説明

作業車両

【課題】ボンネット内におけるラジエータやオイルクーラなど冷却機関の配置を決め、確実かつ効率的に冷却対象を冷却するようにして、装置の故障や不調を防ぎいで性能を維持するとともに、特にエンジンからの戻り燃料油を確実に冷却することで、安全性を向上させた作業車両を提供する。
【解決手段】車両前部のボンネット5内であって、エンジン6前方に、ボンネット5前端部より取り込んだ空気の気流により冷却させる冷却機関25を備え、冷却機関25は、燃料油クーラー24、コンデンサ23、作動油クーラー22、ラジエータ21であり、ボンネット5前部から放熱容量の小さな順に配置するものである。そして、冷却機関25の最前は、燃料油クーラー24である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部のボンネット内であって、エンジン前方に、ボンネット前端部より取り込んだ空気の気流により冷却させる冷却機関を備える作業車両に関するものであり、より詳細には、冷却機関は、ボンネット前部から放熱容量の小さな順に配置することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトラクタなどの作業車両には、車両前部のボンネット内に備えられるエンジンの前方にエンジンを冷却するためのラジエータと、このラジエータ前方にトランスミッションなどに用いる作動油などを冷却するためのオイルクーラと、さらにこのオイルクーラの前方にバッテリとをそれぞれ順に配置する(例えば特許文献1および2)ものや、車両にキャビンが備えられるものであれば、ラジエータの直前方であって、ラジエータとバッテリとの間などに、キャビン室内の空調用のコンデンサを配置する(例えば特許文献3)ものがある。そして、エンジン内におけるディーゼル機関など内燃機関からの戻り燃料油(軽油など)を、エンジン後方に設けたリヤタンクなどに送り、冷却後にリヤタンク前方に備えるフロントタンクに戻し、このフロントタンクから再度エンジン内に供給する(例えば特許文献4)ものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−020679号公報
【特許文献2】特開2007−125912号公報
【特許文献3】特開2003−320962号公報
【特許文献4】特開2003−034151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような作業車両では、ラジエータを通過した車両前方からの気流が、エンジンを冷却するためにエンジンの熱を奪い高温になり、この高温の気流が、エンジン後方に流れる。このため、特許文献4のような、戻り燃料油を移送中や貯留中に冷却するための配管やタンクが、この高温気流により冷却されないため、この戻り燃料油を十分に冷却することができず、高い温度を有した燃料油がタンク内に戻されてしまうといった安全上の問題があった。同様に、上記特許文献1〜4のほか、従来の作業車両のボンネット内におけるラジエータやオイルクーラなどの配置順では、それらが放熱容量の順に配置されていないため、車両前方からボンネット内に導入されてラジエータやオイルクーラなどから熱を奪いながら後方へ向う気流の温度が、それらラジエータやオイルクーラなどの配置順に上昇せず上下に乱れることから、各冷却媒体やオイルなどが必要に至るまで冷却されないほか、それらを効率的に冷却することができず、各装置が十分に機能できないという問題もあった。
そこで、この発明の目的は、ボンネット内におけるラジエータやオイルクーラなど冷却機関の配置を決め、確実かつ効率的に冷却対象を冷却するようにして、装置の故障や不調を防いで性能を維持するとともに、特にエンジンからの戻り燃料油を確実に冷却することで、安全性を向上させた作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1に記載の発明は、車両前部のボンネット内であって、エンジン前方に、ボンネット前端部より取り込んだ空気の気流により冷却させる冷却機関を備える作業車両において、前記冷却機関は、前記ボンネット前部から放熱容量の小さな順に配置することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記冷却機関の最前は、燃料油クーラーであることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記冷却機関は、前記燃料油クーラーと、コンデンサと、作動油クーラーと、ラジエータとである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、車両前部のボンネット内であって、エンジン前方に、ボンネット前端部より取り込んだ空気の気流により冷却させる冷却機関を備える作業車両において、冷却機関は、ボンネット前部から放熱容量の小さな順に配置するので、車両前方から取り入れた気流が、各冷却機関を順に熱を奪いながら通過することで、気流の温度が順次上昇するため、後方に配置されるほど放熱容量が大きい冷却機関を、確実、かつ効率的にこの気流により冷却することができる。従って、装置の故障や不調を防ぎ、性能を維持させた作業車両を提供することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、冷却機関の最前は、燃料油クーラーであるので、放熱容量の大きなエンジンなどの後方で内燃機関からの戻り燃料油の冷却を阻害されることなく、車両前方から取り入れた外気温の気流により、戻り燃料油を確実に冷却することができる。従って、安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、冷却機関は、燃料油クーラーと、コンデンサと、作動油クーラーと、ラジエータとであるので、キャビンを有し、エアコン用のコンデンサを備える車両にあっても、オイルクーラーやラジエータと併せて確実、かつ効率的にそれら冷却機関を車両前方から取り入れた気流により冷却することができる。従って、装置の故障や不調を防ぎ、性能を維持させるとともに、安全性を向上させた作業車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係る作業車両としてのホイール式トラクタの左側面図、図2は同トラクタの平面図である。
【0012】
この例のトラクタ1は、機体フレーム2の前後に前輪3および後輪4を備え、前輪3の上方にボンネット5を形成し、このボンネット5の内側には原動機部としてのエンジン6などが配置されるとともに、エンジン6の後方にはクラッチハウジング7およびミッションケース8が順に配設されており、エンジン6からの動力がそれらを介して前輪3および後輪4に伝達される。そして、ボンネット5の後部に連続して、機体フレーム2上には、キャビン9が設けられる。
【0013】
次いで、キャビン9内には、車両操作部として、ブレーキペダルやクラッチペダルなどの操作ペダル10、ステアリングハンドル11、シート12などが設けられる。また、シート12の両側方に有する左右フェンダ13には、例えば、主変速レバー、副変速レバー、PTO変速レバーなどの各種操作レバー14が突設される。そして、キャビン9の外周はそれぞれフロントガラス15、リヤガラス16、ドア17、屋根18などが取付けられる。また、キャビン9内における天井部分などの適宜位置には、エアコンの操作部19や図示しない吹出口などが設けられる。
【0014】
そして、エンジン6からの動力は、ミッションケース8後端から突出した不図示のPTO軸に伝達され、図示しないユニバーサルジョイントや三点リンク式などの作業機装着装置20を介して車両後端に装着された不図示の作業機が駆動される。
【0015】
次に、ボンネット内における冷却機関の配置について、その具体的構成を説明する。図3は、ボンネット内のエンジン周囲およびボンネット後方に備える燃料タンクを右側方から見た斜視図、図4は冷却機関の配置を示す平面模式図、図5は燃料油の移送経路を示す構成部品の配置模式図、図6は燃料油クーラーの一例を示した正面模式図、図7は各冷却機関を通過して後方に流れる気流を示すボンネット内の左側面模式図である。
【0016】
ボンネット5の内部は、図4に示すように、機体フレーム2上に設置された底板21上であって、後部にエンジン6が設置されるとともに、エンジン6の前方には、エンジン6を冷却するためのラジエータ21が設置される。また、ラジエータ21の前方には、ミッションケース8などの連通される、ミッションオイルなどの作動油を冷却するための作動油クーラー22が配設されるとともに、この作動油クーラー22の前方には、キャビン9内の冷房などに用いられるエアコンの冷媒ガスを冷却するためのコンデンサ23が設置される。なお、符号33は排気マフラー、符号34はエアクリーナ、符号35は吸気マニホールドである。
【0017】
次いで、コンデンサ23の前方には、エンジン6を駆動させる軽油などの燃料油であって、エンジン6の内燃機関からの戻り燃料油を冷却させるための燃料油クーラー24が設置される。そして、燃料油クーラー24の前方であって、ボンネット5内の前端部近傍には、バッテリーbが配置される。
【0018】
このように、本発明の作業車両には、燃料油クーラー24、コンデンサ23、作動油クーラー22、ラジエータ21といった冷却機関25であるそれぞれの装置を、車両前部に有するボンネット5内の前部から順に配設した、集中冷却システム(Integrated in thermal capacity order cooling system:ICOS)が、ボンネット5内に備えられる。なお、ロプス仕様などのトラクタでは、操縦室内にエアコンが装備されておらず、従ってコンデンサ23を設置しない配置とされる。
【0019】
そして、まず、燃料油クーラー24は、図6に示すように、例えばケース24a内にリターンパイプrでもある配管24bを蛇行させて内設したものであり、配管24b内には、エンジン6の内燃機関26からの戻り燃料油である軽油が流通される。
【0020】
このエンジン6内において、ディーゼル機関などの内燃機関26は、周知の技術であるため、詳細な説明は省略するが、図3および図5に示すように、燃料タンク27に貯留される軽油などの燃料が、燃料タンク27の底部に連結された配管28内に流れ込み、移送の途中にウオータセパレータ29で水分除去され、次いで燃料油ポンプ30により圧送され、エンジン6内の内燃機関26に入る前に燃料油フィルター31で異物がろ過される。そして、内燃機関26における四サイクル機関などにおいて、例えば500〜600℃近傍にまで圧縮した空気を有する不図示のシリンダ内に、噴射ポンプ32からノズルnを介して燃料が噴射されることで、燃料が軽油の場合には、着火点250℃近傍の軽油が自然発火により爆発し、エンジン6が駆動される。
【0021】
この噴射ポンプ32で加圧された燃料は、例えば、およそ70℃付近に達しており、この高温化した燃料の一部は噴射ポンプ32から前記シリンダー内に噴射されず、余剰燃料としてリターンパイプr(一部点線で記す)および燃料油クーラー24などを介して燃料タンク27に戻される。
【0022】
次に、エアコンにおいても周知の技術であるため、詳細な説明は省略するが、室内外の空気を図示しない吸込口から取り入れ、それぞれ図示しないエアコンユニットのエバポレータで冷媒ガスと熱交換し、冷やされた空気が前記吹出口から放出される。この冷媒ガスは、例えばハイドロフルオロカーボン(HFC)や、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが用いられるが、これらに限定されるものではない。そして、あたたかい空気の熱を奪って気化し、コンプレッサにより高圧にされた結果、例えばおよそ80℃付近に達したこの冷媒ガスが、図示しないホースを介してコンデンサ23内で冷却された後、再び前記エアコンユニットへ移送され、系内を循環する構成とされる。
【0023】
次に、作動油クーラー22は、上述した燃料油クーラー24同様であるため、図示しないが、例えばケース内に、ミッションケース8に連通する配管を蛇行させて内設したものであり、配管内には、ミッションケース8内に貯留され、トランスミッションなどの潤滑に用いられる潤滑油が流通される。
【0024】
そして、ミッションケース8内において、図示しない各種駆動軸やギアなどの摩擦熱により、例えば、およそ90℃付近に達した潤滑油は、前記配管を介して作動油クーラー22内で冷却された後、再びミッションケース8へ移送され、系内を循環する構成とされる。
【0025】
次に、ラジエータ21によるエンジン6の冷却についても周知の技術であるため、詳細な説明は省略するが、エンジン6内における図示しないシリンダのシリンダブロックやシリンダヘッドなどの周囲に設けられた流路を流れる冷却水が、このシリンダで発生した熱を吸収し、およそ110℃付近に達した水蒸気は、図示しない配管を介して導入されたラジエータ21内で冷却後、再び前記シリンダ周囲へ移送され、系内を循環する構成とされる。なお、上述した冷却機関25での冷却対象物の冷却前の温度は、一例を示したものであり、季節や天気、場所などによって異なるため、多少の前後があるものとされる。
【0026】
ここで、車両走行中に、ボンネット5内の冷却機関25を冷却させる場合には、図7に示すように、まず、ボンネット5の前端部に取り込んだ車両前方からの、季節や天気、場所などによって異なるが、0℃以下〜30℃以上の外気温を有する気流が、バッテリーbを超えて、冷却機関25の最前に配置された燃料油クーラー24に接触する。
【0027】
このとき、上述したように、燃料油クーラー24内の配管24b内を流れる、70℃付近の温度を有する戻り燃料油は、外気温を有する気流イによって確実に冷却される。
【0028】
次いで、燃料油クーラー24において、戻り燃料油から熱を奪い、この戻り燃料油を冷却し、外気温〜70℃未満の温度に上昇した気流ロは、燃料油クーラー24後方のコンデンサ23に接触する。
【0029】
このとき、上述したように、コンデンサ23内において、80℃付近の温度を有する冷媒ガスは、その温度よりも低い外気温以上〜70℃未満の気流ロによって確実に冷却される。
【0030】
続いて、コンデンサ23内で冷媒ガスから熱を奪い、この冷媒ガスを冷却し、外気温〜80℃未満の温度に上昇した気流ハは、コンデンサ23後方の作動油クーラー22に接触する。
【0031】
このときも、上述したように、作動油クーラー22内の前記配管内を流れる、90℃付近の温度を有する潤滑油は、その温度よりも低い外気温〜80℃未満の気流ハによって確実に冷却される。
【0032】
そして、作動油クーラー22で潤滑油から熱を奪い、この潤滑油を冷却し、外気温〜90℃未満の温度に上昇した気流ニは、作動油クーラー22後方のラジエータ21に接触する。
【0033】
このとき、上述したように、ラジエータ21内において、110℃付近の温度を有し水蒸気化した冷却水は、その温度よりも低い外気温以上〜90℃未満の気流ニによって確実に冷却される。
【0034】
このような集中冷却システム(ICOS)をボンネット5内に備える構成にすることで、冷却機関25が、ボンネット5内の前部から、外気温に対して放熱容量の小さな順に配置されるため、その各冷却機関25(例えば作動油クーラー22)の前方に配置された冷却機関25(例えばコンデンサ23など)を冷却して温度が上昇した気流が、その各冷却機関25(例えば作動油クーラー22など)の冷却対象物の温度よりも高くならず、後方の冷却機関25を確実に冷却することができる。
【0035】
また、これら冷却機関25の最前に、最も放熱容量の小さな燃料油クーラー24を配置したため、例えば高熱を発するエンジン6の後方などに、冷却用タンクや配管など別途戻り燃料油を冷却させるための部材の設置を必要とせず、これら冷却機関25をボンネット5内にコンパクトに集約し、効率的に各冷却機関25を冷却することが可能となった。
【0036】
以上詳述したように、この例のトラクタ1は、車両前部のボンネット5内であって、エンジン6前方に、ボンネット5前端部より取り込んだ空気の気流により冷却させる冷却機関25を備え、冷却機関25は、燃料油クーラー24、コンデンサ23、作動油クーラー22、ラジエータ21であり、ボンネット5前部から放熱容量の小さな順に配置するものである。加えて、冷却機関25の最前は、燃料油クーラー24である。
【0037】
また、上述の例では、作業車両の一例としてホイール式トラクタ(農作業車両)について説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、クローラ式トラクタのほか、農作業車両としてコンバインや田植機など、また、建設作業車両として、バックホー,ブルトーザ、その他除雪車両など、ボンネット内に冷却機関を備えたあらゆる作業車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一例としての、ホイール式トラクタを示す左側面図である。
【図2】ホイール式トラクタの平面図である。
【図3】ボンネット内のエンジン周囲およびボンネット後方に備える燃料タンクを右側方から見た斜視図である。
【図4】冷却機関の配置を示す平面模式図である。
【図5】燃料油の移送経路を示す構成部品の配置模式図である。
【図6】燃料油クーラーの一例を示した正面模式図である。
【図7】各冷却機関を通過して後方に流れる気流を示すボンネット内の左側面模式図である。
【符号の説明】
【0039】
5 ボンネット
6 エンジン
21 ラジエータ
22 作動油クーラー
23 コンデンサ
24 燃料油クーラー
24a ケース
24b,28 配管
25 冷却機関
26 内燃機関
27 燃料タンク
29 ウオータセパレータ
30 燃料油ポンプ
31 燃料油フィルター
32 噴射ポンプ
b バッテリー
n ノズル
r リターンパイプ
イ,ロ,ハ,ニ 気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のボンネット内であって、エンジン前方に、ボンネット前端部より取り込んだ空気の気流により冷却させる冷却機関を備える作業車両において、
前記冷却機関は、前記ボンネット前部から放熱容量の小さな順に配置することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記冷却機関の最前は、燃料油クーラーであることを特徴とする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記冷却機関は、前記燃料油クーラーと、コンデンサと、作動油クーラーと、ラジエータとである、請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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