説明

作業機のHST再生制御装置

【課題】作業機のHST再生制御装置に関し、簡素な構成で、油圧モータの慣性回転時のエネルギーを効率的に回収して再生利用する。
【解決手段】作業機の油圧ポンプ2及び油圧モータ3間に一対の駆動用管路L1,L2,R1,R2を閉回路状に接続して、静油圧伝動回路(HST)を形成する。
また、油圧モータ3の慣性回転時に排出される作動油を蓄積する蓄圧手段30Aと、油圧ポンプ2による油圧モータ3の駆動時に蓄圧手段30Aに蓄積された作動油を油圧ポンプ2へ供給して再生させる再生手段30Bとを設ける。
さらに、油圧ポンプ2による油圧モータ3の駆動時に、再生手段30Bによって再生される作動油の圧力に応じて、油圧モータ3から油圧ポンプ2へ還流する作動油流量を制御する還流量制御手段40L,40Rを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機の静油圧伝動回路(HST回路)における作動油の再生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベルをはじめとする旋回式作業機では、上部旋回体の旋回中の慣性運動に伴う回転エネルギーを蓄え、そのエネルギーで旋回動力をアシストする再生制御装置が開発されている。
例えば、特許文献1には下部走行体のフレームと上部旋回体のフレームとの間に旋回軸受を設け、旋回軸受の内輪に対して油圧モータ及び電動機を接続した油圧ショベルが記載されている。この技術では、上部旋回体の旋回中の慣性トルクで電動機を連れ回して回生発電し、発生した電力を蓄電器に充電している。また、充電された電力で電動機を駆動して、旋回の加減速時にアシストトルクを与えている。このように、電動機で油圧モータをアシストすることにより、旋回に必要十分なトルクを発生させることができ、省エネルギーになるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−290882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、電力を発生させるための電動機やエネルギーを蓄えるための蓄電器,インバータ装置,コントローラなどの各種装置が必要となり、システムが複雑になる。そのため、コストを抑えることが難しく、かつ、システム全体の信頼性を高めることが難しいという課題がある。
特に、大型の油圧ショベルの場合には、大容量の電動機,蓄電器及びインバータ装置が必要となりコストがさらに高くなるほか、旋回装置自体のサイズも大型化するという課題がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成で、油圧モータの慣性回転時のエネルギーを効率的に回収して再生利用することができるようにした、作業機のHST再生制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の作業機のHST再生制御装置は、作業機の油圧ポンプ及び油圧モータ間に一対の駆動用管路を閉回路状に接続してなる静油圧伝動回路における作動油の再生制御装置であって、該油圧モータの慣性回転時に、該油圧モータから排出される作動油を蓄積する蓄圧手段と、該油圧ポンプによる該油圧モータの駆動時に、該蓄圧手段に蓄積された作動油を該油圧ポンプへ供給して再生させる再生手段と、該油圧ポンプによる該油圧モータの駆動時に、該再生手段によって再生される作動油の圧力に応じて、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油流量を制御する還流量制御手段と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
また、請求項2記載の本発明の作業機のHST再生制御装置は、請求項1記載の構成に加え、該還流量制御手段が、該油圧ポンプによる該油圧モータの駆動時において、該再生手段によって再生される作動油が所定圧以上である場合に、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油流量を減少させ、該再生手段によって再生される作動油が該所定圧未満である場合に、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油流量を増加させることを特徴としている。
【0008】
また、請求項3記載の本発明の作業機のHST再生制御装置は、請求項2記載の構成に加え、該蓄圧手段が、該一対の駆動用管路のうち、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油が流通する駆動用管路から分岐して形成された蓄圧管路と、操作入力に応じて該作動油の該油圧ポンプからの供給方向を設定する操作レバーと、該駆動用管路上における該蓄圧回路との分岐点よりも該油圧ポンプ側に介装され、該操作レバーへの該操作入力があるときに該駆動用管路を開放し、該操作入力がないときに該駆動用管路を閉鎖する切換弁と、該蓄圧管路上に介装され、該油圧モータから排出される作動油を蓄積するアキュムレータと、該蓄圧管路上における該アキュムレータよりも該駆動用管路との分岐点側に介装され、該アキュムレータに蓄積された作動油の圧力を保持する蓄圧チェック弁と、該蓄圧管路上における該蓄圧チェック弁よりも該アキュムレータ側に介装され、該油圧モータのブレーキ圧を保持するシーケンス弁と、該蓄圧管路上における該シーケンス弁よりも該アキュムレータ側に介装され、該操作レバーへの該操作入力があるときに該蓄圧管路を閉塞し、該操作入力がないときに該蓄圧管路を開放する蓄圧切換弁と、を有することを特徴としている。
【0009】
また、請求項4記載の本発明の作業機のHST再生制御装置は、請求項2又は3記載の構成に加え、該再生手段が、該蓄圧管路上における該蓄圧切換弁よりも該アキュムレータ側から分岐して形成され、該駆動用管路と該蓄圧管路との分岐点よりも該油圧ポンプ側の該駆動用管路へ接続された再生管路と、該再生管路上に介装され、該操作レバーへの該操作入力があるときに該再生管路を開放し、該操作入力がないときに該再生管路を閉鎖する再生弁と、該再生管路上に介装され、該蓄圧管路側への作動油の逆流を防止する再生チェック弁と、を有することを特徴としている。
【0010】
また、請求項5記載の本発明の作業機のHST再生制御装置は、請求項2〜4の何れか1項に記載の構成に加え、該還流量制御手段が、該駆動用管路上における該切換弁と該再生管路の接続点との間から分岐して形成され、作動油タンクへ接続されたバイパス管路と、該バイパス管路上に介装され、該再生管路の作動油圧が該所定圧以上である場合に、該バイパス管路を開放し、該再生管路の作動油圧が該所定圧未満である場合に、該バイパス管路を閉鎖するバイパス切換弁と、を有することを特徴としている。
【0011】
また、請求項6記載の本発明の作業機のHST再生制御装置は、請求項2〜5の何れか1項に記載の構成に加え、該一対の駆動用管路のうち、該油圧ポンプから該油圧モータへ供給される作動油が流通する駆動用管路に接続され、該バイパス管路からの作動油の排出量に応じて作動油を補充するチャージポンプをさらに備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の作業機のHST再生制御装置(請求項1)によれば、閉回路状の静油圧伝動回路に還流量制御手段を設けたことにより、蓄圧手段による作動油の再生時においても、あるいは再生終了時においても、油圧ポンプへ流入する作動油量に過不足を生じさせることがない。これにより、再生の前後における閉回路全体の作動油流量の変動を抑制することができ、油圧ポンプ及び油圧モータの動作を安定させることができる。
【0013】
また、本発明の作業機のHST再生制御装置(請求項2)によれば、油圧モータから油圧ポンプへ還流する作動油流量を、再生される作動油の圧力に応じて制御することにより、閉回路全体の作動油流量の変動を抑制することができる。
また、本発明の作業機のHST再生制御装置(請求項3)によれば、簡素な構成で、油圧モータの慣性回転時における作動油をアキュムレータに蓄積することができる。また、電子制御装置によらないパイロット制御での実施が容易であり、制御の信頼性をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の作業機のHST再生制御装置(請求項4)によれば、作動油の再生時に油圧モータからの戻り油をバイパス管路に導入することにより、その作動油を作動油タンクに排出することができる。つまり、閉回路内における作動油流量を大きく変化させることなく作動油を再生させることができる。また,電子制御装置によらないパイロット制御での実施が容易であり、制御の信頼性をさらに向上させることができる。
【0015】
また、本発明の作業機のHST再生制御装置(請求項5)によれば、作動油の再生時に再生圧が低下した場合に、簡素な構成で、バイパス管路から駆動用管路側へと作動油を流通させることができる。つまり、アキュムレータに蓄えられた作動油が減少して再生が完了したときには、油圧モータから排出される作動油を油圧ポンプへ還流させることができる。また,電子制御装置によらないパイロット制御での実施が容易であり、制御の信頼性をさらに向上させることができる。
【0016】
また、本発明の作業機のHST再生制御装置(請求項6)によれば、再生される作動油の圧力に応じてバイパス管路から排出される作動油を閉回路に補充することができ、回路動作をさらに安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るHST再生制御装置を備えた油圧ショベルを示す模式的な斜視図である。
【図2】本HST再生制御装置が適用された油圧回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
[1.油圧ショベル構成]
本発明は、図1に示す油圧ショベル50に適用されている。この油圧ショベル50は、クローラ式の走行装置を装備した下部走行体51と、下部走行体51に搭載された上部旋回体52とを備えて構成される。上部旋回体52は、旋回装置53を介して下部走行体51の上に旋回自在に設置されている。
【0019】
上部旋回体52の車両前方側には、オペレータ(操作者)が搭乗するキャブ54と、これに隣接して車両前方へ延出するように設けられたフロント作業装置55とが設けられている。また、上部旋回体52の最後端部には機体の重量バランスを保つためのカウンタウェイト56が配設されている。
カウンタウェイト56の直前方にはエンジンルーム及びポンプルームが形成されている。エンジンルーム内には油圧ショベル50の駆動源であるエンジン1が設置され、ポンプルーム内には旋回装置53やフロント作業装置55等の作動油供給源である油圧ポンプ2が設置されている。
【0020】
旋回装置53は、油圧駆動の旋回モータ3(油圧モータ),減速機4及び軸受として機能するボールレース5を備えて構成される。旋回モータ3は、油圧ポンプ2から作動油の供給を受けて回転する動力装置である。油圧ポンプ2及び旋回モータ3間には、一対の駆動用管路が閉回路状に接続されている。旋回モータ3の回転方向は、閉回路内での作動油の流通方向、すなわち油圧ポンプ2からの作動油の供給方向に依存する。
【0021】
つまり、旋回モータ3の駆動に係る油圧回路は、特許文献1に記載されたようなコントロールバルブを介して駆動ラインを制御される開放型の油圧回路ではなく、油圧ポンプ2の入出力ポートに対して旋回モータ3の入出力ポートを一対一に接続してなる閉回路として形成されている。このように、油圧ポンプ2で生成される駆動力を作動油の静油圧によって旋回モータ3へ伝達する油圧機構のことをHST(静油圧伝動機構,Hydraulic Static Transmission)と呼ぶ。
【0022】
減速機4は、複数のギヤが内蔵された変速機であり、旋回モータ3から入力される回転数を減少させつつ回転トルクを増大させるものである。これにより、旋回モータ3で生じた回転エネルギーが減速機4を介してボールレース5に伝達され、上部旋回体52が下部走行体51に対して旋回動作する。
キャブ54内には、上部旋回体52の旋回方向(右旋回方向又は左旋回方向)を入力するための旋回操作レバー21が配置されている。旋回操作レバー21への操作入力に応じて油圧ポンプ2から吐出される作動油の流通方向が選択され、旋回モータ3の回転方向が定められている。
【0023】
また、ポンプルーム内にはアキュムレータ7が配置されている。アキュムレータ7は、その内部に高圧の作動油を蓄える液体室と、液体室の内圧に応じて伸縮する気体室とを有する蓄圧装置である。本実施形態では、上部旋回体52の慣性回転時における高圧の作動油を一時的にアキュムレータ7に蓄えるとともに、上部旋回体52の旋回時にそれを放出することによって、油圧エネルギーを再利用している。なお、アキュムレータ7の種別は、ピストン式アキュムレータでもよいし、ブラダ式アキュムレータでもよい。
【0024】
[2.油圧回路構成]
図2に、旋回モータ3の駆動に係る油圧回路を示す。ここでは、便宜的に油圧回路をその機能毎に分類して順番に説明する。
本油圧回路10は、HST回路10,パイロット圧生成回路20,蓄圧回路30A(蓄圧手段),再生回路30B(再生手段)及び還流量制御回路40L,40R(還流量制御回路)を備えて構成される。図2中では、蓄圧回路30A及び再生回路30Bをそれぞれ二点鎖線で囲って示し、還流量制御回路40L,40Rをそれぞれ一点鎖線で囲って示す。
【0025】
[2−1.パイロット圧生成回路20]
パイロット圧生成回路20は、旋回操作レバー21への入力操作に応じたパイロット圧を出力するための回路である。図2に示すように、旋回操作レバー21の下端部にはリモコン弁22が固設されている。リモコン弁22は、旋回操作レバー21に入力される操作量及び操作方向に応じた大きさのパイロット圧を生成する制御弁である。リモコン弁22には、パイロットポンプ25及び作動油タンク9が接続されている。
【0026】
リモコン弁22の内部には、一対の減圧弁23L,23R及びパイロットシャトル弁24が内蔵され、一対の減圧弁23L,23Rの上端部が旋回操作レバー21の下端部に連結されている。一対の減圧弁23L,23Rのうち、旋回操作レバー21の傾動方向に対応する一方がその傾動角度に応じて開放され、開度に応じたパイロット圧を発生させる。また、パイロットシャトル弁24は、一対の減圧弁23L,23Rのそれぞれの下流側の圧力のうち、高圧の一方を選択する高圧選択弁である。
【0027】
図2中の記号Lは左旋回方向への操作時に生じるパイロット圧を示し、記号Rは右旋回方向への操作時に生じるパイロット圧を示す。また、記号Cは操作方向によらないパイロット圧であって、すなわち何らかの操作入力がなされた時に生じるパイロット圧を示す。これらのパイロット圧L,R,Cは、以下に説明するHST回路10,蓄圧回路30A,再生回路30B及び還流量制御回路40L,40Rのそれぞれに伝達され、図2中の各所における同一記号の箇所へのパイロット圧として本発明の制御に使用される。
【0028】
[2−2.HST回路10]
HST回路10は、旋回モータ3の駆動に係る閉回路である。HST回路10には、エンジン1によって駆動される油圧ポンプ2及びチャージポンプ6が設けられ、さらにこれらの油圧ポンプ2,6から吐出される作動油によって駆動される旋回モータ3が設けられている。旋回モータ3の出力軸は、ボールレース5に歯合する減速機4に対して連結されている。なお、上部旋回体52は質量が大きく、旋回モータ3に対する慣性体として作用する。
【0029】
油圧ポンプ2は、一対の入出力ポートを持った両傾転斜板機構を有しており、二つのポートのうちの何れか一方から作動油を吐出するとともに、他方のポートから作動油を吸引するように構成されている。以下、油圧ポンプ2の二つのポートをそれぞれ左ポート2L,右ポート2Rと呼ぶ。また、旋回モータ3の二つのポートをそれぞれ左ポート3L,右ポート3Rと呼ぶ。
【0030】
油圧ポンプ2の左ポート2Lは、駆動用ラインとしての管路L1及びL2(一対の駆動用管路の一方)を介して旋回モータ3の左ポート3Lに接続されている。同様に、油圧ポンプ2の右ポート2Rは、管路R1及びR2(一対の駆動用管路の他方)を介して旋回モータ3の右ポート3Rに接続されている。
旋回モータ3は、右ポート3R側への作動油流入時に上部旋回体52を右旋回させる方向へと回転(右回転)し、左ポート3L側から作動油を排出する。また、左ポート3L側への作動油流入時には上部旋回体52を左旋回させる方向へと回転(左回転)し、右ポート3R側から作動油を排出する。
【0031】
油圧ポンプ2には、両傾転斜板の傾斜角を調整することにより吐出流量,吐出圧及び吐出方向を制御する斜板制御機構2a(レギュレータ)が併設されている。また、油圧ポンプ2の近傍には、管路L1,R1の作動油圧のうち高圧の一方(すなわち、油圧ポンプ2の吐出圧)を選択するシャトル弁16が設けられている。斜板制御機構2aには、パイロット圧生成回路20で生成されたパイロット圧L,Rと、シャトル弁16で選択された油圧ポンプ2の吐出圧とが入力されている。
【0032】
管路L1及びL2上には切換弁17が介装されている。切換弁17よりも油圧ポンプ2側の作動油流路が管路L1であり、切換弁17よりも旋回モータ3側の作動油流路が管路L2である。
切換弁17は、スプールの一端にパイロット圧Rを導入するパイロット回路が接続された二位置切換弁である。この切換弁17には、管路L1,L2と、作動油タンク9へと繋がるバイパス管路L3とが連結されている。
【0033】
切換弁17は、パイロット圧Rが導入されていないときにはスプールをX位置に保持し、バイパス管路L3側を封鎖するとともに管路L2側から管路L1側への作動油流通を阻止するチェック弁として機能する。一方、パイロット圧Rが導入されたときにはスプールがR位置に設定され、管路L1側が封鎖されるとともに管路L2とバイパス管路L3とが連通される。
【0034】
このように切換弁17は、パイロット圧Rに応じて管路L1,L2及びバイパス管路L3間の接続を切り換える機能を持つ。つまり、旋回モータ3の右回転時に油圧ポンプ2へ還流しようとする作動油をバイパス管路L3側へ導入する機能と、旋回モータ3の左回転時及び回転停止時に管路L2側から管路L1側への作動油の逆流を防止する機能とを備えている。
【0035】
また、管路R1と管路R2との間には切換弁18が介装されている。切換弁18よりも油圧ポンプ2側の作動油流路が管路R1であり、切換弁18よりも旋回モータ3側の作動油流路が管路R2である。
切換弁18は、スプールの一端にパイロット圧Lを導入するパイロット回路が接続された二位置切換弁である。この切換弁18には、管路R1,R2のほか、作動油タンク9へ繋がるバイパス管路R3が連結されている。
【0036】
切換弁18は、パイロット圧Lが導入されていないときにスプールをX位置に保持し、バイパス管路R3を封鎖するとともに管路R2側から管路R1側への作動油流通を阻止するチェック弁として機能する。一方、パイロット圧Lが導入されたときにはスプールがL位置に設定され、管路R1が封鎖されるとともに管路R2とバイパス管路R3とが連通される。
【0037】
このように切換弁18は、パイロット圧Lに応じて管路R1,R2及びバイパス管路R3間の接続を切り換える機能を持つ。つまり、旋回モータ3の左回転時に油圧ポンプ2へ還流しようとする作動油をバイパス管路R3側へ導入する機能と、旋回モータ3の右回転時及び回転停止時に管路R2側から管路R1側への作動油の逆流を防止する機能とを備えている。
【0038】
管路L2,R2間には、旋回モータ3に対して並列に接続された三本の通路A1,A2,A3が形成されている。第一の通路A1上には、管路R2側の作動油圧の上限値を設定するオーバーロードリリーフ弁11aが介装され、第二の通路A2上には、管路L2側の作動油圧の上限値を設定するオーバーロードリリーフ弁11bが介装されている。これらのオーバーロードリリーフ弁11a,11bは、旋回モータ3の回転時の負荷によって流入側の管路の作動油が高圧となった場合に、その作動油を他方の管路側へ逃がすように機能する。
【0039】
第三の通路A3上には、一対の蓄圧チェック弁13,14が介装されている。また、第三の通路A3上の蓄圧チェック弁13,14に挟まれた部分から分岐して、蓄圧管路C1が形成されている。これらの蓄圧チェック弁13,14が許容する作動油の流通方向は、図2中に示すように、管路L2,R2側から蓄圧管路C1側へと向かう方向である。
蓄圧チェック弁13,14はそれぞれ、旋回モータ3から排出された作動油を蓄圧管路C1側へ流通させるとともに、蓄圧管路C1側の作動油圧を保持するように機能する。つまり、切換弁17,18によって行き先を遮断された作動油の還流は、第三の通路A3を通って蓄圧管路C1側へと導入される。
【0040】
管路L1,R1間には、油圧ポンプ2に対して並列に接続された第四の通路A4が設けられ、この第四の通路A4上にフラッシング弁12が介装されている。フラッシング弁12は、可変容量型のチャージポンプ6に接続された流路を管路L1,R1に接続するためのパイロット制御弁であり、スプール位置を三位置に切り替えて作動油の流量及び流通方向を可変制御するものである。フラッシング弁12のスプールの両端部には、前述のパイロット圧L,Rが導入されている。
【0041】
二種類のパイロット圧L,Rの何れもが導入されていないときには、フラッシング弁12のスプールがX位置に保持され、第四の通路A4がフラッシング弁12のスプール内部を素通りして管路L1,R1間を連通するような回路が形成される。つまり、油圧ポンプ2の左ポート2L及び右ポート2Rが管路L1,R1及び第四の通路A4で形成された閉回路に接続された状態となる。
【0042】
また、パイロット圧Lが導入されたときには、フラッシング弁12のスプールが移動してL位置に設定され、チャージポンプ6が管路R1側に接続される。一方、パイロット圧Rが導入されると、フラッシング弁12のスプールが移動してR位置に設定され、チャージポンプ6が管路L1側に接続される。
フラッシング弁12とチャージポンプ6との間には、チェック弁15が介装されている。チャージポンプ6及びフラッシング弁12は、後述する還流量制御回路40L,40Rからリリーフされて減少したHST回路10内の作動油を補充するように機能する。
【0043】
[2−3.蓄圧回路30A,再生回路30B]
蓄圧回路30A及び再生回路30Bは、旋回モータ3の慣性回転時に生じる高圧の作動油をアキュムレータ7に蓄積し、これを旋回モータ3の駆動時に再生利用するための回路である。
なお、前述の切換弁17,18,蓄圧チェック弁13,14及び蓄圧管路C1は、その機能に着目すると、図2に示すように蓄圧回路30Aに含まれる。これに加えて、蓄圧回路30Aはアキュムレータ7,シーケンス弁31及び蓄圧切換弁32を備えて構成される。
【0044】
蓄圧管路C1は、蓄圧チェック弁13,14の間とアキュムレータ7との間を接続する管路である。蓄圧管路C1上にはシーケンス弁31及び蓄圧切換弁32が介装されている。
シーケンス弁31は、蓄圧管路C1を介して蓄圧チェック弁13,14側から導入される作動油圧を保持するリリーフ弁である。このシーケンス弁31は、上流側(蓄圧チェック弁13,14側)の作動油圧が規定圧力P0以上となったときにスプールを開放して作動油をアキュムレータ7側へ流通させる。蓄圧管路C1を介して作動油が導入されるのは、旋回モータ3の回転停止時であるから、ここには旋回モータ3の停止直後の高圧の作動油、すなわち上部旋回体52の慣性回転時の作動油が導入されることになる。
【0045】
したがって、旋回モータ3の回転停止時には、シーケンス弁31よりも蓄圧チェック弁13,14側の蓄圧管路C1内に規定圧力P0が残留し、これが旋回モータ3のブレーキ圧として作用する。また、アキュムレータ7側にはシーケンス弁31の規定圧力P0以上の作動油が流入することになる。
蓄圧切換弁32は、蓄圧管路C1におけるシーケンス弁31よりもアキュムレータ7側に介装された二位置切換弁である。蓄圧切換弁32のスプールの一端にはパイロットシャトル弁24で選択されたパイロット圧Cを導入するパイロット回路が接続されている。蓄圧切換弁32は、パイロット圧Cが導入されていないときにはスプールをX位置に保持して蓄圧管路C1を開放し、作動油をアキュムレータ7へと導く流路を形成する。
【0046】
一方、パイロット圧Cが導入されるとスプールが移動してC位置に設定され、蓄圧管路C1が閉塞される。このように、蓄圧切換弁32は、蓄圧のタイミングをパイロット圧Cの非導入時、すなわち旋回操作レバー21の非操作時のみに制限する。
再生回路30Bは、三本の再生管路C2,C3,C4,再生弁33及び一対の再生チェック弁34,35を備えて構成される。図2に示すように、蓄圧管路C1上における蓄圧切換弁32とアキュムレータ7との間から再生管路C2が分岐形成され、再生弁33へと接続されている。また、再生管路C3,C4は、再生弁33から管路L1,管路R1のそれぞれに接続された作動油流路である。
【0047】
再生弁33は、アキュムレータ7に蓄えられた作動油(圧油)をHST回路10側へ再生供給するためのパイロット制御弁であり、スプール位置を三位置に切り換えて作動油の流量及び流通方向を可変制御する。再生弁33のスプールの両端部には、前述のパイロット圧L,Rを導入するパイロット回路が接続されている。
再生弁33は、二種類のパイロット圧L,Rの何れもが導入されていないときに、スプールをX位置に保持し、全ての再生管路C2,C3,C4を閉塞する。また、パイロット圧Lが導入されたときには、スプールをL位置に移動させ、管路R1側に繋がる再生管路C4と再生管路C2とを接続する。一方、パイロット圧Rが導入されたときには、スプールをR位置に移動させ、管路L1側に繋がる再生管路C3と再生管路C2とを接続する。
【0048】
なお、パイロット圧Lの発生時におけるHST回路10では、作動油が油圧ポンプ2の左ポート2Lから管路L1に吐出され、管路R1側の右ポート2Rから吸引されている。反対に、パイロット圧Rの発生時には、作動油が油圧ポンプ2の右ポート2Rから管路R1に吐出され、管路L1側の左ポート2Lから吸引されている。つまり、再生弁33は油圧ポンプ2の吸い込み側の管路に再生作動油を供給するように機能する。
【0049】
再生管路C3,C4の中途にはそれぞれ、再生チェック弁34,35が介装されている。これらの再生チェック弁34,35は、管路L1,R1側から再生弁33側への作動油の逆流を防止するように機能する。
このように本実施形態では、蓄圧管路C1,操作レバー21,切換弁17,18,アキュムレータ7,蓄圧チェック弁14,シーケンス弁31及び蓄圧切換弁32の働きによって、旋回モータ3の慣性回転時における作動油の蓄積(蓄圧)がなされている。また、再生管路C3,C4,再生弁33及び再生チェック弁34,35の働きによって、旋回モータ3の駆動時における作動油の再生がなされている。
【0050】
[2−4.還流量制御回路40L,40R]
還流量制御回路40L,40Rは、作動油の再生時における回路全体の作動油流量を調整するための回路であり、再生管路C3,C4から流入する作動油流量と旋回モータ3側から還流しようとする作動油流量とのバランスを取り、閉回路内における作動油の総流量を安定させるための制御を実施する。
【0051】
これらの還流量制御回路40L,40Rは、制御に係るパイロット圧がL又はRである点において対称な回路構造である。一方の還流量制御回路40Lは、右旋回方向へのレバー操作に応じて動作する回路、他方の還流量制御回路40Rは、左旋回方向へのレバー操作に応じて動作する回路である。
まず、図2中の上方に示された還流量制御回路40Lについて説明する。
【0052】
バイパス管路L3は、切換弁17と作動油タンク9との間を接続する還流排出用の管路である。バイパス管路L3上には、バイパス切換弁43が介装されている。バイパス切換弁43は、パイロット制御によりスプール位置を切り換える二位置切換弁である。スプールの一端には、パイロット圧Rを導入するパイロット回路が接続されている。また、スプールの他端には、再生管路C3から分岐して形成された再生圧導入路B1が接続されている。
【0053】
再生圧導入路B1は、蓄圧再生回路30の作動油圧PLをバイパス切換弁43へ伝達する管路である。本実施形態では、再生圧導入路B1が再生管路C3上における再生チェック弁34よりも再生弁33側から分岐している。
バイパス切換弁43は、パイロット圧Rが導入されていないときには、スプールをX位置に保持し、バイパス管路R3を作動油タンク9に連通させる。また、パイロット圧Rが導入されているときには、再生圧導入路B1から導入される作動油圧PLに応じた挙動を示す。
【0054】
すなわち、作動油圧PLが所定圧力P1以上である場合、バイパス切換弁43はスプールをX位置に保持し、バイパス管路L3を作動油タンク9に連通させる。一方、作動油圧PLが所定圧力P1未満であるときは、スプールをY位置に移動させ、バイパス管路R3を閉鎖する。したがって、バイパス管路L3の作動油が作動油タンク9に排出されるのは、パイロット圧Rが導入され(すなわち、旋回操作レバー21が右旋回方向に操作され)、かつ、作動油圧PL>P1の場合である。
【0055】
なお、ここでの判定に係る所定圧力P1は、前述の規定圧力P0よりも小さい値である。したがって、再生管路C3を介して作動油が導入され始めたときには、バイパス切換弁43のスプール位置がX位置となり、その後、作動油の再生供給がある程度なされてアキュムレータ7側の作動油圧が低下してくると、バイパス切換弁43のスプール位置がY位置となる。
【0056】
また、バイパス管路L3には、管路L1との間を接続するバイパス還流管路L4が設けられている。バイパス還流管路L4におけるバイパス管路L3側の端部は、切換弁17とバイパス切換弁43との間に接続されている。また、バイパス還流管路L4における管路L1側の端部が接続されている位置は、管路L1上における第四の通路A4との接続点よりも油圧ポンプ2側であり、かつ、再生管路C3との接続点よりも旋回モータ3側である。
【0057】
バイパス還流管路L4上にはバイパスチェック弁45が介装されており、バイパス管路L3側から管路L1側のみへの作動油の流通が許容されている。これにより、例えば切換弁17のスプールがR位置に設定され、かつ、バイパス切換弁43のスプールがY位置に設定されている場合には、バイパス管路L3に導入された旋回モータ3からの還流がそのまま管路L1側へと流れ、油圧ポンプ2の左ポート2Lに吸入される。
【0058】
続いて、図2中の下方に示された還流量制御回路40Rについて説明する。
バイパス管路R3は、切換弁18と作動油タンク9との間を接続する還流排出用の管路である。バイパス管路R3上には、バイパス切換弁44が介装されている。バイパス切換弁44は、前述のバイパス切換弁43と同様に、パイロット制御によりスプール位置を切り換える二位置切換弁である。スプールの両端部には、パイロット圧Lを導入するパイロット回路と再生管路C4の作動油圧PRを導入する再生圧導入路B2とがそれぞれ接続されている。
【0059】
バイパス切換弁44は、パイロット圧Lが導入されていないときには、スプールをX位置に保持し、バイパス管路R3を作動油タンク9に連通させる。また、パイロット圧Lが導入されているときには、再生圧導入路B2から導入される作動油圧PRに応じて作動する。
すなわち、作動油圧PRが所定圧力P1以上である場合、バイパス切換弁44はスプールをX位置に保持し、バイパス管路R3を作動油タンク9に連通させる。一方、作動油圧PRが所定圧力P1未満であるときは、スプールをY位置に移動させ、バイパス管路R3を閉鎖する。したがって、バイパス管路R3の作動油が作動油タンク9に排出されるのは、パイロット圧Lが導入され(すなわち、旋回操作レバー21が左旋回方向に操作され)、かつ、作動油圧PR>P1の場合である。
【0060】
また、バイパス管路R3には、管路R1との間を接続するバイパス還流管路R4が設けられ、このバイパス還流管路R4上にバイパスチェック弁46が介装されている。バイパスチェック弁46は、バイパス管路R3側から管路R1側のみへの作動油の流通を許容するものである。これにより、例えば切換弁18のスプールがL位置に設定され、かつ、バイパス切換弁44のスプールがY位置に設定されている場合には、バイパス管路R3に導入された旋回モータ3からの還流がそのまま管路R1側へ供給され、油圧ポンプ2の右ポート2Rに吸入される。
【0061】
このように、本実施形態では、切換弁17,18,バイパス管路L3,R3,バイパス還流管路L4,R4及びバイパス切換弁43,44によって、作動油再生時における閉回路内の作動油総量が制御されている。
本実施形態における旋回操作レバー21の操作状態及び再生管路C3,C4の作動油圧PL,PRと、切換弁17,18,蓄圧切換弁32,再生弁33及びバイパス切換弁43,44の制御状態との関係を以下に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
[3.作用]
[3−1.旋回操作時]
ここでは、旋回操作レバー21が右旋回方向に操作された場合の挙動を説明する。
旋回操作レバー21が右旋回方向に操作されると、パイロット圧生成回路20における減圧弁23Rの下流側にパイロット圧Rが生じ、HST回路10,蓄圧回路30A,再生回路30B及び還流量制御回路40L,40Rの各回路へと伝達される。また、パイロットシャトル弁24からはパイロット圧Rと同圧のパイロット圧Cが蓄圧回路30Aへ伝達される。
【0064】
パイロット圧Rを受けて、HST回路10ではフラッシング弁12及び切換弁17のスプールがR位置に設定され、油圧ポンプ2の右ポート2Rから旋回モータ3へと作動油が吐出される。管路L1及びL2間に介装された切換弁18のスプールはX位置に設定されているため、管路R1の作動油は切換弁18を通って管路R2を流れ、旋回モータ3の右ポート3Rに供給される。これにより、上部旋回体52が右旋回方向に駆動される。
【0065】
また、切換弁17のスプールはR位置に設定され、管路L2とバイパス管路L3とが接続される。したがって、旋回モータ3の左ポート3Lから排出される作動油は、バイパス管路L3に導入される。
一方、蓄圧回路30A及び再生回路30Bでは、蓄圧切換弁32のスプールがC位置に設定されるとともに、再生弁33のスプールがR位置に設定される。これにより、アキュムレータ7と再生管路C1とが遮断されるとともに、アキュムレータ7と再生管路C3とが接続され、アキュムレータ7内に蓄えられていた作動油が再生管路C3に導入され、チェック弁34を介して管路L1へ供給される。この作動油は油圧ポンプ2の左ポート2Lへ供給されて再生利用されることになる。
【0066】
このとき、アキュムレータ7には少なくとも規定圧力P0以上の圧力の作動油が蓄積されているため、再生管路C3内の作動油圧PLは所定圧力P1以上の状態となる。この作動油圧PLは再生圧導入路B1を介してバイパス切換弁43に伝達され、バイパス切換弁43のスプールがX位置に設定される。したがって、バイパス管路L3に導入された旋回モータ3からの還流は作動油タンク9へ排出される。
【0067】
その後、アキュムレータ7に蓄えられていた作動油が減少して再生管路C3内の作動油圧PLが低下し、管路L1側へ再生される作動油流量は減少する。このとき、作動油圧PLが所定圧力P1未満になると、バイパス切換弁43のスプールがY位置に設定され、バイパス管路L3が閉鎖される。したがって、バイパス管路L3の作動油はバイパス還流管路L4を通り、バイパスチェック弁45を介して管路L1側へ供給される。これにより、旋回モータ3側から還流してきた作動油が油圧ポンプ2の左ポート2Lへ供給されることになる。
【0068】
また、フラッシング弁12ではスプール位置がR位置に設定され、チャージポンプ6から吐出される作動油が管路L1側へ供給される。なお、管路L1側の作動油量が不足している場合には、このチャージポンプ6からの作動油が補充されて油圧ポンプ2の左ポート2Lへ供給されることになる。
これらの作用により、管路L1から油圧ポンプ2の左ポート2Lに吸引される作動油流量に過不足が生じることはなく、HST回路10内の作動油流量の変動が防止される。つまり、閉回路内における作動油の総流量が安定する。なお、油圧ポンプ2からの実際の吐出流量及び吐出圧(出力馬力)は、レギュレータ2aにより、パイロット圧L,R及び管路L1,R1の作動油圧に応じて適宜調整される。仮に、油圧ポンプ2からの吐出流量が一定であるとすると、本HST回路10では、再生管路C3側からの再生量が減少した分だけ旋回モータ3からの還流が油圧ポンプ2側へ補充され、さらにその不足を補うようにチャージポンプ6からの作動油が補充される。
【0069】
[3−2.旋回操作の停止時(ブレーキ時)]
旋回操作レバー21への入力操作が終了して中立状態とされると、上部旋回体52及び旋回モータ3は慣性により回転しようとする。またこのとき、パイロット圧生成回路20からのパイロット圧L,Rは低下し、切換弁17,18のスプールがともにX位置に設定される。これにより、管路L2側から管路L1側への還流路が遮断される。慣性回転によって旋回モータ3の左ポート3Lから排出される管路L2内の作動油は通路A3を通り、蓄圧チェック弁14を介して蓄圧管路C1側へと導入される。
【0070】
蓄圧管路C1に介装されたシーケンス弁31は、上流側の作動油圧が規定圧力P0未満であればスプールを閉鎖しているため、シーケンス弁31よりも上流側には旋回モータ3のブレーキ圧が保持される。一方、旋回モータ3の慣性回転によって生じる蓄圧管路C1内の作動油圧が規定圧力P0以上になると、シーケンス弁31が開放され、作動油がアキュムレータ7側へ導入される。このとき、蓄圧切換弁32及び再生弁33のスプールがともにX位置に設定されているため、作動油が再生管路C3,C4側へ流入することはなく、規定圧力P0以上の作動油がアキュムレータ7に蓄積される。ここで蓄積された作動油は、その後旋回操作レバー21の操作が開始されたときに再生利用されることになる。
【0071】
なお、このような蓄圧後にも、シーケンス弁31よりも旋回モータ3側の管路内には旋回モータ3のブレーキ圧として作用する規定圧力P0の圧油が残留する。また、HST回路10ではフラッシング弁12のスプールがX位置に設定され、油圧ポンプ2の左ポート2L及び右ポート2Rが管路L1,R1及び通路A4により閉回路で接続される。このとき、レギュレータ2aにより油圧ポンプ2の斜板が中立位置に制御され、油圧ポンプ2からの作動油供給は停止している。また、チャージポンプ6から吐出される作動油が作動油タンク9へ排出される。
【0072】
[4.効果]
このように、本HST再生制御装置によれば、油圧回路のみで油圧ショベル50の旋回中の慣性運動に伴う回転エネルギーをアキュムレータ7に蓄えることができ、さらに蓄えたエネルギーを旋回動作に再利用することができる。すなわち、電動機や蓄電器といった電気機器を用いた従来の技術と比較して構成がシンプルであり、システム全体のコストを大きく削減することができる。また、センサやコントローラといった精密電子機器が不要なため信頼性が高く、メンテナンスや点検整備が容易であるという利点もある。
【0073】
また、本実施形態では作動油の再生時における旋回モータ3から油圧ポンプ2への還流量を制御する還流量制御回路40L,40Rが形成されているため、アキュムレータ7による作動油の再生の前後におけるHST回路10全体の作動油流量の変動を抑制することができる。
例えば、作動油の再生時に旋回モータ3からの戻り油をバイパス管路L3,R3に導入することにより、その作動油を作動油タンク9に排出することができる。あるいは、アキュムレータ7に蓄えられた作動油が減少して再生が完了したときには、旋回モータ3から排出される作動油を油圧ポンプ2へ還流させることができる。つまり、旋回操作レバー21が右旋回方向へ操作された直後の再生開始時においても、再生管路C3内の作動油圧PLが所定圧力P1よりも低下した再生終了時においても、油圧ポンプ2に流入する作動油量に過不足が生じない。したがって、油圧ポンプ2及び旋回モータ3の動作を安定させることができる。
【0074】
特に、還流量制御回路40L,40Rにおけるバイパス切換弁43,44が、再生管路C3,C4の作動油圧PL,PRを制御用のパイロット圧としてスプールに導入する構造を有しており、簡素な構成で確実にかつ容易に還流量を減少させることができる。
また、本HST回路10では、フラッシング弁12を介してチャージポンプ6から吐出される作動油が管路L1又はR1の何れか一方へ供給されているため、バイパス管路L3,R3から排出される作動油を適宜補充することができ、閉回路内の作動油総量をほぼ一定にすることができる。これにより、回路動作をさらに安定させることができる。
【0075】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、バイパス切換弁43,44が再生管路C3,C4の作動油圧PL,PRに応じてバイパス管路L3,R3を作動油タンク9に開放又は閉鎖する機能を有しているが、このような機能に代えて、作動油圧PL,PRに応じてバイパス管路L3,R3の開度を制御する構成とすることも考えられる。
【0076】
例えば、再生管路C3,C4の作動油圧PL,PRが高圧であるほど作動油タンク9への排出量を増加させ、低圧になるほど排出量を減少させる構成とする。この場合、油圧ポンプ2に吸引される作動油量をより正確に制御することが可能となる。
また、上述の実施形態では、蓄圧管路C1が管路L2及びR2間を接続する通路A3から分岐形成されているが、旋回モータ3の回転方向が一方向に限定されている場合には、少なくとも旋回モータ3から油圧ポンプ2へ還流する作動油が流通する一方の管路に蓄圧管路C1が接続されていればよい。またこの場合、二つの還流量制御回路40L,40Rのうち、油圧ポンプ2へ吸引される作動油が流通する管路側の一方が設けられていればよい。このような構成においても、旋回モータ3の慣性回転時に排出される作動油をアキュムレータ7側へ導くことができるとともに、アキュムレータ7に蓄積された作動油を油圧ポンプ2へ供給して再生させることができる。
【0077】
また、上述の実施形態では、再生圧導入路B1,B2がそれぞれ再生管路C3,C4の作動油圧PL,PRをバイパス切換弁43,44に伝達する構成となっているが、このような構成に代えて、アキュムレータ7の出口圧を直接バイパス切換弁43,44に導入する構成としてもよい。この場合、より正確に作動油の再生圧を把握することができ、還流量の制御精度を向上させることができるものと考えられる。
【0078】
また、上述の実施形態では、油圧ショベル50の旋回動作に係る旋回モータ3の駆動回路に本発明を適用したものを例示したが、本発明の適用対象はこれに限定されず、他のモータの駆動回路に適用することも可能である。なお、本発明は旋回モータ3の慣性回転を利用して作動油を再生しているため、慣性回転の大きな旋回モータ3ほど好適であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、油圧ポンプ及び油圧モータ間に閉回路状の静油圧伝動回路を有する油圧ショベルや油圧式クレーン等の作業機全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
2L 左ポート
2R 右ポート
2a 斜板制御機構(レギュレータ)
3 旋回モータ(油圧モータ)
3L 左ポート
3R 右ポート
4 減速機
5 ボールレース
6 チャージポンプ
7 アキュムレータ
9 作動油タンク
10 HST回路(静油圧伝動回路)
11a,11b オーバーロードリリーフ弁
12 フラッシング弁
13,14 蓄圧チェック弁
15 チェック弁
16 シャトル弁
17,18 切換弁
20 パイロット圧生成回路
21 旋回操作レバー
22 リモコン弁
23R,23L 減圧弁
24 パイロットシャトル弁
25 パイロットポンプ
30A 蓄圧回路(蓄圧手段)
30B 再生回路(再生手段)
31 シーケンス弁
32 蓄圧切換弁
33 再生弁
34,35 再生チェック弁
40L,40R 還流量制御回路(還流量制御手段)
43,44 バイパス切換弁
45,46 バイパスチェック弁
50 油圧ショベル
51 下部走行体
52 上部旋回体
53 旋回装置
54 キャブ
55 フロント作業装置
56 カウンタウェイト
L1,L2 管路(一対の駆動用管路の一方)
L3 バイパス管路
L4 バイパス還流管路
R1,R2 管路(一対の駆動用管路の他方)
R3 バイパス管路
R4 バイパス還流管路
A1,A2,A3,A4 通路
B1,B2 再生圧導入路
C1 蓄圧管路
C2,C3,C4 再生管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の油圧ポンプ及び油圧モータ間に一対の駆動用管路を閉回路状に接続してなる静油圧伝動回路における作動油の再生制御装置であって、
該油圧モータの慣性回転時に、該油圧モータから排出される作動油を蓄積する蓄圧手段と、
該油圧ポンプによる該油圧モータの駆動時に、該蓄圧手段に蓄積された作動油を該油圧ポンプへ供給して再生させる再生手段と、
該油圧ポンプによる該油圧モータの駆動時に、該再生手段によって再生される作動油の圧力に応じて、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油流量を制御する還流量制御手段と、
を備えたことを特徴とする、作業機のHST再生制御装置。
【請求項2】
該還流量制御手段が、該油圧ポンプによる該油圧モータの駆動時において、該再生手段によって再生される作動油が所定圧以上である場合に、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油流量を減少させ、該再生手段によって再生される作動油が該所定圧未満である場合に、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油流量を増加させる
ことを特徴とする、請求項1記載の作業機のHST再生制御装置。
【請求項3】
該蓄圧手段が、
該一対の駆動用管路のうち、該油圧モータから該油圧ポンプへ還流する作動油が流通する駆動用管路から分岐して形成された蓄圧管路と、
操作入力に応じて該作動油の該油圧ポンプからの供給方向を設定する操作レバーと、
該駆動用管路上における該蓄圧回路との分岐点よりも該油圧ポンプ側に介装され、該操作レバーへの該操作入力があるときに該駆動用管路を開放し、該操作入力がないときに該駆動用管路を閉鎖する切換弁と、
該蓄圧管路上に介装され、該油圧モータから排出される作動油を蓄積するアキュムレータと、
該蓄圧管路上における該アキュムレータよりも該駆動用管路との分岐点側に介装され、該アキュムレータに蓄積された作動油の圧力を保持する蓄圧チェック弁と、
該蓄圧管路上における該蓄圧チェック弁よりも該アキュムレータ側に介装され、該油圧モータのブレーキ圧を保持するシーケンス弁と、
該蓄圧管路上における該シーケンス弁よりも該アキュムレータ側に介装され、該操作レバーへの該操作入力があるときに該蓄圧管路を閉塞し、該操作入力がないときに該蓄圧管路を開放する蓄圧切換弁と、を有する
ことを特徴とする、請求項2記載の作業機のHST再生制御装置。
【請求項4】
該再生手段が、
該蓄圧管路上における該蓄圧切換弁よりも該アキュムレータ側から分岐して形成され、該駆動用管路と該蓄圧管路との分岐点よりも該油圧ポンプ側の該駆動用管路へ接続された再生管路と、
該再生管路上に介装され、該操作レバーへの該操作入力があるときに該再生管路を開放し、該操作入力がないときに該再生管路を閉鎖する再生弁と、
該再生管路上に介装され、該蓄圧管路側への作動油の逆流を防止する再生チェック弁と、を有する
ことを特徴とする、請求項2又は3記載の作業機のHST再生制御装置。
【請求項5】
該還流量制御手段が、
該駆動用管路上における該切換弁と該再生管路の接続点との間から分岐して形成され、作動油タンクへ接続されたバイパス管路と、
該バイパス管路上に介装され、該再生管路の作動油圧が該所定圧以上である場合に、該バイパス管路を開放し、該再生管路の作動油圧が該所定圧未満である場合に、該バイパス管路を閉鎖するバイパス切換弁と、を有する
ことを特徴とする、請求項2〜4の何れか1項に記載の作業機のHST再生制御装置。
【請求項6】
該一対の駆動用管路のうち、該油圧ポンプから該油圧モータへ供給される作動油が流通する駆動用管路に接続され、該バイパス管路からの作動油の排出量に応じて作動油を補充するチャージポンプをさらに備えた
ことを特徴とする、請求項2〜5の何れか1項に記載の作業機のHST再生制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−33177(P2011−33177A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182724(P2009−182724)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】