説明

信号測定装置及び方法

【課題】時分割・同期・符号分割多重方式で通信を行う移動端末機からの信号の送信タイミングを測定し、この測定結果をグラフ表示する。
【解決手段】測定対象となる移動端末機20の送信タイミングを制御するタイミング制御命令を移動端末機20に対して送信する送信部13と、タイミング制御命令に応じて送信された移動端末機20からの信号の送信タイミングを測定する測定部16と、測定部16で測定した送信タイミングを時系列的に連続して並べたグラフや判定部17からの判定結果を表示部19に表示する表示制御部18とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信方式として時分割・同期・符号分割多重方式を採用する携帯電話機などの移動端末機の送信タイミングを測定し、この測定結果に基づき移動端末機の動作の良否を判定した結果を表示する信号測定装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多数のユーザが同時に通信できるよう1つの周波数帯域を複数のユーザで効率的に共用する通信方式であるCDMA(Code Division Multiple Access )方式が知られている。そして、CDMA方式では、複数の移動端末機が1つの基地局を使用する際に遠近問題が生じることがあるため、基地局から移動端末機の送信電力をスロット単位で高速に制御する機能であるクローズドループパワーコントロール(ClosedLoop Power Control:以下CLPCと記す)が用いられている。
【0003】
このCLPCでは、基地局が移動端末機から受けた信号を測定し、この測定結果に基づいて移動端末機の送信電力の増減をダウンリンクのフレームに含まれるTPC(Transmitter Power Control )により移動端末機に対して指示し、この指示を応じて信号を増減させて出力するように移動端末機の送信電力をアップリンクのスロット単位で制御している。そして、このようなCLPC機能の試験を行う移動端末機送信パワー測定装置としては、例えば下記特許文献1に開示されるものが公知である。
【0004】
図11は、下記特許文献1に記載された移動端末機送信パワー測定装置の概略ブロック図である。移動端末機送信パワー測定装置101の接続端子101aは、方向性結合器102を介して測定対象となる移動端末機103とコード接続されており、この移動端末機103に対して送信要求する送信パワー変化数、送信パワー変化量を設定するパワーコントロール設定手段104と、パワーコントロール設定手段104からの設定情報に基づき移動端末機103から送信させる送信パワー変化数及び送信パワー変化量の設定を制御する制御部105と、制御部105によって制御された送信パワー変化数及び送信パワー変化量に対応した送信要求信号を出力するパワーコントロール要求手段106と、パワーコントロール要求手段106からの送信要求信号を受けたときに、各送信スロット中のTPCのビット情報によって送信パワーがアップ・ダウン、現状維持の何れかに制御されて移動端末機103に送信する送信手段107と、パワーコントロール要求手段106による送信要求に伴う送信手段107からの送信に応じて移動端末機103から送信される送信パワーを受信する受信手段108と、受信手段108で受信した信号をディジタル信号に変換するA/D変換器109と、A/D変換器109から出力される移動端末機103からの送信信号の波形データを記憶するメモリ110と、メモリ110に記憶された波形データから移動端末機103のスロットを検出するスロット検出手段111aと、スロット検出手段111aによって検出された各スロットの電力及びスロット間の電力変化量を検出するスロット電力検出手段111bと、スロット検出手段111a及びスロット電力検出手段111bによって検出されたスロットの数、各スロットの電力及びスロット間の電力変化量を記憶する解析結果メモリ111cと、解析結果メモリ111cに記憶された情報とパワーコントロール設定手段104の設定情報を比較し、スロットの個数が一致したときには、各スロット毎の電力の比較及びスロット間の電力の変化量を比較して移動端末機103の動作判定を行なう判定手段112と、解析結果メモリ111cに記憶された内容及び判定手段112の判定結果を表示器114に表示させる表示制御回路113とを備えている。
【0005】
ところで、携帯電話などの移動端末機の通信方式として、第3世代(3G)携帯電話システムの一つであり、中国国内で使うために作られた独自仕様のTD−SCDMA(Time Division-Synchronous Code Division Multiple Access :時分割・同期・符号分割多重アクセス)方式が知られている。通常のCDMA方式では別の周波数帯域を利用する上りと下りのチャネルを、このTD−SCDMA方式では同一周波数を使用して一本化しており、端末から基地局への上りの通信品質を確保するため、無線フレームを送る基地局配下の全移動端末機の送信タイミングをチップ(Chip)単位(1/8チップ)で同期化したり、高機能アンテナといった技術を利用して、CDMA技術と上りと下りを時分割で細かく切り替えて通信する時分割複信(TDD:Time Division Duplex)技術をミックスして利用する通信方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−46431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、通信方式がCDMA方式である移動端末機の場合は、移動端末機からの測定信号の電力を制御するTPCの測定規格に基づいて、対象となる移動端末機の動作チェックを行う装置(特許文献1の移動端末機送信パワー測定装置など)は知られている。
【0008】
ところで、通信方式がTD−SCDMA方式のような時分割・同期・符号分割多重方式の移動端末機では、1つの周波数をタイムスロットに分割して複数の移動端末機をコード分割して割り当てられ、基地局へのアップリンクの送信タイミングを移動端末機毎にチップ単位(1chip=約0.78μs)で制御して同期させることが不可欠である。
従って、時分割・同期・符号分割多重方式を採用する移動端末機では、測定対象となる移動端末機からのアップリンクの信号の送信タイミングを測定することで、その移動端末機の動作チェックを行うことが好ましいが、現状、この測定における測定規格が確立されていないため、この測定結果によって移動端末機の動作チェックが行える装置の開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、通信方式として時分割・同期・符号分割多重方式を用いる移動端末機の送信タイミングを測定し、この測定結果に基づき移動端末機の動作の良否を判定するとともに、その測定結果を表示することのできる信号測定装置及び方法提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の信号測定装置は、測定対象となる移動端末機20との間で時分割・同期・符号分割多重方式で通信を行い、前記移動端末機からの信号を測定する信号測定装置1であって、
前記移動端末機の送信タイミングを制御するタイミング制御命令を前記移動端末機に対して複数回連続して送信する送信部13と、
前記タイミング制御命令に応じて前記移動端末機から送信された信号の送信タイミングを測定するとともに、前記移動端末機からの信号から前記移動端末機が割り当てられたタイムスロットと、当該タイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングの差を前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量として算出する測定部16と、
前記測定部で測定された測定結果を表示する表示部19と、
前記測定部で算出された前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量を時系列的に連続して並べて前記表示部にグラフ表示する表示制御部18と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の信号測定装置は、請求項1記載の信号測定装置において、前記間隔数を設定するための設定操作部11を備え、前記測定部16は、前記設定操作部で設定された前記間隔数に従って、前記偏移量を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の信号測定装置は、請求項1又は2記載の信号測定装置において、前記測定部16は、前記算出したタイムスロット間の送信タイミングの偏移量から前記規格値の許容誤差範囲の中間値である基準値を差し引いた誤差値を算出し、
前記表示制御部18は、前記測定部で算出された前記誤差値を時系列的に連続して並べて前記表示部19にグラフ表示することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の信号測定装置は、請求項1〜3の何れかに記載の信号測定装置において、
前記測定部16は、前記算出した偏移量を時系列的に表示した場合に、該並べられた偏移量それぞれについて、隣接する1つ前の偏移量との差分を算出し、
前記表示制御部18は、前記測定部で算出された偏移量の差分を時系列的に連続して並べて前記表示部19にグラフ表示することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の信号測定装置は、請求項1〜4の何れかに記載の信号測定装置において、前記移動端末機20に送信するタイミング制御命令は、少なくとも前記移動端末機からの送信タイミングを遅らせるタイミング制御命令と前記移動端末機からの送信タイミングを進ませるタイミング制御命令とを含み、
前記測定部16で測定された前記各タイミング制御命令に対応して前記移動端末機から送信された前記信号の送信タイミングと、前記各命令に対応する規格値とを比較し、当該送信タイミングが前記規格値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する判定部17を備えていることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の信号測定装置は、請求項5記載の信号測定装置において、前記表示制御部18は、前記測定部16で算出された偏移量又は誤差値が正常であるか異常であるかを判定するための前記規格値から得られる規格線を、前記グラフ中に重ねて表示することを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の信号測定装置は、請求項5又は6に記載の信号測定装置において、前記判定部17で判定された前記送信タイミングが前記規格値の許容誤差範囲内に収まっているか否かの判定結果に基づいて、正常と判定された送信タイミングと異常と判定された送信タイミングとを前記グラフ中で識別可能に表示することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の信号測定方法は、測定対象となる移動端末機20との間で時分割・同期・符号分割多重方式で通信を行い、前記移動端末機からの信号を測定する信号測定方法であって、
前記移動端末機からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令又は送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を前記移動端末機に送信して、前記移動端末機からの送信タイミングを基準タイミングに合せるステップと、
前記移動端末機からの送信タイミングを維持するためのタイミング制御命令を複数回連続して前記移動端末機に送信するステップと、
前記移動端末機からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令を複数回連続して前記移動端末機に送信するステップと、
前記移動端末機からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を複数回連続して前記移動端末機に送信するステップと、
前記各命令に対応して前記移動端末機から送信された信号を受信するステップと、
前記受信した信号の送信タイミングを測定するステップと、
前記測定された送信タイミングが設定された規定値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定するステップと、
前記移動端末機からの信号から前記移動端末機が割り当てられたタイムスロットと、当該タイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングの差を前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量として算出するステップと、
前記測定部で算出された前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量を時系列的に連続して並べて表示部19にグラフ表示するステップと、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の信号測定装置によれば、測定対象となる移動端末機に対して送信タイミングを制御するタイミング制御命令を送信し、このタイミング制御命令に対する信号を移動端末機から受信し、この受信した信号の送信タイミングを測定することにより、通信方式として時分割・同期・符号分割多重方式を採用する移動端末機にとって重要な送信タイミングの同期に関する測定が容易に行え、且つその測定結果を把握することができる。
【0019】
また、測定した送信タイミングを時系列的に連続して並べてグラフ表示するとともに、測定した送信タイミングの偏移量や偏移量に基づく誤差値から得られるグラフを任意に選択して所定の表示エリアに表示をすることができるため、オペレータは測定対象である移動端末機の送信タイミングを容易に観測することができる。
【0020】
さらに、表示部に表示された送信タイミングの偏移量に係るグラフ中に、予め設定された規格値から得られる規格線を表示しているため、オペレータはグラフ中で、送信タイミングが正常か異常かを容易に判別することができる。また、送信タイミングに異常が生じている場合に、その該当個所を例えば色分け表示や点滅表示をするなど識別可能に表示しているため、オペレータはさらに異常箇所を確実に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明で使用する移動端末機の通信方式である時分割・同期・符号分割多重方式のフレームフォーマットの説明図である。
【図2】本発明に係る信号測定装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図3】本発明で使用する時分割・同期・符号分割多重方式において送信タイミングを制御するSScommandの規格値を説明するための説明図である。
【図4】同SScommandにおける指令コマンドであるSSbitを説明するための説明図である。
【図5】本発明に係る信号測定装置を構成するスロット抽出手段における処理を説明するための概念図である。
【図6】本発明に係る信号測定装置における測定結果を表示した表示例である。
【図7】本発明に係る信号測定装置における測定結果を表示した別の表示例である。
【図8】本発明に係る信号測定装置における測定結果を表示した別の表示例である。
【図9】本発明に係る信号測定装置における測定結果を表示した別の表示例である。
【図10】本発明に係る信号測定装置の処理動作を説明するためのフローチャート図である。
【図11】従来のパワー測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。また、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者などによりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれる。
【0023】
本例の信号測定装置は、実網として成り代わる疑似基地局装置としての機能を有し、測定対象となる移動端末機との間で時分割・同期・符号分割多重方式で通信を行い、移動端末機からの送信タイミングを制御するためのタイミング制御命令を移動端末機に対して送信し、その命令に対応した信号を移動端末機から受信し、移動端末機から受信した信号の送信タイミングを測定するとともに、この測定結果に基づく表示を行うものである。
【0024】
なお、以下の説明では、移動端末機の通信方式として時分割・同期・符号分割多重方式であるTD−SCDMA(Time Division-Synchronous Code Division Multiple Access )方式を採用した例で説明するが、複数のユーザのアップリンク・ダウンリンクの信号に同一キャリアの周波数チャネルで短く切ったタイムスロットに割り当て、移動端末機からのアップリンクの信号を同期させながらタイムスロットを切り替えて相互伝送する通信方式であれば特に限定はされない。
【0025】
まず、本例の信号測定装置1の測定対象である移動端末機20の通信方式として使用されるTD−SCDMA方式について説明する。TD−SCDMA方式は、CDMA技術と上りと下りを時分割で細かく切り替えて通信する時分割複信(TDD:Time Division Duplex)技術を組み合わせた通信方式である。
【0026】
図1は、TD−SCDMA方式のフレームフォーマットを示している。図示のように、TD−SCDMA方式の信号は、周期的な時間単位によって構成されている。まず、基本的な時間単位を「Radio frame(以下、無線フレームと記す)」と呼び、各無線フレームの長さは10ms(チップレート=1.28Mcps(12800チップ))である。各無線フレームは、長さがそれぞれ5ms(チップレート=6400チップ)となる2つの「Sub−frame(以下、サブフレームと記す)」に分けらている。
【0027】
このサブフレームは、ダウンリンク(基地局から移動端末機20への通信)専用の標準タイムスロット(Time Slot )TS#0、特別スロット、6つの通常タイムスロットであるTS#1〜TS#6(チップレート=864チップ)とに区分され、送信データは通常スロットにおいて伝送する。また、TS#1〜#6のうち、TS#1がアップリンク(移動端末機20から基地局への通信)に割り当てられ、TS#2〜#6はアップ/ダウンリンクに対してフレキシブル(例えばTS#1〜#3までがアップリンク、TS#4〜#6までがダウンリンク)に割り当てることができる。
【0028】
また、3つの特別スロットには、下りパイロットタイムスロット(DwPTS:Downlink Pilot Times Slot 、チップレート=96チップ)と、上りパイロットタイムスロット( UpPTS:Uplink Pilot Times Slot 、チップレート=160チップ)と、DwPTSとUpPTSとの間に接続のマージンを取るためのガードピリオド(GP、チップレート=96チップ)が含まれている。これは、ダウンリンクとアップリンクの周波数同期のためであり、またダウンリンクからアップリンクへのガードギャップを設けるためである。
【0029】
そして、TS#1〜TS#6のうち、ダウンリンク用に使用されるタイムスロットには、図示のようにSS symbol(s)領域が含まれており、このSS symbol(s)領域には、移動端末機20の送信タイミングを1/8チップ(約0.1μs)で制御するタイミング制御命令であるSS(Synchronisation Shift )commandが含まれている。このSScommandは、タイムスロット毎にコード分割された移動端末機20毎に送信され、基地局はこのSScommandを移動端末機20に送信することで、移動端末機20のアップリンクの送信タイミングの進み/遅れを制御して送信タイミングの同期をとっている。
【0030】
次に、図2を参照しながら、本例の信号測定装置の構成について説明する。図2の信号測定装置1は、設定操作部11、制御部12、送信部13、方向性結合器14、受信部15、測定部16、判定部17、表示制御部18、表示部19から構成される。以下、各構成要件について詳細に説明する。
【0031】
図2に示すように、信号測定装置1の接続端子1aは、測定対象となる移動端末機20と同軸ケーブルにより接続可能となっており、方向性結合器14を介して送信部13と受信部15にそれぞれ接続している。なお、移動端末機20は、アンテナを介して信号測定装置1と無線接続する構成としてもよい。
【0032】
設定操作部11は、移動端末機20の送信タイミングを測定するための測定方法(即ち、後述する帰還区間、維持区間、遅れ区間、進み区間の個々の区間において実行される送信タイミングの制御回数や各区間の順番などの測定の仕様)の設定、測定対象となる移動端末機20が割り当てられるサブフレーム中のタイムスロットの設定、移動端末機20の動作確認をする際に送信する未定義のSScommandを送信するStepを実行するための設定、未定義のSScommandを送信する制御回数の設定、特定のタイムスロットとこのタイムスロットから所定間隔離れたタイムスロットの送信タイミングの偏移量を算出するための所定のタイムスロット間隔数(任意の自然数)の設定、図3に示すような移動端末機20に送信するSScommandの規格値(移動端末機20からの信号の送信タイミングの正常な測定範囲を示す値)の設定、表示部19に表示する表示内容の選択、送信タイミング測定試験の開始/停止の指令の他、信号測定装置1の駆動に必要な各種情報の設定や選択を行っている。
【0033】
制御部12は、設定操作部11で設定された測定方法の仕様に基づき、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングを制御するタイミング制御命令であるSScommandを送信するための命令を送信部13に出力している。なお、送信部13への命令の基となる測定方法は、制御部12が備える不図示の記憶手段に記憶される。
また、制御部12は、測定部16からの送信タイミングの測定結果に基づき、予め設定された測定方法の仕様に基づく制御回数だけ実行したか否かを判定している。そして、送信タイミング制御が所定回数実行されたと判定した場合は、設定された測定方法の仕様に基づき、次の処理を行うため命令を送信部13に送信している。
【0034】
また、制御部12は、測定部16からタイムスロットの送信タイミングの測定結果を受けており、この測定結果から測定対象となる移動端末機20が割り当てられたタイムスロット毎に決まる送信タイミング(即ち、疑似基地局である信号測定装置1からみて、移動端末機20が上げてくるべき送信タイミング)の基準となる基準タイミング(target)を設定している。さらに、制御部12は、設定操作部11から未定義のSScommandの制御回数や未定義区間の実行が設定されると、この未定義のSScommandを移動端末機20に対して送信するための命令を送信部13に送信している。
【0035】
また、制御部12は、測定部16に測定開始を知らせる信号を出力するとともに、測定終了を知らせる信号を出力する制御、受信部15に対する受信周波数を設定する制御、設定操作部11で設定された規格値,タイムスロットの間隔数,規格値から得られる基準値(規格値の許容誤差範囲の中間値)などを測定部16,判定部17,表示制御部18に出力する制御、選択された表示内容を表示制御部18へ出力する制御の他、信号測定装置1を構成する各部の制御を行っている。
【0036】
なお、制御部12から送信部13に送信される命令は、移動端末機20からの送信タイミングを基準タイミングに合せるべく移動端末機20からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令又は移動端末機20からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を送信する命令、移動端末機20からの送信タイミングを維持するためのタイミング制御命令を送信する命令、移動端末機20からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令を送信する命令、移動端末機20からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を送信する命令であり、設定操作部11で設定された測定方法の仕様によって異なるが、このうち少なくとも移動端末機20からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令を送信する命令と、移動端末機20からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を送信する命令を含んでいる。従って、設定操作部11で設定される測定方法も、少なくとも移動端末機20の送信タイミングを遅らせるタイミング制御命令を送信する処理、移動端末機20の送信タイミングを進ませるタイミング制御命令を送信する処理を含む測定方法となる。
【0037】
送信部13は、タイミング制御要求手段13aと、送信回路13bとで構成され、制御部12の制御により、移動端末機20に対して送信タイミングを制御するSScommandを含む制御情報を送信している。
【0038】
タイミング制御要求手段は13aは、制御部12からタイミング制御命令を送信する命令を入力すると、この命令に従って、図4に示すタイミング制御命令であるSScommandの指令コマンドであるSSbits(変調方式がQPSK(quadrature phase shift keying)の場合は、00:Down(遅れ),11:Up(進み),01:Do nothing(維持)、変調方式が8PSK(8 phase shift keying)の場合は、00:Down(遅れ),11:Up(進み),01:Do nothing(維持)となる。)をのせた制御情報を送信回路13bに順次出力している。
【0039】
即ち、移動端末機20からの送信タイミングを基準タイミングに合せるべく移動端末機20からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令又は移動端末機20からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を送信する命令を入力した場合は現在の送信タイミングと基準タイミングとに基づきDown(遅れ)又はUp(進み)のSSbit、移動端末機20からの送信タイミングを維持するためのタイミング制御命令を送信する命令を入力した場合はDo nothing(維持)のSSbit、移動端末機20からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令を送信する命令を入力した場合はDown(遅れ)のSSbit、移動端末機20からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を送信する命令を入力した場合はUp(進み)のSSbitをのせた制御情報を送信回路13bに順次出力している。
【0040】
さらに、タイミング制御要求手段13aは、制御部12から未定義のSScommandを移動端末機20に対して送信する命令が入力されると、この命令に従って、未定義のSScommandの指令コマンドであるSSbit(例えば変調方式がQPSKの場合は、10:(未定義)など)をのせた制御情報を送信回路13bに順次出力している。
そして、タイミング制御要求手段13aは、送信回路13bに制御情報を出力するタイミングで、測定部16に測定開始を促すトリガ信号を出力している。
【0041】
送信回路13bは、タイミング制御要求手段13aから出力された制御情報を方向性結合器14及び接続端子1aを介して移動端末機20に順次出力している。そして、移動端末機20は、送信回路13bからの制御情報を受けると、その制御情報に含まれるSScommandの命令に従って送信タイミングを制御した信号を、信号測定装置1に送信する。
【0042】
受信部15は、受信回路15a、A/D変換器15b、データ記憶手段15cを備えて構成され、方向性結合器14を介して受信回路15aで移動端末機20から送信された信号を受信し、この受信した信号をA/D変換器15bでディジタル信号に変換された受信データをデータ記憶手段15cに記憶している。
【0043】
なお、データ記憶手段15cは、データの読み出しと書き込みとがそれぞれ独立して行える機能を有しており、制御部12からの測定開始を知らせる信号を受けてから測定終了を知らせる信号を受けるまでの間、変換された受信データを連続的に記憶する。
【0044】
測定部16は、DSP(Digital Signal Processor:ディジタルシグナルプロセッサ)などのマイクロコンピュータで構成され、スロット抽出手段16a、スロットタイミング算出手段16b、測定結果記憶手段16cとを備えて構成され、受信部15で受けた移動端末機20からの信号に基づく送信タイミングの測定を行っている。
【0045】
スロット抽出手段16aは、タイミング制御要求手段13aからのトリガ信号を入力すると、データ記憶手段15cに記憶された受信データをその記憶した順に読み出し、この受信データのうち、測定対象となる移動端末機20が割り当てられた特定のタイムスロットの受信データのみを抽出し、スロットタイミング算出手段16bと測定結果記憶手段16cに出力している。
【0046】
即ち、概念的に説明すると、図5に示すように、データ記憶手段15cに記憶された受信データをその記憶した順に読み出し、この受信データのうち測定対象となる移動端末機20が割り当てられた特定のタイムスロット(図中ではTS#1)のみの受信データを抽出する処理を行っている。
【0047】
スロットタイミング算出手段16bは、スロット抽出手段16aにて抽出された受信データの送信タイミングを算出している。また、スロットタイミング算出手段16bは、この算出した送信タイミングを基に、特定のタイムスロットとこのタイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングの差をタイムスロット間の送信タイミングの偏移量として算出している。
このタイムスロットの間隔数は、設定操作部11で設定された任意の自然数であるが、指定のない場合は間隔数=1として処理を行う。
【0048】
また、スロットタイミング算出手段16bは、算出した送信タイミングの偏移量から基準値を差し引いた誤差値を算出している。なお、スロットタイミング算出手段16bで使用される基準値の情報は、制御部12から通知される。さらに、スロットタイミング算出手段16bは、特定のタイムスロットとこのタイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングの偏移量の差分を算出している。
【0049】
測定結果記憶手段16cは、スロット抽出手段16aで抽出されたタイムスロットの受信データ、スロットタイミング算出手段16bで算出されたタイムスロットの送信タイミング、特定のタイムスロットとこのタイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングから算出された送信タイミングの偏移量、この偏移量から基準値を差し引いた送信タイミングの誤差値、受信データの偏移量の差分などを記憶している。
【0050】
判定部17は、測定結果記憶手段16cに記憶された送信タイミングの偏移量と設定操作部11で設定された送信タイミングの規格値(図3に示す)とを比較し、送信タイミングの偏移量が規格値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定している。これにより、測定対象となる移動端末機20の送信機能が正常であるか否かが判定できるので、移動端末機20の動作チェック(送信タイミングの良否判定)が行える。
判定例としては、例えば、図3に示すように、送信タイミングを遅れ方向に制御したとき(SSbit=11)の隣接するサブフレームのスロット(間隔数=1)との偏移量の規格値の上限値が−1/16chipで下限値が−3/16chipとすると、−2/16chipであれば正常、−4/16chipであれば異常であると判定する。
【0051】
また、判定部17は、移動端末機20に対して未定義のSScommandを送信したときに、送信した未定義のSScommandによって移動端末機20からの送信タイミングが変化しているか否か(通常は、未定義なSScommandのため、送信タイミングは制御されずに現状の状態を維持する)を判定している。即ち、この未定義のSScommandによって、移動端末機20が誤動作するか否かが判定できるので、移動端末機20の動作確認が行える。
【0052】
表示制御部18は、測定結果記憶手段16cに記憶された特定のタイムスロットの送信タイミングの偏移量、誤差値(偏移量から基準値を差し引いた値)、受信データの偏移量の差分を読み出し、これらを時系列的に並べてグラフ表示するための表示データを作成して、表示器に出力している。また、表示制御部18は、判定部17において異常と判定されたタイムスロットの情報を受けると、グラフ中に識別可能に表示し、制御部12から規格値の情報を受けると、グラフ中に規格値から得られる規格線36を表示している。
【0053】
表示部19は、例えば液晶ディスプレイなどの表示器で構成され、表示制御部18からの制御により、設定操作部11で選択された表示内容(測定対象となる移動端末機20の送信タイミングに関する各種測定結果や判定部17における判定結果など)を表示している。
【0054】
ここで、図6〜図9を参照しながら、表示制御部18によって作成された表示データの表示例について説明する。なお、各表示例では、帰還区間、維持区間、遅れ区間、進み区間、未定義区間の順で処理を行い、維持区間、遅れ区間、進み区間における送信タイミングの制御回数を6回、偏移量を算出する際のタイムスロットの間隔数は1(即ち、隣接したタイムスロットの送信タイミング)に設定されている。
【0055】
また、以下で説明する表示例は、上記測定方法における一例であるため、各表示エリアの組み合わせや表示の仕方、規格値やタイムスロットの間隔数などを、表示部19に表示する前や表示中に設定操作部11から任意に設定することで、オペレータの所望の表示内容を表示することができる。
【0056】
図6の表示例では、表示画面に送信タイミンググラフ表示エリア31、区間表示エリア32と、偏移量グラフ表示エリア33が表示された例である。
【0057】
送信タイミンググラフ表示エリア31は、スロットタイミング算出手段16bで算出された送信タイミングについて、横軸をn(測定対象となるスロット数)、縦軸を基準タイミングに対する時間的なずれを遅れ/進みで表すタイミングエラー(単位はchip)とし、特定のタイムスロットの送信タイミングが時系列的に連続して並べて表示されている。
【0058】
区間表示エリア32は、測定結果がどの区間に区分されているかをオペレータが把握できるようにするための表示エリアである。ここでは、エリア内がA〜Eの5つの区間に分けられており、StepAは測定対象となる移動端末機20の現在の送信タイミングを基準タイミングに合せる制御を行う帰還区間、StepBは送信タイミングを維持する制御を行う(図示の例では基準タイミングを維持する制御)維持区間、StepCは送信タイミングを遅れ方向に所定回数遅らせる制御を行う遅れ区間、StepDは送信タイミングを進み方向に所定回数進ませる制御を行う進み区間、StepEは未定義のSScommandを移動端末機20に送信して送信タイミングが変化しているか否かを確認する未定義区間である。
【0059】
偏移量グラフ表示エリア33は、横軸をn(測定対象となるスロット数)、縦軸を基準タイミングに対する偏移量(Δt、単位はchip)として時系列的に1つ前のスロットとの偏移量を連続して並べて表示されており、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示内容と容易に比較できるように表示されている。なお、図中の例では、偏移量は正数をとって算出されている。
【0060】
具体的には、移動端末機20の送信タイミングを遅らせる区間(StepC)では、2つのタイムスロットの送信タイミングの差分を算出したものに−1を乗じて正数の偏移量とし、移動端末機20の送信タイミングを進ませる若しくは維持する区間(StepA,StepB,StepD)では、2つのタイムスロットの送信タイミングの差分を算出したものに1を乗じて(つまりそのままの値として)正数の偏移量として算出している。なお、StepAの帰還区間は、遅れ方向に制御する場合もあるため、その場合は2つのタイムスロットの送信タイミングの差分を算出したものに−1を乗じて正数の偏移量とする。このように、偏移量を正数で表示することにより、正負の値で表示するのに比べて、表示画面における偏移量グラフ表示エリア33の表示面積を小さくすることができる。
【0061】
図6において、StepAの区間(帰還区間)では、移動端末機20から送信された信号の送信タイミングを基準タイミングに帰還させる制御(即ち、現在の送信タイミングと基準タイミングとに基づき送信タイミングを遅らせる若しくは進ませる制御)を行っている。移動端末機20の送信タイミングが精度良く制御されている場合、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は基準タイミングである「Target」で横一直線のグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は「0」で横一直線のグラフとなって表示される。
図中では、送信タイミングが基準タイミングよりも遅れているため、進み方向に1/8chipずつ進めて基準タイミングに合せるように制御しているため、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は「Target」になるまで1/8chipずつ上がった後横一直線のグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は1/8chip下がった後「0」で横一直線のグラフとなって表示されている。
【0062】
StepBの区間(維持区間)では、StepAにおいて移動端末機20の送信タイミングが基準タイミングに制御されたことを確認すると、移動端末機20の送信タイミングを基準タイミングに維持する制御を行っている。移動端末機20の送信タイミングが精度良く制御されている場合、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は基準タイミングである「Target」で横一直線のグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は「0」で横一直線のグラフとなって表示される。
図中では、送信タイミングが精度よく制御されているため、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は「Target」で横一直線のグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は「0」で横一直線のグラフとなって表示されている。
【0063】
StepCの区間(遅れ区間)では、StepBにおいて移動端末機20の送信タイミングが基準タイミングに制御されたことを確認すると、移動端末機20の送信タイミングを1/8chipずつ6回遅らせる制御を行っている。移動端末機20の送信タイミングが精度良く制御されている場合、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は基準タイミングから1/8chipずつ階段状に下がるグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は「0」から1/8chip上がった後横一直線のグラフとなって表示される。
図中では、送信タイミングが精度よく制御されているため、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は基準タイミングから1/8chipずつ階段状に下がるグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は「0」から1/8chip上がった後横一直線のグラフとなって表示されている。
【0064】
StepDの区間(進み区間)では、StepCにおいて移動端末機20の送信タイミングを1/8chipずつ6回遅らせる制御が実行されたことを確認すると、移動端末機20の送信タイミングを1/8chipずつ6回進ませる制御を行っている。移動端末機20の送信タイミングが精度良く制御されている場合、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は基準タイミングから1/8chipずつ階段状に上がるグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示はStepCのグラフと同じ位置を保ちながら横一直線のグラフとなって表示される。
図中では、送信タイミングの精度が悪いため、1/8chipずつ階段状に上がらず大きな乱れが生じており、送信タイミンググラフ表示エリア31、偏移量グラフ表示エリア33ともに、特異なグラフ形状を成している。また、送信タイミングが規格値の許容誤差範囲から外れている箇所があるため、送信タイミンググラフ表示エリア31は送信タイミングの乱れた箇所をa点として、例えば色分け表示や点滅表示をするなど識別可能に表示し、偏移量グラフ表示エリア33はa点に対応する位置をb点として送信タイミングの乱れをa点と同様に識別可能に表示している。
【0065】
StepEの区間(未定義区間)では、StepCにおいて移動端末機20の送信タイミングを1/8chipずつ6回進ませる制御が実行されたことを確認すると、移動端末機20に対して未定義のSScommandの制御情報を送信して移動端末機20が誤作動するか否かを確認するための処理を行っている。移動端末機20の機能が正常であれば、未定義のSScommandによって動作しないため、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は基準タイミングである「Target」で横一直線のグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33は「0」で横一直線のグラフとなって表示される。
図中では、移動端末機20の機能が正常あるため、送信タイミンググラフ表示エリア31の表示は「Target」で横一直線のグラフとなり、偏移量グラフ表示エリア33の表示は「0」で横一直線のグラフとなって表示されている。
【0066】
図7に示す表示例は、図6で表示された送信タイミンググラフ表示エリア31、区間表示エリア32と同内容の表示がなされており、図6における偏移量グラフ表示エリア33に表示する偏移量を正負で表示し、設定操作部11で設定された規格値から得られる規格線36をStepB、StepC、STepDに表示した例である。
なお、以下の説明では、送信タイミンググラフ表示エリア31、区間表示エリア32が図6と同様であるためその説明を省略し、表示内容の異なる偏移量グラフ表示エリア33の説明のみ記載する。
【0067】
偏移量グラフ表示エリア33のグラフ中に表示される規格線36は、図3に示す規格値から得られる線であり、SScomanndのSSbitによって上限値/下限値が異なるため、各Stepにおける上限値と下限値に対応する規格線36がそれぞれ各区画に表示されている。なお、規格線36は、設定操作部11からの操作によって、規格線36の表示の有無や規格線36を表示する区画の選択などを任意に設定することができる。
【0068】
StepBの区間(維持区間)では、上限値として1/16chip、下限値として−1/16chipの規格線36が2本表示されている。StepBの区間では、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングが2本の規格線36から外れておらず、規格値の許容誤差範囲内に収まっているため、StepBの区間における移動端末機20の送信タイミングは正常であると判定できる。
【0069】
StepCの区間(遅れ区間)では、上限値として−1/16chip、下限値として−3/16chipの規格線36が2本表示されている。StepCの区間では、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングが2本の規格線36から外れておらず、規格値の許容誤差範囲内に収まっているため、StepCの区間における移動端末機20の送信タイミングは正常であると判定できる。
【0070】
StepDの区間(進み区間)では、上限値として3/16chip、下限値として1/16chipの規格線36が2本表示されている。StepDの区間では、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングが規格値の上限値を超えており、送信タイミングに異常が生じていることがわかる。従って、StepDの区間における移動端末機20の送信タイミングは異常であると判定できる。また、送信タイミンググラフ表示エリア31は送信タイミングの乱れた箇所をc点として、例えば色分け表示や点滅表示をするなど識別可能に表示し、偏移量グラフ表示エリア33はc点に対応する位置をd点として送信タイミングの乱れをc点と同様に識別可能に表示している。
【0071】
図8に示す表示例は、偏移量から設定操作部11で設定された規格値の許容誤差範囲の中間値である基準値を差し引いた誤差値を時系列的に連続して並べた誤差値グラフ表示エリア34を表示し、設定操作部11で設定された規格値から基準値を差し引いて得られる規格線36をStepB、StepC、StepDに表示した例である。
【0072】
図8における規格線36は、偏移量の誤差値の規格線であり、「0」を規格値の規格許容範囲の中間値である基準値とし、その基準値からの上限値と下限値をそれぞれ表したものである。この表示例では、通常、移動端末機20の送信タイミングが精度良く制御されている場合は基準値である「0」を示し、何かしら異常があると「0」からずれた表示となる。なお、規格線36は、設定操作部11からの操作によって、規格線36の表示の有無や規格線36を表示する区画の選択などを任意に設定することができる。
【0073】
StepBの区間(維持区間)では、「0」を規格許容範囲の中間値である基準値とし、その許容誤差範囲の上限値と下限値を示した規格線36を2本表示されている。StepBの区間では、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングが2本の規格線36から外れておらず、規格値の許容誤差範囲内に収まっているため、StepBの区間における移動端末機20の送信タイミングは正常であると判定できる。
【0074】
StepCの区間(遅れ区間)では、「0」を規格許容範囲の中間値である基準値とし、その許容誤差範囲の上限値と下限値を示した規格線36を2本表示されている。StepCの区間では、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングが2本の規格線36から外れておらず、規格値の許容誤差範囲内に収まっているため、StepCの区間における移動端末機20の送信タイミングは正常であると判定できる。
【0075】
StepDの区間(進み区間)では、「0」を規格許容範囲の中間値である基準値とし、その許容誤差範囲の上限値と下限値を示した規格線36を2本表示されている。StepDの区間では、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングが規格値の上限値を超えており、送信タイミングに異常が生じていることがわかる。従って、StepDの区間における移動端末機20の送信タイミングは異常であると判定できる。また、誤差値グラフ表示エリア34は、送信タイミングの乱れをe点として例えば色分け表示や点滅表示をするなど識別可能に表示している。
【0076】
図9に示す表示例は、図7で説明した偏移量グラフ表示エリア33と、この偏移量グラフ表示エリア33に対応するように時系列的に隣接する1つ前のスロットとの偏移量の差分を並べた差分グラフ表示エリア35とが表示された例である。なお、偏移量グラフ表示エリア33は、図7で説明したものと同一であるため、その説明を省略する。
このように、偏移量の差分を算出するということは、元の値の微分することと等しい。従って、差分を算出してグラフ表示することで、元のグラフの変化点を容易に見つけることが可能となる。
【0077】
また、偏移量グラフ表示エリア33のStepB、StepC、StepDに規格線36を表示するとともに送信タイミングの乱れた箇所をf点として例えば色分け表示や点滅表示をするなど識別可能に表示し、差分グラフ表示エリア35にはf点に対応する位置をg点として送信タイミングの乱れをf点と同様に識別可能に表示している。
【0078】
次に、図10を参照しながら、上記構成における信号測定装置1の処理動作について説明する。ここでは、上記表示例で用いた測定方法の仕様と同様に、帰還区間、維持区間、遅れ区間、進み区間、未定義区間の順に処理を進めて送信タイミングの測定を行う例である。
なお、以下の処理動作の前提として、信号測定装置1と移動端末機20との間で通信が確立されている状態、即ちどのタイムスロットに移動端末機20のアップリンク、ダウンリンクが割り当てられているかが決まっている状態であることは言うまでもない。
【0079】
まず、測定対象となる移動端末機20から信号を受信し、この信号の受信データから移動端末機20が割り当てられたタイムスロットの送信タイミングを抽出する(ST1)。次に、移動端末機20の送信タイミングを測定する測定方法の設定により、測定対象となる移動端末機20の送信タイミングの制御回数を設定する(ST2)。
なお、ST2では、測定方法が設定されてるため、送信タイミングの制御回数が設定されるとともに、処理手順(本例では、帰還区間、維持区間、遅れ区間、進み区間、未定義区間の順に処理を行う)も設定される。
【0080】
ST2において、送信タイミングの制御回数が設定されると、移動端末機20の送信タイミングを基準タイミングに合せる制御を行う(ST3)。そして、設定された送信タイミングの制御回数に従って、移動端末機20の送信タイミングを維持する制御(SSbit=01のSScommandを移動端末機20に送信)を行い(ST4)、設定された制御回数実行されたか否かを判別する(ST5)。
【0081】
ST5において、送信タイミングを基準タイミングに制御する回数が、設定された制御回数だけ実行された場合は(ST5−Yes)、次に、移動端末機20の送信タイミングを1/8chipずつ遅らせる制御(SSbit=00のSScommandを移動端末機20に送信)を行い(ST6)、設定された制御回数だけ実行されたか否かを判別する(ST7)。
一方、送信タイミングを基準タイミングに制御する回数が、設定された制御回数だけ実行されていない場合は(ST5−No)、再度ST4に戻って、移動端末機20の送信タイミングを維持する制御を行う。
【0082】
ST7において、送信タイミングを遅れ方向に制御する回数が、設定された制御回数だけ実行された場合は(ST7−Yes)、次に、移動端末機20の送信タイミングを1/8chipずつ進ませる制御(SSbit=11のSScommandを移動端末機20に送信)を行い(ST8)、設定された制御回数だけ実行されたか否かを判別する(ST9)。
一方、送信タイミングを遅れ方向に制御する回数が、設定された制御回数だけ実行されていない場合は(ST7−No)、再度ST6に戻って、移動端末機20の送信タイミングを遅らせる制御を行う。
【0083】
ST9において、送信タイミングを進み方向に制御する回数が、設定された制御回数だけ実行された場合は(ST7−Yes)、次に、SScomandを未定義にする制御(例えば、未定義であるSSbit=10のSScommandを送信する)を行い(ST10)、設定された制御回数実行されたか否かを判別する(ST11)。
一方、送信タイミングを進み方向に制御する回数が、設定された制御回数だけ実行されていない場合は(ST9−No)、再度ST8に戻って、移動端末機20の送信タイミングを進ませる制御を行う。
【0084】
ST11において、SScommandを未定義に制御する回数が、設定された制御回数だけ実行された場合は(ST11−Yes)、これまでの測定結果を測定結果記憶手段16cに記憶させ(ST12)、この記憶した測定結果と設定されたタイムスロットの間隔数に基づきタイムスロットの偏移量を算出する(ST13)。そして、設定操作部11からの各種設定内容に基づき、表示制御部18で表示内容に関する表示データを作成した後、表示部19に表示する(ST14)。
一方、SScommandを未定義に制御する回数が、設定された制御回数だけ実行されていない場合は(ST11−No)、再度ST10に戻って、SScomandを未定義にする制御を行う。
【0085】
このように、上述した信号測定装置1は、予め設定された測定方法の仕様に基づき、測定対象となる移動端末機20からの送信タイミングを基準タイミングに合せるべく移動端末機20からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令又は移動端末機20からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を送信する命令、送信タイミングを維持するタイミング制御命令、送信タイミングを遅らせるタイミング制御命令、送信タイミングを進ませるタイミング制御命令、送信タイミングを制御するSScommandを未定義にするタイミング制御命令を、設定された制御回数で移動端末機20に対して順次送信する。そして、送信した各命令に応じて移動端末機20から送信された信号のうち、測定対象となる移動端末機20が割り当てられた特定のタイムスロットの送信タイミングを抽出して送信タイミングを算出する。そして、算出した送信タイミングから偏移量を算出し、予め設定された規格値と比較することで移動端末機20の送信タイミングの良否判定を行っている。
従って、通信方式としてTD−SCDMAなどの時分割・同期・符号分割多重方式を採用する移動端末機20にとって重要な送信タイミングの同期に関する測定が容易に行えるとともに、その測定結果を簡単に把握することができる。
【0086】
また、測定した結果を表示部19に表示する際に、測定した送信タイミングを時系列的に連続して並べて表示するとともに、測定した送信タイミングの偏移量や偏移量に基づく誤差値から得られるグラフを所定の表示エリアに表示をすることができるため、オペレータは測定対象である移動端末機20の送信タイミングを容易に観測することができる。
【0087】
さらに、表示部19に表示されたグラフ中に、予め設定された規格値から得られる規格線36を表示しているため、オペレータはグラフ中で、送信タイミングが正常か異常かを容易に判別することができる。また、送信タイミングに異常が生じている場合に、その該当個所を例えば色分け表示や点滅表示をするなど識別可能に表示しているため、オペレータはさらに異常箇所を確実に識別することができる。
【0088】
また、設定されたタイムスロットの間隔数に従って偏移量を算出しているので、偏移量を算出する際のスロット間隔数を任意に設定することにより、オペレータの所望の測定を行うことができる。
【0089】
ところで、上述した形態では、移動端末機の送信タイミングを制御する測定方法の仕様として、測定対象となる移動端末機20の現在の送信タイミングを基準タイミングに合せる制御を行うStepA(帰還区間)、送信タイミングを維持する制御を行うStepB(維持区間)、送信タイミングを遅れ方向に所定回数遅らせる制御を行うStepC(遅れ区間)、送信タイミングを進み方向に所定回数進ませる制御を行うStepD(進み区間)の順に処理を行う例で説明したが、少なくとも遅れ区間、進み区間の各Stepを含み、各区間に対応した命令に基づいて移動端末機から送信された信号の送信タイミングを測定する構成であれば、特に各Stepの手順は限定されない。
【0090】
また、遅れ区間、進み区間、維持区間及び未定義区間における送信タイミングの制御方法として、測定対象となる移動端末機20に対して予め設定された制御回数だけタイミング制御命令(SScommand)を連続して送信する構成(図6〜図9に示す表示例では制御回数を6回に設定)で説明したが、例えば任意に設定された制御時間内にどの程度変化(若しくは維持)させるかを予め設定しておくことで、上述した回数による制御方法と同様に、送信タイミングの測定を行うことができる。
【0091】
さらに、スロット抽出手段16aでは、データ記憶手段15cに記憶された受信データの中から特定のタイムスロットの受信データのみを抽出するとしたが、例えばタイムスロット全ての受信データについて測定する構成とした場合は、この処理を省略することができる。
このとき、全ての受信データの中から特定のタイムスロットの受信データのみを表示部19に表示させるとした場合は、まず表示させたいタイムスロットを設定操作部11で特定し、この特定されたタイムスロットの受信データのみを測定結果記憶手段16cから抽出する。そして、スロットタイミング算出手段16bにおいて、抽出したタイムスロットの受信データに基づく偏移量、誤差値、偏移量の差分などを測定して再度測定結果記憶手段16cに記憶させ、表示制御部18で表示データを作成することで、表示部19に特定のタイムスロットの表示内容のみを表示させることができる。
【0092】
また、スロットタイミング算出手段16bでは、スロット抽出手段16aで検出された特定のスロットタイミングの受信データから得られる送信タイミングに基づき各種処理を行っているが、例えば予め特定のタイムスロットが設定されていない場合や測定中にタイムスロットの間隔数の設定が変更された場合は、特定のタイムスロットや間隔数が設定された時点で、測定結果記憶手段16cに記憶された受信データから該当する受信データを用いて送信タイミングや偏移量の算出などの各種処理を行うこともできる。
【符号の説明】
【0093】
1 信号測定装置
11 設定操作部
12 制御部
13 送信部
13a タイミング制御要求手段
13b 送信回路
14 方向性結合器
15 受信部
15a 受信回路
15b A/D変換器
15c データ記憶手段
16 測定部
16a スロット抽出手段
16b スロットタイミング算出手段
16c 測定結果記憶手段
17 判定部
18 表示制御部
19 表示部
20 移動端末機
31 送信タイミンググラフ表示エリア
32 区間表示エリア
33 偏移量グラフ表示エリア
34 誤差値グラフ表示エリア
35 差分グラフ表示エリア
36 規格線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる移動端末機(20)との間で時分割・同期・符号分割多重方式で通信を行い、前記移動端末機からの信号を測定する信号測定装置(1)であって、
前記移動端末機の送信タイミングを制御するタイミング制御命令を前記移動端末機に対して複数回連続して送信する送信部(13)と、
前記タイミング制御命令に応じて前記移動端末機から送信された信号の送信タイミングを測定するとともに、前記移動端末機からの信号から前記移動端末機が割り当てられたタイムスロットと、当該タイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングの差を前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量として算出する測定部(16)と、
前記測定部で測定された測定結果を表示する表示部(19)と、
前記測定部で算出された前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量を時系列的に連続して並べて前記表示部にグラフ表示する表示制御部(18)と、
を備えたことを特徴とする信号測定装置。
【請求項2】
前記間隔数を設定するための設定操作部(11)を備え、前記測定部(16)は、前記設定操作部で設定された前記間隔数に従って、前記偏移量を算出することを特徴とする請求項1記載の信号測定装置。
【請求項3】
前記測定部(16)は、前記算出したタイムスロット間の送信タイミングの偏移量から前記規格値の許容誤差範囲の中間値である基準値を差し引いた誤差値を算出し、
前記表示制御部(18)は、前記測定部で算出された前記誤差値を時系列的に連続して並べて前記表示部(19)にグラフ表示することを特徴とする請求項1又は2記載の信号測定装置。
【請求項4】
前記測定部(16)は、前記算出した偏移量を時系列的に表示した場合に、該並べられた偏移量それぞれについて、隣接する1つ前の偏移量との差分を算出し、
前記表示制御部(18)は、前記測定部で算出された偏移量の差分を時系列的に連続して並べて前記表示部(19)にグラフ表示することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の信号測定装置。
【請求項5】
前記移動端末機(20)に送信するタイミング制御命令は、少なくとも前記移動端末機からの送信タイミングを遅らせるタイミング制御命令と前記移動端末機からの送信タイミングを進ませるタイミング制御命令とを含み、
前記測定部(16)で測定された前記各タイミング制御命令に対応して前記移動端末機から送信された前記信号の送信タイミングと、前記各命令に対応する規格値とを比較し、当該送信タイミングが前記規格値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定する判定部(17)を備えていることを特徴とする請求項1〜4記載の信号測定装置。
【請求項6】
前記表示制御部(18)は、前記測定部(16)で算出された偏移量又は誤差値が正常であるか異常であるかを判定するための前記規格値から得られる規格線を、前記グラフ中に重ねて表示することを特徴とする請求項5記載の信号測定装置。
【請求項7】
前記判定部(17)で判定された前記送信タイミングが前記規格値の許容誤差範囲内に収まっているか否かの判定結果に基づいて、正常と判定された送信タイミングと異常と判定された送信タイミングとを前記グラフ中で識別可能に表示することを特徴とする請求項5又は6に記載の信号測定装置。
【請求項8】
測定対象となる移動端末機(20)との間で時分割・同期・符号分割多重方式で通信を行い、前記移動端末機からの信号を測定する信号測定方法であって、
前記移動端末機からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令又は送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を前記移動端末機に送信して、前記移動端末機からの送信タイミングを基準タイミングに合せるステップと、
前記移動端末機からの送信タイミングを維持するためのタイミング制御命令を複数回連続して前記移動端末機に送信するステップと、
前記移動端末機からの送信タイミングを遅らせるためのタイミング制御命令を複数回連続して前記移動端末機に送信するステップと、
前記移動端末機からの送信タイミングを進ませるためのタイミング制御命令を複数回連続して前記移動端末機に送信するステップと、
前記各命令に対応して前記移動端末機から送信された信号を受信するステップと、
前記受信した信号の送信タイミングを測定するステップと、
前記測定された送信タイミングが設定された規定値の許容誤差範囲内に収まっているか否かを判定するステップと、
前記移動端末機からの信号から前記移動端末機が割り当てられたタイムスロットと、当該タイムスロットから所定の間隔数離れたタイムスロットとの送信タイミングの差を前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量として算出するステップと、
前記測定部で算出された前記タイムスロット間の送信タイミングの偏移量を時系列的に連続して並べて表示部(19)にグラフ表示するステップと、
を含むことを特徴とする信号測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−200024(P2012−200024A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163899(P2012−163899)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【分割の表示】特願2007−326149(P2007−326149)の分割
【原出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】