作業機の走行変速構造
【課題】 主変速操作具と副変速操作具との操作形態に着目して、両操作具の配置構成に工夫を凝らして、運転操縦空間内での機器配置を適正に行い得る作業機の変速操作構造を提供する。
【解決手段】 容量を無段階に変更可能な油圧式ポンプと油圧式ポンプからの作動油を受けて駆動される油圧式モータとでなる静油圧式無段変速装置からなる主変速装置を設ける。主変速装置からの出力を複数段に変速するギヤ式副変速機構を設けてある。油圧式ポンプを変更調節する主変速レバー47を運転操縦空間内に配置し、ギヤ式副変速機構を切換調節する副変速レバー28を運転操縦空間外に配置してある。
【解決手段】 容量を無段階に変更可能な油圧式ポンプと油圧式ポンプからの作動油を受けて駆動される油圧式モータとでなる静油圧式無段変速装置からなる主変速装置を設ける。主変速装置からの出力を複数段に変速するギヤ式副変速機構を設けてある。油圧式ポンプを変更調節する主変速レバー47を運転操縦空間内に配置し、ギヤ式副変速機構を切換調節する副変速レバー28を運転操縦空間外に配置してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量を無段階に変更可能な油圧式ポンプと前記油圧式ポンプからの作動油を受けて駆動される油圧式モータとでなる無段変速可能な主変速装置を設け、前記主変速装置からの出力を複数段に変速するギヤ式副変速機構を設けてある作業機の走行変速構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機の一例であるコンバインでは、主変速装置を操作する主変速操作具及び副変速装置を操作する副変速操作具を、夫々、並列する状態で運転操縦空間内に配置していた(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−159467号公報(段落番号〔0037〕〔0041〕〜〔0043〕、図2,図7〜図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1で示された従来構造では、二つの変速操作具が並列する状態で運転操縦空間内に配置されていた。
運転操縦空間内には、変速操作具以外に操縦に必要な機器を配置する必要があるところから、機器配置が輻輳することとなり、スペースの有効活用に向けて改善の余地があった。
【0004】
本発明の目的は、主変速操作具と副変速操作具との操作形態に着目して、両操作具の配置構成に工夫を凝らして、運転操縦空間内での機器配置を適正に行い得る作業機の変速操作構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、前記油圧式ポンプを変更調節する主変速操作具を運転操縦空間内に配置し、前記ギヤ式副変速機構を切換調節する副変速操作具を運転操縦空間外に配置してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0006】
〔作用〕
主変速装置は無段階に変速可能なものであるので、作業走行時、及び、路上走行時においても細かい速度調節の為に使用される。その為に、主変速操作具はできるだけ運転者の近傍に配置することが必要であるので、運転操縦空間内に配置されている。
一方、副変速装置は主変速装置のように、細かい速度調節の為に使用されるものではないので、運転者の近傍に配置する必要性は小さい。そこで、副変速操作具は運転操縦空間外に配置した。
【0007】
〔効果〕
主変速操作具と副変速操作具が担う機能に着目して、夫々、設置位置を選定したので、運転操縦空間内の機器配置を複雑なものにすることなく、空間の有効利用を図る作業機の走行変速構造を提供できるに至った。
【0008】
〔構成〕
請求項2にかかる発明の特徴構成は、前記油圧式モータの容量を可変可能に構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0009】
〔作用効果〕
油圧式モータにおいても容量を変更できるので、この油圧式モータにおいては、無段階に容量変更可能な油圧式ポンプでの容量可変形態とは異なる有段変速形態を採用することができ、無段階に容量変更可能な形態を採用することも可能なので、主変速装置での変速形態の多様化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
作業機としてのコンバインについて説明する。図1及び図2示すように、左右一対のクローラ走行装置1を備えた走行機体2の前端に刈取前処理装置3を昇降自在に取り付けるとともに、刈取前処理装置3から搬送される刈取穀稈を脱穀する脱穀装置4と脱穀装置4で処理された穀粒を貯留する貯留タンク5を備えてコンバインを構成してある。
【0011】
左右一対のクローラ走行装置1の前端同士の間には、前端同士を連結するミッションケース6が架設してあり、図1及び図2に示すように、ミッションケース6の横側面に走行機体2に搭載されたエンジン7からの動力伝達を受ける主変速装置としての静油圧式無段変速装置(HST)8が取り付けてある。
【0012】
静油圧式無段変速装置8について説明する。図5、図6及び図8に示すように、HSTケース8A内に回転速度を無段階に変更可能なアキシャルプランジャー型の油圧式ポンプ8Bと、回転速度を高低二段に変速可能なアキシャルプランジャー型の油圧式モータ8Cとを備え、これらの油圧式ポンプ8Bと油圧式モータ8Cとを閉回路8aで連結して、静油圧式無段変速装置8を構成してある。
油圧式ポンプ8Bは、回転速度を変更可能な可動斜板8Dを複動シリンダ8bで駆動制御すべく構成し、複動シリンダ8bに投入される作動油を電磁比例制御弁8cで制御すべく構成してある。
【0013】
一方、油圧式モータ8Cは、回転速度を変更可能な可動斜板8Dを複動シリンダ8dで駆動制御すべく構成し、複動シリンダ8dに投入される作動油を二つの電磁式ON−OFF弁8eで制御すべく構成してある。
油圧式モータ8Cで使用されるシリンダ容量は油圧式ポンプ8Bのシリンダ容量より大きくしてあり、可動斜板8Dの制御角度を二段に設定できるように、シリンダを配置してある。
【0014】
油圧式モータ8Cに対する複動シリンダ8dは、低速位置に戻し付勢する付勢バネ8fが一方の作動空間内に設けてあり、電磁弁8eが故障した場合には、低速側に移行するように構成してある。
このように、複動シリンダ8dにおいて、ピストン8jの一方側にのみ付勢バネ8fを作用させてあるので、ピストン8jの作動速度が異なることとなるが、複動シリンダ8dへの給排油路にオリフィス8hを設けて、作動速度の調整を図っている。
以上のような構成により、作業走行と路上走行との切り換えは、油圧式モータ8Cを高低に切り換えることによって、行っている。
図2〜4に示すように、運転操縦部53には、運転席54の横に、油圧式ポンプ8Bを無段で変速操作する主変速レバー47が前後操作自在に設けてあり、主変速レバー47の握り部47Aに、油圧式モータ8Cを高低二段に変速するスイッチ48が設けてある。
そして、走行機体を停止して、メインスイッチをOFFにした後に、再び、メインスイッチをONにした場合には、油圧式モータ8Cは、メインスイッチをOFFにした時点の状態に拘わらず、低速状態に設定される。
【0015】
図6及び図8に示すように、エンジン7からの動力伝達を受ける入力軸を油圧式ポンプ8Bのポンプ軸8gに定め、ポンプ軸8gをHSTケース8Aより突設させて、突設させたポンプ軸8gに閉回路8aに作動油を供給するチャージポンプ30とミッションに採用されている油圧クラッチ等に作動油を供給するミッション用ポンプ31とを2連で取り付けている。チャージポンプ30とミッション用ポンプ31とをシールで分断し、作動油として別系統の作動油を使用する。
【0016】
ミッションケース6内の構成について説明する。図7及び図8に示すように、ミッションケース6の一端に、静油圧式無段変速装置8から動力伝達を受ける入力軸9を架設し、入力軸9と平行に副変速軸10を架設してある。入力軸9と副変速軸10との間には、高低二段変速可能なギヤ式副変速機構Aを設けてあり、副変速軸10の一端には駐車ブレーキ機構Bが設けてある。
【0017】
ギヤ式副変速機構Aについて説明する。図7及び図10に示すように、入力軸9と副変速軸10に大小の二個のギヤ10B、10Cを遊転支承してあり、大小二個のギヤ10B、10Cの間にクラッチスリーブ10Aを配置して、クラッチスリーブ10Aを副変速軸10のギヤ部10aに咬合させてある。
クラッチスリーブ10Aを大小ギヤ10B、10Cの一方と副変速軸10のギャ部10aとに選択咬合させることによって、高低速状態を現出できる、ギヤ式副変速機構Aを構成してある。
【0018】
クラッチスリーブ10Aは作業走行時及び路上走行時ともに高速状態に設定されており、低速側に切り換えられるのは、緊急脱出時等の場合だけに使用されるのである。
このように、ギヤ式副変速機構Aは通常の走行時には変速操作されないところから、クラッチスリーブ10Aを操作するシフター50を操作軸51にスライド自在に装着し、このシフトフォーク50をスライド駆動するカム軸52をミッションケース6に支持し、カム軸52におけるミッションケース6より突出した端部に副変速操作具としての副変速レバー28用の操作アーム28Aを連係してある。図2,3,11に示すように、操作アーム28Aに連係された副変速レバー28はミッションケース6の側方から立設されて、運転操縦部53の外面に沿った状態に配置されている。
【0019】
ミッションケース6内の構造について説明する。図7に示すように、副変速軸10と平行に旋回変速のための旋回軸11とサイドクラッチ25等が搭載されたサイドクラッチ軸12が架設されており、旋回軸11に出力する第1出力ギヤ13、及び、サイドクラッチ軸12に出力する第2出力ギヤ24が副変速軸10のギヤ式副変速機構Aと駐車用ブレーキ機構Bとの間に設けてある。
【0020】
ミッションにおいては、直進走行以外に緩旋回、急旋回、信地旋回の3種類の旋回作動が可能であり、これらの旋回作動を可能にする各クラッチ及びギヤが前記旋回軸11とサイドクラッチ軸12、伝動下流側の軸に設けられている。
旋回軸11には、前記第1出力ギヤ13に咬合する第1入力ギヤ14が遊転支承してあり、第1入力ギヤ14に隣接して摩擦多板式の信地旋回用クラッチ15が装着されている。
【0021】
図9に示すように、信地旋回用クラッチ15は、第1入力ギヤ14に一体形成されたクラッチボス15Aと、旋回軸11に固定されたクラッチボディ15Bと、それらの間に介装される摩擦多板15Cと、クラッチピストン15Dで構成されている。旋回軸11の一端には、急旋回用の摩擦多板式の走行ブレーキCが装着してある。信地旋回用クラッチ15を挟んで走行ブレーキCの存在側とは反対側の他端には、緩旋回用クラッチ16が設けてあり、緩旋回用クラッチ16の他端側には、第3入力ギヤ19が遊転支承してある。
【0022】
図9に示すように、サイドクラッチ軸12には旋回動力を左右何れかのクローラ走行装置1に動力伝達を行う摩擦多板式の旋回クラッチ18を装着してあり、旋回軸11の信地旋回用クラッチ15と緩旋回用クラッチ16との間に固着してある第4出力ギヤ17から動力伝達受けるべく、旋回クラッチ18は第4出力ギヤ17と咬合する入力ギヤ18Aを装備している。
【0023】
図5に示すように、緩旋回用クラッチ16のクラッチボスに兼用されている第3入力ギヤ19を旋回軸11に遊転支承するとともに、サイドクラッチ軸12にスプライン係合させた左右一方のサイドクラッチ25の第3出力ギヤ21に咬合させている。このような構成によって、緩旋回動力をサイドクラッチ軸12から一旦旋回軸11に戻して、第4出力ギヤ17及び旋回クラッチ18に伝達すべく構成してある。サイドクラッチ軸12の他方には左右他方のサイドクラッチ25が設けてあり、車軸22へ出力可能に構成してある。
左右他方のサイドクラッチ25の側端側には、第4入力ギヤ23が遊転支承してあり、副変速軸10に設けた第2出力ギヤ24と咬合して、副変速軸10からの動力伝達を受けるべく構成してある。
【0024】
右サイドクラッチ25と旋回クラッチ18との連係構造は、次ぎのようになっている。右サイドクラッチ25の第3出力ギヤ21と旋回クラッチ18のクラッチケース18Bとの間には、第3出力ギヤ21と咬合離脱自在でかつ旋回クラッチ18のクラッチボスに兼用構成される右クラッチスリーブ26が遊転支承されている。そして、この右クラッチスリーブ26は、車軸22への出力ギヤ部26Aを有している。
【0025】
図9に示すように、右クラッチスリーブ26と第3出力ギヤ21との間には、油圧ピストン27が介在されており、このピストン27が圧油を受けて第3出力ギヤ21に当接作用することによって、咬合方向に付勢されている第3出力ギヤ21が右クラッチスリーブ26から離間する状態に切り換えられ、第3出力ギヤ21と右クラッチスリーブ26とがクラッチ切り状態に達する。圧油を解除すれば、バネによって付勢された第3出力ギヤ21はピストン27を押し移動させて、右クラッチスリーブ26と咬合する。
図7に示すように、右クラッチスリーブ26は、車軸22とサイドクラッチ軸12との間に設けられているアイドル軸20に取り付けた第5入力ギヤ29と咬合して、車軸22へ動力伝達可能に構成してある。
【0026】
図7及び図9に示すように、左サイドクラッチ25の構造について説明する。左サイドクラッチ25の構造は、右サイドクラッチ25とは構造が異なっている。つまり、第3出力ギヤ21に相当するものはなく、ギヤを備えていないクラッチボス45が旋回クラッチ18にも属する左クラッチスリーブ26と咬合離脱自在に構成してあり、左サイドクラッチ25を構成してある。クラッチボス45は、バネによって、左クラッチスリーブ26と咬合する方向に付勢されている。
【0027】
上記した構成によって、左サイドクラッチ25を入り状態に設定すると、副変速軸10から直接この第4入力ギヤ23を介してサイドクラッチ軸12に導入した回転動力を、左サイドクラッチ25を介して直進動力として車軸22に伝達する。左サイドクラッチ25を切り状態に設定すると、前記したように、旋回クラッチ18を通して旋回出力を車軸22に出力できることとなる。
【0028】
以上のような構成により、3つの旋回状態を現出する。なお、直進時の走行速度を維持する一方(左側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−サイドクラッチ軸12にスプライン係合している第4入力ギヤ23−左のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは入り状態)25−旋回クラッチ18に兼用されている左クラッチスリーブ26―左の第5入力ギヤ29−左のアイドル軸20−左の車軸22に伝達される。
【0029】
緩旋回時の他方(右側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
図7及び図9に示すように、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−サイドクラッチ軸12に遊転支承されている第4入力ギヤ23−右のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは切り状態)25の第3出力ギヤ21−緩旋回用クラッチ16のクラッチボスに兼用されている第3入力ギヤ19−緩旋回用クラッチ16のクラッチケース16A−旋回軸11−旋回軸11に取り付けられている第4出力ギヤ17−第4出力ギヤ17に咬合している入力ギヤ18Aを備えた旋回クラッチ18−旋回クラッチ18の右クラッチスリーブ26―右の第5入力ギヤ22−右のアイドル軸20−右の車軸22に伝達される。
【0030】
信地旋回時の他方(右側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
この場合にも、一方(左側)のクローラ走行装置1は、直進状態を維持する。つまり、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−旋回軸12に遊転支承されている第4入力ギヤ23−左のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは入り状態)25−旋回クラッチ18に兼用されているクラッチスリーブ26―左の第5入力ギヤ22−左のアイドル軸20−左の車軸22に伝達される。
【0031】
右側のクローラ走行装置1は、左側のクローラ走行装置1の3分の1の速度で反対(後進)方向に回転して、信地旋回作動状態となる。つまり、図7及び図9に示すように、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第1出力ギヤ13−旋回軸11に遊転支承されている第1入力ギヤ(信地旋回用クラッチ15のクラッチボス)14―信地旋回用クラッチ15のクラッチケース15B―旋回軸11−旋回軸11に取り付けられている第4出力ギヤ17−第4出力ギヤ17に咬合している入力ギヤ18Aを備えた旋回クラッチ18−旋回クラッチ18の右クラッチスリーブ26―右の第5入力ギヤ22−右のアイドル軸20−右の車軸22に伝達される。
【0032】
緩旋回時の他方(右側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
ただし、この場合にも、一方(左側)のクローラ走行装置1は、直進状態を維持する。つまり、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−旋回軸12に遊転支承されている第4入力ギヤ23−左のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは入り状態)25−旋回クラッチ18に兼用されている左クラッチスリーブ26―左の第5入力ギヤ22−左のアイドル軸20−左の車軸22に伝達される。
【0033】
図7及び図9に示すように、旋回軸11には、走行ブレーキCが設けてあり、この走行ブレーキCを油圧によって入りに切り換える。この走行ブレーキCによって、旋回軸12に固定されている第4出力ギヤ17−旋回クラッチ18の右側クラッチを入りー右クラッチスリーブ26(右サイドクラッチ25は切り)ー第5入力ギヤ29―右の第5入力ギヤ22−右のアイドル軸20−右の車軸22に制動力が伝達される。
【0034】
前記した静油圧式無段変速装置8の油圧式モータ8Bを高速状態に設定している場合に、旋回操作が行われる場合には、旋回モードは緩旋回モードが採用されている。これによって、路上走行時においても、急旋回モードや信地旋回モードが現出されることがなく、走行安定性を確保している。
【0035】
次ぎに、駐車ブレーキ機構Bの構造について説明する。図10〜図13に示すように、ブレーキケース33を、ミッションケース6の副変速軸10を支持する取り付けボス部6Aに、嵌め込み保持するとともに、ブレーキケース33内に、湿式摩擦多板式のブレーキディスク34とこのブレーキディスク34に圧接作用するカムディスク35とを収納して、駐車ブレーキ機構Bを構成してある。
【0036】
ブレーキケース33の内側の奥壁33Aとこの奥壁33Aに対向するカムディスク35の背面とに亘ってカム機構Eが設けてある。図12及び図13に示すように、奥壁33Aの円周方向3箇所に、ボール36を嵌入保持するとともに、カムディスク35の背面における円周方向3箇所に、前記ボール36に係合する係合穴35Aを形成してある。係合穴35Aは、円周方向一方向に向けて係合深さと係合幅が徐々に浅くかつ細くなる誘導面35aを設けてある。
ここに、カムディスク35とボール36とでカム機構Eを構成してある。
【0037】
奥壁33Aにおける係合穴35Aとは異なる位置で同一半径位置に、ガイドピン37を埋め込み固定し、ガイドピン37の先端部を奥壁33Aの表面より突設させて設けてある。カムディスク35の背面側から肉厚内に入り込み或る程度の深さを持ち円周方向に沿った係合長孔35Bを形成し、カムディスク35をブレーキケース33の所定位置に装着した状態でガイドピン37が係合長孔35B内に係合する構成を採っている。
【0038】
図9〜図13に示すように、係合長孔35B内にコイルバネ38が収納載置されており、このコイルバネ38を係合長孔35内に挿入したガイドピン37と係合長孔35Bの一端とに亘る状態で収納載置してある。このコイルバネ38によって、カムディスク35を円周方向に回転させる際の抵抗として作用し、戻し方向に向けて付勢している。このコイルバネ38を、カムディスク35を戻し方向(反対方向)に回転させる戻しバネと称する。
【0039】
図12に示すように、カムディスク35の回転中心位置には、貫通孔35Cを設けてあり、副変速軸10の軸端の入り込みを許容する構成を取っている。ブレーキケース33の奥側にカムディスク35を装入するとともに、カムディスク35の入り口側に湿式摩擦多板式のブレーキディスク34を載置してある。
【0040】
図12に示すように、ブレーキディスク34の更に入口近くには、受圧板39を設けてあり、受圧板39は孔用止め輪40によって抜止されている。
以上のような構成によって、カムディスク35、湿式摩擦多板式のブレーキディスク34、受圧板39を孔用止め輪40によって抜止処理した状態で、副変速軸10に装着すると、副変速軸10の軸端がカムディスク35の貫通孔35Cまで入り込む。
【0041】
駐車ブレーキ機構Bに対する操作機構について説明する。図10〜図13に示すように、ブレーキケース33の外面にカムディスク35等を収納する収納空間に連通する貫通孔33Bを形成し、貫通孔33Bを備えたボス部33Cを突出させてある。ボス部33Cと径方向の一定間隔だけ離れた位置に、ネジ孔33aを形成した止め部33Dが突設してある。ボス部33Cの貫通孔33B内には、駐車ブレーキ操作具(図示せず)に連係する操作軸41を嵌入保持し、操作軸41を貫通孔33Bの軸線周りで回転可能に構成してある。操作軸41にはOーリング用の溝41aが形成してあり、Oーリング42を装着して周方向への回転抵抗、及び、軸線方向への移動抵抗を付与している。
【0042】
図10〜図13に示すように、操作軸41の軸端部41bをボス部33Cより突出させ、軸端部41bに操作アーム43を連結している。操作アーム43の基端部43Aとボス部33Cの先端面33cとの間には、操作アーム43に対する回転規制板44がボルト止め固定してある。回動規制板44は、操作軸41に外嵌するための挿通孔を形成した基端部44Aと基端部44Aよりネジ孔33aを形成した止め部33Dに向けて先端部44Bを延出してあり、先端部44Bにボルト止め用の貫通孔44Cと操作アーム42の受け止め規制部44Dを立ち上げ形成してあり、カムディスク35をブレーキ入り位置に位置させる構成を採っている。尚、カムディスク35をブレーキ入り位置に位置させるために、付勢バネ(図示してはいない)を設けてもよい。
【0043】
図10〜図13に示すように、カムディスク35の背面側で円周方向一箇所に、肉厚内に凹入するカム穴35bを形成してある。これに対して、操作アーム42に取り付け固定されている操作軸41のカムディスク35に向かう先端面には、偏芯突起41cが突設してある。この偏芯突起41cをカムディスク35のカム穴35bに係合させ、操作アーム42を回転操作することによって、カムディスク35を副変速軸10周りで回転操作することができる。
【0044】
操作アーム43に対しては、図示してはいないが、連係機構が設けてあり、運転操縦部に設けた操作具によって、操作可能に構成してある。
以上のような構成によって、操作具を操作すると、操作アーム43は、図11に示すように、実線aの位置から仮想線bの位置まで操作される。そうすると、カムディスク35が回転操作され、図12(a)に示すブレーキ切り状態から、図12(b)に示すように、カムディスク35がブレーキディスク34を押圧して、ブレーキ入り状態を現出する。
【0045】
カムディスク35が回転すると、係合穴35Aの誘導面35aもボール36に乗り上がる状態で、カムディスク35は徐々にブレーキディスク34を押圧する。これによって、ブレーキを入り作動させることができる。
【0046】
〔他の実施例〕
(1)静油圧式無段変速装置8を構成する油圧式モータ8Cは、可動斜板8Dを一定傾斜角度に固定して、油圧式ポンプ8Bのみで容量調節を行い、変速する構成を採ってもよい。又は反対に、油圧式モータ8Cにおいても、可動斜板8Dを無段階に調節できるようにしてもよい。
(2)油圧式ポンプ8Bの可動斜板8Dを電動モータ等の電動アクチュエータで駆動する方法を採用し、かつ、主変速操作具として主変速レバーの動作量を歩テンショメータ等のセンサで検出して、この検出値に基づいて電動アクチュエータを制御する構成を採ってもよい。
(3)油圧式ポンプ8Bを駆動制御するに複動シリンダ8dを使用して、作動スピードを一定にするために、供給経路にオリフィス8hを設けているが、特に設けなくともよい。
(4)主変速装置としては、必ずしも、静油圧式無段変速装置8である必要はなく、油圧式無段変速可能なものであれば、いずれのものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】コンバインの運転操縦部とミッションケース部分を示す正面図
【図3】コンバインの運転操縦部を示す平面図
【図4】主変速レバーの握り部を示す斜視図
【図5】ミッションケースを示す側面図
【図6】静油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図7】ミッションケース内構造を示す縦断背面図
【図8】静油圧式無段変速装置を示す縦断背面図
【図9】信地旋回用クラッチ、旋回用クラッチ、緩旋回用クラッチ、サイドクラッチを示す縦断背面図
【図10】駐車ブレーキ機構を示す横断平面図
【図11】駐車ブレーキ機構のカムディスクと操作アームを示す側面図
【図12】(a)駐車ブレーキ機構が切位置にある状態を示す縦断背面図、(b)駐車ブレーキ機構が入り位置にある状態を示す縦断背面図
【図13】(a)駐車ブレーキ機構が切位置にある状態でのカムディスクとボール、ガイドピン、付勢バネを示す作用図、(b)駐車ブレーキ機構が入り位置にある状態でのカムディスクとボール、ガイドピン、付勢バネを示す作用図
【符号の説明】
【0048】
8 静油圧式無段変速装置(主変速装置)
8B 油圧式ポンプ
8C 油圧式モータ
28 副変速レバー(副変速操作具)
47 主変速レバー(主変速操作具)
A ギヤ式副変速機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量を無段階に変更可能な油圧式ポンプと前記油圧式ポンプからの作動油を受けて駆動される油圧式モータとでなる無段変速可能な主変速装置を設け、前記主変速装置からの出力を複数段に変速するギヤ式副変速機構を設けてある作業機の走行変速構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機の一例であるコンバインでは、主変速装置を操作する主変速操作具及び副変速装置を操作する副変速操作具を、夫々、並列する状態で運転操縦空間内に配置していた(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−159467号公報(段落番号〔0037〕〔0041〕〜〔0043〕、図2,図7〜図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1で示された従来構造では、二つの変速操作具が並列する状態で運転操縦空間内に配置されていた。
運転操縦空間内には、変速操作具以外に操縦に必要な機器を配置する必要があるところから、機器配置が輻輳することとなり、スペースの有効活用に向けて改善の余地があった。
【0004】
本発明の目的は、主変速操作具と副変速操作具との操作形態に着目して、両操作具の配置構成に工夫を凝らして、運転操縦空間内での機器配置を適正に行い得る作業機の変速操作構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、前記油圧式ポンプを変更調節する主変速操作具を運転操縦空間内に配置し、前記ギヤ式副変速機構を切換調節する副変速操作具を運転操縦空間外に配置してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0006】
〔作用〕
主変速装置は無段階に変速可能なものであるので、作業走行時、及び、路上走行時においても細かい速度調節の為に使用される。その為に、主変速操作具はできるだけ運転者の近傍に配置することが必要であるので、運転操縦空間内に配置されている。
一方、副変速装置は主変速装置のように、細かい速度調節の為に使用されるものではないので、運転者の近傍に配置する必要性は小さい。そこで、副変速操作具は運転操縦空間外に配置した。
【0007】
〔効果〕
主変速操作具と副変速操作具が担う機能に着目して、夫々、設置位置を選定したので、運転操縦空間内の機器配置を複雑なものにすることなく、空間の有効利用を図る作業機の走行変速構造を提供できるに至った。
【0008】
〔構成〕
請求項2にかかる発明の特徴構成は、前記油圧式モータの容量を可変可能に構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0009】
〔作用効果〕
油圧式モータにおいても容量を変更できるので、この油圧式モータにおいては、無段階に容量変更可能な油圧式ポンプでの容量可変形態とは異なる有段変速形態を採用することができ、無段階に容量変更可能な形態を採用することも可能なので、主変速装置での変速形態の多様化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
作業機としてのコンバインについて説明する。図1及び図2示すように、左右一対のクローラ走行装置1を備えた走行機体2の前端に刈取前処理装置3を昇降自在に取り付けるとともに、刈取前処理装置3から搬送される刈取穀稈を脱穀する脱穀装置4と脱穀装置4で処理された穀粒を貯留する貯留タンク5を備えてコンバインを構成してある。
【0011】
左右一対のクローラ走行装置1の前端同士の間には、前端同士を連結するミッションケース6が架設してあり、図1及び図2に示すように、ミッションケース6の横側面に走行機体2に搭載されたエンジン7からの動力伝達を受ける主変速装置としての静油圧式無段変速装置(HST)8が取り付けてある。
【0012】
静油圧式無段変速装置8について説明する。図5、図6及び図8に示すように、HSTケース8A内に回転速度を無段階に変更可能なアキシャルプランジャー型の油圧式ポンプ8Bと、回転速度を高低二段に変速可能なアキシャルプランジャー型の油圧式モータ8Cとを備え、これらの油圧式ポンプ8Bと油圧式モータ8Cとを閉回路8aで連結して、静油圧式無段変速装置8を構成してある。
油圧式ポンプ8Bは、回転速度を変更可能な可動斜板8Dを複動シリンダ8bで駆動制御すべく構成し、複動シリンダ8bに投入される作動油を電磁比例制御弁8cで制御すべく構成してある。
【0013】
一方、油圧式モータ8Cは、回転速度を変更可能な可動斜板8Dを複動シリンダ8dで駆動制御すべく構成し、複動シリンダ8dに投入される作動油を二つの電磁式ON−OFF弁8eで制御すべく構成してある。
油圧式モータ8Cで使用されるシリンダ容量は油圧式ポンプ8Bのシリンダ容量より大きくしてあり、可動斜板8Dの制御角度を二段に設定できるように、シリンダを配置してある。
【0014】
油圧式モータ8Cに対する複動シリンダ8dは、低速位置に戻し付勢する付勢バネ8fが一方の作動空間内に設けてあり、電磁弁8eが故障した場合には、低速側に移行するように構成してある。
このように、複動シリンダ8dにおいて、ピストン8jの一方側にのみ付勢バネ8fを作用させてあるので、ピストン8jの作動速度が異なることとなるが、複動シリンダ8dへの給排油路にオリフィス8hを設けて、作動速度の調整を図っている。
以上のような構成により、作業走行と路上走行との切り換えは、油圧式モータ8Cを高低に切り換えることによって、行っている。
図2〜4に示すように、運転操縦部53には、運転席54の横に、油圧式ポンプ8Bを無段で変速操作する主変速レバー47が前後操作自在に設けてあり、主変速レバー47の握り部47Aに、油圧式モータ8Cを高低二段に変速するスイッチ48が設けてある。
そして、走行機体を停止して、メインスイッチをOFFにした後に、再び、メインスイッチをONにした場合には、油圧式モータ8Cは、メインスイッチをOFFにした時点の状態に拘わらず、低速状態に設定される。
【0015】
図6及び図8に示すように、エンジン7からの動力伝達を受ける入力軸を油圧式ポンプ8Bのポンプ軸8gに定め、ポンプ軸8gをHSTケース8Aより突設させて、突設させたポンプ軸8gに閉回路8aに作動油を供給するチャージポンプ30とミッションに採用されている油圧クラッチ等に作動油を供給するミッション用ポンプ31とを2連で取り付けている。チャージポンプ30とミッション用ポンプ31とをシールで分断し、作動油として別系統の作動油を使用する。
【0016】
ミッションケース6内の構成について説明する。図7及び図8に示すように、ミッションケース6の一端に、静油圧式無段変速装置8から動力伝達を受ける入力軸9を架設し、入力軸9と平行に副変速軸10を架設してある。入力軸9と副変速軸10との間には、高低二段変速可能なギヤ式副変速機構Aを設けてあり、副変速軸10の一端には駐車ブレーキ機構Bが設けてある。
【0017】
ギヤ式副変速機構Aについて説明する。図7及び図10に示すように、入力軸9と副変速軸10に大小の二個のギヤ10B、10Cを遊転支承してあり、大小二個のギヤ10B、10Cの間にクラッチスリーブ10Aを配置して、クラッチスリーブ10Aを副変速軸10のギヤ部10aに咬合させてある。
クラッチスリーブ10Aを大小ギヤ10B、10Cの一方と副変速軸10のギャ部10aとに選択咬合させることによって、高低速状態を現出できる、ギヤ式副変速機構Aを構成してある。
【0018】
クラッチスリーブ10Aは作業走行時及び路上走行時ともに高速状態に設定されており、低速側に切り換えられるのは、緊急脱出時等の場合だけに使用されるのである。
このように、ギヤ式副変速機構Aは通常の走行時には変速操作されないところから、クラッチスリーブ10Aを操作するシフター50を操作軸51にスライド自在に装着し、このシフトフォーク50をスライド駆動するカム軸52をミッションケース6に支持し、カム軸52におけるミッションケース6より突出した端部に副変速操作具としての副変速レバー28用の操作アーム28Aを連係してある。図2,3,11に示すように、操作アーム28Aに連係された副変速レバー28はミッションケース6の側方から立設されて、運転操縦部53の外面に沿った状態に配置されている。
【0019】
ミッションケース6内の構造について説明する。図7に示すように、副変速軸10と平行に旋回変速のための旋回軸11とサイドクラッチ25等が搭載されたサイドクラッチ軸12が架設されており、旋回軸11に出力する第1出力ギヤ13、及び、サイドクラッチ軸12に出力する第2出力ギヤ24が副変速軸10のギヤ式副変速機構Aと駐車用ブレーキ機構Bとの間に設けてある。
【0020】
ミッションにおいては、直進走行以外に緩旋回、急旋回、信地旋回の3種類の旋回作動が可能であり、これらの旋回作動を可能にする各クラッチ及びギヤが前記旋回軸11とサイドクラッチ軸12、伝動下流側の軸に設けられている。
旋回軸11には、前記第1出力ギヤ13に咬合する第1入力ギヤ14が遊転支承してあり、第1入力ギヤ14に隣接して摩擦多板式の信地旋回用クラッチ15が装着されている。
【0021】
図9に示すように、信地旋回用クラッチ15は、第1入力ギヤ14に一体形成されたクラッチボス15Aと、旋回軸11に固定されたクラッチボディ15Bと、それらの間に介装される摩擦多板15Cと、クラッチピストン15Dで構成されている。旋回軸11の一端には、急旋回用の摩擦多板式の走行ブレーキCが装着してある。信地旋回用クラッチ15を挟んで走行ブレーキCの存在側とは反対側の他端には、緩旋回用クラッチ16が設けてあり、緩旋回用クラッチ16の他端側には、第3入力ギヤ19が遊転支承してある。
【0022】
図9に示すように、サイドクラッチ軸12には旋回動力を左右何れかのクローラ走行装置1に動力伝達を行う摩擦多板式の旋回クラッチ18を装着してあり、旋回軸11の信地旋回用クラッチ15と緩旋回用クラッチ16との間に固着してある第4出力ギヤ17から動力伝達受けるべく、旋回クラッチ18は第4出力ギヤ17と咬合する入力ギヤ18Aを装備している。
【0023】
図5に示すように、緩旋回用クラッチ16のクラッチボスに兼用されている第3入力ギヤ19を旋回軸11に遊転支承するとともに、サイドクラッチ軸12にスプライン係合させた左右一方のサイドクラッチ25の第3出力ギヤ21に咬合させている。このような構成によって、緩旋回動力をサイドクラッチ軸12から一旦旋回軸11に戻して、第4出力ギヤ17及び旋回クラッチ18に伝達すべく構成してある。サイドクラッチ軸12の他方には左右他方のサイドクラッチ25が設けてあり、車軸22へ出力可能に構成してある。
左右他方のサイドクラッチ25の側端側には、第4入力ギヤ23が遊転支承してあり、副変速軸10に設けた第2出力ギヤ24と咬合して、副変速軸10からの動力伝達を受けるべく構成してある。
【0024】
右サイドクラッチ25と旋回クラッチ18との連係構造は、次ぎのようになっている。右サイドクラッチ25の第3出力ギヤ21と旋回クラッチ18のクラッチケース18Bとの間には、第3出力ギヤ21と咬合離脱自在でかつ旋回クラッチ18のクラッチボスに兼用構成される右クラッチスリーブ26が遊転支承されている。そして、この右クラッチスリーブ26は、車軸22への出力ギヤ部26Aを有している。
【0025】
図9に示すように、右クラッチスリーブ26と第3出力ギヤ21との間には、油圧ピストン27が介在されており、このピストン27が圧油を受けて第3出力ギヤ21に当接作用することによって、咬合方向に付勢されている第3出力ギヤ21が右クラッチスリーブ26から離間する状態に切り換えられ、第3出力ギヤ21と右クラッチスリーブ26とがクラッチ切り状態に達する。圧油を解除すれば、バネによって付勢された第3出力ギヤ21はピストン27を押し移動させて、右クラッチスリーブ26と咬合する。
図7に示すように、右クラッチスリーブ26は、車軸22とサイドクラッチ軸12との間に設けられているアイドル軸20に取り付けた第5入力ギヤ29と咬合して、車軸22へ動力伝達可能に構成してある。
【0026】
図7及び図9に示すように、左サイドクラッチ25の構造について説明する。左サイドクラッチ25の構造は、右サイドクラッチ25とは構造が異なっている。つまり、第3出力ギヤ21に相当するものはなく、ギヤを備えていないクラッチボス45が旋回クラッチ18にも属する左クラッチスリーブ26と咬合離脱自在に構成してあり、左サイドクラッチ25を構成してある。クラッチボス45は、バネによって、左クラッチスリーブ26と咬合する方向に付勢されている。
【0027】
上記した構成によって、左サイドクラッチ25を入り状態に設定すると、副変速軸10から直接この第4入力ギヤ23を介してサイドクラッチ軸12に導入した回転動力を、左サイドクラッチ25を介して直進動力として車軸22に伝達する。左サイドクラッチ25を切り状態に設定すると、前記したように、旋回クラッチ18を通して旋回出力を車軸22に出力できることとなる。
【0028】
以上のような構成により、3つの旋回状態を現出する。なお、直進時の走行速度を維持する一方(左側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−サイドクラッチ軸12にスプライン係合している第4入力ギヤ23−左のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは入り状態)25−旋回クラッチ18に兼用されている左クラッチスリーブ26―左の第5入力ギヤ29−左のアイドル軸20−左の車軸22に伝達される。
【0029】
緩旋回時の他方(右側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
図7及び図9に示すように、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−サイドクラッチ軸12に遊転支承されている第4入力ギヤ23−右のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは切り状態)25の第3出力ギヤ21−緩旋回用クラッチ16のクラッチボスに兼用されている第3入力ギヤ19−緩旋回用クラッチ16のクラッチケース16A−旋回軸11−旋回軸11に取り付けられている第4出力ギヤ17−第4出力ギヤ17に咬合している入力ギヤ18Aを備えた旋回クラッチ18−旋回クラッチ18の右クラッチスリーブ26―右の第5入力ギヤ22−右のアイドル軸20−右の車軸22に伝達される。
【0030】
信地旋回時の他方(右側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
この場合にも、一方(左側)のクローラ走行装置1は、直進状態を維持する。つまり、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−旋回軸12に遊転支承されている第4入力ギヤ23−左のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは入り状態)25−旋回クラッチ18に兼用されているクラッチスリーブ26―左の第5入力ギヤ22−左のアイドル軸20−左の車軸22に伝達される。
【0031】
右側のクローラ走行装置1は、左側のクローラ走行装置1の3分の1の速度で反対(後進)方向に回転して、信地旋回作動状態となる。つまり、図7及び図9に示すように、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第1出力ギヤ13−旋回軸11に遊転支承されている第1入力ギヤ(信地旋回用クラッチ15のクラッチボス)14―信地旋回用クラッチ15のクラッチケース15B―旋回軸11−旋回軸11に取り付けられている第4出力ギヤ17−第4出力ギヤ17に咬合している入力ギヤ18Aを備えた旋回クラッチ18−旋回クラッチ18の右クラッチスリーブ26―右の第5入力ギヤ22−右のアイドル軸20−右の車軸22に伝達される。
【0032】
緩旋回時の他方(右側)のクローラ走行装置1への伝動経路は次ぎのようになる。
ただし、この場合にも、一方(左側)のクローラ走行装置1は、直進状態を維持する。つまり、入力軸9からの動力は、副変速軸10に装着された第2出力ギヤ24−旋回軸12に遊転支承されている第4入力ギヤ23−左のサイドクラッチ(この場合のサイドクラッチは入り状態)25−旋回クラッチ18に兼用されている左クラッチスリーブ26―左の第5入力ギヤ22−左のアイドル軸20−左の車軸22に伝達される。
【0033】
図7及び図9に示すように、旋回軸11には、走行ブレーキCが設けてあり、この走行ブレーキCを油圧によって入りに切り換える。この走行ブレーキCによって、旋回軸12に固定されている第4出力ギヤ17−旋回クラッチ18の右側クラッチを入りー右クラッチスリーブ26(右サイドクラッチ25は切り)ー第5入力ギヤ29―右の第5入力ギヤ22−右のアイドル軸20−右の車軸22に制動力が伝達される。
【0034】
前記した静油圧式無段変速装置8の油圧式モータ8Bを高速状態に設定している場合に、旋回操作が行われる場合には、旋回モードは緩旋回モードが採用されている。これによって、路上走行時においても、急旋回モードや信地旋回モードが現出されることがなく、走行安定性を確保している。
【0035】
次ぎに、駐車ブレーキ機構Bの構造について説明する。図10〜図13に示すように、ブレーキケース33を、ミッションケース6の副変速軸10を支持する取り付けボス部6Aに、嵌め込み保持するとともに、ブレーキケース33内に、湿式摩擦多板式のブレーキディスク34とこのブレーキディスク34に圧接作用するカムディスク35とを収納して、駐車ブレーキ機構Bを構成してある。
【0036】
ブレーキケース33の内側の奥壁33Aとこの奥壁33Aに対向するカムディスク35の背面とに亘ってカム機構Eが設けてある。図12及び図13に示すように、奥壁33Aの円周方向3箇所に、ボール36を嵌入保持するとともに、カムディスク35の背面における円周方向3箇所に、前記ボール36に係合する係合穴35Aを形成してある。係合穴35Aは、円周方向一方向に向けて係合深さと係合幅が徐々に浅くかつ細くなる誘導面35aを設けてある。
ここに、カムディスク35とボール36とでカム機構Eを構成してある。
【0037】
奥壁33Aにおける係合穴35Aとは異なる位置で同一半径位置に、ガイドピン37を埋め込み固定し、ガイドピン37の先端部を奥壁33Aの表面より突設させて設けてある。カムディスク35の背面側から肉厚内に入り込み或る程度の深さを持ち円周方向に沿った係合長孔35Bを形成し、カムディスク35をブレーキケース33の所定位置に装着した状態でガイドピン37が係合長孔35B内に係合する構成を採っている。
【0038】
図9〜図13に示すように、係合長孔35B内にコイルバネ38が収納載置されており、このコイルバネ38を係合長孔35内に挿入したガイドピン37と係合長孔35Bの一端とに亘る状態で収納載置してある。このコイルバネ38によって、カムディスク35を円周方向に回転させる際の抵抗として作用し、戻し方向に向けて付勢している。このコイルバネ38を、カムディスク35を戻し方向(反対方向)に回転させる戻しバネと称する。
【0039】
図12に示すように、カムディスク35の回転中心位置には、貫通孔35Cを設けてあり、副変速軸10の軸端の入り込みを許容する構成を取っている。ブレーキケース33の奥側にカムディスク35を装入するとともに、カムディスク35の入り口側に湿式摩擦多板式のブレーキディスク34を載置してある。
【0040】
図12に示すように、ブレーキディスク34の更に入口近くには、受圧板39を設けてあり、受圧板39は孔用止め輪40によって抜止されている。
以上のような構成によって、カムディスク35、湿式摩擦多板式のブレーキディスク34、受圧板39を孔用止め輪40によって抜止処理した状態で、副変速軸10に装着すると、副変速軸10の軸端がカムディスク35の貫通孔35Cまで入り込む。
【0041】
駐車ブレーキ機構Bに対する操作機構について説明する。図10〜図13に示すように、ブレーキケース33の外面にカムディスク35等を収納する収納空間に連通する貫通孔33Bを形成し、貫通孔33Bを備えたボス部33Cを突出させてある。ボス部33Cと径方向の一定間隔だけ離れた位置に、ネジ孔33aを形成した止め部33Dが突設してある。ボス部33Cの貫通孔33B内には、駐車ブレーキ操作具(図示せず)に連係する操作軸41を嵌入保持し、操作軸41を貫通孔33Bの軸線周りで回転可能に構成してある。操作軸41にはOーリング用の溝41aが形成してあり、Oーリング42を装着して周方向への回転抵抗、及び、軸線方向への移動抵抗を付与している。
【0042】
図10〜図13に示すように、操作軸41の軸端部41bをボス部33Cより突出させ、軸端部41bに操作アーム43を連結している。操作アーム43の基端部43Aとボス部33Cの先端面33cとの間には、操作アーム43に対する回転規制板44がボルト止め固定してある。回動規制板44は、操作軸41に外嵌するための挿通孔を形成した基端部44Aと基端部44Aよりネジ孔33aを形成した止め部33Dに向けて先端部44Bを延出してあり、先端部44Bにボルト止め用の貫通孔44Cと操作アーム42の受け止め規制部44Dを立ち上げ形成してあり、カムディスク35をブレーキ入り位置に位置させる構成を採っている。尚、カムディスク35をブレーキ入り位置に位置させるために、付勢バネ(図示してはいない)を設けてもよい。
【0043】
図10〜図13に示すように、カムディスク35の背面側で円周方向一箇所に、肉厚内に凹入するカム穴35bを形成してある。これに対して、操作アーム42に取り付け固定されている操作軸41のカムディスク35に向かう先端面には、偏芯突起41cが突設してある。この偏芯突起41cをカムディスク35のカム穴35bに係合させ、操作アーム42を回転操作することによって、カムディスク35を副変速軸10周りで回転操作することができる。
【0044】
操作アーム43に対しては、図示してはいないが、連係機構が設けてあり、運転操縦部に設けた操作具によって、操作可能に構成してある。
以上のような構成によって、操作具を操作すると、操作アーム43は、図11に示すように、実線aの位置から仮想線bの位置まで操作される。そうすると、カムディスク35が回転操作され、図12(a)に示すブレーキ切り状態から、図12(b)に示すように、カムディスク35がブレーキディスク34を押圧して、ブレーキ入り状態を現出する。
【0045】
カムディスク35が回転すると、係合穴35Aの誘導面35aもボール36に乗り上がる状態で、カムディスク35は徐々にブレーキディスク34を押圧する。これによって、ブレーキを入り作動させることができる。
【0046】
〔他の実施例〕
(1)静油圧式無段変速装置8を構成する油圧式モータ8Cは、可動斜板8Dを一定傾斜角度に固定して、油圧式ポンプ8Bのみで容量調節を行い、変速する構成を採ってもよい。又は反対に、油圧式モータ8Cにおいても、可動斜板8Dを無段階に調節できるようにしてもよい。
(2)油圧式ポンプ8Bの可動斜板8Dを電動モータ等の電動アクチュエータで駆動する方法を採用し、かつ、主変速操作具として主変速レバーの動作量を歩テンショメータ等のセンサで検出して、この検出値に基づいて電動アクチュエータを制御する構成を採ってもよい。
(3)油圧式ポンプ8Bを駆動制御するに複動シリンダ8dを使用して、作動スピードを一定にするために、供給経路にオリフィス8hを設けているが、特に設けなくともよい。
(4)主変速装置としては、必ずしも、静油圧式無段変速装置8である必要はなく、油圧式無段変速可能なものであれば、いずれのものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】コンバインの運転操縦部とミッションケース部分を示す正面図
【図3】コンバインの運転操縦部を示す平面図
【図4】主変速レバーの握り部を示す斜視図
【図5】ミッションケースを示す側面図
【図6】静油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図7】ミッションケース内構造を示す縦断背面図
【図8】静油圧式無段変速装置を示す縦断背面図
【図9】信地旋回用クラッチ、旋回用クラッチ、緩旋回用クラッチ、サイドクラッチを示す縦断背面図
【図10】駐車ブレーキ機構を示す横断平面図
【図11】駐車ブレーキ機構のカムディスクと操作アームを示す側面図
【図12】(a)駐車ブレーキ機構が切位置にある状態を示す縦断背面図、(b)駐車ブレーキ機構が入り位置にある状態を示す縦断背面図
【図13】(a)駐車ブレーキ機構が切位置にある状態でのカムディスクとボール、ガイドピン、付勢バネを示す作用図、(b)駐車ブレーキ機構が入り位置にある状態でのカムディスクとボール、ガイドピン、付勢バネを示す作用図
【符号の説明】
【0048】
8 静油圧式無段変速装置(主変速装置)
8B 油圧式ポンプ
8C 油圧式モータ
28 副変速レバー(副変速操作具)
47 主変速レバー(主変速操作具)
A ギヤ式副変速機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量を無段階に変更可能な油圧式ポンプと前記油圧式ポンプからの作動油を受けて駆動される油圧式モータとでなる無段変速可能な主変速装置を設け、前記主変速装置からの出力を複数段に変速するギヤ式副変速機構を設けてある作業機の走行変速構造であって、
前記油圧式ポンプを変更調節する主変速操作具を運転操縦空間内に配置し、前記ギヤ式副変速機構を切換調節する副変速操作具を運転操縦空間外に配置してある作業機の走行変速構造。
【請求項2】
前記油圧式モータの容量を可変可能に構成してある請求項1記載の作業機の走行変速構造。
【請求項1】
容量を無段階に変更可能な油圧式ポンプと前記油圧式ポンプからの作動油を受けて駆動される油圧式モータとでなる無段変速可能な主変速装置を設け、前記主変速装置からの出力を複数段に変速するギヤ式副変速機構を設けてある作業機の走行変速構造であって、
前記油圧式ポンプを変更調節する主変速操作具を運転操縦空間内に配置し、前記ギヤ式副変速機構を切換調節する副変速操作具を運転操縦空間外に配置してある作業機の走行変速構造。
【請求項2】
前記油圧式モータの容量を可変可能に構成してある請求項1記載の作業機の走行変速構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−78776(P2009−78776A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251141(P2007−251141)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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