説明

使用済みれんがを使用した吹付補修材

【課題】 使用済みMgO−Cれんがを、粒径0.3mm未満の微粉も含めて、その粒度に影響されることなく利用でき、従来から使用されているマグネシア質吹付補修材と同等の耐食性や耐スラグ浸潤性及び付着性を有する吹付補修材を提供することを課題とする。
【解決手段】 使用済みMgO−Cれんがを使用した吹付補修材であって、粒径5mm以下の使用済みMgO−Cれんがを10〜60質量%含有し、残部がドロマイト原料、マグネシア原料からなる骨材と、耐火粘土、及び結合剤を含む吹付補修材を提供することによって上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みれんがを使用した吹付補修材に関し、詳細には、製鋼用電気炉、取鍋の内張り等に使用されるマグネシアカーボンれんが(MgO−Cれんが)の使用済みれんがを使用した、製鋼用電気炉等の熱間補修等に使用される吹付補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉等の製鋼炉の補修に使用される材料として吹付補修材がある。吹付補修材に使用される材質には、マグネシア質やマグネシア−ドロマイト質がある。マグネシア質は耐食性に優れるがスラグ浸潤が多く、稼動面側と背面側の組織変化によって構造的スポールを起こし、剥落する場合がある。またマグネシア−ドロマイト質はスラグ浸潤が少なく組織全体が焼付く(焼結する)為、構造的スポールによる剥落が少ないが、耐食性ではマグネシア質に比べると十分とは言えない。製鋼炉補修材としてどちらの材質を使用するかは製鋼炉の操業条件によって決定される。
【0003】
吹付補修材で使用されるマグネシア原料は一般的には重焼天然マグネシアであり、そのマグネシア含有量は90質量%程度である。その他のマグネシア原料としては上記のMgO−Cれんがと同様に、電融マグネシア、焼結マグネシアも使用できるが、コストの面で多量に使用できないのが実情である。
【0004】
一方、MgO−Cれんがは、マグネシアのもつ耐食性と、カーボンのもつスラグに濡れにくく高熱伝導率であるという特徴から、優れた耐食性と耐スポール性を併せ備えており、製鋼用電気炉、取鍋等の内張り材として広く使用されている。
【0005】
このMgO−Cれんがに使用される原料は、マグネシア源として電融マグネシア、焼結マグネシア等が、カーボン源としては鱗状黒鉛、土状黒鉛等が使用される。マグネシア原料は耐食性を求められるのでマグネシア含有量の多い原料が使用され、一般的にはマグネシア含有量が95質量%以上のものが使用される。
【0006】
製鋼用電気炉、取鍋等で使用されるMgO−Cれんがは一定期間使用した後に新品に取り替えられ、その際に多量の使用済みれんがが発生する。この使用済みのMgO−Cれんがは、再粉砕して取鍋に増滓材として使用されている場合もあるが、多くは処分場に埋設処分しており、その処分場への埋設処分にも限りがある。
【0007】
また、使用済みMgO−Cれんがには、マグネシア原料として利用できる部分も残っているので、その部分を、例えば、上記吹付補修材のマグネシア原料として再利用することができればコストの面で、また資源の有効活用の面で望ましい。
【0008】
しかし、使用済みMgO−Cれんがは、高温度で高浸食性のスラグに長期間曝された結果、その物性が劣化しており、これをそのまま吹付補修材のマグネシア原料として使用しても、使用に耐える物性を備えた吹付補修材とすることは一般に困難であるとされてきた。これに対し、例えば特許文献1においては、使用済みのMgO−Cれんがを再利用のために粉砕すると、粒径0.3mm未満の微粉部分に炭素及び夾雑物や塵埃等の不純物が集積・富化するとの知見の基に、使用済みれんがを粉砕、整粒して得られる0.3〜20mmの粒径の粒子を使用することによって、実用上十分なレベルの性能を有する熱間補修材とすることが提案されている。しかし、この特許文献1に開示されている再利用法においては、粒径が0.3mm未満の微粉は再利用されないので、リサイクルの面で十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−162952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、使用済みMgO−Cれんがを、それを粉砕して得られる粒径0.3mm未満の微粉も含めて、その粒度に影響されることなく利用でき、従来から使用されているマグネシア質吹付補修材と同等の耐食性や耐スラグ浸潤性及び付着性を有する吹付補修材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、使用済みMgO−Cれんがにドロマイト原料を配合することにより、使用済みのMgO−Cれんがを、それを粉砕して得られる粒径0.3mm未満の微粉も含めて、その粒度に影響されることなく吹付補修材のマグネシア原料として利用できることを見出した。
【0012】
本発明による作用は以下のとおり考えられる。マグネシア原料にドロマイト原料を配合すると焼結が進むことは、従来の吹付補修材に使用されるマグネシア−ドロマイト質について上述したとおりであるが、その作用は、ドロマイト原料に含まれるCaO、Fe成分が溶融し、MgO成分と反応して低融物を生成して焼結が進むためと考えられる。使用済みれんがにおいてもMgO成分を含んでいるので、これにドロマイト原料を配合すると、吹付け後、低融物が生成し、ポーラスになった施工体が焼結し、緻密な施工体になる。これによりスラグ浸潤を抑制し、また緻密な施工体になることによって強度も発現し、剥落も防止される。また、使用済みであってもMgO−Cれんがを吹付補修材の原料として使用することで、MgO−Cれんがのもつ特徴、高耐食性、耐スラグ浸潤性が発揮されることが期待できる。
【0013】
また、特許文献1には使用済みれんが粉砕後に生じる微粉(0.3mm以下)は炭素や付着スラグ、塵埃等の不純物が集積、富化する為、耐火物に使用した場合に耐食性を低下させる、となっているが、本発明の吹付補修材においては、ドロマイト原料が配合されるので、微粉を使用しても、耐食性が低下する恐れがない。すなわち、本発明の吹付補修材は、低融点物を生成させて焼結させることを目的としてドロマイト原料を配合しているところ、微粉部の不純物である付着スラグは主成分がCao、SiO、Feであり、マグネシア原料と低融物を生成する点では影響は少ないと考えられる。またスラグ中のFeが炭素と反応して炭素が消失する、いわゆる脱炭作用においても炭素が多い方が影響を受け難いと考えられる為、使用済みれんが粉砕後の微粉部の炭素富化もこの点では有利になると考えられる。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に記載される吹付補修材を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0015】
粒径5mm以下の使用済みMgO−Cれんがを10〜60質量%含有し、残部がドロマイト原料、マグネシア原料からなる骨材と、耐火粘土、及び結合剤を含む吹付補修材。
【0016】
上記使用済みMgO−Cれんがが製鋼用電気炉、取鍋等で使用されたMgO−Cれんがであることを特徴とする上記吹付補修材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の吹付補修材は、従来品(マグネシア質)と同等の耐食性及び耐スラグ浸潤性、さらには付着性を備え、コスト及び資源の有効活用の面で優れた効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の吹付補修材で使用する使用済みれんがは、MgO−Cれんがである。MgO−Cれんがは、通常、製鋼用電気炉、取鍋等で使用されたものであれば特に限定されるものではない。
【0019】
従来の吹付補修材、すなわち使用済みれんがを使用しない吹付け補修材の骨材の配合割合は、通常、
・粒径5〜1mmの粗粒:30〜60質量%
・粒径1〜0mm(目開き1mmの篩の篩下のもの)の細粒:20〜40質量%
・粒径0.075mm以下の微粉:20〜40質量%
である。なお、粒径0.075mm以下の微粉は、一般的には粒径1〜0mmの細粒を更に粉砕することによって得ている。
【0020】
本発明の吹付補修材では、骨材の一部として、使用済みMgO−Cれんがを粉砕して得られる上記区分でいう粗粒(粒径5〜1mm)と、細粒(粒径1〜0mm)を混合して使用する。微粉(粒径0.075mm以下)を使用しないのは、微粉は細粒を更に粉砕して作るため、粉砕工程が増えることによって費用がかかるため、コストメリットが下るからである。このように、本発明の吹付補修材では、使用済みMgO−Cれんが粉砕して、粗粒と細粒の2区分に分けるだけで良く、製造工程が簡略化できるという利点がある。なお、細粒(粒径1〜0mm)には、当然に、粒径が0.3mm未満の微粉も含まれている。
【0021】
吹付補修材の骨材に占める使用済みれんがの割合は、10〜60質量%が好ましい。10質量%未満ではコストメリットが得られない。一方、60質量%を超えると吹付け時に添加水分(施工水)量が多くなり、緻密な施工体が得られず付着性、耐食性が低下する。吹付補修材の骨材に占める使用済みれんがの割合は、より好ましくは20〜50質量%である。
【0022】
骨材残部のドロマイト原料は、天然のものであっても、合成されたものであっても良い。ドロマイト原料に含まれるCaOの量は20質量%〜65質量%のものが使用できる。吹付補修材の骨材に占めるドロマイト原料の割合は、好ましくは10〜40質量%である。ドロマイト原料の割合が10質量%未満では低融点物の生成が少なく十分な焼結が得られず、40質量%以上では低融点物の生成量が多すぎて耐食性が低下する。また、粒度は粗粒での使用が好ましい。細粒以下の粒度では骨材自身が消化し易くなるため、保管時に配合の粒度構成が変化し緻密な施工体が得られ難くなるためである。
【0023】
また、骨材残部のマグネシア原料は、種類については特に限定されるものではなく、従来から吹付補修材に使用されてきたものが使用できる。微粉の場合、海水マグネシアが好ましく、粗粒や細粒は電融マグネシアや重焼天然マグネシアが好ましい。
【0024】
耐火粘土は特に限定されるものではなく、従来より吹付補修材に使用してきたものが使用できる。具体例としてはカオリン、ボールクレー、ベントナイト、水簸粘土等が挙げられる。その使用量は吹付補修材の耐火原料(骨材と耐火粘土の合計量)に占める割合で5質量%以下とする。5質量%を超えると耐火粘土のSiO成分が低融点物を生成して、耐食性を低下させる。好ましくは1〜3質量%である。
【0025】
結合剤は特に限定されるものではなく、従来より吹付補修材に使用してきたものが使用できる。具体例としては珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、珪酸カリなどの珪酸塩、リン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、リン酸カリ、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどのリン酸塩等である。その添加量は耐火原料に対する割合で、外掛けで1〜5質量%が好ましい。また、結合剤の種類によっては硬化促進剤を添加する。具体例としては、消石灰、炭酸カルシウム等のカルシウム塩である。
【0026】
〈実験〉
以下に示す材料を用い、下記表2に示す配合で、本発明の吹付補修材No.1〜No.8と、比較のための吹付補修材No.9〜No.12を作製し、その特性を試験した。各吹付補修材に使用した使用済みMgO−Cれんが、ドロマイト原料、及びマグネシア原料の化学成分値を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示した使用済みMgO−Cれんがを最大粒径が5mmとなるように粉砕し、粒度調整して、粒径5〜1mmの粗粒、1〜0mmの細粒に分級した。
【0029】
上記使用済みMgO−Cれんが粒に表1に示したドロマイト原料、マグネシア原料を配合した骨材と、耐火粘土、結合剤をミキサーで混合して、下記表2のNo.1〜8に示す配合の吹付補修材を作製した。また、比較のため、下記表2のNo.9〜12に示す配合の吹付補修材も作製した。なお、No.9の吹付補修材は、使用済みのMgO−Cれんがを用いない従来のマグネシア系の吹付補修材(再生品でないもの)であり、No.11の吹付補修材は、使用済みのMgO−Cれんがを用いない従来のマグネシア−ドロマイト系の吹付補修材(再生品でないもの)である。
【0030】
また、ドロマイト原料は粒径5〜1mmの粗粒を使用し、マグネシア原料は粒径5〜1mmの粗粒、粒径1〜0mmの細粒、粒径0.075mm以下の微粒、いずれも重焼天然マグネシアを使用した。これらの配合も下記表2に示すとおりである。耐火粘土はベントナイト、結合剤は粉末珪酸ソーダを使用し、骨材100質量%に対して、それぞれ1質量%、2質量%添加した。
【0031】
作製した吹付補修材について下記試験を行った。試験結果を吹付補修材の骨材配合割合と併せて表2に示す。
【0032】
因みに、付着性は吹付装置(ロテクター)を使用し、各例の吹付補修材を乾式法にて施工し、試験した。施工面はアルミナ質キャスタブルのボードを使用し、このボードの表面をバーナー加熱して表面温度約800度にして、熱間吹付補修を想定して吹付けを行い、ボード全体に付着したものを○、ボードの一部のみ付着したものを△、ボードに全く付着しなかったものを×とした。
【0033】
耐食性は各例の吹付補修材に水分13〜18質量%を添加して混練したものを任意の形状の枠に流し込んだ後、取り出して乾燥したものを試料とし、回転侵食試験を行った。侵食剤として製鋼用電気炉スラグを使用、1650度×5時間で試験を行い、試験後試料を切断、断面より損耗寸法及びスラグ浸潤寸法を測定した。損耗寸法が小さくても、スラグ浸潤寸法が大きいと、構造的スポールを起こし、剥落する可能性があるので、両方の寸法を加算した値を耐食性指数とし、総合的な耐食性の目安とした。なお、耐食性指数は値が小さいほど、耐食性が高く、耐食性指数が「30」以下を耐食性良好、「31」以上を耐食性不良と評価した。
【0034】
総合評価は、付着性及び耐食性指数の両者が良好なものを「○」、付着性又は耐食性指数のいずれかが不良であるものを「△」、付着性及び耐食性指数の双方が不良なものを「×」とした。
【0035】
【表2】

【0036】
使用済みMgO−Cれんがを骨材中に20〜60質量%含み、かつ、骨材中に10〜40質量%のドロマイト原料を含む本発明の吹付補修材No.1〜No.8は、いずれも、使用済みMgO−Cれんがを使用しない比較例No.9、及びNo.11の吹付補修材と比較して、ほぼ同等の付着性及び耐食性指数を示し、遜色のない総合評価が得られた。
【0037】
比較例であるNo.10の吹付補修材は骨材中に占める使用済みMgO−Cれんがの量が64質量%と多すぎるため、添加水分量(施工水量)が多くなり緻密な施工体が得られず、付着性及び耐食性指数のいずれにおいても不良となり、総合評価は「×」となった。また、No.12の吹付補修材は、使用済みMgO−Cれんがの量は、例えばNo.2の吹付補修材と同じであるにも係わらず、ドロマイト原料が配合されていないため、付着性においては良好と判断されたが、総合的な耐食性においては、耐食性指数が「33」と大きく、総合評価では「△」という結果となった。
【0038】
以上のとおり、本発明の吹付補修材においては、使用済みMgO−Cれんがを粉砕して得られる粒径1〜0mmの細粒分をさらに分級して粒径が0.3mm未満の微粉を取り除く必要がなく、細粒分をそのまま、粒径5〜1mmの粗粒分とともに使用することができるので、使用済みMgO−Cれんがを全て有効に再利用することができるという利点が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、使用済みのMgO−Cれんがを粉砕し、その全量を微粉分も含めて吹付補修材の骨材として再利用することができるので、資源の有効利用に有用であるばかりでなく、廃棄物の減量にも顕著に寄与し、その産業上の利用可能性には多大のものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みMgO−Cれんがを使用した吹付補修材であって、粒径5mm以下の使用済みMgO−Cれんがを10〜60質量%含有し、残部がドロマイト原料、マグネシア原料からなる骨材と、耐火粘土、及び結合剤を含む吹付補修材。
【請求項2】
上記使用済みMgO−Cれんがが製鋼用電気炉、取鍋等で使用された後に発生するMgO−Cれんがであることを特徴とする請求項1記載の吹付補修材。

【公開番号】特開2011−121798(P2011−121798A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279383(P2009−279383)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(592144593)興亜耐火工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】