説明

便中のカンピロバクターの迅速検出方法

【課題】便中のカンピロバクターの迅速検出方法を提供する。
【解決手段】モノクローナル抗体4B4と便試料とを接触させることを特徴とする、便中のカンピロバクター腸炎菌の迅速検出方法であって、好ましくは便試料が界面活性剤で処理され、イムノクロマトグラフィー法を用いて行われる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食中毒菌の迅速検出方法、詳細には、便中のカンピロバクターの迅速検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンピロバクター腸炎は、カンピロバクター(Campylobacter)に汚染された食品を摂食することにより引き起こされる細菌性食中毒の1つであり、その発生件数は、わが国で発生している細菌性食中毒の中で最も多い。現在、カンピロバクター腸炎の診断は、細菌培養法により患者便からカンピロバクターを検出することにより実施されているが、それは煩雑な操作と最低2日の培養期間を必要とする。
【0003】
カンピロバクター腸炎の2大原因菌はカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)およびカンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)であるが、患者から分離されるカンピロバクターの95〜99%はC. jejuniであり、C. coliは数%に過ぎない。従って、C. jejuniがカンピロバクター腸炎の主要原因菌であり、これはLiorの血清型別システムにより数十種類の血清型に分類される。他のカンピロバクター菌種では、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)及びカンピロバクター・アプサリエンシス(Campylobacter upsaliensis)が、その発生は非常に稀であるが、ヒト腸炎との関連が報告されている。従って、検出率や診断精度を高めるためには、カンピロバクター属に対して特異性が高く、しかもこれらのヒト腸炎の原因となるカンピロバクターに属する広範な菌種(広範なカンピロバクター血清型)を検出できる方法が必要とされている。
【0004】
上記のような問題を解決するために、これまでに様々な検出方法が開発されてきたが、カンピロバクター属に対して特異性が高く、カンピロバクターに属する広範な菌種(広範なカンピロバクター血清型)を検出でき、しかも迅速に検出を行うことのできる方法はなかった。例えば、本発明と同様にモノクローナル抗体を用いてカンピロバクターを検出しようとする試みもいくつかあったが(非特許文献1〜3参照)、これらの方法に用いられる抗体は、カンピロバクター以外の菌にも反応してしまう、C. jejuniの一部の血清型には反応しない、1種類ではサンドイッチ検出系を構築できない等の問題がある。また、ELISA法を用いる方法もあるが(非特許文献4参照)、迅速性および簡便性の点で満足とはいえない。
【非特許文献1】Lu P et al. Int J Food Microbiol. 37(1): 87-91 (1997)
【非特許文献2】Brooks BW et al. Immunol Invest. 27(4-5):257-265 (1998)
【非特許文献3】Steele M et al. J Clin Microbiol. 40(3): 1080-1082 (2002)
【非特許文献4】Hindiyeh M et al. J Clin Microbiol. 38(8):3076-3079 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
便中のカンピロバクターを迅速かつ高精度、かつ高特異性でもって検出する方法、そのためのキット等を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記事情に鑑みて鋭意研究を重ね、カンピロバクター腸炎の主要原因菌であるC. jejuniの菌体表面タンパク質に対するマウスモノクローナル抗体を新たに作出し、それを用いることにより患者便抽出液中のカンピロバクター抗原を15分以内に簡便に検出することが可能であること、この抗体がカンピロバクター特異的であり、しかもカンピロバクター属の広範な種(広範な血清型)をカバーするものであること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は:
(1)モノクローナル抗体4B4と便試料とを接触させることを特徴とする、便中のカンピロバクターの検出方法;
(2)(a)検出可能な標識を付したモノクローナル抗体4B4を便試料と反応させて複合体を形成させること、次いで、
(b)(a)で得られた複合体を、固相上に固定化されたモノクローナル抗体4B4と反応させて、形成されたさらなる複合体を該標識を用いて検出すること
を特徴とする(1)記載の方法;
(3)工程(b)がイムノクロマトグラフィー法またはELISA法を用いて行われる(2)記載の方法;
(4)モノクローナル抗体4B4と便試料とを接触させる前に、便試料を界面活性剤で処理する工程を含む(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法;
(5)モノクローナル抗体4B4を必須構成成分として含む、便中のカンピロバクターを検出するためのキット;
(6)イムノクロマトグラフィー法またはELISA法を用いるものである(5)記載のキット;
(7)便試料がヒトから得られたものである(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法、あるいは(5)または(6)記載のキット;
(8)独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受領番号FERM AP−21368を付与されたハイブリドーマ;
(9)(8)記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体4B4
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、便中のカンピロバクター属の様々な菌種(広範な血清型)を迅速かつ高精度、かつ高特異性で検出することができるので、本発明は、カンピロバクター食中毒の診断薬や診断キットの製造分野において利用可能である。本発明の検出方法は、一度に多くの検体を処理するハイスループット分析にも適したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、モノクローナル抗体4B4と便試料とを反応させることを特徴とする、便中のカンピロバクターの検出方法に関するものである。本発明において新たに取得されたモノクローナル抗体4B4は、カンピロバクター菌体表面タンパク質に特異的に結合する。しかも、カンピロバクター属の多くの菌種(広範な血清型)の菌体表面タンパク質に結合する。したがって、モノクローナル抗体4B4を用いれば、カンピロバクターに属する多くの種の細菌(広範な血清型)を特異的に検出することが可能である。そのうえ、モノクローナル抗体4B4は、後述のごとく、それのみを用いてイムノクロマトグラフィー(本明細書において「イムノクロマト」と略称することがある)やサンドイッチELISAのようなサンドイッチ検出を行うことができる。その理由は、モノクローナル抗体4B4がカンピロバクター菌体表面タンパク質の2つまたはそれ以上の部位に結合するためと考えられる。
【0010】
モノクローナル抗体4B4と便試料との反応とは、モノクローナル抗体4B4と便試料中に存在するカンピロバクター属細菌の表面タンパク質とが特異的に反応し、結合することを意味する。
【0011】
本発明において分析される試料としては、動物、特にヒトの糞便が挙げられる。
【0012】
モノクローナル抗体4B4は、本発明により得られたマウスハイブリドーマCJ−4B4によって産生される抗体である。マウスハイブリドーマCJ−4B4は、2007年9月19日に、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受領番号FERM AP−21368が付与された。上記ハイブリドーマおよびモノクローナル抗体4B4は本発明に包含される。
【0013】
本発明は、もう1つの態様において、(a)検出可能な標識を付したモノクローナル抗体4B4を試料と反応させて複合体を形成させること、次いで、(b)(a)で得られた複合体を、固相上に固定化されたモノクローナル抗体4B4と反応させて、形成されたさらなる複合体を該標識を用いて検出することを特徴とする、カンピロバクターの検出方法に関するものである。前述のように、モノクローナル抗体4B4は、それのみを用いることでイムノクロマトやサンドイッチELISA(通常、これらの手法は2種類以上の抗体を使用する必要があるが、それに適した優れた抗体を2種類以上作出することは容易ではない)などのサンドイッチ検出を行うことができるので、検出系の開発を容易にする。
【0014】
先ず、検出可能な標識を付したモノクローナル抗体4B4と試料とを反応させて複合体を形成させる。この工程において、試料中のカンピロバクター菌体表面タンパク質あるいはカンピロバクターから遊離した表面タンパク質とモノクローナル抗体4B4とが反応して結合し、複合体が形成される。検出可能な標識としては、金コロイド、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ)、蛍光基(例えば、FITC)、発光基(例えば、アクリジニウムなど)、放射性同位元素(例えば、32P、35S、H)などが挙げられるが、これらに限らない。モノクローナル抗体4B4と標識の結合方法は当業者に公知であり、例えば、共有結合を介して抗体に標識を結合させることができる。当業者は、標識の種類や検出方法に応じて結合方法を適宜選択して用いることができる。標識の検出についても肉眼観察、分光学的処方による検出、放射能カウントなど、様々であり、やはり当業者が適宜検出方法を選択することができる。
【0015】
次に、得られた複合体と固相に固定化されたモノクローナル抗体4B4とを反応させる。上記複合体が存在する場合には、固相に固定化されたモノクローナル抗体と上記複合体中のカンピロバクター表面タンパク質とが反応してさらなる複合体が形成される。モノクローナル抗体4B4の固相への固定化方法は公知であり、検出手段・方法に応じて適宜選択されうる。典型的な固定化方法としては、例えば、物理的吸着法、化学的結合法など挙げられる。上記さらなる複合体の検出方法としては、例えばイムノクロマト法やサンドイッチELISA法などが一般的であり、本発明においても使用可能である。また、ラテックス粒子にモノクローマル抗体4B4を結合させて、これを試料と混合し、顕微鏡観察により凝集の有無を調べることも可能である。本発明における検出方法としては、イムノクロマト法が迅速性の点から好ましいが、これらの方法に限られず、当業者は様々な方法を適用することができる。
【0016】
本発明のカンピロバクターの検出方法において、便試料を界面活性剤にて処理してから、モノクローナル抗体4B4と接触させてもよい。モノクローナル抗体4B4と反応するカンピロバクターの菌体表面タンパク質は、界面活性剤処理により容易に菌体から遊離される性質を有する。使用されうる界面活性剤としては特に制限はないが、モノクローナル抗体4B4により認識されなくなるほどカンピロバクターの菌体表面タンパク質の構造を変化させるものは好ましくない。界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤(脂肪酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウムなど)、陽イオン系界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩など)、両性イオン界面活性剤(アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなど)、非イオン系界面活性剤(ショ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなど)があり、いずれの種類の界面活性剤でも使用可能である。多種多様な界面活性剤が市販されている。例えば、商品名ノニデット、トライトンX、プルロニック、ツインなどの商品名で市販されているものがある。使用される界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類によって異なるが、当業者であれば容易に決定しうる。なお、界面活性剤を有効成分とするタンパク質抽出剤を本発明に使用することもできる。本明細書において、界面活性剤を有効成分とするタンパク質抽出剤を「界面活性剤」に含めることとする。界面活性剤を有効成分とするタンパク質抽出剤は多くの種類があり、市販されている。界面活性剤を有効成分とする市販のタンパク質抽出剤としてはB-PER Bacterial Protein Extraction Reagent(PIERCE, Rockford, IL)、B-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(PIERCE)、BugBuster Protein Extraction Reagent(EMD Chemicals, San Diego, CA)などが例示される。
【0017】
便中のカンピロバクターを免疫学的分析方法を用いて検出する場合、水または適当な緩衝液で希釈していわゆる乳剤状態とし、遠心分離を行うことにより滓を除去してからカンピロバクター検出手順に供するのが望ましいが、遠心分離によって大部分の菌体も滓とともに除去されてしまい、検出感度が低下するという問題がある。しかし、モノクローナル抗体4B4と反応するカンピロバクターの菌体表面タンパク質は、界面活性剤処理により容易に菌体から遊離される性質を有するので、界面活性剤処理後に遠心分離を行うことにより、菌体が滓とともに除去されても表面タンパク質は上清中に残り、上清を以後の検出操作に用いることで検出感度の向上を図ることができる。
【0018】
界面活性剤を用いる代わりに、上記の乳剤状態の試料をサンプルパッドなどのフィルターに適用し、滓を除去することもできる。この場合、界面活性剤は使用しても、使用しなくてもよい(表面タンパク質が菌体に付いたままであっても、イムノクロマト法や他の方法にて検出可能な場合がある)。
【0019】
これらの前処理方法はどのような試料にも適用可能であるが、試料がヒトの便である場合に特に効果的である。
【0020】
本発明は、もう1つの態様において、上で説明した本発明の方法を用いてカンピロバクターを検出するためのキットに関するものである。本発明のキットはモノクローナル抗体4B4を必須構成成分として含むものである。本発明のキットは、例えば、イムノクロマト用のパーツ、試料処理のための界面活性剤、あるいはサンプルパッドなどを含んでいてもよい。本発明を構成する成分はこれらのものには限定されない。本発明のキットはハイスループット検査用であってもよい。通常、キットには取扱説明書が添付される。
【0021】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでも例示説明のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0022】
4B4モノクローナル抗体の作製
(I)菌体抽出抗原の調製
下記手順により細菌を培養し、抗原を抽出した。
(1)寒天培地シャーレ1枚分の培養細菌をリン酸緩衝食塩水(PBS)1mlに懸濁した。
(2)15000rpmで5℃、5分間遠心した。
(3)上清を捨てた後、沈渣をPBS 1mlに再度懸濁した。
(4)15000rpmで5℃、5分間遠心した。
(5)上清を捨てた後、沈渣をB-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(PIERCE, Rockford, IL)1mlに懸濁した。
(6)懸濁液を室温で15分間攪拌した。
(7)15000rpmで5℃、5分間遠心し、その上清を菌体抽出抗原とした。
【0023】
(II)マウスの免疫
下記手順によりカンピロバクター抽出抗原を用いてマウスを免疫した。
(1)C. jejuni(Lior血清型7)の臨床分離株を使って調製した菌体抽出抗原(蛋白濃度1.2mg/ml)とFreund's complete adjuvantの等容量混合乳濁液を5匹のBALB/cマウス(SPF−grade,雌、8週齢)のそれぞれの腹腔内に0.1ml接種した。
(2)3、5、7及び11週間後、同じ菌体抽出抗原とFreund's incomplete adjuvant等容量混合乳濁液をそれぞれのマウスの腹腔内に0.1ml追加免疫した。
(3)最後の追加免疫から2週間後、それぞれのマウスの眼底静脈叢から採血し、血清抗体の力価を、酵素免疫測定法(ELISA、詳細は(III)に後記)により測定し、高度免疫されたマウスを選抜した。
(4)細胞融合3日前に、最も高いELISA抗体価を示した免疫マウスの腹腔内に、菌体抽出抗原のみを0.5ml(0.6mg)を最終免疫した。
【0024】
(III)ELISAによる免疫マウスの血清抗体価の測定
上で得られたマウスの血清抗体価を、以下の手順により測定した。
(1)免疫抗原(C. jejuni(Lior血清型7)の臨床分離株を使って調製した菌体抽出抗原)を0.05M炭酸バッファー pH9.6で0.01mg/mlに希釈して、マイクロタイタープレートのウエルに0.1ml分注し、4℃で一夜放置した。
(2)抗原液をプレートから除去した後、ブロッキング液(20%馬血清を含むPBS)を0.15ml加えて室温1時間反応させた。
(3)ブロッキング液を除去した後、洗浄液(0.05% Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。
(4)血清試料の10倍階段希釈液(マウス血清を、20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで希釈したもの)を0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(5)洗浄液で4回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで1000倍に希釈したものを0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(6)洗浄液で4回洗浄後、酵素基質(1-Step Ultra TMB-ELISA:PIERCE)を0.1ml加えて、室温10分間反応させた後、反応停止液(1M硫酸)を0.1ml加えてから、吸光度の自動計測装置を用いて450nmにおける吸光度を計測した。
【0025】
(IV)細胞融合
下記手順に従って、免疫マウスの脾臓細胞とミエローマ細胞を融合させた。
(1)最終免疫から3日後、マウスから脾臓を取り出し、Pre-Fusion Medium(StemCell Technology, Vancouver, BC, Canada)を入れたシャーレに置き、洗浄した。
(2)洗浄後の脾臓をPre-Fusion Mediumの入った別のシャーレに移し、ピンセットでホモジナイズした。
(3)脾臓のホモジナイズ液をナイロンメッシュで濾過し、均一な細胞懸濁液を得た。
(4)マウスリンパ球比重分離液(日本抗体研究所)を使って赤血球を除去した後、Pre-Fusion Mediumで3回遠心洗浄した(1600rpm,6分×3回)。
(5)3回洗浄後に、Fusion Medium(StemCell Technologies)25mlに懸濁し、それをPBSで10倍希釈したものの細胞数を測定した。(1匹の免疫マウスより、約1×10個の脾臓細胞が得られた)
(6)脾臓細胞懸濁液(約1×10個の脾臓細胞をFusion Mediumの25mlに懸濁したもの)に2×10個のミエローマ細胞(P3−X63−Ag8.U1)を加えた(細胞比;脾臓細胞:ミエローマ細胞=5:1)後、遠心した(1600rpm,6分)。
(7)遠心後、血清成分を完全に除去するために、予め37℃に保温したFusion Medium 25mlで3回遠心洗浄した(1600rpm,6分)。
(8)細胞沈渣をFusion Medium 10mlに浮遊させ、10ml丸底チューブに移して1600rpm,6分遠心した。
(9)遠心後、上清を完全に除去した。
(10)細胞をタッピングで十分にほぐした後、1mlの40%PEG溶液(40gのPEG−4000を50mlのPBSに溶解後、10mlのDMSOと1mlのポリ−L−アルギニン塩酸塩水溶液(1mg/ml)を加えて、最後に1N HClを加えてpHを約7.8に調製したもの)をピペットの先端で細胞を緩やかに攪拌しながら1分間かけて添加した。
(11)更に1分間、細胞を攪拌した。
(12)Fusion Medium 1mlをピペットの先端で細胞を緩やかに攪拌しながら1分間かけて添加した。
(13)Fusion Medium 1mlをピペットの先端で細胞を緩やかに攪拌しながら1分間かけて添加した。
(14)Fusion Medium 7mlをピペットの先端で細胞を緩やかに攪拌しながら(1mlずつ7回に分けて)3分間かけて添加した。
(15)1000rpm,5分遠心し上清を捨てた。
(16)細胞をタッピングで優しくほぐした後、Pre-Fusion Medium 10mlに懸濁し1000rpm,5分遠心した。
(17)1000rpm,5分遠心し上清を捨てた。
(18)細胞をタッピングで優しくほぐした後、Hybridoma Recovery Medium(StemCell Technologies)10mlに懸濁する。
(19)懸濁液10mlをHybridoma Recovery Mediumが40ml入った中フラスコに移した。
(20)37℃で18時間培養した。
【0026】
(V)選択培養とクローニング
上で得られた融合細胞を、下記手順にてり選択培養し、クローニングを行った。
(1)37℃で18時間培養した融合細胞懸濁液(50ml)を1600rpm,6分遠心した。
(2)細胞沈渣をタッピングで優しくほぐした後、Hybridoma Recovery Mediumの10mlに懸濁した。
(3)懸濁液10mlをHybridoma Selection Medium(ヒポキサンチン・チミジン・アミノプテリン添加軟寒天培地、StemCell Technologies)が90ml入ったボトルに移し、なるべく泡立たないようにして、ボトルを数回逆さに反転させながら中身を完全に混ぜ合わせた。
(4)ボトルの蓋を完全に閉めて、37℃に15分間静置した。
(5)25枚の60mmペトリデイッシュのそれぞれに4mlずつ分注した。
(6)37℃、5%COで10〜13日間培養した。
【0027】
(VI)コロニーの採取と陽性クローンの検出
上で得られた融合細胞のコロニーを採取し、ELISAにて陽性クローンを検出し、再クローニングした。手順は下記のとおり。
(1)培養開始後10〜14日の間に、各ペトリデイッシュから融合細胞コロニーを採取した。
(2)20μlにセットした20μlピペットマンを使って融合細胞コロニーを採取し、Hybridoma Groth Medium(ヒポキサンチン・チミジン添加培地、StemCell Technologies)が200μl/ウエル入った96ウエルマイクロプレートのウエルに移した。
(3)最終的に、融合細胞を培養した25枚のペトリデイッシュから、計1714個の融合細胞コロニーを採取し、Hybridoma Growth Mediumが200μl/ウエル入った96ウエルマイクロプレートの各ウエルにそれぞれ移した。
(4)37℃、5% COで4〜6日間培養した。
(5)培養後、各培養上清に含まれる免疫抗原に対する抗体価をELISA(詳細は(VII)に後記)で測定した。
(6)ELISAで陽性であった55ウエルの細胞懸濁液のそれぞれをHybridoma Growth Mediumが1ml/ウエル入った24ウエルプレートの各ウエルに移し37℃、5% COで3〜4日間培養した。
(7)培養後、各培養上清に含まれる抗体の各種菌由来の菌体抽出抗原に対する反応性をELISA(詳細は(8)に後記)を用いて検討した。
(8)ELISAの結果、培養上清がC. jejuni及びC. coliから調製された菌体抽出抗原には陽性反応を示したが、その他の菌種から調製された菌体抽出抗原には反応を示さなかった12ウエルについて、その中の融合細胞(ハイブリドーマ)を再クローニングした。
【0028】
(VII)ELISAによる培養上清中の抗体価の測定
上で得られたハイブリドーマ培養上清中の抗体価を、下記手順にて測定した。
(1)免疫抗原(C. jejuni(Lior血清型7)の臨床分離株を使って調製した菌体抽出抗原)を0.05M炭酸バッファー pH9.6で0.01mg/mlに希釈して、マイクロタイタープレートのウエルに0.1ml分注し、4℃で一夜放置した。
(2)抗原液をプレートから除去した後、ブロッキング液(20%馬血清を含むPBS)を0.15ml加えて室温1時間反応させた。
(3)ブロッキング液を除去した後、洗浄液(0.05% Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。
(4)培養上清の10倍希釈液(マウス血清を、20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで希釈したもの)を0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(5)洗浄液で4回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで1000倍に希釈したものを0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(6)洗浄液で4回洗浄後、酵素基質(1-Step Ultra TMB-ELISA:PIERCE)を0.1ml加えて、室温10分間反応させた後、反応停止液(1M硫酸)を0.1ml加えてから、吸光度の自動計測装置を用いて450nmにおける吸光度を計測した。
【0029】
(VIII) ELISAによる培養上清中の抗体の各種菌由来の菌体抽出抗原に対する反応性の検討
上記ハイブリドーマ培養上清中の抗体の各種細菌由来の抗原に対する反応性を、下記手順にて調べた。
(1)C. jejuni 3株(Lior血清型2,7及び9)、C. coli 1株、Aeromonas hydrophira、Enterobacter aerogenes、Proteus vulgaris、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella enteritidis及びVibrio cholera各1株からそれぞれ菌体抽出抗原を調製した。それぞれの菌体抽出抗原を0.05M炭酸バッファー pH9.6で0.01mg/mlに希釈して、マイクロタイタープレートのウエルに0.1ml分注し、4℃で一夜放置した。
(2)抗原液をプレートから除去した後、ブロッキング液(20%馬血清を含むPBS)を0.15ml加えて室温1時間反応させた。
(3)ブロッキング液を除去した後、洗浄液(0.05% Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。
(4)培養上清の10倍希釈液(マウス血清を、20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで希釈したもの)を0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(5)洗浄液で4回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで1000倍に希釈したものを0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(6)洗浄液で4回洗浄後、酵素基質(1-Step Ultra TMB-ELISA:PIERCE)を0.1ml加えて、室温10分間反応させた後、反応停止液(1M硫酸)を0.1ml加えてから、吸光度の自動計測装置を用いて450nmにおける吸光度を計測した。
【0030】
(IX)再クローニング
上記ELISAにて選抜した12個のクローンにつて、培養規模を拡大して培養を行った。手順は下記のとおり。
(1)ELISA(詳細は(VIII)に前記)の結果により選抜された12ウエル中のそれぞれのハイブリドーマクローンについて、細胞数を測定し、Pre-Fusion Mediumを使って、細胞濃度300個/mlの細胞懸濁液を調整した。
(2)その0.5ml(細胞数150個)をHybridoma Selection Medium 9.5mlと混合し、37℃、5% COに15分間静置した。
(3)それを2枚の60mmペトリデイッシュに4ml/ペトリデイッシュで泡立たないようにして分注し、残りは捨てた。
(4)37℃、5% COで10〜14日間培養した。
(5)10〜14日間後、各ペトリデイッシュのコロニーを肉眼で観察した。
(6)20μlにセットした20μlピペットマンを使って各コロニーを採取し、Hybridoma Growth Mediumが200ul/ウエル入った96ウエルマイクロプレートの各ウエルに移す。コロニーは、1クローン(ペトリデイッシュ2枚)につき大きいものから順に計24個採取した。
(7)37℃、5% COで3〜4日間培養した。
(8)上清を採取し、ELISA(詳細は(7)に前記)で抗体価を測定した。
(9)培養上清のELISA抗体価高く、かつ細胞の増殖状態の良いものを、1クローンにつき1ウエル選抜し、Hybridoma Growth Mediumが1ml/ウエル入った24ウエルプレートのウエルに移し37℃、5% COで3〜4日間培養した。
(10)培養後、適当量のHybridoma Growth Mediumに懸濁(細胞濃度1〜2×10個/mlに調整)して培養規模を拡大し、37℃、5% COで2日間培養した。
(11)培養後、適当量のHybridoma Growth Mediumに懸濁(細胞濃度1〜2×10個/mlに調整)して培養規模を拡大し、37℃、5% COで2日間培養した。
(12)培養後、Hybridoma Expantion Medium(StemCell Technologies)/Hybridoma Growth Mediumの50%混合液の適当量に懸濁(細胞濃度1〜2×10個/mlに調整)して、37℃、5% COで2日間培養した。
(13)Hybridoma Expantion Mediumを用いて順次、培養規模を拡大し、適当な時期に、細胞を凍結保存した。
(注)Hybridoma Expantion Mediumは、20% FCS、2mM グルタミン、0.05mM 2−メルカプトエタノール、トランスフェリン 0.006mg/ml、インスリン 0.02mg/ml及び抗生物質(ペニシリン 100単位/ml、ストレプトマイシン 0.1mg/ml、アンフォテリシンB 0.00025mg/ml)を含むイスコフ培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)でも代用可能である。
【0031】
(X)モノクローナル抗体の大量調製
下記手順により、再クローニング後の12クローンを大量培養して、モノクローナル抗体を得た。
(1)再クローニング後の12クローンのそれぞれを、Hybridoma Expantion Mediumを用いて大量培養し、Fusion Mediumで2回洗浄して細胞浮遊液(2×10個/ml)を調製した。
(2)24匹の8週齢の雄性BALB/cマウスにプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン,Aldrich Chemicals)0.5mlを腹腔内注射し、一週間後更に0.5mlを腹腔内注射した。
(3)約3日後に前記の細胞浮遊液を1ml腹腔内注射した(1クローンにつき、2匹のマウスに注射した)。
(4)約7〜12日間で腹水が貯留して腹部が肥大したので、注射器により腹水採取した。こうしてマウス1匹当り5〜10mlの腹水が得られた。
(5)得られた腹水を冷凍遠心分離(4℃、3000rpm、10分)して上清を集め、この上清に等容量の飽和硫酸アンモニア溶液(アンモニア水でpH7.4に調製)を滴下して塩析を行った。
(6)高速遠心分離(4℃、14,000rpm:10,000xG,30分)して上清を除去し、塩析沈殿物を適当量のPBS(−)に溶解した。
【0032】
(XI)大量調製したモノクローナル抗体の精製
上で大量調製されたモノクローナル抗体を、下記手順により精製した。
(1)塩析した抗体試料は、Protein A-Agaroseカラムクロマトグラフィーにより精製を行った。
(2)Protein A-Agarose充填カラム(ゲル5ml:Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)を5ベット容量の結合緩衝液(pH9.0:BioRad)で洗浄した。
(3)タンパク濃度約10mg/mlの抗体試料を前記結合緩衝液と等容量の割合で混合し、その5mlを前記のカラムにアプライした。
(4)15ベット容量の結合緩衝液によりカラムを洗浄した後、5ベット容量の溶出緩衝液(pH3.0:BioRad)によりマウスIgG画分を溶出した。溶出液のpHを中性に中和する目的で、溶出液1ml当り0.3mlの1M Tris−HCl緩衝液(pH9.0)を予め受器に入れておいた。
(5)精製抗体画分は分子篩(分子量:30,000)を用いる限外濾過により濃縮した後、PD−10カラム(アマシャム)を用いるゲル濾過により溶媒をPBSに置換した。
(6)得られた精製抗体溶液のタンパク濃度を5mg/mlに調製した後、凍結保存した。
【0033】
(XII)イムノクロマト法に使用可能なモノクローナル抗体の選定
上で大量調製したモノクローナル抗体からイムノクロマト法に使用可能な抗体を選別し、そのアイソタイプを決定した。手順は下記のとおり。
(1)大量調製した12種類のモノクローナル抗体のそれぞれを用いて、12種類の抗体固相化メンブレン(作製法は後記)と12種類の金コロイド標識抗体(作製法は後記)を作製した。
(2)144通りの抗体固相化メンブレンと金コロイド標識抗体の組み合わせのそれぞれについて、C. jejuni (Lior血清型7)の菌体抽出抗原を検出対象にしてイムノクロマト法を実施した。
(3)その結果、144通りの組み合わせの中で、1通りのみ(抗体固相化メンブレンも金コロイド標識抗体も、共に同じ抗体の組み合わせ)が陽性反応を示した。この抗体を4B4抗体と命名した。4B4抗体をカンピロバクターの迅速検出法に使用することにした。
【0034】
この実験により、モノクローナル抗体4B4は、イムノクロマト法などのサンドイッチ法に、4B4抗体1種のみで使用可能であることがわかった。通常、イムノクロマト法などのサンドイッチ法には2種類以上の抗体を必要とするのが、それに適した優れた抗体を2種類以上作出することは容易ではない。従って、この4B4の性質は、イムノクロマト法などのサンドイッチ法を利用した菌の検出系の開発作業を容易なものとする。
【0035】
上記実験で得られた、モノクローナル抗体4B4を産生するハイブリドーマ(CJ−4B4)は、茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6の、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、2007年9月19日に受領され、受領番号FERM AP−21368を付与された。
【0036】
(XIII)4B4抗体のアイソタイプの決定
(1)4B4抗体のアイソタイプは、モノクローナル抗体アイソタイピングキット(IsoStrip; Roche Diagnostics, Indianapolis)を使用した。
(2)その結果、4B4抗体のアイソタイプはIgG1(k)サブクラスであった。
【実施例2】
【0037】
4B4モノクローナル抗体の認識抗原の同定
(I)4B4抗体が認識する抗原のELISAによる解析
4B4モノクローナル抗体がどのような抗原を認識するのかを、下記手順にて調べた。
(1)4B4抗体が認識する抗原が、菌体表面に存在するかどうかを、C. jejuni(Lior血清型7)の生菌体を固相化抗原として用いたELISA法により、以下の手順で調べた。
(2)生菌体を0.05M炭酸バッファー pH9.6で約1×10個/mlに希釈して、マイクロタイタープレートのウエルに0.1ml分注し、4℃で一夜放置した。
(3)抗原液をプレートから除去した後、ブロッキング液(20%馬血清を含むPBS)を0.15ml加えて室温1時間反応させた。
(4)ブロッキング液を除去した後、洗浄液(0.05% Tween20を含むPBS)で3回洗浄した。
(5)4B4抗体希釈液(精製4B4抗体を、20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで0.01mg/mlに希釈したもの)を0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(6)洗浄液で4回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを20%馬血清と0.05% Tween20を含むPBSで1000倍に希釈したものを0.1ml加えて、室温1時間反応させた。
(7)洗浄液で4回洗浄後、酵素基質(1-Step Ultra TMB-ELISA:PIERCE)を0.1ml加えて、室温10分間反応させた後、反応停止液(1M硫酸)を0.1ml加えてから、吸光度の自動計測装置を用いて450nmにおける吸光度を計測した。
(8)4B4抗体希釈液を添加したウエルは、高い吸光度(2.811)を示したので、4B4抗体は、菌体の表面に存在する抗原に結合することがわかった。
【0038】
(II)4B4抗体が認識する抗原のイムノブロッテイングによる解析
下記手順により、4B4抗体が認識する菌体抗原の分子量を調べた。
(1)免疫抗原(C. jejuni(Lior血清型7)の臨床分離株を使って調製した菌体抽出抗原)にSDS−PAGEサンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl pH6.8,2% SDS,1% 2−メルカプトエタノール,10%グリセロール,0.01%ブロモフェノールブルー)を4倍量加えたものを100℃3分間加熱して、SDS−PAGEサンプルとした。
(2)上記サンプルについて、2枚のゲル(15%分離ゲル)を使ってSDS−PAGEを実施し、1枚をPVDFメンブレンに転写し、残りの1枚をCoomassie染色した。
(3)転写後のメンブレンは0.1% Tween20を含むトリス塩酸緩衝食塩水(タカラバイオ)で洗浄後、ブロックエース(雪印)を使ってブロッキングした。
(4)洗浄後のメンブレンに、4B4抗体希釈液(精製4B4抗体を、0.1% Tween20を含むトリス塩酸緩衝食塩水で0.02mg/mlに希釈したもの)で室温1時間反応させた。
(5)洗浄後のメンブレンに、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを0.1% Tween20を含むトリス塩酸緩衝食塩水で4000倍に希釈したものを、室温1時間反応させた。
(6)洗浄後のメンブレンに、酵素基質(TMB Membrane Peroxidase Substrate:フナコシ)を、室温5分間反応させた。
(7)メンブレンを大量の蒸留水で洗浄後、出現したバンドの位置を分子量マーカー(BioRad)及びCoomassie染色したゲルと比較した。その結果、4B4抗体は、分子量約15キロダルトンの菌体タンパク質を認識することが示された(図1参照)。
【実施例3】
【0039】
モノクローナル抗体4B4を用いたイムノクロマト法の感度の検討
下記手順に従って、本発明のモノクローナル抗体4B4を用いたイムノクロマト法の感度を調べた。
(I)被検菌原液の調整及びそこに含まれる菌数の測定
(1)患者から分離される頻度の高い9種類の血清型(Lior血清型1,2,4,7,11,27,28,36及び50)を含む18種類の血清型から成る18菌株と血清型別不能な5株、計23株のC. jejuniを用いた。
(2)血液寒天培地シャーレ1枚分の培養菌をリン酸緩衝食塩水(PBS)1mlに懸濁し、被検菌原液とした。
(3)被検菌原液を、PBSを用いて10段階希釈した。
(4)菌原液に含まれる菌数を算出するため、各段階希釈液の0.01mlを血液寒天培地に接種し、培養後のコロニーをカウントした。
(5)カウントしたコロニー数から菌原液に含まれる菌数を算出した。
【0040】
(II)イムノクロマト法(迅速検出法)の反応
(1)被検菌原液及びその段階希釈液に、B-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(PIRCE, Rockford, IL)を等量添加した。
(2)ボルテックスで1分間攪拌した。
(3)15000rpmで5℃、5分間遠心し、その上清を被検液とした。
(4)96ウエルマイクロプレートのウエル内で、被検液0.03mlと金コロイド標識4B4抗体希釈液(−20℃保存した金コロイド標識4B4抗体溶液を1.0% BSA、2% TritonX100を含む0.1M トリス塩酸緩衝液 pH10.5で10倍希釈したもの)0.03mlを混合した。
(5)そのウエル内の混合液の中に、抗体固相化メンブレンの先端を浸漬した。
(6)15分後、明瞭なバンドが認められた場合、陽性とした。
(7)陽性反応が認められた最終希釈菌液に含まれる菌数(最小検出菌数)を、菌原液に含まれる菌数を最終希釈液の希釈倍数で割ることにより算出した。
【表1】

【0041】
この実験により、モノクローナル抗体4B4を用いたイムノクロマト法において試験したすべての血清型を検出できることがわかった。モノクローナル抗体4B4を用いたイムノクロマト法の検出感度は、菌の血清型により異なるが、1.8〜10〜8.2x10CFU/mlの範囲であった。
【実施例4】
【0042】
モノクローナル抗体4B4を用いたイムノクロマト法の特異性の検討
本発明のモノクローナル抗体4B4を用いたイムノクロマト法の特異性について、下記手順により調べた。
(I)被検菌原液の調整及びそこに含まれる菌数の測定
(1)カンピロバクター属の5菌種(計8株)とカンピロバクター属以外の26菌種(計26株)を用いた。
(2)寒天培地シャーレ1枚分の培養菌をリン酸緩衝食塩水(PBS)1mlに懸濁し、被検菌原液とした。
(3)被検菌原液を、PBSを用いて段階希釈した。
(4)菌原液に含まれる菌数を算出するため、各段階希釈液の0.01mlを寒天培地に接種し、培養後のコロニーをカウントした。
(5)カウントしたコロニー数から菌原液に含まれる菌数を算出した。
【0043】
(II)イムノクロマト法(迅速検出法)の反応
(1)被検菌原液及びその段階希釈液に、B-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(PIRCE, Rockford, IL)を等量添加した。
(2)ボルテックスで1分間攪拌した。
(3)15000rpmで5℃、5分間遠心し、その上清を被検液とした。
(4)96ウエルマイクロプレートのウエル内で、被検液0.03mlと金コロイド標識4B4抗体希釈液(−20℃保存した金コロイド標識4B4抗体溶液を1.0% BSA、2% TritonX100を含む0.1M トリス塩酸緩衝液 pH 10.5で10倍希釈したもの)0.03mlを混合した。
(注)カンピロバクター属以外の26菌種については、菌原液から調製された被検液でのみイムノクロマト法を実施した。
(5)そのウエル内の混合液の中に、抗体固相化メンブレンの先端を浸漬した。
(6)15分後、明瞭なバンドが認められた場合、陽性とした。
(7)陽性反応が認められた最終希釈菌液に含まれる菌数(最小検出菌数)を、菌原液に含まれる菌数を最終希釈液の希釈倍数で割ることにより算出した。
【表2】

【表3】

(注)カンピロバクター属以外の26菌種については、テストされた被検菌原液に含まれる菌数は全て>1.0×10/mlであった。
【0044】
モノクローナル抗体4B4抗体は、試験したカンピロバクター属の5菌種のうち3菌種と反応したが、カンピロバクター属以外の細菌とは反応しなかった。表1〜表3の結果をあわせると、モノクローナル抗体4B4を用いた場合、カンピロバクター腸炎患者から分離される頻度が非常に高いC. jejuniのみならず、患者から分離される頻度はC. jejuniほど高くないがカンピロバクター腸炎の原因菌であるC. coliについてもC. jejuniと同程度の検出感度で検出できることがわかった。また、その発生は希であるが、ヒト腸炎との関連が報告されているC. lariおよびC. upsaliensisについても、C. jejuni、と同程度の検出感度で検出できることもわかった。したがって、モノクローナル抗体4B4はカンピロバクター属の細菌に対して特異性が高く、またヒト腸炎の原因となる広範なカンピロバクター属の菌種(広範な血清型)を検出できるので、カンピロバクター腸炎の診断を、漏れなく正確に行うのに好適なものであることがわかった。
【0045】
なお、本明細書に記載した実施例における寒天培地上での細菌の培養は以下のようにして行った。
C. jejuni, C. coli, C. lariは、血液寒天培地(Blood Agar Base No.2 [Oxoid Ltd., Basingstoke, United Kingdom] に無菌馬脱繊血を7%の割合で加えたもの)上において、42℃、微好気下(アネロパック微好気、三菱ガス化学製を使用)で培養した。Campylobacter fetus subsp. fetus, Campylobacter fetus subsp. venerealis, C. upsaliensisi, Arcobacter butzleri, Arcobacter skirrowii, Helicobacter pyloriは、血液寒天培地上において、37℃、微好気下で培養した。Arcobacter cryaerophilusは、血液寒天培地上において、30℃で、微好気下で培養した。その他の菌種は、brain heart infusion寒天培地(brain heart infusion[Becton Dickinson Microbiology Systems, Sparks, MD.]にBacto agar[Becton Dickinson]を1.5%の割合で加えたもの)上において、37℃で培養した。他の細菌の培養については常法により行った。
【実施例5】
【0046】
ヒト糞便からのカンピロバクターの検出
先ず、タンパク質抽出剤(B-PER II Bacterial Protein Extraction Reagent(PIERCE)、50%)を含有する水に患者大便試料を懸濁して乳剤を得た。この操作により、試料中にカンピロバクターが存在する場合には、カンピロバクター菌体表面の4B4抗原タンパク質が遊離される。乳剤を遠心分離して菌体を沈降させて上清を得た。上清中に4B4抗原タンパク質の大部分が存在する。上清を本発明のモノクローナル抗体4B4(金コロイド標識したもの)と反応させて複合体を形成させた。このようにして得られた複合体を含む上清を、常法によりイムノクロマトにかけた。イムノクロマトの固相にも4B4抗体をバンド状に固定化しておいた(物理的吸着法により固定化)。約15分置くと、上記複合体と固相の4B4抗体との間でさらなる複合体が形成され、上記標識により検出可能となったバンドが出現した。このバンドの出現により試料中にカンピロバクターが存在すること(陽性であること)がわかった。この実験の手順の概略を図2に示す。
【0047】
本発明によれば、このような簡単な操作手順により、短時間のうちに便中のカンピロバクターの有無を判定することができる。便を採取してから乳剤の調製、遠心分離、4B4抗体との混合、イムノクロマトを含む一連の操作を行っても、通常であれば30分以内に終了し、従来の便からのカンピロバクター検出方法が最低でも2日間を要することをからすれば、大変な時間短縮となる。
【0048】
実施例で説明した実験において用いたその他の実験手法は当業者に公知のものであるか、公知の手法を当業者が容易に変更して行いうるものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、便中のカンピロバクターの迅速検出方法を提供するので、カンピロバクター検査薬、検査キット等の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、4B4モノクローナル抗体の認識抗原の同定のためのSDS−PAGEおよびイムノブロッテイングの結果を示す図である。一番左側は分子量(単位キロダルトン)、レ−ン1はSDS−PAGEゲルのCoomassie染色の結果、レ−ン2はそれの4B4抗体によるイムノブロッテイングの結果を示す。
【図2】図2は、4B4モノクローナル抗体を用いた、ヒト糞便からのカンピロバクターの検出実験手順の概略を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクローナル抗体4B4と便試料とを接触させることを特徴とする、便中のカンピロバクターの検出方法。
【請求項2】
(a)検出可能な標識を付したモノクローナル抗体4B4を便試料と反応させて複合体を形成させること、次いで、
(b)(a)で得られた複合体を、固相上に固定化されたモノクローナル抗体4B4と反応させて、形成されたさらなる複合体を該標識を用いて検出すること
を特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(b)がイムノクロマトグラフィー法またはELISA法を用いて行われる請求項2記載の方法。
【請求項4】
モノクローナル抗体4B4と便試料とを接触させる前に、便試料を界面活性剤で処理する工程を含む請求項1ないし3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
モノクローナル抗体4B4を必須構成成分として含む、便中のカンピロバクターを検出するためのキット。
【請求項6】
イムノクロマトグラフィー法またはELISA法を用いるものである請求項5記載のキット。
【請求項7】
便試料がヒトから得られたものである請求項1ないし4のいずれか1項記載の方法、あるいは請求項5または6記載のキット。
【請求項8】
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受領番号FERM AP−21368を付与されたハイブリドーマ。
【請求項9】
請求項8記載のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体4B4。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−77658(P2009−77658A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249616(P2007−249616)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】