説明

作動油組成物

【課題】 低トラクション性かつ優れた極圧性、酸化安定性を示す作動油組成物を提供する。
【解決手段】 (A)40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、(B)エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤、及び(C)硫黄を含有する極圧剤が配合された組成物であって、該組成物の20℃における屈折率が1.453〜1.470であり、かつ40℃における動粘度が19〜51mm/sであることを特徴とする作動油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力型作動油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での温暖化が進行し、温室効果ガスの一つである二酸化炭素排出量削減が急務となっている。わが国でも、2006年にエネルギーの使用の合理化に関する法律、地球温暖化対策の推進に関する法律がそれぞれ改正施行され、工場、輸送事業者等はこれまで以上に電力消費量の削減が求められるようになってきた。
【0003】
電力消費量削減の一つの方法として、産業機械や輸送機械で使用される潤滑油側からの省電力化が図られている。
潤滑油による省電力化の例として、潤滑油に特定の添加剤を配合することによる摩擦・摩耗の低減化が提案されている。例えば、リン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩、脂肪酸エステル、カルボン酸アミド、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオカーバメートなどの配合技術による対応が試みられている(例えば、特許文献1、2参照)。また、特定の基油を使用することにより、配管等の圧力損失の低減を図った例も挙げられる(特許文献3参照)。
【0004】
油圧装置においても省電力化が求められている。油圧装置では、最近では油圧装置の高出力化、高圧化、オイルタンクの小型化などにより、高温、高圧、境界潤滑等、作動油がより過酷な条件にさらされることが考えられる。このような現状において、油圧装置に用いられる作動油側からの省電力化の方法の一つとして、摩擦・摩耗の低減が考えられる。油圧装置においては、作動油が使用される箇所としては、ポンプやアクチュエーター等、数ギガパスカルという高圧状態、弾性流体潤滑領域にさらされる箇所が存在する。よって、弾性流体潤滑領域での摩擦を低減、すなわち低トラクション化することが、油圧装置における省電力化に貢献すると考えられる。
また、作動油は、ベーンポンプ先端部等、境界潤滑領域にさらされる箇所も存在する。作動油の極圧性を向上させることは、この領域での摩耗を減少させることになり、例えばベーンポンプにおいては内部漏れ量の減少により、油圧装置における省電力化に貢献することが期待できる。
同時に、作動油は、高温条件下においても熱酸化安定性に優れるものとする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−140556号公報
【特許文献2】特開2001−040383号公報
【特許文献3】特開2004−250504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低トラクション性かつ優れた極圧性、酸化安定性を示す作動油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の高圧粘度を有する炭化水素系の潤滑油基油に特定のオレフィン系粘度指数向上剤、及び硫黄を含有する極圧剤を配合し、得られる組成物の20℃における屈折率と40℃における動粘度を特定の範囲にすることで、低トラクション性かつ優れた極圧性、酸化安定性を示す作動油組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、(B)エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤、及び(C)硫黄を含有する極圧剤が配合された組成物であって、(C)成分の硫黄を含有する極圧剤の配合量が組成物全量に対して0.01〜0.4質量%であり、該組成物の20℃における屈折率が1.453〜1.470であり、かつ40℃における動粘度が19〜51mm/sであることを特徴とする作動油組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記作動油組成物において、(B)成分であるオレフィン系粘度指数向上剤が、エチレンと炭素数3〜30のオレフィンとの共重合体であり、その屈折率が20℃において1.453〜1.480であり、かつその配合量が組成物全量に対し、0.5〜30質量%である作動油組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記作動油組成物において、(C)成分である硫黄を含有する極圧剤が、式(1)で表されるジチオリン酸誘導体、及び硫化オレフィンから選ばれる少なくとも1種である作動油組成物を提供するものである。
【0010】
【化2】

【0011】
(式(1)において、R1、R2は、炭素数3〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は環状炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよい。R3は炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、R4は水素原子、あるいは炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は環状炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の作動油組成物は、低トラクション性を示すことができ、かつ優れた極圧性及び酸化安定性を示すことができる。よって、本発明の作動油組成物は、省電力型作動油として産業機械等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の作動油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油の高圧粘度は、40℃、1.7GPaにおいて1.0×1010〜2.0×1012cPであり、より好ましくは2.0×1010〜5.0×1011cPであり、さらに好ましくは2.5×1010〜4.0×1011cPであり、特に好ましくは3.0×1010〜2.5×1011cPであり、最も好ましくは3.5×1010〜9.9×1010cPである。高圧粘度が1.0×1010cP未満であると適当な油膜厚さが保たれなくなり、十分な摩耗防止性が得られないため好ましくない。高圧粘度が2.0×1012cPを超えるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなるため、本願の省電力効果を十分に得ることができない。
【0014】
本願における高圧粘度は、以下のBarusの式を用いて算出される。
Barusの式は一般式(2)で表される。
η=ηexp(αP) (2)
(一般式(2)において、ηは圧力Pにおける絶対粘度(cP)、ηは大気圧における絶対粘度(cP)、αは粘度圧力係数である。)
一般式(2)の粘度圧力係数αは一般式(3)で表される大野の式を用いて算出した。
α=0.62ν0.1762.047ρ0.293
(3)
(一般式(3)において、νは大気圧下における動粘度
(mm/s)、ρは大気圧下における密度 (g/cm)、Bは粘度温度傾斜係数である。)
【0015】
また、一般式(3)の粘度温度傾斜係数Bは、ASTM D341−93 による一般式(4)を用いて算出した。
【数1】

(一般式(4)において、T1、T2は温度(℃)、νT1、νT2は温度T1、T2における動粘度(mm/s)である。)
【0016】
本発明の作動油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油の、ASTM D3238環分析方法による%CAは5以下であり、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下である。%CAが5を超えるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向にある。なお、%CAは芳香族系炭化水素の含有量と相関するが、芳香族系炭化水素はトラクション係数が高い傾向にあるため、より少ない方が好ましく、上記数値以下であれば下限値に限定はなく、芳香族系炭化水素を実質的に含有しなくてもよい。
本発明の作動油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油のナフテン分は特に制限はないが、ASTM D3238環分析方法による%CNが、好ましくは8〜27であり、より好ましくは9〜25であり、さらに好ましくは10〜23であり、特に好ましくは10.5〜20であり、最も好ましくは11〜15である。%CNが8未満であると、添加剤の溶解性が低下し、また、十分な耐摩耗性が得にくくなる傾向がある。%CNが27を超えると、トラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向にある。
【0017】
本発明の作動油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油の屈折率は特に制限はないが、JIS K0062屈折率測定方法による20℃における屈折率が、好ましくは1.453〜1.473であり、より好ましくは1.454〜1.465であり、さらに好ましくは1.455〜1.463であり、特に好ましくは1.456〜1.459である。該基油の20℃における屈折率を1.453以上とすることで、該組成物の20℃における屈折率を1.453以上に調整しやすくなる傾向にあり、また良好な耐摩耗性としやすい。20℃における屈折率を1.473以下とすることで、組成物の20℃における屈折率を1.470以下に調整しやすい傾向がある。すなわち、組成物のトラクション係数が低く抑えやすく、省電力を得やすい傾向にある。
【0018】
本発明に用いる炭化水素系潤滑油基油は、本発明の構成を満たす限り、どのような方法で製造されたものでもよく、例えば原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製など適宜組合せた製造方法が挙げられるが、好ましい製造方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理する。そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行い、その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得る。この残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分を水素化脱ロウ処理、安定化処理を行う。水素化脱ロウ処理の条件としては、アルミナ、シリカ-アルミナ、ゼオライト担体上に、Mo、W、Ni、Pdなどの周期律表の第6族、第8族金属を担持した触媒を用い、反応圧155〜190
kg/cmG、反応温度230〜300℃、LHSV0.7〜1.3h−1が好ましい。
【0019】
また、溶剤脱ロウによるスラックワックスやフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等を原料とし、これらを水素化処理、水素化分解する方法も好ましい方法として挙げられる。
さらに、本発明の基油である、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油に該当しない炭化水素系潤滑油基油を2種以上混合することにより、本発明の基油を調製できる。例えば、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1013cP、環分析による%CAが7である炭化水素系潤滑油基油と、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×10cP、環分析による%CAが0である炭化水素系潤滑油基油とを、混合する調製法が挙げられる。
【0020】
上記の炭化水素系潤滑油基油は、記載の高圧粘度範囲である限り、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明に用いる炭化水素系潤滑油基油には、ポリαオレフィン基油は含まない。ここで、ポリαオレフィン基油とは、αオレフィンの重合体からなる基油である。
また、本発明の作動油組成物には、本発明の目的を害さない範囲内で、前記基油以外の他の基油を含んでもよいが、前記基油の含有割合は、全ての基油の合計量に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の作動油組成物に用いるオレフィン系粘度指数向上剤は、エチレンとエチレン以外のモノマーからなる共重合体である。
エチレンと共重合体を形成するエチレン以外のモノマーとしては、例えば、オレフィン系炭化水素、ジエン系炭化水素、ビニル芳香族炭化水素等が挙げられる。これらのエチレン以外のモノマーの炭素数は、好ましくは3〜30であり、より好ましくは3〜25であり、さらに好ましくは3〜15であり、特に好ましくは3〜8であり、最も好ましくは3〜5である。エチレン以外のモノマーの炭素数が30以下とすることで、粘度指数向上剤の分子量を比較的低く抑えることができ、耐せん断安定性を向上させることができるため好ましい。
【0022】
エチレン以外のモノマーとして用いられるオレフィン系炭化水素としては、直鎖であっても環状であっても良く、分岐があっても良い。オレフィン系炭化水素の具体例としては、プロピレン、n−ブテン、i−ブチレン、シクロブテン、n−ペンテン、i−ペンテン、シクロペンテン、n−へキセン、i−へキセン、n−へプテン、i−へプテン等が挙げられる。
エチレン以外のモノマーとして用いられるジエン系炭化水素は、鎖状であっても、環状であってもよく、分岐鎖があってもよい。ジエン系炭化水素の具体例としては、ブタジエン、シクロブタジエン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン等が挙げられる。
【0023】
エチレン以外のモノマーとして用いられるビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
これらエチレン以外のモノマーの内、好ましいものはオレフィン系炭化水素であり、特に好ましいものは炭素数3〜5のオレフィン系炭化水素である。
オレフィン系粘度指数向上剤はエチレンとエチレン以外のモノマーを重合して合成するが、エチレン以外のモノマーは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0024】
エチレンとエチレン以外のモノマーのモル比は特に制限されないが、好ましくは80:20〜20:80であり、より好ましくは70:30〜30:70であり、さらに好ましくは65:35〜35:65である。
オレフィン系粘度指数向上剤は、規則的交互重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト重合体のいずれであってもよい。
【0025】
オレフィン系粘度指数向上剤の好ましい重量平均分子量は、好ましくは1,000〜130,000であり、より好ましくは1,200〜125,000であり、さらに好ましくは3,000 〜100,000であり、特に好ましくは8,000〜80,000であり、最も好ましくは10,000〜50,000である。重量平均分子量が1,000未満であると、トラクション係数が高くなる傾向にある。一方、重量平均分子量が130,000を超えても、トラクション係数が高くなる傾向にある。なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0026】
オレフィン系粘度指数向上剤は、本発明の目的が損なわれないかぎり、分散型、非分散型のいずれであってもよい。ここで、分散型オレフィン系粘度指数向上剤とは、オレフィン系粘度指数向上剤中にモノマー由来の極性基を有するものをいい、非分散型オレフィン系粘度指数向上剤とは、オレフィン系粘度指数向上剤中に極性基を有さないものをいう。分散型オレフィン系粘度指数向上剤の例としては、エチレン以外のモノマー分子として窒素原子含有化合物やアルキルエステル類を用いて共重合したオレフィン系粘度指数向上剤などが挙げられる。このような窒素原子含有化合物の具体例としては、アルキル-ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール等が挙げられる。また、アルキルエステル類の具体例として、ポリアルキレングリコールエステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル等が挙げられる。これらは1種でも、2種以上でも用いることができる。
【0027】
オレフィン系粘度指数向上剤の屈折率は特に制限はないが、JIS K0062屈折率測定方法による20℃における屈折率が、好ましくは1.453〜1.480であり、より好ましくは1.455〜1.478であり、さらに好ましくは1.460〜1.475である。20℃における屈折率を1.453以上とすることで、組成物の20℃における屈折率を1.453以上に調整しやすい傾向にあり、良好な耐摩耗性を得やすくできる。20℃における屈折率を1.480以下とすることで、組成物の20℃における屈折率を1.470以下に調整しやすい。そのため組成物のトラクション係数が低くなり、省電力効果を得易くできる傾向がある。
【0028】
オレフィン系粘度指数向上剤の作動油組成物全量に対する配合量は、好ましくは0.5〜30質量%である。配合量を0.5質量%以上とすることで、トラクション係数を低く抑えやすくなり、省電力効果を得やすくできる傾向にある。配合量が30質量%を超えると、配合量の増加量に見合った効果の上昇が得られず、経済的ではない。
上記のオレフィン系粘度指数向上剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の作動油組成物に用いる硫黄を含有する極圧剤として、ジチオリン酸誘導体、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化油脂、硫化エステル等が挙げられる。本発明に用いる硫黄を含有する極圧剤は特に制限はないが、好ましくは式(1)で表されるジチオリン酸誘導体、硫化オレフィンから選ばれる少なくとも1種である。
本発明の作動油組成物に用いるジチオリン酸誘導体としては、式(1)で表されるものが挙げられる。
【0030】
【化3】

【0031】
式(1)において、R1、R2は、炭素数3〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は環状炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよい。R1、Rの具体例としては、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、ヘキシルフェニル基などが挙げられる。
【0032】
R3は炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表す。R3の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基、へキシレン基があり、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。
R4は水素原子、あるいは炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は環状炭化水素基を表す。R4の具体例としては、水素、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、ヘキシルフェニル基などが挙げられる。好ましい例として、R3がプロピレン基でR4が水素原子のものが挙げられる。
【0033】
本発明の作動油組成物に用いる硫化オレフィンとポリサルファイドは式(5)で表されるものが挙げられる。なお、後述するように、硫化オレフィンはオレフィン類を硫化して得られ、ポリサルファイドはそれ以外の炭化水素原料を硫化して得られる点で異なる。
R5−Sx−(R6−Sx−)n−R7 (5)
(式(5)において、R5及びR7は一価の炭化水素基であり、R6は二価の炭化水素基であり、xは1以上の整数であり、nは0または1以上の整数である。)
【0034】
式(5)中、R5及びR7は同一または異なる一価の炭化水素基である。R6は二価の炭化水素基であり、R6が複数存在する場合にそれぞれのR6は同一または異なる二価の炭化水素基である。xは1以上の整数で好ましくは1〜8の整数であり、繰り返し単位中においてそれぞれxは同一または異なる数である。この繰り返し単位中のxは1〜6の整数が好ましく、より好ましくは2〜4の整数であり、特に好ましくは2〜3の整数である。xが小さいと十分な極圧性が得られない傾向にある。またxが大きすぎると、十分な熱酸化安定性が得にくくなり、スラッジ量が増加する傾向にある。nは0または1以上の整数である。
【0035】
R5、R7としては、炭素数2〜20の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6〜26の芳香族炭化水素基を挙げることができる。具体的には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ヘキシルフェニル基などがある。R6としては、炭素数2〜20の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の二価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6〜26の二価の芳香族炭化水素基を挙げることができる。具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などがある。
硫化オレフィンの具体例としては、ポリイソブチレンやテルペン類などのオレフィン類を硫黄その他の硫化剤で硫化して得られるものが挙げられる。
また、ポリサルファイド化合物の具体的としては、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジーtert−ブチルポリサルファイド、ジーtert−ベンジルポリサルファイドなどが挙げられる。
硫化エステルは、油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られ、化学構造そのものは明確でない。油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂などが挙げられる。
【0036】
本発明に用いる硫黄を含有する極圧剤の作動油組成物全量に対する配合量は、好ましくは0.01〜0.4質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.3質量%である。配合量が0.01質量%未満であると、十分な極圧性能が得にくくなる傾向にある。また、これは例えばベーンポンプの内部漏れ量の増加による、油圧装置の効率低下、電力消費量の増加につながることも考えられる。一方、配合量が0.4質量%を超えると、十分な熱酸化安定性が得にくくなり、スラッジ量が増加する傾向にある。
上記の硫黄を含有する極圧剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の作動油組成物の、JIS K0062屈折率測定方法による20℃における屈折率は、1.453〜1.470であり、より好ましくは1.454〜1.468であり、さらに好ましくは1.455〜1.465であり、特に好ましくは1.456〜1.459である。20℃における屈折率が1.453未満であると耐摩耗性が低下する傾向がある。20℃における屈折率が1.470を超えるとトラクション係数が高くなり、十分な省電力効果を得ることができない。
【0038】
本発明の作動油組成物の40℃動粘度は、JIS K2283動粘度試験方法(40℃)において、19〜51mm/sであり、好ましくは24〜48mm/sであり、さらに好ましくは28〜46mm/sである。40℃動粘度が19mm/s未満であると、適切な油膜厚さが保たれなくなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。40℃動粘度が51mm/sを超えると、トラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向がある。
【0039】
本発明の作動油組成物の粘度指数は、JIS K2283動粘度試験方法において、好ましくは103以上であり、より好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは130以上である。粘度指数が低すぎると低温粘度が高くなり、低温始動時の電力消費量が多くなる傾向がある。
【0040】
本発明の作動油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種公知の添加剤を配合することができる。例えば酸化防止剤、油性剤、清浄分散剤、さび止め剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、泡消剤、抗乳化剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、ホスホン酸エステル等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0041】
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、オレイルアルコール等の高級アルコール、オレイルアミン等のアミン、ブチルステアレート等のエステルが挙げられる。
【0042】
清浄分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル等の無灰系清浄分散剤、アルカリ土類金属系清浄分散剤が挙げられる。
さび止め剤としては、カルボン酸、金属セッケン、カルボン酸アミン塩、スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分エステル等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾ−ルおよびその誘導体、アルキルコハク酸誘導体が挙げられる。
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート等が挙げられる。
【0043】
消泡剤としては、シリコーン油やエステル系消泡剤等が挙げられる。
抗乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の抗乳化剤が挙げられる。
これら添加剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
各実施例、比較例において作動油組成物の調製に用いた基油、添加剤成分は次のとおりである。
【0045】
<炭化水素系潤滑油基油の製造方法>
(1)実施例の炭化水素系潤滑油基油
原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理し、そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行った。その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得た。残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分の水素化脱ロウ処理、安定化処理を行った。水素化脱ロウ処理は、反応圧160〜180kg/cmG、反応温度270〜290℃、LHSV0.9〜1.1h−1の条件にて行い、基油(A−1)、(A−2)及び(A−3)を得た。
以下に、基油(A−1)、(A−2)及び(A−3)の性状を示す。
【0046】
(A−1)水素化分解鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:13.2mm/s、100℃動粘度:3.2mm/s、20℃における屈折率:1.460、40℃における密度:0.820、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:1.7×1011cP、%CA:0.9、%CN:26.6
(A−2)水素化分解鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:20.1mm/s、100℃動粘度:4.3mm/s、20℃における屈折率:1.463、40℃における密度:0.817、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:2.1×1011cP、%CA:0.6、%CN:20.2
(A−3)水素化分解鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:18.7mm/s、100℃動粘度:4.3mm/s、20℃における屈折率:1.457、40℃における密度:0.807、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:3.8×1010cP、%CA:0.6、%CN:11.5
【0047】
(2)比較例の基油
原油を常圧蒸留し、分留後の残油を減圧下で分留、得られた留出油をフルフラール溶剤抽出法によってパラフィンリッチラフィネートを精製した。つづいてそのラフィネートを脱ロウ処理して得られた脱ロウ油の高圧水素化処理を行った。高圧水素化処理は、アルミナ担体上にMo、Niを担持した触媒を用い、反応圧170 kg/cmG、反応温度325℃、LHSV0.36h−1の条件にて行った。以下に、得られた基油(A−4)の性状を示す。
(A−4)水素化精製鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:30.8mm/s、100℃動粘度:5.4mm/s、20℃における屈折率:1.472、40℃における密度:0.842、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:4.6×1012cP、%CA:0.4、%CN:29.8
【0048】
※40℃動粘度はJIS
K2283動粘度試験方法、密度はJIS K2249密度試験方法、20℃における屈折率はJIS K0062屈折率測定方法により測定した。高圧粘度は、Barusの式を用いて算出した。算出に必要な、粘度圧力係数は大野の式を用いて算出した。また、絶対粘度は 動粘度/密度 から算出でき、それぞれ40℃における測定値から算出した。
%CA、%CNはASTM
D3238環分析により測定した。算出に必要な屈折率、密度、分子量および硫黄分は、JIS K0062屈折率測定方法、JIS K2249密度試験方法、ASTM D2502分子量試験方法、JIS K2541硫黄分試験方法にて測定した。
【0049】
<粘度指数向上剤>
(B−1) 重量平均分子量が1,400、20℃における屈折率が1.461、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレンプロピレンランダム共重合体
(B−2) 重量平均分子量が10,000、20℃における屈折率が1.472、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレンプロピレンランダム共重合体
(B−3) 重量平均分子量が16,000、20℃における屈折率が1.473、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレンプロピレンランダム共重合体
(B−4) 重量平均分子量が125,000、20℃における屈折率が1.463、エチレン/プロピレンのモル比が55:45であるエチレンプロピレンランダム共重合体
【0050】
(B−5) 重量平均分子量が6,500、20℃における屈折率が1.473 、エチレン/プロピレンのモル比が55:45、マレイン酸変性型であるエチレンプロピレンランダム共重合体
(B−6) 重量平均分子量が150,000であるポリイソブチレン
(B−7) 重量平均分子量が22,000であるポリメタクリレート
【0051】
<極圧剤>
・硫黄を含有する極圧剤
(C−1) β−ジチオホスホリル化プロピオン酸 (式(1)において、R1とR2がイソブチル基であり、R3がプロピレン基であり、R4が水素原子であるもの)
(C−2) 硫化オレフィン(式(5)におけるR5及びR7が炭素数8〜12の不飽和脂肪族炭化水素基であり、nが0であり、xが2又は3であるもの)
(C−3) ポリサルファイド(式(5)におけるR5及びR7が炭素数4〜8の不飽和脂肪族炭化水素基であり、nが0であり、xが2又は3であるもの)
・硫黄を含有しない極圧剤
(C−4) トリクレジルホスフェート
【0052】
<その他添加剤>
(D) 酸化防止剤:2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、アルキル化ジフェニルアミン
【0053】
重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにて測定し、ポリスチレン換算にて算出した。ゲル浸透クロマトグラフィーはカラムにShodex
GPC LF−804を3本、移動層にTHF、検出器に示差屈折検出器を用いた。
また、組成物の粘度指数は、JIS K2283動粘度試験方法により測定した。
【0054】
(評価方法)
作動油組成物のトラクション係数、熱酸化安定性、極圧性について、下記の評価方法により評価した。
【0055】
<トラクション係数>
四円筒疲労摩擦試験機にてトラクション係数を評価した。
材質SUJ−2、外径40 mm、幅10 mm、表面粗さ0.08μm以下の試験片を用い、すべり率5.3%、最大ヘルツ荷重1.7
GPa、油温40℃、試験時間5分にて試験を実施した。
なお、本試験条件は、吐出圧14MPa運転時の、ベーンポンプにおけるベーンの先端部の最大圧力を模擬している。
<熱酸化安定性>
内径2.5cmのガラス製容器に作動油組成物を40g入れ、160℃、168時間後のスラッジ量(mg、孔径0.8μmのミリポアフィルター)を評価した。
<極圧性>
シェル四球試験(ASTM D2596準拠)を実施し、融着荷重(N)で評価した。
【0056】
(実施例1〜12)
基油に粘度指数向上剤、極圧剤およびその他添加剤を表1、表2の上段に示す割合(質量%)で配合し、作動油組成物を調製した。それらの作動油組成物の各種性能を評価し、その結果を表1、表2の下段に示す。
(比較例1〜7)
基油に粘度指数向上剤、極圧剤およびその他添加剤を表3、表4の上段に示す割合(質量%)で配合し、作動油組成物を調製した。それらの作動油組成物の各種性能を評価し、その結果を表3、表4の下段に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
実施例1〜12は、オレフィン系粘度指数向上剤を含まない比較例1、粘度指数向上剤としてポリイソブチレンを配合した比較例2、粘度指数向上剤としてポリメタクリレートを配合した比較例3に比べ、トラクション係数が低い。また、本発明に用いる基油よりも高圧粘度の高い基油にオレフィン系粘度指数向上剤を配合した比較例4に比べてもトラクション係数が非常に低い。
実施例1〜12は、硫黄を含有する極圧剤の配合量の多い比較例5、硫黄を含有する極圧剤を含まない比較例7に比べて熱酸化安定性に優れており、硫黄を含有する極圧剤の配合量の多い比較例6に比べて極圧性に優れている。よって、これら実施例は低トラクション化による省電力効果が期待できると同時に、優れた熱酸化安定性、極圧性も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の作動油組成物は、種々の作動油に適用できるが、特に油圧システムに用いる油圧作動油として好ましく用いることができる。さらには、油圧システムの内、油圧ポンプ、油圧モーター及び油圧シリンダ等、作動油が高圧状態にさらされる領域、すなわち弾性流体潤滑領域での省電力化を図る際に特に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、(B)エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤、及び(C)硫黄を含有する極圧剤が配合された組成物であって、(C)成分の硫黄を含有する極圧剤の配合量が組成物全量に対して0.01〜0.4質量%であり、該組成物の20℃における屈折率が1.453〜1.470であり、かつ40℃における動粘度が19〜51mm/sであることを特徴とする作動油組成物。
【請求項2】
(B)成分であるオレフィン系粘度指数向上剤が、エチレンと炭素数3〜30のオレフィンとの共重合体であり、その屈折率が20℃において1.453〜1.480であり、かつその配合量が組成物全量に対し、0.5〜30質量%である請求項1に記載の作動油組成物。
【請求項3】
(C)成分である硫黄を含有する極圧剤が、式(1)で表されるジチオリン酸誘導体、及び硫化オレフィンから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の作動油組成物。
【化1】

(式(1)において、R1、R2は、炭素数3〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は環状炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよい。R3は炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、R4は水素原子、あるいは炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基又は環状炭化水素基を表す。)


【公開番号】特開2010−77390(P2010−77390A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139909(P2009−139909)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】