説明

作業車両

【課題】前面ドアを有するキャビンを搭載した作業車両の安全性を、簡易な構成で向上させる。
【解決手段】キャビン9の前面に形成された乗降開口部9aに前面ドア11を開閉自在に設け、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプから供給される作動油により駆動されるブームシリンダおよびバケットシリンダを設け、前面ドア11の開閉を検出するドアスイッチ21Dと、当該ドアスイッチ21の前面ドア11の開放信号によりエンジンへの燃料の供給を停止するエンジン停止手段22と、ドアスイッチ21Dの前面ドア11の開放信号によりエンジンの始動許可を停止する始動停止手段23とを有する安全装置20を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式の作業駆動装置により駆動される作業装置と、キャビン前面の乗降開口部に開閉自在に設けられた前面ドアとを有する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスキッドステアローダなどの小型の作業車両は、車体の中央部にキャビンに囲まれた操縦席が設置され、このキャビンを挟んで車体の後部両側から前方に伸びる左右一対の作業ブームが上下方向に回動自在に支持されている。そして左右の作業ブームの前端部にバケットが上下方向に回動自在に支持されている。そして、キャビン前面に乗降開口部が形成され、バケットを跨いでキャビン内の操縦席に乗り降りしている。
【0003】
温暖な気候で使用される作業車両では、キャビンが直射日光を遮り通気性を確保するだけでよいため、乗降開口部は開放されている。しかし、寒冷な気候で使用される作業車両では、キャビンを外気から遮断するため、乗降開口部に前面ドアが開閉自在に設けられている。
【0004】
ところで、この前面ドアが開放された状態で、作業ブームが昇降されたり、バケットが回動すると、前面ドアを破損させたり、オペレータが危険に晒される可能性があった。
このため、特許文献1では、前面ドアが開いていることを感知すると、ソレノイドによりロックバーを起立させて荷役ペダルの底部に係合固定させ、荷役ペダルがロックされて踏み込まれるのを防ぐ安全装置付作業車両が提案されている。
【特許文献1】実公平4−31328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成では、操縦席の床部で荷役ペダルの下方空間に、シャフトやロックバー、レバーなどの機械部品を配置しなければならず、狭いキャビン床部に安全装置の十分な占有空間が必要で、キャビン内が手狭になりやすいという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決して、前面ドアを有するキャビンを搭載した作業車両において、簡易な構成で安全性を向上できる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、操縦席を囲むキャビンの前面に乗降開口部を形成するとともに、当該乗降開口部に前面ドアを開閉自在に設けた作業車両であって、エンジンにより駆動される駆動源発生装置と、当該駆動源発生装置から供給される駆動媒体により駆動される作業駆動装置とを有する作業装置を設け、前面ドアの開閉を検出するドアスイッチと、当該ドアスイッチの前面ドアの開放信号によりエンジンへの燃料の供給を停止するエンジン停止手段と、ドアスイッチの前面ドアの開放信号によりエンジンの始動許可を停止する始動停止手段とを有する安全装置を設けたものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、エンジン停止手段は、燃料タンクからエンジンの燃料を送り出す燃料ポンプと、エンジンに燃料を供給する燃料噴射弁に付設された燃料遮断弁のストップソレノイドとに、それぞれ給電する作動電流を停止可能なエンジン停止リレーを有し、始動停止手段は、エンジンを始動するエンジンスタータへの給電を停止可能なスタータロックリレーを有するものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、前面ドアが開放されると、ドアスイッチがこれを検出し、この開放信号に基づいてエンジン停止手段によりエンジンへの燃料の供給が停止され、さらに始動停止手段によりエンジンの再始動ができなくなるので、駆動源発生装置から作業駆動装置への駆動媒体の供給が停止され、作業駆動装置による開放状態の前面ドアの破損やオペレータへの危険を回避することができる。
【0010】
請求項2記載の構成によれば、エンジン停止手段を、燃料ポンプとストップソレノイドに給電を停止するエンジン停止リレーにより構成し、始動停止手段をスタータ停止リレーにより構成したので、前記各リレーを燃料ポンプへの給電回路に組み込むだけでよく、キャビン床部の占有空間も不要で、簡易な構成で安全性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[実施の形態]
図2に示すように、小型の作業車両であるスキッドステアローダは、車体1に左右一対の前輪2Fと、左右一対の後輪2Rとを具備し、バケット3を有する作業装置4が設けられている。この作業装置4は、車体1の後部両側に後端部が上下方向に回動自在に支持されて前方に伸びる左右一対の作業ブーム5と、これら作業ブーム5の前端部に上下方向に回動自在に支持されたバケット3とを具備し、車体1の後部と作業ブーム5の先端側との間に連結されたブームシリンダ(作業駆動装置)6により、作業ブーム5が上下方向に回動され、作業ブーム5の先端側とバケット3の背面との間に連結されたバケットシリンダ(作業駆動装置)7により、バケット3が上下方向に回動される。そして、車体1に搭載されたエンジンEにより駆動される油圧ポンプ(駆動源発生装置)Pから、作動油(駆動媒体)が作業用コントロールバルブCVを介してブームシリンダ6およびバケットシリンダ7に供給され、また油圧ポンプPから前後輪2F,2Rを駆動する走行用油圧モータRMに供給される。
【0012】
車体1上の中央部で左右の作業ブーム5間に配置された操縦席8には、左右側面板と背面板と天井面板とで囲まれたキャビン9が設けられており、キャビン9の前面に、オペレータがバケット3を乗り越えて乗降可能な乗降開口部9aが形成されている。そしてこの乗降開口部9aにヒンジ11aを介して片開き式の前面ドア11が開閉自在に設けられている。また図1に示すように、操縦席8に設置された座席シート12の前部で左右両側に、水平姿勢で座席シート12からのオペレータの飛び出しを防止し、起立姿勢で座席シート12を開放する倒伏式のシートバー13R,13Lが起伏開閉自在に設けられている。
【0013】
本発明に係る安全装置20は、前面ドア11の下部のヒンジ11a近傍に設置されて前面ドア11の開閉状態を検出するドアスイッチ(ドア開閉検出器)21Dおよびシートバー13R,13Lの起伏開閉状態を検出する左右のシートバースイッチ(バー開閉検出器)21R,21Lとの2種類の検出器からなる安全検出部21と、この安全検出部21の検出信号に基づいて、エンジンEを停止するエンジン停止手段22を作動させるとともに、エンジンEの始動許可を停止する始動停止手段23とで構成されている。
【0014】
図3に示すように、エンジン停止手段22は、燃料タンクからエンジンEの燃料を送り出す燃料ポンプ24と、エンジンEに付設されて燃料を吹き込む燃料噴射ポンプ25に設けられた燃料遮断弁26のストップソレノイド27の給電回路に組み込まれ駆動電流をオン・オフ可能なエンジン停止リレー31を有している。
【0015】
また始動停止手段23は、スタータ32に駆動電流を供給するスタータ停止リレー33をオン・オフするためのスタータロックリレー34を有している。
すなわち、バッテリ(図示せず)のプラス端子に接続されたプラス電源線35Aに、ヒューズボックス36を介してエンジン運転給電線37が接続され、このエンジン運転給電線37がエンジン停止リレー31の切換接点31aに接続される。またヒューズボックス36と安全検出部21の間のエンジン運転給電線37から分岐されたエンジン停止制御線38が、B接点で並列接続されたシートバースイッチ21R,21Lおよびドアスイッチ21Dからなる安全検出部21に接続され、さらにエンジン停止リレー31の励磁コイル31bに接続された後、バッテリのマイナス端子に接続されたマイナス電源線35Bに接続されている。エンジン停止リレー31の切換接点31aは、励磁コイル31bに電流が供給された時にオフ状態となって接点31dに接続され、励磁コイル31bに電流が供給されない時にオン状態となって接点31cに接続される。接点31cに接続されたエンジン運転給電線37が分岐されて、燃料ポンプ24と、燃料遮断弁26のストップソレノイド27にそれぞれ接続される。さらに接点31cに接続されたエンジン運転給電線37からスタータロック制御線39が分岐されている。
【0016】
キースイッチ40は、プラス電源線35Aが接続される切換接点40aと、切換接点40aを手動により切り換えて接続可能なオフ用の接点40bおよび運転用の接点40cならびに始動用の接点40dを有している。前記始動停止手段23は、スタータロック制御線39がスタータロックリレー34の励磁コイル34bを介してマイナス電源線35Bに接続されている。またキースイッチ40の接点40dに接続されたスタータ制御線41が、スタータロックリレー34の開閉接点34aから、スタータ停止リレー33の励磁コイル33bを介してマイナス電源線35Bに接続されている。このスタータロックリレー34の開閉接点34aは、励磁コイル34bに電流が供給された時にオン状態となる。またプラス電源線35Aに接続されたスタータ給電線42がスタータ停止リレー33の開閉接点33aを介してスタータ32に接続され給電する。
【0017】
したがって、左右のシートバー13R,13Lと前面ドア11とが全て閉じられた通常の運転状態では、シートバースイッチ21R,21Lおよびドアスイッチ21Dの全てがオフされており、エンジン停止リレー31の励磁コイル31bに給電されず、切換接点31aがオン状態で接点31cに接続されている。これにより、エンジン運転給電線37から燃料ポンプ24とストップソレノイド27にそれぞれ給電され、エンジンEが運転状態または運転可能な状態にされる。またスタータロックリレー34の励磁コイル34bに給電されて開閉接点34aがオン状態となる。この状態で、キースイッチ40が始動位置に操作されると、接点40dからスタータ制御線41を介してスタータロックリレー34の励磁コイル34bに給電されて開閉接点34aがオン状態となり、スタータ給電線42からスタータロックリレー34の開閉接点34aを介してスタータ32に給電される。
【0018】
ここで、左右のシートバー13R,13Lと前面ドア11のいずれかが開放されてシートバースイッチ21R,21Lおよびドアスイッチ21Dのいずれか1つがオンされた状態になると、エンジン停止リレー31の励磁コイル31bに電流が供給されて切換接点31aがオフ状態で接点31dに切り換えられる。これにより、燃料ポンプ24および燃料遮断弁26のストップソレノイド27への給電が停止される。またスタータロックリレー34の励磁コイル34bにも給電されず、キースイッチ40が始動位置に操作されても、スタータ制御線41に給電されることがなく、エンジンEが始動されることがない。
【0019】
図4は、ストップソレノイド27を具備した燃料遮断弁26の一部を示すもので、燃料遮断弁26はエンジンEに付設された燃料噴射ポンプ25に一体に設けられている。燃料遮断弁26は、作動端27aを出退させるストップソレノイド27と、支持ピン51aを介して揺動自在に支持され入力端51bにストップソレノイド27の作動端27aが当接離間されるストップレバー51と、燃料噴射ポンプ25に入出自在に設けられて後退位置でオンさせて燃料供給を停止させるコントロールラック52とを具備し、コントロールラック52には、ストップレバー51の出力端51cが当接される受動突起52aが設けられている。またストップレバー51には、図4で時計方向に回動付勢されるレバー拘束ばね53が設けられ、またコントロールラック52には、後退方向に付勢するラック拘束ばね54が設けられている。
【0020】
したがって、ストップソレノイド27に電流が供給されている通電状態では、実線で示すように、ストップソレノイド27の作動端27aが突出されてストップレバー51の入力端51bに当接され、ストップレバー51の出力端51cがコントロールラック52の受動突起52aを押してコントロールラック52を押し込み状態に保持する。これにより燃料遮断弁32がオフ状態で燃料の供給状態が維持される。ストップソレノイド27への電流が停止された切断状態では、仮想線で示すように、ストップソレノイド27の作動端27aが後退されてストップレバー51の入力端51bから離間される。すると、レバー拘束ばね53によりストップレバー51が時計方向に回動されてコントロールラック52の押し込み状態が解除され、さらにラック拘束ばね44の作用でコントロールラック52が後退されて燃料噴射ポンプ25からエンジンEへの燃料が停止される。
【0021】
上記実施の形態によれば、前面ドア11またはシートバー13R,13Lの一つが開放されると、ドアスイッチ21Dまたはシートバースイッチ21R,21Lがこれを検出し、この開放信号に基づいてエンジン停止手段22のエンジン停止リレー31がオフ状態となり、燃料ポンプ24およびストップソレノイド27への給電が停止される。これにより、エンジンEへの燃料の供給が停止され、エンジンEが停止される。さらに始動停止手段23のスタータロックリレー34によりスタータ停止リレー33がオフされるので、エンジンEの再始動ができなくなる。この安全装置20の動作により、油圧ポンプPからブームシリンダ6やバケットシリンダ7への作動油の供給が停止され、作業ブーム5の昇降やバケット3の回動が防止されて、前面ドア11の破損やオペレータへの危険を回避することができ、安全性を向上することができる。
【0022】
さらにエンジン停止手段22を、燃料ポンプ24とストップソレノイド27への給電を停止するエンジン停止リレー31により構成し、始動停止手段23をスタータ停止リレー33を制御するスタータロックリレー34により構成したので、燃料ポンプ24およびストップソレノイド27への給電回路に組み込むだけでよく、キャビン9の床部の占有空間も不要で、簡易な構成で安全性を向上することができる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、車体1に搭載したエンジンEにより駆動される油圧ポンプPから供給される作動油により、作業駆動装置であるブームシリンダ6およびバケットシリンダ7を駆動する油圧式作業装置4としたが、エンジンEにより駆動される発電機を駆動源発生装置とし、発電機により発生される電力により作業駆動装置を駆動する電動式作業装置としてもよく、油圧式と電動式を組み合わせた作業装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るスキッドステアローダの実施の形態を示し、キャビン内の安全検出部装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】スキッドステアローダを示し、(a)は正面側斜視図、(b)は油圧駆動機構の概略構成図である。
【図3】燃料ポンプおよびストップソレノイドならびにスタータへの給電回路の実施例を示す回路図である。
【図4】ストップソレノイドと燃料遮断弁を説明する概略構成図である。
【符号の説明】
【0025】
E エンジン
P 油圧ポンプ
1 車体
3 バケット
4 作業装置
5 作業ブーム
6 ブームシリンダ(作業駆動装置)
7 バケットシリンダ(作業駆動装置)
8 操縦席
9 キャビン
9a 乗降開口部
11 前面ドア
12 座席シート
13R,13L シートバー
20 安全装置
21 安全検出部
21D ドアスイッチ
21R,21L シートバースイッチ
22 エンジン停止手段
23 始動停止手段
24 燃料ポンプ
25 燃料噴射ポンプ
26 燃料遮断弁
27 ストップソレノイド
31 エンジン停止リレー
32 スタータ
33 スタータ停止リレー
34 スタータロックリレー
37 エンジン運転給電線
38 エンジン停止制御線
39 スタータロック制御線
40 キースイッチ
41 スタータ制御線
42 スタータ給電線
51 ストップレバー
52 コントロールラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操縦席を囲むキャビンの前面に乗降開口部を形成するとともに、当該乗降開口部に前面ドアを開閉自在に設けた作業車両であって、
エンジンにより駆動される駆動源発生装置と、当該駆動源発生装置から供給される作動媒体により駆動される作業駆動装置とを有する作業装置を設け、
前面ドアの開閉を検出するドアスイッチと、当該ドアスイッチの前面ドアの開放信号によりエンジンへの燃料の供給を停止するエンジン停止手段と、ドアスイッチの前面ドアの開放信号によりエンジンの始動許可を停止する始動停止手段とを有する安全装置を設けた
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
エンジン停止手段は、燃料タンクからエンジンの燃料を送り出す燃料ポンプと、エンジンに燃料を供給する燃料噴射弁に付設された燃料遮断弁のストップソレノイドとに、それぞれ給電する作動電流を停止可能なエンジン停止リレーを有し、
始動停止手段は、エンジンを始動するエンジンスタータへの給電を停止可能なスタータロックリレーを有する
ことを特徴とする請求項1記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227098(P2009−227098A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74790(P2008−74790)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】