説明

保存性に優れた炭酸飲料

【課題】炭酸飲料の微生物汚染に対して、炭酸飲料中でのその汚染菌の増殖あるいは生育を抑止することにより、保存性に優れた炭酸飲料を提供する事。
【解決手段】キク科カワラヨモギ(学名:Artemisia capillaris Thunb.)から得られたカワラヨモギ抽出物を炭酸飲料に含有することにより、汚染菌による腐敗、変敗を抑止できる炭酸飲料を提供できる。この炭酸飲料は包装容器内の二酸化炭素分圧が98kPa(20℃)以上であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保存料としてカワラヨモギ抽出物が使用されることを特徴とする炭酸飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者志向の多様化により、近年の飲料製造における環境は小ロット多品種製造の傾向にある。このような状況下では同一設備で多品種の商品を製造するため製造ラインが複雑になり、微生物汚染のリスクが拡大する。緑茶やウーロン茶などの中性飲料、果実飲料、乳性飲料などにおいては、加熱殺菌後の熱間充填や無菌充填により製造されるが、コーラやサイダー、無果汁炭酸飲料などの炭酸飲料においては包装容器内の二酸化炭素分圧(ガス内圧力)が20℃で98kPa以上であって、かつ、植物または動物の組成成分を含有しないものにあっては通常無殺菌で製造されるため、製造時の微生物汚染に対しては保存料の添加などにより対策が施されている。
【0003】
食品衛生法によれば、指定添加物に分類される保存料(合成保存料)には使用基準が設定されている。清涼飲料には安息香酸及びその塩あるいはパラオキシ安息香酸エステル類が使用でき、主に安息香酸ナトリウムが使用されている。
【0004】
しかし、非特許文献に記載されているように、一部の微生物、特にZygosaccharomyces bailiiRhodotorula sp.、Saccharomyces roseiBrettanomyces intermediusなどの酵母は安息香酸やプロピオン酸、ソルビン酸などの酸性保存料あるいは炭酸ガスに対して耐性を有しているものが多く、またCandida sp.は二形成を生じやすいため、これらの酵母に対しては保存料で増殖を抑止することは極めて困難である。
【0005】
また、食品の安全性に対する関心は近年ますます高まり、加工食品を製造する際の食品添加物についても安全性に関心が寄せられている。食品添加物については食品衛生法によって使用基準が定められており、またその安全性に関しては十分な試験が行なわれているが、食品販売業者や消費者の間では合成食品添加物に対して敬遠する動きが顕著となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】醤研 Vol.33, No.5, 2007, p.349−362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術に存した上記のような問題に鑑みて行われたものであり、微生物の汚染に対してその増殖を抑止し、保存性に優れた炭酸飲料を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、天然物であるカワラヨモギ抽出物を炭酸飲料に使用することによって微生物汚染に対して抑止効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、微生物に対して高い増殖抑止効果を有する炭酸飲料を提供でき、当該発明により炭酸飲料の商品価値の向上、微生物汚染による事故の防止、殺菌工程の簡略化によるエネルギー使用量の低減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明において、炭酸飲料とは炭酸ガスを含んだ飲用の液体の総称である。ソフトドリンク(清涼飲料水)における炭酸飲料の規格としては、例えば日本農林規格によれば、飲用適の水に二酸化炭素を圧入したもの、あるいはこれに甘味料、酸味料、フレーバリング等を加えたものと規定されており、その二酸化炭素分圧は炭酸飲料の区分によって規定が異なるものの、例えば果汁、果汁ピューレ、乳又は乳製品を加えたもの並びに果汁又は果汁ピューレを加えずに果実又は果汁を印象付ける色及び香りを付けた炭酸飲料に関しては20℃で0.07MPa以上であると規定されている。本発明における炭酸飲料の二酸化炭素分圧に関しては特に限定はされないが、通常無殺菌で製造されることより98kPa(0.098MPa)以上であることが好ましい。
【0012】
本発明で炭酸飲料に使用されるカワラヨモギ抽出物において、カワラヨモギは植生しているカワラヨモギの地上部を使用するとよく、乾燥した花穂を使用することが好適である。
【0013】
カワラヨモギ抽出物は、カワラヨモギを溶媒に浸漬した後、溶媒を分別することで得られ、必要に応じて溶媒を留去することによって得られる。また、カワラヨモギあるいはその抽出エキスを水蒸気に暴露し、この水蒸気を回収することによって得ることができる。
【0014】
カワラヨモギを浸漬する溶媒には、一価又は多価アルコール、ケトン類、エーテル類、炭化水素等の有機溶媒、植物油や動物油脂等の油脂類、水を単独又は混合して使用するとよい。
【0015】
また、カワラヨモギ抽出物による抗菌性はカワラヨモギの精油中に含まれるカピリンによって発揮されることから、公知の精製方法によりカピリン純度を高めたものを使用してもよい。
【0016】
本発明においてカワラヨモギ抽出物を使用した炭酸飲料の製造法に関しては、その製造法の如何を問わず、カワラヨモギ抽出物を炭酸飲料に均一に混合することができれば良いが、好ましくはカワラヨモギ抽出物をエタノールやプロピレングリコールなどの溶媒あるいはグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤により炭酸飲料に均一に混合すると良い。
【0017】
本発明で炭酸飲料に含有されるカワラヨモギ抽出物の濃度は特に限定されるものではないが、精油成分のカピリンが炭酸飲料中に0.000001〜0.01重量%、好ましくは0.00001〜0.001重量%含有しているとよい。
【0018】
また、本発明に係る炭酸飲料は、必要に応じて他の保存料や日持向上剤を併用しても良い。例えば、ソルビン酸及びその塩、安息香酸及びその塩、デヒドロ酢酸及びその塩、パラオキシ安息香酸エステル類、プロピオン酸及びその塩、酢酸ナトリウム等の有機酸塩、エタノール、グリシン、ポリリジン、プロタミン、リゾチーム、キトサン、ペクチン分解物、ユッカ、カラシ、ワサビ、ホップ、孟宗竹等の植物抽出物、ヒノキチオールやナタマイシン、ナイシン等が例示される。これら各種の保存料や日持向上剤を二種以上選択して併用しても良い。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示し本発明を説明するが、その要旨を超えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0020】
(製造例)
乾燥したカワラヨモギの花穂1000gに水蒸気を吹き込み、回収した水蒸気よりカワラヨモギ抽出物5.3gを得た。このカワラヨモギ抽出物中のカピリン含有量は35重量%であった。このカワラヨモギ抽出物をプロピレングリコールに加熱溶解し、カピリン1.0重量%含有の組成物を調製した。なお、カワラヨモギ抽出物中のカピリン含有量は、高速液体クロマトグラフィーによる分析によって定量した。

高速液体クロマトグラフィーの分析条件
(株)島津製作所製 LC−10Aシステム
カラム:島津製作所製 FC−ODS
4.6mmI.D.×75mmL
移動相:0.5%酢酸水溶液55容量%+エタノール45容量%、0.9mL/min
検出器:UV280nm
試 料:移動相により10%に希釈、20μL注入
【0021】
(実施例1〜4、比較例)
製造例で作製した組成物を使用し、表1に示した実施例及び比較例の炭酸飲料を調製した。調製した炭酸飲料のpHは2.7〜2.8、二酸化炭素分圧は190〜200kPaであった。なお、炭酸飲料のpHはガラス電極法にて、二酸化炭素分圧は炭酸飲料の日本農林規格に記載の方法で測定した。
【0022】
【表1】

【0023】
(抗菌性の評価)
調製した炭酸飲料の抗菌性は酵母の強制接種試験により判定した。調製した実施例1〜4の炭酸飲料及び比較例の炭酸飲料にSaccharomyces cerevisiae又はCandida albicansの菌体を接種した。菌体を接種した炭酸飲料は炭酸ガスの漏洩を防ぐ為に密栓した後、25℃条件で保管し、0日後、7日後、14日後に生菌数を測定した。各測定日の酵母の生菌数を表1に示した。
【0024】
表1より、実施例で調製したカワラヨモギ抽出物配合炭酸飲料ではいずれも比較例に示した保存料無添加の炭酸飲料に比べ、有意に酵母の発育を抑制し、保存性が優れている事が確認でき、その効果は炭酸飲料中のカピリン濃度が0.000002重量%と低濃度でも発揮される事が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば微生物汚染による炭酸飲料の腐敗、変敗を抑制することにより保存性に優れた飲料を提供することができ、炭酸飲料の商品価値の向上及び微生物汚染による事故を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カワラヨモギ抽出物を含有することを特徴とする炭酸飲料。
【請求項2】
包装容器内の二酸化炭素分圧が98kPa(20℃)以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭酸飲料。