信号処理装置、脈波計測装置及び信号処理方法
【課題】計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象者の状態が反映された脈動信号を出力する。
【解決手段】生体の脈波測定期間である第1測定期間と、第1測定期間より体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、生体を透過又は反射した第1の波長の光と2の波長の光を受光した各受光量に基づく第1測定信号及び第2測定信号を取得する取得手段と、第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す第1周波数成分と第1周波数成分より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を抽出する抽出手段と、第1周波数成分と第2周波数成分の各信号列に基づく第2測定信号と第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、第2測定期間における第1測定信号と第2測定信号における脈動成分とノイズ成分を分離する処理と、第2測定期間における第2測定信号の第1周波数成分を脈動成分とする処理とを選択的に行い出力する。
【解決手段】生体の脈波測定期間である第1測定期間と、第1測定期間より体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、生体を透過又は反射した第1の波長の光と2の波長の光を受光した各受光量に基づく第1測定信号及び第2測定信号を取得する取得手段と、第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す第1周波数成分と第1周波数成分より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を抽出する抽出手段と、第1周波数成分と第2周波数成分の各信号列に基づく第2測定信号と第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、第2測定期間における第1測定信号と第2測定信号における脈動成分とノイズ成分を分離する処理と、第2測定期間における第2測定信号の第1周波数成分を脈動成分とする処理とを選択的に行い出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、脈波計測装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指先などの計測部位に光を照射して計測部位を透過又は反射した光を受光するセンサーからの測定値に基づいて生体の脈波を測定する方法が知られている。下記特許文献1には、このような方法で生体の脈波を測定する際、測定対象者の手足の動き、震え、咳など、測定対象者の体動によるアーチファクトが測定信号に混入されている場合に、測定信号から脈動信号とアーチファクト信号とを分離する方法が開示されている。特許文献1の方法は、体動の影響を受けていない安定期間と体動の影響を受けているアーチファクト期間を予め設定し、各期間において、赤色光と赤外光を計測部位に照射して各々受光した受光量に応じた測定信号を取得する。そして、安定期間における赤外光の測定信号に対する赤色光の測定信号のノルム比(φs)と、アーチファクト期間における赤外光の測定信号に対する赤色光の測定信号のノルム比(φn)とを、赤色光の脈動信号とアーチファクト信号の伝達係数とする分離マトリクスを用いて、アーチファクト期間の脈動信号とアーチファクト信号とを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−261458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図12に示すように、赤色光(波長:620nm)は、酸化ヘモグロビン(実線)に対する還元ヘモグロビン(破線)の吸光係数比が高く、緑色光や赤外光などは、酸化ヘモグロビンに対する還元ヘモグロビンの吸光係数比が低い。つまり、赤色光は、赤外光や緑色光に比べて還元ヘモグロビンへの感度が高く、より多くの光が吸収される。例えば、計測部位を心臓の高さの位置から低い位置に移動させるなどして計測部位の静脈血量が増加すると還元ヘモグロビンが増加し、赤色光と緑色光の脈波信号の振幅は移動前より減少する。特に、赤色光は緑色光よりも多くの光が吸収されるので、赤色光の振幅の減少量は緑色光よりも大きくなる。つまり、計測部位の静脈血量が増えると、緑色光の振幅の減少量に比べて赤色光の振幅の減少量が大きくなるため、上記ノルム比(φs、φn)の値が変化してしまう。上記分離方法においてノルム比(φs、φn)は静脈血量が変化するとノルム比の計算値に誤差が生じるため、生体の状態が適切に反映された脈動信号を出力することができない。
本発明は、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る信号処理装置は、生体の脈波の測定期間である第1測定期間と、前記第1測定期間より前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得手段と、前記取得手段で取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力することができる。
【0006】
また、本発明に係る信号処理装置は、上記信号処理装置において、前記出力手段は、下記式(1)によって得られるユークリッドノルム比を前記第1係数とし、下記式(2)によって得られるユークリッドノルム比を前記第2係数とし、前記第1係数と前記第2係数との差分が予め定めた閾値の範囲内である場合には、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理を行い、前記閾値の範囲外である場合には、前記第1係数と前記第2係数とを用いた前記分離処理を行うことを特徴とする。
【数1】
‖RACpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖RACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化しても、体動によるノイズが含まれている測定信号から脈動成分とノイズ成分とを分離する精度の低下を軽減することができる。
【0007】
また、本発明に係る信号処理装置は、上記信号処理装置において、前記第2の波長の光は、前記第1の波長の光よりも酸化ヘモグロビンに対して還元ヘモグロビンの吸光係数が小さいことを特徴とする。この構成によれば、静脈血量の増加による影響が少なく、測定対象の生体の脈動がより反映された脈動信号を出力することができる。
【0008】
また、本発明に係る脈波計測装置は、前記第1の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第1の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第1測定信号を出力する第1受発光部と、前記第2の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第2の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第2測定信号を出力する第2受発光部と、前記第1受発光部と前記第2受発光部から出力された前記第1測定信号及び前記第2測定信号を用いて、前記第2測定期間における脈動成分を出力する上記信号処理装置とを備えることを特徴とする。この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力することができる。
【0009】
また、本発明に係る信号処理方法は、測定対象の生体の脈波を測定する第1測定期間と、前記第1測定期間よりも前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップによって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力ステップとを有することを特徴とする。この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る脈波計測装置の外観を表す図である。
【図2】実施形態に係る脈波計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】実施形態における信号処理部のハードウェア構成の例を示す図である。
【図4】実施形態における制御部の機能ブロック図である。
【図5】実施形態における脈動信号とノイズ信号の計測モデルを表す図である。
【図6】実施形態におけるAC成分の波形例を表す図である。
【図7】実施形態におけるDC成分の波形例を表す図である。
【図8】実施形態に係る脈波計測装置の動作フローを表す図である。
【図9】実施形態に係る脈波計測装置の動作フローを表す図である。
【図10】従来の方法によるノルム比の波形と脈動信号の波形を示す図である。
【図11】実施形態の方法によるノルム比の波形と脈動信号の波形を示す図である。
【図12】還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンに対する吸光係数を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成>
図1は、本実施形態に係る脈波計測装置の外観を示す図である。図1(a)に示すように、例えば、脈波計測装置1は測定対象の生体2の手などに装着される。脈波計測装置1は、生体2の手首に装着される装置本体10と、脈波を計測する計測部位に装着される脈波センサー20とをケーブル30で接続して構成されている。本実施形態では、脈波センサー20は、図1(b)に示すように、人差指の根元の手のひら側にバンド40によって固定される。装置本体10には、液晶ディスプレイ15と脈波計測装置1を操作するための操作スイッチ16が設けられている。以下、脈波計測装置1の各構成を脈波センサー20、装置本体10の順に説明する。
【0012】
図2は、脈波計測装置1の構成を表すブロック図である。脈波センサー20は、第1受発光部210、第2受発光部220、及び駆動部230有する。第1受発光部210は、赤色光の波長(第1の波長の一例)の光を発するLED(Light Emitting Diode)などの発光素子と、赤色光の波長の光を受光するフォトダイオードなどの受光素子とを有する。第2受発光部220は、緑色光の波長(第2の波長の一例)の光を発するLEDなどの発光素子と、緑色光の光を受光するフォトダイオードなどの受光素子とを有する。第1受発光部210の発光素子は、例えば発光ピークの波長が525nm、第2受発光部220の発光素子は、例えば発光ピークの波長が620nmとなるように構成されている。駆動部220は、第1受発光部210と第2受発光部220の各発光素子を駆動させる駆動回路を有し、第1受発光部210と第2受発光部220の各発光素子を交互に発光させる。
【0013】
図1(b)において、計測部位(指)と接触している脈波センサー10の部分には、ガラス板などの光を透過させる透過板(図示略)が設けられており、透過板の下方に第1受発光部210と第2受発光部220とが設けられている。第1受発光部210と第2受発光部220の各発光素子は、透過板の方向が光軸方向となるように固定され、第1受発光部210と第2受発光部220の各受光素子は、透過板の方向に受光面が向くように固定されている。各発光素子から発した光は透過板を透過して計測部位に照射され、計測部位から反射した光を透過板を介して各受光素子が受光し、各受光素子の受光量に応じた測定信号がケーブル30を介して装置本体10へ送出される。以下、第1受発光部210で受光された受光量を示す測定信号を第1測定信号、第2受発光部220で受光された受光量を示す測定信号を第2測定信号と称する。
【0014】
装置本体10は、制御部110、信号処理部120、計時部130、クロック供給部140、表示部150、及び操作部160を有する。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)とメモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有し、ROMに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより制御部110と接続されている各部を制御し、脈波センサー20で検出された測定信号から生体の脈動を示す脈動成分を出力する出力処理を行う。なお、制御部110の機能の詳細は後述する。
【0015】
信号処理部120は、取得手段及び抽出手段の一例である。信号処理部120は、脈波センサー20からケーブル30を介して出力された第1測定信号と第2測定信号を取得し、各測定信号の波形に含まれる脈動成分(AC(Alternating Current)成分)と、各測定信号の波形に含まれる基線ゆらぎ成分(DC(Direct Current)成分)とを抽出する。AC成分は、計測部位の動脈血によって反射された光量の変化、つまり動脈における心拍動を表しており経時的に変化する。DC成分は、計測部位の動脈及び静脈以外の生体組織と静脈血によって反射された光量を表し、脈動成分と比べて十分に低い周波数である。なお、AC成分は、第1周波数成分の一例であり、DC成分は、第2周波数成分の一例である。
【0016】
ここで、信号処理部120のハードウェア構成を図3に示す。信号処理部120は、第1測定信号と第2測定信号からDC成分を除去する各フィルター121a,121bと、フィルター121a,121bによって抽出された各AC成分を予め定められたゲインで増幅する増幅回路122−1,122−2と、増幅されたAC成分の各信号を各々A/D(Analog-Digital)変換するA/D変換回路123−1,123−2とを有する。また、信号処理部120は、第1測定信号と第2測定信号に含まれるAC成分を除去する各フィルター124a,124bと、フィルター124a,124bによって抽出されたDC成分の各信号を各々A/D変換するA/D変換回路123−3,123−4とを有する。フィルター121a,121bは、例えばカットオフ周波数が脈動成分の周波数を表す1.7Hz〜5Hzであるバンドパスフィルターなどでもよい。フィルター124a,124bは、脈動の周波数よりも低い周波数(例えば1Hz以下)を取り出す移動平均フィルターでもよいし、脈動の周波数帯域を除去するローパスフィルターでもよい。
【0017】
A/D変換回路123−1,123−2は、予め定められたサンプリング周波数で第1測定信号と第2測定信号の各AC成分の信号を量子化し、A/D変換回路123−3,123−4は、予め定められたサンプリング周波数で第1測定信号と第2測定信号の各DC成分の信号を量子化する。本実施形態では、例えばサンプリング周波数は100Hzであり、10ビットで量子化される。
【0018】
計時部130は、クロック供給部140の計時クロック信号をカウントして時刻を計時する。クロック供給部140は、発振回路と分周回路とを有し、発振回路によって基準クロック信号を制御部110へ供給するとともに、分周回路により計時用の計時クロック信号を生成して制御部110へ供給する。
【0019】
表示部150は、液晶ディスプレイ15を有し、制御部110の制御の下、計時部130で計時された時刻の情報や脈波を測定するためのメニュー画面、測定結果などの各種画像を表示する。操作部160は、操作スイッチ16を有し、操作スイッチ16が操作された操作信号を制御部110へ送出する。
【0020】
次に、制御部110の機能について説明する。図4は、制御部110の出力処理の機能を実現するための機能ブロック図である。制御部110は、出力部110aを有する。出力部110aは、出力手段の一例である。出力部110aは、信号処理部120によって第1測定信号及び第2測定信号から各々抽出されてA/D変換されたAC成分(AC1,AC2)とDC成分(DC1,DC2)の信号列を用いて、体動による影響を受けているノイズ期間(第2測定期間)における第1測定信号及び第2測定信号のAC成分に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離し、分離した脈動成分を示す脈波データを表示部150に表示する。具体的には、出力部110aは、ノイズ期間の第1測定信号及び第2測定信号と、ノイズ期間と比べて体動の影響を殆ど受けていない安定期間(第1測定期間)における第1測定信号及び第2測定信号とから各々抽出されたAC成分とDC成分の各信号列に基づく第2測定信号と第1測定信号の相関を表す第1係数及び第2係数として、安定期間におけるAC成分とDC成分の各信号列の第2測定信号に対する第1測定信号のノルム比(φs)と、ノイズ期間におけるAC成分とDC成分の各信号列の第2測定信号に対する第1測定信号のノルム比(φn)とを用い、ノイズ期間のAC成分に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する。以下、本実施形態における分離方法をより詳細に説明する。
【0021】
第1測定信号(赤色光)と第2測定信号(緑色光)の計測モデルを図5のように定義する。図5において、pは、時刻tnにおける脈動を示す脈動信号であり、nは、時刻tnにおけるノイズを示すノイズ信号である。また、Gは、第2受発光部220の受光素子、つまり緑色光(G)の端子であり、Rは、第1受発光部210の受光素子、つまり赤色光(R)の端子である。脈動信号pは、伝達係数1でG端子に伝達され、伝達係数φsでR端子に伝達される。ノイズ信号nは、伝達係数1でG端子に伝達され、伝達係数φnでR端子に伝達される。従って、この計測モデルにおいて時刻tnにおけるφsは、時刻tnにG端子に伝達される脈動信号Gp(tn)と、時刻tnにR端子に伝達される脈動信号Rp(tn)との比(φs=Rp(tn)/Gp(tn))で表される。また、時刻tnにおけるφnは、時刻tnにG端子に伝達されるノイズ信号Gn(tn)と、時刻tnにR端子に伝達されるノイズ信号Rp(tn)との比(φn=Rp(tn)/Gp(tn))で表される。測定時刻tnからtn+kまで拡張してp,n,G,Rをベクトルとして定義すると、φsは、以下の式(3)で示すノルム比(ユークリッドノルム比)で表される。なお、‖Rpulse‖2は、安定期間における第1測定信号のベクトルのノルムを示し、‖Gpulse‖2は、安定期間における第2測定信号のベクトルのノルムを示している。
【0022】
【数2】
【0023】
一方、ノイズ期間をある時点Jを基点とする前後kの期間(J−k:J+k)として捉えると、時点Jを含む(2k+1)個のノルムを用いたノイズ期間のノルム比は以下の式(4)で求められる。なお、‖Rnoise(J-k:J+k)‖2は、ノイズ期間における第1測定信号のベクトルのノルムを示し、‖Gnoise(J-k:J+k)‖2は、ノイズ期間における第2測定信号のベクトルのノルムを示している。
【0024】
【数3】
【0025】
つまり、φsは、安定期間における第2測定信号に対する第1測定信号のベクトルのノルム比であり、φ(J)nは、ノイズ期間における第2測定信号に対する第1測定信号のベクトルのノルム比である。図5に示す計測モデルは以下の式(5)で表され、脈動信号pとノイズ信号nを分離するためには以下の式(6)で示す逆行列演算を行えばよい。この式(6)における逆行列が分離マトリクスである。
【0026】
【数4】
【0027】
従来の方法では、第1測定信号と第2測定信号からノイズ成分をある程度低減させた各信号、つまりAC成分の信号列を用いて式(3)、式(4)によりφsとφ(J)nを算出するようにしている。上述したように、計測部位を心臓の高さから心臓より低い位置に移動させて計測部位の静脈血量を増加させると、図6(a)(b)の波形で示すように、赤色光と緑色光の各AC成分の波形の振幅は移動前と比べて小さくなる。特に、赤色光の振幅は、赤色光と緑色光の還元ヘモグロビンに対する感度の違いから、緑色光よりも減少量が大きくなる。そのため、安定期間とノイズ期間における赤色光と緑色光の各AC成分を用いて上記φsとφ(J)nを算出すると、分子(赤色光(第1測定信号)のAC成分のノルム)の減少量が分母(緑色光(第2測定信号)のAC成分のノルム)の減少量より大きくなり、静脈血量が増加する前と後とでφsとφ(J)nが小さくなる。
【0028】
一方、第1測定信号と第2測定信号からAC成分を除去したDC成分は、静脈血量の増加に伴って増加する傾向がある。以下、その理由を説明する。受光素子であるフォトダイオードは、光が入射されない状態では抵抗値が大きくなる特性を有し、光が多く入射されるほど出力電圧の振幅が大きくなる傾向がある。
【0029】
図7は、光が全く入射されない状態(暗状態)と赤色光や緑色光の光が入射した状態の出力電圧を表す図である。この図に示すように、暗状態の場合には、期間Aと期間B共に出力電圧は常にVccとなり、赤色光や緑色光が入射した場合には、期間Aより期間Bの方が受光素子で受光される光の量が少なくなるため、期間Bにおいては、光の減少量に伴って出力電圧が増加する。つまり、計測部位を心臓より低い位置に移動させて静脈血量を増加させると、赤色光と緑色光の各受光素子は、移動前よりも入射する光の量が少なくなるため出力電圧は増加する。特に、緑色光より赤色光の方がより多くの光が吸収されるため、受光素子で受光される赤色光の量は緑色光よりも少なくなり、出力電圧の増加量は緑色光よりも赤色光の方が大きくなる。
【0030】
DC成分は、出力電圧の時間変化をフィルター124a,124bで除去したものである。上記したDC成分の変化を式(3)と式(4)にあてはめると、安定期間及びノイズ期間において静脈血量が増加した場合のφs及びφ(J)nは相対的に大きくなることが分かる。そこで、本実施形態の分離方法では、静脈血量の変化に伴って変化するAC成分とDC成分のノルム比を用いて分離マトリクスを構成し、その分離マトリクスを式(6)に適用することとしている。
【0031】
具体的には、測定時刻tn〜tn+kまでの赤色光(第1測定信号)と緑色光(第2測定信号)の各AC成分の値を要素とするベクトルを、RAC=(RACn RACn+1 RACn+2 ・・・・RACn+k)、各GAC=(GACn GACn+1 GACn+2 ・・・・GACn+k)とし、測定時刻tn〜tn+kまでの赤色光(第1測定信号)と緑色光(第2測定信号)の各DC成分の値を要素とするベクトルを、RDC=(RDCn RDCn+1 RDCn+2 ・・・・RDCn+k)、GDC=(GDCn GDCn+1 GDCn+2 ・・・・GDCn+k)とする。
【0032】
そして、AC成分のベクトルとDC成分のベクトルの各々について、緑色光(第2測定信号)に対する赤色光(第1測定信号)のベクトルのノルム比を以下の式(7)、式(8)によって求め、以下の式(9)によりAC成分とDC成分の各ノルム比を加算したφAC+DCを求める。なお、式(7)、式(8)において、‖RAC‖2は、第1測定信号のAC成分のベクトルのノルムを示し、‖GAC‖2は、第2測定信号のAC成分のベクトルのノルムを示し、‖RDC‖2は、第1測定信号のDC成分のベクトルのノルムを示し、‖GDC‖2は、第2測定信号のDC成分のベクトルのノルムを示している。
【0033】
【数5】
【0034】
式(9)に式(3)と式(4)を適用して安定期間とノイズ期間のノルム比を算出すると、以下の式(10)、式(11)で示すノルム比となる。なお、式(10)、式(11)において、‖RACpulse‖2は安定期間における第1測定信号のAC成分のノルム、‖GACpulse‖2は安定期間における第2測定信号のAC成分のノルム、‖RDCpulse‖2は安定期間における第1測定信号のDC成分のノルム、‖GDCpulse‖2は安定期間における第2測定信号のDC成分のノルムである。また、‖RACnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第1測定信号のAC成分のノルム、‖GACnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第2測定信号のAC成分のノルム、‖RDCnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第1測定信号のDC成分のノルム、‖GDCnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第2測定信号のDC成分のノルムである。
【0035】
【数6】
【0036】
ここで、式(6)の逆行列を展開した式(12)を以下に示す。
【0037】
【数7】
【0038】
式(12)においてφ(J)nがφsの値に近づくとき、式(12)は発散してしまう。φ(J)nがφsの値に近づく場合というのは、そのノイズ期間における測定信号はノイズの影響を受けていないと考えられるため、この場合には、式(12)による分離処理を行わず、緑色光(第2測定信号)のAC成分のデータをその期間における脈動成分として出力するようにする。上述したように、緑色光は、赤色光に比べて還元ヘモグロビンに対する吸光係数が低く、静脈血に対する感度が低いと考えられる。そのため、緑色光は赤色光よりも静脈血の増加によるノイズ成分が少なく、脈動信号をよく表しているといえる。
【0039】
本実施形態において、ノイズ期間におけるノルム比φ(J)nがφsに近づいたか否かは、φsを基準とする下限係数m1と上限係数m2によって定められた閾値範囲内にあるか否かによって判断する。つまり、あるノイズ期間のφ(J)nが、(m1×φs)≦φ(J)n≦(m2×φs)の条件を満たす場合には、ノルム比φ(J)nがφsに近づいたと判断し、そのノイズ期間における第2測定信号のAC成分のデータを脈動成分とする。一方、あるノイズ期間のφ(J)nが上記条件を満たさない場合には、ノルム比φ(J)nがφsに近づいていないと判断し、式(10)によって求められたノルム比をφs、上記式(11)によって求められたノルム比をφ(J)nとして式(12)に代入し、ノイズ期間で測定された第1測定信号及び第2測定信号のAC成分を用いて式(12)の演算を行い、脈動信号(脈動成分)pとノイズ信号(ノイズ成分)nとを分離して脈動信号(脈動成分)pを出力する。
【0040】
<動作例>
以下、本実施形態に係る脈波計測装置1の動作例を説明する。図8、図9は、脈波計測装置1の動作フローを示す図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、安定期間として測定対象者の体動の影響を受けないように安静な状態で脈波を測定する期間と、ノイズ期間として測定対象者が計測部位を動かすなどして体動の影響を受ける状態で脈波を測定する期間とを予め設け、安定期間の脈波の測定を行った後、ノイズ期間の脈波の測定を行う。
【0041】
図8において、脈波計測装置1の制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受付けると(ステップS10:YES)、脈波センサー20において第1受発光部210と第2受発光部220とから一定の時間間隔で交互に脈波センサー20が装着されている計測部位に赤色光と緑色光とを照射して、計測部位から反射された赤色光と緑色光を各々受光し、受光量に応じた第1測定信号及び第2測定信号を制御部110に送出する(ステップS11)。なお、制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受付けなければ(ステップS10:NO)、操作がなされるまで待機する。
【0042】
制御部110は、信号処理部120において、脈波センサー20から送出された第1測定信号と第2測定信号を取得して、第1測定信号と第2測定信号とからAC成分とDC成分を各々抽出する。そして、制御部110は、信号処理部120において、抽出した第1測定信号と第2測定信号の各AC成分の信号を各々増幅してA/D変換すると共に、抽出した第1測定信号と第2測定信号の各DC成分の信号をA/D変換し、A/D変換された各AC成分と各DC成分のデータをRAMに時系列に記憶する(ステップS12)。
【0043】
制御部110は、RAMに記憶されている第1測定信号と第2測定信号のAC成分とDC成分の各データから連続するn個のデータを読み出し、読み出したAC成分とDC成分について、第2測定信号に対する第1測定信号のノルム比を式(7)、式(8)によって求め、式(10)によりAC成分とDC成分の各ノルム比を加算することにより安定期間におけるノルム比(φs)を求め、求めたノルム比φsをRAMに記憶する(ステップS13)。
【0044】
次に、図9において、制御部110は、ノイズ期間についても上述したステップS10、S11、S12の処理を行い、RAMに記憶されている第1測定信号と第2測定信号のAC成分とDC成分の各データから時刻t=Jを基点として前後に連続する2k+1個のデータを読み出し、式(11)により時刻Jにおけるノルム比(φ(J)n)を求める(ステップS24)。
【0045】
制御部110は、ノルム比φ(J)nが安定期間のノルム比(φs)を基準とする予め定められた閾値範囲内(m1×φs≦φ(J)n≦m2×φs)である場合には(ステップS25:YES)、時点Jにおける第2測定信号のAC成分のデータを脈動成分として出力する(ステップS26)。
【0046】
一方、制御部110は、ノルム比φ(J)nがノルム比φsを基準とする予め定められた閾値範囲内(m1×φs≦φ(J)n≦m2×φs)でない場合には(ステップS25:NO)、ノルム比φsとノルム比φ(J)nと、時刻Jにおける第1測定信号と第2測定信号のAC成分の各値とを式(12)に代入して演算し、時刻t=Jにおける第1測定信号と第2測定信号から脈動成分とノイズ成分とを分離する。そして、制御部110は、分離した脈動成分のデータを時刻Jにおける脈動成分として出力する(ステップS27)。制御部110は、ノイズ期間における脈波の測定を終了する指示が操作部160を介してなされなければ(ステップS28:NO)、時刻tの値に1をインクリメントして(ステップS29)、第1測定信号と第2測定信号について上述したステップS24以下の処理を行い、また、ノイズ期間における脈波の測定を終了する指示が操作部160を介してなされると(ステップ28:YES)、脈波の測定を終了する。
【0047】
図10(a)(b)は、AC成分だけを用いて安定期間とノイズ期間のノルム比(φs、φ(J)n)を算出した場合の各ノルム比の波形図と脈動信号の出力結果を表す波形図とを示す図である。また、図11(a)(b)は、上述した実施形態の方法でノルム比(φs、φ(J)n)を算出した場合の各ノルム比の波形図と脈動信号の波形図とを示す図である。図10、図11の例において、期間A(0〜20sec)は、計測部位を心臓の高さの位置で脈波を計測した期間、期間B(20〜50sec)は、計測部位を心臓の高さから低い位置に移動させて脈波を計測した期間であり、いずれの期間においても体動によるノイズが発生しないよう安静な状態で計測を行った。また、図10(a)、図11(a)において、破線は、測定開始から10sec間の第1測定信号及び第2測定信号を用いて式(10)によって算出されたノルム比φsを表し、網掛け部分は、下限係数m1=0.8、上限係数m2=1.2とするφsの閾値範囲を示している。実線は、期間A及び期間Bの各期間において測定された第1測定信号及び第2測定信号を用いて式(11)によって算出されたφ(J)nを表しており、この例では、時間幅を2s(サンプリング周波数100Hzの場合、k=100)としている。
【0048】
図10(a)、図11(a)に示すように、期間Aは計測部位が心臓の高さの位置であり、体動の影響が殆ど無い状態であるため、ノルム比φsとφ(J)nは近い値となっており、図10(b)、図11(b)に示すように安定した脈動信号が出力されている。図10(a)、図11(a)におけるφ(J)nは、計測部位が心臓より低い位置に移動された20sec付近では移動による体動の影響を受けて一旦上昇し、その後下降している。計測部位を移動した後は安静な状態で計測を行っているため、計測部位の移動後において静脈血量は変化しても脈波は期間Aと同様に安定しているはずである。
【0049】
しかし、図10(a)に示すように、AC成分だけで算出されたノルム比φ(J)nは、静脈血量の増加によってφsの閾値範囲を超えて下降している。そのため、体動によるノイズの影響を受けていると判断されて分離処理が行われ、期間Bの脈動信号は図10(b)に示すように安定した波形となっていない。一方、図11(a)におけるφ(J)nは、AC成分とDC成分とを用いて算出されているため、計測部位の移動後において静脈血量が増加しても、移動前と移動後のノルム比φ(J)nの差が低減され、ノルム比φsの閾値範囲内に収まっている。その結果、ノルム比φsの閾値範囲内の期間における脈動信号としては、緑色光(第2測定信号)のAC成分の信号が出力され、期間Aと同様に脈波が安定した波形が得られている。
【0050】
上記より、上述した実施形態の方法によって脈動信号を出力することで、AC成分だけでノルム比を算出する場合と比べ、静脈血量の変化に伴うノルム比の変化が抑制されると共に、静脈血量の増加によるノイズと体動によるノイズとが区別され、測定対象者の状態をよく表した脈動信号を出力することができる。
【0051】
<変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下のように変形させて実施してもよい。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0052】
(1)上述した実施形態では、測定対象者に着脱可能な脈波センサー20と本体装置10で構成される脈波計測装置1について説明したが、第1測定信号と第2測定信号を取得し、本体装置10の信号処理部120及び制御部110の機能を有する信号処理装置であれば本体装置10の構成に限らない。信号処理装置として、例えばPCや携帯情報端末などの装置を用いる場合には、有線又は無線により脈波センサー20と通信接続し、脈波センサー20から出力される第1測定信号と第2測定信号を取得するようにしてもよい。また、信号処理装置は、脈波センサー20で測定された第1測定信号と第2測定信号の波形データが予め記憶された記憶装置から第1測定信号と第2測定信号の各波形データを読み出し、第1測定信号と第2測定信号を取得してもよい。
【0053】
(2)上述した実施形態では、赤色光と緑色光の光を各々発する発光素子を用いる例を説明したが、例えば、赤色光と赤外光など、発光ピークが異なる波長の光であって、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンに対する吸光係数が異なる光であればこの組み合わせには限らない。この場合、酸化ヘモグロビンよりも還元ヘモグロビンに対する吸光係数が低いか同程度である光の測定信号のAC成分を脈動成分として出力する。
【0054】
(3)上述した実施形態では、安定期間として脈波を測定する期間を設け、安定期間の測定結果を用いてノルム比φsを算出する例を説明したが、測定対象者の体動の影響を受けないように安静な状態で予め測定した測定結果に基づくノルム比φsが脈波計測装置1に予め記憶されていてもよい。この場合には、脈波計測装置1において、算出されたノルム比φsを記憶する記憶手段を設けるように構成する。
【0055】
(4)上述した実施形態では、計測部位において反射された光を第1受発光部210及び第2受発光部220で受光する例を説明したが、計測部位を透過した光を受光するように構成してもよい。
【0056】
(5)上述した実施形態では、人差指を計測部位として脈波センサー20を装着する例を説明したが、計測部位としては、例えば、手の甲、手首、足の甲、耳朶などの生体の部位であればこれに限定されない。
【0057】
(6)上述した実施形態では、第2測定信号と第1測定信号の相関を表す係数としてユークリッドノルムを用いたノルム比φs、φ(J)nを適用する例を説明したが、安定期間とノイズ期間の第1測定信号及び第2測定信号のAC成分とDC成分の最大値ノルムを用いてノルム比φs、φ(J)nを算出してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1・・・脈波計測装置、10・・・本体装置、15・・・液晶ディスプレイ、16・・・操作スイッチ、20・・・脈波センサー、30・・・ケーブル、40・・・バンド、110・・・制御部、110a・・・出力部、120・・・信号処理部、121a,121b,124a,124b・・・フィルター、122−1,122−2・・・増幅回路、123−1,123−2,123−3,123−4・・・A/D変換回路、130・・・計時部、140・・・クロック供給部、150・・・表示部、160・・・操作部、210・・・第1受発光部、220・・・第2受発光部、230・・・駆動部
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、脈波計測装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指先などの計測部位に光を照射して計測部位を透過又は反射した光を受光するセンサーからの測定値に基づいて生体の脈波を測定する方法が知られている。下記特許文献1には、このような方法で生体の脈波を測定する際、測定対象者の手足の動き、震え、咳など、測定対象者の体動によるアーチファクトが測定信号に混入されている場合に、測定信号から脈動信号とアーチファクト信号とを分離する方法が開示されている。特許文献1の方法は、体動の影響を受けていない安定期間と体動の影響を受けているアーチファクト期間を予め設定し、各期間において、赤色光と赤外光を計測部位に照射して各々受光した受光量に応じた測定信号を取得する。そして、安定期間における赤外光の測定信号に対する赤色光の測定信号のノルム比(φs)と、アーチファクト期間における赤外光の測定信号に対する赤色光の測定信号のノルム比(φn)とを、赤色光の脈動信号とアーチファクト信号の伝達係数とする分離マトリクスを用いて、アーチファクト期間の脈動信号とアーチファクト信号とを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−261458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図12に示すように、赤色光(波長:620nm)は、酸化ヘモグロビン(実線)に対する還元ヘモグロビン(破線)の吸光係数比が高く、緑色光や赤外光などは、酸化ヘモグロビンに対する還元ヘモグロビンの吸光係数比が低い。つまり、赤色光は、赤外光や緑色光に比べて還元ヘモグロビンへの感度が高く、より多くの光が吸収される。例えば、計測部位を心臓の高さの位置から低い位置に移動させるなどして計測部位の静脈血量が増加すると還元ヘモグロビンが増加し、赤色光と緑色光の脈波信号の振幅は移動前より減少する。特に、赤色光は緑色光よりも多くの光が吸収されるので、赤色光の振幅の減少量は緑色光よりも大きくなる。つまり、計測部位の静脈血量が増えると、緑色光の振幅の減少量に比べて赤色光の振幅の減少量が大きくなるため、上記ノルム比(φs、φn)の値が変化してしまう。上記分離方法においてノルム比(φs、φn)は静脈血量が変化するとノルム比の計算値に誤差が生じるため、生体の状態が適切に反映された脈動信号を出力することができない。
本発明は、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る信号処理装置は、生体の脈波の測定期間である第1測定期間と、前記第1測定期間より前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得手段と、前記取得手段で取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力することができる。
【0006】
また、本発明に係る信号処理装置は、上記信号処理装置において、前記出力手段は、下記式(1)によって得られるユークリッドノルム比を前記第1係数とし、下記式(2)によって得られるユークリッドノルム比を前記第2係数とし、前記第1係数と前記第2係数との差分が予め定めた閾値の範囲内である場合には、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理を行い、前記閾値の範囲外である場合には、前記第1係数と前記第2係数とを用いた前記分離処理を行うことを特徴とする。
【数1】
‖RACpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖RACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化しても、体動によるノイズが含まれている測定信号から脈動成分とノイズ成分とを分離する精度の低下を軽減することができる。
【0007】
また、本発明に係る信号処理装置は、上記信号処理装置において、前記第2の波長の光は、前記第1の波長の光よりも酸化ヘモグロビンに対して還元ヘモグロビンの吸光係数が小さいことを特徴とする。この構成によれば、静脈血量の増加による影響が少なく、測定対象の生体の脈動がより反映された脈動信号を出力することができる。
【0008】
また、本発明に係る脈波計測装置は、前記第1の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第1の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第1測定信号を出力する第1受発光部と、前記第2の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第2の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第2測定信号を出力する第2受発光部と、前記第1受発光部と前記第2受発光部から出力された前記第1測定信号及び前記第2測定信号を用いて、前記第2測定期間における脈動成分を出力する上記信号処理装置とを備えることを特徴とする。この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力することができる。
【0009】
また、本発明に係る信号処理方法は、測定対象の生体の脈波を測定する第1測定期間と、前記第1測定期間よりも前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップによって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力ステップとを有することを特徴とする。この構成によれば、計測部位の静脈血量が変化した場合でも測定対象の生体の状態が反映された脈動信号を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る脈波計測装置の外観を表す図である。
【図2】実施形態に係る脈波計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】実施形態における信号処理部のハードウェア構成の例を示す図である。
【図4】実施形態における制御部の機能ブロック図である。
【図5】実施形態における脈動信号とノイズ信号の計測モデルを表す図である。
【図6】実施形態におけるAC成分の波形例を表す図である。
【図7】実施形態におけるDC成分の波形例を表す図である。
【図8】実施形態に係る脈波計測装置の動作フローを表す図である。
【図9】実施形態に係る脈波計測装置の動作フローを表す図である。
【図10】従来の方法によるノルム比の波形と脈動信号の波形を示す図である。
【図11】実施形態の方法によるノルム比の波形と脈動信号の波形を示す図である。
【図12】還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンに対する吸光係数を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成>
図1は、本実施形態に係る脈波計測装置の外観を示す図である。図1(a)に示すように、例えば、脈波計測装置1は測定対象の生体2の手などに装着される。脈波計測装置1は、生体2の手首に装着される装置本体10と、脈波を計測する計測部位に装着される脈波センサー20とをケーブル30で接続して構成されている。本実施形態では、脈波センサー20は、図1(b)に示すように、人差指の根元の手のひら側にバンド40によって固定される。装置本体10には、液晶ディスプレイ15と脈波計測装置1を操作するための操作スイッチ16が設けられている。以下、脈波計測装置1の各構成を脈波センサー20、装置本体10の順に説明する。
【0012】
図2は、脈波計測装置1の構成を表すブロック図である。脈波センサー20は、第1受発光部210、第2受発光部220、及び駆動部230有する。第1受発光部210は、赤色光の波長(第1の波長の一例)の光を発するLED(Light Emitting Diode)などの発光素子と、赤色光の波長の光を受光するフォトダイオードなどの受光素子とを有する。第2受発光部220は、緑色光の波長(第2の波長の一例)の光を発するLEDなどの発光素子と、緑色光の光を受光するフォトダイオードなどの受光素子とを有する。第1受発光部210の発光素子は、例えば発光ピークの波長が525nm、第2受発光部220の発光素子は、例えば発光ピークの波長が620nmとなるように構成されている。駆動部220は、第1受発光部210と第2受発光部220の各発光素子を駆動させる駆動回路を有し、第1受発光部210と第2受発光部220の各発光素子を交互に発光させる。
【0013】
図1(b)において、計測部位(指)と接触している脈波センサー10の部分には、ガラス板などの光を透過させる透過板(図示略)が設けられており、透過板の下方に第1受発光部210と第2受発光部220とが設けられている。第1受発光部210と第2受発光部220の各発光素子は、透過板の方向が光軸方向となるように固定され、第1受発光部210と第2受発光部220の各受光素子は、透過板の方向に受光面が向くように固定されている。各発光素子から発した光は透過板を透過して計測部位に照射され、計測部位から反射した光を透過板を介して各受光素子が受光し、各受光素子の受光量に応じた測定信号がケーブル30を介して装置本体10へ送出される。以下、第1受発光部210で受光された受光量を示す測定信号を第1測定信号、第2受発光部220で受光された受光量を示す測定信号を第2測定信号と称する。
【0014】
装置本体10は、制御部110、信号処理部120、計時部130、クロック供給部140、表示部150、及び操作部160を有する。制御部110は、CPU(Central Processing Unit)とメモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を有し、ROMに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより制御部110と接続されている各部を制御し、脈波センサー20で検出された測定信号から生体の脈動を示す脈動成分を出力する出力処理を行う。なお、制御部110の機能の詳細は後述する。
【0015】
信号処理部120は、取得手段及び抽出手段の一例である。信号処理部120は、脈波センサー20からケーブル30を介して出力された第1測定信号と第2測定信号を取得し、各測定信号の波形に含まれる脈動成分(AC(Alternating Current)成分)と、各測定信号の波形に含まれる基線ゆらぎ成分(DC(Direct Current)成分)とを抽出する。AC成分は、計測部位の動脈血によって反射された光量の変化、つまり動脈における心拍動を表しており経時的に変化する。DC成分は、計測部位の動脈及び静脈以外の生体組織と静脈血によって反射された光量を表し、脈動成分と比べて十分に低い周波数である。なお、AC成分は、第1周波数成分の一例であり、DC成分は、第2周波数成分の一例である。
【0016】
ここで、信号処理部120のハードウェア構成を図3に示す。信号処理部120は、第1測定信号と第2測定信号からDC成分を除去する各フィルター121a,121bと、フィルター121a,121bによって抽出された各AC成分を予め定められたゲインで増幅する増幅回路122−1,122−2と、増幅されたAC成分の各信号を各々A/D(Analog-Digital)変換するA/D変換回路123−1,123−2とを有する。また、信号処理部120は、第1測定信号と第2測定信号に含まれるAC成分を除去する各フィルター124a,124bと、フィルター124a,124bによって抽出されたDC成分の各信号を各々A/D変換するA/D変換回路123−3,123−4とを有する。フィルター121a,121bは、例えばカットオフ周波数が脈動成分の周波数を表す1.7Hz〜5Hzであるバンドパスフィルターなどでもよい。フィルター124a,124bは、脈動の周波数よりも低い周波数(例えば1Hz以下)を取り出す移動平均フィルターでもよいし、脈動の周波数帯域を除去するローパスフィルターでもよい。
【0017】
A/D変換回路123−1,123−2は、予め定められたサンプリング周波数で第1測定信号と第2測定信号の各AC成分の信号を量子化し、A/D変換回路123−3,123−4は、予め定められたサンプリング周波数で第1測定信号と第2測定信号の各DC成分の信号を量子化する。本実施形態では、例えばサンプリング周波数は100Hzであり、10ビットで量子化される。
【0018】
計時部130は、クロック供給部140の計時クロック信号をカウントして時刻を計時する。クロック供給部140は、発振回路と分周回路とを有し、発振回路によって基準クロック信号を制御部110へ供給するとともに、分周回路により計時用の計時クロック信号を生成して制御部110へ供給する。
【0019】
表示部150は、液晶ディスプレイ15を有し、制御部110の制御の下、計時部130で計時された時刻の情報や脈波を測定するためのメニュー画面、測定結果などの各種画像を表示する。操作部160は、操作スイッチ16を有し、操作スイッチ16が操作された操作信号を制御部110へ送出する。
【0020】
次に、制御部110の機能について説明する。図4は、制御部110の出力処理の機能を実現するための機能ブロック図である。制御部110は、出力部110aを有する。出力部110aは、出力手段の一例である。出力部110aは、信号処理部120によって第1測定信号及び第2測定信号から各々抽出されてA/D変換されたAC成分(AC1,AC2)とDC成分(DC1,DC2)の信号列を用いて、体動による影響を受けているノイズ期間(第2測定期間)における第1測定信号及び第2測定信号のAC成分に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離し、分離した脈動成分を示す脈波データを表示部150に表示する。具体的には、出力部110aは、ノイズ期間の第1測定信号及び第2測定信号と、ノイズ期間と比べて体動の影響を殆ど受けていない安定期間(第1測定期間)における第1測定信号及び第2測定信号とから各々抽出されたAC成分とDC成分の各信号列に基づく第2測定信号と第1測定信号の相関を表す第1係数及び第2係数として、安定期間におけるAC成分とDC成分の各信号列の第2測定信号に対する第1測定信号のノルム比(φs)と、ノイズ期間におけるAC成分とDC成分の各信号列の第2測定信号に対する第1測定信号のノルム比(φn)とを用い、ノイズ期間のAC成分に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する。以下、本実施形態における分離方法をより詳細に説明する。
【0021】
第1測定信号(赤色光)と第2測定信号(緑色光)の計測モデルを図5のように定義する。図5において、pは、時刻tnにおける脈動を示す脈動信号であり、nは、時刻tnにおけるノイズを示すノイズ信号である。また、Gは、第2受発光部220の受光素子、つまり緑色光(G)の端子であり、Rは、第1受発光部210の受光素子、つまり赤色光(R)の端子である。脈動信号pは、伝達係数1でG端子に伝達され、伝達係数φsでR端子に伝達される。ノイズ信号nは、伝達係数1でG端子に伝達され、伝達係数φnでR端子に伝達される。従って、この計測モデルにおいて時刻tnにおけるφsは、時刻tnにG端子に伝達される脈動信号Gp(tn)と、時刻tnにR端子に伝達される脈動信号Rp(tn)との比(φs=Rp(tn)/Gp(tn))で表される。また、時刻tnにおけるφnは、時刻tnにG端子に伝達されるノイズ信号Gn(tn)と、時刻tnにR端子に伝達されるノイズ信号Rp(tn)との比(φn=Rp(tn)/Gp(tn))で表される。測定時刻tnからtn+kまで拡張してp,n,G,Rをベクトルとして定義すると、φsは、以下の式(3)で示すノルム比(ユークリッドノルム比)で表される。なお、‖Rpulse‖2は、安定期間における第1測定信号のベクトルのノルムを示し、‖Gpulse‖2は、安定期間における第2測定信号のベクトルのノルムを示している。
【0022】
【数2】
【0023】
一方、ノイズ期間をある時点Jを基点とする前後kの期間(J−k:J+k)として捉えると、時点Jを含む(2k+1)個のノルムを用いたノイズ期間のノルム比は以下の式(4)で求められる。なお、‖Rnoise(J-k:J+k)‖2は、ノイズ期間における第1測定信号のベクトルのノルムを示し、‖Gnoise(J-k:J+k)‖2は、ノイズ期間における第2測定信号のベクトルのノルムを示している。
【0024】
【数3】
【0025】
つまり、φsは、安定期間における第2測定信号に対する第1測定信号のベクトルのノルム比であり、φ(J)nは、ノイズ期間における第2測定信号に対する第1測定信号のベクトルのノルム比である。図5に示す計測モデルは以下の式(5)で表され、脈動信号pとノイズ信号nを分離するためには以下の式(6)で示す逆行列演算を行えばよい。この式(6)における逆行列が分離マトリクスである。
【0026】
【数4】
【0027】
従来の方法では、第1測定信号と第2測定信号からノイズ成分をある程度低減させた各信号、つまりAC成分の信号列を用いて式(3)、式(4)によりφsとφ(J)nを算出するようにしている。上述したように、計測部位を心臓の高さから心臓より低い位置に移動させて計測部位の静脈血量を増加させると、図6(a)(b)の波形で示すように、赤色光と緑色光の各AC成分の波形の振幅は移動前と比べて小さくなる。特に、赤色光の振幅は、赤色光と緑色光の還元ヘモグロビンに対する感度の違いから、緑色光よりも減少量が大きくなる。そのため、安定期間とノイズ期間における赤色光と緑色光の各AC成分を用いて上記φsとφ(J)nを算出すると、分子(赤色光(第1測定信号)のAC成分のノルム)の減少量が分母(緑色光(第2測定信号)のAC成分のノルム)の減少量より大きくなり、静脈血量が増加する前と後とでφsとφ(J)nが小さくなる。
【0028】
一方、第1測定信号と第2測定信号からAC成分を除去したDC成分は、静脈血量の増加に伴って増加する傾向がある。以下、その理由を説明する。受光素子であるフォトダイオードは、光が入射されない状態では抵抗値が大きくなる特性を有し、光が多く入射されるほど出力電圧の振幅が大きくなる傾向がある。
【0029】
図7は、光が全く入射されない状態(暗状態)と赤色光や緑色光の光が入射した状態の出力電圧を表す図である。この図に示すように、暗状態の場合には、期間Aと期間B共に出力電圧は常にVccとなり、赤色光や緑色光が入射した場合には、期間Aより期間Bの方が受光素子で受光される光の量が少なくなるため、期間Bにおいては、光の減少量に伴って出力電圧が増加する。つまり、計測部位を心臓より低い位置に移動させて静脈血量を増加させると、赤色光と緑色光の各受光素子は、移動前よりも入射する光の量が少なくなるため出力電圧は増加する。特に、緑色光より赤色光の方がより多くの光が吸収されるため、受光素子で受光される赤色光の量は緑色光よりも少なくなり、出力電圧の増加量は緑色光よりも赤色光の方が大きくなる。
【0030】
DC成分は、出力電圧の時間変化をフィルター124a,124bで除去したものである。上記したDC成分の変化を式(3)と式(4)にあてはめると、安定期間及びノイズ期間において静脈血量が増加した場合のφs及びφ(J)nは相対的に大きくなることが分かる。そこで、本実施形態の分離方法では、静脈血量の変化に伴って変化するAC成分とDC成分のノルム比を用いて分離マトリクスを構成し、その分離マトリクスを式(6)に適用することとしている。
【0031】
具体的には、測定時刻tn〜tn+kまでの赤色光(第1測定信号)と緑色光(第2測定信号)の各AC成分の値を要素とするベクトルを、RAC=(RACn RACn+1 RACn+2 ・・・・RACn+k)、各GAC=(GACn GACn+1 GACn+2 ・・・・GACn+k)とし、測定時刻tn〜tn+kまでの赤色光(第1測定信号)と緑色光(第2測定信号)の各DC成分の値を要素とするベクトルを、RDC=(RDCn RDCn+1 RDCn+2 ・・・・RDCn+k)、GDC=(GDCn GDCn+1 GDCn+2 ・・・・GDCn+k)とする。
【0032】
そして、AC成分のベクトルとDC成分のベクトルの各々について、緑色光(第2測定信号)に対する赤色光(第1測定信号)のベクトルのノルム比を以下の式(7)、式(8)によって求め、以下の式(9)によりAC成分とDC成分の各ノルム比を加算したφAC+DCを求める。なお、式(7)、式(8)において、‖RAC‖2は、第1測定信号のAC成分のベクトルのノルムを示し、‖GAC‖2は、第2測定信号のAC成分のベクトルのノルムを示し、‖RDC‖2は、第1測定信号のDC成分のベクトルのノルムを示し、‖GDC‖2は、第2測定信号のDC成分のベクトルのノルムを示している。
【0033】
【数5】
【0034】
式(9)に式(3)と式(4)を適用して安定期間とノイズ期間のノルム比を算出すると、以下の式(10)、式(11)で示すノルム比となる。なお、式(10)、式(11)において、‖RACpulse‖2は安定期間における第1測定信号のAC成分のノルム、‖GACpulse‖2は安定期間における第2測定信号のAC成分のノルム、‖RDCpulse‖2は安定期間における第1測定信号のDC成分のノルム、‖GDCpulse‖2は安定期間における第2測定信号のDC成分のノルムである。また、‖RACnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第1測定信号のAC成分のノルム、‖GACnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第2測定信号のAC成分のノルム、‖RDCnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第1測定信号のDC成分のノルム、‖GDCnoise(j-k:j+k)‖2はノイズ期間における第2測定信号のDC成分のノルムである。
【0035】
【数6】
【0036】
ここで、式(6)の逆行列を展開した式(12)を以下に示す。
【0037】
【数7】
【0038】
式(12)においてφ(J)nがφsの値に近づくとき、式(12)は発散してしまう。φ(J)nがφsの値に近づく場合というのは、そのノイズ期間における測定信号はノイズの影響を受けていないと考えられるため、この場合には、式(12)による分離処理を行わず、緑色光(第2測定信号)のAC成分のデータをその期間における脈動成分として出力するようにする。上述したように、緑色光は、赤色光に比べて還元ヘモグロビンに対する吸光係数が低く、静脈血に対する感度が低いと考えられる。そのため、緑色光は赤色光よりも静脈血の増加によるノイズ成分が少なく、脈動信号をよく表しているといえる。
【0039】
本実施形態において、ノイズ期間におけるノルム比φ(J)nがφsに近づいたか否かは、φsを基準とする下限係数m1と上限係数m2によって定められた閾値範囲内にあるか否かによって判断する。つまり、あるノイズ期間のφ(J)nが、(m1×φs)≦φ(J)n≦(m2×φs)の条件を満たす場合には、ノルム比φ(J)nがφsに近づいたと判断し、そのノイズ期間における第2測定信号のAC成分のデータを脈動成分とする。一方、あるノイズ期間のφ(J)nが上記条件を満たさない場合には、ノルム比φ(J)nがφsに近づいていないと判断し、式(10)によって求められたノルム比をφs、上記式(11)によって求められたノルム比をφ(J)nとして式(12)に代入し、ノイズ期間で測定された第1測定信号及び第2測定信号のAC成分を用いて式(12)の演算を行い、脈動信号(脈動成分)pとノイズ信号(ノイズ成分)nとを分離して脈動信号(脈動成分)pを出力する。
【0040】
<動作例>
以下、本実施形態に係る脈波計測装置1の動作例を説明する。図8、図9は、脈波計測装置1の動作フローを示す図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、安定期間として測定対象者の体動の影響を受けないように安静な状態で脈波を測定する期間と、ノイズ期間として測定対象者が計測部位を動かすなどして体動の影響を受ける状態で脈波を測定する期間とを予め設け、安定期間の脈波の測定を行った後、ノイズ期間の脈波の測定を行う。
【0041】
図8において、脈波計測装置1の制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受付けると(ステップS10:YES)、脈波センサー20において第1受発光部210と第2受発光部220とから一定の時間間隔で交互に脈波センサー20が装着されている計測部位に赤色光と緑色光とを照射して、計測部位から反射された赤色光と緑色光を各々受光し、受光量に応じた第1測定信号及び第2測定信号を制御部110に送出する(ステップS11)。なお、制御部110は、操作部160を介して脈波を測定する操作を受付けなければ(ステップS10:NO)、操作がなされるまで待機する。
【0042】
制御部110は、信号処理部120において、脈波センサー20から送出された第1測定信号と第2測定信号を取得して、第1測定信号と第2測定信号とからAC成分とDC成分を各々抽出する。そして、制御部110は、信号処理部120において、抽出した第1測定信号と第2測定信号の各AC成分の信号を各々増幅してA/D変換すると共に、抽出した第1測定信号と第2測定信号の各DC成分の信号をA/D変換し、A/D変換された各AC成分と各DC成分のデータをRAMに時系列に記憶する(ステップS12)。
【0043】
制御部110は、RAMに記憶されている第1測定信号と第2測定信号のAC成分とDC成分の各データから連続するn個のデータを読み出し、読み出したAC成分とDC成分について、第2測定信号に対する第1測定信号のノルム比を式(7)、式(8)によって求め、式(10)によりAC成分とDC成分の各ノルム比を加算することにより安定期間におけるノルム比(φs)を求め、求めたノルム比φsをRAMに記憶する(ステップS13)。
【0044】
次に、図9において、制御部110は、ノイズ期間についても上述したステップS10、S11、S12の処理を行い、RAMに記憶されている第1測定信号と第2測定信号のAC成分とDC成分の各データから時刻t=Jを基点として前後に連続する2k+1個のデータを読み出し、式(11)により時刻Jにおけるノルム比(φ(J)n)を求める(ステップS24)。
【0045】
制御部110は、ノルム比φ(J)nが安定期間のノルム比(φs)を基準とする予め定められた閾値範囲内(m1×φs≦φ(J)n≦m2×φs)である場合には(ステップS25:YES)、時点Jにおける第2測定信号のAC成分のデータを脈動成分として出力する(ステップS26)。
【0046】
一方、制御部110は、ノルム比φ(J)nがノルム比φsを基準とする予め定められた閾値範囲内(m1×φs≦φ(J)n≦m2×φs)でない場合には(ステップS25:NO)、ノルム比φsとノルム比φ(J)nと、時刻Jにおける第1測定信号と第2測定信号のAC成分の各値とを式(12)に代入して演算し、時刻t=Jにおける第1測定信号と第2測定信号から脈動成分とノイズ成分とを分離する。そして、制御部110は、分離した脈動成分のデータを時刻Jにおける脈動成分として出力する(ステップS27)。制御部110は、ノイズ期間における脈波の測定を終了する指示が操作部160を介してなされなければ(ステップS28:NO)、時刻tの値に1をインクリメントして(ステップS29)、第1測定信号と第2測定信号について上述したステップS24以下の処理を行い、また、ノイズ期間における脈波の測定を終了する指示が操作部160を介してなされると(ステップ28:YES)、脈波の測定を終了する。
【0047】
図10(a)(b)は、AC成分だけを用いて安定期間とノイズ期間のノルム比(φs、φ(J)n)を算出した場合の各ノルム比の波形図と脈動信号の出力結果を表す波形図とを示す図である。また、図11(a)(b)は、上述した実施形態の方法でノルム比(φs、φ(J)n)を算出した場合の各ノルム比の波形図と脈動信号の波形図とを示す図である。図10、図11の例において、期間A(0〜20sec)は、計測部位を心臓の高さの位置で脈波を計測した期間、期間B(20〜50sec)は、計測部位を心臓の高さから低い位置に移動させて脈波を計測した期間であり、いずれの期間においても体動によるノイズが発生しないよう安静な状態で計測を行った。また、図10(a)、図11(a)において、破線は、測定開始から10sec間の第1測定信号及び第2測定信号を用いて式(10)によって算出されたノルム比φsを表し、網掛け部分は、下限係数m1=0.8、上限係数m2=1.2とするφsの閾値範囲を示している。実線は、期間A及び期間Bの各期間において測定された第1測定信号及び第2測定信号を用いて式(11)によって算出されたφ(J)nを表しており、この例では、時間幅を2s(サンプリング周波数100Hzの場合、k=100)としている。
【0048】
図10(a)、図11(a)に示すように、期間Aは計測部位が心臓の高さの位置であり、体動の影響が殆ど無い状態であるため、ノルム比φsとφ(J)nは近い値となっており、図10(b)、図11(b)に示すように安定した脈動信号が出力されている。図10(a)、図11(a)におけるφ(J)nは、計測部位が心臓より低い位置に移動された20sec付近では移動による体動の影響を受けて一旦上昇し、その後下降している。計測部位を移動した後は安静な状態で計測を行っているため、計測部位の移動後において静脈血量は変化しても脈波は期間Aと同様に安定しているはずである。
【0049】
しかし、図10(a)に示すように、AC成分だけで算出されたノルム比φ(J)nは、静脈血量の増加によってφsの閾値範囲を超えて下降している。そのため、体動によるノイズの影響を受けていると判断されて分離処理が行われ、期間Bの脈動信号は図10(b)に示すように安定した波形となっていない。一方、図11(a)におけるφ(J)nは、AC成分とDC成分とを用いて算出されているため、計測部位の移動後において静脈血量が増加しても、移動前と移動後のノルム比φ(J)nの差が低減され、ノルム比φsの閾値範囲内に収まっている。その結果、ノルム比φsの閾値範囲内の期間における脈動信号としては、緑色光(第2測定信号)のAC成分の信号が出力され、期間Aと同様に脈波が安定した波形が得られている。
【0050】
上記より、上述した実施形態の方法によって脈動信号を出力することで、AC成分だけでノルム比を算出する場合と比べ、静脈血量の変化に伴うノルム比の変化が抑制されると共に、静脈血量の増加によるノイズと体動によるノイズとが区別され、測定対象者の状態をよく表した脈動信号を出力することができる。
【0051】
<変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下のように変形させて実施してもよい。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0052】
(1)上述した実施形態では、測定対象者に着脱可能な脈波センサー20と本体装置10で構成される脈波計測装置1について説明したが、第1測定信号と第2測定信号を取得し、本体装置10の信号処理部120及び制御部110の機能を有する信号処理装置であれば本体装置10の構成に限らない。信号処理装置として、例えばPCや携帯情報端末などの装置を用いる場合には、有線又は無線により脈波センサー20と通信接続し、脈波センサー20から出力される第1測定信号と第2測定信号を取得するようにしてもよい。また、信号処理装置は、脈波センサー20で測定された第1測定信号と第2測定信号の波形データが予め記憶された記憶装置から第1測定信号と第2測定信号の各波形データを読み出し、第1測定信号と第2測定信号を取得してもよい。
【0053】
(2)上述した実施形態では、赤色光と緑色光の光を各々発する発光素子を用いる例を説明したが、例えば、赤色光と赤外光など、発光ピークが異なる波長の光であって、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンに対する吸光係数が異なる光であればこの組み合わせには限らない。この場合、酸化ヘモグロビンよりも還元ヘモグロビンに対する吸光係数が低いか同程度である光の測定信号のAC成分を脈動成分として出力する。
【0054】
(3)上述した実施形態では、安定期間として脈波を測定する期間を設け、安定期間の測定結果を用いてノルム比φsを算出する例を説明したが、測定対象者の体動の影響を受けないように安静な状態で予め測定した測定結果に基づくノルム比φsが脈波計測装置1に予め記憶されていてもよい。この場合には、脈波計測装置1において、算出されたノルム比φsを記憶する記憶手段を設けるように構成する。
【0055】
(4)上述した実施形態では、計測部位において反射された光を第1受発光部210及び第2受発光部220で受光する例を説明したが、計測部位を透過した光を受光するように構成してもよい。
【0056】
(5)上述した実施形態では、人差指を計測部位として脈波センサー20を装着する例を説明したが、計測部位としては、例えば、手の甲、手首、足の甲、耳朶などの生体の部位であればこれに限定されない。
【0057】
(6)上述した実施形態では、第2測定信号と第1測定信号の相関を表す係数としてユークリッドノルムを用いたノルム比φs、φ(J)nを適用する例を説明したが、安定期間とノイズ期間の第1測定信号及び第2測定信号のAC成分とDC成分の最大値ノルムを用いてノルム比φs、φ(J)nを算出してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1・・・脈波計測装置、10・・・本体装置、15・・・液晶ディスプレイ、16・・・操作スイッチ、20・・・脈波センサー、30・・・ケーブル、40・・・バンド、110・・・制御部、110a・・・出力部、120・・・信号処理部、121a,121b,124a,124b・・・フィルター、122−1,122−2・・・増幅回路、123−1,123−2,123−3,123−4・・・A/D変換回路、130・・・計時部、140・・・クロック供給部、150・・・表示部、160・・・操作部、210・・・第1受発光部、220・・・第2受発光部、230・・・駆動部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の脈波の測定期間である第1測定期間と、前記第1測定期間より前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得手段と、
前記取得手段で取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記出力手段は、下記式(1)によって得られるユークリッドノルム比を前記第1係数とし、下記式(2)によって得られるユークリッドノルム比を前記第2係数とし、前記第1係数と前記第2係数との差分が予め定めた閾値の範囲内である場合には、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理を行い、前記閾値の範囲外である場合には、前記第1係数と前記第2係数とを用いた前記分離処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【数1】
‖RACpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖RACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
【請求項3】
前記第2の波長の光は、前記第1の波長の光よりも酸化ヘモグロビンに対して還元ヘモグロビンの吸光係数が小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第1の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第1測定信号を出力する第1受発光部と、
前記第2の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第2の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第2測定信号を出力する第2受発光部と、
前記第1受発光部と前記第2受発光部から出力された前記第1測定信号及び前記第2測定信号を用いて、前記第2測定期間における脈動成分を出力する請求項1から3のいずれか一項に記載の信号処理装置と
を備えることを特徴とする脈波計測装置。
【請求項5】
測定対象の生体の脈波を測定する第1測定期間と、前記第1測定期間よりも前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップによって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力ステップと
を有することを特徴とする信号処理方法。
【請求項1】
生体の脈波の測定期間である第1測定期間と、前記第1測定期間より前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得手段と、
前記取得手段で取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記出力手段は、下記式(1)によって得られるユークリッドノルム比を前記第1係数とし、下記式(2)によって得られるユークリッドノルム比を前記第2係数とし、前記第1係数と前記第2係数との差分が予め定めた閾値の範囲内である場合には、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理を行い、前記閾値の範囲外である場合には、前記第1係数と前記第2係数とを用いた前記分離処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【数1】
‖RACpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCpulse‖2は第1測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCpulse‖2は第1測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖RACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖GACnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第1周波数成分のノルムである。
‖RDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第1測定信号の第2周波数成分のノルムである。
‖GDCnoise(j-k:j+k)‖2は第2測定期間の第2測定信号の第2周波数成分のノルムである。
【請求項3】
前記第2の波長の光は、前記第1の波長の光よりも酸化ヘモグロビンに対して還元ヘモグロビンの吸光係数が小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第1の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第1測定信号を出力する第1受発光部と、
前記第2の波長の光を前記生体に照射し、前記生体を透過又は反射した当該第2の波長の光を受光し、受光量に応じた前記第2測定信号を出力する第2受発光部と、
前記第1受発光部と前記第2受発光部から出力された前記第1測定信号及び前記第2測定信号を用いて、前記第2測定期間における脈動成分を出力する請求項1から3のいずれか一項に記載の信号処理装置と
を備えることを特徴とする脈波計測装置。
【請求項5】
測定対象の生体の脈波を測定する第1測定期間と、前記第1測定期間よりも前記生体の体動の影響を受けている第2測定期間とにおける、前記生体を透過又は反射した第1の波長の光を受光した受光量に基づく第1測定信号、及び当該生体を透過又は反射した第2の波長の光を受光した受光量に基づく第2測定信号とを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記第1測定期間と前記第2測定期間の各期間における前記第1測定信号と第2測定信号から、予め定められた脈動を表す周波数帯域の第1周波数成分と、前記第1周波数成分の周波数帯域より低い周波数帯域の第2周波数成分の各信号を各々抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップによって抽出された前記第1測定期間と前記第2測定期間の前記第1周波数成分と前記第2周波数成分の各信号列に基づく前記第2測定信号と前記第1測定信号との相関を表す第1係数と第2係数との差分に応じて、前記第1係数及び前記第2係数を用いて前記第2測定期間における前記第1測定信号と前記第2測定信号に含まれる脈動成分とノイズ成分とを分離する分離処理と、前記第2測定期間における前記第2測定信号の前記第1周波数成分を前記脈動成分とする処理とを選択的に行い、前記第2測定期間における前記脈動成分を出力する出力ステップと
を有することを特徴とする信号処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−56083(P2013−56083A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196897(P2011−196897)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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