説明

作業車両

【課題】作業車両の、特に、発進加速時におけるスリップを防ぐためのアクセルの敏感な操作を不要にする。また、スリップ防止のための最大けん引力の制限も不要にする。
【解決手段】作業車両が、HST走行装置(8)と、エンジン(10)の回転速度の増減に応じてHSTポンプ(8a)の吐出容積を増減させる制御信号を出力するコントローラ(12)と、エンジン回転速度の変動に対する制御信号の変動に時間遅れを持たせる一次遅れ変換器(14)と、HSTポンプに出力する制御信号として一次遅れ変換された「遅れ変換信号」または変換されていない「無変換信号」を選択可能に切換える切換スイッチ(16)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪上のような摩擦係数が低い路面におけるスリップ、特に発進加速時のスリップを減少させることができる作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダのような作業車両による、雪上、軟弱地など摩擦係数の低い路面での作業においては、スリップを防ぐために、特に発進加速時のスリップを防ぐために、エンジン回転速度を制御するアクセルペダルの敏感な操作が求められる。また、作業車両は不整地を走行することが多いので、この場合、車体の傾き、振動などにより、アクセルペダルの微操作が難しい。したがって、運転者には疲労度の高い作業になる。
【0003】
雪上あるいは軟弱地のような路面での作業車両のスリップを防止するために、HST走行装置の最大駆動力を制限する車両が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−144254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したとおりの形態の作業車両には、さらなる改善の望まれている課題がある。
【0005】
すなわち、最大駆動力を制限する作業車両は、発進加速時のスリップを防止するものではないので、アクセルペダルの敏感な困難な操作は改善されない。また、作業量、例えば除雪量を大きくするためには必要に応じて駆動力を大きくするために駆動力の煩雑な変更操作が必要である。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、特に、発進加速時におけるスリップを防ぐためのエンジンアクセルの敏感な操作を不要にするとともに、最大けん引力の制限されることのない、作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記技術的課題を解決する作業車両として、HST走行装置と、HST走行装置の動力源であるエンジンの回転速度の増減に応じてHSTポンプの吐出容積を増減させる制御信号を出力するコントローラと、エンジン回転速度の変動に対する該制御信号の変動に時間遅れを持たせる一次遅れ変換器と、HSTポンプに出力する制御信号として一次遅れ変換された「遅れ変換信号」または変換されていない「無変換信号」を選択可能に切換える切換スイッチとを備えている、ことを特徴とする作業車両が提供される。
【0008】
好適には、切換スイッチは、作業車両の運転席の操向ハンドルの近傍に備えられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従って構成された作業車両は、エンジンの回転速度の変動に対してHSTポンプの吐出容積を増減させる制御信号の変動に時間遅れを持たせる一次遅れ変換器を備え、制御信号としてこの「遅れ変換信号」または遅れ変換のない「無変換信号」を選択切換可能にし、「遅れ変換信号」を選択してエンジン回転速度の変動に対するポンプ制御信号の変動を遅らせることで、HSTポンプの容積変化は緩和され、作業車両の急加速が抑制される。したがって、急なアクセル操作においてもスリップしにくくなり、運転者はアクセルの操作に敏感にならなくて済む。さらに、制御信号に遅れを持たせるだけであるので、作業車両の最大けん引力は制限されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に従って構成された作業車両について、代表的な作業車両であるホイールローダにおける好適実施形態を示した添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0011】
図5を参照してホイールローダについて説明する。ホイールローダ2は、作業装置4aおよび前車輪4bを装備した前車体4と、運転席6a、後車輪6b、エンジン室6cならびに後述のエンジンおよびHST走行装置を装備した後車体6を備えている。
【0012】
図1を参照して説明する。ホイールローダ2(図5)は、前車輪4bおよび後車輪6bを駆動するHST走行装置8と、HST走行装置8の動力源であるエンジン10の回転速度の増減に応じてHSTポンプ8aの吐出容積を増減させる制御信号を出力するコントローラ12と、エンジン回転速度の変動に対する制御信号の変動に時間遅れを持たせる、コントローラ12に備えた一次遅れ変換器14と、HSTポンプ8aに出力する制御信号として一次遅れ変換された「遅れ変換信号」または変換されていない「無変換信号」を選択可能に切換える、運転席6a(図5)の操向ハンドル6dの近傍に備えた切換スイッチ16を備えている。切換スイッチ16は、オンオフ式の手動スイッチである。
【0013】
HST走行装置8は、可変容量型の上記HSTポンプ8aと、前車輪4bおよび後車輪6bに出力を連結した可変容量型のHSTモータ8bを閉ループの油圧回路で接続した周知のものである。HSTポンプ8aの可変容量装置8cは、例えば斜板式可変容量型ポンプにおける、コントローラ12からの制御信号である電気信号を油圧信号に変換する電磁弁と、その出力油圧によって斜板を傾転作動させる制御機構を備えた周知のものである。
【0014】
HSTポンプ8aは、図2の特性線図に示すように、基本的に、エンジン回転速度の増減に応じた制御信号の増減に応じて、矢印Xで示す「小」容量と「大」容量の間で増減変動するように規定され、吐出量は、負荷(油圧力)の変動に応じて例えば馬力一定になるように変動する。また、ポンプ8a、モータ8bの容積比は、HSTモータ8bの走行負荷(油圧力)とのバランスによって制御される。
【0015】
図1を参照して説明を続ける。コントローラ12は、エンジン回転速度を検出するスピードセンサ18の出力に基づいて、HSTポンプ8aへの制御信号を演算する演算器20と、前述の一次遅れ変換器14と、演算された制御信号を一次遅れ変換器14を通してHSTポンプ8aの可変容量装置8cに、あるいは直接可変容量装置8cに切換え出力する切換器22を備えている。一次遅れ変換器14は、入力信号に対して出力信号の時定数を変更する周知のものである。
【0016】
切換スイッチ16がONのときは、切換器22は演算器20の出力を一次遅れ変換器14に接続し、OFFのときは演算器20の出力を一次遅れ変換器14を通さないで可変容量装置8cに接続する。
【0017】
したがって、図1とともに図3を参照して説明すると、アクセル操作によるアクセル開度(図3(a))に応じて、エンジン回転速度は所定の回転速度まで上昇、増加し(図3(b))、これに対応して、ポンプ制御信号として、エンジン回転速度の増加に応じた「無変換信号」と「遅れ変換信号」の2種類が生成される(図3(c))。
【0018】
実際の作業車両においては、例えば「無変換信号」の状態を「通常モード」、「遅れ変換信号」の状態を「雪上モード」のように呼び識別すると好都合である。
【0019】
図1とともに図4を参照して、作業車両2における制御手順について説明する。
ステップS1において、スピードセンサ18によってエンジン回転速度が検出されステップS2に進む。
ステップS2において、演算器20によってポンプ制御信号が演算されステップS3に進む。
ステップS3において、切換器22がONの「遅れ変換信号」モードかOFFの「無変換信号」モードかが判定され、「遅れ変換信号」モードのときはステップS4に進み、「無変換信号」モードのときにはステップS5に進む。
ステップS4において、一次遅れ変換器14によって、演算されたポンプ制御信号を一次遅れ変換しステップS5に進む。
ステップS5において、制御信号をHSTポンプ8aの可変容量装置8cに出力し、ステップS1に戻る。
【0020】
なお、上記の説明においてはエンジン回転速度の変動に対する制御信号の変動として、エンジン回転速度が増加する立上がり方向の場合において時間遅れを持たせたが、エンジン回転速度が減少する立下り方向の場合の変動についても制御信号に時間遅れを持たせることができる。この場合は、例えばアクセルを急に減速方向に操作したときに、急激に作業車両が減速してスリップするのを防止できる。
【0021】
上述したとおりの作業車両2の作用効果について説明する。
【0022】
作業車両2は、エンジン10の回転速度の変動に対してHSTポンプ8aの吐出容積を増減させる制御信号の変動に時間遅れを持たせる一次遅れ変換器14を備え、制御信号としてこの「遅れ変換信号」または遅れ変換のない「無変換信号」を切換スイッチ16によって切換可能にしたので、「遅れ変換信号」を選択してエンジン回転速度の変動に対するポンプ制御信号の変動を遅らせることで、HSTポンプ8aの容積変化は緩和され、作業車両2の急加速が抑制される。したがって、急なアクセル操作においてもスリップしにくくなり、運転者はアクセルの操作に敏感にならなくて済む。さらに、制御信号に遅れを持たせるだけであるので、作業車両2の最大けん引力は制限されない。
【0023】
切換スイッチ16によって「無変換信号」を選択すれば、アクセル操作によるエンジン回転速度の変動に対するポンプ制御信号に時間遅れはないので、作業車両2による通常の作業が可能である。
【0024】
切換スイッチ16は、運転席6aの操向ハンドル6dの近傍に備えられているので、作業車両2の運転において、走行路面の状態に応じて、操向ハンドル6dとともに容易にON・OFF操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に従って構成された作業車両の構成説明図。
【図2】HSTポンプの特性説明線図。
【図3】コントローラにおける制御形態の説明線図。
【図4】コントローラの制御手順を示すフローチャート。
【図5】作業車両の代表例であるホイールローダの側面図。
【符号の説明】
【0026】
2:ホイールローダ(作業車両)
6a:運転席
6d:操向ハンドル
8:HST走行装置
8a:HSTポンプ
10:エンジン
12:コントローラ
14:一次遅れ変換器
16:切換スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HST走行装置と、
HST走行装置の動力源であるエンジンの回転速度の増減に応じてHSTポンプの吐出容積を増減させる制御信号を出力するコントローラと、
エンジン回転速度の変動に対する該制御信号の変動に時間遅れを持たせる一次遅れ変換器と、
HSTポンプに出力する制御信号として一次遅れ変換された「遅れ変換信号」または変換されていない「無変換信号」を選択可能に切換える切換スイッチとを備えている、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
切換スイッチが、作業車両の運転席の操向ハンドルの近傍に備えられている、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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