説明

作業時用ドア保持装置

【課題】煩雑な作業を要することなくドアの開閉状態を任意に設定すること。
【解決手段】電動アクチュエータMAの動作によってラッチ装置LAとストライカロッドSRとの噛合状態を解除することにより、車両本体Bに対してバックドアDを開くようにした車両を適用対象とし、ラッチ装置LAと噛み合い可能となる態様で装置本体10に配設した第1係合部材20と、噛合位置と解除位置との間を移動する態様で装置本体10に移動可能に配設し、噛合位置に配置された場合にストライカロッドSRに噛み合い可能、かつストライカロッドSRと噛み合った状態から解除位置に配置された場合にストライカロッドSRとの噛合状態が解除可能となる第2係合部材30とを備え、第2係合部材30を装置本体10の外部から操作可能に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータを動作によりラッチ装置とストライカとの噛み合いを解除してドアを開けるようにした車両を適用対象とし、電動アクチュエータによらずにドアの開閉状態を任意に設定するための作業時用ドア保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の車両に適用されるラッチ装置には、ドアを開ける際にモータ等の電動アクチュエータを動作させてストライカとの噛合解除操作を行うようにしたものが提供されている。こうしたラッチ装置は、車両に乗り降りする際の操作を容易化することができるものの、電源供給ができない状況下では閉じた状態のドアを開けることが困難となる。例えば、車両を製造する場合には、車両本体とドアとの間にラッチ装置及びストライカが設けられた後に、電装部品を搭載するのが一般的である。このため、電装部品が搭載される以前の状態においてラッチ装置とストライカとが噛み合ってしまった場合、これを解除することが困難となり、製造作業に支障を来す恐れがある。
【0003】
このため従来では、ラッチ装置においてストライカが進入する進入溝に装着される閉塞部材が提供されている。すなわち、進入溝に予め閉塞部材を装着しておくことにより、車両の製造段階においては、ラッチ装置とストライカとが噛み合う事態そのものを防止するようにしたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、閉塞部材を適用した場合には、当然にラッチ装置をストライカに噛み合わせることができないため、車両本体に対してドアを開かない状態に維持することができず、逆に不必要時にドアが大きく開くことによって製造作業に支障を来す恐れがある。
【0005】
一方、従来においては、ラッチ装置に外部から操作するための操作ひもを設けたものも提供されている。すなわち、電装部品が搭載される以前においても、外部に引き出された操作ひもを操作することにより、ラッチ装置とストライカとが噛み合った状態を解除することができるように構成したものである(例えば、特許文献2参照)。こうしたラッチ装置を適用した場合には、車両の製造段階においても操作ひもの操作により閉じたドアを開くことが可能となり、車両本体に対するドアの開閉状態を任意に設定することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−51504号公報
【特許文献2】特許第3414290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されたラッチ装置を取り付ける場合には、操作ひもを外部から操作可能となるようにドアや車両本体の内部から外部に引き出す作業が必要となる。さらに、車両に電装部品が搭載された後においては、ラッチ装置から操作ひもを取り除く作業を行う必要があり、製造作業を煩雑化する要因となり得る。
【0008】
しかも、操作ひもを取り除いた後においては、もはや外部からラッチ装置を操作することは困難である。このため、既に製造された車両に対しては適用することが困難であり、、例えばバッテリーを外して作業を行う場合にドアの開閉状態を任意に設定することができなくなる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みて、煩雑な作業を要することなくドアの開閉状態を任意に設定することのできる作業時用ドア保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る作業時用ドア保持装置は、車両本体とドアとの間のいずれか一方に設けたラッチ装置と他方に設けたストライカとを互いに噛み合わせることにより、車両本体に対してドアを閉じた状態に維持する一方、電動アクチュエータの動作によってラッチ装置とストライカとの噛合状態を解除することにより、車両本体に対してドアを開くようにした車両を適用対象とする作業時用ドア保持装置であって、ラッチ装置と噛み合い可能となる態様で装置本体に配設した第1係合部材と、噛合位置と解除位置との間を移動する態様で前記装置本体に移動可能に配設し、噛合位置に配置された場合にストライカに噛み合い可能、かつストライカと噛み合った状態から解除位置に配置された場合にストライカとの噛合状態が解除可能となる第2係合部材とを備え、前記第2係合部材を前記装置本体の外部から操作可能に設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述した作業時用ドア保持装置において、前記第1係合部材がラッチ装置に噛み合い、かつ前記第2係合部材がストライカに噛み合った場合に、前記装置本体が車両本体とドアとの間に露出するように構成したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上述した作業時用ドア保持装置において、前記装置本体は、ラッチ装置に近接移動させた場合に前記第1係合部材とラッチ装置とを互いに噛み合い可能となる位置に案内する案内手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上述した作業時用ドア保持装置において、前記装置本体は、前記第1係合部材がラッチ装置と噛み合った場合にラッチ装置との位置決めを行い、車両本体に対してドアを閉めた場合に、前記第2係合部材をストライカに噛み合い可能となる位置に案内する位置決め手段を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上述した作業時用ドア保持装置において、前記装置本体に対して操作部材を移動可能に配設し、かつこの操作部材が移動した場合に前記第2係合部材が噛合位置と解除位置との間を移動する態様で前記操作部材と前記第2係合部材とを互いに連係させたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上述した作業時用ドア保持装置において、前記操作部材は、前記装置本体の一方の端部から他方の端部に亘る部位に延在して配設し、かつ延在方向に交差する方向に沿って移動させることにより前記第2係合部材を噛合位置と解除位置とに移動させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上述した作業時用ドア保持装置において、前記装置本体は、ストライカが進入する進入用切欠を有し、前記第2係合部材は、前記進入用切欠に対して進出移動した噛合位置と、前記進入用切欠に対して退行移動した解除位置とに移動可能に配設し、前記装置本体と前記第2係合部材との間には、前記第2係合部材を前記進入用切欠に進出した噛合位置となるように付勢する付勢手段を介在させ、さらに、前記進入用切欠に進入したストライカに当接した場合に前記付勢手段の付勢力に抗して前記第2係合部材を解除位置に移動させる傾斜面を前記第2係合部材に形成し、前記進入用切欠に進入したストライカが前記傾斜面を通過した後に前記付勢手段の付勢力によって前記第2係合部材を噛合位置に移動させることにより前記第2係合部材をストライカに噛み合わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1係合部材をラッチ装置に噛み合わせ、かつ第2係合部材をストライカに噛み合わせれば、装置本体を介してラッチ装置とストライカとの間を連結することができ、煩雑な操作を要することなく車両本体に対してドアを開かない状態に維持することができる。しかも、ドアが開かない状態であっても、外部からの操作によって第2係合部材を解除位置に移動させることにより、容易にドアを開放した状態とすることができる。以降、上述の操作を繰り返すことにより、車両本体に対してドアの開閉状態を任意に設定することが可能となる。尚、第1係合部材とラッチ装置との間は、電装部品が搭載され、電動アクチュエータが動作した時点で両者の噛合状態を解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である作業時用ドア保持装置の斜視図である。
【図2】図2は、図1に示した作業時用ドア保持装置の平面図である。
【図3】図3は、図1に示した作業時用ドア保持装置の要部分解斜視図である。
【図4】図4は、図1に示した作業時用ドア保持装置を適用する車両を後方側から示す斜視図である。
【図5】図5は、図4に示した車両に適用されるラッチ装置とストライカとの噛合状態を概念的に示す図である。
【図6】図6は、図5に示したラッチ装置とストライカとが噛み合う状態を順に示した要部概念図である。
【図7−1】図7−1は、図1に示した作業時用ドア保持装置とラッチ装置とを互いに近接させた状態を示す要部斜視図である。
【図7−2】図7−2は、図1に示した作業時用ドア保持装置の第1係合部材とラッチ装置とが噛み合った状態を示す要部斜視図である。
【図8】図8は、図1に示した作業時用ドア保持装置とストライカとが噛み合う状態を順に示した要部概念図である。
【図9−1】図9−1は、図1に示した作業時用ドア保持装置の第2係合部材とストライカとが噛合状態にある場合の要部側面図である。
【図9−2】図9−2は、図1に示した作業時用ドア保持装置の第2係合部材とストライカとが噛合状態にある場合の要部平面図である。
【図10−1】図10−1は、図1に示した作業時用ドア保持装置の第2係合部材とストライカとの噛合状態を解除した場合の要部側面図である。
【図10−2】図10−2は、図1に示した作業時用ドア保持装置の第2係合部材とストライカとの噛合状態を解除した場合の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る作業時用ドア保持装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1及び図2は、本発明の実施の形態である作業時用ドア保持装置を示したものである。ここで例示する作業時用ドア保持装置は、図4及び図5に示すように、車両本体Bの後端開口部にバックドアDが開閉可能に設けられた車両を適用対象とするものである。バックドアDは、車両本体Bの後端上縁部に左右方向に沿って延在する軸心回りに回転することにより、車両本体Bの後端開口を開閉するものである。
【0021】
この車両では、車両本体BにストライカSが設けてある一方、バックドアDにラッチ装置LAが設けてあり、車両本体Bに対してバックドアDを閉じた場合にストライカSとラッチ装置LAとを互いに噛み合わせ、車両本体Bに対してバックドアDを閉じた状態に維持するようにしている。
【0022】
ストライカSは、図5、図6の(a)及び図6の(b)に示すように、一様な外径を有した金属製のロッド状部材を湾曲させることによってU字状に形成したもので、互いに平行に延在する円柱状部分の両端部がそれぞれストライカベースSBに保持させてある。このストライカSは、互いに平行に延在する円柱状部分が車両本体Bに対して前後に並設される状態で、ストライカベースSBを介して車両本体Bの後端下縁部に固定設置してある。尚、このストライカSは、互いに平行に延在する円柱状部分のうち、車両本体Bの後方側に位置した円柱状部分のみが後述するラッチ装置LAと噛み合うことになる。このため、以下においては、このラッチ装置LAと噛み合う車両本体Bの後方側に配置された部分を、特にストライカロッドSRと称して説明を行う。
【0023】
ラッチ装置LAは、ラッチベースLBにラッチLL及びラチェットLRを備えて構成したものである。ラッチベースLBは、バックドアDの下端縁から下方に向けて漸次車両前方に傾斜するように延在したもので、延在端部に進入溝ABを有するとともに、ラッチベースLBの両側縁部にそれぞれ側壁部SWを有している。進入溝ABは、ラッチベースLBの先端縁中央部から基端部に向けて形成した切欠であり、ストライカロッドSRを収容することのできる大きさに形成してある。側壁部SWは、ラッチベースLBの両側縁部から互いに同一方向に向けて略直角に立設した部分であり、進入溝ABの延在方向に沿って互いにほぼ平行に延在している。
【0024】
ラッチLL及びラチェットLRは、それぞれ軸部材LLa,LRaを介してラッチベースLBに回転可能に配設したものである。これらラッチLL及びラチェットLRの構成は、従前のラッチ装置LAと同様のものである。すなわち、図6の(a)に示す状態からラッチベースLBの進入溝ABにストライカロッドSRが進入すると、ストライカロッドSRがラッチLLの噛合溝LLbに進入し、その後ストライカロッドSRの進入に従い、図示せぬリターンバネのバネ力に抗してラッチLLが図6中の時計回りに回転する。この間、図示せぬラチェットバネのバネ力によってラッチLLの周面に押圧されていたラチェットLRが、図6の(b)に示すように、ラッチLLの噛合溝LLbに進出し、ラッチLLとストライカロッドSRとが互いに噛み合った状態に維持されることになり、ラッチLLの図6中における反時計回りの回転が規制される。この結果、ストライカロッドSRの進入溝ABからの逸脱する方向への移動が阻止されることになり、車両本体Bに対してバックドアDが閉じた状態に保持される。
【0025】
また、上記ラッチ装置LAは、電動アクチュエータMAを備えている。電動アクチュエータMAは、電源が供給された場合に駆動し、ラチェットバネ(図示せず)のバネ力に抗してラチェットLRを図6中の反時計回りに回転させるものである。図6の(b)に示す状態からラチェットLRが反時計回りに回転されると、ラッチLLとラチェットLRとの噛合状態が解除され、図示せぬリターンバネのバネ力によってラッチLLが反時計回りに回転する。この結果、ラッチLLとストライカロッドSRとの噛合状態が解除され、図6の(a)に示すように、ラッチベースLBの進入溝ABからストライカロッドSRを逸脱させてバックドアDを開けることができるようになる。
【0026】
一方、上述した車両を適用対象とする作業時用ドア保持装置は、図1〜図3に示すように、装置本体10に第1係合部材20及び第2係合部材30を備えている。
【0027】
装置本体10は、一様な幅に形成した本体基部11の基端部両側にそれぞれ案内壁部(案内手段、位置決め手段)12を有するとともに、先端部に進入用切欠13を有したものである。案内壁部12は、互いの間にラッチ装置LAのラッチベースLBを収容することのできる間隙を確保して設けたものである。これら案内壁部12の間にラッチベースLBを配置した場合には、ラッチベースLBの一方の側壁部SW及び他方の側壁部SWにそれぞれ案内壁部12が当接することになり、装置本体10に対してラッチベースLBを案内壁部12の延在方向に沿ってスライドさせることは可能である一方、案内壁部12に直交する方向への移動を規制することができる。進入用切欠13は、装置本体10の先端面中央部から基端部に向けて形成した切欠であり、ストライカロッドSRを収容することのできる大きさに形成してある。図には明示していないが、この進入用切欠13は、装置本体10において案内壁部12の相互間にラッチベースLBを収容させた場合に進入溝ABの開口延長上となる部位に開口している。
【0028】
第1係合部材20は、車両本体Bに設けたストライカロッドSRとほぼ同一の外径、かつほぼ同一の長さを有した円柱状を成すもので、本体基部11の表面から直角に立設している。この第1係合部材20は、案内壁部12の相互間にラッチベースLBを収容させた場合にラッチベースLBの進入溝ABに対応する位置に配設してある。図からも明らかなように、第1係合部材20の上端部には、装置本体10の本体基部11において第1係合部材20よりも先端部側に立設した補強用柱状部14との間を連結する連結部材15が設けてある。
【0029】
第2係合部材30は、補強用柱状部14に近接する部位に設けた回転軸部材31を介して装置本体10に回転可能に配設したもので、フック部32と操作連係部33とを備えている。
【0030】
フック部32は、回転軸部材31の軸心から径外方向に向けて延在した部分である。このフック部32には、延在端部に係合爪34が設けてある。係合爪34は、図2に示すように、第2係合部材30を反時計回りに回転させ、フック部32が進入用切欠13に沿って装置本体10の先端側に向けた位置に配置された場合(噛合位置)、その先端部において進入用切欠13に近接する側面から進入用切欠13に臨む態様で突出した部分である。第2係合部材30を図2において時計回りに回転した場合には、フック部32の係合爪34を進入用切欠13に対して退行移動させることが可能である(解除位置)。この係合爪34の先端部には、フック部32の基端に向かうに従って漸次外方に傾斜する傾斜面35が形成してある。
【0031】
操作連係部33は、フック部32と同様、回転軸部材31の軸心から径外方向に向けて延在した部分である。この操作連係部33は、フック部32が噛合位置に配置された場合、回転軸部材31から一方の案内壁部12に向けて延在し、案内壁部12に形成した挿通孔16を通じて外部に突出するように構成してある。
【0032】
第2係合部材30と装置本体10との間には、付勢バネ(付勢手段)40が介在させてある。付勢バネ40は、第2係合部材30のフック部32が常時噛合位置に配置されるように、図2において反時計回りに付勢するものである。付勢バネ40により、図2において反時計回りに付勢された第2係合部材30のフック部32は、装置本体10の本体基部11に設けた回転規制壁部17に当接することにより、上述した噛合位置が規定されることになる。
【0033】
また、作業時用ドア保持装置には、装置本体10に操作部材50が設けてある。操作部材50は、図3に示すように、装置本体10における案内壁部12の相互間よりも大きな長さに形成したスライド部51と、スライド部51の両端部に設けたガイド部52とを有したもので、ガイド部52の相互間に装置本体10を収容した状態で装置本体10に配設してある。図3からも明らかなように、装置本体10と操作部材50のガイド部52との間には、スライド案内機構60が構成してある。スライド案内機構60は、装置本体10の基端部両側からそれぞれに向けて突設したレール部61と、各ガイド部52においてスライド部51との会合部に形成したガイド溝62とを備えたもので、ガイド溝62にそれぞれ対応するレール部61を挿通させることにより、装置本体10に対して操作部材50を脱落することなくスライド可能に保持している。この操作部材50には、図2に示すように、リンクロッド70を介して第2係合部材30の操作連係部33に連係してある。
【0034】
上記のように構成した作業時用ドア保持装置は、通常状態にある場合、図2に示すように、付勢バネ40のバネ力によって第2係合部材30が噛合位置に維持され、係合爪34が装置本体10の進入用切欠13に対してもっとも進出した状態となる。この状態においては、第2係合部材30の操作連係部33が装置本体10に対してもっとも先端側に位置することになるため、リンクロッド70を介して連係された操作部材50も装置本体10に対してもっとも先端部側に位置した状態に配置されている。
【0035】
この状態から、例えば車両の製造工程において電装部品が搭載される以前に車両本体Bに対してバックドアDを閉じた状態に保持する場合には、まず、図7−1に示すように、バックドアDの下端部から突出するラッチ装置LAのラッチベースLBを装置本体10の本体基部11においてスライドさせ、案内壁部12の相互間にラッチベースLBを収容させる。
【0036】
このとき、上述したように、装置本体10の案内壁部12は、相互間隔がラッチベースLBに対応した寸法に形成してあるため、個々の内壁面にラッチベースLBの側壁部SWが当接した状態でスライドすることになる。しかも、装置本体10の第1係合部材20は、ストライカロッドSRとほぼ同一の外径、かつほぼ同一の長さを有した円柱状を成すものであり、さらにはラッチベースLBの進入溝ABに対応する位置に配設したものである。従って、ラッチベースLBのスライドが進行すると、やがて図7−2に示すように、ラッチベースLBの進入溝ABに第1係合部材20が案内される。その後、第1係合部材20がラッチLLの噛合溝LLbに進入することによりラッチLL及びラチェットLRが適宜動作し、第1係合部材20とラッチLLとが互いに噛み合った状態に維持されることになる。
【0037】
ここで、第1係合部材20とラッチLLとが互いに噛み合うまでの操作は、ラッチ装置LAのラッチベースLBを装置本体10の本体基部11において単にスライドさせるだけで良い。すなわち、装置本体10の案内壁部12がラッチベースLBをスライドさせる際の案内手段として機能するため、単にラッチベースLBをスライドさせれば、第1係合部材20とラッチLLとを自動的に噛み合った状態とすることができる。
【0038】
第1係合部材20とラッチLLとが互いに噛み合った状態においては、ラッチベースLBに対して装置本体10が脱落する方向の移動が阻止されるため、作業時用ドア保持装置がラッチベースLBの延長上に取り付けられることになる。この場合、装置本体10の案内壁部12がラッチベースLBの側壁部SWと当接した状態に保持されるため、仮にバックドアDに振動等の外力が加えられた場合にも、両者に位置ずれが生じる恐れはなく、ラッチベースLBに形成した進入溝ABの延長上に装置本体10に形成した進入用切欠13が位置決め配置される。
【0039】
従って、作業時用ドア保持装置が取り付けられたバックドアDを車両本体Bに対して閉じると、図8の(a)に示すように、装置本体10の進入用切欠13に対して車両本体Bに取り付けられたストライカロッドSRが進入し、進入用切欠13に進出した状態にある係合爪34の傾斜面35にストライカロッドSRが当接することになる。
【0040】
係合爪34の傾斜面35にストライカロッドSRが当接した第2係合部材30は、図8の(b)に示すように、傾斜面35の作用により付勢バネ40のバネ力に抗し、図8において時計回りに回転することになり、ストライカロッドSRの更なる進入を許容するようになる。ストライカロッドSRの進入が進行し、係合爪34の傾斜面35を通過すると、付勢バネ40のバネ力によって第2係合部材30が噛合位置に復帰する。この結果、図8の(c)に示すように、進入用切欠13の開口端部側において係合爪34がストライカロッドSRに噛み合うことになり、ストライカロッドSRの進入用切欠13からの脱落が阻止される。
【0041】
この状態においては、第1係合部材20がラッチ装置LAに噛み合い、かつ第2係合部材30がストライカSに噛み合うことにより、装置本体10を介してラッチ装置LAとストライカロッドSRとの間が互いに連結されることになる。従って、車両本体Bに対してバックドアDを、わずかに開いた状態ではあるが、それ以上には開かない状態に維持することが可能となる。これにより、車両の製造工程において、バックドアDが不用意に大きく開く事態を確実に防止することができ、製造作業に支障を来す事態を招来する恐れがない。
【0042】
一方、上述したバックドアDを開く場合には、図9−1に示すように、車両本体BとバックドアDとの隙間から手を差し入れ、図10−1に示すように、外部に露出した操作部材50を装置本体10の基端部側にスライド移動させれば、リンクロッド70及び操作連係部33を介して第2係合部材30のフック部32が図9−2に示す状態から時計回りに回転し、図10−2に示す解除位置となる。これにより、バックドアDを上方に引き上げれば、ストライカロッドSRが装置本体10の進入用切欠13から逸脱され、車両本体Bに対してバックドアDを開けることができるようになる。
【0043】
バックドアDが開いた後に作業時用ドア保持装置から手を離せば、付勢バネ40のバネ力によって第2係合部材30が噛合位置に復帰することになる。従って、再びバックドアDを車両本体Bに対して閉じれば、上述したように、第2係合部材30が適宜回動してストライカロッドSRと噛み合うことになり、車両本体Bに対してバックドアDを開かない状態に維持することができるようになり、以降、車両本体Bに対するバックドアDの開閉状態を任意に設定することが可能となる。
【0044】
さらに、製造工程が進んで車両本体Bに電装部品が搭載された場合には、電動アクチュエータMAを駆動させることにより、ラッチ装置LAと第1係合部材20との噛合状態を解除し、ラッチ装置LAから作業時用ドア保持装置を取り外すことが可能となる。従って、その後の製造工程においては、ラッチ装置LAとストライカロッドSRとの噛み合いにより、車両本体Bに対するバックドアDの開閉状態を任意に設定することができる。ラッチ装置LAから取り外した作業時用ドア保持装置は、電装部品が搭載される以前の製造工程に戻せば、次の車両にそのまま適用することができる。
【0045】
このように、作業時用ドア保持装置を適用した場合には、煩雑な作業を要することなく車両本体Bに対してバックドアDの開閉状態を任意に設定することが可能となる。すなわち、ラッチ装置LAに対しては、ラッチベースLBの進入溝ABに第1係合部材20を進入させれば、ラッチ装置LAと第1係合部材20とを噛合状態とすることができ、ストライカロッドSRに対しては、装置本体10の進入用切欠13にストライカロッドSRを進入させれば、ストライカロッドSRと第2係合部材30とを噛合状態とすることができ、装置本体10を介してラッチ装置LAとストライカロッドSRとの間を連結することができる。一方、装置本体10の外部に露出した操作部材50を操作すれば、ストライカロッドSRと第2係合部材30との噛合状態を解除することができる。これにより、車両本体Bに対してバックドアDの開閉状態を任意に設定することが可能となり、車両に対する作業を効率化することができるようになる。
【0046】
しかも、作業時用ドア保持装置は、電装部品が搭載された時点で電動アクチュエータMAを駆動すれば、ラッチ装置LAとの噛合状態を解除して容易に取り外すことができるばかりでなく、次の車両に対してもそのまま再使用することが可能である。従って、車両の製造ラインのように、多数の車両を製造する場合にも、製造する車両の数に応じた数だけ作業時用ドア保持装置を用意する必要はなく、逆に製造する車両の数が多いほど、適用コストの削減を図ることができ、車両の製造コストへ及ぼす影響もきわめて小さいものとなる。
【0047】
尚、上述した実施の形態では、車両本体BとバックドアDとの間に適用するものを例示したが、必ずしもバックドアDに限らず、電動アクチュエータの動作によってラッチ装置とストライカとの噛合状態を解除するものであれば、トランクリッド、スライドドア、サイドドア等々、その他のドアにも適用することが可能である。また、車両本体BにストライカSを設ける一方、ドアにラッチ装置LAを設けた車両を適用対象としているが、ストライカとラッチ装置とは逆の態様で車両に設けられていても適用可能である。
【0048】
さらに、上述した実施の形態では、操作部材50として装置本体10にスライド可能に配設したものを例示しているが、操作部材としてはレバー状のものやひもやベルト状のもの等々、その形態は実施のものに限らない。要は、装置本体の外部から操作可能であれば、任意のものを適用することが可能である。
【0049】
また、上述した実施の形態では、第2係合部材30を装置本体10に対して回転可能に配設しているが、必ずしも第2係合部材の移動態様は回転に限らない。例えば装置本体10に対して直線的にスライドさせることにより、噛合位置と解除位置との間を移動するようにしても良いし、装置本体に対して着脱することによって噛合位置と解除位置との間を移動するようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 装置本体
12 案内壁部
13 進入用切欠
20 第1係合部材
30 第2係合部材
35 傾斜面
40 付勢バネ
50 操作部材
70 リンクロッド
B 車両本体
D バックバックドア
LA ラッチ装置
LR ラチェット
MA 電動アクチュエータ
S ストライカ
SR ストライカロッド
SW 側壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体とドアとの間のいずれか一方に設けたラッチ装置と他方に設けたストライカとを互いに噛み合わせることにより、車両本体に対してドアを閉じた状態に維持する一方、電動アクチュエータの動作によってラッチ装置とストライカとの噛合状態を解除することにより、車両本体に対してドアを開くようにした車両を適用対象とする作業時用ドア保持装置であって、
ラッチ装置と噛み合い可能となる態様で装置本体に配設した第1係合部材と、
噛合位置と解除位置との間を移動する態様で前記装置本体に移動可能に配設し、噛合位置に配置された場合にストライカに噛み合い可能、かつストライカと噛み合った状態から解除位置に配置された場合にストライカとの噛合状態が解除可能となる第2係合部材と
を備え、前記第2係合部材を前記装置本体の外部から操作可能に設けたことを特徴とする作業時用ドア保持装置。
【請求項2】
前記第1係合部材がラッチ装置に噛み合い、かつ前記第2係合部材がストライカに噛み合った場合に、前記装置本体が車両本体とドアとの間に露出するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の作業時用ドア保持装置。
【請求項3】
前記装置本体は、ラッチ装置に近接移動させた場合に前記第1係合部材とラッチ装置とを互いに噛み合い可能となる位置に案内する案内手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業時用ドア保持装置。
【請求項4】
前記装置本体は、前記第1係合部材がラッチ装置と噛み合った場合にラッチ装置との位置決めを行い、車両本体に対してドアを閉めた場合に、前記第2係合部材をストライカに噛み合い可能となる位置に案内する位置決め手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の作業時用ドア保持装置。
【請求項5】
前記装置本体に対して操作部材を移動可能に配設し、かつこの操作部材が移動した場合に前記第2係合部材が噛合位置と解除位置との間を移動する態様で前記操作部材と前記第2係合部材とを互いに連係させたことを特徴とする請求項1に記載の作業時用ドア保持装置。
【請求項6】
前記操作部材は、前記装置本体の一方の端部から他方の端部に亘る部位に延在して配設し、かつ延在方向に交差する方向に沿って移動させることにより前記第2係合部材を噛合位置と解除位置とに移動させることを特徴とする請求項5に記載の作業時用ドア保持装置。
【請求項7】
前記装置本体は、ストライカが進入する進入用切欠を有し、
前記第2係合部材は、前記進入用切欠に対して進出移動した噛合位置と、前記進入用切欠に対して退行移動した解除位置とに移動可能に配設し、
前記装置本体と前記第2係合部材との間には、前記第2係合部材を前記進入用切欠に進出した噛合位置となるように付勢する付勢手段を介在させ、
さらに、前記進入用切欠に進入したストライカに当接した場合に前記付勢手段の付勢力に抗して前記第2係合部材を解除位置に移動させる傾斜面を前記第2係合部材に形成し、
前記進入用切欠に進入したストライカが前記傾斜面を通過した後に前記付勢手段の付勢力によって前記第2係合部材を噛合位置に移動させることにより前記第2係合部材をストライカに噛み合わせることを特徴とする請求項1に記載の作業時用ドア保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【公開番号】特開2011−106163(P2011−106163A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262081(P2009−262081)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000148896)三井金属アクト株式会社 (127)
【Fターム(参考)】