説明

体液から微生物細胞および微生物核酸の濃縮および富化

本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含み得るか、または含むと疑われ得る体液から微生物および/または微生物核酸を単離する方法に関する。微生物核酸は、単離した微生物を溶解することによりさらに単離されてもよい。また、本発明は、体液中に微生物を検出するための方法にも関する。本発明は、サポニン製剤およびその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、体液からの微生物細胞および微生物核酸を濃縮および富化することに関する。本発明は体液中の微生物細胞の検出にも関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
ヒトの感染について迅速な分子診断試験を開発することは、世界人類の健康改善のために世界保健機関が認めた最も高い優先事項である(Daar et al., 2002, Nat. Genet., 32:229-232)。重度の血液感染は、世界中の入院患者のなかの罹患率および死亡に関する重大な原因であり、また救命救急診療における最も重要な課題の一つでもある。例えば、最近の推定された敗血症罹患率は、アメリカ合衆国において100000症例あたり240症例である。敗血症に関するヒトおよび経済的負担はかなり重い(Grossi et al., 2006, Surg. Infect. (Larchmt), 7:S87-S91)。感染疾患および重大なケアマネージメントおよび新規処理を開発する多くの試みにおける進歩にもかかわらず、敗血症の死亡率は、依然として許容できない程高く、20%から50%の範囲にある。重度の血液感染および/または重度の敗血症の兆候を認識し、また早期かつ正確にその診断を行うことは、治療を改善し、生存率を増加させるために重要である。実際に、血液採取および抗菌治療適用との間の時間間隔を低下させることにより、迅速な診断は、患者の生存率を増加させることができる。
【0003】
体液感染に関する有効かつ正確な診断試験について、次のような必要性が存在する;i)検出のために十分量の微生物細胞を収集すること、ii)微生物細胞を迅速に収集すること、iii)多岐にわたる微生物種を収集すること、およびiv)病原体を迅速かつ正確に同定すること。本発明は、これらのおよびその他の必要性を満たすことを目的とする。
【0004】
数十年間、様々な方法は、かかる必要性を満たすために必要とされてきた。現行の標準方法は、血液サンプル中の様々な微生物の増殖を促し、それら微生物を検出可能なレベルまで増大させることができるブロスを基にした血液培養系である(Cockerill et al., 1996, J. Clin. Microbiol., 34:20-24; Murray et al., 1991, J. Clin. Microbiol., 29:901-905)。しかしながら、かかる技術は、微生物種の単離および同定のために固体培地での継代培養を含んでいる。その結果として、正確な診断を得るためには数日必要である。
【0005】
サポニンは、界面活性剤の特性を有する天然の表面活性グリコシドである。それらは、主に植物だけでなく低級海洋動物やある種の細菌によっても産生される。それらは、疎水性アグリコン(サポゲニン)に結合した糖部分から構成される。サポニン構造に関する高度な複雑性は、アグリコン構造の多様性、側鎖の性質およびアグリコン上でのこれらの成分の結合位置により生じる(Francis et al., 2002, British J of Nutrition, 88: 587-605)。サポニンは真核生物細胞の膜に接触することが知られている。サポニンは通常0.04%-0.2%の濃度で使用されて、血漿膜を透過させることができる。かかる浸透は、膜の破壊、その後の細胞死を引き起こし得る。この工程は、使用したサポニンの適用濃度および特定の分子構造の関数である(Melzig, et al. 2001, Planta Med., 67:43-48)。膜結合部位はコレステロールであることが判ってきた(Milgate et al.. 1995, Nutrition Research, 15, no. 8; 1223-1249)。コレステロールに結合すると、サポニンは、細胞内および細胞外区画の間のイオン性ホメオスタシスの障害に関連する膜構造および透過性における変化を誘導する。酵母において、エルゴステロールの分子は、コレステロールの代わりに膜内に見出される。この研究から、ステロイド様サポニン(中性サポニン)が、溶血性および抗真菌活性の双方を維持するが、一方でトリテルペノイドサポニン(酸性サポニン)は、検出可能な抗真菌活性を有さない溶血活性のみを示すことが判った。トリテルペノイドサポニンは、エルゴステロールに対してコレステロールよりも弱い親和性を有し得ることが示唆される(Takechi et al. 2003, Phytother. Res., 17:83-85)。Leconteらは、シクロイリダール(cycloiridals)、様々なIris種由来のトリテルペノイド類がステロイド様サポニンによる崩壊処理後に酵母膜を安定化できたことを示した(Leconte et al.. 1997, Phytochem., 44:575-579)。トリテルペノイドサポニンは、多くのマメ科、例えば大豆、豆、エンドウ豆およびルーサン(lucerne)、ならびにニンニク、茶、ホウレンソウ、サトウダイコン、キノア(quinoa)、甘草、ヒマワリ、トチノキおよび朝鮮人参において検出されている。トリテルペノイドサポニンの広く研究されている一つの群は、アンデス地域原産の木である Quillaja saponaria から生成される(Francis et al., 2002, British J of Nutrition, 88: 587-605)。サポニンは、この原料から抽出できる物質の20-25%に相当する(Barr, et al., 1998, Ad Drug Deliv Rev, 32: 247-271)。市販サポニン調製物は、細菌増殖を阻害することができる。低分子量の抗菌夾雑物質は、濾過による抽出物の精製により市販サポニンから除去できる(Dorn, G.,サポニンの解毒作用、米国特許第3,883,425号, 1975)。
【0006】
Dornらは精製サポニンの最小量の0.1 mg/mLと最大量の20 mg/mLにて血液成分を溶解する方法を開発した(米国特許第4,164,449号)。この方法は、遠心分離により微生物を濃縮して、収集した細胞を寒天プレート上に接種するものである。この方法を基にした製品は、Isostat(登録商標)/Isolator(商標)(Isolator(商標)10と以前は呼ばれていた)の名称で販売され、血液サンプルと混合された時点で1.83 mg/mLの精製サポニンを含む(Carter-Wallace, Inc., Cranbury, N.J. 08512-0181)。この方法は、1〜2日以内にEnterobacteriacae、Staphylococcus epidermidis および酵母に起因する低レベルの細菌症および真菌症を検出できる(McLaughlin et al. 1983, J. Clin. Microbiol., 18:1027-1031; Kiehn et al., 1983, J. Clin. Microbiol., 18:300-304)。増加した感受性および短い検出時間は、初期血液サンプル量からの微生物細胞の濃縮を理由とする可能性がある。IsolatorTM 10にて得られた改善された検出のための別の説明は、サポニン処理によりある程度の白血球細胞の溶解後の細胞内微生物の放出と関連する可能性がある(Taylor, 1994, Eur. J. Clin. MIcrobiol. Infect. Dis., 13:249-252; Murray et al., 1991,J. Clin. Microbiol., 29:901-905)。血液培養系の製造業者によっては、その血液培養培地にサポニンが追加されている(Murray et al., 1991, J. Clin. Microbiol., 29:901-905; Becton Dickinson BACTECTM system; Hoffman La Roche biphasic Septi-Chek system)。
【0007】
いくつかの研究グループは、敗血症患者中の微生物を検出するためにサポニン(血液サンプルと併用した場合に、サポニンが0.03 mg/mLから2 mg/mLに変化する)またはIsolatorTM10 製品(血液サンプルと併用した場合に、サポニン1.83 mg/mL)を添加した血液培養培地と標準血液培養培地とを比較した。これらの文献は、血液サンプル中の微生物検出は、単にサポニンを使用する方法だけを根拠とすることはできないことを示唆している。実際に、IsolatorTM 10は、低レベルの細菌血症ではPseudomonas種の検出について有効ではなかったことが示された(Kiehn et al., 1983, J. Clin. Microbiol., 18:300-304; Henry et al., 1983, J. Clin. Microbiol., 17:864-869; Murray et al., 1991, J. Clin. Microbiol., 29:901-905)。別のグループは、嫌気性種の検出(McLaughlin et al., 1983, J. Clin. Microbiol., 18:1027-1031)について同様の制限を見出した。
【0008】
Spearsら(EPO Publication No. 0,745,849)は、全血溶解のために生理食塩水中でのサポニンまたはTriton(登録商標)の使用を報告した。彼らの方法は、後の核酸分析に関する阻害剤を排除するために血液標本を処理することを目的とする。この方法において、血液サンプルは、サポニンの約0.2〜0.5%(2〜5 mg/mL)の添加により溶解される。
【0009】
サポニンを含まない別の方法を用いて、最初の血液サンプル量から微生物を濃縮できる(Bernhardt et al., 1991, J. Clin. Microbiol., 29:422-425)。血液サンプルを遠心分離し、FicollTM-ハイパックにて密度勾配を形成させ、赤血球細胞を白血球細胞と分離する。白血球細胞を含有する上部層を、フィルター膜上で微生物細胞を保持する0.22μmの孔サイズフィルターにより濾過する。次いで、該フィルターを、寒天プレートの上面に置き、微生物を増殖させる。この方法により、全ての微生物は、標準培養による24-48時間と比較して濾過後18時間以内で検出された。しかし、混入された(spiked)血液サンプル中で試験した12種の細菌種の中で、Pseudomonas aeruginosa 混入サンプルのみが、寒天プレート上の血液培養物に相当する微生物を収集できる。
【0010】
要約すれば、検出についての実際の方法は依然として時間がかかるもので、これは主に単離した病原体を検出するために微生物の細胞培養を用いることが理由である。さらに、血液培養システム(例えば、BACTEC(商標)、Isostat(登録商標)/Isolator(商標))の全ては、非加熱サポニン水溶液を使用する。
【0011】
サポニンの構造は、貯蔵または処理中にその特性および活性を次々に改変し得る化学変換を受ける可能性がある。血液学において加熱したサポニン誘導体の使用が報告されている(EPO公開公報番号EP 1,422,509)。この方法は、さらなる分析のために白血球細胞を保護するよう該溶解活性を停止させつつ、サポニンによる赤血球細胞の溶解を目的としている。121℃で30分間加熱したこのサポニン誘導体溶液(50 mg/mL)は、広範囲のサポニン濃度(血液サンプルと併用した場合0.02-0.035 mg/mL)を許容し得る酸性剤および/または界面活性剤と組合せて用いられる。さらに、この特許は、時間中この物質の安定性を増強する加熱方法を説明している。HPLC分析から、この加熱処理により、未確認の別のピークがもたらされることが示され、これは溶解能をもたないことがさらに判った。この加熱方法は、時間と共に分解する可能性があったサポニンから不安定成分を除去したことが示唆された。無傷の大豆由来のサポニンは、鉄存在下にアルカリ溶液中で加熱するとグループBおよびEのサポニンへと加水分解されるということが報告されている (Gueclue-Uestuenda, Oe. et al., 2007, Crit Rev Food Sci Nut: 231-258)。さらに、加熱方法は、大豆サポニンの生物学的機能を改変することが判っている(Okubo, K., et al, Oxygen-Saponin used in food and agriculture, Plenum Press, NY, 1996)。
【0012】
上記した殆どの報告では、サポニン溶液は、様々なタイプの膜を用いる0.8〜0.2μmの濾過装置を用いて溶解後に濾過精製され、そして該濾液を保護する。様々な起源に由来するサポニンのコレステロール分子周囲にミセルを形成する能力の差違は、含有される分子構造の差違に起因するため、各例における濾過効果を測定することは複雑となる可能性がある (San Martin et al., 2000, J. Sci. Food Agric., 80:2063-2068)。Quillaja サポニンは合成化合物というよりもむしろ生物学的抽出物であり、市販製品はサポニン分子のミセル形成能に影響を及ぼす様々な不純物、例えば塩、または界面活性分子などを含有する(Mitra et al., 1997, J. Agric. Food Chem., 45:1587-1595)。水中へのサポニン粗抽出物の溶解は効率的に達成することが難しいために、これらの濃度は変化しやすい。キラヤ樹皮(Quillaja bark)のサポニンは、アルコール、エーテル、アセトン、酢酸エチルおよび/または氷酢酸に溶解性である(Gueclue-Uestuenda, Oe. et al., 2007, Crit Rev Food Sci Nut: 231-258)。
【0013】
米国特許第3,883,425においては、サポニン水溶液は、濾液の代わりに濾過装置により残った残液を保持することにより製造される。この特許は、微生物に対して毒性であると述べられる約600未満の分子量をもつサポニン抽出物中の構成成分を除去することを目的とする方法を説明するものである。濾過中、これらの毒性分子は、膜を通過して、濾液中に残留する。
【0014】
分子生物学における近年の進歩により、微生物培養工程を回避することにより、血流の病原体に関する高感度かつ正確な同定のためのツールの開発が可能となった。核酸増幅技術の向上により、少量の核酸検出を進歩させた。しかし、新たな課題がこれらの技術に随伴する。第一の課題には、血液サンプルが10CFU/mL未満で含有する場合には、いずれの細胞複製工程なく増幅により微生物核酸を検出するために大量の微生物細胞をサンプルから収集する必要性が挙げられる。第二の課題は、微生物DNA増幅を促進するためにヒトゲノムDNA/微生物ゲノムDNA比率の減少についての必要性に関する。第三の課題は、血液に由来する核酸増幅阻害剤[例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の阻害剤]を制御するための必要性に関する。本発明は、これらおよび他の必要性を満たすことを目指している。PCRは、最も良く知られている核酸増幅技術である。PCRを基にした微生物感染および遺伝子疾患の診断は、血液サンプル中のPCR阻害性物質の存在により損なわれるか、妨害される(Hoorfar et al., 2004, J. Appl. Microbiol., 96:221-222)。PCR阻害剤は、主にヘムおよび白血球DNAに加えて、抗凝集物質様のEDTAおよびヘパリンもまた同定されている。最近、ヒト血清中のイムノグロブリンG、各々赤血球および白血球中のヘモグロビンおよびラクトフェリンもまた、血液に由来する診断用PCRに関する主な阻害剤であることが証明された(Al-Soud et al., 2000, J. Clin. Microbiol., 39:485-493)。細菌および真菌双方の検出に適用できる可能性のある血液サンプルからの微生物の単離を改善する必要性が存在する。
【0015】
公開されたものおよび市販製品のうちで、方法によっては、その後の全ての核酸を精製するために赤血球および白血球細胞ならびに微生物細胞の全ての同時に溶解することを包含する(Jordan et al, 2005, J. Mol. Diagn., 7:575-581; BioMerieuxのNucliSens(登録商標) easyMAGTM系; Roche DiagnosticsのSeptiFast プレキット;およびISC BioExpressのIsoQuick(登録商標)核酸抽出キット)。この方法の欠点は、微生物細胞の核酸と比較した場合に大量の血液細胞の核酸が存在する点である。これは、微生物核酸検出の良好な分析感度を妨害し得る。
【0016】
他の方法は、別工程において血液および微生物細胞を溶解した後に核酸の精製に進める。この方法に関して、あるグループは、赤血球細胞を溶解させるために低張ショックを使用し、また酵母細胞を酵素消化にて溶解させる前に、白血球細胞を溶解させるために0.2% SDS-プロテイナーゼKの併用を用いる(White et al., 2006, Clin. Infect. Dis., 42:479-486; Loeffler et al., 2002, J. Clin. Microbiol., 40:2240-2243)。別のグループは、IsolatorTM 10 技術を使用して血液細胞を溶解する。血液細胞残留物と混合されたこの収集された酵母細胞は、その後酵素的に消化され、核酸が精製される(米国特許第5,645,992号)。これらの方法は、真菌種をただ検出するためだけに開発された。
【0017】
MolzymのMolYsis Basic5 キットは、細菌細胞の溶解および核酸抽出の前に血液細胞を溶解して、その核酸を除去するためにグアニジウムチオシアネートおよびカオトロピック耐性DNaseを使用する。Bougnouxら(Bougnoux et al., 1999, J. Clin. Microbiol., 37:925-930)は、血液細胞を溶解するために、スクロースとTritonTM X-100との組合せを使用してCandida細胞を添加した血液サンプルを処理した。溶解していない細胞を遠心分離した後、該ペレットを、再懸濁し、白血球細胞から遊離した核酸を分解するためにDNaseIで消化した。消化後、添加されたCandida細胞を含む細胞懸濁液を遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを再懸濁し、その核酸抽出の前に酵母細胞壁を消化するためにリチカーゼ(lyticase)処理を行った。
【0018】
SeptiFast prep キット(LightCycler(登録商標) SeptiFast Test MGRADE)は、細菌(19種の異なる群および25種の異なる種)および真菌(6種の異なる種)双方の検出のために開発された。この試験の分析感度は、おおよそ30CFU 微生物/mL血液である。この系は、多くの操作工程が必要であり、ヒトおよび微生物ゲノムDNAを抽出する前に約2時間の操作時間がかかる。さらに、敗血症患者から収集した多数の血液サンプルが、10のコロニー形成ユニット(CFU)の微生物/mL 血液の程度に低く含有するかもしれないことが示された(Jonsson et al., 1993, APMIS, 101:595-601)。
【0019】
核酸を基にした方法に加え、微生物の検出および/または同定は、表現型特徴、微生物抗原、細胞成分および/または微生物細胞の生理学的活性を検出することにより行い得る。微生物マーカーの多重パラメトリック分析は、例えば微量分析方法および微細処理装置を用いて、微生物を同定するために有用である(Link et al., 2007, Nat. Rev. Microbiol. 5:680-688; Weibel et al., 2007, Nat. Rev. Microbiol. 5:209-218)。生存微生物細胞(および/または代謝的に活性な微生物)は、かかる分析を行うために必要とされ得る(Metzger, S. et al, ASM general meeting 2008, Abstract C-145; Metzger, S. et al, ASM general meeting 2008, Abstract C-005)。
【0020】
本記述は多数の文献書類を引用しており、この内容はその全ての内容を参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
(本発明の要約)
本発明において、微生物および微生物核酸を体液から単離および/または検出するための新規かつ迅速な(およそ30分間)方法を開発した。本発明の方法は、下記工程を含む(から成る);約20〜約100 mg/mLの範囲の終濃度で処理済サポニンを含みうる溶液を用いて微生物細胞およびその核酸を保護(保存)してつつ、体液(宿主)細胞を溶解する工程;微生物細胞およびその核酸を保護しつつ、体液宿主細胞に由来する核酸の有意な画分を取り出すために体液細胞溶解物を洗浄する工程、ならびに体液成分由来の阻害剤を制御する工程;濃縮された微生物細胞およびその核酸を収集する工程、および/または微生物核酸を抽出する工程。本発明は、元々のサンプルに由来する微生物細胞濃度の約80-500倍の増加を達成する単純な方法を提供する。本発明の濃縮および富化プロトコルは、高および低負荷の微生物を含む体液から微生物核酸を抽出するのに有効であり、また広範囲の微生物に好適である。また、このプロトコルは、生存能力のある微生物細胞および/または代謝活性のある微生物細胞を得るためにも有効である。
【0022】
その一態様において、本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含み得る、または含むと疑われ得る体液からの微生物および/または微生物核酸を単離するための方法に関する。該方法は、例えば、体液とサポニン製剤とを接触させること、および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を除いて、単離された微生物および/または微生物核酸を得ることを含み得る。微生物核酸は、該単離した微生物を溶解することによりさらに単離することができる。
【0023】
その第二態様において、本発明は、体液中の微生物を検出するための方法に関する。該方法は、例えば本発明の単離方法から得た微生物核酸を増幅させることを含む。該方法は、プローブをハイブリダイズすること、および/または少なくとも1つの微生物の増幅した核酸と特異的に結合することができるものから選択されたプローブの集積物により、増幅した微生物核酸を検出することをさらに含んでもよい。この方法はまた、例えば本発明の単離方法から得た微生物の抗原性発現、細胞活性および/または生理学的活性を分析すること、を含み得る。
【0024】
その第三態様において、本発明は、本発明の単離方法および/または検出方法を基にしるアッセイに関する。
【0025】
その第四態様において、本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含み得るか、または含むと考えられ得る体液から微生物および/または微生物核酸を単離するためのキットに関する。該キットは、サポニン製剤を含有する容器を含む。該キットは、さらに検出手段を含有する容器をさらに含む。本発明もまた、微生物および/または微生物核酸を単離および/または検出するためのキットの使用に関する。
【0026】
その第五態様において、本発明は、その必要のある患者の体液感染を診断するための方法に関する。該方法は、微生物を検出することを含み得る、ここで該検出は検出される微生物と関連のある感染に関する指標となり得る。
【0027】
その第六態様において、本発明は、加熱、濾過および/またはオートクレーブにより調製されたサポニン製剤に関する。また、本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含み得るか、または含むと疑われ得る体液から微生物および/または微生物核酸を単離するためのかかるサポニン製剤の使用に関する。
【0028】
(図面の簡単な説明)
図面中の本発明の非限定的な実施態様の例示を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、10 CFU/ml Enterococcus faecalisにて混入された血液サンプル由来する微生物細胞およびその核酸の効率的な収集を示す。本発明の方法で処理された混入済血液サンプルからの微生物核酸のリアルタイムPCRによる検出を、50 CFUの非処理微生物から直接調製したコントロール細胞溶解物と比較した。混入済血液サンプルについての標準偏差は、ドナーあたり最低10回の反復した5人の血液ドナーからのものであるが、一方コントロールについての標準偏差は、5人の各ドナーについて1回の反復についてのものである。
【図2】図2は、最終のサポニン濃度に応じたE. coli核酸検出(2工程方法)を示す。E.coli 検出の相対効率は、TE 1Xで処理した血液サンプルについて得たサイクル閾値と、様々な範囲のFATS濃度で処理した血液について得たサイクル閾値との相違を計算することにより評価した。FATS処理サンプルから得た標準偏差は、少なくとも3つの異なる処理済血液サンプルに対して行った4-10回の反復についてのものである。核酸検出はFATS濃度と共に増加した。
【0030】
発明の詳細な説明
本開示内容において使用された用語に関する明確かつ一定の理解を提供するために、多くの規定が下記に提供される。さらに、別途規定されなければ、本明細書で使用した全ての技術および化学技術用語は、本発明が関わる技術分野における当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。
【0031】
明細書および請求項にて使用されるとおり、用語「約」とは、値にはその値を決定するために用いられる装置および/または方法についての誤差に関する固有の変動もまた含まれることを示すために使用される。値が明確に引用された場合には、引用された値とほぼ同じ数量または量である値もまた、その点を基にした範囲として、本発明の範囲内に含まれると理解されるべきである。単数形の使用には、別途明確に記述がなければ複数形の言及が含まれる。
【0032】
その一態様において、本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含むか、または含むと疑われ得る体液から微生物(生存および/または代謝的に活性な微生物)および/または微生物核酸(例えば、そして限定せずにDNA)を単離(濃縮)するための方法に関する。該方法は、例えば、体液をサポニン製剤と接触させること、および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を除去することにより、単離された微生物および/または微生物核酸を得ることを含むことができる(から構成され得る)。微生物核酸は、単離した微生物を溶解することによりさらに単離されてもよい。
【0033】
サポニン製剤は、サポニンを好適な低張および/または生理学的溶液に再懸濁することにより製造され得る。低分子量の夾雑物質が取り除かれたQuillaja saponaria Molinaの樹皮に由来する植物から得たサポニンは、卓越したサポニン源である。例示的な低張溶液または生理学的溶液には、下記に限定しないが、水、低イオン強度緩衝液、例えばTE(10 mM Tris, 1 mM EDTA, pH 8)、リン酸塩緩衝液、リン酸塩生理緩衝液(PBS 1X:137 mM NaCl, 10 mM リン酸塩, 2.7 mM KCl, および pH 7.4)、エタノールおよび/または酸性溶液が含まれる。本発明の低張の希釈剤の例はTE 1X〜2Xである。本発明の生理学的希釈剤の例はPBS1Xである。サポニン懸濁液は、低張および/または生理学的希釈剤中で約100−約133 mg/mLの濃度で存在してもよい。
【0034】
本発明のサポニン製剤は、オートクレーブ、濾過および/または濾過前に加熱されてもよい。例えば、およそ95℃でサポニンを加熱することにより、例えば溶解を増加させ得る。サポニンは、例えば多くの未溶解粒子物質を除去し得るペーパーフィルター(例えばWhatmanTMのNo.5 ペーパーフィルターを含む)上で濾過されてもよい。サポニンは、微細な特定の材料を除去し得る5μm膜および/または0.2μm膜にて濾過され得る。本発明の実施態様において、サポニンを、5μm 硝酸セルロース膜および/または0.2μm ポリエーテルスルホン膜を用いて濾過することができる。
【0035】
本発明の例示的実施態様において、サポニンは、濾過およびオートクレーブされる。かかる処理は、濾過/オートクレーブ処理済みのサポニン(FATS)溶液と呼ばれ得るサポニン製剤となる。別の例示的な実施態様において、サポニンは、加熱、濾過およびオートクレーブされる。かかる処理により、加熱/濾過/オートクレーブ処理済みのサポニン(HFATS)溶液と呼ばれ得るサポニン製剤となる。FATSおよび/またはHFATS製剤は、本発明にて使用することができる。HFATS製剤は、本発明において有利に使用され得る。
【0036】
サポニンの終濃度は、20 mg/mL以上、25 mg/mL以上、40 mg/mL以上、50 mg/mL以上、75 mg/mL以上であってもよく、および/または80 mg/mL以上であってもよい。サポニンの終濃度は、20 mg/mLから100 mg/mLであってもよい。例えば、サポニンの終濃度は、25 mg/mLから100 mg/mL、30 mg/mLから100 mg/mL、40 mg/mLから100 mg/mL、60 mg/mLから100 mg/mL、75 mg/mLから100 mg/mLであり得る。サポニンの終濃度は、40 mg/mLから50 mg/mLである。本明細書で使用されるとおり、サポニンに関して「終濃度」とは、サンプルと混合した場合の、例えば体液と混合した時(または、接触した時)のサポニン濃度に関する。あらゆる特定の範囲または群は、範囲または群個々のあらゆるメンバー、ならびにその中に含まれるあらゆる起こり得る下位範囲または下位群に関する簡略化されたものと理解されよう。本発明は、あらゆる特定のメンバーならびにその中のいかなる下位範囲または下位群の組合せにも関し、明確に包含する。従って、例えば、サポニンの終濃度が75 mg/mL以上であるという場合、サポニンの終濃度が75.5 mg/mL、76 mg/mL、77 mg/mL、78 mg/mL、100 mg/mL、150 mg/mL以上であり得る。別の例示において、サポニンの終濃度が75 mg/mLから100 mg/mLの間であるという場合に、サポニンの終濃度は75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100 mg/mL および/またはそれらの間のあらゆる値であり得る。
【0037】
用語「サポニン」とは、ステロイド様サポニン、トリテルペノイドサポニンおよび/またはその組合せを含むことを意味する。本発明の実施態様の例において、サポニンはトリテルペノイドサポニンである。
【0038】
本発明のサポニン製剤は、核酸増幅と適合性であり得る。本発明のサポニン製剤は、微生物の完全性および/または生存能力を保存しつつ、微生物および/または宿主細胞を含み得る、ならびに/または含むと疑われ得る体液中の体液宿主細胞を選択的に溶解できる。
【0039】
本明細書で使用したとおり、「体液」とは、羊膜液、房水、胆汁、膀胱洗浄液、血液、胸部滲出液、気管支肺胞洗浄、脳脊髄液、乳び、びじゅく粥(chyme)、細胞質ゾル、糞便(半液体または液体形態において)、間質液、リンパ液、月経、粘液、血漿、胸膜液、膿汁、唾液、皮脂、精液、血漿、唾液、汗、滑液、涙、尿および/または硝子体液であり得る。本発明の実施態様の例示において、該体液は血液であってよい。別の実施態様において、体液(サンプル)は、例えばヒトなどの哺乳動物から得ることができる。
【0040】
体液は、少なくとも一回、サポニン製剤と接触され得る。本発明の実施態様の例において、該体液は、サポニン製剤と一度接触され得る(1工程方法)。本発明の実施態様の別の例示において、体液は2度サポニン製剤と接触され得る(2工程方法)。サポニン製剤と体液との接触は、80%以上、85%以上および/または90%以上の体液宿主細胞溶解をもたし得る。
【0041】
本発明の微生物とは、細菌、酵母、真菌および/またはその組合せであり得る。本発明の微生物は、好気性および/または嫌気性であってよい。用語「微生物」、「微生物細胞」および「病原菌」は、本文書中で互換的に使用され得る。実施態様の例示において、微生物は体液感染、例えば血液感染をもたらし得る。また、本発明の微生物は、敗血症を引き起こす微生物、即ち全身性炎症反応症候群(SIRS)をもたらす細菌、酵母および/または真菌などの微生物であり得る。
【0042】
本発明の微生物には、Acinetobacter genus、Bacteroides genus、Burkholderia genus、Capnocytophaga genus、Clostridium genus、Corynebacterium genus、Citrobacter genus、Enterobacter genus、Enterococcus genus、Escherichia genus、Haemophilus genus、Klebsiella genus、Proteus genus、Pseudomonas genus、Serratia genus、Staphylococcus genus、Stenotrophomonas genus、Streptococcus genus、Aspergillus genus および/または Candida genusが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0043】
微生物の例としては、Acinetobacter baumannii、 Bacteroides fragilis、Burkholderia cepacia、Capnocytophaga canimorsus、Clostridium perfringens、Corynebacterium jeikeium、Citrobacter freundii、Citrobacter koseri、Enterobacter aerogenes、Enterobacter cloacae、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Escherichia coli、Haemophilus influenzae、Klebsiella oxytoca、Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabilis、Pseudomonas aeruginosa、Serratia marcescens、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus hominis、Staphylococcus warneri、Stenotrophomonas maltophilia、Streptococcus agalactiae、Streptococcus anginosus、Streptococcus dysgalactiae、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenes、Streptococcus sanguinis、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosisおよび/またはCandida tropicalisであってもよい。
【0044】
実施態様の例示には、本発明の方法により得られた単離された微生物は生存能力があり、および/または代謝的に活性である。「生存能力のある微生物」とは、細胞分裂を行い得る微生物である。「代謝的に活性な微生物」とは、細胞分裂を行うことができないが代謝的機能を行い得る微生物である。
【0045】
本発明の方法に関する微生物および微生物核酸の単離は、体液からの微生物および微生物核酸により80から500倍の濃度となり得る。微生物は、体液中で低および/または高濃度にて存在し得る。通常、体液中の微生物濃度は、1mlあたり多くの生存能力のある微生物細胞を発現するCFU計測により測定され得る。体液中の低い微生物濃度の例示は、10 CFU/mL以下であり得る。例として、また限定しないが、低い微生物濃度は、0.1〜10 CFU/mlまたはその間またはそれ以下のいずれの範囲であってもよい。体液中の例示的な高い微生物濃度は、100-10,000 CFU/mL以上であってよい。
【0046】
本発明の方法は、約50 CFU/mL、約40 CFU/mL、約30 CFU/mL、約25 CFU/mL および/またはそれ以下の分析感度を有し得る。例えば、分析感度は約1〜約50CFU/mL および/または約1〜約25 CFU/mLであり得る。
【0047】
本発明に従って、単離された微生物および/または微生物核酸は、増幅および/または検出の阻害剤を実質的に含まない。本発明に従って、「増幅阻害剤」は、標的配列の増幅を妨げるおよび/または防止する任意の物質であり得る。
【0048】
本発明に従って、宿主細胞は、目的とする宿主中、例えばヒトなどの哺乳動物で内因性細胞であり得る。宿主細胞(内因性細胞)は、体液サンプル中に存在していてよい。体液の宿主細胞の例は、赤血球細胞および白血球細胞であり得る。
【0049】
宿主細胞および/または宿主細胞破片を除去することとは、不溶性物質を濃縮し、この不溶性物質を適切な洗浄溶液中に再懸濁することにより、体液(サンプル)を洗浄することを含み得る。不溶性物質を濃縮および再懸濁する洗浄工程は、例えば核酸増幅/検出方法の阻害剤の除去が最大となるまで複数回反復してもよい。濃縮方法には、遠心分離、濾過、表面結合および/または電気的捕捉等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。好適な洗浄溶液の例示には、水、緩衝液、例えば、TE、リン酸塩緩衝液、Tris 緩衝液、リン酸塩生理緩衝液、トリス-生理緩衝液、エタノール含有水溶液および/または酸性溶液などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0050】
単離された微生物を、当業者には既知のいずれかの方法により、その核酸を抽出および/または精製するために溶解(例えば、化学的、酵素的および/または物理的に溶解)することができる。核酸抽出方法の例は、BD GeneOhm(登録商標)溶解キットであってもよい(BD Diagnostics-GeneOhm)。
【0051】
その第二態様において、本発明は、体液中の微生物を検出するための方法に関する。検出方法は、例えば本発明の単離方法から得られる微生物核酸を増幅することを含み得る(からなることができる)。該方法は、増幅した微生物核酸を検出することをさらに含み得る。該方法は、例えば、本発明の単離方法から得られた微生物の表現型の分析、抗原発現、細胞活性および/または生理学的活性をさらに含み得る。微生物細胞の表現型、抗原発現、細胞分析および/または生理学的分析を、当業者に既知の方法により行い得る。
【0052】
本発明に従って、「増幅」とは、特定の核酸配列の数の増加を意味し、当業者には既知の数多くのイン・ビトロの核酸増幅技術により達成することが可能である。増幅技術は、温度サイクル(例えば、PCR、リガーゼ連鎖反応、転写に基づく増幅)および/または等温増幅システム(例えば、自立的配列複製、レプリカーゼ系、ヘリカーゼ系、鎖置換増幅、ローリング・サークル型増幅およびNASBA)を必要とする方法を包含し得る。本発明の実施態様の例示に従って、微生物核酸の増幅を、ポリメラーゼ連鎖反応および/またはその任意の変更、例えばアレル特異的PCR、非対称PCR、ホットスタートPCR、配列間特異的PCR、メチル化-特異的PCR、ミニプライマーPCR、多重化ライゲーション-依存性プローブ増幅、多重化PCR、ネスティッドPCR、定量的PCR、逆転写PCRおよび/またはタッチダウンPCRなどにより行うことができるが、これらに限定するものではない。増幅を、少なくとも一つの微生物の核酸に特異的に結合できるものから選択され得るプライマーおよび/またはプライマー集積物を用いて行うことができる。増幅された微生物核酸を、少なくとも一つの微生物の増幅された核酸に特異的に結合できるプローブおよび/またはプローブの集積物をハイブリダイズすることにより検出することができる。本発明で使用したプライマーおよびプローブの例示は配列番号:1から32であり得る。
【0053】
その第三態様において、本発明は、本発明の単離方法および/または検出方法を基にし得るアッセイにも関する。
【0054】
その第四態様において、本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含むかまたは含むと疑われ得る体液から、微生物および/または微生物核酸を単離するためのキットに関する。キットは、本発明のサポニン製剤を含有する容器および/または検出手段を含有する容器を含むことができる。本発明は、微生物および/または微生物核酸を単離および/または検出するための本発明のキットの使用にも関する。また、本発明のキットはその使用のための説明書も含むことができる。
【0055】
本発明に従って、検出手段は、例えば、少なくとも一つの微生物の核酸に特異的に結合できるプライマー、少なくとも一つの微生物核酸に特異的結合できるプローブ、表現型分析検出手段、抗原発現分析検出手段、細胞活性検出手段および/または生理学的活性検出手段から構成されてもよい。
【0056】
その第5態様において、本発明は、その必要のある患者における体液感染を診断するための方法に関する。該方法は、微生物を検出することを含み、ここで該検出とは、検出された微生物と関連のある感染の指標であり得る。本明細書で使用したとおり、その必要のある患者とは、体液感染を有する患者、体液感染を有する疑いのある患者、体液感染を有するリスクを持つ患者であり得る。本発明の実施態様の例示において、患者は、哺乳動物、例えばヒトである。
【0057】
その第6態様において、本発明は、加熱、濾過、および/またはオートクレーブにより調製されたサポニン製剤に関する。また本発明は、微生物および/または宿主細胞および/または宿主細胞破片を含むか、または含むと疑われ得る体液から微生物および/または微生物核酸を単離するためのかかるサポニン製剤の使用にも関する。
【0058】
本発明のサポニン製剤は、終濃度20 mg/mLから100 mg/mLにて使用され得る。サポニン製剤は75 mg/mL以上の終濃度で使用され得る。
【0059】
本発明は、微生物および/または宿主細胞を含み得るか、または含むと疑われ得る体液から微生物および微生物核酸を濃縮および/または検出するための方法に関する。該方法は、a.サポニン製剤を用いて宿主細胞を溶解する工程、b.該微生物を、溶解した宿主細胞から分離する工程、c.分離した微生物を洗浄する工程、および/または d.該微生物を収集する工程を含むことができる。該方法は、e.該微生物から核酸を抽出する工程、および/または f.該微生物および/または該微生物核酸を検出する工程をさらに含んでもよい。
【0060】
本発明のさらなる範囲および用途は、後記する発明の詳細な説明から明らかとなろう。しかし、この発明の詳細な説明は、本発明の実施態様の例示を示しているが、単なる例示目的として提供されるものであると解するべきであり、様々な変更および改変は当業者には明らかであろう。
【実施例1】
【0061】
実施例1:実験方法
本発明の方法は下記工程を含む:約20から約100 mg/mLの範囲の終濃度にて、処理済サポニンを含み得る溶液を用いて微生物細胞およびその核酸を保護しつつ、血液細胞を溶解する工程(例えば、90%以上の血液細胞);血液細胞から核酸の有意な分画を除去するために血液細胞溶解物を洗浄する工程、ならびに微生物細胞およびその核酸を保護しつつ、血液成分に由来する阻害剤を制御する工程;濃縮した微生物細胞およびその核酸を収集する工程および/または微生物核酸を抽出する工程。かかる目的のために、次の条件および/または試薬を用いる。
【0062】
サポニン試薬調製
サポニン試薬を、Quillaja saponaria Molina樹皮に由来する粉末抽出物状のサポニンを、好適な低張溶液または生理学的溶液に再懸濁することにより調製した。低分子量の夾雑物を排除したQuillaja saponaria 樹皮からのサポニン抽出物を、Sigma-Aldrich (Catalog No. S4521)から得た。サポニンは、1mLのTE 緩衝液希釈液またはPBSあたり、100から133 mgの粉末を溶解することにより調製される。
【0063】
「FATS」サポニン製剤の調製工程
1)サポニン粉末をTE 1XまたはPBS 1Xと混合した;
2)該サポニンを、数時間室温にて混合して溶解させた;
3)該サポニン溶液を、No.5 ペーパーフィルター(WhatmanTM)、5μm 硝酸セルロース膜フィルター(WhatmanTM)および0.2μm ポリエーテルスルホン膜フィルター(Nalgene)により順に濾過した;そして
4)濾液を、121℃で30分間オートクレーブにかけ、4℃で貯蔵した。
【0064】
「HFATS」サポニン製剤の調製工程
【0065】
1)サポニン粉末を、TE 1X またはPBS 1Xと混合した;
2)該サポニン溶液を、完全に溶解するまで攪拌しながら95-100℃で加熱した;
3)サポニン温溶液を、No.5 ペーパーフィルター[Whatman(登録商標)]、5μm 硝酸セルロース膜フィルター(WhatmanTM)および0.2μm ポリエーテルスルホン膜フィルター(Nalgene)により順に濾過した;そして
4)濾液を、121℃で30分間オートクレーブにかけ、4℃で貯蔵した。
【0066】
可能な場合は常に、試薬および溶液からの核酸の夾雑物レベルを最小にするために、ストック溶液を、0.1μm ポリエーテルスルホン膜(Pall)で濾過した。0.1μmの濾材のほかに、水、TE、PBSおよび他の熱安定溶液をオートクレーブにかけた。
【0067】
血液細胞溶解条件
2工程方法
最初にFATSまたはHFATS処理を、FATSまたはHFATS最終濃度が75mg/mLとして、血液サンプルと共に、血液量の約3当量のFATSまたはHFATS(100 mg/mL)を添加することにより行った。血液サンプルを、FATSまたはHFATSと、10秒間、最高速度に設定したボルテックスを用いて混合した。この最初のFATSまたはHFATS処理を、10000 gで5分間の遠心分離に供した。上清を廃棄し、該ペレットを、約2等量の初期血液量のFATSまたはHFATS(100mg/mL)を用いて再懸濁した。この2回目の処理について、FATSまたはHFATS最終濃度は100 mg/mLである。血液サンプルを、最高速度に設定したボルテックスを用いて10秒間、FATSまたはHFATSと混合した。この第二のFATSまたはHFATS処理を、10000gで5分間遠心分離に供した。上清を廃棄し、該ペレットを下記のとおりに洗浄した。
【0068】
1工程方法
代替方法は、FATSまたはHFATSを用いる1回の処理を用いて血液サンプルを処理することである。血液サンプルを、80-83.3mg/mLに等しいFATSまたはHFATS最終濃度として赤血球および白血球細胞を溶解するために、約4から5の血液量のFATSまたはHFATS(100 mg/mL)と直接混合した。このHFATS処理物を、10000gで5分間遠心分離に供した。上清を廃棄し、該ペレットを次の段落に記載したとおりに洗浄した。
【0069】
ペレット洗浄
好適な洗浄および収集溶液の例示には、水、緩衝液、例えばTE、リン酸塩緩衝液、Tris緩衝液、リン酸塩生理緩衝液、トリス-生理緩衝液、エタノール含有水溶液および/または酸性化溶液等が挙げられるが、これらに限定するものではない。微生物細胞およびその核酸をすすぎ流すことおよび収集することは、洗液/収集溶液と先の工程から得られたペレットとを強く攪拌することにより達成できる。例示的な洗液/収集溶液はTE 1X 緩衝液またはPBS1X 緩衝液であり得る。該洗浄は、上下動のピペッティング操作により物理的に該ペレットを崩した後に、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合することにより達成した。次に、該溶液を10000gで1分間遠心分離し、該上清を廃棄した。該ペレットを1回以上洗浄し、例えば該ペレットを2回洗浄した。
【0070】
収集工程
洗浄されたペレットには微生物細胞およびその核酸(血液細胞残渣も含有できる)が含まれる。微生物細胞およびその核酸を収集するために、この洗浄したペレットを、例えばTEなどの好適な洗液/収集溶液中で15秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて勢いよく振盪する。TE 1X量は0.002-0.012Xの初期血液量であった。こうして、開始微生物細胞およびその核酸の80-から500-倍の濃度が達成される。
【0071】
最後に崩壊していないペレットを、マイクロピペットチップを用いる物理的分離により、チューブから物理的に除去する。次いで、残っている微生物細胞および核酸懸濁液を核酸抽出のために準備した。また、洗浄したペレットを、微生物細胞を得るためにさらに処理してもよい。該ペレットから取り除いた洗液および収集溶液を、微生物核酸を抽出するためにさらに処理した。また、該ペレットから取り出した洗液および収集溶液を、微生物細胞を得るためにさらに処理した。HFATSおよび/またはFATS溶液による血液細胞の溶解後のあらゆる工程で、微生物細胞および核酸懸濁液のサンプルを、表現型、抗原発現、細胞および/または生理学的な分析のために用いた。
【0072】
蛍光活性化細胞ソーター(EPICS XL, Beckman Coulter)により評価されたとおり、90%以上の赤血球および白血球細胞の溶解は、HFATSを用いる1工程方法を用いて達成され得る。
【0073】
当業者は、可溶性分画と不溶性分画に関する分離および収集を達成するための液体の置換手段およびその他の方法を知っている。それ故に、それらが手動または自動であろうとなかろうと、液体を移動させること、ならびに/または可溶性および不溶性分画を分離および/または回収することを目的とした別の手段、方法ならびに装置は本発明の範囲内である。
【0074】
PCR阻害剤の制御
DNA抽出物中に存在する潜在的PCR阻害剤は、DNA標的のコントロール量をPCR混合物に添加することによりモニターすることができる。このコントロールを、同じ反応チューブ内で、または平行して行い得る(Hoorfar et al., 2004, Lett. Appl. Microbiol., 38:79-80)。
【実施例2】
【0075】
実施例2:血液サンプルからの微生物細胞およびその核酸の効率的単離および検出
全血液サンプル(5 mL)を、平均して10CFU/mLのEnterococcus faecalisを用いて接種した。混入済血液を、実施例1に記載の2工程方法を用いてサポニンで処理した。第一の工程中、100 mg/mL HFATS(15 mL)のTE1X溶液を、該混入済血液サンプルに添加し、最高速度に設定したボルテックスを用いて10秒間混合した。ペレット化した血液残留物および微生物細胞を、10000gで5分間遠心分離により得て、該上清を廃棄した。第二の工程において、100 mg/mL HFATS(10 mL)のTE 1X溶液を収集したペレットに添加し、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合し、次いで10000gで5分間遠心分離し、該上清を廃棄した。
【0076】
該ペレットを、上下動のピペッティング操作により、PBS1X(1.7 mL)中で洗浄した。該懸濁液を、10000gで1分間遠心分離し、該上清を廃棄した。洗浄工程を1回反復した。TE 1X(50 μL)を洗浄ペレットに加えた。洗浄したペレットおよびTE 1Xを、15秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて勢いよく攪拌した。該ペレットを、マイクロピペットチップを用いて取り出し、該水相を、BD GeneOhmTM 溶解キットを用いる微生物細胞溶解のためにガラスビーズを含有するチューブに移した。
【0077】
E. faecalisの核酸を、高速DNA増幅装置SmartCyclerTM(Cepheid)を用いて行ったPCRアッセイにて検出した。このアッセイは、E. faecalis tuf 遺伝子配列(5'-ACTTGTCCACGTTSGATRTCT-3',配列番号:1、および5'-AATTAATGGCTGCWGTTGAYGAA-3',配列番号:2)に特異的なプライマーを包含し、この生成したアンプリコンをE. faecalis tuf 遺伝子(5'-ATCCCAACTCCAGAACGTGAYA-3', 配列番号:3)に特異的なTaqManプローブを用いて検出した。PCR反応を、1X PCR 反応緩衝液(Promega)(1X 緩衝液は、10mM トリス-HCl(pH 9.1)、50mM KCl、3.3mg/mL BSA、0.1% TritonTM X-100および2.5 mM MgCl2)、0.4μMの各プライマー、0.1μMのTaqManプローブ、0.2mMのデオキシリボヌクレオシド三リン酸混合物(GE Healthcare)および0.025 U/μLのTaq DNAポリメラーゼ(Promega)を用いて行い、TaqStart(登録商標)抗体(Clontech Laboratories)と結合させた。SmartCycler(商標)(Cepheid)を用いるPCRサイクル条件は次のとおりである:開始変性として95℃で3分間、次いで変性のために95℃で10秒、アニーリングのために58℃で30秒および伸張のために72℃で30秒の45サイクル。
【0078】
本発明の方法を用いて処理した混入済血液サンプルからのリアルタイムPCRによる微生物核酸の検出を、BD GeneOhm(登録商標)溶解キット(図1)を用いて、TE 1X中に懸濁した50CFUの非処理微生物から直接調製したコントロール微生物細胞溶解物と比較した。開始CFU/ml数を、PBS 1Xの連続希釈物を培養すること、そして固体培地上で播種することにより決定した。CFUおよびゲノムコピー当量間の対応を、精製したE. faecalisのゲノムDNAの希釈物と共に標準曲線を用いて確認した。プレートの計測数を、8から12CFU/mlの範囲をこれらのアッセイについて試験して、PCR反応あたり2から3CFUに対応していることを確認した。この結果から、類似のサイクル閾値を、コントロール非処理細胞分解物と混入済血液サンプルの双方について得て、これにより本発明の方法が微生物細胞およびその核酸の収集に対して非常に有効であることを示すことが判った。
【実施例3】
【0079】
実施例3:E. COLI核酸検出に対するサポニンの濃度増加効果
E. coli核酸の検出について、濾過済み、オートクレーブ済の処理されたサポニン溶液(FATS)の濃度増加に関する効果をモニターした。生存微生物細胞が混入された血液標本から微生物DNAを収集した。全血液サンプル(10 mL)を、平均400CFUのE. coli/mLにて接種した。開始CFU/ml数を、固体培地上でPBS1Xの連続希釈物を培養することにより決定した。このアッセイを、実施例1に記載したとおりにFATSを用いて2工程処理を用いて完了した。第1工程中に、TE 1X中のFATS(40 mL)を、該混入済血液サンプルに添加し、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合した。ペレットを、10000gで5分間遠心分離により得て、該上清を廃棄した。第2工程において、TE1X中のFATS(45 mL)を該ペレットに加えて、最高速度に設定したボルテックスを用いて10秒間混合した。次に、該溶液を10000gで5分間遠心分離し、該上清を廃棄した。該ペレットを、上下動のピペッティング操作により、TE 1X(500 μL)中で一度洗浄した。次いで、該懸濁液を、10000gで5分間遠心分離して、該上清を廃棄した。洗浄したペレット中の微生物細胞およびその核酸をTE 5X(20 μL)に再懸濁した。微生物細胞の物理的溶解およびその核酸抽出を、BD GeneOhm(登録商標)溶解キット(BD Diagnostics-GeneOhm)を用いて達成した。微生物核酸を含有する得られた溶解物を、製造者指示書に従って迅速に沈降させて、95℃で2分間加熱した。同じ方法において、35CFUのE.coli/mLを用いて接種した全血液サンプル(5 mL)を、1工程方法を用いてHFATS(20 mL)により処理した。
【0080】
E.coli 核酸を、短時間DNA増幅装置SmartCycler(登録商標)(Cepheid)を用いて行ったPCRアッセイにて検出した。このアッセイは、E. coli tuf 遺伝子配列(5'-TGGGAAGCGAAAATCCTG-3', 配列番号:4、および5'-CAGTACAGGTAGACTTCTG-3', 配列番号:5)に特異的なプライマーを包含し、生成したアンプリコンをE. coli tuf 遺伝子(5'-AACTGGCTGGCTTCCTGG-3'、配列番号:6)に特異的なTaqManプローブを用いて検出する。PCR反応を、微生物細胞に由来する濃縮された核酸を含む溶解物(13μL)、1X PCR 反応緩衝液(Promega)(1X 緩衝液は、10mM トリス-HCl(pH 9.1)、50 mM KCl、3.3 mg/mL BSA、0.1% Triton(登録商標)X-100および2.5 mM MgCl2)、各プライマー(0.4μM)、TaqManプローブ(0.1μM)、0.2 mMの各デオキシリボヌクレオシド三リン酸混合物(GE Healthcare)および0.025 U/μLのTaq DNA ポリメラーゼ(Promega)を含有する混合物(25 μL)中で行い、TaqStart(登録商標)抗体(Clontech Laboratories)と結合させた。PCRサイクル条件は次のとおりであった:初期変性のために95℃で2分間、次いで変性のために95℃で1秒間、アニーリングのために58℃で30秒間および伸張のために72℃で30秒間の45サイクル。
【0081】
図2に示したとおり、E.coli核酸検出はFATS濃度と共に増加する。E.coli核酸検出は60-100 mg/mLのFATS最終濃度間で増加した。同様に、微生物核酸検出はHFATS濃度と共に増加した。微生物核酸検出は、約80 mg/mL程度のHFATSで至適化された。表1に示したとおり、FATS濃度の増加とE. coli核酸検出との相関関係は、血液ペレット量の減少と関連がある。残存ペレット量のこの低下は、およそFATS(40 mg/mL)で開始する。HFATSを用いると、該残存ペレット量は、最小のHFATS濃度であっても一定して少量である(60-100 mg/mL FATSを用いて得られたものに相当する)。より少量のペレットが微生物細胞およびその核酸の回収を容易にすると思われることがコントロール実験により判ったため、約75 mg/mL以上のサポニン濃度を使用するのが有利であろう。
【表1】

【実施例4】
【0082】
実施例4:様々な細菌および真菌種の検出
様々な細菌および真菌微生物の検出を、本発明の方法(1工程および2工程方法)を用いて処理した混入済血液標本から収集した後にPCRにより試験した。全血液(5 mL)を、細菌または酵母細胞懸濁液を用いて接種した。2工程方法を、下記のとおりに処理した。100 mg/mLのTE 1X中のHFATS(15 mL)を、該混入済血液サンプルに添加し、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合した。次に、該溶液を10000gにて5分間遠心分離し、該上清を廃棄した。次いで、100 mg/mLのTE 1X中のHFATS(10 mL)をペレットに添加し、最高速度に設定したボルテックスを用いて10秒間混合した。次いで、該懸濁液を、10000 gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。1工程方法を次のとおりに処理した:TE 1X中のHFATS(20 mL)を、混入済血液に添加し、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合した。次に、該溶液を10000gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。該ペレットを2回洗浄した。TE 1X(50 μL)を、この洗浄したペレットに添加した。洗浄したペレットおよびTE 1Xを、15秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて勢い良く振盪した。該ペレットを、マイクロピペットチップを用いて除去した。微生物細胞を含有する残存懸濁液を、ガラスビーズを用いて物理的に溶解して、微生物核酸を抽出した。血液標本中に混入された標的微生物の各種について、一人の血液ドナーを、最低2回反復して試験した。微生物核酸を、Rotor-Gene(商標)サーモサイクラー(Corbett Life Science)の多重PCRアッセイを用いて検出した。これらの多重PCR試験は、表2に示したような、tuf、recAおよび/またはtef1 遺伝子配列に特異的なプライマーを包含する。

【表2】

【0083】
国際生化学連合(IUB)に従い、下記ヌクレオチド塩基の一文字コードを使用している:A:アデニン(A)、C: シトシン(C)、G: グアニン(G)、T:チミン(T)、U: ウリジン(U)、およびI: イノシン(I)。イノシンとは、あらゆる標準塩基(A、T、CまたはG)と結合できる改変された塩基である。オリゴヌクレオチド中の縮重の数を最小にするために、イノシンを使用する。配列縮重について、IUBコードはM:アデニンまたはシトシン(AまたはC)、R:アデニンまたはグアニン(AまたはG)、W:アデニンまたはチミン(AまたはT)、S:シトシンまたはグアニン(CまたはG)、Y:シトシンまたはチミン(CまたはT)、およびK:グアニンまたはチミン(GまたはT)。
【0084】
プライマーまたはプローブのオリゴヌクレオチド配列は、標的二本鎖DNAのいずれかの鎖から得ることが出来る。プライマーまたはプローブは、塩基A、G、C、またはT、またはアナログから構成することができ、またそれらを1以上の選択されたヌクレオチド位置にて、標的とする細菌および/または真菌種全ての株についてDNA増幅を確実するために縮重させることも可能である。縮重プライマーは、相補的配列とのアニーリングおよび多様な関連配列の増幅を可能にするために、配列中のミスマッチ位置にて多数の可能性を有するプライマーである。例えば、下記プライマー、AYATTAGTGCTTTTAAAGCCは、プライマー ACATTAGTGCTTTTAAAGCCおよびATATTAGTGCTTTTAAAGCCの等モル混合物である。縮重は、プライマーの特異性を低下させて、ミスマッチの機会を増やすことを意味しており、バックグラウンドのノイズを増加させる;また、増加された縮重は、個々のプライマーの濃度低下を意味する;そのため、512倍以上の縮重は避けるのが好ましい。このため、縮重プライマーは、アッセイの感受性および/または特異性への影響を回避するように注意深く設計されなければならない。いくつかのプライマーは、明細書に記載の病原体を効率的に増幅させるように設計されている。個々のオリゴヌクレオド各々は、それら自体の有用性を所有する;本明細書に記載したもの以外の目的のためにかかるオリゴヌクレオチドを使用することができる。例えば、本発明で使用したプライマーを、さらに長いまたは短いアンプリコンを増幅するために、他のプライマーと併用することもできる;本発明で使用したプローブを、他のプローブと併用することができる。
【0085】
PCR試験を、選択された種の検出を評価するために低濃度の微生物細胞にて行った。PCR反応を、濃縮された微生物核酸を有する溶解物(2.5μl)、1X PC2緩衝液(Ab Peptide)[1X PC2は50 mM トリス-HCl(pH9.1)、16mM(NH4)2SO4、3.5 mM MgCl2、0.150 mg/mL 牛血清アルブミン]、0.4から1.2μMの各プライマー(各プライマーについての至適濃度を、最大増幅収量を確実にするために調整する)、0.2mMの各4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸混合物(dNTPs)(GE Healthcare)および0.05から0.06 U/μLのKlenTaq1(商標)DNAポリメラーゼ(Ab Peptide)を含有する混合物中(25μL)で行い、TaqStart(登録商標)抗体(Clontech Laboratories)と結合させた。PCR反応混合物に、塩化マグネシウム最終濃度が4.5 mMとなるようにMgCl2(Promega)を補充し、BSA最終濃度が2.15 mg/mLとなるように仔ウシ血清アルブミン(BSA)分画V(Sigma)を補充した。また、8-メトキシプソラレン(8-Mop)(Sigma)を0.13μg/μLにて反応マスター混合物に添加して、DNA夾雑物を制御するために9999から40000 μJ/cm2の間のSpectrolinker(登録商標)L-1000 (Spectronics Corp.)でのUV照射に暴露した。このUV暴露は、WO03087402に記載したとおりに、様々な試薬ロットの夾雑物のレベルに応じて調整した。溶融曲線分析によるアンプリコンのPCR後の検出のために、上記したPCR混合物に、1x SYBR(商標)Green(Molecular Probes)を補充して、アンプリコンの異なる溶融温度をサーモサイクラーの製造元により提供された指示書に従って決定した。Rotor-Gene(商標)装置を用いるサーモサイクル条件は、初期変性のために1分間で95℃、次いで変性のために1秒間95℃またはアニーリングのために10秒間の60℃、伸張のために20秒間72℃の40サイクルである。アンプリコンを、60℃から95℃の温度範囲を用いて溶融した。
【0086】
表3に示したとおり、分析感度は、1から47CFU/mLの範囲にある(1工程方法について)か、または1から25CFU/mL範囲にある(2工程方法について)。また、分析感度は、血液サンプル中に混入された標的細菌および真菌種に依存する。
【0087】
本発明の方法を、Roche DiagnosticsのSepti Fast試験でカバーされた24種の微生物について報告されたデータ(Lehmann et al, 2007, Med. Microbiol. Immunol. 197:313-24)と比較した場合に、分析感度は少なくとも等価であった。重要な点では、SeptiFast試験は、本発明の方法よりも、より複雑かつより長時間の血液サンプル調製プロトコルが必要であることに注意されたい。
【0088】
表3:本発明の方法を用いて処理された混入済血液標本からの低い細胞濃度で収集された細菌および真菌種
【表3−1】

【表3−2】


*検出を、Rotor-Gene(商標)サーモサイクラーでのPCR増幅により行い、アンプリコンをSYBR Green 融解曲線分析により特徴分析した。NT:試験していない。
【実施例5】
【0089】
実施例5:低負荷の微生物細胞を含む血液からの生存能力のある微生物細胞の濃縮および富化
本発明の方法を用いて、低負荷の微生物細胞を含む混入済血液標本から、微生物細胞の収集後のその生存能力を試験した。全血液サンプル(5 mL)を、おおよそ2、10または20CFU Streptococcus pneumoniae/mLにて3回繰返して接種した。該混入済血液を、上述のとおり、かつ次のとおり単回の処理方法を用いてサポニンで処理した。100mg/mLのTE1X中のHFATS(20 mL)を、混入済の血液サンプルに添加し、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合した。ペレット化した血液残留物および細菌細胞を、10000gで5分間遠心分離により得て、該上清を廃棄した。該ペレットを、上下動のピペッティング操作により物理的に崩してPBS1X (1.7 mL)中で洗浄し、ボルテックスを用いて最高速度で10秒間混合した。該懸濁液を、10000gにて1分間遠心分離し、該上清を廃棄した。この洗浄工程を1回繰り返した。PBS 1X(60 μL)(洗液および収集溶液)を、該洗浄したペレットに添加し、最高速度に設定したボルテックスを用いて勢いよく15秒間振盪した。
【0090】
該ペレットを、マイクロピペットチップを用いて物理的に除去し、富化ブレイン・ハートインフュージョンブイヨン(eBHI)(3 mL)またはPBS 1X(25 μL)を含む新しいチューブに移し替えた。次いで、ペレットを含むPBS1Xを血液寒天培地に播種した。収集した微生物細胞を含む全収集懸濁水溶液を、播種のためにeBHI(3 mL)または血液寒天培地上に移し替えた。
【0091】
CFU数の決定および増殖評価のために、プレートおよびブロスを、5% CO2雰囲気下にて終夜35℃でインキュベートした。わずか10 CFUのS. pneumoniaeが開始血液サンプル(即ち、2CFU/mL)(5 mL)中に存在する場合でさえ、生存能力のある細菌細胞を該懸濁水溶液から収集した。生存能力のある細菌細胞を、該ペレットから収集することもできた。さらに、これらの収集した細菌細胞は、血液寒天培地上ならびにeBHI中で増殖できる。
【0092】
また、Candida albicans、Escherichia coli、Klebsiella oxytoca、Haemophilus influenzaeおよびStaphylococcus aureusの5種の他の微生物を低い細胞負荷にて血液に混入した場合にも、生存能力のある微生物細胞が収集された。
【0093】
これらの結果から、血液サンプルに混入された低負荷の微生物を用いる場合であっても、本発明の方法は、高確率で生存能力のある細胞を収集できることが判った。収集された懸濁水溶液または該ペレットに由来する生存能力のある細胞を用いて得られたこれらの結果は、0.2から22のCFU/mL血液の範囲内で再現性がある。
【実施例6】
【0094】
実施例6:高負荷の微生物細胞を有する血液に由来する生存可能な微生物細胞の濃縮および富化
本発明の方法を用いて、高負荷の微生物細胞を有する混入済血液標本からのその収集後の微生物細胞の生存能力を試験した。3回分の全血液サンプル(5 mL)を、10700 CFUのEscherichia coli/mLにて接種した。該混入済み血液を、上述のとおりに、および次のとおりに1工程方法により処理した。100 mg/mLのTE 1X中のHFATS(20 mL)を混入済血液サンプルに添加し、10秒間最高速度に設定したボルテックスを用いて混合した。ペレット化した血液残留物および微生物細胞を、10000gで5分間の遠心分離により得て、該上清を廃棄した。
【0095】
上下動のピペッティング操作によりペレットを物理的に崩すことにより、該ペレットをPBS1X(1.7 mL)中で洗浄し、最高速度のボルテックスを用いて10秒間混合した。該懸濁液(100μL)を、新規チューブ内に移し、さらにPBS1Xで連続希釈を行う。3つの同じ10−1希釈物を、血液寒天培地に播種した。希釈されていない懸濁液(5μL)をeBHI(3 mL)に移した。残存懸濁液を10000gで1分間遠心分離し、該上清を廃棄した。洗浄、サンプル採取および処理工程を1回繰り返した。
【0096】
TE 1X(60 μL)(洗液および収集溶液)を、この洗浄したペレットに添加し、最高速度に設定したボルテックスを用いて15秒間混合した。該ペレットを、マイクロピペットチップを用いて物理的に除去し、3つのeBHI(3 mL)または3本のPBS 1X (25 μL)を含む新規チューブに移した。次に、該ペレットを含有するPBS1Xを血液寒天培地に播種した。収集した微生物細胞を含む全水相(30 μL)を、新規チューブに移し、さらにPBS1Xで連続希釈を行った。3つの同じ各連続希釈物を、血液寒天培地に播種した。希釈していない懸濁液(5 μL)をeBHI(3 mL)に移した。
【0097】
プレートおよびブロスをCFU数の決定のために35℃でインキュベートした。結果は、第一および第二洗浄工程の後に、微生物細胞を、それぞれ平均して106%±27%および117%±19%にて収集した。これらの%は、各工程で収集した生存可能なE. coli細胞の数と、血液サンプル中で最初に接種した生存可能なE.coli細胞の数との比率を示す。最終工程の後、85%±18%の生存可能なE.coli細胞を回収した。これらの結果は、高比率の生存能力のある細菌細胞を各洗浄懸濁液ならびに洗液最終懸濁物/収集最終懸濁物から収集したことを示している。さらに、これらの収集した細菌細胞は、eBHI中で増殖することができる。これらの結果は、本発明の方法は、サンプル処理中のあらゆる工程にて高比率で生存能力のある細胞を収集できることが示している。
【0098】
本発明は、例示的な実施態様の方法に記述されているが、当業者には、前述のおよび様々な他の改変、削除および追加が、特許請求の範囲に規定したような本発明の精神および範囲からはずれることなしに、その範囲中で、またその範囲に対して為されることができることが理解されよう。
【0099】
引用文献
EPO公開番号0,745,849
EPO公開番号1,422,509
米国特許第3,883,425号
米国特許第4,164,449号
米国特許第5,645,992号
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物および宿主細胞または宿主細胞破片を含んでいるか、または含むと疑われる体液からの微生物および微生物核酸を単離するための方法であって、
a.該体液をサポニン製剤と接触させること、および
b.宿主細胞または宿主細胞破片を除去することにより、単離された微生物および微生物核酸を得ること、
を含む方法。
【請求項2】
該サポニン製剤が濾過される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該サポニン製剤がオートクレーブされる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該サポニン製剤が、濾過の前に加熱される、請求項2または3いずれか一項記載の方法。
【請求項5】
該サポニンの終濃度が20mg/mLを超える、請求項1から4いずれか一項記載の方法。
【請求項6】
該サポニンの終濃度が75mg/mLを超える、請求項1から4いずれか一項記載の方法。
【請求項7】
該サポニンの終濃度が20mg/mLから100mg/mLである、請求項1から4いずれか一項記載の方法。
【請求項8】
該サポニンの終濃度が25mg/mLから100mg/mLである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該サポニンの終濃度が30mg/mLから100mg/mLである、請求項7記載の方法。
【請求項10】
該サポニンの終濃度が40mg/mLから100mg/mLである、請求項7記載の方法。
【請求項11】
該サポニンの終濃度が60mg/mLから100mg/mLである、請求項7記載の方法。
【請求項12】
該サポニンの終濃度が75mg/mLから100mg/mLである、請求項7記載の方法。
【請求項13】
該サポニンの終濃度が40mg/mLから50mg/mLである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
該サポニンが、ステロイド様サポニン、トリテルペノイドサポニンおよびその組合せを含む、請求項1から13いずれか一項の方法。
【請求項15】
該サポニンがトリテルペノイドサポニンである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該体液が、羊膜液、房水、胆汁、膀胱洗浄、血液、胸部滲出液、気管支肺胞洗浄、脳脊髄液、乳び、びじゅく粥(chyme)、細胞質ゾル、糞便、間質液、リンパ液、月経、粘液、血漿、胸膜液、膿汁、唾液、皮脂、精液、血漿、唾液、汗、滑液、涙、尿および/または硝子体液からなる群から選択される、請求項1から15いずれか一項記載の方法。
【請求項17】
該体液が血液である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該体液がヒトから得られる、請求項1から17いずれか一項記載の方法。
【請求項19】
該体液が、サポニン製剤と少なくとも一回接触される、請求項1から18いずれか一項記載の方法。
【請求項20】
該体液がサポニン製剤と1回接触される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
該体液がサポニン製剤と2回接触される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
該微生物が体液中に低濃度にて存在している、請求項1から21いずれか一項記載の方法。
【請求項23】
該微生物が体液中に高濃度にて存在している、請求項1から21いずれか一項記載の方法。
【請求項24】
該微生物核酸が、単離した微生物を溶解することによってさらに単離される、請求項1から23いずれか一項記載の方法。
【請求項25】
該単離した微生物および微生物核酸が、実質的に増幅阻害剤を含まない、請求項1から24いずれか一項記載の方法。
【請求項26】
該微生物が、細菌、酵母、真菌およびその組合せ物からなる群から選択される、請求項1から25いずれか一項記載の方法。
【請求項27】
該微生物が敗血症を引き起こす微生物である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
該方法により得られた単離した微生物が生存能力のある、請求項1から27いずれか一項記載の方法。
【請求項29】
該方法により得られた単離した微生物が代謝的に活性である、請求項1〜27いずれか一項記載の方法。
【請求項30】
請求項1〜29いずれか一項記載の単離方法により得られた微生物核酸を増幅すること、それにより増幅された微生物核酸を提供することを含む、体液中の微生物を検出する方法。
【請求項31】
微生物核酸の増幅がポリメラーゼ連鎖反応により行われる、請求項30記載の方法。
【請求項32】
増幅が、少なくとも一つの微生物の核酸に特異的に結合できるプライマーまたはプライマー集積物から選択されるプライマーまたはプライマー集積物を用いて行われる、請求項30または31いずれか一項記載の方法。
【請求項33】
少なくとも一つの微生物の増幅された核酸に特異的に結合できるプローブまたはプローブ集積物から選択されるプローブまたはプローブ集積物をハイブリダイズすることにより、増幅した微生物核酸を検出する工程をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項34】
請求項1から29いずれか一項記載の単離方法により得られる微生物の表現型、抗原発現、細胞活性または生理学的活性を分析することを含む、体液中の微生物を検出するための方法。
【請求項35】
請求項1、24、30または33または34いずれか一項記載の方法に基づいたアッセイ。
【請求項36】
微生物および宿主細胞または宿主細胞破片を含んでいるかまたは含むと疑われる体液から微生物および微生物核酸を単離するためのキット、ここで該キットはサポニン製剤を含有する容器を含んでいる。
【請求項37】
検出手段を含んでいる容器をさらに含む、請求項36記載のキット。
【請求項38】
検出手段が、請求項32のプライマー、請求項33のプローブ、表現型分析検出手段、抗原発現分析検出手段、細胞性活性検出手段および生理学的活性検出手段からなる群から選択される、請求項37記載のキット。
【請求項39】
微生物および微生物核酸を単離するための、請求項36記載のキットの使用。
【請求項40】
微生物および微生物核酸を検出するための、請求項37記載のキットの使用。
【請求項41】
請求項30、33または34いずれか一項に記載のように微生物を検出することを含む、その必要のある患者の体液感染を診断するための方法、ここで該検出が検出された微生物と関連のある感染の指標である。
【請求項42】
微生物および宿主細胞を含むか、または含むと疑われる体液中の体液宿主細胞を、微生物の完全性を保存しつつ、選択的に溶解できる、サポニン製剤。
【請求項43】
加熱、濾過およびオートクレーブにより調製される、請求項42記載のサポニン製剤。
【請求項44】
20 mg/mLから100 mg/mLの終濃度で使用するためのものである、請求項43記載のサポニン製剤。
【請求項45】
製剤が75 mg/mL以上の終濃度で使用するためのものである、請求項44記載のサポニン製剤。
【請求項46】
微生物および宿主細胞または宿主細胞破片を含んでいるか、または含むと疑われる体液から微生物および微生物核酸を単離するための、請求項43から45いずれか一項記載のサポニン製剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−535016(P2010−535016A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518470(P2010−518470)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001414
【国際公開番号】WO2009/015484
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(509075332)ユニヴェルシテ・ラヴァル (2)
【Fターム(参考)】