信号処理装置およびレーザ計測装置
【課題】少ない計算量かつ簡単な装置構成で受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができる信号処理装置およびレーザ計測装置を提供することにある。
【解決手段】受光信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、A/D変換部で変換された受光信号のデジタルデータを1フレーム分取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれで離散フーリエ変換し、指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれでDFT成分を算出するDFT計算部と、DFT計算部で算出した前記DFT成分に対して畳み込み計算する畳み込み計算部と、畳み込み計算部で計算した結果に対し逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する逆DFT計算部と、を有する。
【解決手段】受光信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、A/D変換部で変換された受光信号のデジタルデータを1フレーム分取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれで離散フーリエ変換し、指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれでDFT成分を算出するDFT計算部と、DFT計算部で算出した前記DFT成分に対して畳み込み計算する畳み込み計算部と、畳み込み計算部で計算した結果に対し逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する逆DFT計算部と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ吸収分光法により測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測に用いる信号処理装置およびレーザ計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管路内を流れるガス(気体)を分析する方法として、レーザ光を測定光として用いる方法がある。例えば、特許文献1には、一定電流に重畳された第1の交流成分を有する電流で変調され、温度に応じて波長が変化するレーザ光を発振するレーザと、検知雰囲気通過後のレーザ光の強度を電圧に変換する光強度電圧変換器と、該光強度電圧変換器の出力電圧を位相敏感検波する2つの位相敏感検波器と、一方の位相敏感検波器から得られる1次の位相敏感検波信号と他方の位相敏感検波器から得られる2次の位相敏感検波信号とに基づいて検知雰囲気の濃度を検知するガス検知装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、レーザ光を出射するレーザ素子と、レーザ光を基本波で周波数変調する周波数変調部と、周波数変調されたレーザ光を検出する光検出部と、光検出部にて検出されたレーザ光から基本波成分を検出する基本波成分検出部と、光検出部にて検出されたレーザ光から2倍波成分を検出する2倍波成分検出部と、光検出部にて検出された基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいて測定対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出部と、を有するガス濃度測定装置が記載されている。また、当該ガス濃度測定装置は、レーザ光から検出された基本波成分と2倍波成分との振幅比を算出する振幅比算出部と、基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいてレーザ素子の温度を設定する温度設定部と、吸収ピーク波長からシフトされた波長を基準とする波長変調を行った時の基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいてレーザ素子の駆動電流を制御する駆動電流制御部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2796649号明細書
【特許文献2】特開2008−147557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載されているように、測定光として波長変調を行いつつ出力したレーザ光を用い、当該レーザ光の吸収を計測することで、測定対象物質の濃度等の物理量を計測することができる。レーザ光を用いてガス濃度を計測することで高い応答性でガス濃度を計測することができる。
【0006】
ここで、受光部がレーザ光を受光して生成する受光信号には、種々のノイズが含まれる。そのため、受光信号からノイズを除去し、必要な成分(例えば波長変調を行う変調周波数に対応する信号成分)を抽出するために各種信号処理を行う。この信号処理としては、ロックインアンプで、ロックイン処理およびローパス処理を行い特定のスペクトル信号を抽出する方法がある。しかしながら、検出対象の信号はノイズに対して出力が小さいため、高精度な検出を行う場合は、ロックインアンプによる処理前にFIRフィルタ等を設け、ロックインアンプの処理対象の周波数成分を抽出する、つまりロックインアンプの処理対象の周波数以外の周波数成分を低減させる処理を行う。
【0007】
ここで、FIRフィルタを用いた処理では、直前の多数(例えば1024次)のデータを用いて特定の周波数成分を抽出する。このように、FIRフィルタは、受光信号から対象の成分を抽出するために、直前の多数の検出結果を記憶・処理して検出した値を使用する。このため、記憶・処理する計算量が多く計算負荷が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、少ない計算量かつ簡単な装置構成で受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができる信号処理装置およびレーザ計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、流体が流れる計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記計測セルに入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、を有し、前記受光信号に基づいて前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測装置に適用され、前記受光部が受光した受光信号を処理し、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量の算出に用いるスペクトル信号を出力する信号処理装置であって、前記受光信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記A/D変換部で変換された前記受光信号の1フレーム分のデジタルデータを取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、前記変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれで離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform)し、前記指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれでDFT成分を算出するDFT計算部と、DFT計算部で算出した前記DFT成分に対して畳み込み計算する畳み込み計算部と、前記畳み込み計算部で計算した結果に対し逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する逆DFT計算部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記ステップ周波数は、前記受光信号の検出間隔と1フレーム分の個数との乗算で算出される周波数であることが好ましい。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明はレーザ計測装置であって、上記のいずれかに記載の信号処理装置と、流体を流す流路と連結可能な主管、前記主管に連結し、光が通過可能な窓部が形成された入射部、前記主管に連結し光が通過可能な窓部が形成された出射部と、を含む計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記入射部に入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、前記スペクトル信号に基づいて、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出する物理量算出部と、各部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、前記発光部は、変調周波数よりも低い周波数の掃引周波数で波長を掃引しつつレーザ光出力することが好ましい。
【0013】
また、前記DFT計算部は、前記掃引周波数の1周期分のデジタルデータを1フレーム分のデータとして取得することが好ましい。
【0014】
また、前記ステップ周波数は、掃引周波数であることが好ましい。
【0015】
また、前記DFT計算部は、前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数として、ステップ周波数の偶数の整数倍分または奇数の整数倍分異なる周波数のみを用いることが好ましい。
【0016】
また、前記物理量算出部が算出する物理量は、前記測定対象のガスの濃度であることが好ましい。
【0017】
また、前記物理量算出部は、前記発光部から出力したレーザ光の強度と、前記受光部で受光したレーザ光の強度とに基づいて、前記測定対象のガスの濃度を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる信号処理装置およびレーザ計測装置は、少ない計算量かつ簡単な装置構成で受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の信号処理装置を有するレーザ計測装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すレーザ計測装置の信号処理部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図4】図4は、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図5A】図5Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。
【図5B】図5Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図5C】図5Cは、ロックインアンプを用いて算出したスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図6A】図6Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。
【図6B】図6Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図6C】図6Cは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図6D】図6Dは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7A】図7Aは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7B】図7Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7C】図7Cは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7D】図7Dは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7E】図7Eは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7F】図7Fは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7G】図7Gは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図8】図8は、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる信号処理装置およびレーザ計測装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、レーザ計測装置は、流路を流れる種々の気体(ガス)等の流体に含まれる測定対象の物質(ガス、特定の成分)の物理量(濃度、量)を計測することができる。レーザ計測装置は、例えば、ディーゼルエンジンに取付、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる窒素酸化物、硫化酸化物、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア等の濃度等を計測してもよい。なお、測定対象のガスを排出(供給)する装置は、これに限定されず、ガソリンエンジンや、ガスタービン等種々の内燃機関に用いることができる。また、内燃機関を有する装置としては、車両、船舶、発電機等種々の装置が例示される。さらに、レーザ計測装置は、ゴミ焼却炉、ボイラ等の燃焼機器から排出される排ガスに含まれる測定対象の物質の濃度等を計測することもできる。なお、以下の実施形態では、配管を流れる排ガスに含まれる測定物質の濃度を計測する場合として説明する。
【0021】
図1は、本発明の信号処理装置を有するレーザ計測装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。図1に示すようにレーザ計測装置10は、計測セル12と、計測手段14と、を有する。ここで、レーザ計測装置10は、排ガスAが流れる配管6と配管8との間に設けられている。また、排ガスAは、配管6の上流側から供給され、配管6、レーザ計測装置10、配管8を通過し、配管8よりも下流に排出される。なお、配管6の上流側には、排ガスの発生装置(供給装置)が配置されている。
【0022】
計測セル12は、基本的に主管20と、入射管22と、出射管24とを有する。また、入射管22には、窓26が設けられており、出射管24には、窓28が設けられている。主管20は、筒状の管状部材であり、一方の端部が配管6と連結され、他方の端部が配管8と連結されている。つまり、主管20は、排ガスAが流れる流路の一部となる位置に配置されている。これにより、排ガスAは、配管6、主管20、配管8の順に流れる。また、配管6を流れる排ガスAは、基本的に全て主管20を流れる。
【0023】
入射管22は、管状部材であり、一方の端部が主管20に連結されている。また、主管20は、入射管22との連結部が、入射管22の開口(端部の開口)と略同一形状の開口となっている。つまり、入射管22は、主管20と、空気の流通が可能な状態で連結されている。また、入射管22の他方の端部には、窓26が設けられており、窓26により封止されている。なお、窓26は、光を透過する部材、例えば、透明なガラス、樹脂等で構成されている。これにより、入射管22は、窓26が設けられている端部が、空気が流通しない状態で、かつ、光が透過できる状態となる。
【0024】
入射管22は、図1に示すように、窓26側の端部の開口(つまり、窓26により塞がれている開口)の面積と、主管20側の端部(つまり、主管20と連結している部分の開口)の面積とが実質的に同一の円筒形状である。なお、入射管22の形状は円筒形状に限定されず、空気および光を通過させる筒型の形状であればよく、種々の形状とすることができる。例えば、断面が四角、多角形、楕円、非対称曲面となる形状としてもよい。また筒形状の断面の形状、径が位置によって変化する形状でもよい。
【0025】
出射管24は、入射管22と略同一形状の管状部材であり、一方の端部が主管20に連結され、出射管24の他方の端部には、窓28が設けられている。出射管24も、主管20と空気が流通可能な状態で、窓28が設けられている端部が、空気が流通しない状態で、かつ、光が透過できる状態となる。また、出射管24は、中心軸が入射管22の中心軸と略同一となる位置に配置されている。つまり、入射管22と出射管24とは、主管20の対向する位置に配置されている。
【0026】
また、出射管24も、窓28側の端部の開口(つまり、窓28により塞がれている開口)の面積と、主管20側の端部(つまり、主管20と連結している部分の開口)の面積とが実質的に同一の円筒形状である。なお、出射管24も形状は円筒形状に限定されず、空気および光を通過させる筒型の形状であればよく、種々の形状とすることができる。例えば、断面が四角、多角形、楕円、非対称曲面となる形状としてもよい。また筒形状の断面の形状、径が位置によって変化する形状でもよい。なお、出射管24も、後述するパージガスが安定して流れる形状とすることが好ましい。
【0027】
次に、計測手段14は、発光部40と、光ファイバ42と、受光部44と、光源ドライバ46と、信号処理部(信号処理装置)47と、物理量算出部48と、制御部50と、を有する。なお、本実施形態では、信号処理部47と、物理量算出部48と、を別々に設けたが一体で(1つの処理部として)設けてもよい。また、光源ドライバ46と、信号処理部47と、物理量算出部48と、制御部50と、を一体で(1つの処理部として)設けてもよい。
【0028】
発光部40は、所定波長のレーザ光を出力(発光)させる発光素子を有する。なお、発光部40の発光素子は、出力するレーザ光の出力波長(周波数)を所定の波長幅(周波数幅)で変化させることができる発光素子である。発光素子としては、波長可変の半導体レーザ素子(LD:Laser Diode)を用いることができる。発光部40は、測定対象の物質が吸収する近赤外波長域を含む波長域のレーザ光を出力する。例えば、計測対象が一酸化窒素の場合、発光部40は、一酸化窒素を吸収する近赤外波長域を含む波長域のレーザ光を出力する。また、計測対象が二酸化窒素の場合、発光部40は、二酸化窒素を吸収する近赤外波長域の波長域を含むレーザ光を出力する。また、計測対象が亜酸化窒素の場合、発光部40は、亜酸化窒素を吸収する近赤外波長域の波長域を含むレーザ光を出力する。なお、測定対象が複数の物質である場合、発光部40は、夫々の物質が吸収する波長域の光を発光する発光素子を複数備え、それぞれの波長域の光を出力するようにしてもよい。光ファイバ42は、発光部40から出力されたレーザ光を案内し、窓26から計測セル12内に入射させる。
【0029】
受光部44は、計測セル12の主管20の内部を通過し、出射管24の窓28から出力されたレーザ光を受光する受光部である。なお、受光部44は、例えば、フォトダイオード(PD、Photodiode)等の光検出器を備え、光検出器によってレーザ光を受光し、その光の強度を検出する。受光部44は、受光したレーザ光の強度(光量)を受光信号として、信号処理部47に送る。
【0030】
光源ドライバ46は、発光部40を駆動する機能を有し、発光部40に供給する電流、電圧を調整することで、発光部40から出力されるレーザ光の波長、強度を調整する。光源ドライバ46は、発振器であり、電流、電圧を所定の波形で発光部40に供給することで時間により波長が変化するレーザ光を出力させる。本実施形態の光源ドライバ46は、設定された変調周波数(例えば、100kHz、150kHz)でレーザ光の波長を振動させ、変調周波数よりも低い周波数である掃引周波数(0.1kHz、1kHz)でレーザ光の波長を掃引する。これにより、発光部40から出力されるレーザ光は、変調周波数で振動する振動の中心が、掃引周波数に基づいて変化するレーザ光となる。光源ドライバ46は、制御部50を介して物理量算出部48に、発光部40から出力しているレーザ光の強度の情報を出力する。
【0031】
信号処理部47は、受光部44がレーザ光を受光することで生成した信号(受光信号)を処理する。具体的には、信号処理部47は、受光信号に含まれるノイズ成分を除去し、発光部40から出力され受光部44に到達したレーザ光の成分を抽出する。なお、抽出して生成される信号を以下スペクトル信号という。また、信号処理部47の処理については後述する。
【0032】
物理量算出部48は、信号処理部47から出力されたスペクトル信号に基づいて、計測セル12を流れる排ガスの濃度を算出する。物理量算出部48は、信号処理部47から出力されたスペクトル信号と、制御部50により光源ドライバ46を駆動させている条件とに基づいて、計測対象の物質の濃度を算出する。具体的には、物理量算出部48は、制御部50により光源ドライバ46を駆動させている条件に基づいて発光部40から出力されるレーザ光の強度を算出し、信号処理部47で生成されたスペクトル信号に基づいて受光したレーザ光の強度を算出する。物理量算出部48は、この発光したレーザ光の強度と受光したレーザ光の強度と比較し、排ガスAに含まれる測定対象の物質の濃度を算出する。
【0033】
具体的には、発光部40から出力された近赤外の波長域のレーザ光Lは、光ファイバ42から計測セル12の所定経路、具体的には、窓26、入射管22、主管20、出射管24、窓28を通過した後、受光部44に到達する。このとき、計測セル12内の排ガスA中に測定対象の物質が含まれていると、計測セル12を通過するレーザ光Lが吸収される。そのため、レーザ光Lは、排ガスA中の測定対象の物質の濃度によって、受光部44に到達するレーザ光の出力が変化する。受光部44は、受光したレーザ光を受光信号に変換する。受光部44で生成された受光信号は、信号処理部47で処理されスペクトル信号として物理量算出部48に入力される。また、制御部50および光源ドライバ46は、発光部40から出力したレーザ光Lの強度を物理量算出部48に出力する。物理量算出部48は、発光部40から出力した光の強度と、スペクトル信号から算出される強度とを比較し、その減少割合から計測セル12内を流れる排ガスAの測定対象の物質の濃度を算出する。このように計測手段14は、いわゆるTDLAS方式(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy:可変波長ダイオードレーザー分光法)を用いることで、出力したレーザ光の強度と、受光部44で検出した受光信号とに基づいて主管20内の所定位置、つまり、測定位置を通過する排ガスA中の測定対象の物質の濃度を、算出および/または計測することができる。また、計測手段14は、連続的に測定対象の物質の濃度を、算出および/または計測することができる。なお、レーザ計測装置10は、発光部40から出力されるレーザ光の強度を一定として、スペクトル信号のみ基づいて排ガスAに含まれる測定対象の物質の濃度を算出してもよい。
【0034】
制御部50は、各部の動作を制御する制御機能を有し、必要に応じて、各部の動作を制御する。なお、制御部50は、計測手段14の制御のみならず、レーザ計測装置10の全体の動作を制御する。つまり、制御部50は、レーザ計測装置10の動作を制御する制御部である。
【0035】
次に、レーザ計測装置10の信号処理部47の構成を説明し、信号処理部47による受光信号の処理について説明する。ここで、図2は、図1に示すレーザ計測装置の信号処理部の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、信号処理部47は、受光部44から送られた受光信号を処理してスペクトル信号を生成し、生成したスペクトル信号を物理量算出部48に送る。信号処理部47は、増幅A/D変換部(増幅アナログデジタル変換部)62と、DFT(Discrete Fourier Transform)計算部64と、一時記憶部65と、畳み込み計算部66と、逆DFT(Discrete Fourier Transform)計算部68と、を有する。
【0036】
増幅A/D変換部62は、アナログの受光信号をデジタルの受光信号に変換し、さらにその出力を増幅する。増幅A/D変換部62は、増幅したデジタルの受光信号をDFT計算部64に送る。
【0037】
DFT計算部64は、増幅A/D変換部62で変換された前記受光信号のデジタルデータを1フレーム分取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、離散フーリエ変換(DFT、Discrete Fourier Transform)し、変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および当該指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれについてのDFT成分(フーリエ係数)を算出する。なお、ステップ周波数とは、予め設定した数値であり、DFTおよび後述する畳み込み処理に用いる周波数成分の間隔を決定する値である。つまり、指定周波数をαとし、ステップ周波数をβとし、nを0以上の整数とした場合、DFT成分を算出する周波数は、α±nβとなる。なお、nの最大値は、設定により調整することができる値である。
【0038】
これにより、DFT計算部64は、離散フーリエ変換により1フレーム分のデジタルデータから指定周波数のDFT成分(フーリエ係数)を算出しかつ指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれのDFT成分(フーリエ係数)を算出する。このようにDFT計算部64は、デジタルの受光信号であるf(t)に対して離散フーリエ変換を行い、指定周波数を中心とした各周波数のDFT成分F(ω)を算出する。なお、DFT成分F(ω)のωはα±nβである。また、参照正弦波(指定周波数の正弦波)の信号であるg(t)に対して離散フーリエ変換を行い、参照正弦波のDFT成分G(ω)を算出する。なお、G(ω)は予め算出しておき、畳み込み計算部66に設定しておいてもよい。また、DFT計算部64は、畳み込み計算部68で必要となるため、指定周波数及び指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数に対応するマイナス周波数のDFT成分(F(ω)、G(ω))も算出する。なお、離散フーリエ変換では、マイナス周波数のDFT成分はF(−k)=F*(k)となるため、正周波数の複素共役で算出することができる。
【0039】
一時記憶部65は、DFT計算部64で算出された算出結果(各周波数におけるDFT成分)を記憶する記憶部である。なお、一時記憶部65は、畳み込み計算部66の必要な算出結果を一時的に記憶するバッファとして機能する。一時記憶部65は、DFT計算部64により算出された算出結果が書き込まれ、畳み込み計算部66により記憶した算出結果が読み出される。また、一時記憶部65に記憶された算出結果は、自身、DFT計算部64または畳み込み計算部66により上書き処理や削除処理により順次一時記憶部65から消去される。
【0040】
畳み込み計算部66は、一時記憶部65に記憶されたDFT算出部64で算出したDFT成分に対して畳み込み計算する。具体的には、一時記憶部65に記憶した指定周波数を中心とした各周波数のDFT成分F(ω)と、参照正弦波のDFT成分G(ω)とを用いて、下記式(1)の畳み込み計算を実行する。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、(式1)の畳み込み計算は、下記式(2)に示すように展開することができる。本実施形態のΔはステップ周波数の整数倍の値nβ(なおnは0を含む)である。
【0043】
【数2】
【0044】
ここで、本実施形態の畳み込み計算において、G(f)はfの絶対値が指定周波数である正負の2周波数の場合以外に値が0となる。このため、(式2)の畳み込み計算で計算する対象は、指定周波数fと−fの周波数成分となる。また、Δはステップ周波数の整数倍の値nβであるため、2n+1個のΔに対して各1個のH(Δ)が算出される。
【0045】
以下、具体例を用いて、信号処理部47の畳み込み処理を説明する。ここで、図3および図4は、それぞれ信号処理部の処理を説明するための説明図である。なお、図3は、受光信号(LD信号)を離散フーリエ変換した結果F(ω)と、参照正弦波を離散フーリエ変換した結果G(ω)を示す説明図である。また、図3は、縦軸が強度(大きさ)であり、横軸が周波数軸である。
【0046】
図3および図4に示す具体例では、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、整数倍の係数nの最大値を2とした。また、サンプリング周波数は4MHzでありサンプリング周期Δtは2.5E−7秒である。また、1/2Δtは、サンプリング周波数の半分の値(周波数)に相当する。なお、レーザ計測装置10は、変調周波数を125kHzとし、掃引周波数を1kHzとしてレーザ光を出力した。以上の条件で、受光信号(LD信号)を離散フーリエ変換すると、F(ω)として、図3に示すように、変調周波数125kHzの倍の周波数である250kHzの周辺(周波数248kHzから252kHz)に出力92が算出される。また、畳み込み計算で必要となる、対応するマイナス周波数(周波数−252kHzから−248kHz)の出力94も算出される。また、同様に、参照正弦波を離散フーリエ変換すると、G(ω)は、図3に示すように、参照正弦波の周波数である250kHzの周辺に出力96が算出される。また、離散フーリエ変換では、対応するマイナス周波数の出力98も算出される。
【0047】
畳み込み計算部66は、図3に示すように算出することができるF(ω)のうち、変調周波数を2倍した指定周波数250kHz及びその近傍の成分を解析対象とする。なお、畳み込み計算では、指定周波数に対応するマイナス周波数も必要となるため、周波数−250kHz及びその近傍の成分も解析対象とする。つまり、畳み込み計算部66は、領域100に囲われた出力成分から必要なDFT成分を出力する。ここで、本実施形態では、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、整数倍の係数nの最大値が2であるため、H(Δ)の算出には、F(±248)、F(±249)、F(±250)、F(±251)、F(±252)と、G(±250)と、を用いる。畳み込み計算部66は、上記DFT成分を用いて、Δ=0、±1、±2kHzのH(Δ)を算出する。つまり、H(−2)、H(−1)、H(0)、H(1)、H(2)を算出する。例えば、H(0)は、下記式(3)を用いて、算出する。
【0048】
【数3】
【0049】
つまり、図4に示すように、Δ=0の場合は、F(250)の成分とG(−250)の成分とを乗算し、F(−250)の成分とG(250)の成分とを乗算して算出する。また、この算出した結果を合計することで、H(0)を算出する。また、H(1)は、下記式(4)を用いて、算出する。
【0050】
【数4】
【0051】
図4に示すように、Δ=1の場合は、F(251)の成分とG(−250)の成分とを乗算し、F(−249)の成分とG(250)の成分とを乗算して算出する。また、この算出した結果を合計することで、H(1)を算出する。また、H(−1)は、下記式(5)の計算式で算出する。
【0052】
【数5】
【0053】
さらに、式は示さないがH(2)、(−2)も同様に上記式(2)を用いて計算を行う。畳み込み計算部66は、以上のようにして、条件に基づいて、複数のDFT成分のH(Δ)を算出する。
【0054】
逆DFT計算部68は、畳み込み計算部66で計算した結果に対し、逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する。具体的には、逆DFT計算部68は、畳み込み計算部66で畳み込み計算されて算出されたDFT成分のH(Δ)と、周波数Δの正弦波の数値生成ルーチンを用いて、逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号(所定のスペクトル成分を抽出した信号)を出力する。
【0055】
次に、具体的な処理例について説明する。ここで、図5Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。図5Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。図5Cは、ロックインアンプを用いて算出したスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。なお、図5Aから図5Cは、ともに縦軸を強度とし、横軸を時間とした。なお、図5Aは、縦軸の強度が受光信号の強度であり、図5Bおよび図5Cは、縦軸の強度が算出されたスペクトル信号の強度である。また、図5Aおよび図5Cは、横軸の時間の単位がmsであり、図5Bは、横軸の時間の単位がsである。ここで、レーザ計測装置10は、図5Aから図5Cに示す計測において、変調周波数を125kHzとし、掃引周波数を1kHzとして発光部40からレーザ光を出力した。この条件で、発光部40から出力された測定対象の排ガスを通過したレーザ光の受光信号は、図5Aに示す波形となる。図5に示すように、レーザ光は、掃引周波数が1kHzであるため、1msを1周期として受光強度が大きく振幅し、さらに、変調周波数が125kHzであるため、0.008msを1周期として掃引周波数による振幅よりも小さい振幅で受光強度が振動している。なお、レーザ光の波長(周波数)と強度とは相関関係がある。
【0056】
具体例のレーザ計測装置10は、図5Aに示す受光信号を上述した図3および図4と同様の条件、つまり、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、整数倍の係数nの最大値を31で処理し、スペクトル信号を出力した。出力したスペクトル信号を図5Bに示す。また、比較のために、図5Aに示す受光信号を従来のロックインアンプを用いた方式で処理し、出力したスペクトル信号を図5Cに示す。なお、図5Cに示す計測結果は、参照正弦波の周波数を250kHzとして算出した。
【0057】
図5Bおよび図5Cに示すように、本実施形態のレーザ計測装置10を用いた場合でも、従来のロックインアンプを用いた方式と同様の波形を検出することができる。また、検出対象の成分を限定しているため、検出結果の波形の振動も抑制することができる。なお、スペクトル信号の出力と測定対象の物質の濃度との関係は、装置の使用前に対応関係を算出する試験を行うことで、対応付ける。また、検出強度の絶対値は、出力強度等を調整することで調整することもできる。
【0058】
このように、レーザ計測装置10は、デジタル化した受光信号に離散フーリエ変換処理を行い、変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれのDFT成分を算出し、そのDFT成分と、参照正弦波(指定周波数の正弦波)のDFT成分とで、畳み込み処理を行い、その算出結果に逆離散フーリエ変換処理を行ってスペクトル信号を算出(検出)することで、少ない計算量で受光信号から吸収スペクトルの信号成分を抽出することができる。つまり、レーザ計測装置10は、少ない計算量で、測定対象の物質の物理量の算出に必要な信号成分を抽出することができる。必要な計算が少なくなり、計算対象も少なくなるため、信号処理部47の構成も簡単にすることができるため、装置構成を簡単にすることができ、制御基板(制御回路)の構成も簡単にすることができる。
【0059】
具体的には、比較例で用いたロックインアンプを用いた信号処理では、FIRフィルタで1つの信号の処理を行うために直前の多数のフレーム分のデータを記憶・処理して移動平均を算出する必要がある。これに対して、本実施形態は、1フレーム分のデータに対して離散フーリエ変換を行い、設定された周波数毎のDFT成分(フーリエ係数)を算出し、算出した複数のDFT成分を組み合わせ計算する畳み込み処理を行い、その結果を逆離散フーリエ変換することで、スペクトル信号を算出することができる。これにより、計算量を少なくすることができ、かつ、処理対象の信号成分が飛躍的に少なくすることができる。
【0060】
また、DFT計算部64は、離散フーリエ変換で必要な周波数のDFT成分のみを算出すればよいため、離散フーリエ変換の計算量も少なくすることができる。また、測定対象の周波数およびその周辺の周波数成分のスペクトル信号を抽出すればよいため、1つの指定周波数およびその周辺の周波数(ステップ周波数の整数倍分ずれた周波数)に対して、離散フーリエ変換および畳み込み処理を行えばよい。このため、処理対象の周波数成分を絞り込むことができ、計算量の増加も抑制できる。なお、上記実施形態では、一例として、指定周波数として変調周波数の2倍の周波数としたが、これに限定されない。指定周波数は、変調周波数の整数倍の周波数を用いることができる。なお、指定周波数は、本実施形態のように、変調周波数の2倍の周波数とすることが好ましい。これにより、測定対象の物質による光の吸収で生じる強度の変動をより大きい値で検出することができる。つまり、スペクトル信号をより大きい値(S/N比が高い値)で検出することができる。
【0061】
次に、図6を用いて、レーザ計測装置10の信号処理部47の処理の他の実施形態について説明する。ここで、図6Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。図6Bから図6Dは、それぞれスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。なお、図6Aから図6Dは、ともに縦軸を強度とし、横軸を時間とした。なお、図6Aは、縦軸の強度が受光信号の強度であり、図6Bから図6Dは、縦軸の強度が算出されたスペクトル信号の強度である。また、図6Aから図6Dは、横軸の時間の単位がsである。
【0062】
図6Aから図6Dに示す計測において、レーザ計測装置10は、変調周波数を100kHzとし、掃引周波数を0.1kHzとして発光部40からレーザ光を出力した。この条件で、発光部40から出力され測定対象の排ガスを通過したレーザ光の受光信号は、図6Aに示す波形となる。図6Aに示すように、レーザ光は、掃引周波数が0.1kHzであるため、10msが掃引の1周期となり、さらに、変調周波数が100kHzであるため、0.01msが変調の1周期となる。
【0063】
この図6Aに示す受光信号を、レーザ計測装置10の信号処理部47が、指定周波数を200kHzとし、ステップ周波数を0.1kHzとし、整数倍の係数nの最大値を4とした設定で処理してスペクトル信号を出力した。つまり、200kHzの成分と、200±0.1kHz、200±0.2kHz、200±0.3kHz、200±0.4kHzの成分を用いて、畳み込み処理を行った。出力結果を図6Bに示す。図6Bに示すように、変調周波数が100kHzの場合は、変調周波数を200kHzとすることで上記実施形態と同様に対象の周波数の出力(スペクトル信号)を検出することができる。
【0064】
次に、図6Aに示す受光信号を、レーザ計測装置10の信号処理部47が、指定周波数を200kHzとし、ステップ周波数を0.1kHzとし、整数倍の係数nを、最大値が4でかつ偶数(つまり、整数倍の係数2Nで、かつNの最大値2の整数)とした設定で処理してスペクトル信号を出力した。つまり、200kHzの成分と、200±0.2kHz、200±0.4kHzの成分を用いて、畳み込み処理を行った。出力結果を図6Cに示す。
【0065】
図6Cに示すように、ステップ周波数を整数倍する係数に偶数のみを用いることで、信号成分に含まれる歪み成分を除去した吸収スペクトル(測定に反応している成分)の強度をスペクトル信号として算出することができる。これにより、所望のスペクトル信号成分の検出精度を維持または向上させることができる。ステップ周波数を整数倍する係数に奇数を用いないことで、計算対象の周波数を少なくすることができる。
【0066】
図6Aに示す受光信号を、レーザ計測装置10の信号処理部47が、指定周波数を200kHzとし、ステップ周波数を0.1kHzとし、整数倍の係数nを、最大値が4でかつ奇数(つまり、整数倍の係数2N−1で、かつNの最大値2の整数)とした設定で処理してスペクトル信号を出力した。つまり、200kHzの成分と、200±0.1kHz、200±0.3kHzの成分を用いて、畳み込み処理を行った。出力結果を図6Dに示す。
【0067】
図6Dに示すように、ステップ周波数を整数倍する係数に奇数のみを用いることで、信号成分に含まれる歪み成分の強度を算出することができる。ここで、歪み成分は、測定対象の物質の吸収の影響を受けない。このため、レーザ計測装置10は、歪み成分を装置の補正処理、キャリブレーション等に用いることができる。レーザ計測装置10は、信号処理部47でステップ周波数を整数倍する係数に奇数のみを用いることで、信号成分に含まれる歪み成分の強度を算出し、その結果と基準値等を比較し、各種条件を調整することで、計測精度をより向上させることができる。なお、レーザ計測装置10は、ステップ周波数を整数倍する係数に奇数のみを用いるモードと、ステップ周波数を整数倍する係数に偶数のみ(または全ての整数)を用いるモードと、を切り換えるまたは2つのモードを並列で処理することで、補正処理と、濃度の計測処理の両方を行うことができる。
【0068】
また、信号処理部47の処理対象の周波数、つまり、指定周波数をαとし、ステップ周波数をβとし、nを0以上の整数とした場合のα±nβに用いるnの最大値は任意の値とすることができる。つまり、畳み込み処理に用いるDFT成分の数は、2n+1個数とすることができる。ここで、図7Aから図7Gは、それぞれスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。図7Aから図7Gは、それぞれ縦軸の強度が算出されたスペクトル信号の強度であり、横軸が単位をsの時間である。なお、図7Aから図7Gは、図5Aに示す受光信号を、nの最大値をそれぞれの値として信号処理部47で処理した結果を示すグラフである。また、図7Aから図7Gは、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、係数nとして偶数のみを用いて計算を実行した結果である。
【0069】
ここで、図7Aは、解析対象の周波数を、偶数次の5点(指定周波数とその周辺のステップ周波数の整数倍分ずれた4つの周波数)、つまり±250±2N(Nは2以下の整数)kHzとした場合の出力である。したがって、図7Aは、±246kHz、±248kHz、±250kHz、±252kHz、±254kHzの5つの周波数を解析対象としている。また、図7Bは、解析対象の周波数を偶数次の7点、つまり±250±2N(Nは3以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Cは、解析対象の周波数を偶数次の9点、つまり±250±2N(Nは4以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Dは、解析対象の周波数を偶数次の11点、つまり±250±2N(Nは5以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Eは、解析対象の周波数を偶数次の15点、つまり±250±2N(Nは7以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Fは、解析対象の周波数を偶数次の21点、つまり±250±2N(Nは10以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Gは、解析対象の周波数を偶数次の31点、つまり±250±2N(Nは15以下の整数)kHzとした場合の出力である。
【0070】
図7Aから図7Gに示すように、解析対象の周波数の個数を種々の設定とすることで、種々のスペクトル信号を検出することができる。またいずれのスペクトル信号としても、スペクトル信号の最大値と最小値に基づいて吸収により生じるスペクトル変化を検出することができるため、好適に測定対象物質の濃度を計測することができる。なお、レーザ計測装置10は、解析対象の周波数の個数を増加させることで、ロックインアンプのローパスフィルタのカットオフ周波数を増加させることと同様の効果を得ることができる。
【0071】
また、上述したように、指定周波数は、変調周波数の整数倍の種々の値とすることができる。ここで、図8は、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。図8は、縦軸が出力であり、横軸が単位をsとした時間である。なお、図8は、図5Aに示す受光信号を、指定周波数を500kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、係数nとして偶数のみを用いて計算を実行した結果である。また、図8は、解析対象の周波数を偶数次の31点としている。図8に示すように、指定周波数として、変調周波数の4倍の周波数を用いても、変調周波数に含まれる吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。なお、指定周波数として、変調周波数の4倍の周波数を用いて解析を行うとスペクトルの4次微分波形が検出される。このように変調周波数の2倍以外の周波数を用いることで、変調周波数の2倍の周波数にノイズ成分がある場合も吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。また、変調周波数の4倍等、2倍より周波数の高い周波数は、信号強度が小さいため吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)を検出しにくいが、レーザ計測装置10は、対象のスペクトルを高精度に検出できるため好適に吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)を検出することができる。
【0072】
また、レーザ計測装置10は、本実施形態のようにステップ周波数を、掃引周波数と同一周波数とすることが好ましい。ステップ周波数を掃引周波数と同一とすることで、より好適に変調周波数に含まれる吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。
【0073】
なお、ステップ周波数は、受光信号の検出間隔と1フレーム分の個数との乗算で算出される周波数とすることが好ましい。つまり、ステップ周波数は、1フレーム分の受光信号を取得するのに要する時間が1周期となる周波数とすることが好ましい。1フレームが4000点で、受光信号の検出間隔(サンプリング周期)が4MHzの場合は、ステップ周波数を1kHzとすることが好ましい。これにより、スペクトル信号をより高精度で検出することができる。
【0074】
また、レーザ計測装置10は、掃引周波数の1周期で取得できるデータ数の整数倍を、受光信号の1フレーム分のデータ数とすることが好ましい。これにより、掃引周波数で波長を掃引している場合により高い精度でスペクトル信号を検出することができる。
【符号の説明】
【0075】
6、8 配管
10 レーザ計測装置
12 計測セル
14 計測手段
20 主管
22 入射管
24 出射管
26、28 窓
40 発光部
42 光ファイバ
44 受光部
46 光源ドライバ
47 信号処理部
48 物理量算出部
50 制御部
62 増幅A/D変換部
64 DFT計算部
65 一時記憶部
66 畳み込み計算部
68 逆DFT計算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ吸収分光法により測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測に用いる信号処理装置およびレーザ計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管路内を流れるガス(気体)を分析する方法として、レーザ光を測定光として用いる方法がある。例えば、特許文献1には、一定電流に重畳された第1の交流成分を有する電流で変調され、温度に応じて波長が変化するレーザ光を発振するレーザと、検知雰囲気通過後のレーザ光の強度を電圧に変換する光強度電圧変換器と、該光強度電圧変換器の出力電圧を位相敏感検波する2つの位相敏感検波器と、一方の位相敏感検波器から得られる1次の位相敏感検波信号と他方の位相敏感検波器から得られる2次の位相敏感検波信号とに基づいて検知雰囲気の濃度を検知するガス検知装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、レーザ光を出射するレーザ素子と、レーザ光を基本波で周波数変調する周波数変調部と、周波数変調されたレーザ光を検出する光検出部と、光検出部にて検出されたレーザ光から基本波成分を検出する基本波成分検出部と、光検出部にて検出されたレーザ光から2倍波成分を検出する2倍波成分検出部と、光検出部にて検出された基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいて測定対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出部と、を有するガス濃度測定装置が記載されている。また、当該ガス濃度測定装置は、レーザ光から検出された基本波成分と2倍波成分との振幅比を算出する振幅比算出部と、基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいてレーザ素子の温度を設定する温度設定部と、吸収ピーク波長からシフトされた波長を基準とする波長変調を行った時の基本波成分と2倍波成分との振幅比に基づいてレーザ素子の駆動電流を制御する駆動電流制御部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2796649号明細書
【特許文献2】特開2008−147557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載されているように、測定光として波長変調を行いつつ出力したレーザ光を用い、当該レーザ光の吸収を計測することで、測定対象物質の濃度等の物理量を計測することができる。レーザ光を用いてガス濃度を計測することで高い応答性でガス濃度を計測することができる。
【0006】
ここで、受光部がレーザ光を受光して生成する受光信号には、種々のノイズが含まれる。そのため、受光信号からノイズを除去し、必要な成分(例えば波長変調を行う変調周波数に対応する信号成分)を抽出するために各種信号処理を行う。この信号処理としては、ロックインアンプで、ロックイン処理およびローパス処理を行い特定のスペクトル信号を抽出する方法がある。しかしながら、検出対象の信号はノイズに対して出力が小さいため、高精度な検出を行う場合は、ロックインアンプによる処理前にFIRフィルタ等を設け、ロックインアンプの処理対象の周波数成分を抽出する、つまりロックインアンプの処理対象の周波数以外の周波数成分を低減させる処理を行う。
【0007】
ここで、FIRフィルタを用いた処理では、直前の多数(例えば1024次)のデータを用いて特定の周波数成分を抽出する。このように、FIRフィルタは、受光信号から対象の成分を抽出するために、直前の多数の検出結果を記憶・処理して検出した値を使用する。このため、記憶・処理する計算量が多く計算負荷が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、少ない計算量かつ簡単な装置構成で受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができる信号処理装置およびレーザ計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、流体が流れる計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記計測セルに入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、を有し、前記受光信号に基づいて前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測装置に適用され、前記受光部が受光した受光信号を処理し、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量の算出に用いるスペクトル信号を出力する信号処理装置であって、前記受光信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記A/D変換部で変換された前記受光信号の1フレーム分のデジタルデータを取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、前記変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれで離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform)し、前記指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれでDFT成分を算出するDFT計算部と、DFT計算部で算出した前記DFT成分に対して畳み込み計算する畳み込み計算部と、前記畳み込み計算部で計算した結果に対し逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する逆DFT計算部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記ステップ周波数は、前記受光信号の検出間隔と1フレーム分の個数との乗算で算出される周波数であることが好ましい。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明はレーザ計測装置であって、上記のいずれかに記載の信号処理装置と、流体を流す流路と連結可能な主管、前記主管に連結し、光が通過可能な窓部が形成された入射部、前記主管に連結し光が通過可能な窓部が形成された出射部と、を含む計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記入射部に入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、前記スペクトル信号に基づいて、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出する物理量算出部と、各部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、前記発光部は、変調周波数よりも低い周波数の掃引周波数で波長を掃引しつつレーザ光出力することが好ましい。
【0013】
また、前記DFT計算部は、前記掃引周波数の1周期分のデジタルデータを1フレーム分のデータとして取得することが好ましい。
【0014】
また、前記ステップ周波数は、掃引周波数であることが好ましい。
【0015】
また、前記DFT計算部は、前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数として、ステップ周波数の偶数の整数倍分または奇数の整数倍分異なる周波数のみを用いることが好ましい。
【0016】
また、前記物理量算出部が算出する物理量は、前記測定対象のガスの濃度であることが好ましい。
【0017】
また、前記物理量算出部は、前記発光部から出力したレーザ光の強度と、前記受光部で受光したレーザ光の強度とに基づいて、前記測定対象のガスの濃度を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる信号処理装置およびレーザ計測装置は、少ない計算量かつ簡単な装置構成で受光信号から所望の信号成分を高い精度で検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の信号処理装置を有するレーザ計測装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すレーザ計測装置の信号処理部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図4】図4は、信号処理部の処理を説明するための説明図である。
【図5A】図5Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。
【図5B】図5Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図5C】図5Cは、ロックインアンプを用いて算出したスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図6A】図6Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。
【図6B】図6Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図6C】図6Cは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図6D】図6Dは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7A】図7Aは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7B】図7Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7C】図7Cは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7D】図7Dは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7E】図7Eは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7F】図7Fは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図7G】図7Gは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【図8】図8は、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる信号処理装置およびレーザ計測装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、レーザ計測装置は、流路を流れる種々の気体(ガス)等の流体に含まれる測定対象の物質(ガス、特定の成分)の物理量(濃度、量)を計測することができる。レーザ計測装置は、例えば、ディーゼルエンジンに取付、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる窒素酸化物、硫化酸化物、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア等の濃度等を計測してもよい。なお、測定対象のガスを排出(供給)する装置は、これに限定されず、ガソリンエンジンや、ガスタービン等種々の内燃機関に用いることができる。また、内燃機関を有する装置としては、車両、船舶、発電機等種々の装置が例示される。さらに、レーザ計測装置は、ゴミ焼却炉、ボイラ等の燃焼機器から排出される排ガスに含まれる測定対象の物質の濃度等を計測することもできる。なお、以下の実施形態では、配管を流れる排ガスに含まれる測定物質の濃度を計測する場合として説明する。
【0021】
図1は、本発明の信号処理装置を有するレーザ計測装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。図1に示すようにレーザ計測装置10は、計測セル12と、計測手段14と、を有する。ここで、レーザ計測装置10は、排ガスAが流れる配管6と配管8との間に設けられている。また、排ガスAは、配管6の上流側から供給され、配管6、レーザ計測装置10、配管8を通過し、配管8よりも下流に排出される。なお、配管6の上流側には、排ガスの発生装置(供給装置)が配置されている。
【0022】
計測セル12は、基本的に主管20と、入射管22と、出射管24とを有する。また、入射管22には、窓26が設けられており、出射管24には、窓28が設けられている。主管20は、筒状の管状部材であり、一方の端部が配管6と連結され、他方の端部が配管8と連結されている。つまり、主管20は、排ガスAが流れる流路の一部となる位置に配置されている。これにより、排ガスAは、配管6、主管20、配管8の順に流れる。また、配管6を流れる排ガスAは、基本的に全て主管20を流れる。
【0023】
入射管22は、管状部材であり、一方の端部が主管20に連結されている。また、主管20は、入射管22との連結部が、入射管22の開口(端部の開口)と略同一形状の開口となっている。つまり、入射管22は、主管20と、空気の流通が可能な状態で連結されている。また、入射管22の他方の端部には、窓26が設けられており、窓26により封止されている。なお、窓26は、光を透過する部材、例えば、透明なガラス、樹脂等で構成されている。これにより、入射管22は、窓26が設けられている端部が、空気が流通しない状態で、かつ、光が透過できる状態となる。
【0024】
入射管22は、図1に示すように、窓26側の端部の開口(つまり、窓26により塞がれている開口)の面積と、主管20側の端部(つまり、主管20と連結している部分の開口)の面積とが実質的に同一の円筒形状である。なお、入射管22の形状は円筒形状に限定されず、空気および光を通過させる筒型の形状であればよく、種々の形状とすることができる。例えば、断面が四角、多角形、楕円、非対称曲面となる形状としてもよい。また筒形状の断面の形状、径が位置によって変化する形状でもよい。
【0025】
出射管24は、入射管22と略同一形状の管状部材であり、一方の端部が主管20に連結され、出射管24の他方の端部には、窓28が設けられている。出射管24も、主管20と空気が流通可能な状態で、窓28が設けられている端部が、空気が流通しない状態で、かつ、光が透過できる状態となる。また、出射管24は、中心軸が入射管22の中心軸と略同一となる位置に配置されている。つまり、入射管22と出射管24とは、主管20の対向する位置に配置されている。
【0026】
また、出射管24も、窓28側の端部の開口(つまり、窓28により塞がれている開口)の面積と、主管20側の端部(つまり、主管20と連結している部分の開口)の面積とが実質的に同一の円筒形状である。なお、出射管24も形状は円筒形状に限定されず、空気および光を通過させる筒型の形状であればよく、種々の形状とすることができる。例えば、断面が四角、多角形、楕円、非対称曲面となる形状としてもよい。また筒形状の断面の形状、径が位置によって変化する形状でもよい。なお、出射管24も、後述するパージガスが安定して流れる形状とすることが好ましい。
【0027】
次に、計測手段14は、発光部40と、光ファイバ42と、受光部44と、光源ドライバ46と、信号処理部(信号処理装置)47と、物理量算出部48と、制御部50と、を有する。なお、本実施形態では、信号処理部47と、物理量算出部48と、を別々に設けたが一体で(1つの処理部として)設けてもよい。また、光源ドライバ46と、信号処理部47と、物理量算出部48と、制御部50と、を一体で(1つの処理部として)設けてもよい。
【0028】
発光部40は、所定波長のレーザ光を出力(発光)させる発光素子を有する。なお、発光部40の発光素子は、出力するレーザ光の出力波長(周波数)を所定の波長幅(周波数幅)で変化させることができる発光素子である。発光素子としては、波長可変の半導体レーザ素子(LD:Laser Diode)を用いることができる。発光部40は、測定対象の物質が吸収する近赤外波長域を含む波長域のレーザ光を出力する。例えば、計測対象が一酸化窒素の場合、発光部40は、一酸化窒素を吸収する近赤外波長域を含む波長域のレーザ光を出力する。また、計測対象が二酸化窒素の場合、発光部40は、二酸化窒素を吸収する近赤外波長域の波長域を含むレーザ光を出力する。また、計測対象が亜酸化窒素の場合、発光部40は、亜酸化窒素を吸収する近赤外波長域の波長域を含むレーザ光を出力する。なお、測定対象が複数の物質である場合、発光部40は、夫々の物質が吸収する波長域の光を発光する発光素子を複数備え、それぞれの波長域の光を出力するようにしてもよい。光ファイバ42は、発光部40から出力されたレーザ光を案内し、窓26から計測セル12内に入射させる。
【0029】
受光部44は、計測セル12の主管20の内部を通過し、出射管24の窓28から出力されたレーザ光を受光する受光部である。なお、受光部44は、例えば、フォトダイオード(PD、Photodiode)等の光検出器を備え、光検出器によってレーザ光を受光し、その光の強度を検出する。受光部44は、受光したレーザ光の強度(光量)を受光信号として、信号処理部47に送る。
【0030】
光源ドライバ46は、発光部40を駆動する機能を有し、発光部40に供給する電流、電圧を調整することで、発光部40から出力されるレーザ光の波長、強度を調整する。光源ドライバ46は、発振器であり、電流、電圧を所定の波形で発光部40に供給することで時間により波長が変化するレーザ光を出力させる。本実施形態の光源ドライバ46は、設定された変調周波数(例えば、100kHz、150kHz)でレーザ光の波長を振動させ、変調周波数よりも低い周波数である掃引周波数(0.1kHz、1kHz)でレーザ光の波長を掃引する。これにより、発光部40から出力されるレーザ光は、変調周波数で振動する振動の中心が、掃引周波数に基づいて変化するレーザ光となる。光源ドライバ46は、制御部50を介して物理量算出部48に、発光部40から出力しているレーザ光の強度の情報を出力する。
【0031】
信号処理部47は、受光部44がレーザ光を受光することで生成した信号(受光信号)を処理する。具体的には、信号処理部47は、受光信号に含まれるノイズ成分を除去し、発光部40から出力され受光部44に到達したレーザ光の成分を抽出する。なお、抽出して生成される信号を以下スペクトル信号という。また、信号処理部47の処理については後述する。
【0032】
物理量算出部48は、信号処理部47から出力されたスペクトル信号に基づいて、計測セル12を流れる排ガスの濃度を算出する。物理量算出部48は、信号処理部47から出力されたスペクトル信号と、制御部50により光源ドライバ46を駆動させている条件とに基づいて、計測対象の物質の濃度を算出する。具体的には、物理量算出部48は、制御部50により光源ドライバ46を駆動させている条件に基づいて発光部40から出力されるレーザ光の強度を算出し、信号処理部47で生成されたスペクトル信号に基づいて受光したレーザ光の強度を算出する。物理量算出部48は、この発光したレーザ光の強度と受光したレーザ光の強度と比較し、排ガスAに含まれる測定対象の物質の濃度を算出する。
【0033】
具体的には、発光部40から出力された近赤外の波長域のレーザ光Lは、光ファイバ42から計測セル12の所定経路、具体的には、窓26、入射管22、主管20、出射管24、窓28を通過した後、受光部44に到達する。このとき、計測セル12内の排ガスA中に測定対象の物質が含まれていると、計測セル12を通過するレーザ光Lが吸収される。そのため、レーザ光Lは、排ガスA中の測定対象の物質の濃度によって、受光部44に到達するレーザ光の出力が変化する。受光部44は、受光したレーザ光を受光信号に変換する。受光部44で生成された受光信号は、信号処理部47で処理されスペクトル信号として物理量算出部48に入力される。また、制御部50および光源ドライバ46は、発光部40から出力したレーザ光Lの強度を物理量算出部48に出力する。物理量算出部48は、発光部40から出力した光の強度と、スペクトル信号から算出される強度とを比較し、その減少割合から計測セル12内を流れる排ガスAの測定対象の物質の濃度を算出する。このように計測手段14は、いわゆるTDLAS方式(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy:可変波長ダイオードレーザー分光法)を用いることで、出力したレーザ光の強度と、受光部44で検出した受光信号とに基づいて主管20内の所定位置、つまり、測定位置を通過する排ガスA中の測定対象の物質の濃度を、算出および/または計測することができる。また、計測手段14は、連続的に測定対象の物質の濃度を、算出および/または計測することができる。なお、レーザ計測装置10は、発光部40から出力されるレーザ光の強度を一定として、スペクトル信号のみ基づいて排ガスAに含まれる測定対象の物質の濃度を算出してもよい。
【0034】
制御部50は、各部の動作を制御する制御機能を有し、必要に応じて、各部の動作を制御する。なお、制御部50は、計測手段14の制御のみならず、レーザ計測装置10の全体の動作を制御する。つまり、制御部50は、レーザ計測装置10の動作を制御する制御部である。
【0035】
次に、レーザ計測装置10の信号処理部47の構成を説明し、信号処理部47による受光信号の処理について説明する。ここで、図2は、図1に示すレーザ計測装置の信号処理部の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、信号処理部47は、受光部44から送られた受光信号を処理してスペクトル信号を生成し、生成したスペクトル信号を物理量算出部48に送る。信号処理部47は、増幅A/D変換部(増幅アナログデジタル変換部)62と、DFT(Discrete Fourier Transform)計算部64と、一時記憶部65と、畳み込み計算部66と、逆DFT(Discrete Fourier Transform)計算部68と、を有する。
【0036】
増幅A/D変換部62は、アナログの受光信号をデジタルの受光信号に変換し、さらにその出力を増幅する。増幅A/D変換部62は、増幅したデジタルの受光信号をDFT計算部64に送る。
【0037】
DFT計算部64は、増幅A/D変換部62で変換された前記受光信号のデジタルデータを1フレーム分取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、離散フーリエ変換(DFT、Discrete Fourier Transform)し、変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および当該指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれについてのDFT成分(フーリエ係数)を算出する。なお、ステップ周波数とは、予め設定した数値であり、DFTおよび後述する畳み込み処理に用いる周波数成分の間隔を決定する値である。つまり、指定周波数をαとし、ステップ周波数をβとし、nを0以上の整数とした場合、DFT成分を算出する周波数は、α±nβとなる。なお、nの最大値は、設定により調整することができる値である。
【0038】
これにより、DFT計算部64は、離散フーリエ変換により1フレーム分のデジタルデータから指定周波数のDFT成分(フーリエ係数)を算出しかつ指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれのDFT成分(フーリエ係数)を算出する。このようにDFT計算部64は、デジタルの受光信号であるf(t)に対して離散フーリエ変換を行い、指定周波数を中心とした各周波数のDFT成分F(ω)を算出する。なお、DFT成分F(ω)のωはα±nβである。また、参照正弦波(指定周波数の正弦波)の信号であるg(t)に対して離散フーリエ変換を行い、参照正弦波のDFT成分G(ω)を算出する。なお、G(ω)は予め算出しておき、畳み込み計算部66に設定しておいてもよい。また、DFT計算部64は、畳み込み計算部68で必要となるため、指定周波数及び指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数に対応するマイナス周波数のDFT成分(F(ω)、G(ω))も算出する。なお、離散フーリエ変換では、マイナス周波数のDFT成分はF(−k)=F*(k)となるため、正周波数の複素共役で算出することができる。
【0039】
一時記憶部65は、DFT計算部64で算出された算出結果(各周波数におけるDFT成分)を記憶する記憶部である。なお、一時記憶部65は、畳み込み計算部66の必要な算出結果を一時的に記憶するバッファとして機能する。一時記憶部65は、DFT計算部64により算出された算出結果が書き込まれ、畳み込み計算部66により記憶した算出結果が読み出される。また、一時記憶部65に記憶された算出結果は、自身、DFT計算部64または畳み込み計算部66により上書き処理や削除処理により順次一時記憶部65から消去される。
【0040】
畳み込み計算部66は、一時記憶部65に記憶されたDFT算出部64で算出したDFT成分に対して畳み込み計算する。具体的には、一時記憶部65に記憶した指定周波数を中心とした各周波数のDFT成分F(ω)と、参照正弦波のDFT成分G(ω)とを用いて、下記式(1)の畳み込み計算を実行する。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、(式1)の畳み込み計算は、下記式(2)に示すように展開することができる。本実施形態のΔはステップ周波数の整数倍の値nβ(なおnは0を含む)である。
【0043】
【数2】
【0044】
ここで、本実施形態の畳み込み計算において、G(f)はfの絶対値が指定周波数である正負の2周波数の場合以外に値が0となる。このため、(式2)の畳み込み計算で計算する対象は、指定周波数fと−fの周波数成分となる。また、Δはステップ周波数の整数倍の値nβであるため、2n+1個のΔに対して各1個のH(Δ)が算出される。
【0045】
以下、具体例を用いて、信号処理部47の畳み込み処理を説明する。ここで、図3および図4は、それぞれ信号処理部の処理を説明するための説明図である。なお、図3は、受光信号(LD信号)を離散フーリエ変換した結果F(ω)と、参照正弦波を離散フーリエ変換した結果G(ω)を示す説明図である。また、図3は、縦軸が強度(大きさ)であり、横軸が周波数軸である。
【0046】
図3および図4に示す具体例では、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、整数倍の係数nの最大値を2とした。また、サンプリング周波数は4MHzでありサンプリング周期Δtは2.5E−7秒である。また、1/2Δtは、サンプリング周波数の半分の値(周波数)に相当する。なお、レーザ計測装置10は、変調周波数を125kHzとし、掃引周波数を1kHzとしてレーザ光を出力した。以上の条件で、受光信号(LD信号)を離散フーリエ変換すると、F(ω)として、図3に示すように、変調周波数125kHzの倍の周波数である250kHzの周辺(周波数248kHzから252kHz)に出力92が算出される。また、畳み込み計算で必要となる、対応するマイナス周波数(周波数−252kHzから−248kHz)の出力94も算出される。また、同様に、参照正弦波を離散フーリエ変換すると、G(ω)は、図3に示すように、参照正弦波の周波数である250kHzの周辺に出力96が算出される。また、離散フーリエ変換では、対応するマイナス周波数の出力98も算出される。
【0047】
畳み込み計算部66は、図3に示すように算出することができるF(ω)のうち、変調周波数を2倍した指定周波数250kHz及びその近傍の成分を解析対象とする。なお、畳み込み計算では、指定周波数に対応するマイナス周波数も必要となるため、周波数−250kHz及びその近傍の成分も解析対象とする。つまり、畳み込み計算部66は、領域100に囲われた出力成分から必要なDFT成分を出力する。ここで、本実施形態では、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、整数倍の係数nの最大値が2であるため、H(Δ)の算出には、F(±248)、F(±249)、F(±250)、F(±251)、F(±252)と、G(±250)と、を用いる。畳み込み計算部66は、上記DFT成分を用いて、Δ=0、±1、±2kHzのH(Δ)を算出する。つまり、H(−2)、H(−1)、H(0)、H(1)、H(2)を算出する。例えば、H(0)は、下記式(3)を用いて、算出する。
【0048】
【数3】
【0049】
つまり、図4に示すように、Δ=0の場合は、F(250)の成分とG(−250)の成分とを乗算し、F(−250)の成分とG(250)の成分とを乗算して算出する。また、この算出した結果を合計することで、H(0)を算出する。また、H(1)は、下記式(4)を用いて、算出する。
【0050】
【数4】
【0051】
図4に示すように、Δ=1の場合は、F(251)の成分とG(−250)の成分とを乗算し、F(−249)の成分とG(250)の成分とを乗算して算出する。また、この算出した結果を合計することで、H(1)を算出する。また、H(−1)は、下記式(5)の計算式で算出する。
【0052】
【数5】
【0053】
さらに、式は示さないがH(2)、(−2)も同様に上記式(2)を用いて計算を行う。畳み込み計算部66は、以上のようにして、条件に基づいて、複数のDFT成分のH(Δ)を算出する。
【0054】
逆DFT計算部68は、畳み込み計算部66で計算した結果に対し、逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する。具体的には、逆DFT計算部68は、畳み込み計算部66で畳み込み計算されて算出されたDFT成分のH(Δ)と、周波数Δの正弦波の数値生成ルーチンを用いて、逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号(所定のスペクトル成分を抽出した信号)を出力する。
【0055】
次に、具体的な処理例について説明する。ここで、図5Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。図5Bは、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。図5Cは、ロックインアンプを用いて算出したスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。なお、図5Aから図5Cは、ともに縦軸を強度とし、横軸を時間とした。なお、図5Aは、縦軸の強度が受光信号の強度であり、図5Bおよび図5Cは、縦軸の強度が算出されたスペクトル信号の強度である。また、図5Aおよび図5Cは、横軸の時間の単位がmsであり、図5Bは、横軸の時間の単位がsである。ここで、レーザ計測装置10は、図5Aから図5Cに示す計測において、変調周波数を125kHzとし、掃引周波数を1kHzとして発光部40からレーザ光を出力した。この条件で、発光部40から出力された測定対象の排ガスを通過したレーザ光の受光信号は、図5Aに示す波形となる。図5に示すように、レーザ光は、掃引周波数が1kHzであるため、1msを1周期として受光強度が大きく振幅し、さらに、変調周波数が125kHzであるため、0.008msを1周期として掃引周波数による振幅よりも小さい振幅で受光強度が振動している。なお、レーザ光の波長(周波数)と強度とは相関関係がある。
【0056】
具体例のレーザ計測装置10は、図5Aに示す受光信号を上述した図3および図4と同様の条件、つまり、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、整数倍の係数nの最大値を31で処理し、スペクトル信号を出力した。出力したスペクトル信号を図5Bに示す。また、比較のために、図5Aに示す受光信号を従来のロックインアンプを用いた方式で処理し、出力したスペクトル信号を図5Cに示す。なお、図5Cに示す計測結果は、参照正弦波の周波数を250kHzとして算出した。
【0057】
図5Bおよび図5Cに示すように、本実施形態のレーザ計測装置10を用いた場合でも、従来のロックインアンプを用いた方式と同様の波形を検出することができる。また、検出対象の成分を限定しているため、検出結果の波形の振動も抑制することができる。なお、スペクトル信号の出力と測定対象の物質の濃度との関係は、装置の使用前に対応関係を算出する試験を行うことで、対応付ける。また、検出強度の絶対値は、出力強度等を調整することで調整することもできる。
【0058】
このように、レーザ計測装置10は、デジタル化した受光信号に離散フーリエ変換処理を行い、変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれのDFT成分を算出し、そのDFT成分と、参照正弦波(指定周波数の正弦波)のDFT成分とで、畳み込み処理を行い、その算出結果に逆離散フーリエ変換処理を行ってスペクトル信号を算出(検出)することで、少ない計算量で受光信号から吸収スペクトルの信号成分を抽出することができる。つまり、レーザ計測装置10は、少ない計算量で、測定対象の物質の物理量の算出に必要な信号成分を抽出することができる。必要な計算が少なくなり、計算対象も少なくなるため、信号処理部47の構成も簡単にすることができるため、装置構成を簡単にすることができ、制御基板(制御回路)の構成も簡単にすることができる。
【0059】
具体的には、比較例で用いたロックインアンプを用いた信号処理では、FIRフィルタで1つの信号の処理を行うために直前の多数のフレーム分のデータを記憶・処理して移動平均を算出する必要がある。これに対して、本実施形態は、1フレーム分のデータに対して離散フーリエ変換を行い、設定された周波数毎のDFT成分(フーリエ係数)を算出し、算出した複数のDFT成分を組み合わせ計算する畳み込み処理を行い、その結果を逆離散フーリエ変換することで、スペクトル信号を算出することができる。これにより、計算量を少なくすることができ、かつ、処理対象の信号成分が飛躍的に少なくすることができる。
【0060】
また、DFT計算部64は、離散フーリエ変換で必要な周波数のDFT成分のみを算出すればよいため、離散フーリエ変換の計算量も少なくすることができる。また、測定対象の周波数およびその周辺の周波数成分のスペクトル信号を抽出すればよいため、1つの指定周波数およびその周辺の周波数(ステップ周波数の整数倍分ずれた周波数)に対して、離散フーリエ変換および畳み込み処理を行えばよい。このため、処理対象の周波数成分を絞り込むことができ、計算量の増加も抑制できる。なお、上記実施形態では、一例として、指定周波数として変調周波数の2倍の周波数としたが、これに限定されない。指定周波数は、変調周波数の整数倍の周波数を用いることができる。なお、指定周波数は、本実施形態のように、変調周波数の2倍の周波数とすることが好ましい。これにより、測定対象の物質による光の吸収で生じる強度の変動をより大きい値で検出することができる。つまり、スペクトル信号をより大きい値(S/N比が高い値)で検出することができる。
【0061】
次に、図6を用いて、レーザ計測装置10の信号処理部47の処理の他の実施形態について説明する。ここで、図6Aは、受光信号の検出波形を示すグラフである。図6Bから図6Dは、それぞれスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。なお、図6Aから図6Dは、ともに縦軸を強度とし、横軸を時間とした。なお、図6Aは、縦軸の強度が受光信号の強度であり、図6Bから図6Dは、縦軸の強度が算出されたスペクトル信号の強度である。また、図6Aから図6Dは、横軸の時間の単位がsである。
【0062】
図6Aから図6Dに示す計測において、レーザ計測装置10は、変調周波数を100kHzとし、掃引周波数を0.1kHzとして発光部40からレーザ光を出力した。この条件で、発光部40から出力され測定対象の排ガスを通過したレーザ光の受光信号は、図6Aに示す波形となる。図6Aに示すように、レーザ光は、掃引周波数が0.1kHzであるため、10msが掃引の1周期となり、さらに、変調周波数が100kHzであるため、0.01msが変調の1周期となる。
【0063】
この図6Aに示す受光信号を、レーザ計測装置10の信号処理部47が、指定周波数を200kHzとし、ステップ周波数を0.1kHzとし、整数倍の係数nの最大値を4とした設定で処理してスペクトル信号を出力した。つまり、200kHzの成分と、200±0.1kHz、200±0.2kHz、200±0.3kHz、200±0.4kHzの成分を用いて、畳み込み処理を行った。出力結果を図6Bに示す。図6Bに示すように、変調周波数が100kHzの場合は、変調周波数を200kHzとすることで上記実施形態と同様に対象の周波数の出力(スペクトル信号)を検出することができる。
【0064】
次に、図6Aに示す受光信号を、レーザ計測装置10の信号処理部47が、指定周波数を200kHzとし、ステップ周波数を0.1kHzとし、整数倍の係数nを、最大値が4でかつ偶数(つまり、整数倍の係数2Nで、かつNの最大値2の整数)とした設定で処理してスペクトル信号を出力した。つまり、200kHzの成分と、200±0.2kHz、200±0.4kHzの成分を用いて、畳み込み処理を行った。出力結果を図6Cに示す。
【0065】
図6Cに示すように、ステップ周波数を整数倍する係数に偶数のみを用いることで、信号成分に含まれる歪み成分を除去した吸収スペクトル(測定に反応している成分)の強度をスペクトル信号として算出することができる。これにより、所望のスペクトル信号成分の検出精度を維持または向上させることができる。ステップ周波数を整数倍する係数に奇数を用いないことで、計算対象の周波数を少なくすることができる。
【0066】
図6Aに示す受光信号を、レーザ計測装置10の信号処理部47が、指定周波数を200kHzとし、ステップ周波数を0.1kHzとし、整数倍の係数nを、最大値が4でかつ奇数(つまり、整数倍の係数2N−1で、かつNの最大値2の整数)とした設定で処理してスペクトル信号を出力した。つまり、200kHzの成分と、200±0.1kHz、200±0.3kHzの成分を用いて、畳み込み処理を行った。出力結果を図6Dに示す。
【0067】
図6Dに示すように、ステップ周波数を整数倍する係数に奇数のみを用いることで、信号成分に含まれる歪み成分の強度を算出することができる。ここで、歪み成分は、測定対象の物質の吸収の影響を受けない。このため、レーザ計測装置10は、歪み成分を装置の補正処理、キャリブレーション等に用いることができる。レーザ計測装置10は、信号処理部47でステップ周波数を整数倍する係数に奇数のみを用いることで、信号成分に含まれる歪み成分の強度を算出し、その結果と基準値等を比較し、各種条件を調整することで、計測精度をより向上させることができる。なお、レーザ計測装置10は、ステップ周波数を整数倍する係数に奇数のみを用いるモードと、ステップ周波数を整数倍する係数に偶数のみ(または全ての整数)を用いるモードと、を切り換えるまたは2つのモードを並列で処理することで、補正処理と、濃度の計測処理の両方を行うことができる。
【0068】
また、信号処理部47の処理対象の周波数、つまり、指定周波数をαとし、ステップ周波数をβとし、nを0以上の整数とした場合のα±nβに用いるnの最大値は任意の値とすることができる。つまり、畳み込み処理に用いるDFT成分の数は、2n+1個数とすることができる。ここで、図7Aから図7Gは、それぞれスペクトル信号の出力波形を示すグラフである。図7Aから図7Gは、それぞれ縦軸の強度が算出されたスペクトル信号の強度であり、横軸が単位をsの時間である。なお、図7Aから図7Gは、図5Aに示す受光信号を、nの最大値をそれぞれの値として信号処理部47で処理した結果を示すグラフである。また、図7Aから図7Gは、指定周波数を250kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、係数nとして偶数のみを用いて計算を実行した結果である。
【0069】
ここで、図7Aは、解析対象の周波数を、偶数次の5点(指定周波数とその周辺のステップ周波数の整数倍分ずれた4つの周波数)、つまり±250±2N(Nは2以下の整数)kHzとした場合の出力である。したがって、図7Aは、±246kHz、±248kHz、±250kHz、±252kHz、±254kHzの5つの周波数を解析対象としている。また、図7Bは、解析対象の周波数を偶数次の7点、つまり±250±2N(Nは3以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Cは、解析対象の周波数を偶数次の9点、つまり±250±2N(Nは4以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Dは、解析対象の周波数を偶数次の11点、つまり±250±2N(Nは5以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Eは、解析対象の周波数を偶数次の15点、つまり±250±2N(Nは7以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Fは、解析対象の周波数を偶数次の21点、つまり±250±2N(Nは10以下の整数)kHzとした場合の出力である。図7Gは、解析対象の周波数を偶数次の31点、つまり±250±2N(Nは15以下の整数)kHzとした場合の出力である。
【0070】
図7Aから図7Gに示すように、解析対象の周波数の個数を種々の設定とすることで、種々のスペクトル信号を検出することができる。またいずれのスペクトル信号としても、スペクトル信号の最大値と最小値に基づいて吸収により生じるスペクトル変化を検出することができるため、好適に測定対象物質の濃度を計測することができる。なお、レーザ計測装置10は、解析対象の周波数の個数を増加させることで、ロックインアンプのローパスフィルタのカットオフ周波数を増加させることと同様の効果を得ることができる。
【0071】
また、上述したように、指定周波数は、変調周波数の整数倍の種々の値とすることができる。ここで、図8は、スペクトル信号の出力波形を示すグラフである。図8は、縦軸が出力であり、横軸が単位をsとした時間である。なお、図8は、図5Aに示す受光信号を、指定周波数を500kHzとし、ステップ周波数を1kHzとし、係数nとして偶数のみを用いて計算を実行した結果である。また、図8は、解析対象の周波数を偶数次の31点としている。図8に示すように、指定周波数として、変調周波数の4倍の周波数を用いても、変調周波数に含まれる吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。なお、指定周波数として、変調周波数の4倍の周波数を用いて解析を行うとスペクトルの4次微分波形が検出される。このように変調周波数の2倍以外の周波数を用いることで、変調周波数の2倍の周波数にノイズ成分がある場合も吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。また、変調周波数の4倍等、2倍より周波数の高い周波数は、信号強度が小さいため吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)を検出しにくいが、レーザ計測装置10は、対象のスペクトルを高精度に検出できるため好適に吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)を検出することができる。
【0072】
また、レーザ計測装置10は、本実施形態のようにステップ周波数を、掃引周波数と同一周波数とすることが好ましい。ステップ周波数を掃引周波数と同一とすることで、より好適に変調周波数に含まれる吸収スペクトル(検出対象のスペクトル)の変化を検出することができる。
【0073】
なお、ステップ周波数は、受光信号の検出間隔と1フレーム分の個数との乗算で算出される周波数とすることが好ましい。つまり、ステップ周波数は、1フレーム分の受光信号を取得するのに要する時間が1周期となる周波数とすることが好ましい。1フレームが4000点で、受光信号の検出間隔(サンプリング周期)が4MHzの場合は、ステップ周波数を1kHzとすることが好ましい。これにより、スペクトル信号をより高精度で検出することができる。
【0074】
また、レーザ計測装置10は、掃引周波数の1周期で取得できるデータ数の整数倍を、受光信号の1フレーム分のデータ数とすることが好ましい。これにより、掃引周波数で波長を掃引している場合により高い精度でスペクトル信号を検出することができる。
【符号の説明】
【0075】
6、8 配管
10 レーザ計測装置
12 計測セル
14 計測手段
20 主管
22 入射管
24 出射管
26、28 窓
40 発光部
42 光ファイバ
44 受光部
46 光源ドライバ
47 信号処理部
48 物理量算出部
50 制御部
62 増幅A/D変換部
64 DFT計算部
65 一時記憶部
66 畳み込み計算部
68 逆DFT計算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記計測セルに入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、を有し、前記受光信号に基づいて前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測装置に適用され、
前記受光部が受光した受光信号を処理し、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量の算出に用いるスペクトル信号を出力する信号処理装置であって、
前記受光信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部で変換された前記受光信号の1フレーム分のデジタルデータを取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、前記変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれで離散フーリエ変換し、前記指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれでDFT成分を算出するDFT計算部と、
DFT計算部で算出した前記DFT成分に対して畳み込み計算する畳み込み計算部と、
前記畳み込み計算部で計算した結果に対し逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する逆DFT計算部と、を含むことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記ステップ周波数は、前記受光信号の検出間隔と1フレーム分の個数との乗算で算出される周波数であることを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の信号処理装置と、
流体を流す流路と連結可能な主管、前記主管に連結し、光が通過可能な窓部が形成された入射部、前記主管に連結し光が通過可能な窓部が形成された出射部と、を含む計測セルと、
測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記入射部に入射させる発光部と、
前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、
前記スペクトル信号に基づいて、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出する物理量算出部と、
各部の動作を制御する制御部と、を有する
ことを特徴とするレーザ計測装置。
【請求項4】
前記発光部は、変調周波数よりも低い周波数の掃引周波数で波長を掃引しつつレーザ光出力することを特徴とする請求項3に記載のレーザ計測装置。
【請求項5】
前記DFT計算部は、前記掃引周波数の1周期分のデジタルデータを1フレーム分のデータとして取得することを特徴とする請求項4に記載のレーザ計測装置。
【請求項6】
前記ステップ周波数は、掃引周波数であることを特徴とする請求項4または5に記載のレーザ計測装置。
【請求項7】
前記DFT計算部は、前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数として、ステップ周波数の偶数の整数倍分または奇数の整数倍分異なる周波数のみを用いることを特徴とする請求項6に記載のレーザ計測装置。
【請求項8】
前記物理量算出部が算出する物理量は、前記測定対象のガスの濃度であることを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載のレーザ計測装置。
【請求項9】
前記物理量算出部は、前記発光部から出力したレーザ光の強度と、前記受光部で受光したレーザ光の強度とに基づいて、前記測定対象のガスの濃度を算出することを特徴とする請求項8に記載のレーザ計測装置。
【請求項1】
流体が流れる計測セルと、測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記計測セルに入射させる発光部と、前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、を有し、前記受光信号に基づいて前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出するレーザ計測装置に適用され、
前記受光部が受光した受光信号を処理し、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量の算出に用いるスペクトル信号を出力する信号処理装置であって、
前記受光信号をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部で変換された前記受光信号の1フレーム分のデジタルデータを取得し、取得した1フレーム分のデジタルデータを、前記変調周波数を整数倍した周波数である指定周波数および前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれで離散フーリエ変換し、前記指定周波数および指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数のそれぞれでDFT成分を算出するDFT計算部と、
DFT計算部で算出した前記DFT成分に対して畳み込み計算する畳み込み計算部と、
前記畳み込み計算部で計算した結果に対し逆離散フーリエ変換を行い、スペクトル信号を生成する逆DFT計算部と、を含むことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記ステップ周波数は、前記受光信号の検出間隔と1フレーム分の個数との乗算で算出される周波数であることを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の信号処理装置と、
流体を流す流路と連結可能な主管、前記主管に連結し、光が通過可能な窓部が形成された入射部、前記主管に連結し光が通過可能な窓部が形成された出射部と、を含む計測セルと、
測定対象のガスに固有な吸収波長を含む波長域のレーザ光を変調周波数で波長を変調しつつ出力し、前記入射部に入射させる発光部と、
前記入射部から入射され、前記計測セルを通過し、前記出射部から出射された前記レーザ光を受光し、受光した光量を受光信号として出力する受光部と、
前記スペクトル信号に基づいて、前記計測セルを流れる測定対象のガスの物理量を算出する物理量算出部と、
各部の動作を制御する制御部と、を有する
ことを特徴とするレーザ計測装置。
【請求項4】
前記発光部は、変調周波数よりも低い周波数の掃引周波数で波長を掃引しつつレーザ光出力することを特徴とする請求項3に記載のレーザ計測装置。
【請求項5】
前記DFT計算部は、前記掃引周波数の1周期分のデジタルデータを1フレーム分のデータとして取得することを特徴とする請求項4に記載のレーザ計測装置。
【請求項6】
前記ステップ周波数は、掃引周波数であることを特徴とする請求項4または5に記載のレーザ計測装置。
【請求項7】
前記DFT計算部は、前記指定周波数を中心として周波数がステップ周波数の整数倍分異なる周波数として、ステップ周波数の偶数の整数倍分または奇数の整数倍分異なる周波数のみを用いることを特徴とする請求項6に記載のレーザ計測装置。
【請求項8】
前記物理量算出部が算出する物理量は、前記測定対象のガスの濃度であることを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載のレーザ計測装置。
【請求項9】
前記物理量算出部は、前記発光部から出力したレーザ光の強度と、前記受光部で受光したレーザ光の強度とに基づいて、前記測定対象のガスの濃度を算出することを特徴とする請求項8に記載のレーザ計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図8】
【公開番号】特開2012−177613(P2012−177613A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40515(P2011−40515)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(595107944)株式会社ローラン (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(595107944)株式会社ローラン (8)
【Fターム(参考)】
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