1】
オオムギ植物体またはその一部から調製される飲料であって、前記飲料が30ppb未満のレベルの硫化ジメチル(DMS)を含有し、前記オオムギ植物体またはその一部が、メチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)をコードする遺伝子において、機能的MMTの完全な喪失を引き起こす変異を保有する、飲料。
【請求項2】
モルト飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
発酵モルト飲料である、請求項1および2のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項4】
ビールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
前記飲料が、25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、例えば、検出可能なDMSを含有しない、請求項1から4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
前記飲料が、20ppb未満のDMSを含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項7】
前記飲料が、50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のS−メチル−l−メチオニン(SMM)を含有し、なおより好ましくは検出可能なSMMを含有しない、請求項1から6のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項8】
前記飲料が、30ppb未満、好ましくは25ppb未満、より好ましくは20ppb未満、なおより好ましくは15ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有し、なおより好ましくは検出可能なDMSを含有せず、および、50ppb未満、好ましくは40ppb未満、より好ましくは30ppb未満、なおより好ましくは20ppb未満、さらにより好ましくは10ppb未満、なおより好ましくは5ppb未満のSMMを含有し、なおより好ましくは検出可能なSMMを含有しない、請求項1から7のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
前記飲料が、20ppb未満のDMSおよび20ppb未満のSMMを含有し、好ましくは、5ppb未満のDMSおよび5ppb未満のSMMを含有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項10】
野生型のオオムギから、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料との比較において、いずれの飲料のエステルプロファイルも同様となるように調整した場合、熟練の試飲パネルが評価する新鮮さおよび/またはエステル風味についてより高いスコアを示す、請求項1から9のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項11】
野生型のオオムギから、好ましくは栽培品種Powerから同じ方法で調製した飲料との比較において、熟練の試飲パネルが評価するエステル風味についてより高いスコアを示す、請求項1から10のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項12】
メチオニン−S−メチルトランスフェラーゼ(MMT)機能の完全な喪失を引き起こす、MMTをコードする遺伝子における変異を保有する、オオムギ植物体またはその一部。
【請求項13】
前記変異が、前記MMTをコードする遺伝子のスプライス部位内にある、請求項12に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項14】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、イントロンのスプライス部位内にある、請求項12から13のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項15】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、イントロンの5’末端塩基のG→A変異など、イントロンの5’側スプライス部位における変異である、請求項12から14のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項16】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、イントロン2および5からなる群から選択されるイントロンの5’側スプライス部位における変異である、請求項12から15のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項17】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、配列番号3の塩基番号3076のG→A変異である、請求項12から16のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項18】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、配列番号16の塩基番号1462のG→A変異である、請求項12から16のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項19】
前記変異の結果として、野生型MMTのN末端断片と、場合によって、野生型MMTには見出されないさらなるC末端配列とを含むMMTの切断形態をコードする遺伝子をもたらし、前記N末端断片が、配列番号6の最大で500、より好ましくは最大で450、なおより好ましくは最大で400、さらにより好ましくは最大で350、なおより好ましくは最大で320、さらにより好ましくは最大で311、または最大で288のN末端アミノ酸残基を含む、請求項12から18のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項20】
前記変異が、前記MMTをコードする遺伝子内に未熟終止コドン、好ましくは、請求項19に記載のMMTの切断形態のうちのいずれかをコードする遺伝子を結果としてもたらす終止コドンを導入する、請求項12から19のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項21】
「オオムギ(Hordeum vulgare):8063系統」と称し、PTA−9543の表記で2008年10月13日にATCCへと寄託された植物体と、それらの子孫植物体とからなる群から選択される、請求項12から17のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項22】
前記オオムギ植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項12から21のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項23】
(i)オオムギ植物体、および/またはオオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽、および/またはオオムギ細胞、および/またはオオムギ組織を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得る工程と;
(ii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、オオムギ細胞、オオムギ組織、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり繁殖させ、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得る工程と;
(iii)前記Mx世代のオオムギ穀粒から葉組織を得る工程と;
(iv)前記穀粒またはそれらの一部におけるSMMレベルを決定する工程と;
(v)検出可能なSMMを欠く植物体を選択する工程と;
(vi)前記MMT遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程と;
(vii)前記MMTをコードする遺伝子における変異を保有する植物体を選択する工程と
を含む方法により作製されるか、またはこれらの工程を含む方法により作製される植物体の子孫である、請求項12から22のうちのいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項24】
請求項12から23のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部から調製される、請求項1から11のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項25】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物。
【請求項26】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体である加工オオムギ植物体またはその一部を含む植物生成物。
【請求項27】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体である加工オオムギ植物体またはその一部を含むモルト組成物である、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項28】
前記オオムギ植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項27に記載のモルト組成物。
【請求項29】
グリーンモルトおよびキルン乾燥モルトからなる群から選択される、請求項27から28のいずれか一項に記載のモルト組成物。
【請求項30】
粉砕モルトである、請求項27から28のいずれか一項に記載のモルト組成物。
【請求項31】
最大で200ppb、好ましくは最大で150ppb、より好ましくは最大で100ppb、なおより好ましくは最大で50ppb、例えば最大で25ppbの遊離DMSを含む、請求項27から30のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項32】
最大で1000ppb、好ましくは最大で500ppb、より好ましくは最大で150ppbのSMMを含む、請求項27から31のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項33】
最大で200ppbの遊離DMSおよび最大で1000ppbのSMMを含む、例えば最大で25ppbの遊離DMSおよび最大で150ppbのSMMを含む、請求項27から32のいずれかに記載のモルト組成物。
【請求項34】
請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を用いるか、前記オオムギ植物体もしくはその一部、またはこれらの混合物から調製されたモルト組成物を用いて調製されたウォート組成物である、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項35】
70℃を超えない温度、好ましくは69℃を超えない温度におけるマッシングを用いて生成させる、請求項34に記載のウォート組成物。
【請求項36】
最長で45分間、なおより好ましくは最長で30分間煮沸される、請求項34から35のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項37】
前記植物体の前記一部が、穀粒(複数可)である、請求項34から36のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項38】
前記モルト組成物が、請求項27から33のいずれかに記載のモルト組成物である、請求項34から37のいずれか一項に記載のウォート組成物。
【請求項39】
請求項34から38のいずれか一項に記載のウォート組成物であるか、または前記組成物から調製した飲料である、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項40】
(i)請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物と;
(ii)請求項27から33のいずれかに記載のモルト組成物と
の混合物から調製される組成物。
【請求項41】
請求項27から33のいずれか一項に記載のモルト組成物、または請求項34から38のいずれか一項に記載のウォート組成物から調製される、請求項1から11のいずれかに記載の飲料。
【請求項42】
オオムギシロップ、モルトシロップ、オオムギ抽出物、およびモルト抽出物からなる群から選択される、請求項26に記載の植物生成物。
【請求項43】
30ppb未満のDMSを含有する飲料を作製する方法であって、
(i)請求項12から23のいずれかに記載のオオムギ植物体またはその一部を含む組成物を調製する工程と;
(ii)(i)の組成物を飲料へと加工する工程と
を含み、これらにより、30ppb未満のDMSを含有する飲料を得る方法。
【請求項44】
20ppb未満のDMS、なおより好ましくは5ppb未満のDMSを含有する飲料を作製する方法である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
工程(i)が、前記オオムギ植物体の穀粒またはその一部からモルト組成物を調製する工程を含む、請求項43から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、マッシング工程を含み、これによりウォート組成物を生成させる、請求項43から45のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記マッシング工程が、70℃を超えない温度、好ましくは69℃を超えない温度におけるマッシングを用いて実施される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、マッシング工程、ウォート濾過工程、およびスパージング工程を含み、これらによりウォート組成物を生成させる、請求項43から47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、前記ウォートを煮沸する工程を含み、前記ウォートが最長で45分間、なおより好ましくは最長で30分間煮沸される、請求項46から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記組成物を飲料へと加工する工程が、前記ウォートの発酵を含む、請求項46から49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
最大で200ppbの遊離DMSを含むモルト組成物を生成させる方法であって、
(i)請求項22に記載の穀粒を供給する工程と;
(ii)前記穀粒をスティーピングする工程と;
(iii)前記スティーピングされた穀粒を、所定の条件下で発芽させる工程と;
(iv)発芽した穀粒を加熱処理する工程と
を含み、これらにより、最大で200ppbの遊離DMSを含むモルト組成物を生成させる方法。
【請求項52】
MMT活性の完全な喪失を引き起こす、MMTをコードする遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体を調製する方法であって、
(i)オオムギ植物体、および/またはオオムギ穀粒、および/またはオオムギ胚芽、および/またはオオムギ細胞、および/またはオオムギ組織を変異誘発し、これにより、M0世代のオオムギを得る工程と;
(ii)前記変異誘発されたオオムギ植物体、オオムギ穀粒、オオムギ細胞、オオムギ組織、および/またはオオムギ胚芽を、少なくとも2世代にわたり繁殖させ、これにより、Mx(ここで、xは、≧2の整数である)世代のオオムギ植物体を得る工程と;
(iii)前記Mx世代のオオムギ植物体から試料を得る工程と;
(iv)前記試料中におけるSMMレベルを決定する工程と;
(v)検出可能なSMM活性を欠く植物体を選択する工程と;
(vi)前記MMT遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程と;
(vii)前記MMT遺伝子における変異を保有する植物体を選択する工程と
を含み、これらにより、MMT活性の完全な喪失を引き起こす、前記MMTをコードする遺伝子における変異を保有するオオムギ植物体を得る方法。
【請求項53】
(i)MMT活性の完全な喪失を引き起こす、MMTをコードする遺伝子における変異;および
(ii)リポキシゲナーゼ1活性の完全な喪失を引き起こす、リポキシゲナーゼ1をコードする遺伝子における変異
を保有するオオムギ植物体またはその一部。
【請求項54】
前記MMTをコードする遺伝子における前記変異が、請求項13から20のいずれか一項に記載の変異である、請求項53に記載のオオムギ植物体またはその一部。
【請求項55】
請求項53から54のいずれか一項に記載のオオムギ植物体またはその一部から調製される植物生成物。
【請求項56】
飲料、好ましくはビールである、請求項55に記載の植物生成物。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10−1】
【図10−2】
【図10−3】
【図11−1】
【図11−2】
【図12−2】
【図13−1】
【図13−2】
【図14−1】
【図15−1】
【図16−2】
【図17−1】
【図17−2】
【図18】
【図19−1】
【図12−1】
【図14−2】
【図15−2】
【図16−1】
【図19−2】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10−1】
【図10−2】
【図10−3】
【図11−1】
【図11−2】
【図12−2】
【図13−1】
【図13−2】
【図14−1】
【図15−1】
【図16−2】
【図17−1】
【図17−2】
【図18】
【図19−1】
【図12−1】
【図14−2】
【図15−2】
【図16−1】
【図19−2】
【公表番号】特表2012−510277(P2012−510277A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538836(P2011−538836)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/DK2009/050315
【国際公開番号】WO2010/063288
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(511133794)
【出願人】(511133129)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/DK2009/050315
【国際公開番号】WO2010/063288
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(511133794)
【出願人】(511133129)
【Fターム(参考)】
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