説明

係合機構の制御装置

【課題】係合時に発生し得るショックを適切に抑制することが可能な係合機構の制御装置を提供する。
【解決手段】係合機構は、駆動力源によって回転される第1部材、第1部材に対向する第2部材、第1部材及び第2部材のそれぞれに形成された溝部に保持される動力伝達部材、第2部材を固定可能に構成された第3部材、及び第2部材を第3部材に固定するための駆動力を付与するアクチュエータを有する。第1部材及び第2部材は、セルフロックが実現されるような角度の第1係合面と、セルフリリースが実現されるような角度の第2係合面とを有する。制御手段は、第1部材が第3部材に対して第2係合面の方向に相対回転するように駆動力源を制御することで、第2係合面の側から係合させる。これにより、セルフロック側から係合を行う場合と比較して、係合時の急激なトルク上昇を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムクラッチなどの係合機構に対する制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トルクカム機構を備えたクラッチが知られている。例えば、特許文献1には、エンジンと変速機との係合/解放を行うためにトルクカム機構を備えた電磁クラッチが記載されている。この技術では、コースト状態においてもカム機構による締結力を得るために、エンジン側からのトルク入力に対して軸力を発生するドライブカム面と、変速機側からのトルク入力に対して軸力を発生するコーストカム面とを設けている。具体的には、カム機構において、コーストカム面のカム角度を、ドライブカム面のカム角度よりも大きく設定している。こうすることで、ドライブ状態からコースト状態へ遷移する際、トルク抜けの区間を短くすることで、トルク伝達状態の応答性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−232807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に記載された技術では、ドライブカム面で係合する場合にショックが発生してしまう場合があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、係合時に発生し得るショックを適切に抑制することが可能な係合機構の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、駆動力源からの駆動力によって回転する第1部材と、前記第1部材に対向した状態で同軸上に配置された第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの対抗面に回転方向に沿って形成された溝部に保持され、前記第1部材と前記第2部材との間で動力を伝達する動力伝達部材と、前記第2部材における前記第1部材に対向する側とは反対側に対向し、前記第2部材と接触することで前記第2部材を固定可能に構成された第3部材と、前記第2部材をその対向方向に沿ってストロークさせて、前記第2部材を前記第3部材に固定するための駆動力を付与可能なアクチュエータと、を有しており、前記第2部材を前記第3部材により固定することで実現される係合状態と、前記第2部材を前記第3部材から解放することで実現される解放状態とを切り替え可能に構成されると共に、前記第2部材が前記第3部材に固定されることにより前記第1部材と前記第2部材との間に前記回転方向に沿ってガタが形成されるように構成された係合機構に対して制御を行う係合機構の制御装置において、前記第1部材及び前記第2部材の前記溝部には、前記係合状態において前記動力伝達部材が保持される第1係合面及び第2係合面が形成されており、前記第1係合面は、当該第1係合面で前記係合状態となっている場合に、前記アクチュエータから前記駆動力を付与しなくても前記係合状態が維持されるような角度で構成されており、前記第2係合面は、当該第2係合面で前記係合状態となっている場合に、前記アクチュエータから前記駆動力を付与しないと前記係合状態から前記解放状態に移行するような角度で構成されており、前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記第1部材が前記第3部材に対して前記第2係合面の方向に相対回転するように前記駆動力源に対する制御を行うことで、前記第2係合面の側から係合させる制御手段を備える。
【0007】
上記の係合機構の制御装置は、係合機構に対して制御を行うために好適に利用される。係合機構は、駆動力源によって回転される第1部材と、第1部材に対向した状態で配置された第2部材と、第1部材及び第2部材のそれぞれに形成された溝部に保持される動力伝達部材と、第2部材と接触することで第2部材を固定可能に構成された第3部材と、第2部材をその対向方向に沿ってストロークさせて、第2部材を第3部材に固定するための駆動力を付与可能なアクチュエータとを有する。また、係合機構は、第2部材が第3部材に固定されることにより第1部材と第2部材との間に回転方向に沿ってガタが形成されるように構成されている。なお、駆動力源は、少なくとも回転数が制御可能に構成されている。
【0008】
第1部材及び第2部材の溝部には、係合状態において動力伝達部材が保持される第1係合面及び第2係合面が形成されている。基本的には、第1係合面及び第2係合面は、係合機構の係合状態において、入力されたトルクを軸方向の力に変化させて伝達するように機能する。具体的には、第1係合面は、当該第1係合面で係合状態となっている場合に、アクチュエータから駆動力を付与しなくても係合状態が維持されるような角度で構成されている。これに対して、第2係合面は、当該第2係合面で係合状態となっている場合に、アクチュエータから駆動力を付与しないと係合状態から解放状態に移行するような角度で構成されている。このように第1部材及び第2部材は、回転方向において片側の係合面(第1係合面)の角度はセルフロックが実現されるような角度に設定されており、当該回転方向において反対側の係合面(第2係合面)の角度はセルフリリースが実現されるような角度に設定されている。
【0009】
そして、制御手段は、係合機構を解放状態から係合状態へ切り替える際に、第1部材が第3部材に対して第2係合面の方向に相対回転するように、駆動力源の回転数を制御することで、第2係合面の側から係合させる。つまり、制御手段は、第1部材を第3部材に対してセルフリリース側の方向に相対回転させることで、セルフリリース側の第2係合面で係合させた後に、セルフロック側の第1係合面で係合させる。これにより、セルフロック側から係合を行う場合と比較して、係合時の急激なトルク上昇を抑制することができると共にイナーシャトルクを低減することができる。
【0010】
上記の係合機構の制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記第2係合面の側から係合させる際に、前記第2部材と前記第3部材との間の伝達トルク容量に相当する前記駆動力を前記駆動力源から出力させる制御を行う。
【0011】
この態様では、制御手段は、第2部材と第3部材との間の伝達トルク容量に相当するトルクを、駆動力源から出力させる制御を行う。ここで、「伝達トルク容量」とは、入力側から出力側に対して伝達することができるトルクの最大値を意味する。上記の態様によれば、係合時において係合機構で発生するトルクを駆動力源からのトルクによって相殺させることができる。よって、係合時におけるショックの発生を適切に抑制することができる。
【0012】
上記の係合機構の制御装置の他の一態様では、前記駆動力源は、回転電機であり、前記第3部材は、車軸の回転によって回転可能に構成され、前記制御手段は、前記係合状態において前記回転電機によって回生させる場合に、前記第2部材と前記第3部材との固定状態が維持されるように前記アクチュエータに対する制御を行いつつ、前記ガタを前記第2係合面の側に詰める制御を行う。
【0013】
この態様では、駆動力源は回転電機(例えばモータジェネレータ)であり、第3部材は車軸の回転によって回転される。この場合、回転電機は、係合状態にある係合機構を介して車軸からのトルクが入力され、当該トルクによって回生運転を行う。制御手段は、係合機構の係合状態において回転電機によって回生させる場合に、第2部材と第3部材との固定状態が維持されるようにアクチュエータから駆動力を付与させる制御を行いつつ、ガタをセルフリリース側の第2係合面に詰める制御を行う。つまり、制御手段は、アクチュエータから駆動力を付与することで係合状態が維持されるようにしておいて、セルフロック側での係合からセルフリリース側での係合に移行して回転電機によって回生を行う。これにより、係合機構を解放せずに適切に回生を行うことができる。言い換えると、係合機構の係合状態を維持したまま、適切に回生を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
駆動力源からの駆動力によって回転する第1部材と、前記第1部材に対向した状態で同軸上に配置された第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの対抗面に回転方向に沿って形成された溝部に保持され、前記第1部材と前記第2部材との間で動力を伝達する動力伝達部材と、前記第2部材における前記第1部材に対向する側とは反対側に対向し、前記第2部材と接触することで前記第2部材を固定可能に構成された第3部材と、前記第2部材をその対向方向に沿ってストロークさせて、前記第2部材を前記第3部材に固定するための駆動力を付与可能なアクチュエータと、を有しており、前記第2部材を前記第3部材により固定することで実現される係合状態と、前記第2部材を前記第3部材から解放することで実現される解放状態とを切り替え可能に構成されると共に、前記第2部材が前記第3部材に固定されることにより前記第1部材と前記第2部材との間に前記回転方向に沿ってガタが形成されるように構成された係合機構に対して制御を行う係合機構の制御装置において、前記第1部材及び前記第2部材の前記溝部には、前記係合状態において前記動力伝達部材が保持される第1係合面及び第2係合面が形成されており、前記第1係合面は、当該第1係合面で前記係合状態となっている場合に、前記アクチュエータから前記駆動力を付与しなくても前記係合状態が維持されるような角度で構成されており、前記第2係合面は、当該第2係合面で前記係合状態となっている場合に、前記アクチュエータから前記駆動力を付与しないと前記係合状態から前記解放状態に移行するような角度で構成されており、前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記第1部材が前記第3部材に対して前記第2係合面の方向に相対回転するように前記駆動力源に対する制御を行うことで、前記第2係合面の側から係合させる制御手段を備える。これにより、セルフロック側から係合を行う場合と比較して、係合時の急激なトルク上昇を抑制することができると共にイナーシャトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る車両の概略構成図を示す。
【図2】係合機構の詳細を示す断面図である。
【図3】第1部材の概略構成図を示す。
【図4】解放状態及び係合状態における第1部材、第2部材、及び第3部材の状態を概略的に示す。
【図5】本実施形態における係合制御を具体的に説明するための図を示す。
【図6】本実施形態における係合制御のフローチャートを示す。
【図7】本実施形態における回生制御を具体的に説明するための図を示す。
【図8】本実施形態における解放・回生制御のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
[装置構成]
図1に本実施形態に係る車両100の概略構成を示す。車両100は、主に、エンジン1と、トランスアクスル2と、車軸3、7と、モータジェネレータ5と、係合機構6と、車輪8、9と、ECU(Electronic Control Unit)20と、を備える。例えば、車両100は、ハイブリッド車両として構成されている。
【0018】
エンジン1は、燃料を燃焼することで車両100の主たる駆動力を発生する駆動力源であり、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなどが挙げられる。エンジン1は、ECU20によって制御される。トランスアクスル2は、トランスミッションやデファレンシャルギヤなどを備えて構成されており、エンジン1からの駆動力を車軸3に伝達する。車輪8は、車軸3の回転によって回転する。
【0019】
モータジェネレータ5は、図示しないバッテリから供給される電力で駆動力を発生すると共に、係合機構6を介して伝達された動力によって発電し、発電した電力を当該バッテリに供給する。つまり、モータジェネレータ5は、車両100の推進力を出力する駆動力源として機能すると共に、車両100の制動時などにおいて回生運転を行うことで発電する。例えば、モータジェネレータ5は、同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。モータジェネレータ5は、ECU20によって、回転数やトルクの制御などが行われる。
【0020】
係合機構6は、モータジェネレータ5に接続されていると共に、ギヤなどを介して車軸7に接続されている。具体的には、係合機構6は複数の回転要素を有しており、回転要素はモータジェネレータ5によって回転されると共に、当該回転要素と異なる回転要素は車軸7によって回転される。また、係合機構6は、図示しないアクチュエータによって、係合状態と解放状態とが切り替え可能に構成されている。基本的には、係合状態においては、モータジェネレータ5が車軸7に対して連結された状態となり、解放状態においては、モータジェネレータ5が車軸7から切り離された状態となる。係合機構6は、ECU20によって、係合状態と解放状態とを切り替える制御が行われる。例えば、ECU20は、モータジェネレータ5の駆動力を車軸7に伝達すべき状況やモータジェネレータ5によって回生すべき状況などにおいて、係合機構6を係合状態にする。なお、係合機構6の詳細については後述する。
【0021】
ECU20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成され、車両100内の各構成要素に対して制御を行う。ECU20は、本発明における「係合機構の制御装置」の一例に相当する。具体的には、ECU20は、本発明における「制御手段」の一例に相当する。
【0022】
次に、図2乃至図4を参照して、係合機構6について具体的に説明する。図2は、係合機構6の一断面構成を例示する模式断面図である。図2では、係合機構6が解放状態にある場合の図を示している。
【0023】
係合機構6は、主に、第1部材61と、第2部材62と、第3部材63と、動力伝達部材64と、アクチュエータ65と、リターンスプリング66と、を備える。係合機構6は、いわゆるカム機構(カムクラッチ)として構成されている。
【0024】
第1部材61は、略円板状の係合部材であり、モータジェネレータ5の回転によって回転するシャフト71に連結されている。そのため、第1部材61は、モータジェネレータ5の回転によって回転される。第2部材62は、略円板状の係合部材であり、第1部材61に対向した状態で同軸上に配置されている。また、第2部材62は、磁性金属材料により構成されている。動力伝達部材64は、所謂カムボールであり、第1部材61及び第2部材62のそれぞれの対抗面に回転方向に沿って形成された溝部としてのV字溝61a、62aに保持され、第1部材61と第2部材62との間で動力を伝達する。
【0025】
第2部材62には、第2部材62を第1部材61の方向に付勢する(言い換えると第2部材62を第3部材63から離れる方向に付勢する)弾性部材としてのリターンスプリング66が設けられている。そのため、第2部材62は、通常、リターンスプリング66の付勢を受けて、所定の隙間を隔てて第3部材63と対向する非接触位置にある。この場合には、第2部材62が第1部材61に接近する方向に押し付けられた状態で、第1部材61と第2部材62とが供回りする。このような状態は「係合機構6の解放状態」に相当する。この場合には、モータジェネレータ5が車軸7から切り離された状態となっている。当該状態においては、基本的には、第2部材62は、第3部材63の回転に依らずに、第1部材61によって回転される(つまり第1部材61と一体回転する)。
【0026】
第3部材63は、略円板状の係合部材であり、第2部材62における第1部材61に対向する側とは反対側に対向する位置に配置されている。具体的には、第3部材63は、アクチュエータ65から離間する位置に配置されていると共に、解放状態において第2部材62から離間する位置に配置されている。第3部材63は、弱磁性体材料で構成されている。また、第3部材63は、車軸7の回転によって回転するシャフト72に連結されており、車軸7の回転によって回転される。更に、第3部材63における第2部材62との対向面には、摩擦機能体である摩擦部63aが形成されている。摩擦部63aは、当該摩擦部63aで接触状態にある物体(具体的には第2部材62)の相対的な移動がより大きく阻害されるように摩擦係数が設定されている。
【0027】
アクチュエータ65は、主に、電磁石65a、及び電磁石65aを保持するハウジング65bを有している。アクチュエータ65は、車両100の外郭部材と略一体に固定されたケースCSに対し固定されている。
【0028】
電磁石65aは、図示しないバッテリからの電力供給を受けた不図示の駆動部から所定の電流(所謂励磁電流であり、以下では適宜「クラッチ電流」と呼ぶ。)が供給された励磁状態において磁力を発生する。励磁状態において電磁石65aから発せられる磁力は、磁性金属材料により構成された第2部材62を吸引する。つまり、電磁石65aは、第2部材62に対し、第2部材62を電磁石65a側へ吸引する方向へ駆動力たる電磁力を付与する。なお、アクチュエータ65は、ECU20によって制御される。具体的には、ECU20は、電磁力を制御するべく、クラッチ電流についての制御を行う。
【0029】
ここで、図2に示すような解放状態において、所定のクラッチ電流を流した場合、電磁石65aの電磁力によって、矢印A1に示すように第2部材62はリターンスプリング66の付勢力に抗してアクチュエータ65側に引き寄せられる(つまりストロークする)。この場合、第3部材63は弱磁性体材料で構成されているため、第3部材63は電磁石65aの電磁力によって軸方向に移動しない、つまり第3部材63はアクチュエータ65と非接触状態が維持される。
【0030】
そして、第2部材62がストロークしていき第3部材63の摩擦部63aに接触すると、第2部材62と摩擦部63aとの間に働く摩擦力によって第2部材62が摩擦部63aに対して固定される。より詳しくは、第2部材62から摩擦部63aに軸方向に働く力(以下、「押付力」とも呼ぶ。)が生じることで第2部材62と第3部材63との間でトルク伝達するようになり、押付力が増大していくとやがて第2部材62と第3部材63とが一体回転するようになる。これにより、係合機構6が係合状態に設定されることとなる。この場合、基本的には、モータジェネレータ5が車軸7に対して連結された状態となり、第1部材61、第2部材62、及び第3部材63が一体回転することとなる。なお、上記の押付力は、アクチュエータ65からの電磁力によって変化する、つまりクラッチ電流によって変化する。
【0031】
図3は、第1部材61の概略構成図を示す。図3(a)は、第1部材61を軸線方向から観察した図を示しており、図3(b)は、切断線X1−X2に沿ったV字溝61aの断面図を示している。当該断面図は、第1部材61を半径方向から観察した状態に対応する。
【0032】
図3(a)に示すように、第1部材61に設けられたV字溝61aは、周方向に等間隔に6個並べられている。ここでは図示していないが、第2部材62に形成された他方のV字溝62aも同様に周方向に等間隔に6個並べられている。また、図2に示したように、各V字溝61a、62aは、第1部材61の中心線を含む断面で切断した場合には断面半円形をなしている。
【0033】
図3(b)に示すように、第1部材61を半径方向から観察すると、V字溝61aは略V字状に形成されており、回転方向(図3(b)の左方向及び右方向)に関して深さが徐々に浅くなっている。具体的には、V字溝61aは、係合状態において動力伝達部材64が保持される2つの第1係合面61aa及び第2係合面61abが形成されている(係合面は言い換えると「カム面」である。)。第1係合面61aa及び第2係合面61abは、係合機構6の係合状態において、第1部材61などに入力されたトルクを軸方向の力に変化させて伝達することができる。そのため、係合機構6は、係合状態において入力されたトルクによって、上記した押付力を増大することができる。
【0034】
詳しくは、第1係合面61aaは角度θ1によって構成され、第2係合面61abは角度θ2によって構成されており、第1係合面61aaと第2係合面61abとは異なる角度に設定されている(θ1<θ2)。第1係合面61aaは、当該第1係合面61aaを用いて係合状態となっている場合に、アクチュエータ65から電磁力を付与しなくても係合状態が維持されるような角度θ1で構成されている。つまり、第1係合面61aaは、第1係合面61aa側で係合している場合にセルフロック(言い換えると自縛係合)が実現されるような角度θ1に設定されている。詳しくは、第1係合面61aaを用いた場合、第2部材62のストロークが完了した状態において、つまり第2部材62が第3部材63に接触した状態において、入力されるトルクよりも第2部材62と第3部材63との接触面(以下、「摩擦面」とも呼ぶ。)に発生する伝達トルク容量のほうが大きくなることで、セルフロック領域となる。
【0035】
例えば、第1係合面61aaの角度θ1は、以下の式(1)、式(2)に基づいて決定される。
n・μ・(r/rc)・K(θ1)>1 式(1)
K(θ1)=(cosθ1+α)/(sinθ1+β) 式(2)
式(1)及び式(2)において、「n」は摩擦面数を示し、「μ」は摩擦面の摩擦係数を示し、「r」は等価摩擦半径を示し、「rc」はカム転動半径を示し、「α」及び「β」はカム部摩擦係数項を示している。
【0036】
これに対して、第2係合面61abは、当該第2係合面61abを用いて係合状態となっている場合に、アクチュエータ65から電磁力を付与しないと係合状態から解放状態に移行するような角度θ2で構成されている。つまり、第2係合面61abは、第2係合面61ab側で係合している場合にセルリリースが実現されるような角度θ2に設定されている。
【0037】
このように第1部材61は、回転方向に関して片側の係合面(第1係合面61aa)の角度はセルフロックが実現されるような角度に設定されており、回転方向に関して反対側の係合面(第2係合面61ab)の角度はセルフリリースが実現されるような角度に設定されている。なお、第2部材62のV字溝62aにも、上記した第1部材61のV字溝61aと同様に第1係合面及び第2係合面が形成されている。
【0038】
なお、上記した「伝達トルク容量」は、入力側から出力側に対して、伝達することができるトルクの最大値を意味する。この伝達トルク容量を超えるトルクが入力されると、入力側の物体が出力側の物体に対してスリップすることとなる。また、伝達トルク容量は、入力側と出力側との間に軸方向に働く力(押付力)によって変化する。例えば、係合時における第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量は、アクチュエータ65からの電磁力によって変化させることができる、つまりクラッチ電流によって変化させることができる。
【0039】
ここで、前進走行時において、モータジェネレータ5によって回転される第1部材61の回転数が、車軸7によって回転される第3部材63の回転数よりも相対的に高い場合には、図3(a)及び図3(b)中の矢印B1a、B1bで示す方向に、第1部材61が第3部材63に対して相対回転する。この場合には、基本的には、第1係合面61aa側で係合が行われることとなる。第1係合面61aa側で係合すると、セルフロック状態となることで、アクチュエータ65から電磁力を付与しなくても係合状態が維持される。これに対して、前進走行時において、第3部材63の回転数が第1部材61の回転数よりも相対的に高い場合には、図3(a)及び図3(b)中の矢印B2a、B2bで示す方向に、第1部材61が第3部材63に対して相対回転する。この場合には、基本的には、第2係合面61ab側で係合が行われることとなる。
【0040】
以下では、矢印B1a、B1bで示すような、第1部材61が第3部材63に対して相対回転する方向を「正方向」と定義する。また、このような正方向を適宜「セルフロック側」と呼ぶ。これに対して、矢印B2a、B2bで示すような、第1部材61が第3部材63に対して相対回転する方向を「負方向」と定義する。また、このような負方向を適宜「セルフリリース側」と呼ぶ。なお、これらの「正方向」及び「負方向」は第3部材63に対する第1部材61の相対回転方向で定義しているため、第1部材61が実際には当該方向と逆方向に回転している場合も有り得る。更に、以下では、矢印B1a、B1bで示す方向に付与するモータジェネレータ5のトルクを「正トルク」と定義すると共に、矢印B2a、B2bで示す方向に付与するモータジェネレータ5のトルクを「負トルク」と定義する。
【0041】
図4は、解放状態及び係合状態における第1部材61、第2部材62、及び第3部材63の状態を概略的に示している。この場合、図4は、第1部材61、第2部材62、及び第3部材63を半径方向から観察した状態を示している。
【0042】
図4(a)は解放状態を示しており、図4(b)及び図4(c)は係合状態を示している。具体的には、図4(b)は第1係合面61aa、62aa側で係合している場合の図を示しており、図4(c)は第2係合面61ab、62ab側で係合している場合の図を示している。第1係合面61aa、62aa側で係合している場合には押付力C1が発生し、第2係合面61ab、62ab側で係合している場合には押付力C2が発生する。前述したように第1係合面61aa、62aaの角度θ1は第2係合面61ab、62abの角度θ2よりも小さく設定されているため(θ1<θ2)、係合機構6に等トルクが入力されている場合には「押付力C1>押付力C2」といった関係が成立する。
【0043】
つまり、第1係合面61aa、62aa側で係合している場合には、第2係合面61ab、62ab側で係合している場合よりも、入力されたトルクによって押付力を大きく増大することができると言える。そのため、第1係合面61aa、62aa側で係合している場合には、入力されたトルクによって発生する押付力が大きいため、アクチュエータ65から電磁力を付与しなくても係合状態が維持される。より具体的には、第1係合面61aa、62aa側で係合している場合には、モータジェネレータ5から正トルクが入力されている限りにおいて、係合状態が維持される。
【0044】
これに対して、第2係合面61ab、62ab側で係合している場合には、入力されたトルクによって発生する押付力が比較的小さいため、係合状態を維持するためにはアクチュエータ65から電磁力を付与する必要がある。しかしながら、第2係合面61ab、62ab側から係合する場合には、アクチュエータ65からの電磁力を変化させることにより、第2部材62と第3部材63との間の押付力を変化させることで、伝達トルク容量を調整しながら係合することができると言える。つまり、第2係合面61ab、62ab側から係合する場合には、第1係合面61aa、62aa側から係合する場合に比較して、入力されたトルクによる押付力が小さいので、アクチュエータ65の電磁力によって押付力を変化させることができる範囲が広いため、伝達トルク容量を適切に調整しながら係合することができると言える。
【0045】
[制御方法]
次に、本実施形態においてECU20が係合機構6に対して行う制御方法について具体的に説明する。
【0046】
(係合制御)
まず、本実施形態における係合制御について説明する。本実施形態では、ECU20は、係合機構6を解放状態から係合状態へ切り替える際に、第1部材61が第3部材63に対して第2係合面61abの方向に相対回転するようにモータジェネレータ5を制御することで、第2係合面61ab、62abの側から係合させる。つまり、ECU20は、第1部材61が第3部材63に対して負方向に相対回転するようにモータジェネレータ5の回転数を制御することで、セルフリリース側の第2係合面61ab、62abを用いて係合させる。即ち、ECU20は、第1部材61を第3部材63に対してセルフリリース側の方向に相対回転させることで、セルフリリース側の第2係合面61ab、62abで係合させた後に、セルフロック側の第1係合面61aa、62aaで係合させる。
【0047】
また、ECU20は、このようにセルフリリース側で係合を行う際に、クラッチ電流を制御することで、つまりアクチュエータ65からの電磁力を制御することで、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量を制御する(以下、適宜「トルク容量制御」と呼ぶ。)。つまり、ECU20は、伝達トルク容量を調整しながら係合を行う。以上のようにして係合を行うことで、セルフロック側から係合を行う場合と比較して、係合時の急激なトルク上昇を抑制することができると共に、イナーシャトルクを低減することができる。
【0048】
更に、ECU20は、上記のようなトルク容量制御を行う際に、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量に相当するトルクを、モータジェネレータ5から出力させる制御を行う。具体的には、ECU20は、伝達トルク容量に相当する負トルクをモータジェネレータ5から出力させる制御を行う。これにより、係合時におけるショックの発生を適切に抑制することができる。
【0049】
ここで、図5を参照して、本実施形態における係合制御について具体的に説明する。図5は、第1部材61、第2部材62、及び第3部材63を半径方向から観察した状態を示している。
【0050】
まず、ECU20は、係合開始時において(係合機構6は解放状態にあるものとする)、第1部材61と第3部材63との回転数を同期させるべく、モータジェネレータ5の回転数についてのF/B制御(以下、「回転数同期F/B制御」とも呼ぶ。)を開始する。この場合、ECU20は、セルフリリース側の第2係合面61ab、62abから係合させるべく、第1部材61が第3部材63に対して負方向に相対回転するように、モータジェネレータ5の回転数を制御する。具体的には、ECU20は、図5(a)に示すように、第1部材61の回転数N11が第3部材63の回転数N31よりも小さくなるように(N11<N31)、モータジェネレータ5の回転数を制御する。
【0051】
この後、ECU20は、第2部材62を第3部材63側にストロークさせるべく、アクチュエータ65から電磁力を付与させる制御を行う。具体的には、ECU20は、アクチュエータ65の電磁石65aからの電磁力によって、リターンスプリング66の付勢力に抗して第2部材62が第3部材63側に吸引されるように、電磁石65aを駆動する駆動部へクラッチ電流を印加する。これにより、図5(b)に示すように、矢印D2に示すような電磁力によって第2部材62が吸引されることで、第2部材62と第3部材63とが摩擦面で接触する。なお、このように摩擦面で接触した状態では、第1部材61の回転数N12と第3部材63の回転数N32とは異なる回転数であり、つまり回転数同期しておらず、第2部材62が第3部材63に対してスリップした状態となっている。
【0052】
この後、ECU20は、クラッチ電流を制御することで、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量の制御(トルク容量制御)を行う。こうして第2部材62と第3部材63との間に生じた伝達トルク容量が、第1部材61(第2部材62も含む)と第3部材63とを回転数同期させる力となる。また、ECU20は、トルク容量制御を行う際に、係合時において係合機構6で生じるトルクをモータジェネレータ5のトルクで相殺するべく、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量に相当するトルクをモータジェネレータ5から出力させる制御を行う。具体的には、ECU20は、印加しているクラッチ電流に応じて、モータジェネレータ5から負トルクを出力させる制御を行う。このような制御を行うことで、第1部材61と第2部材62との間において回転方向に沿って形成されたガタ(動力伝達部材64の可動範囲に相当する)が詰まると共に、第2部材62と第3部材63との間に所定以上の伝達トルク容量が発生する。これにより、図5(c)に示すように、第1部材61の回転数N13と第3部材63の回転数N33とが同期する(N13≒N33)。
【0053】
この後、ECU20は、セルフロック側の第1係合面61aa、62aaで係合させるべく、モータジェネレータ5のトルクを正方向にスイープアップさせる。具体的には、ECU20は、図5(d)に示すように、モータジェネレータ5から正トルクTr14を出力させることで、ガタをセルフロック側に詰めて、セルフロック側の第1係合面61aa、62aaで係合させる。これと同時に、ECU20は、アクチュエータ65からの電磁力の付与を終了するべく、クラッチ電流の印加を終了する(破線矢印D4参照)。
【0054】
次に、図6を参照して、本実施形態における係合制御のフローチャートについて説明する。当該フローは、係合機構6が解放状態にある際に、モータジェネレータ5を車軸7に連結すべき状況などにおいて実行される。
【0055】
まず、ステップS101では、ECU20は、第1部材61と第3部材63との回転数を同期させるべく、モータジェネレータ5の回転数同期F/B制御を実行する。この場合、ECU20は、セルフリリース側の第2係合面61ab、62abから係合させるべく、モータジェネレータ5の目標回転数を相対回転数において負側(つまりセルフリリース側)にオフセットする。つまり、ECU20は、第1部材61が第3部材63に対して負方向に相対回転するように、モータジェネレータ5の目標回転数を設定する。そして、処理はステップS102に進む。
【0056】
ステップS102では、ECU20は、第2部材62と第3部材63とを摩擦面で接触させるべく、アクチュエータ65から電磁力が付与されるようにクラッチ電流の印加を開始する。具体的には、ECU20は、アクチュエータ65の電磁石65aからの電磁力によって、リターンスプリング66の付勢力に抗して第2部材62が第3部材63側に吸引されるように、電磁石65aを駆動する駆動部へクラッチ電流を印加する。例えば、ECU20は、予め実験や所定の演算式などにより求められた所定のクラッチ電流を印加する。そして、処理はステップS103に進む。
【0057】
ステップS103では、ECU20は、クラッチ電流を制御することで、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量の制御(トルク容量制御)を行う。例えば、ECU20は、伝達トルク容量が徐々に増加するように、クラッチ電流を制御する。そして、処理はステップS104に進む。ステップS104では、ECU20は、係合時に発生し得るショックをモータジェネレータ5のトルクで相殺するべく、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量に相当するトルクをモータジェネレータ5から出力させる制御(以下、「ショック補正制御」とも呼ぶ。)を行う。具体的には、ECU20は、印加しているクラッチ電流に応じて、モータジェネレータ5から負トルクを出力させる制御を行う。そして、処理はステップS105に進む。
【0058】
ステップS105では、ECU20は、第1部材61と第3部材63との相対回転数がゼロであるか否かを判定する。つまり、第1部材61と第3部材63とが回転同期しているか否かを判定する。相対回転数がゼロである場合(ステップS105;Yes)、処理はステップS106に進む。これに対して、相対回転数がゼロでない場合(ステップS105;No)、処理はステップS103に戻る。この場合には、ECU20は、第1部材61と第3部材63との相対回転数がゼロとなるまで、ステップS103のクラッチ電流制御及びステップS104のショック補正制御を繰り返し行う。なお、ここでは、第1部材61と第3部材63との相対回転数がゼロであることを条件として用いているが、この代わりに、第1部材61と第3部材63との相対回転数(絶対値)が所定値未満であることを条件として用いても良い。
【0059】
ステップS106では、第1部材61と第3部材63とが回転同期しているため、ECU20は、クラッチ電流の印加を終了すると共に、モータジェネレータ5のトルクを正方向にスイープアップさせる制御を行う。この場合、ECU20は、モータジェネレータ5のトルクを正方向に上昇させることで、セルフロック側の第1係合面61aa、62aaで係合させる。そして、処理は終了する。
【0060】
以上説明した係合制御によれば、セルフリリース側から係合を行うことで、セルフロック側から係合を行う場合と比較して、係合時の急激なトルク上昇を抑制することができると共にイナーシャトルクを低減することができる。また、係合時において、伝達トルク容量に相当するトルクをモータジェネレータ5から出力させる制御を行うことで、係合時におけるショックの発生を適切に抑制することができる。
【0061】
(解放・回生制御)
次に、本実施形態における解放・回生制御について説明する。本実施形態では、ECU20は、係合機構6の係合状態(詳しくはセルフロック側で係合状態)においてモータジェネレータ5によって回生させる場合に、第2部材62と第3部材63との固定状態が維持されるようにアクチュエータ65に対する制御を行いつつ、ガタをセルフリリース側の第2係合面61ab、62abに詰める制御を行う。つまり、ECU20は、アクチュエータ65から電磁力を付与することで係合状態が維持されるようにしておいて、セルフロック側での係合からセルフリリース側での係合に移行してモータジェネレータ5によって回生を行う。この場合、ECU20は、モータジェネレータ5から負トルクを出力させる制御を行うことで回生を行う。このような回生制御によれば、係合機構6を解放せずに適切に回生を行うことができる。言い換えると、係合機構6の係合状態を維持したまま、適切に回生を行うことができる。
【0062】
一方、ECU20は、モータジェネレータ5からの駆動力を用いた走行中において、係合機構6を係合状態(この場合にはセルフロック側で係合している)から解放状態へ切り替える場合、モータジェネレータ5のトルクを徐々に低減する制御を行う。そして、ECU20は、クラッチ電流をゼロに維持しつつ、モータジェネレータ5のトルクをゼロ若しくは所定の負トルクまで低減させる。こうすることで、リターンスプリング66の付勢力によって第2部材62が第3部材63から引き離されることで、係合機構6が係合状態から解放状態へ切り替えられる。このような解放制御によれば、解放時におけるショックの発生を適切に抑制することができる。なお、係合状態から解放状態への切り替えは、例えばモータジェネレータ5の引き摺りによる発熱や損失などが発生する場合に行われる。
【0063】
ここで、図7を参照して、本実施形態における回生制御について具体的に説明する。図7は、第1部材61、第2部材62、及び第3部材63を半径方向から観察した状態を示している。図7に示すように、ECU20は、矢印D5に示すような電磁力によって第2部材62を吸引することで第2部材62と第3部材63との固定状態を維持しつつ、具体的にはセルフリリース側の第2係合面61ab、62abでの係合状態を維持しつつ、モータジェネレータ5から負トルクTr15を出力させることで回生を行う。この場合、ECU20は、モータジェネレータ5による回生に必要なトルク(以下、「回生必要トルク」とも呼ぶ。)以上の伝達トルク容量が発生するように、アクチュエータ65からの電磁力を制御する、つまりクラッチ電流を制御する。なお、このような回生制御においては、第1部材61の回転数N15と第3部材63の回転数N35とは同期している(N15≒N35)。
【0064】
次に、図8を参照して、本実施形態における解放・回生制御のフローチャートについて説明する。当該フローは、係合機構6が係合状態にある際に(例えばモータジェネレータ5のトルクを用いた走行中)、モータジェネレータ5のトルク(正トルク)を車軸7に付与する必要がなくなった状況などで実行される。
【0065】
まず、ステップS201では、ECU20は、モータジェネレータ5のトルクを徐々に低減する制御を行う。そして、処理はステップS202に進む。ステップS202では、ECU20は、回生制御へ移行するか否かを判定する。この場合、ECU20は、運転者によるアクセルペダルやブレーキペダルの操作などに基づいて回生制御へ移行するか否かを判定する。例えば、ECU20は、アクセルペダルがオフとなった場合に回生制御へ移行すると判定する。
【0066】
回生制御へ移行する場合(ステップS202;Yes)、処理はステップS203に進む。ステップS203では、ECU20は、モータジェネレータ5における回生必要トルク以上の伝達トルク容量が発生するように、アクチュエータ65からの電磁力を制御する、つまりクラッチ電流を制御する。即ち、ECU20は、第2部材62と第3部材63との固定状態が維持され、且つ、モータジェネレータ5によって適切に回生が行われるように、クラッチ電流を制御する。この場合、ECU20は、回生時にモータジェネレータ5から出力させる負トルクに応じて、クラッチ電流を制御することで、第2部材62と第3部材63との間の伝達トルク容量の制御(トルク容量制御)を行う。そして、処理はステップS204に進む。
【0067】
ステップS204では、ECU20は、モータジェネレータ5によって回生制御を実行する。この場合、ECU20は、車両100に付与すべき制動トルクやバッテリの充電状態などに応じて、モータジェネレータ5から負トルクを出力させる。そして、処理は終了する。なお、ここでは、回生必要トルク以上の伝達トルク容量が発生するように制御を行ってから回生制御を実行する例を示したが、回生制御を実行してから回生必要トルク以上の伝達トルク容量が発生するように制御を行っても良い。つまり、ステップS204の処理を行ってからステップS203の処理を行うこととしても良い。
【0068】
一方で、回生制御へ移行しない場合(ステップS202;No)、処理はステップS205に進む。ステップS205では、ECU20は、係合機構6を解放すべく、クラッチ電流をゼロに維持しつつ、モータジェネレータ5のトルクをゼロにする制御、若しくはモータジェネレータ5から所定の負トルクを出力させる制御を行う。こうすることで、リターンスプリング66の付勢力によって第2部材62が第3部材63から引き離されることで、係合機構6が解放する。そして、処理は終了する。
【0069】
以上説明した解放・回生制御によれば、解放時におけるショックの発生を適切に抑制することができると共に、係合機構6を解放せずに適切に回生を行うことができる。
【0070】
[変形例]
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。
【0071】
例えば、上記では、第1部材を回転させる駆動力源としてモータジェネレータを用いる例を示したが、第1部材を回転させる駆動力源として、モータジェネレータの代わりにエンジンを用いても良い。
【0072】
また、上記では、第3部材を回転部材によって構成する例を示したが、言い換えると第3部材が車軸によって回転される構成を示したが、第3部材を固定部材(ケースなどに固定され、回転しない部材)によって構成しても良い。つまり、係合機構を係合することで、第1部材の回転を固定(ロック)することとしても良い。
【0073】
また、上記では、アクチュエータが電磁力を用いて第2部材をストロークする例を示したが、電磁力の代わりに油圧を用いて第2部材をストロークしても良い。更に、上記では動力伝達部材としてカムボールを用いる例を示したが、カムボールの代わりにカムローラを動力伝達部材として用いても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 エンジン
3、7 車軸
5 モータジェネレータ
6 係合機構
20 ECU
61 第1部材
61a、62a V字溝
61aa、62aa 第1係合面
61ab、62ab 第2係合面
62 第2部材
63 第3部材
64 動力伝達部材
65 アクチュエータ
66 リターンスプリング
100 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源からの駆動力によって回転する第1部材と、
前記第1部材に対向した状態で同軸上に配置された第2部材と、
前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの対抗面に回転方向に沿って形成された溝部に保持され、前記第1部材と前記第2部材との間で動力を伝達する動力伝達部材と、
前記第2部材における前記第1部材に対向する側とは反対側に対向し、前記第2部材と接触することで前記第2部材を固定可能に構成された第3部材と、
前記第2部材をその対向方向に沿ってストロークさせて、前記第2部材を前記第3部材に固定するための駆動力を付与可能なアクチュエータと、を有しており、
前記第2部材を前記第3部材により固定することで実現される係合状態と、前記第2部材を前記第3部材から解放することで実現される解放状態とを切り替え可能に構成されると共に、前記第2部材が前記第3部材に固定されることにより前記第1部材と前記第2部材との間に前記回転方向に沿ってガタが形成されるように構成された係合機構に対して制御を行う係合機構の制御装置であって、
前記第1部材及び前記第2部材の前記溝部には、前記係合状態において前記動力伝達部材が保持される第1係合面及び第2係合面が形成されており、
前記第1係合面は、当該第1係合面で前記係合状態となっている場合に、前記アクチュエータから前記駆動力を付与しなくても前記係合状態が維持されるような角度で構成されており、
前記第2係合面は、当該第2係合面で前記係合状態となっている場合に、前記アクチュエータから前記駆動力を付与しないと前記係合状態から前記解放状態に移行するような角度で構成されており、
前記解放状態から前記係合状態へ切り替える際に、前記第1部材が前記第3部材に対して前記第2係合面の方向に相対回転するように前記駆動力源に対する制御を行うことで、前記第2係合面の側から係合させる制御手段を備えることを特徴とする係合機構の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第2係合面の側から係合させる際に、前記第2部材と前記第3部材との間の伝達トルク容量に相当する前記駆動力を前記駆動力源から出力させる制御を行う請求項1に記載の係合機構の制御装置。
【請求項3】
前記駆動力源は、回転電機であり、
前記第3部材は、車軸の回転によって回転可能に構成され、
前記制御手段は、前記係合状態において前記回転電機によって回生させる場合に、前記第2部材と前記第3部材との固定状態が維持されるように前記アクチュエータに対する制御を行いつつ、前記ガタを前記第2係合面の側に詰める制御を行う請求項1又は2に記載の係合機構の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−231853(P2011−231853A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102537(P2010−102537)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】