説明

作業車両の走行変速装置

【課題】路上走行に際して素早く路上走行に適した変速段から発進できるようにする。
【解決手段】アクチュエータ(油圧クラッチC)の作動によって複数段に変速可能な主変速装置(5、8)と、副変速レバー23によって切り換えられる副変速装置7と、主変速装置(5、8)を増減速させる変速スイッチ(24、25)と、副変速レバー23を高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチ23と、副変速レバー23が高速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最低速段に切り換え、また、副変速レバー23が低速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最高速段に切り換え、さらに、高速スタートスイッチ23を操作しながら副変速レバー23が高速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換える制御装置29とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタなどの作業車両の走行変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタなどの作業車両の走行変速装置としては、アクチュエータの作動によって複数段に変速可能な主変速装置と、副変速レバーによって切り換えられる副変速装置と、主変速装置を増減速させる変速スイッチと、変速スイッチからの変速指令などに基づいて変速装置の制御を行う制御装置とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。特許文献1、2に示される走行変速装置では、副変速レバーを操作した後の主変速装置の変速段を任意に設定できるようにしてある。また、特許文献3に示される走行変速装置では、副変速レバーを高速側に切り換え操作した場合の主変速装置の自動変速位置を中間の変速段とするようにしてある。
【特許文献1】特開2004−9998号公報
【特許文献2】特許第3274362号公報
【特許文献3】特開2003−42288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1、2に示される走行変速装置では、再び設定変更操作を行わない限り、副変速レバーを操作した後の主変速装置の変速段を決定することができないため、迅速に主変速装置の変速段を選択することができないだけでなく、設定変更操作が煩わしいという不都合がある。また、特許文献3に示される走行変速装置では、副変速レバーを操作した後の主変速装置の変速段が一つに固定されているため、路上走行時における低速発進が行えず、発進ショックを嫌うユーザにとっては好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、作業車両の走行変速装置であって、アクチュエータの作動によって複数段に変速可能な主変速装置と、副変速レバーによって切り換えられる副変速装置と、主変速装置を増減速させる変速スイッチと、副変速レバーを高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチと、副変速レバーが高速側に切り換えられたときには主変速装置を最低速段に切り換え、また、副変速レバーが低速側に切り換えられたときには主変速装置を最高速段に切り換え、さらに、高速スタートスイッチを操作しながら副変速レバーが高速側に切り換えられたときには主変速装置を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換える制御装置と、を備えることを特徴とする。このようにすると、路上走行に際して変速スイッチの操作回数を減らして素早く路上走行に適した変速段から発進したい場合は、高速スタートスイッチを操作しながら副変速レバーを高速側に切り換えれば、主変速装置を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換えて走行することができる。また、発進ショックを嫌い滑らかに発進させたい場合は、高速スタートスイッチを操作することなく、副変速レバーを高速側に切り換えれば、主変速装置を最低速段に切り換えて走行することができる。
また、前記高速スタートスイッチを、変速スイッチが設けられる副変速レバーのグリップ部に設けたことを特徴とする。このようにすると、副変速レバーを高速側に切り換えた後の主変速装置の変速段を、同一グリップ上における二通りの操作方法によって選択することができるので、オペレータの操作負担を軽減し、操作性を向上させることができる。また、高速スタートスイッチを例えば親指で押しながら、副変速レバーを高速側に操作できるので、片手で操作ができ操作性がよい。
また、前記制御装置は、副変速レバーを高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチが操作された場合は、主変速装置を中速段に切り換える制御を不能とすることを特徴とする。このようにすると、副変速レバーを高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチが操作された場合は、主変速装置を中速段に切り換える制御が行われないため、高速スタートスイッチの誤操作による走行中の急激な変速を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、Tは農用のトラクタ(作業車両)であって、該トラクタTには、トランスミッションケース1が搭載されている。図2に示すように、トランスミッションケース1は、主クラッチ機構2を介してエンジンEの動力を入力すると共に、入力した動力を走行動力伝動経路3とPTO動力伝動経路4とに分岐させる。
【0006】
走行動力伝動経路3には、摩擦多板式の油圧クラッチ(アクチュエータ)C1〜C4を用いて構成され、4段の変速を行う第一主変速装置5と、摩擦多板式の油圧クラッチCF、CRを用いて構成され、走行動力の正逆転変速を行う前後進切換装置6と、常時噛合式の歯車変速装置を用いて構成され、3段の変速を行う副変速装置7と、摩擦多板式の油圧クラッチCL、CHを用いて構成され、高低2段の変速を行う第二主変速装置8とが設けられている。
【0007】
図3に示すように、上記の構成によれば、前後進切換装置6による変速によって前進と後進の切り換えができると共に、第一主変速装置5と第二主変速装置8による変速の組み合せによって8段の走行変速が可能であり、さらに、副変速装置7による変速を組み合せることによって24段の走行変速が可能になる。ここで、副変速装置7が備える3段の変速位置のうち、低速位置L及び中速位置Mは、主に作業走行時に選択されるため、変速可能な車速範囲が比較的狭い(超低速〜4km/h程度)のに対し、高速位置Hは、主に路上走行時に選択されるため、変速可能な車速範囲を広く(6〜28km/h)してある。
【0008】
第一主変速装置5、副変速装置7及び第二主変速装置8で変速された走行動力は、前車軸及び後車軸に伝動される。前車軸への動力伝動経路には、前車軸に伝達する動力を高低に変速又は切断する倍速伝動装置9が設けられており、該倍速伝動装置9による動力の変速又は切断によって、旋回時における前輪倍速駆動や4駆、2駆の切換えが行われるようになっている。そして、倍速伝動装置9は、摩擦多板式の油圧クラッチを用いて構成されることにより、円滑な変速や切断が可能となっている。
【0009】
PTO動力伝動経路4には、摩擦多板式の油圧クラッチを用いて構成されるPTOクラッチ10と、常時噛合式の歯車変速装置を用いて構成されるPTO変速装置11とが設けられており、走行状態に影響されない独立したPTO動力伝動系、すなわち、インディペンデントPTO仕様のPTO動力伝動経路4を構成している。
【0010】
本実施形態のトラクタTには、図4に示すような油圧回路が構成されている。この油圧回路は、2つの油圧ポンプP1、P2を備え、一方の油圧ポンプP1から供給される油圧で、倍速伝動装置9、リフトシリンダ12及びリフトロッドシリンダ13を動作させ、他方の油圧ポンプP2から供給される油圧で、ステアリングユニット14、第一主変速装置5、前後進切換装置6、第二主変速装置8、PTOクラッチ10及び自動ブレーキ旋回装置15を動作させるように構成されている。
【0011】
少なくとも、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHは、電磁弁の制御にもとづいて作動される。電磁比例弁の昇圧制御にもとづく油圧クラッチの作動制御によれば、変速ショックの少ない円滑な走行変速が可能となるが、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の各油圧クラッチC1〜C4、CL、CHをすべて電磁比例弁で制御するものでは、電磁比例弁の必要個数が多くなり、高価な走行変速装置となってしまうという問題がある。また、第二主変速装置8の各油圧クラッチCL、CHを電磁比例弁で制御し、第一主変速装置5の各油圧クラッチC1〜C4を電磁方向切換え弁で制御するようにした場合、安価な走行変速装置とすることが可能であるが、電磁比例弁の昇圧制御にもとづいて円滑な走行変速を行うには、変速の度に第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続しなければならないため、第二主変速装置8に設けられる油圧クラッチCL、CHの耐久性を向上させなければならない。
【0012】
そこで、本実施形態のトラクタTでは、図4に示すように、第一主変速装置5の各油圧クラッチC1〜C4を、それぞれ電磁比例弁16a〜16dの昇圧制御にもとづいて択一的に作動制御し、第二主変速装置8の各油圧クラッチCL、CHを、電磁方向切換弁17の切換え制御にもとづいて作動制御する。このようにすると、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の各油圧クラッチC1〜C4、CL、CHをすべて電磁比例弁で制御するものに比べ、走行変速装置を安価に構成することができる。また、変速の度に第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続する必要がないので、第二主変速装置8に設けられる油圧クラッチCL、CHの耐久性を向上させるためのコストアップが回避される。尚、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを作動させる油路には、油圧クラッチCL、CHの接続状態を検出すための圧力スイッチ18が設けられ、また、油圧回路の適所には、作動油の温度を検出するための油温センサ19が設けられている。
【0013】
図1及び図5に示すように、トラクタTの機体上には、オペレータが乗車する操作部20が構成されている。操作部20には、オペレータが着座する運転席が設けられると共に、走行操作や作業機Wの操作を行うための各種操作具が設けられている。例えば、運転席21の前方には、機体を操向するためのステアリングハンドルHや、前後進切換装置6を切り換えるための前後進切換レバー22が設けられ、運転席21の左側方には、副変速装置7を切り換えるための副変速レバー23が設けられている。また、副変速レバー23のグリップ部23aには、第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速操作するための変速スイッチ(増速スイッチ24、減速スイッチ25)が設けられると共に、副変速レバー23を高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチ26が設けられている。
【0014】
図6に示すように、運転席21の前方には、メータパネル27が設けられている。メータパネル27内には、タコメータや各種のモニタランプが設けられるだけでなく、各種の状態表示や設定表示を行う表示部28が設けられている。本実施形態の表示部28は、液晶パネルで構成されると共に、表示部28の下方位置に設けられる複数の操作スイッチSW1〜SW6で画面の切り換え操作や、各種の設定操作が行われるようになっている。
【0015】
図7に示すように、トラクタTには、マイコンなどを用いて構成される制御装置29が設けられている。本実施形態の制御装置29は、3つのマイコン29a〜29cを用いて構成されており、その入力側には、前述した圧力スイッチ18、油温センサ19、増速スイッチ24、減速スイッチ25、高速スタートスイッチ26、操作スイッチSW1〜SW6に加え、副変速レバー23の操作位置(高速、中速、低速、ニュートラル)を検出する4つの副変速スイッチ30〜33と、前後進切換レバー22の操作位置(前進、後進、ニュートラル)を検出する3つの前後進スイッチ34〜36と、車速を検出する車速センサ37と、エンジン回転を検出するエンジン回転センサ38とが接続されている。また、制御装置29の出力側には、前述した電磁比例弁16a〜16d、電磁方向切換弁17、表示部28などが接続されている。
【0016】
制御装置29は、予めROMに書き込まれたプログラムにしたがって、主に電磁比例弁16a〜16d及び電磁方向切換弁17を制御し、図8に示すような変速パターンを現出させる。具体的には、増速スイッチ24の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速させるシフトアップ制御、減速スイッチ25の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速させるシフトダウン制御、副変速レバー23の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速させる副変速操作連動制御、エンジン始動時における第一主変速装置5及び第二主変速装置8の初期変速段を設定する初期変速段設定制御、前後進切換レバー22の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を入り切りさせる前後進操作連動制御などが行われるようになっている。以下、各制御について順次説明する。
【0017】
シフトアップ制御は、増速スイッチ24の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速させる制御であり、図9の(A)に示すように、副変速装置7が低速位置(L速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて1速から8速までシフトアップさせ、副変速装置7が中速位置(M速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて9速から16速までシフトアップさせ、副変速装置7が高速位置(H速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて17速から24速までシフトアップさせる。ただし、1〜4速(9〜12速、17〜20速)、5〜8速(13〜16速、21〜24速)の範囲内におけるシフトアップ制御時には、第二主変速装置8を切り換えることなく、第一主変速装置5を一段上の変速段に切り換え、4速から5速(12速から13速、20速から21速)へのシフトアップ制御時には、第二主変速装置8を一段上の変速段に切り換えると共に、第一主変速装置5を最低速段に切り換える。
【0018】
シフトダウン制御は、減速スイッチ25の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速させる制御であり、図9の(A)に示すように、副変速装置7が低速位置(L速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて8速から1速までシフトダウンさせ、副変速装置7が中速位置(M速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて16速から9速までシフトアップさせ、副変速装置7が高速位置(H速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて24速から17速までシフトアップさせる。ただし、4〜1速(12〜9速、20〜17速)、8〜5速(16〜13速、24〜21速)の範囲内におけるシフトダウン制御時には、第二主変速装置8を切り換えることなく、第一主変速装置5を一段下の変速段に切り換え、5速から4速(13速から12速、21速から20速)へのシフトアップ制御時には、第二主変速装置8を一段下の変速段に切り換えると共に、第一主変速装置5を最高速段に切り換える。
【0019】
副変速操作連動制御は、副変速レバー23の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を変速させる制御であり、原則として、副変速レバー23が高速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最低速段(9速、17速)に切り換え、また、副変速レバー23が低速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最高速段(8速、16速)に切り換えるが、前述した高速スタートスイッチ26を操作しながら副変速レバー23が高速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最低速段と最高速段の間の中速段(例えば、21速)に切り換える例外的な処理を行う。このようにすると、路上走行に際して変速スイッチ(24、25)の操作回数を減らして素早く路上走行に適した変速段から発進したい場合は、高速スタートスイッチ26を操作しながら副変速レバー23を高速側に切り換えれば、主変速装置(5、8)を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換えて走行することができる。また、発進ショックを嫌い滑らかに発進させたい場合は、高速スタートスイッチ26を操作することなく、副変速レバー23を高速側に切り換えれば、主変速装置(5、8)を最低速段に切り換えて走行することができる。
【0020】
また、高速スタートスイッチ26は、変速スイッチ(24、25)が設けられる副変速レバー23のグリップ部23aに設けられているので、副変速レバー23を高速側に切り換えた後の主変速装置(5、8)の変速段を、同一グリップ23a上における二通りの操作方法によって選択することが可能になり、その結果、オペレータの操作負担を軽減し、操作性を向上させることができる。また、高速スタートスイッチ26を例えば親指で押しながら、副変速レバー23を高速側に操作できるので、片手で操作ができ操作性がよい。
【0021】
また、制御装置29は、副変速レバー23を高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチ26が操作された場合、主変速装置(5、8)を中速段に切り換える制御を不能とすることが好ましい。このようにすると、副変速レバー23を高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチ26が操作された場合は、主変速装置(5、8)を中速段に切り換える制御が行われないため、高速スタートスイッチ26の誤操作による走行中の急激な変速を防止することができる。
【0022】
具体的に説明すると、本実施形態の副変速操作連動制御は、図9の(B)及び(C)に示すような変速パターンを現出させる。例えば、副変速レバー23が何れかの変速位置(低速、中速、高速)からニュートラル位置を経て再び同じ変速位置に操作された場合は、主変速装置(5、8)の変速段を前回の変速段とし、副変速レバー23が高速位置又は中速位置から低速位置に操作された場合は、主変速装置(5、8)の変速段を最高速段(8速)とし、副変速レバー23が低速位置から中速位置に操作された場合は、主変速装置(5、8)の変速段を最低速段(9速)とし、副変速レバー23が高速位置から中速位置に操作された場合は、主変速装置(5、8)の変速段を最高速段(16速)とし、副変速レバー23が低速位置又は中速位置から高速位置に操作された場合は、主変速装置(5、8)の変速段を最低速段(17速)とし、さらに、高速スタートスイッチ26を押しながら副変速レバー23が低速位置又は中速位置から高速位置に操作された場合は、主変速装置(5、8)の変速段を中速段(21速)とする。
【0023】
初期変速段設定制御は、エンジン始動時(キースイッチONによる電源供給後の任意のタイミング)における第一主変速装置5及び第二主変速装置8の初期変速段を設定する制御であり、電源が切られる前の主変速装置(5、8)及び副変速装置7の変速段を記憶すると共に、再び電源が供給された後のエンジン始動時に主変速装置(5、8)の初期変速段を設定するにあたり、記憶された前回の主変速装置(5、8)及び副変速装置7の変速段、並びに現在の副変速装置の変速段に基づいて、前回と現在の副変速装置7の変速段が同じであると判断した場合には、主変速装置(5、8)の初期変速段を、前回の主変速装置(5、8)及び副変速装置7の変速段を参照して前回の主変速装置(5、8)の変速段又はこれに近似する変速段に設定し、また、前回と現在の副変速装置7の変速段が異なると判断した場合には、主変速装置(5、7)の初期変速段を、現在の副変速装置7の変速段を参照して所定の変速段に設定する。このようにすると、作業を中断した後、副変速レバー23を切り換えることなく作業を再開した場合には、主変速装置(5、8)の初期変速段が、前回の主変速装置(5、8)の変速段又はこれに近似する変速段となるので、作業再開後、変速スイッチ(24、25)を操作しなくても(又は少ない操作回数で)、中断前の作業速度を再現することができる。また、前回と現在の副変速装置7の変速段が異なる場合には、一時的な中断後の作業再開ではなく、走行状態に何らかの変化(例えば、作業走行から路上走行への変化)が生じたと見做し、主変速装置(5、8)の初期変速段を所定の変速段とすることができるので、走行を開始したときに不測に高速で発進するといった不都合を防止できる。
【0024】
また、制御装置29は、前回の副変速装置7の変速段が中立位置で終了したと判断した場合には、主変速装置(5、8)の初期変速段を、現在の副変速装置7の変速段、又はその後に変速操作された副変速装置7の変速段を参照して所定の変速段(例えば、5速、9速、17速)に設定することが好ましい。このようにすると、前回の副変速装置7の変速段が中立位置で終了した場合には、一日の作業始めであったり、長期間にわたって車庫に保管された車両の始動であると見做し、主変速装置(5、8)の初期変速段を所定の変速段とすることができるので、走行を開始したときに不測に高速で発進するといった不都合を防止できる。
【0025】
また、制御装置29は、前回及び現在の副変速装置7の変速段が高速段であると判断した場合には、主変速装置(5、8)の初期変速段を、現在の副変速装置7の変速段を参照して所定の変速段(例えば、17速)に設定することが好ましい。このようにすると、前回及び現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合には、路上走行が行われていると見做し、主変速装置(5、8)の初期変速段を所定の変速段とすることができるので、走行を開始したときに不測に高速で発進するといった不都合を防止できる。
【0026】
具体的に説明すると、本実施形態の初期変速段設定制御は、図10に示すような変速パターンを現出させる。例えば、前回の副変速装置7の変速段が中立位置で、現在の副変速装置7の変速段が低速段である場合、又はその後に中立位置から低速段に操作された場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を5速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が中立位置で、現在の副変速装置7の変速段が中速段である場合、又はその後に中立位置から中速段に操作された場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を9速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が中立位置で、現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合、又はその後に中立位置から高速段に操作された場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を17速とし、さらに、前回の副変速装置7の変速段が中立位置で、現在の副変速装置7の変速段が中立位置であり、その後に高速スタートスイッチ26を押しながら中立位置から高速段に操作された場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を21速とする。
【0027】
また、前回の副変速装置7の変速段が低速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が1速〜4速であって、現在の副変速装置7の変速段が低速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を前回と同じ変速段とし、また、前回の副変速装置7の変速段が低速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が1速〜4速であって、現在の副変速装置7の変速段が中速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を9速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が低速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が1速〜4速であって、現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を17速とする。
【0028】
また、前回の副変速装置7の変速段が低速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速であって、現在の副変速装置7の変速段が低速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を5速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が低速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速であって、現在の副変速装置7の変速段が中速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を9速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が低速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速であって、現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を17速とする。
【0029】
また、前回の副変速装置7の変速段が中速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が1速〜4速(9速〜12速)であって、現在の副変速装置7の変速段が低速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を5速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が中速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が1速〜4速(9速〜12速)であって、現在の副変速装置7の変速段が中速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を9速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が中速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が1速〜4速(9速〜12速)であって、現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を17速とする。
【0030】
また、前回の副変速装置7の変速段が中速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速(13速〜16速)であって、現在の副変速装置7の変速段が低速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を5速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が中速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速(13速〜16速)であって、現在の副変速装置7の変速段が中速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を13速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が中速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速(13速〜16速)であって、現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を17速とする。
【0031】
また、前回の副変速装置7の変速段が高速段で、現在の副変速装置7の変速段が低速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を5速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が高速段で、現在の副変速装置7の変速段が中速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を9速とし、また、前回の副変速装置7の変速段が高速段で、現在の副変速装置7の変速段が高速段である場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を17速とする。ただし、前回の副変速装置7の変速段が高速段で、かつ、前回の主変速装置(5、8)の変速段が5速〜8速(21速〜24速)であって、現在の副変速装置7の変速段が高速段で、かつ、高速スタートスイッチ26が押されている場合は、主変速装置(5、8)の初期変速段を21速とする。
【0032】
前後進操作連動制御は、前後進切換レバー22の操作に応じて第一主変速装置5及び第二主変速装置8を入り切りさせる制御であり、前後進切換装置6がニュートラル位置から前進又は後進に切り換えられた場合には、変速スイッチ(24、25)によって設定される第一及び第二主変速装置(5、8)の所定変速段の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを入り作動させ、前後進切換装置6が前進又は後進からニュートラル位置に切り換えられた場合には、第一及び第二主変速装置(5、8)の接続された油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを切り作動させる。尚、前後進切換レバー22の操作に応じて前後進切換装置6の油圧クラッチCF、CRも制御されるが、この制御は前後進操作連動制御の対象外とする。
【0033】
次に、制御装置29による第一主変速装置5及び第二主変速装置8(電磁比例弁16a〜16d及び電磁方向切換弁17)の具体的な制御手順について、図11〜図18を参照して説明する。
【0034】
図11に示すように、制御装置29は、まず、前後進切換レバー22、副変速レバー23、変速スイッチ(24、25)などの操作を待つ変速待ちを行い(S101)、ここでニュートラル操作が行われた場合は、所定のニュートラル処理を実行する(S102)。一方、その他の操作が行われた場合は、操作の種類や状況に応じて4つの処理に振分けされる。第一の処理は、第一主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4の作動状態を変更するための処理であり、また、第二の処理は、副変速装置7が低速側(低速位置又は中速位置)に切り換えられている状態で、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの作動状態を変更するための処理であり、また、第三の処理は、副変速装置7が高速側(高速位置)に切り換えられている状態で、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの作動状態を変更するための処理であり、また、第四の処理は、前後進切換装置6がニュートラル位置から前進又は後進位置に切り換えられた場合に、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの作動状態を変更するための処理である。
【0035】
第一の処理は、例えば、主変速装置(5、8)を1速〜4速、5速〜8速の範囲でシフトアップしたり、シフトダウンする場合に実行される油圧クラッチC1〜C4の接続処理であって、図11及び図12に示すように、接続する油圧クラッチC1〜C4の電磁比例弁16a〜16dに、所定の最大電流を流して油圧クラッチC1〜C4に油を充填した後(S103)、電磁比例弁16a〜16dに流す電流値をクラッチミート用の電流値まで低下させて油圧クラッチC1〜C4をミート状態(接続開始状態)とし(S104)、その後、電磁比例弁16a〜16dを昇圧制御して油圧クラッチC1〜C4を円滑に接続させる(S105)。
【0036】
第二の処理は、例えば、副変速装置7が低速側(低速位置又は中速位置)に切り換えられている状態で、主変速装置(5、8)を4速から5速にシフトアップしたり、5速から4速にシフトダウンする場合に実行される油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの切断・接続処理であって、まず、第一主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切り作動させると共に(S106)、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHの切断・接続処理(現変速段の切り作動及び次変速段の入り作動)を行い(S107)、その後、前述した第一の処理のステップS103〜S105を用いて、第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を入り作動させる。
【0037】
第三の処理は、例えば、副変速装置7が高速側(高速位置)に切り換えられている状態で、主変速装置(5、8)を4速から5速にシフトアップしたり、5速から4速にシフトダウンする場合に実行される油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの切断・接続処理であって、まず、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の現変速段の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを切り作動させた後(S108)、第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を暫時接続(ワンショット)する回転同期処理を行う(S109)。その後、当該油圧クラッチC1〜C4の接続を解除(低電流保持)すると共に(S110)、第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続させ(S111)、その後に、第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御により接続させる(S105)。
【0038】
第四の処理は、前後進切換装置6がニュートラル位置から前進又は後進位置に切り換えられた場合に、第一主変速装置5及び第二主変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの作動状態を変更するための処理であって、まず、所定の前後進切換処理を行った後(S112)、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHの接続処理を行い(S107)、その後、前述した第一の処理のステップS103〜S105を用いて、第一主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4を入り作動させる。
【0039】
次に、上記第一〜第四の処理及びニュートラル処理に含まれる本実施形態の特徴的な構成について、図13〜図18を参照して説明する。
【0040】
図13〜図16に示すように、制御装置29は、変速スイッチ(24、25)からの増減速指令に応じて第一及び第二主変速装置5、8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの作動状態を変更する場合に、副変速装置7が低速側に切り換えられている状態にあっては、第一及び第二主変速装置5、8の現変速段の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを切り作動させると共に、第二主変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHの切断完了と同時に第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHの入り作動を開始し、そして、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHの接続完了を待って第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御しながら入り作動させ、また、副変速装置7が高速側に切り換えられている状態にあっては、第一及び第二主変速装置5、8の現変速段の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを切り作動させると共に、第二主変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHの切断完了を待って第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を暫時入り作動させてクラッチの接続を行った後、そのクラッチの接続を解除し、また、この間に第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHの入り作動を開始し、そして、この第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHの接続完了を待って第一主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4の接続を再開させるべく昇圧制御する。
【0041】
このようにすると、第一主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4を電磁比例弁16a〜16dで制御し、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを電磁方向切換弁17で制御する場合であっても、変速ショックを軽減することができる。つまり、副変速装置7が高速側(路上走行)に切り換えられている状態にあっては、現変速段と次変速段との回転数差が大きいため、電磁方向切換弁17で制御される第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを接続する際に大きな変速ショックが発生する可能性があるが、第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを入り作動させる前に、第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を暫時入り作動させる回転同期処理を行い、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHの伝動上手側と伝動下手側との回転差を小さくするので、変速ショックを軽減することができる。また、副変速装置7が低速側(作業走行)に切り換えられている状態にあっては、現変速段と次変速段との回転数差が小さいため、上記の回転同期処理を省いて変速時間を短縮する。これにより、走行負荷が大きい作業走行において、変速中に急減速したり、走行停止に至る不都合を回避し、円滑な変速作動を実現することができる。
【0042】
また、図15及び図16に示すように、制御装置29は、副変速装置7が高速側に切り換えられている状態において、第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHの入り作動を開始するにあたり、その油圧クラッチCL、CHの接続の完了が、第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を暫時入り作動させてクラッチの接続を行った後、そのクラッチの接続が解除されるタイミング以降になされるように、当該接続解除タイミングに先行して第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHの入り作動を開始する。このようにすると、副変速装置7が高速側に切り換えられている状態において、第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHの入り作動を開始するにあたり、第一主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を暫時入り作動させてクラッチの接続を行った後、そのクラッチの接続が解除されてから第二主変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHの入り作動を開始する場合に比べ、変速時間を短縮できるので、動力伝達切り状態を少なくして変速ショックをさらに軽減することができる。
【0043】
また、図17及び図18に示すように、制御装置29は、前後進切換装置6がニュートラル位置から前進又は後進に切り換えられた場合には、変速スイッチ(24、25)によって設定される第一及び第二主変速装置5、8の所定変速段の油圧クラッチC1〜C4を入り作動させ、前後進切換装置6が前進又は後進からニュートラル位置に切り換えられた場合には、第一主変速装置5の接続された油圧クラッチC1〜C4を直ちに切り作動させる一方、第二主変速装置8の接続された油圧クラッチCL、CHは予め設定した保持時間を経過した後に切り作動させる。このようにすると、前後進切換装置6が前進又は後進からニュートラル位置に切り換えられた場合には、第一及び第二主変速装置5、8の接続された油圧クラッチC1〜C4、CL、CHが全て切りとなるので、油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの付き回りに伴う機体の不測な微動を防止できるだけでなく、油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの焼き付き等も防止し、油圧クラッチC1〜C4、CL、CHの耐久性を向上させることができる。また、前後進切換装置6が前進又は後進からニュートラル位置に切り換えられた場合、第二主変速装置8の接続された油圧クラッチCL、CHは、予め設定した保持時間を経過した後に切りとなるので、上り坂や下り坂であっても、機体や伝動機構の慣性力によって下り側への急激なずり落ちが防止され、ゆとりをもってブレーキの手動操作を行うことができる。
【0044】
また、図17に示すように、制御装置29は、第二主変速装置8の保持時間以内に前後進切換装置6がニュートラル位置から前進又は後進に切り換えられた場合には、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを接続させたまま、変速スイッチ(24、25)によって設定される第一主変速装置5の所定変速段の油圧クラッチC1〜C4を入り作動させる。このようにすると、前後進切換レバー22を前進から後進又は後進から前進に素早く操作した場合には、第二主変速装置8の油圧クラッチCL、CHを接続させたまま、第一主変速装置5の所定変速段の油圧クラッチC1〜C4を入り作動させるので、変速時間を短縮して坂による機体のずり落ちを確実に防止することができる。
【0045】
次に、第一の処理による油圧クラッチC1〜C4の油の充填、クラッチミート及び昇圧制御に係るパラメータの調整について、図12、図19〜図23を参照して説明する。
【0046】
制御装置29は、変速スイッチ(24、25)の操作に応じて第一主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4の作動状態を変更する場合に、図12に示すように、第一主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切り作動させると共に、次変速段の油圧クラッチC1〜C4を制御する電磁比例弁16a〜16dに対して最大電流を所定時間に亘って流して油圧クラッチC1〜C4に油を充填した後、所定の低電流を流してクラッチミートを行い、その後、次第に高くなる電流にて油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御して油圧クラッチC1〜C4の接続を行うにあたり、油圧クラッチC1〜C4に対する油の充填時間は、検出されたエンジン回転数及び油温を、予め記憶したマップデータ(エンジン回転数及び油温と適正な充填時間との関係を示すデータ:図20参照)と照合して、その検出値を含むマップデータの最大値(最大充填時間)と最小値(最小充填時間)を取得すると共に、取得した最大値と最小値を検出値に基づいて比例配分した値として決定する。このようにすると、エンジン回転数や油温によって油の流量が変化したとしても、充填時間を適切に調整して油圧クラッチC1〜C4に油を充填させることができるので、充填不足や過剰充填を回避し、円滑なクラッチ接続を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態では、油圧クラッチC1〜C4に対する油の充填時間、同じ油圧クラッチC1〜C4の電磁比例弁16a〜16dに対する出力間隔の規制時間、さらに、出力電流を任意に調整できるようにしてある。例えば、前述した表示部28に、図21に示すような設定画面を表示し、操作スイッチSW1〜SW6の操作に応じて上記パラメータの調整を行うようにする。また、上記した各種パラメータの調整は、図21及び図22に示すように、油温(低温2、低温1、常温、高温)毎に行えることが好ましく、さらには、各電磁比例弁16a〜16d毎に行えるようにすることが好ましい。また、本実施形態では、図23に示すように、各油温(低温2、低温1、常温、高温)の設定温度も調整可能としている。これにより、作業環境やオペレータの好みに応じたマップデータを作成し、最適なクラッチ制御を行うことができる。
【0048】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、トラクタTの走行変速装置であって、アクチュエータ(油圧クラッチC)の作動によって複数段に変速可能な主変速装置(5、8)と、副変速レバー23によって切り換えられる副変速装置7と、主変速装置(5、8)を増減速させる変速スイッチ(24、25)と、副変速レバー23を高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチ23と、副変速レバー23が高速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最低速段に切り換え、また、副変速レバー23が低速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最高速段に切り換え、さらに、高速スタートスイッチ23を操作しながら副変速レバー23が高速側に切り換えられたときには主変速装置(5、8)を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換える制御装置29と、を備えるので、路上走行に際して変速スイッチ(24、25)の操作回数を減らして素早く路上走行に適した変速段から発進したい場合は、高速スタートスイッチ26を操作しながら副変速レバー23を高速側に切り換えれば、主変速装置(5、8)を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換えて走行することができる。また、発進ショックを嫌い滑らかに発進させたい場合は、高速スタートスイッチ26を操作することなく、副変速レバー23を高速側に切り換えれば、主変速装置(5、8)を最低速段に切り換えて走行することができる。
【0049】
また、高速スタートスイッチ26を、変速スイッチ(24、25)が設けられる副変速レバー23のグリップ部23aに設けたので、副変速レバー23を高速側に切り換えた後の主変速装置(5、8)の変速段を、同一グリップ23a上における二通りの操作方法によって選択することができ、その結果、オペレータの操作負担を軽減し、操作性を向上させることができる。また、高速スタートスイッチ26を例えば親指で押しながら、副変速レバー23を高速側に操作できるので、片手で操作ができ操作性がよい。
【0050】
また、制御装置29は、副変速レバー23を高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチ26が操作された場合は、主変速装置(5、8)を中速段に切り換える制御を不能とするので、副変速レバー23を高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチ26が操作された場合は、主変速装置(5、8)を中速段に切り換える制御が行われないことになり、その結果、高速スタートスイッチ26の誤操作による走行中の急激な変速を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トランスミッションケースの全体断面図である。
【図3】変速段と車速の関係を示す説明図である。
【図4】トラクタの油圧構成を示す油圧回路図である。
【図5】操作部の平面図である。
【図6】メータパネルの正面図である。
【図7】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図8】変速パターンの説明図である。
【図9】(A)は変速スイッチによる変速パターンの説明図、(B)及び(C)は副変速レバーによる変速パターンの説明図である。
【図10】エンジン始動時における初期変速段設定の説明図である。
【図11】制御の概略を示すフローチャートである。
【図12】第一主変速装置の油圧クラッチを入り作動させる場合における電磁比例弁の制御例を示すタイミングチャートである。
【図13】副変速装置が低速側に切り換えられた状態におけるシフトアップ制御の制御例を示すタイミングチャートである。
【図14】副変速装置が低速側に切り換えられた状態におけるシフトアップ制御の制御例を示すフローチャートである。
【図15】副変速装置が高速側に切り換えられた状態におけるシフトアップ制御の制御例を示すタイミングチャートである。
【図16】副変速装置が高速側に切り換えられた状態におけるシフトアップ制御の制御例を示すフローチャートである。
【図17】前後進切換装置が切り換えられた場合における制御例を示すタイミングチャートである。
【図18】前後進切換装置が切り換えられた場合における制御例を示すフローチャートである。
【図19】調整可能なパラメータの説明図である。
【図20】マップデータの説明図である。
【図21】パラメータの調整内容を示す説明図である。
【図22】変速段と対象バルブとシンボルとの関係を示す説明図である。
【図23】温度変数名と変数にセットされた温度との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 トランスミッションケース
5 第一主変速装置
6 前後進切換装置
7 副変速装置
8 第二主変速装置
16 電磁比例弁
17 電磁方向切換弁
23 副変速レバー
23a グリップ部
24 増速スイッチ
25 減速スイッチ
26 高速スタートスイッチ
29 制御装置
C 油圧クラッチ
T トラクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の走行変速装置であって、
アクチュエータの作動によって複数段に変速可能な主変速装置と、
副変速レバーによって切り換えられる副変速装置と、
主変速装置を増減速させる変速スイッチと、
副変速レバーを高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチと、
副変速レバーが高速側に切り換えられたときには主変速装置を最低速段に切り換え、また、副変速レバーが低速側に切り換えられたときには主変速装置を最高速段に切り換え、さらに、高速スタートスイッチを操作しながら副変速レバーが高速側に切り換えられたときには主変速装置を最低速段と最高速段の間の中速段に切り換える制御装置と、
を備えることを特徴とする作業車両の走行変速装置。
【請求項2】
前記高速スタートスイッチを、変速スイッチが設けられる副変速レバーのグリップ部に設けたことを特徴とする請求項1記載の作業車両の走行変速装置。
【請求項3】
前記制御装置は、副変速レバーを高速側に切り換えた後に高速スタートスイッチが操作された場合は、主変速装置を中速段に切り換える制御を不能とすることを特徴とする請求項1又は2記載の作業車両の走行変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate