説明

作業機械の空調ダクト配設構造

【課題】断熱材を要することなく外気温による空調に対する影響を抑えることができ、また、送風経路を短くすることができ、また、運転席に座った運転者の足元の空間を比較的広く確保でき、また、運転席に座った運転者の良好な下方視界を確保することができる。
【解決手段】空調ユニット11に接続される前方吹出しダクト12を、運転室3の床を形成するフロアプレート10上であって、運転室3に備えられる前窓ガラスのうちの右ガラス17に沿うように配設し、この右ガラス17の面に対向する前方吹出しダクト12の上側隅部に切欠き部23を設けた。この切欠き部23を、運転室3の内部に備えられる運転席に座った運転者が、右ガラス12の下縁部を見ることができるダクト12の上面から右ガラス12に向って斜め下向きの形状、例えば運転席に座った運転者の目の位置と、右ガラス17の下縁部とを結ぶ視界ライン24に沿うテーパ形状に形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル、ホイールローダ等の作業機械の運転室に備えられる作業機械の空調ダクト配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図6,7は従来の空調ダクト配設構造の全体構成を示す図で、図6は斜視図、図7は側面図である。
【0003】
これらの図6,7に示すように、従来技術にあっては、作業機械に備えられる運転室の内部に、すなわち運転室の床を形成するフロアプレート30上に、空調ユニット31が配置されている。この空調ユニット31に空調ダクトが接続され、この空調ダクトを介して冷風あるいは温風が導かれ、所定の吹出し口から吹き出される。上述した空調ダクトには、前方吹出しダクト32、及びこの前方吹出しダクト32に連結された前方吹出し立上げダクト33を含む他、運転席の後方を空調するリア吹出しダクト34、及び運転席に座った運転者の足元を空調する足元吹出しダクト35を含んでいる。
【0004】
上述した運転席に座った運転者の足元付近の空間を確保するために、前方吹出しダクト32の一部は、図7に示すように、フロアプレート30よりも下方の位置に配置されている。この種の公知文献として、特許文献1に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−3843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した図6,7に示した従来技術は、前方吹出しダクト32の一部がフロアプレート30の下方に位置し、運転室の外部に露出しているために、前方吹出しダクト32によって導かれる冷風または温風が外気温の影響を受けやすい。すなわち、外気温に応じた温度変動を生じてしまい、良好な空調性能を得ることが難しい。したがって、良好な空調性能を確保するために、前方吹出しダクト32の部分に断熱材を設けることが必要になり、設ける断熱材に相応して製作コストが高くなってしまう。また、前方吹出しダクト32の一部をフロアプレート30の下方に位置させることから、送風経路が長くなり、所望の風量の確保が難しくなる問題もある。
【0007】
このようなことから、前方吹出しダクト32の全体を、運転室のフロアプレート30上に配置することが考えられる。この場合、運転席に座った運転者の足元の空間を比較的広く確保するために、前方吹出しダクト32を運転室に備えられる図示しない窓ガラスに沿うように屈曲させて配置することが考えられる。しかし、このように配置すると、運転席に座った運転者の窓ガラスを通しての下方視界が、前方吹出しダクト32によって遮られる虞がある。例えば、作業機械がホイールローダである場合には、作業中のタイヤのスリップ状況を監視する必要があり、前窓ガラスの下縁部付近を通してタイヤを目視しなければならないが、このようなタイヤに対する目視が、前窓ガラスの下縁部に沿うように屈曲させた前方吹出しダクト32によって遮られてしまう懸念がある。
【0008】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、断熱材を要することなく外気温による空調に対する影響を抑えることができ、また、送風経路を短くすることができ、また、運転席に座った運転者の足元の空間を比較的広く確保でき、また、運転席に座った運転者の良好な下方視界を確保することができる作業機械の空調ダクト配設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明に係る作業機械の空調ダクト配設構造は、作業機械に備えられる運転室の内部に、空調ユニットに接続された空調ダクトを配設する作業機械の空調ダクト配設構造において、上記空調ダクトを、上記運転室の床を形成するフロアプレート上であって、上記運転室に備えられる窓ガラスに沿うように配設し、この空調ダクトの上記窓ガラスの面に対向する上側隅部に切欠き部を設けたことを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明は、空調ユニットに接続される空調ダクトを、運転室の床を形成するフロアプレート上に配置したことから、空調ダクトが外部に露出せず、したがって断熱材を要することなく外気温による空調に対する影響を抑えることができる。また、空調ダクトはフロアプレートの下方に位置する部分が存在しないので、フロアプレート上の最短経路を取ることができ、これによって送風経路を短くすることができる。また、空調ダクトを、運転室に備えられる窓ガラスに沿うように配設したことから、運転席に座った運転者の足元の空間を比較的広く確保することができる。また、空調ダクトの窓ガラスに対向する上側隅部に切欠き部を設けたことから、運転席に座った運転者の下方視界を遮る箇所が除かれ、窓ガラスの下方部分を通して良好な下方視界を確保することができる。
【0011】
また、本発明に係る作業機械の空調ダクト配設構造は、上記発明において、上記切欠き部を、上記運転室の内部に備えられる運転席に座った運転者が、上記窓ガラスの下縁部を見ることができるように上記空調ダクトの上面から上記窓ガラスに向って斜め下向きの形状に形成したことを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る作業機械の空調ダクト配設構造は、上記発明において、上記切欠き部を、上記運転席に座った運転者の目の位置と上記窓ガラスの下縁部とを結ぶ視界ラインに沿う形状に形成したことを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る作業機械の空調ダクト配設構造は、上記発明において、上記窓ガラスが、前窓を形成する前窓ガラスから成ることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る作業機械の空調ダクト配設構造は、上記発明において、上記作業機械が、タイヤと、このタイヤが取り付けられる本体と、この本体上に配置される上記運転室と、上記本体の前側位置に装着される作業具とを備えたホイールローダから成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、空調ダクトを、運転室の床を形成するフロアプレート上であって、運転室に備えられる窓ガラスに沿うように配設し、この空調ダクトの窓ガラスの面に対向する上側隅部に切欠き部を設けたことから、断熱材を要することなく外気温による空調に対する影響を抑えることができ、良好な空調性能を確保できるとともに、製作コストを低減できる。また、送風経路を従来よりも短くすることができ、所望の風量を確保することができ、これによっても、良好な空調性能を確保できる。また、運転席に座った運転者の足元の空間を比較的広く確保でき、優れた操作性を得ることができる。また、運転席に座った運転者の良好な下方視界を確保でき、これによって当該作業機械における窓ガラスの下方部分の運転者の目視可能領域が広くなり、優れた作業性及び安全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る空調ダクト配設構造の一実施形態が備えられる作業機械の一例として挙げたホイールローダを示す側面図である。
【図2】本実施形態に係る空調ダクト配設構造の全体構成を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係る空調ダクト配設構造の全体構成を示す側面図である。
【図4】本実施形態に係る空調ダクト配設構造を運転席側から見た斜視図である。
【図5】図4のA部拡大図である。
【図6】従来の空調ダクト配設構造の全体構成を示す斜視図である。
【図7】従来の空調ダクト配設構造の全体構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る作業機械の空調ダクト配設構造を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る空調ダクト配設構造の一実施形態が備えられる作業機械の一例として挙げたホイールローダを示す側面図である。
【0019】
この図1に示すホイールローダは、回転駆動される4つのタイヤ1と、これらのタイヤ1が取り付けられる本体2と、この本体2上に配置され、後述の本実施形態に係る空調ダクト配設構造が設けられる運転室3と、本体2の前側位置に装着され、掘削作業等の各種作業を実施する作業具4とを備えている。
【0020】
図2,3は本実施形態に係る空調ダクト配設構造の全体構成を示す図で、図2は斜視図、図3は側面図である。図4は本実施形態に係る空調ダクト配設構造を運転席側から見た斜視図、図5は図4のA部拡大図である。
【0021】
図2〜4に示すように、運転室3内に設けられる本実施形態に係る空調ダクト配設構造は、運転室3の床を形成するフロアプレート10上に、空調ユニット11が配置されている。この空調ユニット11に空調ダクトが接続され、この空調ダクトを介して冷風あるいは温風が導かれ、所定の吹出し口から吹き出される。上述した空調ダクトには、前方吹出しダクト12、及びこの前方吹出しダクト12に連結される前方吹出し立上げダクト13を含む他、運転席の後方を空調するリア吹出しダクト14、及び運転席に座った運転者の足元を空調する足元吹出しダクト15を含んでいる。
【0022】
上述した全ての空調ダクト、すなわち前方吹出しダクト12、前方吹出し立上げダクト13、リア吹出しダクト14、及び足元吹出しダクト15は、運転室3の床を形成するフロアプレート10上に配置してある。したがって、本実施形態にあっては運転室3の外部に露出する空調ダクトは存在していない。
【0023】
また、上述の空調ダクトのうちの前方吹出しダクト12は、図4に示すように、運転室3に備えられる窓ガラス、例えば前窓ガラスのうちの右ガラス17に沿うように配設してある。
【0024】
なお、前窓ガラスは、中央ガラス16と、右ガラス17と、左ガラス17Aとによって構成されている。同図4に示すように、運転室3内には運転室3の屋根を支持する柱を形成するピラー18の他、アクセルペダル19、ブレーキペダル20、インチングペダル21、及び図示省略した運転席などが設けられている。
【0025】
また本実施形態は図4,5に示すように、空調ダクト、例えば右ガラス17に沿って配置した前方吹出しダクト12の、右ガラス17の面に対向する上側隅部に切欠き部23を設けてある。この切欠き部23を、図示しない運転席に座った運転者が、窓ガラスすなわち右ガラス17の下縁部を見ることができるように前方吹出しダクト12の上面から右ガラス17に向って斜め下向きの形状に形成してある。例えばこの切欠き部23を、図5に示すように、運転席に座った運転者の目の位置と右ガラス17の下縁部とを結ぶ視界ライン24に沿うテーパ形状に形成してある。なお、右ガラス17の下縁部には化粧用の黒セラミック加工部22を設けてあり、視界ライン24は黒セラミック加工部22の上端付近を通るように設定されている。
【0026】
図5に示すように、前方吹出しダクト12は筒形状に形成してあり、右ガラス17の下側部分に対向する前方吹出しダクト12の上側隅部は、例えばプレス加工等における押圧力によって凹ませてテーパ形状に形成してある。
【0027】
このように構成した本実施形態に係る空調ダクト配設構造は、前方吹出しダクト12及び前方吹出し立上げダクト13を介して導かれた冷風あるいは温風を吹出し口から図示しない運転席に座った運転者の方へ、また前窓ガラス部分に吹き出させることができる。また、足元吹き出しダクト15を介して導かれた冷風または温風を、吹き出し口から運転席に座った運転者の足元付近に吹き出させることができる。また、リア吹き出しダクト14を介して導かれた冷風あるいは温風を、運転席に座った運転者の後方領域に吹き出させることができる。
【0028】
本実施形態に係る空調ダクト配設構造によれば、空調ユニット11に接続される前方吹き出しダクト12を含む全ての空調ダクトを、運転室3の床を形成するフロアプレート10上に配置したことから、これらの空調ダクトが運転室3の外部に露出せず、したがって、断熱材を要することなく外気温による空調に対する影響を抑えることができる。これにより、良好な空調性能を確保できるとともに、製作コストを低減できる。また、前方吹き出しダクト12は、フロアプレート10の下方に位置する部分が存在しないので、フロアプレート10上の最短経路を取ることができ、これによって送風経路を短くすることができ、したがって所望の風量を確保でき、これによっても良好な空調性能を確保できる。
【0029】
また、前方吹き出しダクト12を、運転室3に備えられる前窓ガラス、すなわち右ガラス17に沿うように配設したことから、運転席に座った運転者の足元の空間を比較的広く確保することができ、優れた操作性を得ることができる。
【0030】
また、前方吹き出しダクト12の右ガラス17の面に対向する上側隅部に切欠き部23を設けたことから、運転席に座った運転者の下方視界を遮る箇所が除かれ、右ガラス17の下方部分を通して作業中のタイヤ1のスリップ状況を確認可能な良好な下方視界を確保できる。これによって、右ガラス17の下方部分を通しての運転者の目視可能領域が広くなり、当該ホイールローダにおける優れた作業性及び安全性を確保できる。
【0031】
なお、上記実施形態では、前方吹き出しダクト12に設けた切欠き部23をテーパ形状に形成してあるが、この切欠き部23を凸状あるいは凹状の曲面形状に形成してもよい。
【0032】
また上記では、前窓ガラスの右ガラス17に沿うように前方吹出しダクト12を配置し、右ガラス17の面に対向する前方吹出しダクト12の上側隅部に切欠き部23を設けた構成にしてあるが、右側面窓の側面ガラスに沿うように前方吹出しダクト12を配置し、側面ガラスの面に対向する前方吹出しダクト12の上側隅部に、運転席に座った運転者が、側面ガラスの下縁部を見ることができる形状の切欠き部を設けた構成にしてもよい。このように構成したものも、作業中のタイヤ1のスリップ状況を確認することができる。
【0033】
本発明に係る空調ダクト配設構造が適用される作業機械の一例としてホイールローダを挙げたが、油圧ショベル等の運転室を有する各種の建設機械などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 タイヤ
2 本体
3 運転室
4 作業具
10 フロアプレート
11 空調ユニット
12 前方吹出しダクト(空調ダクト)
13 前方吹出し立上げダクト(空調ダクト)
17 右ガラス(前窓ガラス)
22 黒セラミック加工部
23 切欠き部
24 視界ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に備えられる運転室の内部に、空調ユニットに接続された空調ダクトを配設する作業機械の空調ダクト配設構造において、
上記空調ダクトを、上記運転室の床を形成するフロアプレート上であって、上記運転室に備えられる窓ガラスに沿うように配設し、この空調ダクトの上記窓ガラスの面に対向する上側隅部に切欠き部を設けたことを特徴とする作業機械の空調ダクト配設構造。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の空調ダクト配設構造において、
上記切欠き部を、上記運転室の内部に備えられる運転席に座った運転者が、上記窓ガラスの下縁部を見ることができるように上記空調ダクトの上面から上記窓ガラスに向って斜め下向きの形状に形成したことを特徴とする作業機械の空調ダクト配設構造。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械の空調ダクト配設構造において、
上記切欠き部を、上記運転席に座った運転者の目の位置と上記窓ガラスの下縁部とを結ぶ視界ラインに沿う形状に形成したことを特徴とする作業機械の空調ダクト配設構造。
【請求項4】
請求項1項に記載の作業機械の空調ダクト配設構造において、
上記窓ガラスが、前窓を形成する前窓ガラスから成ることを特徴とする作業機械の空調ダクト配設構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業機械の空調ダクト配設構造において、
上記作業機械が、タイヤと、このタイヤが取り付けられる本体と、この本体上に配置される上記運転室と、上記本体の前側位置に装着される作業具とを備えたホイールローダから成ることを特徴とする作業機械の空調ダクト配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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