説明

体型補整機能を有する衣類

【課題】伸縮性生地を用いた衣類において、該衣類の所定の部位の伸びを、所望する一定の方向性を持って拘束して優れた身体の体型補整効果をもたらし、かつ、比較的薄くて軽量であり、身体によりフィットしやすく、また、着用もしやすいという優れた体型補整機能を有する衣類を提供すること。
【解決手段】伸縮性生地を用いて形成された衣類であり、該伸縮性生地の伸びを抑制したい領域に、実質的に生地表面に盛り上がることなく該伸縮性生地の表面から内深部にかけて樹脂が浸透付着して形成されかつ該伸縮性生地の伸びを方向性を持って抑制するメッシュ状の浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする体型補整機能を有する衣類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性生地を用いた衣類に関するものである。特に比較的薄くて、軽量で、身体にフィットしやすく、着用しやすく、体型補整機能を有し、該伸縮性生地の伸びを抑制したい所定の箇所に樹脂を付与した衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガードル、ショーツ、ボディスーツ、ブラジャー、キャミソールなどは、体型補整機能を付与するため、緊迫力を大きくしたい部分には、適宜の当て布を衣類本体生地に当てがい縫着することが最も一般的に行われている。
【0003】
しかし、当て布によって緊迫力の大きい部分を形成した衣類は、当て布を逢着した部分は当て布を逢着していない部分にくらべ厚みが厚くなるためその境界部に段差が生じ、アウターウェアに反映し、着用者の外観を損なうという問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するために、ジャカード制御機構を有する経編機を用いて、緊迫力の強弱の要求に応じて編組織を変化させ、比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に設けることで体型補整機能を付与した衣類が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、かかる特許文献1の提案においては、ジャカード制御機構を有する特殊な経編機の使用が不可欠であり、該経編機は高価なもので、かつ生産管理の面で高度な技術力と緻密な柄の管理能力が必要とされ製造コストや量産対応の面で汎用性に欠けるものであった。
【0006】
また、熱可塑性エラストマー樹脂や架橋エラストマー樹脂を緊迫力を強くしたい部分に付与することで体型補整機能を付与した衣類が提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかし、かかる特許文献2の提案は、通気性や肌触り、着用感、樹脂の付与された部分が目立ちにくいことや、凹凸によるウターウェアへの響きがなく、かつ衣類の所定の部位の伸びを拘束し身体の整形効果を発揮させる点については有効であるが、伸びを拘束したい部分内において、伸びを拘束したい方向と反対に拘束したくない方向、例えば、タテ方向とヨコ方向に拘束力の差を与えることが不十分であり、本来、伸びの拘束を必要としない方向の伸びをも拘束してしまうこととなり、着用中の生地の伸縮により剥離が生じやすくなり着用耐久性や着用快適性の点で不十分な点があった。
【0008】
また、本発明の発明者の一部により、伸縮性生地によって構成されている身体に密着する衣類であって、該衣類の伸びを拘束したい部位にメッシュ柄などの樹脂シートを熱接着して、該メッシュ状の熱接着シートが伸縮性生地の表面に熱接着されていることにより、該生地の伸びを拘束し伸縮性生地との伸度を変えるようにした構成した衣類が先願発明として提案されている(特願2007−019477)。
【0009】
しかし、この先願発明にかかる衣類は、その着用時にあっては、該衣類の伸びが拘束されている所定の部位に、非常に苛酷な伸び作用が捩れ作用などを伴いながら繰返し加えられるのが通常であることから、生地と熱接着された樹脂シートの接着耐久性、接着構造の維持性において問題があり、比較的短い経時で所期の効果が失われてしまうことがあるという問題があった。
【特許文献1】特許第3996372号公報
【特許文献2】実開平6−33909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、伸縮性生地を用いた衣類において、該衣類の所定の部位の伸びを、所望する一定の方向性を持って拘束して優れた身体の体型補整効果をもたらし、かつ、比較的薄くて軽量であり、身体によりフィットしやすく、また、着用もしやすいという優れた体型補整機能を有する衣類を提供せんとするものである。
【0011】
特に、このような衣類は、その着用時にあっては、該衣類の伸びが拘束されている所定の部位については、一般に、苛酷な伸び力が捩れ方向の力も加えられながら繰り返して加えられるかあるいは連続して長時間加えられるものであり、それに対抗して該部位の伸びを拘束して身体の体型を補整するという効果を良好かつ耐久性良く維持することを実現しつつ、該部位における通気性や肌触り、着用感に優れ、かつ該部位が比較的目立ちにくいことや、凹凸形状によるアウターウェアへの響きもないという、理想的な体型補整機能を有する衣類を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した目的を達成するために、本発明の体型補整機能を有する衣類は、下記(1)の構成を有するものである。
【0013】
(1)伸縮性生地を用いて形成された衣類であり、該伸縮性生地の伸びを抑制したい領域に、実質的に生地表面に盛り上がることなく該伸縮性生地の表面から内深部にかけて樹脂が浸透付着して形成されかつ該伸縮性生地の伸びを方向性を持って抑制するメッシュ状の浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする体型補整機能を有する衣類。
【0014】
また、かかる本発明の体型補整機能を有する衣類において、好ましくは、以下の(2)から(12)のいずれかの構成からなるものである。
【0015】
(2)前記伸縮性生地の伸びを抑制したい領域に設けられるメッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目が、アスペクト比(=長径/短径)1.2〜2.5のメッシュ内孔がそれらの長径方向・短径方向を一致させて多数配列されて形成されていることを特徴とする上記(1)記載の体型補整機能を有する衣類。
【0016】
(3)前記メッシュ目の内孔が、菱形状のものであることを特徴とする上記(2)記載の体型補整機能を有する衣類。
【0017】
(4)前記メッシュ目の内孔が、楕円状のものであることを特徴とする上記(2)記載の体型補整機能を有する衣類。
【0018】
(5)前記メッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目の内孔の長径が、1.5〜5mmであることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【0019】
(6)前記伸縮性生地の厚みL0(μm)と、該伸縮性生地の厚みのうち浸透樹脂層が表面から内深部に浸透している深さL1(μm)としたとき、下記(a)式を満足するように浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
0.4≦L1/L0≦0.8 ………………(a)式
【0020】
(7)前記L1/L0値が下記式(b)を満足するように浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする上記(6)記載の体型補整機能を有する衣類。
0.5≦L1/L0≦0.7 ………………(b)式
【0021】
(8)前記樹脂が、浸透剤が混合されたポリウレタン樹脂またはアクリル樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【0022】
(9)前記樹脂が、架橋剤が混合されたポリウレタン樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【0023】
(10)体型補整機能を有する衣類がガードルであり、前記浸透樹脂層が、大腿部ヘム部の巾方向において中心より内股側から臀部のふくらみ部を下支えするように大転子に向かう曲線ラインおよび大転子から尾骨に向かう曲線ラインをカバーして設けられてなり、かつ、メッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目の長径方向が身長方向とほぼ垂直に配されているガードルであることを特徴とする上記(2)記載の体型補整機能を有する衣類。
【0024】
(11)体型補整機能を有する衣類がブラジャーであり、前記浸透樹脂層が、バスト最下端周縁より脇側に略弓状にカバーして設けられてなり、かつ、メッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目の長径方向が身長方向とほぼ垂直に配されているブラジャーであることを特徴とする上記(2)記載の体型補整機能を有する衣類。
【0025】
(12)体型補整機能を有する衣類が、ファンデーション類、ブラジャー類、水着類、キャミソール類、ボディスーツ類、タイツ類から選ばれた一種である上記(1)から(9)のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、衣類の所定の部位の伸びを、所望する一定の方向性を持って拘束して優れた身体の体型補整効果をもたらし、かつ、比較的薄くて軽量であり、身体によりフィットしやすく、また、着用もしやすいという優れた体型補整機能を有する衣類を提供できる。
【0027】
特に、本発明によれば、このような衣類においては、その着用時において、該衣類の伸びが拘束されている所定の部位については、一般に、苛酷な伸び力が捩れ方向の力も加わりながら繰り返し加えられるかあるいは連続して長時間加えられるものであるが、それに対抗して該部位の伸びを拘束して身体の体型を補整するという所期の効果を良好にかつ耐久性良く維持することができる。さらに、その上、該部位における通気性や肌触り、着用感に優れ、かつ該部位が比較的目立ちにくいことや、凹凸形状によるアウターウェアへの響きもないことにおいて優れた体型補整機能を有する衣類を提供できるものである。
【0028】
本発明の体型補整機能を有する衣類によれば、浸透樹脂の層がメッシュ状に構成されていることから、伸縮性生地の伸びを拘束したい部分内において、方向抑制性や通気性において優れるものである。樹脂層がメッシュを構成することから生地が着用中に伸縮してもメッシュがタテ・ヨコ方向に変形することにより、伸縮性生地の伸縮にも良く追従し、樹脂が剥脱して落下することなども少なく、長期にわたり体型補整機能を維持することができ該機能の耐久性に優れる衣類を提供することができる。
【0029】
特に、請求項2〜9のいずれかの本発明の体型補整機能を有する衣類によれば、上述した効果をより明確に有した衣類が提供されるものである。
【0030】
特に、請求項10に記載のガードルのように構成すれば、浸透樹脂層を大腿部ヘム部の巾方向において中心より内股側から臀部のふくらみ部を下支えするように大転子に向かう曲線ラインおよび大転子から尾骨に向かう曲線ラインをカバーする領域に形成させることにより、臀部下部および内股部を引き締め太股から臀部にかけてのラインをなめらかに補整し同時にヒップアップ効果を発揮するガードルを実現することができ、身体の伸長方向と垂直方向への生地の伸びをより強く効果的に抑制でき、身体の身長方向への生地の伸びは適度に可能に維持し、極力、着装感に違和感がない優れたガードルを提供できる。
【0031】
また、請求項11に記載のブラジャーとすれば、浸透樹脂層をバスト最下端周縁より脇側に略弓状に形成させ、かつメッシュの最長部を身長方向と垂直に配することで、バストの下部および外縁部の伸縮性生地の主に胴回り方向の伸びを適度に可能に維持しつつ、伸長方向と平行な方向の伸びを強く抑制することができることから、ワイヤーなどを使わずともバストを寄せて上げる効果を有するブラジャーを提供することができる。
【0032】
また、請求項12に記載したように、衣類がファンデーション類、ブラジャー類、水着類、キャミソール類、から選ばれた一種である本発明の好ましい態様とすることにより、ファンデーション類、ブラジャー類は一般に身体の体型補整機能が必要とされる衣類であり、かつ、良好な着用感やアウターウェアへの凹凸感の響きがないことが要求され、さらに下着として着用頻度や洗濯の頻度も高く高い着用耐久性も要求されるものであるが、本発明の構成を採用することにより、これらの機能を十分に発揮可能なそれら衣類を提供できるものである。
【0033】
また、水着類については、近年の市場動向から体型補整機能を兼ね備えたタイプの水着に対するニーズがあり、また、アクアエクソサイズに代表されるように水中でエアロビクスをするときに着用されるケースも増えつつある。そのためそのような水着類に使用される生地には、運動時の筋肉の収縮に対する伸縮追従性が要求されるが、本発明を適用することにより、これらの機能を十分発揮できる水着類が提供される。
【0034】
また、キャミソール類についても、近年は体にフィットしたタイプのものに対するニーズがあり、ブラジャーを併用せずにキャミソール自体にブラカップが装備されバストの体型補整機能を兼ね備えたものが要求されるが、本発明によれば、これらの機能を十分発揮可能なキャミソールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の体型補整機能を有する衣類について、説明をする。
【0036】
本発明の体型補整機能を有する衣類は、伸縮性生地を用いて形成された衣類であり、該伸縮性生地の伸びを抑制したい領域に、実質的に生地表面に盛り上がることなく該伸縮性生地の表面から内深部にかけて樹脂が浸透付着して形成されかつ該伸縮性生地の伸びを方向性を持って抑制するメッシュ状の浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする。
【0037】
図1は、本発明の体型補整機能を有する衣類における浸透樹脂層を形成された伸縮性生地の構造をモデル的に示した概略正面図であり、該伸縮性生地1の伸びを抑制したい領域に、実質的に生地表面に盛り上がることなく該伸縮性生地の表面から内深部にかけて樹脂が浸透付着して形成されていてかつ該伸縮性生地の伸びを方向性を持って抑制するメッシュ状の浸透樹脂層2が設けられている状態を示したものである。また、図2は、図1のメッシュ状の浸透樹脂層2だけを拡大して示した概略拡大正面図である。
【0038】
本発明の衣類は、全体を伸縮性を有する生地で構成するとともに、伸縮性を抑制したい領域に、図1や図2に示したように、例えば、菱形の内孔を有するメッシュ状を形成するように、図2上では右上から左下に延びる浸透樹脂3と左上から右下に延びる浸透樹脂4で浸透樹脂層2を構成している。
【0039】
メッシュ目は、図1や図2に示した菱形に限らず、内孔が楕円形状のもの等であってもよい。
【0040】
メッシュは、図2に示したように内孔が長径6と短径5を有する構造とする。このように、伸縮性生地1に浸透した樹脂層2がメッシュ構造を呈して存在することにより、該伸縮性生地1は、長径6方向には良く伸びて、かつその長径方向と90度相違する(直交する)短径5方向には良く伸びることができずに抑制された伸び特性を有するものとなる。
【0041】
本発明の衣類では、伸びを方向性を持って抑制するためにメッシュ状の浸透樹脂層を利用するものであり、メッシュ内孔が正方形等の方形の格子状のものは、伸びを抑制するのに明確な方向性がないかあるいは乏しく、本発明では使用し難い。
【0042】
また、本発明において、該メッシュは、図1や図2のように一つ一つのメッシュ目の内孔の全周縁が完全に繋がっているものである必要は必ずしもなく、それぞれの一部箇所で区切れていたり、あるいは点線ないしは破線によって全体としてメッシュ状を形成しているものであってもよい。要は、全体的に実質的にメッシュ構造でかつメッシュ目が方向性を有するものであり、一定方向の伸びを抑制できるものであればよいものである。
【0043】
本発明の衣類において、メッシュ目は、その好ましいアスペクト比(長径/短径比)は1.2〜2.5であり、その範囲のアスペクト比を有したメッシュ内孔が、それら長径方向と短径方向を一致させて多数配列されて所定の面積を有した領域を形成していることが、該領域での生地の伸びを明確で強い方向性を持って抑制する上で好ましい。さらに好ましいアスペクト比(長径/短径比)は、1.3〜2.2、最も好ましくは1.5〜2.0である。
【0044】
本発明の衣類において、伸びを抑制したい領域が、複数箇所存在する場合には、それぞれの領域単位で、メッシュ内孔がそれら長径方向と短径方向を一致させて多数配列されて所定の面積を有した該一つの領域を形成していればよく、他の領域とは、その長径方向・短径方向とが90度ずれていてもかまわない。例えば、後述するガードルの例であれば、身体前面の下腹部中央に位置する領域(部位)では長径方向を身長方向と平行にして身長方向と垂直な方向には引き締める方向とし、一方、大腿部内股側と該内股側から臀部を下支えする領域では、長径方向を身長方向と垂直にして、身体が垂れ下がる方向に対抗して引き上げる方向に作用するようにすることなどできる。
【0045】
また、メッシュ目の内孔の長径6は、メッシュ目の細かさに対応するが、衣類として着用したときの該部分のシルエットの美しさや、伸びを抑制する力を適度に分散することができて耐久性が良好であること、通気性等の総合的な見地から、1.5〜6mm程度とすることが好ましく、より好ましくは2〜4mmである。また、メッシュを構成する内孔の隣接する内孔との間隔(図2の、浸透樹脂3と同4のそれぞれの幅)は、好ましくは0.5mm〜2.5mm、より好ましくは0.8mm〜1.5mm程度とするのがよい。
【0046】
本発明において、樹脂層の存在形態を適切なものにすることは重要であり、まず、浸透樹脂層2は、実質的に該樹脂が生地表面に盛り上がることなく伸縮性生地の表面から内深部にかけて浸透して付着し形成されていることが肝要である。
【0047】
樹脂が、生地表面に盛り上がって存在していたり、あるいは盛上りの程度は低くても生地表面に接着されて載置されているような状態のものでは、該樹脂付着部においてのタッチや風合いの点で劣り、また、生地の伸び・縮みに対する該樹脂層の追従性が良好ではなく、経時とともに剥離・脱落し、伸びを抑制し体型を補整するという効果の大小の点においても、また、その効果の維持・耐久性の点のいずれでも劣るものである。
【0048】
図3は、浸透樹脂層の状態を説明する生地断面構造を示したモデル図であり、(a)は樹脂が十分に生地に浸透せずに生地表面に盛り上がった本発明以外の構造状態例を示したものであり、(b)は樹脂が十分に浸透している本発明の構造例を示したものである。
【0049】
図3(b)にモデルを示したように、本発明において、樹脂層2は生地表面に盛り上がることなく実質的にフラットに存在している。本発明において「盛り上がることなく」とは、詳細に見ると盛り上がっているとしても、その高さは高くても生地表面から100μm以下であることをいう。該盛り上がりの高さを測定する方法は、後述する浸透深さを測定する方法と同様に、生地を無緊張状態とし、その断面を、前述の顕微鏡で観察し、樹脂の盛り上がりの高さを色や光沢感の差により識別し、顕微鏡の視野内でマイクロメータ(顕微鏡用のものさし)を用いて測定するものであり、5箇所で測定して平均値を求めるものである。
【0050】
本発明において、好ましく製造された衣類は、その樹脂の盛り上がりの高さは、好ましくは50μm以下のものであり、そのように浸透が実現できるような樹脂の性状に調整することが本発明では重要である。最も好ましく製造された本発明の衣類においては、該樹脂の盛り上がりの高さは、0μm以上20μm未満であり、かかる高さのものは、生地表面において凹凸間を触感で感ずることはほとんど皆無であり好ましいものである。
【0051】
また、本発明において、好ましくは、付着している樹脂は、生地の内深部にかけてある程度の深さ範囲まで浸透しているものであり、その浸透深さは、図3に示したように、生地の厚みL0(μm)と、該伸縮性生地の厚みのうち浸透樹脂層2が生地表面から内深部に浸透している深さL1(μm)との関係で、下記(a)式を満足するように浸透樹脂層が設けられていることが好ましい。
0.4≦L1/L0≦0.8 ……………(a)式
【0052】
より好ましくは、該値が、下記式(b)を満足するように浸透樹脂層が設けられていることである。
0.5≦L1/L0≦0.7 ……………(b)式
【0053】
L1/L0値が、0.8よりも大きく1.0に近い場合には、製造の際に樹脂が生地の裏面側に漏れる可能性があり、着用中に生地が肌にあたった際にざらつきやごわつきといった不快な感触を与える可能性があり好ましくない方向である。また、0.4よりも小さい場合には、浸透樹脂層を設けた効果が物理的に小さくなる方向である。特に、0.4以上0.8以下の範囲、より好ましくは0.5以上0.7以下の範囲では、該樹脂が伸縮性生地の表面から生地内深部にかけて十分に浸透ができていて、着用中の生地の伸縮に良好に追随することができて、伸びの抑制効果を良好に発揮でき、かつ、他の衣類との摩耗による樹脂の剥離やフィブリル化(樹脂の割れ)等の発生も少なく、伸びの抑制効果や樹脂層の耐久性にも優れる衣類が提供される。
【0054】
なお、L1/L0値の測定方法は、伸縮性生地の断面の厚みL0および前記混合樹脂が生地表面から浸透している深さL1をそれぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡(OM)を用いて測定する。その際、樹脂付与部について5箇所にて実測したL0およびL1からそれぞれL1/L0値を算出して5箇所の平均値を求める。測定にあたっては、生地を無緊張状態とし、その断面を、前述の顕微鏡で観察し、樹脂の浸透した深さを色や光沢感の差により識別し、顕微鏡の視野内でマイクロメータ(顕微鏡用のものさし)を用いて測定するものである。
【0055】
本発明において使用される樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリウレタン樹脂またはアクリル樹脂が好ましく用いられる。特に、弾性特性を有するポリウレタン樹脂は、メッシュ構造体として自身が良好に伸縮できるものであり、伸縮性生地の伸び縮みに対して非常に耐久性良く追随して自身も伸縮することができて、かつ伸びの抑制作用を良好に発揮でき、本発明の所期の効果を長期間にわたり発揮することができる。
【0056】
該ポリウレタン樹脂としては、浸透剤および/または架橋剤が混合されたものを使用することが好ましい。浸透剤は、生地への浸透向上の作用を有するものであり、例えば、ポリオキシエチレンクロロフェニルエーテルなどを使用することができる。また、架橋剤は、洗濯耐久性向上の作用をするものであり、例えば、変性ポリイソシアネートなどを使用することができる。
【0057】
本発明の衣類を製造するに際しては、該衣類としての最終形態もしくは適宜の中間的形態のものを製作した段階で、伸びを抑制したい箇所(部位)にメッシュ状に樹脂をプリントすることにより製造でき、例えば、樹脂をスクリーン捺染方式でメッシュ状に付与して、その際に、樹脂には上述した浸透剤を添加し、かつ全体の粘度は、生地特性に合わせ浸透がしやすいように調整する。本発明者らの知見によれば、一般に粘度は、20000cp〜40000cpの範囲内とするのがよい。より好ましくは、20000〜30000cpの範囲内である。捺染方式によれば、さまざまなメッシュ状形態の製造が可能である。そのメッシュ状形態のスリットやドットなどの大きさなどとの関係から、本発明紗らの検討によれば、一般に、上述した粘度範囲が好適である。本発明の実施をするに際しては、樹脂の粘度は適度に増加させたいときが実際上多く、通常は、増粘剤を適宜に用いて、かつ浸透剤も用いて、付与された樹脂の盛上がりと浸透深さを調整するのがよい。
【0058】
なお、メッシュ状の浸透樹脂層を構成する樹脂の最終的な樹脂付着量(樹脂固形分付着量)は、30〜50g/mの範囲内とするのがよく、付与量はそれほど多くする必要はない。要は、生地中(繊維間中)に浸透していながら樹脂の層がメッシュ構造を形成していることが肝要なものであり、樹脂100%でメッシュを形成しているものではないからである。
【0059】
本発明の体型補整機能を有する衣類は、従来から存在する衣類として構成できるものであり、例えば、一般には、ガードル、コルセット、ブラジャー、キャミソール、水着、フィットスリップ、ウェストニッパー、スリーインワン、ボディスーツ、レオタード、スパッツ、レギンス等の肌に直接的に接して着用する衣類や、外衣の下に着用して体型補整機能を有することが効果的な衣類であれば、本発明を採用することできるものである。また、衣料用副資材として、手袋やストッキング、パンティストッキング、ソックスなどの分野でも本発明を採用することが可能である。
【0060】
本発明の衣類において用いられる伸縮性生地としては、従来から該衣類で使用されてきている伸縮性生地をそのまま使用して、該生地に樹脂を浸透させて本発明の衣類を構成することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて、本発明の体型補整機能を有する衣類について、具体的に説明する。
【0062】
なお、アスペクト比(=長径/短径)の測定は、菱形形状のメッシュ付着線の穴の内部の最も長い距離を長径とし、最も短い距離を短径として、光学顕微鏡で拡大観察しながらマイクロメータおよび定規を併用して測定し、10箇所の平均を算出したものである。
【0063】
実施例1
図4は、本発明の体型補整機能を有する衣類の一実施態様例として製造したガードルをモデル的に示した背面図である。
7がガードル本体、2がヒップアップ効果を得るためにガードルの伸縮性生地1の伸びを拘束したい部分であり、該生地の表側からポリウレタン樹脂と浸透剤を混合した混合樹脂を大腿部ヘム部の巾方向において中心より内股側から臀部のふくらみ部を下支えするように大転子に向かう曲線ラインおよび大転子から尾骨に向かう曲線ラインをカバーする領域に浸透樹脂層を形成させてガードルを製造した。
このとき、メッシュは図1、図2に示した構造のものとし、メッシュの長径部は身長方向と垂直な方向に、短径方向は伸長方向と平行になるように配してガードルを製造した(実施例1品)。
メッシュのアスペクト比(=長径/短径)は1.9として、長径の長さは2.5mm、短径の長さは1.3mmとした。メッシュを構成する樹脂層の幅は、0.8mmとした。
メッシュ状の浸透樹脂層の形成は、捺染方式で行い、樹脂は増粘剤および透剤等を添加した混合樹脂を用いて行い、最終的な樹脂付着量(固形分付着量)は30〜50g/mであった。樹脂の粘度は、28000cpであった。また、架橋剤は変性ポリイソシアネートを使用した。
また、伸縮性生地は、ナイロン6糸44dtex(東レ社製)を表素材とし、ポリウレタン弾性繊維ライクラ(登録商標) 156dtex T−127C(オペロンテックス社製)と同 44dtex 糸を弾性素材として交編したラッシェル編地を用いた。
また、樹脂の盛り上がりの高さは、5μmであった。
このガードルを実際に着用したところ、2の浸透樹脂部分により、臀部下部および内股部を引き締めながら持ち上げる効果を発揮でき、太股から臀部にかけてのラインをなめらかに補整し同時にヒップアップ効果を発揮することができた。また、通気性や着用感、経時的使用による効果の耐久性の点などでも、特に問題なく良好であった。
また、さらに改良実施例1品として、該ガードルの身体前面の下腹部中央に位置する領域(部位)に、長径方向を身長方向と平行にして、短径方向は身長方向と垂直な方向になるようにして、メッシュ状の浸透樹脂層を設けた。すなわち、メッシュの長径・短径方向のみを上述したものと90度変更して、メッシュ目の寸法などは同一にして浸透樹脂層を前面下腹部に形成した。
このガードルを実際に着用したところ、合計3箇所の浸透樹脂部分により、身体前面の下腹部中央付近では身体幅が広がらないように身体を引き締める効果を発揮し、一方、臀部下部および内股部では該部位を引き締めながら持ち上げる効果を発揮し、太股から下腹部臀部にかけてのラインをなめらかに補整し同時にヒップアップ効果を発揮することができた。
【0064】
実施例2
図5は本発明の衣類の一実施態様例としてブラジャーを構成した場合をモデル的に示した正面図である。
8がブラジャー本体、2がバストアップ効果を与えるためにブラジャーの伸縮性生地1の伸びを拘束したい部分であり、前記生地の表面からポリウレタン樹脂と浸透剤を混合した混合樹脂をバスト最下端周縁より脇側に略弓状に付与し、かつ該混合樹脂のメッシュ柄の長径部を身長方向と垂直に配してブラジャーを製造した。
このとき、メッシュは図1、図2に示した構造のものとし、メッシュのアスペクト比(=長径/短径)は2.2として、長径の長さは2.4mm、短径の長さは1.1mmとした。メッシュを構成する樹脂層の幅は、0.8mmとした。
メッシュ状の浸透樹脂層は、捺染方式で行い、樹脂は、増粘剤および浸透剤等を添加した混合樹脂を用いて、最終的な樹脂付着量は30〜50g/mであった。樹脂の粘度は、28000cpであった。また、架橋剤は変性ポリイソシアネートを使用した。また、伸縮性生地は実施例1と同じラッシェル生地を用いた。また、盛り上がりの高さは5μmであった。
このブラジャーを実際に着用したところ、バストの下部および外縁部の伸縮性生地の主に胴回り方向の伸びを適度に抑制することができ、ワイヤーを使わずともバストを寄せて上げる効果を有するものであった。また、通気性や着用感、経時的使用による効果の耐久性の点などでも、特に問題はなく良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の体型補整機能を有する衣類における浸透樹脂層を形成された伸縮性生地の構造をモデル的に示した概略正面図である。
【図2】図2は、図1のメッシュ状の浸透樹脂層2だけを拡大して示した概略拡大正面図である。
【図3】図3は、浸透樹脂層の状態を説明する生地断面構造を示したモデル図であり、(a)は樹脂が十分に生地に浸透していない本発明以外の構造例を示したものであり、(b)は樹脂が十分に浸透している本発明の構造例を示したものである。
【図4】図4は、本発明の体型補整機能を有する衣類の1実施態様例としてガードルをモデル的に示した背面図である。
【図5】図5は、本発明の体型補整機能を有する衣類の1実施態様例としてブラジャーをモデル的に示した正面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 伸縮性生地
2 メッシュ状の浸透樹脂層
3 図面上、右上から左下に延びる浸透樹脂
4 図面上、左上から右下に延びる浸透樹脂
5 メッシュ目の短径
6 メッシュ目の長径
7 本発明の衣類の一実施例としてのガードル
8 本発明の衣類の一実施例としてのブラジャー
L0 伸縮性生地の厚み
L1 伸縮性生地の厚みのうち浸透樹脂層が表面から内深部に浸透している深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性生地を用いて形成された衣類であり、該伸縮性生地の伸びを抑制したい領域に、実質的に生地表面に盛り上がることなく該伸縮性生地の表面から内深部にかけて樹脂が浸透付着して形成されかつ該伸縮性生地の伸びを方向性を持って抑制するメッシュ状の浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする体型補整機能を有する衣類。
【請求項2】
前記伸縮性生地の伸びを抑制したい領域に設けられるメッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目が、アスペクト比(=長径/短径)1.2〜2.5のメッシュ内孔がそれらの長径方向・短径方向を一致させて多数配列されて形成されていることを特徴とする請求項1記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項3】
前記メッシュ目の内孔が、菱形状のものであることを特徴とする請求項2記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項4】
前記メッシュ目の内孔が、楕円状のものであることを特徴とする請求項2記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項5】
前記メッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目の内孔の長径が、1.5〜5mmであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項6】
前記伸縮性生地の厚みL0(μm)と、該伸縮性生地の厚みのうち浸透樹脂層が表面から内深部に浸透している深さL1(μm)としたとき、下記(a)式を満足するように浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
0.4≦L1/L0≦0.8 ………………(a)式
【請求項7】
前記L1/L0値が下記式(b)を満足するように浸透樹脂層が設けられていることを特徴とする請求項6記載の体型補整機能を有する衣類。
0.5≦L1/L0≦0.7 ………………(b)式
【請求項8】
前記樹脂が、浸透剤が混合されたポリウレタンまたはアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項9】
前記樹脂が、架橋剤が混合されたポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項10】
体型補整機能を有する衣類がガードルであり、前記浸透樹脂層が、大腿部ヘム部の巾方向において中心より内股側から臀部のふくらみ部を下支えするように大転子に向かう曲線ラインおよび大転子から尾骨に向かう曲線ラインをカバーして設けられてなり、かつ、メッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目の長径方向が身長方向とほぼ垂直に配されているガードルであることを特徴とする請求項2記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項11】
体型補整機能を有する衣類がブラジャーであり、前記浸透樹脂層が、バスト最下端周縁より脇側に略弓状にカバーして設けられてなり、かつ、メッシュ状の浸透樹脂層のメッシュ目の長径方向が身長方向とほぼ垂直に配されているブラジャーであることを特徴とする請求項2記載の体型補整機能を有する衣類。
【請求項12】
体型補整機能を有する衣類が、ファンデーション類、ブラジャー類、水着類、キャミソール類、ボディスーツ類、タイツ類から選ばれた一種である請求項1から9のいずれかに記載の体型補整機能を有する衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−235630(P2009−235630A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84771(P2008−84771)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000138554)株式会社ユタックス (18)
【Fターム(参考)】