説明

保護スリーブの製造方法

【課題】不規則形状の部品や既に取り付けられた長尺部品に取り付け可能な保護スリーブを優れた生産性にて製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】長さ方向に連続した開口部1aを有する保護スリーブ1の製造方法であって、製紐機3により繊維糸4を編組して編組スリーブ2とする工程と、該編組スリーブ2に収束剤を塗布した後、該収束剤を加熱硬化する工程と、上記編組スリーブ2を長さ方向に切裂いて上記開口部1aを設ける工程と、からなる保護スリーブ1の製造方法。加熱した刃9、又は、レーザーにより上記編組スリーブ2を長さ方向に切裂いて上記開口部1aを設けるの保護スリーブ1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車、家電機器、重電機器等において、機械的保護スリーブ、収束用スリーブ、電気絶縁スリーブ、耐熱保護スリーブ等として使用される保護スリーブの製造方法に係り、特に、不規則形状の部品や既に取り付けられた長尺部品に取り付け可能な保護スリーブを優れた生産性にて製造することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、保護スリーブとして、ガラス繊維や樹脂繊維などの繊維糸を管状に編組してなる編組スリーブに、使用状況等に応じてシリコーンワニス等の収束剤により表面処理を施したものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。これらの保護スリーブは、電線等の保護或いは収束のため、この電線束の外周に配置されることになる。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1〜3のような保護スリーブは、管形状のものであるため、予め電線束に被せておく必要があり、例えば、先に電線にコネクタ等を接続した後では、保護スリーブを後付けで配置させることができなかった。これに対して、管形状でありながらも、長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブが種々開発されている(例えば、特許文献4〜7参照。)。これら特許文献4〜7のような保護スリーブであれば、開口部から電線を保護スリーブ内部に挿入することができるため、例え電線の両端にコネクタを接続したとしても保護スリーブを後付けで配置させることができる。また、電線束の内の一部の電線を分岐させた場合でも、開口部より導出させることができるため、不規則な形状の部品にも対応することができる。
【0004】
【特許文献1】特許第3376492号公報:クラベ
【特許文献2】特許第2875886号公報:ベントリイハリス
【特許文献3】特公平7−88513号公報:ベントリイハリス
【特許文献4】特許第2718571号公報:D&N PLC、ベントリイ
【特許文献5】特許第4030585号公報:ベントレイ−ハリス
【特許文献6】特表2001−508856号公報:フェデラルモーグル
【特許文献7】特表2007−514068号公報:ソファヌーSA
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4〜7による保護スリーブは、平面形状の織物等を円筒形状に保持した状態で加熱し、開口部を有する管形状に形成する製造方法であり、工程が増加するとともに製造エネルギー的にも不利なものとなるため、生産性の面で充分なものではなかった。また、円筒形状に保持した状態で加熱する段階では、加熱が不十分であると経時的に元の平面形状に復元してしまう可能性があり、加熱が過ぎると保護スリーブを構成する繊維が熱劣化または溶融してしまうため、加熱時の温度管理も厳密に行う必要があり、この点も生産性に影響を及ぼしていた。
【0006】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、不規則形状の部品や既に取り付けられた長尺部品に取り付け可能な保護スリーブを優れた生産性にて製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1による保護スリーブの製造方法は、長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブの製造方法であって、製紐機により繊維糸を編組して編組スリーブとし、該編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設けることを特徴とするものである。
又、請求項2記載の保護スリーブの製造方法は、長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブの製造方法であって、製紐機により繊維糸を編組して編組スリーブとする工程と、該編組スリーブに収束剤を塗布した後、該収束剤を加熱硬化する工程と、上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける工程と、からなることを特徴とするものである。
又、請求項3記載の保護スリーブの製造方法は、加熱した刃により上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設けることを特徴とするものである。
又、請求項4記載の保護スリーブの製造方法は、レーザーにより上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設けることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、管形状に形成された編組スリーブを長手方向に切裂くだけの製造方法であるため、工程が簡便であり、製造エネルギーも増加しない、生産性に優れた製造方法である。また、元々管形状の編組スリーブからなるため、経時的に形状が崩れてしまうようなこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明する。図1は、本発明の保護スリーブの製造方法を実施するための装置の一例を示す説明図である。また、図2は、この装置によって得られた保護スリーブ1の斜視図である。
【0010】
図1において、符号1は保護スリーブ、符号2は編組スリーブ、符号3は製紐機、符号4は繊維糸、符号5は収束剤タンク、符号6は収束剤絞り、符号7は加熱炉、符号8はガイドプーリー、符号9は刃、符号10は巻取装置である。尚、本実施の形態では、繊維糸としては、ポリエステル繊維を使用した。又、収束剤としては、無溶剤の液状シリコーンゴムを使用した。
【0011】
製造工程の流れを説明する。まず、製紐機3にてポリエステル繊維の繊維糸4を編組密度13、編組厚さ0.25mmの条件で編組し、編組スリーブ2とする。次いで、この編組スリーブ2を、収束剤(溶剤を含まず且つ粘度が3000cpの液状シリコーンゴム)で満たされた収束剤タンク5内に連続的に導入して収束剤を塗布する。このとき、過剰に付着した収束剤は、スポンジ等からなる収束剤絞り6によって除去され、付着量が0.011g・cmとなるように制御される。このようにして所定量の収束剤を塗布した後、145〜165℃の温度に保持された長さ1.0mの加熱炉7内に連続的に導入して収束剤を加熱硬化させた。このようにして収束剤が塗布、加熱硬化された編組スリーブ2は、ガイドプーリー8を経て刃9に当たり、長手方向に切裂かれることになる。この刃9は、通電されることにより加熱しているものである。これにより、編組スリーブ2は、長手方向に連続した開口部1aが形成されて保護スリーブ1となり、巻取装置10に巻き取られる。尚、保護スリーブ1或いは編組スリーブ2の走行速度は約16cm/分である。
【0012】
上記の実施の形態では、保護スリーブ2に収束剤を塗布しているが、用途等に応じて、収束剤タンク5、収束剤絞り6及び加熱炉7を省略し、収束剤を塗布しないものとしても良い。また、収束剤を塗布するにしても、上記の実施の形態のように編組と連続して行う必要はなく、一度巻き取った後、別工程で収束剤を塗布しても良い。勿論、編組スリーブ2を長手方向に切裂き保護スリーブ1とした後に、収束剤の塗布・加熱硬化を行っても良い。
【0013】
繊維糸としては、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ−シリカ繊維、カーボン繊維等の無機繊維、ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ナイロン繊維等の有機繊維、銅線、銅合金線、ステンレス線等の金属細線などが挙げられ特に限定されない。これらは使用条件等を考慮して適宜選択すれば良い。勿論、単独で編組しても良いし、複数種を併用して編組しても良い。また、繊維の太さも使用条件等を考慮して適宜選定すれば良い。
【0014】
本発明では、製紐機を用いて上記の繊維糸を編組するのであるが、この際、編組密度は、好ましくは5〜40の範囲、更に好ましくは20〜40の範囲に設定する。編組密度が5未満では、編組目が粗くなり過ぎてしまい、本発明によって得られる保護スリーブの機械的強度(引張り強さ,伸び,耐磨耗性等)が低下してしまう。一方、編組密度が40を超えてしまうと、ワニスを塗布する場合、ワニスが編組の内部まで充分に含浸せず、収束剤の効果が充分に表れない可能性がある。更に、編組密度が40を超えてしまうと、編組重量が増加したり編組時間が増大したりするなどして生産性が悪化しコストが上昇してしまうとともに、編組糸として例えばガラス繊維糸を使用した場合には、毛羽立ちが発生し外観不良の要因となってしまう恐れがある。尚、本発明でいう「編組密度」とは、25mm間に交差している繊維束の数をいう。
【0015】
収束剤を使用する場合は、溶剤を含まず且つ粘度が10〜50000cpの範囲のものを使用することが好ましい。溶剤で希釈したタイプの収束剤を使用すると、蒸発した溶剤により作業環境が汚染されるので好ましくない。ここで、収束剤の粘度が10cp未満では、収束剤の塗膜強度が低下してしまい編組にホツレが生じる恐れがある。一方、粘度が50000cpを超えてしまうと、収束剤を塗布する際、収束剤が編組の内部まで充分に含浸せず、収束剤の効果が充分に表れない可能性がある。
【0016】
収束剤の編組への付着量は0.001〜0.050g・cmの範囲となるように制御することが好ましいが、更に好ましくは、0.007〜0.020g・cmの範囲に制御する。収束剤の付着量が0.001g・cm未満では、編組にホツレが生じる恐れがある。一方、付着量が0.050g・cmを超えてしまうと、外観状態が悪化してしまうとともに、コストが上昇してしまう。
【0017】
収束剤としては、例えば、シリコーン系ワニス(液状シリコーンゴム)、ウレタン系ワニス、エポキシ系ワニス、アクリル系ワニス、不飽和ポリエステル系ワニス、アミドイミドエステル系ワニス、ポリブタジエン系ワニス、ポリイミド系ワニスなどが挙げられ特に限定されない。これらは使用条件等を考慮して適宜選択すれば良い。
【0018】
上記の実施の形態では、刃9として、通電されることにより加熱しているものを使用しているが、これは、加熱しながら切裂くことで、切裂いた面の繊維或いは収束剤を溶融させ、開口部1aでの繊維の毛羽立ちやホツレを防止するためである。もちろん、繊維の種類によっては、刃9を加熱する必要がない場合もある。また、刃9を編組スリーブ外周に沿って定速度で回転させれば、図3のように、スパイラル状の開口部1aを有する保護スリーブ1とすることができる。なお、編組スリーブ2を切裂く手段として、刃に限定されるものではなく、例えば、ウォータカッター、丸ノコ、切削砥石、レーザーなどによって編組スリーブ2を切裂いても良い。レーザーによって切裂いた場合も、切裂いた面の繊維或いは収束剤を溶融させることができるため、開口部1aでの繊維の毛羽立ちやホツレを防止することができる。
【0019】
このようにして得られた保護スリーブ1であれば、例えば、電線に被せる際も、開口部1aから電線を保護スリーブ内部に挿入することができるため、例え電線の両端にコネクタを接続したとしても保護スリーブを後付けで配置させることができる。また、図4に示すとおり、電線束20の内の一部の電線20´を分岐させた場合でも、開口部1aより導出させることができるように、不規則な形状の部品にも対応することができる。
【0020】
また、本願発明の保護スリーブは、製紐機によって管形状に形成されているため、図1に示すように、保護スリーブ1の繊維糸が、保護スリーブ1長手方向に対して斜めに配置されるよう構成される。このような繊維糸の構成は、保護スリーブ長手方向に沿った縦糸と保護スリーブ長手方向に垂直な横糸から構成されるような、織物を管形状に形成したものと比べると、耐摩耗性に優れるとともに、柔軟性も向上したものとなる。耐摩耗性については、保護スリーブ長手方向に垂直な横糸が引っかかりを生みそこから破壊してしまうため、柔軟性については、保護スリーブ長手方向に沿った縦糸が曲げに対しての抵抗力となってしまうためである。
【0021】
上記実施の形態による保護スリーブと同様の繊維密度及び寸法になるような条件で、織物を管形状に形成して比較の形態とし、耐摩耗性と柔軟性について検証を行った。耐摩耗性は、JASO−D608−92ブレード法に準拠し、台上に保護スリーブを固定して、ブレード先端を当てて試料軸方向に10mm以上の長さに往復して摩耗させ、ブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、おもり510g、エッジR0.125、摩耗速度60回/分の条件で測定した。柔軟性は、試料(保護スリーブ1)を測定距離が250mmとなるように採取し、片側端末を図5のように固定台30に固定して、3分後の固定端からのたわみ距離Lを測定した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すように、本実施の形態は、比較の形態と比べて、耐摩耗性及び柔軟性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の保護スリーブの製造方法によれば、特に、不規則形状の部品や既に取り付けられた長尺部品に取り付け可能な保護スリーブを優れた生産性にて製造することができる。この製造方法による保護スリーブは、例えば、自動車、家電機器、重電機器、産業機器、計測機器、医療機器等において、機械的保護スリーブ、収束用スリーブ、電気絶縁スリーブ、耐熱保護スリーブ等として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の保護スリーブの製造方法を実施するための装置の一例を示す説明図である。
【図2】保護スリーブの構成を説明するための斜視図である。
【図3】他の形態の保護スリーブの構成を説明するための斜視図である。
【図4】保護スリーブを実用に供した例を説明する斜視図である。
【図5】柔軟性の試験を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 保護スリーブ
2 編組スリーブ
3 製紐機
4 繊維糸
5 収束剤タンク
6 収束剤絞り
7 加熱炉
8 ガイドプーリー
9 刃
10 巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブの製造方法であって、製紐機により繊維糸を編組して編組スリーブとし、該編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける保護スリーブの製造方法。
【請求項2】
長さ方向に連続した開口部を有する保護スリーブの製造方法であって、製紐機により繊維糸を編組して編組スリーブとする工程と、該編組スリーブに収束剤を塗布した後、該収束剤を加熱硬化する工程と、上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける工程と、からなる保護スリーブの製造方法。
【請求項3】
加熱した刃により上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける請求項1または請求項2記載の保護スリーブの製造方法。
【請求項4】
レーザーにより上記編組スリーブを長さ方向に切裂いて上記開口部を設ける請求項1または請求項2記載の保護スリーブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−252605(P2009−252605A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100858(P2008−100858)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】