説明

信号伝送回路

【課題】回路故障等が発生した場合でも、伝送システム全体に影響を及ぼさずに伝送を継続できるようにする。
【解決手段】一対の伝送ケーブル6と、このケーブル6と等しいインピーダンスを持つ終端回路と、送受信回路1,2,3〜N−1,Nからなる信号伝送回路の、各送受信回路を直列接続された2つ以上のドライバ回路11,16、21,26…から構成することにより、1つのドライバ回路が短絡故障したような場合にも、伝送システム全体に故障影響を与えないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の送受信回路の相互間で送受信を行なう信号伝送回路において、回路故障が発生した場合においても他の回路に影響を及ぼさないようにした信号伝送回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に特許文献1,2に記載の伝送回路を示す。
図5において、1,2,3,…,N−1,Nは送受信回路、6は電線4と5からなる1対の伝送ケーブル、7は伝送ケーブル6のシールド線(シールド電極)、8と9は伝送ケーブル6と等しいインピーダンスを持つ終端抵抗を示す。送受信回路1,2,3,…,N−1,Nはおのおの伝送ケーブル6に並列に接続され、相互に信号をやり取りする。終端抵抗8,9は伝送ケーブル6の終端に並列に接続され、伝送ケーブル6の終端での信号の反射を防止する。
送受信回路1,2,3,…,N−1,Nのいずれかから送信された信号は、伝送ケーブル6を経由しすべての送受信回路に伝達される。送受信回路1は、パルストランス12とドライバ13からなるドライバ回路11とレシーバ14から構成される。送受信回路2,3,…,N−1,Nも同様である。
【0003】
ここで、送受信回路1からの送信信号を、送受信回路2が受信する場合を例に動作を説明する。送受信回路1のドライバ13のイネーブル信号(ENin1)にH(ハイ)レベルが入力されている間、ドライバ13は送信データ信号(Din1)に基づく送信信号をパルストランス12に印加する。パルストランス12は伝送ケーブル6を介し、送受信回路2,3,…,N−1,Nに送信信号を伝達する。
【0004】
送受信回路2に伝送された信号は、送受信回路2内部のパルストランス22を介しレシーバ24に伝達される。レシーバ24は伝達されてきた信号に基き、受信信号(Dout2)を出力する。送受信回路1,3,…,N−1,Nの内部ドライバも同様の動作により、受信信号(Dout1,…)を出力する。また、送受信回路2,3,…,N−1,Nの内部ドライバも同様の動作により、伝送信号(Din2,…)に基づく送信信号を出力可能である。
図5の信号伝送回路により、送受信回路1,2,3,…,N−1,Nの相互間で信号伝送が可能である。信号を送信する際には、信号を送信するタイミングを他の送受信回路とずらし信号の衝突を防止する(時分割方式)。
【0005】
信号を送信するタイミングが複数の送受信回路で一致すると、伝送ケーブル6を複数のドライバで駆動することになる。複数のドライバが互いに異なるレベルの信号を送信しようとすると、ドライバに大きな電流が流れドライバが焼損に至ることがある。ドライバ13の出力が短絡故障すると、パルストランス12を介し伝送ケーブル6も短絡状態となる。伝送ケーブル6が短絡状態となると、送受信回路1,2,3,…,N−1,Nの相互間で信号伝送ができなくなり、信号伝送システム全体が動作不能となる。また、その他の原因によっても信号伝送回路の部品が故障することがあり、信号伝送システムの動作に影響を与える。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−029117号公報
【特許文献2】特開平08−097864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、図5に示すものでは、ドライバ出力の短絡故障などの回路故障が、システム全体に悪影響を与えるという問題がある。
したがって、この発明の課題は、回路故障がシステム全体に悪影響を与えないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、一対の伝送ケーブルと、この伝送ケーブルと等しいインピーダンスを持つ終端回路と、複数の送受信回路とを備えた信号伝送回路において、
前記終端回路は前記伝送ケーブルの両端にそれぞれ接続され、前記送受信回路は直列接続された2個以上のドライバ回路から構成することを特徴とする。
【0009】
上記請求項1の発明においては、前記ドライバ回路の直列接続点のいずれかを、インピーダンス素子を介して前記伝送ケーブルのシ−ルド電極に接続することができ(請求項2の発明)、これら請求項1または2の発明においては、前記ドライバ回路は、パルストランスを介してドライバを前記伝送ケーブルに接続することができる(請求項3の発明)。また、この請求項3の発明においては、前記パルストランスを介して直列接続されたドライバのそれぞれにレシーバを並列に接続し、各レシーバの出力信号波形の違いを検出することができる(請求項4の発明)。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ドライバ短絡故障,レシーバ故障,伝送ケーブル故障等があった場合にも、信号伝送システム全体に悪影響を与えることなく信号伝送を継続できるだけでなく、各故障の発生箇所を正確に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1はこの発明の実施の形態を示す回路図である。同図からも明らかなように、これは図5に示す送受信回路1,2,3,…,N−1,Nの内部構成を変更したものである。すなわち、送受信回路1は、ドライバ回路11とドライバ回路16との直列接続回路に、レシーバ14を並列接続して構成される。ドライバ回路11はドライバ13からなり、ドライバ回路16はドライバ18からなっており、この構成は他の送受信回路2,3,…,N−1,Nも同様である。
【0012】
先ず、図1の正常時の動作について説明する。
送受信回路1のドライバ13のイネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されている間、ドライバ13は送信データ信号(Din1)に基づく送信信号を出力する。ドライバ18も同様に、イネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されている間、送信データ信号(Din1)に基づく送信信号を出力する。ドライバ13の出力信号は、ドライバ13とドライバ18の接続点電位に対してプラス電圧とし、ドライバ18の出力信号は接続点電位に対してマイナス電圧とする。ドライバ13とドライバ18は直列接続されているので、ドライバ13,18の送信信号を加え合わせた信号が伝送ケーブル6に印加される。
【0013】
伝送ケーブル6に印加されて伝送されてきた信号は、送受信回路2内部のレシーバ24に伝達される。レシーバ24は、伝達されてきた信号に基き受信信号(Dout2)を出力する。このように、送受信回路1から送受信回路2に信号が伝送される。全てのドライバのイネーブル信号(ENin)がL(ロー)レベルとなり、伝送ケーブル6に信号が伝送されていない場合、各レシーバはHレベルを出力する。送受信回路1,3,…,N−1,N内部のレシーバも、同様に受信信号を出力する。また、送受信回路2,3,…,N−1,N内部のドライバも、同様に送信信号を出力可能である。
【0014】
次に、ドライバ故障の例として、ドライバ18の短絡故障時の動作について説明する。
ドライバ13はイネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されている間、送信データ信号(Din1)に基づく送信信号を出力する。しかし、ここではドライバ18は故障しているので、イネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されても出力電圧は0のままである。よって、送受信回路1の送信時に伝送ケーブル6に印加される信号電圧は、正常動作時の半分となる。また、伝送ケーブル6により送受信回路2,3,…,N−1,Nに印加される信号電圧も正常動作時の半分となる。レシーバの入力感度を信号電圧が正常動作時の半分になっても受信可能としておくことにより、ドライバの短絡故障時においても伝送動作を継続することができる。
【0015】
図2にこの発明の他の実施の形態を示す。
これは、図5に示す送受信回路1,2,3,…,N−1,Nの内部構成を変更するとともに、AND(論理積)ゲート31,32,…、EXOR(排他的論理和)ゲート41,42,…を追加したものである。
図示のように、送受信回路1はドライバ回路11とドライバ回路16との直列接続回路から構成され、ドライバ回路11とドライバ回路16との接続点は、インピーダンス素子15を介して伝送ケーブル6のシールド線7に接続される。
【0016】
ドライバ回路11はパルストランス12とドライバ13とレシーバ14から構成され、ドライバ回路16はパルストランス17とドライバ18とレシーバ19から構成される。ANDゲート31はレシーバ14の出力(Dout11)とレシーバ19の出力(Dout12)の論理積から受信信号(Dout1)を、EXORゲート41はレシーバ14の出力(Dout11)とレシーバ19の出力(Dout12)の排他的論理和から故障信号1を作成する。他の送受信回路2,3,…,N−1,Nも同様であり、受信信号(Dout2,…)と故障信号2,…を作成する。
【0017】
ここで、送受信回路1からの伝送信号を送受信回路2で受信する場合と、送受信回路2からの伝送信号を送受信回路1で受信する場合について、図3を参照して説明する。なお、図3の(a)は正常動作時を、同(b)はドライバ18故障時を、同(c)はレシーバ19の故障時をそれぞれ示す。また、ENinは送受信回路1のイネーブル信号、Dinは送信データ信号、Lineは伝送ケーブル6の電圧、Dout11,Dout12は送受信回路1の受信信号、Dout1はANDゲート31の出力、故障信号1はEXORゲート41の出力、Dout21,Dout22は送受信回路2の受信信号、Dout2はANDゲート32の出力、故障信号2はEXORゲート42の出力をそれぞれ示す。
【0018】
図3(a)に正常時の動作波形を示す。
送受信回路1のドライバ13のイネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されている間、ドライバ13は送信データ信号(Din1)に基づく送信信号をパルストランス12に印加する。ドライバ18も同様に、イネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されている間、送信データ信号(Din1)に基づく送信信号をパルストランス17に印加する。パルストランス12と17は直列接続されているので、ドライバ13からの送信信号とドライバ18からの送信信号とを加え合わせたものが伝送ケーブル6に印加される。
【0019】
伝送ケーブル6に印加され伝送されてきた信号は、送受信回路2のパルストランス22と27を介し、レシーバ24と29にそれぞれ伝達される。レシーバ24は伝達されてきた信号に基づき受信信号1(Dout21)を、同様にレシーバ29は受信信号2(Dout22)をそれぞれ出力する。このように、送受信回路1から送受信回路2に信号が伝送される。すべてのドライバのイネーブル信号(ENin)がLレベルとなり、伝送ケーブル6に信号が伝送されていない場合、各レシーバはHレベルを出力する。
【0020】
正常動作時は、レシーバ24に入力される信号とレシーバ29に入力される信号とは同じなので、受信信号(Dout2)は受信信号1(Dout21)や受信信号2(Dout22)と同一の波形となり、故障信号2は常にLレベルとなる。送受信回路1,3,N−1,N内部のレシーバも、上記と同様に受信信号を出力する。また、送受信回路2,3,N−1,N内部のドライバも、上記と同様に送信信号を出力可能である。
【0021】
図3(b)に、ドライバ18の短絡故障時の動作波形を示す。
ドライバ13は送受信回路1のイネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されている間、送信データ信号(Din1)に基づく送信信号をパルストランス12に印加する。しかし、ドライバ18はイネーブル信号(ENin1)にHレベルが入力されても、出力電圧は0のままである。よって、送受信回路1の送信時に伝送ケーブル6に印加される信号電圧は、正常動作時の半分となる。レシーバの入力感度を、信号電圧が正常動作時の半分になっても受信可能な程度とすることで、ドライバの短絡故障時においても伝送動作を継続することができる。
【0022】
この条件において、送受信回路2の受信信号1,2(Dout21,22)と送受信回路1の受信信号1(Dout11)は、正常動作時の受信信号と同様な信号となる。送受信回路2の受信信号2(Dout12)は、送受信回路1の送信時にHレベルとなる。よって、EXORゲート41の出力信号(故障信号1)は、ドライバ13がLレベルを出力するタイミングにおいてHレベルを出力し、送受信回路1のドライバが短絡故障していることを検出する。
【0023】
図3(c)に、レシーバ19の故障時の動作波形を示す。
送受信回路1の送信時には、レシーバ19の故障とは関係なく正常動作となる。送受信回路1の送信時において、受信信号1(Dout11)は正常動作時の受信信号と同様な信号となるが、レシーバ19の出力である受信信号2(Dout12)は常にHレベルを出力する。ANDゲート31の出力である受信信号(Dout1)は、受信信号1(Dout11)と同様な信号波形となり、正常動作時と同様な受信信号が得られる。EXORゲート41の出力信号(故障信号1)は、伝送ケーブルに接続されているいずれかのドライバがLレベルを出力するタイミングにおいてHレベルを出力し、送受信回路1のレシーバが故障していることを検出する。
【0024】
図4(a)に、伝送ケーブル1線の地絡故障の例として、電線5とシールド線の短絡故障時の動作波形を示す。
電線5が地絡すると、電線5に接続されるドライバ回路16,26,…は出力短絡状態となる。ドライバ回路16,26,…に接続されるレシーバ19,29,…の出力である受信信号2(Dout12,22,…)は常にHレベルを出力する。このとき、送信側の送受信回路から伝送ケーブルに印加される信号電圧は、正常動作時の半分になる。受信側では、電線4に接続されるドライバ回路11,21,…だけに信号電圧が印加されるため、ドライバ回路11,21,…に接続されるレシーバ14,24,…に印加される電圧は正常動作時と同じになる。
【0025】
よって、レシーバ14,24,…の出力である受信信号1(Dout11,21,…)は、正常動作時と同様の信号となる。ANDゲート31,32,…の出力である受信信号(Dout1,2,…)は、受信信号1(Dout11,21,…)と同様な信号波形となり、正常動作時と同様な受信信号が得られる。EXORゲート41,42,…の出力信号(故障信号1,2,…)は、伝送ケーブルに接続されているいずれかのドライバがLレベルを出力するタイミングにおいてHレベルを出力し、伝送ケーブルで1線短絡故障が発生していることを検出する。
【0026】
図4(b)に、伝送ケーブル1線の開放故障の例として、電線5の開放故障時の動作波形を示す。
電線5の開放故障時において、送信側のドライバやレシーバは正常に動作する。よって、送受信回路1の送信時において、送受信回路1のレシーバ出力である受信信号1,2(Dout11,12)には、正常動作時と同様な受信信号が得られる。しかし、電線5に接続されているドライバ16,26,…には受信時に信号電圧が印加されない。ドライバ回路16,26,…に接続されたレシーバ19,29,…の出力である受信信号2(Dout12,22,…)は、送信時以外ではHレベルを出力する。
【0027】
電線4に接続されている受信側のドライバ回路11,21,…内部のレシーバ14,24,…には、インピーダンス素子15,25,…と電線4とシールド線7を介して信号電圧が印加される。受信側のレシーバ14,24,…に印加される電圧は、インピーダンス素子15,25,…と受信側レシーバ14,24,…の入力インピーダンスから求められる分圧比に、送信側ドライバの出力電圧を乗じたものとなる。インピーダンス素子15,25,…を調整することで、伝送ケーブル1線が開放状態になっても伝送動作を継続することができる。
【0028】
よって、レシーバ14,24,…の出力である受信信号1(Dout11,21,…)や受信信号(Dout1,2,…)には、正常動作時と同様な受信信号が得られる。EXORゲート41,42,…の出力信号(故障信号1,2,…)は、送受信回路の受信時において、伝送ケーブルに接続されているいずれかのドライバがLレベルを出力するタイミングにおいてHレベルを出力し、伝送ケーブル6が開放故障していることを検出する。
故障信号が出力されるタイミングは、故障種類により異なる。各送受信回路の故障信号1,2,…の発生タイミングを保持し、集計することで、発生している故障の種類と発生場所を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態を示す回路図
【図2】この発明の他の実施の形態を示す回路図
【図3】図2の動作説明図
【図4】図2の別の動作説明図
【図5】従来例を示す回路図
【符号の説明】
【0030】
1,2,3〜N−1,N…送受信回路、4,5…伝送ケーブルの電線、6…伝送ケーブル、7…伝送ケーブルのシールド線、8,9…終端抵抗、11,16,21,26…ドライバ回路、12,17,22,27…パルストランス、13,18,23,28…ドライバ、14,19,24,29…レシーバ、15,25…インピーダンス素子、31,32…ANDゲート、41,42…EXORゲート。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の伝送ケーブルと、この伝送ケーブルと等しいインピーダンスを持つ終端回路と、複数の送受信回路とを備えた信号伝送回路において、
前記終端回路は前記伝送ケーブルの両端にそれぞれ接続され、前記送受信回路は直列接続された2個以上のドライバ回路から構成することを特徴とする信号伝送回路。
【請求項2】
前記ドライバ回路の直列接続点のいずれかを、インピーダンス素子を介して前記伝送ケーブルのシ−ルド電極に接続することを特徴とする請求項1に記載の信号伝送回路。
【請求項3】
前記ドライバ回路は、パルストランスを介してドライバを前記伝送ケーブルに接続することを特徴とする請求項1または2に記載の信号伝送回路。
【請求項4】
前記パルストランスを介して直列接続されたドライバのそれぞれにレシーバを並列に接続し、各レシーバの出力信号波形の違いを検出することを特徴とする請求項3に記載の信号伝送回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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