作業船の船体移動・係留装置
【課題】複数本のスパッドを用いて,あたかも歩行するかのごとく作業船を移動させることで、安定した移動を可能とする船体移動・係留装置を提供する。
【解決手段】船体2に対しスパッド3は、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されている。スパッド3が、いずれも揺動装置にて揺動可能にかつ昇降装置にて昇降可能にとなっている。各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後鉛直方向に戻したり、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後逆方向の傾斜させたりすることを繰り返すことで、船体の周囲のいずれの方向へも全体を安定して移動させることができる。
【解決手段】船体2に対しスパッド3は、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されている。スパッド3が、いずれも揺動装置にて揺動可能にかつ昇降装置にて昇降可能にとなっている。各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後鉛直方向に戻したり、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後逆方向の傾斜させたりすることを繰り返すことで、船体の周囲のいずれの方向へも全体を安定して移動させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業船の船体移動・係留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば浚渫工事に使用される作業船の中には、船体に昇降可能に支持される3〜4本の縦軸柱状のスパッドと、各スパッドを昇降駆動する例えばピンローラジャッキ等の昇降駆動装置とを備え、所定の位置で水底にスパッドを突き立てて台船を位置決めするように構成したものがある。
【0003】
このような作業船において、船体を移動させる場合には、これらスパッドを水底から引抜き、係留索、錨索などを出し入れしたり、作業船の推進装置を使用したりする。このため、台船の移動は熟練を要し、しかも、短時間内に正確に台船の位置を変えることができないという問題がある。
【0004】
そこで、艫寄りの2つの固定スパッドに加えて作業船に昇降可能に支持されたスパッドの少なくとも下端部で船体に揺動可能に支持される1つの揺動部が舳先寄り中央部に形成され、この揺動部を揺動させる揺動駆動装置が設け、水底に突き立てたスパッドの揺動部を揺動駆動装置で揺動させると、スパッドの下端で水底を掻いて作業船が移動するようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に記載のものでは、作業船を移動させる場合には、2つの固定スパッドを水底から引き抜き、揺動スパッドを前方に引き起こし,あるいは前傾させることで、作業船を前進させたり、逆の動作を行わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−298182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載のものでは、固定スパッドを水底から引き抜いて、艫側を自由な状態として、作業船を移動させるようにしているので、移動が不安定になる。
【0008】
そこで、本発明は、4本のスパッドを用いて,あたかも歩行するかのごとく作業船を移動させることで、安定した移動を可能とする船体移動・係留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、船体に対し複数のスパッドが、揺動装置にて揺動可能にかつ昇降装置にて昇降可能に設けられている作業船の船体移動・係留装置であって、前記スパッドは、船体の周囲に間隔を存して設けられ、前記スパッドが、いずれも昇降可能かつ揺動可能となっていることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後鉛直方向に戻したり、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後逆方向の傾斜させたりすることを繰り返すことで、船体の周囲のいずれの方向へも全体を安定して移動させることができる。特に、いずれかのスパッドが必ず水底に打ち込まれて状態で移動させることができるので、安定した移動を実現することができる。
【0011】
請求項2に記載のように、前記スパッドは、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されていることが望ましい。
【0012】
このようにすれば、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられる4つのスパッドを、4本足のように動かすことで、任意の方向に船体を安定して移動させることができる。
【0013】
請求項3に記載のように、前記各スパッドは、スパッドケーシングに前記揺動装置および前記昇降装置と共に組み込まれ、前記スパッドケーシングが、前記船体に設けられた上下方向の貫通穴内に配置される構造とすることが望ましい。
【0014】
このようにすれば、各スパッドの、船体への組み付けが簡単になる。
【0015】
請求項4に記載のように、前記揺動装置は、上側支持手段と,下側支持手段とを有し、前記スパッドは、前記下側支持手段による支持部位を回転中心として、前記上側支持手段による支持部位が、全周囲のいずれの方向にも傾斜可能に支持されていることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させ、鉛直方向に戻すことを繰り返すことで、足のように動かすことができる。
【0017】
請求項5に記載のように、前記上側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを傾斜可能に支持する中央部及びこの中央部から半径方向外方に等角度間隔で突出する4つの突出軸部とを有する支持部材と、前記各突出軸部を軸方向に移動可能に係合するガイド部材と、前記中央部を全周囲のいずれの方向にも変位させるシリンダ手段とを備える一方、前記下側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを定位置に傾斜可能に支持する構成とすることができる。
【0018】
このようにすれば、簡単な構造でもって、各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後鉛直方向に戻したり、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後逆方向の傾斜させたりすることを繰り返すことができる。
【0019】
請求項6に記載のように、前記昇降装置は、前記スパッドに対しその長手方向に沿って設けられたラックと、このラックに対し回転可能に噛み合うピニオンと、このピニオンを回転駆動する駆動手段とを備える構成とすることができる。
【0020】
このようにすれば、ラックとピニオンを利用して、各スパッドを簡単に昇降させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、船体の舳先の左右弦側および艫の左右弦側にそれぞれスパッドを昇降可能にかつ揺動可能に設けたので、4つのスパッドを、4本足のように動かすことで、任意の方向に船体を安定して移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】作業船におけるスパッドの配置の説明図である。
【図2】スパッドと昇降装置および揺動装置との関係を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】(a)はガイド部材と突出軸部との関係の説明図、(b)はラックとピニオンとの説明図である。
【図4】(a)(b)はそれぞれ昇降装置の説明図である。
【図5】スパッドが傾斜した状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図6】動作説明図である。
【図7】動作説明図である。
【図8】動作説明図である。
【図9】動作説明図である。
【図10】動作説明図である。
【図11】動作説明図である。
【図12】動作説明図である。
【図13】動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0024】
図1(a)(b)に示すように、1は作業船で、その船体2に対し、4本のスパッド3が舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられている。
【0025】
各スパッド3は、図2(a)(b)に示すように、スパッドケーシング4に揺動装置5および昇降装置6と共に組み込まれ、両装置5,6はスパッドケーシング4に対し一体的に設けられ、ユニット化されている。そして、このスパッドケーシング4が、船体2に設けられた上下方向の貫通穴2a内に配置されることで、スパッド3が揺動装置5にて揺動可能にかつ昇降装置6にて昇降可能に設けられる。そして、それぞれのスパッド3が、相互に独立して昇降可能かつ揺動可能となっている。なお、貫通穴2aの途中には、スパッドケーシング4の取付位置を定める凸部2bが設けられている。
【0026】
各揺動装置5は、上側支持手段7と,下側支持手段8とを有し、両手段7,8が上下方向において一定間隔を存して設けられている。これにより、各スパッド3は、下側支持手段8による支持部位を回転中心として、上側支持手段7による支持部位が、全周囲のいずれの方向にも傾斜できるように支持される。
【0027】
上側支持手段7は、球面スリーブ9を介してスパッド3を、船体2の全周囲の任意の方向に傾斜可能に支持する環状の中央部10aおよび中央部10aから半径方向外方に90度間隔(等角度間隔)で突出する4つの突出軸部10bとを有する十字状の支持部材10と、各突出軸部10bを軸方向に移動可能に支持するガイド部材11と、中央部10aに対し各突出軸10bの間に設けられ中央部10aを全周囲のいずれの方向にも変位させる4本のシリンダ手段12とを備える。各ガイド部材11は、スパッドケーシング4の上側に設けられ、突出軸部10bの上下方向の動きは規制するが、左右方向の動きは許容するように、突出軸部10bが挿通される挿通穴11aは左右方向に長い長穴形状となっている(図3(a)参照)。
【0028】
これら4つのシリンダ手段12を、所定の関係で伸縮動作させることにより、例えば図4(a)(b)に示すように、ガイド部材11によって支持部材10の移動方向が案内されつつ、中央部10aを、船体2の全周囲の移動させることができる。この中央部10aの移動方向が、船体2の移動方向となる。
【0029】
下側支持手段8は、球面スリーブ13を介して、支持部材14の中央部においてスパッド3を、定位置において、船体2の全周囲の任意の方向に傾斜可能に支持するようになっている。支持部材14(支持手段8)によるスパッド3の支持位置に対して、支持部材10によるスパッド3の支持位置が,水平面内において変位することで、スパッド3が傾斜することになる。
【0030】
昇降装置6は、スパッド3に対しその長手方向に沿ってラック21が設けられ、このラック21に対し、図3(b)に示すように、駆動ギヤ22(ピニオン)が回転可能に噛み合み、この駆動ギヤ22を、駆動手段である駆動モータ23によって回転駆動するようになっている。また、図4(a)(b)に示すよう、駆動ギヤ22の両側及び90度の角度をなす位置にはガイドローラ26が設けられ、安定した昇降を実現できるようになっている。なお、25はギヤカバーである。
【0031】
この昇降装置6は、スパッドケーシング4内において、連結部材24を介して下側支持手段8の上方に配置され、これらの位置関係は,傾斜しても維持される。
【0032】
上記装置によれば、例えば図6〜図13に示すように、図面上において、左側から右側に移動する場合には、まず、図6に示すように、すべてのスパッド3が直立した状態から、例えば進行方向の後側に位置するスパッド3を持ち上げて、スパッド3の下端部が希望する進行方向に位置するように、傾斜させる(図7参照)。このとき、残りのスパッド3が水底に打ち込まれた状態を維持しているので、船体2はスパッド3によって安定して支持されている。
【0033】
それから、傾斜させたスパッド3が、鉛直方向に直立した状態になるようにシリンダ手段12を作動させることで船体1を、所望の進行方向に前記傾斜に対応する距離だけ移動させる。すると、図8に示すように、進行方向の前側に位置していたスパッド3が、上端部が下端部より新工法の前側に位置するように傾斜することになる。このとき、スパッド3は水底に打ち込まれた状態を維持しているので、船体2の移動はて安定した移動となる。
【0034】
続いて、この傾斜しているスパッド3を、図9に示すように持ち上げて、鉛直方向に直立した状態になるようにシリンダ手段12を作動させ、スパッド3の下端部を海底に打ち込めば、船体は安定した状態でその停止位置に位置することになる(図6参照)。
【0035】
これを繰り返すことにより、船体があたかも歩いているかのように移動させることができる。舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されているので、動作させるスパッドを工夫することで、船体を全周囲のいずれの方向に移動させることができるようになる。
【0036】
また、船体2の移動量を大きくしようとすれば、例えば図10に示すように、進行方向後側のスパッド3の上端部が進行方向前側になるように傾斜させる一方、進行方向前側のスパッド3を持ち上げて、その下部が進行方向前側になるように傾斜させる。それから、図11に示すように、進行方向前側のスパッド3を水底に打ち込んで、安定させた状態で、図12に示すように進行方向後側のスパッド3を引き抜き、進行方向前側のスパッド3が鉛直方向に直立した状態になるようにすることで船体2を所望の進行方向に移動させる。
【0037】
その後、進行方向後側のスパッド3を、鉛直方向に直立した状態(図13参照)にして、海底に打ち込むことで、船体2は安定した状態でその位置に停止することになる(図6参照)。このようにすれば、図6〜9に示す場合よりも、スパッド3の引き抜き1回当たりの移動量を大きくすることができる。
【0038】
このように、船体2を所定の位置に移動させる際には、各スパッド3についての4つの油圧シリンダ12を、順次伸縮動作させて、2本または3本のスパッド3が海底に打ち込まれた状態で、残りのスパッド3を進行方向に傾けて移動させるので、安定した移動を実現することができる。
【0039】
なお、前記実施の形態では、スパッド3を傾斜させるのに4本のシリンダ手段12(油圧シリンダ)を用いているが、もっと油圧シリンダの数を増やしてもよいし、油圧シリンダに代えてワイヤーを用い、そのワイヤーで引っ張ることでスパッドを傾斜させることも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 作業船
2 船体
2a 貫通穴
3 スパッド
4 スパッドケーシング
5 揺動装置
6 昇降装置
7 上側支持手段
8 下側支持手段
12 シリンダ手段
21 ラック
22 駆動ギヤ(ピニオン)
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業船の船体移動・係留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば浚渫工事に使用される作業船の中には、船体に昇降可能に支持される3〜4本の縦軸柱状のスパッドと、各スパッドを昇降駆動する例えばピンローラジャッキ等の昇降駆動装置とを備え、所定の位置で水底にスパッドを突き立てて台船を位置決めするように構成したものがある。
【0003】
このような作業船において、船体を移動させる場合には、これらスパッドを水底から引抜き、係留索、錨索などを出し入れしたり、作業船の推進装置を使用したりする。このため、台船の移動は熟練を要し、しかも、短時間内に正確に台船の位置を変えることができないという問題がある。
【0004】
そこで、艫寄りの2つの固定スパッドに加えて作業船に昇降可能に支持されたスパッドの少なくとも下端部で船体に揺動可能に支持される1つの揺動部が舳先寄り中央部に形成され、この揺動部を揺動させる揺動駆動装置が設け、水底に突き立てたスパッドの揺動部を揺動駆動装置で揺動させると、スパッドの下端で水底を掻いて作業船が移動するようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に記載のものでは、作業船を移動させる場合には、2つの固定スパッドを水底から引き抜き、揺動スパッドを前方に引き起こし,あるいは前傾させることで、作業船を前進させたり、逆の動作を行わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−298182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載のものでは、固定スパッドを水底から引き抜いて、艫側を自由な状態として、作業船を移動させるようにしているので、移動が不安定になる。
【0008】
そこで、本発明は、4本のスパッドを用いて,あたかも歩行するかのごとく作業船を移動させることで、安定した移動を可能とする船体移動・係留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、船体に対し複数のスパッドが、揺動装置にて揺動可能にかつ昇降装置にて昇降可能に設けられている作業船の船体移動・係留装置であって、前記スパッドは、船体の周囲に間隔を存して設けられ、前記スパッドが、いずれも昇降可能かつ揺動可能となっていることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後鉛直方向に戻したり、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後逆方向の傾斜させたりすることを繰り返すことで、船体の周囲のいずれの方向へも全体を安定して移動させることができる。特に、いずれかのスパッドが必ず水底に打ち込まれて状態で移動させることができるので、安定した移動を実現することができる。
【0011】
請求項2に記載のように、前記スパッドは、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されていることが望ましい。
【0012】
このようにすれば、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられる4つのスパッドを、4本足のように動かすことで、任意の方向に船体を安定して移動させることができる。
【0013】
請求項3に記載のように、前記各スパッドは、スパッドケーシングに前記揺動装置および前記昇降装置と共に組み込まれ、前記スパッドケーシングが、前記船体に設けられた上下方向の貫通穴内に配置される構造とすることが望ましい。
【0014】
このようにすれば、各スパッドの、船体への組み付けが簡単になる。
【0015】
請求項4に記載のように、前記揺動装置は、上側支持手段と,下側支持手段とを有し、前記スパッドは、前記下側支持手段による支持部位を回転中心として、前記上側支持手段による支持部位が、全周囲のいずれの方向にも傾斜可能に支持されていることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させ、鉛直方向に戻すことを繰り返すことで、足のように動かすことができる。
【0017】
請求項5に記載のように、前記上側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを傾斜可能に支持する中央部及びこの中央部から半径方向外方に等角度間隔で突出する4つの突出軸部とを有する支持部材と、前記各突出軸部を軸方向に移動可能に係合するガイド部材と、前記中央部を全周囲のいずれの方向にも変位させるシリンダ手段とを備える一方、前記下側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを定位置に傾斜可能に支持する構成とすることができる。
【0018】
このようにすれば、簡単な構造でもって、各スパッドを、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後鉛直方向に戻したり、全周囲のいずれかの方向に傾斜させた後逆方向の傾斜させたりすることを繰り返すことができる。
【0019】
請求項6に記載のように、前記昇降装置は、前記スパッドに対しその長手方向に沿って設けられたラックと、このラックに対し回転可能に噛み合うピニオンと、このピニオンを回転駆動する駆動手段とを備える構成とすることができる。
【0020】
このようにすれば、ラックとピニオンを利用して、各スパッドを簡単に昇降させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、船体の舳先の左右弦側および艫の左右弦側にそれぞれスパッドを昇降可能にかつ揺動可能に設けたので、4つのスパッドを、4本足のように動かすことで、任意の方向に船体を安定して移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】作業船におけるスパッドの配置の説明図である。
【図2】スパッドと昇降装置および揺動装置との関係を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】(a)はガイド部材と突出軸部との関係の説明図、(b)はラックとピニオンとの説明図である。
【図4】(a)(b)はそれぞれ昇降装置の説明図である。
【図5】スパッドが傾斜した状態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図6】動作説明図である。
【図7】動作説明図である。
【図8】動作説明図である。
【図9】動作説明図である。
【図10】動作説明図である。
【図11】動作説明図である。
【図12】動作説明図である。
【図13】動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0024】
図1(a)(b)に示すように、1は作業船で、その船体2に対し、4本のスパッド3が舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられている。
【0025】
各スパッド3は、図2(a)(b)に示すように、スパッドケーシング4に揺動装置5および昇降装置6と共に組み込まれ、両装置5,6はスパッドケーシング4に対し一体的に設けられ、ユニット化されている。そして、このスパッドケーシング4が、船体2に設けられた上下方向の貫通穴2a内に配置されることで、スパッド3が揺動装置5にて揺動可能にかつ昇降装置6にて昇降可能に設けられる。そして、それぞれのスパッド3が、相互に独立して昇降可能かつ揺動可能となっている。なお、貫通穴2aの途中には、スパッドケーシング4の取付位置を定める凸部2bが設けられている。
【0026】
各揺動装置5は、上側支持手段7と,下側支持手段8とを有し、両手段7,8が上下方向において一定間隔を存して設けられている。これにより、各スパッド3は、下側支持手段8による支持部位を回転中心として、上側支持手段7による支持部位が、全周囲のいずれの方向にも傾斜できるように支持される。
【0027】
上側支持手段7は、球面スリーブ9を介してスパッド3を、船体2の全周囲の任意の方向に傾斜可能に支持する環状の中央部10aおよび中央部10aから半径方向外方に90度間隔(等角度間隔)で突出する4つの突出軸部10bとを有する十字状の支持部材10と、各突出軸部10bを軸方向に移動可能に支持するガイド部材11と、中央部10aに対し各突出軸10bの間に設けられ中央部10aを全周囲のいずれの方向にも変位させる4本のシリンダ手段12とを備える。各ガイド部材11は、スパッドケーシング4の上側に設けられ、突出軸部10bの上下方向の動きは規制するが、左右方向の動きは許容するように、突出軸部10bが挿通される挿通穴11aは左右方向に長い長穴形状となっている(図3(a)参照)。
【0028】
これら4つのシリンダ手段12を、所定の関係で伸縮動作させることにより、例えば図4(a)(b)に示すように、ガイド部材11によって支持部材10の移動方向が案内されつつ、中央部10aを、船体2の全周囲の移動させることができる。この中央部10aの移動方向が、船体2の移動方向となる。
【0029】
下側支持手段8は、球面スリーブ13を介して、支持部材14の中央部においてスパッド3を、定位置において、船体2の全周囲の任意の方向に傾斜可能に支持するようになっている。支持部材14(支持手段8)によるスパッド3の支持位置に対して、支持部材10によるスパッド3の支持位置が,水平面内において変位することで、スパッド3が傾斜することになる。
【0030】
昇降装置6は、スパッド3に対しその長手方向に沿ってラック21が設けられ、このラック21に対し、図3(b)に示すように、駆動ギヤ22(ピニオン)が回転可能に噛み合み、この駆動ギヤ22を、駆動手段である駆動モータ23によって回転駆動するようになっている。また、図4(a)(b)に示すよう、駆動ギヤ22の両側及び90度の角度をなす位置にはガイドローラ26が設けられ、安定した昇降を実現できるようになっている。なお、25はギヤカバーである。
【0031】
この昇降装置6は、スパッドケーシング4内において、連結部材24を介して下側支持手段8の上方に配置され、これらの位置関係は,傾斜しても維持される。
【0032】
上記装置によれば、例えば図6〜図13に示すように、図面上において、左側から右側に移動する場合には、まず、図6に示すように、すべてのスパッド3が直立した状態から、例えば進行方向の後側に位置するスパッド3を持ち上げて、スパッド3の下端部が希望する進行方向に位置するように、傾斜させる(図7参照)。このとき、残りのスパッド3が水底に打ち込まれた状態を維持しているので、船体2はスパッド3によって安定して支持されている。
【0033】
それから、傾斜させたスパッド3が、鉛直方向に直立した状態になるようにシリンダ手段12を作動させることで船体1を、所望の進行方向に前記傾斜に対応する距離だけ移動させる。すると、図8に示すように、進行方向の前側に位置していたスパッド3が、上端部が下端部より新工法の前側に位置するように傾斜することになる。このとき、スパッド3は水底に打ち込まれた状態を維持しているので、船体2の移動はて安定した移動となる。
【0034】
続いて、この傾斜しているスパッド3を、図9に示すように持ち上げて、鉛直方向に直立した状態になるようにシリンダ手段12を作動させ、スパッド3の下端部を海底に打ち込めば、船体は安定した状態でその停止位置に位置することになる(図6参照)。
【0035】
これを繰り返すことにより、船体があたかも歩いているかのように移動させることができる。舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されているので、動作させるスパッドを工夫することで、船体を全周囲のいずれの方向に移動させることができるようになる。
【0036】
また、船体2の移動量を大きくしようとすれば、例えば図10に示すように、進行方向後側のスパッド3の上端部が進行方向前側になるように傾斜させる一方、進行方向前側のスパッド3を持ち上げて、その下部が進行方向前側になるように傾斜させる。それから、図11に示すように、進行方向前側のスパッド3を水底に打ち込んで、安定させた状態で、図12に示すように進行方向後側のスパッド3を引き抜き、進行方向前側のスパッド3が鉛直方向に直立した状態になるようにすることで船体2を所望の進行方向に移動させる。
【0037】
その後、進行方向後側のスパッド3を、鉛直方向に直立した状態(図13参照)にして、海底に打ち込むことで、船体2は安定した状態でその位置に停止することになる(図6参照)。このようにすれば、図6〜9に示す場合よりも、スパッド3の引き抜き1回当たりの移動量を大きくすることができる。
【0038】
このように、船体2を所定の位置に移動させる際には、各スパッド3についての4つの油圧シリンダ12を、順次伸縮動作させて、2本または3本のスパッド3が海底に打ち込まれた状態で、残りのスパッド3を進行方向に傾けて移動させるので、安定した移動を実現することができる。
【0039】
なお、前記実施の形態では、スパッド3を傾斜させるのに4本のシリンダ手段12(油圧シリンダ)を用いているが、もっと油圧シリンダの数を増やしてもよいし、油圧シリンダに代えてワイヤーを用い、そのワイヤーで引っ張ることでスパッドを傾斜させることも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 作業船
2 船体
2a 貫通穴
3 スパッド
4 スパッドケーシング
5 揺動装置
6 昇降装置
7 上側支持手段
8 下側支持手段
12 シリンダ手段
21 ラック
22 駆動ギヤ(ピニオン)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に対し複数のスパッドが、揺動装置にて揺動可能にかつ昇降装置にて昇降可能に設けられている作業船の船体移動・係留装置であって、
前記スパッドは、船体の周囲に間隔を存して設けられ、
前記スパッドが、いずれも昇降可能かつ揺動可能となっていることを特徴とする作業船の船体移動・係留装置。
【請求項2】
前記スパッドは、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されていることを特徴とする請求項1記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項3】
前記各スパッドは、スパッドケーシングに前記揺動装置および前記昇降装置と共に組み込まれ、前記スパッドケーシングが、前記船体に設けられた上下方向の貫通穴内に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項4】
前記揺動装置は、上側支持手段と,下側支持手段とを有し、
前記各スパッドは、前記下側支持手段による支持部位を回転中心として、前記上側支持手段による支持部位が、全周囲のいずれの方向にも傾斜可能に支持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項5】
前記上側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを傾斜可能に支持する中央部及びこの中央部から半径方向外方に等角度間隔で突出する4つの突出軸部とを有する支持部材と、前記各突出軸部を軸方向に移動可能に係合するガイド部材と、前記中央部を全周囲のいずれの方向にも変位させるシリンダ手段とを備える一方、
前記下側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを定位置に傾斜可能に支持する構成とされていることを特徴とする請求項4記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項6】
前記昇降装置は、前記スパッドに対しその長手方向に沿って設けられたラックと、このラックに対し回転可能に噛み合うピニオンと、このピニオンを回転駆動する駆動手段とを備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項1】
船体に対し複数のスパッドが、揺動装置にて揺動可能にかつ昇降装置にて昇降可能に設けられている作業船の船体移動・係留装置であって、
前記スパッドは、船体の周囲に間隔を存して設けられ、
前記スパッドが、いずれも昇降可能かつ揺動可能となっていることを特徴とする作業船の船体移動・係留装置。
【請求項2】
前記スパッドは、舳先の左右弦側に、艫の左右弦側にそれぞれ設けられ、合計で4本配置されていることを特徴とする請求項1記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項3】
前記各スパッドは、スパッドケーシングに前記揺動装置および前記昇降装置と共に組み込まれ、前記スパッドケーシングが、前記船体に設けられた上下方向の貫通穴内に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項4】
前記揺動装置は、上側支持手段と,下側支持手段とを有し、
前記各スパッドは、前記下側支持手段による支持部位を回転中心として、前記上側支持手段による支持部位が、全周囲のいずれの方向にも傾斜可能に支持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項5】
前記上側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを傾斜可能に支持する中央部及びこの中央部から半径方向外方に等角度間隔で突出する4つの突出軸部とを有する支持部材と、前記各突出軸部を軸方向に移動可能に係合するガイド部材と、前記中央部を全周囲のいずれの方向にも変位させるシリンダ手段とを備える一方、
前記下側支持手段は、球面スリーブを介してスパッドを定位置に傾斜可能に支持する構成とされていることを特徴とする請求項4記載の作業船の船体移動・係留装置。
【請求項6】
前記昇降装置は、前記スパッドに対しその長手方向に沿って設けられたラックと、このラックに対し回転可能に噛み合うピニオンと、このピニオンを回転駆動する駆動手段とを備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の作業船の船体移動・係留装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−45970(P2012−45970A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187008(P2010−187008)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(591043477)寄神建設株式会社 (17)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(591043477)寄神建設株式会社 (17)
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