説明

作業車両

【課題】作物の摘心作業の作業効率が向上すると共に、作業者の負担を軽減できる作業車両の提供である。
【解決手段】走行装置3,4と、走行装置3,4上に設けた操縦席5と、操縦席5の前方に設けられ、走行装置3,4の前進方向に向かって左右方向に長手方向を有し、作物の上部を切断するための刈刃27を備えた刈刃装置30を複数個、各刈刃装置30の前後位置をずらすと共に、隣接する各刈刃装置30の左右中央部間の距離Lが条間距離と略同じとなるように配置した刈刃機構部Kとを設けた作業車両である。各刈刃装置30の左右中央部間の距離を条間距離に揃えることで、各刈刃27の左右中央部を切断する作物のほぼ中心に合わせることができ、切断ミスを防止できる。また、各刈刃装置30に駆動源31をそれぞれ設け、該各駆動源31を各刈刃装置30の左右一側の同じ側に配置すると、駆動源31の始動時における作業者の移動距離が短くて済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆などの作物の摘心を行う刈刃装置を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆などの作物は、通常、育成過程において摘心という作業を行う。摘心とは、植物の成長点をあえて切り取る作業のことで、摘心することで成長点を失った植物は脇芽を延ばして大きく成長しようとするため、成長点を放置した場合よりも最終的に収穫量が多くなる。
【0003】
そして、摘心作業を行う装置の例として、下記特許文献1には、前輪と後輪とを備えた左右一対の支柱フレームの間に水平フレームを設置し、該水平フレームの下方にバリカン式刈刃機構を搭載した走行型剪定機が開示されている。このバリカン式刈刃機構は、エンジンにより駆動することで、田畑において成長する多数本の各大豆における茎の最上端部を、当該各大豆の地面からの草丈を一定に揃えるように切断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−267018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された走行型剪定機のバリカン式刈刃機構によって大豆などの作物の摘心作業が可能となるが、この走行型剪定機は歩行型のものであるため、著しく速度が遅くなり、作業効率が良くないこと、また、摘心作業中にバリカン式刈刃機構によって切断した部分が作業者の方へ飛散するなどの問題がある。更に、摘心作業におけるバリカン式刈刃機構の振動が激しいために作業者の負担が大きく、長時間の作業が難しい。そして、刈刃を駆動するエンジン馬力にも限界があるために、作物の茎が太くなっている場合は切断がしにくくなるなどの問題もある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、大豆などの作物の摘心作業の作業効率が向上すると共に、作業者の負担を軽減できる作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の構成により解決される。
請求項1記載の発明は、走行装置(3,4)と、該走行装置(3,4)上に設けられた操縦席(5)と、該操縦席(5)の前方に設けられ、前記走行装置(3,4)の前進方向に向かって左右方向に長手方向を有し作物の上部を切断するための刈刃(27)を備えた刈刃装置(30)を複数個、各刈刃装置(30)の前後位置をずらすと共に、隣接する各刈刃装置(30)の刈刃(27)の左右方向中央部(C)の左右間の距離(L)が作物の条間距離と略同じとなるように配置した刈刃機構部(K)とを設けた作業車両である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記各刈刃装置(30)に刈刃(27)を駆動するための駆動源(31)をそれぞれ設け、該各駆動源(31)を前記走行装置(3,4)の前進方向に向かって各刈刃装置(30)の左右一側の同じ側に配置した請求項1記載の作業車両である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、乗用型の作業車両で摘心作業を行えるため、高速での摘心作業が可能となる。また、刈刃装置(30)の駆動用のエンジン馬力を大きくすることが可能となり、摘心作業の作業効率が向上する。そして、摘心作業の際の作業者の位置が歩行型の場合に比べて高くなるため、摘心作業中に刈刃装置(30)によって切断した部分が作業者の方へ飛散することもなく、また刈刃装置(30)の振動が直接作業者に伝わることがないため、作業者の負担も軽減される。
また、各刈刃装置(30)を、隣接する刈刃装置(30)の各刈刃(27)の左右方向中央部(C)の左右間の距離(L)が条間距離と略同じとなるように配置することで、各刈刃(27)の左右方向中央部(C)を切断する作物のほぼ中心に合わせることができ、切断ミスを防止できる。
【0010】
そして、請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、各刈刃装置(30)の駆動源(31)を各刈刃装置(30)の左右一側の同じ側に配置することで、駆動源(31)の始動時における駆動源(31)までの作業者の移動距離が短くてすみ、作業者の負担が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による作業車両の側面図である。
【図2】図1の作業車両の平面図である。
【図3】図1の作業車両の前部の拡大図である。
【図4】図2の作業車両の前部の拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態の作業車両の鉛直フレーム付近の詳細斜視図である。
【図6】機体が左側に傾斜した場合の図1の作業車両の正面図である。
【図7】本発明の一実施形態の作業車両のバリカン式刈刃装置の上下動機構を示す斜視図である。
【図8】図1の作業車両のブラケット付近の連結関係を説明するための斜視図である。
【図9】図1の作業車両の抵抗ガイドとブラケットとの連結部分の図である。
【図10】図1の作業車両の抵抗ガイドの形状を変えた場合の前部平面図である。
【図11】図1の作業車両のバリカン式刈刃装置にハンドルを設けた場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1には本発明の一実施形態による作業車両の側面図を示し、図2には図1の作業車両の平面図を示す。更に、図3には図1の前部の拡大図を示し、図4には図2の前部の拡大図(一部省略)を示す。
また、本明細書において作業車両の前進方向を向いて左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後ろということにする。
【0013】
車体フレーム1の前部のボンネット11で覆われたエンジンルーム内にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケース2内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を走行装置である前輪3と後輪4に伝える構成である。作業者(運転者)は車体フレーム1上に搭載された操縦席5に着席し、ステアリングハンドル9を操作することで、大豆などの作物イの摘心作業を行う。
【0014】
車体フレーム1の前部に水平方向に取り付けた水平フレーム15a,15bの先端部に鉛直フレーム17を設け、機体Tに対して上下及び左右に移動可能にバリカン式刈刃装置30を装着している。バリカン式刈刃装置30は、後述する第一シリンダ20や第二シリンダ23によって、地面からの全体の上下高さと左右方向の高さを調節できる。
【0015】
図5には図1等の作業車両の鉛直フレーム17付近の詳細図(斜視図)を示す。図5(a)には鉛直フレーム17の前方部分の図を示し、図5(b)には鉛直フレーム17の後方部分の図を示している。
本実施形態の作業車両は、機体Tの左右において、上下左右の水平フレーム15a,15b及び左右の鉛直フレーム17により平行リンク機構を構成している。左右の鉛直フレーム17の下部を第一アーム18で連結し、左右の鉛直フレーム17の上部を第二アーム18’で連結している。前記平行リンク機構は、非作業時と作業時に第一シリンダ20が作動することで左右の鉛直フレーム17部分が昇降する。
【0016】
第一アーム18と左右フレーム33は、連結部材21で連結されており、左右フレーム33全体は連結部材21を左右回動支点としてローリングする。また、鉛直フレーム17と第二アーム18’の接続部分近傍には、第二シリンダ23が取り付けられており、この第二シリンダ23によって上下移動する昇降ロッド19が左右フレーム33に固定具80によって連結している。すなわち、左右フレーム33は、連結部材21と昇降ロッド19により支持されている。そして、左右フレーム33の左右前方側に連結支持フレーム24がそれぞれ固着されており、刈刃27の上下回動支点S(図4)を介して支持フレーム40と共に刈刃27が支持されている。昇降ロッド19が上下に作動することで左右フレーム33が連結部材21を支点として左右方向にローリングするため、バリカン式刈刃装置30の刈刃27も一緒にローリングする。
【0017】
また、機体側には傾斜センサ70(図6)が設けられており、機体Tが傾斜してもバリカン式刈刃装置30の刈刃27を水平にする構成である。例えば、図6には、機体Tが左側に傾斜した場合の作業車両の正面図を示すが、ポジションセンサ70(傾斜センサの一例)により左右フレーム33の実際の傾斜を検知し、図示しない制御装置に電気信号を送信して第二シリンダ23の作動にフィードバックさせ、左右フレーム33及び支持フレーム40を水平に保つ構成である。
【0018】
図7には、図1等の作業車両のバリカン式刈刃装置30の上下動機構を示す(斜視図)。また、左右フレーム33の左右方向中央部にはバリカン式刈刃装置30の刈刃27を上下動させるための刈刃上下動装置25が取り付けられている。左右フレーム33に連結したアジャスタ25a(図3)には、内径に雌ネジを切っている筒25cが取り付けられ、この筒25c内にロッド25bのネジ部25baが挿入している。
【0019】
支持フレーム40上面に固定された断面U字形状の支持部材46の上端部にはU字で囲まれた空間内に架け渡された軸48が設けられ、この軸48の径方向に刈刃上下動装置25のロッド25bのネジ部25baとは反対側の端部が挿入され、軸48の前方に突出した端部と刈刃27の上下回動用ハンドル73の基部側端部が接続部材49によって一体的に連結している。
【0020】
刈刃上下動装置25のロッド25bは支持部材46の軸48内に遊嵌しており、軸48内を回動可能である。したがって、刈刃27の上下回動用ハンドル73を矢印X方向に回すと上下回動用ハンドル73と一体である刈刃上下動装置25のロッド25bが前後方向(矢印Y方向)に伸縮する。この刈刃上下動装置25のロッド25bの伸縮に伴い、支持フレーム40と共にバリカン式刈刃装置30の刈刃27は支点Sを中心に上下回動する。
【0021】
図8には、図1のブラケット付近の連結関係を説明するための斜視図を示す。
左右方向に長手方向を有し、連結支持フレーム24によって水平に架設された支持フレーム40は図8に示すように中空状の角チューブであり、この支持フレーム40によりブラケット42を介してバリカン式刈刃装置30を支持している。ブラケット42の基部側(後部)下面が支持フレーム40の上面に当接し、支持フレーム40の下面にはアンダープレート43の上面が当接しており、ボルト45及びナット47によってブラケット42を支持フレーム40に固定している。
【0022】
そして、ブラケット42の先端部側(前部)の上面にバリカン式刈刃装置30の変速装置を内部に設けたギアケース63を載置してボルト45やナット47などの固定具を用いて固定し、バリカン式刈刃装置30を取り付けている。バリカン式刈刃装置30は、刈刃支持部材54に固定されている下刃27bと、左右に往復動する上刃27aとを摺動自在に重合した構成であり、エンジン31の駆動によって上刃27aが左右に動くことで、作物の上端部が切断される。そして、下刃27bと上刃27aを左右方向に複数設けることで、左右方向に長手方向を有する刈刃27を構成している。
【0023】
従来の走行型剪定機は歩行型のものであるため、著しく速度が遅くなり、作業効率が良くないこと、また、摘心作業中にバリカン式刈刃機構によって切断した部分が作業者の方へ飛散すること、摘心作業におけるバリカン式刈刃機構の振動が激しいために作業者の負担が大きく、長時間の作業が難しいこと、そして、刈刃を駆動するエンジン馬力にも限界があるために、作物の茎が太くなっている場合は切断がしにくくなるなどの問題があった。
【0024】
しかし、本構成によれば、作業者Nは操縦席5を設けた乗用型の作業車両で摘心作業ができるため、高速での摘心作業が可能となる。また、バリカン式刈刃装置30の駆動用のエンジン馬力を大きくすることが可能となり、摘心作業の作業効率が向上する。そして、摘心作業の際の作業者の位置が歩行型の場合に比べて高くなるため、摘心作業中にバリカン式刈刃装置30によって切断した部分が作業者の方へ飛散することもなく、またバリカン式刈刃装置30の振動が直接作業者に伝わることがないため、作業者の負担も軽減される。
【0025】
また、従来の歩行型の摘心用の作業車両の場合は、薬剤の散布を行う場合、その専用車が別に必要となるが、本構成の乗用型の場合は、散布ブームやタンク等を取り付けることで、摘心と散布の作業車両は共用可能となる。なお、「薬剤」とは栄養剤、農薬などであり作物に散布が必要な固体物が含まれることもある液状物をいう。また、除草作業を行なうときには除草剤での作業となる。そして、薬剤の散布を行う場合は、支持フレーム40を散布ノズル40aを設けた中央ブームとし、機体Tの左右にサイドブーム(図示せず)を取り付けて左右の第三シリンダ29によりサイドブームを開閉する。このように、摘心作業用の乗用型の車両を薬剤散布作業車としても利用できることで、作業車両の利用拡大が図れる。したがって、各作業用の車両を揃える場合と比べてコストが削減され、設置スペースも取らず便利である。
【0026】
また、作業車両の後部にはコンプレッサー83が配置され、コンプレッサー83によって圧縮された空気が第一圧縮エアー送風管85を通って第二圧縮エアー送風管87のエアー吹き出し口89から吹き出される。この送風によってバリカン式刈刃装置30により刈り取られた茎や葉が吹き飛ばされ、刈刃27上に堆積することが防止される。また、刈刃27によって切断した部分が機体T側に飛散しないことで、作業者にも降りかからないようになる。更に、エンジンEの吸気部の網(図示せず)への付着も防止できる。
【0027】
そして、本実施形態による作業車両は、複数個のバリカン式刈刃装置30を、前後位置をずらして配置した刈刃機構部Kを構成している。複数個のバリカン式刈刃装置30の前後位置をずらして設けることで、左右幅を抑えたコンパクトな刈刃機構部Kを構成できる。また、各バリカン式刈刃装置30を、隣接するバリカン式刈刃装置30の各刈刃27の左右方向中央部(図4のC)の左右間の距離Lが条間距離と略同じとなるように配置することで、各刈刃27の左右方向中央部を切断する作物のほぼ中心に合わせることができ、切断ミスを防止できる。
【0028】
例えば、作物が大豆の場合の条間距離は、約70〜80cmであり、作物の種類によって異なる。バリカン式刈刃装置30の刈刃27の長さを約100cmとし、各刈刃27の左右方向中央部間の距離を約70〜80cmになるように各バリカン式刈刃装置30を設置すれば良い。なお、図示例では二つのバリカン式刈刃装置30を前後にずらして配置しているが、三つ以上のバリカン式刈刃装置30をこのように前後にずらして配置しても良い。また、三つ以上のバリカン式刈刃装置30を設ける場合は、左側から右側又は右側から左側にかけて、前方から後方になるように配置しても良いし(平面視で階段状になる)、左右に並ぶバリカン式刈刃装置30の前後位置をランダムに配置しても良い。
【0029】
また、左右のバリカン式刈刃装置30は、各バリカン式刈刃装置30の右端部に設けたプレート53と左端部に設けたブラケット42から取り外すことで、作業車両からの着脱が容易にできる。左右のバリカン式刈刃装置30を作業車両から取り外して、それぞれ単独で使用することで、バリカン式刈刃装置30を作業車両に設けた場合と作業車両から取り外して単独で使用する場合など、種々の使用方法が可能となる。したがってバリカン式刈刃装置30の利用用途が拡大し、また便利でもある。
【0030】
また、各バリカン式刈刃装置30は刈刃27を駆動するための駆動源であるエンジン31をそれぞれ設けていることで、バリカン式刈刃装置30を駆動するためのエンジン馬力を更に大きくすることが可能となり、摘心作業の作業効率が向上する。そして、各エンジン31を各バリカン式刈刃装置30の左右一側の同じ側に配置することで、すなわち各バリカン式刈刃装置30のエンジン31の配置を一側に揃えることで、エンジン31の始動時における作業者のエンジン31までの移動距離が短くてすむ。したがって、作業者の負担が軽減される。図示例では、各バリカン式刈刃装置30のエンジン31を左側に配置しているが、右側に配置しても良い。
なお、エンジン31としては、モータ式やバッテリー式の2サイクルエンジンを使用すればよい。また、機体側から刈刃27を駆動する動力を取らない構成としているので構成が簡素になり、各バリカン式刈刃装置30の着脱が容易になる。
【0031】
また、左右のエンジン31のスターターノブ31aの位置は刈刃27の前端部よりもやや前よりで刈刃27から離れた位置に配置する。
左右のエンジン31のスターターノブ31aを同じ位置に配置することで、作業者にとっても分かりやすく、またスターターノブ31aを同じ方向に引くため引っ張りやすくなり、エンジン31の始動に要する力も少なくて済む。そして、左右2つのエンジン31を始動する際の移動距離も短くて済む。更に、左右のエンジン31のスターターノブ31aの位置を刈刃27から離すことで、安全面においても優れる。すなわち、スターターノブ31aを手に持って勢いよく引っ張るため、刈刃27から離れている方が安全である。
【0032】
また、各バリカン式刈刃装置30は、それぞれ単独で、支持フレーム40を左右方向(矢印R方向)にスライド可能な構成としても良い。ブラケット42を支持固定しているアンダープレート43下の固定用ナット47を緩め、ブラケット42を支持フレーム40の任意の位置にスライドさせて設置する。
バリカン式刈刃装置30を左右方向にスライドさせて作物の条間距離、条数、作物の先端の葉や茎のばらけ具合等によってバリカン式刈刃装置30の刈刃27の位置を最適な位置に合わせることで、精度良く摘心作業が行える。
【0033】
そして、左右のバリカン式刈刃装置30を同時にスライドさせることで、各バリカン式刈刃装置30を任意の配置に移動させることができる。ナット47を緩めて、三つの各ブラケット42を同時にスライドさせることで、大豆の条間距離、条数、作物の先端の葉や茎のばらけ具合等によってバリカン式刈刃装置30の刈刃27の位置を最適な位置に合わせて、精度良く摘心作業が行える。
【0034】
また、各バリカン式刈刃装置30はエンジン31と刈刃27の配置関係を同一にして、このようなバリカン式刈刃装置30を複数個、前後方向にずらすと共に同じ高さに配置して、2条分の作物を同時に摘心する構成としても良い。
同一のバリカン式刈刃装置30を使用することで、コストの低減が図れる。また各バリカン式刈刃装置30の高さを揃えることで、摘心の精度を高め、生育ムラの発生を防止できる。
【0035】
そして、各バリカン式刈刃装置30を前後にずらして配置する際に、作物の刈残りが発生しないように、後方側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の始点S1(エンジン31側の端部)と、前方側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の終点S2(プレート53側の端部)の左右位置を合わせると良い。
各バリカン式刈刃装置30は左端部側がブラケット42に連結し、右端部側がプレート53に連結しており、これらブラケット42及びプレート53によって支持されているため、ブラケット42及びプレート53の支持位置を変えることで、容易に取り付け位置を変更できる。
【0036】
そして、後方側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の始点S1と、前方側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の終点S2の左右位置を合わせることで、作物の刈り残しが発生することを防止できる。例えば、前方側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の終点S2付近で刈り残しが発生しても、後方側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の始点S1付近で刈り取りが可能であるため、摘心精度が高くなる。
【0037】
また、各バリカン式刈刃装置30の重心位置Wを支持フレーム40により支持するブラケット42に固定し、設置すると、バリカン式刈刃装置30の作業姿勢が安定する。また、ブラケット42の軽量化も達成できる。そして、バリカン式刈刃装置30が安定して傾かないため、隣接するバリカン式刈刃装置30の各刈刃27の左右方向中央部間の距離Lを条間距離に合わせる際にブラケット42をスライドさせる場合の作業も行いやすくなる。
本実施形態では、バリカン式刈刃装置30のギアケース63の中央部が重心位置Wとなる場合を示し、ブラケット42によりボルト45やナット47などの固定手段を用いて下方からギヤケース63を固定し支持する構成である。
【0038】
そして、作業車両に操縦席5へ乗り降りするためのステップ69(図2)を設けた場合、ステップ69の取り付け側(図示例では左側)に、バリカン式刈刃装置30のエンジン31を配置すると良い。作業者がバリカン式刈刃装置30のエンジン31を始動させる際に操縦席5からエンジン31までの移動距離が最短になるため、バリカン式刈刃装置30の操作性が向上し、摘心作業の作業効率も高まる。
【0039】
そして、バリカン式刈刃装置30のエンジン31のスターターノブ31aをステップ69の取り付け側(図示例では左側)に配置すると、すなわちエンジン31の左寄りに設けると、機体Tの乗降側と反対側に回り込むことなく、機体Tへの乗降とエンジン31の始動停止が最短距離で容易となる。そして、バリカン式刈刃装置30の始動、停止作業が行いやすくなる。
更に、複数個のバリカン式刈刃装置30の各バリカン式刈刃装置30のエンジン31及びスターターノブ31aをステップ69の取り付け側(図示例では左側)に揃えて配置すると、バリカン式刈刃装置30の操作性が向上する。
【0040】
また、各バリカン式刈刃装置30の刈刃27の終端部(右側)は、プレート53により支持していることで、刈刃27がエンジン31の脈動によって上下に動くことを防止でき、刈刃7がぶれないため、作物の摘心(切断)作業における切断面(切り口)が揃ってきれいに切断できる。
【0041】
そして、左側のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の終端部(右側)を固定支持するプレート53は、右側のバリカン式刈刃装置30を支持するブラケット42に設けているが、このような小型形状のプレート53により刈刃27の終端部を支持することで、支持構成が軽量かつコンパクトになり、刈刃27による切断作業が阻害されない。また、バリカン式刈刃装置30の終端部側(右側)はエンジン31やギアケース63などの大型な装置がないため、バリカン式刈刃装置30を支持しやすい。
【0042】
また、左側のバリカン式刈刃装置30を、重心位置Wとなるギヤケース63部分でブラケット42上に固定し、かつ刈刃27の終端部S2は、右側のバリカン式刈刃装置30の重心位置Wとなるギヤケース63を固定するブラケット42からプレート53を設けて支持する構成である。
【0043】
バリカン式刈刃装置30の重心位置Wをブラケット42上に固定することで、バリカン式刈刃装置30の姿勢が安定してバランスが良くなると共に、小型形状のプレート53により刈刃27の終端部を支持することで、支持構成が軽量かつコンパクトになる。更に、ブラケット42及びプレート53によってバリカン式刈刃装置30を固定、支持することで刈刃27の上下方向の揺動を低減し、作物の摘心(切断)作業における切断面(切り口)を鋭く、且つ美しく仕上げることが可能となる。
【0044】
また、バリカン式刈刃装置30の刈刃27の終端部を支持するプレート53は、スライド機能を有するブラケット42に設けているため、左右のバリカン式刈刃装置30の左右方向中央部間の距離Lを作物の条間距離に適正に合わせることが容易にできる。
すなわち、プレート53とブラケット42を固定するボルト45などの固定具を緩めなくても、ブラケット42と支持フレーム40との固定具のみ緩めてブラケット42をスライドさせれば良いので、条間距離の調節が容易にできる。
【0045】
そして、バリカン式刈刃装置30の刈刃27の終端部側の刈刃支持部材54に、複数の支持穴54a(図4)を設けると、それぞれのバリカン式刈刃装置30は単独で刈刃27の配置調節が行えるため、作物の条間距離を変更した場合でも対応可能であり、作物の種類や育成条件などの適応性をさらに向上できる。
【0046】
また、バリカン式刈刃装置30の手前側には、抵抗ガイド50を設けている。抵抗ガイド50は、摘心作業時に抵抗ガイド50から作物イが離れたときの反動で作物イが戻り、この戻りにより作物イの刈刃27への食い込みが良くなるために用いる。なお、摘心作業として使用しないときは作業者などが刈刃27に触れないようにするための安全ガイドになる。
【0047】
抵抗ガイド50の左右両端部は左側のバリカン式刈刃装置30の左端部に設けたブラケット42の前端部と支持フレーム40の右端部にそれぞれ連結しており、大豆などの作物イは抵抗ガイド50に当たって抵抗ガイド50の下を通り抜けることでバリカン式刈刃装置3の刈刃27により切断される。抵抗ガイド50の両端部を刈刃機構部Kのブラケット42と支持フレーム40に連結させて設けることで、抵抗ガイド50の取付部が邪魔にならず、作業者から見て抵抗ガイド50から刈刃27にかけての視認性が向上し、抵抗ガイド50、作物イ、刈刃27の位置関係が容易に把握できて作業性が向上するようになる。
【0048】
また、左右のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の上方部(平面視で重複する位置)には、抵抗ガイド50が位置しないように、刈刃27の位置から前方側にずらして抵抗ガイド50を設けている。左右のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の上方部に抵抗ガイド50や抵抗ガイド50の支持部材があると、刈刃27により切断された作物の残葉が抵抗ガイド50に引っかかり、刈刃27の切断性能に影響する場合もあるが、そのようなことを防止できる。
【0049】
図9には、図1等の作業車両の抵抗ガイド50とブラケット42との連結部分の図を示す。図9(a)には、抵抗ガイド50とブラケット42との連結部分の斜視図を示し、図9(b)には、図9(a)の三角プレート60とプレート55との連結部の平面図を示す。
左右のバリカン式刈刃装置30の刈刃27の前方に設けた抵抗ガイド50はブラケット42との連結部(連結アーム51)を回動支点として上下方向(矢印B方向)に回動する構成である。図9に示すように、ブラケット42の左右一側(左右中央部でも良い)の前端部には支持アーム57の一端部が固着し、支持アーム57の他端部には、一端部に抵抗ガイド50を固着、支持する連結アーム51の他端部が固着連結している。
【0050】
抵抗ガイド50は先端部が連結アーム51の径方向に挿入され、連結アーム51の後方に突出した突出部分が三角プレート60の一端部(角部)に固着連結している。三角プレート60には、連結アーム51との連結側端部とは異なる二つの端部を結ぶように円弧状の長孔60aが設けられている。ブラケット42の左右他側の前端部にはプレート55の一端部が固着しており、ピン59などの固定具のネジ部59aをプレート55の他端部に設けた孔部55aと三角プレート60の長孔60aに差し込んで固定用ハンドル58を回して三角プレート60の裏側からナット47により締め付けて、三角プレート60とプレート55を固定、連結している。固定用ハンドル58を操作してピン59を締め付けたり緩めたりすることでプレート60とプレート55との取り付け位置を変え、抵抗ガイド50の取り付け角度を調整できる。
【0051】
すなわち、三角プレート60の長孔60aの長手方向(矢印A方向)の範囲内で三角プレート60とプレート55との取り付け位置を変更でき、抵抗ガイド50は連結アーム51を回動支点として上下方向(矢印B方向)に回動可能である。なお、連結アーム51は、径の大きい中空状のパイプ51a内に、径の小さい中空状のパイプ(又は棒状部材)51bを嵌入した構成とすれば良い。プレート60とプレート55との取り付け位置を変える場合は径の小さい中空状のパイプ51bと径の大きい中空状のパイプ51aとの接合を緩めて抵抗ガイド50の高さを調節し、その後径の小さい中空状のパイプ51bと径の大きい中空状のパイプ51aとの接合をきつくして固定すると良い。
【0052】
作物の摘心作業では、抵抗ガイド50と刈刃27の適正な位置関係が必要であるが、このように抵抗ガイド50を上下方向に回動させることで刈刃27の切断性能が最適な位置に抵抗ガイド50を配置できる。
手順として、まず、作物イを切断する場所に応じて刈刃上下回動用ハンドル73を回して刈刃27を上下回動させ、上下方向の高さを設定する。そして、上下高さが調整後のバリカン式刈刃装置30に対して抵抗ガイド50の上下方向の位置を調節する。前述したように、抵抗ガイド50から作物イが離れるときの戻りの勢いで作物イが刈刃27に食い込むため、ちょうど食い込みやすくなるような位置に設定する。作物イの戻りの勢いは、作物イの茎の太さ等で違うため、最初に作業をしながら適切な抵抗ガイド50の位置を決める。
【0053】
図10には、本実施形態の作業車両の抵抗ガイドの形状を変えた場合の前部平面図を示す。
そして、図10に示す折り曲がり部を設けた抵抗ガイド50でも、直線状の抵抗ガイド50と同様に、バリカン式刈刃装置30の前方に設けた抵抗ガイド50を手動で上下に回動させる構成とすれば、抵抗ガイド50を任意の高さに固定することで、摘心する作物の生育度合いに応じて、適正な高さに抵抗ガイド50を設置でき、高い切断性能を発揮させることができる。
【0054】
また、左右のバリカン式刈刃装置30は、プレート53やブラケット42から取り外すことで、作業車両からの着脱が容易にできる。左右のバリカン式刈刃装置30を作業車両から取り外して、それぞれ単独で使用する場合は、ブラケット42を挟んで左右両側(エンジン31側と刈刃27の後方側)に設けたハンドル61(図2)を握って手動用のバリカン式刈刃装置30として使用する。
【0055】
本構成を採用することで、バリカン式刈刃装置30を作業車両に設けた場合と作業車両から取り外して単独で使用する場合など、種々の使用方法が可能となる。したがってバリカン式刈刃装置30の利用用途が拡大し、便利でもある。
バリカン式刈刃装置30を単独で使用する場合のハンドル61は、バリカン式刈刃装置30の重心位置Wとなるギヤケース63を中心に、ほぼ同じ距離になるように左右両側に設けると良い。手動式のバリカン式刈刃装置30として使用する場合は、装置の重心位置のギヤケース63が作業者の腰の位置に当たるため、ギヤケース63から左右均等にハンドル61を配置することで作業時の重量バランスが良くなって、疲れにくくなる。
【0056】
図11には、バリカン式刈刃装置30にハンドル61を設けた場合の取り付け部分の斜視図を示す。
また、バリカン式刈刃装置30の刈刃27の後方に設けたハンドル61とエンジン31に設けたハンドル61は、ハンドル61の基部を取り付けるハンドルポスト65を鉛直方向に立ち上げて設け、刈刃27に対して直交するように略90度の方向に設けても良い。
【0057】
大豆などの作物の摘心装置として作業車両を使用する場合、ハンドル61のハンドルポスト65を、水平方向に設けられた刈刃27に対して鉛直方向に起立させて設置することで、刈刃27の位置に対してハンドル61の位置を高くすることができる。したがって、バリカン式刈刃装置30の刈刃27によって切断された葉がハンドル61上に堆積することを防いで、地面に落下しやすくなる。したがって、バリカン式刈刃装置30の刈刃27の切断精度を安定させることができる。
【0058】
そして、各バリカン式刈刃装置30に図11に示すようなハンドルポスト65及びハンドル61の構成を採用することで、作業者2人でバリカン式刈刃装置30の手動による切断作業が行え、能率が上がる。また、複数のバリカン式刈刃装置30を作業車両に設け、作物の摘心装置として使用する場合は、バリカン式刈刃装置30の刈刃27の全体に亘って、残葉がハンドルポスト65部に堆積せず、安定した切断作業が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、薬剤散布機を備えた薬剤などを散布する作業車と共用しても良く、薬剤散布車としての利用可能性もある。
【符号の説明】
【0060】
1 車体フレーム 2 ミッションケース
3 前輪 4 後輪
5 操縦席 9 ステアリングハンドル
11 ボンネット 15 水平フレーム
17 鉛直フレーム 18 第一アーム
18’ 第二アーム 19 昇降ロッド
20 第一シリンダ 21 連結部材
23 第二シリンダ 24 連結支持フレーム
25 刈刃上下動装置 25a アジャスタ
25b ロッド 25c 筒
27 刈刃 27a 上刃
27b 下刃 29 第三シリンダ
30 バリカン式刈刃装置 31 刈刃駆動用エンジン
31a スターターノブ 33 左右フレーム
40 支持フレーム 40a 散布ノズル
42 ブラケット 43 アンダープレート
45 ボルト 46 支持部材
47 ナット 48 軸
49 接続部材 50 抵抗ガイド
51 連結アーム 53、55 プレート
54 刈刃支持部材 54a 支持穴
55a 孔部 57 支持アーム
58 固定用ハンドル 59 ピン
59a ネジ部 60 三角プレート
60a 長孔 61 ハンドル
63 ギヤケース 65 ハンドルポスト
69 ステップ 70 ポジションセンサ(傾斜センサ)
73 上下回動用ハンドル 80 固定具
83 コンプレッサー 85 第一圧縮エアー送風管
87 第二圧縮エアー送風管 89 エアー吹き出し口
E エンジン K 刈刃機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(3,4)と、
該走行装置(3,4)上に設けられた操縦席(5)と、
該操縦席(5)の前方に設けられ、前記走行装置(3,4)の前進方向に向かって左右方向に長手方向を有し作物の上部を切断するための刈刃(27)を備えた刈刃装置(30)を複数個、各刈刃装置(30)の前後位置をずらすと共に、隣接する各刈刃装置(30)の刈刃(27)の左右方向中央部(C)の左右間の距離(L)が作物の条間距離と略同じとなるように配置した刈刃機構部(K)と
を設けたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記各刈刃装置(30)に刈刃(27)を駆動するための駆動源(31)をそれぞれ設け、該各駆動源(31)を前記走行装置(3,4)の前進方向に向かって各刈刃装置(30)の左右一側の同じ側に配置したことを特徴とする請求項1記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−92076(P2011−92076A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248546(P2009−248546)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】