説明

使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法

【課題】モリブデンおよび/またはバナジウムをソーダ焙焼する際に使用するナトリウム化合物の量を抑えることができる使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法を提供する。
【解決手段】モリブデンおよび/またはバナジウムと、硫黄とを含有する被処理物をナトリウム化合物とともに焙焼する際に、被処理物に対してナトリウム化合物を供給する方法であって、被処理物中から硫黄を除去した後、硫黄を除去された硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給する。被処理物中から硫黄が除去された硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給するので、ナトリウム化合物の硫酸化を防ぐことができ、ナトリウム化合物のロスを抑えることができ、モリブデンおよび/またはバナジウムを効率よく処理できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法に関する。さらに詳しくは、石油精製所における脱硫に使用された廃触媒などを処理してモリブデンおよびバナジウム等の有価金属を回収する設備において、ソーダ焙焼を行う際に、廃触媒など対してナトリウム化合物を供給する、使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製所における脱硫塔では、脱硫触媒によって各種石油留分の水素化脱硫が行われる。
かかる脱硫触媒による脱硫は、石油を高圧水素と脱硫触媒上で反応させ、硫黄化合物を硫化水素に変えて除去する水素化脱硫によって行われる。しかし、かかる水素化脱硫作業を行うにつれ、脱硫触媒はその触媒活性が低下するので、触媒活性を失った脱硫触媒(廃触媒)は新しい脱硫触媒と交換される。
【0003】
ここで、水素化脱硫の反応によって、石油中に含まれていたバナジウム等の有価金属が石油から脱硫触媒に移動する。また、脱硫触媒は、もともとモリブデン等の有価金属を含有している。例えば、代表的な廃触媒である脱硫触媒には、モリブデンが3〜9%、バナジウムは15%以下の量が含まれている。また、かかる脱硫触媒には、モリブデン、バナジウム以外にも、ニッケルが4%以下、コバルトが3%以下、燐が3%以下、硫黄が2〜12%、アルミニウムが10〜40%、非揮発性炭素分が4〜18%、油分が5〜25%程度含まれている。
以上のごとく、廃触媒には、バナジウムやモリブデン等の有価金属がある程度含まれているので、廃触媒から有価金属を回収して有価金属を再利用することが行われている。
【0004】
上記のごとき廃触媒から有価金属を回収する方法として、有価金属を水に溶解する可溶性塩としてから回収することが行われている(例えば、特許文献1)。
具体的には、廃触媒と、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩(以下、ソーダ灰という)とを、酸素が存在する雰囲気においてロータリーキルンによって焙焼する。すると、廃触媒中のモリブデンやバナジウム等の有価金属は、酸化しかつソーダ灰と反応(ソーダ化反応)して可溶性塩(水溶性化合物)となる。この可溶性塩となった有価金属を含む焙焼物を水浸出すると、モリブデン、バナジウムの水溶液が得られるので、この水溶液に塩析・酸沈法や溶媒抽出法を適用すれば、MoO、Vを得ることができる。
【0005】
ところで、上述したように、焙焼の際に、廃触媒は、ソーダ灰とともにロータリーキルンに供給され焙焼されるが、このとき、ロータリーキルンに対して供給されるソーダ灰の量は、同時にロータリーキルンに投入される廃触媒中の有価金属の量に対応した量となるように調整される。
理想的には、ロータリーキルンに対して供給されるソーダ灰の量は、有価金属と過不足無く反応する量(当量)とすることが好ましい。
【0006】
しかし、廃触媒をロータリーキルンによって焙焼すると、廃触媒中に含まれていた硫黄が燃焼し二酸化硫黄ガス(SO)が発生する。二酸化硫黄ガス(SO)が存在する場合、ソーダ灰としてナトリウム化合物を使用すると、ナトリウム化合物が硫酸ナトリウムとなる反応が生じる可能性がある。
【0007】
例えば、ロータリーキルンでは、供給された廃触媒は、その軸方向の一端部(供給端)から供給され他端部(排出端)まで移動される間に焙焼されるのであるが、廃触媒中の有価金属のソーダ化反応は、ロータリーキルンの他端部、つまり、焙焼物が排出される端部に近い側で生じる。
【0008】
並流式キルンを用いて焙焼した場合には、キルンに対して、酸素含有気体、廃触媒およびナトリウム化合物の全てがいずれも供給端から供給されるので、キルン内において、酸素含有気体の流れる方向と廃触媒などが移動する方向とが同じ方向になる。すると、有価金属のソーダ化反応が生じる領域は硫黄の燃焼で生じた二酸化硫黄ガスが存在する雰囲気になるので、ロータリーキルンに対して供給されたナトリウム化合物が硫酸ナトリウムとなる反応が生じやすい。
【0009】
また、向流式キルンを用いて焙焼した場合には、キルンに対して、廃触媒およびナトリウム化合物は供給端から供給されるが、酸素含有気体は排出端から供給されるので、キルン内において、酸素含有気体の流れる方向と廃触媒などが移動する方向とが逆方向になる(例えば、特許文献2)。このため、並流式キルンと比べて、ソーダ化反応が生じる領域における二酸化硫黄ガスの量は少なくできる。
しかし、焙焼される廃触媒およびソーダ灰は、ロータリーキルンの排出端近傍まで移動してからソーダ化反応が生じる。すると、ナトリウム化合物は、ソーダ化反応が生じる領域まで移動する間に二酸化硫黄ガスと接触するので、その際にナトリウム化合物が硫酸ナトリウムとなる反応が生じやすい。
【0010】
以上のごとく、廃触媒をロータリーキルンによってナトリウム化合物とともに焙焼した場合には、二酸化硫黄ガスとの反応にナトリウム化合物が消費される。すると、この量も考慮してロータリーキルンに対してナトリウム化合物を供給しなければならず、ナトリウム化合物の消費量が多くなるという問題が生じる。
【0011】
また、ロータリーキルン内は高温となっているので、ロータリーキルン内に投入されたナトリウム化合物が溶解してロータリーキルン内壁に融着して成長するという問題が生じる。
【0012】
例えば、並流式キルンの場合には、供給端近傍の酸素濃度が高いため、廃触媒をキルンに供給した直後から油分の燃焼が始まる。すると、油分の燃焼熱により供給端近傍が高温となるので、ロータリーキルンに供給した後、短時間でナトリウム化合物が溶解温度に達してしまう。このため、ロータリーキルンの供給端近傍からナトリウム化合物が溶解し、溶解したナトリウム化合物がロータリーキルン内壁に融着して成長するという問題が生じる。
【0013】
向流式キルンの場合、供給端近傍では酸素濃度が低くなっており、油分を燃焼させることなく揮発させることができるので、油分の燃焼熱によりナトリウム化合物が溶解することは防ぐことができる。
しかし、向流式キルンでも、廃触媒などが供給端からソーダ化反応が生じる領域まで移動する間に、廃触媒中の非揮発性炭素や硫黄が燃焼して火炎が発生する。すると、非揮発性炭素や硫黄が燃焼する領域では、ロータリーキルン内の温度は800〜950℃となるため、この領域ではナトリウム化合物の溶解が生じ、溶解したナトリウム化合物の融着が発生する。
つまり、向流式キルンでも、ナトリウム化合物の溶融は抑えることができず、溶解したナトリウム化合物がキルン内壁に融着して成長するという現象を防ぐことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−262181号公報
【特許文献2】特開2003-284955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、モリブデンおよび/またはバナジウムをソーダ焙焼する際に使用するナトリウム化合物の量を抑えることができる使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法は、モリブデンおよび/またはバナジウムと、硫黄とを含有する被処理物をナトリウム化合物とともに焙焼する際に、該被処理物に対して前記ナトリウム化合物を供給する方法であって、前記被処理物中から硫黄を除去した後、硫黄を除去された硫黄除去後処理物に対して前記ナトリウム化合物を供給することを特徴とする。
第2発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法は、第1発明において、前記被処理物を処理容器内に収容して外気と遮断し、該処理容器内を移動させながら前記被処理物の焙焼を行う場合において、前記処理容器に対して、前記被処理物と反応する反応気体を該被処理物の移動方向と逆方向に流れるように供給し、該被処理物から硫黄が除去される領域を通過した硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給することを特徴とする。
第3発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法は、第2発明において、前記処理容器が、ロータリーキルンであり、該ロータリーキルンは、該ロータリーキルン内に前記反応気体を供給する気体供給手段と、該ロータリーキルン内に前記ナトリウム化合物を供給するナトリウム化合物供給手段と、を備えており、前記気体供給手段は、前記ロータリーキルン内に供給する前記反応気体が、前記被処理物が供給される供給側端部と反対側に位置する排出側端部から該供給側端部に向かって流れるように配設されており、前記ナトリウム化合物供給手段は、前記ロータリーキルンにおいて、前記供給側端部と前記排出側端部との間に設けられており、前記反応気体は、前記ロータリーキルン内において、前記供給側端部から前記排出側端部に向かって、硫黄除却処理を行う硫黄除却領域と、モリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域と、ソーダ化反応した焙焼物を冷却する冷却領域とが、この順で形成され、前記硫黄除却領域と前記ソーダ化反応領域との境界が、前記ナトリウム化合物供給手段が設けられた位置になるように、その酸素濃度が調整されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、被処理物中から硫黄が除去された硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給するので、ナトリウム化合物の硫酸化を防ぐことができる。したがって、ナトリウム化合物のロスを抑えることができるから、ナトリウム化合物を用いて、モリブデンおよび/またはバナジウムを効率よく処理できる。
第2発明によれば、被処理物の移動方向と反応気体の移動方向が逆方向であり、硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給するので、反応気体と硫黄が反応して生成された二酸化硫黄とナトリウム化合物とが接触する可能性を低くすることができる。したがって、ナトリウム化合物の硫酸化を防ぐことができるから、ナトリウム化合物のロスを抑えることができる。しかも、被処理物中に油分や炭素分が存在しても、これらの燃焼などが生じた後でナトリウム化合物を添加することになるので、ナトリウム化合物の溶融やかかる溶融物が処理容器内に融着することを防ぐことができる。したがって、処理容器内に溶融物が付着したことに起因する処理容器の損傷を防ぐことができる。
第3発明によれば、硫黄除却領域とソーダ化反応領域との境界との間にナトリウム化合物供給手段が設けられているので、硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を適切に供給することができる。しかも、ロータリーキルン内では、反応気体が排出側端部から供給側端部に向かって流れるので、ナトリウム化合物が反応気体と硫黄の反応によって生成された二酸化硫黄と接触することをより確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)はスクープフィーダー10を備えたロータリーキルン1の概略説明図であり、(B)はロータリーキルン1の回転胴部2内における気体温度および酸素濃度の分布を示した図であり、(C)はスクープフィーダー10の概略説明図である。
【図2】(A)はNaCOによるモリブデンおよびバナジウムのソーダ化の標準自由エネルギーΔGを、MoO、VのNaCOによる直接ソーダ化と、SOの硫酸化とについて比較した図であり、(B)はNaSOによるモリブデンおよびバナジウムのソーダ化の標準自由エネルギーΔGを、MoO、VのNaSOによる直接ソーダ化について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法は、廃触媒等のように、モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄とを含有する被処理物をナトリウム化合物と混合して焙焼(ソーダ焙焼)するときにおける、被処理物に対するナトリウム化合物を供給する方法である。
【0020】
本発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法(以下、単に本発明の方法という)において、ナトリウム化合物とともに焙焼される被処理物は、石油精製所等において使用される脱硫触媒、硫酸製造用の使用済触媒等の廃触媒、廃触媒から有価金属を回収するプロセスにおける工程中間生成物(例えば、炉内付着物、煙道堆積物等)、また、触媒再生会社で発生する再生屑・再生微粉、触媒製造会社で発生する触媒屑などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0021】
そして、上記のごとき被処理物をソーダ焙焼して得られた焙焼物は、被処理物中に存在していたモリブデンおよび/またはバナジウムがソーダ焙焼により可溶性塩(水溶性化合物)となっている。このため、かかるモリブデンやバナジウムの可溶性塩を含む焙焼物を水浸出すれば、モリブデンおよび/またはバナジウムの水溶液を得ることができる。すると、この水溶液に塩析・酸沈法や溶媒抽出法を適用すれば、MoOやVの状態でモリブデンやバナジウムを回収することができるのである。
【0022】
なお、本発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法によって被処理物に供給されるナトリウム化合物は、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどをあげることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
(ソーダ焙焼について)
まず、モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄とを含有する被処理物を、ナトリウム化合物によってソーダ焙焼した場合における反応について説明する。
【0024】
モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄とを含有する被処理物をソーダ焙焼した場合には、硫黄が燃焼して二酸化硫黄(SOガス)が発生する。すると、ナトリウム化合物とモリブデンおよび/またはバナジウムの酸化物との間ではソーダ化反応が生じ、ナトリウム化合物と二酸化硫黄との間では硫酸化の反応が生じる。
【0025】
そして、ソーダ化反応と硫酸化の反応について標準自由エネルギー:Δ(デルタ)Gを比較すると、ソーダ化反応よりも硫酸化の方が反応が進みやすいと試算される。
具体的には、温度1173Kにおける、MoOのソーダ化ΔGと、Vのソーダ化ΔGと、SOのNaSO化ΔGと、を、比較すると以下のようになる。
−165,000GJ(MoO)> -185,000GJ (V)> -220,000GJ(SO
以上のように、ナトリウム化合物は、ソーダ化反応よりも硫酸化の反応の方が進みやすい。
【0026】
一方、図2(A)に示すように、ナトリウム化合物によるソーダ化反応では、高温になるほど、ソーダ化反応が進みやすくなる。特に、反応温度が1373K(1100℃)になると、ナトリウム化合物の硫酸化とソーダ化反応のΔGも逆転するため、ソーダ化反応を促進する為には高温での操業が好ましいと考えられる。
【0027】
また、モリブデンやバナジウムの酸化物は、SOガスにより硫酸化された硫酸ナトリウムとの間でもソーダ化反応も生じるが、ΔGを確認するとプラスの値であり反応は進まないと見積もれる。一方、図2(B)に示すように、高温になるに従い、ΔGは減少し、1400K付近でΔGはマイナスになる。すなわち、硫酸ナトリウムによるソーダ化反応は1400K付近以上の高温でなければ生じないことを意味する。
【0028】
以上の現象を考慮すると、以下のように考えられる。
モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄とを含有する被処理物をソーダ焙焼した場合には、硫黄が燃焼してSOガスが発生する。発生したSOが存在するガス雰囲気においてモリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化反応が行われた場合は、ソーダ化反応前のナトリウム化合物がSOが存在するガス雰囲気に曝されると硫酸化し、硫酸化によってナトリウム化合物が有効に活用されずロスとなる。
一方、硫酸化したナトリウム(ナトリウム化合物)によるソーダ化反応も理論上は可能であるが、このソーダ化反応にはさらに高温が必要となるので実用的ではない。
【0029】
上記のように、モリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化反応が生じる温度およびガス雰囲気には適した条件があり、この条件から外れた温度、ガス雰囲気においてモリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化反応を行った場合には、ナトリウム化合物がソーダ化反応以外の反応に消費される可能性がある。
したがって、ナトリウム化合物を有効に活用するためには、適切な条件において、被処理物とナトリウム化合物とを混合してソーダ焙焼することが重要である。
【0030】
(本発明の方法)
上述したように、モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄とを含有する被処理物のソーダ焙焼には、最適な条件が存在するので、本発明の方法では、モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄とを含有する被処理物を焙焼する際に、被処理物とナトリウム化合物とをあらかじめ混合してから焙焼することはしないようにしている。本発明の方法では、被処理物中の硫黄を除去した後、硫黄が除去された被処理物(硫黄除去後処理物)に対してナトリウム化合物を加えて焙焼する。
【0031】
具体的には、被処理物を、酸素を含有する反応気体を供給しながら加熱して、硫黄を燃焼させて二酸化硫黄として除去し、硫黄除去後処理物とする。この硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給して混合する。
すると、被処理物中のモリブデンおよび/またはバナジウムをナトリウム化合物と反応させてソーダ化することができる。
なお、硫黄の燃焼などによって発生する熱量だけでソーダ化反応処理に十分な熱量充足できない場合は、バーナーで加熱して熱量を供給することが好ましい。
【0032】
上記方法の場合、ナトリウム化合物を供給したときには、被処理物から硫黄が除去されているので、ナトリウム化合物が硫黄や二酸化硫黄と反応して消費されることを防ぐことができる。
このため、被処理物中の全てのモリブデンおよび/またはバナジウムと過不足無く反応する量(当量)、または、当量よりも少し多い量のナトリウム化合物を供給する(なお、設備構造など操業の経験上、当量よりもナトリウム化合物を10%程度多くしておく方が安定して操業できる)。すると、被処理物中の全てのモリブデンおよび/またはバナジウムをソーダ化して、可溶性塩とすることができる。
つまり、ナトリウム化合物を過剰に供給しなくても、被処理物中の全てのモリブデンおよび/またはバナジウムをソーダ化することができる。したがって、焙焼において使用するナトリウム化合物の量を抑えることができ、モリブデンおよび/またはバナジウムを効率よく処理できる。
【0033】
なお、被処理物中に硫黄以外の燃焼する物質、例えば、油分や炭素化合物などが存在している場合には、硫黄だけでなく、これらの物質も被処理物から除去してからナトリウム化合物を加えることが好ましい。油分や炭素化合物などが存在している場合には、これらの燃焼熱によってナトリウム化合物が溶融してしまい、被処理物中のモリブデンおよび/またはバナジウムと十分に反応できなくなる可能性があるからである。
【0034】
(焙焼装置について)
本発明の方法を採用して被処理物の焙焼を行う焙焼装置はとくに限定されず、例えば、ロータリーキルンや流動焙焼炉などを採用することができる。
【0035】
とくに、ロータリーキルンや流動焙焼炉などの焙焼装置のように、外気と遮断された処理容器の供給口から被処理物を供給しこの被処理物を供給口から排出口に向かって移動させながら処理できる装置であれば、以下の(1)、(2)に示す機構を有しているものが好ましい。
(1)処理容器内において、反応気体の流動方向が処理容器内における被処理物の移動方向と逆方向である。
(2)処理容器に対し、被処理物の移動経路の途中からナトリウム化合物を供給することができる。具体的には、被処理物中の硫黄を燃焼させる領域(つまり、被処理物から硫黄が除去される領域)を通過した硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給することができる位置にナトリウム化合物を供給することができるようになっていることが好ましい。
【0036】
上記のごとき(1)、(2)に示す機構を有している装置では、被処理物は以下のように処理される。
【0037】
まず、処理容器内の供給口から被処理物を供給し、この被処理物を処理容器の排出口に向かって移動させる。また、反応気体は、その流動方向が処理容器内における被処理物の移動方向と逆方向となるように処理容器内に供給する。
すると、処理容器内において、供給口の近傍において被処理物中の硫黄を燃焼させることができるので、被処理物から硫黄が二酸化硫黄として除去されて硫黄除去後処理物が生成される。
そして、被処理物から硫黄が除去される領域を通過した硫黄除去後処理物、つまり、全ての硫黄が除去された硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給するので、ナトリウム化合物が硫黄との反応によって消費されることがない。しかも、被処理物の移動方向と反応気体の移動方向が逆方向であり、硫黄が燃焼によって発生した二酸化硫黄はナトリウム化合物を供給する領域には流入しないので、ナトリウム化合物の硫酸化も防ぐことができる。
【0038】
したがって、本発明の方法を採用した焙焼装置によって被処理物をソーダ焙焼すると、モリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化以外にナトリウム化合物が消費されることを防ぐことができるので、焙焼装置に供給するナトリウム化合物の量を抑えることができる。
【0039】
また、本発明の方法を採用した焙焼装置によって被処理物をソーダ焙焼すれば、被処理物中に油分や炭素化合物などが存在している場合(被処理物が石油精製所における脱硫に使用された廃触媒である場合など)でも、これらの揮発や燃焼が生じた後でナトリウム化合物を添加することができる。なぜなら、油分の揮発は硫黄の燃焼よりも低温で生じ、また、炭素化合物の燃焼は硫黄の燃焼と同程度の温度で生じるからである。すると、油分や炭素化合物などの燃焼熱によってナトリウム化合物が溶融することを防ぐことができるから、かかる溶融物が処理容器内に融着すること、処理容器内に溶融物が付着したことに起因する処理容器の損傷が発生すること、を防止することができる。
【0040】
(ロータリーキルン1の説明)
本発明の方法を採用する焙焼装置としては、図1(A)に示すような構造を有するロータリーキルン1が好ましい。
以下、本発明の方法に適したロータリーキルン1を説明する。
【0041】
なお、以下の説明では、本発明の方法によって処理する被処理物が、廃触媒のように、モリブデンおよび/またはバナジウムと硫黄以外に、油分および炭素分を有するものを処理する場合を代表として説明する。
【0042】
まず、本発明の方法に適したロータリーキルン1の基本構造を説明する。
図1(A)において、符号1は本発明の方法に適したロータリーキルンを示している。このロータリーキルン1の基本構造は、一般的な向流式ロータリーキルンと同様の構造である。つまり、ロータリーキルン1は、回転胴部2(特許請求の範囲にいう処理容器に相当する)内において、被処理物と、酸素を含有する反応気体の気流とが逆方向に移動するように構成されている。図1(A)であれば、被処理物は、左端の投入口1hから投入されて左端から右端に向かって移動するように構成されている。一方、反応気体は、右端の供給手段5から投入されて右端から左端に向かって流れるように構成されている。
【0043】
つまり、本発明の方法に適したロータリーキルン1は、被処理物と反応気体とが逆向きに流れるような構造となっている。このため、反応気体の酸素濃度や気体温度を調整することによって、回転胴部2内において、投入口1hから排出側端部に向かって、被処理物の脱油処理を行う脱油処理領域Z1と、脱油された被処理物から炭素および硫黄の除却処理を行って硫黄除去後処理物を生成する炭素硫黄除却領域Z2と、硫黄除去後処理物中のモリブデンおよび/またはバナジウムについてソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域Z3と、ソーダ化された焙焼物を冷却する冷却領域Z4とを、この順で形成できるのである。
【0044】
なお、符号6は、回転胴部2内の空間において炭素および硫黄の燃焼によって発生する熱量が、炭素硫黄除却処理、モリブデンおよびバナジウムのソーダ化反応処理に必要な熱量を充足することができない場合に、必要な熱量を供給するためのバーナーを示している。
また、油分を有しない被処理物、または、油分を少ししか含有しない被処理物が供給される場合には、回転胴部2内に、炭素硫黄除却領域Z2、ソーダ化反応領域Z3、冷却領域Z4だけが形成されるように、反応気体の酸素濃度、気体温度を調整すればよい。
【0045】
(スクープフィーダー10の説明)
そして、図1(A)および図1(C)に示すように、本発明の方法に適したロータリーキルン1には、回転胴部2に、ナトリウム化合物供給手段であるスクープフィーダー10が設けられている。
【0046】
図1(C)に示すように、回転胴部2は、スクープフィーダー10が設けられている部分に、その周方向に沿って切れ目2hが形成されている。つまり、回転胴部2は、切れ目2hを挟んで、供給側の胴部(図1では左側)と排出側の胴部(図1では右側)とに分離されている。
【0047】
この回転胴部2における切れ目2hの部分には、スクープフィーダー10のパイプ部11が固定されている。このパイプ部11は、その先端が回転胴部2内に位置し、その先端が回転胴部2外に位置するように設けられている。
このパイプ部11の基端には、パイプ部11の基端を開閉するダンパー13が設けられており、このダンパー13を介してショベル12が設けられている。このショベル12は、その先端が回転胴部2の周方向に向くように、パイプ部11の基端に取り付けられている。
なお、このダンパー13は、パイプ部11が回転胴部2の上方に位置すると開き(ショベル12とパイプ部11との間を連通し)、それ以外の位置では閉じた状態となるように作動するものである。
【0048】
また、この回転胴部2における切れ目2hの部分には、スクープフィーダー10の円筒状の固定フード15が設けられている。この固定フード15は、回転胴部2内と外部との間を気密に遮断し、かつ、回転胴部2の切れ目2hおよびパイプ部11の基端を覆うように設けられている。この固定フード15は、その移動が固定されており、回転胴部2に対して回転胴部2の中心軸周りに相対的に回転可能に設けられている。言い換えれば、固定フード15は、その内部でパイプ部11が固定された回転胴部2が回転可能となるように設けられているのである。
【0049】
また、固定フード15は、切れ目2hと外部との間を遮断するその内面と回転胴部2の外面との間にナトリウム化合物供給空間15hが形成されるように配設されている。そして、回転胴部2には、この空間内にナトリウム化合物を供給する供給口15aが形成されている。
【0050】
以上のごときスクープフィーダー10を設ければ、パイプ部11は回転胴部2とともに回転するので、パイプ部11の先端が下方に移動すればショベル12によってナトリウム化合物供給空間15h内のナトリウム化合物をすくうことができる。回転胴部2がさらに回転すると、ショベル12はすくったナトリウム化合物を保持したまま、パイプ部11とともに移動する。この間、ダンパー13は閉じているので、ショベル12からパイプ部11内にナトリウム化合物は入らない。
そして、回転胴部2の回転によって、パイプ部11が斜め上方(キルンベッド層(=転動物層)付近に移動すれば、ダンパー13が開くので、ショベル12に保持されていたナトリウム化合物はパイプ部11に供給される。すると、パイプ部11を通して、炭素硫黄除却領域Z2内にナトリウム化合物を飛散させることがないように、回転胴部2内にナトリウム化合物を供給することができるのである。
【0051】
なお、炭素硫黄除却領域Z2内にナトリウム化合物が飛散することを防止する上では、ナトリウム化合物として、粒状またはフレーク状に造粒・成形されたものを投入することが好ましい。
【0052】
そして、図1に示すように、スクープフィーダー10を設けたロータリーキルン1では、スクープフィーダー10が設けられている位置に、炭素硫黄除却領域Z2とソーダ化反応領域Z3との境界が位置するように、反応気体の酸素濃度、気体温度が調整されている。つまり、回転胴部2内においてスクープフィーダー10からナトリウム化合物が供給される位置には、硫黄除去後処理物が存在するように、反応気体の酸素濃度、気体温度が調整されている。
【0053】
すると、硫黄除去後処理物に対してナトリウム化合物を供給することができるから、モリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化以外にナトリウム化合物が消費されることを防ぐことができる。よって、ロータリーキルン1に供給するナトリウム化合物の量を抑えることができる。
【0054】
しかも、ロータリーキルン1内では、反応気体が排出側端部から供給側端部に向かって流れるので、反応気体と硫黄が反応して生成された二酸化硫黄がソーダ化反応領域Z3に流入することもない。すると、二酸化硫黄とナトリウム化合物との接触をより確実に防ぐことができるから、ナトリウム化合物が硫酸化して消費されることをより確実に防ぐことができる。
【0055】
なお、図1には、スクープフィーダー10のパイプ部11を、回転胴部2の中心軸を挟んで相対する2箇所に設けた構成が開示されている。つまり、スクープフィーダー10がパイプ部11を2本備えている場合が記載されている。かかる構成とすると、スクープフィーダー10を設けたことによって回転胴部2の回転にムラが出ることを防ぐことができるという利点が得られる。しかし、スクープフィーダー10が有するパイプ部11の数は2本に限られず、パイプ部11の数は1本でもよいし2以上設けてもよい。
また、回転胴部2内へのナトリウム化合物の供給量は、ナトリウム化合物供給空間15hへのナトリウム化合物の供給量により制御することができる。
【0056】
さらに、ダンパー13が開いたときに、回転胴部2内に空気が若干リークする可能性があるが、リークした空気が回転胴部2内の供給空気を制御する上で問題となる場合には(例えば、各ゾーンを適切な位置に形成することが難しくなる場合には)、ダンパー13をダブルダンパーにする等でダンパー13部分の気密性を高めればよい。
【実施例】
【0057】
本発明の方法の有効性を確認するために、アルカリ化合物(炭酸ナトリウム)を廃触媒とともに焙焼炉の装入端から供給した場合(比較例1)と、本発明の方法によって廃触媒を焙焼炉内で焙焼した場合(実施例1)と、について、焙焼物に含有される硫黄濃度および焙焼物からのモリブデンおよびバナジウムの浸出率を比較した。
【0058】
モリブデンおよびバナジウムの浸出率は、焙焼物(焙焼済み廃触媒)を100℃以下まで冷却し、同一量を同一容量の水に添加して浸出し、得られた浸出液に含有されるモリブデンおよびバナジウムの濃度に基づいて算出した。浸出液中のモリブデン、バナジウムの濃度は、ICPを用いて分析した。
また、焙焼物の硫黄濃度は、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法によって定量分析した。合わせて、炭素濃度も固体中炭素硫黄分析装置(管状電気抵抗加熱炉方式)によって定量分析した。
【0059】
実験は、図1(A)に示すような構成を有する外熱式炉芯管回転式の管状炉を、向流式キルンとして使用して行った。使用した管状炉のスペックは、以下の通りである。
炉芯管内径:700mmφ
長さ:10.5m
【0060】
なお、実施例1では、上記管状炉にスクープフィーダー(図1(C)の構造)を設けており、装入端からは廃触媒のみを供給しスクープフィーダーから炭酸ナトリウムを供給した。
スクープフィーダーは、炉芯管の装入端から7m位置に配置した。実施例1では、スクープフィーダーが設けられている位置が炭素硫黄燃焼ゾーンの通過直後となるように、反応気体の酸素濃度および気体温度を調整した。
【0061】
廃触媒の成分、管状炉の運転条件は、以下の表1に示すとおりである。
なお、表1において、試験水準1が比較例1であり、試験水準2が実施例1である。
【表1】

【0062】
表2に結果を示す。
なお、表2において、試験水準1が比較例1の結果であり、試験水準2が実施例1の結果である。
【表2】

【0063】
まず、表2に示すように、焙焼物に含有される硫黄濃度は、比較例1と比べて、実施例1では10分の1程度にまで低減している。このことから、本発明の方法では、従来の方法に比べて、焙焼物内に硫酸化した硫黄が残留する量を少なくすることができることが確認できた。
【0064】
また、表2に示すように、比較例1と比べて、実施例1では、焙焼後の水浸出におけるモリブデンおよびバナジウムの浸出率が約3%向上している。この浸出率の向上は、炭酸ナトリウムをソーダ化反応が生じる場所(図1におけるソーダ化反応領域Z3)に直接装入したため、(1)添加したナトリウム化合物がソーダ化に効率的に利用されたこと、および、(2)ナトリウム化合物の溶融を防ぐことができ、溶融したナトリウム化合物に由来するソーダガラスなどの低融点物質が廃触媒表面を覆って酸化を妨げるという現象が生じることを防止できたこと、が原因と考えられる。
【0065】
以上のごとく、本発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法を採用すれば、ナトリウム化合物をソーダ焙焼に有効に利用することができるので、モリブデンおよび/またはバナジウムをソーダ焙焼する際に使用するナトリウム化合物の量を抑えることができるし、モリブデンおよび/またはバナジウムの浸出率を向上させることも可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法は、脱硫廃触媒などのソーダ焙焼処理を行う設備において、ナトリウム化合物を供給する方法として適している。
【符号の説明】
【0067】
1 ロータリーキルン
2 回転胴部
5 供給手段
10 スクープフィーダー
11 パイプ部
Z1 脱油処理領域
Z2 炭素硫黄除却領域
Z3 ソーダ化反応領域
Z4 冷却領域
M 被処理物
S ナトリウム化合物
D 硫黄除去後処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンおよび/またはバナジウムと、硫黄とを含有する被処理物をナトリウム化合物とともに焙焼する際に、該被処理物に対して前記ナトリウム化合物を供給する方法であって、
前記被処理物中から硫黄を除去した後、硫黄を除去された硫黄除去後処理物に対して前記ナトリウム化合物を供給する
ことを特徴とする使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法。
【請求項2】
前記被処理物を処理容器内に収容して外気と遮断し、該処理容器内を移動させながら前記被処理物の焙焼を行う場合において、
前記処理容器に対して、酸素を含有する反応気体を該被処理物の移動方向と逆方向に流れるように供給し、
該被処理物から硫黄が除去される領域を通過した硫黄除去後処理物に対して前記ナトリウム化合物を供給する
ことを特徴とする請求項1記載の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法。
【請求項3】
前記処理容器が、ロータリーキルンであり、
該ロータリーキルンは、
該ロータリーキルン内に前記反応気体を供給する気体供給手段と、該ロータリーキルン内に前記ナトリウム化合物を供給するナトリウム化合物供給手段と、を備えており、
前記気体供給手段は、
前記ロータリーキルン内に供給する前記反応気体が、前記被処理物が供給される供給側端部と反対側に位置する排出側端部から該供給側端部に向かって流れるように配設されており、
前記ナトリウム化合物供給手段は、
前記ロータリーキルンにおいて、前記供給側端部と前記排出側端部との間に設けられており、
前記反応気体は、
前記ロータリーキルン内において、前記供給側端部から前記排出側端部に向かって、硫黄除却処理を行う硫黄除却領域と、モリブデンおよび/またはバナジウムのソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域と、ソーダ化反応した焙焼物を冷却する冷却領域とが、この順で形成され、
前記硫黄除却領域と前記ソーダ化反応領域との境界が、前記ナトリウム化合物供給手段が設けられた位置になるように、その酸素濃度が調整されている
ことを特徴とする請求項2記載の使用済触媒処理におけるアルカリ金属化合物の添加方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126927(P2012−126927A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276642(P2010−276642)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】