説明

作業用具及び作業用具のデータ記録装置

【課題】 データキャリアにデータを書き込むのが容易であると共に、データを確実かつ迅速に読み取ることができ、しかも、作業者が感染等の危険に曝されることもない作業用具を提供する。
【解決手段】 作業用具1に装着孔3aを穿設し、コイルアンテナ53にICチップ54を接合して一体化したICチップ装着体52をセラミック製外装材55,56によって被覆したRFIDデータキャリア51を装着孔3aに装着する。又、装着孔3aから作業用具1の外周にかけて切欠溝3bを形成し、RFIDデータキャリア51の表裏面を作業具1の表裏面と面一又は表裏面より内側に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データを記録できるデータキャリアを装着したメス、鉗子等の手術用具、ペンチ、スパナ等の工具等の作業用具及び作業用具のデータ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メス、鉗子等の手術用具、ペンチ、スパナ等の工具等の作業用具にメーカー名、型番、製造日、製造番号等のデータを保持させておけば、出荷時、販売時、保管時等において作業用具の個数確認、分別整理等するのに便利である。
又、メス、鉗子等の手術用具においては、手術前に指定された種類の用具と個数が正しく用意されていることを確認し、手術後に全ての用具が正しく回収されたことを確認するために、前記のデータに加えて、それぞれの用具に個別のID等の認識データを保持させておけば、確認作業等するのに便利である。
【0003】
従来は、作業用具にデータを保持させる方法として、文字、数字、記号等から成るデータをラベルや銘板に印刷又は刻印して、これを作業用具に直接貼付したり、その梱包材に貼付したりしていた(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−54553号公報
【0005】
しかし、文字、数字、記号等から成るデータを印刷又は刻印したラベルや銘板を作業用具に貼付したのでは、運搬時、作業時等にラベルや銘板が損傷し、脱落したりして、データが読み取れなくなるという問題があった。
又、ラベルや銘板に文字、数字、記号等から成るデータを印刷又は刻印するには手間が掛かると共に、人が視覚によってデータを読み取るので、読み間違いが起こるという問題もあった。
【0006】
特に、メス、鉗子等の手術用具については、消毒がされているか、個数がそろっているか、使用が禁止されていないかを手術の前後において厳格に管理することが要求されている。
そのため、視覚によるデータの読み間違いを防止するために、最近では、手術用具に二次元バーコードを刻印して、読取装置によって自動的にデータを読み取る方法も採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、二次元バーコードを刻印する方法では、その表面に血液等が付着すると読み取れなくなったり、ステンレス鋼製の用具は硬度が低いため、比較的短期間のうちに刻印が摩滅して消失したり、読取方向が一方向に限定されるため、手術用具を1個づつ読み取らなければならず、読み取りに時間がかかった。
又、読み取り作業時に手術用具を把持して方向をそろえる必要があるため、作業者が血液に触れて、肝炎等に感染するという危険に曝されていた。
【0008】
又、RFIDデータキャリアを作業用具に装着して管理を行なう方法も検討されたが、近傍に金属があるとRFIDデータキャリアに読み書きを行なう電磁波が届き難く、RFIDデータキャリアが機能しないこと、又、通常のRFIDデータキャリアは合成樹脂製外装材で被覆されており、外部から衝撃を受けると容易に損傷することから、RFIDデータキャリアを装着する作業用具は実用化が困難であった。
さらに、手術用具は消毒することが必要とされており、この消毒作業時には用具は高温や薬液に曝されるのであるが、合成樹脂製外装材で被覆されたRFIDデータキャリアは耐熱性、耐薬品性に問題があり、このような用途には使用できなかった。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みて為されたものであって、その目的とするところは、運搬時、作業時等にデータキャリアが損傷、脱落することなく、消毒作業時に高温や薬液に曝されてもデータキャリアが損傷することなく、データキャリアにデータを書き込むのが容易であると共に、データを確実かつ迅速に読み取ることができ、しかも、作業者が感染等の危険に曝されることもない作業用具を提供することにある。
又、本発明の目的とするところは、作業用具に特別な加工をすることなく、後から簡単にデータキャリアを装着することができる作業用具を提供することにある。
【0010】
さらに、本発明の目的とするところは、作業用具に装着されたデータキャリアにデータを書き込み、読み取ることができる作業用具のデータ記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の作業用具は、コイルアンテナにICチップを接合して一体化したICチップ装着体をセラミック製外装材によって被覆したRFIDデータキャリアを、作業用具に穿設した装着孔に嵌合、装着したことを特徴とする。
【0012】
又、前記装着孔から作業用具の外周にかけて切欠溝を形成するのが好ましい。これによって、電波を受信した際に金属材料に短絡電流が発生せず、RFIDデータキャリアに記録されたデータを確実に読み取ることができる。
【0013】
前記RFIDデータキャリアの表裏面を作業用具の表裏面と面一又は表裏面より内側に位置させるのが好ましい。これによって、運搬時、作業時、保管時に作業用具に他の物体が衝突したとしても、データキャリアが損傷したり、脱落したりすることがない。
【0014】
又、RFIDデータキャリアのコイルアンテナの軸線方向を作業用具の表面に対して略垂直に設定するのが好ましい。これによって、作業用具とRFID装置との間で電磁波の交信を感度良く行なうことができる。
【0015】
さらに、作業用具に元々装着孔を穿設できない場合、既存の作業用具にRFIDデータキャリアを装着する場合には、RFIDデータキャリアを保持部材に収納して、作業用具に固定してもよい。ここで、保持部材は、耐熱性材料から成ることが好ましい。これによって、作業用具に簡単かつ確実にRFIDデータキャリアを装着することができる。
【0016】
本発明の作業用具は、特に、メス、鉗子等の手術用具に適用されるのが好ましい。
【0017】
又、本発明の作業用具のデータ記録装置は、前記作業用具と、アンテナ、コントローラ及びコンピュータから構成されるRFID装置とから成り、無線通信によって作業用具に装着されたRFIDデータキャリアにデータを書き込み、読み取ることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のRFIDデータキャリアを装着した作業用具の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の作業用具の一実施例の正面図、図2は、RFIDデータキャリアの(A)は平面図、(B)は側断面図、図3は、RFIDデータキャリアの構成部材であって、(A)は下側外装材の平面図、(B)は各部材を分離した状態の側断面図、(C)はICチップ装着体の平面図、図4及び図5は、本発明の作業用具の他実施例の正面図、図6は、RFIDデータキャリアの(A)は平面図、(B)は各部材を分離した状態のA−A線断面図、図7は、本発明の作業用具の他実施例の正面図、図8は、保持部材の一実施例の(A)は平面図、(B)は押当部を開放させた状態の側断面図、(C)は押当部を閉鎖させた状態の側断面図、図9は、保持部材の他実施例の(A)は平面図、(B)は分割体を離反させた状態の側断面図、(C)は分割体を密着させた状態の側断面図、図10は、保持部材の他実施例の(A)は各部材を分離した状態の側断面図、(B)はA部拡大側断面図、(C)は突起部を圧潰した状態のA部拡大側断面図、(D)は把持体を密着させた状態の側断面図である。
【0019】
図1に示す作業用具は、手術用具であるメス1であって、メス1は、刃状部2と把持部3とから構成されている。
又、把持部3の中間部に装着孔3aを形成すると共に、その装着孔3aから把持部3の外周面にかけて幅狭の切欠溝3bを形成してある。
【0020】
そして、メス1の把持部3の表面側から装着孔3a内にRFIDデータキャリア51を圧入し、装着孔3aに嵌合することによって、メス1の把持部3の中間部にRFIDデータキャリア51を装着してある。
【0021】
本発明においては、RFID(Radio Frequency Identification)データキャリアとして、超小型のICチップと無線通信用のアンテナとを一体化し、セラミック製外装材によって被覆したRFIDデータキャリア51を使用している。
【0022】
RFIDデータキャリア51は、図2及び図3に示すように、導電性を有する金属製線材を巻き回して形成したコイルアンテナ53とICチップ54とを接合して一体化したICチップ装着体52と、セラミック製外装材55,56と、セラミック系充填材57とから構成される。
【0023】
コイルアンテナ53は、銅、アルミニウム、銀等の導電性を有する金属製線材をコイル状に巻き回して形成してある。
これによって、コイルアンテナとICチップとを合成樹脂製シート上に配置したICチップ装着体に比べて投影面積が小さくなり、コイルアンテナ53とICチップ54とのみによって一体化し、形状を保持させておくことができる。
又、コイルアンテナ53を使用したRFIDデータキャリア51は、一般的な合成樹脂シートを使用したRFIDデータキャリアに比べて、コイルのインダクタンスの精度が高く、同調周波数が正確であり、コイルの電気抵抗が低いので、アンテナ回路の能率が高く、又、耐熱温度が高いという特徴を有する。
【0024】
セラミック製外装材55,56は、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO・SiO)、窒化珪素(Si)等のセラミック材料を焼成したものであり、図3に示すように、上下の外装材55,56は、互いに嵌合するようになっている。そして、下側の外装材55には、ICチップ装着体52を収納するための陥没部55aを形成してあり、上側の外装材56には、この陥没部55aと嵌合する突出部56aを形成してある。
【0025】
セラミック系充填材57としては、アルミナセメント、ポルトランドセメント等のセラミックセメント材料が使用される。
これによって、セラミック製外装材55,56同士を確実に接着すると共に、コイルアンテナ53とICチップ54とを接合して一体化したICチップ装着体52をセラミック製外装材55,56内に確実に固定することができる。
又、ICチップ装着体52の周りをセラミック系充填材57により包み込むことによって、ICチップ54単体の場合よりも熱容量が大きくなるため、加えられた熱量に対する温度上昇が抑えられ、又、均一となる効果が得られる。これによって、ICチップ装着体52の耐熱性を向上させることができる。
【0026】
RFIDデータキャリア51は、以上のような構成であり、以下のようにして製造される。
【0027】
先ず、図3(C)に示すように、金属製線材をコイル状に巻き回したコイルアンテナ53の両端にICチップ54を接合し、コイルアンテナ53とICチップ54とを接合して一体化したICチップ装着体52を構成する。
【0028】
次に、図3(B)に示すように、コイルアンテナ53とICチップ54とを接合して一体化したICチップ装着体52を下側のセラミック製外装材55の陥没部55aに位置させる。
【0029】
一方、上側のセラミック製外装材56の下面全体にセラミック系充填材57を十分に塗布させ、付着させておく。
【0030】
次に、上方からセラミック製外装材56を載置させ、図3に示すように、セラミック製外装材56の突出部56aをセラミック製外装材55の陥没部55aに嵌合させ、両者を完全に結合させて、RFIDデータキャリア51を構成する。
【0031】
図11に示すように、上記RFIDデータキャリア51とRFID装置71との間で無線通信することによって、RFIDデータキャリア51に記録されたデータをRFID装置71で読み取ることができ、又、RFID装置71からデータを送信してRFIDデータキャリア51に書き込むことができる。
よって、RFIDデータキャリア51を作業用具に装着しておけば、作業用具にメーカー名、型番、製造日、製造番号等の各種データと、必要に応じてそれぞれの用具を特定するための個別IDコード等を併せて保持させておくことができ、それらデータを適宜読み取り、又、書き込むことができる。
【0032】
ところが、RFIDデータキャリア51の周囲に金属材料等の導電性材料が存在すると、電磁波を受信した際に導電性材料に短絡電流が発生するため、RFIDデータキャリア51に必要十分な電界が供給されず、RFIDデータキャリア51に記録されたデータを読み取ることができないとされており、この対策として、オンメタルRFIDデータキャリア、インメタルRFIDデータキャリアが開発されている。
しかし、オンメタルRFIDデータキャリア、インメタルRFIDデータキャリアは、データの読み取り方向が片側からのみに限定されるため、金属製品のうちでも、ボンベ、パイプ等、データの読み書きが片側方向からでもよい場合に限定して使用されている。
【0033】
メス、鉗子等の手術用具、ペンチ、スパナ等の工具等の作業用具にあっては、データの読み書きが片側方向からに限定されるのでは、作業用具が裏面を向いている場合にはデータを読み取ることができず、実用的ではない。
よって、手術用具、工具等の作業用具にあっては、データの読み書きが両側方向からできるようにRFIDデータキャリア51が装着されることが好ましい。
【0034】
そこで、本発明の作業用具では、図1に示すように、把持部3の中間部に装着孔3aを形成すると共に、その装着孔3aから把持部3の外周にかけて幅狭の切欠溝3bを形成し、その装着孔3a内にRFIDデータキャリア51を嵌合してある。
切欠溝3bを形成したことによって、電磁波を受信した際に金属材料に短絡電流が発生せず、RFIDデータキャリア51に記録されたデータを確実に読み取ることができると共に、装着孔3aを形成したことによって、データの読み書きを両側方向から行うことができる。
この切欠溝3bは、装着孔3aから把持部3の外周にかけて形成してあれば、如何なる形状であってもよい。又、切欠溝3bに接着剤等を充填すれば、切欠溝3b近傍の機械的強度を高めることができる。
又、切欠溝3bは、図1に示すように、刃状部2の刃先に対して反対側の把持部3の外周面にかけて形成するのが好ましい。かかる構成とすれば、メス1によって人体等を切り裂く際、切欠溝3bが閉じる方向に力が作用するから、装着孔3a内からRFIDデータキャリア51が容易に離脱することはない。
【0035】
RFIDデータキャリア51においては、コイルアンテナ53の軸線方向Aが通信電磁波に対する感度が最もよい方向、すなわちアンテナ指向方向となる。
よって、RFIDデータキャリア51を装着孔3a内に嵌合する際、コイルアンテナ53の軸線方向Aを把持部3の表裏面に対して略垂直に設定する。
これによって、メス1と離れて配置するRFID装置61との間で電磁波の交信を感度良く行なうことができる。
【0036】
又、RFIDデータキャリア51を装着孔3a内に嵌合する際、RFIDデータキャリア51の表裏面を把持部3の表裏面と面一又は表裏面より内側に位置させる。
これによって、作業用具を運搬時、作業時、保管時に他の物体が衝突したりしても、RFIDデータキャリア51が損傷したり、脱落したりすることがない。
【0037】
RFIDデータキャリア51にデータを書き込んだり、読み取ったりするには、図11に示すようなRFID装置71を使用する。
RFID装置71は、アンテナ72、コントローラ73及びコンピュータ74から構成され、電磁誘導方式により、RFIDデータキャリア51との間でデータ等の通信を行なうようになっている。
【0038】
コントローラ73は、アンテナ72及びコンピュータ74とケーブルを介して接続されており、コンピュータ74からの指示により、RFIDデータキャリア51に送信するコマンド、例えば、データ書き込みコマンド、データ読み取りコマンド等をアンテナ72に出力する。又、アンテナ72が受信したRFIDデータキャリア51からのデータを入力する。
【0039】
RFID装置71のアンテナ72とRFIDデータキャリア51のコイルアンテナ53との間では無線通信が行なわれる。
すなわち、RFID装置71からは、RFIDデータキャリア51に供給する電力、書き込み用のデータ、その他のコマンドが送信され、RFIDデータキャリア51からは、読み出したデータ、その他の応答信号が送信される。
【0040】
通信電磁波の周波数としては、電磁誘導方式に好適な長波〜短波の周波数のうちから、作業用具の表面からRFIDデータキャリア51の表面までの深さに対応して適宜周波数を選択することができるが、本実施例では、13.56MHzという周波数を使用した。
そして、RFID装置61のアンテナ72とRFIDデータキャリア51との距離を変化させて通信状態を確認したところ、距離が10cm以下の場合において、データの書き込みも読み取りも確実にかつ作業性良く行なうことができた。
尚、通信電磁波の周波数は、本実施例の13.56MHzに限定するものではなく、用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0041】
以上のようにして、メス1の出荷前に、RFIDデータキャリア51にメーカー名、型式、製造日、製造番号等のデータを書き込むことができる。
そして、手術前には、搬入されたメス1にRFID装置71のアンテナ72を向けることによって、RFIDデータキャリア51に書き込まれたデータを読み取って、仕様通りのメス1であることを確認することができる。
又、手術後に患者がヤコブ病等に感染していたことが判明した場合には、その患者に使用した用具で手術した患者を速やかに処置することができ、同時に、それら用具をデータベースに禁止登録しておけば、以後それら用具を使用禁止とすることができる。
【0042】
さらに、必要に応じて、RFIDデータキャリア51に追加データを書き込んだり、一部書き換えたり、消去することもできる。
例えば、手術用具を病院内で管理する場合には、それぞれの用具を特定するための個別のID等の認識データを追加保持させておけば、確認作業等をするのに便利である。
【0043】
図4に示す作業用具は、手術用具である鉗子11であって、鉗子11は、挟持部12、杆状部13及び把持部14から構成されている。
又、把持部14の内側に膨出部15を形成し、その膨出部15に装着孔15aを穿設すると共に、その装着孔15aから膨出部15の外周にかけて幅狭の切欠溝15bを形成してある。
【0044】
そして、鉗子11の把持部14の表面側から装着孔15a内にRFIDデータキャリア51を圧入し、装着孔15aに嵌合することによって、鉗子11の把持部14にRFIDデータキャリア51を装着してある。
【0045】
この切欠溝15bは、上記の如く、電磁波を受信した際に金属材料に短絡電流を発生させない作用を奏すると共に、金属材料の成形時における熱膨張、収縮による圧力変化、又は、作業用具の使用時における押圧力による圧力変化を吸収する作用をも奏し、RFIDデータキャリア51が破損するのを防止している。
【0046】
尚、RFID装置71とRFIDデータキャリア51との無線通信方式としては、上述の電磁誘導方式の他、電磁結合方式、光通信方式等を適用することができるが、金属材料から成る作業用具にRFIDデータキャリア51を装着する場合には、電磁波がよく通過する電磁結合方式が好適である。
【0047】
RFID装置71のアンテナ72及びRFIDデータキャリア51のコイルアンテナ53の指向方向は、互いに合致させることが好ましいが、使用する周波数によって指向方向には適宜許容範囲があるので、RFIDデータキャリア51の装着状態もその許容範囲内であればよい。
【0048】
図5に示す作業用具は、手術用具である鉗子21であって、鉗子21は、挟持部22、杆状部23及び把持部24から構成されているが、さらに、鉗子21の適宜部所にRFIDデータキャリア61を固定してある。
【0049】
このRFIDデータキャリア61は、図2及び図3に示すRFIDデータキャリア51と同様に、導電性を有する金属製線材を巻き回して形成したコイルアンテナ53とICチップ54とを接合して一体化したICチップ装着体52と、セラミック製外装材62,63と、セラミック系充填材57とから構成されるが、セラミック製外装材62,63の形態が異なる。
セラミック製外装材62は、図6に示すように、その中央部に陥没部62aを形成してあると共に、その基端部62bに挿通孔62cを穿設してあり、セラミック製外装材63は、この陥没部62aに嵌合するようになっている。
【0050】
先ず、図6に示すように、セラミック製外装材62の陥没部62a内にICチップ装着体52を位置させ、セラミック製外装材63を陥没部62aに嵌合させ、セラミック製外装材62,63を完全に結合させてRFIDデータキャリア61を構成する。
次に、図5に示すように、RFIDデータキャリア61の基端部62bを鉗子21の把持部24等の、作業の邪魔にならない適宜部所に当接させ、挿通孔62cに小ネジ64を挿通させ、鉗子21の把持部24等に予め形成しておいたネジ孔24aに螺合、固定すれば、鉗子21の把持部24等にRFIDデータキャリア61を装着することができる。
【0051】
かかる構成によれば、鉗子21等の作業用具を当初から特殊形態のものとする必要はなく、既製の作業用具に若干の加工をするだけで、後からRFIDデータキャリア61を簡単に装着することができる。
又、導電性を有する作業用具からRFIDデータキャリア61を適正な距離に保持し、かつ、表裏からRFIDデータキャリア61に電磁波が有効に照射されるような位置に設定することができる。
さらに、作業用具を廃棄する際に、作業用具からRFIDデータキャリア61を取り外して回収すれば、RFIDデータキャリア61を再利用することができ、コストの低減化を図ることができる。
【0052】
前記RFIDデータキャリア61に代えて、図7に示すような保持部材31を使用してもよい。保持部材31は、図7及び図8に示すように、表裏2体の押当部32,33を管状部34によって連結したものである。
押当部32,33は、その中央部に窓孔32a,33aを穿設し、その窓孔32a,33aから外周にかけて幅狭の切欠溝32b,33bを形成すると共に、適宜位置にネジ孔32c,33cを形成してある。尚、窓孔32a,33aの内径は、RFIDデータキャリア51の外径より若干小さくしてある。
尚、保持部材31は、高温殺菌処理時にも耐えることができる耐熱性材料から成形することが好ましく、特に、防錆性も高いステンレス鋼等から成形するのが好ましい。
【0053】
先ず、図8(B)に示すように、押当部32,33を互いに離反させ、開放して、図7に示すように、管状部34を鉗子21の把持部24等の、作業の邪魔にならない適宜部所に位置させ、挟持させる。
次に、図8(C)に示すように、押当部32,33の内部にRFIDデータキャリア51を配置し、押当部32,33を互いに密着させ、閉鎖した後、小ネジ35をネジ孔32c,33cに螺合させることによって押当部32,33を強固に密着させ、保持部材31を固定すれば、鉗子21の把持部24等にRFIDデータキャリア51を装着することができる。
【0054】
かかる構成によれば、鉗子21等の作業用具を当初から特殊形態のものとする必要はなく、既製の作業用具に特別な加工をすることもなく、後からRFIDデータキャリア51を簡単に装着することができる。
又、RFIDデータキャリア51を保持部材31に収納してあるから、機械的な衝撃からRFIDデータキャリア51を十分に保護することができる。
さらに、作業用具を廃棄する際に、作業用具から保持部材31を取り外し、RFIDデータキャリア51を回収することができるから、回収した保持部材31及びRFIDデータキャリア51を再利用することができ、コストの低減化を図ることができる。
【0055】
保持部材31に代えて、図9に示すような保持部材36を使用してもよい。保持部材36は、図9に示すように、表裏2体の分割体37,37から構成され、分割体37は、押当部38と円弧部39とから構成される。
押当部38は、その中央部に窓孔38aを穿設し、その窓孔38aから外周にかけて幅狭の切欠溝38bを形成すると共に、適宜位置にネジ孔38cを形成してある。尚、窓孔38aの内径は、RFIDデータキャリア51の外径より若干小さくしてある。
尚、保持部材36も、高温殺菌処理時にも耐えることができる耐熱性材料から成形することが好ましく、特に、防錆性も高いステンレス鋼等から成形するのが好ましい。
【0056】
先ず、図9(B)に示すように、分割体37,37の押当部38,38を互いに離反させ、開放して、押当部38,38の位置にRFIDデータキャリア51を配置する。
次に、図9(C)に示すように、円弧部39,39を鉗子21の把持部24等の、作業の邪魔にならない適宜部所に位置させ、挟持させると共に、押当部38,38を互いに密着させ、閉鎖した後、小ネジ35をネジ孔38c,38cに螺合させることによって押当部38,38を強固に密着させ、保持部材41を固定すれば、鉗子21の把持部24等にRFIDデータキャリア51を装着することができる。
【0057】
かかる構成によっても、保持部材31と同様に、後からRFIDデータキャリア51を簡単に装着することができ、機械的な衝撃からRFIDデータキャリア51を十分に保護することができ、回収した保持部材36及びRFIDデータキャリア51を再利用することができ、コストの低減化を図ることができる。
【0058】
保持部材31に代えて、図10に示すような保持部材41を使用してもよい。保持部材41は、図10に示すように、設置体42と把持体43とから構成され、設置体42は、載置部44と円弧部45とから構成される。
載置部44は、その中央部に陥没部44aを形成すると共に、その陥没部44aの周囲に突起部44bを3箇所形成してある。又、その中央部に窓孔44cを穿設すると共に、その窓孔44cから外周にかけて幅狭の切欠溝44dを形成してある。さらに、適宜位置にネジ孔44eを形成してある。尚、窓孔44cの内径は、RFIDデータキャリア51の外径より若干小さくしてある。一方、把持体43の適宜位置にもネジ孔43aを形成してある。
尚、保持部材41も、高温殺菌処理時にも耐えることができる耐熱性材料から成形することが好ましく、特に、防錆性も高いステンレス鋼等から成形するのが好ましい。
【0059】
先ず、図10(A)に示すように、設置体42と把持体43とを離反させ、陥没部44aにRFIDデータキャリア51を載置し、図10(B)及び(C)に示すように、突起部44bをプレス等によって圧潰し、RFIDデータキャリア51を脱出不能とする。
次に、図10(D)に示すように、円弧部45及び把持体43を鉗子21の把持部24等の、作業の邪魔にならない適宜部所に位置させ、挟持させると共に、小ネジ35をネジ孔43a,44eに螺合させることによって設置体42と把持体43を強固に密着させ、保持部材41を固定すれば、鉗子21の把持部24等にRFIDデータキャリア51を装着することができる。
【0060】
かかる構成によっても、保持部材31と同様に、後からRFIDデータキャリア51を簡単に装着することができ、機械的な衝撃からRFIDデータキャリア51を十分に保護することができ、回収したRFIDデータキャリア51を再利用することができ、コストの低減化を図ることができる。
【0061】
尚、保持部材31,36,41は、固定する作業用具の形状に対応して種々形状のものを採用することができ、固定位置についても、把持部24の内側又は外側に固定したり、作業の邪魔にならない限り、適宜部所に固定することができる。
【0062】
ところで、ICチップ装着体52は、セラミック製外装材55,56によって保護されており、衝撃等に対して十分な強度を確保しているが、内部に組み込まれているコイルアンテナ53とICチップ54は電子部品であるため、全く故障しないということはあり得ない。
そこで、万が一ICチップ装着体52が故障して、内部のデータを読み出すことができない場合でも、RFIDデータキャリア51を特定することができるよう、特定するための情報を表面にレーザーマーカーによって印字してある。
セラミック材料はHV硬度が1350程度であり、作業用具を形成するステンレス鋼材料に比して、4〜5倍の硬度を有するから、レーザーマーカーによる印字は容易には消失しない。
【0063】
RFIDデータキャリア51が損傷して読み書きができなくなった場合には、損傷したRFIDデータキャリア51をデータが書かれていない新品のRFIDデータキャリア51に交換し、内部のICチップ装着体52に正しい情報を書き込む必要があるが、その手順を図12を参照して説明する。
【0064】
先ず、損傷したデータキャリア51の表面に印字されたコード58を読み取り、キーボード75によってコンピュータ76に入力する。このコード58を検索用のインデックスとしてサーバー77に送信し、データキャリア51に書かれていたデータを問い合わせ、取得する
次に、サーバー77から取得したデータをもとに、RFID装置71によって新品のデータキャリア51′にデータを書き込むと同時に、新品のデータキャリア51′の表面に印字されたコード58′をサーバー77に送信し、データベースを更新する。
【0065】
以上の手順によって、新品のデータキャリア51′に破損したデータキャリア51に書かれていたデータと同じ情報が書き込まれ、又、サーバー77の情報も新品のデータキャリア51′のデータに更新される。
前記コード58としては、通常ICチップ装着体52に書き込まれている固有の番号(UID)を使用するのが都合がよい。
【0066】
以上のように、本発明の作業用具にあっては、作業用具に装着孔を穿設すると共に、その装着孔から作業用具の外周にかけて切欠溝を形成し、その装着孔にRFIDデータキャリアを嵌合したから、電磁波を受信した際に金属材料に短絡電流が発生することなく、RFIDデータキャリアに記録されたデータを確実に読み書きできると共に、データの読み書きを作業用具の両面側方向から行うことができる。
【0067】
又、RFIDデータキャリアの表裏面を作業用具の表裏面と面一又は表裏面より内側に位置させて、RFIDデータキャリアを装着孔内に嵌合したから、運搬時、作業時、保管時に作業用具に他の物体が衝突したとしても、データキャリアが損傷したり、脱落したりすることがない。
【0068】
又、作業用具に装着孔を穿設できない場合や、既存の作業用具にRFIDデータキャリアを装着する場合には、形態の異なるRFIDデータキャリア又はRFIDデータキャリアを収納できる保持部材を使用すれば、作業用具に簡単かつ確実にRFIDデータキャリアを装着することができる。
【0069】
さらに、万が一RFIDデータキャリアが故障して書き込まれたデータが読み出せなくなった場合でも、表面に印字したコードを読み取ることによって、新しいRFIDデータキャリアに正しくデータを移行することができる。
【0070】
本発明の作業用具のデータ記録装置にあっては、作業用具に直接接触することなく、作業用具に装着したRFIDデータキャリアのデータを読み書きすることができるから、状況に応じたデータをきめ細かく個々の作業用具に記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の作業用具の一実施例の正面図である。
【図2】RFIDデータキャリアの(A)は平面図、(B)は側断面図である。
【図3】RFIDデータキャリアの構成部材であって、(A)は下側外装材の平面図、(B)は各部材を分離した状態の側断面図、(C)はICチップ装着体の平面図である。
【図4】本発明の作業用具の他実施例の正面図である。
【図5】本発明の作業用具の他実施例の正面図である。
【図6】RFIDデータキャリアの(A)は平面図、(B)は各部材を分離した状態のA−A線断面図である。
【図7】本発明の作業用具の他実施例の正面図である。
【図8】保持部材の一実施例の(A)は平面図、(B)は押当部を開放させた状態の側断面図、(C)は押当部を閉鎖させた状態の側断面図である。
【図9】保持部材の他実施例の(A)は平面図、(B)は分割体を離反させた状態の側断面図、(C)は分割体を密着させた状態の側断面図である。
【図10】保持部材の他実施例の(A)は各部材を分離した状態の側断面図、(B)はA部拡大側断面図、(C)は突起部を圧潰した状態のA部拡大側断面図、(D)は把持体を密着させた状態の側断面図である。
【図11】作業用具のデータ記録装置の概略構成図である。
【図12】データキャリアを交換して、データを移行する手順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1 メス
3 把持部
3a 装着孔
3b 切欠溝
11 鉗子
14 把持部
15a 装着孔
15b 切欠溝
31 保持部材
32b,33b 切欠溝
36 保持部材
38b 切欠溝
41 保持部材
44d 切欠溝
51 RFIDデータキャリア
52 ICチップ装着体
53 コイルアンテナ
54 ICチップ
55,56 セラミック製外装材
61 RFIDデータキャリア
62,63 セラミック製外装材
71 RFID装置
72 アンテナ
73 コントローラ
74 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルアンテナにICチップを接合して一体化したICチップ装着体をセラミック製外装材によって被覆したRFIDデータキャリアを、作業用具に穿設した装着孔に嵌合、装着したことを特徴とする作業用具。
【請求項2】
前記装着孔から作業用具の外周にかけて切欠溝を形成したことを特徴とする請求項1に記載の作業用具。
【請求項3】
前記RFIDデータキャリアの表裏面を作業用具の表裏面と面一又は表裏面より内側に位置させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の作業用具。
【請求項4】
RFIDデータキャリアのコイルアンテナの軸線方向を作業用具の表面に対して略垂直に設定したことを特徴とする請求項1乃至3に記載の作業用具。
【請求項5】
前記作業用具は、メス、鉗子等の手術用具であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の作業用具。
【請求項6】
コイルアンテナにICチップを接合して一体化したICチップ装着体をセラミック製外装材によって被覆したRFIDデータキャリアを保持部材に収納し、この保持部材を作業用具に固定自在としたことを特徴とする作業用具。
【請求項7】
前記保持部材は、耐熱性材料から成ることを特徴とする請求項6に記載の作業用具。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の作業用具と、アンテナ、コントローラ及びコンピュータから構成されるRFID装置とから成り、無線通信によって前記作業用具に装着されたRFIDデータキャリアにデータを書き込み、読み取ることを特徴とする作業用具のデータ記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−183840(P2007−183840A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1927(P2006−1927)
【出願日】平成18年1月7日(2006.1.7)
【出願人】(391035902)ケイ・アール・ディコーポレーション株式会社 (9)
【Fターム(参考)】