説明

便座装置

【課題】上枠体の厚さを薄くした場合であっても、構造の複雑化を防止し、生産性の低下及び便座の質量の増大を招くことなく、便座全体の十分な強度を確保することができる暖房便座及びこれを備えた便座装置の提供。
【解決手段】本発明の暖房便座は、用便用の開口部を有する便器上に配置されて使用される便座装置に備えられる暖房便座であって、便器の開口部の縁に沿うように当該開口部上に載置される環状の下枠体と、下枠体の上方に載置され使用者が着座する着座面を有する環状の上枠体と、上枠体の着座面の裏面に電気的に絶縁された状態で配置され着座面を加熱する便座ヒータと、下枠体と便座ヒータとの間に形成される隙間のうちの少なくとも一部に配置されており圧縮空気が封入された空気袋と、を少なくとも有する。また、本発明の便座装置は、上記暖房便座を少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
便器上面に設置され人体の局部を洗浄する便座装置の分野においては、使用者に不快感を与えないようにするために、例えば、洗浄用のシャワーを適切な温度に調整する加熱手段と、使用者が着座する便座の温度を適切な温度に調整する便座ヒータと、その温度を制御する温度制御手段とを有する装置が知られている。
【0003】
この便座装置としては、便座部分が自動又は手動で開閉できるよう、上述の加熱手段、温度制御手段等を搭載した本体部が便器の後方に配置されており、この本体部に対して便座ヒータの搭載された便座(暖房便座)が回動自在に軸支されている構成が知られている。
【0004】
このような機能を有する便座装置によれば、使用者は冬場等の気温が低い場合においても不快に感じることなく便座に着座することができる。
【0005】
便座装置の便座は、断面略アーチ状の着座面を有する上枠体と、当該上枠体と便器との間に配置される下枠体とを組み合わせた構成が一般に広く普及している。
【0006】
また、上枠体の裏面には便座ヒータが備えられており、この便座ヒータに通電することにより、便座ヒータの熱が着座面に伝わり暖房効果が得られる構造となっている。
【0007】
特に近年、便座装置は、効率の良い暖房を行うために、使用者が使うときだけ短時間で暖房効果を得られるように様々な提案がなされている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0008】
具体的には、図7を用いて説明するように、上枠体の裏側の便座ヒータから着座面への熱移動(熱伝達)を迅速にし、短時間で暖房効果を得ることを意図して、以下の構成が提案されている。ここで、図7は、下記特許文献1に記載の従来の便座装置の便座部分の構成を示す断面図を示す。
【0009】
特許文献1記載の暖房便座(便座装置)においては、図7(特許文献1の図2に相当する図面)に示すように、座部の肉厚を従来よりも薄くして熱容量を下げても十分に着座における人体の荷重に耐えることを可能とすることを意図して、基台1(下枠体)の上部に断面円弧状をした座部2(上枠体)を配設して基台1(下枠体)の上面と断面円弧状をした座部2(上枠体)の裏面との間に空間3を形成し、基台1(下枠体)に座部2(上枠体)裏面を部分的に保持するための保持部5を設ける構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−299645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の便座装置では、省エネルギー性の向上を意図して、十分な熱伝導性を得るために上枠体の厚さを薄くしても、便座全体として所定の強度を保つための構造(特許文献1記載の暖房便座におけるように下枠体に保持部を設ける等の構造)を採
用していたため、以下の課題があり未だ改善の余地があった。すなわち、便座全体として十分な強度を保つため構造が複雑化して、生産性の低下を招き、当該構造を付加するため便座全体としての質量の増大も招いていた。
【0012】
特に、便座全体としての質量が増加した場合、便座が自動開閉する構成の場合には自動開閉の動力源となるモータへの負荷が増大し、モータの寿命が短くなったり、モータへの負荷の増大に対応するために高出力のモータを搭載すると、かえって省エネルギー性を低下させたりする場合があった。
【0013】
また、便座が手動開閉する構成の場合にも、便座の開閉動作の際にブレーキとして働くダンパへの負荷が増大しダンパの寿命が短くなったり、モータへの負荷の増大に対応するために耐久性の高いダンパを搭載するとかえって高コスト化を招いたりする場合があった。
【0014】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、上枠体の厚さを薄くした場合であっても、構造の複雑化を防止し、生産性の低下及び便座の質量の増大を招くことなく、便座全体の十分な強度を確保することができる暖房便座及びこれを備えた便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、
用便用の開口部を有する便器上に配置されて使用される便座装置に備えられる暖房便座であって、
便器の開口部の縁に沿うように当該開口部上に載置される環状の下枠体と、
下枠体の上方に載置され、使用者が着座する着座面を有する環状の上枠体と、
上枠体の着座面の裏面に当該上枠体に対して電気的に絶縁された状態で配置され、着座面を加熱する便座ヒータと、
下枠体と便座ヒータとの間に形成される隙間のうちの少なくとも一部に配置されており、圧縮空気が封入された空気袋と、
を少なくとも有する、暖房便座を提供するものである。
【0016】
上述のように、本発明の暖房便座では、下枠体と便座ヒータとの間に形成される隙間のうちの少なくとも一部に、圧縮空気が封入された空気袋を設けられている。この構成により、上枠体の厚さを薄くした場合であっても、下枠体に上枠体の裏面を保持するための保持部を設ける必要がなくなるため、構造の複雑化、生産性の低下、及び、便座の質量の増大を防止することができる。
【0017】
特に本発明の暖房便座では、上枠体の厚さを薄くした場合において、上枠体の裏面を保持するための保持部として、圧縮空気が封入された空気袋を採用しているため、下枠体に上枠体の裏面を保持するための保持部を設ける構成よりも、暖房便座全体の質量を低減することができる。
【0018】
さらに、本発明の暖房便座では、使用者が着座した場合、空気袋が上枠体の内部から当該上枠体の変形を十分低減するように働くため、先に述べた特許文献1に記載の便座装置に比べ、上枠体は厚さを薄くできる。このため、便座ヒータからの熱伝導が速くなり着座面を効率良く昇温することができる。
【0019】
ここで本発明の暖房便座においては、空気袋に封入する圧縮空気の圧力は、上枠体の材質や厚さの選定に応じて設定することが容易となる。
【0020】
さらに、本発明の暖房便座では、上枠体の弾性限度内の変形であれば、空気袋内の空気の圧縮による弾性と組み合わせて着座面にクッション性を付加することができる。これにより、着座感が向上し、本発明の暖房便座を備える便座装置の使用を快適にすることができる。
【0021】
また、本発明の暖房便座では、下枠体と便座ヒータとの間に形成される隙間のうちの少なくとも一部に空気袋を設けることで、下枠体と便座ヒータとの間に形成される隙間内での空気の対流が抑制され、便座ヒータの放熱を低減することができ、便座を効率的に暖房できる。
【0022】
さらに、本発明の暖房便座では、便座ヒータに対抗する位置に空気袋を配置することで、上枠体の裏面に配置した便座ヒータが万が一剥がれたりすることを防止でき、優れた信頼性を得ることができる。
【0023】
また、本発明の暖房便座においては、便座全体としての質量を低減することができる。このため、便座が自動開閉する構成の場合においては、自動開閉の動力源となるモータへの負荷が低減し、モータの寿命が長くなる。また、高出力のモータを使用する必要がなくなり、省エネルギー性が向上する。
【0024】
また、本発明は、
上記構成を有する暖房便座と、
暖房便座の着座面の温度を検出する温度検知手段と、
暖房便座の便座ヒータと、温度検知手段とに接続されており、温度検知手段で検知される着座面の温度に基づいて便座ヒータの加熱量を制御する制御部と、
を少なくとも有している、便座装置を提供するものである。
【0025】
本発明の便座装置は、先に述べる本発明の暖房便座を備えているため、先に述べた本発明の暖房便座と同様の効果を奏することができる便座装置を提供することができる。
【0026】
また、便座温度検出手段として、例えばサーミスタを使用し、当該サーミスタを上枠体の裏面に配置した場合においても、上述の便座ヒータと同様に、空気袋により、サーミスタが浮いたり離れたりすることを防止できる。このため、便座温度検出手段により便座温度を確実に検知し、制御部により便座温度を正確に制御することができ、優れた信頼性を得ることができる。
【0027】
なお、空気袋の配置位置は、着座面における荷重分布を予め調査しておき、当該荷重分布のうちの荷重がもっともかかる部分に、空気袋を選択的に設けることが好ましく、また下枠体と便座ヒータとの間に形成される隙間全体に空気袋を設けることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、暖房便座の上枠体が構成材料として金属を含むことが好ましい。
【0029】
これにより、着座面への厚さ方向への熱伝導はもちろん、面方向への熱拡散も早くなるため、着座面の温度ムラを十分に低減して略均一に加熱することができる。これにより、着座面に対して、アルミ箔などの均熱シートを設けることも省略できる。
【0030】
また、この場合、上枠体が金属を含む構成材料で構成されているため、上枠体の厚さを薄くした場合に、上枠体に不用意に鋭利なものが当たったとしても、樹脂製の上枠体に比べて硬度が高いので容易に傷付いたり、割れたりすることを十分に防止することができる。
【0031】
さらに、この場合、上枠体内部の便座ヒータの絶縁被覆及び空気袋を良好に保護することができ、空気袋が傷付いて圧縮空気が漏れることを防止することができる。
【0032】
また、この場合、上枠体の厚さを薄くすることが容易にできるため、上枠体を構成する金属は、特殊な金属でなくてもよく、汎用性の高い安価な鋼板などを採用することができる。これにより、便座装置の低コスト化を実現することができる。
【0033】
さらに、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、便座ヒータは、粘着層を有する粘着シートと、ジュール熱により発熱する発熱線と当該発熱線の外側面を覆う絶縁層とを含んでおり、上枠体の裏面と粘着シートとの間に屈曲蛇行する状態で配設される便座ヒータ線と、を少なくとも有している、ことが好ましい。
【0034】
これにより、便座ヒータ線自身の電熱ロス及び熱容量を小さくでき、通電初期に急峻な温度上昇が行える。
【0035】
また、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、便座ヒータ線の絶縁層が、発熱線の外側面にエナメル線用ワニスを焼き付けることにより形成されたエナメル層と、エナメル層の外側面を覆うフッ素樹脂層と、を有する二層構造とされている、ことが好ましい。
【0036】
上述のように、便座ヒータ線の絶縁層が、エナメル層を有することにより、便座ヒータ線の絶縁層を薄くした場合においても、十分な電気絶縁性と耐熱性を有することができる。また、便座ヒータ線の絶縁層が、エナメル層の外側面を覆うフッ素樹脂層を有することにより、便座ヒータ線を繰り返し屈曲して配線する便座ヒータの製造工程において、絶縁性及び耐電圧の性能の劣化の原因となる傷を防止しつつ円滑な配線が可能となる。
【0037】
したがって、便座ヒータの絶縁被覆を薄くしても、確実に便座ヒータの絶縁性能を維持できる。このため、便座ヒータ自体の熱容量を小さく、絶縁層の耐熱温度を高くすることができる。よって、便座ヒータの出力を大きくした場合においても、十分な温度勾配を得ることができ、発熱線の熱が迅速に上枠体に伝え、極めて短時間で便座を均一に加熱することができる。
【0038】
さらに、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、便座ヒータ線において、発熱線が高抗張力銅合金からなり、発熱線と絶縁層とをあわせた部分の直径が0.3mm〜0.5mmである、ことが好ましい。
【0039】
ここで、便座ヒータ線の直径が0.3mm以上であると、便座ヒータ線の電気抵抗を十分に低減することが容易にできて好ましい。便座ヒータ線の電気抵抗を低減できれば、便座ヒータ線の全長を長くすることが容易にでき、着座面に便座ヒータ線の配線間隔を密にした状態で配設することが容易にできる。これにより、着座面を加熱した場合の着座面における温度分布のバラツキ(ムラ)を容易に低減することができるようになる。
【0040】
また、便座ヒータ線の直径が0.5mm以下であると、便座ヒータ線の熱容量を十分に低減することが容易にできて好ましい。便座ヒータ線の熱容量を低減できれば、着座面を加熱する際、加熱開始から設定温度までの温度上昇を迅速に行うことが容易にできるようになる。
【0041】
すなわち、絶縁層を含んだ便座ヒータ線の直径を0.3mm〜0.5mmにすることで、便座ヒータ自体の熱容量が小さくなり、便座ヒータ線の熱が迅速に上枠体に伝達される
ため、短時間かつ略均一に着座面を昇温することが容易にできるようになる。
【0042】
また、例えば、便座ヒータ線を着座面(市販品の便座装置の暖房便座の着座面と同程度の面積を有する着座面)のほぼ全域に5mm間隔で屈曲蛇行させた状態で配線する場合、便座ヒータ線の全長は約10mとなる。そのため、便座ヒータ線のうちの発熱線は、溶融温度及び強度が十分高く、電気抵抗が低い構成材料から形成されていることが好ましい。この観点から、発熱線の構成材料としては、銅合金が好ましく挙げられ、高張力銅合金がより好ましくあげられる。更には、発熱線が高張力銅合金からなることが好ましい。
【0043】
銅合金を材料とする発熱線の線径は、例えば、上記の便座ヒータ線の全長から計算すると約0.2mmとなる。
【0044】
エナメル層とフッ素樹脂層との二層構成で十分な絶縁性や耐電圧を満足する観点から、エナメル層とフッ素樹脂層で構成される絶縁層の厚さは、0.05mm〜0.15mmであることが好ましい。
【0045】
上述の発熱線の線径の好ましい範囲と絶縁層の厚さの好ましい範囲とを同時に満たした上で、便座ヒータ線の線径(直径)が発熱線と絶縁層とをあわせて0.3mm〜0.5mmとなっていることがより好ましい。
【0046】
上記構成とすることで、便座ヒータ線の絶縁層の溶融温度を十分に高くすることが容易にでき、短時間に大きな電力で通電して着座面を加熱しても、絶縁層は、発熱線の温度上昇に耐えることが容易にできるようになる。
【0047】
また、先に述べたように、発熱線の構成材料に高抗張力銅合金を採用する場合、便座ヒータ線の線径をより確実に細くでき、熱容量の小さい便座ヒータ線をより容易に実現することができる。このため、着座面を加熱する際の加熱開始時(通電初期)における温度上昇の急峻な応答性をより確実に実現することができる。
【0048】
さらに、発熱線の構成材料に高抗張力銅合金を採用することで、その強度を容易に大きくすることができる。このため、便座ヒータを上枠体の裏面に配設する配線工程において、便座ヒータ線に張力が加わり、便座ヒータ線が伸び、断面積が変化することをより確実に防止することができる。したがって、抵抗値の変化が十分に低減された信頼性の高い便座ヒータを備えた暖房便座をより容易に製造することができるようになる。
【0049】
なお、便座ヒータ線の構成としては、発熱線は単線でなくてもよく、例えばエナメル線などの単線を互いに撚り合せ、その外側をフッ素樹脂層で覆う構成としてもよい。
【0050】
さらに、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、空気袋は、合成樹脂製シートを溶着処理又はブロー成形により形成した拡縮袋構造を有しており、少なくとも便座ヒータと接触する表面が断熱性材料で構成されていることが好ましい。
【0051】
着座面を昇温させる過程においては、便座ヒータの熱が散逸することを十分に低減し、効率良く上枠体に伝わるように、便座ヒータは、着座面以外の部分とは断熱されていることが望ましい。このため、空気袋を合成樹脂姓のシートの表面の少なくとも便座ヒータと接触する部分を断熱性材料で構成することで、便座ヒータ線の熱が効率的に上枠体に伝達されるため、短時間で着座面を昇温することができる。
【0052】
なお、空気袋の表面に凹凸を多数設け、空気袋の表面と便座ヒータとが点接触する構成としてもよく、この場合にも上記と同様の効果が期待できる。
【0053】
また、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、空気袋は、上枠体に荷重が加わらない状態において、上枠体の裏面の略中央部付近で便座ヒータと接触し、上枠体の裏面の略中央から内縁へ向かって便座ヒータと接触せずに隙間が開くように配置され、かつ、上枠体の裏面の略中央から外縁に向かって便座ヒータと接触せずに隙間が開くように配置されている、ことが好ましい。
【0054】
これにより、使用者が着座するまでの着座面の昇温過程において、便座ヒータの熱が空気袋に伝わることを十分に防止しつつ、上枠体の裏面の略中央付近へ選択的に伝わるようにすることができる。このため、便座の温度を略均一に上昇させることができ、着座面の温度分布の状態の温度のバラつきを十分に低減した良好な状態にすることができる。
【0055】
さらに、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、空気袋には、その内部への空気の供給のための凸筒状のノズル部が設けられており、ノズル部の先端が当該空気袋に圧縮空気が供給された後に封止されている、ことが好ましい。
【0056】
便座装置を製造する過程において、空気袋に設けられた筒状の凸部開口から空気袋内へ、所定の空気圧になるように空気を供給した後、筒状の凸部開口を容易に封止することができるため、圧縮空気の密閉が容易にできる。なお、封止する方法としては加熱溶着や金具などで挟み込む方法などが考えられるが、いずれの方式も信頼性が良く確実で容易に空気を密閉できる。したがって、便座装置の製造工程における空気袋内への空気の供給及び当該空気袋の密封を容易に行うことができ、生産性が向上する。
【0057】
また、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、空気袋には、その内部への空気の供給とその内部からの空気の排出とを可能にする開閉弁を備えたノズル部が設けられている、ことが好ましい。
【0058】
これにより、便座装置を製造する過程においては、空気袋は空気の入っていない体積の小さい状態で組立工程に供給できる。このため、便座装置を製造する過程において、空気袋は場所をとらず、空気袋単体での流通コストを低減することができ、経済的である。また、便座装置を組み込む場合においては、空気袋を組み込む直前に所定の空気圧になるように空気を入れれば良いので生産性が向上する。
【0059】
また、空気袋に開閉弁を設けることにより、空気袋の再利用が容易にでき、経済的である。さらに、空気袋の再利用ができるので、環境にも良くなる。
【0060】
なお、開閉弁を電磁弁で構成し、空気の給排手段をポンプで構成しても良い。これにより、電磁弁及びポンプにより、空気の給排気がコントロールできるので、便座装置を使用する直前に空気を所定の圧力になるように補充することが可能となる。
【0061】
また、便座の昇温時開始時には、便座ヒータと空気袋を非接触状態にすることで便座ヒータの熱が上枠体に効率的に伝導し、着座面の温度の立ち上がりを早くすることができる。
【0062】
さらに、着座面が冷たく感じない温度以上に上昇した着座の直前に、空気袋と便座ヒータとが接触する状態になるように圧縮空気を供給することで、急峻に便座温度を立ち上げても、空気袋の接触により空気袋側に温度が伝達されて便座温度のオーバーシュートを防止する温度コントロールができる。このため、着座面の温度が、必要以上に上がりすぎることを防止することができる。
【0063】
また、空気袋の開閉弁を、便座装置の空洞内部と外側とを連通する開口部に面する位置に設けることにより、空気袋への空気の供給や排出が便座装置の外側からできる。このため、空気袋の空気圧が下がった場合でも、容易に空気袋に空気を補充することができる。したがって、便座装置を長期間使用した場合においても、上枠体の強度を維持することができる。
【0064】
便座装置の開口部は専用に設けても良いが、便座装置の本体と連結するヒンジ部や便器に当接する下枠体の脚部などに設けても良い。ヒンジ部に設けた場合には、空気袋に空気を供給するポンプを便座装置の本体内に設けてホース等で連結できるので、ホースが外部に露出することがなく好ましい。また、下枠体の脚部に設けた場合には、便座装置に専用の開口部を設ける必要がなくなり、下枠体の脚部により、開口部に蓋をすることができる。
【0065】
さらに、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、上枠体は、厚さが0.2mm〜1mmであるアルミ合金板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されている、ことが好ましい。
【0066】
上述のように、上枠体が、0.2mm以上であるアルミ合金板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されていることで、優れた取り扱い性を得ることができ、かつ、十分な強度を得ることが容易にできるようになる。
【0067】
また、上枠体が、1.0mm以下であるアルミ合金板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されていることで、合成樹脂のみで形成された上枠体と同じ重量とすることができ、便座装置に樹脂を採用した場合と同様に便座装置の重量を軽くすることが容易にできるようになる。
【0068】
さらに、上枠体にアルミ合金板を採用することで、十分な昇温性能を得ることができる。
【0069】
また、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、上枠体は、厚さが0.2mm〜0.4mmである金属板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されている、ことが好ましい。
【0070】
上述のように、上枠体が、0.2mm以上である金属板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されていることで、優れた取り扱い性を得ることができ、かつ、十分な強度を得ることが容易にできるようになる。
【0071】
さらに、上枠体が、0.4mm以下である金属板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されていることで、合成樹脂のみで形成された上枠体と同じ質量とすることができ、便座装置に合成樹脂製の暖房便座を採用した場合と同程度の軽い便座装置を容易に構成することができるようになる。
【0072】
また、上枠体に金属板を採用することで、十分な昇温性能を得ることが容易にできるようになる。
【0073】
さらに、本発明の暖房便座及び本発明の便座装置においては、上枠体の着座面の少なくとも人体が触れる領域には、合成樹脂層がコーティングされており、上枠体と下枠体との接合部は、上枠体及び下枠体の側面に設けられている、ことが好ましい。
【0074】
これにより、人体の皮膚が触れる部分は少なくとも金属を含む構成材料で構成すること
ができ、かつ、人体の皮膚が触れない部分は良断熱性の樹脂で構成できる。このため、短時間に加熱が必要となる便座の着座面の熱容量を最小限にすることができ、昇温速度の高速化が図れるとともに、さびを防止することができる。
【0075】
また、上枠体と下枠体との接合部は、上枠体及び下枠体の側面に設けられていることにより、使用者から接合部が見えにくくなり、美観が向上する。
【0076】
さらに、上枠体の着座面の少なくとも人体が触れる領域には、合成樹脂層がコーティングされているため、絶縁性が向上する。
【発明の効果】
【0077】
本発明の暖房便座及びこの暖房便座を有する便座装置は、上枠体の厚さを薄くした場合であっても、構造の複雑化を防止し、生産性の低下及び質量の増大を招くことなく、便座全体の十分な強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の便座装置の第1実施形態の外観斜視図
【図2】本発明の暖房便座の第1実施形態の外観斜視図
【図3】本発明の暖房便座の第1実施形態の断面構成図(図2におけるA−A断面)
【図4】本発明の暖房便座の第1実施形態の分解構成図
【図5】本発明の暖房便座の第1実施形態に搭載される便座ヒータの外観図
【図6】本発明の暖房便座の第1実施形態に搭載される便座ヒータの断面構成図
【図7】従来の便座装置の便座部分の構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下、図面を参照しながら本発明の便座装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号付し、重複する説明は省略する。また、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0080】
(第1実施形態)
図1は本発明の便座装置の第1実施形態の外観斜視図、図2は本発明の暖房便座の第1実施形態の外観斜視図、図3は本発明の暖房便座の第1実施形態の断面構成図(図2におけるA−A断面)である。
【0081】
<1>第1実施形態の便座装置の構成
図1に示すように、便座装置100は、本体200、便蓋300、暖房便座400(本発明の暖房便座の第1実施形態)、リモートコントローラ500、人体検知センサ600により構成され、本体200、便蓋300、暖房便座400は一体に構成されており、便器700の上面に設置される。
【0082】
本体200には、便蓋300及び暖房便座400が便座及び便蓋回動機構(図示せず)を介して開閉可能に取り付けられている。また、本体200には、図示しない洗浄水供給機構が設けられるとともに、図示しない制御部が内蔵される。
【0083】
図1に示すように、便蓋300を開放した状態において、便蓋300は便座装置100の最後部に位置するように起立する。また、便蓋300を閉成した状態においては、便蓋300は暖房便座400の上面を隠蔽する。
【0084】
また、本体200には、洗浄水供給機構(図示せず)、熱交換器(図示せず)、洗浄ノズル201等からなる洗浄機構と、乾燥ユニット(図示せず)と、制御部(図示せず)等
が内蔵される。
【0085】
本体200の前面上部には着座センサ202が設けられている。この着座センサ202は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、着座センサ202は、人体から反射された赤外線を検出することにより暖房便座400上に使用者が存在することを検知する。
【0086】
また、洗浄水供給機構(図示せず)及び熱交換器(図示せず)は、洗浄ノズル201に接続されており、図示しない水道配管から供給される洗浄水を熱交換器(図示せず)で加熱することにより温水を洗浄ノズル201に供給し、洗浄ノズル201から使用者の局部に向けて洗浄水を噴出し、使用者の局部を洗浄するものである。洗浄ノズル201は、お尻を洗浄するお尻洗浄ノズル部(図示せず)と女性の局部を洗浄するビデノズル部(図示せず)とを備えている。なお、洗浄機構と乾燥ユニット(図示せず)は、便座装置の必須構成要素ではなく、これらの構成要素を具備しない便座装置でもよい。
【0087】
リモートコントローラ500には、複数の操作スイッチが設けられている。リモートコントローラ500は、暖房便座400上に着座した使用者が操作可能なトイレルームの壁面等の場所に取り付けられ、便座装置100の各機能の操作を行う。
【0088】
人体検知センサ600は、トイレルームの壁面等に取り付けられる。人体検知センサ600は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、人体検知センサ600は、人体から反射された赤外線を検出した場合にトイレットルーム内に使用者が入室したことを検知する。
【0089】
本体200の制御部(図示せず)は、リモートコントローラ500、人体検知センサ600及び着座センサ202から送信される信号に基づいて、便座装置100の各部の動作を制御する。
【0090】
本発明の便座装置100においては、トイレルームに使用者が存在しない場合においては、便座ヒータへの通電を停止し、着座面の加熱を停止する。なお、冬季などトイレルーム内の温度が下がる場合においては、着座面の温度が10℃程度を下回らないように低温で保温している。トイレルームに使用者が入室すると、人体検知センサ600からの信号を受け、着座面の加熱を行うために、便座ヒータに通電を行う。便座ヒータは1200W程度の非常に高出力のヒータであり、使用者がトイレルームに入出してから便座に着座するまでの6秒〜10秒程度の間に、便座着座面を40℃程度の適温に温める。着座面の温度が適温に達した後は、便座ヒータへの通電を50W程度の低ワットに下げ、適温を保つ。使用者がトイレ室内から出ると、便座ヒータへの通電を停止し、着座面の加熱を停止する。なお、この場合においても、トイレルーム内の温度が低くなる冬季などにおいては、着座面の温度が10℃程度を下回らないよう低温で保温を行う。上述のように、トイレルーム内の使用者の有無及びトイレルーム内の温度に基づいて、便座ヒータへの通電を制御することにより、トイレルームに使用者がいないときの電力を大幅に削減することができる。
【0091】
<2>暖房便座400(本発明の暖房便座の第1実施形態)の構成
図2は本発明の暖房便座の第1実施形態の外観斜視図、図3は本発明の暖房便座の第1実施形態の断面構成図、図4は本発明の暖房便座の第1実施形態の分解構成図、図6は本発明の暖房便座の第1実施形態に搭載される便座ヒータの断面構成図である。
【0092】
図2及び図3に示すように、暖房便座400は、主としてアルミニウム合金の板材から形成された略楕円形状の環状の着座面を有する上枠体410と、上枠体410の裏面に粘
着した略馬蹄形状の便座ヒータ450と、内部に圧縮空気を密封した空気袋700と、合成樹脂により形成された略楕円形状の環状の下枠体420とを主構成部品として構成されている。
【0093】
図6に示すように、上枠体410は、アルミニウム合金板413を主として含む構成を有する。このアルミニウム合金板413は、例えば厚さ0.6mmで形成されている。
【0094】
アルミニウム合金板413の上面には、アルマイト層412及び表面化粧層411が形成されている。表面化粧層411の上面が着座面410Uとなる。また、アルミニウム板413の下面には、塗装膜414が形成される。塗装膜414は、例えば膜厚40μmで、かつ、150℃の耐熱性を有するポリエステル粉体塗装膜である。塗装膜414は後述する金属層451とアルミニウム板413との電気的な絶縁を行う機能も有する。
【0095】
なお、アルミニウム合金板の代わりに銅合金など熱伝導の良い他の金属や、安価に入手できるプレコート鋼板などを使用しても良いし組み合わせても良い。
【0096】
上枠体410は、アルミニウム合金板をプレス加工等により成形し、表面及び裏面には絶縁性と耐熱性を有するポリエステル粉体塗装膜が形成されている。ピンホールの生じにくい粉体塗装を採用することで、絶縁性能をより向上することができる。
【0097】
下枠体420は樹脂材料からなり、平面形状が上枠体410と略同形状に成形されている。上枠体410と下部の下枠体420は内周部及び外周部で接合し、接合部には水密手段が施されている。
【0098】
上枠体410と下枠体420の接合部は暖房便座400の側面に設けてあるので、着座して人体の皮膚の触れる最小限の範囲は金属を含む材料で上枠体410を構成し、皮膚が触れない範囲を樹脂製の下枠体420で構成することで上枠体410の熱容量を十分に低減することができる。これにより、着座面を加熱する際、加熱開始から設定温度までの着座面の温度上昇を迅速に行うことが容易にできるようになる。
【0099】
図2に示すように、上枠体410の裏面には便座ヒータ450を貼着し、下枠体420を結合した暖房便座400は、後部に腕部422を備えている。この腕部422を本体200の便座便蓋回動機構(図示せず)に結合することにより、回動自在に枢支されている。
【0100】
図3に示すように、空気袋700は、上枠体410の座面裏側に貼着した便座ヒータ450に面して一部接触して配置している。使用者が上枠体410に着座して、上枠体410に荷重が加わった場合において、上枠体410は、圧縮空気が密封された空気袋470により補強されているため、上枠体410の変形を十分低減することができる。
【0101】
図4に示すように、空気袋700には圧縮空気を給排気するためのノズル部700aが凸筒状に設けられている。
【0102】
空気袋700は、合成樹脂製のシートを溶着することで袋状の空気袋としたものである。合成樹脂としては、ウレタンやポリエチレン等の発泡体等が好ましくあげられる。これらを用いることによって、合成樹脂製のシートに、優れた断熱性を付与することできる。
【0103】
空気袋700の製造過程においては、ノズル部700aから空気袋700の内部に圧縮空気を供給した後、凸筒状のノズル部700aを溶着にて封止する。なお、空気袋700の袋構造については溶着に限らず、ブロー成形により立体的した膨縮袋構造でも良い。ま
た、便座ヒータ450と接する表面は断熱性を有することが好ましく、空気袋700と便座ヒータ450との接触面積を減らすために凹凸を設けても良い。
【0104】
上枠体410に荷重が加わった場合、内周縁及び外周縁は変形しにくく、中央部が撓みやすい。このため、使用者が着座しない状態では、空気袋700は上枠体410の略中央部付近で接触し、上枠体410の内周及び外周に向かっては隙間を設けても良い。これにより便座ヒータ450は、上枠体410の内周付近及び外周付近では、空気袋700と接触しないので、熱が散逸せず上枠体410に有効に伝わる。
【0105】
上枠体410の内周縁及び外周縁に下枠体420との接合部を構成しているので、上枠体410の接合部付近に対して外形を差し引いて便座ヒータ450は貼着されている。このため、便座ヒータ線の熱は、上枠体410と下枠体420との接合部付近に広がりやすく、暖房便座400の中央部付近に比べて温度上昇が遅くなる。これに対し、上述の構成では、撓みの大きくなる上枠体410の中央部付近に空気袋700を接触させ、上枠体410の変形を十分に低減しているため、着座面の温度は略均一に上昇する。これにより、使用者が着座したときの着座面における温度分布のバラツキ(ムラ)容易に低減することができるようになる。
【0106】
空気袋700のノズル部700aには開閉弁710が設けられている。これにより、空気の補充や排出が容易になる。また、空気袋700の再利用が容易になるため、経済的である。
【0107】
さらに、空気袋700に圧縮空気を充填する便座ヒータ450の製造工程においては、空気を複数回に分けて充填することも可能となり、より生産性が良くなる。
【0108】
また、便座装置に空気ポンプを設ければ、空気圧の調整が容易にできる。これにより、使用者が着座しない不使用時には、空気袋700の空気圧を低くすることで、着座面の温度上昇を迅速に行うことが容易にできる。さらに、使用者が使用する場合には、使用者が着座する直前で空気袋700の空気圧を高くし便座ヒータ450に接触させることで、着座面が設定温度に到達したあとの温度上昇(オーバーシュート)を十分に防止することができる。
【0109】
<3>本発明の暖房便座の第1実施形態の便座ヒータの構成
図5に示すように、便座ヒータ450は、前部の一部が切り取られた略馬蹄状に形成される。便座ヒータ450の基本構成は、アルミニウムからなる2枚の金属箔451、453の間に便座ヒータ線460を蛇行形状に配設したものである。
【0110】
図5に示すように、便座ヒータ線460は、金属箔の中央部SE3から金属箔一方端部SE1までの領域及び金属箔の中央部SE3から金属箔の他方端部SE2までの領域において上枠体410の形状に合わせて左右方向に蛇行する蛇行形状に配設される。便座ヒータ線460は、蛇行形状の曲げ部が上枠体410の外側の側辺及び内側の側辺の近傍に位置するように配置される。
【0111】
具体的には、便座ヒータ線460が便座ヒータ450の後部の一方側から金属箔451、453の一方端部SE1の近傍まで左右に蛇行しながら延びることにより、第1系列Aの蛇行形状が形成される。
【0112】
また、便座ヒータ線460が金属箔451、453の一方端部SE1の近傍から左右に蛇行しながら金属箔451、453の中央部SE3の近傍を経由して金属箔451、453の他方端部SE2の近傍まで延びることにより、第2系列Bの蛇行形状が形成される。
【0113】
さらに、便座ヒータ線460が金属箔451、453の他方端部SE2の近傍から金属箔451、453の中央部SE3の近傍を経由して便座ヒータ450の後部の一方側まで延びることにより、第1系列Aの蛇行形状が形成される。
【0114】
図5に示すように第1系列Aの蛇行形状の便座ヒータ線460と第2系列Bの蛇行形状の便座ヒータ線460とは略平行に配列される。第1系列A及び第2系列Bの蛇行形状の便座ヒータ線460は、ヒータ始端部460aからヒータ終端部460bまで連続している。
【0115】
便座ヒータ線460のヒータ始端部460a及びヒータ終端部460bは、接続端子を介して便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
【0116】
本例では、便座ヒータ線460は、便座ヒータ450の内側の側辺の近傍及び外側の側辺の近傍に曲げ部が位置する蛇行形状を有する。これにより、曲げ部間の間隔が短くなる。したがって、熱膨張及び熱収縮に起因する便座ヒータ線460の長さの変化を十分に低減することができる。このため、たとえ便座ヒータ線460が伸縮しても、曲げ部で伸縮による歪が吸収及び緩衝される。その結果、便座ヒータ線460の熱膨張及び熱収縮に起因するストレスを十分低減することができ、長期間の使用で便座ヒータ線460が破損することを十分に抑制することができる。
【0117】
また、便座ヒータ線460の熱的伸縮を十分に低減することができるため、金属箔451、453に対する密着性を長期間良好に維持することができる。これにより、便座ヒータ450の加温を効率的にかつ確実に行うことができる。
【0118】
さらに、曲げ部の長さ及び曲げ部間の間隔は、任意に調整することができる。これにより、便座ヒータ450の加熱分布を調整することができる。
【0119】
<4>便座ヒータの詳細な構成
次に、便座ヒータ450の詳細な構造について説明する。
【0120】
図6における本実施形態では、先に述べた上枠体410の塗装膜414の下面に粘着層452aを介して、例えばアルミニウムからなる金属層451が貼着されている。
【0121】
金属層451の膜厚は、例えば50μmである。また、粘着層452aは金属層451と塗装膜414とに対する十分な接着性を有している。粘着層452aは金属層451と塗装膜414とに対する十分な接着性を有していればその構成成分は特に限定されない。
【0122】
便座ヒータ線460は、断面円形の発熱線463a、エナメル層463b及びフッ素樹脂層462により構成される。ここで、エナメル層463b及びフッ素樹脂層462は、本発明における絶縁層の好適な一態様に相当する。断面円形の発熱線463aの外周面がエナメル層463b及びフッ素樹脂層462の順に被覆される。発熱線463a及びエナメル層463bによりエナメル線463が構成される。
【0123】
発熱線463aは、例えば0.16〜0.25mmの直径を有し、銅または銅合金からなる。本実施形態では、発熱線463aとして、直径0.176mmの4%Ag−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられる。抵抗値は0.833Ω/mである。
【0124】
エナメル層463bは、例えば180〜300℃の耐熱性を有するポリエステルイミド
(PEI)からなる。エナメル層463bの膜厚は、20μm以下であることが好ましく、12〜13μmであることが好ましい。このようなエナメル線463は、エナメル層463bの膜厚が極薄い0.01〜0.02mm程度であっても、電気用品技術基準である1000Vで1分間以上の電気絶縁耐圧性能を十分確保することができる。また、エナメル層463bの材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
【0125】
フッ素樹脂層462は、例えば260℃の耐熱性を有するペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(以下PFAと称する)等のフッ素樹脂からなる。フッ素樹脂層462の厚さは、例えば0.1〜0.15mmである。PFAからなるフッ素樹脂層462の形成は、押出し加工により行うことができる。この場合、フッ素樹脂層462の厚さが0.05〜0.1mmと薄くても、雷サージにも耐える電気絶縁耐圧性能を確保することができる。
【0126】
便座ヒータ線460の外径は、例えば0.46〜0.50mmである。便座ヒータ線460の電力密度は、例えば0.95W/cmである。
【0127】
便座ヒータ線460は、粘着層452b及び例えばアルミニウムからなる金属層453で覆うように金属層451に取り付けられる。金属層453の膜厚は、例えば50μmである。また、粘着層452bは金属層451と金属層453とに対する十分な接着性を有している。粘着層452bは金属層451と金属層453とに対する十分な接着性を有していればその構成成分は特に限定されない。
【0128】
このように、単一のエナメル線463上にフッ素樹脂層462を形成することにより二重の絶縁構造を確保することができる。
【0129】
また、フッ素樹脂層462は比較的薄くても十分な絶縁性が得られる。したがって、フッ素樹脂層462の厚さを薄くすることができる。上記の例では、便座ヒータ線460において合成樹脂を主成分として含む層(エナメル層463b及びフッ素樹脂層462)の厚さは、0.12mm程度であり、極めて薄い。この場合、発熱線463aから金属層451及び便座ケーシング410への熱伝導を極めて俊敏に行うことができる。
【0130】
ちなみに従来の便座装置においては、ヒータ線のシリコーンゴムまたは塩化ビニール等からなる被覆チューブの厚さは、上記の例の約10倍の1mm程度ある。このような被覆チューブの熱伝導速度は桁違いに遅く、便座の昇温速度を速くすることはできなかった。
【0131】
従来の便座装置において便座の昇温速度を無理やり速くするためにヒータ線に大きい電力を供給した場合、断熱状態でヒータ線の温度を高くした場合と同様に、被覆チューブが溶融及び焼損する。そのため、このような方法による便座の昇温は実用できなかった。
【0132】
一方、本実施形態のように耐熱性能に優れたエナメル線463をヒータ線として使用した場合、十分短時間で便座を昇温でき、かつ電気絶縁性及び安全性を確保できる。したがって、本実施形態の構造は、種々の便座装置に有効に実用することができる。
【0133】
また、本実施形態の構造では、合成樹脂を主成分として含む層(エナメル層463b及びフッ素樹脂層462)を0.1〜0.15mm程度の薄い厚さで形成できる。これにより、発熱線463a及び樹脂層の絶対温度が低い温度に維持された状態で、便座を急速に昇温させることができる。その結果、高価な耐熱絶縁材料でなく比較的安価な絶縁材料を用いることができる。
【0134】
さらに、本実施形態においては、便座ヒータ線460の熱を上枠体410に効率よく伝
達するために、便座ヒータ線460をアルミ箔451,452で挟んでいる。ここで、本実施形態の便座ヒータ線460においては、エナメル層463b及びフッ素樹脂層462を薄くできるので、便座ヒータ線460の外径を細く(約φ0.3〜φ0.5)できる。この場合、アルミ箔451とアルミ箔452とを貼り合わせる際に、アルミ箔451とアルミ箔452との間の空気層を小さくすることができるとともに、アルミ箔451、452のしわを少なくすることができる。これにより、エナメル線463の局所高熱が抑制され、エナメル線463の断線及び電気絶縁層(エナメル層463b及びフッ素樹脂層462)の損傷が防止される。その結果、便座装置110の長寿命化が可能になる。
【0135】
また、エナメル線463を細くできるので、便座ヒータ450の重量を低減でき、便座開閉トルクを小さくすることができる。これにより、便座開閉用の電動開閉ユニットを小型化でき、便座装置110の小型化が可能となる。
【0136】
<5>本発明の第1実施形態の便座装置の動作、作用
以上のように構成された便座装置は次のように動作する。
【0137】
非使用時において、便蓋300は閉成しており、上枠体410の略表面全体を隠蔽しており、冬季等の室温が低い場合は、制御部の制御により便座ヒータ450に通電することにより、暖房便座400が例えば約10℃となるように温度調整される。このときの温度を待機温度と称する。当然ながら夏季等で室温が高い場合には暖房便座400の温度も高くなり便座ヒータ450への通電は行わない。
【0138】
ここで、使用者がリモートコントローラ500の便座温度調整スイッチを操作することにより、便座設定温度が制御部に送信される。制御部は、リモートコントローラ500から受信した便座設定温度を記憶部に記憶する。
【0139】
使用者がトイレットルームに入室すると、人体検知センサ600が使用者の入室を検知する。これにより、使用者の入室検知信号が制御部に送信される。
【0140】
制御部は人体検知センサ600からの入室検知信号により使用者のトイレットルームへの入室を検知すると、制御部は便蓋400を開放するとともに、記憶された便座設定温度に基づいて便座ヒータ450の駆動に関する特定の便座ヒータ制御パターンを選択する。
【0141】
選択された便座ヒータ制御パターン及び計時部により得られる時間情報に基づいて便座ヒータ450の駆動を制御する。これにより、便座ヒータ450が昇温駆動され、暖房便座400の温度が便座設定温度へと瞬時に上昇される。
【0142】
便座設定温度へと瞬時に上昇させるために、便座ヒータ450の最大容量である1200W駆動は、少なくとも、暖房便座400の表面温度を使用者が着座した際に冷たいという不快を感じない最低限界の温度(以降冷感限界温度と称する)に達するまで行われる。この冷感限界温度は、発明者らの実施した被験者実験により約29℃であることがわかっている。
【0143】
一方、発明者らの実施した被験者実験では、使用者がトイレットルームに入室してから通常の着衣状態から脱衣して便座に座るまでに要する最短時間の平均値は6秒である。
【0144】
したがって、便座ヒータ450の昇温駆動を開始して冷感限界温度(29℃)に達するまでの時間を、使用者が脱衣して着座するまでの時間より短く設定することにより、使用者が便座に座った際に冷たく感じることがない快適な瞬間暖房便座を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上のように、本発明にかかる暖房便座及びこの暖房便座を使用した便座装置は、シンプルな構成で十分な便座の強度を確保して便座ボディの厚さを薄くできるので、座面の温度が低い状態からでも便座ヒータにより極め短時間に座面を昇温することができるので便座不使用時の電力消費の無駄がなく快適に使用でき省エネルギーを実現する。装置の材料使用重量も少なくできるので省資源で経済的である。便座装置に限らず急峻な加熱を必用とする熱機器への適用が可能である。
【符号の説明】
【0146】
100 便座装置
200 本体
400 暖房便座
410 上枠体
420 下枠体
450 便座ヒータ
470 空気袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用便用の開口部を有する便器上に配置されて使用される便座装置に備えられる暖房便座であって、
前記便器の前記開口部の縁に沿うように当該開口部上に載置される環状の下枠体と、
前記下枠体の上方に載置され、使用者が着座する着座面を有する環状の上枠体と、
前記上枠体の前記着座面の裏面に当該上枠体に対して電気的に絶縁された状態で配置され、前記着座面を加熱する便座ヒータと、
前記下枠体と前記便座ヒータとの間に形成される隙間のうちの少なくとも一部に配置されており、圧縮空気が封入された空気袋と、
を少なくとも有する、
暖房便座。
【請求項2】
請求項1に記載の暖房便座と、
前記暖房便座の前記着座面の温度を検出する温度検知手段と、
前記暖房便座の前記便座ヒータと、前記温度検知手段とに接続されており、前記温度検知手段で検知される前記着座面の温度に基づいて前記便座ヒータの加熱量を制御する制御部と、
を少なくとも有している、
便座装置。
【請求項3】
前記暖房便座の前記上枠体が構成材料として金属を含む、請求項2に記載の便座装置。
【請求項4】
前記便座ヒータは、
粘着層を有する粘着シートと、
ジュール熱により発熱する発熱線と当該発熱線の外側面を覆う絶縁層とを含んでおり、前記上枠体の前記裏面と前記粘着シートとの間に屈曲蛇行する状態で配設される便座ヒータ線と、
を少なくとも有している、請求項2又は3に記載の便座装置。
【請求項5】
前記便座ヒータ線の前記絶縁層が、
前記発熱線の外側面にエナメル線用ワニスを焼き付けることにより形成されたエナメル層と、
前記エナメル層の外側面を覆うフッ素樹脂層と、
を有する二層構造とされている、
請求項2〜4のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項6】
前記便座ヒータ線において、
前記発熱線が高抗張力銅合金からなり、
前記発熱線と絶縁層とをあわせた部分の直径が0.3mm〜0.5mmである、
請求項2〜5のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項7】
前記空気袋は、
合成樹脂製シートを溶着処理又はブロー成形により形成した拡縮袋構造を有しており、
少なくとも前記便座ヒータと接触する表面が断熱性材料で構成されている
請求項2〜6のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項8】
前記空気袋は、前記上枠体に荷重が加わらない状態において、前記上枠体の前記裏面の略中央部付近で前記便座ヒータと接触し、前記上枠体の前記裏面の内外周部に向かって前記便座ヒータと接触せずに隙間が開くように配置されている、
請求項2〜7のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項9】
前記空気袋には、その内部への空気の供給のための凸筒状のノズル部が設けられており、
前記ノズル部の先端が当該空気袋に圧縮空気が供給された後に封止されている、請求項2〜8のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項10】
前記空気袋には、その内部への空気の供給とその内部からの空気の排出とを可能にする開閉弁を備えたノズル部が設けられている、請求項2〜8のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項11】
前記上枠体は、厚さが0.2mm〜1mmであるアルミ合金板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されている、請求項2〜10のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項12】
前記上枠体は、厚さが0.2mm〜0.4mmである金属板をプレス加工により成形する成形工程を経て形成されている、請求項2〜10のうちの何れか1項に記載の便座装置。
【請求項13】
前記上枠体の前記着座面の少なくとも人体が触れる領域には、合成樹脂層がコーティングされており、
前記上枠体と前記下枠体との接合部は、前記上枠体及び前記下枠体の側面に設けられている、請求項2〜12のうちの何れか1項に記載の便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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