説明

使用済脱硝触媒の洗浄方法

【課題】使用済脱硝触媒を洗浄する工程で、大気へと放出される水銀を回収、除去することにより、大気中へ水銀が放出されないようにする、使用済脱硝触媒の洗浄方法を提供する。
【解決手段】水銀を含む排ガス中で使用された、酸化チタンを主成分とする使用済脱硝触媒を、洗浄液中に浸漬後、該洗浄液を攪拌しながら、該脱硝触媒中の水銀を含む触媒毒を溶解、除去する使用済脱硝触媒の洗浄方法において、洗浄液を攪拌する過程で発生した排ガスを、水銀除去手段を有する煙道に導き、水銀を除去した後、大気に放出する使用済脱硝触媒の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済脱硝触媒の洗浄方法に係り、特に石炭焚きボイラ排ガス中で使用された使用済脱硝触媒の洗浄工程で放出される水銀がそのまま大気に放出されないように、回収、除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の発生量を低減するために使用済み触媒を再利用する必要が生じている。特に、石炭や重油を燃料としたボイラ排ガスの排ガス脱硝触媒では、アルカリ金属、アルカリ土類金属および砒素化合物による経時的な性能低下が生じるが、これらの毒物質は概ね洗浄工程で、該脱硝触媒に付着した重金属のような毒物質を洗浄液に溶解させて除去することが可能である。
【0003】
従来の使用済触媒の洗浄法としては、通常、ユニット形状の使用済触媒を、ユニットが一つないし数個入る程度の大きさの洗浄液タンクに浸漬させることにより行なわれる。洗浄には、通常、水、硫酸、蓚酸、アンモニア、硫酸塩その他種々の洗浄液が単独でまたは組み合わせて用いられ、この洗浄により脱硝性能が回復することが知られている(例えば、特許文献1および2)。そして洗浄の際には、洗浄液を気泡で撹拌すること(エアレーション)や、超音波振動によってキャビテーションを発生させることが効果的であるとされる(例えば特許文献3)。それは、洗浄工程において、被毒成分や不純物を短時間で取り除くことができるためである。洗浄後の触媒は速やかに乾燥されるが、洗浄工程でエアレーションやキャビテーションによって発生したガスは、通常はそのまま大気に放出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−37634号公報
【特許文献2】特開2000−37635号公報
【特許文献3】特開2005−279452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、多くの石炭焚きボイラの使用済触媒には、排ガス中に含まれていた水銀化合物の一部が吸着し、付着している。この水銀化合物が付着した使用済脱硝触媒を上記した方法で洗浄すると、付着した水銀化合物が洗浄液中に溶けだすが、本発明者らが鋭意検討した結果、洗浄液中に溶けだした水銀化合物は、洗浄液をエアレーションなどにより攪拌する操作過程で、大気中に放出されることが明らかになった。水銀は人体にとって有害物質であり、洗浄の際に発生する水銀は作業環境を悪化させるため排出量を極めて低く抑える必要がある。また、洗浄工程で生じる排ガスを浄化する処理装置を設けた場合であっても、元素上の水銀は簡単に除去されないため水銀を含んだ排ガスはそのまま大気へ放出されることになる。
【0006】
本発明の課題は、使用済脱硝触媒を洗浄する工程で、大気へと放出される水銀を回収、除去することにより、大気中へ水銀が放出されないようにする、使用済脱硝触媒の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は、以下のとおりである。
(1)水銀を含む排ガス中で使用された、酸化チタンを主成分とする使用済脱硝触媒を、洗浄液中に浸漬後、該洗浄液を攪拌しながら、該脱硝触媒中の水銀を含む触媒毒を溶解、除去する使用済脱硝触媒の洗浄方法において、洗浄液を攪拌する過程で発生した排ガスを、水銀除去手段を有する煙道に導き、水銀を除去した後、大気に放出することを特徴とする使用済脱硝触媒の洗浄方法。
(2)前記洗浄液が、水または蓚酸もしくはクエン酸の水溶液であることを特徴とする(1)記載の方法。
(3)前記水銀除去手段が、珪藻土、酸化チタン及びアルミナ群から選ばれる一つ以上の担体に金を担持した水銀除去剤が充填された充填層に排ガスを通過させるものである(1)または(2)記載の方法。
(4)前記水銀除去手段が、活性炭を充填した充填層に排ガスを通過させるものである(1)または(2)記載の方法。
(5)前記洗浄液の攪拌が、エアレーション及び/またはキャビテーションによって行なわれる(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
【0008】
本発明者らは、使用済脱硝触媒の洗浄工程で水銀が放出される問題に対して鋭意検討した結果、空気による攪拌操作において下記の現象を明らかにした。まず、被処理触媒に付着している水銀化合物の形態は、金属水銀と酸化水銀の形態であると考えられる。このうち、金属水銀は、揮発性が高いため、エアレーションやキャビテーションなどの撹拌操作により、容易に大気中に放出される。また、被処理触媒に付着した酸化水銀については、洗浄液中に共存している還元性物質により酸化水銀から金属水銀に還元され、同様に曝気されることで揮発し、大気に放出される。その他、使用済脱硝触媒由来の還元性物質が洗浄液中に溶け出すと、この還元性物質により酸化水銀が金属水銀に還元されるため、曝気されることで同様に水銀が大気に放出される場合もある。この洗浄過程において酸化水銀が還元され、大気に放出される原理については、例えば蓚酸溶液中では、以下に示す(1)式と(2)式の酸化還元反応により、2価の水銀イオンが0価の金属水銀に還元されるものと考えられる。
【0009】
H2C2O4(aq)→ CO2(g) +2H+(aq) + 2e- (1式)
Hg2+(aq) +2e- → Hg(g)↑ (2式)
本発明方法において、上記の洗浄工程で発生した水銀を含む排ガスは、水銀除去手段を有する煙道を通る間に漏れなく捕集される。水銀除去手段としては、水銀除去剤、例えば水銀とアマルガムを生成する金属(例えば金など)が担持された充填層や活性炭の充填層が用いられ、ファンによって吸引された排ガスが煙道内に設けられた上記充填層を通過する間に排ガス中の水銀が例えば充填層内の金などとアマルガムを生成し、排ガス中から除去され、大気への放出が防止される。また、この水銀除去剤が活性炭である場合には、排ガス中の水銀は活性炭に物理吸着され、大気への放出が防止される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用済脱硝触媒を洗浄する過程において、撹拌の際に洗浄液中から大気中へと放出される水銀を極めて低く抑えることができ、これにより水銀及び水銀化合物による環境汚染及び人体への影響を軽減することができる。
【0011】
本発明の水銀除去手段に用いる水銀除去剤は、水銀を吸着することができる物質であれば特に制限されないが、活性炭や、珪藻土、チタン酸化物またはアルミナに金を担持させた充填物などが好適である。充填物の形状は、粒状、ハニカム状、板状などいずれの形状でも良く、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明に用いられる洗浄液は、脱硝触媒に付着したアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を除去することができるものであれば、特に限定されないが、通常、水、蓚酸やクエン酸を溶解させた酸性水溶液、または水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液が用いられる。
また、洗浄液の温度は、触媒毒の除去効率が高いことから50〜60℃が好ましい。
【0013】
本発明においては、上記水銀除去手段の他に、フード通過後の煙道内で活性炭を噴霧し、水銀を活性炭に吸着させ、次いで、大気に放出される前に設置されたバグフィルタによって水銀が吸着した活性炭を回収する方式も可能である。また煙道内に、金属水銀を二価の水銀へと励起する光源、具体的には253.7nmの波長の光を照射することにより、金属水銀を酸化水銀に酸化させ、大気に放出される前にスクラバで湿式吸収して排ガスから除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明の実施例を示す説明図。
【図2】本願発明の実施例を示す説明図。
【図3】本発明の実施例の模擬試験装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に示す実施例によりさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の洗浄方法を実施するための装置を示す説明図である。この装置は、使用済脱硝触媒を洗浄液に浸漬し、エアレーションを行う洗浄操作部と、洗浄の際に発生する排ガスを処理する排ガス処理部とからなり、具体的には、使用済触媒3を容器内に収容したユニットを洗浄液2に浸漬する洗浄液タンク1と、該洗浄液タンク1内の使用済触媒3の下方から空気を吹き込むための空気押込み用の配管8と、該配管8に空気を押し込むためのファン7と、前記洗浄液タンク1の上方に設けられた切頭円錐形のフード5と、該フードに接続された煙道9と、該煙道9に設けられた水銀除去剤充填層6と、該煙道9の前記充填層6の出口側に設けられた空気引き込み用のファン10とから構成される。
【0016】
まず、被処理触媒3が洗浄液タンク1中の洗浄液2中に浸漬され、洗浄液タンク1中には、ファン7から空気が導入される。ファン7から導入された空気により洗浄液2が攪拌され、この操作により、被処理触媒3に付着した被毒成分や不純物が取り除かれる。さらに、洗浄時に発生する排ガス4が、洗浄液タンク1の上部に設けられたフード5からファン10によって吸引され、煙道9の出口から大気へと放出される。フード5と煙道9出口までの間には水銀除去剤充填層6が設置されており、排ガスが水銀除去剤充填層6に通されることにより、排ガス中の水銀が吸着され、除去される。また、フード5は、洗浄工程で発生する排ガス4を漏らさず吸引し、さらに洗浄液の飛散も防止する。本発明におけるファン7とファン10の動力は、ファン10の吸引力がファン7の空気を押し込む強さより強くなるように設定する。このように設定することにより、洗浄時に発生する排ガス4を確実に水銀除去剤6へと導くことができる。
【0017】
図2は、本発明の他の実施例を示す図1と同様な構成の装置を示す説明図である。図1と異なる点は、洗浄液タンク1とフード5とを完全に密閉して煙道9に接続したことである。これにより、ファン7で押し出された空気はフード5、煙道9を通り、水銀除去充填剤層6に通され、煙道9から大気へと放出される。洗浄時の排ガスが、水銀除去剤層6を通過することにより、洗浄排ガス中の水銀は、水銀除去剤層6で吸着、除去することができる。図2の構成では、図1の構成に比べ、空気を引き込むファン10を設置する必要がないため、設置コストが低減され、また装置の運転時においても、図1に比べ、空気を引き込むファンを削減している分、動力を抑えることができる。
【0018】
[試験例1]
本発明方法の効果を確認するため以下のような模擬試験を行った。図3にこの試験方法の概略図を示す。触媒として、触媒成分がTi、Mo、及びVからなる板状触媒を、水銀を含む排ガスが排出される石炭焚きボイラの実機で1万時間運転した使用済脱硝触媒を用いた。この触媒を50mm×20mmの大きさ(10cm2)に切断したもの4枚用意した。100mL容量の吸収瓶11に洗浄液を30mL入れ、予め60℃まで保温しておく。この溶液に先に用意した4枚の触媒片を液に浸漬させ、日本インスツルメンツ社製の水銀分析装置(WA-4)を用いて、吸収瓶11の出口から水銀分析計に至るまでの配管中に水銀除去剤6を設置し、水銀除去剤6を通過した後のガス中の水銀量を測定した。なお、水銀の除去剤には日本インスツルメンツ社製の水銀捕集管に充填された水銀吸着剤を30mgを用いて試験を行った。また、洗浄液のエアレーションは、金が担持された珪藻土13を吸収瓶11の先端に設置し、大気中の水銀が除去された空気を0.5L/minの速度で20分間、押し込んで行った。また、洗浄液2には1mol/Lの蓚酸溶液を用いた。
【0019】
[試験例2]
試験例1において、洗浄液に1mol/Lのクエン酸溶液に変更し、他は同様にして試験を行った。
[試験例3]
試験例1において、洗浄液が水である条件をに変更し、他は同様にして試験を行った。
[試験例4]
試験例1において、水銀吸着剤を活性炭30mgに変更し、他は同様にして試験を行った。
[試験例5]
試験例1において、水銀吸着剤6を設置しない条件に変更し、他は同様にして試験を行った。
【0020】
試験例1〜5で得られた結果を表1に纏めて示した。本表から明らかなように水銀吸着剤を通さない試験例5では、洗浄工程における水銀が大気中に放出される。一方、試験例1〜4から明らかなように、水銀の吸着剤を用いることにより、洗浄時に放出される水銀が水銀吸着剤で除去されるため、大気中への水銀の放出を抑えることができる。
【0021】
【表1】

【符号の説明】
【0022】
1 洗浄液タンク
2 洗浄液
3 使用済脱硝触媒ユニット
4 排ガス
5 フード
6 水銀除去剤充填層
7 空気押し込み用のファン
8 空気押し込み用の配管
9 煙道
10 空気引込み用のファン
11 吸収瓶
12 ガラスフィルター
13 金を担持した珪藻土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀を含む排ガス中で使用された、酸化チタンを主成分とする使用済脱硝触媒を、洗浄液中に浸漬後、該洗浄液を攪拌しながら、該脱硝触媒中の水銀を含む触媒毒を溶解、除去する使用済脱硝触媒の洗浄方法において、洗浄液を攪拌する過程で発生した排ガスを、水銀除去手段を有する煙道に導き、水銀を除去した後、大気に放出することを特徴とする使用済脱硝触媒の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄液が、水または蓚酸もしくはクエン酸の水溶液であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水銀除去手段が、珪藻土、酸化チタン及びアルミナ群から選ばれる一つ以上の担体に金を担持した水銀除去剤が充填された充填層に排ガスを通過させるものである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記水銀除去手段が、活性炭を充填した充填層に排ガスを通過させるものである請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄液の攪拌が、エアレーション及び/またはキャビテーションによって行なわれる請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−131122(P2011−131122A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290584(P2009−290584)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】