説明

促進された膜輸送特性を有する毒素化合物

本発明は輸送体に結合された毒素を含む化合物に関する。本発明の毒素の非制限的な例は、ボツリヌス毒素、ブチリカム毒素、破傷風毒素およびそれらの軽鎖である。いくつかの実施態様において、本発明の輸送体は、タンパク質形質導入ドメインを含む。好ましい輸送体は、毛様体神経栄養因子、カベオリン、インターロイキン1ベータ、チオレドキシン、線維芽細胞成長因子−1、線維芽細胞成長因子−2、ヒトベータ−3、インテグリン、ラクトフェリン、エングレイルド、Hoxa−5、Hoxb−4およびHoxc−8から選択される。好ましいタンパク質形質導入ドメインは、ペネトレーティング、カポジ線維芽細胞成長因子膜輸送配列、核局在シグナル、トランスポータン、単純ヘルペスウィルスタイプ1タンパク質22、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く組換えDNA技術に関する。特に、本発明は、輸送体が、細胞膜を通過する毒素の輸送(translocation)を促進する、輸送体に結合する毒素合成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム属は127以上の種を有し、それらの形態学および機能に従って分類される。嫌気性、グラム陽性バクテリア、ボツリヌス菌は、ボツリヌス菌中毒と呼ばれるヒトおよび動物の神経麻痺性疾患を引き起こす強力なポリペチド神経毒、ボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌で認められ、不適切に滅菌され密封された自家製食品容器で成長し、食物性ボツリヌス菌中毒の症例の多数の原因となる。
ボツリヌス菌中毒の影響は、概して、ボツリヌス菌培養物または胞子により汚染された食品を食べた後の18〜36時間に出現する。ボツリヌス毒素は、明らかに、腸の内壁によって抑制されずに通過することができて、コリン作動性運動神経に高親和性を示す。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行、嚥下、および口述障害から呼吸筋麻痺および死へ進展し得る。
【0003】
ボツリヌス毒素はヒトに知られる最も致死的な天然生物剤である。マウスLD50の1単位のBOTOX(登録商標)(精製神経毒複合体、Allergan,Inc.、Irvine、Californiaから入手可能)は、ボツリヌス毒素タイプA複合体約50ピコグラム(約56アトモル)である。興味深いことに、モルベースでは、ボツリヌス毒素タイプAは、ジフテリアより約18億倍、シアン化ナトリウムより約6億倍、コブラ毒素より約3000万倍、コレラより約1200万倍致死的である。Singh, Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins, pages 63-84 (chapter 4) of Natural Toxins II, edited by B.R. Singh et al., Plenum Press, New York (1976)(ここでは、1Uに相当する約0.3ngのボツリヌス毒素タイプAのLD50は、BOTOX(登録商標)約0.05ngが1単位に相当するという事実のために訂正されることを言及している)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、体重18から20gのそれぞれの雌性スイスウェブスターマウスへの腹腔内注射に対するLD50として定義される。
【0004】
一般に7種の免疫学的に異なったボツリヌス毒素が特徴づけられ、これらは、それぞれボツリヌス毒素セロタイプ(serotype)A、B、C、D、E、FおよびGであり、各々いずれかは、特異的な抗体による中和によって、区別される。ボツリヌス毒素の異なる血清型は、それらが影響を及ぼす動物種において、そして、それらが引き起こす重篤性および麻痺の持続期間において、変化する。例えば、ボツリヌス毒素タイプAは、ラットにおいてもたらされる麻痺率によって測定されるとき、ボツリヌス毒素タイプBより、500倍強力であることが示されている。
加えて、ボツリヌス毒素タイプBは、ボツリヌス毒素タイプAの霊長類LD50の約12倍である480U/kgの用量において、霊長類に対し非毒性であることが示されている。Moyer E et al., Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience, being chapter 6, pages 71-85 of “Therapy With Botulinum Toxin”,編集:Jankovic, J. et al. (1994), Marcel Dekker, Inc. ボツリヌス毒素は、明らかにコリン作動性運動神経上の高親和性受容体と結合して、神経細胞内に輸送され、アセチルコリンの放出を阻害する。更なる取り込みは、低親和性受容体、並びにファゴサイトーシスおよびピノサイトーシスによって起こり得る。
【0005】
セロタイプに関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは同様であり、少なくとも3つの段階または局面を含むようである。過程の第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖またはHC)および細胞表面受容体間の特定の相互作用を介する標的神経細胞のシナプス前膜と結合する。受容体は、各タイプのボツリヌス毒素、そして、破傷風毒素で異なると考えられる。HCのカルボキシル末端部分は、細胞表面へのボツリヌス毒素の標的化にとって重要であるようである。
【0006】
第2段階において、ボツリヌス毒素は、標的細胞の原形質膜を通過する。初めに、ボツリヌス毒素は受容体依存性エンドサイトーシスを介し、細胞によってのみ込まれ、そして、ボツリヌス毒素を含んでいるエンドソームが形成される。触媒LCは、それからエンドソームから細胞質に移行する。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに応答して、立体構造の変化を受ける、HC、HNのアミン末端部分によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内部のpHを低下させるプロトンポンプを所有することが知られている。立体構造のシフトはHの疎水性残基を露出させ、それによって、ボツリヌス毒素がエンドソーム膜に埋めこまれ、孔を形成することができる。ボツリヌス毒素(または少なくともボツリヌスの軽鎖)は、エンドソーム膜を介して、細胞質へ移行する。
【0007】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖および軽鎖を繋ぐS‐S結合の減少に関わるようである。ボツリヌスおよび破傷風毒素の全ての毒性活性は、毒素の軽鎖に含まれる;軽鎖は、ニューロトランスミッターを含む小胞と原形質膜の細胞質表面との認識および結合、および小胞と原形質膜の融合に必須のタンパク質を特異的に切断する亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼである。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素タイプB、D、FおよびGは、シナプトソームの膜タンパク質であるシナプトブレビン(また、小胞関連膜タンパク質(VAMP)と呼ばれる)の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂イベントのいずれか一つの結果として、取り除かれる。ボツリヌス毒素セロタイプAおよびEは、SNAP―25を切断する。ボツリヌス毒素セロタイプC1が、当初、シンタキシンを切断すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP―25を切断するとわかった。同じ結合を切断するボツリヌス毒素タイプBおよび破傷風毒素を除いて、ボツリヌス毒素の各々は、異なる結合を特異的に切断する。各々のこれらの切断は小胞−膜結合の過程を阻害し、それにより、小胞内容物のエキソサイトーシスを防止する。
【0008】
ボツリヌス毒素が、過活動の骨格筋(すなわち運動障害)によって特徴づけられる神経筋疾患の処置のための臨床において、使用されている。1989年、ボツリヌス毒素タイプA複合体は、眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣の処置に対し米食品医薬品局の承認を得た。その後、ボツリヌス毒素タイプAは頸部ジストニアの処置、そして、眉間のしわの処置に対しFDAの承認を得、そして、ボツリヌス毒素タイプBは頸部ジストニアの処置のために承認された。非タイプAボツリヌス毒素セロタイプは、明らかにボツリヌス毒素タイプAと比較して、弱い効力および/または活性のより短い時間を有する。末梢筋肉内のボツリヌス毒素タイプAの臨床効果は、通常1週間以内の注入で認められる。ボツリヌス毒素タイプAの単回筋肉内投与による典型的な症状軽減期間は平均約3ヵ月であるが、治療的な活性の著しくより長い期間が報告されている。
【0009】
すべてのボツリヌス毒素セロタイプが明らかに神経筋接合部で神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するが、それらは異なる神経分泌タンパク質に影響を及ぼし、および/または上記したように異なるサイトでこれらのタンパク質を切断することによって、そうする。例えば、ボツリヌス・タイプAおよびEは両方とも25キロ・ダルトン(kD)シナプトソーム関連タンパク質(SNAP―25)を切断するが、それらはこのタンパク質の範囲内で異なるアミノ酸配列を標的とする。ボツリヌス毒素タイプB、D、FおよびGは、小胞関連タンパク質(VAMP、またシナプトブレビンと呼ばれる)に作用し、それぞれのセロタイプは、異なる部位でそのタンパク質を切断する。最終的に、ボツリヌス毒素タイプC1は、シンタキシンおよびSNAP―25の両方を切断することが示された。これらの作用メカニズムの違いは、さまざまなボツリヌス毒素セロタイプの相対的な効力、組織特異性および/または作用時間に影響を及ぼし得る。明らかに、ボツリヌス毒素の基質は、様々な異なる細胞型で見つかることができる。例えば、Biochem J 1;339 (pt 1):159-65:1999, and Mov Disord, 10(3):376:1995参照(膵島B細胞は、少なくともSNAP―25およびシナプトブレビンを含む)。
【0010】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素セロタイプのうちの7つ全てで、約150kDである。面白いことに、ボツリヌス毒素は、関連する非毒素タンパク質と一緒に150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体として、クロストリジウムバクテリアによって、放出される。このように、ボツリヌス毒素タイプA複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウムバクテリアによって、産生され得る。ボツリヌス毒素タイプBおよびC1は、明らかに700kDまたは500kD複合体だけとして産生され得る。ボツリヌス毒素タイプDは、300kDおよび500kD複合体として産生され得る。最後に、ボツリヌス毒素タイプEおよびFは、ほぼ300kD複合体だけとして産生され得る。複合体(すなわち約150kDより大きい分子量)は、非毒素および非毒性の非ヘマグルチニン・タンパク質(NTNH)および/または非毒素ヘマグルチニン・タンパク質(HA)および非毒素および非毒性の非ヘマグルチニン・タンパク質(NTNH)を含むと考えられている。ボツリヌス毒素が摂取されるとき、これらの非毒素タンパク質(ボツリヌス毒素分子と一緒に、関連神経毒複合体を含む)は、ボツリヌス毒素分子の変質に対する安定性および消化酸および酵素からの保護を提供するために作用し得る。加えて、より大きな(約150kDを超える分子量)ボツリヌス毒素複合体は、その結果、ボツリヌス毒素複合体の筋内注射の部位からの、ボツリヌス毒素の拡散速度がより遅くなり得る。
【0011】
インビトロ実験は、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンのカリウムカチオン惹起放出を阻害することを示した。加えて、ボツリヌス毒素は、脊髄神経細胞の初代培養における惹起されたグリシンおよびグルタミン酸放出を阻害し、そして、脳シナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質アセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E., et al., Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2);522-527:1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタミン酸(Sanchez-Prieto, J., et al., Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165;675-681:1897)の各々の放出を阻害することが報告されている。したがって、十分な濃度が使用されるとき、ほとんどの神経伝達物質の刺激によって、引き起こされた放出はボツリヌス毒素により阻害され得る。例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9);1373-1412 at page 1393; Bigalke H., et al., Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360;318-324:1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44;224-226:1988, Bigalke H., et al., Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316;244-251:1981, and; Jankovic J. et al., Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc., (1994), page 5、を参照。
【0012】
ボツリヌス毒素タイプAは、発酵槽のボツリヌス菌の培養を構築し、そして成長させ、その後回収し、培養物を既知の方法に従って精製することによって、得ることができる。すべてのボツリヌス毒素セロタイプは、まず、最初に、不活性な単鎖タンパク質として合成され、プロテアーゼによって切断され、きざみを入れられて神経活性型となり得る。ボツリヌス毒素セロタイプAおよびGを産生する菌株は、内因性のプロテアーゼを所有し、そして、セロタイプAおよびGは、したがって、主にそれらの活性型が細菌培養物から回収され得る。対照的に、ボツリヌス毒素セロタイプC1、DおよびEは、非タンパク分解性株により合成され、従って、典型的には、培養物から回収されるとき、不活性である。セロタイプBおよびFは、タンパク分解性および非タンパク分解性株によって産生され、したがって、活性型または不活性型で回収され得る。しかしながら、例えば、ボツリヌス毒素タイプBセロタイプを産生するタンパク分解性株でさえ、生産される一部の毒素を切断するだけである。切断されない分子に対する切断された分子の正確な比率は、培養の長さおよび培養条件に依存する。したがって、例えば、ボツリヌス毒素タイプB毒素の何れかの調製物の特定のパーセンテージは、不活性になり易く、ボツリヌス毒素タイプAと比較して、ボツリヌス毒素タイプBの既知の著しく低い効力により、おそらく一部は説明される。臨床調製物における不活性ボツリヌス毒素分子の存在は、調製物の全体のタンパク質の積載量に貢献し、それは、その臨床有効性に貢献せずに、抗原性の増加に繋がってきた。加えて、ボツリヌス毒素タイプBが、人間の筋肉内投与において、活性のより短い期間を有すること、そして、同じ投与レベルのボツリヌス毒素タイプAより強力でもないことも知られている。高品質結晶ボツリヌス毒素タイプAは、ボツリヌス菌のHallA株から産生され得、≧3X10U/mg、0.60未満のA260/A278およびゲル電気泳動上のバンドの異なったパターンの特徴を有する。Schantz, E.J., et al, Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine, Microbiol Rev. 56;80-99:1992で説明されているように、既知のSchantz法は、結晶ボツリヌス毒素タイプAを得るために使用され得る。通常、ボツリヌス毒素タイプA複合体は、適切な培地でボツリヌス菌タイプAを培養する嫌気的発酵により単離および精製されることができる。周知の方法は、また、非毒素タンパク質からの分離において、例えば以下のような、精製されたボツリヌス毒素を得るために用いることもできる:
1−2X10 LD50 U/mgまたはそれ以上の特定の効力を有する、約150kDの分子量を有する精製ボツリヌス毒素タイプA;
1−2X10 LD50 U/mgまたはそれ以上の特定の効力を有する、約156kDの分子量を有する精製ボツリヌス毒素タイプB;そして、
1−2X 10 LD50 U/mgまたはそれ以上の特定の効力を有する、約155kD分子量を有する精製ボツリヌス毒素タイプF。
【0013】
研究グレードのボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories, Inc., Campbell, California; the Centre for Applied Microbiology and Research, Porton Down , U.K.; Wako (Osaka, Japan), Metabiologics (Madison, Wisconsin) 並びに Sigma Chemicals of St Louis, Missouriから入手することができる。純粋なボツリヌス毒素は、製薬化合物を調製するために用いることもできる。
【0014】
一般の酵素と同様に、ボツリヌス毒素の生物学的活性(それは、細胞内のペプチダーゼである)は、少なくとも一つには、それらの三次元コンフォメーションに依存する。よって、ボツリヌス毒素タイプAは、熱、さまざまな化学薬品、表面張力および表面乾燥によって、不活性化される。
さらに、既知の培養、発酵および精製により得られたボツリヌス毒素複合体の、製薬合成製剤として使用される非常に、非常に低い毒素濃度への希釈は、適切な安定化剤が存在しない限り、毒素の急速な失活を導くことが知られている。ミリグラム量から1ミリリットルにつきナノグラムを含む溶液への毒素の希釈は、かかる大幅な希釈による特異的な毒性の急速低下のため、非常に困難である。製薬化合物を含んでいる毒素が製剤化された数ヶ月、または数年後にボツリヌス毒素が使用され得るので、毒素は、通常、例えばアルブミンおよびゼラチン等の安定化剤によって、安定化させられる。
【0015】
製薬化合物を含む商業的に入手可能なボツリヌス毒素は、商標BOTOX(登録商標)の下で販売されている(Allergan, Inc., of Irvine, Californiaから入手可能)。BOTOX(登録商標)は、滅菌的真空乾燥形態で、精製されたボツリヌス毒素タイプA複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成る。ボツリヌス毒素タイプAは、N−Zアミンおよびイースト抽出物を含む培地で成長させた、ボツリヌス菌のHall株の培養物から作られる。ボツリヌス毒素タイプA複合体は、一連の酸沈殿による培養液から活性高分子量毒素タンパク質、および関連NTNHおよびヘマグルチニン タンパク質を含む結晶複合体にまで精製される。結晶複合体は、食塩水およびアルブミンを含む溶液に再溶解させ、真空乾燥の前に滅菌ろ過される(0.2ミクロン)。真空乾燥生成物は、冷凍庫で5℃またはそれ以下で保存される。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射の前に、滅菌、非保存生理食塩水で再構成され得る。BOTOX(登録商標)のそれぞれのバイアルには、滅菌、真空乾燥、防腐剤なしの形態で、約100単位(U)のボツリヌス菌毒素タイプA精製神経毒複合体、0.5mgのヒト血清アルブミンおよび0.9ミリグラムの塩化ナトリウムを含む。
【0016】
真空乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するために、防腐剤不含の通常の滅菌生理食塩水;(0.9%塩化ナトリウム注射)が、適切なサイズのシリンジ中で適切な量の希釈にすることにより使用される。BOTOX(登録商標)は、バブリングまたは類似の激しい振動によって変性し得るので、希釈液はバイアルに穏やかに注入される。バイアルがフリーザから取り出されて、再構成されたあと、無菌性理由のために、BOTOX(登録商標)は、好ましくは4時間以内に投与される。これらの4時間の間に、再構成されたBOTOX(登録商標)は、約2℃から約8℃で冷蔵庫に保存され得る。再構成され、冷蔵されたBOTOX(登録商標)は、少なくとも約2週間、その効力を保持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997
【0017】
ボツリヌス毒素タイプAが以下の通りに臨床設定において使用されていることが報告されている:
(1)頸部ジストニアを処置するための筋肉内投与(複数の筋肉)につき、約75−125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわ(眉間の深いしわ)(鼻根筋へ筋肉内注射される5単位およびそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される10単位)を処置するための筋肉内投与につき、5−10単位のBOTOX(登録商標);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射によって、便秘を処置するための、約30−80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上眼瞼の側前足根骨の眼輪筋(lateral pre-tarsal orbicularis oculi muscle)および下眼瞼の側前足根骨の眼輪筋の注射により、眼瞼痙攣を処置するための筋肉内投与されるBOTOX(登録商標)につき約1−5単位;
(5)斜視を処置するために、外眼筋は、約1−5単位の間のBOTOX(登録商標)を筋肉内注射される、そして、注射される量は、注射される筋肉の大きさと望まれる筋肉麻痺の程度(すなわち、望まれるジオプター補正の量)に基づいて変わり得る。
(6)以下の5種の相違する上眼瞼の屈筋にBOTOX(登録商標)を筋肉内注射することにより、脳梗塞に続く上眼瞼の痙性の処置する:
(a) 深指屈筋:7.5Uから 30U
(b) 中指屈筋(flexor digitorum sublimus):7.5Uから 30U
(c) 尺側手根屈筋:10Uから40U
(d) 橈側手根屈筋:15Uから60U
(e) 上腕二頭筋:50Uから200U。
5つの示された筋肉の各々は同じ処置セッションで注入される。その結果、患者は各処置セッションで筋肉内投与によって、90Uから360Uの上眼瞼の屈筋BOTOX(
登録商標)を受ける。
(7)片頭痛を処理するための、25UのBOTOX(登録商標)注射の頭蓋骨膜注入(眉間、前頭、および側頭の筋肉に対称的に注射する)は、偏頭痛頻度、最大重篤度、随伴する嘔吐および25U注射に続く3ヶ月に渡る急性医薬の減少により判定される、媒体と比較した偏頭痛の予防処置としての顕著な利益を示している。
【0018】
ボツリヌス毒素タイプAが最高12ヵ月までの間(European J. Neurology 6 (Supp 4): S111-S1150:1999)、そして、腺の処置、例えば多汗症(hyperhydrosis)の処置等のとき、ある状況では27ヶ月程度の間、効力があり得ることが知られている。例えば、Bushara K., Botulinum toxin and rhinorrhea, Otolaryngol Head Neck Surg 1996;114(3):507, および The Laryngoscope 109:1344-1346:1999、参照。しかしながら、BOTOX(登録商標)の通常の筋肉内注射の期間は、典型的には約3ないし4ヶ月である。
【0019】
様々な臨床状態を処置するボツリヌス毒素タイプAの成功は、他のボツリヌス毒素セロタイプに対する関心につながった。ヒトに用いられる2つの商業的に入手可能なボツリヌス・タイプA製剤は、Allergan, Inc., of Irvine, Californiaから入手可能なBOTOX(登録商標)およびBeaufour Ipsen, Porton Down, Englandから入手可能なDysport(登録商標)である。ボツリヌス毒素タイプB製剤(MyoBloc(登録商標))は、Elan Pharmaceuticals of San Francisco, Californiaから入手できる。
【0020】
米国特許第5,989,545号は、改変クロストリジウム神経毒またはその断片、好ましくはボツリヌス毒素、特定の標的化部分に化学的に結合されるか、または組み換え融合されて、薬剤の脊髄内投与によって、痛みを処置するために用いることができることを開示する。また、Cui et al., Subcutaneous administration of botulinum toxin A reduces formalin-induced pain, Pain, 2004 Jan; 107(1-2):125-133、その開示は、参照によって、本明細書にその全体が組み込まれる。
【0021】
筋痙攣が低減されるにつれて、さまざまなけいれん性の筋肉症状を処置するためのボツリヌス毒素の使用が抑欝と不安を低減し得ることが報告されている。Murry T., et al., Spasmodic dysphonia; emotional status and botulinum toxin treatment, Arch Otolaryngol 1994 Mar; 120(3): 310-316; Jahanshahi M., et al., Psychological functioning before and after treatment of torticollis with botulinum toxin, J Neurol Neurosurg Psychiatry 1992; 55(3): 229-231。さらに、ドイツ特許出願DE101 50 415A1は、鬱および関連情動障害の処置のためのボツリヌス毒素の筋内注射について述べている。
【0022】
ボツリヌス毒素は、また、皮膚損傷(米国特許6,447,787号)、さまざまな自律神経機能不全(米国特許5,766,605号)、緊張性頭痛(米国特許6,458,365号)、片頭痛(米国特許5,714,468号)、副鼻腔炎による頭痛(米国特許出願番号429069)、手術後の痛みおよび内臓痛(米国特許6,464,986号)、神経痛(米国特許出願番号630,587)、毛髪の発達および毛髪保持(米国特許6,299,893号)歯の関連した病気(米国仮特許出願番号60/418,789)、線維筋痛(米国特許6,623,742号)、さまざまな皮膚疾患(米国特許出願番号10/731973)、乗り物酔い(米国特許出願番号752,869)、乾癬および皮膚炎(米国特許5,670,484号)、損傷筋肉(米国特許6,423,319号)、多様な癌(米国特許6,139,845号)、平滑筋障害(米国特許5,437,291号)、下の回された口角(米国6,358,917)、神経絞扼症候群(nerve entrapment syndrome)(米国特許出願2003 0224019)、さまざまな衝撃障害(impulse disorder)(米国特許出願番号423,380)、座瘡(WO 03/011333)および神経性炎症(米国特許6,063,768号)を処置するために、提案され、使用されている。経皮ボツリヌス毒素投与(米国特許出願番号10/194,805)のように、制御放出毒素インプラントは公知である(例えば米国特許6,306,423号および6,312,708号を参照)。
【0023】
ボツリヌス毒素タイプAは、持続性部分てんかん(epilepsia partialis continua)(一種の局所運動性てんかん(focal motor epilepsy))を処置するために用いられている。Bhattacharya K., et al., Novel uses of botulinum toxin type A: two case reports, Mov Disord 2000; 15(Suppl 2):51-52.
【0024】
ボツリヌス毒素は以下のために使用され得ることが知られている:自己が損傷を負わせた、そして、結果として生じる潰瘍が治癒できるように、口の咀嚼または噛む筋肉を弱める(Payne M., et al, Botulinum toxin as a novel treatment for self mutilation in Lesch-Nyhan syndrome, Ann Neurol 2002 Sep;52(3 Supp 1):S157);良性嚢胞性病変または腫瘍の治癒ができるようにする(Blugerman G., et al., Multiple eccrine hidrocystomas: A new therapeutic option with botulinum toxin, Dermatol Surg 2003 May;29(5):557-9);裂肛を処置する(Jost W., Ten years' experience with botulinum toxin in anal fissure, Int J Colorectal Dis 2002 Sep;17(5):298-302);および、アトピー性皮膚炎の特定のタイプを処置する(Heckmann M., et al., Botulinum toxin type A injection in the treatment of lichen simplex: An open pilot study, J Am Acad Dermatol 2002 Apr;46(4):617-9)。
【0025】
そして、ボツリヌス毒素は、ラットホルマリンモデルで惹起された炎症性疼痛を低減する効果を有し得る。Aoki K., et al, Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous Botox: Inhibition of peripheral and central nociceptive processing, Cephalalgia 2003 Sep;23(7):649; および Cui et al., Subcutaneous administration of botulinum toxin A reduces formalin-induced pain, Pain, 2004 Jan; 107(1-2):125-133、その開示は、参照により、本明細書にその全体が組み込まれる。さらに、ボツリヌス毒素神経ブロック(nerve blockage)は、表皮肥厚を低減させ得る。Li Y, et al., Sensory and motor denervation influences epidermal thickness in rat foot glabrous skin, Exp Neurol 1997;147:452-462 (459ページ参照)。最後に、過剰な足発汗(Katsambas A., et al., Cutaneous diseases of the foot: Unapproved treatments, Clin Dermatol 2002 Nov-Dec;20(6):689-699; Sevim, S., et al., Botulinum toxin-A therapy for palmar and plantar hyperhidrosis, Acta Neurol Belg 2002 Dec;102(4):167-70)、つま先のけいれん(spastic toes)(Suputtitada, A., Local botulinum toxin type A injections in the treatment of spastic toes, Am J Phys Med Rehabil 2002 Oct;81(10):770-5)、特発性つま先歩き(idiopathic toe walking)(Tacks, L., et al., Idiopathic toe walking: Treatment with botulinum toxin A injection, Dev Med Child Neurol 2002;44(Suppl 91):6)、および足ジストニア(foot dystonia)(Rogers J., et al., Injections of botulinum toxin A in foot dystonia, Neurology 1993 Apr;43(4 Suppl 2))を処置するために足にボツリヌス毒素を投与することが知られている。
【0026】
破傷風毒素、並びに、その誘導体(すなわち、非天然標的化部分)、断片、ハイブリッド、およびキメラもまた、治療的有用性を有し得る。破傷風毒素は、ボツリヌス毒素と多くの類似点を有する。したがって、破傷風毒素とボツリヌス毒素の両方は、密接に関連のあるクロストリジウムの種(それぞれ、破傷風菌およびボツリヌス菌)により産生されるポリペプチドである。さらに、破傷風毒素およびボツリヌス毒素は、単一のS−S結合による共有結合で、重鎖(分子量約100kD)に結合する軽鎖(分子量約50kD)から成る二鎖(dichain)タンパク質である。したがって、破傷風毒素および7種のボツリヌス毒素(非複合体化)のそれぞれの分子量は、約150kDaである。さらに、破傷風毒素およびボツリヌス毒素の両方で、軽鎖は、細胞内生物(プロテアーゼ)活性を示すドメインを保持し、一方、重鎖は、受容体結合(免疫原性)および細胞膜輸送ドメインを含む。
【0027】
更に、破傷風毒素およびボツリヌス毒素は、コリン作動性神経のシナプス前部の表面上のガングリオシド受容体に高い、特異的な親和性を示す。受容体により媒介される末梢コリン作動性神経による破傷風毒素のエンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻止、および痙攣性麻痺を導く。反対に、受容体により媒介される末梢コリン作動性神経によるボツリヌス毒素のエンドサイトーシスは、あったとしても僅かな逆行性輸送、中毒になった末梢運動神経からのアセチルコリンのエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性の麻痺を導く。
【0028】
最後に、破傷風毒素およびボツリヌス毒素は互いに生合成および分子構造が似ている。よって、破傷風毒素とボツリヌス毒素タイプAとのタンパク質配列間では、全体として34%の同一性があり、いくつかの機能ドメインでは62%程度の配列同一性が存在する。Binz T. et al., The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990
【0029】
アセチルコリン
典型的には、単一種類の小分子神経伝達物質だけが、哺乳類神経系のそれぞれの種類の神経細胞から放出されるが、いくつかの神経修飾物質が同じ神経細胞から放出されることができることを示唆する証拠が存在する。神経伝達物質アセチルコリンは、脳の多くの部位で神経細胞により分泌されるが、特に運動皮質の大型の錐体体細胞によって、基底核のいくつかの異なる神経単位によって、骨格筋に神経を分布する運動性神経によって、自律神経系(交感神経系のおよび副交感神経の)の節前神経によって、筋紡錘繊維のバッグ1繊維(bag 1 fiber)によって、副交感神経系の節後神経のいくつかによって、そして、交感神経系の節後神経のいくつかにより分泌される。基本的に、交感神経系の節後神経のほとんどは、神経伝達物質ノルエピネフリンを分泌するので、汗腺、立毛筋(piloerector muscle)およびいくつかの血管への節後交感神経繊維のみコリン作動性である。多くの場合、アセチルコリンは興奮性作用を有する。しかしながら、アセチルコリンは、いくつかの末梢交感神経終末では、例えば、迷走神経による心拍数の阻害等の、抑制性作用を有することが知られている。
【0030】
自律神経系の遠心性のシグナルは、交感神経系か副交感神経系により本体に送られる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角(intermediolateral horn)に位置する節前の交感神経の細胞体から伸展する。細胞体から伸展する、節前の交感神経系の神経繊維は、傍脊椎の交感神経節、または椎前の神経節において位置する節後神経とシナプスを形成する。交感および副交感神経の神経系の節前神経はコリン作動性であるので、神経節に対するアセチルコリンの適用は交感および副交感神経の節後神経を刺激する。
【0031】
アセチルコリンは、2種類の受容体、ムスカリンおよびニコチン受容体を活性化させる。ムスカリン受容体は、節後の副交感神経系神経細胞によって刺激される全てのエフェクター細胞、並びに交感神経系の節後コリン作動性神経により刺激されるそれらにおいて認められる。副腎髄質、並びに交感神経系および副交感神経の両方の節前および節後神経の間のシナプスにおける節後神経の細胞表面である、自立神経節内で認められる。ニコチン受容体は、また、例えば、神経筋接合部の骨格筋繊維の膜内における、多くの非自律神経神経終末において認められる。
【0032】
小さい、明確な、細胞内の小胞がシナプス前部のニューロンの細胞膜と融合するときに、アセチルコリンはコリン作動性神経から放出にされる。副腎髄質(同様にPC12細胞株)および膵島細胞のような、広範で多様な非神経分泌細胞が、カテコールアミン類および副甲状腺ホルモンをそれぞれ大型の有芯小胞から放出される。PC12細胞株は、交感神経副腎系発達の研究用の組織培養モデルとして広範囲に使用されるラット褐色細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、透過され(エレクトロポレーションによるように)または麻痺させられた神経の細胞への毒素の直接の注入によって、インビトロで、両方の種類の細胞から両方の種類の化合物の放出を阻害する。ボツリヌス毒素は、皮質シナプトソーム細胞培養から神経伝達物質グルタミン酸の放出を妨害することも知られている。
【0033】
神経筋接合部は、筋細胞に対する軸索の接近により骨格筋内で形成される。神経系により伝達されるシグナルは、イオンチャンネルを活性化して、軸索終末での活動電位をもたらし、例えば、神経筋接合部の運動終板で、神経細胞内シナプス小胞から神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を横切り、筋肉および板(plate)表面上のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦充分な結合が起こると、筋細胞の活動電位は、特異的な膜イオンチャネルの変化を引き起こし、そして、筋細胞短縮が生じる。アセチルコリンは、その後、筋細胞から放出されて、細胞外空間のコリンエステラーゼによって、代謝される。代謝物は、更なるアセチルコリン再生のために、軸索終末に再循環される。
【0034】
ボツリヌス毒素は、多くの適用に成功的に使われるにもかかわらず、いくつかの疾患の処置のためのボツリヌス毒素の使用は、これらの細胞が高親和性取り込みを有しておらず、および/または、細胞上の毒素受容体が未同定のまま−例えば、膵臓細胞のような非神経細胞−であることから、目標とされた細胞に毒素の有効量を送達することができないため、依然として困難である。よって、促進された膜輸送特性を有する改良された毒素化合物の必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【0035】
発明の要約
本発明は、その必要を提供する。本発明によれば、化合物は、輸送体に結合された毒素を含むようにされている。本発明の毒素の非限定的な例は、ボツリヌス毒素、ブチリカム(butyricum)毒素、破傷風(tetani)毒素およびそれらの軽鎖である。いくつかの実施形態では、毒素は、ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、F、Gの軽鎖、または改良された特性を有する変異組換えLC類、およびそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、毒素は、ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、FまたはGの軽鎖、およびボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、FまたはGの重鎖の全部または一部を含む。
【0036】
本発明の輸送体は、細胞への毒素の促進された輸送を提供する。いくつかの実施形態では、輸送体は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を含む。輸送体の非限定的な例には、毛様体神経栄養因子、カベオリン(caveolin)、インターロイキン1ベータ、チオレドキシン、線維芽細胞成長因子−1、線維芽細胞成長因子−2、ヒトベータ−3、インテグリン、ラクトフェリン、エングレイルド(Engrailed)、Hoxa−5、Hoxb−4またはHoxc−8を含む。PTDの非限定的な例には、ペネトラチンペプチド(penetratin peptide)、カポジ線維芽細胞成長因子膜輸送配列(Kaposi fibroblast growth factor membrane-translocating sequence)、核局在シグナル、トランスポータン(transportan)、単純ヘルペスウィルスタイプ1タンパク質22およびヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、本発明の化合物は、プロテアーゼ切断ドメインおよび/または標的化部分を更に含む。
【0037】
本明細書で記載されているいくつかの特徴または特徴の組み合わせは、かかる組み合わせのいくつかに含まれる特徴が、文脈、本明細書、および当業者の知識から明らかに、互いに矛盾しないのであれば、本発明の範囲内に含まれる。付加的な効果および本発明の態様は、以下の詳細な説明および請求項において、明らかである。
【0038】
定義
「軽鎖」(L鎖、LCまたはL)は、約50KDaの分子量を有する。軽鎖は、蛋白分解性/毒性を有する。
【0039】
「重鎖」(H鎖またはH)は、約100kDaの分子量を有する。重鎖は、HcとHを含む。
【0040】
「H」は、H鎖のカルボキシル末端断片であり、そして、それは細胞表面との結合に関係している。
【0041】
「H」は、H鎖のアミノ末端断片であり、そして、それは少なくともL鎖を、細胞内エンドソーム膜を横切り、細胞の細胞質へ輸送することに関係している。
【0042】
「標的化部分」は、生理学的条件下で選択的に細胞表面受容体と結合することが可能である化学化合物またはペプチドを意味する。
【0043】
本発明の一成分(例えば、毒素)との関係で「結合された」とは、本発明の他の成分(例えば、輸送体、標的化部分、等)に結合されており、該成分が、共有結合、リンカーおよび/またはスペーサーを介して結合され得ることを意味する。
【0044】
「リンカー」は、2またはそれ以上の他の分子または成分と共に連結する分子を意味する。
【0045】
「スペーサー」は、成分間を物理的に解離し、距離を与える分子または一連の分子を意味する。スペーサの1つの機能は、構成要素との間に立体障害を防止することである。例えば、本発明の化合物は:L−リンカー−スペーサー−リンカー−H−リンカー−標的化部分であり得る。
【0046】
「約」は、およそ、または、ほぼを意味し、本明細書で説明される数値または範囲の関係においては、記載され、または請求された数値または範囲の±10%を意味する。
【0047】
「局所投与」は、薬剤の生物学的作用が望まれる、動物体上、または体内にある、部位の近傍で、または近傍に、薬剤を直接投与することを意味する。局所投与は、静脈内または経口投与のような、末梢経路の投与を排除する。
【0048】
実施態様の記載
本発明は、輸送体に結合した毒素を含む化合物に関する。本発明の輸送体は、細胞膜を横切る毒素の輸送を促進する、タンパク質、またはペプチド、またはペプチド模倣薬である。いくつかの実施形態では、本発明の輸送体は、トランスポーターまたは特定の受容体と独立して機能する。いくつかの実施形態では、本発明の輸送体は、エネルギー依存的ではない。本発明を動作のいかなる理論またはメカニズムにも制限することを望まずに、輸送体がPTDを含むと考えられる。さらに、PTDが、細胞膜を横切る毒素の輸送に主たる原因となると考えられている。PTDは、生体膜を効率よく横断し、トランスポーターまたは特定の受容体と独立することが示されているアミノ酸配列ドメインである。Moris MC et al., Nature Biotechnology, 19:1173-1176参照、本明細書での引用により、その開示が、全体として組み込まれる。
【0049】
いくつかの実施態様において、輸送体は、毛様体神経栄養因子、カベオリン、インターロイキン1ベータ、チオレドキシン、線維芽細胞成長因子−1、線維芽細胞成長因子−2、ノット−1(knotted-1)、ヒトベータ−3インテグリン、ラクトフェリン、エングレイルド、Hoxa―5、Hoxb―4またはHoxc―8である。ヒトベータ−3インテグリンは、疎水性シグナル配列部分であるPTD類を含む。エングレイルド−1、エングレイルド−2、Hoxa−5、Hoxb−4およびHoxc−8はホメオタンパク質である。ホメオタンパク質は、60アミノ酸DNA−結合ドメイン、ホメオドメイン(HD)を含む、ヘリックス・ターン・へリックスタンパク質である。PTDはHD内に存在すると考えられている。エングレイルド−1およびエングレイルド−2をCOS7細胞で発現させるとき、それらはまず分泌され、そして、他の細胞によって再内在化される。同様の観察が、Hoxa−5、Hoxc−8およびHoxb−4でなされる。
【0050】
いくつかの実施態様において、輸送体は、核に濃縮し、クロマチンに結合する転写因子である、単純ヘルペスウィルス・タイプ1(HSV―1)VP22タンパク質である。VP22は、非古典的エンドサイトーシスを介し、膜を横切り、GAPジャンクションおよび物理的接触にかかわらず細胞に入ることが示されてきている。VP22が培養細胞の少数で発現されれば、それは、その培養細胞の100%に達する。VP22と、例えば、p53、GFP、チミジンキナーゼ、β―ガラクトシダーゼおよびその他との融合タンパク質が、作成されてきている。該融合タンパク質が、最終的に分化した細胞を含む、いくつかの種類の細胞によって取り込まれることが示されており、効率的な移入に、有糸分裂が要件でないことが示唆されている。さらに、VP22−GFP融合は、該タンパク質が、細胞に何度も出入りし、VP22に暴露されていない細胞に入ることができることを示した。
【0051】
HIV−1トランス活性化因子産物(TAT)は、記載されている最も初期の細胞透過タンパク質のうちの1つであった。受容体により媒介されるイベントは、TATが隣接細胞に移ることを必要としない。他のレンチウイルスと同様に、HIV−1は、強力なTatをコードする。TATのPTDは、アミノ酸47−57または少なくともアミノ酸49−57を含む小さいペプチドである。この11のアミノ酸ペプチドとのタンパク質翻訳融合は、インビトロおよびインビボで、原形質膜を横切って通過できる。15から120のKDaのタンパク質が試験され、全てはヒトおよびマウスの細胞に効率的に入る。Schwartz, JJ et al., Peptide-mediated cellular delivery, Curr Opin Mol Therapeutics 2000, 2:162-7。本明細書での引用により、これらの引例の開示が、全体として組み込まれる。さらに、これらのタンパク質およびペプチドは、細胞内で一度、それらの生物学的性質および機能が保持される。さらに、TAT−PTDは、核酸(DNAおよびRNA)および治療薬を含む様々な貨物分子を運ぶことが可能である。この配列の内在化の能力は、陽電荷に依存し、4℃またはエンドサイトーシス阻害剤の存在下で阻害されない。PTD配列は、濃度依存的に、そして、受容体、トランスポーターおよびエンドサイトーシス非依存的なやり方で、100%の標的細胞に、その貨物の形質導入を媒介することができる。特に興味深いのは、TATのPTDが、動物に注射されたとき、いくつかの組織に、インビボでタンパク質を送達し得ることが示されている研究である。TAT−PTDとβ−ガラクトシダーゼの融合タンパク質を調製し、マウス腹腔内に注射した。脳を含むいくつかの組織のβ−ガラクトシダーゼの活性の存在は、腹腔内投与4時間後に示された。脳での活性は、融合タンパク質が、また、血液脳関門を通過できることを示唆した。研究は、TAT−PTD融合タンパク質が、変性状態で外から加えられたとき、細胞および組織内により効率的に輸送されることを示唆した。それらの仮説は、それらがホールディングされたタンパク質より簡単に内在化し、一度細胞に入れば、それらはシャペロンにより正確にリホールディングされ、標的タンパク質またはペプチドは十分に活性型となる、というものである。
【0052】
いくつかの実施態様において、輸送体は少なくとも1つのPTD(PTD)を含む。PTDの非限定的な例は、表1に示される。
【表1】

【0053】
いくつかの実施形態では、本発明のPTDsは、ホメオタンパク質に由来するペプチドである。ホメオタンパク質は、60アミノ酸のDNA−結合ドメイン、ホメオドメイン(HD)を含むへリックス・ターン・へリックスタンパク質である。PTDは、HD由来であり得る。いくつかの実施態様において、PTDは、ショウジョウバエ・ホメオタンパク質のファミリーに由来する。ショウジョウバエ・ホメオタンパク質は、発生過程に関連し、神経膜を横切って輸送され得る。16アミノ酸のみのホメオドメインの第3へリックスは、ペネトラチン(penetratin)として知られているが、生細胞に分子を輸送できる。あらゆる種の培養細胞に添加されると、その細胞の100%がそのペプチドを取り込むことができた。内在化は37℃および4℃の両方で起こり、したがって、それは、受容体によって媒介されるのでも、エネルギー依存的でもない。いくつかの透過ペプチド、ペネトラチンファミリー(表2)が開発されており、インビボおよびインビトロで、いくつかのタイプの細胞の細胞質および核へ、荷物分子(cargo molecule)を内在化するために使用されている。結果より、ペネトラチンペプチドの侵入は、鍵となるトリプトファンおよび、フェニルアラニン、およびグルタミン残基に依存していることが示唆される。さらに、前後逆配列(retroinverse)および全D−アミノ酸形態もまた、効率的に輸送され、非α−へリックス構造がまた内在化される。Prochiantz, A., Messenger proteins:homeoproteins, TAT and others, Curr Opin Cell Biol 2000, 12:400-6; および Schwartz, JJ et al., Peptide-mediated cellular delivery, Curr Opin Mol Therapeutics 2000, 2:162-7参照。これらの引用の開示は、本明細書に引用されることにより、その全体が組み込まれている。
【0054】
いくつかの実施態様において、輸送体は少なくとも1種のペネトラチンペプチドを含む。ペネトラチンペプチドの非限定的な例を、表2に示す。
【表2】

【0055】
いくつかの実施形態では、輸送体は、合成タンパク質形質導入ドメインを含む。本発明によって使用されることができる他の合成PTD配列は、WO 99/29721およびHo, A. et al., Synthetic PTDs: enhanced transduction potential in vitro and in vivo, Cancer Res 2001, 61, 474-7で認められる。さらに、9−merのL-アルギニンが、細胞取り込みにおいて、TAT-PTDより20倍効率的であり、D-アルギニンオリゴマーを使用すると、促進率は>100倍であったことが示されている。Wender, PA et al., The design, synthesis, and evaluation of molecules that enable or enhance cellular uptake: Peptoid molecular transporters, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97:13003-13008参照。これらのデータより、TAT-PTDのグアニジニウム基が、細胞内取り込みを媒介する電荷または背骨構造以上に多大な役割をすることが示唆された。よって、グアニジンの頭部基と背骨間に6個のメチレンスペーサーを含むペプチドアナログ(peptoid analogue)が合成された。このペプチドは、TAT-PTDおよびそのD-Argペプチドさえよりも、促進された細胞内取り込みを示した。
【0056】
上記で議論したタンパク質およびペプチドに付け加えて、他のペプチド媒介送達システムが記載されている:MPG、SCWKn、(LARL)n、HA2、RGD、AlkCWK18、DiCWK18、DipaLytic、K16RGD、PlaeおよびKplae。Schwartz, JJ et al., Peptide-mediated cellular delivery, Curr Opin Mol Therapeutics 2000, 2:162-7参照。その開示は、本明細書での引用によって、その全体が取り込まれる。いくつかの実施態様において、これらのタンパク質およびペプチドは、本発明に従った、輸送体として使用され得る。
【0057】
いくつかの実施態様において、輸送体は、その開示が、引用によって、本明細書にその全体が組み込まれる、Kabouridis et al., Biological applications of protein transduction technology, Trends in Biotechnology, Vol 21 No 11 November 2003の表1に同定された配列の1またはそれ以上を含む。
【0058】
いくつかの実施態様において、本願発明の毒素は、軽鎖を含む。軽鎖は、ボツリヌス毒素、ブチリカム毒素、破傷風毒素またはそれら毒素の生物学的活性変異体の軽鎖であり得る。いくつかの実施態様において、軽鎖は、ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、F、Gまたはそれらセロタイプの生物学的活性変異体の軽鎖である。いくつかの実施態様において、本発明の軽鎖は細胞毒性が無く、よって、その効果は可逆的である。
【0059】
いくつかの実施形態では、本発明の軽鎖は、野生型ボツリヌス毒素セロタイプA、B、C1、D、E、FまたはGのアミノ酸配列と、75%以上の相同性を有する。いくつかの実施形態では、本発明の軽鎖は、野生型ボツリヌス毒素セロタイプA、B、C1、D、E、FまたはGのアミノ酸配列と、85%以上の相同性を有する。いくつかの実施形態では、本発明の軽鎖は、野生型ボツリヌス毒素セロタイプA、B、C1、D、E、FまたはGのアミノ酸配列と、95%以上の相同性を有する。パーセント相同性は、例えば、デフォルト設定を使用した、SmithとWatermanのアルゴリズムを使用する(Adv. Appl. Math., 1981, 2, 482-489、引用により本明細書にその全体が組み込まれる)、Gapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix, Genetics Computer Group, University Research Park, Madison WI)によって、決定される。
【0060】
いくつかの実施態様において、本発明の毒素は、軽鎖および重鎖を含む。重鎖は、ボツリヌス毒素、ブチリカム毒素、破傷風毒素の重鎖であり得る。いくつかの実施態様において、重鎖は、ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、F、またはGの重鎖である。いくつかの実施形態では、本発明の重鎖は、野生型ボツリヌス毒素セロタイプA、B、C1、D、E、FまたはGのアミノ酸配列と、75%以上の相同性を有する。いくつかの実施形態では、本発明の重鎖は、野生型ボツリヌス毒素セロタイプA、B、C1、D、E、FまたはGのアミノ酸配列と、85%以上の相同性を有する。いくつかの実施形態では、本発明の重鎖は、野生型ボツリヌス毒素セロタイプA、B、C1、D、E、FまたはGのアミノ酸配列と、95%以上の相同性を有する。
【0061】
いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、重鎖のカルボキシル末端を含んでいない。いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、重鎖を含んでいない。
【0062】
表3は、本発明に従って使用され得る、野生型ボツリヌス毒素の軽鎖および重鎖アミノ酸配列を示す。
【0063】
【表3−1】

【0064】
【表3−2】

【0065】
【表3−3】

【0066】
【表3−4】

【0067】
【表3−5】

【0068】
いくつかの実施態様において、本発明の毒素は、軽鎖および重鎖のいかなる組合せも含み得る。いくつかの実施態様において、本発明の毒素は、同じセロタイプの軽鎖および重鎖を含み得る。例えば、本発明の毒素は、ボツリヌス毒素軽鎖セロタイプAおよびボツリヌス毒素重鎖セロタイプAを含み得る。いくつかの実施態様において、毒素は、相違するセロタイプの軽鎖および重鎖を含み得る。例えば、本発明の毒素は、軽鎖セロタイプAおよび重鎖セロタイプEを含み得る。
【0069】
1またはそれ以上の輸送体が、毒素の何れかのアミノ酸残基と結合され得る。例えば、輸送体は、毒素の毒性を実質的に低下させない限り、毒素の、N末端残基、C末端残基または何れかの重要でない領域、例えば、軽鎖に沿った何れかの残基と結合され得る。取り込みに重要でない領域は、Zhou, L., et al., Biochemistry (1995) 34:15175-15181に記載されているような、標準的毒性試験を用いて、結果として表れる修飾された毒素の毒性を評価することにより、実験的に決定される。
【0070】
いくつかの実施態様において、本発明の毒素は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合されたボツリヌス毒素タイプAを含む。いくつかの実施態様において、ボツリヌス毒素の軽鎖は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合される。いくつかの実施態様において、ボツリヌス毒素の重鎖は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合される。いくつかの実施態様において、本毒素はさらに標的化部分に結合される。例えば、標的化部分は、毒素またはヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合され得る。
【0071】
いくつかの実施態様において、本発明の毒素は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合されたボツリヌス毒素タイプAの軽鎖を含む。いくつかの実施態様において、ボツリヌス毒素の軽鎖のN末端は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合される。いくつかの実施態様において、ボツリヌス毒素の軽鎖のC末端は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合される。いくつかの実施態様において、本毒素は、さらに標的化部分に結合され得る。例えば、標的化部分は、毒素またはヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)に結合され得る。
【0072】
いくつかの実施態様において、一の毒素は一の輸送体に結合される。例えば、本発明の化合物は、毒素、例えば、軽鎖のC末端またはN末端に結合された輸送体を含み得る。いくつかの実施態様において、1以上の毒素が輸送体に結合される。例えば、本発明の化合物は、輸送体ペプチドのNおよびC末端で、輸送体ペプチドに結合された毒素を含み得る。いくつかの実施態様において、毒素は1以上の輸送体に結合される。例えば、本発明の化合物は、第一の輸送体と軽鎖のN末端で結合され、そして第二の輸送体と同じ軽鎖のC末端で結合された軽鎖を含み得る。
【0073】
いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、輸送体および標的化部分に結合される毒素を含む。上記に定義されたように、標的化部分は、特定の細胞表面受容体に結合可能な化合物またはペプチドである。いくつかの実施態様において、標的化部分は、化合物を適切な細胞に仕向け、そして、輸送体はそれら特定細胞内への化合物の輸送を促進する。標的化部分の非限定的例は、化合物を感覚神経末端に仕向けるサブスタンス−Pを含む。いくつかの実施態様において、サブスタンス−P標的化部分を含む、本発明の化合物は、痛みを処置するために投与され得る。いくつかの実施態様において、CCK標的化部分を含む本発明の化合物は、膵炎を処置するために投与され得る。いくつかの実施態様において、好酸球標的化部分を含む本発明の化合物は、アレルギーを処置するために投与され得る。いくつかの実施態様において、汗腺標的化部分を含む本発明の化合物は、多汗症を処置するために投与され得る。
【0074】
いくつかの実施態様において、輸送体を含む化合物は、輸送体を含まない同一の化合物に比較して、細胞内に約10%以上の毒素を輸送する。いくつかの実施態様において、輸送体を含む化合物は、輸送体を含まない同一の化合物に比較して、細胞内に約25%以上の毒素を輸送する。いくつかの実施態様において、輸送体を含む化合物は、輸送体を含まない同一の化合物に比較して、細胞内に約50%以上の毒素を輸送する。いくつかの実施態様において、輸送体を含む化合物は、輸送体を含まない同一の化合物に比較して、細胞内に約100%以上の毒素を輸送する。
【0075】
いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、ボツリヌス毒素タイプAの軽鎖および、軽鎖のNまたはC末端に結合されるTAT(配列番号5)を含む。いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、ボツリヌス毒素タイプAの軽鎖、TAT(配列番号5)、および標的化部分を含み、TATおよび標的化部分は、軽鎖のCおよびN末端で、それぞれ結合される。
【0076】
いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、1またはそれ以上のプロテアーゼ切断ドメインを含む。本態様において、プロテアーゼ切断部位は、それが一部である化合物の毒性に実質的に影響を及ぼさないが、切断されれば、実質的に非毒性化合物断片になるように、設計されなければならない。したがって、用語「毒性に実質的に影響を及ぼさない」は、プロテアーゼ切断ドメインを含む化合物が、プロテアーゼ切断ドメインを含まない化合物に比較して、少なくとも10%、好ましくは25%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは75%、そしてよりさらに好ましくは少なくとも90%の毒性である。プロテアーゼ切断ドメインを含まない化合物よりより毒性の強いプロテアーゼ切断ドメインを含まない化合物もまた、本発明に含まれる。取り込みに重要でない領域は、Zhou, L., et al., Biochemistry (1995) 34:15175-15181に記載されているような標準的な毒性試験を用いて、修飾された毒素の毒性を評価することによって、実験的に決定され得る。11/29/00提出、そして、米国出願2002 0137886として、9/26/02 に刊行された米国特許出願番号726949もまた参照。この出願の開示は、引用により本明細書にその全体が取り込まれる。
【0077】
本発明の目的に有効であるために、プロテアーゼ切断ドメインが切断されると、化合物の毒性は、実質的に低減される。ここで、「実質的に低減される」とは、毒性が、元の毒性の50%未満、より好ましくは25%未満、さらに好ましくは10%を保持することを意味する。いくつかの実施態様において、プロテアーゼ切断ドメインが切断されると、切断されていない同一化合物に比較して、化合物の毒性は1%未満である。
【0078】
いくつかの実施態様において、プロテアーゼ切断ドメインは、毒素および輸送体の間に位置する。したがって、化合物の切断は、輸送体からの毒素の解離を導く。このように、毒素は細胞内に輸送され得ず、よって化合物の毒性は部分的に、または完全に無くなる。
【0079】
いくつかの実施態様において、輸送体に結合されるクロストリジウム毒素を含む化合物は、1以上の切断ドメインを有することができる。例えば、NからCへ、重鎖−軽鎖−輸送体の配列を有するクロストリジウム毒素を含む化合物は、重鎖と軽鎖の間に設計された切断ドメイン、および、軽鎖と輸送体の間に設計された付加的な切断部位を有することができる。
【0080】
血液により不活性化され得る化合物の設計のために、血流中で比較的特異的に認められるプロテアーゼにより認識されるプロテアーゼ部位が望ましい。これらのプロテアーゼの中には、以下の表4に説明されるものがあり、その認識部位もまた記載する。
【0081】
【表4】

【0082】
凝固因子XIa、XIIa、IXaおよびVIIa並びにカリクレイン、プロテインC、MBP-関連セリンプロテアーゼ、オキシトシナーゼおよびリジンカルボキシペプチダーゼは、比較的非特異的な標的部位を有する一方、凝固因子Xa、ADAM-TS13およびトロンビンはより特異的な機会を与える。本発明の化合物中へのトロンビン、VWFまたは凝固因子Xa部位の設計において、挿入される部位の位置は、上記記載のように、その部位の存在が毒素の活性を妨害しないが、部位での切断が、毒素の活性を無効化するか、または非常に阻害し得るようにされる。
【0083】
いくつかの実施態様において、プロテアーゼ切断ドメインは、標的化部位または輸送体内であるが、これらの領域内の機能ドメインから離れて位置し得る。標的化部分における挿入部位は、受容体結合溝(groove)から遠くであるべきだが、全ての場合において、部位は、血液プロテアーゼが自由に接近できるために、タンパク質表面上に存在するように選択されるべきである。
【0084】
よって、不活性切断のために、プロテアーゼは、血中に高レベルで存在するものであるべきである。この点において好適なプロテアーゼはトロンビンであり、本発明における修飾された形態の毒素を不活性化するのに十分なレベルで、血中に存在する。プロテアーゼの「有効な」レベルとは、臨床において好適なレベルの投与で血流に入った毒素を、少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは90%またはそれ以上に不活性化し得る濃度を意味する。
【0085】
一般的に、本発明の化合物の投与レベルは、ナノグラムレベルの濃度のオーダーであり、よって、高濃度のプロテアーゼを必要としないと予想される。
【0086】
血液プロテアーゼを今議論しているが、非血液プロテアーゼのプロテアーゼ部位は、本発明にしたがって、採用され得る。
【0087】
いくつかの実施態様において、毒素および他の成分、例えば、輸送体および/または標的化部分は、共有結合によって結合される。例えば、化合物は、輸送体と直接共有結合する軽鎖を含み得る。いくつかの実施態様において、化学リンカー(以下、「リンカーY」または「Y」)は、本発明の化合物の2またはそれ以上の要素と一緒に結合するために用いられる。例えば、リンカーYは、軽鎖を輸送体に結合させるために使用され得る。
【0088】
リンカーYは、2−イミノチオラン、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−アルファ−(2−ピリジルチオ)トルエン(SMPT)、m−マレイミド ベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N−スクシンイミジル(4−イオドアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ビス−ジアゾベンジジンおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択され得る。
【0089】
いくつかの実施態様において、リンカーYは、要素のアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基またはヒドロキシル基と結合され得る。例えば、リンカーYは、輸送体のアミノ酸のカルボキシル酸基(carboxyl acid group)に結合され得る。
【0090】
いくつかの実施態様において、スペーサーは、本発明の要素を物理的に更に解離させるために使用され得る。例えば、本発明の化合物は、スペーサーを介して輸送体に結合した軽鎖を含み得る。いくつかの実施態様において、スペーサーは、要素の立体的障害を最小にする、または除くために要素間の距離を生み出す機能を果たす。いくつかの実施態様において、立体的障害を最小限する、または除くことは、それぞれの要素をより効率的に機能させ得る。
【0091】
いくつかの実施態様において、スペーサーは、ヒト免疫グロブリンヒンジ領域に類似する、または同一である、プロリン、セリン、スレオニンおよび/またはシステインが豊富なアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、スペーサーは、免疫グロブリンg1ヒンジ領域のアミノ酸配列を含む。かかるアミノ酸配列は、配列:
Glu-Pro-Lys-Ser-Cys-Asp-Lys-Thr-His-Thr-Cys-Pro-Pro-Cys-Pro(配列番号32)
を有する。
【0092】
スペーサーは、また炭化水素部分を含み得る。例えば、かかる炭化水素部分は、化学式:
HOOC-(CH2)n-COOH(ここで、 n = 1-12)、または、
HO-(CH2)n -COOH(ここで、n > 10)
で表される。
【0093】
いくつかの実施態様において、リンカーYは、輸送体に軽鎖を結合させるために使用され得る。他の実施態様において、リンカーYは、スペーサーにLを結合させるために使用されることができ;そして、同様に、そのスペーサーは、他のリンカーYにより輸送体に結合されることができ、構造:
L−Y−スペーサー−Y−輸送体
を含む化合物を形成する。
【0094】
リンカーYは、2−イミノチオラン、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−アルファ−(2−ピリジルチオ)トルエン(SMPT)、m−マレイミド ベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N−スクシンイミジル(4−イオドアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ビス−ジアゾベンジジンおよびグルタルアルデヒドからなる群から選択され得る。
【0095】
いくつかの実施態様において、リンカーYは、要素のアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基またはヒドロキシル基と結合され得る。例えば、リンカーYは、輸送体のアミノ酸のカルボキシル酸基に結合され得る。
【0096】
記載された化学は記載された発明の要素をカップリングさせるために使用され得るが、標的要素を本発明の化合物の他の要素に結合させることができる、当業者に知られている他のカップリング化学は、本発明の範囲に入る。
【0097】
本発明の化合物は、ヒト医薬に有用であり得る。例えば、本発明の合成物は、生物学的障害の処置のために投与されることができる。本発明によって処置され得る生物学的障害には、神経筋疾患、自律神経障害および痛みを含む。いくつかの実施態様において、神経筋疾患を処置する方法には、一群の筋肉に本発明の化合物を局所投与することを含む。いくつかの実施態様において、自律神経障害を処置する方法には、腺に本発明の化合物を局所投与することを含む。いくつかの実施態様において、痛みを処置する方法には、痛みの部位に本発明の化合物を局所投与することを含む。いくつかの実施態様において、痛みを処置する方法には、脊髄に本発明の化合物を局所投与することを含む。いくつかの実施態様において、喘息またはアレルギーを処置する方法には、標的組織または細胞、例えば、呼吸器組織または肥満細胞にエアロゾル化された本発明の化合物を投与することを含む。
【0098】
投与される化合物の用量は、多くの因子に依存する。例えば、要素のそれぞれが個々の機能をより発揮すれば、望まれる治療効果を得るために必要な化合物の用量はより低くなる。当業者は、特定の化合物ごとに特定の用量を容易に決めることができる。治療、輸送、および標的化の要素を含む、天然の、変異型の、または組換えのボツリヌス毒素タイプAに対して、投与される化合物の有効用量は、ボツリヌス毒素セロタイプA、またはその等価物の約1Uから約500Uであり得る。哺乳類に投与されるとき、ほぼ同じ予防または処置の程度を示すのであれば、非ボツリヌス毒素タイプAの用量は、ボツリヌス毒素タイプAの用量と同じである(それらの期間は相違するかもしれないが)。予防または処置の程度は、以下に示される改善された患者機能基準の評価によって測定され得る。
【0099】
さらに、投与される化合物の量は、処置される特定の障害、その重篤性およびサイズ、体重、年齢および治療反王制を含む多様な患者の変数によって広範に変化し得る。そのような決定は、当業者のお決まりの手順である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine (1998), edited by Anthony Fauci et al., 14th edition, published by McGraw Hill参照)。
【0100】
他の投与経路には、限定はされないが、経皮、腹腔、皮下、筋肉内、静脈内、直腸内、および/または吸入(例えば、エアロゾル化化合物)が含まれる。
【0101】
いくつかの実施態様において、組換え技術が、少なくとも1つの化合物の要素を作成するために用いられる。例えば、その開示が引用によりその全体が組み込まれる国際特許出願公報WO 95/32738を参照。技術は、例えば、毒素、輸送体および/または標的化部位等の要素の1つをコードする、天然資源からクローン化されたDNA、または合成オリゴヌクレオチド配列から遺伝物質を得る工程を含む。遺伝子構築物は、まず、ファージ、プラスミド、ファージミド、または他の遺伝子発現ベクターのようなクローニングベクターに遺伝子構築物を融合することにより、宿主細胞内へ、増幅のために組み込まれる。組換えクローニングベクターは、哺乳類、昆虫細胞、酵母または細菌宿主内に形質転換される。好ましい宿主は、E.coliである。組換え遺伝子の宿主内での発現に続き、得られたタンパク質は従来技術を用いて単離され得る。発現されたタンパク質は、共に融合された毒素および輸送体を含み得る。例えば、発現されたタンパク質は、TATに融合されたボツリヌス毒素タイプAの軽鎖を含み得る。いくつかの実施態様において、発現されたタンパク質は、別々に発現され、その後、例えば、リンカーYを介して、化学的につなげられる。
【0102】
本発明の化合物は、また、他の分子と混合され、カプセル化され、結合されまたはさもなければ関連させられることができるか、または、取り込み、分配、および/または吸収を助けるために、例えば、リポソーム、製剤(経口、直腸、局所等)としての化合物の混合物であり得る。
【0103】
局所投与のための製薬化合物および製剤は、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、スプレー、液体および粉末を含むことができる。慣用的な薬剤学的キャリヤー、水性、粉末若しくは油性基剤、増粘剤等が必要であるまたは望ましい。被覆コンドーム、グローブなどもまた有用である。好ましい局所製剤には、本発明の化合物が、例えば、脂質、リポソーム、脂肪酸、脂肪酸エステル、ステロイド、キレート剤および界面活性剤のような、局所送達剤と混合されているものを含む。好ましい脂質およびリポソームは、中性(例えば、ジオレオイルホスファチジルDOPEエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPC、ジステアロイルホスファチジルコリン)、陰性(例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロールDMPG)およびカチオン(例えば、ジオレオイルテトラメチルアミノプロリルDOTAPおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンDOTMA)を含む。本発明の化合物は、リポソーム内にカプセル化されることができ、また、それら、特にカチオン性リポソームと複合体を形成し得る。あるいは、化合物は、脂質、特にカチオン性脂質と複合体化され得る。好ましい脂肪酸およびエステルは、限定はされないが、アラキドン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプリン酸、トリカプリン酸、モノオレイン、ジラウリン、グリセリル1−モノカプラート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、アシルカルニチン、アシルコリンまたはC1―10アルキルエステル(例えば、イソプロピルミリステートIPM)、モノグリセリド、ジグリセリドまたはその医薬的に許容される塩を含む。局所製剤は、1999年5月20日提出、米国特許出願09/315,298に詳細に記載されている(引用により全体が明細書に開示される)。
【0104】
経口投与用の化合物および製剤は、粉または顆粒、マイクロ粒子、ナノ粒子、水または非水系媒体の懸濁液または溶液、カプセル、ゲルカプセル、小さい袋、錠剤またはミニタブレットを含む。増粘剤、香味料、希釈剤、乳化剤、分散助剤、または結合剤も望ましい。好ましい経口製剤は、本発明の化合物を、1またはそれ以上の透過促進界面活性剤およびキレート剤と共に投与されるものである。好ましい界面活性剤は、脂肪酸および/またはエステルまたはそれらの塩、胆汁酸および/またはそれらの塩を含む。好ましい胆汁酸/塩は、ケノデオキシコール酸(CDCA)、ウルソデオキシケノデオキシコール酸(UDCA)、コール酸、デヒドロコール酸、デオキシコール酸、グルコール酸(glucholic acid)、グリコール酸(glucholic acid)、グリコデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、ナトリウムタウロ−24,25−ジヒドロ−フシデートおよびナトリウムグリコジヒドロフシデートを含む。好ましい脂肪酸は、アラキドン酸、ウンデカン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプリン酸、トリカプリン酸、モノオレイン、ジラウリン、グリセリル1−モノカプラート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、アシルカルニチン、アシルコリンまたはモノグリセリドジグリセリドまたはそれらの医薬的に許容される塩(例えば、ナトリウム)を含む。また、例えば、胆汁酸/塩と組み合わせられた脂肪酸/塩のような、透過促進剤との組み合わせも好ましい。特に好ましい組み合わせは、ラウリン酸、カプリン酸およびUDCAのナトリウム塩である。さらに、透過促進剤は、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−20−セチルエーテルを含む。本発明の化合物は、マイクロまたはナノ粒子を形成するために、スプレー化され乾燥させられた粒子、または錯体化を含む粒状形態で、経口的に送達され得る。化合物錯体化剤は、ポリアミノ酸;ポリイミン;ポリアクリラート;ポリアルキルアクリラート;ポリオキシエタン類(polyoxyethane);ポリアルキルシアノアクリラート;カチオン化ゼラチン;アルブミン;澱粉;アクリラート;ポリエチレングリコール(PEG)および澱粉;ポリアルキルシアノアクリラート;DEAE誘導体化ポリイミン、ポルラン(pollulan)、セルロースおよび澱粉を含む。特に好ましい錯体化剤は、キトサン、N−トリメチルキトサン、ポリ‐L‐リジン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリスペルミン、プロタミン、ポリビニルピリジン、ポリチオジエチルアミノ−メチルエチレンP(TDAE)、ポリアミノスチレン(例えばp−アミノ)、ポリ(メチルシアノアクリル酸)、ポリ(エチルシアノアクリル酸)、ポリ(ブチルシアノアクリル酸)、ポリ(イソブチルシアノアクリル酸)、ポリ(イソヘキシルシアノアクリル酸)、DEAE−メタクリラート、DEAE−ヘキシルアクリラート、DEAE−アクリルアミド、DEAE―アルブミンおよびDEAE―デキストラン、ポリメチルアクリラート、ポリヘキシルアクリラート、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(DL−ラクティック−コ−グリコール酸(PLGA)、アルギナートおよびポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0105】
非経口、髄腔内、または脳室内投与用の化合物および製剤は、緩衝液、希釈剤、限定はされないが、例えば、浸透促進剤、担体化合物および他の医薬的に許容される担体または賦形剤のような他の適切な付加物をまた含む滅菌水溶液を含み得る。
【0106】
本発明の医薬化合物は、限定はされないが、溶液、エマルジョン、およびリポソーム−含有製剤を含む。これらの化合物は、限定はされないが、予成形された液体、自己乳化固体、および自己乳化準固体を含む多様な要素から生成され得る。
【0107】
単位投与形態で便利に提供され得る、本発明の医薬製剤は、製薬工業でよく知られている従来技術にしたがって、調製され得る。係る技術には、医薬担体(複数も可)または賦形剤(複数も可)と活性成分を関連に至らせる段階を含む。一般には、一様に、そして親密に、活性成分と液体担体、またはきれいに分割される固体担体、またはその両方を関連させ、そして、必要があれば、製造物を成型して製造される。
【0108】
本発明の化合物は、例えば錠剤、カプセル、ゲルカプセル、液体シロップ、柔らかいゲル、坐薬および浣腸等の多くの可能な投与形態のいずれかに製剤化されることができる。
本発明の化合物は、水性であるか、非水性であるか、または混合媒体中で懸濁液として製剤化されることもできる。水性懸濁液は、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランを含む懸濁液の粘度を上昇させる物質を更に含むことができる。懸濁液は、また安定化剤を含むこともできる。
【0109】
本発明の一実施態様において、医薬化合物は、製剤化され、泡(foam)として使用され得る。医薬的な泡は、限定はされないが、エマルジョン、ミクロエマルジョン、クリーム、ゼリーおよびリポソーム等の製剤を含む。性質は基本的に同じであるが、これらの製剤は、最終産物の成分および一貫性において変化する。係る化合物および製剤の製造は、一般的に、製薬および製材分野の当業者に知られ、本発明の化合物の製剤化に適用され得る。
【0110】
以下の非限定的な実施例は、本分野の普通の技術を有する人に、例示的に適する本発明の実施方法を提供し、本発明の範囲の限定を意図しない。
【実施例】
【0111】
実施例1:BoNT/A−L鎖遺伝子のサブクローニング
この実施例は、BoNT/A−L鎖をコードするポリヌクレオチド配列をクローン化するために、典型的な方法を記載する。BoNT/A−L鎖をコードするDNA配列は、配列5’−AAAGGCCTTTTGTTAATAAACAA−3’(配列番号33)、そして、5’−GGAATTCTTACTTATTGTATCCTTTA−3’ (配列番号34)を有する合成オリゴヌクレオチドを使用するPCRプロトコルにより増幅することができる。これらのプライマーの使用により、BoNT/A−L鎖遺伝子断片の5’および3’端それぞれに、StuIおよびEcoRI制限サイトの導入を可能とする。これらの制限部位を、続いて増幅産物の単一方向性のサブクローニングを容易化するために使用する。さらに、これらのプライマーは、L鎖コード配列のC−末端で終止コドンを導入する。C.botulinum(63A株)由来の染色体DNAを、増幅反応の鋳型として用いることができる。
【0112】
PCR増幅反応を、10mM Tris-HCl (pH 8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2、それぞれ0.2mMのデオキシヌクレオチド三リン酸 (dNTP)、50pmolのそれぞれのプライマー、200ngのゲノムDNAおよび2.5単位のTaqポリメラーゼ(Promega)を含む0.1mL体積中で行う。反応混合物を、変性(94℃、1分)、アニーリング(37℃、2分)および伸長(72℃、2分)の35サイクルにかける。最後に、反応を72℃でさらに5分間延長する。
【0113】
PCR増幅産物をStuIおよびEcoRIで消化することができ、アガロースゲル電気泳動で精製し、SmaIおよびEcoRIで消化したpBluescript II SK+に連結し、プラスミドpSALを得る。このプラスミドを有する細菌の形質転換体を標準的な手法で単離する。クローン化されたL鎖ポリヌクレオチドの同一性をSEQUENASE(United States Biochemicals)を用い、製造者指示書に従い、2本鎖プラスミドシークエンシングにより確認する。合成オリゴヌクレオチドシークエンシングプライマーを重複するシークエンシング試行を成し遂げるために必要なように調製する。クローンのシークエンスは、Binz, et al., J. Biol. Chem. 265, 9153 (1990), および Thompson et al., Eur. J. Biochem. 189, 73 (1990)で開示される配列と同一であることが見出される。また、BoNT/A−L鎖の酵素活性を脆弱化するように設計される、部位特異的変異体を作成する。
【0114】
実施例2:ボツリヌス毒素タイプA−L(BoNt/A-L)鎖融合タンパク質の発現
本実施例は、pCA-Lプラスミドを有する細菌において、毒素として働き得る、野生型L鎖の発現を証明する例示的な方法を記載する。よく単離されたpCALを有する細菌のコロニーを0.1mg/mlアンピシリンおよび2%(w/v)グルコースを含むL-培養液に接種するために用い、30℃で振盪し、一晩生育する。一晩培養したものを0.1mg/mlアンピシリンを含む新たなL-培養液中1:10に希釈し、2時間インキュベーションする。融合タンパク質の発現を、IPTGを最終濃度0.1mMで添加することにより誘導する。30℃でさらなる4時間インキュベーションの後、細菌を6,000 x g、10分で遠心することにより回収する。
【0115】
小スケールのSDS-PAGE分析は、IPTG誘導細菌由来のサンプルにおいて90KDaのタンパク質バンドの存在を確認した。このMrは、MBP(〜40KDa)およびBoNT/A-L鎖(〜50kDa)成分を有する融合タンパク質の予想されたサイズと一致する。さらに、対照培養から単離されたサンプルと比較すると、IPTG誘導クローンは、十分大量の融合タンパク質を含んでいた。
【0116】
IPTG誘導細菌抽出物における望ましい融合タンパク質の存在を、また、Cenci di Bello et al., Eur. J. Biochem. 219, 161 (1993)に記載されている、ポリクローナル抗L鎖プローブを用いるウェスタンブロッティングによって確認する。PVDF膜(Pharmacia; Milton Keynes, UK)上の反応性バンドを、セイヨウワサビペルオキシダーゼを結合した抗ウサギ免疫グロブリン(BioRad; Hemel Hempstead, UK)およびECL検出システム(Amersham, UK)を用いて可視化する。ウェスタンブロッティングの結果は、完全長の融合タンパク質より低Mrのタンパク質に相当するいくつかの薄いバンドと共に、融合タンパク質の顕著な存在を確認した。この観察は、細菌内または単離工程の間に融合タンパク質の制限分解が起きることを示唆した。単離工程の間に1mMまたは10mMのベンズアミジン(Sigma; Poole, UK)の使用により、このタンパク質分解は排除されなかった。
【0117】
上記手法により単離された無傷の融合タンパク質の産生は、本明細書に記載される全ての手法のために十分適切である。染色されたSDS-PAGEゲルからの評価に基づくと、IPTGで誘導された細菌クローンは、培養液のリッターあたり、5-10mgの全MBP-野生型または変異L鎖融合タンパク質を産生する。よって、本明細書で開示されたBoNT/A-L鎖融合タンパク質の製造方法は、起こり得る制限タンパク質分解にもかかわらず、十分効率的である。
【0118】
pCALおよびpCAL-TyrU7発現プラスミドによってコードされるMBP-L鎖融合タンパク質は、アミロースアフィニティークロマトグラフィーによって、細菌から精製される。組換え野生型または変異型L鎖は、その後、因子Xを用いる部位特異的切断により、融合タンパク質の糖結合ドメインから離される。この切断工程は遊離のMBP、遊離のL鎖および少量の未切断融合タンパク質を生じる。係る混合物中に存在する得られたL鎖は望ましい活性を有することが示されてきているが、更なる精製工程を採用し得る。
したがって、切断産物の混合物をMBPと未切断融合タンパク質の両方を結合する第2のアミロースアフィニティーカラムに供する。遊離のL鎖はそのアフィニティーカラム上には保持されず、以下に記載される実験において使用されるために単離される。
【0119】
いくつかの実施態様において、本発明の化合物は、本明細書に提示されるものと同様の技術を用いて合成され得る。例えば、輸送体に結合された軽鎖を含む本発明の化合物は、本明細書で提示されるものと同様の技術を用いて合成され得る。
【0120】
実施例3:融合タンパク質の精製および組換えBoNT/A-L鎖の単離
本実施例は、細菌クローン由来組換えBoNT/A軽鎖の生産および精製方法を記載する。
野生型BoNT/A-L鎖タンパク質を発現するバクテリアの1リットルの培養菌からのペレットを、1mMのフェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)および10mMのベンズアミジンを含むカラムバッファー〔10mM Tris-HCl(pH8.0)、200mM NaCl、1mM EGTAおよび1mM DTT]において、再懸濁し、音波処理によって溶解する。溶解物を15,000 x g、4℃、15分で遠心することにより除く。上清をアミロースアフィニティーカラム[2x10cm、30ml レジン](New England BioLabs; Hitchin, UK)に供する。非結合タンパク質をカラムバッファーを用いて、280nmでの安定した吸光度の読み取りにより判断される、溶出液がタンパク質を存在しなくなるまで、レジンから洗浄する。結合MBP-L鎖融合タンパク質は、続いて10mMマルトースを含むカラムバッファーを用いて溶出する。融合タンパク質を含む画分を集め、150mM NaCl、2 mM CaCl2および1mM DTTを補充した20mM Tris-HCl(pH 8.0)に対し72時間、4℃で透析する。
【0121】
融合タンパク質を、150mM NaCl、2 mM CaCl2および1mM DTTを補充した20mM Tris-HCl(pH 8.0)緩衝液に対して透析している間、因子X(Promega; Southampton, UK)を用いて、酵素:基質比1:100で切断する。透析を24時間、4℃で行う
。切断工程から得られるMBPおよび野生型または変異型のいずれかのL鎖の混合物を、カラムバッファーで平衡化した10mlのアミロースカラム上に載せる。画分を通した流出のアリコートを、L鎖を含むサンプルを同定するSDS−PAGE分析のために調製する。画分を通した流出の残りの部分は、-20℃で保存する。全E.coli抽出物または精製タンパク質をSDSサンプルバッファーに溶解し、標準的な手法によりPAGEに供する。本処置の結果は、組換え毒素段終えんは、サンプルのタンパク質量の約90%であることを示す。
【0122】
上記結果は、本明細書で記載したMBP-L鎖融合タンパク質の作成手法が、十分に野生型および変異型組換えBoNT/A-L鎖を生産するために用いることができることを示す。さらに、本結果は、組換えL鎖を融合タンパク質のマルトース結合ドメインから切り離し、その後精製することを示す。
【0123】
感度のよい抗体に基づく試験を、組換えL鎖産物とそれらの天然相当物の酵素活性を比較するために開発する。試験には、BoNT/A切断部位に相当するSNAP-25の無傷のC末端領域に特異的な抗体を使用する。SNAP-25のBoNT/A切断反応産物のブロッティングは、抗体がSNAP-25サブフラグメントに結合できないことを示した。よって、以下の実施例で使用される抗体は、無傷のSNAP-25のみを検出した。抗体結合の損失は、BoNT/A軽鎖またはそれらの組換え誘導体の添加により媒介されるSNAP-25のタンパク質分解の指標として機能する。
【0124】
実施例5:組換えL鎖のSNAP-25基質に対するタンパク質分解活性の評価
天然および組換えBoNT/A-L鎖の両方は、SNAP-25基質を分解できる。定量的な試験を、野生型およびそれらの組換えアナログがSNAP-25基質を切断する能力を比較するために使用することができる。この試験のために使用される基質は、pGEX-2Tベクターを用いて発現され、グルタチオンアガロースアフィニティークロマトグラフィーによって精製される、トロンビン切断部位を含む、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−SNAP-25融合タンパク質を調製することにより得られる。その後、SNAP-25は、150mM NaClおよび2.5mM CaCl2を含む50mM Tris-HCl(pH 7.5)において(Smith et al. Gene 67, 31 (1988))、酵素:基質比1:100で、トロンビンを用いて、融合タンパク質から切り離される。切断されない融合タンパク質および切断されたグルタチオン結合ドメインはゲルに結合する。組換えSNAP-25タンパク質を後者の緩衝液を用いて溶出し、100mMHEPES(pH7.5)に対し、4℃、24時間で透析する。全タンパク質濃度は、通常の方法で測定する。
【0125】
SNAP-25のC末端領域に特異的なウサギポリクローナル抗体を、アミノ酸配列
CANQRATKMLGSG(配列番号35)
を有する合成ペプチドに対して立ち上げる。このペプチドは、シナプス原形質膜の195から206残基に相当し、N末端システイン残基は天然のSNAP-25に認められない。抗原性を改善するために、合成ペプチドを架橋化合物としてマレイミドベンゾイル−N―ヒドロキシ・スクシンイミド・エステル(MBS)(Sigma; Poole, UK)を使用して、ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma; Poole, UK)に結合する(Liu et al., Biochemistry 18, 690 (1979))。抗ペプチド抗体のアフィニティー精製を、架橋剤エチル3−(3−ジメチルプロピル(dimethytpropyl))カルボジイミドを用いてヨード酢酸で活性化された、アミノアルキルアガロースレジン(Bio-Rad; Hemel Hempstead, UK)に抗原ペプチドをそのN末端システイン残基を介して結合させているカラムを用いて実施した。25mM Tris-HCl(pH 7.4)および150mM NaClを含む緩衝液で連続してカラムを洗浄した後、ペプチド特異的抗体を100mM グリシン(pH 2.5)および200mM NaClの溶液を用いて溶出し、そして、0.2mlの1M Tris-HCl(pH 8.0)中和緩衝液を含むチューブ中に集める。
【0126】
野生型L鎖を含む全ての組換え調製物は、それらの酵素活性を評価する前に、0.02%のルブロールおよび10μM酢酸亜鉛を含む100mM HEPES(pH 7.5)中で、4℃一晩透析する。そして、予め20mM DTTで37℃、30分間還元したBoNT/A並びに透析されたサンプルを1mM DTTを補充した後者のHEPES緩衝液中に相違する濃度に希釈する。
【0127】
反応混合物は、5μlの組換えSNAP-25基質(最終濃度8.5μM)および、20μlの還元BoNT/Aまたは組換え野生型L鎖のどちらかを含む。全てのサンプルを、25μlの水性2%トリフルオロ酢酸(TFA)および5mM EDTAで反応を停止する前、37℃、1時間インキュベーションする(Foran et al. (1994, Biochemistry 33, 15365)。それぞれのサンプルのアリコートを、SDS-PAGEサンプルバッファーを添加し、煮沸することにより、SDS-PAGEおよびポリクローナルSNAP-25抗体を用いたウェスタンブロッティングのために調製する。抗SNAP-25抗体反応性を、ECL検出システムを用いてモニターし、デンシトメトリースキャンによって定量化する。
【0128】
ウェスタンブロッティング結果は、精製変異型L鎖および、天然または組換え野生型BoNT/A-L鎖のどちらかの間の明確な相違を示す。特に、処置において陽性対照として供される還元されたBoNT/A天然L鎖より若干効率的ではないが、組換え野生型L鎖はSNAP-25基質を切断する。よって、BoNT/A-L鎖の酵素的活性形態は、組換え手段およびそれに続く単離によって生じる。さらに、L鎖タンパク質の単一アミノ酸の置換は、シナプス終末タンパク質を分解する組換えタンパク質の活性を無効にした。
【0129】
野生型組換えBoNT/A-L鎖の生物活性の予備的な試験として、MBP-L鎖融合タンパク質のジギトニン透過ウシ副腎クロム親和性細胞からのCa2+惹起カテコールアミン放出を低減させる活性を検討する。一貫して、野生型組換えL鎖融合タンパク質は、無傷のまま、または遊離のMBPおよび組換えL鎖を含む混合物を生成する因子Xで切断されても、天然BoNT/Aによる阻害と同等の、濃度依存的なCa2+惹起放出の阻害を導いた。
【0130】
実施例6:神経筋疾患の処置方法:痙性斜頸の処置
典型的な頭の異常逸脱、あごが側方へ回転し、そして肩は頭が回転している側に向かって上がる、けいれん性の、または緊張性の首筋肉組織の収縮によって徴候が示される、痙性斜頸に罹患した45歳男性に、本発明の神経毒素(例えば、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド配列番号5を含む輸送体に結合させたボツリヌス毒素タイプA)約8U/kgから約15U/kgを注射することによって処置する。3-7日後、症状は顕著に緩和され;例えば、患者は頭および肩を正常位置に維持できる。緩和は約7ヶ月から約27ヶ月まで持続する。
【0131】
実施例7:痛みを処置する方法
A)筋肉疾患に関係する痛みの処置
不幸にも36歳の女性は、側頭下顎骨関節疾患、および咬筋と側頭筋に沿っての慢性痛の15年の病歴を有する。評価前の15年、痛み、顎の開け閉めに関連する顎の不動の進展、顔のそれぞれの側面に沿った圧痛に気づいた。元々左側が右側よりも悪いと考えた。彼女は、関節の不全脱臼を伴う側頭下顎骨関節(TMJ)障害として診断され、外科的オルト移植関節半月除去術(surgical orthoplasty meniscusectomy)および関節丘切除術により処置される。
【0132】
彼女は、外科的処置後も顎の開け閉めが困難であり、この理由により、数年後、両側の人工関節を交換する外科的処置を実施する。その外科的処置後も進行するけいれんと顎の脱落が起こる。さらに、外科的見直しが、人工関節の緩みを矯正するために、最初の手術に続いて実施される。これらの外科的処置の後、顎は引き続きかなりの痛みと不動を示す。TMJは、筋肉と同様に、圧痛をとどめた。側頭下顎骨関節上に圧痛があり、そして、その傾向は、筋肉全体に拡大する。彼女は、術後筋筋膜疼痛症候群と診断され、修飾神経毒素(例えば、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド配列番号5を含む輸送体に結合させたボツリヌス毒素タイプA)の約8U/kgから約15U/kgを注射される。
【0133】
注射数日後、彼女は、痛みの顕著な改善に気づき、顎が自由になるように感じることを報告する。これは2から3週間に渡り徐々に改善し、その間、彼女は、顎を開ける能力が改善されること、そして痛みの減少を気づく。患者は、痛みは最近4年間のいつよりも良好であると述べる。この改善された状況は、修飾神経毒素の最初の注射から27ヶ月後まで持続する。
【0134】
(B)脊髄損傷に続く痛みの処置
脊髄損傷に続く痛みを経験している39歳の患者に、修飾神経毒素(例えば、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド配列番号5を含む輸送体に結合させたボツリヌス毒素タイプA)の約0.1U/kgから約10U/kgを、例えば、脊椎穿刺による、または、脊髄へのカテーテル(持続投与のための)による、髄腔内投与により処置される。毒素投与の頻度と同様に、特定の毒素の用量および注射部位は、以前に説明したように、処置する医師の技術の範囲内で、多様な要因に依存する。修飾神経毒素の注射後約1から約7日の間は、患者の痛みは顕著に低減する。痛みの緩和は27ヶ月まで持続する。
【0135】
実施例8:自律神経疾患を処置する方法;過剰発汗の処置
片側性の過剰発汗を示す65歳の男性を、望まれる効果の程度に応じて、0.05U/kgから約2U/kgの修飾神経毒素の投与により処置する。修飾神経毒素の例は、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)を含む輸送体に結合させたボツリヌス毒素タイプAを含む。投与を、腺神経叢(gland nerve plexus)、神経節、脊髄または中枢神経系に行う。投与部位は、標的腺および分泌細胞の解剖学および生理学についての医師の知識によって決定される。さらに、適切な脊髄レベルまたは脳領域に、毒素を注射することができる。修飾神経毒素処置後の過剰発汗の停止は27ヶ月まで持続する。
【0136】
多様な文献と特許が本明細書に引用されている。これら引例の開示は、引用することによってその全てが本明細書に組み込まれる。その開示が、引用されることによって、その全てが本明細書に組み込まれる他の引例は、Kabouridis P.. Biological applications of protein transduction technology, Trends in Biotechnology, Vol 21 No 11 November 2003; Morris et al., Translocating peptides and proteins and their use for gene delivery, Current Opinion in Biotechnology 2000, 11:461-466; Fernandez-Salas et al., Is the light chain subcellular localization an important factor in botulinum toxin duration of action?, Movement Disorders, Vol 19 Supp 8, 2004, pp. S23-S24; Fernandez-Salas et al., Plasma membrane localization signals in the light chain of botulinum toxin, PNAS, March 2004, Vol 101 No 9; Will et al., Unmodified Cre recombinase crosses the membrane, Nucleic Acids Research, 2002 Vol 30 No 12 e59; Pepperl-Klindworth et al., Gene Therapy 2003, Vol 10, 278-284; Langedijk et al., Molecular Diversity, Vol 8, 101-111 2004; Noguchi et al., PDX-1 protein containing its own Antennapedia-like protein transduction domain can transduce pancreatic duct and islet cells, Diabetes, Vol 52, 1732-1737, 2003を含む。
【0137】
本発明は、種々の特定の実施例および実施態様に関して記載されているが、本発明はそれらに制限されることはなく、以下の特許請求の範囲と共に多様に実施されることができると理解されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質形質導入ドメインを含む輸送体に結合される毒素を含む化合物。
【請求項2】
1以上の毒素が輸送体に結合される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
毒素が1以上の輸送体に結合される、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
毒素が、ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、F、Gまたはそれらの混合物の軽鎖を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
毒素が、ボツリヌス毒素タイプAの軽鎖を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
毒素が、(i)ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、F、またはGの軽鎖、および(ii)ボツリヌス毒素タイプA、B、C、D、E、F、Gまたはそれらの部分の重鎖を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
輸送体が、毛様体神経栄養因子、カベオリン、インターロイキン1ベータ、チオレドキシン、線維芽細胞成長因子−1、線維芽細胞成長因子−2、ヒトベータ−3、インテグリン、ラクトフェリン、エングレイルド、Hoxa−5、Hoxb−4またはHoxc−8である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
輸送体が、ペネトラチンペプチド、カポジ線維芽細胞成長因子膜輸送配列、核局在シグナル、トランスポータン、単純ヘルペスウィルスタイプ1タンパク質22、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
輸送体が、カポジ線維芽細胞成長因子膜輸送配列(配列番号1)、核局在シグナル(配列番号2)、トランスポータン(配列番号3)、単純ヘルペスウィルスタイプ1タンパク質22(配列番号4)、およびヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)からなる群から選択されるペプチドを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
輸送体が、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
輸送体が、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15および配列番号16からなる群から選択される、ペネトラチンペプチドを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
毒素がボツリヌス毒素の軽鎖を含み、そして輸送体が、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
さらにプロテアーゼ切断ドメインを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
プロテアーゼ切断ドメインが、血液プロテアーゼの基質である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
血液プロテアーゼが、トロンビン、凝固因子Xa、凝固因子XIa、凝固因子XIIa、凝固因子IXa、凝固因子VIIa、カリクレイン、プロテインC、MBP-関連セリンプロテアーゼ、オキシトシナーゼ、ADAM-TS13、またはリジンカルボキシペプチダーゼである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
毒素が、ボツリヌス毒素タイプの軽鎖を含み、輸送体が、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)を含み、そして、タンパク質切断ドメインが、トロンビンの基質であり、プロテアーゼ切断ドメインをさらに含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項17】
さらに標的化部分を含む、請求項1−16のいずれかに記載の化合物。
【請求項18】
毒素がボツリヌス毒素タイプAの軽鎖を含み、そして輸送体が、ヒト免疫不全ウィルス転写活性化タンパク質ペプチド(配列番号5)を含む、輸送体に結合された毒素を含む化合物。
【請求項19】
化合物が、さらに標的化部分を含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
化合物が、さらにプロテアーゼ切断ドメインを含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項21】
毒素を含む化合物を、細胞膜を横切って輸送する方法であって、毒素をタンパク質形質導入ドメインを含む輸送体に結合することを含む方法。
【請求項22】
患者の生物学的障害を処置する方法であって、請求項1に記載の化合物をその必要がある患者に局所投与することを含む方法。
【請求項23】
生物学的障害が、神経筋疾患、自律神経障害および痛みの少なくとも1つを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
神経筋疾患の処置が、請求項1に記載の化合物を一群の筋肉に局所投与する工程を含む、請求項23に記載の生物学的障害の処置方法。
【請求項25】
自律神経障害の処置が、請求項1に記載の化合物を腺に局所投与する工程を含む、請求項23に記載の生物学的障害の処置方法。
【請求項26】
痛みの処置が、請求項1に記載の化合物を痛みの部位に投与する工程を含む、請求項23に記載の生物学的障害の処置方法。
【請求項27】
痛みの処置が、請求項1に記載の化合物を脊髄に投与する工程を含む、請求項23に記載の生物学的障害の処置方法。

【公表番号】特表2008−508364(P2008−508364A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525017(P2007−525017)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/027850
【国際公開番号】WO2006/060044
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】