説明

保温材下腐食の検査方法

【課題】簡便、且つ安価で精度良く腐食の検査を行うことができる保温材下腐食検査方法を提供する。
【解決手段】保温材下腐食を検査する方法であって、光ファイバドップラセンサを機器に取り付けて得られる信号について、閾値を超える振幅が得られる時点の前後の一定時間の波形を1個のアコースティック・エミッション(AE)信号とし、AE信号およびその最大振幅値を記録し、そのAE信号にフィルタリング処理を施してノイズであるAE信号は除去し、順次得られるAE信号の発生個数について種々の最大振幅値に対する度数分布を求め、その度数分布の両対数表示によって得られる散布図から最大振幅値に対するAE信号の発生個数の回帰直線を求め、その回帰直線の勾配に基づいて機器の腐食の有無を判断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の保温材下腐食の検査方法に関するものである。具体的には、保温材が取り付けられている機器において、簡便、且つ安価で精度良く腐食の検査を行うことができる保温材下腐食の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼、低合金鋼製の機器における保温材下腐食は、漏洩トラブルの主な原因となることから、長年稼動している化学プラントにおいては管理を必要とする深刻な劣化現象の一つである。
【0003】
一般に、化学プラントなどにおいては、塔槽類、弁栓類、熱交換器などの多くの機器に保温材が取り付けられている。
目視により保温材下腐食(Corrosion Under Insulation:以下、CUIともいう)検査を行うためには、保温材を除去する必要がある。また、保温材解体(取り外し)のために足場を組む場合には、莫大な工数(期間)と費用とを要する。
例えば、1つのプラントにおける配管の総延長距離は数10kmと莫大であり、配管の腐食が発見されるのは1000系統の内、2〜3系統程度であり、非常に効率の悪いことが問題となっている。
そのため、保温材の取り外し作業を必要とせず、且つ防爆要求の多いプラント設備に対応した配管のCUI検査技術の開発が強く求められている。
【0004】
これまでに、配管のCUI検査に適用すべく、様々な非破壊検査技術が開発されている。例えば、放射線透過法や、ガイドウェーブを用いた超音波探傷法が開発されて実施され
ている。
【0005】
上記放射線透過法は、放射線源と当該放射線源に対向するように設置したセンサとを用い、保温材および配管を透過した放射線の透過強度を測定することにより、配管の損傷の有無を評価する試験方法である。また、放射線源およびセンサを備えたスキャナを用いて配管の軸方向に走査することにより、配管の腐食減肉マップを得ることができる。上記放射線透過法によれば、配管の保温材を撤去することなく、視覚的に腐食状況を把握することができる(非特許文献1)。
【0006】
上記超音波探傷法は、配管にガイドウェーブ(超音波)を長距離伝播させ、断面積が変化している部位から反射されたエコーを測定することにより、配管の損傷の有無を評価する試験方法である。上記超音波探傷法によれば、配管にガイドウェーブを伝播させるので、長距離の検査を実施することができるという特徴があり、配管の状態を高速で検査することが可能である(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】河部俊英、「配管の腐食検査技術 RTを用いた原油配管自動検査 リアルタイムラジオグラフィー Thru‐VU 」、検査技術、日本工業出版株式会社、平成18年(2006年)1月号、p.18−24
【非特許文献2】永島良昭、遠藤正男、三木将裕、真庭一彦、「ガイド波を用いた配管減肉検査技術」、配管技術,日本工業出版株式会社、平成20年(2008年)6月号、p.19−24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の検査方法では、適用できる条件が限られているという問題を有している。
【0009】
具体的には、放射線透過法は、例えば配管全体の腐食減肉マップを得るためには、スキャナを取り付けて配管の軸方向に走査する必要がある。そのため、配管の直管部にしか適用することができない。また、放射線源およびセンサを備えたスキャナ等のシステムを設置するスペースが必要であることから、化学プラントのように配管間隔が狭く且つ複雑な形状をした配管では適用できる部位が限定されるという問題を有している。
【0010】
一方、超音波探傷法は、配管にガイドウェーブを長距離伝播させるため、数mの長距離探傷が可能であるものの、腐食による配管の減肉部のみならず配管の溶接部やフランジ部といった断面積が変化している位置においてもエコーが出現する。このため、配管の損傷の有無を正確に評価するためには、配管の形状を予め把握しておく必要がある。また、溶接部やフランジ部からのエコー強度は強いため、エコーのリンギングにより検査不能域が発生するという問題を有している。また、検査を行うために配管の保温材を撤去する必要があるという問題も有している。
【0011】
上記の問題点は配管に限られるものではなく、塔槽類、熱交換器などでも同様の問題点を有している。
本発明は、このような状況下になされたものであり、その主たる目的は、保温材に覆われた機器において、簡便、且つ安価で精度良く腐食の検査を行うことができる保温材下腐食検査方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑み、保温材が取り付けられている機器において、簡便、且つ安価で精度良く腐食の検査を行うことができる保温材下腐食検査方法について鋭意検討した。その結果、機器の腐食(以下、「サビこぶ」とも言う)の剥離または亀裂から弾性波であるアコースティック・エミッション(以下、AEともいう)が発生することに着目し、当該AEを、光ファイバドップラセンサを用いて検知することにより、腐食の存在を検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、保温材が取り付けられている機器の保温材下腐食を検査する方法であって、光ファイバドップラセンサを上記機器に取り付けて得られる信号について、閾値を超える振幅が得られる時点の前後の一定時間の波形を1個のアコースティック・エミッション信号(AE信号)とし、そのアコースティック・エミッション信号およびその最大振幅値を記録し、そのアコースティック・エミッション信号にフィルタリング処理を施してノイズ信号は除去し、順次得られるアコースティック・エミッション信号の発生個数(AE個数)について種々の最大振幅値に対する度数分布を求め、その度数分布の両対数表示によって得られる散布図から最大振幅値に対するアコースティック・エミッション信号の発生個数の回帰直線を求め、その回帰直線の勾配に基づいて機器の腐食の有無を判断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る保温材下腐食検査方法は、光ファイバドップラセンサを機器に取り付けて当該機器の腐食を検査するので、簡便、且つ安価で精度良く保温材下の腐食の検査を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光ファイバのドップラー効果を示すブロック図である。
【図2】振動計測装置を示すブロック図である。
【図3】FODセンサからの信号からのAE波形の例を示す図である。
【図4】実施例1における30分間隔のAE個数を示す図である。
【図5】実施例1におけるAE個数の最大振幅値に対する度数分布を示す図である。
【図6】実施例における度数分布を両対数表示して得られる散布図および回帰直線を示す図である。
【図7】実施例1における他の30分間隔のAE個数を示す図である
【図8】実施例1における他のAE個数の最大振幅値に対する度数分布を示す図である。
【図9】本発明の実施例で用いたモックアップ配管を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において機器とは、保温材を取り付ける塔槽類、配管、弁栓、熱交換器などを含む。
【0017】
本発明に係る保温材下腐食検査方法では、光ファイバドップラセンサ(FODセンサ)を機器表面に取り付け、得られる信号について、1個のAE信号を設定し、そのAE信号およびその最大振幅値を記録し、ノイズであるAE信号を除き、得られたAE個数について種々の最大振幅値に対する度数分布を求め、その度数分布の両対数表示によって得られる散布図から最大振幅値に対するAE個数の回帰直線を求め、その回帰直線の勾配に基づいて機器の腐食の有無を判断する。
【0018】
FODセンサの機器への取り付け部位に関しては、当該FODセンサが機器表面に接することができる部位である限り、特に限定されるものではない。
FODセンサを配管に取り付ける方法は、上記FODセンサを機器表面に接触させることができる方法である限り、特に限定されるものではなく、取り付け部材、市販の接触媒質を用いてFODセンサを取り付けられる。尚、上記「市販の接触媒質」としては、例えば、超音波探傷用として市販されているソニーコート(商品名:株式会社サーンガスニチゴウ製)や接着材アロンアルファ(商品名:コニシ株式会社社製)等を挙げることができる。また、FODセンサは、化学プラント建設時において保温材を取り付ける前に機器に取り付けてもよく、既存の化学プラントの機器に取り付けてもよい。FODセンサの取り付け時期は、保温材下腐食検査方法を行う前であれば何時でもよいが、FODセンサは耐久性が非常に高いので、保温材解体の手間とコストとを削減する観点から、FODセンサを常設しておくことが好ましい。
【0019】
広いまたは長距離に及ぶ機器の保温材下腐食検査を効率よく実施する観点から、上記FODセンサは、機器に複数個取り付けられることが好ましい。機器に取り付けられる上記FODセンサの数は、当該FODセンサがAEを好適に受信することができる限り、特に制限はなく、検査対象となる機器の広さまたは長さ等によって適宜決定すればよい。
【0020】
ここで、本発明に係る保温材下腐食検査方法で用いられるFODセンサおよびAE検出方法について、以下に詳細を説明する。
【0021】
〔1.FODセンサ〕
FODセンサは、光ファイバのドップラー効果を利用したセンサであり、光ファイバに入射した光の周波数の変調を読み取ることによって、光ファイバに加わったひずみ(弾性波や応力変化等)を検知することができるようになっている。
【0022】
ここで、上記「光ファイバのドップラー効果」について図1を参照しながら説明する。図1は、光ファイバのドップラー効果を説明するためのブロック図である。例えば、光ファイバ1に光源2から音速C、周波数fの光波が入射された時に、光ファイバ1が伸長速度vで長さLだけ伸びたとする。このとき、ドップラー効果により、入射光の周波数がfからfに変調したとすると、変調後の周波数fはドップラー効果の公式を用いて、式(1)のように表すことができる。
【0023】
【数1】

(式(1)中、fは入射光の周波数、fは変調後の周波数、Cは音速、vは光ファイバの伸長速度を表す。)
【0024】
式(1)において、変調後の周波数fは入射光の周波数fからf変調したとすると、光ファイバの周波数変調fは、式(2)のように表すことができる。
【0025】
【数2】

(式(2)中、fは入射光の周波数、fは光ファイバの周波数変調、Cは音速、vは光ファイバの伸長速度を表す。)
【0026】
そして、式(3)に示す波の公式を用いれば、光ファイバの周波数変調fは、式(4)のように表すことができる。
【0027】
【数3】

(式(3)中、fは周波数、Cは音速、λは波長を表す。)
【0028】
【数4】

(式(4)中、fは入射光の周波数、fは変調後の周波数、Cは音速、tは時間、Lは光ファイバの長さを表し、dL/dtは光ファイバの長さの時間変化を表す。)
【0029】
式(4)は、光ファイバの伸縮速度を光波の周波数変調として検出することができることを示している。すなわち、光ファイバの周波数変調fを読み取ることによって、光ファイバに加わったひずみ(弾性波や応力変化等)を検知することが可能となる。
【0030】
また、上記FODセンサは、光ファイバをコイル状に巻いて積層することにより、上記式(4)におけるLの値を大きくしてセンサの感度を高め、且つ全方位からの受信を可能にしている。
【0031】
〔2.AE検出方法〕
AEの検出には、FODセンサを備える振動計測装置を用いる。そこで、当該FODセンサを備える振動計測装置について、図2のブロック図を参照しながら説明する。上記振動計測装置は、FODセンサ3の他に、FODセンサ3に接続される光ファイバ4、光ファイバ4に入力光を入力する光源5、および光ファイバ4からの出力光と光源5からの入力光との間の周波数変調を検出する検出器6を主に備えている。
【0032】
光源5は、例えば、半導体や気体等を用いたレーザーであり、レーザー光(コヒーレント光)を入力光として光ファイバ4に入力できるようになっている。光源5からの入力光の波長は特に限定されず、可視光域でも赤外域でもよいが、入手が容易であるとの点からは波長が1550nmの半導体レーザーが好ましい。
【0033】
検出器6は、光ファイバ4からの出力光と、光源5からの入力光との間での周波数変調を検出可能なものであり、且つアコースティック・エミッションの検出が可能な低ノイズ型が好ましい。
【0034】
上記振動計測装置は、さらに、AOM(Acoustic Optical Modulator)7、入力光の一部をAOM7に送るためのハーフミラー8、およびAOM7によって変調させられた入力光を検出器6に送るためのハーフミラー9を備えている。上記AOM7は、従来公知の構成を備えており、入力光の周波数f を変調させて周波数(f +f )とすることができるようになっている(f は周波数変化量であり、正負の値を含む)。
【0035】
光源5から光ファイバ4を介してFODセンサ3に入射された周波数f の光波は、FODセンサ3が機器の腐食による剥離や亀裂等に起因して発生したAEを受信すると、周波数(f −f )に変調する。変調した光波は、光ファイバ4を介して検出器6に入射される。検出器6では、光ヘテロダイン干渉法によって変調成分(光ファイバの周波数変調)f が検出される。検出された変調成分f は、FV変換器(図示しない)によって電圧Vに変換され、振動計測装置から出力される。出力される信号の周波数としては約10〜250kHzである。
振動計測装置から出力される信号は、収録解析装置に記録され、データ処理、解析が行われる。
【0036】
本発明においては、AE信号の最大振幅値に対するAE個数に基づいて、腐食の有無を判断する。
FODセンサから得られる信号について、閾値を超える振幅が得られる時点(トリガーポイント)の前後の一定時間の波形を1個のAE信号とし、波形番号(ファイル番号)が付与され、その最高振幅値と共に順次、記録される。
閾値としては+/−300mV程度、波形を記録するトリガーポイントより前の時間としては500μs程度、トリガーポイント後の時間としては1500μs程度、合計2000μs程度が選択されるが、これに限定されるものではない。
【0037】
FODセンサから得られる信号には、腐食に起因するAEの他に、機器の振動などに起因するAE(環境ノイズ)が含まれ、腐食の把握に影響する可能性があるので、収録解析装置でこの環境ノイズを分離する処理を行う。
先ず、フィルタリング処理を施す。前記トリガーポイントの前後の波形の振幅に対して、それぞれ式(5)で表わされる二乗平均平方根値(RMS値)を求める。
【0038】
【数5】

(式(5)中、X・・・Xはそれぞれの波形の振幅、Nはその数を表す。)
【0039】
トリガーポイントの前と後とのRMS値の比が一定以下の波形はノイズであるAE信号として除く(以下、RMS処理とも言う。)。RMS値の比としては、ノイズの除去の程度を勘案して適宜設定されるが、1:2が好適である。
【0040】
記録された1個のAE信号の例を図3に示す。500μsの位置に+/−300mVを超える振幅が有り(トリガーポイント)、その前500μs、その後1500μs、合計2000μs間の波形が記録されている。
(A)のAE信号はRMS処理によってもそのままであるが、(B)のAE信号はRMS処理によってノイズであるAE信号として除去される。
【0041】
次に、得られるAE信号の発生個数(AE個数)について種々の最大振幅値に対する度数分布を求める。なお、最大振幅値は記録される最大振幅値を含むように適宜、略均等に範囲が設定される。
その度数分布の両対数表示によって得られる散布図から最大振幅値に対するAE個数の回帰直線を求める。回帰直線は最小二乗法によって得られる。
この回帰直線の勾配に基づいて機器の腐食の有無を判断する。勾配が約−2より大きい、すなわち約−2より時計回り方向である場合に腐食が有ると判断する。
【実施例】
【0042】
以下、CUIの検査方法を実施例で示すが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
下記の機器を使用して行った。
(1)FODセンサ:
ゲージ長65mの光ファイバAEを積層のコイル状に積み上げて形成した、市販の積層型のFODセンサ((株)レーザック製、LA−ED−S 65−07−ML)
(2)振動計測装置:
FOD干渉計((株)レーザック製、LA−IF−15−06−C4−FC)
測定周波数:5Hz〜1MHz、光源波長:1550nm半導体レーザー
(3)収録解析装置:
収録機((株)昭和電機製、SAS−6000)
【0044】
実施例1
内部を流体が移動している空気酸化反応器(内径3.8m)の保温材を取外し、その周方向に90°ピッチでの4個のFODセンサ(ch1〜ch4)を取り付けた。FODセンサは、外表面の塗装をサンドペーパーで除去した後、耐熱性エポキシ樹脂系接着剤を用いて接着し、その上からアルミテープを用いて固定した。
【0045】
ch1のFODセンサの上方約2.5mの位置に約320mm×90mmの大きさで約0.3〜0.5mm深さの腐食が見られた。ch2のFODセンサの周囲4m以内には腐食は見られなかった。ch3のFODセンサの上方約2.5mの位置に約350mm×65mmの大きさで約0.3〜1.0mm深さの腐食、および右下方約2mの位置に約720mm×110mmの大きさで約0.3〜0.6mm深さの腐食が見られた。ch4のFODセンサの右下方約1.5mの位置に約100mm×50mmの大きさで約0.3mm深さの腐食が見られた。
【0046】
FODセンサからの信号について、閾値(+/−300mV)を超える振幅が得られたトリガーポイントより前の500μs、トリガーポイント後の1500μs、合計2000μsの波形を1個のAE信号とした。
【0047】
次に、記録したトリガーポイントの前後の波形に対して、それぞれ二乗平均平方根値(RMS値)を求め、トリガーポイントの前と後とのRMS値の比が1:2以下である波形はノイズであるAE信号として除いた。
【0048】
順次、得られたAE個数をそれぞれのFODセンサ毎に30分間隔で図4に示した。FODセンサの近くに腐食個所があると、AE個数が多くなっている。
また、25分間について得られたAE個数の種々の最大振幅値に対する度数分布を求めた(図5)。この度数分布を両対数表示して得られる散布図を図6に示した。
散布図のデータから最小二乗法によってAE個数の最大振幅値に対する回帰直線を求めた。この直線(A)は式(6)で示され、その勾配は−2.23である。
【0049】
y=−2.23x+8.59 ・・・(6)
(式中、yはlog(AE個数)、xはlog(最大振幅値)を表す。)
【0050】
その後、機器に発生していた腐食(錆)をケレン作業で全て除去した後、FODセンサからの信号を、上記と同様に処理を行った。
順次、得られたAE個数をそれぞれのFODセンサ毎に30分間隔で図7に示した。腐食が無くても、AEが検出されるが、その個数は腐食がある場合に比べて極端に少なくなっている。
また、30分間について得られたAE個数の種々の最大振幅値に対する度数分布を求めた(図8)。この度数分布を両対数表示して得られる散布図を図6に示した。
散布図のデータから最小二乗法によってAE個数の最大振幅値に対する回帰直線を求めた。この直線(B)は式(7)で示され、その勾配は−1.71である。
【0051】
y=−1.71x+6.05 ・・・(7)
(式中、yはlog(AE個数)、xはlog(最大振幅値)を表す。)
【0052】
実施例2
図9に示すようなモックアップ配管を作製した。
全長5mの炭素鋼製配管10に保温材13を取り付け、配管10の内部に、加熱装置12によって加熱されたシリコーン油を循環させた。また、CUIを効率よく発生させるために、腐食を人工的に促進させた。具体的には、いわゆる濡れ乾きがちょうど生じる程度に滴下量を微調整した滴下装置11から、純水を配管10上に連続的に滴下し、且つ食塩を配管10表面に散布して腐食を発生させた。さらに配管10内を循環するシリコーン油を60〜70℃に加熱することによって、腐食を人工的に促進させた。
【0053】
腐食を人工的に促進させてから約1ヶ月後、FODセンサ14をU字ボルトを用いて固定した。
【0054】
AE測定を開始してから3時間後にシリコーン油を加熱して油温を上昇させ、3時間後
に油温が70℃に達した後、16時間、油温を70℃に維持し、その後、シリコーン油の
加熱を中止し、常温になるまで油温を降下させた。尚、上記「油温」とは、シリコーン油
を加熱する加熱装置12の表示温度によって規定した。また、AE発生数の測定中は、シ
リコーン油の加熱の有無に関わらず、配管10内にシリコーン油を循環させ続けた。
【0055】
実施例1と同様に、FODセンサからの信号を処理し、得られたAE個数の種々の最大振幅値に対する度数分布を求め、その両対数表示して得られる散布図を図6に示した。この散布図からAE個数の最大振幅値に対する回帰直線を求めた。この直線(C)は式(8)で示され、その勾配は−2.67である。
【0056】
y=−2.67x+10.18 ・・・(8)
(式中、yはlog(AE個数)、xはlog(最大振幅値)を表す。)
【0057】
実施例の結果から、腐食が有る場合の回帰直線の勾配は−2より大きく、腐食が無い場合には勾配は−2より小さい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る保温材下腐食検査方法によれば、簡便、且つ安価で精度良く保温材下の腐食を検出することができる。保温材を取り外すことなく腐食検査することができるので、保守・点検の際の保温材解体に係るコストを大幅に削減することができる。FODセンサは防爆性と耐久性とを有するため大規模な設備を有する化学プラントの他に、石油化学プラントのような防爆地域を有するプラント内においても常時設置することが可能である。従って、機器の保温材下腐食検査を必要とする様々な産業において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 光ファイバ
2 光源
3 光ファイバドップラセンサ(FODセンサ)
4 光ファイバ
5 光源
6 検出器
7 AOM
8 ハーフミラー
9 ハーフミラー
10 配管
11 滴下装置
12 加熱装置
13 保温材
14 光ファイバドップラセンサ(FODセンサ)
16 フランジ部
17 クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温材が取り付けられている機器の保温材下腐食を検査する方法であって、
光ファイバドップラセンサを上記機器に取り付けて得られる信号について、閾値を超える振幅が得られる時点の前後の一定時間の波形を1個のアコースティック・エミッション信号とし、そのアコースティック・エミッション信号およびその最大振幅値を記録し、そのアコースティック・エミッション信号にフィルタリング処理を施してノイズであるアコースティック・エミッション信号は除去し、順次得られるアコースティック・エミッション信号の発生個数について種々の最大振幅値に対する度数分布を求め、その度数分布の両対数表示によって得られる散布図から最大振幅値に対するアコースティック・エミッション信号の発生個数の回帰直線を求め、その回帰直線の勾配に基づいて機器の腐食の有無を判断することを特徴とする保温材下腐食の検査方法。
【請求項2】
閾値を+/−300mVとし、閾値を超える振幅が得られる時点より前の500μs、後の1500μsの波形を1個のアコースティック・エミッション信号とすることを特徴とする請求項1記載の保温材下腐食の検査方法。
【請求項3】
フィルタリング処理が、閾値を超える振幅が得られる時点の前後の波形の振幅の二乗平均平方根値を求め、前と後との二乗平均平方根値の比が一定以下の波形はノイズであるアコースティック・エミッション信号として除くことを特徴とする請求項1記載の保温材下腐食の検査方法。
【請求項4】
前と後との二乗平均平方根値の比が1:2以下である請求項3記載の保温材下腐食の検査方法。
【請求項5】
回帰直線の勾配が−2より大きい場合に腐食が有ると判断することを特徴とする保温材下腐食の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−80937(P2011−80937A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235031(P2009−235031)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】