作業車及び散布作業車
【課題】薬液を散布するための散布装置の装着が可能な作業車及び散布作業車の提供。
【解決手段】トラクタにスプレーヤが装着された場合、かつトラクタ側のCANにコントローラ等が接続された場合(S11及びS12でYES)、トラクタの主変速レバーに設けられている第1及び第2スイッチにデフォルトの操作パターンを設定する(S13)。また、第1及び第2スイッチの操作内容が変更された場合、それぞれ変更後の操作内容を設定する(S17及びS19)。
【解決手段】トラクタにスプレーヤが装着された場合、かつトラクタ側のCANにコントローラ等が接続された場合(S11及びS12でYES)、トラクタの主変速レバーに設けられている第1及び第2スイッチにデフォルトの操作パターンを設定する(S13)。また、第1及び第2スイッチの操作内容が変更された場合、それぞれ変更後の操作内容を設定する(S17及びS19)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を散布するための散布装置を装着可能な作業車及び散布作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、耕耘機を昇降させる昇降操作手段を設けたトラクタが知られており、昇降連結機構によって、その昇降が制御されている。また、昇降連結機構を手動にて、微小範囲において上昇/下降させる微小調整操作手段を主変速レバーに設けて、走行制御と共に耕耘機の微小調整を行いながら耕耘作業を行うトラクタが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3776819号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラクタ後方には、耕耘機だけでなく他の作業機(例えば、ブームスプレーヤなど)が装着可能であり、耕耘作業以外の作業(例えば、薬液の散布作業など)をトラクタにて行うことができる。通常、トラクタ後方に耕耘機が装着されている場合に使用する耕耘機を昇降させるための操作手段は、操作しやすい変速レバー付近に設けられている。しかし、トラクタ後方に耕耘機以外の作業機が装着されている場合には、前記操作手段が使用されることはない。
【0005】
耕耘機以外の作業機が装着されている場合は、前記耕耘機以外の作業機の動作を制御するために、作業者が操作しやすい場所に前記耕耘機用の操作手段とは別に制御パネルを設置し、この制御パネルを操作することによって前記作業機の動作を制御する。しかしながら、走行しながら作業を行う場合には、主変速レバーと制御パネルとを同時的又は交互に操作しなければならいため、作業性が低下したり、安全性が低下したりするという問題点を有していた。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、耕耘機以外の作業機として薬液散布装置を装着した場合であっても、作業性の低下が発生しない作業車及び散布作業車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車は、耕耘機の着脱が可能な装着部と、該装着部に装着された耕耘機を操作する操作手段とを備える作業車において、前記装着部に装着された薬液散布装置を前記操作手段により操作可能になしてあることを特徴とする。
【0008】
本発明にあっては、薬液散布装置が装着された場合には、耕耘機を操作する操作手段により、薬液散布装置を操作可能としている。薬液散布装置を耕耘機に代えて装着する場合には、この薬液散布装置を操作するための操作パネルを、耕耘機を操作する操作手段とは別に設置することが必要になる。本発明では、耕耘機を操作する為に設けられた操作手段を用いて薬液散布装置の操作も可能となり、操作性が向上する。
【0009】
本発明に係る作業車は、前記操作手段に割り当てられた前記耕耘機に対する操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に変更する手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、例えば、耕耘機を昇降させるための操作機能を、耕耘機に代えて薬液散布装置が装着された場合には、散布の開始/停止を制御する機能、散布圧力を増減する機能等に切り替えることができる。
【0011】
本発明に係る作業車は、前記薬液散布装置に対する複数種類の操作内容を表示する表示手段と、該表示手段に表示した複数種類の操作内容のうち何れか一種類の操作内容の選択を受付ける受付手段とを備え、前記耕耘機の操作内容を、前記受付手段にて選択された操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、作業者が自ら選択した操作内容を操作手段に割り当てることが可能となり、作業性が向上する。
【0013】
本発明に係る作業車は、前記操作手段を複数備え、各操作手段に割り当てられた耕耘機の操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に夫々変更可能になしてあることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、作業者が自ら選択した操作内容を操作手段の夫々に割り当てること可能となり、作業性が向上する。
【0015】
本発明に係る作業車は、作業パターンを識別する識別子と前記薬液散布装置の操作内容とを対応付けて記憶する記憶手段と、前記操作手段を操作する作業パターンの識別子を特定する手段と、該手段により特定した識別子に対応付けて記憶されている操作内容を前記記憶手段から読み出す手段とを備え、前記耕耘機の操作内容を、前記記憶手段から読み出した操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、作業パターンに応じて操作手段に割り当てる操作内容が変更されるため、薬液散布装置を装着する都度、操作手段に操作内容を設定する必要がなくなり、利便性が向上する。ここで、作業パターンとは、作業内容の種別(又は複数の作業内容の組み合わせ)を表す。作業パターンを識別する識別子としては、単なるインデックスだけでなく、作業者を識別する作業者IDの情報が含まれていてもよい。
【0017】
本発明に係る作業車は、変更後の操作内容を表示させるべく表示要求を受付ける手段と、該手段にて表示要求を受付けた場合、前記操作手段に割り当てられた変更後の操作内容を表示する手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、操作手段に割り当てた操作内容を適宜の時点で確認することができる。
【0019】
本発明に係る作業車は、前記装着部に薬液散布装置が装着された場合、前記耕耘機を操作するための機能を停止するようにしてあることを特徴とする。
【0020】
耕耘機に代えて薬液散布装置が装着されたタイミングで操作手段が耕耘機を操作するための手段として機能するとした場合、例えば、昇降機能が不用意に動作する可能性があり、危険であるため、本発明にあっては、本来の機能を停止させるようにしている。
【0021】
本発明に係る作業車は、前記操作手段による前記薬液散布装置の操作と前記薬液散布装置を操作するための他の操作手段による操作とを同時的に受付けた場合、何れか一方の操作を優先するようにしてあることを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、重複する操作内容の操作を受付けた場合、何れか一方(例えば、時間的に遅く受付けた操作内容)を優先的に実行することで、動作のコンフリクトを回避する。
【0023】
本発明に係る散布作業車は、前述した発明に記載の作業車と、薬液を散布する複数のノズルを備えたブーム、該ブームを駆動する手段、及び前記ノズルによる薬液の散布圧力を調整する手段を備える薬液散布装置とを備え、前記薬液散布装置に対する操作内容は、薬液散布の開始及び停止、散布圧力の調整、車速連動散布量制御機能における目標散布量の変更、又は前記ブームの駆動を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、耕耘機に代えて薬液散布装置を装着した場合、薬液散布を開始及び停止する機能、散布圧力を調整する機能、車速連動散布量制御機能における目標散布量を変更する機能、又はブームを駆動(伸縮、折り畳み、上下等)する機能が、耕耘機の操作手段に割り当てられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明による場合は、薬液散布装置が装着された場合には、耕耘機を操作する操作手段により、薬液散布装置を操作可能としている。薬液散布装置を耕耘機に代えて装着する場合には、この薬液散布装置を操作するための操作パネルを前記操作手段とは別に設置することが必要となるが、本発明では、操作パネルの一部の機能を耕耘機を操作する為に設けられた操作手段に割り当てることが可能となり、操作性を向上させることができる。また、作業車の走行を制御する主変速レバーに耕耘機を操作するための操作手段が設けられている場合、この操作手段に薬液散布装置を操作するための機能を割り当てることが可能であるため、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態に係る作業機の側面図である。
【図2】本実施の形態に係る作業機の平面図である。
【図3】主変速レバーの一例を示す模式図である。
【図4】スプレーヤを装着した作業機の側面図である。
【図5】スプレーヤを装着した作業機の平面図である。
【図6】エンジン駆動力の伝動機構を示すスケルトン図である。
【図7】薬液の流路を説明する模式図である。
【図8】本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成を示すブロック図である。
【図9】操作パネルの模式図である。
【図10】ブームスプレーヤコントローラの模式図である。
【図11】バルブ開閉コントローラの模式図である。
【図12】機能割り当て時の操作画面例を示す模式図である。
【図13】機能割り当て時の操作画面例を示す模式図である。
【図14】機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】設定された操作内容の表示例を示す模式図である。
【図16】実施の形態2で用いる操作パターンの一例を示す概念図である。
【図17】実施の形態2における機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
実施の形態1.
図1は本実施の形態に係る作業機の側面図、図2はその平面図である。本実施の形態に係る作業機は具体的にはトラクタであり、トラクタの走行機体2は、左右一対の前輪3L,3R及び後輪4L,4Rにより支持されている。走行機体2の前部にはエンジン20がボンネット6に覆われた状態で搭載されており、エンジン20にて後輪4L,4R(又は前輪3L,3R及び後輪4L,4Rの双方)を駆動することにより、トラクタは前進又は後進するように構成されている。
【0028】
走行機体2は、前バンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部に着脱自在に設置される左右の機体フレーム16とを有する。走行機体2の中央部にはエンジン20に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。機体フレーム16の後部には、エンジン20からの回転動力を適宜変速して前輪3L,3R及び後輪4L,4Rに伝達するための走行変速機構を有するミッションケース17が搭載されている。後輪4L,4Rは、ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18を介して取り付けられている。
【0029】
また、走行機体2の上面には運転キャビン7が設置されており、運転キャビン7には操縦座席8が設置されている。操縦座席8の前方には操縦コラム90が設けられており、操縦コラム90の左右方向の略中央部分には前輪3L,3Rの走行方向を左右に動かすステアリングホイール9が設置されている。操縦コラム90下方の右側には、左右の後輪4L,4Rに制動を掛けるための左右のブレーキペダル91L,91Rが配設されている。また、操縦コラム90下方の左側にはエンジン20の駆動力を遮断するためのクラッチペダル92が配設されている。
【0030】
操縦座席8の右側にはサイドコラム80が設けられており、このサイドコラム80には、作業機昇降レバー81、PTO変速レバー82、トラクタの前後進を切り替えるためのリバーサレバー83、走行速度(車速)を切り替える主変速レバー84が設けられている。
なお、図2は、説明のため、運転キャビン7を取り外した状態を示している。
【0031】
ミッションケース17の後部上面には、ロータリ耕耘機、スプレーヤ(薬液散布装置)などの各種作業機を昇降移動させる油圧式の作業機用昇降機構70が着脱可能に取り付けられる。図1及び図2ではロータリ耕耘機200を取り付けた例を示している。ロータリ耕耘機200は、一対の左右ロワーリンク71,72及びトップリンク73からなる3点リンク機構を介して作業機用昇降機構70に連結される。
【0032】
トップリンク73の前端側は、作業機用昇降機構70の後部のトップリンクヒッチにトップリンクピンを介して連結されている。さらに、ミッションケース17の後側面には、ロータリ耕耘機200にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸60が後向きに突出するように設けられている。なお、トップリンク73はターンバックルを有しており、このターンバックルの回転により、トップリンク73を伸縮させて、トップリンク73の長さを変更調節するように構成してある。
【0033】
作業機用昇降機構70は、単動形の昇降制御油圧シリンダ74と、この昇降制御油圧シリンダ74により回動される左右一対のリフトアーム75、75とを備える。進行方向に向かって左側のリフトアーム75及びロワーリンク71は、リフトロッド76を介して連結されている。また、進行方向に向かって右側のリフトアーム75及びロワーリンク72は、複動形の傾斜制御油圧シリンダとピストンロッドとを備えるリフトロッド77を介して連結されている。
【0034】
昇降制御油圧シリンダ74の伸縮により左右のロワーリンク71,72を上下に揺動駆動し、ロータリ耕耘機200を昇降するように構成されている。また、傾斜制御油圧シリンダの伸縮により、右側のロワーリンク72を左側のロワーリンク71に対して上下に揺動させ、ロータリ耕耘機200を走行機体2に対してローリングさせるように構成されている。
【0035】
このロータリ耕耘機200を操作するための操作手段は、主変速レバー84に設けられる。図3は主変速レバー84の一例を示す模式図である。主変速レバー84は、トラクタの走行速度を切り換えるための操作具であるが、この操作具の前面部分には第1スイッチ84a、側面部分には第2スイッチ84bが設けられている。また、第2スイッチ84bの上側には第3スイッチ84c、第3スイッチ84cの反対側面には第4スイッチ84dが設けられている。
【0036】
トラクタにロータリ耕耘機200が装着されている場合、主変速レバー84に設けられている4つのスイッチ84a〜84dのうち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bは、ロータリ耕耘機200を操作するための操作手段として機能する。
第1スイッチ84aは、ロータリ耕耘機200を昇降させるためのスライド式のスイッチであり、上側にスライドさせることによりロータリ耕耘機200を上昇させ、下側にスライドさせることによりロータリ耕耘機200を下降させることができるように構成している。
第2スイッチ84bは、ロータリ耕耘機200を微小範囲で昇降させるための傾倒式のスイッチであり、上側に傾倒させることによりロータリ耕耘機200を微小範囲で上昇させ、下側に傾倒させることによりロータリ耕耘機200を微小範囲で下降させることができるように構成している。
【0037】
第3スイッチ84cは、操縦コラム90に設けられた表示パネル(不図示)において表示を切り換えるためのスイッチであり、押下操作をする都度、表示を切り換えるように構成している。第4スイッチ84dは、枕地旋回をする際に設定速度で旋回するための増速確認用のスイッチである。
【0038】
本実施の形態では、ロータリ耕耘機200に代えて薬液を散布するためのスプレーヤ30(図4等を参照)が装着された場合、主変速レバー84に設けられている4つのスイッチ84a〜84dのうち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bは、スプレーヤ30を操作するための操作手段として機能するように構成している。
【0039】
図4はスプレーヤ30を装着した作業機の側面図、図5はその平面図である。スプレーヤ30は、ロータリ耕耘機200と同様、一対の左右ロワーリンク71,72及びトップリンク73からなる3点リンク機構を介して作業機用昇降機構70に連結される。
【0040】
スプレーヤ30は、薬液を貯留する薬液タンク31、複数のノズル32,32,…,32を備えたブーム33、ブーム33を駆動するブーム駆動機構40、エンジン20からの動力を得て薬液タンク31内の薬液をノズル32,32,…,32へ圧送する噴霧ポンプ34を備える。
【0041】
ブーム33は、走行機体2の後方に装着され、農薬を散布する目的地までの移動走行時においては走行機体側に寄せて格納状態とされ、圃場において農薬を散布する際には、ブーム33を横方向に延ばした伸長状態として使用する。この場合、走行機体2の後方に薬液を散布する後方ブーム33B、及び後方ブーム33Bの両端に枢支して、走行機体2の側方に設けられる左右の側方ブーム33L,33Rを備える。それぞれのブーム33B,33L,33Rには、ノズル32が適宜の間隔を隔てて配設される。
なお、ブームを横方向に移動させる方法の他に、折り畳みによる方法をとるものもある。
【0042】
後方ブーム33Bと側方ブーム33L,33Rとの間には、それぞれブーム開閉シリンダ41L,41Rが介装され、これらのブーム開閉シリンダ41L,41Rを伸縮させることによって、側方ブーム33L,33Rを左右水平方向へ延設した作業位置と、走行機体2の前後方向で前上がりに位置させた収納位置との間を回動可能としている。
【0043】
また、作業機用昇降機構70は、昇降用シリンダ78により作業機本体とブーム架台79を連結し、昇降用シリンダ78を伸縮させることによってブーム架台79に装着された後方ブーム33B及び側方ブーム33L、33Rを上下昇降可能としている。
【0044】
トラクタにスプレーヤ30を装着する場合、このスプレーヤ30の動作を制御するための操作パネル330及びコントローラ350,370(図9〜図11を参照)が併せて設置される。これらの操作パネル330及びコントローラ350,370は、主変速レバー84の近傍であって、運転キャビン7の右側面部に設置され、トラクタ側のコントローラとCAN(Controller Area Network)により通信可能に構成している。
【0045】
次に、トラクタの駆動系について説明する。図6はエンジン駆動力の伝動機構を示すスケルトン図である。本実施の形態に係るトラクタは、エンジン20の動力を伝達する経路として、駆動輪に伝達する走行系伝動経路(すなわち、主駆動輪として作用する後輪4L,4Rへ動力を伝達する走行系主伝動経路と、副駆動輪として作用する前輪3L,3Rへ動力伝達する走行系副伝動経路とを含む)及びスプレーヤ30に伝達するPTO系伝動経路とを有する。
【0046】
駆動源であるエンジン20の後側面には、エンジン出力軸21が後ろ向きに突出するように設けられる。エンジン出力軸21には、フライホイール22が直結するように取付けられている。フライホイール22から後ろ向きに突出する主動軸23と、ミッションケース17の前面から前向きに突出する主変速入力軸24との間を、両端に自在軸継ぎ手を備えた伸縮式の動力伝達軸25を介して連結する。エンジン20の動力は、ミッションケース17における主変速入力軸24に伝達し、次いで、油圧無段変速機26に伝達する。また、油圧無段変速機26の出力は、走行副変速ギヤ機構27にて適宜変速して、差動ギヤ機構28を介して後輪4L,4Rとに伝達する。また、走行副変速ギヤ機構27にて適宜変速したエンジン20の回転は、前車輪駆動ケースと前車軸ケース13の差動ギヤ機構29とを介して前輪3L,3Rに伝達する。
【0047】
油圧無段変速機26は、可変容量形の変速用油圧ポンプ部261と、この油圧ポンプ部261から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部262とを備える。主変速入力軸24には、油圧ポンプ部261及び油圧モータ部262のためのシリンダブロック(不図示)が被嵌される。主変速入力軸24とシリンダブロックとはスプラインにて連結される。主変速入力軸24の入力側と反対側でシリンダブロックを挟んでこの一側部に油圧ポンプ部261が配置される。主変速入力軸24の入力側であるシリンダブロック他側部に油圧モータ部262が配置される。
【0048】
ポンプ斜板261aは、その傾斜角が主変速入力軸24の軸線に対して調節自在となるように設けられている。主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aの傾斜角を変更する斜板制御アクチュエータを備える(不図示)。斜板制御アクチュエータによりポンプ斜板261aの傾斜角が変更されて、油圧無段変速機26の主変速動作が行われるように構成する。
【0049】
主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aを一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロックと同一方向にモータ斜板(不図示)が回転され、油圧モータ部262を増速(正転)動作させ、主変速入力軸24より高い回転数で主変速出力軸51が回転され、主変速入力軸24の回転速度が増速されて主変速出力ギヤ52に伝えられる。すなわち、主変速入力軸24の回転数に、油圧ポンプ部261にて駆動される油圧モータ部262の回転数が加算されて、主変速出力ギヤ52に伝えられる。そのため、主変速入力軸24の回転数よりも高い回転数の範囲で、ポンプ斜板261aの傾斜(正の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ52からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板261aの最大傾斜(正の傾斜角)で最大走行速度になる。
【0050】
さらに、主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aを他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロックと逆の方向にモータ斜板が回転され、油圧モータ部262を減速(逆転)動作させ、主変速入力軸24より低い回転数で主変速出力軸51が回転され、主変速入力軸24の回転速度が減速されて主変速出力ギヤ52に伝えられる。
【0051】
すなわち、主変速入力軸24の回転数に、油圧ポンプ部261にて駆動される油圧モータ部262の回転数が減算されて、主変速出力ギヤ52に伝えられる。そのため、主変速入力軸24の回転数よりも低い回転数の範囲で、ポンプ斜板261aの傾斜(負の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ52からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板261aの最大傾斜(負の傾斜角)で最低走行速度になる。
【0052】
次に、PTO軸60の動作について説明する。ミッションケース17の前室には、エンジン20からの動力をPTO軸60に伝えるPTO変速ギヤ機構61と、エンジン20からの動力を各油圧ポンプ54,55に伝えるポンプ駆動軸62とが設けられている。
【0053】
PTO変速ギヤ機構61には、PTOカウンタ軸63と、PTO変速出力軸64を備える。PTO用の油圧クラッチ65にて連結されるPTO入力ギヤ66をPTOカウンタ軸63に被嵌させる。PTO入力ギヤ66には、主変速入力軸24に設ける入力側ギヤ67と、ポンプ駆動軸62の出力側ギヤ68とが噛合され、主変速入力軸24にポンプ駆動軸62が連結される。
【0054】
そして、PTOクラッチレバー(不図示)の継続操作により、PTOクラッチ油圧電磁弁69aにてクラッチシリンダ69bが作動してPTO用の油圧クラッチ65が継続され、主変速入力軸24とPTOカウンタ軸63とがPTO入力ギヤ66にて連結されるように構成されている。
【0055】
トラクタの後部にスプレーヤ30が接続されている場合、PTO軸60に伝達される動力の一部は、図に示していないギヤ等でその回転が調整されて噴霧ポンプ34に伝達される。噴霧ポンプ34は、PTO軸60からの動力を得てピストン等を作動させ、薬液タンク31に貯留された薬液を圧送できるように構成されている。
【0056】
次に、スプレーヤ30における薬液の流路について説明する。図7は薬液の流路を説明する模式図である。薬液タンク31に設けたドレン口101は、ホース102を介してストレーナ103に連通接続されている。このストレーナ103は、噴霧ポンプ34に位置する薬液吸入口104に接続されており、薬液タンク31からの薬液は、ストレーナ103で異物を除去された後、薬液吸入口104から噴霧ポンプ34に流入される。
【0057】
噴霧ポンプ34には吐出口105が設けられ、この吐出口105から吐出された薬液のうち設定圧力以下の余水は電動調圧弁106を通過してパイプ107を経て、薬液タンク31に設けられた戻り口108に還流される。一方、設定圧力以上の薬液は、流量センサ109及び圧力センサ110が設けられたパイプ111を通ってブーム部120に送られる。
なお、噴霧ポンプ34から吐出される薬液の一部は、パイプ112を通り、薬液タンク31の戻り口113を通じて薬液タンク31内に戻され、薬液タンク31内の薬液の攪拌に利用される。
【0058】
ブーム部120には、分水管121が設けられており、この分水管121から5つの散布管122a〜122eに分岐する。それぞれの散布管122a〜122eには、電気的に動作する散布バルブ123a〜123eが設けられており(図8を参照)、散布バルブ123a〜123eを開閉することにより、薬液散布の開始及び停止を制御するように構成されている。
【0059】
なお、散布管122a,122bは、トラクタの左側に位置する側方ブーム33Lの長手方向に沿って設置されるものであり、散布管122aについては側方ブーム33Lの中央部から先端側、散布管122bについては側方ブーム33Lの中央部からトラクタ側に配置することで、それぞれの散布範囲を異ならせている。散布管122d,122eについても同様であり、それぞれの散布範囲が異なるように、トラクタの右側に位置する側方ブーム33Rの長手方向に沿って設置される。また、散布管122cについては、トラクタ後方に位置する後方ブーム33Bの長手方向に沿って設置される。
【0060】
以下、本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成について説明する。図8は本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るトラクタは、車両の制御を行うトラクタ側コントローラ310とスプレーヤの制御を行うスプレーヤ側コントローラ320とを備える。トラクタ側コントローラ310及びスプレーヤ側コントローラ320は、CANにより接続されており、協同して各種制御を行うことにより、本実施の形態のトラクタを本発明に係る散布作業機として機能させる。
【0061】
トラクタ側コントローラ310は、CPU311、EEPROM312、RAM313、入出力IF314、及び通信部315を備える。CPU311は、EEPROM312に予め格納された車両制御用プログラムをRAM313に展開して実行することにより、各種の制御及び演算を行う。
【0062】
トラクタ側コントローラ310の入出力IF314には、主変速レバー84の第1スイッチ84a〜第4スイッチ84dから出力される信号が入力される。また、入出力IF314には、作業機用昇降機構70が備える昇降制御油圧シリンダ74を伸縮させる電磁弁74aが接続されている。
【0063】
入出力IF314を通じて第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bからの信号が入力された場合、設定されている操作内容に応じた動作が行われる。すなわち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bが押下操作された際の操作内容を設定したテーブルをEEPROM312が記憶し、CPU311がそのテーブルの内容を参照することによって、各種の動作を行う。
【0064】
例えば、トラクタにロータリ耕耘機200が装着されている場合であって、入出力IF314を通じて第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bからの信号が入力されたとき、CPU311は、入力された信号に応じて昇降制御油圧シリンダ74を伸張又は短縮させるための信号を電磁弁74aへ送出し、昇降制御油圧シリンダ74を伸張又は短縮させることによって、作業機用昇降機構70の昇降移動を制御する。
【0065】
また、トラクタにスプレーヤ30が装着されている場合であって、入出力IF314を通じて第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bからの信号が入力されたとき、CPU311は、EEPROM312に記憶されているテーブルを参照し、テーブルに記憶されている操作内容に従ってスプレーヤ30を操作するための制御を行う。なお、このテーブルに記憶される設定内容は、操作パネル330を通じて作業者の手により変更可能としている。
【0066】
通信部315には、CANゲートウェイ300を介してスプレーヤ側コントローラ320に接続され、スプレーヤ側コントローラ320から送信される情報を受信すると共に、スプレーヤ側コントローラ320に通知すべき情報を送信するように構成されている。
【0067】
スプレーヤ側コントローラ320は、CPU321、EEPROM322、RAM323、入出力IF324、及び通信部325を備える。CPU321は、EEPROM322に予め格納されたスプレーヤ制御用プログラムをRAM323に展開して実行することにより、各種の制御及び演算を行う。
【0068】
スプレーヤ側コントローラ320の入出力IF324には、散布モードの選択、目標反当たりの散布量の設定等を受付けるための操作パネル330、ブームスプレーヤを開閉、伸縮、傾斜、昇降させるためのブームスプレーヤコントローラ350、及び散布バルブ123a〜123eを開閉させるスイッチを備えたバルブ開閉コントローラ370が接続されている。
【0069】
通信部325には、CANゲートウェイ300を介してトラクタ側コントローラ310に接続され、トラクタ側コントローラ310から送信される情報を受信すると共に、トラクタ側コントローラ310に通知すべき情報を送信するように構成されている。
また、通信部325には、第1CANインタフェース301を介して、流量センサ109、圧力センサ110、電動調圧弁106が接続されており、流量センサ109によって計測された散布流量、圧力センサ110によって接続された散布圧力の情報を受信すると共に、電動調圧弁106を制御するための制御コマンドを送信する。更に、通信部325には、第1CANインタフェース301及び第2CANインタフェースを介して5つの散布バルブ123a〜123e、ブーム操作用電磁弁130が接続されており、散布作業時のスプレーヤの動作をCANを用いた通信により制御できるように構成している。
【0070】
次に、スプレーヤ30の装着と共に設置される操作パネル330、ブームスプレーヤコントローラ350、及びバルブ開閉コントローラ370について説明する。
【0071】
図9は操作パネル330の模式図である。操作パネル330は、散布作業に関する作業者の指示を受付ける第1操作ボタン群331、作業者の選択操作を受付ける第2操作ボタン群332、作業者に報知すべき情報を表示する表示部333、設定された目標反当たりの散布量を表示する散布量表示部334、散布作業の自動制御又は手動制御を識別表示する識別ランプ335a,335bを備える。
【0072】
第1操作ボタン群331は、操作内容を表示させるためのメニューボタン331a、選択された内容を確定するための決定ボタン331b等により構成される。また、第2操作ボタン群332は、上下左右方向の4つのカーソルボタン332a〜332dにより構成される。
【0073】
作業者は、散布作業に関する作業内容を操作パネル330を用いて決定する。例えば、メニューボタン331aを押下操作することにより、設定したい内容を表示部333に表示させ、表示部333に表示される選択項目をカーソルボタン332a〜332dを用いて選択することによって各種設定を行う。操作パネル330を用いて設定する内容には、散布作業の自動制御又は手動制御の選択、単位反当たりの散布量(L/10a)、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bへの機能の割り当て等が含まれる。
自動制御が選択された場合、自動制御が選択されたことを示す識別ランプ335aが点灯し、手動制御が選択された場合、手動制御が選択されたことを示す識別ランプ335bが点灯する。
【0074】
図10はブームスプレーヤコントローラ350の模式図である。ブームスプレーヤコントローラ350は、スプレーヤ30の動作を手動により制御するためのコントローラである。電源スイッチ351は、ブームスプレーヤコントローラ350の電源をオン/オフするためのスイッチである。散布スイッチ352は、散布の開始/停止を制御するスイッチである。散布圧力スイッチ353は、散布圧力を増減するためのスイッチであり、スイッチを左側に傾倒させた場合に加圧、右側に傾倒させた場合に減圧し、中立点で増減を停止するように構成されている。
【0075】
スプレーヤ昇降スイッチ354は、ブーム33を走行機体2に対して昇降させるためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に上昇、下側に傾倒させた場合に下降させ、中立点で昇降が停止するように構成されている。
【0076】
ブーム開閉スイッチ355L,355Rは、それぞれ側方ブーム33L,33Rを収納位置から作業位置(又は作業位置から収納位置)へ回動させるためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に作業位置へ、下側に傾倒させた場合に収納位置に側方ブーム33L,33Rを移動させ、中立点で移動が停止するように構成されている。
ブーム伸縮スイッチ356L,356Rは、それぞれ側方ブーム33L,33Rを伸縮するためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に伸張、下側に傾倒させた場合に短縮し、中立点で伸張が停止するように構成されている。
ブーム傾斜スイッチ357L,357Rは、それぞれ側方ブーム33L,33Rを傾斜させるためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に側方ブーム33L,33Rの先端部が上昇、下側に傾倒させた場合に下降し、中立点で停止するように構成されている。
【0077】
図11はバルブ開閉コントローラ370の模式図である。バルブ開閉コントローラ370はスプレーヤ30のバルブを開閉するためのコントローラである。開閉スイッチ371は、側方ブーム33Rの中央部から先端側に配置された複数のノズル32を使用可能とするために、散布バルブ123eを開閉するためのスイッチである。開閉スイッチ372〜375についても同様であり、それぞれ、散布バルブ123d〜123aを開閉するためのスイッチである。これらのスイッチは、上側に傾倒させた場合にバルブを開け、下側に傾倒させた場合にバルブを閉じるように構成されている。
【0078】
次に、操作パネル330を用いて、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに機能を割り当てるときの操作例について説明する。
図12及び図13は機能割り当て時の操作画面例を示す模式図である。作業者は、まず、操作パネル330の第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332を用いて適宜の操作を行い、操作パネル330の表示部333にレバー設定画面500を表示させる(図12(a)を参照)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、トラクタ側コントローラ310のEEPROM312に予め記憶されているデフォルトの操作パターン(テーブルに記憶されている操作内容)を取得し、レバー設定画面500に現在の設定を表示させる。図12(a)では、デフォルトの操作パターンとして、散布の開始/停止が第1スイッチ84aに割り当てられており、散布圧力の増減が第2スイッチ84bに割り当てられていることを示している。すなわち、デフォルトの操作パターンでは、第1スイッチ84aがブームスプレーヤコントローラ350の散布スイッチ352として機能し、第2スイッチ84bがブームスプレーヤコントローラ350の散布圧力スイッチ353として機能するように設定されている。
なお、デフォルトの操作パターンは上記のパターンに限定する必要はなく、適宜設定し得るものである。
【0079】
レバー設定画面500を表示させた状態で操作パネル330のカーソルボタン332a又は332bを押下操作することにより、操作内容の変更対象のスイッチを選択する。図12(a)は、「1」のインデックスで示されているスイッチ(第1スイッチ84a)が選択されている状態を示しており、カーソルボタン332bが押下操作された場合、「2」のインデックスで示されているスイッチ(第2スイッチ84b)が選択される。
第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bの一方が選択された状態で、操作パネル330の決定ボタン331b(又はカーソルボタン332d)が押下場合、変更対象のスイッチが確定し、図12(b)に示す機能選択画面510を表示する。
【0080】
図12(b)の機能選択画面510では、第1スイッチ84aに設定する操作内容として、散布の開始/停止(サンプ)、又は散布圧力の増減(アツリョク)をカーソルボタン332a及び332bにより選択できるようにしている。
薬液の散布に関し、散布の開始/停止、散布圧力の増減を操作内容として設定できるだけでなく、散布作業の自動制御(例えば、車速に連動させて散布量を自動的に制御する機能)における目標散布量を変更する機能を操作内容として設定できるようにしてもよい。
散布圧力の増減(アツリョク)が選択された状態で、更にカーソルボタン332bが押下操作された場合、図13(a)に示す機能選択画面520を表示する。
【0081】
図13(a)の機能選択画面520では、第1スイッチ84aに設定する操作内容として、ブーム33の伸縮(ブーム・スライド)、ブーム33の傾斜(ブーム・ケイシャ)、又はブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)をカーソルボタン332a及び332bにより選択できるようにしている。
ここで、ブーム33の伸縮(ブーム・スライド)は、ブームスプレーヤコントローラ350のブーム伸縮スイッチ356L,356Rに相当する機能である。ブーム33の傾斜(ブーム・ケイシャ)は、同じくブーム傾斜スイッチ357L,357Rに相当する機能である。ブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)は、同じくブーム開閉スイッチ355L,355Rに相当する機能である。
ブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)が選択された状態で、更にカーソルボタン332bが押下操作された場合、図13(b)に示す機能選択画面530を表示する。一方、ブーム33の伸縮(ブーム・スライド)が選択された状態で、カーソルボタン332aが押下操作された場合、図12(b)に示す機能選択画面510を表示する。
【0082】
図13(b)の機能選択画面530では、第1スイッチ84aに設定する操作内容として、ブーム33の昇降(ブーム・ショウコウ)を選択できるようにしている。なお、ブーム33を旋回させる駆動機構を有している場合、ブーム33の旋回(ブーム・センカイ)を選択できるようにしてもよい。また、ブーム33を折り込む機能を選択できるようにしてもよい。
【0083】
各機能選択画面510〜530において、設定すべき操作内容が選択された状態で、操作パネル330の決定ボタン331b(又はカーソルボタン332d)が押下操作された場合、第1スイッチ84aの操作内容が設定される。第2スイッチ84bの操作内容を設定する場合も同様であり、図12(b)〜図13(b)に示すような機能選択画面を表示させ、操作内容の選択を受付けることにより、操作内容の設定を行う。より具体的には、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bが押下操作された場合、CPU321が参照するテーブルの操作内容を書き換える処理を行う。
【0084】
図14は機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。トラクタ側コントローラ310のCPU311は、スプレーヤ30が装着されたか否かを判断する(ステップS11)。スプレーヤ30の装着は、例えば、スプレーヤ30が3点リンク機構を介して作業機用昇降機構70に連結され、トラクタ側コントローラ310と電気的に接続された場合、スプレーヤ30から自機の作業機種別を含む識別IDをトラクタ側コントローラ310へ送出するように構成しておき、CPU311がその識別IDから作業機種別を特定することによって判断する。
【0085】
スプレーヤ30が装着されたと判断した場合(S11:YES)、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、スプレーヤ側コントローラ320等がトラクタ側のCANに接続されたか否かを判断する(ステップS12)。すなわち、CANゲートウェイ300を介してスプレーヤ側コントローラ320が接続されたことを示す信号を通信部315が受信した場合、トラクタ側のCANに接続されたと判断する。接続されていないと判断した場合(S12:NO)、スプレーヤ側コントローラ320が接続されるまで待機する。
【0086】
スプレーヤ側コントローラ320等がトラクタ側CANに接続されたと判断した場合(S12:YES)、主変速レバー84によりロータリ耕耘機200を操作するための機能を停止させる。すなわち、スプレーヤ30が装着されている場合に、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bが本来の機能である昇降機能として働くと危険であるため、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bの昇降機能を停止させる処理を行う。
次いで、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、EEPROM312からデフォルトの操作パターンを読み込み、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに割り当てる機能を設定する(ステップS13)。
【0087】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、レバー設定画面500の表示指示があるか否かを判断する(ステップS14)。レバー設定画面500の表示指示の有無は、操作パネル330が備える第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332の操作により、レバー設定画面500が呼び出されたか否かを判断することによって行う。表示指示がない場合(S14:NO)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0088】
表示指示がある場合(S14:YES)、スプレーヤ側コントローラ320は、EEPROM322に予め記憶されているデフォルトの操作パターンを取得し、現在の設定状態を示したレバー設定画面500を操作パネル330の表示部333に表示する(ステップS15)。
【0089】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、操作パネル330を通じて、主変速レバー84の第1スイッチ84aに対する操作内容の変更を受け付けたか否かを判断する(ステップS16)。第1スイッチ84aに対する操作内容の変更を受け付けた場合(S16:YES)、第1スイッチ84aの操作内容を変更後の内容に設定する(ステップS17)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、変更後の操作内容をトラクタ側コントローラ310に通知し、主変速レバー84の第1スイッチ84aに割り当てる機能として設定する。
【0090】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、操作パネル330を通じて、主変速レバー84の第2スイッチ84bに対する操作内容の変更を受け付けたか否かを判断する(ステップS18)。第2スイッチ84bに対する操作内容の変更を受け付けた場合(S18:YES)、第2スイッチ84bの操作内容を変更後の内容に設定する(ステップS19)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、変更後の操作内容をトラクタ側コントローラ310に通知し、主変速レバー84の第2スイッチ84bに割り当てる機能として設定する。
なお、ステップS18以降の処理は、ステップS16で第1スイッチ84aに対する操作内容の変更を受け付けていないと判断した場合にも(S16:NO)、実行する。
【0091】
ステップS19で第2スイッチ84bに対する操作内容を変更した場合、又はステップS18で第2スイッチ84bに対する操作内容の変更を受け付けていないと判断した場合(S18:NO)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0092】
以上のように、本実施の形態では、トラクタにスプレーヤ30が装着された場合、スプレーヤ30を操作するための機能を主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに割り当てることができ、主変速レバー84によりトラクタの走行を制御しながらスプレーヤ30を容易に操作することが可能となるため、作業性の向上及び安全性の向上を図ることができる。
【0093】
例えば、凹凸路面が多い圃場を走行する場合、ブーム33が揺れやすくなるので、常にブーム33と地面との距離を一定に保ち、ブーム33が地面に衝突しないように制御を行う必要がある。本願では、主変速レバー84のスイッチ(第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bの何れか一方)に、ブーム33の傾斜操作機能を割り当てることができる。これにより、トラクタの走行速度を主変速レバー84で制御しながら、主変速レバー84のスイッチを操作することでブーム33と地面との距離を調整することが可能となる。従来のように、主変速レバー84を操作しながら、ブームスプレーヤコントローラ350を操作する必要がなくなるため、作業性が向上すると共に、安全性が高まる。
また、変形圃場の畝端でスムーズに旋回したい場合には、ブーム33を傾斜させる必要がある。この場合、主変速レバー84のスイッチに、ブーム33の傾斜操作機能を割り当てておくことにより、トラクタの走行速度を主変速レバー84で制御しながら、必要に応じて主変速レバー84のスイッチを操作し、ブーム33を傾斜させることができる。
【0094】
更に、作物の生育状況や、病害虫の発生状況に応じて散布量を調整したい場合、主変速レバー84のスイッチに調量・調圧操作機能を割り当てておくことにより、散布作業をしながら目標散布量の微調整操作が可能となる。また、主変速レバー84のスイッチに調量・調圧操作機能を割り当てた場合、例えば、散布作業中に風が急に強くなり、ドリフトが発生しやすい状況が生じた場合であっても、主変速レバー84のスイッチの操作により、散布圧力を下げ、噴霧粒径を大きくすることでドリフトの発生を抑えることができる。このように、本願では散布作業に際し、圃場ごとの特殊性や作業内容の優先度、使用頻度や作業者の好みに応じて、容易に対処することが可能となる。
【0095】
以上のように、本実施の形態では、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに対して、スプレーヤ30に関する操作内容を割り当てることができる。このとき、第1スイッチ84a及び第2スイッチ8bに割り当てた操作内容は、操作パネル330、ブームスプレーヤコントローラ350、バルブ開閉コントローラ370が本来有する操作内容の一部と重複することになる。
そのため、作業者が、第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bの操作と、操作パネル330、ブームスプレーヤコントローラ350、又はバルブ開閉コントローラ370による操作とを同時的に行った場合、動作のコンフリクトが発生し、安全性が確保できない虞がある。例えば、第1スイッチ84aにブーム33L,33Rを伸縮させる機能を割り当てている場合、第1スイッチ84aによりブーム33L,33Rを伸張させる操作と、ブームスプレーヤコントローラ350の伸縮スイッチ356L,356Rによってブーム33L,33Rを短縮させる操作とを同時的に行った場合、動作のコンフリクトが発生する。このようなコンフリクトを解消するために、本実施の形態では、作業者が同時的に複数の動作を行った場合(すなわち、所定時間内に複数の操作が指示された場合)、時間的に最も遅く入力された操作を優先的に実行するようにしている。
【0096】
なお、本実施の形態では、主変速レバー84が備える第1スイッチ84a〜第4スイッチ84dのうち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bにスプレーヤ30を操作するための機能を設定する構成としたが、必ずしもこの構成に限定する必要はなく、第3スイッチ84c及び第4スイッチ84dに機能を割り当てる構成としてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、機能設定画面520においてブーム33の駆動に関する操作内容が設定された場合、第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bにより、左右双方の側方ブーム33L,33Rを同時的に駆動するように構成したが、左右個別に駆動できるように機能を割り当てる構成としてもよい。
【0098】
また、適宜の時点で、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに設定された操作内容を操作パネル330の表示部333に表示できるようにしてもよい。図15は設定された操作内容の表示例を示す模式図である。図15(a)及び図15(b)は、スプレーヤ30が装着され、散布モードが設定された状態の表示例を示している。自動散布モードは、トラクタの車速に応じて、目標散布量を実現すべく薬液の散布圧力を自動的に調整するモードを表す。手動散布モードは、作業者自身がトラクタの車速、薬液の散布圧力を手動により調節するモードを表す。
【0099】
図15(a)又は図15(b)に示されているような表示状態において、例えば、操作パネル330のメニューボタン331aが3秒間押下操作された場合、その時点で第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに設定されている操作内容を表示部333に表示する。図15(c)の表示例は、第1スイッチ84aにブーム33の伸縮(ブーム・スライド)、第2スイッチ84bにブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)が設定されていることを示している。
また、メニューボタン331aが再度押下操作された場合、元の表示画面(図15(a)又は図15(b)に示す表示画面)を表示するようにしている。
【0100】
なお、現在の操作内容の設定を表示させる際の操作ボタン、元の表示画面を復帰させる際の操作ボタンは、前述したものに限定する必要がなく、任意のボタン、任意のボタンの組み合わせに割り当てればよい。
【0101】
実施の形態2.
実施の形態1では、スプレーヤ30が装着された場合、デフォルトの操作パターン又は作業者により選択された操作内容を、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに設定する構成したが、作業者に応じて操作パターンを設定する構成してもよい。
実施の形態2では、作業者を特定し、特定した作業者に応じて主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに機能を設定する構成について説明する。
【0102】
図16は実施の形態2で用いる操作パターンの一例を示す概念図である。図16に示した例では、作業者IDに関連付けて操作パターンが記憶されている。このような作業者IDと操作パターン(作業パターン)とを関連付けたテーブルが、トラクタ側コントローラ310のEEPROM312に予め記憶されている。
図16に示した操作パターンでは、例えば、作業者ID「001」で識別される作業者を特定した場合、主変速レバー84の第1スイッチ84aに散布を開始/停止する機能を割り当て、第2スイッチ84bに散布圧力を増減する機能を割り当てることを定めている。他の作業者IDで識別される作業者を特定した場合も同様である。
なお、作業者を特定する手法は、公知の手法を用いることができる。例えば、操作パネル330の第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332を用いて作業者IDを入力させることにより作業者を特定することができる。また、操作パネル330に無線通信の機能を搭載し、作業者側が所持する通信端末又はIDカードと交信を行うことにより、通信端末又はIDカードから作業者IDを取得する構成としてもよい。
【0103】
図17は実施の形態2における機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。操作パネル330は、まず、作業者IDを受付ける(ステップS21)。前述のように、第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332を用いて作業者IDの入力を受付ける構成としてもよく、無線通信により作業者IDを取得する構成としてもよい。受付けた作業者IDは、スプレーヤ側コントローラ320に通知され、スプレーヤ側コントローラ320からCANゲートウェイ300を通じてトラクタ側コントローラ310に通知される。
【0104】
次いで、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、通知された作業者IDをEEPROM312に記憶されたテーブルから検索する(ステップS22)。CPU311は、EEPROM312に記憶されたテーブルに作業者IDが存在するか否かを判断し(ステップS23)、作業者IDが存在する場合には(S23:YES)、その作業者IDに関連付けて記憶されている操作パターンを読み出し(ステップS24)、読み出した操作パターンを主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bの機能として設定する(ステップS25)。
作業者IDを検索しても見つからない場合には(S23:NO)、本フローチャートによる処理を終了する。このとき、事前に設定された操作パターンが維持される。
【0105】
本実施の形態では、作業者を識別する作業者IDに関連付けて操作パターンを記憶する構成としたが、操作パターン毎に識別子を割り当てておき、その識別子と関連付けて操作パターンを記憶する構成としてもよい。この場合、作業者による識別子の選択を受付け、選択された識別子に対応する操作パターンを読み出すことにより、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに作業者が所望する機能を割り当てることができる。
【符号の説明】
【0106】
30 スプレーヤ
31 薬液タンク
32 ノズル
33 ブーム
34 噴霧ポンプ
84 主変速レバー
84a〜84d 第1〜第4スイッチ
310 トラクタ側コントローラ
320 スプレーヤ側コントローラ
330 操作パネル
350 ブームスプレーヤコントローラ
370 バルブ開閉コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を散布するための散布装置を装着可能な作業車及び散布作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、耕耘機を昇降させる昇降操作手段を設けたトラクタが知られており、昇降連結機構によって、その昇降が制御されている。また、昇降連結機構を手動にて、微小範囲において上昇/下降させる微小調整操作手段を主変速レバーに設けて、走行制御と共に耕耘機の微小調整を行いながら耕耘作業を行うトラクタが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3776819号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラクタ後方には、耕耘機だけでなく他の作業機(例えば、ブームスプレーヤなど)が装着可能であり、耕耘作業以外の作業(例えば、薬液の散布作業など)をトラクタにて行うことができる。通常、トラクタ後方に耕耘機が装着されている場合に使用する耕耘機を昇降させるための操作手段は、操作しやすい変速レバー付近に設けられている。しかし、トラクタ後方に耕耘機以外の作業機が装着されている場合には、前記操作手段が使用されることはない。
【0005】
耕耘機以外の作業機が装着されている場合は、前記耕耘機以外の作業機の動作を制御するために、作業者が操作しやすい場所に前記耕耘機用の操作手段とは別に制御パネルを設置し、この制御パネルを操作することによって前記作業機の動作を制御する。しかしながら、走行しながら作業を行う場合には、主変速レバーと制御パネルとを同時的又は交互に操作しなければならいため、作業性が低下したり、安全性が低下したりするという問題点を有していた。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、耕耘機以外の作業機として薬液散布装置を装着した場合であっても、作業性の低下が発生しない作業車及び散布作業車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車は、耕耘機の着脱が可能な装着部と、該装着部に装着された耕耘機を操作する操作手段とを備える作業車において、前記装着部に装着された薬液散布装置を前記操作手段により操作可能になしてあることを特徴とする。
【0008】
本発明にあっては、薬液散布装置が装着された場合には、耕耘機を操作する操作手段により、薬液散布装置を操作可能としている。薬液散布装置を耕耘機に代えて装着する場合には、この薬液散布装置を操作するための操作パネルを、耕耘機を操作する操作手段とは別に設置することが必要になる。本発明では、耕耘機を操作する為に設けられた操作手段を用いて薬液散布装置の操作も可能となり、操作性が向上する。
【0009】
本発明に係る作業車は、前記操作手段に割り当てられた前記耕耘機に対する操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に変更する手段を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、例えば、耕耘機を昇降させるための操作機能を、耕耘機に代えて薬液散布装置が装着された場合には、散布の開始/停止を制御する機能、散布圧力を増減する機能等に切り替えることができる。
【0011】
本発明に係る作業車は、前記薬液散布装置に対する複数種類の操作内容を表示する表示手段と、該表示手段に表示した複数種類の操作内容のうち何れか一種類の操作内容の選択を受付ける受付手段とを備え、前記耕耘機の操作内容を、前記受付手段にて選択された操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、作業者が自ら選択した操作内容を操作手段に割り当てることが可能となり、作業性が向上する。
【0013】
本発明に係る作業車は、前記操作手段を複数備え、各操作手段に割り当てられた耕耘機の操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に夫々変更可能になしてあることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、作業者が自ら選択した操作内容を操作手段の夫々に割り当てること可能となり、作業性が向上する。
【0015】
本発明に係る作業車は、作業パターンを識別する識別子と前記薬液散布装置の操作内容とを対応付けて記憶する記憶手段と、前記操作手段を操作する作業パターンの識別子を特定する手段と、該手段により特定した識別子に対応付けて記憶されている操作内容を前記記憶手段から読み出す手段とを備え、前記耕耘機の操作内容を、前記記憶手段から読み出した操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、作業パターンに応じて操作手段に割り当てる操作内容が変更されるため、薬液散布装置を装着する都度、操作手段に操作内容を設定する必要がなくなり、利便性が向上する。ここで、作業パターンとは、作業内容の種別(又は複数の作業内容の組み合わせ)を表す。作業パターンを識別する識別子としては、単なるインデックスだけでなく、作業者を識別する作業者IDの情報が含まれていてもよい。
【0017】
本発明に係る作業車は、変更後の操作内容を表示させるべく表示要求を受付ける手段と、該手段にて表示要求を受付けた場合、前記操作手段に割り当てられた変更後の操作内容を表示する手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、操作手段に割り当てた操作内容を適宜の時点で確認することができる。
【0019】
本発明に係る作業車は、前記装着部に薬液散布装置が装着された場合、前記耕耘機を操作するための機能を停止するようにしてあることを特徴とする。
【0020】
耕耘機に代えて薬液散布装置が装着されたタイミングで操作手段が耕耘機を操作するための手段として機能するとした場合、例えば、昇降機能が不用意に動作する可能性があり、危険であるため、本発明にあっては、本来の機能を停止させるようにしている。
【0021】
本発明に係る作業車は、前記操作手段による前記薬液散布装置の操作と前記薬液散布装置を操作するための他の操作手段による操作とを同時的に受付けた場合、何れか一方の操作を優先するようにしてあることを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、重複する操作内容の操作を受付けた場合、何れか一方(例えば、時間的に遅く受付けた操作内容)を優先的に実行することで、動作のコンフリクトを回避する。
【0023】
本発明に係る散布作業車は、前述した発明に記載の作業車と、薬液を散布する複数のノズルを備えたブーム、該ブームを駆動する手段、及び前記ノズルによる薬液の散布圧力を調整する手段を備える薬液散布装置とを備え、前記薬液散布装置に対する操作内容は、薬液散布の開始及び停止、散布圧力の調整、車速連動散布量制御機能における目標散布量の変更、又は前記ブームの駆動を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、耕耘機に代えて薬液散布装置を装着した場合、薬液散布を開始及び停止する機能、散布圧力を調整する機能、車速連動散布量制御機能における目標散布量を変更する機能、又はブームを駆動(伸縮、折り畳み、上下等)する機能が、耕耘機の操作手段に割り当てられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明による場合は、薬液散布装置が装着された場合には、耕耘機を操作する操作手段により、薬液散布装置を操作可能としている。薬液散布装置を耕耘機に代えて装着する場合には、この薬液散布装置を操作するための操作パネルを前記操作手段とは別に設置することが必要となるが、本発明では、操作パネルの一部の機能を耕耘機を操作する為に設けられた操作手段に割り当てることが可能となり、操作性を向上させることができる。また、作業車の走行を制御する主変速レバーに耕耘機を操作するための操作手段が設けられている場合、この操作手段に薬液散布装置を操作するための機能を割り当てることが可能であるため、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態に係る作業機の側面図である。
【図2】本実施の形態に係る作業機の平面図である。
【図3】主変速レバーの一例を示す模式図である。
【図4】スプレーヤを装着した作業機の側面図である。
【図5】スプレーヤを装着した作業機の平面図である。
【図6】エンジン駆動力の伝動機構を示すスケルトン図である。
【図7】薬液の流路を説明する模式図である。
【図8】本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成を示すブロック図である。
【図9】操作パネルの模式図である。
【図10】ブームスプレーヤコントローラの模式図である。
【図11】バルブ開閉コントローラの模式図である。
【図12】機能割り当て時の操作画面例を示す模式図である。
【図13】機能割り当て時の操作画面例を示す模式図である。
【図14】機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】設定された操作内容の表示例を示す模式図である。
【図16】実施の形態2で用いる操作パターンの一例を示す概念図である。
【図17】実施の形態2における機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
実施の形態1.
図1は本実施の形態に係る作業機の側面図、図2はその平面図である。本実施の形態に係る作業機は具体的にはトラクタであり、トラクタの走行機体2は、左右一対の前輪3L,3R及び後輪4L,4Rにより支持されている。走行機体2の前部にはエンジン20がボンネット6に覆われた状態で搭載されており、エンジン20にて後輪4L,4R(又は前輪3L,3R及び後輪4L,4Rの双方)を駆動することにより、トラクタは前進又は後進するように構成されている。
【0028】
走行機体2は、前バンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部に着脱自在に設置される左右の機体フレーム16とを有する。走行機体2の中央部にはエンジン20に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。機体フレーム16の後部には、エンジン20からの回転動力を適宜変速して前輪3L,3R及び後輪4L,4Rに伝達するための走行変速機構を有するミッションケース17が搭載されている。後輪4L,4Rは、ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18を介して取り付けられている。
【0029】
また、走行機体2の上面には運転キャビン7が設置されており、運転キャビン7には操縦座席8が設置されている。操縦座席8の前方には操縦コラム90が設けられており、操縦コラム90の左右方向の略中央部分には前輪3L,3Rの走行方向を左右に動かすステアリングホイール9が設置されている。操縦コラム90下方の右側には、左右の後輪4L,4Rに制動を掛けるための左右のブレーキペダル91L,91Rが配設されている。また、操縦コラム90下方の左側にはエンジン20の駆動力を遮断するためのクラッチペダル92が配設されている。
【0030】
操縦座席8の右側にはサイドコラム80が設けられており、このサイドコラム80には、作業機昇降レバー81、PTO変速レバー82、トラクタの前後進を切り替えるためのリバーサレバー83、走行速度(車速)を切り替える主変速レバー84が設けられている。
なお、図2は、説明のため、運転キャビン7を取り外した状態を示している。
【0031】
ミッションケース17の後部上面には、ロータリ耕耘機、スプレーヤ(薬液散布装置)などの各種作業機を昇降移動させる油圧式の作業機用昇降機構70が着脱可能に取り付けられる。図1及び図2ではロータリ耕耘機200を取り付けた例を示している。ロータリ耕耘機200は、一対の左右ロワーリンク71,72及びトップリンク73からなる3点リンク機構を介して作業機用昇降機構70に連結される。
【0032】
トップリンク73の前端側は、作業機用昇降機構70の後部のトップリンクヒッチにトップリンクピンを介して連結されている。さらに、ミッションケース17の後側面には、ロータリ耕耘機200にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸60が後向きに突出するように設けられている。なお、トップリンク73はターンバックルを有しており、このターンバックルの回転により、トップリンク73を伸縮させて、トップリンク73の長さを変更調節するように構成してある。
【0033】
作業機用昇降機構70は、単動形の昇降制御油圧シリンダ74と、この昇降制御油圧シリンダ74により回動される左右一対のリフトアーム75、75とを備える。進行方向に向かって左側のリフトアーム75及びロワーリンク71は、リフトロッド76を介して連結されている。また、進行方向に向かって右側のリフトアーム75及びロワーリンク72は、複動形の傾斜制御油圧シリンダとピストンロッドとを備えるリフトロッド77を介して連結されている。
【0034】
昇降制御油圧シリンダ74の伸縮により左右のロワーリンク71,72を上下に揺動駆動し、ロータリ耕耘機200を昇降するように構成されている。また、傾斜制御油圧シリンダの伸縮により、右側のロワーリンク72を左側のロワーリンク71に対して上下に揺動させ、ロータリ耕耘機200を走行機体2に対してローリングさせるように構成されている。
【0035】
このロータリ耕耘機200を操作するための操作手段は、主変速レバー84に設けられる。図3は主変速レバー84の一例を示す模式図である。主変速レバー84は、トラクタの走行速度を切り換えるための操作具であるが、この操作具の前面部分には第1スイッチ84a、側面部分には第2スイッチ84bが設けられている。また、第2スイッチ84bの上側には第3スイッチ84c、第3スイッチ84cの反対側面には第4スイッチ84dが設けられている。
【0036】
トラクタにロータリ耕耘機200が装着されている場合、主変速レバー84に設けられている4つのスイッチ84a〜84dのうち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bは、ロータリ耕耘機200を操作するための操作手段として機能する。
第1スイッチ84aは、ロータリ耕耘機200を昇降させるためのスライド式のスイッチであり、上側にスライドさせることによりロータリ耕耘機200を上昇させ、下側にスライドさせることによりロータリ耕耘機200を下降させることができるように構成している。
第2スイッチ84bは、ロータリ耕耘機200を微小範囲で昇降させるための傾倒式のスイッチであり、上側に傾倒させることによりロータリ耕耘機200を微小範囲で上昇させ、下側に傾倒させることによりロータリ耕耘機200を微小範囲で下降させることができるように構成している。
【0037】
第3スイッチ84cは、操縦コラム90に設けられた表示パネル(不図示)において表示を切り換えるためのスイッチであり、押下操作をする都度、表示を切り換えるように構成している。第4スイッチ84dは、枕地旋回をする際に設定速度で旋回するための増速確認用のスイッチである。
【0038】
本実施の形態では、ロータリ耕耘機200に代えて薬液を散布するためのスプレーヤ30(図4等を参照)が装着された場合、主変速レバー84に設けられている4つのスイッチ84a〜84dのうち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bは、スプレーヤ30を操作するための操作手段として機能するように構成している。
【0039】
図4はスプレーヤ30を装着した作業機の側面図、図5はその平面図である。スプレーヤ30は、ロータリ耕耘機200と同様、一対の左右ロワーリンク71,72及びトップリンク73からなる3点リンク機構を介して作業機用昇降機構70に連結される。
【0040】
スプレーヤ30は、薬液を貯留する薬液タンク31、複数のノズル32,32,…,32を備えたブーム33、ブーム33を駆動するブーム駆動機構40、エンジン20からの動力を得て薬液タンク31内の薬液をノズル32,32,…,32へ圧送する噴霧ポンプ34を備える。
【0041】
ブーム33は、走行機体2の後方に装着され、農薬を散布する目的地までの移動走行時においては走行機体側に寄せて格納状態とされ、圃場において農薬を散布する際には、ブーム33を横方向に延ばした伸長状態として使用する。この場合、走行機体2の後方に薬液を散布する後方ブーム33B、及び後方ブーム33Bの両端に枢支して、走行機体2の側方に設けられる左右の側方ブーム33L,33Rを備える。それぞれのブーム33B,33L,33Rには、ノズル32が適宜の間隔を隔てて配設される。
なお、ブームを横方向に移動させる方法の他に、折り畳みによる方法をとるものもある。
【0042】
後方ブーム33Bと側方ブーム33L,33Rとの間には、それぞれブーム開閉シリンダ41L,41Rが介装され、これらのブーム開閉シリンダ41L,41Rを伸縮させることによって、側方ブーム33L,33Rを左右水平方向へ延設した作業位置と、走行機体2の前後方向で前上がりに位置させた収納位置との間を回動可能としている。
【0043】
また、作業機用昇降機構70は、昇降用シリンダ78により作業機本体とブーム架台79を連結し、昇降用シリンダ78を伸縮させることによってブーム架台79に装着された後方ブーム33B及び側方ブーム33L、33Rを上下昇降可能としている。
【0044】
トラクタにスプレーヤ30を装着する場合、このスプレーヤ30の動作を制御するための操作パネル330及びコントローラ350,370(図9〜図11を参照)が併せて設置される。これらの操作パネル330及びコントローラ350,370は、主変速レバー84の近傍であって、運転キャビン7の右側面部に設置され、トラクタ側のコントローラとCAN(Controller Area Network)により通信可能に構成している。
【0045】
次に、トラクタの駆動系について説明する。図6はエンジン駆動力の伝動機構を示すスケルトン図である。本実施の形態に係るトラクタは、エンジン20の動力を伝達する経路として、駆動輪に伝達する走行系伝動経路(すなわち、主駆動輪として作用する後輪4L,4Rへ動力を伝達する走行系主伝動経路と、副駆動輪として作用する前輪3L,3Rへ動力伝達する走行系副伝動経路とを含む)及びスプレーヤ30に伝達するPTO系伝動経路とを有する。
【0046】
駆動源であるエンジン20の後側面には、エンジン出力軸21が後ろ向きに突出するように設けられる。エンジン出力軸21には、フライホイール22が直結するように取付けられている。フライホイール22から後ろ向きに突出する主動軸23と、ミッションケース17の前面から前向きに突出する主変速入力軸24との間を、両端に自在軸継ぎ手を備えた伸縮式の動力伝達軸25を介して連結する。エンジン20の動力は、ミッションケース17における主変速入力軸24に伝達し、次いで、油圧無段変速機26に伝達する。また、油圧無段変速機26の出力は、走行副変速ギヤ機構27にて適宜変速して、差動ギヤ機構28を介して後輪4L,4Rとに伝達する。また、走行副変速ギヤ機構27にて適宜変速したエンジン20の回転は、前車輪駆動ケースと前車軸ケース13の差動ギヤ機構29とを介して前輪3L,3Rに伝達する。
【0047】
油圧無段変速機26は、可変容量形の変速用油圧ポンプ部261と、この油圧ポンプ部261から吐出される高圧の作動油にて作動する定容量形の変速用油圧モータ部262とを備える。主変速入力軸24には、油圧ポンプ部261及び油圧モータ部262のためのシリンダブロック(不図示)が被嵌される。主変速入力軸24とシリンダブロックとはスプラインにて連結される。主変速入力軸24の入力側と反対側でシリンダブロックを挟んでこの一側部に油圧ポンプ部261が配置される。主変速入力軸24の入力側であるシリンダブロック他側部に油圧モータ部262が配置される。
【0048】
ポンプ斜板261aは、その傾斜角が主変速入力軸24の軸線に対して調節自在となるように設けられている。主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aの傾斜角を変更する斜板制御アクチュエータを備える(不図示)。斜板制御アクチュエータによりポンプ斜板261aの傾斜角が変更されて、油圧無段変速機26の主変速動作が行われるように構成する。
【0049】
主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aを一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロックと同一方向にモータ斜板(不図示)が回転され、油圧モータ部262を増速(正転)動作させ、主変速入力軸24より高い回転数で主変速出力軸51が回転され、主変速入力軸24の回転速度が増速されて主変速出力ギヤ52に伝えられる。すなわち、主変速入力軸24の回転数に、油圧ポンプ部261にて駆動される油圧モータ部262の回転数が加算されて、主変速出力ギヤ52に伝えられる。そのため、主変速入力軸24の回転数よりも高い回転数の範囲で、ポンプ斜板261aの傾斜(正の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ52からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板261aの最大傾斜(正の傾斜角)で最大走行速度になる。
【0050】
さらに、主変速入力軸24の軸線に対してポンプ斜板261aを他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときには、シリンダブロックと逆の方向にモータ斜板が回転され、油圧モータ部262を減速(逆転)動作させ、主変速入力軸24より低い回転数で主変速出力軸51が回転され、主変速入力軸24の回転速度が減速されて主変速出力ギヤ52に伝えられる。
【0051】
すなわち、主変速入力軸24の回転数に、油圧ポンプ部261にて駆動される油圧モータ部262の回転数が減算されて、主変速出力ギヤ52に伝えられる。そのため、主変速入力軸24の回転数よりも低い回転数の範囲で、ポンプ斜板261aの傾斜(負の傾斜角)に比例して、主変速出力ギヤ52からの変速出力(走行速度)が変更され、ポンプ斜板261aの最大傾斜(負の傾斜角)で最低走行速度になる。
【0052】
次に、PTO軸60の動作について説明する。ミッションケース17の前室には、エンジン20からの動力をPTO軸60に伝えるPTO変速ギヤ機構61と、エンジン20からの動力を各油圧ポンプ54,55に伝えるポンプ駆動軸62とが設けられている。
【0053】
PTO変速ギヤ機構61には、PTOカウンタ軸63と、PTO変速出力軸64を備える。PTO用の油圧クラッチ65にて連結されるPTO入力ギヤ66をPTOカウンタ軸63に被嵌させる。PTO入力ギヤ66には、主変速入力軸24に設ける入力側ギヤ67と、ポンプ駆動軸62の出力側ギヤ68とが噛合され、主変速入力軸24にポンプ駆動軸62が連結される。
【0054】
そして、PTOクラッチレバー(不図示)の継続操作により、PTOクラッチ油圧電磁弁69aにてクラッチシリンダ69bが作動してPTO用の油圧クラッチ65が継続され、主変速入力軸24とPTOカウンタ軸63とがPTO入力ギヤ66にて連結されるように構成されている。
【0055】
トラクタの後部にスプレーヤ30が接続されている場合、PTO軸60に伝達される動力の一部は、図に示していないギヤ等でその回転が調整されて噴霧ポンプ34に伝達される。噴霧ポンプ34は、PTO軸60からの動力を得てピストン等を作動させ、薬液タンク31に貯留された薬液を圧送できるように構成されている。
【0056】
次に、スプレーヤ30における薬液の流路について説明する。図7は薬液の流路を説明する模式図である。薬液タンク31に設けたドレン口101は、ホース102を介してストレーナ103に連通接続されている。このストレーナ103は、噴霧ポンプ34に位置する薬液吸入口104に接続されており、薬液タンク31からの薬液は、ストレーナ103で異物を除去された後、薬液吸入口104から噴霧ポンプ34に流入される。
【0057】
噴霧ポンプ34には吐出口105が設けられ、この吐出口105から吐出された薬液のうち設定圧力以下の余水は電動調圧弁106を通過してパイプ107を経て、薬液タンク31に設けられた戻り口108に還流される。一方、設定圧力以上の薬液は、流量センサ109及び圧力センサ110が設けられたパイプ111を通ってブーム部120に送られる。
なお、噴霧ポンプ34から吐出される薬液の一部は、パイプ112を通り、薬液タンク31の戻り口113を通じて薬液タンク31内に戻され、薬液タンク31内の薬液の攪拌に利用される。
【0058】
ブーム部120には、分水管121が設けられており、この分水管121から5つの散布管122a〜122eに分岐する。それぞれの散布管122a〜122eには、電気的に動作する散布バルブ123a〜123eが設けられており(図8を参照)、散布バルブ123a〜123eを開閉することにより、薬液散布の開始及び停止を制御するように構成されている。
【0059】
なお、散布管122a,122bは、トラクタの左側に位置する側方ブーム33Lの長手方向に沿って設置されるものであり、散布管122aについては側方ブーム33Lの中央部から先端側、散布管122bについては側方ブーム33Lの中央部からトラクタ側に配置することで、それぞれの散布範囲を異ならせている。散布管122d,122eについても同様であり、それぞれの散布範囲が異なるように、トラクタの右側に位置する側方ブーム33Rの長手方向に沿って設置される。また、散布管122cについては、トラクタ後方に位置する後方ブーム33Bの長手方向に沿って設置される。
【0060】
以下、本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成について説明する。図8は本実施の形態に係るトラクタの制御系の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るトラクタは、車両の制御を行うトラクタ側コントローラ310とスプレーヤの制御を行うスプレーヤ側コントローラ320とを備える。トラクタ側コントローラ310及びスプレーヤ側コントローラ320は、CANにより接続されており、協同して各種制御を行うことにより、本実施の形態のトラクタを本発明に係る散布作業機として機能させる。
【0061】
トラクタ側コントローラ310は、CPU311、EEPROM312、RAM313、入出力IF314、及び通信部315を備える。CPU311は、EEPROM312に予め格納された車両制御用プログラムをRAM313に展開して実行することにより、各種の制御及び演算を行う。
【0062】
トラクタ側コントローラ310の入出力IF314には、主変速レバー84の第1スイッチ84a〜第4スイッチ84dから出力される信号が入力される。また、入出力IF314には、作業機用昇降機構70が備える昇降制御油圧シリンダ74を伸縮させる電磁弁74aが接続されている。
【0063】
入出力IF314を通じて第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bからの信号が入力された場合、設定されている操作内容に応じた動作が行われる。すなわち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bが押下操作された際の操作内容を設定したテーブルをEEPROM312が記憶し、CPU311がそのテーブルの内容を参照することによって、各種の動作を行う。
【0064】
例えば、トラクタにロータリ耕耘機200が装着されている場合であって、入出力IF314を通じて第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bからの信号が入力されたとき、CPU311は、入力された信号に応じて昇降制御油圧シリンダ74を伸張又は短縮させるための信号を電磁弁74aへ送出し、昇降制御油圧シリンダ74を伸張又は短縮させることによって、作業機用昇降機構70の昇降移動を制御する。
【0065】
また、トラクタにスプレーヤ30が装着されている場合であって、入出力IF314を通じて第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bからの信号が入力されたとき、CPU311は、EEPROM312に記憶されているテーブルを参照し、テーブルに記憶されている操作内容に従ってスプレーヤ30を操作するための制御を行う。なお、このテーブルに記憶される設定内容は、操作パネル330を通じて作業者の手により変更可能としている。
【0066】
通信部315には、CANゲートウェイ300を介してスプレーヤ側コントローラ320に接続され、スプレーヤ側コントローラ320から送信される情報を受信すると共に、スプレーヤ側コントローラ320に通知すべき情報を送信するように構成されている。
【0067】
スプレーヤ側コントローラ320は、CPU321、EEPROM322、RAM323、入出力IF324、及び通信部325を備える。CPU321は、EEPROM322に予め格納されたスプレーヤ制御用プログラムをRAM323に展開して実行することにより、各種の制御及び演算を行う。
【0068】
スプレーヤ側コントローラ320の入出力IF324には、散布モードの選択、目標反当たりの散布量の設定等を受付けるための操作パネル330、ブームスプレーヤを開閉、伸縮、傾斜、昇降させるためのブームスプレーヤコントローラ350、及び散布バルブ123a〜123eを開閉させるスイッチを備えたバルブ開閉コントローラ370が接続されている。
【0069】
通信部325には、CANゲートウェイ300を介してトラクタ側コントローラ310に接続され、トラクタ側コントローラ310から送信される情報を受信すると共に、トラクタ側コントローラ310に通知すべき情報を送信するように構成されている。
また、通信部325には、第1CANインタフェース301を介して、流量センサ109、圧力センサ110、電動調圧弁106が接続されており、流量センサ109によって計測された散布流量、圧力センサ110によって接続された散布圧力の情報を受信すると共に、電動調圧弁106を制御するための制御コマンドを送信する。更に、通信部325には、第1CANインタフェース301及び第2CANインタフェースを介して5つの散布バルブ123a〜123e、ブーム操作用電磁弁130が接続されており、散布作業時のスプレーヤの動作をCANを用いた通信により制御できるように構成している。
【0070】
次に、スプレーヤ30の装着と共に設置される操作パネル330、ブームスプレーヤコントローラ350、及びバルブ開閉コントローラ370について説明する。
【0071】
図9は操作パネル330の模式図である。操作パネル330は、散布作業に関する作業者の指示を受付ける第1操作ボタン群331、作業者の選択操作を受付ける第2操作ボタン群332、作業者に報知すべき情報を表示する表示部333、設定された目標反当たりの散布量を表示する散布量表示部334、散布作業の自動制御又は手動制御を識別表示する識別ランプ335a,335bを備える。
【0072】
第1操作ボタン群331は、操作内容を表示させるためのメニューボタン331a、選択された内容を確定するための決定ボタン331b等により構成される。また、第2操作ボタン群332は、上下左右方向の4つのカーソルボタン332a〜332dにより構成される。
【0073】
作業者は、散布作業に関する作業内容を操作パネル330を用いて決定する。例えば、メニューボタン331aを押下操作することにより、設定したい内容を表示部333に表示させ、表示部333に表示される選択項目をカーソルボタン332a〜332dを用いて選択することによって各種設定を行う。操作パネル330を用いて設定する内容には、散布作業の自動制御又は手動制御の選択、単位反当たりの散布量(L/10a)、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bへの機能の割り当て等が含まれる。
自動制御が選択された場合、自動制御が選択されたことを示す識別ランプ335aが点灯し、手動制御が選択された場合、手動制御が選択されたことを示す識別ランプ335bが点灯する。
【0074】
図10はブームスプレーヤコントローラ350の模式図である。ブームスプレーヤコントローラ350は、スプレーヤ30の動作を手動により制御するためのコントローラである。電源スイッチ351は、ブームスプレーヤコントローラ350の電源をオン/オフするためのスイッチである。散布スイッチ352は、散布の開始/停止を制御するスイッチである。散布圧力スイッチ353は、散布圧力を増減するためのスイッチであり、スイッチを左側に傾倒させた場合に加圧、右側に傾倒させた場合に減圧し、中立点で増減を停止するように構成されている。
【0075】
スプレーヤ昇降スイッチ354は、ブーム33を走行機体2に対して昇降させるためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に上昇、下側に傾倒させた場合に下降させ、中立点で昇降が停止するように構成されている。
【0076】
ブーム開閉スイッチ355L,355Rは、それぞれ側方ブーム33L,33Rを収納位置から作業位置(又は作業位置から収納位置)へ回動させるためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に作業位置へ、下側に傾倒させた場合に収納位置に側方ブーム33L,33Rを移動させ、中立点で移動が停止するように構成されている。
ブーム伸縮スイッチ356L,356Rは、それぞれ側方ブーム33L,33Rを伸縮するためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に伸張、下側に傾倒させた場合に短縮し、中立点で伸張が停止するように構成されている。
ブーム傾斜スイッチ357L,357Rは、それぞれ側方ブーム33L,33Rを傾斜させるためのスイッチであり、スイッチを上側に傾倒させた場合に側方ブーム33L,33Rの先端部が上昇、下側に傾倒させた場合に下降し、中立点で停止するように構成されている。
【0077】
図11はバルブ開閉コントローラ370の模式図である。バルブ開閉コントローラ370はスプレーヤ30のバルブを開閉するためのコントローラである。開閉スイッチ371は、側方ブーム33Rの中央部から先端側に配置された複数のノズル32を使用可能とするために、散布バルブ123eを開閉するためのスイッチである。開閉スイッチ372〜375についても同様であり、それぞれ、散布バルブ123d〜123aを開閉するためのスイッチである。これらのスイッチは、上側に傾倒させた場合にバルブを開け、下側に傾倒させた場合にバルブを閉じるように構成されている。
【0078】
次に、操作パネル330を用いて、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに機能を割り当てるときの操作例について説明する。
図12及び図13は機能割り当て時の操作画面例を示す模式図である。作業者は、まず、操作パネル330の第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332を用いて適宜の操作を行い、操作パネル330の表示部333にレバー設定画面500を表示させる(図12(a)を参照)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、トラクタ側コントローラ310のEEPROM312に予め記憶されているデフォルトの操作パターン(テーブルに記憶されている操作内容)を取得し、レバー設定画面500に現在の設定を表示させる。図12(a)では、デフォルトの操作パターンとして、散布の開始/停止が第1スイッチ84aに割り当てられており、散布圧力の増減が第2スイッチ84bに割り当てられていることを示している。すなわち、デフォルトの操作パターンでは、第1スイッチ84aがブームスプレーヤコントローラ350の散布スイッチ352として機能し、第2スイッチ84bがブームスプレーヤコントローラ350の散布圧力スイッチ353として機能するように設定されている。
なお、デフォルトの操作パターンは上記のパターンに限定する必要はなく、適宜設定し得るものである。
【0079】
レバー設定画面500を表示させた状態で操作パネル330のカーソルボタン332a又は332bを押下操作することにより、操作内容の変更対象のスイッチを選択する。図12(a)は、「1」のインデックスで示されているスイッチ(第1スイッチ84a)が選択されている状態を示しており、カーソルボタン332bが押下操作された場合、「2」のインデックスで示されているスイッチ(第2スイッチ84b)が選択される。
第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bの一方が選択された状態で、操作パネル330の決定ボタン331b(又はカーソルボタン332d)が押下場合、変更対象のスイッチが確定し、図12(b)に示す機能選択画面510を表示する。
【0080】
図12(b)の機能選択画面510では、第1スイッチ84aに設定する操作内容として、散布の開始/停止(サンプ)、又は散布圧力の増減(アツリョク)をカーソルボタン332a及び332bにより選択できるようにしている。
薬液の散布に関し、散布の開始/停止、散布圧力の増減を操作内容として設定できるだけでなく、散布作業の自動制御(例えば、車速に連動させて散布量を自動的に制御する機能)における目標散布量を変更する機能を操作内容として設定できるようにしてもよい。
散布圧力の増減(アツリョク)が選択された状態で、更にカーソルボタン332bが押下操作された場合、図13(a)に示す機能選択画面520を表示する。
【0081】
図13(a)の機能選択画面520では、第1スイッチ84aに設定する操作内容として、ブーム33の伸縮(ブーム・スライド)、ブーム33の傾斜(ブーム・ケイシャ)、又はブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)をカーソルボタン332a及び332bにより選択できるようにしている。
ここで、ブーム33の伸縮(ブーム・スライド)は、ブームスプレーヤコントローラ350のブーム伸縮スイッチ356L,356Rに相当する機能である。ブーム33の傾斜(ブーム・ケイシャ)は、同じくブーム傾斜スイッチ357L,357Rに相当する機能である。ブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)は、同じくブーム開閉スイッチ355L,355Rに相当する機能である。
ブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)が選択された状態で、更にカーソルボタン332bが押下操作された場合、図13(b)に示す機能選択画面530を表示する。一方、ブーム33の伸縮(ブーム・スライド)が選択された状態で、カーソルボタン332aが押下操作された場合、図12(b)に示す機能選択画面510を表示する。
【0082】
図13(b)の機能選択画面530では、第1スイッチ84aに設定する操作内容として、ブーム33の昇降(ブーム・ショウコウ)を選択できるようにしている。なお、ブーム33を旋回させる駆動機構を有している場合、ブーム33の旋回(ブーム・センカイ)を選択できるようにしてもよい。また、ブーム33を折り込む機能を選択できるようにしてもよい。
【0083】
各機能選択画面510〜530において、設定すべき操作内容が選択された状態で、操作パネル330の決定ボタン331b(又はカーソルボタン332d)が押下操作された場合、第1スイッチ84aの操作内容が設定される。第2スイッチ84bの操作内容を設定する場合も同様であり、図12(b)〜図13(b)に示すような機能選択画面を表示させ、操作内容の選択を受付けることにより、操作内容の設定を行う。より具体的には、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bが押下操作された場合、CPU321が参照するテーブルの操作内容を書き換える処理を行う。
【0084】
図14は機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。トラクタ側コントローラ310のCPU311は、スプレーヤ30が装着されたか否かを判断する(ステップS11)。スプレーヤ30の装着は、例えば、スプレーヤ30が3点リンク機構を介して作業機用昇降機構70に連結され、トラクタ側コントローラ310と電気的に接続された場合、スプレーヤ30から自機の作業機種別を含む識別IDをトラクタ側コントローラ310へ送出するように構成しておき、CPU311がその識別IDから作業機種別を特定することによって判断する。
【0085】
スプレーヤ30が装着されたと判断した場合(S11:YES)、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、スプレーヤ側コントローラ320等がトラクタ側のCANに接続されたか否かを判断する(ステップS12)。すなわち、CANゲートウェイ300を介してスプレーヤ側コントローラ320が接続されたことを示す信号を通信部315が受信した場合、トラクタ側のCANに接続されたと判断する。接続されていないと判断した場合(S12:NO)、スプレーヤ側コントローラ320が接続されるまで待機する。
【0086】
スプレーヤ側コントローラ320等がトラクタ側CANに接続されたと判断した場合(S12:YES)、主変速レバー84によりロータリ耕耘機200を操作するための機能を停止させる。すなわち、スプレーヤ30が装着されている場合に、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bが本来の機能である昇降機能として働くと危険であるため、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bの昇降機能を停止させる処理を行う。
次いで、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、EEPROM312からデフォルトの操作パターンを読み込み、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに割り当てる機能を設定する(ステップS13)。
【0087】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、レバー設定画面500の表示指示があるか否かを判断する(ステップS14)。レバー設定画面500の表示指示の有無は、操作パネル330が備える第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332の操作により、レバー設定画面500が呼び出されたか否かを判断することによって行う。表示指示がない場合(S14:NO)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0088】
表示指示がある場合(S14:YES)、スプレーヤ側コントローラ320は、EEPROM322に予め記憶されているデフォルトの操作パターンを取得し、現在の設定状態を示したレバー設定画面500を操作パネル330の表示部333に表示する(ステップS15)。
【0089】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、操作パネル330を通じて、主変速レバー84の第1スイッチ84aに対する操作内容の変更を受け付けたか否かを判断する(ステップS16)。第1スイッチ84aに対する操作内容の変更を受け付けた場合(S16:YES)、第1スイッチ84aの操作内容を変更後の内容に設定する(ステップS17)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、変更後の操作内容をトラクタ側コントローラ310に通知し、主変速レバー84の第1スイッチ84aに割り当てる機能として設定する。
【0090】
次いで、スプレーヤ側コントローラ320のCPU321は、操作パネル330を通じて、主変速レバー84の第2スイッチ84bに対する操作内容の変更を受け付けたか否かを判断する(ステップS18)。第2スイッチ84bに対する操作内容の変更を受け付けた場合(S18:YES)、第2スイッチ84bの操作内容を変更後の内容に設定する(ステップS19)。このとき、スプレーヤ側コントローラ320は、変更後の操作内容をトラクタ側コントローラ310に通知し、主変速レバー84の第2スイッチ84bに割り当てる機能として設定する。
なお、ステップS18以降の処理は、ステップS16で第1スイッチ84aに対する操作内容の変更を受け付けていないと判断した場合にも(S16:NO)、実行する。
【0091】
ステップS19で第2スイッチ84bに対する操作内容を変更した場合、又はステップS18で第2スイッチ84bに対する操作内容の変更を受け付けていないと判断した場合(S18:NO)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0092】
以上のように、本実施の形態では、トラクタにスプレーヤ30が装着された場合、スプレーヤ30を操作するための機能を主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに割り当てることができ、主変速レバー84によりトラクタの走行を制御しながらスプレーヤ30を容易に操作することが可能となるため、作業性の向上及び安全性の向上を図ることができる。
【0093】
例えば、凹凸路面が多い圃場を走行する場合、ブーム33が揺れやすくなるので、常にブーム33と地面との距離を一定に保ち、ブーム33が地面に衝突しないように制御を行う必要がある。本願では、主変速レバー84のスイッチ(第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bの何れか一方)に、ブーム33の傾斜操作機能を割り当てることができる。これにより、トラクタの走行速度を主変速レバー84で制御しながら、主変速レバー84のスイッチを操作することでブーム33と地面との距離を調整することが可能となる。従来のように、主変速レバー84を操作しながら、ブームスプレーヤコントローラ350を操作する必要がなくなるため、作業性が向上すると共に、安全性が高まる。
また、変形圃場の畝端でスムーズに旋回したい場合には、ブーム33を傾斜させる必要がある。この場合、主変速レバー84のスイッチに、ブーム33の傾斜操作機能を割り当てておくことにより、トラクタの走行速度を主変速レバー84で制御しながら、必要に応じて主変速レバー84のスイッチを操作し、ブーム33を傾斜させることができる。
【0094】
更に、作物の生育状況や、病害虫の発生状況に応じて散布量を調整したい場合、主変速レバー84のスイッチに調量・調圧操作機能を割り当てておくことにより、散布作業をしながら目標散布量の微調整操作が可能となる。また、主変速レバー84のスイッチに調量・調圧操作機能を割り当てた場合、例えば、散布作業中に風が急に強くなり、ドリフトが発生しやすい状況が生じた場合であっても、主変速レバー84のスイッチの操作により、散布圧力を下げ、噴霧粒径を大きくすることでドリフトの発生を抑えることができる。このように、本願では散布作業に際し、圃場ごとの特殊性や作業内容の優先度、使用頻度や作業者の好みに応じて、容易に対処することが可能となる。
【0095】
以上のように、本実施の形態では、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに対して、スプレーヤ30に関する操作内容を割り当てることができる。このとき、第1スイッチ84a及び第2スイッチ8bに割り当てた操作内容は、操作パネル330、ブームスプレーヤコントローラ350、バルブ開閉コントローラ370が本来有する操作内容の一部と重複することになる。
そのため、作業者が、第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bの操作と、操作パネル330、ブームスプレーヤコントローラ350、又はバルブ開閉コントローラ370による操作とを同時的に行った場合、動作のコンフリクトが発生し、安全性が確保できない虞がある。例えば、第1スイッチ84aにブーム33L,33Rを伸縮させる機能を割り当てている場合、第1スイッチ84aによりブーム33L,33Rを伸張させる操作と、ブームスプレーヤコントローラ350の伸縮スイッチ356L,356Rによってブーム33L,33Rを短縮させる操作とを同時的に行った場合、動作のコンフリクトが発生する。このようなコンフリクトを解消するために、本実施の形態では、作業者が同時的に複数の動作を行った場合(すなわち、所定時間内に複数の操作が指示された場合)、時間的に最も遅く入力された操作を優先的に実行するようにしている。
【0096】
なお、本実施の形態では、主変速レバー84が備える第1スイッチ84a〜第4スイッチ84dのうち、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bにスプレーヤ30を操作するための機能を設定する構成としたが、必ずしもこの構成に限定する必要はなく、第3スイッチ84c及び第4スイッチ84dに機能を割り当てる構成としてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、機能設定画面520においてブーム33の駆動に関する操作内容が設定された場合、第1スイッチ84a又は第2スイッチ84bにより、左右双方の側方ブーム33L,33Rを同時的に駆動するように構成したが、左右個別に駆動できるように機能を割り当てる構成としてもよい。
【0098】
また、適宜の時点で、第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに設定された操作内容を操作パネル330の表示部333に表示できるようにしてもよい。図15は設定された操作内容の表示例を示す模式図である。図15(a)及び図15(b)は、スプレーヤ30が装着され、散布モードが設定された状態の表示例を示している。自動散布モードは、トラクタの車速に応じて、目標散布量を実現すべく薬液の散布圧力を自動的に調整するモードを表す。手動散布モードは、作業者自身がトラクタの車速、薬液の散布圧力を手動により調節するモードを表す。
【0099】
図15(a)又は図15(b)に示されているような表示状態において、例えば、操作パネル330のメニューボタン331aが3秒間押下操作された場合、その時点で第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに設定されている操作内容を表示部333に表示する。図15(c)の表示例は、第1スイッチ84aにブーム33の伸縮(ブーム・スライド)、第2スイッチ84bにブーム33の開閉(ブーム・カイヘイ)が設定されていることを示している。
また、メニューボタン331aが再度押下操作された場合、元の表示画面(図15(a)又は図15(b)に示す表示画面)を表示するようにしている。
【0100】
なお、現在の操作内容の設定を表示させる際の操作ボタン、元の表示画面を復帰させる際の操作ボタンは、前述したものに限定する必要がなく、任意のボタン、任意のボタンの組み合わせに割り当てればよい。
【0101】
実施の形態2.
実施の形態1では、スプレーヤ30が装着された場合、デフォルトの操作パターン又は作業者により選択された操作内容を、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに設定する構成したが、作業者に応じて操作パターンを設定する構成してもよい。
実施の形態2では、作業者を特定し、特定した作業者に応じて主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに機能を設定する構成について説明する。
【0102】
図16は実施の形態2で用いる操作パターンの一例を示す概念図である。図16に示した例では、作業者IDに関連付けて操作パターンが記憶されている。このような作業者IDと操作パターン(作業パターン)とを関連付けたテーブルが、トラクタ側コントローラ310のEEPROM312に予め記憶されている。
図16に示した操作パターンでは、例えば、作業者ID「001」で識別される作業者を特定した場合、主変速レバー84の第1スイッチ84aに散布を開始/停止する機能を割り当て、第2スイッチ84bに散布圧力を増減する機能を割り当てることを定めている。他の作業者IDで識別される作業者を特定した場合も同様である。
なお、作業者を特定する手法は、公知の手法を用いることができる。例えば、操作パネル330の第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332を用いて作業者IDを入力させることにより作業者を特定することができる。また、操作パネル330に無線通信の機能を搭載し、作業者側が所持する通信端末又はIDカードと交信を行うことにより、通信端末又はIDカードから作業者IDを取得する構成としてもよい。
【0103】
図17は実施の形態2における機能設定時の処理手順を示すフローチャートである。操作パネル330は、まず、作業者IDを受付ける(ステップS21)。前述のように、第1操作ボタン群331及び第2操作ボタン群332を用いて作業者IDの入力を受付ける構成としてもよく、無線通信により作業者IDを取得する構成としてもよい。受付けた作業者IDは、スプレーヤ側コントローラ320に通知され、スプレーヤ側コントローラ320からCANゲートウェイ300を通じてトラクタ側コントローラ310に通知される。
【0104】
次いで、トラクタ側コントローラ310のCPU311は、通知された作業者IDをEEPROM312に記憶されたテーブルから検索する(ステップS22)。CPU311は、EEPROM312に記憶されたテーブルに作業者IDが存在するか否かを判断し(ステップS23)、作業者IDが存在する場合には(S23:YES)、その作業者IDに関連付けて記憶されている操作パターンを読み出し(ステップS24)、読み出した操作パターンを主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bの機能として設定する(ステップS25)。
作業者IDを検索しても見つからない場合には(S23:NO)、本フローチャートによる処理を終了する。このとき、事前に設定された操作パターンが維持される。
【0105】
本実施の形態では、作業者を識別する作業者IDに関連付けて操作パターンを記憶する構成としたが、操作パターン毎に識別子を割り当てておき、その識別子と関連付けて操作パターンを記憶する構成としてもよい。この場合、作業者による識別子の選択を受付け、選択された識別子に対応する操作パターンを読み出すことにより、主変速レバー84の第1スイッチ84a及び第2スイッチ84bに作業者が所望する機能を割り当てることができる。
【符号の説明】
【0106】
30 スプレーヤ
31 薬液タンク
32 ノズル
33 ブーム
34 噴霧ポンプ
84 主変速レバー
84a〜84d 第1〜第4スイッチ
310 トラクタ側コントローラ
320 スプレーヤ側コントローラ
330 操作パネル
350 ブームスプレーヤコントローラ
370 バルブ開閉コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耕耘機の着脱が可能な装着部と、該装着部に装着された耕耘機を操作する操作手段とを備える作業車において、
前記装着部に装着された薬液散布装置を前記操作手段により操作可能になしてあることを特徴とする作業車。
【請求項2】
前記操作手段に割り当てられた前記耕耘機に対する操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に変更する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記薬液散布装置に対する複数種類の操作内容を表示する表示手段と、
該表示手段に表示した複数種類の操作内容のうち何れか一種類の操作内容の選択を受付ける受付手段とを備え、
前記耕耘機の操作内容を、前記受付手段にて選択された操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項4】
前記操作手段を複数備え、
各操作手段に割り当てられた耕耘機の操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に夫々変更可能になしてあることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項5】
作業パターンを識別する識別子と前記薬液散布装置の操作内容とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記操作手段を操作する作業パターンの識別子を特定する手段と、
該手段により特定した識別子に対応付けて記憶されている操作内容を前記記憶手段から読み出す手段と
を備え、
前記耕耘機の操作内容を、前記記憶手段から読み出した操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項6】
変更後の操作内容を表示させるべく表示要求を受付ける手段と、
該手段にて表示要求を受付けた場合、前記操作手段に割り当てられた変更後の操作内容を表示する手段と
を備えることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項7】
前記装着部に薬液散布装置が装着された場合、前記耕耘機を操作するための機能を停止するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項8】
前記操作手段による前記薬液散布装置の操作と前記薬液散布装置を操作するための他の操作手段による操作とを同時的に受付けた場合、何れか一方の操作を優先するようにしてあることを特徴とする請求項1から7の何れか1つに記載の作業車。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1つに記載の作業車と、
薬液を散布する複数のノズルを備えたブーム、該ブームを駆動する手段、及び前記ノズルによる薬液の散布圧力を調整する手段を備える薬液散布装置と
を備え、
前記薬液散布装置に対する操作内容は、薬液散布の開始及び停止、散布圧力の調整、車速連動散布量制御機能における目標散布量の変更、又は前記ブームの駆動を含むことを特徴とする散布作業車。
【請求項1】
耕耘機の着脱が可能な装着部と、該装着部に装着された耕耘機を操作する操作手段とを備える作業車において、
前記装着部に装着された薬液散布装置を前記操作手段により操作可能になしてあることを特徴とする作業車。
【請求項2】
前記操作手段に割り当てられた前記耕耘機に対する操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に変更する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記薬液散布装置に対する複数種類の操作内容を表示する表示手段と、
該表示手段に表示した複数種類の操作内容のうち何れか一種類の操作内容の選択を受付ける受付手段とを備え、
前記耕耘機の操作内容を、前記受付手段にて選択された操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項4】
前記操作手段を複数備え、
各操作手段に割り当てられた耕耘機の操作内容を、前記薬液散布装置を操作するための操作内容に夫々変更可能になしてあることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項5】
作業パターンを識別する識別子と前記薬液散布装置の操作内容とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記操作手段を操作する作業パターンの識別子を特定する手段と、
該手段により特定した識別子に対応付けて記憶されている操作内容を前記記憶手段から読み出す手段と
を備え、
前記耕耘機の操作内容を、前記記憶手段から読み出した操作内容に変更するようにしてあることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項6】
変更後の操作内容を表示させるべく表示要求を受付ける手段と、
該手段にて表示要求を受付けた場合、前記操作手段に割り当てられた変更後の操作内容を表示する手段と
を備えることを特徴とする請求項2に記載の作業車。
【請求項7】
前記装着部に薬液散布装置が装着された場合、前記耕耘機を操作するための機能を停止するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の作業車。
【請求項8】
前記操作手段による前記薬液散布装置の操作と前記薬液散布装置を操作するための他の操作手段による操作とを同時的に受付けた場合、何れか一方の操作を優先するようにしてあることを特徴とする請求項1から7の何れか1つに記載の作業車。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1つに記載の作業車と、
薬液を散布する複数のノズルを備えたブーム、該ブームを駆動する手段、及び前記ノズルによる薬液の散布圧力を調整する手段を備える薬液散布装置と
を備え、
前記薬液散布装置に対する操作内容は、薬液散布の開始及び停止、散布圧力の調整、車速連動散布量制御機能における目標散布量の変更、又は前記ブームの駆動を含むことを特徴とする散布作業車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−196158(P2012−196158A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61525(P2011−61525)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)
【Fターム(参考)】
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