説明

偏光フィルムの製造方法およびその用途

【課題】 得られる偏光フィルムの幅方向における膜厚分布の偏りを抑制しながら、高速加工を可能にできる、偏光フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 偏光フィルムの製造方法は、重合度が2400のポリビニルアルコールからなるフィルムを、乾式で延伸倍率1.5〜2.8倍に一軸延伸した後、二色性色素による染色処理およびホウ酸含有水溶液中に浸漬することによる架橋処理の少なくとも一方において湿式で一軸延伸を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた偏光フィルムを高い生産性で得ることができる偏光フィルムの製造方法と、該製造方法により得られた偏光フィルムを用いた偏光板および光学積層体とに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムとしては、従来から、ポリビニルアルコール系フィルムに二色性色素を吸着配向させたものが用いられている。例えば、ヨウ素を二色性色素とするヨウ素系偏光フィルムや、二色性染料を二色性色素とする染料系偏光フィルムなどが知られている。かかる偏光フィルムは、通常、その少なくとも片面、好ましくは両面にポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロース等の保護フィルムを貼合して、偏光板とされる。
【0003】
偏光フィルムの製造方法としては、ポリビニルアルコールからなるフィルムを、乾式で一軸延伸し、次に染色処理した後、70〜85℃のホウ酸含有水溶液に浸漬することで架橋処理する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−240715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1記載の製造方法のように、フィルムを染色処理および架橋処理の前に乾式で延伸した場合、染色時および架橋時の反応に要する時間が長くなるため、高速加工化が難しく、生産性に劣るという問題があった。
【0006】
高速加工を可能にするには、予め乾式での延伸を行なわず、未延伸のフィルムを染色処理および架橋処理に供するようにし、フィルムの延伸はこれらの処理を行う際に液中で反応と同時に行わせる(つまり、湿式延伸のみを行なう)ことが考えられる。この場合、高速加工化は可能になるが、その一方で、湿式延伸時にフィルムの幅方向に急激な収縮が起こり、いわゆるネックインといった現象を招き、その結果、フィルムの幅方向における膜厚分布に偏りが生じる傾向がある。詳しくは、フィルムの幅方向において両端に近い部分ほど膜厚が厚くなり易いのであるが、そのような偏光フィルムは、両端の膜厚が厚い部分において延伸が不充分となっているので、耐熱性に欠けるという問題を有することになる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、得られる偏光フィルムの幅方向における膜厚分布の偏りを抑制しながら、高速加工を可能にできる、偏光フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、開始材料として特定の重合度のポリビニルアルコールフィルムを用いることし、染色処理の前に予め特定の延伸倍率で乾式延伸を行なうとともに、染色処理および架橋処理の少なくとも一方において湿式延伸を行なうことによって、染色処理および架橋処理における反応を比較的短時間で充分に進行させながら、かつ、湿式での延伸時にも予め乾式で適度に延伸しているのでネックインを抑制して膜厚分布の偏りの少ない偏光フィルムを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)重合度が2400のポリビニルアルコールからなるフィルムを、乾式で延伸倍率1.5〜2.8倍に一軸延伸した後、二色性色素による染色処理およびホウ酸含有水溶液中に浸漬することによる架橋処理の少なくとも一方において湿式で一軸延伸を施す、ことを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
(2)前記架橋処理を、水100重量部に対してホウ酸5〜8重量部を含み、その温度が55℃以上70℃未満であるホウ酸含有水溶液を用いて行なう、前記(1)記載の偏光フィルムの製造方法。
(3)前記架橋処理の処理時間が65〜150秒である、前記(1)または(2)記載の偏光フィルムの製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により製造された偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが貼合されてなる、ことを特徴とする偏光板。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により製造された偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが貼合されてなる偏光板と、位相差フィルム、輝度向上フィルム、視野角改良フィルムおよび半透過反射フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種とが貼合されてなる、ことを特徴とする光学積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、得られる偏光フィルムの幅方向における膜厚分布の偏りを抑制しながら、高速加工を可能にできる、という効果がある。これにより、耐熱性に優れた偏光フィルムを高い生産性で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、偏光フィルム製造の開始材料として、重合度が2400のポリビニルアルコールからなる未延伸フィルム(以下、「ポリビニルアルコールフィルム」と称することもある)を用いる。このフィルムを形成するポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化してなるものであり、ケン化度としては、約85モル%以上、好ましくは約90モル%以上、より好ましくは約99モル%〜100モル%である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体(例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類など)との共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)が挙げられる。これらのポリビニルアルコール系樹脂は、変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用することができる。
【0012】
前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、特に制限されないが、通常、約20μm〜100μm、好ましくは 約30μm〜80μmである。また、そのフィルム幅は、特に制限はないが、工業的には、約1500mm〜4000mmが実用的である。
【0013】
本発明の偏光フィルムの製造方法においては、まず、前記ポリビニルアルコールフィルムを乾式で延伸倍率1.5〜2.8倍に一軸延伸する。この乾式による延伸の延伸倍率が1.5倍未満であると、得られる偏光フィルムの幅方向における膜厚分布の偏りが大きくなり、一方、2.8倍を超えると、染色処理および架橋処理における反応速度が遅くなり、高速加工化が図れなくなる。
【0014】
乾式による一軸延伸は、例えば、公知の一対の加熱ロール間を通過させて圧縮延伸させる方法、フィルムに後方張力を付与しつつ、駆動する加熱ロールに接触させ、縦一軸に配向させる方法等で行なうことができる。このとき、加熱ロールの温度は、ポリビニルアルコールのガラス転移温度〜160℃、好ましくは80〜120℃とするのが好ましい。乾式による一軸延伸は、通常、空気あるいは不活性ガス中で行なわれる。
【0015】
本発明の偏光フィルムの製造方法においては、乾式により一軸延伸された前記ポリビニルアルコールフィルムに、必要に応じて膨潤処理を施した後、二色性色素による染色処理およびホウ酸含有水溶液中に浸漬することによる架橋処理を施す。
【0016】
前記膨潤処理は、フィルム表面の異物除去、フィルム中の可塑剤の除去、染色処理工程での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で、必要に応じて施されるものである。膨潤処理の際の処理条件は、上記目的が達成できる範囲で、かつフィルムの極端な溶解や失透などの不具合が生じない範囲で、適宜設定すればよい。例えば、約20〜70℃、好ましくは約30〜60℃の水溶液を入れた処理浴に、約30〜300秒、好ましくは約60〜240秒程度の時間、フィルムを浸漬すればよい。膨潤処理に使用する水溶液は、純水であってもよいし、ホウ酸、塩化物、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などを約0.01重量%〜10重量%の範囲で含有する水溶液であってもよい。
【0017】
なお、前記膨潤処理を行う際には、フィルムが幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るなどの問題が生じやすいので、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップなど公知の拡幅装置でフィルムのシワを取りつつフィルムを搬送することが好ましい。浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)などを併用したりすることも有用である。また、フィルムの走行方向にもフィルムが膨潤拡大するので、搬送方向のフィルムのたるみを無くすために、例えば処理槽前後の搬送ロールの速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。
【0018】
前記二色性色素による染色処理は、フィルムに二色性色素を吸着、配向させるなどの目的で行われる。この染色処理は、フィルムを二色性色素含有水溶液に浸漬することにより行うことができ、二色性色素として、ヨウ素を用いる方法と、水溶性二色性染料を用いる方法とがある。
【0019】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、例えば、約10〜45℃、好ましくは約20〜35℃の温度で、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水(重量比)=約0.003〜0.2/約0.1〜10/100の水溶液を入れた染色槽に、約30〜600秒、好ましくは約60〜300秒の時間、フィルムを浸漬すればよい。ここで用いる水溶液は、ヨウ化カリウムに代えて他のヨウ化物(例えば、ヨウ化亜鉛など)を用いた水溶液であってもよいし、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用して用いた水溶液であってもよい。また、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどのヨウ化物以外の化合物を共存させた水溶液を用いることもできる。なお、ホウ酸を含む水溶液を用いる場合、ヨウ素をも含む点で、後述の架橋処理と区別される。具体的には、水100重量部に対し、ヨウ素を約0.003重量部以上含んでいる水溶液を用いた場合には染色処理と見なす。
【0020】
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合、例えば、約20〜80℃、好ましくは約30〜70℃の温度で、二色性染料/水(重量比)=約0.001〜0.1/100の水溶液を入れた染色槽に、約30〜600秒、好ましくは約60〜300秒の時間、フィルムを浸漬すればよい。ここで用いる水溶液は、染色助剤などを含有していてもよいし、例えば硫酸ナトリウムなどの無機塩、界面活性剤などを含有していてもよい。二色性染料としては、従来公知のものを使用すればよく、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記架橋処理は、二色性色素で染色したフィルムをホウ酸含有水溶液中に浸漬して架橋反応を進行させることにより耐水化を図る目的で行われる。
前記架橋処理に用いるホウ酸含有水溶液は、水100重量部に対してホウ酸5〜8重量部を含むものであることが好ましい。ホウ酸含有水溶液中のホウ酸濃度が前記範囲より少ないと、ホウ酸による架橋が不充分となるおそれがあり、一方、前記範囲よりも多いと、ロール表面上でホウ酸が析出したり、得られる偏光フィルムの耐熱性が低下するおそれがある。なお、二色性色素としてヨウ素を用いている場合には、前記ホウ酸含有水溶液に、さらにヨウ化物を約1〜30重量部含有させることが好ましい。ここで用いるヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛などが挙げられる。さらに、前記ホウ酸含有水溶液には、必要に応じて、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのヨウ化物以外の化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどの架橋剤を共存させてもよい。
【0022】
前記架橋処理に用いる前記ホウ酸含有水溶液の温度は、55℃以上70℃未満とすることが好ましい。ホウ酸含有水溶液の温度が55℃未満であると、得られる偏光フィルムの耐熱性が低下するおそれがあり、一方、70℃以上であると、架橋処理中にフィルムが破断してしまうおそれがある。
【0023】
前記架橋処理においては、前記ホウ酸含有水溶液を入れた処理槽に、通常、65〜150秒間、フィルムを浸漬すればよい。本発明においては、架橋処理時間がこのように比較的短時間であっても、充分に架橋反応を進行させることができるので、高速加工が可能となる。
【0024】
本発明の偏光フィルムの製造方法においては、前記染色処理および前記架橋処理の少なくとも一方において湿式で一軸延伸を施す。好ましくは、この湿式による延伸を少なくとも前記架橋処理で行うのがよい。また、湿式による延伸は、前記膨潤処理、後述する水洗処理やその他の浸漬処理など任意の処理工程においても行なうことができる。なお、湿式による延伸は、1つの処理工程のみで行ってもよいし、2つ以上の処理工程で行ってもよいが、複数の処理工程で行うことが好ましい。
【0025】
湿式による一軸延伸は、例えば、処理浴の前後のニップロールに周速差を持たせるなどの方法で行うことができる。
前記染色処理および前記架橋処理で行う湿式延伸の延伸倍率は、最終的なフィルムの積算延伸倍率が所望の範囲になるように適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは、前記架橋処理において延伸倍率1.4倍以上で延伸するとともに、最終的なフィルムの積算延伸倍率を5.0〜6.0倍とするのがよい。また、前記染色処理および前記架橋処理以外の任意の処理工程において湿式延伸を行なう場合の延伸倍率も、特に制限はなく、最終的に所望の積算延伸倍率が得られるよう適宜設定すればよい。
【0026】
なお、前記膨潤処理から後述する水洗処理までの各処理工程のなかで、フィルムの湿式延伸を行わない処理工程においては、各処理工程ごとにフィルムの張力がそれぞれ実質的に一定になるように張力制御を行うことができる。各処理工程におけるフィルムの張力は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。この張力制御によって不可避的に若干、延伸・収縮される場合があるが、本発明においては、このような場合は延伸に含めない。
【0027】
本発明の偏光フィルムの製造方法においては、前記架橋処理が施されたフィルムに、必要に応じて、水洗処理および/または乾燥処理を施すことができる。
前記水洗処理は、例えば、架橋処理したフィルムを水中に浸漬するか、水をシャワーとして噴霧するか、あるいは浸漬と噴霧を併用することによって行われる。水洗処理に用いる水の温度は、通常、約2〜40℃程度であり、浸漬もしくは噴霧時間は、約2〜120秒程度であるのがよい。
【0028】
前記乾燥処理は、例えば、熱風乾燥法、赤外線を利用した乾燥方法等の公知の方法で行なえばよい。乾燥温度は、通常、40〜95℃、好ましくは50〜80℃であり、乾燥時間(乾燥炉内の滞留時間)は、通常、50〜200秒間、好ましくは100〜190秒間である。また、乾燥処理の程度については、乾燥処理後のフィルムの水分率が15重量%以下となる程度にするのがよい。
【0029】
本発明の偏光フィルムの製造方法においては、必要に応じて、上述した処理以外の処理を、任意の段階で加えて行うこともできる。例えば、架橋処理後に、ホウ酸を含まないヨウ化物水溶液による浸漬処理(ヨウ化物処理)を行ってもよいし、ホウ酸を含まない塩化亜鉛等の亜鉛化合物を含有する水溶液による浸漬処理(亜鉛処理)を行ってもよい。
このようにして製造された偏光フィルムは、通常、約5μm〜50μm程度の厚みを有することが好ましい。
【0030】
本発明の偏光板は、上述の本発明の製造方法で得られた偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが貼合されてなるものである。
保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂からなるフィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルム、シクロオレフィン系樹脂からなるフィルムが挙げられる。市販の熱可塑性シクロオレフィン系樹脂としては、例えばドイツのティコナ(Ticona)社から販売されている「トパス」(Topas)(登録商標)、ジェイエスアール(株)から販売されている「アートン」(登録商標)、日本ゼオン(株)から販売されている「ゼオノア」や「ゼオネックス」(いずれも登録商標)、三井化学(株)から販売されている「アペル」(登録商標)などがある。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜したものを保護フィルムとすることになるが、製膜には、溶剤キャスト法、溶融押出法など、公知の方法が適宜用いられる。製膜されたシクロオレフィン系樹脂フィルムも市販されており、例えば、積水化学工業(株)から販売されている「エスシーナ」や「SCA40」などがある。
【0031】
保護フィルムには、アンチグレア処理、アンチリフレクション処理、ハードコート処理、帯電防止処理、防汚処理などの表面処理が単独或いは組み合わせて施されていても良い。また、保護フィルムおよび/又は保護フィルム表面保護層はベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物などの紫外線吸収剤や、フェニルホスフェート系化合物、フタル酸エステル化合物などの可塑剤を有していても良い。
【0032】
保護フィルムの厚みは、薄すぎると、強度が低下して加工性に劣ることになり、一方、厚すぎると、透明性が低下したり、積層後に必要な養生時間が長くなったりするなどの問題が生じる。従って、保護フィルムの適当な厚みは、通常、約5〜200μm程度であり、好ましくは約10〜150μm、より好ましくは約20〜100μmである。
【0033】
偏光フィルムと保護フィルムとは、接着剤を介して貼合される。接着剤と偏光フィルム及び/又は保護フィルムとの接着性を向上させるために、偏光フィルム及び/又は保護フィルムに、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射、プライマー塗布処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。
【0034】
接着剤としては、例えば、水溶媒系接着剤、有機溶媒系接着剤、ホットメルト系接着剤、無溶剤系接着剤などが用いられる。水溶媒系接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などが、有機溶媒系接着剤としては例えば二液型ウレタン系接着剤などが、無溶剤系接着剤としては例えば一液型ウレタン系接着剤などがそれぞれ挙げられる。偏光フィルムとの接着面をケン化処理などで親水化処理されたアセチルセルロース系フィルムを保護フィルムとして用いる場合、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液が接着剤として好適に用いられる。接着剤として用いるポリビニルアルコール系樹脂には、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるビニルアルコール系共重合体、さらにはそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などがある。この接着剤には、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物などを添加剤として用いても良い。
【0035】
偏光フィルムと保護フィルムとを貼合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば偏光フィルムまたは保護フィルムの表面に接着剤を均一に塗布し、塗布面にもう一方のフィルムを重ねてロール等により貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。通常、接着剤は、調製後、約15〜40℃の温度下で塗布され、貼合温度は、通常約15〜30℃程度の範囲である。貼合後は乾燥処理を行って、接着剤中に含まれる水などの溶剤を除去するが、この際の乾燥温度は、通常約30〜85℃、好ましくは約40〜80℃の範囲である。その後、約15〜85℃、好ましくは約20〜50℃、より好ましくは約35〜45℃の温度環境下で、通常約1〜90日間程度養生して接着剤を硬化させてもよい。この養生期間が長いと生産性が悪くなるため、養生期間は、約1〜30日間程度、好ましくは約1〜7日間である。
【0036】
本発明の光学積層体は、上述の偏光板と、位相差フィルム、輝度向上フィルム、視野角改良フィルムおよび半透過反射フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種とが貼合されてなるものである。このような光学積層体は、保護フィルムに、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能、光学補償フィルムとしての機能など、光学的機能を持たせることもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
【0038】
なお、実施例および比較例で得られた偏光フィルムの膜厚は、以下のようにして測定した。
<膜厚測定方法>
接触式膜厚計(Nikon社製「デジマイクロカウンターMFC−101」)を用いて、偏光フィルムの幅方向に沿って10mm毎の間隔で膜厚を測定した。
【0039】
(実施例1)
重合度が2400の未延伸ポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製「VF−PS♯7500」:ケン化度99.9モル%以上)を、110℃で乾式延伸により2.15倍に一軸延伸した。次いで、このフィルムが弛まないように緊張状態を保ったまま、30℃の純水に55秒間浸漬してフィルムを充分に膨潤させ、次いで、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水が0.028/5/100(重量比)である30℃の水溶液に109秒間浸漬することにより染色処理を施したのち、引き続き、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が10/6/100(重量比)である65℃のホウ酸含有水溶液に78.0秒間浸漬することにより架橋処理を施した。フィルムを膨潤させ、染色処理および架橋処理を施す間に、各浸漬液中でフィルムを湿式延伸により積算延伸倍率が5.27倍になるまで一軸延伸した。その後、35℃の純水で16秒間洗浄した後、60℃の熱風で79秒間乾燥して、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの膜厚の最大値、最小値、膜厚差(最大値−最小値)および平均値を表1に示す。
【0040】
(実施例2)
架橋処理で用いたホウ酸含有水溶液の温度を60℃とし、該水溶液にフィルムを97.3秒間浸漬するよう架橋処理条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの膜厚の最大値、最小値、膜厚差(最大値−最小値)および平均値を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
乾式延伸による一軸延伸を行わないこととし、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が12/4.8/100(重量比)である54℃のホウ酸含有水溶液に91.1秒間浸漬するよう架橋処理条件を変更するとともに、フィルムの膨潤から架橋処理までの間の積算延伸倍率が5.26倍になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの膜厚の最大値、最小値、膜厚差(最大値−最小値)および平均値を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
乾式延伸による一軸延伸を行わないこととし、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が12/4.9/100(重量比)である54℃のホウ酸含有水溶液に103.4秒間浸漬するよう架橋処理条件を変更するとともに、フィルムの膨潤から架橋処理までの間の積算延伸倍率が5.26倍になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの膜厚の最大値、最小値、膜厚差(最大値−最小値)および平均値を表1に示す。
【0043】
以上の実施例および比較例で得られた偏光フィルムを用いてそれぞれ偏光板を作製し、得られた各偏光板を用いて耐熱試験を行った。結果を表1に示す。
すなわち、まず、偏光フィルムの両面にポリビニルアルコール系接着剤を塗布し、厚み80μmの保護フィルム(表面にケン化処理を施したトリアセチルセルロースフィルム)を両面に貼合して、偏光板を作製した。
次に、得られた偏光板をソーダガラス(40mm×40mm、厚み11mm)に貼合して試験片を作製し、これを100℃のオーブン内で3時間加熱する耐熱試験に供した。この耐熱試験前後の試験片を紫外可視分光光度計((株)日本分光社製「V7100」)にセットして、透過方向と吸収方向の各試験片の紫外可視スペクトルを測定した。そして、JIS−Z8729に準拠して、初期単体透過率(%)および耐熱試験前後の直交色相(直交a、直交b)を求め、直交色相(直交a、直交b)の変化量である直交△Eを下記式に基づき算出し、これを耐熱性の指標とした。直交△Eの値が小さいほど耐熱性に優れることを示す。
直交△E=[(直交aII−直交aI)2+(直交bII−直交bI)20.5
但し、直交aI:耐熱試験前の直交a
直交aII:耐熱試験後の直交a
直交bI:耐熱試験前の直交b
直交bII:耐熱試験後の直交b
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、実施例1および2においては、架橋処理の処理時間が乾式延伸を行なわない比較例1および2と同等もしくはそれより短く、未延伸フィルムを湿式で延伸した場合と同等の高速加工化が実現可能であることがわかる。しかも、比較例1および2で得られた偏光フィルムの膜厚差は6μm程度であり膜厚分布の偏りが大きいのに対して、実施例1および2では、この膜厚差が2μm程度まで緩和されており、高速加工が可能であるにも拘わらず得られる偏光フィルムの膜厚分布の偏りを抑制できることが明らかである。また、それゆえに、実施例1および2で得られた偏光フィルムを用いた偏光板は、比較例1および2で得られた偏光フィルムを用いた偏光板よりも良好な耐熱性を示している。なお、光学特性の面では、実施例1および2で得られた偏光フィルムを用いた偏光板は、従来の比較例1および2で得られた偏光フィルムを用いた偏光板と同等の性能を発揮することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が2400のポリビニルアルコールからなるフィルムを、乾式で延伸倍率1.5〜2.8倍に一軸延伸した後、二色性色素による染色処理およびホウ酸含有水溶液中に浸漬することによる架橋処理の少なくとも一方において湿式で一軸延伸を施す、ことを特徴とする偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記架橋処理を、水100重量部に対してホウ酸5〜8重量部を含み、その温度が55℃以上70℃未満であるホウ酸含有水溶液を用いて行なう、請求項1記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記架橋処理の処理時間が65〜150秒である、請求項1または2記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造された偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが貼合されてなる、ことを特徴とする偏光板。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造された偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムが貼合されてなる偏光板と、位相差フィルム、輝度向上フィルム、視野角改良フィルムおよび半透過反射フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種とが貼合されてなる、ことを特徴とする光学積層体。

【公開番号】特開2009−237124(P2009−237124A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81495(P2008−81495)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】