説明

信号処理装置、信号処理方法、およびプログラム、並びに情報処理装置

【課題】心電図信号から心臓鼓動パターンを精度良く抽出できる。
【解決手段】
本開示の信号処理装置は、心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部(P波用BPF、QRS波用BPF、T波用BPF)と、前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出部と、検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出部とを含む。本開示は、例えば、心臓鼓動パターンを用いて個人認証を行う認証装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置、信号処理方法、およびプログラム、並びに情報処理装置に関し、特に、例えば、人の心臓の動きを示す心臓鼓動パターンを正確に検出できるようにした信号処理装置、信号処理方法、およびプログラム、並びに情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、健康診断などの医療用途で心電図(以下、心電図信号と称する)の測定が行われている。医療機関で心電図信号を測定する場合、12誘導法と称される、頭部、胸部、四肢などの12箇所に電極を取り付けて心電図信号を測定する手法が一般的である。また、左手用電極と右手用電極の2箇所、またはそれにアース電極を追加した3電極で、簡易的に心電図信号を測定する方法(以下、簡易測定法と称する)も知られている。
【0003】
心電図信号は周期的な心臓の動きを表し、その1周期分の波形パターン(以下、心臓鼓動パターンと称する)が各個人で異なる特徴を示すことが知られている。そして、この心臓鼓動パターンを個人認証に利用する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図1は、一般的な心臓鼓動パターンの波形を示している。同図の横軸は時間軸(サンプル軸)を示し、縦軸は電位を示している。同図に示されるように、一般的な心臓鼓動パターンは、P波、Q波、R波、S波、T波の順に特徴的な波が配置されている。なお、図示は省略するが、U波と称される波(P波の前(換言すれば、T波の後))などのように、P波、Q波、R波、S波、T波以外にも特徴的な波の存在が知られている。
【0005】
一般的な心臓鼓動パターンにおいて、その波高はQRS波部が最も高く、次にT波部、P波部の順で高いことが知られている。心臓鼓動パターンを取得するには、心電図信号から波高が最も高いQRS波部のピークが検出され、検出されたQRS波部のピークを基準とする所定のサンプル幅の波形が心臓鼓動パターンとして抽出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−518709
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、心臓鼓動パターンを個人認証に利用する場合、心電図信号から心臓鼓動パターンを正確に抽出する必要がある。当然ながら、12誘導法を採用すれば、正確な心電図信号が測定できるので、そこから心臓鼓動パターンを高い精度で抽出可能である。しかしながら、個人認証の用途を考慮すると12誘導法の採用は困難であるので、簡易測定法を採用することになる。
【0008】
しかしながら、簡易測定法により心電図信号を測定した場合、電極の接触の具合、筋肉に流れる筋電位などに起因して心電図信号にノイズ成分が多く発生してしまうことになり正確な心電図信号を測定できず、心臓鼓動パターンを高い精度で得られないことがある。
【0009】
例えば図2に示される、簡易測定法により測定された心電図信号の一例の場合、必ずしもQRS波部の波高が最も高いわけではないので、QRS波部のピークを正確に検出できず、心臓鼓動パターンを精度良く抽出することができない。
【0010】
また、QRS波部のピークを検出でき、QRS波部のピークを基準とする所定のサンプル幅の心臓鼓動パターンを正確に抽出できたとしても、心臓鼓動パターン自体にノイズ成分が含まれていた場合、その特徴量は個人特有のものとは言えず、認証に用いることができなくなる。
【0011】
例えば図3は、簡易測定法により測定された心電図信号から5周期分の心臓鼓動パターンを抽出し、その後、被測定者に電極を接触し直させて、5周期分の心臓鼓動パターンを抽出し、合計10周期分の心臓鼓動パターンを重ねて表示したものである。
【0012】
同図に示すように、抽出された10周期分の心臓鼓動パターンは、QRS波部は一致しているもののT波部分にノイズの混合が見受けられる。T波部分のノイズについては、その周波数成分に応じたバンドカットフィルタを用いることにより除去できる。しかしながら、T波部分のノイズの周波数成分はQRS波部の周波数成分に近いため、そのようなバンドカットフィルタを用いると、QRS波部までもカットしてしまうことになる。
【0013】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、心電図信号から心臓鼓動パターンを精度良く抽出できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の第1の側面である信号処理装置は、心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部と、前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出部と、検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出部とを含む。
【0015】
本開示の第1の側面である信号処理装置は、検出された前記周波数成分のピークの周期性を判定する周期性判定部をさらに含むことができ、前記心臓鼓動パターン抽出部は、周期性を有する前記周波数成分の前記ピークを基準として前記心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出することができる。
【0016】
前記心臓鼓動パターン抽出部は、周期性を有する異なる複数の周波数成分それぞれのピークを基準とする複数の心臓鼓動パターン候補を前記心電図信号から抽出し、抽出した前記複数の心臓鼓動パターン候補の重複する範囲を前記心臓鼓動パターンとして抽出することができる。
【0017】
前記心臓鼓動パターン抽出部は、周期性を有する異なる複数の周波数成分それぞれのピークに基づいて決定される範囲を前記心臓鼓動パターンとして前記心電図信号から抽出することができる。
【0018】
本開示の第1の側面である信号処理方法は、信号処理装置の信号処理方法において、前記信号処理装置による、心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる複数の周波数成分を抽出するフィルタリングステップと、前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出ステップと、検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出ステップとを含む。
【0019】
本開示の第1の側面であるプログラムは、コンピュータに、心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる複数の周波数成分を抽出するフィルタリングステップと、前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出ステップと、検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出ステップとを含む処理を実行させる。
【0020】
本開示の第1の側面においては、心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる複数の周波数成分が抽出され、心電図信号から抽出された複数の周波数成分それぞれのピークが検出され、検出された周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンが心電図信号から抽出される。
【0021】
本開示の第2の側面である情報処理装置は、心臓の動きに起因する心電図信号を入力する入力部と、前記心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部と、心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部と、前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出部と、検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出部と、抽出された前記心臓鼓動パターンを用いて所定の処理を行う情報処理部とを含む。
【0022】
本開示の第2の側面においては、心臓の動きに起因する心電図信号が入力され、心電図信号からそれぞれ異なる複数の周波数成分が抽出され、心電図信号から抽出された複数の周波数成分それぞれのピークが検出され、検出された周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンが心電図信号から抽出される。さらに、抽出された心臓鼓動パターンを用いて所定の処理が行行われる。
【発明の効果】
【0023】
本開示の第1の側面によれば、心電図信号から心臓鼓動パターンを精度良く抽出することができる。
【0024】
本発明の第2の側面によれば、心臓鼓動パターンを用いる所定の処理の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一般的な心臓鼓動パターンの波形を示す図である。
【図2】簡易測定法により測定された心電図信号の一例を示す図である。
【図3】簡易測定法により測定された心電図信号から10周期分の心臓鼓動パターンを抽出して重畳表示した図である。
【図4】実施の形態である認証装置の外観図である。
【図5】実施の形態である認証装置の構成例を示すブロック図である。
【図6】登録処理を説明するフローチャートである。
【図7】認証処理を説明するフローチャートである。
【図8】第1のピーク検出処理を説明するフローチャートである。
【図9】第2のピーク検出処理を説明するフローチャートである。
【図10】コンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示を実施するための最良の形態(以下、実施の形態と称する)について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
<1.実施の形態>
[認証装置の構成例]
図4は、実施の形態である認証装置の上面の外観を示している。この認識装置10は、測定される心電図信号から抽出する心臓鼓動パターンを利用して個人認証を行うものである。
【0028】
同図Aに示すように、認証装置10の上面には、電極11Lおよび電極11Rが設けられている。認証装置10は、同図Bに示されるように、被測定者(登録者および被認証者)が左手を電極11Lに、右手を電極11Rに接触させて状態で心電図信号を測定し、測定した心電図信号を用いて登録処理および認証処理(いずれも後述)を行うことになる。
【0029】
図5は、認識装置10の構成例を示している。認識装置10は、電極11L,11R、心電図信号入力部20、P波部用BPF21、ピーク検出部22、QRS波部用BPF23、ピーク検出部24、T波部用BPF25、ピーク検出部26、周期性判定部27、心臓鼓動パターン抽出部28、および認証処理部29から構成される。
【0030】
心電図信号入力部20は、電極11L,11Rから得られる、被測定者の心臓の周期的な動きに起因する微弱な電気信号を増幅し、その電位を所定のサンプリング周波数に従って検出することにより心電図信号を生成して、P波部用BPF21、QRS波部用BPF23、T波部用BPF25、および心臓鼓動パターン抽出部28に入力する。なお、サンプリング周波数は、例えば1MHzとされる。この場合、一般的な心電図信号の1周期分(心臓鼓動パターン)は850サンプル程となる。
【0031】
P波部用BPF21は、入力された心電図信号から、予め知られているP波部の周波数成分(例えば、6Hz乃至12Hz)のみを通過させて、ピーク検出部22に出力する。ピーク検出部22は、P波部の周波数成分のみの心電図信号からP波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。
【0032】
QRS波部用BPF23は、入力された心電図信号から、予め知られているQRS波部の周波数成分(例えば、10.1Hz乃至21.1Hz)のみを通過させて、ピーク検出部24に出力する。ピーク検出部24は、QRS波部の周波数成分のみの心電図信号からQRS波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。
【0033】
T波部用BPF25は、入力された心電図信号から、予め知られているT波部の周波数成分(例えば、2.5Hz乃至10Hz)のみを通過させて、ピーク検出部26に出力する。ピーク検出部26は、T波部の周波数成分のみの心電図信号からT波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。なお、ピーク検出部22,24,26におけるピーク検出の方法については既存の任意の手法を用いればよい。また、上述したP波部、QRS部、T波部の周波数成分については、一例であってこれに限るものではない。
【0034】
周期性判定部27は、P波部のピーク、QRS波部のピーク、およびT波部のピークに周期性があるか否かを判定し、その判定結果に基づいて、P波部のピーク、QRS波部のピーク、およびT波部のピークの中から、採用するピークを決定して心臓鼓動パターン抽出部28に通知する。
【0035】
心臓鼓動パターン抽出部28は、心電図信号入力部20からの心電図信号から、周期性判定部27にて採用されたピークの位置を基準とする所定のサンプル範囲を抽出し、抽出結果である心臓鼓動パターンを認証処理部29に出力する。
【0036】
認証処理部29は、登録処理時においては、被測定者(登録者)の心臓鼓動パターンの特徴量を算出し、登録者に心臓鼓動パターンの特徴量を対応付けて、自己が管理するデータベースに登録する。また、認証処理部29は、認証処理時においては、被測定者(被認証者)の心臓鼓動パターンの特徴量を算出し、算出した特徴量と登録済みの特徴量とを比較し、その比較結果に基づいて、被認証者の個人認証を行う。
【0037】
[動作説明]
次に、認証装置10の動作について説明する。
【0038】
図6は、認証装置10の登録処理を説明するフローチャートである。この登録処理は、登録者の心臓鼓動パターンを登録するときに行われる。
【0039】
ステップS1において、心電図信号入力部20は、電極11L,11Rから得られる、登録者の心臓の周期的な動きに起因する微弱な電気信号を増幅し、その電位を所定のサンプリング周期で検出することにより心電図信号を生成して、P波部用BPF21、QRS波部用BPF23、T波部用BPF25、および心臓鼓動パターン抽出部28に入力する。
【0040】
ステップS2において、P波部用BPF21乃至周期性判定部27にてピーク検出処理が行われる。ピーク検出処理の結果、心臓鼓動パターン抽出部28には、P波部、QRS波部、またはT波部のうちの少なく1つのピークが通知される。ただし、ピーク検出処理にて、P波部、QRS波部、およびT波部のピークが検出されなかった場合、この登録処理はエラー処理の後に終了される。なお、ピーク検出処理の詳細については、図8または図9を参照して後述する。
【0041】
ステップS3において、心臓鼓動パターン抽出部28は、心電図信号入力部20からの心電図信号から、周期性判定部27にて採用されたピークの位置を基準とする所定のサンプル範囲を抽出し、抽出結果である心臓鼓動パターンを認証処理部29に出力する。
【0042】
QRS波部のピークが採用された場合、そのピークの位置を基準として−X1から+X2のサンプリング範囲を心臓鼓動パターンとして抽出する。なお、サンプリング周波数が1MHzである場合、例えば、X1=250,X2=600とする。
【0043】
T波部のピークが採用された場合、そのピークの位置を基準として−Y1から+Y2のサンプリング範囲を心臓鼓動パターンとして抽出する。なお、サンプリング周波数が1MHzである場合、例えば、Y1=550,X2=300とする。
【0044】
P波部のピークが採用された場合、そのピークの位置を基準として−Z1から+Z2のサンプリング範囲を心臓鼓動パターンとして抽出する。なお、サンプリング周波数が1MHzである場合、例えば、Z1=725,X2=125とする。
【0045】
なお、例えばQRS波部のピーク、T波部のピーク、およびP波部のピークが採用された場合や、T波部のピーク、およびP波部のピークが採用された場合などのように、異なる複数の波のピークが採用された場合、それぞれの波のピークを基準として抽出された複数のサンプリング範囲のうちで重複する範囲を心臓鼓動パターンとすればよい。
【0046】
または、例えばQRS波部のピーク、T波部のピーク、およびP波部のピークが採用された場合、QRS波部のピークとP波部のピークの幅L1と、QRS波部のピークとT波部のピークの幅L2とを算出し、QRS波部のピークを基準として、−N・L1から+N・L2(例えば、N=2)のサンプリング範囲を心臓鼓動パターンとして抽出するようにしてもよい。この場合、心臓鼓動パターンとして抽出するサンプリング範囲を適応的に変更することができる。
【0047】
ステップS4において、認証処理部29は、抽出された心臓鼓動パターンの特徴量を算出する。なお、この特徴量の算出については、既存の任意の方法を用いることができる。ステップS5において、認証処理部29は、登録者に心臓鼓動パターンの特徴量を対応付けて、自己が管理するデータベースに登録する。以上で、登録処理は終了される。
【0048】
次に、図7は、認証装置10の認証処理を説明するフローチャートである。この認証処理は、被認証者が登録済みの人物(登録者)であるか否かを認証するときに行われる。
【0049】
なお、認証処理におけるステップS11乃至14の処理は、上述した登録処理のステップS1乃至S4の処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0050】
ステップS15において、認証処理部29は、被認証者の心臓鼓動パターンの特徴量と登録済みの特徴量とを比較し、その比較結果に基づいて被験者の個人認証を行う。以上で、認証処理は終了される。
【0051】
次に、図8は、登録処理のステップS2、および認証処理のステップS12にて実行されるピーク検出処理について説明する。ピーク検出処理としては、図8に示す第1のピーク検出処理、または図9に示す第2のピーク検出処理のいずれか一方を実行すればよい。
【0052】
図8は、第1のピーク検出処理を説明するフローチャートである。
【0053】
ステップS21において、ピーク検出部24は、QRS波部用BPF23から入力されるQRS波部の周波数成分のみの心電図信号からQRS波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。
【0054】
ステップS22において、周期性判定部27は、ピーク検出部22の検出結果に基づき、QRS波部のピークに周期性があるか否かを判定する。周期性があると判定された場合、処理はステップS27に進められる。ステップS27において、周期性判定部27は、QRS波部のピークを採用すると決定し、そのピーク位置を心臓鼓動パターン抽出部28に通知する。以上で、第1のピーク検出処理は終了される。
【0055】
反対に、ステップS22において、QRS波部のピークに周期性がないと判定された場合(QRS波部のピークが検出されない場合も含む)、処理はステップS23に進められる。
【0056】
ステップS23において、ピーク検出部26は、T波部用BPF25から入力されるT波部の周波数成分のみの心電図信号からT波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。
【0057】
ステップS24において、周期性判定部27は、ピーク検出部26の検出結果に基づき、T波部のピークに周期性があるか否かを判定する。周期性があると判定された場合、処理はステップS27に進められる。ステップS27において、周期性判定部27は、T波部のピークを採用すると決定し、そのピーク位置を心臓鼓動パターン抽出部28に通知する。以上で、第1のピーク検出処理は終了される。
【0058】
反対に、ステップS24において、T波部のピークに周期性がないと判定された場合(T波部のピークが検出されない場合も含む)、処理はステップS25に進められる。
【0059】
ステップS25において、ピーク検出部22は、P波部用BPF21から入力されるP波部の周波数成分のみの心電図信号からP波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。
【0060】
ステップS26において、周期性判定部27は、ピーク検出部22の検出結果に基づき、P波部のピークに周期性があるか否かを判定する。周期性があると判定された場合、処理はステップS27に進められる。ステップS27において、周期性判定部27は、P波部のピークを採用すると決定し、そのピーク位置を心臓鼓動パターン抽出部28に通知する。以上で、第1のピーク検出処理は終了される。
【0061】
反対に、ステップS26において、P波部のピークに周期性がないと判定された場合(P波部のピークが検出されない場合も含む)、処理はステップS28に進められる。ステップS28において、例えば、エラー発生を被験者に通知したり、電極の触り直しを促したりするなどの所定のエラー処理が実行される。以上で、第1のピーク検出処理は終了される。
【0062】
以上に説明した第1のピーク検出処理によれば、一般的に波高が高いとされている順序(QRS波部、T波部、P波部の順)で優先的にそのピークが検出されて、最終的に1種類の波のピークのみが採用される。
【0063】
次に、図9は、第2のピーク検出処理を説明するフローチャートである。
【0064】
ステップS31において、ピーク検出部24は、QRS波部用BPF23から入力されるQRS波部の周波数成分のみの心電図信号からQRS波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。周期性判定部27は、ピーク検出部22の検出結果に基づき、QRS波部のピークの周期性を判定する。
【0065】
ステップS32において、ピーク検出部26は、T波部用BPF25から入力されるT波部の周波数成分のみの心電図信号からT波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。周期性判定部27は、ピーク検出部26の検出結果に基づき、T波部のピークの周期性を判定する。
【0066】
ステップS33において、ピーク検出部22は、P波部用BPF21から入力されるP波部の周波数成分のみの心電図信号からP波部のピークを検出し、検出結果を周期性判定部27に出力する。周期性判定部27は、ピーク検出部22の検出結果に基づき、P波部のピークの周期性を判定する。
【0067】
ステップS34において、周期性判定部27は、ステップS31乃至S33における周期性判定で、QRS波部、T波部、またはP波部のうちの少なくとも1種類の波のピークに周期性があると判定していた場合、処理をステップS35に進める。なお、QRS波部、T波部、およびP波部のピークに周期性がないと判定していた場合(ピークが検出されない場合も含む)、処理をステップS39に進められて、所定のエラー処理の後、第2のピーク検出処理は終了される。
【0068】
ステップS35において、周期性判定部27は、ステップS31における周期性判定でQRS波部のピークに周期性があると判定していた場合、処理をステップS36に進められる。
【0069】
ステップS36において、周期性判定部27は、QRS波部のピークを採用すると決定し、処理をステップS37に進める。
【0070】
ステップS37において、周期性判定部27は、T波部とP波部のピークの周期性判定結果に基づき、T波部とP波部のピークを採用するか否かを判断し、採用したピーク位置を心臓鼓動パターン抽出部28に通知する。
【0071】
すなわち、T波部のピークに周期性があって、P波部のピークに周期性がなく、T波部のピークの位置がQRS波部のピークの位置と異なる場合にはT波部のピークも採用する(T波部のピークの位置とQRS波部のピークの位置とが一致する場合には、検出されたT波部のピークは誤検出と考えられる)。
【0072】
P波部のピークに周期性があって、T波部のピークに周期性がなく、P波部のピークの位置がQRS波部のピークの位置と異なる場合にはP波部のピークも採用する(P波部のピークの位置とQRS波部のピークの位置とが一致する場合には、検出されたP波部のピークは誤検出と考えられる)。
【0073】
P波部とT波部それぞれのピークに周期性があってP波部とT波部それぞれのピークの位置がQRS波部のピークの位置と異なる場合にはP波部とT波部それぞれのピークも採用する。
【0074】
上記のようにして採用された1種類以上の波それぞれのピーク位置は、心臓鼓動パターン抽出部28に通知される。以上で、第2のピーク検出処理は終了される。
【0075】
ステップS35において、ステップS31における周期性判定でQRS波部のピークに周期性がないと判定していた場合、処理はステップS38に進められる。
【0076】
ステップS38において、周期性判定部27は、T波部とP波部のピークの周期性判定結果に基づき、T波部とP波部のピークを採用するか否かを判断し、採用したピーク位置を心臓鼓動パターン抽出部28に通知する。
【0077】
すなわち、T波部のピークに周期性があって、P波部のピークに周期性がない場合にはT波部のピークを採用する。
【0078】
P波部のピークに周期性があって、T波部のピークに周期性がない場合にはP波部のピークを採用する。
【0079】
T波部とP波部それぞれのピークに周期性があって、T波部とP波部それぞれのピークの位置が一致する場合、T波部のピークを採用する(検出されたP波部のピークは誤検出と考えられる)。
【0080】
T波部とP波部それぞれのピークに周期性があって、T波部とP波部それぞれのピークの位置が異なる場合、T波部とP波部それぞれのピークを採用する。
【0081】
上記のようにして採用された1種類以上の波それぞれのピーク位置は、心臓鼓動パターン抽出部28に通知される。以上で、第2のピーク検出処理は終了される。
【0082】
以上に説明した第2のピーク検出処理によれば、1種類以上の波それぞれのピークが採用される。よって、後段の心臓鼓動パターン抽出部28において、第1のピーク検出処理に比較して、より精度高く心臓鼓動パターンを抽出することができる。これにより、被験者の心臓鼓動パターンの特徴量を正確に得ることができるので、個人認証における精度を向上させることができる。
【0083】
なお、本実施の形態においては、心電図信号からQRS波部、T波部、およびP波部のピークを検出して心臓鼓動パターンと抽出するようにしたが、QRS波部、T波部、またはP波部のうちの2種類の波のピークを検出して心臓鼓動パターンと抽出するようにしてもよい。若しくは、U波などのピークも検出するようにして、4種類以上の波のピークを検出して心臓鼓動パターンと抽出するようにしてもよい。
【0084】
ところで、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
【0085】
図10は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【0086】
このコンピュータ100において、CPU(Central Processing Unit)101,ROM(Read Only Memory)102,RAM(Random Access Memory)103は、バス104により相互に接続されている。
【0087】
バス104には、さらに、入出力インタフェース105が接続されている。入出力インタフェース105には、キーボード、マウス、マイクロホンなどよりなる入力部106、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部107、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる記憶部108、ネットワークインタフェースなどよりなる通信部109、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブルメディア111を駆動するドライブ110が接続されている。
【0088】
以上のように構成されるコンピュータ100では、CPU101が、例えば、記憶部108に記憶されているプログラムを、入出力インタフェース105およびバス104を介して、RAM103にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
【0089】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0090】
また、プログラムは、1台のコンピュータにより処理されるものであってもよいし、複数のコンピュータによって分散処理されるものであってもよい。さらに、プログラムは、遠方のコンピュータに転送されて実行されるものであってもよい。
【0091】
また、本明細書において、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
【0092】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
10 認証装置, 11L,11R 電極, 20 心電図信号入力部, 21 P波部用BPF, 22 ピーク検出部, 23 QRS波部用BPF, 24 ピーク検出部, 25 T波部用BPF, 26 ピーク検出部, 27 周期性判定部, 28 心臓鼓動パターン抽出部, 29 認証処理部, 100 コンピュータ, 101 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部と、
前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出部と、
検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出部と
を含む信号処理装置。
【請求項2】
検出された前記周波数成分のピークの周期性を判定する周期性判定部を
さらに含み、
前記心臓鼓動パターン抽出部は、周期性を有する前記周波数成分の前記ピークを基準として前記心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記心臓鼓動パターン抽出部は、周期性を有する異なる複数の周波数成分それぞれのピークを基準とする複数の心臓鼓動パターン候補を前記心電図信号から抽出し、抽出した前記複数の心臓鼓動パターン候補の重複する範囲を前記心臓鼓動パターンとして抽出する
請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記心臓鼓動パターン抽出部は、周期性を有する異なる複数の周波数成分それぞれのピークに基づいて決定される範囲を前記心臓鼓動パターンとして前記心電図信号から抽出する
請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項5】
信号処理装置の信号処理方法において、
前記信号処理装置による、
心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる複数の周波数成分を抽出するフィルタリングステップと、
前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出ステップと、
検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出ステップと
を含む信号処理方法。
【請求項6】
コンピュータに、
心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる複数の周波数成分を抽出するフィルタリングステップと、
前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出ステップと、
検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出ステップと
を含む処理を実行させるプログラム。
【請求項7】
心臓の動きに起因する心電図信号を入力する入力部と、
前記心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部と、
心臓の動きに起因する心電図信号からそれぞれ異なる周波数成分を抽出する複数のフィルタリング部と、
前記心電図信号から抽出された複数の前記周波数成分それぞれのピークを検出するピーク検出部と、
検出された前記周波数成分のピークを基準として、心臓の周期的な動きを示す心臓鼓動パターンを前記心電図信号から抽出する心臓鼓動パターン抽出部と、
抽出された前記心臓鼓動パターンを用いて所定の処理を行う情報処理部と
を含む情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−210235(P2012−210235A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76187(P2011−76187)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】