説明

保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、ならびに該方法により製造された保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子およびその用途

【課題】有機EL化合物層などを剥離させること無く、保護カバー付き有機EL素子を製造する方法を提供すること。
【解決手段】基板上に少なくとも陽極、有機EL化合物層および陰極が積層された有機EL素子と、表面に接着用樹脂組成物層が設けられた保護カバーとを圧着することを特徴とする保護カバー付き有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」とも記す。)素子の製造方法に関し、より詳しくは、有機EL化合物層などの剥離を生じさせることなく保護カバー付き有機EL素子を製造する方法、ならびに該方法により製造された保護カバー付き有機EL素子およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、基板上に陽極層、有機EL化合物層および陰極層が積層された構造を有しており、この陽極層と陰極層との間に電流を流すことにより有機EL化合物層で発光が生じ、一方の電極を透明にすることで外部に光を取り出すことができる。
【0003】
有機EL素子は、面発光の固体表示素子であり、薄膜化が可能である。これを用いたディスプレイは、自己発光型であるため視野角が広く、輝度も高く、低電圧で駆動し、応答速度が速いという特徴を備える。
【0004】
しかしながら、有機EL素子は水分に極めて弱く、水分の存在によって、たとえば有機EL化合物が水分により変質してしまい輝度が低下する、電極と有機物EL層との界面が水分の影響で剥離するなどの問題が生じる。
【0005】
このような欠点を解消するために、有機EL素子をアクリル樹脂でモールドする方法(特開平3−37991号公報)、有機EL素子を気密ケース内にP25とともに収容して外気から遮断する方法(特開平3−261091号公報)、有機EL素子に金属の酸化物等の保護膜を設けた後にガラス板等を用いて気密にする方法(特開平4−212284号公報)、有機EL素子にプラズマ重合膜及び光硬化型樹脂層を設ける方法(特開平5−36475号公報)、有機EL素子をフッ素化炭素からなる不活性液体中に保持する方法(特開平4−363890号公報他)、有機EL素子に高分子保護膜を設けた後シリコーンオイル中に保持する方法(特開平5−367475号公報)、有機EL素子に、無機酸化物等の保護膜の上にポリビニルアルコールを塗布したガラス板をエポキシ樹脂で接着する方法(特開平5−89959号公報)、有機EL素子を流動パラフィンやシリコーンオイル中に封じ込める方法(特開平5−129080号公報)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記従来の有機EL素子の封止方法はいずれも満足できるものではなく、例えば、吸湿剤とともに気密構造に素子を封じ込めるだけでは、ダークスポットの発生、成長を抑制出来ない。また、フッ素化炭素やシリコーンオイル中に保持する方法は液体を注入する工程を経ることにより封止工程が煩雑になるだけでなく、ダークスポットの増加も完全には防げず、むしろ液体が陰極と有機層の界面に侵入して陰極のはく離を促進するという問題もある。
【0007】
また、特許文献1(特開平5−182759号公報)には、ガラス基板上、に有機EL層を形成し、この有機EL層全面を覆うように光硬化性樹脂を積層して、非透水性ガラス基板(保護カバー)を貼り合わせるという技術が開示されている。しかし、光硬化性樹脂の組成物に含まれる有機溶剤や紫外線による素子の劣化の問題、光硬化性樹脂の硬化時の応力歪みによる有機層からの陰極のはく離の問題、未硬化部位が発生する問題、樹脂の透明度が低いという問題がある。
【0008】
また特許文献2(特開2005−19269号公報)には、有機EL素子とガラス板(保護カバー)との張り合わせ用樹脂組成物として、分子中にグリシジル基を有する化合物と、その硬化剤である変性脂環式ポリアミン、および/または、変性脂肪族ポリアミンとを含有する組成物を使用すると、素子に悪影響を及ぼすことなく、効果的に封止が行われ、ダークスポットの発生・成長を確実に制御して、有機EL素子の発光特性を長期間にわたって安定して維持できることが記載されている。
【0009】
しかし、その実施例(段落[0028])に記載されているように成膜された有機EL素子上に硬化性樹脂を滴下すると、その衝撃によって、有機EL化合物層や電極が剥離しやすいという問題があった。また、依然として、有機EL素子上の接着用樹脂組成物が硬化することで有機EL化合物層に応力が加わり、そのために有機EL化合物層が剥離しやすいという問題がある。
【特許文献1】特開平5−182759号公報
【特許文献2】特開2005−19269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであり、本発明は、有機EL化合物層などを剥離させること無く、保護カバー付き有機EL素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明は以下の[1]〜[13]に関する。
【0012】
[1]基板上に少なくとも陽極、有機EL化合物層および陰極が積層された有機EL素子と、表面に接着用樹脂組成物層が設けられた保護カバーとを圧着することを特徴とする保護カバー付き有機EL素子の製造方法。
【0013】
[2]前記接着用樹脂組成物層が半硬化状態の接着用樹脂組成物からなることを特徴とする前記[1]に記載の保護カバー付き有機EL素子の製造方法。
【0014】
[3]前記接着用樹脂組成物が、グリシジル基を有する化合物(A)、ならびに変性脂環式ポリアミンおよび/または変性脂肪族ポリアミン(B)を含有していることを特徴とする前記[1]に記載の保護カバー付き有機EL素子の製造方法。
【0015】
[4]前記有機EL化合物層が発光性高分子化合物を含有することを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の保護カバー付き有機EL素子の製造方法。
【0016】
[5]前記発光性高分子化合物が燐光発光性高分子化合物であることを特徴とする前記[4]に記載の保護カバー付き有機EL素子の製造方法。
【0017】
[6]前記発光性高分子化合物が燐光発光性非共役高分子化合物であることを特徴とする前記[4]または[5]に記載の保護カバー付き有機EL素子の製造方法。
【0018】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法により製造された保護カバー付き有機EL素子。
【0019】
[8]前記[7]に記載の保護カバー付き有機EL素子を備えた面発光光源。
【0020】
[9]前記[7]に記載の保護カバー付き有機EL素子を備えた表示装置用バックライト。
【0021】
[10]前記[7]に記載の保護カバー付き有機EL素子を備えた表示装置。
【0022】
[11]前記[7]に記載の保護カバー付き有機EL素子を備えた照明装置。
【0023】
[12]前記[7]に記載の保護カバー付き有機EL素子を備えたインテリア。
【0024】
[13]前記[7]に記載の保護カバー付き有機EL素子を備えたエクステリア。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機EL化合物層などを剥離させること無く、保護カバー付き有機EL素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の保護カバー付き有機EL素子の製造方法についてさらに詳しく説明する。
まず、本発明の製造方法によって製造される保護カバー付き有機EL素子の構成について説明する。
【0027】
[有機EL素子]
本発明に用いられる有機EL素子においては、基板上に少なくとも陽極、有機EL化合物層および陰極がこの順序で積層されている。
【0028】
1.基板種類:
本発明に用いられる有機EL素子の基板としては、発光性化合物の発光波長に対して透明な絶縁性基板、例えば、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネートを始めとする透明プラスチック、シリコン基板などの既知の材料が使用できる。
【0029】
2.陽極:
陽極は、ITOに代表される導電性かつ光透過性の層により形成される。有機発光を基板を通して観察する場合には、陽極の光透過性は必須であるが、有機発光をトップエミッション、すなわち上部の電極を通して観察する用途の場合では陽極の透過性は必要なく、仕事関数が4.1eVよりも高い金属あるいは金属化合物のような適当な任意の材料を陽
極として用いることができる。例えば、金、ニッケル、マンガン、イリジウム、モリブテン、パラジウム、白金などを単独で、あるいは組み合わせて用いることが可能である。当該陽極は、金属の酸化物、窒化物、セレン化物及び硫化物からなる群より選ぶこともできる。また、光透過性の良好なITOの表面に、光透過性を損なわないように1〜3nmの薄い膜として、上記の金属を成膜したものを陽極として用いることもできる。これらの陽極材料表面への成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法、真空蒸着法などを用いることができる。陽極の厚さは2〜300nmが好ましい。
【0030】
3.素子構成:
図1は、本発明に用いられる有機EL素子の構成の一例を示す断面図であり、透明基板上に設けた陽極と陰極の間に正孔輸送層、発光層、電子輸送層を順次設けたものである。また、本発明に用いられる有機EL素子の構成は図1の例に限定されず、陽極と陰極の間に順次、1)陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層、2)陽極バッファー層/発光層/電子輸送層、3)陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)陽極バッフ
ァー層/正孔輸送性化合物、発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、5)陽極バッファー層/正孔輸送性化合物、発光性化合物を含む層、6)陽極バッファー層/発光性化合物、電子輸送性化合物を含む層、7)陽極バッファー層/正孔電子輸送性化合物、発光性化合物を含む層、8)陽極バッファー層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層を設けた素子構成などを挙げることができる。また、図1に示した発光層は1層であるが、発光層を2層以上有していてもよい。さらに、陽極バッファー層を用いずに直接的に、正孔輸送性化合物を含む層が陽極の表面に接していてもかまわない。
【0031】
なお、本明細書中においては、特に断りのない限り、電子輸送性化合物、正孔輸送性化合物、発光性化合物の全てあるいは一種類以上からなる化合物を有機EL化合物、また層を有機EL化合物層と呼ぶこととする。
【0032】
4.陽極表面処理:
また、陽極バッファー層、あるいは、正孔輸送性化合物を含む層の成膜時に陽極表面を前もって処理することによりオーバーコートされる層の性能(陽極基板との密着性、表面平滑性、正孔注入障壁の低減化など)を改善することができる。前もって処理する方法には高周波プラズマ処理を始めとしてスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、または酸素プラズマ処理などがある。
【0033】
5.陽極バッファー層(バイトロンなどを使う場合):
陽極バッファー層をウェットプロセスにて塗布して作製する場合には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などを用いて成膜することが出来る。
【0034】
上記ウェットプロセスによる成膜で用い得る化合物は、陽極表面とその上層に含まれる有機EL化合物に良好な付着性を有した化合物であれば特に制限はないが、これまで一般に用いられてきた陽極バッファーを適用することがより好ましい。例えば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT−PSS、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。さらに、これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーでもよい。前記界面活性剤としては、例えばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、及び第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0035】
6.有機EL化合物:
本発明に用いられる有機EL素子における有機EL化合物層、すなわち発光層、正孔輸送層、及び電子輸送層に使用する化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物のいずれをも使用することができる。
【0036】
本発明に用いられる有機EL素子の発光層を形成する有機EL化合物としては、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている発光性低分子化合物及び発光性高分子化合物などを例示することができる。この中でも、素子作製プロセスが簡素化されるという点で発光性高分子化合物が好ましく、発光効率が高い点および透明性が高い点で燐光発光性化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物がさらに好ましい。
【0037】
本発明に用いられる有機EL素子における発光層は、好ましくは燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子を少なくとも一つ含む。前記燐光発光性高分子は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物を共重合することによって得られる。燐光発光性化合物はイリジウム、白金および金の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でもイリジウム錯体が好ましい。
【0038】
前記重合性置換基を有する燐光発光性化合物としては、例えば下記式(E−1)〜(E−49)に示す金属錯体の一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。
【0039】
【化1】

【0040】
【化2】

【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

【0045】
なお、上記式(E−35)、(E−46)〜(E−49)において、Phはフェニル基を表す。
これらの燐光発光性化合物における重合性置換基としては、例えばビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などが挙げられ、中でもビニル基、メタクリレート基、スチリル基及びその誘導体が好ましい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して金属錯体に結合していてもよい。
【0046】
前記重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物は、ホール輸送性および電子輸送性の内のいずれか一方または両方の機能を有する有機化合物における一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。このような化合物の代表的な例として、下記式(E−50)〜(E−67)に示した化合物を挙げることができる。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
例示したこれらのキャリア輸送性化合物における重合性置換基はビニル基であるが、ビニル基をアクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などの重合性置換基で置換した化合物であってもよい。また、これらの重合性置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して結合していてもよい。
【0050】
重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合体の分子量は重量平均分子量で1,000〜2,000
,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。ここでの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量である。
【0051】
前記燐光発光性高分子は、一つの燐光発光性化合物と一つのキャリア輸送性化合物、一つの燐光発光性化合物と二つ以上のキャリア輸送性化合物を共重合したものであってもよく、また二つ以上の燐光発光性化合物をキャリア輸送性化合物と共重合したものであってもよい。
【0052】
燐光発光性高分子におけるモノマーの配列は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよく、燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数をm、キャリア輸送性化合物構造の繰り返し単位数をnとしたとき(m、nは1以上の整数)、全繰り返し単位数に対する燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は0.001〜0.5が好ましく、0.001〜0.2がより好ましい。
【0053】
燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325、特開2003−119179、特開2003−113246、特開2003−206320、特開2003−147021、特開2003−171391、特開2004−346312、特開2005−97589に開示されている。
【0054】
本発明の製造方法によって製造される有機発光素子における発光層は、前記燐光発光性化合物を含む層であるが、発光層のキャリア輸送性を補う目的で正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物が含まれていてもよい。これらの目的で用いられる正孔輸送性化合物としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン)、α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)などの低分子トリフェニルアミン誘導体や、ポリビニルカルバゾール、前記トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどが挙げられ、また、電子輸送性化合物としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体などの低分子材料や、上記の低分子電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどの既知の電子輸送性化合物が使用できる。
【0055】
7.有機EL化合物層の形成法:
上記の有機EL化合物層は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などにより形成することが可能である。発光性低分子化合物の場合は主として抵抗加熱蒸着法及び電子ビーム蒸着法が用いられ、発光性高分子化合物の場合は主にスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法が用いられる。
【0056】
8.正孔ブロック層:
また、正孔が発光層を通過することを抑え、発光層内で電子と効率よく再結合させる目的で、発光層の陰極側に隣接して正孔ブロック層を設けてもよい。この正孔ブロック層には発光性化合物より最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)準位の深い化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0057】
さらに、励起子(エキシトン)が陰極金属で失活することを防ぐ目的で、発光層の陰極側に隣接してエキシトンブロック層を設けてもよい。このエキシトンブロック層には発光性化合物より励起三重項エネルギーの大きな化合物を用いることができ、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、アルミニウム錯体などを例示することができる。
【0058】
9.陰極:
本発明の製造方法によって製造される有機発光素子の陰極材料としては、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが使用され、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金などの既知の陰極材料を例示することができるが、化学的安定性を考慮すると仕事関数は2.9eV以上であることが好ましい。これらの陰極材料の
成膜方法としては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。陰極の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。
【0059】
また、陰極から有機層への電子注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、陰極バッファー層として、陰極より仕事関数の低い金属層を陰極と陰極に隣接する有機層の間に挿入してもよい。このような目的に使用できる低仕事関数の金属としては、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)等を挙げることができる。また、陰極より仕事関数の低いものであれば、合金または金属化合物も使用することができる。これらの陰極バッファー層の成膜方法としては、蒸着法やスパッタ法などを用いることができる。陰極バッファー層の厚さは0.05〜50nmが好ましく、0.1〜20nmがより好ましく、0.5〜1
0nmがより一層好ましい。
【0060】
さらに、陰極バッファー層は、上記の低仕事関数の物質と電子輸送性化合物の混合物として形成することもできる。なお、ここで用いられる電子輸送性化合物としては前述の電子輸送層に用いられる有機化合物を用いることができる。この場合の成膜方法としては共蒸着法を用いることができる。また、溶液による塗布成膜が可能な場合は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などの既述の成膜方法を用いることができる。この場合の陰極バッファー層の厚さは0.1〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがより一層好ましい。陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、あるいは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0061】
陰極側から光を取り出す場合には、透明陰極を使用する必要がある。
このような透明陰極は、たとえば特開2003−526188号公報に例示されている。
【0062】
[接着用樹脂組成物]
前記有機EL素子は、その電極等の積層面側が、接着用樹脂組成物を介して後述の保護カバーにより覆われる。
【0063】
この接着用樹脂組成物には、前記有機EL素子と後述の保護カバーとを確実に固着させることが求められる。さらにこの接着用樹脂組成物は、耐湿性、耐光性、気密性、低膨張
性等を備えていることが望ましい。
【0064】
また、前記有機EL素子の陰極側から光を取り出す場合には、この接着用樹脂組成物も高い透明性を有することが好ましい。
この接着用樹脂組成物としては、従来公知の樹脂組成物を用いることができ、透明性等の観点から、特開2005−19269号公報に開示された、(A)分子中にグリシジル基を有する化合物、ならびに(B)変性脂環式ポリアミンおよび/または変性脂肪族ポリアミンを含有する組成物(以下「接着用樹脂組成物a」ともいう。)が好ましい。この接着用樹脂組成物aは、常温で硬化させ、比較的低温での加熱により硬化促進させることができる。
【0065】
前記接着用樹脂組成物としてこの接着用樹脂組成物aを用いると、有機EL素子の劣化を大幅に抑制することができ、有機EL素子の長寿命化、高輝度化を図ることができる。
前記グリシジル基を有する化合物(A)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0066】
前記グリシジル基を有する化合物(A)としては、塩素イオン含有量の少ない化合物、具体的には加水分解性塩素が500ppm以下である化合物が好ましい。
このような前記グリシジル基を有する化合物(A)としては、市販品であればエピクロンEXA−835LV(大日本インキ工業株式会社製)などが挙げられる。
【0067】
前記グリシジル基を有する化合物(A)の粘度は、好ましくは1,000〜20,000cPである。粘度が20,000cPを越えると、前記変性脂環式ポリアミンおよび/または変性脂肪族ポリアミン(B)と混合する際に気泡が混入しやすく、また圧着時の抵抗が大きく膜厚が安定しない傾向にある。また、1,000cPより低いと塗布後の樹脂が流れ出し、圧着できない場合がある。
【0068】
前記変性脂環式ポリアミンおよび/または変性脂肪族ポリアミン(B)は、脂環式ポリアミンおよび/または脂肪族ポリアミンの変性物である。この脂環式ポリアミンとしては、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンの水添物、N−エチルアミノピペラジンなどが挙げられ、この脂肪族ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、トリ(メチルアミノ)ヘキサン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミンなどが挙げられる。
【0069】
前記変性脂環式ポリアミンおよび/または変性脂肪族ポリアミン(B)としては、これら脂環式ポリアミンおよび/または脂肪族ポリアミンの、エポキシアダクト反応物、マンニッヒ反応物、シアノエチル化物、マイケル反応物、ケチミン化物、チオ尿素付加物などが挙げられる。
【0070】
市販品であれば、前記変性脂環式ポリアミンとしては、アンカミン1618、2074、1882(エアプロダクツ社製)などが挙げられ、変性脂肪族ポリアミンとしては、カサミド2221(ACI JAPAN販売)、ラッカマイドWH108S(大日本インキ
化学工業(株))、アデカハードナーEH220、EH−270B(旭電化工業(株)製)、バーサミンI−376、C−30(ヘンケル白水社製)などが挙げられる。
【0071】
また、前記接着用樹脂組成物aは、前記有機EL素子と前記保護カバーとの接着強度向
上の観点から、さらにポリアミドアミンを含んでいることが好ましい。このポリアミドアミンの量が過大であると、保護カバー付き有機EL素子の光透過率が低下するため、このポリアミドアミン量の上限は、好ましくは前記グリシジル基を有する化合物(A)100重量部に対し25重量部である。
【0072】
本発明で用いられる接着用樹脂組成物は、低着色性や低アウトガス性等の特性が損なわれない範囲で、さらに保存安定剤、可塑剤、反応性希釈剤、充填材、粘度調製剤等を含有していてもよい。
【0073】
[保護カバー]
本発明に用いられる保護カバーとしては、ガラス板、プラスチックフィルム、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などを挙げることができる。
【0074】
前記有機EL素子に保護カバーを装着すると、有機EL素子を長期間安定して使用でき、さらに有機EL素子を保護部材として従来の封止缶やガラス製の封止キャップを用いる場合と異なり、保護部材までを含めた有機EL素子全体の厚さが薄くなりかつ透明性が損なわれない。
【0075】
<保護カバー付き有機EL素子の製造方法>
本発明の保護カバー付き有機EL素子の製造方法は、図2に示すように、前記有機EL素子と、前記接着用樹脂組成物が予め塗布され接着用樹脂組成物層が形成された保護カバーとを、圧着させることを特徴としている。このような本発明の製造方法によって、有機EL素子上に接着用樹脂組成物を介して保護カバーが設置された、保護カバー付き有機EL素子が製造される。
【0076】
このように、本発明の製造方法では、接着用樹脂組成物を予め保護カバーに塗布してから、これを有機EL素子に圧着させるため、従来の問題点であった、有機EL素子上に接着用樹脂組成物を滴下もしくは塗布する際の衝撃による有機EL化合物層などの剥離が生じることがない。
【0077】
前記接着用樹脂組成物層は半硬化状態の前記接着層組成物からなることが好ましい。圧着操作の際に、前記接着剤層組成物の硬化が過度に進行していると、有機EL素子と保護カバーとが充分に接着せず、一方、圧着操作の際に、前記接着剤層組成物がほとんど硬化していないと、上表面に接着用樹脂組成物層が形成された保護カバーを上下反転させて有機EL素子上に載せる際に、接着用樹脂組成物が垂れてしまい、有機EL素子と保護カバーとを接着できない。
【0078】
<用途>
本発明の製造方法によって製造される保護カバー付き有機EL素子を用いて面状の発光デバイスを得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光デバイスの表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にOn/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメントタイプの表示素子が得られる。更に、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置すればよい。複数の種類の発光色の異なる有機EL化合物を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックス素子は、パッシブ駆動も可能であるし、TFTなどと組み合わせてアクティブ
駆動してもよい。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。
【0079】
さらに、前記面状の発光デバイスは、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いれば、曲面状の光源や表示装置としても使用できる。さらに、インテリア、エクステリアとしても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】有機発光素子の一実施態様の断面図である。
【図2】圧着操作の概念図である。
【符号の説明】
【0081】
1 透明基板
2 陽極
3 正孔輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 陰極
7 陽極、有機EL層および陰極
8 保護カバー
9 接着剤組成物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも陽極、有機エレクトロルミネッセンス化合物層および陰極が積層された有機エレクトロルミネッセンス素子と、表面に接着用樹脂組成物層が設けられた保護カバーとを圧着することを特徴とする保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記接着用樹脂組成物層が半硬化状態の接着用樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記接着用樹脂組成物が、グリシジル基を有する化合物(A)、ならびに変性脂環式ポリアミンおよび/または変性脂肪族ポリアミン(B)を含有していることを特徴とする請求項1に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記有機エレクトロルミネッセンス化合物層が発光性高分子化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記発光性高分子化合物が燐光発光性高分子化合物であることを特徴とする請求項4に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記発光性高分子化合物が燐光発光性非共役高分子化合物であることを特徴とする請求項4または5に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造された保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項7に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた面発光光源。
【請求項9】
請求項7に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた表示装置用バックライト。
【請求項10】
請求項7に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた表示装置。
【請求項11】
請求項7に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた照明装置。
【請求項12】
請求項7に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたインテリア。
【請求項13】
請求項7に記載の保護カバー付き有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたエクステリア。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−134284(P2007−134284A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328793(P2005−328793)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】