説明

倒立型移動体及びその制御方法

【課題】特別なセンサを用いずに搭乗者の姿勢を推定可能とし、良好な制御を実現可能とする。
【解決手段】倒立型移動体201は、車輪106と、プラットフォーム101と、プラットフォーム101の鉛直方向に対する傾斜角と、車輪106の回転角度と、車輪106の回転駆動トルク指令と、車輪106の質量と、車輪106の半径と、車輪106の回転軸に関する慣性モーメントと、搭乗者202の質量と、プラットフォーム101と搭乗者102の重心との間の距離と、に基づいて、搭乗者102の鉛直方向に対する搭乗者姿勢を搭乗者姿勢推定値として推定する搭乗者姿勢推定器108と、プラットフォーム101の鉛直方向に対する傾斜角と、搭乗者姿勢推定器108で推定した搭乗者姿勢推定値と、車輪106の回転角度と、に基づいて、車輪106の回転駆動を制御する制御器103と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立型移動体及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、搭乗者を搭乗させた上で倒立状態を維持しながら移動する倒立型移動体が開発されている。このような倒立型移動体としては、搭乗者を搭乗させるプラットフォームと、プラットフォームの倒立状態を維持して移動体を移動させる車輪と、車輪を駆動するモータと、モータへのモータ電流を出力する制御器と、プラットフォームの傾斜角を検出する検出器と、制御器などへ電源供給するバッテリと、を備えたものが良く知られている(例えば特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
図6を参照して、特許文献1に開示された倒立型移動体について簡単に説明する。図6は、特許文献1(段落0066や図11)に示される倒立型移動体の概略構成図である。図に示すように、倒立型移動体201は、プラットフォーム101及び車輪106を備えている。倒立型移動体201は、プラットフォーム101に搭乗者202が搭乗し、車輪106をモータ(不図示)駆動して回転することで、プラットフォーム101の倒立状態を維持して移動する。倒立型移動体201では、プラットフォーム101の傾斜角を搭乗者202が変化させることにより、モータが発生するモータトルクが変化し、検出器(不図示)により検出された傾斜角に応じて求められる方向と速度に従って移動する。
【0004】
また特許文献2には、台車設置面が傾いた場合や荷重の変動等があった場合においても、安定した倒立制御を可能とする倒立型移動体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−502002号公報
【特許文献2】特開2004−295430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の倒立型移動体の制御では、プラットフォームと搭乗者とを一体とみなし、プラットフォームの傾きのみに基づいた制御を行うものであった。すなわち、従来の倒立型移動体の制御では、搭乗者の姿勢自体を考慮した制御を行っていないものであった。
【0007】
しかし、実際には、搭乗者はプラットフォームとは必ずしも一体ではない。このため、プラットフォームの傾きのみに基づいて制御すると、搭乗者の安全の確保が困難となることがある。その一例として、プラットフォームを搭乗者が前傾させた時に搭乗者の重心が後方に位置する場合には、そのプラットフォームの傾きに応じて倒立型移動体が前方に加速し続けてしまい、搭乗者が後方へと引っ張られて安全に搭乗することが困難になるおそれがある。従って、例えばこのような場合おいても搭乗者の安全性を確保するために、安全性の観点から、搭乗者の姿勢を推定可能とすることが強く求められている。
【0008】
また、倒立型移動体のように前後揺動する不安定な移動体においては、搭乗者がより快適に搭乗して移動できるように、その乗り心地を向上させることが求められている。すなわち、乗り心地の観点からも、搭乗者の姿勢を推定可能とすることが強く求められている。
【0009】
ところで、搭乗者の姿勢を計測(検出)するためには、ジャイロセンサや加速度センサなどのセンサを搭乗者に配置すればよいとも考えられる。
しかし、このようなセンサを追加すると、コストの増加、搭乗者への取り付けの手間、配線構成の複雑化などを招いてしまう。
【0010】
従って、本発明は、上述した課題を解決して、搭乗者の姿勢計測用の特別なセンサを用いずに搭乗者の姿勢を推定可能とし、安全性や乗り心地の観点から良好な制御を実現可能とする倒立型移動体及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第一の態様の倒立型移動体は、搭乗者が搭乗する搭乗台と、前記搭乗台を移動させ断面が円形の回転体と、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記回転体の回転駆動トルク指令と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、前記搭乗者の鉛直方向に対する搭乗者姿勢を搭乗者姿勢推定値として推定する搭乗者姿勢推定器と、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の回転角度と、に基づいて、前記回転体の回転駆動を制御する制御器と、を備えるものである。
【0012】
これにより、搭乗者の姿勢計測用の特別なセンサを用いずに搭乗者の姿勢を推定することができ、安全性や乗り心地の観点から良好な制御を実現することができる。
【0013】
また、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の回転角度と、に基づいて、前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足するか否かを判定する後方転倒条件判定器を更に備え、前記制御器は、前記後方転倒条件判定器で前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足していると判定された場合には、前記搭乗者の後方転倒を回避するように制御を行うようにしてもよい。これにより、搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足するか否かを判定することができ、後方転倒条件を満足する場合において、搭乗者の後方転倒を回避するように制御を行うことが可能となる。
【0014】
さらにまた、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記搭乗者姿勢の時間微分値と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、後方転倒回避トルク指令を演算する後方転倒回避トルク指令演算器を更に備え、前記制御器は、前記後方転倒条件判定器で前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足していると判定された場合には、前記後方転倒回避トルク指令演算器で演算した後方転倒回避トルク指令に基づく制御を行うようにしてもよい。これにより、後方転倒回避トルク指令を演算することができ、後方転倒条件を満足する場合において、後方転倒回避トルク指令に基づく制御を行うことが可能となる。
【0015】
また、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、前記搭乗者姿勢の時間微分値を搭乗者姿勢時間微分推定値として推定する搭乗者姿勢時間微分推定器を更に備え、前記後方転倒回避トルク指令演算器は、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記搭乗者姿勢時間微分推定器で推定した搭乗者姿勢時間微分推定値と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、後方転倒回避トルク指令を演算するようにしてもよい。これにより、搭乗者姿勢時間微分を推定することができ、これに基づいて後方転倒回避トルク指令を演算することが可能となる。
【0016】
さらにまた、前記搭乗者姿勢推定器は、θ:前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角、
θ:前記回転体の回転角度、r:前記回転体の半径、l:前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離、m:前記搭乗者の質量、m:前記回転体の質量、J:前記回転体の回転軸に関する慣性モーメント、T:前記回転体の回転駆動トルク指令、θ^:前記搭乗者姿勢推定値、として、以下の式(31)を用いて、前記搭乗者姿勢推定値を推定するようにしてもよい。
【数1】

【0017】
また、前記後方転倒条件判定器は、θ:前記回転体の回転角度、θ^:前記搭乗者姿勢推定値、として、以下の式(32)を用いて、前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足するか否かを判定するようにしてもよい。
【数2】

【0018】
さらにまた、前記後方転倒回避トルク指令演算器は、θ:前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角、θ:前記回転体の回転角度、θ^:前記搭乗者姿勢推定値、θ(・)、θ(・・):前記搭乗者姿勢の時間微分推定値、r:前記回転体の半径、l:前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離、m:前記搭乗者の質量、m:前記回転体の質量、J:前記回転体の回転軸に関する慣性モーメント、Tmp:前記後方転倒回避トルク指令、として、以下の式(34)を用いて、前記後方転倒回避トルク指令を演算するようにしてもよい。
【数3】

【0019】
また、前記搭乗者姿勢時間微分推定器は、θ:前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角、θ:前記回転体の回転角度、θ^:前記搭乗者姿勢推定値、r:前記回転体の半径、l:前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離、m:前記搭乗者の質量、m:前記回転体の質量、J:前記回転体の回転軸に関する慣性モーメント、Tmp:前記後方転倒回避トルク指令、θ(・)、θ(・・):前記搭乗者姿勢時間微分推定値、として、以下の式(33)を用いて、前記搭乗者姿勢時間微分推定値を推定するようにしてもよい。
【数4】

【0020】
さらにまた、前記回転体が、対向する2つの車輪であるようにしてもよい。
【0021】
本発明に係る第二の態様の倒立型移動体の制御方法は、搭乗者が搭乗する搭乗台と、前記搭乗台を移動させる断面が円形の回転体と、を備える倒立型移動体の制御方法であって、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記回転体の回転駆動トルク指令と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、前記搭乗者の鉛直方向に対する搭乗者姿勢を搭乗者姿勢推定値として推定する搭乗者姿勢推定ステップと、前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の回転角度と、に基づいて、前記回転体の回転駆動を制御する制御ステップと、を有するものである。
【0022】
これにより、搭乗者の姿勢計測用の特別なセンサを用いずに搭乗者の姿勢を推定することができ、安全性や乗り心地の観点から良好な制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特別なセンサを用いずに搭乗者の姿勢を推定可能とし、良好な制御を実現可能とする倒立型移動体及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施の形態1に係る倒立型移動体の制御装置の機能ブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る倒立型移動体の側面図である。
【図3】実施の形態1に係るシミュレーション結果におけるプラットフォーム傾斜角と搭乗者姿勢を示すグラフである。
【図4】実施の形態1に係るシミュレーション結果における車輪速度を示すグラフである。
【図5】実施の形態1に係るシミュレーション結果におけるトルク指令を示すグラフである。
【図6】本発明に関連する倒立型移動体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下では、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0026】
図2は、本発明の実施の形態1に係る倒立型移動体の側面図を示す。
図に示すように、倒立型移動体201は、搭乗者202が搭乗するプラットフォーム101と、プラットフォーム101を移動させる一対の車輪106と、を備えている。倒立型移動体201は、搭乗者202がプラットフォーム101に搭乗して移動する。なお、以下では、搭乗者202及びプラットフォーム101を合わせて負荷体と称する場合がある。
【0027】
図2において、一対の車輪106は同軸上に配置されており、各車輪106は、一対の車輪106をそれぞれ独立に駆動するモータ104(後述する図1に示す。)と、減速機105(図1に示す。)と、を介して連結されている。
【0028】
また、倒立型移動体201は、プラットフォーム傾斜角検出器102(図1に示す。)と、車輪角度検出器107(図1に示す。)と、制御装置100(図1に示す。)と、を備えている。
【0029】
プラットフォーム傾斜角検出器102は、プラットフォーム101が車軸と回転可能に連結する部分に設置されている。車輪角度検出器107は、車軸に設置されている。詳細は後述するが、制御装置100の制御器103(図1に示す。)は、プラットフォーム傾斜角検出器102からのプラットフォーム傾斜角検出値と、車輪角度検出器107からの車輪角度検出値と、を用いて、倒立型移動体201の倒立状態を維持しながら走行させるように、モータ104の回転を制御する。
【0030】
ここで、図2に示す各記号の定義を説明する。
θ:プラットフォーム傾斜角(プラットフォーム101の法線が鉛直方向と時計回りになす角度)
θ:車輪角度(鉛直方向と時計回りになす車輪106の回転角度)
θ:搭乗者姿勢(搭乗者202の重心を通る体の中心線が、鉛直方向と時計回りになす角度)
r:車輪半径
:プラットフォーム搭乗者重心間距離(プラットフォーム101と、搭乗者202の重心との間の距離であって、より詳細には、搭乗者202の体の中心線とプラットフォーム101の交点と、搭乗者202の重心と、の間の距離)
【0031】
なお、図2では図示は省略するが、倒立型移動体201は、プラットフォーム101が設けられる移動体本体を備えるものとしてもよい。また、一対の車輪106は、移動体本体に対して一体的に固定された車軸に対して各々独立して回転可能としてもよい。
【0032】
次に、図1を参照して、図2に示した倒立型移動体の制御装置の構成を説明する。
図1は、本実施の形態に係る倒立型移動体の制御装置の機能ブロック図である。
図に示すように、制御装置100は、制御器103と、搭乗者姿勢推定器108と、後方転倒条件判定器109と、搭乗者姿勢時間微分推定器110と、後方転倒回避トルク指令演算器111と、を備えている。なお、プラットフォーム101と、プラットフォーム傾斜角検出器102と、モータ104と、減速機105と、車輪106と、車輪角度検出器107と、については図2を参照して既に説明したため、以下では、その詳細な説明を省略する。
【0033】
搭乗者姿勢推定器108は、プラットフォーム傾斜角検出器102からのプラットフォーム傾斜角検出値θ(以下では、図2で説明したプラットフォーム傾斜角と同じ記号を用いて簡単に説明する。)と、車輪角度検出器107からの車輪角度検出値θ(以下では、図2で説明した車輪角度と同じ記号を用いて簡単に説明する。)と、制御器103からのモータトルク指令Tと、が入力され、搭乗者姿勢θを推定し、搭乗者姿勢推定値θ^として出力する(以下、記号ハット「^」は、推定値であることを示す。)。なお、搭乗者姿勢推定器108による搭乗者姿勢推定の原理の詳細については後述する。
【0034】
後方転倒条件判定器109は、車輪角度検出値θと、搭乗者姿勢推定値θ^と、が入力され、搭乗者202が後方転倒する可能性が高い条件を満足するか否かを判定し、後方転倒条件判定結果を出力する。なお、搭乗者202が後方転倒する可能性が高い条件の詳細については、後述する。
【0035】
搭乗者姿勢時間微分推定器110は、プラットフォーム傾斜角検出値θと、車輪角度検出値θと、搭乗者姿勢推定値θ^と、後方転倒条件判定結果と、が入力され、後方転倒条件が満たされている場合には、搭乗者姿勢時間微分を推定して、搭乗者姿勢時間微分推定値(θ(・)、θ(・・))として出力する(以下、記号ドット「・」は、時間微分を示す。「(・)」は1階時間微分を、「(・・)」は2階時間微分をそれぞれ示す。)。なお、後方転倒条件が満たされていない場合には、搭乗者姿勢時間微分推定器110は、何も実行しない。搭乗者姿勢時間微分推定器110による搭乗者姿勢時間微分推定の原理の詳細については後述する。
【0036】
後方転倒回避トルク指令演算器111は、プラットフォーム傾斜角検出値θと、車輪角度検出値θと、搭乗者姿勢推定値θ^と、搭乗者姿勢時間微分推定値(θ(・)、θ(・・))と、後方転倒条件判定結果と、が入力され、後方転倒条件が満たされている場合には、後方転倒回避トルク指令Tmpを演算して出力する。後方転倒回避トルク指令演算器111は、後方転倒条件が満たされていない場合には、何も実行しない。後方転倒回避トルク指令演算器111による後方転倒回避トルク指令演算の原理の詳細については後述する。
【0037】
なお、後方転倒回避トルク指令Tmpは、搭乗者202の後方転倒回避動作を倒立型移動体201に実行させる際に必要とする、モータトルクTの目標値となる。また、モータトルクTは、減速機105により減速した後、車輪106の車軸に伝達されるトルクである(Tは、モータトルクの目標値であるトルク指令を表し、以下では、モータトルクとモータトルク指令は、共に同じ記号Tを用いて簡単に説明する。)。
【0038】
制御器103は、プラットフォーム傾斜角検出値θと、車輪角度検出値θと、後方転倒条件判定結果と、後方転倒回避トルク指令Tmpと、が入力され、モータトルク指令Tを算出し、モータ104に対してモータ電流を出力する。制御器103は、後方転倒条件が満たされている場合には、モータトルクTが後方転倒回避トルク指令Tmpに追従するように、モータ電流を出力する。制御器103は、後方転倒条件が満たされていない場合には、倒立型移動体201と搭乗者202の両方の倒立状態を維持するように、プラットフォーム傾斜角検出値θに応じたモータトルク指令Tを算出して、モータ電流を出力する。
【0039】
なお、制御器103は、後方転倒条件が満たされている場合には、通常の倒立制御(プラットフォーム101の傾斜角のみを考慮する制御)から、搭乗者202の後方転倒を回避することを目的とした、搭乗者202の姿勢を重視した制御に切り替えるため、後方転倒回避のための制御を実行した結果、プラットフォーム101が地面と接触することも考えられる。
【0040】
例えば、プラットフォーム101が前方に傾いており、かつ、搭乗者202が後に倒れている状況において後方転倒条件が満たされた場合には、制御器103が搭乗者202の姿勢を重視して制御した結果、前方の地面に接地するほどプラットフォーム101が前方に傾くことがある。ここで、仮にプラットフォーム101が地面に接地したとしても、プラットフォーム101の前方へのそれ以上の回転は停止し、搭乗者202が前方へと進む速度も0となる。この結果、搭乗者202の姿勢は上に向いた状態となるため、搭乗者202は、プラットフォーム101から安全かつ容易に降車することができる。すなわち、後方転倒回避のための制御を実行した結果、仮にプラットフォーム101が地面と接触したとしても、搭乗者202は、倒立型移動体201から安全かつ容易に降車することができる。
【0041】
なお、制御装置100は、電気・電子・プログラマブル電子制御系として実現されている。例えば、制御装置100は、演算処理等を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアにより、制御装置100の各器を実現してもよい。
【0042】
続いて以下では、上述した搭乗者姿勢推定器108などの具体的な動作原理を導出し、その詳細を説明する。
まず、上述した図2を参照しながら、倒立型移動体201と搭乗者202についての運動方程式を導出する。倒立型移動体201及び搭乗者202の運動エネルギーKと、ポテンシャルエネルギーUとは、以下の式(1)及び式(2)を用いてそれぞれ表される。
【0043】
【数5】

【数6】

【0044】
ここで、上式における各記号は、以下の通り定義される。
:搭乗者質量
:車輪質量
:搭乗者202とプラットフォーム101とを合わせた負荷体についての車軸に関する慣性モーメント(以下、「車軸に関する負荷体慣性モーメント」と称する。)
:車輪106の車軸に関する慣性モーメント(以下、「車軸に関する車輪慣性モーメント」と称する。)
:搭乗者202の重心の水平位置(以下、「搭乗者重心水平位置」と称する。)
:搭乗者202の重心の垂直位置(以下、「搭乗者重心垂直位置」と称する。)
:車輪106の水平位置(以下、「車輪水平位置」と称する。)
【0045】
図2に示したように、搭乗者重心水平位置x、搭乗者重心垂直位置y、車輪水平位置xは、以下の式(3)、式(4)、式(5)を用いてそれぞれ表される。
【0046】
【数7】

【数8】

【数9】

また、車軸に関する負荷体慣性モーメントJは以下の(6)を用いて表される。
【数10】

【0047】
ここで、上式における各記号は、以下の通り定義される。
10:搭乗者202の重心に関する負荷体の慣性モーメント
l:車軸と搭乗者202の重心との間の距離
【0048】
上述した式(3)から式(6)を、式(1)及び式(2)に代入することで、以下の式(7)及び式(8)をそれぞれ得る。
【0049】
【数11】

【数12】

【0050】
倒立型移動体201及び搭乗者202の運動方程式は、ラグランジアンL=K−Uを用いて、以下の式(9)から式(11)を用いて表される。なお、dは、外乱トルクを示す。
【0051】
【数13】

【数14】

【数15】

【0052】
上述した式(7)及び式(8)を、式(9)から式(11)に代入することで、以下の式(12)から式(14)に示す運動方程式をそれぞれ得る。
【0053】
【数16】

【数17】

【数18】

【0054】
次に、搭乗者姿勢推定器108の動作原理について説明する。以下、上述した運動方程式から、搭乗者姿勢推定のために用いる式を導出する。
まず、上述した運動方程式のうち式(13)を、以下の式(15)に示すように書き換える。
【数19】

【0055】
搭乗者202が倒立型移動体201に搭乗してその動作を開始する際には、プラットフォーム傾斜角θ、車輪角度θ、搭乗者姿勢θ3、及びそれぞれの時間微分値を、全て0[rad]であると想定することができる。この想定において、上述した式(15)を2階時間積分することで、以下の式(16)を得る。
【0056】
【数20】

【0057】
この式(16)を搭乗者姿勢θについて解くことで、以下の式(17)を得る。
【0058】
【数21】

【0059】
搭乗者姿勢θについての式(16)から、搭乗者姿勢推定値θ^について以下の式(18)を得る。これにより、搭乗者姿勢推定器108は、式(18)を用いて、搭乗者姿勢推定値θ^を算出する。
【0060】
【数22】

【0061】
ここで、上式における各記号は、以下の通り定義される。
:モータトルクの目標値であるトルク指令を表し、モータトルクとトルク指令は、共に同じ記号Tを用いて簡単に説明する。
【0062】
従って、搭乗者姿勢推定器108は、入力されるプラットフォーム傾斜角θと、車輪角度θと、モータトルク指令Tと、に基づいて、搭乗者姿勢推定値θ^を式(18)により算出することができる。なお、入力されるTは、制御器102で算出された1制御周期前のトルク指令値(T又はTmp)を示す。
【0063】
次に、後方転倒条件判定器109の動作原理について説明する。
搭乗者202の姿勢と車輪角度との関係において、搭乗者202が後方転倒する可能性が高い条件は、以下の式(19)を用いて表すことができる。
【0064】
【数23】

【0065】
式(19)では、搭乗者姿勢θが負であり、かつ、車輪角度θの加速度が正である状態(すなわち、搭乗者202の重心が後方にあり、かつ、倒立型移動体201が前方に加速している状態)を示している。このような状況では、車輪の加速度が前向きであることから搭乗者202は相対的に後方へと引っ張られてしまうため、後方転倒の可能性が高いと考えられるからである。
【0066】
従って、後方転倒条件判定器109は、入力される搭乗者姿勢推定値θ^及び車輪角度θの加速度に基づいて、後方転倒条件を満足するか否かを以下の式(20)により判定することができる。後方転倒条件判定器109は、後方転倒条件を満足するか否かを示す信号を、後方転倒条件判定結果として出力する。
【0067】
【数24】

【0068】
次に、搭乗者姿勢時間微分推定器110の動作原理について説明する。
まず、上述した運動方程式のうち式(14)を、以下の式(21)に示すように書き換える。
【0069】
【数25】

【0070】
この式(21)に対する推定器を、以下の式(22)により実現する。
【0071】
【数26】

ここで、上式における各記号は、以下の通り定義される。なお、記号チルダ「〜」は、推定誤差であることを示す。
s:搭乗者姿勢推定誤差θ
c:搭乗者姿勢推定誤差θが0に収束する速さ
M:推定器パラメータ
sgn(・):シグナム関数
【0072】
この式(22)を上述した式(21)から減算することで、以下の式(23)に示す推定誤差方程式を得る。
【0073】
【数27】

【0074】
この式(23)において、搭乗者姿勢推定誤差θのダイナミクスを表すパラメータsを0に収束させると、搭乗者姿勢推定誤差θはexp(−c・t)の速さで0に収束する。すなわち、搭乗者姿勢推定誤差θは、exp(−c・t)の速さで搭乗者姿勢θに収束する。
【0075】
搭乗者姿勢推定誤差θのダイナミクスを表すパラメータsを0に収束させるような推定器パラメータMを決定するため、以下の式(24)に示すリアプノフ関数候補Vを導入する。
【0076】
【数28】

【0077】
この式(24)を1階時間微分することで、以下の式(25)を得る。
【0078】
【数29】

【0079】
この式(25)により求まる値に関して、推定器パラメータMが、以下の式(26)に示す条件を満足する場合には、全てのsに対して負値をとることが分かる。
【0080】
【数30】

【0081】
従って、式(26)により式(25)が負値をとるため、式(24)のリアプノフ関数候補Vは、正値をとりながら単調減少し、0に収束する。リアプノフ関数候補Vが0に減少すると、搭乗者姿勢推定誤差θのダイナミクスを表すパラメータsが0に収束するため、以下に示す式(27)が成立する。
【0082】
【数31】

【0083】
従って、搭乗者姿勢時間微分推定器110は、入力されるプラットフォーム傾斜角θと、車輪角度θと、搭乗者姿勢推定値θ^と、に基づいて、搭乗者姿勢時間微分推定値(θ(・)、θ(・・))を、式(22)及び式(26)により算出することができる。搭乗者姿勢時間微分推定器110は、後方転倒条件(式(20))が満たされている場合にのみ搭乗者姿勢時間微分推定値(θ(・)、θ(・・))を算出し、後方転倒条件(式(20))が満たされていない場合には、何も実行しない。
【0084】
なお、搭乗者姿勢時間微分推定器110を用いずに、上述した式(18)により算出した搭乗者姿勢推定値θ^を直接時間微分することにより、搭乗者姿勢推定値θ^の時間微分値を算出することも可能である。しかし、このようにして搭乗者姿勢推定値θ^の時間微分値を算出すると、ノイズを多く含む値が得られることがある。このようなノイズを多く含む値を用いて後方転倒回避のための制御を実施すると、後方転倒を回避する効果が半減する可能性がある。従って、本実施の形態では、搭乗者姿勢時間微分推定器110を用いることで、ノイズをほとんど含まない搭乗者姿勢推定値θ^の時間微分値を推定可能としている。
【0085】
次に、後方転倒回避トルク指令演算器112の動作原理について説明する。
まず、後方転倒条件(式(20))が満たされている場合には、搭乗者姿勢θを0[rad]に向けて単調増加させることで、搭乗者202の後方転倒を回避することができる。すなわち、以下の式(28)が成立するようなモータトルクTによって、倒立型移動体201の動作を制御する。
【0086】
【数32】

【0087】
ここで、上式における各記号は、以下の通り定義される。
:後方転倒回避トルク指令演算器111が、後方転倒条件判定器109から後方転倒条件(式(20))を満足したという後方転倒条件判定結果を受信した時間
σ:正数であり、搭乗者姿勢θが、負の方向から0[rad]に収束する速さ
【0088】
上述した式(28)と式(13)を用いることで、以下の式(29)を得る。
【0089】
【数33】

【0090】
従って、後方転倒回避トルク指令演算器111は、入力されるプラットフォーム傾斜角θと、車輪角度θと、搭乗者姿勢推定値θ^と、搭乗者姿勢時間微分推定値(θ(・)、θ(・・))と、に基づいて、後方転倒回避トルク指令Tmpを以下に示す式(30)により算出することができる。これにより、後方転倒回避トルク指令Tmpに基づく制御を行うことで、搭乗者姿勢θを0[rad]に収束させることができ、搭乗者202の転倒を回避することができる。後方転倒回避トルク指令演算器111は、後方転倒条件(式(20))が満たされている場合にのみ後方転倒回避トルク指令Tmpを算出し、後方転倒条件(式(20))が満たされていない場合には、何も実行しない。
【0091】
【数34】

【0092】
以上説明した動作原理に従って、搭乗者姿勢推定器108は、式(18)に基づいて搭乗者姿勢推定値θ^を算出する。後方転倒条件判定器109は、式(20)に基づいて後方転倒条件が満たされているか否かを判定する。搭乗者姿勢時間微分推定器110は、後方転倒条件が満たされている場合、式(22)と式(26)に基づいて搭乗者姿勢時間微分推定値(θ(・)、θ(・・))を算出する。後方転倒回避トルク指令演算器111は、後方転倒条件が満たされている場合、式(30)に基づいて後方転倒回避トルク指令Tmpを算出する。制御器103は、後方転倒条件が満たされている場合には、モータトルクTが後方転倒回避トルク指令Tmpに追従するように、モータ104の回転を制御する。
【0093】
なお、式(18)などの計算に用いる各種パラメータ(搭乗者質量m、プラットフォーム搭乗者重心間距離l、車輪質量m、車輪半径r、車軸に関する車輪慣性モーメントJなど)は、それぞれ適当な値が設定される。これらパラメータのうち、搭乗者質量m及びプラットフォーム搭乗者重心間距離lについては、ユーザが適当な値を予め設定するものとしてもよいし、搭乗時などに倒立型移動体201が公知の手法により自動で推定・設定するものとしてもよい。
【0094】
このようにして、本実施の形態によれば、倒立型移動体201の走行中に搭乗者202の姿勢を特別な検出器を付加することなく推定することができる。そして、搭乗者202の姿勢の推定値に基づいて、後方転倒する可能性が高い条件を満たすか否かを判定し、後方転倒する可能性が高いと判定した場合には、搭乗者202が後方転倒を回避しやすいように倒立型移動体201の動作を制御することができる(倒立型移動体201の倒立状態を維持することに比べて、搭乗者202を後方転倒させないことをより重視した制御を実施する)。
【0095】
続いて、以下では、本実施の形態についてのシミュレーション結果を説明する。シミュレーションに用いた数値は以下の通りである。
=70[kg]、
10=25.2[kg・m]、
=5[kg]、
=0.025[kg・m]、
=0.8[m]、
r=0.1[m]、
g=9.8[m/s]、
σ=0.2(2π)[rad/s]、
d=0[N・m]、
θ(0)=π/4[rad]、
θ(・)(0)=0[rad/s]、
θ(・・)(0)=0[rad/s]、
θ(0)=0[rad]、
θ(・)(0)=60[rad/s]、
θ(・・)(0)=0[rad/s]、
θ(0)=−π/4[rad]、
θ(・)(0)=0[rad/s]、
θ(・・)(0)=0[rad/s
【0096】
ここで、各記号は、以下の通り定義される。
θ(0):プラットフォーム傾斜角θの初期値
θ(・)(0):プラットフォーム傾斜角速度θ(・)の初期値
θ(・・)(0):プラットフォーム傾斜角加速度θ(・・)の初期値
θ(0):車輪角度θの初期値
θ(・)(0):車輪角速度θ(・)の初期値
θ(・・)(0):車輪角加速度θ(・・)の初期値
θ(0):搭乗者姿勢θの初期値
θ(・)(0):搭乗者姿勢θの1階時間微分値θ(・)の初期値
θ(・・)(0):搭乗者姿勢θの2階時間微分値θ(・・)の初期値
【0097】
本シミュレーションでは、上述の数値例に対する、搭乗者202の後方転倒を回避する際の数値計算例を示す。本シミュレーションでは、倒立型移動体201が一定速度で前進中に、搭乗者202が後方にバランスを崩した状況を模擬している。なお、この状況では、搭乗者202が後方にバランスを崩した際には、搭乗者202の上体は後向けに仰け反っているが、搭乗者202の足裏はプラットフォーム101から離れずに着いたままであるとする。
【0098】
図3乃至図5は、上述した状況での、本実施の形態にかかるシミュレーション結果を示すグラフである。図3は、プラットフォーム傾斜角(platform angle)と、搭乗者姿勢(passenger posture angel)の時間変化を示すグラフである。図4は、車輪角速度(wheel speed)の時間変化を示すグラフである。図5は、トルク指令(torque reference input)の時間変化を示すグラフである。
【0099】
図3では、本実施の形態にかかる搭乗者姿勢θ及び搭乗者姿勢推定値θ^を、実線を用いて示し、プラットフォーム傾斜角θを、破線を用いて示している。なお、搭乗者姿勢推定器108が式(18)に基づいて算出した搭乗者姿勢推定値θ^は、搭乗者姿勢θに良く一致するために、搭乗者姿勢θに重なって示されている。
【0100】
図3において、上述したように搭乗者202が後方にバランスを崩したタイミングを0[s]とする。このとき、プラットフォーム傾斜角θはπ/4[rad]であり、搭乗者姿勢θは−π/4[rad]である(すなわち、プラットフォーム101は前傾しているが、搭乗者201の姿勢は後傾している)。そして、この0[s]において、後方転倒条件が満たされたものとする。
【0101】
従来技術では、図2に例示したプラットフォーム101と搭乗者202とを一つの負荷体と見なして、その負荷体の倒立状態を維持しようとする。しかし、実際にはプラットフォーム101と搭乗者202とは一体ではないために、従来技術によると、プラットフォーム101の倒立状態のみを維持しようとする結果、搭乗者202が後方へと引っ張られて安全な搭乗が困難となるおそれがある(すなわち、図3に示す状況に対して、搭乗者姿勢θが、−π/4[rad]から単調減少する。)。
【0102】
これに対して本実施の形態では、搭乗者202の後方転倒を回避するために、搭乗者姿勢推定器108により搭乗者姿勢推定値θ^(図3において実線で示す。)を推定し、その推定した搭乗者姿勢推定値θ^に基づいて、搭乗者202が後方にバランスを崩しているか否か(後方転倒条件(式(20))を満足するか否か)を後方転倒条件判定器109により判定し、搭乗者202が後方にバランスを崩している場合には、搭乗者姿勢θを0[rad]に収束させるように制御している。
【0103】
本実施の形態では、図3において、車輪角速度θの時間変化に伴ってプラットフォーム傾斜角θは徐々に減少する。また、搭乗者姿勢θが0[rad]に収束すると、搭乗者202は後方にバランスを崩していないものと判定され、プラットフォーム傾斜角θのみに基づいた通常の倒立制御を実施する。
【0104】
図4に示すように、車輪角速度(wheel speed)は、後方にバランスを崩している搭乗者202に前向きの加速度を加えるために、0[s]から1.5[s]の間には急減減速し、それ以降は、搭乗者姿勢θを0[rad]に収束させるように徐々に加速している。すなわち、一旦速度を落とすことで、後向きの搭乗者202に前向きの力を加え、搭乗者202の姿勢がある程度戻ってきた後は、その慣性により搭乗者202の姿勢を戻してやればよいために、以後では、車輪を加速して速度を上げるように制御している。
【0105】
図5では、既に搭乗者202が後方にバランスを崩しているものと判定されているために、後方転倒回避トルク指令Tmpがトルク指令Tとして算出されている。図5において、後方転倒回避トルク指令Tmpは、後方にバランスを崩している搭乗者202に対して前向きの加速度を加えるために、最初は、比較的大きな値をとる。そして、搭乗者姿勢θが0[rad]に近づくにつれて後方転倒回避トルク指令Tmpは徐々に減少してゆき、プラットフォーム101と搭乗者202とを合わせた負荷体の慣性力に応じた値へと収束する。
【0106】
以上説明したように、本発明によれば、倒立型移動体201の走行中に搭乗者202の姿勢を特別な検出器を付加することなく推定することができる。従って、安全性や乗り心地の観点から良好な制御を実現可能とすることができる。
【0107】
安全性の観点からは、例えば、搭乗者202の姿勢の推定値に基づいて後方転倒する可能性の高い条件を満たすか否かを判定し、後方転倒する可能性が高いと判定した場合、搭乗者202が後方転倒を回避しやすいように倒立型移動体201の動作を制御する(倒立型移動体201の倒立状態を維持することよりも搭乗者202を後方転倒させないことを重視した制御を実施する)ことができる。
【0108】
また、乗り心地の観点からは、搭乗者202の姿勢を考慮した制御が可能となるため、例えば、搭乗者202の姿勢に応じて倒立型移動体201の移動速度を調整することで、乗り物酔い等を抑制して搭乗者の乗り心地を向上させることができる。
【0109】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述した実施の形態1においては、倒立型移動体201の備える回転体が、1対の対向する車輪106である場合を例に説明したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、回転体を、1又は3輪以上の車輪により構成するものとしてもよいし、1又は複数の球形状の駆動輪を用いてもよい。
【0110】
また、搭乗者202が搭乗するプラットフォーム101の形状についても限定されず、搭乗者202が搭乗可能な任意の形状を採用することができる。なお、本発明は、倒立型移動体201に搭乗者202が把持可能なハンドルを備えているか否かに関わらず適用可能であるが、ハンドルを備えていない倒立型移動体201のほうが、プラットフォーム101と搭乗者202とを確実に一体として扱うことができないために、本発明による効果をより強く発揮することができる。
【0111】
さらにまた、上述した実施の形態1においては、後方転倒する可能性が高いか否かを判定して、後方転倒を回避するための倒立型移動体201の動作制御を例に説明したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、搭乗者202の姿勢の推定値に基づいて、前方転倒する可能性が高いか否かを判定して、前方転倒を回避するための倒立型移動体201の動作制御を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0112】
101 プラットフォーム、
102 プラットフォーム傾斜角検出器、
103 制御器、
104 モータ、
105 減速機、
106 車輪、
107 車輪角度検出器、
108 搭乗者姿勢推定器、
109 後方転倒条件判定器、
110 搭乗者姿勢時間微分推定器、
111 後方転倒回避トルク指令演算器、
201 倒立型移動体、
202 搭乗者、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗する搭乗台と、
前記搭乗台を移動させる断面が円形の回転体と、
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記回転体の回転駆動トルク指令と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、前記搭乗者の鉛直方向に対する搭乗者姿勢を搭乗者姿勢推定値として推定する搭乗者姿勢推定器と、
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の回転角度と、に基づいて、前記回転体の回転駆動を制御する制御器と、
を備える倒立型移動体。
【請求項2】
前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の回転角度と、に基づいて、前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足するか否かを判定する後方転倒条件判定器を更に備え、
前記制御器は、
前記後方転倒条件判定器で前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足していると判定された場合には、前記搭乗者の後方転倒を回避するように制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の倒立型移動体。
【請求項3】
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記搭乗者姿勢の時間微分値と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、後方転倒回避トルク指令を演算する後方転倒回避トルク指令演算器を更に備え、
前記制御器は、
前記後方転倒条件判定器で前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足していると判定された場合には、前記後方転倒回避トルク指令演算器で演算した後方転倒回避トルク指令に基づく制御を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の倒立型移動体。
【請求項4】
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、前記搭乗者姿勢の時間微分値を搭乗者姿勢時間微分推定値として推定する搭乗者姿勢時間微分推定器を更に備え、
前記後方転倒回避トルク指令演算器は、
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記搭乗者姿勢時間微分推定器で推定した搭乗者姿勢時間微分推定値と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、後方転倒回避トルク指令を演算する
ことを特徴とする請求項3に記載の倒立型移動体。
【請求項5】
前記搭乗者姿勢推定器は、
θ:前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角、
θ:前記回転体の回転角度、
r:前記回転体の半径、
:前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離、
:前記搭乗者の質量、
:前記回転体の質量、
:前記回転体の回転軸に関する慣性モーメント、
:前記回転体の回転駆動トルク指令、
θ^:前記搭乗者姿勢推定値、として、
以下の式(31)を用いて、前記搭乗者姿勢推定値を推定する
【数35】

ことを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の倒立型移動体。
【請求項6】
前記後方転倒条件判定器は、
θ:前記回転体の回転角度、
θ^:前記搭乗者姿勢推定値、として、
以下の式(32)を用いて、前記搭乗者が後方転倒する可能性が高い条件を満足するか否かを判定する
【数36】

ことを特徴とする請求項2乃至5いずれか1項に記載の倒立型移動体。
【請求項7】
前記後方転倒回避トルク指令演算器は、
θ:前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角、
θ:前記回転体の回転角度、
θ^:前記搭乗者姿勢推定値、
θ(・)、θ(・・):前記搭乗者姿勢の時間微分推定値、
r:前記回転体の半径、
:前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離、
:前記搭乗者の質量、
:前記回転体の質量、
:前記回転体の回転軸に関する慣性モーメント、
mp:前記後方転倒回避トルク指令、として、
以下の式(34)を用いて、前記後方転倒回避トルク指令を演算する
【数37】

ことを特徴とする請求項3乃至6いずれか1項に記載の倒立型移動体。
【請求項8】
前記搭乗者姿勢時間微分推定器は、
θ:前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角、
θ:前記回転体の回転角度、
θ^:前記搭乗者姿勢推定値、
r:前記回転体の半径、
:前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離、
:前記搭乗者の質量、
:前記回転体の質量、
:前記回転体の回転軸に関する慣性モーメント、
mp:前記後方転倒回避トルク指令、
θ(・)、θ(・・):前記搭乗者姿勢時間微分推定値、として、
以下の式(33)を用いて、前記搭乗者姿勢時間微分推定値を推定する
【数38】

ことを特徴とする請求項4乃至7いずれか1項に記載の倒立型移動体。
【請求項9】
前記回転体が、対向する2つの車輪である
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の倒立型移動体。
【請求項10】
搭乗者が搭乗する搭乗台と、前記搭乗台を移動させる断面が円形の回転体と、を備える倒立型移動体の制御方法であって、
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記回転体の回転角度と、前記回転体の回転駆動トルク指令と、前記回転体の質量と、前記回転体の半径と、前記回転体の回転軸に関する慣性モーメントと、前記搭乗者の質量と、前記搭乗台と前記搭乗者の重心との間の距離と、に基づいて、前記搭乗者の鉛直方向に対する搭乗者姿勢を搭乗者姿勢推定値として推定する搭乗者姿勢推定ステップと、
前記搭乗台の鉛直方向に対する傾斜角と、前記搭乗者姿勢推定器で推定した搭乗者姿勢推定値と、前記回転体の回転角度と、に基づいて、前記回転体の回転駆動を制御する制御ステップと、
を有する倒立型移動体の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126257(P2012−126257A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279345(P2010−279345)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】