説明

作業車両の制御装置およびその制御方法

【課題】低燃費を維持しつつ、クラッチ開放時やクラッチ係合時の圧力変動による衝撃を小さく、油圧回路等の損傷を防止して滑らかなクラッチ動作をすること。
【解決手段】1ポンプ2モータ形式HSTで、HSTモータ10aの出力軸への動力の伝達がクラッチ13を介して行われるようにクラッチの開放または係合が行われ、HSTモータ10a,10bの動力によって走行する作業車両の制御装置において、作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量とエンジンのエンジン回転数から求め、クラッチ13の開放移行制御時に、作業車両負荷をもとに予め求められたHSTポンプ4の上限吐出量の制限下でHSTポンプ4のポンプ吐出量を小さくする制御を行い、クラッチ13の係合移行制御時に、作業車両負荷をもとに予め求められたHSTポンプ4の下限吐出量の制限下でHSTポンプ4のポンプ吐出量を大きくする制御を行うHSTコントローラ31を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動する2つの油圧モータとが閉じた油圧回路で接続され、油圧ポンプに対して2つの油圧モータが並列接続され、1つの油圧モータから出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるようにクラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの駆動力(以下、動力)によって走行する作業車両の制御装置およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、HST(Hydrostatic Transmission:静油圧式動力伝達装置)を備えたホイールローダなどの建設機械、農業機械、産業車両などの作業車両が知られている。HSTを備えた作業車両は、油圧ポンプと油圧モータとを閉じた油圧回路で連通させ、油圧モータの動力で走行する構成をとる。最近では、エンジンや油圧ポンプ、油圧モータを電子制御技術によって最適な出力やポンプ容量、モータ容量で駆動させて、作業効率の向上や省燃費を図ることができるようになっている。
【0003】
このHSTを備えた作業車両として、たとえば油圧ポンプ対して2つの油圧モータを並列に接続させ、1つの油圧モータのみクラッチが接続され、アクスルなどの動力伝達機構を介して4輪に動力を伝達するものがある。このようなHSTは、いわゆる、1ポンプ2モータ形式HSTである。この1ポンプ2モータ形式HSTは、大きな油圧モータを製造できない場合、あるいは大きな油圧モータを設置する場席が作業車両上にない場合に採用されることがある。また、大きな油圧モータを用いると、油圧モータの回転による慣性に対する迅速な応答制御が困難であり、機械的な抵抗も大きくなるため、このような理由により、この1ポンプ2モータ形式HSTが採用されることがある。この1ポンプ2モータ形式HSTは、作業車両が低速走行時に、2つの油圧モータで駆動し、作業車両が高速走行域に達したら1つの油圧モータに接続されているクラッチを開放し、他の1つの油圧モータのみの動力で作業車両を走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−230333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HSTポンプ(走行用油圧ポンプ)は、たとえば斜板式可変容量型ピストンポンプを用い、斜板の傾転角を変化させることでHSTポンプから吐き出される作動油の吐出量を変えることができる。近年の作業車両では、従来の作業車両に比して燃費低減を図るためにエンジン出力の低回転領域で走行用油圧ポンプあるいは作業用油圧ポンプをマッチングさせて作業や走行を行うように制御されている。それにともない、HSTポンプ(走行用油圧ポンプ)のポンプ吸収トルクが大きくなる。したがって、低回転領域でもHSTポンプの作動油の吐出量が従来の作業車両と同等の吐出量を得るために、HSTポンプの斜板角を大きくしている。このため、低回転領域では、HSTポンプのトルクすなわち発生する作動油の圧力が大きくなる。ここで、1ポンプ2モータ形式HSTは、大きな油圧ポンプを用いないため、小型で応答性が良いが、クラッチを用い、上述した作動油の圧力が大きくなることから、クラッチ係合時やクラッチ解放時に、油圧のサージ圧の発生によるクラッチの摩耗促進や油圧機器の損傷、油圧のサージ圧の発生により油圧回路や油圧機器などを介して作業車両が急激な減速や加速をするといった衝撃が発生し、作業車両の耐久性や操作感の面で問題が生じることが考えられる。また、低速走行から高速走行に移行する際にクラッチの開放を行うが、HSTモータ自体も小型になっているため、クラッチ開放前後の変速ギア比が従来に比して大きくなり、クラッチ開放後に急激な加速感が出てしまうという操作感上の問題点が生じることが考えられる。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、作業車両が低燃費を維持しつつ、作業車両が走行する際の油圧のサージ圧の発生といった油圧の急激な変動を抑制させ、クラッチ開放時やクラッチ係合時の衝撃を抑制させてクラッチや油圧回路や油圧機器の損傷を防止し、オペレータに滑らかなクラッチ動作による良好な操作感を与えることが可能な作業車両の制御装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる作業車両の制御装置は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと2つの油圧モータとが閉回路であって前記油圧ポンプに対して前記2つの油圧モータが並列接続された油圧回路を有し、1つの油圧モータの出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるように前記クラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの動力によって走行する作業車両の制御装置において、前記作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量と前記エンジンのエンジン回転数から求める負荷検出手段と、前記クラッチの開放移行制御時に、前記負荷検出手段により求めた作業車両負荷をもとに、予め求められた前記油圧ポンプの上限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を小さくする制御を行い、前記クラッチの係合移行制御時に、前記負荷検出手段により求めた作業車両負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの下限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を大きくする制御を行う制御手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる作業車両の制御装置は、上記の発明において、前記作業車両負荷は、エンジン回転数とアクセル開度あるいはインテークマニホールド圧とをもとに求めることを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる作業車両の制御装置は、上記の発明において、前記制御手段は、クラッチの開放状態、開放中状態、係合状態および係合中状態を含んだクラッチ状態を示すクラッチステータスをもとに前記クラッチの開放移行制御時および係合移行制御時を判定することを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる作業車両の制御装置は、上記の発明において、前記クラッチステータスは、作業車両の走行状態の遷移を示す車両ステータスと、アクセル開度をもとに求められた前記出力軸の回転数とをもとに遷移することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる作業車両の制御方法は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと2つの油圧モータとが閉回路であって前記油圧ポンプに対して前記2つの油圧モータが並列接続された油圧回路を有し、1つの油圧モータの出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるように前記クラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの動力によって走行する作業車両の制御方法において、前記作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量と前記エンジンのエンジン回転数から作業車両負荷を求め、前記クラッチの開放移行制御時に、求めた作業車両負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの上限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を小さくする制御を行い、前記クラッチの係合移行制御時に、求めた作業車両負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの下限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を大きくする制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる作業車両の制御方法は、上記の発明において、前記作業車両負荷は、エンジン回転数とアクセル開度あるいはインテークマニホールド圧とをもとに求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、作業車両が走行を行う際、クラッチの開放移行制御時に、作業車両の負荷をもとに予め求められた油圧ポンプの上限吐出量の制限下で前記油圧ポンプの吐出量を小さくする制御を行い、前記クラッチの係合移行制御時に、作業車両の負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの下限吐出量の制限下で前記油圧ポンプの吐出量を大きくする制御を行うようにしているので、作業車両は、低燃費を維持しつつ、クラッチ開放時やクラッチ係合時のクラッチや油圧回路あるいは油圧機器へのダメージや油圧の急激な圧力変動によるショックを抑制して滑らかなクラッチ動作を行うことで、良好なクラッチの応答性とともに良好な操作感をオペレータに与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかるホイールローダの全体構成を示す図である。
【図2】図2は、この発明の実施の形態にかかるホイールローダの駆動系を中心に示した回路構成を示す図である。
【図3】図3は、クラッチ開放移行時の制御処理を示すタイムチャートである。
【図4】図4は、クラッチ係合移行時の制御処理を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、クラッチステータスを説明する説明図である。
【図6】図6は、HSTコントローラによるクラッチステータスに基づくクラッチ制御手順およびポンプ吐出量制御手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、クラッチ開放移行時の車両負荷に対応したHSTポンプ指令値の上限値を示すグラフである。
【図8】図8は、クラッチ係合移行時の車両負荷に応じたHSTポンプ指令値の下限値を示すグラフである。
【図9】図9は、クラッチステータスの遷移条件を示す図である。
【図10】図10は、車両ステータスと車両ステータスの遷移条件を示す図である。
【図11】図11は、車両ステータスが「1」または「2」のときの車両ステータス遷移条件を示すグラフである。
【図12】図12は、車両ステータスが「3」〜「6」のときの車両ステータス遷移条件を示すグラフである。
【図13】図13は、この実施の形態にかかる制御装置および制御方法で行われる制御の概略を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
[全体構成]
図1は、作業車両の一例であるホイールローダ50の全体構成を示す図である。また、図2は、ホイールローダ50の駆動系を中心に示した回路構成を示す図である。図1に示すように、ホイールローダ50は、車体51と、車体51の前部に装着されたリフトアーム52やリフトアーム52の先端に取り付けられたバケット53、ベルクランク56などで構成される作業機と、車体51を支持しながら回転して車体51を走行させる4本のタイヤ54と、車体51の上部に搭載されたキャブ(運転室)55とを有する。
【0017】
車体51は、エンジン1を収納するエンジンルームと、リフトアーム52やベルクランク56を動作させる作業機用油圧シリンダ19a,19bと、作業機用油圧シリンダ19a,19bを制御する制御バルブ18と、作業機用油圧シリンダ19a,19b,作業機用油圧ポンプ2,HSTポンプ(走行用油圧ポンプ)4,走行用油圧モータ10a,10bなどのアクチュエータを制御する車体コントローラ30とを有する。また、車体51には、図2に示すように、エンジン1、車体コントローラ30、エンジンコントローラ32などが搭載される。リフトアーム52は、先端に取り付けられたバケット53を持ち上げるためのリンク部材であって、リフトアーム52に連結された作業機用油圧シリンダ(リフトシリンダ)19aが伸縮動作することによって上下に動作する。また、バケット53は、リフトアーム52の先端に取り付けられており、さらにベルクランク56というリンク部材を介して連結された作業機用油圧シリンダ(バケットシリンダ)19bが伸縮動作することによってダンプおよびチルトする。
【0018】
[回路構成]
このホイールローダ50は、図2に示すように、エンジン1によって駆動されるHSTポンプ(走行用油圧ポンプ)4から吐き出された作動油によってHSTモータ(走行用油圧モータ)10a,10bを駆動してホイールローダ50を走行させるためのHST回路20を有する。HST回路20は、HSTポンプ4に対して、2つのHSTモータ10a,10bが並列接続され、閉じた油圧回路を構成した1ポンプ2モータ形式のHSTシステムである。また、このHST回路20は、低速走行時は、2つのHSTモータ10a,10bを駆動して出力軸15へ動力を伝えてホイールローダ50を走行させ、高速走行時は、クラッチ13を開放させてHSTモータ10aから出力軸15への動力の伝達を切り離し、HSTモータ10bのみを駆動してホイールローダ50を走行させる。
【0019】
ホイールローダ50は、エンジン1によって駆動される作業機用油圧ポンプ2を含む作業機側機構と、エンジン1によって駆動されるHSTポンプ4を含む走行側機構と、この作業機側機構と走行側機構とを制御するための、エンジンコントローラ32や車体コントローラ31などを含む油圧駆動機構とを有する。
【0020】
油圧駆動機構は、エンジン1、作業機用油圧ポンプ2、チャージポンプ3、HSTポンプ4、HSTモータ10a,10b、クラッチ13、エンジンコントローラ32、車体コントローラ30、アクセル開度センサ33、前後進切換レバー34、車速センサ36、HST圧力センサ37、HST回路20を有する。前後進切換レバー34は、キャブ55(運転室)内のステアリングコラムの近くに備えてあり、オペレータが操作することで、前進(F)、後進(R)、中立(N)に切り換えることが可能で、切り替えたレバーの位置は電気的に検出される。また、ホイールローダ50の車速範囲を設定することができる速度段のスイッチがステアリングコラムの近くに備えてある。この速度段のスイッチは、独立したダイヤル式スイッチやボタン式スイッチでもよく、前後進切換レバー34に付設するものであってもよい。オペレータによって速度段のスイッチが操作されると、設定された速度段の位置は電気的に検出される。
【0021】
エンジン1は、ディーゼルエンジンであり、エンジン1で発生した出力トルクが、作業機用油圧ポンプ2、チャージポンプ3、HSTポンプ4などに伝達される。エンジン1には、エンジン1の出力トルクと回転数とを制御するエンジンコントローラ32が接続される。エンジンコントローラ32は、アクセルペダル33aの操作量であるアクセル開度に応じて燃料噴射量を調整する。また、エンジン1は、エンジン1の実回転数を検出するエンジン回転数センサ1aを備え、エンジン回転数センサ1aの回転数信号をエンジンコントローラ32に入力する。また、エンジン1には、燃料噴射装置1bが接続されている。エンジンコントローラ32は、アクセル開度に応じて燃料噴射量1bを制御してエンジントルクやエンジン回転数を調整する。なお、燃料噴射装置1bは、たとえば燃料ポンプやコモンレール、インジェクタなどで構成されたコモンレール式燃料噴射システムが用いられる。
【0022】
アクセルペダル13aは、キャブ55内のオペシートの下方に設けられ、ホイールローダ50のオペレータが足踏み動作をして、その踏む込み量を調整するものである。アクセルペダル13aには、アクセルペダル13aの踏み込み量(スロットル出力量)を検出するアクセル開度センサ13が取り付けられている。アクセル開度センサ13は、ポテンショメータなどで実現され、検出したアクセル開度をエンジンコントローラ32に出力する。エンジンコントローラ32は、入力されたアクセル開度に応じて燃料噴射装置1bを制御し、エンジン1への燃料噴射量を調整する。なお、アクセルペダル13aに代えて、オペレータの手動操作が可能な、操作レバーやダイヤルといった操作手段によって、エンジン1へのスロットル出力量を決定するものであってもよい。
【0023】
HSTポンプ4は、エンジン1によって駆動される可変容量型の油圧ポンプ(たとえば、斜版式可変容量型ピストンポンプ)である。HSTポンプ4から吐出された作動油は、高圧リリーフ弁7,8および低圧リリーフ弁9を含むHST回路20を介してそれぞれHSTモータ10a,10bに送出される。なお、HST回路20油圧配管内の作動油の圧力(以下、HST圧力)は、このHST回路20内に設けられたHST圧力センサ37によって検出され、検出された圧力を示す信号は車体コントローラ30内のHSTコントローラ31に入力される。また、HSTポンプ4には、HSTポンプ4の容量を制御するための斜板角および作動油の流れ方向を制御するポンプ制御弁5と、ポンプ制御弁5の制御指示によって斜板を駆動するポンプ容量制御シリンダ6とが接続されている。
【0024】
HSTモータ10a,10bは、可変容量型の油圧モータである。各HSTモータ10a,10bは、HSTポンプ4から吐き出された作動油によって駆動し、ホイールローダ50を走行させるための動力を出力する。HSTモータ10a,10bは、それぞれ斜板角を制御するモータシリンダ12a,12bと、モータシリンダ12a,12bをそれぞれ制御するモータ制御用電子サーボ弁11a,11bを有する。モータ制御用電子サーボ弁11a,11bは、車体コントローラ30内のHSTコントローラ31から送信される制御信号によって動作する電磁制御弁であって、それぞれモータシリンダ12a,12bを制御動作させる。このようにして、HSTモータ10a,10bのモータ容量を任意に変えることができる。
【0025】
クラッチ13は、HSTコントローラ31から送信される制御信号に応じて、クラッチ制御弁14の駆動によってクラッチ開放あるいはクラッチ係合の制御が行われる。このクラッチ13の開放あるいは係合によって、HSTモータ10aは、出力軸15への動力を伝達させ、あるいは伝達の切り離しを行う。一方、HSTモータ10bは、常に出力軸15へ動力を伝達する。
【0026】
車速センサ36は、出力軸15の回転数、すなわちホイールローダ50の車速を検出するセンサである。なお、車速センサ36は、その設置場所を適宜決めることによってタイヤ54の回転数から車速を検出するようにしてもよい。
【0027】
なお、チャージポンプ3は、エンジン1によって駆動され、HST回路20に作動油を供給するためのポンプである。また、チャージポンプ3は、HSTポンプ4のパイロット回路に作動油を供給する。
【0028】
車体コントローラ30内のHSTコントローラ31は、HST圧力センサ37が検出するHST圧力、エンジンコントローラ32を介して入力されるアクセル開度、エンジン回転数センサ1aから入力される回転数信号(エンジン回転数)、オペレータによって操作される前後進切換レバー34の操作位置によって決まる前後進信号、車速センサ36から入力される回転数信号(出力軸回転数)などをもとに、HSTポンプ4の作動油の吐出量であるポンプ吐出量(エンジン回転数が一定の場合、ポンプ容量である。なぜならば、次式、ポンプ吐出量=エンジン回転数×ポンプ容量 という関係にあるからである。)およびHSTモータ10a,10bのモータ容量を制御するとともに、クラッチ13の開放および係合の制御を行う。なお、エンジンコントローラ32と車体コントローラ30とは相互に接続され、お互いにデータや信号といった情報の授受を行うことができる。
【0029】
[クラッチ開放・係合制御の概要]
ここで、HSTコントローラ31によるクラッチ開放移行時の制御概要とクラッチ係合移行時の制御概要について説明する。まず、図3に示したタイムチャートを参照して、クラッチ13を係合状態から開放状態に移行するクラッチ開放移行時の制御について説明する。図3(a)は、時間(車速)に対するHSTモータ10a、10bに指示されるモータ指令値の変化を示し、特性線Laは、HSTモータ10aに対するモータ指令値を示し、特性線LbはHSTモータ10bに対するモータ指令値を示す。図3(b)は、時間(車速)に対するクラッチ13の開放と係合の状態を指示するクラッチ指令値の変化を示す。ここで、クラッチ指令値が0%とは、クラッチ13を開放させることを意味し、クラッチ指令値が100%とは、クラッチ13を完全に係合させることを意味する。図3(c)は、時間(車速)に対するHSTポンプ4に指示されるポンプ指令値の変化を示す。なお、図3では、時間が0から進むにつれてホイールローダ50の車速は低速走行から高速走行へ移行していることとなる。まず、2つのHSTモータ10a,10bが係合状態でオペレータがアクセルペダル33aを踏み込むことでアクセル開度を大きくしてホイールローダ50が走行し始めると、負荷が大きくなり、ポンプ指令値を100%まで大きくして(ここでは、斜板角を100%(ポンプ容量を最大)まで傾けて)、多くのポンプ吐出量とともに大きなトルクを出力する。そして、たとえば5秒経った時点t1で車速がSp(km/h)の変速点に達すると、開放準備状態となり、この時点t1で100%のポンプ指令値は、後述する上限値Pdよりも小さい値であって、直前のポンプ指令値よりも小さいポンプ指令値Pdとなり(図3(c))、HSTポンプ10a,10bのポンプ吐出量が抑制される。また、HSTモータ10aのモータ指令値(斜板角の傾角により定まるモータ容量)を、図3(a)に示すように車速が増すとともに次第に減少させるようにさせていく。クラッチ指令値は、モータ容量が27%になった時点t2から、100%のクラッチ指令値が徐々に減少(モジュレーション)するようにし、クラッチ指令値が30%になった時点t3でクラッチ13は完全に開放されたものとして一挙にクラッチ指令値を0%にする(図3(b))。この時点t3では、クラッチ13が開放されているので、この時点t3からポンプ指令値は、上限値Pdの制限を受けずに100%まで上昇するようにしている(図3(c))。
【0030】
すなわち、クラッチ13が係合状態から開放状態に移行する開放移行時である時点t1〜t3までの間、ポンプ指令値を抑制してポンプ容量を減少し、出力軸15との動力伝達が切り離されるHSTモータ10aに供給する必要のないポンプ容量分のポンプ吐出量を少なくして油圧回路内での油圧のサージ圧の発生を抑制して衝撃を抑え、滑らかなクラッチ動作を良好な応答性で実現している。よって、クラッチ開放移行時における大きなトルクによるクラッチ13の摩擦を抑制し、さらに油圧機器や油圧配管の損傷防止を図ることができる。また、滑らかなクラッチ動作は、クラッチ開放時に急激な加速を抑制するため、オペレータに良好な操作感を与えることとなる。なお、HSTポンプ4のポンプ吐出量がクラッチ開放時に抑制される、ポンプ指令値は、作業車両の負荷に応じた上限値Pdが予め求められており、この上限値Pdを超えないようにしている。このようにポンプ指令値が上限値Pdを超えないようにして、クラッチ開放の前(時点t3前)にHSTモータ10aに供給されるポンプ吐出量が抑制され、HSTモータ10aのモータ容量は減少させる。HSTモータ10aのモータ容量が減少するということは、HSTポンプ4からの作動油の吐出量は、その分の作動油の吐き出しを必要としない。すなわち、クラッチ開放時のポンプ指令値を、上限値Pdを超えないようにしなければ、余分な作動油がHSTポンプ4からHSTモータ10aのほうへ吐き出され、行き場を失った作動油がサージ圧の発生の原因となるのである。一方、作業車両の負荷は、エンジン回転数とアクセル開度との関係で負荷の度合いを定める。その負荷の度合いに応じたポンプ指令値の上限値Pdを予め定めたものをHSTコントローラ31のメモリに記憶させておく。たとえば、ある時点でのエンジン回転数とアクセル開度から負荷の度合いを求め、その負荷の度合いに対応する上限値Pdが70%であったとすると、ポンプ指令値は70%を超えない値をとる。
【0031】
次に図4に示したタイムチャートを参照して、クラッチ13を開放状態から係合状態に移行するクラッチ係合移行時の制御について説明する。図4(a)は、時間(車速)に対するHSTモータ10a、10bに指示されるモータ指令値の変化を示し、特性線LLaは、HSTモータ10aに対するモータ指令値を示し、特性線LLbはHSTモータ10bに対するモータ指令値を示す。図4(b)は、時間(車速)に対するクラッチの開放と係合の状態を指示するクラッチ指令値(目標値)の変化を示す。図4(c)は、時間(車速)に対するHSTポンプ4に指示されるポンプ指令値の変化を示す。なお、図4では、時間が0から進むにつれてホイールローダ50の車速は高速走行から低速走行へ移行していることとなる。一方、クラッチ13を開放状態から係合状態に移行するクラッチ係合移行時の制御は、図4に示すように、HSTモータ10bが出力軸15へ動力を伝達している状態で、HSTモータ10aの動力がクラッチ13へ伝達されていない状態(クラッチ13が開放状態)で、ホイールローダ50が高速走行から減速走行へ減速する場合、すなわち、オペレータがアクセルペダル33aを操作してアクセルペダル33aの踏み込み量を減らしアクセル開度が小さくなると、図4(c)に示すようにHSTポンプ4に対するポンプ指令値は小さくなる。その後、クラッチ13が開放状態から係合状態に移行を開始する時点t11から係合状態を完了する時点t12までの間で、クラッチ指令値を0%近傍から100%にし、クラッチ13を係合させる(図4(b))。このクラッチ指令値は目標値であり、時点t11から少しの時間はクラッチ指令値を大きく(例えば100%)したクラッチ指令値を出力させ、その少しの時間の後は、クラッチ指令値を減少させ、時点t12へと経過するに従って、クラッチ指令値を100%へと増加させている。したがって、実際のクラッチ13の係合度合いは、クラッチ指令値にやや遅れて応答してクラッチ13が緩やかに開放から係合へと移行することになる。この時点t11〜t12の間、ポンプ指令値は、予め求められた下限値Puよりも大きな値で、直前のポンプ指令値よりも増加したポンプ指令値にする(図4(c))。ポンプ指令値は、時点t12以降は、時点t11直前の値となる。また、時点t12以降は、クラッチ13が係合してHSTモータ10aのモータ指令値(モータ容量)は特性線LLaに示すように大きくなる(図4(a))。
【0032】
すなわち、クラッチ13が開放状態から係合状態に移行する係合移行時である時点t11〜t12までの間、ポンプ指令値を大きくしてHSTポンプ4のポンプ容量(ポンプ吐出量)を増加させる。ホイールローダ50の減速にともない、クラッチ13を係合させてHSTモータ10aから出力される動力を出力軸15へ伝達させるのであるが、HSTモータ10aに供給する必要のある作動油分(ポンプ容量分)、ポンプ指令値を時点t12までに増加させて、クラッチ13が係合される前に、HSTポンプ4からHSTモータ10aに供給される作動油を確保しておく。したがって、クラッチ係合時には、HSTモータ10aが応答性よく駆動して、HSTモータ10bなどで油圧の急激な変動が生じることを抑制して衝撃を抑えつつ、応答性よく、かつ、滑らかなクラッチ動作を実現している。なお、増加されるポンプ指令値は、作業車両の負荷に応じた下限値Puが予め求められており、この下限値Puを下まわらないようにしている。このようにポンプ指令値が下限値Puを下まわらないようにすることで、HSTモータ10aに供給される作動油の圧力や量が確保され、HSTモータ10aが確実に駆動することができる。一方、作業車両の負荷は、エンジン回転数とアクセル開度との関係で負荷の度合いを定める。その負荷の度合いに応じたポンプ指令値の上限値Puを予め定めたものをHSTコントローラ31のメモリに記憶させておく。たとえば、ある時点でのエンジン回転数とアクセル開度から負荷の度合いを求め、その負荷の度合い対応する下限値Puが70%であったとすると、ポンプ指令値は70%を下回らない値をとる。
【0033】
この実施の形態では、クラッチ開放移行時にはポンプ吐出量を予め決められた上限値を超えない範囲でポンプ吐出量を減少させる。そして、出力軸15への動力の伝達が切り離されるHSTモータ10aに供給されていたポンプ吐出量分を、クラッチ開放前に抑制し、油圧のサージ圧の発生を抑えて応答性よく滑らかなクラッチ動作を実現して衝撃を抑制している。また、クラッチ係合移行時にはポンプ吐出量を予め決められた下限値を下まわらない範囲でポンプ吐出力を増加させる。そして、出力軸15への動力を伝達させるHSTモータ10aに供給される作動油分をクラッチ係合前に確保し、油圧の急激な変動を抑えて滑らかなクラッチ動作を実現して衝撃を抑制している。
【0034】
[クラッチ制御(開放制御・係合制御)の詳細]
ここで、上述したクラッチ制御(開放制御・係合制御)およびポンプ吐出量の制御は、クラッチステータスという概念を用いて行う。クラッチステータスは、図5に示すように、6種のステータスの定義があり、クラッチステータスが「0」のときは「開放準備」、「1」のときは「開放完」、「2」のときは「係合中」、「3」のときは「強制係合中」、「4」のときは「係合完」、「5」のときは「開放中」である。なお、クラッチステータス間の移行、すなわちクラッチ制御(開放制御・係合制御)は、図5に示した目標クラッチ指令値をHSTコントローラ31が出力することによって実行される。なお、図5に示した、時間と目標クラッチ指令値の関係を表したグラフは、図3(b)および図4(b)を併せて表したものである。
【0035】
クラッチステータスが「係合完」とは、クラッチ13が完全に繋がって、HSTモータ10aの動力が出力軸15に伝達されている状態を示すステータスであり、目標クラッチ指令値は100%である。このクラッチステータス(係合完)では、クラッチ13の開放に備えて、後述する車両ステータス、アクセル開度(スロットル出力量)(%)、クラッチステータス滞在時間(現在のクラッチステータスが変わらずに保たれている時間)によって変速点(第1マップあるいは第2マップを参照して求まる出力軸回転数)を決定し、この変速点と検出される出力軸15の回転数(以下、出力軸回転数)とが比較され、後述する遷移条件を満足する場合、クラッチステータスを「開放準備」に移行する。なお、このクラッチステータスの移行のタイミングが図5に示すように変速点Voとなる。
【0036】
クラッチステータスが「開放準備」とは、クラッチ13の開放に備えて、HSTモータ10aのモータ容量を小さくし、ある値(例えば27%)まで小さくさせる状態を示すステータスである。ここで、次のような遷移条件を満たすとクラッチステータスが「開放中」に移行する。つまり、HSTモータ10aのモータ容量が、さらにある値(例えば27%)より小さくなり、かつ所定の時間が経過したという遷移条件(詳細は後述)が満たされるとクラッチステータスを「開放中」に移行させる。
【0037】
クラッチステータスが「開放中」とは、クラッチ13を開放する状態を示すステータスであり、クラッチ指令値を100%から例えば30%に徐々に減少(モジュレーション)させて小さくしクラッチ13を開放する。なお、クラッチ指令値が30%になったら、クラッチステータスを「開放完」に移行させる。なお、このクラッチ指令値30%は、あくまで例示の数値であって、予め他の値を設定することによっても、この実施の形態は実現可能である。
【0038】
クラッチステータスが「開放完」とは、故障検出用(クラッチ制御弁14のクラッチソレノイドの天絡検出用)にクラッチ指令を0%にする状態を示すステータスである。なお、クラッチステータスが「開放完」においては、検出される出力軸回転数が、ある回転数以上で、かつ車速段が3速または4速の場合、クラッチ指令値を0%にする。また、他の回転数以下になった場合はクラッチ指令値を例えば30%にする。なお、クラッチステータスが「開放完」の状態では、次のような遷移条件(詳細は後述)でクラッチステータスが移行する。すなわち、クラッチ13の係合に備えて、車両ステータス、スロットル出力量(%)、クラッチステータス滞在時間により変速点(第1マップあるいは第2マップを参照して求まる出力軸回転数)を決定し、この変速点よりも検出される出力軸回転数が小さい場合、クラッチステータスを「係合中」に移行させる。すなわち、このクラッチステータスの移行のタイミングが図5に示すように変速点Vcとなる。なお、このクラッチ指令値30%は、あくまで例示の数値であって、予め他の値を設定することによっても、この実施の形態は実現可能である。
【0039】
クラッチステータスが「係合中」とは、クラッチ13を係合するためにクラッチ指令値を変動させる状態を示すステータスである。なお、クラッチステータスが「係合中」の状態では、次のような遷移条件(詳細は後述)でクラッチステータスが移行する。すなわち、ホイールローダ50の車速が上がり、検出される出力軸回転数が、ある回転数以上、かつ車速段が3速または4速の場合、クラッチステータスは「開放完」に移行する。また、図5に示すように、クラッチステータスが「係合中」になってから、予め定められた通常係合終了時間R2(図5参照)が経過してクラッチ指令値が100%になった場合、クラッチステータスは、「係合完」に移行する。さらに、クラッチ13を係合動作させている際に、所定の遷移条件(詳細は後述)が満たされると、クラッチ13は強制係合という係合動作を行う。クラッチステータスは、「係合中」から後述するクラッチステータス「強制係合中」に移行する。ここで、強制係合というクラッチ13の係合動作の目的について説明する。通常は、クラッチ13が係合中にクラッチ13は図5の実線で示すようなクラッチ指令値を受けて係合動作が行われる。しかし、ホイールローダ50が所定の速度以下(特に低速で走行しているような速度以下)で走行している際に、クラッチ13が係合される際の衝撃でホイールローダ50が停止するような違和感を、オペレータが感じるおそれがある。また、ホイールローダ50のバケット53に積荷を載せて登板路にさしかかった際に、開放されていたクラッチ13をすばやく係合動作させて牽引力を出したい場面がある。以上のような場合に、通常の係合であれば、図5に示す、通常係合時間R2の間にクラッチ13が係合動作されるが、クラッチステータスが「係合中」に「強制係合中」に移行するような遷移条件を設けて判断することで、通常係合時間R2(図5参照)よりも短時間でクラッチ13を係合動作(強制係合)させる。すなわち、強制係合時間R2´(図5参照)として定義される、強制係合のために必要な時間は、通常係合時間R2よりも短時間である。
【0040】
クラッチステータスが「強制係合中」とは、クラッチステータスが「強制係合中」へ移行した時点の目標クラッチ指令値から、あらかじめ定めた割合でクラッチ指令値を100%まで増加させる状態を示すステータスである(図5の破線参照)。なお、クラッチステータスが「強制係合中」にホイールローダ50の車速が上がり、次のような遷移条件(詳細は後述)を満たすとクラッチステータスは、「開放完」に移行する。すなわち、出力軸回転数が、ある回転数以上、かつ車速段が3速または4速の場合、クラッチステータスは、「開放完」に移行する。あるいは、次のような遷移条件(詳細は後述)を満たすとクラッチステータスは、「係合完」に移行する。クラッチステータスが「強制係合中」に、クラッチ指令値が100%に到達した場合、クラッチステータスを「係合完」に移行させる。つまり、図5に示した、強制係合時間R2´が経過し、図5中の破線のようにクラッチ指令値を増加させて100%に到達したら、クラッチステータスを「係合完」に移行させる。
【0041】
なお、クラッチステータスのうち、開放準備「0」と開放中「5」を合わせた期間が開放移行時間R1(図5参照)として定義され、クラッチ13が開放の準備と開放の動作を行っている時間(開放移行時)に相当する。また、クラッチステータスのうち、係合中「2」は、上記のように通常係合時間R2として定義され、クラッチ13が係合の動作を行っている時間(係合移行時)に相当する。あるいは強制係合中「3」の期間である強制係合時間R2’が、クラッチ13が係合の動作を行っている時間(係合移行時)に相当する。
【0042】
HSTコントローラ31によるクラッチ制御(開放制御・係合制御)およびポンプ吐出量制御について図6に示すフローチャートを参照して説明する。まず、HSTコントローラ31は、上述したクラッチステータスのうち、現在、どのクラッチステータスなのかを判定する(ステップS101)。その後、この判定された現在のクラッチステータスが「開放完」であるか否かを判断する(ステップS102)。クラッチステータスが「開放完」である場合(ステップS102,Yes)には、さらにHSTポンプ4の目標吐出量を算出する(ステップS103)。そして、この目標吐出量となるようにHSTポンプ4のポンプ制御弁5に対して斜板角の角度を指示する信号(ポンプ指令値)が出力され、ポンプ吐出量制御を行うとともに、クラッチ13のクラッチ制御弁14に対して、クラッチ13の開放状態を維持する信号(クラッチ指令値)が出力され、クラッチ開放制御を行って(ステップS104)、ステップS101に移行する。
【0043】
一方、クラッチステータスが「開放完」でない場合(ステップS102,No)には、さらに、クラッチステータスが「係合完」であるか否かを判断する(ステップS105)。クラッチステータスが「係合完」である場合(ステップS105,Yes)には、さらにHSTポンプ4の目標吐出量を算出する(ステップS106)。そして、この目標吐出量となるように、ポンプ指令値を出力してポンプ吐出量制御を行うとともに、クラッチ13の係合状態を維持する、クラッチ指令値を出力してクラッチ係合制御を行って(ステップS107)、ステップS101に移行する。
【0044】
一方、クラッチステータスが「係合完」でない場合(ステップS105,No)には、さらに、クラッチステータスが「係合中」または「強制係合中」であるか否かを判断する(ステップS108)。クラッチステータスが「係合中」または「強制係合中」である場合(ステップS108,Yes)には、さらにHSTポンプ4の目標吐出量を算出する(ステップS109)。つぎに、HSTポンプ4のポンプ指令値の下限値を取得する(ステップS110)。そして、図4に示したように、この下限値の制限下で、目標吐出量となるようにポンプ指令値を出力してポンプ吐出量制御を行うとともに、クラッチ13を係合させる、クラッチ指令値を出力してクラッチ係合中制御を行って(ステップS111)、ステップS101に移行する。クラッチ係合中制御とは、図4に示したように、時点t11からt12に至る間に行われる、HSTモータ10a、10bに対するモータ容量制御と、クラッチ13に対するクラッチ制御、HSTポンプ4に対するポンプ吐出量制御の3つの制御を総合したものを意味する。時点t11からt12に至る間に行われる、クラッチ係合中制御の時間は、図5に示した通常係合終了時間R2に相当する。
【0045】
一方、クラッチステータスが「係合中」または「強制係合中」でない場合(ステップS108,No)には、クラッチステータスが「開放準備」または「開放中」であり(ステップS112)、HSTポンプ4の目標吐出量を算出する(ステップS113)。さらに、HSTポンプ4のポンプ指令値の上限値を取得する(ステップS114)。そして、図3に示したように、この上限値の制限下で、目標吐出量となるようにポンプ指令値を出力してポンプ吐出量制御を行うとともに、クラッチ13を開放させる、クラッチ指令値を出力してクラッチ開放中制御を行って(ステップS115)、ステップS101に移行する。クラッチ開放中制御とは、図3に示したように、時点t1からt3に至る間に行われる、HSTモータ10a、10bに対するモータ容量制御と、クラッチ13に対するクラッチ制御、HSTポンプ4に対するポンプ吐出量制御の3つの制御を総合したものを意味する。この、時点t1からt3に至る間に行われる、クラッチ開放中制御の時間は、上記のように図5に示した開放移行時間R1に相当する。
【0046】
すなわち、ステップS111では、図4の時点t11〜t12の間のクラッチ係合移行時の制御(クラッチ係合中制御)を行い、ステップs115では、図3の時点t1〜t3の間のクラッチ開放移行時の制御(クラッチ開放中制御)を行う。
【0047】
次に、上記のポンプ指令値の上限値あるいは下限値の決め方について説明する。図7および図8は、エンジン回転数に対するアクセル開度に応じたポンプ指令値の上限値あるいは下限値を示した図である。ここで、ステップS114で取得するポンプ指令値の上限値は、図7に示すグラフのデータを参照して取得する。この上限値のデータは、HSTコントローラ31のメモリなどの記憶装置にあらかじめ記憶されている。また、ステップS110で取得するポンプ指令値の下限値は、図8に示すグラフのデータを参照して取得する。この下限値のデータは、HSTコントローラ31のメモリなどの記憶装置にあらかじめ記憶されている。これら、図7および図8に示したグラフのデータの上限値あるいは下限値は、エンジン回転数とアクセル開度とで決定される作業車両(この実施の形態の場合、ホイールローダ50)の負荷に対応して予め設定されているものである。なお、図7、図8に示したグラフのデータは、ポンプ指令値の上限値あるいは下限値であり、負荷を示す値ではない。ここで、図7、図8における曲線LA11,LA21は、アクセル開度が大きいとき、たとえばアクセル開度が90%以上のときを示し、曲線LA12,LA22は、アクセル開度が中程度のとき、たとえばアクセル開度が70%のときを示し、曲線LA13,LA23は、アクセル開度が小さいとき、たとえばアクセル開度が50%以下のときを示している。また、図7、図8に示したグラフのデータは、作業車両の種類や車格によって異なって設定されるものである。このようなポンプ指令値(ポンプ吐出量)の上限値あるいは下限値を予め設定し、作業車両の負荷に応じて上限値あるいは下限値を選択して、モータ容量制御、クラッチ制御、ポンプ吐出量制御を行うことで、クラッチ開放移行時あるいはクラッチ係合移行時におけるポンプ吐出量の抑制あるいは増加を確実かつ適切に制御する。
【0048】
図5などを用いて説明したように、クラッチステータスは、6種のクラッチステータスがあり、クラッチステータスは遷移条件という条件が満たされた場合に移行する。この遷移条件について詳細を説明する。図9は、クラッチステータスの遷移条件を示す。各々のクラッチステータスについては、図5を用いて説明したが、それぞれのクラッチステータスでそれぞれの遷移条件を満たす場合に、クラッチステータスを遷移させる。
【0049】
遷移条件1−(1) クラッチステータスが開放完から係合中に移行する場合
開放完のクラッチステータス「1」から係合中のクラッチステータス「2」に移行する場合の遷移条件について説明する。クラッチステータスが「1」になってから1秒未満の時に、ある閾値の出力軸回転数以下という条件(係合条件(1))を満足すれば、クラッチステータス「2」に移行する。ここで、ある閾値の出力軸回転数とは、図11に示すグラフを参照して求められる出力軸回転数である。すなわち、アクセル開度センサ33によって検出されたアクセル開度(スロットル出力量)から上記の係合条件(1)に対応するグラフを用いて閾値の出力軸回転数を求める。一方、クラッチステータスが同じクラッチステータスを継続している時間(上記のような、クラッチステータスが「1」になってから1秒未満)は、カウンタなどによって計測する。また、クラッチステータスが「1」になって1秒以上の時に、ある閾値の出力軸回転数以上という条件(係合条件(2))を満足すれば、クラッチステータス「2」に移行する。ここでも、ある閾値の出力軸回転数とは、図11に示す係合条件(2)のグラフを参照して求められる出力軸回転数である。
【0050】
遷移条件2−(2) クラッチステータスが係合中から強制係合中に移行する場合
係合中のクラッチステータス「2」から強制係合中のクラッチステータス「3」に移行する場合の遷移条件について説明する。高負荷時で、ある閾値の出力軸回転数以下という条件(強制係合条件(1))を満足すれば、クラッチステータス「3」に移行する。ここでも、ある閾値の出力軸回転数とは、図11に示す強制係合条件(1)のグラフを参照して求められるものである。また、高負荷時という状態は、以下のようなことを状態を意味する。HST圧力センサ37で検出される作動油圧(HST圧力)が、あらかじめ規定している値以上であって、かつ、車両ステータスがFRシャトルあるいはRFシャトルでなく、クラッチステータスが「係合中」になってから所定の時間(例えば、0.3秒)が経過し、「係合中」になった時点の出力軸回転数から、規定の量の回転数が減少したことを車速センサ36が検出した状態である。つまり、上記のように、ホイールローダ50のバケット53に積荷を載せて登板路にさしかかった際に、開放されていたクラッチ13をすばやく係合動作させて牽引力を出したい場面が、高負荷時の状態に相当する。また、シャトル時あるいは低負荷時で、ある閾値の出力軸回転数以下という条件(強制係合条件(2))を満足すれば、係合中のクラッチステータス「2」から強制係合のクラッチステータス「3」に移行する。ここでは、ある閾値の出力軸回転数とは、図11に示す強制係合条件(2)のグラフを参照して求められるものである。また、シャトル時あるいは低負荷時という状態は、以下のようなことを状態を意味する。シャトル時とは、ホイールローダ50が積荷をバケット53に積み込むために、前進走行して完全に停止しないまま後進走行に切り替える場合や、後進走行して完全に停止しないまま前進走行に切り替える場合である。すなわち、シャトル時とは、後述する車両ステータスで言えば、シャトル時を意味する、車両ステータス「3」あるいは「4」である。
【0051】
遷移条件4−(1) クラッチステータスが係合完から開放準備に移行する場合
係合完のクラッチステータス「4」から開放準備のクラッチステータス「0」に移行する場合の遷移条件について説明する。係合完では、図5に示すようにクラッチ指令値は100%である。そこで、クラッチステータス「4」になって2秒未満の時で、ある出力軸回転数以上という条件(開放条件(1))を満足すれば、クラッチステータス「0」に移行する。ここで、ある閾値の出力軸回転数とは、図12に示す開放条件(1)のグラフを参照して求められる出力軸回転数である。また、クラッチステータス「4」になって2秒以上の時で、ある閾値の出力軸回転数以上という条件(開放条件(2))を満足すれば、クラッチステータス「0」に移行する。ここで、ある閾値の出力軸回転数とは、図12に示す開放条件(2)のグラフを参照して求められる出力軸回転数である。
【0052】
遷移条件2−(1) クラッチステータスが係合中から係合完に移行する場合
係合中のクラッチステータス「2」から係合完のクラッチステータス「4」に移行する場合の遷移条件について説明する。図5に示した、通常係合終了時間R2が経過したらクラッチステータス「4」に移行する。
【0053】
遷移条件2−(3) クラッチステータスが係合中から開放完に移行する場合
係合中のクラッチステータス「2」から開放完のクラッチステータス「1」に移行する場合の遷移条件について説明する。検出された出力軸回転数が、ある規定の回転数以上であって、かつ、速度段が3速あるいは4速であるという条件を満足すれば、クラッチステータスを「1」に移行する。
【0054】
遷移条件3−(1) クラッチステータスが強制係合中から係合完に移行する場合
強制係合中のクラッチステータス「3」から係合完のクラッチステータス「4」に移行する場合の遷移条件について説明する。ポンプ目標指令値が100%に到達した場合に移行する。これは、上記に図5を用いて説明したように、クラッチ13が係合中に強制係合中なると、ポンプ指令値を増加させ、すみやかにクラッチ13を係合動作させるためポンプ指令値を100%にする(図5の破線参照)が、100%に到達したらクラッチステータスを係合完へ移行するのである。
【0055】
遷移条件3−(2) クラッチステータスが強制係合中から開放完に移行する場合
強制係合中のクラッチステータス「3」から開放完のクラッチステータス「1」に移行する場合の遷移条件について説明する。ここでは、遷移条件2−(3)と同じような条件でクラッチステータスを移行する。
【0056】
遷移条件0−(1) クラッチステータスが開放準備から開放中に移行する場合
開放準備のクラッチステータス「0」から開放中のクラッチステータス「5」に移行する場合の遷移条件について説明する。開放準備では、図5に示すようにクラッチ指令値は100%であるが、モータ指令値は図3に示すように減少させていく。モータ指令値がある値(例えば27%)以下になってから、所定の時間(例えば、0.01秒)が経過したらクラッチステータスを移行する。
【0057】
遷移条件5−(1) クラッチステータスが開放中から開放完に移行する場合
開放準備のクラッチステータス「0」から開放中のクラッチステータス「5」に移行する場合の遷移条件について説明する。開放中では、図5に示すように、所定の割合でクラッチ指令値を減少させていくが、クラッチ指令値が、ある値(例えば30%)以下になったら、クラッチステータスを移行する。
【0058】
次に車両ステータスについて説明する。車両ステータスには、図10に示すように、停止中「0」、前進「1」、後進「2」、FRシャトル「3」、RFシャトル「4」、前進N停止「5」、後進N停止「6」の7種のステータスがある。車両ステータスの現在の車両ステータス(現車両ステータス)は、以前の作業車両の状態から定められる次車両ステータスである。つまり、現車両ステータス、前後進切換レバー34の位置、車速センサ36によって検出される回転方向および出力軸回転数の4つの要素がどのような情報であるかによって、次車両ステータスが決定される。前後進切換レバー34の位置は、前進「F」、後進「R」、中立「N」の3種の位置がある。前後進切換レバー34は、オペレータが操作することによって、位置が決められる。つまり、ホイールローダ50を、前進走行させる際は前進「F」に操作され、後進走行させる際には後進「R」に操作され、エンジン1をアイドリングさせてホイールローダ50を停止させるような場合は中立「N」に操作される。前後進切換レバー34の位置を接点スイッチなどによって電気的に検出し、前進「F」、後進「R」、中立「N」をオペ選択前後進のデータとして取得する。
【0059】
現在状態が停止中とは、ホイールローダ50が走行していない状態であり、現在状態が前進とはホイールローダ50が前進走行を行っている状態であり、現在状態が後進とはホイールローダ50が後進走行を行っている状態である。また、車両状態がFRシャトルとは、ホイールローダ50が前進走行から後進走行に即座に切り換わる状態であり、車両状態がRFシャトルとは、ホイールローダ50が後進走行から前進走行に即座に切り換わる状態である。車両状態が前進N停止とは、ホイールローダ50が前進走行中に前後進切換レバー34が中立に操作された状態である。また、車両状態が後進N停止とは、ホイールローダ50が後進走行中に前後進切換レバー34が中立に操作された状態である。
【0060】
車速センサ36によって検出される回転方向が、ホイールローダ50を前進させる方向であると検出された場合は、車速センサ回転方向のデータとして「F」を取得し、他方、ホイールローダ50を後進させる方向であると検出された場合は、車速センサ回転方向のデータとして「R」を取得する。また、車速センサ36によって検出される出力軸回転数は、図10に示すように、現車両ステータスやオペ選択前後進のデータによっては、予め設定されている閾値(Vzero、Vs)との大小関係が比較される。閾値Vzeroは、ホイールローダ50が停止状態か否かを判断する値であり、出力軸回転数が0(rpm)に近い値である。また、閾値Vsは、Vzeroよりも大きな値である。閾値Vsは、ホイールローダ50がシャトル動作を行う際に、次車両ステータスが停止中「0」にすべきか否かの判断に用いられる。シャトル動作では、前後進の切り換えを即座に行うため、切り換え直後は出力軸回転数は、ある程度の値をもっている。そこで、閾値Vzeroだけでなく、閾値Vsという2つの閾値を設定し、後述する論理和を用いて、次車両ステータスを決定する。
【0061】
現車両ステータスの次車両ステータスへの遷移条件は、前後進切換レバー34の位置(オペ選択前後進のデータ)、車速センサの回転方向のデータ、および出力軸回転数のデータの論理積(アンド)である条件Aと、出力軸回転数である条件Bとの論理和(オア)を用いて定められる。この遷移条件に関連する条件Aと条件Bを常時監視することによって、車両ステータスを得ることができる。
【0062】
以上のようにして得られた車両ステータスと、アクセル開度センサ33によって検出されるアクセル開度(スロットル出力量)とによって、クラッチステータスを遷移させるために必要な「閾値としての出力軸回転数」(上記、ある閾値の出力軸回転数)が決定される。すなわち、車両ステータスが前進「1」または後進「2」のときは、図11に示したグラフのデータ(以下、第1マップ)を参照して用いることによって、閾値としての出力軸回転数が求まる。また、車両ステータスがFRシャトル「3」、RFシャトル「4」、前進N停止「5」、後進N停止「6」のときは、図12に示したグラフのデータ(以下、第2マップ)を参照して用いることによって、閾値としての出力軸回転数が求まる。なお、第1マップあるいは第2マップは、上述したクラッチステータスの遷移条件(係合条件(1)、係合条件(2)、強制係合条件(1)、強制係合条件(2)、開放条件(1)、開放条件(2))毎に、スロットル出力量(%)に応じて予め設定されている(図11,12)。
【0063】
そして、車速センサ36によって検出される出力軸回転数が、第1マップあるいは第2マップに示した、閾値としての出力軸回転数と比較され、クラッチステータスの遷移条件(係合条件(1)、係合条件(2)、強制係合条件(1)、強制係合条件(2)、開放条件(1)、開放条件(2))のいずれかを満足する場合、クラッチステータスの移行が行われる。「閾値としての出力軸回転数」は、ホイールローダ50としては、低速走行から高速走行への変速点Voあるいは高速走行から低速走行への変速点Vcとなる。変速点Voは、クラッチ13が係合状態から開放状態へと移行する点となり、変速点Vcは、クラッチ13が開放状態から係合状態へと移行する点となるのである。上述したように図10を用いて車両ステータスを決定することができれば、図11の第1マップ、もしくは図12の第2マップを使って、検出される出力軸回転数に対して、閾値としての出力軸回転数を参照比較し、クラッチステータスを決定する。出力軸回転数の変化などを監視しておくことによって、現在のクラッチステータスを得ている。そして、上述したように図6に示したステップS101を含めた、現在のクラッチステータスの判定を行うことによって、クラッチステータスに応じたポンプ吐出量制御およびクラッチ制御(開放制御・係合制御)が行われる。以上に説明したこの実施の形態について、図13を用いてまとめる。
【0064】
すなわち、図13において、まず、車両ステータス(次車両ステータス)を決定する(ステップS210)。この車両ステータス決定のため、図10に示したように、現車両ステータスの情報を取得し、前後進切換レバーの位置の情報を取得し、さらに車両センサにより回転方向と出力軸回転数の情報を取得する。
【0065】
さらに、アクセル開度センサ33によりアクセル開度の情報を取得し、さらに車両ステータスに応じた出力軸回転数(変速点)の情報を取得する(ステップS202)。この出力軸回転数(変速点)の情報の取得は、第1マップあるいは第2マップから取得する。さらに、現在のクラッチステータスの情報を取得する(ステップS203)。さらに、車速センサにより現在の出力軸回転数の情報を取得する(ステップS204)。
【0066】
その後、図9に示したクラッチステータスの遷移条件の成立判定を行う(ステップS205)。この遷移条件の成立判定に用いられる情報としては、
(1)現在のクラッチステータスの情報
(2)現在の出力軸回転数の情報
(3)出力軸回転数(変速点)の情報
(4)経過時間
(5)HST圧力センサにより検出されるHST圧力の情報
(6)作業車両の現在の車速段
(7)現在の車両ステータスの情報
(8)現在のポンプ指令値の情報
がある。なお、遷移条件によって(1)〜(8)のうちの1つあるいは複数の情報を用いて遷移条件の成立判定を行う。
【0067】
その後、ステップS205における遷移条件の成立判定結果をもとに、クラッチステータスの遷移を行う(ステップS206)。そして、図6のフローチャートに示した制御を実行する(ステップS207)。すなわち、クラッチ制御(係合制御・開放制御)、HSTポンプのポンプ吐出量制御、およびHSTモータのモータ容量制御を行う。その後、ステップS210に移行して上述した処理を繰り返し行う。
【0068】
[変形例]
上述した実施の形態では、エンジン回転数とアクセル開度とをもとに作業車両の負荷を求めていたが、エンジン回転数とインテークマニホールド圧とをもとに作業車両の負荷を求めるようにしてもよい。アクセル開度を検出することは、エンジン1の負荷状態を間接的に検出することである。そこで、エンジン1へ空気を吸い込む経路であるインテークマニホールドにおける、インテークマニホールドを通過する空気の圧力(インテークマニホールド圧)を、圧力センサを用いて空気圧を検出するようにすれば、エンジン1の負荷状態を直接的に検出することとなるため、作業車両の負荷をより安定的かつ精度良く検出することができる。結果的に、クラッチステータスの遷移を高精度で行うことができ、クラッチ制御(開放制御・係合制御)の高精度化を図ることができる。
【0069】
この実施の形態では、クラッチ開放移行時に、ポンプ指令値の上限値という制限下でポンプ吐出量を抑制し、クラッチ係合移行時に、ポンプ指令値の下限値という制限下でポンプ吐出量を増加するという制御を行っているため、HSTモータ10a、10bの小型化によって、大きな変速ギア比が求められる設計や、さらにはエンジン1の性能が向上し大きなポンプ吸収トルクが求められる設計に対しても、この実施形態に係る制御装置や制御方法によれば、クラッチ13の係合あるいは開放の際の衝撃が抑制され滑らかなクラッチ動作を行うことができ、オペレータに対しては良好な操作感を与えて、作業車両のクラッチや油圧機器等に対して特別な耐久性向上策を付与する必要がない。よって、ホイールローダ50などの作業車両の新規設計や設計変更に対して迅速かつ容易に対応することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン
1a エンジン回転数センサ
1b 燃料噴射装置
2 作業機用油圧ポンプ
3 チャージポンプ
4 走行用油圧ポンプ(HSTポンプ)
5 ポンプ制御弁
6 ポンプ容量制御シリンダ
7,8 高圧リリーフ弁
9 低圧リリーフ弁
10a,10b 走行用油圧モータ(HSTモータ)
11a,11b モータ制御用電子サーボ弁
12a,12b モータシリンダ
13 クラッチ
14 クラッチ制御弁
15 出力軸
19a 作業機用油圧シリンダ(リフトシリンダ)
19b 作業機用油圧シリンダ(バケットシリンダ)
20 HST回路
30 車体コントローラ
31 HSTコントローラ
32 エンジンコントローラ
33 アクセル開度センサ
33a アクセルペダル
34 前後進切換レバー
36 車速センサ
37 HST圧力センサ
50 ホイールローダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動される油圧ポンプと2つの油圧モータとが閉回路であって前記油圧ポンプに対して前記2つの油圧モータが並列接続された油圧回路を有し、1つの油圧モータの出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるように前記クラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの動力によって走行する作業車両の制御装置において、
前記作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量と前記エンジンのエンジン回転数から求める負荷検出手段と、
前記クラッチの開放移行制御時に、前記負荷検出手段により求めた作業車両負荷をもとに、予め求められた前記油圧ポンプの上限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を小さくする制御を行う制御手段を備えたことを特徴とする作業車両の制御装置。
【請求項2】
エンジンによって駆動される油圧ポンプと2つの油圧モータとが閉回路であって前記油圧ポンプに対して前記2つの油圧モータが並列接続された油圧回路を有し、1つの油圧モータの出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるように前記クラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの動力によって走行する作業車両の制御装置において、
前記作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量と前記エンジンのエンジン回転数から求める負荷検出手段と、
前記クラッチの係合移行制御時に、前記負荷検出手段により求めた作業車両負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの下限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を大きくする制御を行う制御手段を備えたことを特徴とする作業車両の制御装置。
【請求項3】
前記作業車両負荷は、エンジン回転数とアクセル開度あるいはインテークマニホールド圧とをもとに求めることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、クラッチの開放状態、開放中状態、係合状態および係合中状態を含んだクラッチ状態を示すクラッチステータスをもとに前記クラッチの開放移行制御時を判定することを特徴とする請求項1または3に記載の作業車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、クラッチの開放状態、開放中状態、係合状態および係合中状態を含んだクラッチ状態を示すクラッチステータスをもとに前記クラッチの係合移行制御時を判定することを特徴とする請求項2または3に記載の作業車両の制御装置。
【請求項6】
前記クラッチステータスは、作業車両の走行状態の遷移を示す車両ステータスと、アクセル開度をもとに求められた前記出力軸の回転数とをもとに遷移することを特徴とする請求項4または5に記載の作業車両の制御装置。
【請求項7】
エンジンによって駆動される油圧ポンプと2つの油圧モータとが閉回路であって前記油圧ポンプに対して前記2つの油圧モータが並列接続された油圧回路を有し、1つの油圧モータの出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるように前記クラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの動力によって走行する作業車両の制御方法において、
前記作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量と前記エンジンのエンジン回転数から作業車両負荷を求め、
前記クラッチの開放移行制御時に、求めた作業車両負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの上限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を小さくする制御を行うことを特徴とする作業車両の制御方法。
【請求項8】
エンジンによって駆動される油圧ポンプと2つの油圧モータとが閉回路であって前記油圧ポンプに対して前記2つの油圧モータが並列接続された油圧回路を有し、1つの油圧モータの出力軸への動力の伝達がクラッチを介して行われるように前記クラッチの開放または係合が行われ、該1つまたは2つの油圧モータの動力によって走行する作業車両の制御方法において、
前記作業車両の作業車両負荷をスロットル出力量と前記エンジンのエンジン回転数から作業車両負荷を求め、
前記クラッチの係合移行制御時に、求めた作業車両負荷をもとに予め求められた前記油圧ポンプの下限吐出量の制限下で前記油圧ポンプのポンプ吐出量を大きくする制御を行うことを特徴とする作業車両の制御方法。
【請求項9】
前記作業車両負荷は、エンジン回転数とアクセル開度あるいはインテークマニホールド圧とをもとに求めることを特徴とする請求項7または8に記載の作業車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−11361(P2013−11361A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231331(P2012−231331)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2011−100048(P2011−100048)の分割
【原出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】