説明

保護層熱転写フィルムおよび印画物

【課題】 水性インク定着性、耐溶剤性、特に耐水性に優れた保護層を形成でき、かつ剥離性に優れた保護層熱転写フィルムを提供すること。
【解決手段】 基材フィルムの一方の面に、少なくとも離型層および保護層が設けられている保護層熱転写フィルムであって、該離型層が少なくともシリコーン変性樹脂とシリコーンオイルから形成されてなることを特徴とする保護層熱熱転写フィルム、および該保護層が、印画物の画像上に熱転写された印画物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層熱転写フィルムおよび該フィルムの保護層が画像上に転写された印画物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱転写方式を用いて基材に階調画像、文字、記号等の単調画像等の画像を形成することが行われている。熱転写方式としては、感熱昇華転写方式及び感熱溶融転写方式が広く用いられている。
【0003】
このうち、感熱昇華転写方式は、色材として用いる昇華性染料をバインダー樹脂に溶融又は分散させた染料層を基材に担持した熱転写フィルムを使用し、この熱転写フィルムを受像フィルムに重ねてサーマルヘッド等の加熱デバイスに画像情報に応じたエネルギーを印加することにより、熱転写フィルム上の染料層中に含まれる昇華性染料を受像フィルムに移行させて画像を形成する方法である。
【0004】
この感熱昇華転写方式は、熱転写フィルムに印加するエネルギー量によってドット単位で染料の移行量を制御できるため、階調性画像の形成に優れ、また、文字、記号等の形成が簡便である利点を有している。
【0005】
上記感熱昇華転写方式により形成された画像は、転写された染料が被転写体の表面に存在するため、それらの画像を保護し、また耐光、耐摩耗性等、画像保護観点から、画像上に保護層を形成する技術が多数知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0006】
しかしながら、昇華転写の印画物の中には、水性スタンプでの捺印適性が要求される用途がある(例えば、パスポート等の証明写真用途)。すなわち水性インクの定着性が求められる。
【0007】
水性インク定着性の観点からは、例えばインクジェット受容層の分野では、最表面層をポリビニルアルコール(PVA)などの吸水性樹脂に多量のシリカなどの粒子を含有させたインクジェット受容層が知られている。しかしながら、このようなインクジェット受容層は、水性インク定着性を保持する為にかなりのコート量(通常10g/m以上)が塗布されている。従って、このような受容層を熱転写方式で形成した印画物のための保護層として利用しようとしても箔切れの悪さや膜自体の透明性の無さが問題となる。熱転写方式で形成された印画像の保護層は薄膜、透明性に加え、水性スタンプ定着性が要求されるため、インクジェット受容層の技術は、保護層熱転写フィルムの保護層に、到底応用利用できない。
【0008】
さらに、昇華転写等の熱転写方式で形成された印画物保護層には、上記水性インク定着性とは相反する特性、すなわち耐水性(水をかけた後で拭きとっても問題がないこと)も求められる。
【0009】
また、スタンプ性等を得るために保護層を吸水性樹脂を使用して構成する場合、保護層熱転写フィルムは、吸水性樹脂層を使用して剥離界面を構成するので、該フィルムあるいはシートは、湿度の影響を受けやすく、その影響による剥離界面の密着性の変化に起因して、剥離不良の問題が発生する。その問題は特に、高温高湿環境下保存前後で顕著に現れる。
【特許文献1】特開2000−80844号公報
【特許文献2】特開2000−71626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、水性インク定着性、耐溶剤性、特に耐水性に優れた保護層を形成でき、かつ剥離性に優れた保護層熱転写フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は基材フィルムの一方の面に少なくとも離型層および保護層が設けられている保護層熱転写フィルムであって、該離型層が少なくともシリコーン変性樹脂とシリコーンオイルから形成されてなることを特徴とする保護層熱熱転写フィルム、および該保護層を有する印画物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明保護層熱転写フィルムの一例の模式的断面図を図1に示す。保護層熱転写フィルム1は、基材フィルム2の一方の面上に、離型層3、剥離層4、多孔層5、プライマー層6およびヒートシール層(HS層)7が順次形成されている。このうち、基材フィルム2と離型層3を除いた積層体を保護層8と呼んでいる。ただし、本発明においては保護層は図1に例示したような積層体に限定されるものではない。
【0013】
基材フィルム1は、この分野で広く使用されているものと同じ基材フィルムを用いることができ、特に制限されるものではない。基材フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルホン等の耐熱性の高いポリエステル;ポリプロピレン、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエチレンの誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、アイオノマー等のプラスチックフィルム、これらの積層体等が挙げられる。前記プラスチックフィルムは、延伸されたものであってもよいし、未延伸であってもよい。基材フィルムの厚さは、強度、耐熱性等を考慮して適宜選択することができるが、通常1〜100μm程度の範囲から適宜選ばれる。
【0014】
離型層3は、基材フィルムと保護層との接着性を調整し、保護層の剥離を良好に行うために設けられ、少なくとも樹脂およびシリコーンオイルより構成されてなる。
【0015】
離型層3を構成する樹脂としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル系樹脂(アクリル系樹脂とメタクリル系樹脂の両者を含む意味で使用している)、水溶性樹脂、セルロース誘導体樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸系ビニル樹脂、アクリルビニルエーテル系樹脂、無水マレイン酸樹脂等の各種樹脂が使用できる。それらの中でも、好ましい樹脂は、シリコーン変性アクリル系樹脂、特に硬化性のシリコーン変性アクリル系樹脂である。軟化点が低すぎる樹脂を使用すると、耐熱性不足のために良好な転写が行えない問題が生じる傾向にあり、軟化点が高すぎる樹脂は溶解性に乏しい樹脂が多く、コーティングには向かない問題がある。本発明の離型層に好適に用いられる市販品樹脂としてセルトップ226(ダイセル化学(株)製)、セルトップ227(ダイセル化学(株)製)等が入手可能である。
【0016】
離型層に添加されるシリコーンオイルとしては、従来知られているものの中で、変性シリコーンオイル、特にポリエーテル、エポキシ、好ましくはポリエーテル変性のシリコーンオイルが好適である。離型層の上に剥離層を形成する際に剥離層用塗布液を塗布した際のはじき発生を抑える観点から、さらに非反応型のポリエーテル変性シリコーンオイルを使用することが好ましい。
【0017】
シリコーンオイルは、粘度が500mm/s(25℃)以下、好ましくは80〜450mm/s(25℃)、より好ましくは90〜420mm/s(25℃)を有するものを使用するようにする。粘度が大きすぎるものを使用すると、少量の添加では効果を発現出来ない傾向にある。本発明において、シリコーンオイルの粘度は、オストワルド粘度計により測定した粘度値で表している。
【0018】
離型層へのシリコーンオイルの添加量は、離型層構成樹脂に対して3〜15重量%、好ましくは5〜10重量%である。その添加量が多すぎると、その後に塗工するインキにはじきが発生する傾向にあり、また添加量が少なすぎると、所望の離型性を発現できない傾向にある)。
【0019】
本発明に使用可能なシリコーンオイルの市販品としては、KF−6011(信越化学工業(株)製)、KF−355A(信越化学工業(株)製)、X−22−4741(信越化学工業(株)製)、X−22−4742(信越化学工業(株)製)、X−22−4952(信越化学工業(株)製)、X−22−6266(信越化学工業(株)製)等が入手可能である。
【0020】
離型層3には硬化剤を添加してもよい。離型層に添加される硬化剤は、基材フィルムとの密着性、保護層との剥離特性を向上させる。硬化剤としては、グラビア印刷の乾燥フードの熱量で速やかな反応が完結する必要がある観点から、アルミキレート系硬化剤、イソシアネート化合物、メラミン化合物)等が好ましい。それらの硬化剤は、従来から知られているものを使用すればよく、市販品としては、例えばセルトップCAT−A(アルミキレート系化合物)(ダイセル化学(株))等が入手可能である。
【0021】
硬化剤は、離型層構成樹脂に対して1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。その添加量が多すぎると、ポットライフが短くなる傾向にあり、また添加量が少なすぎると、所望の離型性を得られない傾向にある。
【0022】
離型層には、さらに塗工適性改善や光沢度調節の観点から、レベリング剤、消泡剤、界面活性剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、無機や有機の微粒子等の添加剤を添加してもよい。
【0023】
離型層は、上記樹脂、シリコーンオイル、硬化剤、その他の添加剤を水、有機溶剤等の溶媒に溶解又は分解せしめてなる塗布液を、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、乾燥することにより形成される。離型層の厚みは、通常0.1〜5μm程度、好ましくは0.5〜2.0μm程度である。
【0024】
保護層は転写により剥離層4から剥離され、離型層3自体は基材フィルム2側に残るように形成される。
【0025】
剥離層4は、水系塗布液から形成されてなる。そのようなものとして少なくともポリビニルアルコール、無機フィラーから構成されるものが例示できる。
【0026】
ポリビニルアルコールは、数平均分子量(Mn)が50000〜120000、好ましくは60000〜100000、鹸化度が80%以上のものを使用する。鹸化度はその値が高いものほど好ましい。ポリビニルアルコールは耐水性(耐溶剤性)を担う成分である。
【0027】
本発明においてはポリビニルアルコールの分子量は、毛細管粘度計を用いた比粘度の測定から計算される一般的な方法により求めた値で表している。また、鹸化度とは、完全鹸化されている鹸価化の理論値と実際の鹸価化との割合を意味しており、鹸化に要したアルカリの滴定によって求め、ここから計算する一般的方法で求める事ができる。
【0028】
無機フィラーは、例えばシリカ、チタニア、アルミナ、ナイロンフィラー等、好ましくはシリカを使用する。使用する無機フィラーは、アルカリ性のもので、平均粒径が100nm以下のものを使用するようにする。その粒径は小さいほど好ましい。無機フィラーの粒径が大きすぎると塗膜の透明性低下の問題が生じる。無機フィラーがアルカリ性でないと、インキ配合時にポリビニルピロリドンと混合されたときに溶液がゲル化する問題が生じる。
【0029】
無機フィラーの使用量は、剥離層の全重量の90重量%以下、好ましくは20〜80重量%である。その使用量が少なすぎると捺印性が低下する。その使用量が多すぎると、耐水性(耐溶剤性)、膜の透明性が低下する。
【0030】
剥離層には捺印性等の向上の観点からポリビニルピロリドンを添加するようにしてもよい。この場合、ポリビニルピロリドンは、数平均分子量(Mn)が350000〜3500000、好ましくは1000000〜2000000、K値が60〜120のものを使用する。
【0031】
本発明においてはポリビニルピロリドンの分子量は、GPCの方法により測定した値で表している。また、K値とは比粘度をη、溶液濃度をc(g/dL)とした時に、(logη/c)=(75K/(1+1.5Kc))+Kの関係式から導かれる粘度と相関の深い分子量の尺度を意味している。比粘度は毛細管粘度計を用いた一般的方法により測定した値を用いている。
【0032】
ポリビニルピロリドンを使用する場合、ポリビニルアルコール(PVA)とポリビニルピロリドン(PVP)とは、PVA/PVP(重量比)が5/1〜1/5、好ましくは1/2〜2/1の割合の範囲内で使用するようにする。ポリビニルアルコールが多すぎると捺印性が低下し、またポリビニルピロリドンが多すぎると耐水性(耐溶剤性)が低下する。
【0033】
ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの合計使用量は、剥離層の全重量の20〜80重量%、好ましくは40〜60重量%である。
【0034】
剥離層には、その他、レベリング剤、消泡剤などの塗工性改善剤や蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の添加剤を、剥離層の全重量の0.01〜5重量%程度添加してもよい。
【0035】
剥離層は、基材フィルム上又は基材フィルム上に形成された離型層上に、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、無機フィラー、その他添加剤を水、有機溶剤等の溶媒に溶解又は分解せしめてなる水系塗布液を、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、乾燥することにより形成される。剥離層の厚みは、通常0.01〜2μm程度、好ましくは0.1〜0.5μm程度である。
【0036】
多孔層5は、少なくともポリビニルアルコール、無機フィラーおよび硬化剤から形成されてなる。ポリビニルアルコール、無機フィラーは剥離層で使用するものを同様に使用することができる。
【0037】
ポリビニルアルコールは耐水性、耐溶剤性を担うものである。ポリビニルアルコールの使用量は、多孔層の全重量の5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。その量が多すぎると、塗膜の尾引きの問題があり、少なすぎると、耐溶剤性が悪くなる問題がある。
【0038】
無機フィラーの使用量は、多孔層の全重量の50〜95重量%、好ましくは60〜95重量%である。その量が多すぎると塗膜の耐溶剤性が悪くなる問題があり、少なすぎると箔切れ性が低下する問題がある。
【0039】
多孔層に添加される硬化剤は、ポリビニルアルコールに耐水性、耐溶剤性を付与するためのもので、イソシアネート化合物、メラミン化合物、キレート化剤、好ましくはメラミン化合物等が使用できる。硬化剤の使用量はポリビニルアルコールに対して0.001〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%程度である。硬化剤の使用量が多すぎると箔切れ性が低下する。硬化剤の使用量が少なすぎると、耐水性、耐溶剤性が低下する。
【0040】
多孔層には、その他、レベリング剤、消泡剤などの塗工性改善剤や蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の添加剤を、多孔層の全重量の0.01〜5重量%程度添加してもよい。
【0041】
多孔層は、剥離層上に、ポリビニルアルコール、無機フィラー硬化剤、その他添加剤を水、有機溶剤等の溶媒に溶解又は分解せしめてなる塗布液を、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、硬化、乾燥することにより形成される。多孔層の厚みは、通常0.1〜2μm程度、好ましくは0.3〜1μm程度である。
【0042】
プライマー層6は、主にポリ無水マレイン酸樹脂、およびアクリル系樹脂、好ましくはポリメタクリル酸メチル樹脂から形成されてなる。プライマー層6は、多孔層6と、さらにこの上に形成されるヒートシール層との接着性を確保する機能を担うので、下記するヒートシール層(溶剤系樹脂)との相溶性に富んでいることが必要であり、アルコール系やケトン系の溶剤に可溶であり、かつある程度の耐水性を有していることが必要である。プライマー層は、このような観点から構成されているものである。
【0043】
ポリ無水マレイン酸樹脂は、数平均分子量(Mn)が50000〜500000、好ましくは100000〜300000のものを使用する。本発明においてはポリ無水マレイン酸の分子量は、GPCの方法により測定した値で表している。
【0044】
アクリル系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が10000〜100000、好ましくは20000〜50000のものを使用する。本発明においてはアクリル系樹脂の分子量は、GPCの方法により測定した値で表している。
【0045】
ポリ無水マレイン酸とアクリル系酸樹脂とは、重量比で5/1〜1/5、好ましくは1/2〜2/1の割合の範囲内で使用するようにする。ポリ無水マレイン酸樹脂の量が多すぎると、耐水性の劣化、ヒートシール層との密着性低下の問題があり、またアクリル系樹脂が多すぎると、耐溶剤性の劣化、多孔層との密着性低下の問題がある。
【0046】
ポリ無水マレイン酸樹脂、アクリル系樹脂との合計使用量は、プライマー層の全重量の50重量%以上、好ましくは90重量%以上である。
【0047】
プライマー層には、ウレタンポリオールを添加することが好ましい。このウレタンポリオールは、ヒートシール層との密着性向上の働きをする役目を担っている。
【0048】
ウレタンポリオールは、添加する場合、プライマー層全量の1〜15重量%、好ましくは5〜10重量%である。その量が多すぎると塗膜の透明性低下の問題があり、少なすぎると密着性向上の効果を発現できない問題がある。
【0049】
プライマー層には、その他、レベリング剤、消泡剤などの塗工性改善剤や蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の添加剤を、プライマー層の全重量の0.01〜5重量%程度添加してもよい。
【0050】
プライマー層は、多孔層上に、ポリ無水マレイン酸樹脂、アクリル系樹脂、必要により、ウレタンポリオール、その他の添加剤を有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散せしめてなる塗布液を、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、硬化、乾燥することにより形成される。プライマー層の厚みは、通常0.1〜2μm程度、好ましくは0.2〜1μm程度である。
【0051】
ヒートシール層は、保護層の画像面への接着の役割を担う。このヒートシール層を構成する樹脂としては、従来より公知である粘着剤、感熱接着剤等が配合されている樹脂をいずれも使用できるが、ガラス転移温度(Tg)が50〜80℃の熱可塑性樹脂であるのが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例として、例えば、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、プチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。ヒートシール層には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤等の添加剤を含有させても良い。
【0052】
ヒートシール層は、プライマー層上に、上記樹脂その他添加剤を有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散せしめてなる塗布液を、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により、塗布し、硬化、乾燥することにより形成される。ヒートシール層の厚みは、通常0.1〜10μm程度、好ましくは0.5〜5μm程度である。
【0053】
本発明においては、基材フィルムの他の面上に背面層を形成してもよい。背面層は、サーマルヘッド等の加熱デバイスと基材フィルム2との熱融着を防止し、走行を滑らかに行う目的で設けられる。この背面層に用いる樹脂としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン等のビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、アクリロニトリルースチレン共重合体等のアクリル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリビニルトルエン樹脂;クマロンインデン樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリウレタン樹脂;シリコーン変性又はフッ素変性ウレタン等の天然又は合成樹脂の単体又は混合物が用いられる。背面層の耐熱性をより高めるために上記の樹脂のうち、水酸基系の反応性基を有している樹脂(例えば、ブチラール樹脂、アセタール樹脂等)を使用し、架橋剤としてポリイソシアネート等を併用して、架橋樹脂層とすることが好ましい。
【0054】
さらに、サーマルヘッドとの摺動性を付与するために、背面層に固形あるいは液状の離型剤又は滑剤を加えて耐熱滑性をもたせてもよい。離型剤又は滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の各種ワックス類;高級脂肪族アルコール、オルガノポリシロキサン、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の各種界面活性剤;有機カルボン酸およびその誘導体、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、タルク、シリカ等の無機化合物の微粒子等を用いることができる。背面層に含有される滑剤の量は、背面中に5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%程度である。
【0055】
背面層は、基材フィルム上に、上記樹脂その他添加剤を水、有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散せしめてなる塗布液を、ワイヤーコーティグ法等の公知のコーティング方法により塗布し、乾燥することにより形成される。背面層の厚みは、通常0.1〜10μm程度、好ましくは0.5〜5μm程度である。
【0056】
本発明の保護層熱転写フィルムは、上述の態様に限定されるものではなく、熱転写性の保護層と熱昇華性色材層との複合タイプの保護層熱転写フィルム、熱転写性の保護層と熱溶融性色材層との複合タイプの保護層熱転写フィルム等、使用目的等に応じて任意に設定することができる。前者の複合タイプの保護層熱転写フィルムの場合は、被転写体として染料の受容層を有していれば、熱転写方式による画像形成と保護層の被転写体への転写とを同時に行うことができる。
保護層熱転写フィルムの他の例としては、基材フィルムの一方面に、熱転写性保護層と熱昇華性色材層及び熱溶融性色材層からなる群より選ばれた少なくとも1つの色材層が面順次に設けられている保護層熱転写フィルム等を挙げることができる。
【0057】
図2は本発明の保護層熱転写フィルムの他の一例を示す模式的断面図である。図2において本発明の保護層熱転写フィルム21は、基材フィルム22の一方の面に、熱昇華性色材層Y、熱昇華性色材層M、熱昇華性色材層C、熱昇華性色材層Bおよび熱転写性保護層26が面順次に形成され、基材フィルム22の他方面に背面層27が形成されている。図2における熱昇華性色材層Y、M、C、Bは、熱溶融性色材層Y、M、C、Bであってもよく、また、それらの層が混合されて構成されていてもよい。
【0058】
被転写体としては、例えば、普通紙、上質紙、トレーシングペーパー、プラスチックフィルム等のいずれの基材からなるフィルムでもよい。また、被転写体は、カード、葉書、パスポート、便箋、レポート用紙、ノート、カタログ等のいずれの形状でもよい。
【0059】
本発明の被転写体の具体例としては、例えば、株券、証券、証書、通帳類、乗車券、車馬券、印紙、切手、鑑賞券、入場券、チケット等の金券類;キャッシュカード、クレジットカード、プリペイドカード、メンバーズカード、グリーティングカード、ハガキ、名刺、運転免許証、ICカード、光カード等のカード類;カートン、容器等のケース類;バッグ類:帳票、封筒、タグ、OHPシート、スライドフィルム、しおり、カレンダー、ポスター、パンフレット、メニュー、パスポート、POP用品、コースター、ティスプレイ、ネームプレート、キーボード、化粧品、腕時計、ライター等の装身具;文房具、レポート用紙等の文具類;建材、パネル、エンブレム、キー、布、衣類、履物、ラジオ、テレビ、電卓、OA機器等の装置類、各種見本帳、アルバム、コンピュータグラフィックスの出力、医療画像出力等を挙げることができる。
【0060】
被転写体上の画像は、電子写真方式、インクジェット記録方式、熱転写記録方式等のいずれの方式により形成されていてもよい。
【0061】
本発明保護層熱転写フィルムが転写された被転写体、水性インクの定着性がよいので、水性タイプの捺印性、水性インク等の筆記性に優れている。
【0062】
本発明の保護層熱転写フィルムを使用するに当たっては、従来より知られている保護層熱転写フィルムの使用方法をそのまま採用することができる。例えば、本発明保護層熱転写フィルムのヒートシール層層面を被転写体に重ね合わせ、被転写体上に保護層を熱転写すればよい。
【実施例】
【0063】
以下実施例について説明する。本実施例で使用した商品を以下簡単にまとめておく。また、特に断らない限り「%」は「重量%」である
【0064】
セルトップ226:シリコーン変性アクリル系樹脂、ダイセル化学工業(株)製、
固形分50%
セルトップ227:シリコーン変性アクリル系樹脂、ダイセル化学工業(株)製、
固形分50%
ダイヤナールBR-87:アクリル系樹脂、三菱レイヨン(株)製、
Mw:25000
セルトップCAT-A:硬化剤、ダイセル化学工業(株)製、固形分10%
KF-6011:ポリエーテル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 130mm/s(25℃)
KF-355A:ポリエーテル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 130mm/s(25℃)
X-22-4741:エポキシ、ポリエーテル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 400mm/s(25℃)
X-22-4742:ポリエーテル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 300mm/s(25℃)
X-22-4952:ポリエーテル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 90mm/s(25℃)
X-22-6266:ポリエーテル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 420mm/s(25℃)
X-22-162C:カルボキシル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 230mm/s(25℃)
KF-6003:カルビノール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 110mm/s(25℃)
X-22-1821:フェノール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 100mm/s(25℃)
KF-8001:アミノ・アルコキシ変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 250mm/s(25℃)
KF-410:メチルスチリル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 900mm/s(25℃)
KF-413:アルキル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 190mm/s(25℃)
X-22-715:高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 15000mm/s(25℃)
KF96-100:ジメチルシリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 100mm/s(25℃)
KF965-100:ジメチルシリコーンオイル、信越化学工業(株)製、
粘度 100mm/s(25℃)
【0065】
RS-1717:ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、
鹸化度95%、Mn:80000
PVP‐K90:ポリビニルピロリドン、ISPジャパン(株)製、
Mn:1570000 (K=90)
スノーテックス20L:コロイダルシリカ、日産化学(株)製、
平均粒径40nm
C318:ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、
鹸化度80%、Mn:80000
スノーテックスOL-40:コロイダルシリカ、日産化学(株)製、
平均粒径40nm
バイロナールMD-1500:ポリエステル、東洋紡績(株)製、
スミレーズレジン5004:硬化剤、住友化学(株)製
【0066】
ガントレッツAN-119:ポリ無水マレイン酸、ISPジャパン(株)製、
Mn:130000
ダイヤナールBR-87:ポリメチルメタクリル酸(PMMA)、三菱レイヨン(株)製、
Mw:25000
サンプレンIB-114B:ウレタンポリオール、三洋化成(株)製、
ダイヤナールLR-209:アクリルポリオール、三菱レイヨン(株)製、
【0067】
バイロン700:ポリエステル、東洋紡績(株)製、
Mn:9000
PUVA-50M-40TM:(UVA)含有アクリル樹脂、大塚化学(株)製、
Mn:30000
チヌビン900:UVA化合物、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製
サイリシア310P:シリカフィラー、富士シリシア(株)製、
平均粒径3μm、
UVAは「ULTRA-VIOLET LIGHT ABSORBER」の略である。
【0068】
保護層熱転写フィルム(リボン)の作製(実施例1〜11、比較例1〜14)
第1層(離型層)
表1に示した配合物(表中の%は重量%を表す)を、溶剤(トルエン/メチルエチルケトン(MEK)=1/1)で希釈し、離型層用インキを調製した。得られたインキを、ワイヤーコーターバー(#3)にて塗布量1.0g/m(乾燥時、以下同様)となるように、厚み4.5μmのPETフィルム上に塗布した。得られた塗布フィルムを110℃のオーブンにて1分間乾燥させた。
【0069】
第2層(剥離層)
表1に示した剥離層仕様1または2の仕様で剥離層を形成した。
【0070】
剥離層仕様1
RS−1717(PVA):25重量%
PVP−K90: 25重量%
スノーテックス20L: 50重量%
上記配合物を溶剤(水/イソプロピルアルコール(IPA)=1/1)で希釈し、固形分5%の剥離層用インキを調製した。得られたインキを、ワイヤーコーターバー(#3)にて塗布量0.3g/mとなるように、離型層上に塗布した。得られた塗布フィルムを110℃のオーブンにて1分間乾燥させた。
【0071】
剥離層仕様2
RS−1717(PVA):20重量%
スノーテックス20L: 80重量%
上記配合物を溶剤(水/イソプロピルアルコール(IPA)=1/1)で希釈し、固形分5%の剥離層用インキを調製した。得られたインキを、ワイヤーコーターバー(#3)にて塗布量0.3g/mとなるように、離型層上に塗布した。得られた塗布フィルムを110℃のオーブンにて1分間乾燥させた。
【0072】
【表1】

【0073】
第3層(多孔層)
RS−1717(PVA): 20重量%
スノーテックスOL−40(コロイダルシリカ):76重量%
スミレーズレジン5004(硬化剤): 4重量%
【0074】
上記配合物を、固型分が15%になるように溶剤(水/IPA=1/1)で稀釈し、多孔層用インキを調製した。得られたインキを、ワイヤーコーターバー(#3)にて塗布量0.8g/mとなるように第2層を塗布したPETフィルムに塗布した。得られた塗布フィルムを110℃のオーブンにて1分間乾燥させた。
【0075】
第4層(プライマー層)
ガントレッツAN−119(ポリ無水マレイン酸):50重量%
ダイヤナールBR−87(PMMA): 42重量%
サンプレンIB−114B(ウレタンポリオール): 8重量%
【0076】
上記配合物を、固型分が10%になるように溶剤(MEK/IPA=5/1)で稀釈し、プライマー層用インキを調製した。得られたインキを、ワイヤーコーターバー(#3)にて塗布量0.4g/mとなるように第3層を塗布したPETフィルムに塗布した。得られた塗布フィルムを110℃のオーブンにて1分間乾燥させた。
【0077】
第5層(ヒートシール層(HS)層)
バイロン700(ポリエステル): 72重量%
PUVA−50M−40TM(UVA含有アクリル樹脂):18重量%
チヌビン900(UVA化合物): 8重量%
サイリシア310P(シリカフィラー、平均粒径3μm): 2重量%
【0078】
上記配合物を、固型分が20%になるように溶剤(トルエン/MEK=1/1)で稀釈し、ヒートシール層用インキを調製した。得られたインキをワイヤーコーターバー(#4)にて塗布量1.3g/mとなるように第4層を塗布したPETフィルムに塗布した。得られた塗布フィルムを110℃のオーブンにて1分間乾燥させた。
【0079】
[評価]
[はじき]
剥離層用インキを離型層上に塗布したときのはじきを目視にて観察し以下のようにランク付けした
○:はじきなし
△:少しはじき気味であるが、膜作製に支障なし
×:はじきあり(膜作製に支障あり)
結果を表2にまとめた。
【0080】
【表2】

【0081】
[剥離力]
保護層をテストプリンタで印画し(印画条件はライン速度20ms/line、パルスデューティー65%、電圧14.5V、階調地255/255、印画幅8cm)、180度剥離するときの剥離力をロードセルにて測定した(剥離速度1000mm/min)。
剥離力は、保護層転写フィルム作成後および40℃、湿度90%の環境下に24時間保存後に測定した。
剥離力が50〜60g以下であれば、いかなるプリンタ動作環境下印画動作に支障がない。
結果を表2にまとめた。表2中、「−」ははじきなどの理由から評価に値しなかった事(未評価)を意味する。
【0082】
(捺印性)
(印画物の製造)
イエロー、マゼンタ及びシアンの各色材層が設けられた熱転写フィルムを用い、プリンタ(SONY製フォト用プリンタDPP−SV55)で、画像を形成した。次に、画像形成部に上記実施例、比較例で製造した各保護層熱転写フィルムを重ね合わせ、プリンタ(SONY製フォト用プリンタDPP−SV55)を用いて、保護層熱転写フィルムから保護層を、画像形成部を覆うように転写し、保護層で被覆した印画物を形成した。得られた印画物の表面に水性スタンプで捺印したところ実施例のものは良好に捺印できた(◎)。比較例のものは、はじきの為に評価できないものや、剥離力が重いために印画後転写面が正常ではなく捺印性を評価できたものはなかった。結果を表2にまとめた。「−」は、はじきなどの理由から評価しなかった事(未評価)を意味する。
【0083】
(発明の効果)
本発明の保護層熱転写フィルムは、剥離性に優れている。
本発明保護層熱転写フィルムの保護層が転写された被転写体は、水性タイプの捺印性等、水性インクの筆記性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の保護層熱転写フィルムの一実施形態の模式的断面図。
【図2】本発明の保護層熱転写シートの一実施形態の模式的断面図。
【符号の説明】
【0085】
1 保護層熱転写フィルム
2 基材フィルム
3 離型層
4 剥離層
5 多孔層
6 プライマー層
7 ヒートシール層(HS層)
8 保護層
21 保護層熱転写フィルム
22 基材フィルム
26 熱転写性保護層
27 背面層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に、少なくとも離型層および保護層が設けられている保護層熱転写フィルムであって、該離型層が少なくともシリコーン変性樹脂とシリコーンオイルから形成されてなることを特徴とする保護層熱熱転写フィルム。
【請求項2】
保護層が、少なくとも剥離層を含み、該剥離層が水系塗布液から形成されてなる、請求項1に記載の保護層熱転写フィルム。
【請求項3】
シリコーンオイルがポリエーテル変性シリコーンオイルである、請求項1または請求項2に記載の保護層熱転写フィルム。
【請求項4】
シリコーンオイルが、500mm/s以下(25℃)の粘度を有する、請求項1〜3いずれかに記載の保護層熱転写フィルム。
【請求項5】
剥離層が、少なくとも水系樹脂とシリカ粒子からなり、該シリカ粒子が固型分で90重量%以下である、請求項2〜4いずれかに記載の保護層熱転写フィルム。
【請求項6】
基材フィルムの一面に、熱転写可能な保護層と共に、熱昇華性色材層および/または熱溶融性色材層が設けられていることを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載の保護層熱転写フィルム。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−123533(P2006−123533A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281657(P2005−281657)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】