説明

体液処理方法

【課題】 正常な細胞への悪影響を回避しつつ、生体外で体液中の悪性リンパ腫細胞を死滅させる方法の提供。
【解決手段】生体外に取り出された悪性リンパ腫細胞含有の体液に下記式(I)の化合物を添加し励起光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体外で体液中の悪性リンパ腫細胞を死滅させる方法として、体外循環光化学療法(extracorporeal photochemotherapy又はphotopheresis)が知られている。従来の体外循環光化学療法は、体外循環回路に取り出した血液を8−メトキシソラレン(8−MOP)で処理し、紫外線(UVA)を照射して悪性リンパ腫細胞を死滅させた後、血液を体内に戻すというものであり、現在、皮膚T細胞リンパ腫の治療に利用されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】Haematologica 1999; 84:237-241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の方法では、UVA(波長:320nm〜400nm)を用いるため、光の照射による正常な細胞(特に核)への悪影響を避けることができなかった。
【0004】
そこで、本発明は、正常な細胞への悪影響を回避しつつ、生体外で体液中の悪性リンパ腫細胞を死滅させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、体液中の悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを生体外で選択的に死滅させるための体液処理方法であって、生体外に取り出された、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを含有する体液に、下記式(I)又は(II)で表される化合物(以下、場合により、「ATX−S10・Na」という。)を添加して添加物を得る添加ステップと、前記添加物に励起光を照射して、前記式(I)又は(II)で表される化合物を励起させる励起ステップと、を備える体液処理方法を提供する。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
ATX−S10・Naは、体液中において、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージには取り込まれるが、赤血球及び血小板にはほとんど取り込まれないという性質を有する。従って、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを含有する体液にATX−S10・Naを添加すると、ATX−S10・Naは選択的に上記の細胞に取り込まれることになる。すなわち、上記体液処理方法は、体液中の悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを生体外で選択的に死滅させるための方法である。ここで、「死滅させる」とは、体液中の悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージの集団の少なくとも一部を死滅させることであり、必ずしも全部を死滅させることではない。
【0009】
ATX−S10・Naは、波長400nm〜450nm又は約670nm(650nm〜700nm)の光を照射されることによって励起する。つまり、上記体液処理方法では、UVAよりも波長の長い可視光領域の光が用いられる。従って、光の照射により正常な細胞(特に核)や装置の材料に悪影響が及ぶことはほとんどない。また、光の物質透過性がよいので、標的細胞には十分な量の光を到達させることができる。
【0010】
上記体液処理方法で処理した体液を生体内に戻すと、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージは死滅するが、正常な細胞はほとんど死滅することなく生体内に戻されることになる。従って、悪性リンパ腫、白血病又は自己免疫疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ等)の患者の体液を上記体液処理方法で処理して、患者の体内に戻すことにより、正常な組織・細胞にはほとんど悪影響を及ぼすことなく、上記の疾患を治療することができる。
【0011】
上記体液処理方法では、添加ステップの前に、体液から白血球画分を分離する分離ステップを実施し、添加ステップにおいて白血球画分にATX−S10・Naを添加するのが好ましい。こうすることにより、白血球画分以外の画分(赤血球、血小板等)を速やかに患者の体内に戻して、患者に低血圧や貧血が生じるのを確実に防ぐことが可能となる。
【0012】
ところで、悪性リンパ腫又は白血病の患者の体液を上記体液処理方法で処理し、得られる体液処理物を患者の体内に戻すと、患者の体内の悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞の増殖が顕著に抑制される。すなわち、上記体液処理物中に含有される死滅した悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞は、悪性リンパ腫又は白血病のワクチンとして機能する。これは、上記体液処理物中にネクローシスを起こした細胞とアポトーシスを起こした細胞とが適度な割合で混在することにより、これらの死滅した細胞が生体内で、これと同種の細胞に特異的な免疫細胞、特にTリンパ球を活性化するためと考えられる。
【0013】
このように、生体外に取り出された、悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞を含有する体液にATX−S10・Naを添加して、励起光を照射すると、悪性リンパ腫又は白血病のワクチンを含有する体液処理物を得ることができる。上記体液処理物中に含有されるワクチンは、患者自身の悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞に高度に特異的な免疫を誘導するオーダーメードのワクチンであり、悪性リンパ腫又は白血病の治療、及び治療後の再発・転移の予防を可能にする。
【0014】
また、上記体液処理方法を用いれば、標的とする悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞をホルマリン等で固定するという煩雑な操作をすることなく、簡便に、かつ短時間に悪性リンパ腫又は白血病のワクチンを製造することが可能となる。
【0015】
なお、生体内投与を前提としたATX−S10・Naの使用は特許第3613599号公報及び特許第3191223号公報に記載されているが、ATX−S10・Naを体外における体液処理、特にワクチネーションを目的とした体液処理のために用いることができることは本発明者らが初めて見出した知見である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正常な細胞への悪影響を回避しつつ、生体外で体液中の悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを選択的に死滅させる方法が提供される。また、個々の悪性リンパ腫患者又は白血病患者に最適なワクチンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0018】
本発明の体液処理方法は、上述の添加ステップ及び励起ステップを備えるものである。
【0019】
添加ステップでは、生体外に取り出された体液にATX−S10・Naを添加する。ATX−S10・Naは、特許第3613599号公報に記載の方法により製造することができる。
【0020】
体液としては、血液、リンパ液及び骨髄液が挙げられる。血液を処理する場合は、血液が凝固しないように、生体外に取り出したら抗凝固薬(ヘパリン、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等)を添加しておくのが好ましい。
【0021】
上記体液は、悪性リンパ腫、白血病又は自己免疫疾患の患者(ヒト又は動物)から取り出されたものであり、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを含有する。悪性リンパ腫細胞は、ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫のいずれに由来するものでもよく、また、Bリンパ球性細胞及びTリンパ球性細胞のいずれでもよい。白血病細胞は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病及び慢性リンパ球性白血病のいずれに由来するものでもよく、例として、骨髄芽球、前骨髄球、単球、Bリンパ球、Tリンパ球等が挙げられる。
【0022】
ATX−S10・Naは、適当な溶媒に溶解した溶液の状態で体液に添加しても、また、固体状態で体液に添加してもよい。ATX−S10・Naが添加された体液は、ATX−S10・Naが悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージに十分取り込まれるようにするために、一定時間(例えば、2時間)以上インキュベートしておくのが好ましい。なお、ATX−S10・Naは水溶性が高いので、溶媒としては生理食塩水、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)等が好適である。
【0023】
体液から白血球画分を分離する場合、白血球画分の分離は、例えば、比重の違いに基づいて遠心分離により行うことができる。得られた白血球画分は、生理食塩水、PBS等の溶媒に懸濁させておくのが好ましい。
【0024】
白血球画分は悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを含有していればよいが、これらの細胞以外の正常な細胞(好中球等)は白血球画分から分離しておくのが好ましい。正常な細胞を分離しておけば、白血球画分にATX−S10・Naを添加した場合に、正常な細胞に対するATX−S10・Naの影響がより確実に回避される。
【0025】
体液から白血球画分を分離した場合は、白血球画分にATX−S10・Naを添加する。ATX−S10・Naは、適当な溶媒(生理食塩水、PBS等)に溶解した溶液の状態で白血球画分に添加しても、また、適当な溶媒(生理食塩水、PBS等)に懸濁させた白血球画分に固体状態で添加してもよい。ATX−S10・Naが添加された白血球画分は、ATX−S10・Naが悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージに十分取り込まれるようにするために、一定時間(例えば、2時間)以上インキュベートしておくのが好ましい。
【0026】
励起ステップでは、ATX−S10・Naが添加された体液又は白血球画分に励起光を照射する。励起光は波長400nm〜450nm又は約670nm(650nm〜700nm)の光であるが、使用する光の波長としては約670nmが好ましい。波長が長い方がそれだけ物質透過性に優れている。また、650nm〜750nmは、光の吸収による生体成分への影響が最も少ない波長域である。更に、白血球画分を分離せずに体液を処理する場合は、400nm〜450nmの光は体液中の赤血球(ヘモグロビン)に吸収される可能性がある。
【0027】
照射量(照射エネルギー密度)は、体液又は白血球画分に含有される各種細胞にATX−S10・Naがどの程度取り込まれているかによって、適宜調整すればよい。例えば、体液又は白血球画分に正常な好中球が含有されている場合、ATX−S10・Naは正常な好中球にも取り込まれている。しかし、好中球に取り込まれるATX−S10・Naの量は悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージほど多くないので、照射量を調整することにより、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを選択的に死滅させることができる。一般に、照射量は1J/cm〜50J/cmが好ましい。
【0028】
励起光源は、波長400nm〜450nm又は約670nm(650nm〜700nm)、好ましくは約670nmの光を放出するものであればよく、例として、ランプ(キセノンランプ等)、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード等が挙げられる。光源が上記波長以外の波長の光を放出する場合は、上記波長の光を取り出すためのフィルターを組み合わせて用いればよい。
【0029】
本発明の体液処理方法は、励起ステップの後に、ATX−S10・Naを体液中から除去する除去ステップを備えているのが好ましい。ATX−S10・Naが体液中から除去されていれば、処理後の体液が生体内に戻された場合に、ATX−S10・Naが生体内で正常な組織・細胞に悪影響を及ぼすのを確実に回避することができる。ATX−S10・Naの除去は、例えば、ATX−S10・Naを吸着する材質(活性炭等)からなるカラムに体液を通すことにより行うことができる。
【0030】
除去ステップでは更に、除去されていないATX−S10・Naが一定量以上ないかどうかを検査し、ATX−S10・Naが一定量以上残存している場合には、再度除去操作を行うのが好ましい。例えば、ATX−S10・Naの励起光を体液又は白血球画分に照射して、蛍光検出器で一定値以上の強度の蛍光が検出される場合には、ATX−S10・Naが一定量以上残存していると判定することができる。
【0031】
本発明の体液処理方法は、25℃〜36℃の一定温度下で実施されるのが好ましい。
【0032】
ワクチンを含有する体液処理物を得る場合は、悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞を含有する体液を上記体液処理方法で処理する。この場合、上記体液処理方法において、励起ステップの後(除去ステップを実施する場合は除去ステップの後)に、体液又は白血球画分を遠心し、その上清を採取する遠心ステップを実施してもよい。遠心ステップを実施する場合、ワクチンは得られる上清中に含有されている。励起光の照射前には、ATX−S10・Naが添加された培地で悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞を培養しておくのが好ましい。
【0033】
ワクチンを含有する体液処理物は、ワクチンを単離せずにそのまま、悪性リンパ腫又は白血病の患者(ヒト又は動物)に投与することができる。ヒトに用いる場合は、静脈注射、皮内注射等により投与することができる。投与回数は1〜4が好ましい。
【0034】
悪性リンパ腫又は白血病のワクチンを含有する体液処理物は、例えば、次のように得ることができる。すなわち、マイクロプレートの各ウェルに悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞を1×10個撒き、ATX−S10・Na(II)含有培地を添加し、24時間培養する。培養後、ATX−S10・Na(II)を含有しない新鮮培地と交換し、波長670nm、25J/cmの半導体レーザーを照射する。更に、48時間培養した後、800×gで遠心し、その上清を採取する。
【0035】
得られる上清に含有されるワクチンの効果は、例えば、次のように確認することができる。上記の上清30μLをマウスの背部皮膚に週に1回、4週間皮内投与する。最終投与から1週間後に1×10個の悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞を皮下に移植し、移植後90日にマウスを屠殺する。また、上清を投与していないマウスについても、1×10個の悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞を皮下に移植し、移植後90日にマウスを屠殺する。上清投与群及び非投与群のマウスにおける悪性リンパ腫細胞又は白血病細胞の増殖量を比較する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1:各種細胞のATX−S10・Na取込み量の測定)
(ATX−S10・Na添加液の調製)
上記式(II)で表される化合物(以下、「ATX−S10・Na(II)」という。)を14Cで標識した後、濃度が約1×10−3mol/LになるようにATX−S10・Na(II)を生理食塩水に溶解し、これを0.22μmフィルターでろ過滅菌し、更に1%FBS(fetal bovine serum)含有RPMI1640培地で希釈して、5×10−5mol/LのATX−S10・Na(II)添加液を調製した。
【0038】
(各種細胞の調製)
3人の健常人(A、B及びCと表す。)から採取した血液から、赤血球、血小板、好中球及びリンパ球を調製した。
【0039】
赤血球、好中球及びリンパ球は、ヘパリン加血液から調製した。ヘパリン加血液と6%デキストラン加生理食塩水を3:1(v:v)の割合で混和し、室温で30分間放置した。上層の白血球画分を遠心チューブで遠心(900rpm、10分間、4℃)し、沈渣を生理食塩水に懸濁してFicoll-Hypaque(登録商標)液の上に重層し、遠心(1600rpm、30分間、室温)した。中間層をリンパ球画分(単球を含む。)とし、沈渣を好中球画分とした。好中球画分は、氷冷0.2%NaCl溶液に懸濁して溶血させ、直ちに同量の氷冷1.6%NaCl溶液を添加して等張に戻した。また、粗赤血球画分は、KRP(Krebs-Ringerリン酸緩衝液)で希釈して遠心(2000rpm、5分間、4℃)し、buffy coat(白血球層)を除去した。同様の操作を更に4回繰り返して赤血球画分を得た。
【0040】
血小板は、クエン酸加血液から調製した。クエン酸加血液を遠心(800rpm、10分間、室温)してRPR(platelet rich plasma)を分離し、RPRに1/100容の1mol/Lクエン酸を加えて遠心(2200rpm、10分間、室温)した。その沈渣をTyrode-HEPES緩衝液(pH7.3)に懸濁して遠心(2200rpm、10分間、室温)し、沈渣を血小板画分とした。
【0041】
悪性リンパ腫細胞及び白血病細胞として、THP−1細胞(ヒト単球性白血病由来細胞)、EoL−1細胞(ヒト好酸球性白血病由来細胞)、A3/KAW細胞(ヒト悪性リンパ腫由来細胞)及びKG−1細胞(ヒト急性骨髄性白血病由来細胞)を用いた。いずれの細胞も、10%FBS含有RPMI1640培地を用いて培養し、培養中は週に1〜2回継代した。なお、THP−1細胞及びEoL−1細胞は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより、また、A3/KAW細胞及びKG−1細胞は財団法人ヒューマンサイエンス振興財団より入手した。
【0042】
(ATX−S10・Na取込み量の測定)
48ウェルマイクロプレートの各ウェルに細胞懸濁液400μL及びATX−S10・Na(II)添加液100μLを添加して混和し、COインキュベーター(37℃、5%CO)でインキュベートし、又は冷蔵室(約4℃)で静置した。添加直後(添加後0時間)、添加後1時間、3時間、20時間及び44時間に細胞を分離し、細胞のATX−S10・Na(II)取込み量(細胞表面への結合量を含む。)を測定した。なお、4℃で静置した場合の取込み量は細胞表面への結合量に相当し、37℃でインキュベートした場合の取込み量から4℃で静置した場合の取込み量を差し引いた値が各種細胞の実質的なATX−S10・Na(II)取込み量に当たると考えられる。
【0043】
細胞分離及び取込み量測定は次のように行った。すなわち、予め1mLの1.5%BSA(bovine serum albumin)含有PBS溶液(氷冷)を1.5mLチューブに入れておいた。分離しようとする細胞の懸濁液を軽くピペッティングして混和し、100μLを採取して上記1.5%BSA含有PBS溶液の上に重層した。1ウェルにつき、細胞懸濁液(300μL)を3本のチューブに分注した(n=3)。遠心(3200rpm、10分間、4℃)後、培地及び1.5%BSA含有PBS溶液を吸引除去し、沈渣をPBS(−)100μLで懸濁し、更に1mLのPBS(−)を加えて混和した。再度遠心(3000rpm、10分間、4℃)し、上清を吸引除去した後、チューブ底の沈渣をチューブごと切り取り、カウンティングバイアルに移した。液体シンチレーター4.5mLを加えて混和し、液体シンチレーションカウンターを用いて5分間放射能量を計測した。計測された放射能量より、細胞のATX−S10・Na(II)取込み量(pmol/10cells)を算出した。
【0044】
好中球の取込み量の測定は、N-formyl-L-methionyl-L-leucyl-L-phenylalanine(以下、「fMLP」という。)(最終濃度:1×10−7mol/L又は1×10−6mol/L)又はphorbol 12-myristate 13-acetate(以下、「PMA」という。)(最終濃度:1×10−7mol/L)をATX−S10・Na(II)と同時に細胞懸濁液に添加した場合についても行った。
【0045】
また、THP−1細胞の取込み量の測定は、細胞をPMA(2nmol/L、5nmol/L又は15nmol/L)で約24時間刺激し、PMA除去後直ちにATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した場合についても行った。なお、THP−1細胞は、PMAの刺激によりマクロファージに分化する。
【0046】
測定結果を表1〜表3及び図1〜図9に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
図1は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した直後の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図2は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で1時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図3は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で1時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図4は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で3時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図5は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で3時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図6は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で20時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図7は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で20時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図8は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で44時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。図9は、ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で44時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【0051】
表1〜表3及び図1〜図9において、(A)、(B)及び(C)は、細胞が由来する被採血者がそれぞれA、B及びCであることを表す。(fMLP10−7)及び(fMLP10−6)は、それぞれfMLP1×10−7mol/L及び1×10−7mol/Lで刺激したものであることを表し、(PMA)はPMA1×10−7mol/Lで刺激したものであることを表す。(PMA2)、(PMA5)及び(PMA15)は、それぞれPMA2nmol/L、5nmol/L及び15nmol/Lで刺激したものであることを表す。表1〜表3において、1hr、3hr、20hr及び44hrにおける上段及び下段の数値は、それぞれ37℃でインキュベートした場合、及び4℃で静置した場合の取込み量(pmol/10cells)を示す。
【0052】
表1〜表3及び図1〜図9から明らかなように、実質的なATX−S10・Na(II)取込み量(37℃でインキュベートした場合の取込み量から4℃で静置した場合の取込み量を差し引いた値)は、THP−1細胞、EoL−1細胞、A3/KAW細胞及びKG−1細胞のいずれにおいても、インキュベーション時間に応じて増加した。取込み能は、THP−1細胞が最も高く、A3/KAW細胞及びKG−1細胞がそれに続き、EoL−1細胞はかなり低かった。PMAで24時間刺激したTHP−1細胞(活性化マクロファージ)では、PMAで刺激しない場合よりも取込み量が多く、また、PMA濃度が高いほど取込み量が増加した。
【0053】
リンパ球及び好中球においても、実質的なATX−S10・Na(II)取込み量はインキュベーション時間に応じて増加した。取込み能は、いずれもTHP−1細胞又はA3/KAW細胞ほどではないが、EoL−1細胞よりは多かった。好中球では、fMLP又はPMAで刺激することによって取込み量が増加することはなかった。
【0054】
赤血球及び血小板では、ATX−S10・Na(II)がほとんど取り込まれなかった。なお、37℃で44時間インキュベートした後には、血小板の凝集が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、悪性リンパ腫、白血病又は自己免疫疾患の治療に利用することができる。本発明はまた、悪性リンパ腫又は白血病のワクチンの製造、及び悪性リンパ腫又は白血病の再発・転移の予防に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した直後の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図2】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で1時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図3】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で1時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図4】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で3時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図5】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で3時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図6】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で20時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図7】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で20時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図8】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、37℃で44時間インキュベートした場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。
【図9】ATX−S10・Na(II)を細胞懸濁液に添加した後、4℃で44時間静置した場合の、各種細胞のATX−S10・Na(II)取込み量を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中の悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを生体外で選択的に死滅させるための体液処理方法であって、
生体外に取り出された、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを含有する体液に、下記式(I)又は(II)で表される化合物を添加して添加物を得る添加ステップと、
前記添加物に励起光を照射して、前記式(I)又は(II)で表される化合物を励起させる励起ステップと、を備える体液処理方法。
【化1】


【化2】

【請求項2】
前記添加ステップの前に、生体外に取り出された、悪性リンパ腫細胞、白血病細胞又は活性化マクロファージを含有する体液から白血球画分を分離する分離ステップを実施し、
前記添加ステップにおいて、前記白血球画分に、前記式(I)又は(II)で表される化合物を添加する請求項1記載の体液処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−306743(P2006−306743A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128457(P2005−128457)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】