保水構造体
【課題】保水構造体の蒸発効率をさらに高める。
【解決手段】保水構造体10は、保水性を有する保水体の集合体であり、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面などに確保された施工対象面Pに敷設されている。保水構造体10を構成する集合体は、第1の保水体20および第2の保水体22をそれぞれ複数含む。第1の保水体20および第2の保水体22はともに多孔質セラミックスである。第2の保水体22は、第1の保水体20に比べて保持された水の蒸発性が高い。
【解決手段】保水構造体10は、保水性を有する保水体の集合体であり、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面などに確保された施工対象面Pに敷設されている。保水構造体10を構成する集合体は、第1の保水体20および第2の保水体22をそれぞれ複数含む。第1の保水体20および第2の保水体22はともに多孔質セラミックスである。第2の保水体22は、第1の保水体20に比べて保持された水の蒸発性が高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水体を用いた保水構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が郊外部に比べて高くなる現象、いわゆるヒートアイランド現象がますます顕著となりつつある。ヒートアイランド現象は、熱中症・睡眠障害など健康への影響を引き起こすだけでなく、空調などの電気設備の負荷増加を招くことにより、エネルギー消費量を増加させる。
【0003】
また、ヒートアイランド現象は、近年、都市部で局所的に大雨が降る現象、いわゆるゲリラ豪雨の要因ともいわれている。特に都市部では、地面の大部分がアスファルトやコンクリートで舗装されているため、雨水を吸収することができない。ゲリラ豪雨が発生した場合、短時間で許容量を超える雨水が下水道や河川に流入し、都市部に特徴的な水害である都市型洪水が発生する。以上の諸問題を防止するために、ヒートアイランド現象緩和策が切望されている。
【0004】
都市空間は、すでに地上・地下とも過密利用されている。そのため、ヒートアイランド現象の緩和技術として、利用率の低いビルの屋上の有効活用に期待が寄せられている。そのひとつに、建物の屋上に芝生等を敷設する屋上緑化の試みがある。しかし、屋上緑化は、施工費用や維持管理の問題から、十分な普及には至っていない。また、屋上緑化された設備は、雨水を保水する能力がそれほど高いわけではなく、都市型水害の緩和にはあまり役に立っていなかった。
【0005】
そのため、より大量の雨水を貯留して都市型洪水を抑制する新たな技術が求められている。この技術は、また、貯留した雨水を晴天時に蒸発させ、蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑え、ヒートアイランドを緩和できればより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ビルの屋上などに敷設することができ、保水性と蒸発性を兼ね備えた保水セラミックス、およびこの保水セラミックスを敷き詰める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、保水性および蒸発性が同様な保水セラミックスが敷き詰められていた。一般に、保水性セラミックスの蒸発性を高めると保水性が低減する。このため、従来の技術では、保水性と蒸発性を両立させ難く、保持された水をより効率的に蒸発させることが困難であるという課題があった。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保水構造体の蒸発効率をさらに高めることができることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、保水構造体である。当該保水構造体は、保水性を有する保水体の集合体として施工対象面に敷設される保水構造体であって、集合体は、第1の保水体と、第1の保水体に比べて保持された水の蒸発性が高い第2の保水体とを含むことを特徴とする。
【0011】
この態様の保水構造体によれば、蒸発性が相対的に高い第2の保水体によって保持された水の蒸発が促進される。第2の保水体によって保持された水の蒸発が速やかに進行することで、第1の保水体から第2の保水体に保持された水の移動が進み、第2の保水体において第1の保水体から移動した水の蒸発も進行する。この結果、保水構造体全体として、保水性を損なうことなく、蒸発効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保水構造体の蒸発効率をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図2】実施例の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図3】比較例の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図4】(a)図は、試験体1を示す模式的な断面図、(b)図は試験体1〜3のスラブ下温度の経時変化を示すグラフである。
【図5】試験体1,3のスラブ表面温度の経時変化を示すグラフである。
【図6】(a)図は試験体4を示す模式的な断面図、(b)図は試験体4,5の上方大気温度の経時変化を示すグラフである。
【図7】ケース1〜3の初期及び維持費用を比較するグラフである。
【図8】本発明の保水用セラミックスと芝生の試験期間内の蒸散・吸水量を対比して示すグラフである。
【図9】本発明の保水用セラミックスと芝生の蒸散量と吸水量の累計を対比して示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、パレット上の保水用セラミックスの積重状態を示す模式図である。
【図11】第1の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【図12】第2の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【図13】第3の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【図14】第4の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(前提技術)
はじめにまず、本発明の各実施の形態に好適に使用できる保水用セラミックスを、前提技術として説明する。当該保水用セラミックスは、特開2010−100513号公報に開示されている。前提技術として説明する保水用セラミックスに関連する記載において、「本発明」「実施例及び比較例」などの語句は、それぞれ「特開2010−100513号公報の発明」「特開2010−100513号公報の実施例及び比較例」などを示すものとする。
【0015】
[保水用セラミックス]
本発明の保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなる。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0016】
好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。
特に、本発明の保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の10〜70%、特には15〜50%が孔径15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。
【0017】
本発明の保水用セラミックスの全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用セラミックスの全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用セラミックスの実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0018】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0019】
この保水用セラミックスは、1〜1200cm3特に1〜200cm3とりわけ20〜100cm3程度の大きさであることが好ましい。この大きさのものは、屋上や庭などに敷き詰め易い。保水用セラミックスの形状は球形、楕円球状(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0020】
この保水用セラミックスを好ましくは厚さ2〜20cm特に8〜15cm程度に厚く敷き詰めることにより、保水用セラミックス層全体の保水容量が増大し、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときでも、水を十分に保水することができる。従って、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、都市型洪水を防止することも可能となる。
【0021】
また、この保水用セラミックスから、水が蒸発するときの蒸発潜熱により冷却が行われるので、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、ヒートアイランド現象を防止することが可能となる。
【0022】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用セラミックスが割れることは殆どない。
【0023】
この保水用セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO2:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al2O3:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
Na2O及びK2Oの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0024】
かかるソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0025】
なお、湿潤状態にある保水用セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを保水用セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0026】
本発明の保水用セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0027】
[保水用セラミックスの製造方法]
次に本発明の保水用セラミックスの好適な製造方法について説明する。
【0028】
この保水用セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメント及び粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0029】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0030】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO2、Al2O3、Na2O+K2Oの割合が前述となるように選択して用いる。
【0031】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。
【0032】
このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0033】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm特に20〜30μm程度のものが好適である。
【0034】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0037】
[保水用セラミックスの応用例及びその効果]
本発明の保水用セラミックスは、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質セラミックスであり、雨水を吸水することにより治水し、また、吸水した水を日射によって蒸散させる性能を有する。
従って、本発明の保水用セラミックスを、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0038】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO2削減:
本発明の保水用セラミックスをビル屋上に敷設することにより、保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
この結果、CO2の排出量の削減も可能となる。
【0039】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
本発明の保水用セラミックスは、芝生等の植物と同様の保水、冷却性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、本発明の保水用セラミックスによれば、この問題を解決できる。
【0040】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
本発明の保水用セラミックスは、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、本発明の保水用セラミックスを適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0041】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
本発明の保水用セラミックスは、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用セラミックスを各所に敷設することにより、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
また、本発明の保水用セラミックスは、芝生と比較して高い蒸散能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0042】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
本発明の保水用セラミックスは、芝生と比較して高い治水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨のピークカットが期待できる。
【0043】
B−3.資源の再利用
本発明の保水用セラミックスは、従来、廃棄物とされていた長石キラを主原料(例えば原料の90%)として製造することができる。
長石キラはタイル原料の長石を採掘する時の副産物であり、従来は廃棄物とされていたが、本発明によれば、長石キラの有効利用が図れる。
【0044】
以下に、本発明の保水用セラミックスによる上記A,Bの効果を示す実験例及び試算例を挙げる。
【0045】
<A−1.ビルの省エネ・CO2削減>
第4図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、本発明の保水用セラミックス(例えば、後掲の実施例2と同様にして製造された保水用セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体1とした。保水用セラミックスの敷設面積は1m2である。なお、底部断熱材11とコンクリートスラブ12との間には、温度センサ14を設けた。
別に、この保水用セラミックスの代りに芝生を植えたものを試験体2とし、保水用セラミックスを敷設しなかったものを試験体3とした。
【0046】
これらの試験体1〜3を並べて置き、気温と、各試験体の温度センサ14の測定温度の経時変化を調べ、結果を第4図(b)に示した。
なお、第4図(b)のグラフ中、吸水期間は、降雨のあった期間であり、それ以外は、曇ないし晴天であった。
【0047】
第4図(b)より明らかなように、本発明の保水用セラミックスを敷設した試験体1は、敷設なしの試験体3に対してスラブ下温度で最大−8℃の温度低減効果があった。しかも、試験体1の蒸散効果は、芝生を植えた試験体2よりも大きいものであった。
この結果から、本発明の保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0048】
次に、第4図(a)に示すと同様に保水用セラミックス13を敷設すると共に温度センサ14を設けた試験体1と、保水用セラミックスを敷設していない試験体3により、屋上スラブ表面温度の変化を模擬するものとして、1日24時間の温度センサ14の測定温度を調べ、結果を第5図に示した。
なお、本発明の保水用セラミックス、コンクリートスラブ及び土の一般的な熱伝導率は以下に示す通りである。
本発明の保水用セラミックス:0.20W/m・K
コンクリートスラブ :0.15W/m・K
土 :0.63W/m・K
【0049】
第5図より明らかなように、屋上スラブの表面温度の一日の変化量は、本発明の保水用セラミックスを敷設した試験体1では2℃であるのに対して、敷設していない試験体3では15℃だった。この結果から、本発明によれば、日射によるスラブへの熱負荷が軽減されることが分かる。
【0050】
次に、第6図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、本発明の保水用セラミックス(例えば、後掲の実施例2と同様にして製造された保水用セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体4とした。保水用セラミックスの敷設面積は1m2である。保水用セラミックスの敷設面の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
別に、保水用セラミックスを敷設しなかったものを試験体5とした。この試験体5ではコンクリートスラブ12の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
これらの試験体4,5を並べて置き、1日24時間の温度センサ14の測定温度の変化を調べ、結果を第6図(b)に示した。
【0051】
第6図(b)より明らかなように、保水用セラミックスを敷設した試験体4と敷設していない試験体5とでは、1cm上方の大気温度として、最大5℃の差があった。
この結果から、本発明の保水用セラミックスを敷設することにより、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0052】
<A−2.ビルの屋上緑化の代替及びA−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減>
本発明の保水用セラミックスをビル屋上に敷設した場合(ケース1)と、これを敷設していない従来仕様(ケース2)と、芝生や低木を植えた屋上緑化の場合(ケース3)とで、単位面積当たりの初期費用(敷設ないし植栽費用)と20年間の維持(メンテナンス)費用を試算し、その比較結果を第7図に示した。
第7図に示されるように、本発明の保水用セラミックスは初期費用のみでその後の維持管理は殆ど不要である。一方、保水用セラミックスを敷設しない従来仕様のケース2では、防水層の補修等の維持費がかかり、結果として、本発明品と同等である。
屋上緑化のケース3では、初期費用に加えて、剪定、刈込み、芝刈り、施肥、除草、病害虫防除、灌漑装置の点検、その他の総合点検等の維持費用がかさみ、第7図に示す費用以外にも灌漑設備による散水のための運転に必要な電気代及び水道代がかかる。
【0053】
これらの結果から、前述の如く、本発明の保水用セラミックスは、治水・蒸散において、芝生等植物の性能と同等であると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用した維持管理不要なものである上に、屋上緑化に比較して、初期費用は1/2、維持費用も格段に安く、屋上緑化代替の有力候補となることが分かる。
【0054】
<B−1.ヒートアイランド対策>
東京都23区内のビル屋上全てに本発明の保水用セラミックスを敷設すると、治水・蒸散に機能する都市の蒸散面積を10%増加させることができる。
【0055】
現在、ビルの屋上には機器類(室外機・熱源など)が設置されているが、本発明の保水用セラミックスは、ビル屋上の各種機器の下にも敷設できるので、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度を大幅に低減することができる。
【0056】
本発明の保水用セラミックスと芝生の治水・蒸散の繰り返し試験結果を示す第9図から明らかなように、本発明の保水用セラミックスは、芝生の約2倍の蒸散能力があるため、上記の10%の都市の蒸散面積の増加は、芝生に替算すれば、2倍の20%の都市の蒸散面積の増加となり、更なる有効性が明らかである。
【0057】
<B−2・ゲリラ豪雨対策>
本発明の保水用セラミックスと芝生について、10月2日〜10月16日の15日間にわたる期間の単位体積当たりの蒸散量と吸水量の累計を比較した第8図より明らかなように、本発明の保水用セラミックスは芝生よりも2倍以上の吸水・蒸散量を有する。
ビル屋上に本発明の保水用セラミックスを10cmの厚さで50km2の面積に敷設すると180万m3もの治水ができ、東京都23区で3mm/hrのゲリラ豪雨のピークカットを図ることができる。
【0058】
<B−3.資源の再利用>
本発明の保水用セラミックスは、例えば、従来廃棄物とされていた長石キラ90重量%と、その他の材料10重量%で製造することができる。単位面積当たりの本発明の保水用セラミックスの重量を40kg/m2とすると、5000m2の敷設に必要となる長石キラの量は、
5000(m2)×40(kg/m2)×0.9÷1000=180ton
となる。
即ち、本発明の保水用セラミックスを敷設面積として1日に5000m2生産すると、必要な廃棄物(長石キラ)原料は、180ton/日であり、廃棄物の有効利用効果は極めて大きい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0060】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた原料は次の通りである。
【0061】
カリ長石:愛知県瀬戸産 長石
8号珪砂:勝野窯業製
長石キラ:愛知県瀬戸産 長石
吸水性ポリマー:三洋化成株式会社製
(篩によって粒径20μmアンダー(吸水性ポリマーA)、粒径 20〜50μm(吸水性ポリマーB)、粒径50〜100μm (吸水性ポリマーC)に分級した。)
アルミナセメント:ラファージュ株式会社製
炭酸リチウム:試薬特級
CuO:試薬特級
【0062】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
水以外の原料を表1の割合で秤量し、ミキサ(ホソカワミクロン製ナウタミキサ)で乾式にて攪拌混合した。次いで、水を表1の割合でこの混合粉末に添加し、混練した。これを直径70mm、最大厚さ15mmの略円盤形状に成形し、80℃にて24時間乾燥した。これをローラーハースキルン(最高焼成温度は表1に示す通り。炉通過時間は60分)にて焼成し、保水用セラミックスを製造した。
【0063】
各保水用セラミックスについて成分分析を行うと共に特性測定を行った。結果を表1、表2に示す。
【0064】
なお、気孔率は、水銀ポロシメータ(Quantachrome株式会社製)を用いて測定した。気孔の孔径分布を第2図及び第3図に示す。
【0065】
保水量は、次のようにして測定した。
【0066】
保水用セラミックスを105℃で乾燥した後、放冷し、秤量し、重量(W1)を求める。次いで、20℃の水中に24時間浸漬した後、引き上げ、表面水を湿った布で拭き取り、飽水状態とする。この試料を秤量し、重量(W2)を求める。また、この飽水状態の保水用セラミックスをメスシリンダー中の水中に投入し、体積(V)を求める。保水量(g/cm3)を(W2−W1)/Vにより算出する。
【0067】
強度は10cm×10cm×0.5cmのサンプルを作り3点曲げ試験(JTトーシ株式会社、50kNデジタル曲げ試験機)によって測定した。
【0068】
凍結融解性能は、上記飽水状態の保水用セラミックスを−20℃に75分保持して凍結させた後、30℃に90分保持して融解させる凍結・融解サイクルを200サイクル繰り返し、破損の程度を観察することによって調べ、非常に良好(◎)、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)で評価した。
【0069】
蒸散性能は、水を深さ5mmに張った平たい容器内に、乾燥した保水用セラミックスを置き、30分吸水させた後、引き上げ、この30分間の吸水量を上記保水量の測定方法と同様にして求める。体積については保水量測定時の体積を用いる。この30分間の吸水量(g/cm3)を蒸散性能とする。
【0070】
蒸散効果持続日数は、蒸発の潜熱による冷却効果の持続日数であり、次のようにして測定した。
【0071】
第1図に示す通り、厚さ150mmの再生ポリプロピレン樹脂製パレット1の上に、厚さ100mmの発泡スチロール板よりなる正方形状の囲枠2を載せ、容器とする。この容器の一辺は1000mm、深さは830mmである。容器の外周面にアルミ箔を張ってある。
【0072】
この容器内に厚さ500mmに発泡スチロール板3を敷き詰め、その上面の5箇所に温度センサT1〜T5を配置する。
【0073】
この発泡スチロール板3の上に厚さ180mm、比重2.2のコンクリート板4を載せる。このコンクリート板4の上に飽水状態の保水用セラミックス5(第1図(b)にのみ図示)を50kg堆積させる。堆積厚さは約10cm程度である。以上の作業は、気温20℃、湿度60%RHの屋内で行う。この容器を35℃、60%RHの恒温恒湿室中に放置し、温度センサの検出温度が35℃に上昇するまでの日数を測定する。これを蒸散効果持続日数とする。
【0074】
また、各実施例及び比較例で得られた保水用セラミックスについて、吸水性を調べるために、第10図に示すように、5個の保水用セラミックス31〜35を用意し、水をはったパレット30上に、最下段の保水用セラミックス35がその底部から1mm程度水に浸かるようにして、5段積み重ね、この状態で1時間放置した後、最上段の保水用セラミックス31の重量変化から、この保水用セラミックス31の吸水率(吸水前の保水用セラミックスの重量に対する吸水した水の重量の割合)を算出した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
[考察]
表1の通り、実施例1〜5の保水用セラミックスは、蒸発性能及び蒸発効果持続日数に優れ、耐凍結融解性能、吸水性も良好である。
【0078】
これに対し、比較例1は、気孔の孔径が過大であるため、蒸発性能及び蒸発効果持続日数、吸水性に劣る。
比較例2は、気孔の孔径が過度に小さいため、凍結融解性能、吸水性に劣る。
比較例3は、気孔率が80%と過度に大きいため、強度及び凍結融解性能、吸水性に劣る。
比較例4,5は、保水量が低いため、蒸発効果持続日数が短く、吸水性も悪い。
【0079】
以下、上述の前提技術の保水用セラミックスを好適に使用することができる本発明の保水設備の実施の形態について説明する。ここでは、保水用セラミックスのことを多孔質セラミックスと呼ぶ。
【0080】
(第1の実施の形態)
図11は、第1の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。以下、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。保水構造体10は保水性を有する保水体の集合体であり、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面などに確保された施工対象面Pに敷設される。
【0081】
保水構造体10を構成する集合体は、第1の保水体20および第2の保水体22を含む。本実施の形態では、保水構造体10は第1の保水体20および第2の保水体22をそれぞれ複数個含み、第1の保水体20と第2の保水体22とが混在して施工対象面Pに敷設されている。保水構造体10の厚さは、2cm以上、さらには8cm以上程度である。第1の保水体20および第2の保水体22をこの範囲の厚さになるように施工対象面Pに敷き詰めることにより、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときに水を十分に保水することができる。ひいては、本実施の形態の保水構造体10の基本的な効果として、都市型洪水の抑制が実現される。
【0082】
第2の保水体22は、第1の保水体20に比べて保持された水の蒸発性が高い。ここで、蒸発性とは、温度、湿度、風などの諸条件が同じとき、単位体積あたりの保水体から単位時間当たりに蒸発する水の質量をいう。
【0083】
第2の保水体22は第1の保水体20に比べて比表面積が大きいため、この蒸発性の大小関係が実現する。なお、比表面積は単位体積あたりの表面積であり、この表面積は保水体が保水状態のときに外気に触れる表面(以下、外表面という)の面積を指し、保水状態で外気に触れない内部の細孔表面(内表面)は含まない。この定義は、保水体の表面のうち、外表面が蒸発性に寄与し、内表面は蒸発性に寄与しないことを反映している。
【0084】
本実施の形態では、第1の保水体20と第2の保水体22とは相似形状で、かつ第2の保水体22の方が第1の保水体20よりサイズが小さい。ただし、第2の保水体22の比表面積が第1の保水体20の比表面積より大きければこれに限られない。たとえば、両者のサイズおよび外形を同等とし、第2の保水体22の外表面に微細凹凸を設けてもよい。
【0085】
第1の保水体20および第2の保水体22に用いられる材料として後述する多孔質セラミックスが挙げられる。
【0086】
本実施の形態の態様は、第1の保水体20の保水性W1と第2の保水体22の保水性W2との関係により以下のように分類される。なお、保水性とは、単位体積あたりの保水体が保水し得る水の質量をいう。
【0087】
本実施の形態の第1の態様は保水性W1=保水性W2の場合である。本態様では、第1の保水体20および第2の保水体22は、それぞれ細孔の体積の合計が全体積の53〜70%を占める多孔質セラミックスである。本態様では、第1の保水体20および第2の保水体22は同一材料で作製することができる。
【0088】
本実施の形態の第2の態様は保水性W1>保水性W2の場合である。本態様では、第1の保水体20は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスである。一方、第2の保水体22は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%未満を占める多孔質セラミックスである。
【0089】
本実施の形態の第3の態様は保水性W1<保水性W2の場合である。本態様では、第1の保水体20は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53未満を占める多孔質セラミックスである。一方、第2の保水体22は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスである。
【0090】
なお、多孔質セラミックスの細孔の孔径は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って測定することができる。
【0091】
本実施の形態において、第1の保水体20を構成する多孔質セラミックスの大きさは、1〜1200cm3、特に1〜200cm3、とりわけ20〜100cm3の範囲が好ましい。また、第2の保水体22を構成する多孔質セラミックスの大きさは、0.5〜600cm3、特に0.5〜100cm3、とりわけ5〜80cm3の範囲が好ましい。多孔質セラミックスをこのような範囲にすることで、ビルの屋上等に敷き詰めやすくすることができる。第1の保水体20および第2の保水体22を構成する多孔質セラミックスは、球形、半球形、楕円球状(たとえばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0092】
上記孔径のものを採用すれば、細孔内の水が凍結しても、多孔質セラミックス外に押し出されやすく、凍結融解作用を繰り返し受けても、多孔質セラミックスが割れにくいことが実験で確認されている。
【0093】
多孔質セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO2:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al2O3:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
Na2OおよびK2Oの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0094】
こうしたソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、多孔質セラミックスの保水性および水の蒸発性が良好となる。
【0095】
なお、湿潤状態にある多孔質セラミックスに藻が発生することを防止するために、多孔質セラミックス中にCuOを0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。多孔質セラミックスには、その一部または全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、多孔質セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0096】
第1の保水体20および第2の保水体22を構成する多孔質セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメントおよび粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくはさらに炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥および焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%である。
【0097】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0098】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種または2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO2、Al2O3、Na2O+K2Oの割合が前述となるように選択して用いる。
【0099】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0100】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm、特に20〜30μm程度のものが好適である。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0101】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0102】
以上、第1の実施の形態に係る保水構造体10によれば、蒸発性が相対的に高い第2の保水体22によって保持された水の蒸発が促進される。第2の保水体22によって保持された水の蒸発が速やかに進行することで、第1の保水体20から第2の保水体22に水の移動が進み、第2の保水体22を介して水の蒸発が促進される。この結果、保水構造体10全体として、保水性を維持しつつ、蒸発効率を高めることができる。
【0103】
また、第1の保水体20は蒸発性が相対的に低いため、第1の保水体20に保持された水はじわじわと蒸発し、第2の保水体22に保持された水が蒸発し終わった後も、第1の保水体20に保持された水が継続して蒸発し続ける。したがって、ある程度の量の水は急速に蒸発させて冷却効果を高め、かつ次の豪雨に備えつつ、晴天が続いた場合にも、比較的長い時間をかけて蒸発する水分の存在により、施工対象面Pの急激な温度上昇を抑制することができる。
【0104】
本実施の形態の第1の態様(保水性W1=保水性W2)では、第1の保水体20と第2の保水体22とを同じ成分の材料で製造することができ、材料コストの低減、製造プロセスの簡略化により製造コストを低減することができる。
【0105】
本実施の形態の第2の態様(保水性W1>保水性W2)では、第1の保水体20および第2の保水体22の役割分担をより明確にすることができる。すなわち、第1の保水体20がより一層の保水機能を担い、第2の保水体22がより一層の蒸発機能を担う。さらに保水性W2を大きくする代わりに、その分、密に形成することで第2の保水体22の強度を上げることができる。したがって、第2の保水体22に保水構造体10全体として強度アップの機能をもたせることができる。
【0106】
本実施の形態の第3の態様(保水性W1<保水性W2)では、本実施の形態の第2の態様とは逆に、第1の保水体20の強度をより高めることができ、強度保持材としての機能をもたせることができる。一方、第2の保水体22が保水性および蒸発性を兼ね備えた保水・蒸発材としての機能を担う。また、第1の保水体20の摩耗性が低くなるため、保水構造体10全体としての耐久性を向上させることができる。
【0107】
(第2の実施の形態)
図12は、第2の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。本実施の形態では、保水構造体10の敷設領域が施工対象面Pにより近い側である下方領域R1と、施工対象面Pからより遠い側である上方領域R2とに分けられる。この場合、上方領域R2における第2の保水体22の存在比が、下方領域R1における第2の保水体22の存在比より高い。ここで、第2の保水体22の存在比は、単位体積において第1の保水体20が占める体積および第2の保水体22が占める体積をそれぞれS1、S2としたとき、S2/(S1+S2)で算出される。
【0108】
また、本実施の形態の保水構造体10は、下方領域R1と上方領域R2との境界部分に通水性および通気性を有する保持材40が設けられている。保持材40は、第2の保水体22の径より小さい開口を有するシート状の部材である。
【0109】
本実施の形態の保水構造体10によれば、比表面積が相対的に大きい第2の保水体22の存在比が外気に比較的触れやすい上方領域R2において高いため、上方領域R2における蒸発性を下方領域R1における蒸発性に比べて高めることができる。この結果、保水構造体10全体の蒸発効率をより一層高めることができる。
【0110】
また、下方領域R1と上方領域R2との境界部分に保持材40を設けることにより、上方領域R2から下方領域R1に第2の保水体22が落下することを抑制することができる。このため、上方領域R2における第2の保水体22の存在比、および下方領域R1における第2の保水体22の存在比をそれぞれ所定の値に保つことができる。
【0111】
(第3の実施の形態)
図13は、第3の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。本実施の形態の保水構造体10では、下方領域R1における保水体の集合体が第1の保水体20のみからなり、上方領域R2における保水体の集合体が第2の保水体22のみからなる。言い換えると、本実施の形態の保水構造体10は、第2の実施の形態の保水構造体10において、下方領域R1における第2の保水体22の存在比が0であり、上方領域R2における第2の保水体22の存在比が1の場合に相当する。
【0112】
本実施の形態の保水構造体10によれば、外気に比較的触れやすい上方領域R2における保水体の蒸発性と、外気に比較的触れにくい下方領域R1における保水体の機能を明確に分けることができる。この結果、保水構造体10全体の蒸発効率をより一層高めることができる。
【0113】
(第4の実施の形態)
図14は、第4の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。本実施の形態の保水構造体10では、第1の保水体20は板状の部材であり、第2の保水体22は、第1の保水体20より小さく、側面がテーパ状の部材である。具体的には、第2の保水体22は切頭円錐状である。この形状により、第2の保水体22の総外表面が、第1の保水体20の外表面に比べて大きくなっており、ひいては、第2の保水体22の蒸発性が第1の保水体20の蒸発性より高い。複数の第2の保水体22は、第1の保水体20の上面にそれぞれ載置されており、各第1の保水体20の上面と第2の保水体22の底面とが接している。
【0114】
本実施の形態の保水構造体10によれば、下方領域R1に設置された第1の保水体20の上面と、上方領域R2の第2の保水体22の底面とが接しているため、第1の保水体20から第2の保水体22への水の移動がさらに容易となる。このため、第1の保水体20に蓄えられた水が第2の保水体22に素早く供給され、第2の保水体22に供給された水は、蒸発性が相対的に高い第2の保水体22によって速やかに蒸発する。
【0115】
また、第2の保水体22の側面をテーパ状とすることにより、第2の保水体22が受け取る日射をより多くすることができる。このため、第2の保水体22における蒸発性をより一層高めることができ、ひいては、保水構造体10の蒸発効率を高めることができる。
【0116】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0117】
たとえば、第2乃至第4の実施の形態では、下方領域R1の厚さは上方領域R2の厚さと同等であるが、下方領域R1の厚さと上方領域R2の厚さの関係はこれに限れない。たとえば、上方領域R2における蒸発性を重視する場合には、上方領域R2の厚さを下方領域R1より厚くする。逆に、下方領域R1における保水性を重視する場合には、下方領域R1の厚さを上方領域R2より厚くする。このように、下方領域R1の厚さと上方領域R2の厚さとの関係を調節することにより、蒸発性や保水性といった機能を強化することができる。
【符号の説明】
【0118】
10 保水構造体、20 第1の保水体、22 第2の保水体、40 保持材
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水体を用いた保水構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が郊外部に比べて高くなる現象、いわゆるヒートアイランド現象がますます顕著となりつつある。ヒートアイランド現象は、熱中症・睡眠障害など健康への影響を引き起こすだけでなく、空調などの電気設備の負荷増加を招くことにより、エネルギー消費量を増加させる。
【0003】
また、ヒートアイランド現象は、近年、都市部で局所的に大雨が降る現象、いわゆるゲリラ豪雨の要因ともいわれている。特に都市部では、地面の大部分がアスファルトやコンクリートで舗装されているため、雨水を吸収することができない。ゲリラ豪雨が発生した場合、短時間で許容量を超える雨水が下水道や河川に流入し、都市部に特徴的な水害である都市型洪水が発生する。以上の諸問題を防止するために、ヒートアイランド現象緩和策が切望されている。
【0004】
都市空間は、すでに地上・地下とも過密利用されている。そのため、ヒートアイランド現象の緩和技術として、利用率の低いビルの屋上の有効活用に期待が寄せられている。そのひとつに、建物の屋上に芝生等を敷設する屋上緑化の試みがある。しかし、屋上緑化は、施工費用や維持管理の問題から、十分な普及には至っていない。また、屋上緑化された設備は、雨水を保水する能力がそれほど高いわけではなく、都市型水害の緩和にはあまり役に立っていなかった。
【0005】
そのため、より大量の雨水を貯留して都市型洪水を抑制する新たな技術が求められている。この技術は、また、貯留した雨水を晴天時に蒸発させ、蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑え、ヒートアイランドを緩和できればより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ビルの屋上などに敷設することができ、保水性と蒸発性を兼ね備えた保水セラミックス、およびこの保水セラミックスを敷き詰める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、保水性および蒸発性が同様な保水セラミックスが敷き詰められていた。一般に、保水性セラミックスの蒸発性を高めると保水性が低減する。このため、従来の技術では、保水性と蒸発性を両立させ難く、保持された水をより効率的に蒸発させることが困難であるという課題があった。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保水構造体の蒸発効率をさらに高めることができることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、保水構造体である。当該保水構造体は、保水性を有する保水体の集合体として施工対象面に敷設される保水構造体であって、集合体は、第1の保水体と、第1の保水体に比べて保持された水の蒸発性が高い第2の保水体とを含むことを特徴とする。
【0011】
この態様の保水構造体によれば、蒸発性が相対的に高い第2の保水体によって保持された水の蒸発が促進される。第2の保水体によって保持された水の蒸発が速やかに進行することで、第1の保水体から第2の保水体に保持された水の移動が進み、第2の保水体において第1の保水体から移動した水の蒸発も進行する。この結果、保水構造体全体として、保水性を損なうことなく、蒸発効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保水構造体の蒸発効率をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図2】実施例の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図3】比較例の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図4】(a)図は、試験体1を示す模式的な断面図、(b)図は試験体1〜3のスラブ下温度の経時変化を示すグラフである。
【図5】試験体1,3のスラブ表面温度の経時変化を示すグラフである。
【図6】(a)図は試験体4を示す模式的な断面図、(b)図は試験体4,5の上方大気温度の経時変化を示すグラフである。
【図7】ケース1〜3の初期及び維持費用を比較するグラフである。
【図8】本発明の保水用セラミックスと芝生の試験期間内の蒸散・吸水量を対比して示すグラフである。
【図9】本発明の保水用セラミックスと芝生の蒸散量と吸水量の累計を対比して示すグラフである。
【図10】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、パレット上の保水用セラミックスの積重状態を示す模式図である。
【図11】第1の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【図12】第2の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【図13】第3の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【図14】第4の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(前提技術)
はじめにまず、本発明の各実施の形態に好適に使用できる保水用セラミックスを、前提技術として説明する。当該保水用セラミックスは、特開2010−100513号公報に開示されている。前提技術として説明する保水用セラミックスに関連する記載において、「本発明」「実施例及び比較例」などの語句は、それぞれ「特開2010−100513号公報の発明」「特開2010−100513号公報の実施例及び比較例」などを示すものとする。
【0015】
[保水用セラミックス]
本発明の保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなる。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0016】
好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。
特に、本発明の保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の10〜70%、特には15〜50%が孔径15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。
【0017】
本発明の保水用セラミックスの全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用セラミックスの全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用セラミックスの実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0018】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0019】
この保水用セラミックスは、1〜1200cm3特に1〜200cm3とりわけ20〜100cm3程度の大きさであることが好ましい。この大きさのものは、屋上や庭などに敷き詰め易い。保水用セラミックスの形状は球形、楕円球状(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0020】
この保水用セラミックスを好ましくは厚さ2〜20cm特に8〜15cm程度に厚く敷き詰めることにより、保水用セラミックス層全体の保水容量が増大し、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときでも、水を十分に保水することができる。従って、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、都市型洪水を防止することも可能となる。
【0021】
また、この保水用セラミックスから、水が蒸発するときの蒸発潜熱により冷却が行われるので、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、ヒートアイランド現象を防止することが可能となる。
【0022】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用セラミックスが割れることは殆どない。
【0023】
この保水用セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO2:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al2O3:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
Na2O及びK2Oの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0024】
かかるソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0025】
なお、湿潤状態にある保水用セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを保水用セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0026】
本発明の保水用セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0027】
[保水用セラミックスの製造方法]
次に本発明の保水用セラミックスの好適な製造方法について説明する。
【0028】
この保水用セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメント及び粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0029】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0030】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO2、Al2O3、Na2O+K2Oの割合が前述となるように選択して用いる。
【0031】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。
【0032】
このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0033】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm特に20〜30μm程度のものが好適である。
【0034】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0037】
[保水用セラミックスの応用例及びその効果]
本発明の保水用セラミックスは、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質セラミックスであり、雨水を吸水することにより治水し、また、吸水した水を日射によって蒸散させる性能を有する。
従って、本発明の保水用セラミックスを、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0038】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO2削減:
本発明の保水用セラミックスをビル屋上に敷設することにより、保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
この結果、CO2の排出量の削減も可能となる。
【0039】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
本発明の保水用セラミックスは、芝生等の植物と同様の保水、冷却性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、本発明の保水用セラミックスによれば、この問題を解決できる。
【0040】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
本発明の保水用セラミックスは、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、本発明の保水用セラミックスを適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0041】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
本発明の保水用セラミックスは、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用セラミックスを各所に敷設することにより、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
また、本発明の保水用セラミックスは、芝生と比較して高い蒸散能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0042】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
本発明の保水用セラミックスは、芝生と比較して高い治水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨のピークカットが期待できる。
【0043】
B−3.資源の再利用
本発明の保水用セラミックスは、従来、廃棄物とされていた長石キラを主原料(例えば原料の90%)として製造することができる。
長石キラはタイル原料の長石を採掘する時の副産物であり、従来は廃棄物とされていたが、本発明によれば、長石キラの有効利用が図れる。
【0044】
以下に、本発明の保水用セラミックスによる上記A,Bの効果を示す実験例及び試算例を挙げる。
【0045】
<A−1.ビルの省エネ・CO2削減>
第4図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、本発明の保水用セラミックス(例えば、後掲の実施例2と同様にして製造された保水用セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体1とした。保水用セラミックスの敷設面積は1m2である。なお、底部断熱材11とコンクリートスラブ12との間には、温度センサ14を設けた。
別に、この保水用セラミックスの代りに芝生を植えたものを試験体2とし、保水用セラミックスを敷設しなかったものを試験体3とした。
【0046】
これらの試験体1〜3を並べて置き、気温と、各試験体の温度センサ14の測定温度の経時変化を調べ、結果を第4図(b)に示した。
なお、第4図(b)のグラフ中、吸水期間は、降雨のあった期間であり、それ以外は、曇ないし晴天であった。
【0047】
第4図(b)より明らかなように、本発明の保水用セラミックスを敷設した試験体1は、敷設なしの試験体3に対してスラブ下温度で最大−8℃の温度低減効果があった。しかも、試験体1の蒸散効果は、芝生を植えた試験体2よりも大きいものであった。
この結果から、本発明の保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0048】
次に、第4図(a)に示すと同様に保水用セラミックス13を敷設すると共に温度センサ14を設けた試験体1と、保水用セラミックスを敷設していない試験体3により、屋上スラブ表面温度の変化を模擬するものとして、1日24時間の温度センサ14の測定温度を調べ、結果を第5図に示した。
なお、本発明の保水用セラミックス、コンクリートスラブ及び土の一般的な熱伝導率は以下に示す通りである。
本発明の保水用セラミックス:0.20W/m・K
コンクリートスラブ :0.15W/m・K
土 :0.63W/m・K
【0049】
第5図より明らかなように、屋上スラブの表面温度の一日の変化量は、本発明の保水用セラミックスを敷設した試験体1では2℃であるのに対して、敷設していない試験体3では15℃だった。この結果から、本発明によれば、日射によるスラブへの熱負荷が軽減されることが分かる。
【0050】
次に、第6図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、本発明の保水用セラミックス(例えば、後掲の実施例2と同様にして製造された保水用セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体4とした。保水用セラミックスの敷設面積は1m2である。保水用セラミックスの敷設面の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
別に、保水用セラミックスを敷設しなかったものを試験体5とした。この試験体5ではコンクリートスラブ12の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
これらの試験体4,5を並べて置き、1日24時間の温度センサ14の測定温度の変化を調べ、結果を第6図(b)に示した。
【0051】
第6図(b)より明らかなように、保水用セラミックスを敷設した試験体4と敷設していない試験体5とでは、1cm上方の大気温度として、最大5℃の差があった。
この結果から、本発明の保水用セラミックスを敷設することにより、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0052】
<A−2.ビルの屋上緑化の代替及びA−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減>
本発明の保水用セラミックスをビル屋上に敷設した場合(ケース1)と、これを敷設していない従来仕様(ケース2)と、芝生や低木を植えた屋上緑化の場合(ケース3)とで、単位面積当たりの初期費用(敷設ないし植栽費用)と20年間の維持(メンテナンス)費用を試算し、その比較結果を第7図に示した。
第7図に示されるように、本発明の保水用セラミックスは初期費用のみでその後の維持管理は殆ど不要である。一方、保水用セラミックスを敷設しない従来仕様のケース2では、防水層の補修等の維持費がかかり、結果として、本発明品と同等である。
屋上緑化のケース3では、初期費用に加えて、剪定、刈込み、芝刈り、施肥、除草、病害虫防除、灌漑装置の点検、その他の総合点検等の維持費用がかさみ、第7図に示す費用以外にも灌漑設備による散水のための運転に必要な電気代及び水道代がかかる。
【0053】
これらの結果から、前述の如く、本発明の保水用セラミックスは、治水・蒸散において、芝生等植物の性能と同等であると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用した維持管理不要なものである上に、屋上緑化に比較して、初期費用は1/2、維持費用も格段に安く、屋上緑化代替の有力候補となることが分かる。
【0054】
<B−1.ヒートアイランド対策>
東京都23区内のビル屋上全てに本発明の保水用セラミックスを敷設すると、治水・蒸散に機能する都市の蒸散面積を10%増加させることができる。
【0055】
現在、ビルの屋上には機器類(室外機・熱源など)が設置されているが、本発明の保水用セラミックスは、ビル屋上の各種機器の下にも敷設できるので、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度を大幅に低減することができる。
【0056】
本発明の保水用セラミックスと芝生の治水・蒸散の繰り返し試験結果を示す第9図から明らかなように、本発明の保水用セラミックスは、芝生の約2倍の蒸散能力があるため、上記の10%の都市の蒸散面積の増加は、芝生に替算すれば、2倍の20%の都市の蒸散面積の増加となり、更なる有効性が明らかである。
【0057】
<B−2・ゲリラ豪雨対策>
本発明の保水用セラミックスと芝生について、10月2日〜10月16日の15日間にわたる期間の単位体積当たりの蒸散量と吸水量の累計を比較した第8図より明らかなように、本発明の保水用セラミックスは芝生よりも2倍以上の吸水・蒸散量を有する。
ビル屋上に本発明の保水用セラミックスを10cmの厚さで50km2の面積に敷設すると180万m3もの治水ができ、東京都23区で3mm/hrのゲリラ豪雨のピークカットを図ることができる。
【0058】
<B−3.資源の再利用>
本発明の保水用セラミックスは、例えば、従来廃棄物とされていた長石キラ90重量%と、その他の材料10重量%で製造することができる。単位面積当たりの本発明の保水用セラミックスの重量を40kg/m2とすると、5000m2の敷設に必要となる長石キラの量は、
5000(m2)×40(kg/m2)×0.9÷1000=180ton
となる。
即ち、本発明の保水用セラミックスを敷設面積として1日に5000m2生産すると、必要な廃棄物(長石キラ)原料は、180ton/日であり、廃棄物の有効利用効果は極めて大きい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0060】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた原料は次の通りである。
【0061】
カリ長石:愛知県瀬戸産 長石
8号珪砂:勝野窯業製
長石キラ:愛知県瀬戸産 長石
吸水性ポリマー:三洋化成株式会社製
(篩によって粒径20μmアンダー(吸水性ポリマーA)、粒径 20〜50μm(吸水性ポリマーB)、粒径50〜100μm (吸水性ポリマーC)に分級した。)
アルミナセメント:ラファージュ株式会社製
炭酸リチウム:試薬特級
CuO:試薬特級
【0062】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
水以外の原料を表1の割合で秤量し、ミキサ(ホソカワミクロン製ナウタミキサ)で乾式にて攪拌混合した。次いで、水を表1の割合でこの混合粉末に添加し、混練した。これを直径70mm、最大厚さ15mmの略円盤形状に成形し、80℃にて24時間乾燥した。これをローラーハースキルン(最高焼成温度は表1に示す通り。炉通過時間は60分)にて焼成し、保水用セラミックスを製造した。
【0063】
各保水用セラミックスについて成分分析を行うと共に特性測定を行った。結果を表1、表2に示す。
【0064】
なお、気孔率は、水銀ポロシメータ(Quantachrome株式会社製)を用いて測定した。気孔の孔径分布を第2図及び第3図に示す。
【0065】
保水量は、次のようにして測定した。
【0066】
保水用セラミックスを105℃で乾燥した後、放冷し、秤量し、重量(W1)を求める。次いで、20℃の水中に24時間浸漬した後、引き上げ、表面水を湿った布で拭き取り、飽水状態とする。この試料を秤量し、重量(W2)を求める。また、この飽水状態の保水用セラミックスをメスシリンダー中の水中に投入し、体積(V)を求める。保水量(g/cm3)を(W2−W1)/Vにより算出する。
【0067】
強度は10cm×10cm×0.5cmのサンプルを作り3点曲げ試験(JTトーシ株式会社、50kNデジタル曲げ試験機)によって測定した。
【0068】
凍結融解性能は、上記飽水状態の保水用セラミックスを−20℃に75分保持して凍結させた後、30℃に90分保持して融解させる凍結・融解サイクルを200サイクル繰り返し、破損の程度を観察することによって調べ、非常に良好(◎)、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)で評価した。
【0069】
蒸散性能は、水を深さ5mmに張った平たい容器内に、乾燥した保水用セラミックスを置き、30分吸水させた後、引き上げ、この30分間の吸水量を上記保水量の測定方法と同様にして求める。体積については保水量測定時の体積を用いる。この30分間の吸水量(g/cm3)を蒸散性能とする。
【0070】
蒸散効果持続日数は、蒸発の潜熱による冷却効果の持続日数であり、次のようにして測定した。
【0071】
第1図に示す通り、厚さ150mmの再生ポリプロピレン樹脂製パレット1の上に、厚さ100mmの発泡スチロール板よりなる正方形状の囲枠2を載せ、容器とする。この容器の一辺は1000mm、深さは830mmである。容器の外周面にアルミ箔を張ってある。
【0072】
この容器内に厚さ500mmに発泡スチロール板3を敷き詰め、その上面の5箇所に温度センサT1〜T5を配置する。
【0073】
この発泡スチロール板3の上に厚さ180mm、比重2.2のコンクリート板4を載せる。このコンクリート板4の上に飽水状態の保水用セラミックス5(第1図(b)にのみ図示)を50kg堆積させる。堆積厚さは約10cm程度である。以上の作業は、気温20℃、湿度60%RHの屋内で行う。この容器を35℃、60%RHの恒温恒湿室中に放置し、温度センサの検出温度が35℃に上昇するまでの日数を測定する。これを蒸散効果持続日数とする。
【0074】
また、各実施例及び比較例で得られた保水用セラミックスについて、吸水性を調べるために、第10図に示すように、5個の保水用セラミックス31〜35を用意し、水をはったパレット30上に、最下段の保水用セラミックス35がその底部から1mm程度水に浸かるようにして、5段積み重ね、この状態で1時間放置した後、最上段の保水用セラミックス31の重量変化から、この保水用セラミックス31の吸水率(吸水前の保水用セラミックスの重量に対する吸水した水の重量の割合)を算出した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
[考察]
表1の通り、実施例1〜5の保水用セラミックスは、蒸発性能及び蒸発効果持続日数に優れ、耐凍結融解性能、吸水性も良好である。
【0078】
これに対し、比較例1は、気孔の孔径が過大であるため、蒸発性能及び蒸発効果持続日数、吸水性に劣る。
比較例2は、気孔の孔径が過度に小さいため、凍結融解性能、吸水性に劣る。
比較例3は、気孔率が80%と過度に大きいため、強度及び凍結融解性能、吸水性に劣る。
比較例4,5は、保水量が低いため、蒸発効果持続日数が短く、吸水性も悪い。
【0079】
以下、上述の前提技術の保水用セラミックスを好適に使用することができる本発明の保水設備の実施の形態について説明する。ここでは、保水用セラミックスのことを多孔質セラミックスと呼ぶ。
【0080】
(第1の実施の形態)
図11は、第1の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。以下、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。保水構造体10は保水性を有する保水体の集合体であり、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面などに確保された施工対象面Pに敷設される。
【0081】
保水構造体10を構成する集合体は、第1の保水体20および第2の保水体22を含む。本実施の形態では、保水構造体10は第1の保水体20および第2の保水体22をそれぞれ複数個含み、第1の保水体20と第2の保水体22とが混在して施工対象面Pに敷設されている。保水構造体10の厚さは、2cm以上、さらには8cm以上程度である。第1の保水体20および第2の保水体22をこの範囲の厚さになるように施工対象面Pに敷き詰めることにより、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときに水を十分に保水することができる。ひいては、本実施の形態の保水構造体10の基本的な効果として、都市型洪水の抑制が実現される。
【0082】
第2の保水体22は、第1の保水体20に比べて保持された水の蒸発性が高い。ここで、蒸発性とは、温度、湿度、風などの諸条件が同じとき、単位体積あたりの保水体から単位時間当たりに蒸発する水の質量をいう。
【0083】
第2の保水体22は第1の保水体20に比べて比表面積が大きいため、この蒸発性の大小関係が実現する。なお、比表面積は単位体積あたりの表面積であり、この表面積は保水体が保水状態のときに外気に触れる表面(以下、外表面という)の面積を指し、保水状態で外気に触れない内部の細孔表面(内表面)は含まない。この定義は、保水体の表面のうち、外表面が蒸発性に寄与し、内表面は蒸発性に寄与しないことを反映している。
【0084】
本実施の形態では、第1の保水体20と第2の保水体22とは相似形状で、かつ第2の保水体22の方が第1の保水体20よりサイズが小さい。ただし、第2の保水体22の比表面積が第1の保水体20の比表面積より大きければこれに限られない。たとえば、両者のサイズおよび外形を同等とし、第2の保水体22の外表面に微細凹凸を設けてもよい。
【0085】
第1の保水体20および第2の保水体22に用いられる材料として後述する多孔質セラミックスが挙げられる。
【0086】
本実施の形態の態様は、第1の保水体20の保水性W1と第2の保水体22の保水性W2との関係により以下のように分類される。なお、保水性とは、単位体積あたりの保水体が保水し得る水の質量をいう。
【0087】
本実施の形態の第1の態様は保水性W1=保水性W2の場合である。本態様では、第1の保水体20および第2の保水体22は、それぞれ細孔の体積の合計が全体積の53〜70%を占める多孔質セラミックスである。本態様では、第1の保水体20および第2の保水体22は同一材料で作製することができる。
【0088】
本実施の形態の第2の態様は保水性W1>保水性W2の場合である。本態様では、第1の保水体20は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスである。一方、第2の保水体22は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%未満を占める多孔質セラミックスである。
【0089】
本実施の形態の第3の態様は保水性W1<保水性W2の場合である。本態様では、第1の保水体20は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53未満を占める多孔質セラミックスである。一方、第2の保水体22は孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスである。
【0090】
なお、多孔質セラミックスの細孔の孔径は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って測定することができる。
【0091】
本実施の形態において、第1の保水体20を構成する多孔質セラミックスの大きさは、1〜1200cm3、特に1〜200cm3、とりわけ20〜100cm3の範囲が好ましい。また、第2の保水体22を構成する多孔質セラミックスの大きさは、0.5〜600cm3、特に0.5〜100cm3、とりわけ5〜80cm3の範囲が好ましい。多孔質セラミックスをこのような範囲にすることで、ビルの屋上等に敷き詰めやすくすることができる。第1の保水体20および第2の保水体22を構成する多孔質セラミックスは、球形、半球形、楕円球状(たとえばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0092】
上記孔径のものを採用すれば、細孔内の水が凍結しても、多孔質セラミックス外に押し出されやすく、凍結融解作用を繰り返し受けても、多孔質セラミックスが割れにくいことが実験で確認されている。
【0093】
多孔質セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO2:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al2O3:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
Na2OおよびK2Oの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0094】
こうしたソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、多孔質セラミックスの保水性および水の蒸発性が良好となる。
【0095】
なお、湿潤状態にある多孔質セラミックスに藻が発生することを防止するために、多孔質セラミックス中にCuOを0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。多孔質セラミックスには、その一部または全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、多孔質セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0096】
第1の保水体20および第2の保水体22を構成する多孔質セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメントおよび粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくはさらに炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥および焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%である。
【0097】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0098】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種または2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO2、Al2O3、Na2O+K2Oの割合が前述となるように選択して用いる。
【0099】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0100】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm、特に20〜30μm程度のものが好適である。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0101】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0102】
以上、第1の実施の形態に係る保水構造体10によれば、蒸発性が相対的に高い第2の保水体22によって保持された水の蒸発が促進される。第2の保水体22によって保持された水の蒸発が速やかに進行することで、第1の保水体20から第2の保水体22に水の移動が進み、第2の保水体22を介して水の蒸発が促進される。この結果、保水構造体10全体として、保水性を維持しつつ、蒸発効率を高めることができる。
【0103】
また、第1の保水体20は蒸発性が相対的に低いため、第1の保水体20に保持された水はじわじわと蒸発し、第2の保水体22に保持された水が蒸発し終わった後も、第1の保水体20に保持された水が継続して蒸発し続ける。したがって、ある程度の量の水は急速に蒸発させて冷却効果を高め、かつ次の豪雨に備えつつ、晴天が続いた場合にも、比較的長い時間をかけて蒸発する水分の存在により、施工対象面Pの急激な温度上昇を抑制することができる。
【0104】
本実施の形態の第1の態様(保水性W1=保水性W2)では、第1の保水体20と第2の保水体22とを同じ成分の材料で製造することができ、材料コストの低減、製造プロセスの簡略化により製造コストを低減することができる。
【0105】
本実施の形態の第2の態様(保水性W1>保水性W2)では、第1の保水体20および第2の保水体22の役割分担をより明確にすることができる。すなわち、第1の保水体20がより一層の保水機能を担い、第2の保水体22がより一層の蒸発機能を担う。さらに保水性W2を大きくする代わりに、その分、密に形成することで第2の保水体22の強度を上げることができる。したがって、第2の保水体22に保水構造体10全体として強度アップの機能をもたせることができる。
【0106】
本実施の形態の第3の態様(保水性W1<保水性W2)では、本実施の形態の第2の態様とは逆に、第1の保水体20の強度をより高めることができ、強度保持材としての機能をもたせることができる。一方、第2の保水体22が保水性および蒸発性を兼ね備えた保水・蒸発材としての機能を担う。また、第1の保水体20の摩耗性が低くなるため、保水構造体10全体としての耐久性を向上させることができる。
【0107】
(第2の実施の形態)
図12は、第2の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。本実施の形態では、保水構造体10の敷設領域が施工対象面Pにより近い側である下方領域R1と、施工対象面Pからより遠い側である上方領域R2とに分けられる。この場合、上方領域R2における第2の保水体22の存在比が、下方領域R1における第2の保水体22の存在比より高い。ここで、第2の保水体22の存在比は、単位体積において第1の保水体20が占める体積および第2の保水体22が占める体積をそれぞれS1、S2としたとき、S2/(S1+S2)で算出される。
【0108】
また、本実施の形態の保水構造体10は、下方領域R1と上方領域R2との境界部分に通水性および通気性を有する保持材40が設けられている。保持材40は、第2の保水体22の径より小さい開口を有するシート状の部材である。
【0109】
本実施の形態の保水構造体10によれば、比表面積が相対的に大きい第2の保水体22の存在比が外気に比較的触れやすい上方領域R2において高いため、上方領域R2における蒸発性を下方領域R1における蒸発性に比べて高めることができる。この結果、保水構造体10全体の蒸発効率をより一層高めることができる。
【0110】
また、下方領域R1と上方領域R2との境界部分に保持材40を設けることにより、上方領域R2から下方領域R1に第2の保水体22が落下することを抑制することができる。このため、上方領域R2における第2の保水体22の存在比、および下方領域R1における第2の保水体22の存在比をそれぞれ所定の値に保つことができる。
【0111】
(第3の実施の形態)
図13は、第3の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。本実施の形態の保水構造体10では、下方領域R1における保水体の集合体が第1の保水体20のみからなり、上方領域R2における保水体の集合体が第2の保水体22のみからなる。言い換えると、本実施の形態の保水構造体10は、第2の実施の形態の保水構造体10において、下方領域R1における第2の保水体22の存在比が0であり、上方領域R2における第2の保水体22の存在比が1の場合に相当する。
【0112】
本実施の形態の保水構造体10によれば、外気に比較的触れやすい上方領域R2における保水体の蒸発性と、外気に比較的触れにくい下方領域R1における保水体の機能を明確に分けることができる。この結果、保水構造体10全体の蒸発効率をより一層高めることができる。
【0113】
(第4の実施の形態)
図14は、第4の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す側面図である。本実施の形態の保水構造体10では、第1の保水体20は板状の部材であり、第2の保水体22は、第1の保水体20より小さく、側面がテーパ状の部材である。具体的には、第2の保水体22は切頭円錐状である。この形状により、第2の保水体22の総外表面が、第1の保水体20の外表面に比べて大きくなっており、ひいては、第2の保水体22の蒸発性が第1の保水体20の蒸発性より高い。複数の第2の保水体22は、第1の保水体20の上面にそれぞれ載置されており、各第1の保水体20の上面と第2の保水体22の底面とが接している。
【0114】
本実施の形態の保水構造体10によれば、下方領域R1に設置された第1の保水体20の上面と、上方領域R2の第2の保水体22の底面とが接しているため、第1の保水体20から第2の保水体22への水の移動がさらに容易となる。このため、第1の保水体20に蓄えられた水が第2の保水体22に素早く供給され、第2の保水体22に供給された水は、蒸発性が相対的に高い第2の保水体22によって速やかに蒸発する。
【0115】
また、第2の保水体22の側面をテーパ状とすることにより、第2の保水体22が受け取る日射をより多くすることができる。このため、第2の保水体22における蒸発性をより一層高めることができ、ひいては、保水構造体10の蒸発効率を高めることができる。
【0116】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0117】
たとえば、第2乃至第4の実施の形態では、下方領域R1の厚さは上方領域R2の厚さと同等であるが、下方領域R1の厚さと上方領域R2の厚さの関係はこれに限れない。たとえば、上方領域R2における蒸発性を重視する場合には、上方領域R2の厚さを下方領域R1より厚くする。逆に、下方領域R1における保水性を重視する場合には、下方領域R1の厚さを上方領域R2より厚くする。このように、下方領域R1の厚さと上方領域R2の厚さとの関係を調節することにより、蒸発性や保水性といった機能を強化することができる。
【符号の説明】
【0118】
10 保水構造体、20 第1の保水体、22 第2の保水体、40 保持材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を有する保水体の集合体として施工対象面に敷設される保水構造体であって、
前記集合体は、第1の保水体と、前記第1の保水体に比べて保持された水の蒸発性が高い第2の保水体とを含むことを特徴とする保水構造体。
【請求項2】
前記第1の保水体および前記第2の保水体は多孔質セラミックスである請求項1に記載の保水構造体。
【請求項3】
前記第2の保水体は、前記第1の保水体に比べて比表面積が大きい請求項1または2に記載の保水構造体。
【請求項4】
前記第1の保水体は、前記第2の保水体に比べて保水性が高い請求項1乃至3のいずれか1項に記載の保水構造体。
【請求項5】
前記第1の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスであり、
前記第2の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%未満を占める多孔質セラミックスである請求項4に記載の保水構造体。
【請求項6】
前記第1の保水体は、前記第2の保水体に比べて保水性が低い請求項1乃至3のいずれか1項に記載の保水構造体。
【請求項7】
前記第1の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53未満を占める多孔質セラミックスであり、
前記第2の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスである請求項6に記載の保水構造体。
【請求項8】
前記施工対象面により近い側である下方領域に比べて、前記施工対象面からより遠い側である上方領域において、前記第1の保水体に対する前記第2の保水体の存在比が高い請求項1乃至7のいずれか1項に記載の保水構造体。
【請求項9】
前記上方領域を前記第2の保水体からなる集合体で形成し、前記下方領域を前記第1の保水体からなる集合体で形成した請求項8に記載の保水構造体。
【請求項10】
前記下方領域と前記上方領域との間に前記第2の保水体の径より小さい開口を有するシート状の保持材が設けられている請求項8または9に記載の保水構造体。
【請求項1】
保水性を有する保水体の集合体として施工対象面に敷設される保水構造体であって、
前記集合体は、第1の保水体と、前記第1の保水体に比べて保持された水の蒸発性が高い第2の保水体とを含むことを特徴とする保水構造体。
【請求項2】
前記第1の保水体および前記第2の保水体は多孔質セラミックスである請求項1に記載の保水構造体。
【請求項3】
前記第2の保水体は、前記第1の保水体に比べて比表面積が大きい請求項1または2に記載の保水構造体。
【請求項4】
前記第1の保水体は、前記第2の保水体に比べて保水性が高い請求項1乃至3のいずれか1項に記載の保水構造体。
【請求項5】
前記第1の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスであり、
前記第2の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%未満を占める多孔質セラミックスである請求項4に記載の保水構造体。
【請求項6】
前記第1の保水体は、前記第2の保水体に比べて保水性が低い請求項1乃至3のいずれか1項に記載の保水構造体。
【請求項7】
前記第1の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53未満を占める多孔質セラミックスであり、
前記第2の保水体は、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53%以上を占める多孔質セラミックスである請求項6に記載の保水構造体。
【請求項8】
前記施工対象面により近い側である下方領域に比べて、前記施工対象面からより遠い側である上方領域において、前記第1の保水体に対する前記第2の保水体の存在比が高い請求項1乃至7のいずれか1項に記載の保水構造体。
【請求項9】
前記上方領域を前記第2の保水体からなる集合体で形成し、前記下方領域を前記第1の保水体からなる集合体で形成した請求項8に記載の保水構造体。
【請求項10】
前記下方領域と前記上方領域との間に前記第2の保水体の径より小さい開口を有するシート状の保持材が設けられている請求項8または9に記載の保水構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−67565(P2012−67565A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215651(P2010−215651)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】
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