説明

個別シリンダλ制御における偏差の診断方法および装置

【課題】排気ガス・センサの特性を利用することにより個別シリンダλ制御および改善された非同調診断を保証する方法および装置を提供し、個別シリンダλ制御の偏差を追加の材料費用なしにより良好に診断可能にする。
【解決手段】少なくとも2つのシリンダと、広帯域λセンサとして設計された排気ガス・センサとを備えた内燃機関であって、排気ガス・センサにおいてポンプ・セル内を流れるポンプ電流が評価され且つこのポンプ電流が少なくとも一時的にシリンダごとのλ制御に使用される、内燃機関の個別シリンダλ制御における偏差の診断方法において、ポンプ電流に追加してポンプ・セルを介するポンプ電圧ないしはポンプ電圧変化が決定され、この決定された値が診断装置に伝送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのシリンダと、広帯域λセンサとして設計された排気ガス・センサと、を備えた内燃機関であって、排気ガス・センサにおいてポンプ・セル内を流れるポンプ電流が評価され、且つこのポンプ電流が少なくとも一時的にシリンダごとのλ制御に使用される、内燃機関の個別シリンダλ制御における偏差の診断方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触媒と組み合わされたλ制御は、今日、オットー・サイクル・エンジンのための有効な排気ガス浄化方法である。三元触媒または選択触媒の使用が特に有効である。エンジンがλ=1の理論空燃比の周りの約1%の範囲内で運転される場合、この触媒は、炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物を90%以上低減させる特性を有している。この場合、λ値は、実際に存在する空気/燃料混合物が完全燃焼のために理論的に必要な、14.7kgの空気の1kgのガソリンに対する質量比に対応する値λ=1からどの程度の偏差を有しているかを与え、即ち、λ値は供給空気質量と理論的に必要な空気質量との商である。空気過剰においては、λ>1である(リーン混合物)。燃料過剰においては、λ<1である(リッチ混合物)。
【0003】
λ制御においては、排気ガスが測定され且つ供給燃料量が測定結果に対応して、例えば噴射装置により直ちに補正される。
測定センサとしてλセンサが使用され、λセンサは、一方でいわゆる2点(Zweipunkt)λセンサまたはジャンプ・センサとして設計され、他方で定常λセンサまたは広帯域λセンサとして設計されていてもよい。これらのλセンサの作用は、それ自身既知のように、固体電解質を有する酸素濃淡電池の原理に基づいている。2点λセンサの特性曲線は、λ=1においてセンサ電圧のジャンプ状降下を有している。したがって、通常、排気曲がり管の直後に装着されている2点λセンサは、本質的にリッチ排気ガスとリーン排気ガスとの間の区別のみを可能にするにすぎない。これに対して、広帯域λセンサは、λ=1の周りの広い範囲内において排気ガス内のλ値の正確な測定を可能にする。両方のλセンサ・タイプは、セラミック・センサ・エレメント、保護管から、並びにケーブル、プラグおよびこれらの要素間の継手から構成されている。保護管は、開口を有する1つまたは複数のメタル・シリンダから構成されている。開口を通過して、排気ガスは、拡散または対流により入り込み且つセンサ・エレメントに到達する。この場合、両方のλセンサ・タイプのセンサ・エレメントは異なる構成を有している。
【0004】
2点λセンサのセンサ・エレメントは、酸素イオン導通電解質から構成され、酸素イオン導通電解質の内部に、基準ガスで満たされた中空室が存在する。基準ガスは、特定の一定酸素濃度を有しているが、そのほかには酸化性成分または還元性成分を有していない。たいていの場合、基準ガスは空気である。排気ガスと接触する中空室外側のみならず中空室内側にもまた電極が装着され、電極は、ケーブルを介してプラグ接点と結合されている。ネルンスト原理に従って、電極間に、以下においてネルンスト電圧と呼ばれる電圧が発生し、ネルンスト電圧は、排気ガスおよび基準ガス内の酸化性排気ガス成分および還元性排気ガス成分の濃度により決定される。排気ガス内に酸素のほかに酸化性成分または還元性成分が存在しない場合、ネルンスト電圧は、次式により表わされる。
【0005】
【数1】

【0006】
この式において、URefは基準ガス側の電位を、UAbgasは排気ガス側の電位を、pO2,RefおよびpO2,Abgasは基準ガス内ないしは排気ガス内の酸素分圧を、Tは温度を、Rは一般ガス定数を、およびFはファラデー定数を表わす。ネルンスト電圧は、プラグ接点を介して測定され且つ2点λセンサの信号を示す。
【0007】
広帯域λセンサのセンサ・エレメントは、表面に開口を有し、開口を通過して排気ガスが流入する。流入開口に多孔層が続き、排気ガスは、多孔層内を通過して中空室内に拡散する。この中空室は、酸素イオン導通電解質材料によって外部の排気ガスから遮断される。電解質の外側のみならず中空室の側にもまた電極が存在し、電極は、ケーブルを介してプラグ接点と結合されている。これらの電極間に存在する電解質は、ポンプ・セルと呼ばれる。さらに、センサ・エレメントの内部に、同じ電解質材料により中空室から遮断されて、特定の一定酸素濃度を有する基準ガスが存在する。基準ガスと接触して他の電極が存在し、この電極もまたプラグ接点と結合されている。この電極と中空室側の電極との間の電解質は、測定セルと呼ばれる。
【0008】
ネルンスト原理に従って、測定セルを介して、以下において測定電圧と呼ばれる電圧が発生し、測定電圧は、中空室内および基準ガス内の酸化性排気ガス成分および還元性排気ガス成分の濃度によって決定される。基準ガス内の濃度は既知であり且つ不変であるので、中空室内の濃度との関係が導かれる。
【0009】
λセンサを作動させるために、λセンサは、プラグを介して、例えばエンジン制御装置内に存在する評価基板と結合されていなければならない。測定電圧は、電極間で測定され且つ評価基板に伝送される。評価基板内に制御回路が存在し、制御回路は、ポンプ・セル内にいわゆるポンプ電流が流されることにより、測定セルを介した電圧を目標値に保持する。電解質内の電流の流れは酸素イオンにより行われるので、中空室内の酸素濃度が調節される。平衡状態において測定電圧を一定に保持するために、リーン範囲(λ>1)内においては、拡散隔壁を介して拡散した量と正確に同じだけの酸素が中空室から排出されなければならない。これに対して、リッチ範囲(λ<1)内においては、拡散してきた還元性排気ガス分子が相殺されるだけの酸素が中空室内に供給されなければならない。中空室内の酸素バランスがポンプ電流制御装置により一定に保持されるという事実を考慮して、拡散式から、拡散流れ、したがってポンプ電流と、排気ガス内の酸素濃度との間の線形関係が得られる。ここで、ポンプ電流は、評価基板内において測定され且つエンジン制御装置のメイン・コンピュータに伝送される。上記から、ポンプ電流は、排気ガス内の酸素バランスに対する線形信号を表わすことになる。λ値と酸素バランスとの間の関係は、次式のように確かに非線形ではある。
【0010】
【数2】

【0011】
しかしながら、曲線の曲率は、ポンプ電流からのλ値の正確な決定を可能にするために、エンジン制御に関連する範囲内においては十分に小さい。
広帯域λセンサは、例えばドイツ特許公開第102005061890A1号から並びにドイツ特許公開第102005043414A1号から既知であり、この場合、ドイツ特許公開第102005061890A1号は、当該発明によりその構造において特定の化学元素が使用されている広帯域λセンサの構造を記載している。
【0012】
2つ以上のシリンダが排気ガスをそれぞれの排気曲がり管内に排出し、これらの曲がり管が共通の排気管内に合流する該2つ以上のシリンダを有する内燃機関においては、例えば排気管内の圧力波によって発生される異なる空気充填量により、または例えば噴射弁の公差によって発生される異なる燃料量により、または両方の原因の組み合わせにより、個々のシリンダのλ値は異なることがある。このようなシリンダごとのλ変動は、以下のように不利に働くことがある。
【0013】
例えば、排気管内に三元触媒が組み込まれ且つ個々のシリンダからの排気ガスの触媒断面上の分配が不均一であるとき、満足させる排気ガスの転換が可能ではない。リーン排気ガスが供給される触媒セグメント内においては酸化性排気ガス成分が転換可能ではなく、一方、リッチ排気ガスが供給される触媒セグメント内においては還元性排気ガス成分が転換可能ではない。さらに、リッチ運転シリンダ内において燃料の完全燃焼が行われないとき、効率が低下し且つこれにより燃料消費量が増加する。さらに、リッチ運転シリンダからの不完全燃焼燃料およびリーン運転シリンダからの過剰空気が排気管内で後反応することがある。これによりエネルギーが放出され、このエネルギーは、排気系内に組み込まれた構成部品、特に触媒に熱的過負荷を与えてこれを損傷させることがある。
【0014】
したがって、閉ループ制御回路内において、全てのシリンダの平均λ値のみならず個々の各シリンダのλ値もまた目標値に制御することが望ましい。このような方法は、以下において個別シリンダλ制御と呼ばれる。さらに、2011年施行の米国オンボード診断法(OBD)は、以下において非同調診断または不均等診断とも呼ばれるシリンダごとのλ変動の検出を要求している。
【0015】
個別シリンダλ制御は従来技術から既知である。即ち、ドイツ特許公開第10260721A1号は、少なくとも一時的にシリンダごとのλ制御に使用されるλセンサの動特性の診断方法および装置を記載している。この場合、λ制御の少なくとも1つの操作変数が測定され且つ設定可能な最大しきい値と比較される。最大しきい値を超えている場合、λセンサの動特性は、シリンダごとのλ制御に対する使用可能性に関して十分ではないと評価される。
【0016】
従来技術ないしは先行特許出願の対象は、非同調診断またはシリンダごとのλ制御に対して2点λセンサまたは広帯域λセンサのλ信号を使用することである。この場合、幾つかの問題点が存在する。
【0017】
1つの問題点は、λ信号の関連周波数が著しく減衰されることにある。著しい減衰は保護管により行われる。これは、2点λセンサのみならず広帯域λセンサにも該当する。しかしながら、広帯域λセンサにおいては、いわゆる拡散隔壁により、および制御設計に応じてそれぞれポンプ電流制御装置の動特性により、さらに他の減衰効果が追加される。この場合、全ての減衰効果は累積的に働く。シリンダごとの変動により発生される実際のλ値内の周波数は、拡散隔壁により、2000rpm付近の回転数範囲内において、50%以上減衰されることがある。より高い回転数においては、減衰はさらに上昇する。S/N比(信号/ノイズ比)は低下し、このことは非同調診断のみならずシリンダごとのλ制御もまた困難にさせる。したがって、減衰の観点から、λ=1付近の範囲内において、2点λセンサは広帯域λセンサよりも有利なことがある。
【0018】
しかしながら、広帯域λセンサもまた2点λセンサよりも利点を有している。この利点は、広帯域λセンサによるλ制御は平均λを目標値に常に制御可能であることにある。これに対して、2点λセンサにおける通常の方法、いわゆる2点制御は、λセンサ信号の振動を発生し、即ち、平均値のみをある時間にわたり目標値に設定するにすぎない。即ち、シリンダごとのλ変動が制御係合によるきわめて著しい振動によって重ね合わされ、このことが検出を困難にしている。
【0019】
さらに、観測アルゴリズムがシリンダごとのλ値に対して広帯域λセンサの測定値により支援される方法が既知である。観測アルゴリズムは、入力変数としてシリンダごとのλ値を、および出力変数としてλ平均値を有するシステムのモデルに基づいているので、この方法は、以下においてモデル支援方法と呼ばれる。観測アルゴリズムに対する重要なパラメータは、運転点の関数としてのλセンサの不感時間である。この方法は、不感時間が生産ロットおよび経時変化により変動することによって困難にされる。この問題点を解決するために、不感時間適応方法が記載されているが、これは同様に欠点を有している。即ち、適応に対して、能動的燃料調節が必要であるからである。さらに、この適応は、結果として求められる運転点と不感時間変動との関係を十分に示さないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】ドイツ特許公開第102005061890A1号
【特許文献2】ドイツ特許公開第102005043414A1号
【特許文献3】ドイツ特許公開第10260721A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の課題は、排気ガス・センサの特性を利用することにより個別シリンダλ制御および改善された非同調診断を保証する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の方法に関する課題は、ポンプ電流に追加して、ポンプ・セルを介したポンプ電圧ないしはポンプ電圧変化が決定され、且つこの値が診断装置に伝送されることにより解決される。この場合、広帯域λセンサとして形成された排気ガス・センサのポンプ・セルが2点λセンサと同じ原理に従って作動され、且つ広帯域λセンサの使用における上記の減衰に関する欠点が作用しないことが有利である。これにより、非同調診断が改善可能であるのみならず個別シリンダ制御もまた最適化可能である。
【0023】
ポンプ電圧ないしはポンプ電圧変化が、診断装置内において、排気ガス・センサの規則的λ信号と組み合わされて以下に記載のように評価されるとき、それは特に有利である。
排気ガス・センサの規則的λ信号を用いて全てのシリンダの平均λ値が1に等しいかまたはほぼ1に等しくなるように制御され、且つポンプ電圧の信号が評価されるとき、2点λセンサにおいてと同様に、このλ範囲内のポンプ電圧と小さい変動との関係が特に顕著であるので、非同調診断および個別シリンダ診断に対して使用可能な、ポンプ電圧におけるシリンダごとの小さな変動もまた検出可能である。
【0024】
本方法の一変更態様において、改善された非同調診断に関して、ポンプ電圧の測定信号に、帯域特性または差特性を有するフィルタが適用されるように設計されている。これにより、シリンダごとのλ変動の結果として発生される、ポンプ電圧に対する周波数のみが考慮されるので、妨害信号は十分に抑制可能である。
【0025】
この場合、フィルタの伝達特性が運転点の関数として設定され且つ特に内燃機関の回転数の関数として調節されるとき、特に有利であることが明らかとなった。回転数に適合された伝達関数は、ポンプ電圧信号においてシリンダごとのλ変動が発生することがない周波数範囲の動的適合を可能にする。
【0026】
さらに改善された妨害信号の抑制に関して、さらに、フィルタリングされたポンプ電圧信号の勾配の絶対値から、エラーのないシステムに対してモデルとして仮定され且つ同様に運転点の関数として設定された補正項が減算され、この差が時間積分されるように設計されていてもよい。
【0027】
時間積分に対する特定のしきい値を超えた場合、非同調エラーが診断され、この非同調エラーは、上位のエンジン制御のエラー・メモリ内に記録されても、或いは警報メッセージにより指示されてもよい。これにより、将来の米国オンボード診断法に関して確実な非同調診断が実行可能である。
【0028】
同様に、好ましい本方法の一変更態様は、ポンプ電圧の時間信号に対して周波数分析が実行され且つ周波数分析において決定されたこの周波数成分に基づいて非同調診断またはシリンダ均等化が行われるように設計されている。このために、ポンプ電圧の時間信号がフーリエ解析され且つエンジン運転周波数成分および、場合により、その整数倍(高調波成分)が決定される。
【0029】
ポンプ電圧に対する信号と排気ガス・センサの規則的λ信号との比較により、排気ガス・センサの不感時間または他の動特性変数が決定された場合、これにより、モデル支援シリンダ均等化制御のモデル・パラメータが、排気ガス・センサの規則的λ信号に基づいて適応可能である。例えば、シリンダ均等化制御において、排気ガス・センサのセンサ・エレメントの経時変化効果が考慮されてもよい。
【0030】
上記の方法の好ましい一適用は、シリンダが複数のグループにまとめられ且つ異なるシリンダ・グループの排気ガスが別々の排気管内に導かれる多バンク排気系を備えた内燃機関における使用である。
【0031】
本発明の装置に関する課題は、診断装置内において、上記の方法が実行可能であり且つ特に排気ガス・センサのポンプ・セルを介して印加されたポンプ電圧の信号が評価されることにより解決される。
【0032】
以下に、本発明が図示された実施例により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、内燃機関の概略図を示す。
【図2a】図2aは、リッチ排気ガス組成における、排気ガス・センサとしての広帯域λセンサを略図で示す。
【図2b】図2bは、リーン排気ガス組成における、排気ガス・センサとしての広帯域λセンサを略図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、例として、本発明による方法が使用可能な技術的周辺図を示す。図1に、エンジン・ブロック40と、エンジン・ブロック40に燃焼空気を供給する給気管10とから構成された内燃機関1が示され、この場合、給気管10内の空気量は、給気測定装置20により決定可能である。この場合、内燃機関1の排気ガスは、排気ガス浄化装置を介して案内され、排気ガス浄化装置は、主構成要素として排気管50を有し、排気管50内において、排気ガスの流動方向に、場合により、触媒70の手前に第1の排気ガス・センサ60が、また場合により、触媒70の後方に第2の排気ガス・センサ80が配置されている。
【0035】
排気ガス・センサ60、80は、操作装置90と結合され、操作装置90は、排気ガス・センサ60、80のデータおよび給気測定装置20のデータから混合物を計算し、且つ燃料の配量のために燃料配量装置30を操作する。操作装置90と結合されて、または操作装置90内に組み込まれて、排気ガス・センサ60、80の信号を評価可能な診断装置100が設けられている。診断装置100はさらに、指示/記憶ユニットと結合されていてもよく、指示/記憶ユニットはここでは示されていない。エンジン・ブロック40の後方の排気管50内に配置された排気ガス・センサ60により、操作装置90を用いて、排気ガス浄化装置に対して最適浄化作用を達成するために適したλ値が設定可能である。触媒70の後方の排気管50内に配置された第2の排気ガス・センサ80は、同様に操作装置90内において評価され且つ従来技術の方法で排気ガス浄化装置の酸素吸蔵能力を決定するように働くことが可能である。
【0036】
ここで、1つの排気管50のみを有する内燃機関1が例示されている。しかしながら、本発明による方法は、シリンダが複数のグループにまとめられ且つ異なるシリンダ・グループの排気ガスが別々の排気管50内に導かれる多バンク排気系を有する内燃機関1にもまた拡張される。
【0037】
図2aおよび図2bは、本発明を実施するように広帯域λセンサとして設計され、且つ一方でリッチ排気ガス110(図2a)が、他方でリーン排気ガス120(図2b)が供給される排気ガス・センサ60を概略図で示す。
【0038】
例えば、ドイツ特許公開第102005061890A1号に記載されているような排気ガス・センサ60は、外部電極62および内部電極67を有するポンプ・セル並びに測定電極68および基準電極69を有する測定セルを含む。測定電極68および基準電極69は短絡されている。排気ガス・センサ60は、一般にプレーナ技術で複数の固体電解質層61から形成されている。さらに、センサ・エレメントを加熱するために、絶縁体内に埋め込まれた加熱装置が設けられている(図示されていない)。排気ガス110、120は、内孔の形の開口64および拡散隔壁65を通過して測定室66に供給可能である。この場合、測定室66内に、ポンプ・セルの内部電極67並びに測定セルの測定電極68が配置されている。排気ガス・センサ60の、排気ガス110、120に向けられた外側の外部電極62は、保護層63を有している。基準電極69は基準空気チャネル内に配置され、基準空気チャネルは周囲空気で満たされている。
【0039】
ネルンスト・セルを介して、測定電極68と基準電極69との間で電位差、いわゆるネルンスト電圧160が測定される。ポンプ・セルには外部から電圧が印加される。電圧は、ポンプ電流150と呼ばれる電流を発生し、ポンプ電流150により、極性の関数として、酸素イオンが搬送される。
【0040】
電子制御回路は、ポンプ・セルが、測定室66に対して、測定室66内にλ=1のλ値が設定されるように常に正確にそれに対応する酸素をO2−の形で測定室66に供給したりないしは測定室66から排出したりするように働き、この場合、リーン排気ガス120においては(空気過剰の場合)酸素が排出され、逆にリッチ排気ガス110においては酸素が供給される。制御回路により設定されたポンプ電流150は、排気ガス内の空気数λの関数であり且つ広帯域λセンサの出力信号を形成する。同伴成分として、特にOおよびNOもまた存在するリーン排気ガス120の場合には、ポンプ電流150は正であり、一方、同伴成分CO、HおよびHC(炭化水素)を有するリッチ排気ガス110の場合には、ポンプ電流150は負である。
【0041】
本発明により、広帯域λセンサとして設計された排気ガス・センサ60においては、ポンプ電流150に追加して、ポンプ・セルを介して即ち外部電極62と内部電極67との間に印加されたポンプ電圧が測定され、ポンプ電圧は、操作装置90に伝送され、且つ場合によりポンプ電流150から導かれる規則的なλ信号と組み合わされて、非同調診断ないしは個別シリンダ制御のために使用されるように設計されている。
【0042】
この場合、ポンプ・セルは2点λセンサのように機能する。一方の側は、排気ガス110、120に、また他方の側は、基準ガスに露出され、基準ガスの組成は一定でなくても、一定のネルンスト電位を有している。この場合、一定のネルンスト電位はポンプ電流150によりはじめて設定されるが、このことはそれほど重要ではない。しかしながら、2点λセンサとは異なり、ポンプ・セル内に電流が流れることが考慮されなければならない。したがって、ポンプ・セルを介しての電圧は、電流が流れていない電解質を表わす上記のネルンストの式(1)に対応しない。むしろ、ポンプ電流150を発生させるために、ポンプ電流の制御装置が、上記の式(1)とは異なる電圧を設定しなければならない。この相違は、ポンプ電流150およびポンプ・セルの内部抵抗から生じる。酸素以外に酸化性排気ガス成分または還元性排気ガス成分が存在しないという簡単化された仮定のもとで、ポンプ電圧は、次式により表わされる。
【0043】
【数3】

【0044】
ここで、UAbgasは排気側の電位を、UHohlraumは一定に保持された中空室側ないしは測定室66内の電位を、pO2,HohlraumおよびpO2,Abgasは測定室66内ないしは排気ガス110、120内の酸素分圧を表わす。Rはポンプ・セルの内部抵抗を、Iはポンプ電流150を、並びにTは温度を、Rは一般ガス定数を、およびFはファラデー定数を表わす。
ポンプ電流の方向は、排気ガス側から中空室側に向いている。酸素イオンは負に帯電されているので、この場合、酸素イオンの流れは、電流の流れとは反対方向である。排気ガスがリッチであればあるほど、それだけ多量の酸素イオンが搬送されなければならないので、ポンプ電流I150は、排気ガスの酸素濃度ないしは酸素分圧pO2,Abgasと共に上昇する。
本方法の他の一実施変更態様において、個別シリンダλ制御における非同調診断に関して、測定ポンプ電圧U(t)に対して帯域特性または差特性を有するフィルタDが適用され、フィルタDは、シリンダごとのλ変動によって発生されるU(t)の周波数のみを透過させる。フィルタDの伝達特性は、運転点の関数であり且つ特に内燃機関1の回転数の関数である。勾配の絶対値から、エラーのないシステムに対して可能であると仮定された勾配に対応する補正項Kが減算される。補正項Kは、同様に運転点の関数であってもよい。しかしながら、説明を簡単にするために、フィルタDおよび補正項Kの関数関係は、以下に詳細には説明されない。エラーのないシステムに対して、D(U(t))およびKの間の差は常に負でなければならない。しかしながら、シリンダごとのλ変動に起因しない短時間の妨害は一時的に正であってもよい。
【0045】
したがって、確実な非同調診断を達成させるために、下側が0で制限された差の積分が形成される。この積分は、Wとして表わされ且つ非同調診断の診断値である。Wの形成法則は次のようになる。
【0046】
【数4】

【0047】
Wが特定のしきい値を超えたときに、非同調エラーが診断される。
上記の方法の変更態様を用いて、個別シリンダλ制御の偏差が、追加の材料費用なしにより良好に診断可能であり、このことは、特に、オンボード診断における厳しい法規制に関して利点を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのシリンダと、広帯域λセンサとして設計された排気ガス・センサ(60)と、を備えた内燃機関(1)であって、排気ガス・センサ(60)においてポンプ・セル内を流れるポンプ電流(150)が評価され且つこのポンプ電流(150)が少なくとも一時的にシリンダごとのλ制御に使用される、内燃機関(1)の個別シリンダλ制御における偏差の診断方法において、
ポンプ電流(150)に追加して前記ポンプ・セルを介するポンプ電圧ないしはポンプ電圧変化が決定され且つこの決定された値が診断装置(100)に伝送されることを特徴とする個別シリンダλ制御における偏差の診断方法。
【請求項2】
前記ポンプ電圧ないしはポンプ電圧変化が、診断装置(100)内において、排気ガス・センサ(60)の規則的なλ信号と組み合わされて評価されることを特徴とする請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
排気ガス・センサ(60)の前記規則的なλ信号を用いて、全てのシリンダの平均λ値が1に等しいかまたはほぼ1に等しくなるように制御され、且つ前記ポンプ電圧の信号が評価されることを特徴とする請求項1または2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記ポンプ電圧の測定信号に、帯域特性または差特性を有するフィルタが適用されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の診断方法。
【請求項5】
前記フィルタの伝達特性が、運転点の関数として設定され且つ内燃機関(1)の回転数の関数として調節されることを特徴とする請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
前記フィルタによりフィルタリングされたポンプ電圧信号の勾配の絶対値から、エラーのないシステムに対してモデルとして仮定され且つ同様に運転点の関数として設定された補正項が減算され、この差が時間積分されることを特徴とする請求項4または5に記載の診断方法。
【請求項7】
前記時間積分に対する特定のしきい値を超えた場合、非同調エラーが診断されることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の診断方法。
【請求項8】
前記ポンプ電圧の時間信号に対して周波数分析が実行され且つ周波数分析において決定された周波数成分に基づいて、非同調診断またはシリンダ均等化が行われることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の診断方法。
【請求項9】
前記ポンプ電圧に対する信号と排気ガス・センサ(60)の前記規則的なλ信号との比較により、排気ガス・センサ(60)の不感時間または他の動特性変数が決定されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の診断方法。
【請求項10】
前記シリンダが複数のグループにまとめられ且つ異なるシリンダ・グループの排気ガスが別々の排気管内に導かれる多バンク排気系を備えた内燃機関(1)における請求項1ないし9のいずれかに記載の診断方法の適用。
【請求項11】
請求項1ないし9に記載の診断方法を実施するための装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2013−513053(P2013−513053A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541382(P2012−541382)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066930
【国際公開番号】WO2011/069760
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】